IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧

特許7449747イオン源ガス配管構造およびイオン源ガス配管システム
<>
  • 特許-イオン源ガス配管構造およびイオン源ガス配管システム 図1
  • 特許-イオン源ガス配管構造およびイオン源ガス配管システム 図2
  • 特許-イオン源ガス配管構造およびイオン源ガス配管システム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】イオン源ガス配管構造およびイオン源ガス配管システム
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/08 20060101AFI20240307BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20240307BHJP
   G21K 1/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
H01J27/08
H01J37/08
G21K1/00 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020060248
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021158091
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 愛実
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-286298(JP,A)
【文献】特表2014-505322(JP,A)
【文献】特開平10-275695(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0187448(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/08
H01J 37/00-37/36
G21K 1/00
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源ガス貯留部からのイオン源ガスをイオン源へ供給するイオン源ガス配管構造であって、
前記イオン源ガス貯留部と前記イオン源のガス導入部との間に設けられてガス配管の絶縁性を確保する絶縁部を有し、
前記絶縁部は、
ガスを流通させるための配管であって酸素透過性を有する絶縁性配管と、
前記絶縁性配管の外側に設けられて前記絶縁性配管における酸素の透過を防ぐ酸素透過防止構造と、
を含み、
前記酸素透過防止構造は、前記絶縁性配管の周囲を覆う管状構造体と、前記絶縁性配管と、によって形成される二重管構造であり、
前記絶縁性配管と前記管状構造体との間に不活性ガスが充填され
前記管状構造体には、当該管状構造体の長手方向における一方の端部に、前記不活性ガスを導入する導入部が設けられ、前記長手方向における他方の端部に、前記不活性ガスを排出する排出部が設けられる、イオン源ガス配管構造。
【請求項2】
イオン源ガス貯留部とイオン源との間に設けられる配管システムであって、
前記イオン源ガス貯留部と前記イオン源のガス導入部との間を接続するガス配管と、
前記ガス配管の途中に設けられて前記ガス配管の絶縁性を確保する絶縁部と、を有し、
前記絶縁部は、
ガスを流通させるための配管であって酸素透過性を有する絶縁性配管と、
前記絶縁性配管の外側に設けられて前記絶縁性配管における酸素の透過を防ぐ酸素透過防止構造と、
を含み、
前記酸素透過防止構造は、前記絶縁性配管の周囲を覆う管状構造体と、前記絶縁性配管と、によって形成される二重管構造であり、
前記絶縁性配管と前記管状構造体との間に不活性ガスが充填され
前記管状構造体には、当該管状構造体の長手方向における一方の端部に、前記不活性ガスを導入する導入部が設けられ、前記長手方向における他方の端部に、前記不活性ガスを排出する排出部が設けられる、イオン源ガス配管システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源ガス配管構造およびイオン源ガス配管システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、サイクロトロンに対してイオン源からの荷電粒子を導入し、真空中で荷電粒子を加速させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-285448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高電圧が印加されるイオン源では、イオン源本体に対してガス源等を遠方に設置したい場合や安全上の観点から、イオン源とガス源との間のガス配管に絶縁性を確保するための領域を設ける場合がある。しかしながら、このような構成を設けた場合、イオン源のフィラメントが短期で劣化する場合があった。
【0005】
本開示は、絶縁性を確保しつつイオン源のフィラメントの短寿命化を防ぐことが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の一形態に係るイオン源ガス配管構造は、イオン源ガス貯留部からのイオン源ガスをイオン源へ供給するイオン源ガス配管構造であって、前記イオン源ガス貯留部と前記イオン源へのガス導入部との間に設けられてガス配管の絶縁性を確保する絶縁部を有し、前記絶縁部は、ガスを流通させるための配管であって酸素透過性を有する絶縁性配管と、前記絶縁性配管の外側に設けられて前記絶縁性配管における酸素の透過を防ぐ酸素透過防止構造と、を含む。
【0007】
また、本開示の一形態に係るイオン源ガス配管システムは、イオン源ガス貯留部とイオン源との間に設けられる配管システムであって、前記イオン源ガス貯留部と前記イオン源へのガス導入部との間を接続するガス配管と、前記ガス配管の途中に設けられて前記ガス配管の絶縁性を確保する絶縁部と、を有し、前記絶縁部は、ガスを流通させるための配管であって酸素透過性を有する絶縁性配管と、前記絶縁性配管の外側に設けられて前記絶縁性配管における酸素の透過を防ぐ酸素透過防止構造と、を含む。
【0008】
上記のイオン源ガス配管構造およびイオン源ガス配管システムによれば、イオン源ガス貯留部とイオン源のガス導入部との間に設けられる絶縁部において、酸素透過性を有する絶縁性配管の外側に絶縁性配管における酸素の透過を防ぐ酸素透過防止構造が設けられる。そのため、絶縁部においてイオン源ガスが酸素と触れることが防がれるため、配管構造における絶縁部において絶縁性を確保しつつ、イオン源ガスへの酸素の混入によるイオン源のフィラメントの短寿命化を防ぐことを可能とする。
【0009】
前記酸素透過防止構造は、前記絶縁性配管の周囲を覆う管状構造体と、前記絶縁性配管と、によって形成される二重管構造である態様とすることができる。
【0010】
上記のように二重管構造とすることによって、酸素透過防止構造を簡単に実現することができる。そのため、絶縁部において絶縁性を確保しつつイオン源のフィラメントの短寿命化を防ぐことをより低コストかつ簡単に実現することができる。
【0011】
前記絶縁性配管と前記管状構造体との間に不活性ガスが充填される態様とすることができる。
【0012】
前記絶縁性配管と前記管状構造体との間は真空である態様とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、絶縁性を確保しつつイオン源のフィラメントの短寿命化を防ぐことが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、一形態に係るイオン源装置の上面からの概略構成図である。
図2図2は、一形態に係るイオン源装置の正面からの概略構成図である。
図3図3は、配管構造における絶縁部を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本開示を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1および図2は、イオン源を含むイオン源装置の概略構成図である。図2に示すように、イオン源装置1は、イオン源2と、イオン源ガス貯留部3と、不活性ガス貯留部4と、配管システム5(イオン源ガス配管システム)と、を有する。
【0017】
イオン源2は、例えば、イオン源ガスを供給してアーク発電によりプラズマを発生させ、プラズマ中の特定成分のイオンを、引出電極を用いて取り出す装置である。イオン源2の種類は特に限定されないが、例えば、マルチカスプイオン源、熱陰極型PIG(Penning又はPhillips Ionization Gauge)イオン源等、フィラメントを用いるイオン源とすることができる。図1に示すイオン源装置1の各部は、イオン源2においてプラズマを発生させるチャンバ内へイオン源ガスを供給する装置である。
【0018】
イオン源ガス貯留部3は、イオン源ガスを貯留する機能を有している。イオン源ガス貯留部3は、例えば、ガスタンク等とすることができる。イオン源ガス貯留部3において貯留されるガスとしては、例えば、イオン源2におけるイオンビームの生成に供される水素(H)ガス等が挙げられる。ただし、イオン源ガスの種類は上記に限定されるものではない。なお、イオン源ガス貯留部3は原則的に電気的に接地されている。
【0019】
不活性ガス貯留部4は、後述の配管システム5のうち絶縁部52において使用される不活性ガスを貯留する機能を有している。不活性ガス貯留部4は、例えば、ガスタンク等とすることができる。不活性ガス貯留部4において貯留されるガスとしては、例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)が挙げられる。ただし、不活性ガスの種類は上記に限定されるものではない。
【0020】
配管システム5は、イオン源ガス貯留部3のイオン源ガスをイオン源2へ供給するまでのガス配管およびその関連物の配置(イオン源ガス配管構造)を含むシステムである。具体的には、配管システム5には、イオン源ガス貯留部3に接続されるガス配管を含んで構成される前段部51と、前段部51に接続されるとともにガス配管として機能し絶縁性を有する絶縁性配管を含んで形成される絶縁部52と、絶縁部52よりもイオン源2側に設けられて、イオン源2のガス導入部21(図2参照)に接続される高圧部53と、を含む。前段部51、絶縁部52、および、高圧部53は、いずれもイオン源ガスを内部に流通させるガス配管(ガス配管61、絶縁性配管71、ガス配管62)を含んでいる。絶縁部52は、イオン源ガス貯留部3とイオン源2とを接続するガス配管の途中に設けられている。
【0021】
前段部51は、イオン源ガス貯留部3と絶縁部52との間を接続する領域である。前段部51は、イオン源ガスを内部に流通させるガス配管61を含んで構成される。ガス配管61は、例えば、SUS(ステンレス鋼)によって構成され得る。
【0022】
絶縁部52は、前段部51と高圧部53との間に設けられて、イオン源ガスを流通させる配管の絶縁性を確保するための領域である。詳細は後述するが、高圧部53のガス配管はイオン源2において高電圧が付加される部分と同じ電位となり得る。一方、イオン源ガス貯留部3は、接地されている。そのため、高圧部53と、前段部51およびその上流のイオン源ガス貯留部3との間に、絶縁性を確保するための絶縁部52を設けることで、前段部51が高圧部53と同じ電位になることを避けている。イオン源ガス貯留部3および不活性ガス貯留部4は、イオン源2から離間して設置される場合がある。一例として、図1に示すように、イオン源ガス貯留部3および不活性ガス貯留部4が、イオン源2の周囲を囲む防護柵90の外部に設けられる場合がある。この場合、配管システム5は防護柵90の外部にも設けられるため、安全確保の観点から、絶縁部52が設けられ得る。絶縁部52の長さは、高圧部53に対してその前段の絶縁性を十分に確保可能な長さであればよく、例えば、イオン源装置1のイオンの加速エネルギーなどの仕様によるが、絶縁部52の長さは1m~1.5m程度とすることができる。
【0023】
絶縁部52は、例えば絶縁性の樹脂材料等からなる絶縁性配管71と、絶縁性配管71の周囲に設けられる管状構造体72とによる二重管構造とされている。絶縁性配管71は、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)によって構成され得る。このように、絶縁性配管71は、SUS等と比べて酸素透過性を有する材料が選択され得る。この二重管構造は、絶縁性配管71内への酸素の透過を防ぐ酸素透過防止構造として機能する。
【0024】
管状構造体72は、例えば、塩化ビニル等の樹脂によって構成され得る。管状構造体72は、酸素透過性を有しない材料が選択されてもよい。図3に示すように、絶縁性配管71と管状構造体72との間には、円筒形状を有する空間Aが形成される。絶縁性配管71および管状構造体72の上端には、空間Aを閉じた空間とするための蓋部73が設けられる。絶縁性配管71および管状構造体72の下端にも、空間Aを閉じた空間とするための蓋部74が設けられる。蓋部73には、内部の空間Aに対してガスを導入するための導入口75が設けられる。蓋部74には、内部の空間Aからガスを排出するための排出口76が設けられる。このように、絶縁部52では、絶縁性配管71の周囲が管状構造体72に覆われることで、絶縁性配管71の周囲に閉じた空間Aが形成される。
【0025】
高圧部53は、絶縁部52とイオン源2との間を接続する領域である。高圧部53は、イオン源ガスを内部に流通させるガス配管62を含んで構成される。ガス配管62は、例えば、SUS管によって構成され得る。
【0026】
また、配管システム5は、絶縁部52における二重管構造の内部に不活性ガス貯留部4からの不活性ガスを導入するための配管を有する。また、二重管構造の内部に不活性ガスを充填した状態を維持するための構造を有する。この点についてさらに説明する。
【0027】
図1および図2に示すように、不活性ガス貯留部4と絶縁部52との間には、例えばSUS製のガス配管63が設けられる。ガス配管63は、絶縁部52の上端の蓋部73に設けられた導入口75に対して接続される。これにより、不活性ガス貯留部4から不活性ガスを空間A内に導入することが可能とされている。また、絶縁部52の下端の蓋部74に設けられた排出口76には、内部の不活性ガスを外部へ排出するためのSUS製のガス配管64が接続される。
【0028】
また、ガス配管63には、内部の流路の開閉を切り替える手動バルブ65が設けられる。また、ガス配管64には、内部の流路の開閉を切り替える手動バルブ66が設けられる。さらに、ガス配管64には、手動バルブ66と排出口76との間に圧力計67が設けられる。
【0029】
絶縁部52は、上記の構成を有することにより、空間Aに対してその上部から導入口75を介して不活性ガスが導入される。また、排出口76を介して外部に不活性ガスが排出され得る。空間Aへの不活性ガスの導入は手動バルブ65の開閉によって行われる。また、空間Aからの不活性ガスの排出は手動バルブ66の開閉によって行われる。空間A内の圧力は、排出口76を介して空間Aと接続されるガス配管64に設けられた圧力計67によって監視することができる。
【0030】
上記の配管システム5を有するイオン源装置1では、イオン源装置1の動作前に、手動バルブ65,66を操作して、絶縁部52の空間A内に不活性ガスを導入し、内部の空気を不活性ガスに置換する。空間A内の不活性ガスが所定の圧力になった状態で、手動バルブ65,66を閉じる。イオン源2の動作中は、この状態で、イオン源ガス貯留部3からイオン源2へ向けて、前段部51、絶縁部52、および、高圧部53を経てイオン源ガスを導入する。この間、圧力計67によって、空間A内のガスの圧力を定期的に監視する。そして、空間A内のガスの圧力が低下している場合には、手動バルブ65を操作すること等によって、不活性ガスの再充填を行う。イオン源装置1の使用が終了した際には、空間A内の不活性ガスを外部に排出し、不活性ガス貯留部4との接続を解除してもよい。
【0031】
以上のように、本実施形態に係るイオン源装置1に含まれる配管システム5に含まれる配管構造では、イオン源2のガス導入部21と、イオン源ガス貯留部3との間に設けられる絶縁部52において、酸素透過性を有する絶縁性配管71の外側に絶縁性配管71における酸素の透過を防ぐ酸素透過防止構造が設けられる。そのため、絶縁部52においてイオン源ガスが酸素と触れることが防がれるため、配管構造における絶縁部52において絶縁性を確保しつつ、イオン源2のフィラメントの短寿命化を防ぐことを可能とする。
【0032】
イオン源2において高電圧が印加される結果、高圧部53のガス配管61は高い電位となるため、それよりも前段(イオン源ガス貯留部3に近い側)に絶縁部52を設けることで、絶縁部52よりも前段が接地された状態となるように調整される。絶縁部52では、ガス配管自体を絶縁性の材料で構成する必要がある。ただし、自己シールド型サイクロトロンのように配管の設置スペースが限られている場合には、ガス配管のとりまわしを容易にするために柔軟性を有する樹脂材料等が絶縁部52でのガス配管として選択することが好ましいと考えられている。
【0033】
しかしながら、樹脂製の配管を絶縁部52でのガス配管として用いた場合、イオン源2のフィラメントが劣化するまでの期間が短くなることが確認された。発明者らが鋭意検討の結果、イオン源ガスに微量の酸素が混入していることが発見された。さらに詳細に検討した結果、実際に、絶縁性配管として大気中の酸素がガス配管を透過し得るPEEKを用い、その周囲が大気にさらされた絶縁部をイオン源ガスの配管中に設けた場合と、絶縁部を設けずSUS管のみでイオン源ガスの配管を構成した場合とでは、イオン源2のフィラメントの寿命が大きく異なることが確認された。すなわち、樹脂材料によって構成された絶縁部52を介して大気中の酸素がイオン源ガスに混入することが推定された。この推定は、フィラメントに用いられるタングステン等の酸化が、フィラメントの寿命を短くすることに寄与するという一般的に知られている事象と一致していると考えられる。このように、発明者らは、絶縁部52におけるイオン源ガスへの酸素の混入がイオン源2のフィラメントの短寿命化に影響していることを見出した。
【0034】
絶縁部52におけるイオン源ガスへの酸素の混入という上述の課題への対策として、例えば、より酸素透過性が低く且つ絶縁性を有する材料に変更することも考えられる。一例として、絶縁部52のガス配管を、絶縁性を有し且つガス透過性が低いセラミック材料に変更することが考えられる。しかしながら、絶縁部52は、ガス配管における絶縁を確保するために十分な長さが求められるため、コストの高い材料に変更することでコストが増大する可能性があった。また、セラミック材料は、上述のようにガス配管のとりまわしを容易にすることが求められる場所への適用が難しいことが考えられた。
【0035】
これに対して、上記の配管システム5およびイオン源ガス配管構造では、絶縁部52における酸素透過防止構造として、絶縁性配管71と管状構造体72とによる二重配管構造を設けることで、絶縁性配管71が大気と触れることが防がれる。したがって、絶縁性配管71内を流れるイオン源ガスに対して大気中の酸素が混入することを防ぐことができるため、上記のようなイオン源2のフィラメントの劣化等を防ぐことができる。また、絶縁部52に含まれる絶縁性配管71および管状構造体72がいずれも柔軟性を有する材料である場合、ガス配管に係るとりまわしの容易性が保たれつつ、イオン源ガスへの酸素の混入が抑制される。
【0036】
また、酸素透過防止構造が酸素以外の外部の活性ガスの混入も防ぐことも可能である場合、酸素とは異なる活性ガスがイオン源ガスに対して混入してイオン源2の各部に影響を与えることを防ぐことができる。
【0037】
一例として、上記実施形態の配管システム5では、絶縁性配管71の周囲に管状構造体72が設けられた二重管構造とされている。このような構造とすることで、二重管構造を経て酸素以外の気体がイオン源ガスと混合されることも防がれるため、酸素以外のガスによる影響も防ぐことができる。
【0038】
また、上記の二重管構造によれば、酸素透過防止構造を簡単に実現することができる。そのため、絶縁部52において絶縁性を確保しつつイオン源2のフィラメントの短寿命化を防ぐことを、より低コストかつ簡単に実現することができる。また、二重管構造は、既存のイオン源装置に対しても容易に適用することができる。例えば、絶縁性配管のみによって構成された絶縁部が既存のイオン源装置のイオン源ガスに係る配管構造として設けられている場合、絶縁性配管の周囲に管状構造体を設けて二重管構造に変更することが可能な場合がある。このように、二重管構造は既存のイオン源装置にも適用しやすいという点で有利である。
【0039】
また、上記の配管システム5では、絶縁性配管71と管状構造体72との間に不活性ガスが充填される。このような構造とすることで、不活性ガスが絶縁性配管71の周囲に存在する環境が形成されるため、周囲の不活性ガス以外のガスがイオン源ガスと混入することを容易に防ぐことができる。
【0040】
また、上記の配管システム5では、手動バルブ65,66を閉じて空間A内に不活性ガスを充填させた状態、イオン源2を動作させるため、不活性ガスの使用量は少なくすることができる。また、上記の手動バルブ65,66の開閉のみで不活性ガスの充填等を行うことができるだめ、電源装置等を別途設けないという点でより簡素な装置で実現することができ、コストを抑制することができる。なお、圧力計67とバルブとを連動させる制御部を設けて、圧力計67の計測結果に基づいてバルブを自動制御する構成としてもよい。
【0041】
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0042】
例えば、空間Aを挟む二重管構造を形成するための構成は適宜変更し得る。また、絶縁性配管71と管状構造体72との間の空間Aは、不活性ガスを充填することに代えて真空としてもよい。空間Aを真空とした場合でも、空間Aを介して酸素等がイオン源ガスと混入することを防ぐことができる。
【0043】
なお、空間Aに不活性ガスが充填される場合、空間Aに形成される不活性ガスの層が絶縁性配管71における酸素の透過を抑制する構造として機能し得る。したがって管状構造体72が酸素を透過する可能性のある材料で構成されていたとしても、二重配管構造は酸素透過防止構造として機能し得る。ただし、管状構造体72が酸素を透過しない材料によって構成される場合、二重配管構造による酸素透過防止機能が向上することはいうまでもない。
【0044】
また、二重管構造とは異なる構造によって絶縁部52における酸素透過防止構造を実現してもよい。例えば、絶縁性配管71の外周に酸素透過機能を有する膜等を形成することによって、酸素透過防止構造を形成してもよい。この場合でも、絶縁性配管71自体が大気と接する可能性が低減されるため、絶縁性配管71を酸素が透過することを抑制することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…イオン源装置、2…イオン源、3…イオン源ガス貯留部、4…不活性ガス貯留部、5…配管システム、21…ガス導入口、51…前段部、52…絶縁部、53…高圧部、61,62,63,64…ガス配管、65,66…手動バルブ、67…圧力計、71…絶縁性配管、72…管状構造体、73,74…蓋部、75…導入口、76…排出口。
図1
図2
図3