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特許7449744樹脂フィルム、並びに、これを含む積層体および離型紙
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、並びに、これを含む積層体および離型紙
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240307BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20240307BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20240307BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240307BHJP
   B29C 41/38 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08J7/00 305
B32B27/10
B32B27/32 Z
B29C41/38
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020054268
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155486
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津金 靖仁
(72)【発明者】
【氏名】松木 智昭
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/198694(WO,A1)
【文献】特開昭57-067224(JP,A)
【文献】特開2017-074775(JP,A)
【文献】特開2021-155487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08J 7/00
B32B
B29C 41/00-41/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(X-a)、(X-b)および(X-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を含む架橋前駆体(PX)からなる樹脂フィルム(F0)
に放射線を照射して得られる樹脂フィルムであり、
140℃キシレン抽出によるゲル分率が70~90質量%であり、
動的粘弾性測定装置で測定した、220℃における貯蔵弾性率が0.5~10MPaである、
樹脂フィルム(F1):
(X-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が30.0~99.7モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0.3~70.0モル%である。
(X-b)検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満に溶出成分量のピークBが少なくとも1つ存在する。
(X-c)13C-NMRで測定されるメソダイアッド分率(m)が95.0~100%の範囲にある。
【請求項2】
前記放射線が電子線である請求項1に記載の樹脂フィルム(F1)。
【請求項3】
前記架橋前駆体(PX)が、架橋剤を含まない請求項1または2に記載の樹脂フィルム(F1)。
【請求項4】
前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)が、
下記要件(x1-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)10.0~95.0質量部と、
下記要件(x2-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)5.0~90.0質量部(ただし、前記重合体(x1)および前記共重合体(x2)の合計量を100質量部とする)と
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂フィルム(F1):
(x1-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が80.0~100モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0~20.0モル%である。
(x2-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が20.0~98.0モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が、2.0~80.0モル%であり、ただし、前記重合体(x1)における炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率よりも大きい。
【請求項5】
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)の、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~20dl/gの範囲にあり、DSCにより測定した融点(Tm)が220~260℃の範囲にあり、
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)の、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~20dl/gの範囲にあり、DSCにより測定した融点(Tm)が220℃未満の範囲にあるか、またはDSC測定において融点を示すピークが出現しない、
請求項4に記載の樹脂フィルム(F1)。
【請求項6】
動的粘弾性測定装置で測定した、250℃における熱変形率が0~10%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂フィルム(F1)。
【請求項7】
前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)の、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~10.0dl/gの範囲にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂フィルム(F1)。
【請求項8】
前記要件(X-c)において、メソダイアッド分率(m)が98.0~100%の範囲にある、請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂フィルム(F1)。
【請求項9】
さらに、下記要件(A-a)~(A-f)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含有し、
前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)と前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)との合計量100質量部中、
前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を1~99質量部、
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を1~99質量部含有する、
請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂フィルム(F1)。
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の含有率が100~90モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位(AQ)の含有率が0~10モル%である。
(A-b)135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が
1.0~4.0dl/gである。
(A-c)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
(A-d)DSCで測定した結晶化温度(Tc)が150~220℃の範囲にある。
(A-e)密度が820~850kg/m3である。
(A-f)検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満の範囲に溶出成分量のピークBが存在しない。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)と、基材紙層(LP)とを有する、積層体。
【請求項11】
下記要件(A-a)~(A-f)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含有し、かつ、前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を含有しない第二の層(LR2)を、前記基材紙層(LP)と前記層(LR1)との間にさらに有する請求項10に記載の積層体:
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の含有率が100~90モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位(AQ)の含有率が0~10モル%である。
(A-b)135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が1.0~4.0dl/gである。
(A-c)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
(A-d)DSCで測定した結晶化温度(Tc)が150~220℃の範囲にある。
(A-e)密度が820~850kg/m3である。
(A-f)検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満の範囲に溶出成分量のピークBが存在しない。
【請求項12】
前記層(LR1)が、最表面に位置する、請求項10または11に記載の積層体。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載の樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)を含む離型紙。
【請求項14】
請求項10~12のいずれか一項に記載の積層体を含む離型紙。
【請求項15】
下記要件(X-a)、(X-b)および(X-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を含む架橋前駆体(PX)に、放射線を照射する工程を含む、樹脂フィルムの製造方法:
(X-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が30.0~99.7モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0.3~70.0モル%である。
(X-b)検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満に溶出成分量のピークBが少なくとも1つ存在する。
(X-c)13C-NMRで測定されるメソダイアッド分率(m)が95.0~100%の範囲にある。
【請求項16】
前記放射線の照射線量が50~700kGyである請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記放射線が電子線である請求項15または16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)が、
下記要件(x1-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)10.0~95.0質量部と、下記要件(x2-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)5.0~90.0質量部(ただし、前記重合体(x1)および前記共重合体(x2)の合計量を100質量部とする)と
を含有する、請求項15~17のいずれか一項に記載の製造方法。
(x1-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が80.0~100モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0~20.0モル%である。
(x2-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が20.0~98.0モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が、2.0~80.0モル%であり、ただし、前記重合体(x1)における炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率よりも大きい。
【請求項19】
請求項13または14に記載の離型紙において、前記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)をエンボス加工する工程(S-1)と、
前記工程(S-1)の後、エンボス加工された前記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)の表面に合成皮革用部材形成用材料を塗布し、次いで硬化させて、エンボスパターンを有する合成皮革用部材を形成する工程(S-2)と、
前記工程(S-2)の後、前記合成皮革用部材から前記離型紙を剥離する工程(S-3)と
を含む、エンボスパターンを有する合成皮革用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、並びに、これを含む積層体および離型紙、より詳しくは、4-メチル-1-ペンテン樹脂を含む樹脂フィルム、並びに、これを含む積層体および離型紙に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革用部材を製造する際には、たとえば紙の表面に離型性に優れた高融点樹脂を溶融接着してなるエンボス加工用工程紙(以下、「工程紙」または「離型紙」ともいう)が用いられている。この工程紙の樹脂層にはエンボス模様が施されてなり、該樹脂層表面に、合成皮革の原料であるPVC(ポリ塩化ビニル)ゾルあるいはポリウレタン溶液を塗布し、加熱硬化し、工程紙を剥離することで、表面にエンボス模様が転写されたPVC製あるいはポリウレタン製の合成皮革用部材が得られる。
【0003】
4-メチル-1-ペンテン系重合体は、表面張力が非常に低く、耐熱性も高く、PVCあるいはポリウレタンとの離型性に優れている。そのため、エンボス加工用の工程紙用または離型紙用の高融点樹脂として用いられている。一方、高融点の4-メチル-1-ペンテン系重合体は、離型紙を製造する際に加熱・溶融させても紙に浸透し難く、離型紙を構成する4-メチル-1-ペンテン樹脂層と紙との充分な層間接着強度が得られにくい傾向がある。このため、離型紙から表面にエンボス模様等が転写されたPVC層あるいはポリウレタン層を剥離させようとしても、PVC層あるいはポリウレタン層が剥離せず、離型紙を構成する4-メチル-1-ペンテン樹脂層と紙との間で剥離してしまうことがある。このため、このような問題点を克服すべく、従来種々の試みがなされてきた。
【0004】
特許文献1には、紙と、低融点の4-メチル-1-ペンテン樹脂層(A)と、高融点の4-メチル-1-ペンテン樹脂層(B)とが、この順序で積層されてなる人工皮革用離型紙が開示されている。ここで、特許文献1の実施例には、4-メチル-1-ペンテン樹脂層(A)として4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体を用い、4-メチル-1-ペンテン樹脂層(B)として4-メチル-1-ペンテンホモポリマーまたは4-メチル-1-ペンテン樹脂層(A)より1-デセン含量の少ない4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体を用いると、PVCゾルを離型紙に塗布し、加熱硬化し、剥離紙から剥離したときに、硬化したPVCの剥離紙からの剥離は容易に行われ、離型紙自体には層間剥離が起こらなかったことが示されている。
【0005】
一方、工程紙用の高融点樹脂として、4-メチル-1-ペンテン系重合体に高圧法低密度ポリエチレンなどの他の樹脂を組み合わせてなる組成物を採用する試みもなされてきた。
【0006】
例えば、特許文献2には、4-メチル-1-ペンテン系重合体組成物として、4-メチル-1-ペンテン系重合体と不飽和カルボン酸変性4-メチル-1-ペンテン系重合体と高圧法低密度ポリエチレンとを特定の比率で含む組成物が開示されている。ここで、特許文献2には、4-メチル-1-ペンテン系重合体に不飽和カルボン酸変性4-メチル-1-ペンテン系重合体を加えることにより組成物に適度な離型の重さを付与すること、並びに、4-メチル-1-ペンテン系重合体に高圧法低密度ポリエチレンを加えることにより良好なラミネーション成形性を付与することも開示されている。
【0007】
特許文献3には、高耐熱柔軟合皮離型紙として、基材紙上に熱可塑性樹脂層を共押出ラミネートまたは単層押出ラミネートしてなる離型紙が開示されている。ここで、特許文献3には、高耐熱柔軟合皮離型紙を構成する熱可塑性樹脂として、4-メチル-1-ペンテンと炭素数12~20のα-オレフィンとの共重合体と高圧法低密度ポリエチレンとからなる4-メチル-1-ペンテン系重合体組成物を用いうることも記載されている。
【0008】
特許文献4には、高耐熱柔軟合皮離型紙として、4-メチル-1-ペンテンと炭素数16~20のα-オレフィンとの共重合体からなる4-メチル-1-ペンテン系共重合体層と、基材紙とからなる離型紙が開示されている。ここで、特許文献4には、この4-メチル-1-ペンテン系共重合体層と基材紙との間に、4-メチル-1-ペンテン系共重合体組成物層が中間層として介在していてもよいこと、並びに、この4-メチル-1-ペンテン系共重合体組成物層が、4-メチル-1-ペンテン系重合体と高圧法低密度ポリエチレンとからなるものであってもよいことも記載されている。
【0009】
一方、電子部品には高い耐熱性が要求されることから、高い耐熱変形性を確保するために、電子部品の構成材料として電子線硬化性樹脂組成物の硬化物が採用されることがある。
【0010】
そのような電子線硬化性樹脂組成物として、特許文献5には、オレフィン樹脂と特定の架橋処理剤とを含む組成物が開示されている。ここで、特許文献5の実施例には、ポリメチルペンテン樹脂やポリエチレン等のオレフィン樹脂とイソシアヌレート化合物とを含む組成物、並びに、この組成物からなる成形体に電子線を照射してなる成形体が開示されている。これに関連して、特許文献6には、ポリメチルペンテン樹脂やポリエチレン等のオレフィン樹脂とイソシアヌレート化合物などの架橋処理剤とを含む樹脂組成物を成形してなるリフレクターが開示されている。
【0011】
また、特許文献7には、鎖状オレフィン-環状オレフィン共重合体で構成されたオレフィン系エラストマーの架橋体が開示されている。この特許文献7には、鎖状オレフィン-環状オレフィン共重合体で構成されたオレフィン系エラストマーを電子線照射により架橋させることにより、柔軟性と耐熱性とを両立させたことも開示されている。
【0012】
なお、特許文献1~4には、4-メチル-1-ペンテン系重合体や4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む組成物に対して電子線照射を行って架橋させることは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第2728138号
【文献】特開平07-133390号
【文献】特開2002-292716号
【文献】特開2003-127284号
【文献】WO2014/119693
【文献】特開2016-36028号
【文献】特開2012-102211号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高温においても形状を保持でき、且つ、優れた離型性とエンボス加工時の転写性とを併せ持つ離型紙用の樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、特定の4-メチル-1-ペンテン共重合体を含む架橋前駆体に電子線などの放射線を照射すると、離型紙としたときに高い耐熱性と良好な離型性とを兼ね備える樹脂フィルムが得られるとの知見を得、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[19]に関する。
[1]
下記要件(X-a)、(X-b)および(X-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を含む架橋前駆体(PX)からなる樹脂フィルム(F0)
に放射線を照射して得られる樹脂フィルムであり、
140℃キシレン抽出によるゲル分率が70~90質量%であり、
動的粘弾性測定装置で測定した、220℃における貯蔵弾性率が0.5~10MPaである、
樹脂フィルム(F1):
(X-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が30.0~99.7モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0.3~70.0モル%である。
(X-b)検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満に溶出成分量のピークBが少なくとも1つ存在する。
(X-c)13C-NMRで測定されるメソダイアッド分率(m)が95.0~100%の範囲にある。
【0017】
[2]
前記放射線が電子線である前記[1]に記載の樹脂フィルム(F1)。
[3]
前記架橋前駆体(PX)が、架橋剤を含まない前記[1]または[2]に記載の樹脂フィルム(F1)。
【0018】
[4]
前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)が、
下記要件(x1-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)10.0~95.0質量部と、
下記要件(x2-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)5.0~90.0質量部(ただし、前記重合体(x1)および前記共重合体(x2)の合計量を100質量部とする)と
を含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂フィルム(F1):
(x1-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が80.0~100モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0~20.0モル%である。
(x2-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が20.0~98.0モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が、2.0~80.0モル%であり、ただし、前記重合体(x1)における炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率よりも大きい。
【0019】
[5]
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)の、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~20dl/gの範囲にあり、DSCにより測定した融点(Tm)が220~260℃の範囲にあり、
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)の、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~20dl/gの範囲にあり、DSCにより測定した融点(Tm)が220℃未満の範囲にあるか、またはDSC測定において融点を示すピークが出現しない、
前記[4]に記載の樹脂フィルム(F1)。
【0020】
[6]
動的粘弾性測定装置で測定した、250℃における熱変形率が0~10%である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂フィルム(F1)。
【0021】
[7]
前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)の、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~10.0dl/gの範囲にある、前記[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂フィルム(F1)。
【0022】
[8]
前記要件(X-c)において、メソダイアッド分率(m)が98.0~100%の範囲にある、前記[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂フィルム(F1)。
【0023】
[9]
さらに、下記要件(A-a)~(A-f)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含有し、
前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)と前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)との合計量100質量部中、
前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を1~99質量部、
前記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を1~99質量部含有する、
前記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂フィルム(F1)。
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の含有率が100~90モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位(AQ)の含有率が0~10モル%である。
(A-b)135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が
1.0~4.0dl/gである。
(A-c)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
(A-d)DSCで測定した結晶化温度(Tc)が150~220℃の範囲にある。
(A-e)密度が820~850kg/m3である。
(A-f)検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満の範囲に溶出成分量のピークBが存在しない。
【0024】
[10]
前記[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)と、基材紙層(LP)とを有する、積層体。
【0025】
[11]
下記要件(A-a)~(A-f)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含有し、かつ、前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を含有しない第二の層(LR2)を、前記基材紙層(LP)と前記層(LR1)との間にさらに有する
前記[10]に記載の積層体:
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の含有率が100~90モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位(AQ)の含有率が0~10モル%である。
(A-b)135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が1.0~4.0dl/gである。
(A-c)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
(A-d)DSCで測定した結晶化温度(Tc)が150~220℃の範囲にある。
(A-e)密度が820~850kg/m3である。
(A-f)検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満の範囲に溶出成分量のピークBが存在しない。
【0026】
[12]
前記層(LR1)が、最表面に位置する、前記[10]または[11]に記載の積層体。
【0027】
[13]
前記[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)を含む離型紙。
[14]
前記[10]~[12]のいずれかに記載の積層体を含む離型紙。
【0028】
[15]
下記要件(X-a)、(X-b)および(X-c)を満たす4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を含む架橋前駆体(PX)に、放射線を照射する工程を含む、樹脂フィルムの製造方法。
(X-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が30.0~99.7モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0.3~70.0モル%である。
(X-b)検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満に溶出成分量のピークBが少なくとも1つ存在する。
(X-c)13C-NMRで測定されるメソダイアッド分率(m)が95.0~100%の範囲にある。
【0029】
[16]
前記放射線の照射線量が50~700kGyである前記[15]に記載の製造方法。
[17]
前記放射線が電子線である前記[15]または[16]に記載の製造方法。
【0030】
[18]
前記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)が、
下記要件(x1-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)10.0~95.0質量部と、下記要件(x2-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)5.0~90.0質量部(ただし、前記重合体(x1)および前記共重合体(x2)の合計量を100質量部とする)と
を含有する、前記[15]~[17]のいずれかに記載の製造方法。
(x1-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が80.0~100モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0~20.0モル%である。
(x2-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が20.0~98.0モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が、2.0~80.0モル%であり、ただし、前記重合体(x1)における炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率よりも大きい。
【0031】
[19]
前記[13]または[14]に記載の離型紙において、前記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)をエンボス加工する工程(S-1)と、
前記工程(S-1)の後、エンボス加工された前記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)の表面に合成皮革用部材形成用材料を塗布し、次いで硬化させて、エンボスパターンを有する合成皮革用部材を形成する工程(S-2)と、
前記工程(S-2)の後、前記合成皮革用部材から前記離型紙を剥離する工程(S-3)と
を含む、エンボスパターンを有する合成皮革用部材の製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、高温においても形状を保持でき、且つ、優れた離型性とエンボス加工時の転写性とを併せ持つ離型紙用の樹脂フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
〔樹脂フィルム〕
本発明に係る樹脂フィルムは、
4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)(以下「樹脂(X)」)を含む架橋前駆体(PX)からなる樹脂フィルム(F0)
に放射線を照射して得られる樹脂フィルム(F1)である。
【0034】
以下、本発明に係る樹脂フィルム(F1)について詳述する。
ここで、本明細書において、「4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位」とは、4-メチル-1-ペンテンに対応する構成単位、すなわち、-CH2-CH(-CH2-CH(CH32)-で表される構成単位を意味する。「α-オレフィンから導かれる構成単位」についても同様に解釈され、α-オレフィンに対応する構成単位、すなわち、-CH2-CHR-(Rは水素原子またはアルキル基)で表される構成単位を意味する。
また、本明細書において、「重合体」とは、別途の記載がない限り、単独重合体および共重合体の両方を包括して指す。
【0035】
[4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)]
本発明において、樹脂フィルム(F1)を与える架橋前駆体(PX)は、4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を含む。
本発明で用いられる4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)は、下記要件(X-a)、(X-b)および(X-c)を満たす。
【0036】
<要件(X-a)>
要件(X-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が30.0~99.7モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0.3~70.0モル%である。
【0037】
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量は、好ましくは40.0~99.5モル%、より好ましくは50.0~99.0モル%、さらに好ましくは、70.0~97.0モル%、75.0~96.0モル%、または80.0~95.0モル%である。また、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有率は、好ましくは0.5~60.0モル%、より好ましくは1.0~50.0モル%、さらに好ましくは、3.0~30.0モル%、4.0~25.0モル%、または5.0~20.0モル%である。
【0038】
前記α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。前記α-オレフィンは、樹脂(X)の用途や必要物性に応じて適宜選択することができる。例えば、前記α-オレフィンとしては、樹脂フィルム(F1)に適度な弾性率と柔軟性、可とう性とを付与するという観点からは、炭素数8~18のα-オレフィンが好ましく、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセンおよび1-オクタデセンから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0039】
樹脂(X)は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記α-オレフィンから導かれる構成単位以外の構成単位(以下「その他の構成単位」ともいう。)を有してもよい。その他の構成単位の含有率は、例えば0~10.0モル%である。
【0040】
その他の構成単位を導くモノマーとしては、例えば、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィン、ハロゲン化オレフィンが挙げられる。環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィンおよびハロゲン化オレフィンとしては、例えば、特開2013-169685号公報の段落[0035]~[0041]に記載の化合物を用いることができる。
樹脂(X)がその他の構成単位を有する場合、その他の構成単位は、1種のみ含まれていてもよく、また、2種以上含まれていてもよい。
【0041】
<要件(X-b)>
要件(X-b):検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満、好ましくは0℃以上100℃未満の範囲に溶出成分量のピークBが少なくとも1つ存在する。ピークAは、単峰であっても複数峰であってもよい。また、ピークBは、単峰であっても複数峰であってもよい。
【0042】
上記範囲に溶出成分量のピークAおよびBがそれぞれ存在する重合体を用いることにより、高い耐熱性を保持したまま剛性の低い(柔軟性の高い)成形体が得られる点で、優れる。
【0043】
例えば、後述する4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)の製造方法において、ピークAは工程(1)で製造した重合体(x1)に由来し、ピークBは工程(2)で製造した共重合体(x2)に由来する。
【0044】
<要件(X-c)>
要件(X-c):13C-NMRで測定されるメソダイアッド分率(m)が95.0~100%の範囲にある。メソダイアッド分率(m)は、好ましくは96.0~100%、より好ましくは97.0~100%、さらに好ましくは98.0~100%、特に好ましくは98.5~100%の範囲にある。上限値は100%であることが好ましいが、99.9%であることもできる。この範囲にあると、4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)およびその樹脂組成物の成形時の目やにによるフィッシュアイや外観不良が生じにくい。これは、融点分布が狭くなることで組成分布の均一性が向上することによると推察する。
【0045】
<他の要件>
本発明で用いられる樹脂(X)は、上記要件(X-a)~(X-c)に加えて、好ましくは下記の要件を満たす。
【0046】
要件(X-d):135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が、好ましくは0.5~10.0dl/g、より好ましくは0.5~5.0dl/g、さらに好ましくは1.0~5.0dl/gの範囲にある。
【0047】
4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)の極限粘度[η]は、例えば、後述する重合体(x1)および共重合体(x2)それぞれの[η]の値、および含有量比によって調整されうる。
以上の要件の測定条件の詳細は、実施例欄に記載する。
【0048】
<4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)に含まれる重合体成分>
4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)は、下記要件(x1-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)10.0~95.0質量部と、下記要件(x2-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)5.0~90.0質量部とを含有することが好ましい。ただし、重合体(x1)および共重合体(x2)の合計量を100質量部とする。樹脂(X)は、通常、重合体(x1)と共重合体(x2)とを同一粒子中に含有する粒子(x)を溶融して得られた樹脂であることが好ましい。
【0049】
重合体(x1)の量は、好ましくは20.0~90.0質量部、より好ましくは30.0~85.0質量部である。共重合体(x2)の量は、好ましくは10.0~80.0質量部、より好ましくは15.0~70.0質量部とする。ただし、重合体(x1)および共重合体(x2)の合計量を100質量部とする。
【0050】
《4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)》
4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)(以下、単に「重合体(x1)」ともいう。)は、下記要件(x1-a)を満たす。
【0051】
要件(x1-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が80.0~100モル%であり、好ましくは85.0~100モル%、より好ましくは90.0~100モル%、さらに好ましくは95.0~100モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィン(以下「コモノマー1」ともいう。)から導かれる構成単位の含有率が0~20.0モル%であり、好ましくは0~15.0モル%、より好ましくは0~10.0モル%、さらに好ましくは0~5.0モル%である。
【0052】
なお、前記構成単位の含有率は、全繰返し構成単位量を100モル%とする。
コモノマー1としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。コモノマー1は、4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)の用途や必要物性に応じて適宜選択することができる。例えば、コモノマー1としては、樹脂フィルム(F1)に適度な弾性率と柔軟性、可とう性とを付与するという観点からは、炭素数8~18のα-オレフィンが好ましく、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセンおよび1-オクタデセンから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0053】
重合体(x1)がコモノマー1から導かれる構成単位を有する場合、当該構成単位は、1種のみ含まれていてもよく、また、2種以上含まれていてもよい。
重合体(x1)は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンおよびコモノマー1以外の、その他のモノマー1から導かれる構成単位(以下「その他の構成単位1」ともいう。)を有してもよい。その他の構成単位1の含有率は、例えば0~10.0モル%である。
【0054】
その他のモノマー1としては、例えば、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィン、ハロゲン化オレフィンが挙げられる。環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィンおよびハロゲン化オレフィンとしては、例えば、特開2013-169685号公報の段落[0035]~[0041]に記載の化合物を用いることができる。
【0055】
重合体(x1)がその他の構成単位1を有する場合、その他の構成単位1は、1種のみ含まれていてもよく、また、2種以上含まれていてもよい。
重合体(x1)は、さらに以下に説明する物性([η]、融点)から選ばれる少なくとも1つの物性の要件を満たすことが好ましい。
【0056】
重合体(x1)は、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が、好ましくは0.5~20dl/g、より好ましくは0.5~5.0dl/gの範囲にある。
重合体(x1)は、示差走査熱量計(DSC)により測定した融点(Tm)が、好ましくは220℃以上、より好ましくは220~260℃、さらに好ましくは225~260℃の範囲にある。重合体(x1)の融点が前記範囲にあると、得られる樹脂(X)は耐熱性に優れる。
以上の構成、物性等の測定方法の詳細は、実施例欄に記載する。
【0057】
《4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)》
4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)(以下、単に「共重合体(x2)」ともいう。)は、下記要件(x2-a)を満たす。
【0058】
要件(x2-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が20.0~98.0モル%であり、好ましくは25.0~95.0モル%、より好ましくは30.0~95.0モル%、さらに好ましくは30.0~92.0モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィン(以下「コモノマー2」ともいう)から導かれる構成単位の含有率が2.0~80.0モル%であり、好ましくは5.0~75.0モル%、より好ましくは5.0~70.0モル%、さらに好ましくは8.0~70.0モル%である。ただし、共重合体(x2)におけるコモノマー2から導かれる構成単位の含有率(モル%)は、重合体(x1)におけるコモノマー1から導かれる構成単位の含有率(モル%)よりも大きい。
【0059】
なお、前記構成単位の含有率は、全繰返し構成単位量を100モル%とする。
コモノマー2としては、例えば、要件(x1-a)においてコモノマー1として例示したオレフィンが挙げられる。コモノマー2は、樹脂(X)の用途や必要物性に応じて適宜選択することができる。
【0060】
共重合体(x2)において、コモノマー2から導かれる構成単位は、1種のみ含まれていてもよく、また、2種以上含まれていてもよい。また、重合体(x1)がコモノマー1から導かれる構成単位を有する場合、重合体(x1)のコモノマー1および共重合体(x2)のコモノマー2は同一でも異なってもよい。
【0061】
共重合体(x2)は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンおよびコモノマー2以外の、その他のモノマー2から導かれる構成単位(以下「その他の構成単位2」ともいう。)を有してもよい。その他の構成単位2の含有率は、例えば0~10.0モル%である。
【0062】
その他のモノマー2としては、例えば、重合体(x1)においてその他のモノマー1として例示した化合物が挙げられる。共重合体(x2)がその他の構成単位2を有する場合、その他の構成単位2は、1種のみ含まれていてもよく、また、2種以上含まれていてもよい。
【0063】
共重合体(x2)は、さらに以下に説明する物性([η]、融点)から選ばれる少なくとも1つの物性の要件を満たすことが好ましい。
共重合体(x2)は、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が、好ましくは0.5~20dl/g、より好ましくは1.0~7.0dl/gの範囲にある。
【0064】
共重合体(x2)は、示差走査熱量計(DSC)により測定した融点(Tm)が、好ましくは220℃未満の範囲にあるか、またはDSC測定において融点を示すピークが出現しない。より好ましくは融点(Tm)が210℃未満の範囲にあるか、またはDSC測定において融点を示すピークが出現しない。さらに好ましくは、融点(Tm)が120~200℃の範囲にあるか、またはDSC測定において融点を示すピークが出現しない。特に好ましくは、融点(Tm)が130~180℃の範囲にあるか、またはDSC測定において融点を示すピークが出現しない。このような態様であると、コモノマーから導かれる構成単位の含有率の高い、4-メチル-1-ペンテン重合体を得られる点で好ましい。本発明の好適かつ例示的な態様の1つにおいて、下記実施例に示されるように、共重合体(x2)は、DSC測定において融点を示すピークが出現しない。
【0065】
以上の構成、物性等の測定方法の詳細は、実施例欄に記載する。共重合体(x2)の構成単位の含有率、[η]およびTmは、重合体(x1)および樹脂(X)の測定結果、ならびに重合体(x1)と共重合体(x2)との質量比から、算出することが可能である。
【0066】
<4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)の製造方法>
4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)は、例えば、4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)をスラリー重合により製造する工程(1)と、前記工程(1)で得られた重合体(x1)の存在下で、4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)を、前記重合体(x1)および前記共重合体(x2)の合計量を100質量部とした場合に前記共重合体(x2)の量が5.0~90.0質量部となる範囲で、スラリー重合により製造する工程(2)とを有する製造方法により、製造することができる。
【0067】
すなわち前記製造方法は、重合条件の異なる工程(1)と工程(2)とを有するが、工程(1)および(2)の二段式重合でもよく、工程(1)および(2)に加えて他の工程をさらに含む三段式以上の重合であってもよい。
【0068】
《工程(1)》
工程(1)では、4-メチル-1-ペンテン重合体(x1)をスラリー重合により製造する。
【0069】
工程(1)において、コモノマー1を用いる場合、4-メチル-1-ペンテンおよびコモノマー1の供給量比は、それぞれから導かれる構成単位の含有率が上記範囲にあるように設定され、コモノマー1の反応性によっても異なるが、例えば、供給量比4-メチル-1-ペンテン/コモノマー1(モル比)が100/0~80/20、好ましくは100/0~90/10、より好ましくは100/0~95/5、さらに好ましくは100/0~97/3、特に好ましくは100/0~98/2の範囲であって、スラリー重合可能な範囲である。
【0070】
工程(1)では、重合体(x1)を含むスラリーが得られる。スラリー濃度、すなわち重合体(x1)粒子濃度は、通常は0.015~45質量%、好ましくは0.03~35質量%である。スラリー濃度は、例えば実施例欄記載の方法で濾過し、算出することができる。
【0071】
《工程(2)》
工程(2)では、工程(1)で得られた重合体(x1)の存在下で、4-メチル-1-ペンテン共重合体(x2)をスラリー重合により製造する。
【0072】
工程(2)において、4-メチル-1-ペンテンおよびコモノマー2の供給量比は、それぞれから導かれる構成単位の含有率が上記範囲にあるように設定され、コモノマー2の反応性によっても異なるが、例えば、供給量比4-メチル-1-ペンテン/コモノマー2(モル比)が20/80~98/2、好ましくは30/70~95/5、より好ましくは30/70~92/8、さらに好ましくは30/70~90/10の範囲である。
【0073】
工程(2)では、工程(1)で得られる重合体(x1)および工程(2)で得られる共重合体(x2)の合計量を100質量部とした場合に、共重合体(x2)の量が5.0~90.0質量部、好ましくは10.0~80.0質量部、さらに好ましくは15.0~70.0質量部となる範囲で、共重合体(x2)を製造する。このような量比でこれらの重合体を製造すると、コモノマー(コモノマー1およびコモノマー2を併せてこのように称する)から導かれる構成単位の含有率の高い、4-メチル-1-ペンテン重合体を得られる点で好ましい。
【0074】
また、工程(1)で重合体(x1)を製造した後、工程(2)で共重合体(x2)を製造することにより、その逆の順序で行う場合に溶液重合となってしまいやすいのに比べて、前記各工程でスラリー重合が可能となる。
【0075】
工程(2)において、4-メチル-1-ペンテンおよびコモノマー2の供給量は、重合体(x1)と共重合体(x2)との量比が上記範囲にあるように選択される。
工程(2)では、一実施態様では、重合体(x1)を含むスラリーに、4-メチル-1-ペンテンおよびコモノマー2を添加し、これらモノマーのスラリー重合を行うことができる。
【0076】
工程(2)では、重合体(x1)および共重合体(x2)を含有する粒子(x)を含むスラリーが得られる。スラリー濃度、すなわち粒子(x)濃度は、通常は3~50質量%、好ましくは5~40質量%である。スラリー濃度は、例えば実施例欄記載の方法で濾過し、算出することができる。
【0077】
《重合条件》
工程(1)および(2)における重合条件を以下に記載する。
重合溶媒として、例えば、炭化水素媒体が挙げられ、具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;またはこれらから選ばれる2種以上の混合物が挙げられる。また、4-メチル-1-ペンテン、それ以外のα-オレフィン等のオレフィン自体を重合溶媒として用いることもできる。このように本発明では、炭化水素媒体中において、および/または重合に用いるオレフィン自体を媒体として、オレフィン重合を行うことができる。
【0078】
上記製造方法ではスラリー重合を採用するが、「スラリー重合」とは、重合により生じる重合体が、重合時に用いた上記媒体に実質的に溶解することなく、例えば微粒子として上記媒体に分散した形で存在することを特徴とする重合をいう。
【0079】
工程(1)および(2)において、オレフィンの重合温度は、通常は0~100℃、好ましくは20~70℃であり;重合圧力は、通常は常圧~10MPaゲージ圧、好ましくは常圧~5MPaゲージ圧である。重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。工程(1)および(2)のこれらの条件は同一でも異なってもよい。
【0080】
特に水素は、オレフィン重合で用いることのできる触媒の重合活性を向上させる効果や、重合体の分子量を増加または低下させる効果が得られることがあり、好ましい添加物であるといえる。系内に水素を添加する場合、その量はオレフィン1モルあたり0.00001~100NL程度が適当である。系内の水素濃度は、水素の供給量を調整する以外にも、水素を生成または消費する反応を系内で行う方法や、膜を利用して水素を分離する方法、水素を含む一部のガスを系外に放出することによっても調整することができる。
【0081】
得られる重合体の分子量は、工程(1)、工程(2)それぞれについて、重合系に水素を存在させるか、または重合温度を変化させることによって調節することができる。さらに、メタロセン触媒を構成することのできる後述の担体(D)の違いや重合溶媒中の4-メチル-1-ペンテン濃度の調整により調節することもできる。
【0082】
《メタロセン触媒》
工程(1)および(2)において、重合体(x1)および共重合体(x2)は、それぞれメタロセン触媒を用いて製造することが好ましい。チーグラー触媒を用いる場合に比べて、メタロセン触媒を用いることで、得られる重合体の溶媒可溶部量が減りスラリー性状が向上し、例えばコモノマーから導かれる構成単位の含有率が多い場合にもスラリー性状が良好となる。したがって、スラリーから目的とする溶媒不溶性の粒子を効率良く分離回収することができる。
【0083】
メタロセン触媒は、メタロセン化合物(C)を含む。
メタロセン触媒は、担体(D)をさらに含むことができる。
メタロセン触媒は、好ましくは、体積統計値でのD50が1~500μmの範囲にある粒子状触媒であり、D50はより好ましくは2~200μm、さらに好ましくは5~50μmの範囲にある。体積統計値でのD50は、例えば、Microtrac社製のMT3300EX IIを利用し、レーザー回折・散乱法により求めることができる。メタロセン触媒のD50は、通常、後述する担体(D)のD50と同等、すなわち、担体(D)のD50の通常は0.90~1.10倍の範囲、好ましくは0.95~1.05倍の範囲、より好ましくは1.0~1.03倍の範囲にある。
【0084】
〈メタロセン化合物(C)〉
メタロセン化合物(C)としては、例えば、国際公開第2005/121192号、国際公開第2014/050817号、国際公開第2014/123212号、国際公開第2017/150265号等で開示の化合物が例示される。国際公開第2014/050817号、国際公開第2017/150265号等で開示の架橋メタロセン化合物が好適に挙げられるが、これによって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0085】
メタロセン化合物(C)は、一般式[C1]で表される化合物が好ましい。
【0086】
【化1】
【0087】
式[C1]中、R1は炭化水素基、ケイ素含有基またはハロゲン含有炭化水素基であり、R2~R10は水素原子、炭化水素基、ケイ素含有基、ハロゲン原子およびハロゲン含有炭化水素基から選ばれ、それぞれ同一でも異なっていてもよく、それぞれの置換基は互いに結合して環を形成してもよい。Mは周期表第4族遷移金属であり、Qはハロゲン原子、炭化水素基、炭素数10以下の中性の共役もしくは非共役ジエン、アニオン配位子および孤立電子対で配位可能な中性配位子から同一のまたは異なる組合せで選ばれ、jは1~4の整数である。
【0088】
特に好ましいメタロセン化合物(C)として、工程(1)および工程(2)を通じて重合活性の低下が少なく、高立体規則性重合が可能であり、コモノマーの共重合性能に優れ、かつ高分子量の共重合体が得られる錯体化合物が好適に用いられる。高立体規則性重合が可能であることにより、スラリー重合中での溶出ポリマー成分が抑制され、かつ、重合体(x1)の融点を高い範囲に調整することができ、得られる樹脂(X)の耐熱性を高く調節することができる。また、コモノマー共重合性能に優れることは、重合体(x1)および共重合体(x2)の共重合組成を自在に変えることを可能とし、樹脂(X)の用途に応じた柔軟性を適切に設定することができる。また、高分子量の共重合体が得られることは、すなわち共重合体(x2)の分子量を高く調整することを可能とし、得られる樹脂(X)の強度や靭性を高いものにすることができるために好ましい。
【0089】
このような観点から、一般式[C1]で表される化合物の中でも、国際公開第2014-050817号などに記載の、一般式[C2]で表される化合物が特に好ましい。
【0090】
【化2】
【0091】
式[C2]中、R1bは炭化水素基、ケイ素含有基またはハロゲン含有炭化水素基であり、R2b~R12bは水素原子、炭化水素基、ケイ素含有基、ハロゲン原子およびハロゲン含有炭化水素基から選ばれ、それぞれ同一でも異なっていてもよく、それぞれの置換基は互いに結合して環を形成してもよい。Mは周期表第4族遷移金属であり、nは1~3の整数であり、Qはハロゲン原子、炭化水素基、炭素数10以下の中性の共役もしくは非共役ジエン、アニオン配位子および孤立電子対で配位可能な中性配位子から同一のまたは異なる組合せで選ばれ、jは1~4の整数である。
【0092】
(R 1 からR 10 、R 1b からR 12b
1からR10およびR1bからR12bにおける炭化水素基としては、例えば、直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、飽和炭化水素基が有する1または2以上の水素原子を環状不飽和炭化水素基に置換してなる基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、通常1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10である。
【0093】
直鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカニル基等の直鎖状アルキル基;アリル基等の直鎖状アルケニル基が挙げられる。
【0094】
分岐状炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、tert-ブチル基、tert-アミル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、1-メチル-1-プロピルブチル基、1,1-プロピルブチル基、1,1-ジメチル-2-メチルプロピル基、1-メチル-1-イソプロピル-2-メチルプロピル基等の分岐状アルキル基が挙げられる。
【0095】
環状飽和炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、メチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ノルボルニル基、アダマンチル基、メチルアダマンチル基等の多環式基が挙げられる。
【0096】
環状不飽和炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基等のアリール基;シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基;5-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エニル基等の多環の不飽和脂環式基が挙げられる。
【0097】
飽和炭化水素基が有する1または2以上の水素原子を環状不飽和炭化水素基に置換してなる基としては、例えば、ベンジル基、クミル基、1,1-ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基等のアルキル基が有する1または2以上の水素原子をアリール基に置換してなる基が挙げられる。
【0098】
1からR10およびR1bからR12bにおけるケイ素含有基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の式-SiR3(式中、複数あるRはそれぞれ独立に炭素数1~15のアルキル基またはフェニル基である。)で表される基が挙げられる。
【0099】
1からR10およびR1bからR12bにおけるハロゲン含有炭化水素基としては、例えば、トリフルオロメチル基等の、上記炭化水素基が有する1または2以上の水素原子をハロゲン原子に置換してなる基が挙げられる。
【0100】
2からR10およびR2bからR12bにおけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
2からR10およびR2bからR12bまでの置換基のうち、2つの置換基(例:R2bとR3b、R3bとR4b、R5bとR6b、R6bとR7b、R8bとR9b、R9bとR10b、R10bとR11b、R11bとR12b)が互いに結合して環を形成していてもよく、前記環形成は、分子中に2箇所以上存在してもよい。
【0101】
本発明において、2つの置換基が互いに結合して形成された環(スピロ環、付加的な環)としては、例えば、脂環、芳香環が挙げられる。具体的には、シクロヘキサン環、ベンゼン環、水素化ベンゼン環、シクロペンテン環が挙げられ、好ましくはシクロヘキサン環、ベンゼン環および水素化ベンゼン環である。また、このような環構造は、環上にアルキル基等の置換基をさらに有していてもよい。
【0102】
1bは、立体規則性の観点から、炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~20の炭化水素基であることがより好ましく、アリール基ではないことがさらに好ましく、直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基または環状飽和炭化水素基であることがとりわけ好ましく、遊離原子価を有する炭素(シクロペンタジエニル環に結合する炭素)が3級炭素である置換基であることが特に好ましい。
【0103】
1bとしては、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、tert-アミル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-アダマンチル基が例示でき、より好ましくはtert-ブチル基、tert-ペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-アダマンチル基等の遊離原子価を有する炭素が3級炭素である置換基であり、特に好ましくはtert-ブチル基、1-アダマンチル基である。
【0104】
一般式[C2]において、フルオレン環部分は公知のフルオレン誘導体から得られる構造であれば特に制限されないが、R4bおよびR5bは、立体規則性、分子量の観点から、好ましくは水素原子である。
【0105】
2b、R3b、R6bおよびR7bは、好ましくは水素原子または炭化水素基であり、より好ましくは炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数1~20の炭化水素基である。また、R2bとR3bが互いに結合して環を形成し、かつR6bとR7bが互いに結合して環を形成していてもよい。このような置換フルオレニル基としては、例えば、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、オクタヒドロジベンゾフルオレニル基、1,1,4,4,7,7,10,10-オクタメチル-2,3,4,7,8,9,10,12-オクタヒドロ-1H-ジベンゾ[b,h]フルオレニル基、1,1, 3,3,6,6,8,8-オクタメチル-2,3,6,7,8,10-ヘキサヒドロ-1H-ジシクロペンタ[b,h]フルオレニル基、1',1',3',6',8',8'-ヘキサメチル-1'H,8'H-ジシクロペンタ[b,h]フルオレニル基が挙げられ、特に好ましくは1,1,4,4,7,7,10,10-オクタメチル-2,3,4,7,8,9,10,12-オクタヒドロ-1H-ジベンゾ[b,h]フルオレニル基である。
【0106】
8bは水素原子であることが好ましい。
9bは炭化水素基であることがより好ましく、R9bは直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基等の炭素数2以上のアルキル基、シクロアルキル基またはシクロアルケニル基であることがさらに好ましく、R9bは炭素数2以上のアルキル基であることがとりわけ好ましい。また、合成上の観点からは、R10bおよびR11bは水素原子であることも好ましい。
【0107】
あるいは、n=1である場合、R9bおよびR10bが互いに結合して環を形成していることがより好ましく、当該環がシクロヘキサン環等の6員環であることが特に好ましい。この場合、R11bは水素原子であることが好ましい。
12bは、炭化水素基であることが好ましく、アルキル基であることが特に好ましい。
【0108】
(M、Q、nおよびjについて)
Mは周期表第4族遷移金属であり、例えばTi、ZrまたはHfであり、好ましくはZrまたはHfであり、特に好ましくはZrである。
【0109】
Qはハロゲン原子、炭化水素基、炭素数10以下の中性の共役もしくは非共役ジエン、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子を示す。
Qでのハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0110】
Qにおける炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基が好ましい。炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、1,1,2,2-テトラメチルプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,1,3-トリメチルブチル基、ネオペンチル基が例示され;炭素数3~10のシクロアルキル基としては、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシル基、1-メチル-1-シクロヘキシル基が例示される。炭化水素基の炭素数は、5以下であることがより好ましい。
【0111】
炭素数10以下の中性の共役または非共役ジエンとしては、s-シス-またはs-トランス-η4-1,3-ブタジエン、s-シス-またはs-トランス-η4-1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、s-シス-またはs-トランス-η4-3-メチル-1,3-ペンタジエン、s-シス-またはs-トランス-η4-1,4-ジベンジル-1,3-ブタジエン、s-シス-またはs-トランス-η4-2,4-ヘキサジエン、s-シス-またはs-トランス-η4-1,3-ペンタジエン、s-シス-またはs-トランス-η4-1,4-ジトリル-1,3-ブタジエン、s-シス-またはs-トランス-η4-1,4-ビス(トリメチルシリル)-1,3-ブタジエンが例示される。
【0112】
アニオン配位子としては、メトキシ、tert-ブトキシ等のアルコキシ基;フェノキシ等のアリールオキシ基;アセテート、ベンゾエート等のカルボキシレート基;メシレート、トシレート等のスルホネート基が例示される。
【0113】
孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン等の有機リン化合物;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類が例示される。
【0114】
Qの好ましい態様は、ハロゲン原子または炭素数1~5のアルキル基である。
nは1~3の整数であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。nが上記値であることにより、生成する重合体を効率的に得る観点から好ましい。
【0115】
jは1~4の整数であり、好ましくは2である。
以上、一般式[C1]または[C2]で表される化合物の構成、すなわちR1~R10、R1b~R12b、M、n、Qおよびjについて、好ましい態様を説明した。本発明では、それぞれの好適態様の任意の組合せも好ましい態様である。このような架橋メタロセン化合物は、上記物性を有する4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を得るために好適に使用することができる。
【0116】
一般式[C2]で表される化合物としては、(8-オクタメチルフルオレン-12'-イル-(2- (アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドまたは(8-(2,3,6,7-テトラメチルフルオレン)-12'-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドが特に好ましい。ここで、上記オクタメチルフルオレンとは1,1,4,4,7,7,10,10-オクタメチル-2,3,4,7,8,9,10,12-オクタヒドロ-1H-ジベンゾ[b,h]フルオレンのことである。
【0117】
〈担体(D)〉
担体(D)は、好ましくは粒子状であり、その表面および内部にメタロセン化合物(C)を固定化させることで、前記メタロセン触媒が形成される。このような形態の触媒は一般にメタロセン担持触媒と呼ばれる。
【0118】
担体(D)は、有機アルミニウム化合物(D-1)、有機ホウ素化合物(D-2)、もしくは無機化合物(D-3)、またはこれらから選ばれる2種以上の複合体を主成分とする。
【0119】
有機アルミニウム化合物(D-1)としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド、トリシクロアルキルアルミニウムや、アルミノキサンに代表される有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。また、有機アルミニウム化合物(D-1)としては、例えば、ホウ素原子を含む有機アルミニウムオキシ化合物や、国際公開第2005/066191号、国際公開第2007/131010号に例示されているようなハロゲンを含むアルミノキサン、国際公開第2003/082879号に例示されているようなイオン性アルミノキサンを挙げることもできる。
【0120】
有機ホウ素化合物(D-2)としては、例えば、トリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、トリプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラフェニルボレート、トリメチルアンモニウムテトラキス(p-トリル)ボレート、トリメチルアンモニウムテトラキス(o-トリル)ボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリエチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラキス(2,4-ジメチルフェニル)ボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラキス(3,5-ジメチルフェニル)ボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラキス(4-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラキス(o-トリル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(p-トリル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(o-トリル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(2,4-ジメチルフェニル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(3,5-ジメチルフェニル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(4-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジオクタデシルメチルアンモニウム、N,N-ジメチルアニリニウムテトラフェニルボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N-ジエチルアニリニウムテトラフェニルボレート、N,N-ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジエチルアニリニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムテトラフェニルボレート、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが挙げられる。
【0121】
無機化合物(D-3)としては、例えば、多孔質酸化物、無機ハロゲン化物、粘土、粘土鉱物、またはイオン交換性層状化合物が挙げられる。
多孔質酸化物としては、例えば、SiO2、Al2O3、MgO、ZrO2、TiO2、B2O3、CaO、ZnO、BaO、ThO2等の酸化物、またはこれらを含む複合物もしくは混合物が挙げられる。例えば、天然または合成ゼオライト、SiO2-MgO、SiO2-Al2O3、SiO2-TiO2、SiO2-V2O5、SiO2-Cr2O3、SiO2-TiO2-MgOなどを例示することができる。
【0122】
無機ハロゲン化物としては、例えば、MgCl2、MgBr2、MnCl2、MnBr2が挙げられる。無機ハロゲン化物は、そのまま用いてもよいし、ボールミル、振動ミルにより粉砕した後に用いてもよい。また、アルコール等の溶媒に無機ハロゲン化物を溶解させた後、析出剤によって微粒子状に析出させたものを用いることもできる。
【0123】
粘土は、通常は粘土鉱物を主成分として構成される。イオン交換性層状化合物は、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造を有する化合物であり、含有されるイオンが交換可能である。大部分の粘土鉱物はイオン交換性層状化合物である。また、これらの粘土、粘土鉱物、イオン交換性層状化合物としては、天然産のものに限らず、人工合成物を使用することもできる。また、粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物としては、粘土、粘土鉱物、または六方最密パッキング型、アンチモン型、CdCl2型、CdI2型等の層状の結晶構造を有するイオン結晶性化合物を例示することができる。
【0124】
粘土、粘土鉱物には、化学処理を施すことも好ましい。化学処理としては、表面に付着している不純物を除去する表面処理、粘土の結晶構造に影響を与える処理等、何れも使用できる。化学処理としては、具体的には、酸処理、アルカリ処理、塩類処理、有機物処理等が挙げられる。
【0125】
担体(D)として、高活性かつ溶媒可溶部量をさらに抑制する観点から、アルミニウム原子を含有する担体が好ましい。担体(D)中のアルミニウム原子の含有率は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは30~50質量%、特に好ましくは35~47質量%である。
【0126】
また、担体(D)の体積統計値でのD50は、好ましくは1~500μm、より好ましくは2~200μm、さらに好ましくは5~50μmである。体積統計値でのD50は、例えば、Microtrac社製のMT3300EX IIを利用し、レーザー回折・散乱法により求めることができる。
【0127】
このような担体(D)としては、固体状アルミノキサンが好適に用いられ、例えば、国際公開第2010/055652号、国際公開第2013/146337号、あるいは、国際公開第2014-123212号で開示される固体状アルミノキサンが特に好適に用いられる。
【0128】
「固体状」とは、固体状アルミノキサンが用いられる反応環境下において、当該アルミノキサンが実質的に固体状態を維持することを意味する。より具体的には、例えばオレフィン重合触媒を構成する各成分を接触させてオレフィン重合固体触媒成分を調製する際、反応に用いられるヘキサンやトルエン等の不活性炭化水素媒体中、特定の温度・圧力環境下において前記アルミノキサンが固体状態であることを表す。
【0129】
固体状アルミノキサンは、好ましくは式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位から選ばれる少なくとも1種の構成単位を有するアルミノキサンを含有し、より好ましくは式(1)で表される構成単位を有するアルミノキサンを含有し、さらに好ましくは式(1)で表される構成単位のみからなるポリメチルアルミノキサンを含有する。
【0130】
【化3】
【0131】
式(1)中、Meはメチル基である。
式(2)中、R1は炭素数2~20の炭化水素基、好ましくは炭素数2~15の炭化水素基、より好ましくは炭素数2~10の炭化水素基である。炭化水素基としては、例えば、エチル、プロピル、n-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、2-エチルヘキシル等のアルキル基;シクロヘキシル、シクロオクチル等のシクロアルキル基;フェニル、トリル等のアリール基が挙げられる。
【0132】
固体状アルミノキサンの構造は必ずしも明らかにされておらず、通常は、式(1)および/または式(2)で表される構成単位が2~50程度繰り返されている構成を有すると推定されるが、当該構成に限定されない。また、その構成単位の結合態様は、例えば、線状、環状またはクラスター状と種々であり、アルミノキサンは、通常、これらのうちの1種からなるか、または、これらの混合物であると推定される。また、アルミノキサンは、式(1)または式(2)で表される構成単位のみからなってもよい。
【0133】
固体状アルミノキサンとしては、固体状ポリメチルアルミノキサンが好ましく、式(1)で表される構成単位のみからなる固体状ポリメチルアルミノキサンがより好ましい。
固体状アルミノキサンは、通常は粒子状であり、体積統計値でのD50が好ましくは1~500μm、より好ましくは2~200μm、さらに好ましくは5~50μmである。体積統計値でのD50は、例えば、Microtrac社製のMT3300EX IIを利用し、レーザー回折・散乱法により求めることができる。
【0134】
固体状アルミノキサンは、比表面積が好ましくは100~1000m2/g、より好ましくは300~800m2/gである。比表面積は、BET吸着等温式を用い、固体表面におけるガスの吸着および脱着現象を利用して求めることができる。
【0135】
固体状アルミノキサンは、触媒担体として機能する。このため、固体状アルミノキサンの他に、触媒担体として、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、塩化マグネシウム等の固体状無機担体、またはポリスチレンビーズ等の固体状有機担体を用いなくともよい。
固体状アルミノキサンは、例えば、国際公開第2010/055652号および国際公開第2014/123212号に記載された方法により調製することができる。
【0136】
〈有機化合物成分(E)〉
メタロセン触媒は、さらに必要に応じて、有機化合物成分(E)を含有することもできる。有機化合物成分(E)は、必要に応じて、重合性能および生成ポリマーの物性を向上させる目的で使用される。有機化合物成分(E)としては、前述の有機アルミニウム化合物(D-1)を用いうる。その他に例えば、アルコール類、フェノール性化合物、カルボン酸、リン化合物、アミド、ポリエーテルおよびスルホン酸塩が挙げられる。
【0137】
〈各成分の使用法および添加順序〉
オレフィン重合の際には、各成分の使用法、添加順序は任意に選ばれるが、以下のような方法が例示される。以下では、メタロセン化合物(C)、担体(D)および有機化合物成分(E)を、それぞれ「成分(C)~(E)」ともいう。
(i)成分(C)と成分(D)を任意の順序で重合器に添加する方法。
(ii)成分(C)を成分(D)に担持した触媒成分を重合器に添加する方法。
【0138】
上記(i)~(ii)の各方法においては、任意の段階でさらに成分(E)が添加されてもよい。また、各触媒成分の少なくとも2つは予め接触されていてもよい。
また、成分(D)に成分(C)が担持された固体触媒成分においては、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン等のオレフィンが予備重合されていてもよく、予備重合された固体触媒成分上に、さらに触媒成分が担持されていてもよい。
【0139】
本発明では、メタロセン化合物(C)と担体(D)と任意に他の成分とからメタロセン触媒を調製し、この触媒の存在下で4-メチル-1-ペンテンを含むオレフィンを重合することが好ましく、すなわち工程(1)および(2)を行うことが好ましい。「メタロセン触媒の存在下で4-メチル-1-ペンテンを含むオレフィンを重合する」は、上記各方法のように、任意の方法でメタロセン触媒を構成する各成分を重合器に添加してオレフィンを重合する態様を包含する。
【0140】
工程(1)および(2)において、メタロセン触媒を用いてオレフィンの重合を行うに際して、メタロセン触媒を構成しうる各成分の使用量は以下のとおりである。また、メタロセン触媒において、各成分の含有量を以下のとおりに調節することができる。
【0141】
成分(C)は、反応容積1リットル当り、通常は10-10~10-2モル、好ましくは10-8~10-3モルとなるような量で用いられる。成分(D-1)は、成分(D-1)中のアルミニウム原子と成分(C)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔Al/M〕が通常は10~10000、好ましくは30~2000、特に好ましくは150~500となるような量で用いることができる。成分(D-2)は、成分(D-2)と成分(C)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔(D-2)/M〕が通常は10~10000、好ましくは30~2000、さらに好ましくは150~500となるような量で用いることができる。成分(D-3)は、成分(D-3)と成分(C)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔(D-3)/M〕が通常は10~10000、好ましくは30~2000、さらに好ましくは150~500となるような量で用いることができる。
【0142】
成分(E)を用いる場合は、成分(D)が成分(D-1)の場合には、成分(D-1)中のアルミニウム原子と成分(E)のモル比〔Al/(E)〕が通常は0.002~500、好ましくは0.01~60となるような量で、成分(D)が成分(D-2)の場合には、成分(D-2)と成分(E)のモル比〔(D-2)/(E)〕が通常は0.002~500、好ましくは0.01~60となるような量で、成分(D)が成分(D-3)の場合は、成分(D-3)と成分(E)のモル比〔(D-3)/(E)〕が通常は0.002~500、好ましくは0.01~60となるような量で用いることができる。
【0143】
《固液分離工程》
工程(2)で得られた、重合体(x1)および共重合体(x2)を含有する4-メチル-1-ペンテン重合体粒子(x)を含むスラリーを、固液分離する、例えば濾過することにより、粒子(x)を分離回収することができる。この固液分離工程により、粒子(x)を効率的に回収することができる。
【0144】
《後処理工程》
上記製造方法で得られた粒子(x)に対しては、上記方法で製造した後に、必要に応じて公知の触媒失活処理工程、触媒残渣除去工程、乾燥工程等の後処理工程を行ってよい。
【0145】
4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)は、前記粒子(x)を溶融(好ましくは溶融混練)することにより得られた樹脂であることが好ましい。溶融温度は、通常は180~350℃、好ましくは200~320℃、より好ましくは250~320℃の範囲である。
【0146】
樹脂(X)の形状は限定されないが、通常はペレット状であると扱いやすさにおいて好ましい。この際、必要に応じて後述する各種添加剤を配合してもよい。
ペレット化の方法としては、例えば、以下の方法(1)および(2)が挙げられる。
(1)粒子(x)および所望により添加される他の成分を、押出機、ニーダー等を用いて溶融混練して、所定の大きさにカットする方法。
(2)粒子(x)および所望により添加される他の成分を適当な良溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の炭化水素溶媒)に溶解し、次いで溶媒を除去、しかる後に押出機、ニーダー等を用いて溶融混練して、所定の大きさにカットする方法。
【0147】
樹脂(X)は、高い立体規則性を有し、かつ、優れた耐熱性と比較的低い剛性すなわち柔軟性とを両立する特徴を有する。CFCにより100~140℃の範囲に溶出成分量のピークを有する成分(通常、重合体(x1))により、加熱後においてもエンボス形状を維持できる高い耐熱性という特性が得られ、かつ、100℃未満に溶出成分量のピークを有する成分(通常、共重合体(x2))により、柔軟性の特性が得られている。樹脂(X)を含有する架橋前駆体(PX)から成形された成形体に電子線を照射することで、さらに耐熱性は向上することができる。このような特徴は、重合体(x1)と共重合体(x2)とを同一粒子中に含有する粒子(x)において、顕著にもたらされる。
【0148】
例えば、重合体(x1)と共重合体(x2)とをそれぞれ個別に重合した重合体の混合物である樹脂、例えば個別の重合体を溶融混練して得た樹脂に比べて、好適態様である、前記粒子(x)から形成された樹脂(X)は、耐熱性が高い。このように粒子(x)から形成された樹脂(X)を用いることにより加熱後においてもエンボス形状を維持できる積層体を得ることができ、樹脂(X)を含有する架橋前駆体(PX)から成形された成形体に電子線を照射することで、さらに耐熱性を向上することができる。すなわち、前記粒子(x)から形成された樹脂(X)を用いると、樹脂フィルム(F1)としたときに高温においても溶融せずに弾性率を維持でき、樹脂フィルムの表面形状を維持できる。このことから、前記粒子(x)から形成された樹脂(X)を用いて得られた樹脂フィルム(F1)を含む離型紙を、例えば表面にエンボス加工した合成皮革用の離型紙として用いると、高温になっても表面のエンボス形状が維持できるため、合成皮革の表面形状がデザイン通りに転写でき、繰返し使用できる回数が向上する利点もある。このような効果は、樹脂(X)は、好ましくは粒子の一つ一つに重合体(x1)と共重合体(x2)とを含む粒子(x)から得られるために、重合体(x1)および共重合体(x2)の分散性が良好となり、また、重合体(x1)と共重合体(x2)との相分離構造のサイズが均一になっているためと考えられる。相分離構造は、例えば透過型電子顕微鏡や、X線散乱法あるいは光散乱法などにより確認することができる。なお相分離構造が小さい、あるいは、重合体(x1)と共重合体(x2)の相容性が高い場合、これらの方法では相分離構造を観察できない場合もありうる。相分離構造は特に限定されるものではないが、重合体(x1)と共重合体(x2)の体積比率に依存することが推測され、共連続構造あるいは海島構造が取りやすいものと考えられるが、場合によってはラメラ構造(層状構造)、シリンダー等の構造も取りうると推測される。
【0149】
一実施態様において、樹脂(X)を含有する架橋前駆体(PX)から成形された成形体は、引張弾性率が以下の式1を満たすことが好ましく、式2を満たすことがより好ましい。
【0150】
式1: 引張弾性率(MPa)<Tm(℃)×49.6-10400
式2: 引張弾性率(MPa)<Tm(℃)×49.6-10800
ここで、引張弾性率はASTM D638に準拠して測定した値であり、融点(Tm)は示差走査熱量計(DSC)により測定した値であり、通常は樹脂(X)の融点に相当し、詳細は実施例欄に記載する。架橋前駆体(PX)の組成、製造条件および成形体(プレスシート)の成形条件は実施例欄に記載する。
【0151】
前記成形体が式1を満たす場合、前記成形体は耐熱性が高くかつ柔軟性に優れると判断できる。前記成形体が式2を満たす場合、前記成形体は耐熱性および柔軟性のバランスにさらに優れると判断できる。
【0152】
すなわち、樹脂(X)を用いることにより、耐熱性および柔軟性に優れた樹脂フィルム(F1)を得ることができ、樹脂(X)を含有する架橋前駆体(PX)から成形された成形体に電子線を照射することで、さらに耐熱性は向上することができる。したがって、優れたカール抑制、エンボス加工後での優れた耐クラック性、および加熱後でもエンボス形状を維持できる優れた耐熱性を発揮する積層体が得られる。
また、樹脂(X)を用いれば、押出ラミネート法による成形時に樹脂フィルム(F1)のネッキングや耳揺れなどの成形不良は起こりにくい。
【0153】
[4-メチル-1-ペンテン重合体(A)]
本発明で用いられる架橋前駆体(PX)は、上述した4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)に加えて、下記要件(A-a)~(A-f)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A)(以下、単に「重合体(A)」)をさらに含むことが好ましい。
【0154】
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の含有率が100~90モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位(AQ)の含有率が0~10モル%である。
【0155】
(A-b)135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が1.0~4.0dl/gである。
(A-c)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃の範囲にある。
【0156】
(A-d)DSCで測定した結晶化温度(Tc)が150~220℃の範囲にある。
(A-e)密度が820~850kg/m3である。
(A-f)検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満の範囲に溶出成分量のピークBが存在しない。
【0157】
<要件(A-a)>
要件(A-a):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の含有率は90~100モル%、好ましくは95~100モル%であり、炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンから導かれる構成単位(AQ)の含有率は0~10モル%、好ましくは0~5モル%である。すなわち、本発明で用いることのできる重合体(A)は、4-メチル-1-ペンテン単独重合体であってもよく、あるいは、4-メチル-1-ペンテンと炭素数2~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く。)から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンとの共重合体であっても良い。
【0158】
重合体(A)における構成単位(P)の含有率が90モル%以上であることにより、積層体としての耐熱性が得られるという利点、およびハンドリングに適した層の弾性率が得られるという利点がある。また、上記樹脂(X)と組み合わせて架橋前駆体(PX)としたときに、一定以上の離型性を確保することができる積層体が提供可能となる利点もある。
【0159】
構成単位(AQ)を形成する前記α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。構成単位(AQ)を形成する前記α-オレフィンとしては、重合体(A)を含有する層に適度な弾性率と柔軟性、可とう性を付与するという観点からは、炭素数8~18のα-オレフィン(例えば1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセンおよび1-オクタデセン)が好ましい。
【0160】
重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、構成単位(P)および構成単位(AQ)以外のその他の構成単位(以下、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の項において「その他の構成単位」)を有してもよい。その他の構成単位の含有率は、例えば0~10モル%である。
その他の構成単位を導くモノマーの具体例は、上記「4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)」の項で上述したその他の構成単位を導くモノマーの具体例と同様である。
【0161】
<要件(A-b)>
要件(A-b):重合体(A)の、デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]は、1.0~4.0dl/gであり、好ましくは1.0~3.5dl/gであり、より好ましくは1.0~3.0dl/gである。重合体(A)の極限粘度[η]が上記範囲内であると、低分子量体が少ないため、重合体(A)を含有する層のべたつきが少なくなり、また、押出ラミネート法による積層体の成形が可能となる。
【0162】
<要件(A-c)>
要件(A-c):重合体(A)のDSCで測定した融点(Tm)は、200~250℃、好ましくは200~245℃、より好ましくは200~240℃の範囲にある。積層体は、重合体(A)の融点(Tm)が上記範囲にあることにより、上記範囲よりも高い場合に比べて適度な弾性率を有し、上記範囲よりも低い場合に比べて耐熱性が良好である。
【0163】
<要件(A-d)>
要件(A-d):重合体(A)のDSCで測定した結晶化温度(Tc)は、150~220℃、好ましくは180~220℃、より好ましくは190~220℃の範囲にある。重合体(A)の結晶化温度(Tc)が上記範囲にあることにより、上記範囲よりも高い場合に比べて積層体は適度な柔軟性を有するため、重合体(A)を含有する層にはクラックが入りにくく、上記範囲よりも低い場合に比べて剛性と結晶化度が高いため、高温でも重合体(A)を含有する層の離型性が良好である。
【0164】
<要件(A-e)>
要件(A-e):重合体(A)のJIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定される密度は、820~850kg/m3であり、好ましくは825~840kg/m3であり、より好ましくは830~835kg/m3である。密度が前記範囲であることによ
り、前記範囲よりも小さい場合に比べて重合体(A)を含有する層の機械的な強度が高く、前記範囲よりも大きい場合に比べて重合体(A)を含有する層の衝撃強度が高くなる傾向がある。
【0165】
<要件(A-f)>
要件(A-f):検出部に赤外分光光度計を用いたクロス分別クロマトグラフ装置(CFC)で測定したときに、100~140℃の範囲に溶出成分量のピークAが少なくとも1つ存在し、かつ、100℃未満の範囲に溶出成分量のピークBが存在しない。ピークAは、単峰であっても複数峰であってもよい。
【0166】
重合体(A)は、溶出成分量のピークBが存在しない、すなわち、上記要件(X-b)を満たさない、という点で上記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)と区別することができる。
以上の要件の測定条件の詳細は、実施例欄に記載する。
【0167】
<他の要件>
重合体(A)は、上記要件(A-a)~(A-f)に加えて、好ましくは下記要件(A-g)~(A-i)のうちのいずれか1以上の要件を満たす。
【0168】
要件(A-g):重合体(A)の、ASTM D1238に準拠して260℃、5.0kg荷重にて測定されるメルトフローレート(MFR)は、共押出できる範囲であれば特に規定されないが、通常は0.5~300g/10分であり、好ましくは1~250g/10分、より好ましくは1~200g/10分である。MFRが上記範囲であれば、重合体(A)を含む組成物を比較的均一な膜厚に押出成形しやすい。
【0169】
要件(A-h):重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、通常は1.0~7.0であり、好ましくは2.0~6.0である。なお、重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、実施例記載の方法により算出される値である。
【0170】
要件(A-i):重合体(A)は、破れにくい層を得る観点から、結晶性の高い重合体であることが好ましい。結晶性の高い重合体としては、アイソタクチック構造を有する重合体、シンジオタクチック構造を有する重合体のいずれであってもよいが、特にアイソタクチック構造を有する重合体が好ましく、また入手も容易である。重合体(A)の結晶性が高いかどうかは、メソダイアッド分率によって確認することができる。このメソダイアッド分率は、重合体の構造立体規則性を示す指標であり、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。本発明では、重合体(A)のメソダイアッド分率が95~100%であると好ましい。ただ、重合体(A)は、重合体(A)を含有する層をフィルム状に成形でき、積層体としたときに目的とする使用に耐える強度を有していれば、立体規則性は特に制限されない。
【0171】
<重合体(A)の製造方法>
重合体(A)は、オレフィン類を重合して製造してもよく、高分子量の4-メチル-1-ペンテン重合体を、熱分解して製造してもよい。また重合体(A)は、溶媒に対する溶解度の差で分別する溶媒分別、あるいは沸点の差で分取する分子蒸留などの方法で精製されていてもよい。
【0172】
重合体(A)を重合反応により製造する場合、例えば4-メチル-1-ペンテンおよび必要に応じて共重合させる前記オレフィンの仕込量、重合触媒の種類、重合温度、重合時の水素添加量等を調整することで、融点、立体規則性および分子量等を制御する。重合体(A)を重合反応により製造する方法は、公知の方法であってもよい。重合体(A)は、例えば、チーグラナッタ触媒、メタロセン触媒等の公知の触媒を用いた方法により製造され、好ましくはメタロセン触媒を用いて製造され得る。一方、重合体(A)を、より高分子量の4-メチル-1-ペンテン重合体の熱分解により製造する場合には、熱分解の温度や時間を制御することで、分子量を所望の値に制御する。
重合体(A)は、前述のように製造したもの以外にも、例えば三井化学株式会社製TPX等、市販の重合体であってもよい。
【0173】
[架橋前駆体(PX)]
本発明の樹脂フィルム(F1)を与える架橋前駆体(PX)は、上記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を含む。
【0174】
ここで、架橋前駆体(PX)は、上記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)からなるものであっても良く、上記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)に加えて上記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)をさらに含んでいてもよい。ここで、架橋前駆体(PX)が上記重合体(A)を含む場合、上記樹脂(X)と上記重合体(A)との合計量100質量部中、上記樹脂(X)を1~99質量部、上記重合体(A)を1~99質量部含有することが好ましく、上記樹脂(X)を30~70質量部、上記重合体(A)を30~70質量部含有することがより好ましい。
【0175】
また、架橋前駆体(PX)は、上記重合体(A)を含むか否かにかかわらず、上記樹脂(X)および上記重合体(A)のいずれにも該当しないその他の成分(以下「その他の成分」)を含んでいても良い。「その他の成分」の例として、上記樹脂(X)および上記重合体(A)のいずれにも該当しない樹脂(以下、「その他の樹脂」)や、各種添加剤が挙げられる。
【0176】
「その他の樹脂」として、例えば、上記樹脂(X)および上記重合体(A)のいずれにも該当しない熱可塑性ポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂、熱可塑性ビニル芳香族系樹脂等が挙げられる。
【0177】
上記樹脂(X)および上記重合体(A)のいずれにも該当しない熱可塑性ポリオレフィン樹脂の具体例として、
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、プロピレン・ブテン-1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン-1共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキセン-1共重合体、エチレン・プロピレン・オクテン-1共重合体、エチレン・ブテン-1・ヘキセン-1共重合体、エチレン・ブテン-1・オクテン-1共重合体、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体など、4-メチル-1-ペンテン重合体以外の各種オレフィン重合体;並びに、
塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの熱可塑性ハロゲン含有樹脂
が挙げられる。
【0178】
熱可塑性ポリアミド系樹脂の具体例として、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド6T/66共重合体、ポリアミド6T/6I共重合体、ポリアミド9T、ポリアミド10T等が挙げられる。
【0179】
熱可塑性ポリエステル系樹脂の具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート等が挙げられる。
熱可塑性ビニル芳香族系樹脂の具体例として、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体等が挙げられる。
【0180】
「その他の樹脂」として用いることのできるその他の熱可塑性樹脂の具体例として、
ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、熱可塑性ポリウレタン、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどが挙げられる。
【0181】
また、「その他の樹脂」として用いることのできるその他の例として、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂も挙げられる。
【0182】
また、前記「その他の成分」のほかの例として、樹脂の分野において添加剤として一般的に用いられる各種添加剤が挙げられる。各種添加剤としては、例えば、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、核剤、滑剤、顔料、染料、老化防止剤、塩酸吸収剤、無機または有機の充填剤、有機系または無機系の発泡剤、架橋剤、架橋助剤、粘着剤、軟化剤、難燃剤等が挙げられる。
【0183】
ここで、上記架橋前駆体(PX)は、架橋剤を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。ただ、本発明の好適な態様においては、上記架橋前駆体(PX)は、架橋剤を含まない。
【0184】
架橋前駆体(PX)が上記「その他の成分」を含む場合、上記「その他の成分」の含有量の合計は、上記樹脂(X)と上記重合体(A)との合計100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは、30質量部以下である。ここで、上記重合体(A)の含有量は0質量部であっても良い。
【0185】
樹脂フィルム(F1)は、上記樹脂(X)のみから形成してもよく、あるいは、上記樹脂(X)を含有する樹脂組成物を用いて形成してもよい。すなわち、架橋前駆体(PX)は、上記樹脂(X)のみからなるものであっても良く、あるいは、上記樹脂(X)を含む樹脂組成物であっても良い。樹脂フィルム(F1)を形成するための樹脂組成物、すなわち、上記樹脂(X)を含む樹脂組成物は、上述したように上記重合体(A)、および/または、各種添加剤等の上記「その他の成分」をさらに含有してもよい。そのような樹脂組成物は、例えば、上記樹脂(X)と、上記重合体(A)、および/または、上記「その他の成分」とを混合することによって得られる。前記混合を行う方法としては特に限定されず、例えば、二軸押出機でコンパウンドする方法や、ドライブレンド等によって混合する方法が挙げられる。
【0186】
[樹脂フィルム(F1)の構成および製造方法]
本発明にかかる樹脂フィルム(F1)は、上記架橋前駆体(PX)からなる樹脂フィルム(F0)に放射線を照射して得られる。見方を変えると、樹脂フィルム(F1)は、上記架橋前駆体(PX)の架橋体からなる樹脂フィルムともいえる。上記架橋前駆体(PX)は、放射線照射により上記樹脂(X)およびオプショナルの上記重合体(A)において分子鎖の切断と架橋が生じ、その結果、分子鎖が架橋点で結び合わされる。これより、架橋前駆体(PX)が、対応する架橋体に変化すると、ガラス転移温度あるいは融点以上でも分子鎖が勝手に流動することができなくなり、高温特性が改善される。このことは、高温における樹脂フィルム(F1)の熱変形率が小さいことにもつながる。本発明の典型的な態様において、樹脂フィルム(F1)の250℃における熱変形率は、0~10%である。この熱変形率は、後述する実施例に示されるように動的粘弾性測定装置で測定することができる。さらに、樹脂フィルム(F1)は、応力を受けても形態を保つことができ、機械的特性を保持できるようになる。
【0187】
前記照射に用いられる放射線の例として、α線、β線、γ線、電子線、イオン線などが挙げられ、これらのいずれも使用可能である。ただ、本発明では、これらの放射線のうち電子線またはγ線が適しており、その中でも電子線が特に好ましい。
【0188】
ここで、電子線を用いたα-オレフィン樹脂の架橋は、ポリエチレンなどの直鎖状(3級炭素を持たない)の樹脂では起こりやすい一方、4-メチル-1-ペンテンなどの分岐している(3級炭素を持つ)オレフィンの樹脂では架橋が進みにくい傾向にある。これは、4-メチル-1-ペンテンなどの分岐している(3級炭素を持つ)オレフィンの樹脂は、電子線照射によって分岐部分が切断しやすいことによる。ただ、4-メチル-1-ペンテンなどの分岐を持つ成分を主成分とするオレフィンの樹脂であっても、架橋する確率が高くなる程度に直鎖状成分を含有すると、電子線による架橋が進みやすい傾向にある。ここで、4-メチル-1-ペンテンなどの分岐を持つ成分を主成分とするオレフィンの樹脂に直鎖状の成分を導入する方法としては、炭素数の多いα-オレフィンをコモノマーとして共重合させる方法、および、4-メチル-1-ペンテンなどの分岐を持つ成分を主成分とするオレフィンの樹脂に架橋しやすい樹脂(ポリエチレン系重合体など)を混ぜたりする方法が挙げられる。そして、4-メチル-1-ペンテンなどの分岐を持つ成分を主成分とするオレフィンの樹脂として、架橋しやすい成分を含むものを採用することにより、架橋剤フリーで架橋させることができる利点がある。本発明において、上記架橋前駆体(PX)として上記樹脂(X)を含むものを採用するのは、このような理由による。
【0189】
ここで、樹脂フィルム(F1)の耐熱性は、220℃ における貯蔵弾性率E’で示すことができる。具体的には、220℃ における貯蔵弾性率E’は0.5~10MPa、好ましくは0.5~7.0MPa、さらに好ましくは0.5~5.0MPaである。この貯蔵弾性率E’は、動的粘弾性測定装置で測定したときの値であり、具体的には、-50℃から250℃まで3℃/分の速度で昇温しながら測定周波数1HzでフィルムのMD方向の弾性率を測定し、そのうちの220℃の測定結果から求めることができる。本発明では、220℃ の高温でも架橋体は低い貯蔵弾性率E’を示しており、優れた耐熱性を保持している。
【0190】
また、樹脂フィルム(F1)は、良好な離型性と良好な耐熱性とを両立させるために、適度に架橋されている。樹脂フィルム(F1)における架橋の度合いは、140℃キシレン抽出によるゲル分率、より具体的には、樹脂フィルム(F1)の全体に対する、140℃キシレン不溶分の割合として測定したゲル分率で示すことができる。樹脂フィルム(F1)のゲル分率は、70~90質量%、好ましくは70~85質量%、さらに好ましくは70~80質量%である。詳細には、ゲル分率は、実施例で記載の測定方法で測定できる。
【0191】
このような樹脂フィルム(F1)は、架橋前駆体(PX)に、放射線を照射する工程を含む製造方法により得ることができる。
ここで、本発明の典型的な態様において、樹脂フィルム(F1)は、
上記架橋前駆体(PX)を成形して樹脂フィルム(F0)に導く工程(S-F1)と、
前記工程(S-F1)で得られた樹脂フィルム(F0)に放射線を照射する工程(S-F2)と
を含む製造方法により得ることができる。
【0192】
ここで、前記工程(S-F1)において、前記成形は、フィルム成形に一般的に用いられる方法により行うことができ、例えば、一般的なTダイ押出成形機を用いて行うことができる。例えば、一軸押出機とキャストロールを用いて押出フィルムまたはシートの形で樹脂フィルム(F0)を得ることができ、その場合、一軸押出機のシリンダー温度を250~320℃とし、キャストロール温度を0~80℃とすることができる。この樹脂フィルム(F0)は、前記工程(S-F2)で行われる放射線照射により本発明の樹脂フィルム(F1)を与える前駆樹脂フィルムとしての役割を果たす。
【0193】
一方、前記工程(S-F2)において、前記放射線の照射線量は、上記樹脂(X)およびオプショナルの重合体(A)を構成するモノマー種によっても異なるが、通常50~700kGy、好ましくは100~500kGyであることが望まれる。
【0194】
照射線量が上記範囲内にある場合、上記樹脂(X)およびオプショナルの重合体(A)の架橋反応が効率よく進行し、このようにして得られた架橋前駆体(PX)の硬化体を合成皮革用離型紙に使用すると、エンボス加工後での耐クラック性およびエンボス形状の維持性にも優れる。
【0195】
一方、照射線量が700kGy以上であると、ポリマーの劣化が激しくなり、また、照射線量が50kGy以下であると、ポリマー鎖の架橋が進まないか、あるいは、進んだとしても架橋速度が遅くなってしまう場合がある。
【0196】
前記工程(S-F2)で用いられる放射線の種類として、電子線など、上記で例示したものが挙げられる。
このように、本発明の典型的な態様において、樹脂フィルム(F1)は、前記工程(S-F1)および(S-F2)を経て製造されるが、このことは、本発明の樹脂フィルム(F1)がほかの製造方法によって得られる可能性を排除するものではない。樹脂フィルム(F1)は、例えば、粒状の上記架橋前駆体(PX)に対して上記放射線照射を行い、その後、フィルム状に成形することによって得られても良い。
【0197】
〔積層体および離型紙〕
上記樹脂フィルム(F1)は、基材紙と組み合わせて積層体の形で用いることができる。
【0198】
本発明の積層体は上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)と、基材紙層(LP)とを含む。ここで、本発明の積層体において、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)は、多くの場合、最表面に位置している。上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)は、上記架橋前駆体(PX)の架橋体からなる層と見ることもできる。
【0199】
上記積層体は、後述するように、離型紙として用いることができる。言い換えると、本発明にかかる離型紙は、上記積層体からなる。見方を変えると、本発明にかかる離型紙は、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)を含むともいえる。
【0200】
[基材紙層]
本発明の積層体を構成する基材紙層の素材としては、例えば、天然パルプすなわち植物体から取り出されたセルロース繊維の集合体、例えば、上質加工原紙、クラフト紙、晒クラフト紙、白板紙、グラシン、和紙の他、レーヨン、アセテート繊維などの有機繊維、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維などの無機繊維、合成パルプが挙げられる。これらのうちではセルロース繊維の集合体が好ましく用いられる。このような素材からなる基材紙層には、顔料、染料、バインダーなどが含まれていてもよい。
【0201】
[積層体の製造方法および具体的な構成]
本発明の積層体は上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)と、基材紙層(LP)とを含む。
【0202】
ここで、本発明の第1の好適な態様において、本発明の積層体は、基材紙層(LP)と、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)とを積層してなる。この態様において、本発明の積層体は、基材紙層(LP)と、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)とからなる。
【0203】
ただ、本発明の積層体は、本発明の効果を損なわない限り、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)および基材紙層(LP)に加えて、オプショナルの層を含んでいても構わない。本発明の積層体に含まれうるこのようなオプショナルの層の例として、次述する第二の層(LR2)が挙げられる。ここで、本発明の好適な実施態様の1つでは、本発明の積層体は、基材紙層(LP)および上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)に加えて、基材紙層(LP)と上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)との間に、次述する第二の層(LR2)をさらに有している。
【0204】
<第二の層(LR2)>
本発明の積層体は、前記基材紙層(LP)および前記層(LR1)に加えて、上記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)を含有し、かつ、上述の4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)を含有しない層(以下、「第二の層(LR2)」)をさらに含んでいても良い。このような第二の層(LR2)は、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)と比べて軟らかい傾向にある。本発明の積層体が第二の層(LR2)を有していると、得られる積層体が良好なカール性および良好な耐クラック性を有することができる傾向にあり好ましい。「第二の層(LR2)」を構成する成分としては、上記重合体(A)が挙げられる。4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の好ましい態様は、上記「4-メチル-1-ペンテン重合体(A)」の項で上述したとおりである。「第二の層(LR2)」は、重合体(A)のほかに、ポリプロピレン、ポリエチレン、それらを含むコンパウンド品等をさらに含んでいてもよい。ただ、上記4-メチル-1-ペンテン樹脂(X)は含まない。
【0205】
「第二の層(LR2)」において、これらの成分は、対応する架橋体の状態で存在していても良い。
本発明の積層体が第二の層(LR2)を有する場合、前記基材紙層(LP)、第二の層(LR2)、および前記層(LR1)の順に積層されていることが好ましく、前記層(LR1)が最表面に位置することがより好ましい。この態様において、本発明の積層体は、第二の層(LR2)を、前記基材紙層(LP)と前記層(LR1)との間に有することになる。一方、本発明の積層体が第二の層(LR2)を有さない場合、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)が、多くの場合、最表面に位置している。
【0206】
<その他の層(LO)>
本発明の積層体は、前記基材紙層(LP)、前記層(LR1)、およびオプショナルの上記第二の層(LR2)に加えて、上記第二の層(LR2)以外のオプショナルの層(以下、その他の層(LO))をさらに有していても良い。
【0207】
そのような「その他の層(LO)」の例として、下地層(LU)が挙げられる。本発明の好適な実施態様の1つでは、本発明の積層体は、基材紙層(LP)と層(LR1)との間に、上記第二の層(LR2)が存在する場合には基材紙層(LP)と当該第二の層(LR2)との間に、下地層(LU)をさらに有している。この下地層(LU)は、基材紙層(LP)と層(LR1)との結合をより強固にするために設けられることがある。この下地層(LU)の素材として、例えば、ポリプロピレン系、変性ポリオレフィン系、エチレン-酢酸ビニル共重合体系、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、ポリウレタン系、ポリエステル系樹脂のエマルジョンもしくはディスパージョンのほか、ポリ塩化ビニルエマルジョン、ウレタンアクリル樹脂エマルジョン、シリコンアクリル樹脂エマルジョン、酢酸ビニルアクリル樹脂エマルジョン、その他のアクリル樹脂エマルジョン、そして、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックス、ポリブタジエンラテックスなどのゴム系ラテックス、ポリアクリル酸エステルラテックス、ポリ塩化ビニリデンラテックス、或いはこれらのラテックスのカルボキシル変性物また、水溶性アンカーコート剤としては、ポリビニルアルコール、水溶性エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性アクリル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性セルロース誘導体、水溶性ポリエステル、水溶性イソシアネート、水溶性リグニン誘導体などの水溶液が挙げられる。
【0208】
さらに、本発明の積層体は、前記基材紙層(LP)の、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)が形成された面とは逆側の面に、樹脂などを含むコート層を有していてもよい。また、前記基材紙層(LP)として、予めコート層が形成した基材紙層を使用してもよい。前記基材紙層(LP)がコート層を有すると、積層体がカールすることを抑制しやすい。
【0209】
<積層体の製造方法>
上記のような本発明の積層体は、
上記架橋前駆体(PX)からなる層(LRP1)と基材紙層(LP)とを含む前駆積層体(LmP)を形成する工程(S-L1)と、
前記工程(S-L1)で得られた前駆積層体(LmP)に放射線を照射する工程(S-L2)と
を含む製造方法により得ることができる。
【0210】
ここで、前記工程(S-L1)は、押出ラミネート法などの常法により行うことができる。例えば、上記第1の好適な態様の積層体を得る場合、前記工程(S-L1)は、押出ラミネート法などの常法を用いて、基材紙層(LP)と上記架橋前駆体(PX)からなる層(LRP1)とを積層させる工程を行うことにより得ることができる。また、上記第二の層(LR2)を有する積層体を得る場合も、同様の方法を用いて、基材紙層(LP)と第二の層(LR2)の前駆体となる第二の前駆層(LRP2)とを積層させる工程と、第二の層(LR2)と上記架橋前駆体(PX)からなる層(LRP1)とを積層させる工程とを含む工程を行うことにより得ることができる。この態様において、これらの工程は、
基材紙層(LP)と前記第二の前駆層(LRP2)とを積層させて第1の中間積層体(LmIPA1)を得る工程と、
前記第1の中間積層体(LmIPA1)と上記架橋前駆体(PX)からなる層(LRP1)とを積層させる工程と
を含む工程として行われても良く;
前記第二の前駆層(LRP2)と上記架橋前駆体(PX)からなる層(LRP1)とを積層させて第1の中間積層体(LmIPB1)を得る工程と、
基材紙層(LP)と前記第1の中間積層体(LmIPB1)とを積層させる工程と
を含む工程として行われても良く;あるいは、
基材紙層(LP)と前記第二の前駆層(LRP2)と上記架橋前駆体(PX)からなる層(LRP1)とを積層させる工程
として行われても良い。
【0211】
前記第二の前駆層(LRP2)を構成する成分としては、上記4-メチル-1-ペンテン重合体(A)が挙げられ、第二の前駆層(LRP2)は、ポリプロピレン、ポリエチレン、それらを含むコンパウンド品等をさらに含んでいても良い。ただ、上記架橋前駆体(PX)は含まない。
【0212】
なお、上記架橋前駆体(PX)からなる層(LRP1)は、上記樹脂フィルム(F0)からなる層に相当する。
また、前記工程(S-L2)において行う放射線の照射は、上記「樹脂フィルム(F1)の構成および製造方法」に記載の工程(S-F2)と同様に行うことができる。すなわち、前記放射線の照射線量は、上記架橋前駆体(PX)を構成する樹脂成分(例えば、樹脂(X))を構成するモノマー種によっても異なるが、通常50~700kGy、好ましくは100~500kGyである。また、放射線の種類として、α線、β線、γ線、電子線、イオン線などが挙げられ、これらのいずれも使用可能である。ただ、本発明では、これらの放射線のうち電子線またはγ線が適しており、その中でも電子線が特に好ましい。
【0213】
この工程(S-L2)における放射線の照射により、上記架橋前駆体(PX)からなる層(LRP1)は、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)に変化し、前記第二の前駆層(LRP2)は、第二の層(LR2)に変化する。
【0214】
前記工程(S-L2)で得られた積層体は、そのまま本発明の積層体として用いても良いが、前記工程(S-L2)を行った後に、常法により、エンボス模様(エンボスパターン)を形成してもよい。すなわち、押出ラミネート法などにより得られた前駆積層体(LmP)を、所定のエンボス模様を施した金属製ロールとゴムロールとの間を通すか、あるいは、所定のエンボス模様を施した雌雄の金属製エンボスロールを通してエンボス加工を行ってもよく、またエンボス模様を施した金属板を熱プレスすることでエンボス加工を行ってもよい。
【0215】
本発明の積層体の厚さは、一般的には25~650μm、好ましくは40~520μm、さらに好ましくは110~400μmである。
上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)の厚さ(Th1)は、一般的には5~150μm、好ましくは10~120μm、さらに好ましくは10~100μmである。
【0216】
基材紙層(LP)の厚さ(Thp)は、一般的には20~500μm、好ましくは30~400μm、さらに好ましくは100~300μmである。
上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)の厚さ(Th1)と基材紙層(LP)との厚さ(Thp)との比率(Th1/Thp)は、一般的には1/1~1/100、好ましくは1/2~1/20である。
【0217】
また、本発明の積層体が上記第二の層(LR2)を有する場合、第二の層(LR2)の厚さ(Th2)は、一般的には5~150μm、好ましくは10~120μm、さらに好ましくは10~100μmである。ここで、第二の層(LR2)の厚さ(Th2)と上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)との厚さ(Th1)との比率(Th2/Th1)は、好ましくは1/99~99/1、より好ましくは1/4~4/1である。
【0218】
なお、本発明の積層体が基材紙層(LP)、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)および上記第二の層(LR2)以外のその他の層を有する場合、当該その他の層の厚さは積層体全体の厚さに対して好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下である。
【0219】
[積層体の用途]
本発明の積層体は、特に用途は限定されないが、離型紙などの各種工程紙、印画紙、テープセパレーターとして好適に用いられる。例えば、合成皮革用離型紙、ゴム製造用工程紙、ウレタン硬化用離型紙、エポキシ硬化用離型紙、太陽電池製造用工程紙、半導体製造用工程紙、燃料電池製造用工程紙、電気電子部品製造用工程紙、半導体製品製造用工程紙、回路基板製造用工程紙、フレキシブルプリント基板用離型紙、リジット基板用離型紙、リジットフレキシブル基板用離型紙、先端複合材料製造用工程紙、炭素繊維複合材硬化用離型紙、ガラス繊維複合材硬化用離型紙、アラミド繊維複合材硬化用離型紙、ナノ複合材硬化用離型紙、フィラー充填材硬化用離型紙、耐熱耐水印画紙、OA紙、粘着テープセパレーター、シリコンテープセパレーター、接着剤セパレーターなどがあり、この中でも特にエンボス加工性に優れる合成皮革用離型紙として好ましく用いられる。
【0220】
一般に、4-メチル-1-ペンテン重合体を含有する樹脂層と、伸びない紙とを積層させた積層体においては、樹脂層がエンボス加工の際に厚さ方向に大きく変形できないため、樹脂層にクラックが生じる可能性が高くなる。また、樹脂層に柔軟成分を入れて、樹脂層を厚さ方向に変形できるようになると耐熱性が落ちてしまって離型力も低下する。
【0221】
一方、本発明の積層体は、樹脂層として、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)、すなわち、電子線などの放射線の照射により上記架橋前駆体(PX)を架橋して得られる架橋体からなる層、を採用しており、耐熱性および柔軟性に優れる。このため、離型紙として用いたときの耐クラック性およびエンボス形状の維持性にも優れる。したがって、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)は表層であることが好ましい。
【0222】
〔合成皮革用離型紙の使用方法〕
上述したとおり、本発明の積層体は、エンボス加工性に優れる合成皮革用離型紙として好ましく用いられる。この点から、本発明は、
上記離型紙において、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)をエンボス加工する工程(S-1)と、
前記工程(S-1)の後、エンボス加工された前記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)の表面に合成皮革用部材形成用材料を塗布し、次いで硬化させて、エンボスパターンを有する合成皮革用部材を形成する工程(S-2)と、
前記工程(S-2)の後、前記合成皮革用部材から前記離型紙を剥離する工程(S-3)と
を含む、エンボスパターンを有する合成皮革用部材の製造方法をも提供する。
【0223】
本発明の積層体を合成皮革用離型紙として使用して、例えば合成皮革用部材にエンボス加工あるいはシボ加工などを施すには、まず初めに、上記離型紙において、上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)をエンボス加工する工程(S-1)を行う。この工程(S-1)は、具体的には、例えば上述した方法により、上記積層体における上記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)の表面に、エンボス加工によりエンボスパターンを付けることにより行うことができる。
【0224】
前記工程(S-1)の後、エンボス加工された前記樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)の表面に合成皮革用部材形成用材料を塗布し、次いで硬化させて、エンボスパターンを有する合成皮革用部材を形成する工程(S-2)が行われる。この工程(S-2)は、具体的には、表面にエンボスパターンが付けられた前記層(LR1)に合成皮革用部材形成用材料(PVC分散液またはポリウレタン溶液等)を塗布し、次いで加熱あるいは乾燥等により硬化させてPVCまたはポリウレタン等からなる合成皮革用部材を当該層(LR1)上に形成させる。加熱する際の温度は、PVC被膜を形成する場合には、通常、180~230℃程度であり、ポリウレタン被膜を形成する場合には、通常、130~180℃程度である。
【0225】
前記工程(S-2)の後、前記合成皮革用部材から前記離型紙を剥離する工程(S-3)が行われる。この工程(S-3)を経て、所望のエンボスパターン等が表面に転写された合成皮革用部材が得られる。
【実施例
【0226】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
〔各種物性の測定法〕
<触媒担体、触媒の粒径(D50)>
体積統計値でのD50は、Microtrac社製のMT3300EX IIを利用し、レーザー回折・散乱法により求めた。
【0227】
<元素分析(担体中のAl含量)>
株式会社島津製作所製ICP(誘導結合プラズマ)発光分析法装置:ICPS-8100型を用いて測定を行った。アルミニウム、ジルコニウムの定量、定性分析には、試料を硫酸および硝酸にて湿式分解後、定容(必要に応じてろ過および希釈含む)したものを検液とした。
【0228】
<スラリー性状>
得られた重合液について、濾過工程での固液分離性が良好なスラリーであった場合を「良好」、スラリーではあったがお粥状で濾過工程での固液分離性が不良であった場合を「不良」、スラリーとはならず溶液であった場合を「溶液」と記載した。
【0229】
〔重合体物性等の測定法〕
<工程(1)、工程(2)で生成した重合体の質量割合>
工程(1)の重合終了時に、重合体スラリーを抜き出してスラリー濃度を測定し、工程(1)で生成した重合体の量を算出した。この量とともに、最終的に得られた重合体の量から、それぞれの工程で生成した重合体の質量割合を求めた。濾過時の温度:室温(25℃)、濾過方法:桐山ろ紙(目開き1μm)を用いてヘキサンで洗浄しながら濾過を行い、前記スラリー濃度を算出した。以下の例において濾過はこの条件で行った。
【0230】
<4-メチル-1-ペンテン共重合体中のコモノマー含量>
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位、およびコモノマーから導かれる構成単位の含有率(コモノマー含量)は、以下の装置および条件により、13C-NMRスペクトルより算出した。
【0231】
ブルカー・バイオスピン製AVANCEIIIcryo-500型核磁気共鳴装置を用いて、溶媒はo-ジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1 v/v)混合溶媒、試料濃度は55mg/0.6mL、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング、パルス幅は5.0μ秒(45°パルス)、繰返し時聞は5.5秒、積算回数は64回、ベンゼン-d6の128ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。主鎖メチンシグナルの積分値を用い、下記式によってコモノマー含量を算出した。
【0232】
コモノマー含量(%)=[P/(P+M)]×100
ここでPはコモノマー主鎖メチンシグナルの全ピーク面積を示し、
Mは4-メチル-1-ペンテン主鎖メチンシグナルの全ピーク面積を示す。
【0233】
なお、工程(1)で生成した重合体中のコモノマー含量は、工程(1)の重合終了時に抜き出した重合体スラリーから得た重合体を用いて求め、工程(2)で生成した重合体中のコモノマー含量は、工程(1)で得られた重合体中のコモノマー含量、最終重合体(工程(1)+工程(2))中のコモノマー含量、およびそれぞれの工程で生成した重合体の割合を用いて求めた。具体的には、工程(1)、(2)で生成した重合体、最終重合体中のコモノマー含量をそれぞれm1、m2およびmfとし、工程(1)、(2)で生成した重合体の割合をそれぞれw1およびw2とすると、m2=(mf-w1・m1)/w2である。
【0234】
<メソダイアッド分率>
4-メチル-1-ペンテン重合体のメソダイアッドアイソタクティシティー(メソダイアッド分率)(m)は、ポリマー鎖中の任意の2個の頭尾結合した4-メチル-1-ペンテン単位連鎖を平面ジグザグ構造で表現した時、そのイソブチル分岐の方向が同一である割合と定義し、13C-NMRスペクトルから下記式により求めた。
【0235】
メソダイアッドアイソタクティシティー(m)(%)=[m/(m+r)]×100
[式中、m、rは下記式で表される頭-尾で結合している4-メチル-1-ペンテン単位の主鎖メチレンに由来する吸収強度を示す。]
【0236】
【化4】
【0237】
13C-NMRスペクトルは、ブルカー・バイオスピン製AVANCEIIIcryo-500型核磁気共鳴装置を用いて、溶媒はo-ジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1 v/v)混合溶媒、試料濃度は60mg/0.6mL、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング、パルス幅は5.0μ秒(45°パルス)、繰返し時間は5.5秒、ベンゼン-d6の128ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。
【0238】
ピーク領域は、41.5~43.3ppmの領域をピークプロファイルの極小点で区切り、高磁場側を第1領域、低磁場側を第2領域に分類した。
第1領域では、(m)で示される4-メチル-1-ペンテン単位2連鎖中の主鎖メチレンが共鳴するが、4-メチル-1-ペンテン単独重合体とみなした積算値を「m」とした。第2領域では、(r)で示される4-メチル-1-ペンテン単位2連鎖中の主鎖メチレンが共鳴し、その積算値を「r」とした。なお、0.01%未満を検出限界以下とした。
【0239】
<極限粘度[η]>
離合社製自動動粘度測定装置VMR-053PCおよび改良ウベローデ型毛細管粘度計を用い、デカリン、135℃での比粘度ηspを求め、下記式より極限粘度([η])を算出した。
【0240】
[η]=ηsp/{c(1+K・ηsp)}
(c:溶液濃度[g/dl]、K:定数)
なお、工程(1)で生成した重合体の極限粘度[η]は、工程(1)の重合終了時に抜き出した重合体スラリーから得た重合体を用いて求め、工程(2)で生成した重合体の極限粘度[η]は、工程(1)で得られた重合体の極限粘度[η]、最終重合体(工程(1)+工程(2))の極限粘度[η]、およびそれぞれの工程で生成した重合体の割合を用いて求めた。具体的には、工程(1)、(2)で生成した重合体、最終重合体の[η]をそれぞれ[η]1、[η]2および[η]fとし、工程(1)、(2)で生成した重合体の割合をそれぞれw1およびw2とすると、[η]2=([η]f-w1・[η]1)/w2である。
【0241】
<融点(Tm)、結晶化温度(Tc)、融解熱量(ΔH)>
エスアイアイナノテクノロジ一社製EXSTAR DSC6220を用い、窒素雰囲気下(30ml/min)、約4mgの試料を30℃から280℃まで昇温した。280℃で5分間保持した後、10℃/minで-50℃まで冷却した。-50℃で5分間保持した後、10℃/minで280℃まで昇温させた。冷却時に観測された結晶化ピークの頂点温度を結晶化温度(Tc)とし、2回目の昇温時に観測された結晶溶融ピークの頂点温度を融点(Tm)とした。また、融解に伴う融解熱量をΔHとした。各段階で生成した重合体についてピークが複数検出された場合は、温度が最大のものを融点(Tm)とした。工程(2)で生成した重合体の融点(Tm)は、工程(1)で生成した重合体と最終重合体とを分析することにより求めた。
【0242】
<CFC測定>
CFC測定は以下の条件で行った。
装 置: CFC2 型クロス分別クロマトグラフ(Polymer Char)
検出器(内蔵): IR4 型赤外分光光度計(Polymer Char)
検出波長: 3.42μm(2,920cm-1);固定
試料濃度: 試料: 30mg/30mL(o-ジクロロベンゼン(ODCB)で希釈)
注入量: 0.5mL
温度条件: 40℃/minで145℃まで昇温して30分間保持。1℃/minで0℃まで冷却して60分間保持した後に、下記溶出区分ごとの溶出量を評価した。区分間の温度変化は40℃/minとした。
【0243】
溶出区分: 0, 5, 10, 15, 20, 25, 30, 35, 50, 70, 90, 95, 100, 102, 104, 106℃で、また108℃から135℃までは1℃刻みで、140,145℃での溶出量を評価。
GPC カラム: Shodex HT-806M×3本(昭和電工)
GPC カラム温度: 145℃
GPC カラム較正: 単分散ポリスチレン(東ソー)
分子量較正法: 標品較正法(ポリスチレン換算)
移動相: o-ジクロロベンゼン(ODCB)、BHT 添加
流量: 1.0mL/min
【0244】
<重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)>
液体クロマトグラフ:Waters製ALC/GPC 150-C plus型(示差屈折計検出器一体型)を用い、カラムとして東ソー株式会社製GMH6-HT×2本およびGMH6-HTL×2本を直列接続し、移動相媒体としてo-ジクロロベンゼンを用い、流速1.0ml/分、140℃でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行った。得られたクロマトグラムを、公知の方法によって、標準ポリスチレンサンプルを使用した検量線を用いて解析することで、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0245】
<メルトフローレート(MFR)>
ASTM D1238に準拠して260℃、5.0kg荷重にて測定されるメルトフローレート(MFR)を求めた。
【0246】
<密度>
JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して密度を求めた。
〔遷移金属錯体(メタロセン化合物(C))の合成〕
国際公開第2014/050817号の合成例4に従い、(8-オクタメチルフルオレン-12'-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライド(メタロセン化合物(c1))を合成した。
【0247】
<製造例>
〔固体触媒成分(メタロセン触媒)の調製〕
担体(D)として、粒子状でありD50が8μm、アルミニウム原子含有率が42質量%である固体状ポリメチルアルミノキサン(東ソーファインケム社製)を用いた。30℃下、充分に窒素置換した、攪拌機を付けた100mL三つ口フラスコ中に、窒素気流下で精製デカン29.9mLと、前記固体状ポリメチルアルミノキサンのヘキサン/デカン溶液7.26mL(アルミニウム原子換算で14.3mmol)とを装入し、懸濁液とした。その懸濁液に、先に合成したメタロセン化合物(c1)50mg(ジルコニウム原子換算で0.0586mmol)を4.59mmol/Lのトルエン溶液として12.8mLを撹拌しながら加えた。1.5時間後攪拌を止め、デカンによるデカンテーション洗浄を行い(洗浄効率98%)、スラリー液50mLとした(Zr担持率96%)。得られた固体触媒成分(メタロセン触媒)は粒子状であり、そのD50は8μmであった。
【0248】
〔予備重合触媒成分の調製〕
上記のとおり調製したスラリー液に、窒素気流下、ジイソブチルアルミニウムハイドライドのデカン溶液(アルミニウム原子換算で1mol/L)を4.0mL、さらに3-メチル-1-ペンテン15mL(10.0g)を装入した。1.5時間後攪拌を止め、デカンによるデカンテーション洗浄を行い(洗浄効率95%)、デカンスラリー100mLとした(Zr回収率93%、ジルコニウム原子換算で0.548mmol/L)。
【0249】
[重合体粒子(x-1)]
室温(25℃)、窒素気流下で、内容積1Lの攪拌機を付けたSUS製重合器に、精製デカンを425mL、トリエチルアルミニウム溶液(アルミニウム原子換算で1.0mmol/mL)を0.4mL(アルミニウム原子換算で0.4mmol)装入した。次いで、先に調製した予備重合触媒成分のデカンスラリーをジルコニウム原子換算で0.0014mmol加え、40℃まで昇温した。40℃到達後、水素を30NmL装入し、次いで、4-メチル-1-ペンテン(4MP-1)106mLを30分かけて重合器内へ連続的に一定の速度で装入した。この装入開始時点を重合開始とし、45℃で3時間保持した(工程(1))。3時間経過後、45℃にて系内を脱圧、残存水素を系外に排出するため、窒素(0.6MPa)による加圧・脱圧を3回行った。その後、45℃、窒素気流下で、水素を30NmL装入し、次いで、4-メチル-1-ペンテン79.4mLと1-デセン8.0mLとの混合溶液を30分かけて重合器内へ連続的に一定の速度で装入した。この装入開始時点を重合開始とし、45℃で3時間保持した(工程(2))。重合開始から3時間経過後、室温まで降温し、脱圧した後、ただちに白色固体を含む重合液(スラリー)を濾過して固体状物質を得た。この固体状物質を減圧下、80℃で8時間乾燥し、重合体粒子(x-1)105.4gを得た。得られた重合体粒子の物性を下記表1に示す。なお、これらの結果(例えば、構成単位の含有率、DSCおよびCFC測定結果、メソダイアッド分率、[η])については、重合体粒子(x-1)を溶融して得られる樹脂(樹脂(X-1))についても同様の結果となる。したがって、下記表1において、重合体粒子(x-1)の物性は、「樹脂(X-1)」の物性として記載されている。
【0250】
[重合体粒子(x-2)]
コモノマーを1-ヘキサデセン/1-オクタデセン混合物14.5mLに変更したこと以外は重合体粒子(x-1)と同様の操作を行い、重合体粒子(x-2)を得た。得られた重合体粒子の物性を表1に示す。なお、これらの結果については、重合体粒子(x-2)を溶融して得られる樹脂(樹脂(X-2))についても同様の結果となる。したがって、下記表1において、重合体粒子(x-2)の物性は、「樹脂(X-2)」の物性として記載されている。
【0251】
[4-メチル-1-ペンテン重合体(A)]
国際公開第2006/054613号の比較例7や比較例9に記載の重合方法に準じて、4-メチル-1-ペンテン、1-デセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、水素の割合を変更することによって、下記表1に示す物性を有する4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)、(A-2)、(A-3)を得た。
【0252】
【表1】
【0253】
表1に記載した以外の物性は以下のとおりである。共重合体(A-1)は、結晶化温度=212℃、密度=832kg/m3、MFR=180g/10min、Mw=23.8万、Mw/Mn=3.3であった。共重合体(A-2)は、結晶化温度=207℃、密度=833kg/m3、MFR=100g/10min、Mw=32.2万、Mw/Mn=5.5であった。また、共重合体(A-3)は、結晶化温度=205℃、密度=834kg/m3、MFR=100g/10min、Mw=33万、Mw/Mn=4.1であった。
【0254】
[プレスシートの作製]
100質量部の上記重合体粒子(x-1)に、二次抗酸化剤としてトリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを0.1質量部、耐熱安定剤としてn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピネートを0.1質量部配合し、混合物を得た。然る後に、(株)プラスチック工学研究所社製二軸押出機BT-30(スクリュー系30mmφ、L/D 46)を用い、設定温度260℃、樹脂押出量60g/minおよび回転数200rpmの条件で上記混合物を造粒して樹脂組成物を得た。
【0255】
2枚の鉄板の間に、8cm四方にくり抜いた1mm厚の鉄板を配置し、くり抜いた箇所に上記樹脂組成物を5.2g仕込んだ。神藤金属工業所製の圧縮成形機(型締50ton)を270℃に昇温し、上記鉄板を挿入した。7分間静置して樹脂組成物を融解させた後に10MPaの圧力で鉄板を圧縮し3分間保持した後に取り出して、23℃に設定した上記圧縮成形機に鉄板を挿入して10MPaの圧力で3分間かけて冷却した。くり抜き箇所から1mm厚の成形体を取り出して評価用のプレスシートとした。
【0256】
上記重合体粒子(x-1)に代えて、上記重合体粒子(x-2)、上記共重合体(A-1)、(A-2)、(A-3)を用いた場合についても、それぞれ、同様に評価用のプレスシートを作製した。ここで、表2において、上記重合体粒子(x-1)および(x-2)を用いた場合の結果は、それぞれ、「樹脂(X-1)」および「樹脂(X-2)」の結果として記載されている。
【0257】
<引張弾性率>
引張特性である弾性率は、ASTM D638に準拠して、上記作成した1mm厚プレスシートから打抜いた試験片を用い、インストロン社製の万能引張試験機3380を用いて、チャック間距離65mm、引張速度50mm/minで引張試験を行い評価した。評価結果を下記表2に示す。
【0258】
<高耐熱性かつ低剛性(柔軟)の指標>
耐熱性の指標として、サンプルの融点(Tm)が220℃以上にある場合を『A』、そうでない場合を『C』として示した。ここで、サンプルが融点ピークを複数有する場合には、当該融点ピークの少なくとも1つが220℃以上にあれば『A』とした。
【0259】
また、高耐熱性かつ低剛性(柔軟)の指標として、前記耐熱性の評価が『A』であり、且つ、引張弾性率(MPa)が、Tm(℃)×49.6-10400 よりも小さい場合を『A』、さらに、引張弾性率(MPa)が、Tm(℃)×49.6-10800 よりも小さい場合を『AA』とした。これらを満たさない場合は『C』と記載した。
【0260】
評価結果を下記表2に示す。ここで、下記表2において、高耐熱性かつ低剛性(柔軟)かどうかの評価結果は、項目『高融点かつ柔軟』に示してある。
【0261】
【表2】
【0262】
[フィルムの作製]
<実施例1A>
上記製造例で得られた樹脂(X-1)を成形して、フィルムを作製した。具体的には、サーモ・プラスチックス工業株式会社製一軸押出機(TP20型)を使用し、シリンダー温度280℃、ダイス温度280℃、ロール温度60℃の条件で樹脂(X-1)のTダイフィルム成形を行い、厚さ約50μmの押出フィルムを得た。
【0263】
上記で得られた押出フィルムに照射線量200kGyの電子線を照射して、架橋したフィルムを得た。
<実施例2A、比較例1A~3A>
下記表3に示す構成に変更した以外は、実施例1Aと同様の方法でフィルムを作製した。
<比較例4A>
上記製造例で得られた樹脂(X-1)を成形して、フィルムを作製した。具体的には、サーモ・プラスチックス工業株式会社製一軸押出機(TP20型)を使用し、シリンダー温度280℃、ダイス温度280℃、ロール温度60℃の条件で樹脂(X-1)のTダイフィルム成形を行い、厚さ約50μmの押出フィルムを得た。
【0264】
このフィルムには、電子線を照射しなかった。
すなわち、この比較例4Aは、電子線を照射しなかったことを除いては実施例1Aと同様に行った比較例に相当する。
【0265】
<比較例5A>
下記表3に示す構成に変更した以外は、比較例4Aと同様の方法でフィルムを作製した。
【0266】
すなわち、この比較例5Aは、電子線を照射しなかったことを除いては実施例2Aと同様に行った比較例に相当する。
[フィルムの評価]
実施例1A~2Aおよび比較例1A~5Aで得られたフィルムのそれぞれについて、以下の測定および評価を行った。測定および評価方法を以下に示す。また結果を下記表3に示す。
【0267】
<ゲル分率>
実施例1A~2Aおよび比較例1A~5Aで得られたフィルムのそれぞれにつき、JIS K6796に準拠した方法により、ゲル含量の測定を行った。具体的には、約0.6gの試験片を、125μmメッシュの金網に入れ、当該試験片を確実に浸漬し続けることのできる十分な量の溶剤(キシレン)に140℃で8時間浸漬した。溶剤浸漬前後のサンプルの質量を測定し、下記の式を用いてゲル分率を算出した。
【0268】
G=100×(m2/m1
G:ゲル分率(%)
m1:溶剤浸漬前の試験片の質量(mg)
m2:溶剤浸漬後の残留物の質量(mg)
<貯蔵弾性率、熱変形長>
実施例1A~2Aおよび比較例1A~5Aで得られたフィルムのそれぞれにつき、動的粘弾性測定装置(商品名「RSA-III」、ティー・エイ・インスツルメント社製)を使用し、-50℃から250℃まで3℃/分の速度で昇温しながら測定周波数1HzでフィルムのMD方向の弾性率を測定し、そのうちの220℃の測定結果から貯蔵弾性率(E’)を算出し、250℃の測定結果から熱変形長および熱変形率を算出した。ここで、サンプル形状は、幅3mmの短冊形状のものとした。また、前記測定は、チャック間距離を20mmとし、サンプルの長手方向の両端部分をそれぞれチャックにより把持することにより行った。サンプルの長さは、前記チャックによる把持が十分に可能な長さとした。そして、サンプルにおける250℃において測定されたチャック間の長さとチャック間距離との差を熱変形長とし、チャック間距離に対する当該熱変形長の割合を熱変形率とした。
【0269】
【表3】
【0270】
[積層体の作製]
<実施例1B>
サーモプラスチック製30mmΦ共押出ラミネーターを使用して、押出ラミネーション成形により、基材紙上に、上記樹脂(X-1)からなる層を形成して積層体を作製した。基材紙としては合成皮革用離型紙上質紙(厚さ200μm)を用い、ダイス温度を310℃に設定して、ダイス幅を400mm、ライン速度を10m/分として、基材紙上に形成される層の厚さが所定の厚さになるよう、スクリュー回転数を調整した。
【0271】
上記で得られた積層体に照射線量200kGyの電子線を照射することによって、架橋した積層体を得た。この積層体は、前記基材紙からなる基材紙層と、上記樹脂(X-1)の架橋体からなる層(以下、「表面層」)とからなるものであり、この表面層が、「樹脂フィルム(F1)からなる層(LR1)」に相当する。
【0272】
<実施例2B>
樹脂(X-1)を樹脂(X-2)に変更したこと以外は実施例1Bと同様の手法により、積層体を作製した。
【0273】
<比較例1B>
樹脂(X-1)を共重合体(A-1)に変更したこと以外は実施例1Bと同様の手法により、積層体を作製した。
【0274】
<比較例2B>
樹脂(X-1)を共重合体(A-2)に変更したこと以外は実施例1Bと同様の手法により、積層体を作製した。
【0275】
<比較例3B>
樹脂(X-1)を共重合体(A-3)に変更したこと以外は実施例1Bと同様の手法により、積層体を作製した。
【0276】
<比較例4B>
サーモプラスチック製30mmΦ共押出ラミネーターを使用して、押出ラミネーション成形により、基材紙上に、上記樹脂(X-1)からなる層を形成して積層体を作製した。基材紙としては合成皮革用離型紙上質紙(厚さ200μm)を用い、ダイス温度を310℃に設定して、ダイス幅を400mm、ライン速度を10m/分として、基材紙上に形成される層の厚さが所定の厚さになるよう、スクリュー回転数を調整した。
【0277】
この積層体には電子線を照射しなかった。
すなわち、この比較例4Bは、電子線を照射しなかったことを除いては実施例1Bと同様に行った比較例に相当する。
【0278】
<比較例5B>
樹脂(X-1)を樹脂(X-2)に変更したこと以外は比較例4Bと同様の手法により、積層体を作製した。
【0279】
[積層体の評価]
実施例1B~2Bおよび比較例1B~5Bで得られた積層体のそれぞれについて、以下の測定および評価を行った。測定および評価方法を以下に示す。また結果を下記表4に示す。
【0280】
<水接触角>
実施例1B~2Bおよび比較例1B~5Bで得られた積層体のそれぞれにつき、画像処理式・固液界面解析システム(協和界面科学社製DropMaster500)を用いて、23℃、50%RHの雰囲気下で、サンプル表面に試験液(高速液体クロマトグラフ、和光純薬工業製)を滴下し、接触角を測定した。ここで、前記測定は、サンプルとする積層体の表面のうち上記表面層が存在する表面に対して行った。測定は5枚の試験サンプルについて行い、その平均値を求めた。
【0281】
<PVCからの離型性>
以下に示す組成のPVCゾルを調製し、実施例1B~2Bおよび比較例1B~5Bで得られた積層体のそれぞれに、このPVCゾルを乾燥厚み40μmになるようにナイフコーターにて塗布し、210℃で4分間熱風乾燥してPVC層を形成した。ここで、PVCゾルの塗布は、サンプルとする積層体の表面のうち上記表面層が存在する表面に対して行った。
【0282】
ここで、PVC層の形成に用いたPVCゾルの組成は、以下の通りである:
PVC/フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)/安定剤=100/150/3部
・PVC:東ソー株式会社製、商品名リューロンペースト860
・フタル酸ビス(2-エチルヘキシル):株式会社ジェイプラス、商品名DOP
・安定剤:株式会社ADEKA、商品名SC-320
PVC層を形成した後、このPVC層を積層体から剥離可能かどうか感度評価を実施した。
【0283】
剥離可能:『A』、剥離不可:『C』
ここで、積層体からPVC層を剥離することを試みたときに、PVC層に対応するPVCフィルムを取り出すことができ、且つ、当該PVCフィルムに破れがなかったときには、「剥離可能」と評価した。一方、積層体にPVC層が固着してどうしてもPVCフィルムを取り出すことができなかったとき、および、PVCフィルムを取り出すことはできたが、当該PVCフィルムに破れがあったときには、「剥離不可」と評価した。
【0284】
<カール量>
実施例1B~2Bおよび比較例1B~5Bで作製された積層体のそれぞれを、A4サイズの大きさに切り出し、表面層が上側となるようにして、温度23℃、湿度80%RHの条件で24時間静置し、次いで200℃に設定したオーブンの中に5分間静置した。積層体をオーブンから取り出して室温下に戻した後に、水平面上に、表面層が上側となるように積層体を置いた。積層体の四隅は程度の差こそあれ捲れていた。水平面からの、積層体の捲くれた四隅の高さ(以下「カール量」ともいう。)を測定し、下記基準でカール量を評価し、その結果を下記『A』~『C』のいずれかによって示した。また、積層体が1周以上丸まってしまった場合は『C』と判定した。
【0285】
A:カール量が5mm未満
B:カール量が5mm以上、15mm未満
C:カール量が15mm以上、または
積層体が1周以上丸まってしまいカール量の算出が困難
【0286】
<耐クラック性:熱サイクル試験>
実施例1B~2Bおよび比較例1B~5Bで作製された積層体のそれぞれにつき、以下の手順により耐クラック性の試験を行った。
【0287】
積層体をA4サイズに切り出し、当該積層体の組成物層の上にエンボス金型を乗せて160℃で3分間加熱を行い、その後、50kgfで10秒間加圧を行うことにより、積層体のエンボス加工を行った。ここで、エンボス加工には、株式会社新藤金属工業所製50トンプレス機械と、寸法長さ70mm×幅70mm×厚さ15mmのエンボス金型であってその片面に、幅0.5mm、深さ140μmの縞が0.5mmピッチで形成されてなるエンボス金型を用いた。前記エンボス加工は、前記エンボス金型の面のうち前記縞を有する面が、前記積層体の表面のうち上記表面層の存在する面と向かい合う態様で行った。その後、エンボス加工された積層体をエンボス金型から取り出し、当該エンボス加工された積層体を、220℃に設定したオーブン中で10分間静置し、その後室温下で10分静置した。これを熱サイクル試験の1サイクルとして、10回繰り返した。熱サイクルを10回繰り返したのちの上記表面層のクラック有無を、走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、その結果を下記『A』~『C』のいずれかによって示した。
【0288】
A:クラックが観測されなかった。
B:クラックが1~5ヵ所確認された。
C:クラックが5ヵ所以上確認された。
【0289】
【表4】