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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】トロイダル無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/38 20060101AFI20240307BHJP
   F16D 3/06 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
F16H15/38
F16D3/06 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020077946
(22)【出願日】2020-04-27
(65)【公開番号】P2021173342
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 賢司
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】松田 吉平
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-364663(JP,A)
【文献】特開2004-076940(JP,A)
【文献】実開平06-014604(JP,U)
【文献】特開2003-139209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/38
F16D 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる回転軸と、主面どうしが前記軸線方向に対向するように前記回転軸に挿通された第1ディスク及び第2ディスクと、前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に傾転可能に挟まれたパワーローラと、前記第1ディスクを前記回転軸に支持させるボールスプラインとを備え、
前記回転軸は、外周面に複数の内スプライン溝が形成されたディスク配置部と、前記ディスク配置部よりも一方の軸端側に設けられたストッパ配置部と、前記ストッパ配置部の前記軸端側に設けられて前記軸端側を向いた係合面とを有し、
前記第1ディスクは、複数の外スプライン溝が形成された内周面を有し、
前記ボールスプラインは、径方向に並ぶ前記内スプライン溝と前記外スプライン溝との組み合わせにより形成されるボール収容部に配置された複数のボールと、前記複数のボールの前記ボール収容部から前記軸端側への移動を規制するストッパとを有し、
前記ストッパは、前記ストッパ配置部に外嵌された筒体と、前記筒体から前記軸線方向に突出し、少なくとも先端部分が溝壁と接触せずに前記ボール収容部に挿入されている複数のピンと、前記筒体から径方向内側へ突出し、前記係合面と係合する内フランジとを有する、
トロイダル無段変速機。
【請求項2】
前記筒体の少なくとも一部分の内周面と、当該内周面の径方向内側に位置する前記ストッパ配置部の少なくとも一部分の外周面とは、それらが接触するように対応する半径を有する、
請求項1に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項3】
前記複数のピンは、先端面に前記ボールが嵌る凹部を有する、
請求項1又は2に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項4】
前記第1ディスクは、背面の内周部分に切欠を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項5】
前記第1ディスクを前記第2ディスクへ向けて押圧する押圧装置と、前記押圧装置を前記回転軸に回動可能に支持させる軸受と、前記軸受を前記回転軸に固定するナットとを有し、前記係合面と前記ナットとの前記軸線方向の間で前記内フランジが挟圧されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載のトロイダル無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロイダル無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や航空機用発電機等に用いられるトロイダル無段変速機が知られている。トロイダル無段変速機は、入力ディスク及び出力ディスクと、これらのディスクの間に挟まれたパワーローラとを備える。パワーローラが回転することによって、動力が入力ディスクから出力ディスクへ伝達される。その際、パワーローラの傾きを変化させる(即ち、入力ディスク及び出力ディスクとの接触半径を変化させる)ことにより、出力を無段階で減速又は増速することができる。
【0003】
ディスクのうち少なくとも一つはボールスプラインを介して回転軸に組付けられる。ボールスプラインは、ディスクの内周面に形成された外スプライン溝と、回転軸の外周面に形成された内スプライン溝と、これらのスプライン溝どうしの間に転動自在に設けられた複数のボールとからなる。トロイダル無段変速機には、ボールスプラインのボールの落脱を防止するための構造を備えるものがある。特許文献1は、この種のトロイダル無段変速機を開示する。
【0004】
特許文献1のトロイダル無段変速機では、対向する一対のディスクの軸線方向の間において、回転軸(主軸)上に密嵌した筒状ストッパにより、回転軸とディスクの間に設けられたボールスプラインのボールの抜け止めがなされている。特許文献1に記載の筒状ストッパは、その一部分がスプライン溝に挿入される。この筒状ストッパは回転軸に対し軸線方向に相対移動可能であって、ディスク及び回転軸のスプライン溝を形成している部分と衝突し得る。また、特許文献1に記載の筒状ストッパは、その一部分がスプライン溝に挿入される筒部と当該筒部から径方向外側へ突出するフランジ部とを有する。この筒状ストッパは、回転軸に対し軸線方向に相対移動可能であって、フランジ部がディスクの本体部分と衝突し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-227554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,のトロイダル無段変速機では、筒状ストッパは、ディスク及び/又は回転軸と軸線方向に衝突してそれらから軸線方向の荷重を受ける。筒状ストッパはこの荷重に耐え得る肉厚を備えるため、軽量化が難しい。同様に、筒状ストッパが衝突するディスク及び/又は回転軸の部位も剛性を備える必要がある。
【0007】
このように従来のトロイダル無段変速機には、ボールスプライン及びそれに付随する機構の軽量化という観点で改良の余地が残されている。そこで、本発明は、トロイダル無段変速機において、ディスクと回転軸との間に設けられたボールスプラインのボールの落脱を防止する技術であって、軽量化を実現し得るものを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るトロイダル無段変速機は、
軸線方向に延びる回転軸と、主面どうしが前記軸線方向に対向するように前記回転軸に挿通された第1ディスク及び第2ディスクと、前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に傾転可能に挟まれたパワーローラと、前記第1ディスクを前記回転軸に支持させるボールスプラインとを備え、
前記回転軸は、外周面に複数の内スプライン溝が形成されたディスク配置部と、前記ディスク配置部よりも一方の軸端側に設けられたストッパ配置部と、前記ストッパ配置部の前記軸端側に設けられて前記軸端側を向いた係合面とを有し、
前記第1ディスクは、複数の外スプライン溝が形成された内周面を有し、
前記ボールスプラインは、径方向に並ぶ前記内スプライン溝と前記外スプライン溝との組み合わせにより形成されるボール収容部に配置された複数のボールと、前記複数のボールの前記ボール収容部から前記軸端側への移動を規制するストッパとを有し、
前記ストッパは、前記ストッパ配置部に外嵌された筒体と、前記筒体から前記軸線方向に突出し、少なくとも先端部分が溝壁と接触せずに前記ボール収容部に挿入されている複数のピンと、前記筒体から径方向内側へ突出し、前記係合面と係合する内フランジとを有する、ことを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、ボールスプラインのボールは、ボール収容部に挿入されているピンによって軸端側への移動が規制され、ボール収容部からの落脱が防止される。ピンは溝壁と接触せずにボール収容部に挿入されているため、ストッパはディスクと当接せず、回転軸の内スプライン溝の形成部分とも当接しない。また、係合面と内フランジとの係合により、回転軸線に対するボール収容部側へストッパが移動することが規制される。よって、ストッパはディスク及び回転軸から直接に軸線方向の荷重を受けない。これにより、ストッパに要求される軸線方向の荷重に対する強度が抑えられ、ストッパの薄肉化が可能であり、ひいては、ストッパの軽量化に寄与することができる。更に、回転軸及びディスクの溝形成部分にストッパが衝突しないことから、これらに要求される軸線方向の荷重に対する強度が抑えられる。これにより、回転軸の細径化が可能であり、ひいては、回転軸の軽量化に寄与することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トロイダル無段変速機において、ディスクと回転軸との間に設けられたボールスプラインのボールの落脱を防止する技術であって、軽量化を実現し得るものを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るトロイダル無段変速機を備える駆動機構一体型発電装置の断面図である。
図2図2は、図1に示すトロイダル無段変速機の出力ディスク及び押圧装置並びにその近傍の拡大図である。
図3図3は、変速機出力軸と出力ディスクとの間に設けられたボールスプラインの拡大断面図である。
図4図4は、ストッパの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0013】
〔駆動機構一体型発電装置1の概略構成〕
図1は、本実施形態に係るトロイダル無段変速機10を備える駆動機構一体型発電装置1の断面図である。図1に示すように、駆動機構一体型発電装置1(Integrated Drive Generator:IDG)は、航空機の交流電源に用いられるものであって、航空機のエンジンに取り付けられるケーシング2を備える。ケーシング2には、入力機構3と、トロイダル無段変速機(以下、単に「変速機10」と称する)と、動力伝達機構7と、発電機5とが収容されている。なお、変速機10は、駆動機構一体型発電装置1の一部とした構成でなくてもよく、用途も航空機に限られない。
【0014】
変速機10は、同軸上に配置されて相対回転可能な変速機入力軸11及び変速機出力軸9を備える。以下、変速機入力軸11及び変速機出力軸9の軸線を「回転軸線A1」と称する。また、回転軸線A1の延伸方向を「軸線方向X」と称する。回転軸線A1の軸線方向Xは、即ち、変速機10の主軸の軸線方向Xである。変速機入力軸11は、入力機構3を介してエンジン回転軸(図示せず)に接続されている。入力機構3は、エンジン回転軸からの回転動力が入力される装置入力軸3aと、装置入力軸3aと一体回転するギヤ3bとを含む。変速機入力軸11には、それと一体回転するギヤ6が設けられている。変速機出力軸9は、動力伝達機構7を介して発電機5の発電機入力軸5aに接続されている。
【0015】
エンジン回転軸から取り出された回転動力は、入力機構3を介して変速機入力軸11に入力され、変速機入力軸11の回転動力が入力ディスク13に伝達される。変速機10は、変速機入力軸11の回転を変速して変速機出力軸9に出力する。変速機出力軸9の回転動力は、動力伝達機構7を介して発電機入力軸5aに伝達される。発電機入力軸5aが回転駆動されると、発電機5が交流電力を発生する。変速機10の変速比は、エンジン回転軸の回転速度の変動に関わらず発電機入力軸5aの回転速度を適値(航空機の電装品の作動に適した周波数に対応する値)に保つように連続的に変更される。
【0016】
〔トロイダル無段変速機10の概略構成〕
変速機10は、一例として、ハーフトロイダル型且つダブルキャビティ型であり、二組の入力ディスク13,13及び出力ディスク14,15を備える。但し、変速機10は、ダブルキャビティ型に限定されず、例えば、シングルキャビティ型でもよい。
【0017】
入力ディスク13,13は変速機入力軸11に嵌合されており、変速機入力軸11と一体的に回転軸線A1を中心として回転する。出力ディスク14は変速機出力軸9に嵌合されており、変速機出力軸9と一体的に回転軸線A1を中心として回転する。出力ディスク15は、ボールスプライン16を介して変速機出力軸9に支持されており、変速機出力軸9と一体的に回転軸線A1を中心として回転するとともに、変速機出力軸9に対して軸線方向Xの移動が許容される。
【0018】
入力ディスク13は、凹面13aを有する。出力ディスク14,15は、凹面14a,15aを有する。入力ディスク13及び出力ディスク14,15において、凹面13a,14a,15aが形成されている面を「主面」と称し、その反対側の面を「背面」と称する。入力ディスク13と出力ディスク14とは、互いの凹面13a,14aが対向するように、軸線方向Xに対向配置されている。同様に、入力ディスク13と出力ディスク15とは、互いの凹面13a,15aが対向するように、軸線方向Xに対向配置されている。対向する凹面13a,14a、13a,15aによって回転軸線A1回りに円環状のキャビティが形成されている。
【0019】
変速機10は、一例として、中央入力型である。変速機出力軸9は、変速機入力軸11内に挿通されて、変速機入力軸11から軸線方向Xの両側に突出する。一対の入力ディスク13,13は、中央ディスクであって、変速機入力軸11上で背中合わせに配置されている。一対の出力ディスク14,15は、外ディスクであって、一対の入力ディスク13,13の軸線方向Xの外側に配置されている。一対の入力ディスク13,13間には、変速機入力軸11の外周面上に設けられて当該変速機入力軸11と一体回転するギヤ6が配置されている。
【0020】
一方側の出力ディスク14は、変速機出力軸9の端部に設けられた凸部9aによって、回転軸線A1外方への変位が規制されている。他方側の出力ディスク15は、予圧バネ64によって入力ディスク13に向けて付勢され、且つ、回転駆動時には押圧装置17によって入力ディスク13に向けて付勢される。出力ディスク15は、押圧装置17を介して動力伝達機構7に動力伝達可能に接続されている。
【0021】
変速機10は、キャビティ内に配置された複数のパワーローラ18と、複数のパワーローラ18をそれぞれ傾転可能に支持する複数のトラニオン19とを備える。トラニオン19は、傾転軸線A2周りに傾転可能かつ傾転軸線A2方向に変位可能な状態でケーシング2に支持される。傾転軸線A2は、回転軸線A1とねじれの位置にある。パワーローラ18は、傾転軸線A2に対して垂直な回転軸線(図示略)回りに回転自在にトラニオン19に支持される。トラニオン19は、油圧駆動機構(図示略)に接続されており、その油圧駆動機構がトラニオン19をパワーローラ18とともに傾転軸線A2方向に往復変位させる。
【0022】
図2は、図1に示すトロイダル無段変速機10の出力ディスク15及び押圧装置17並びにその近傍の拡大図である。図2に示すように、押圧装置17は、カム板61と、ローラユニット60とを有する。
【0023】
カム板61は、出力ディスク15の背面と対向するように、変速機出力軸9に遊嵌されている。カム板61は中空円盤状のカム部611と、カム部611の外周縁部分から軸線方向Xに突出する円筒状の筒軸部612とを一体的に有する。カム部611の主面は、出力ディスク15の背面と対峙している。カム部611の主面は第1カム面613であり、凹凸が円周方向に亘って繰り返し形成されている。第1カム面613と対峙する出力ディスク15の背面には、第2カム面151が設けられている。第2カム面151にも、第1カム面613と対応するように、凹凸が円周方向に亘って繰り返し形成されている。
【0024】
ローラユニット60は、第1カム面613と第2カム面151と軸線方向Xの間に設けられている。ローラユニット60は、保持器62と、保持器62に保持された複数のローラ63とからなる。保持器62には、回転軸線A1を中心として円周方向に略等間隔に並ぶ複数のローラ組が保持されている。1組のローラ組は、径方向に延びる自転軸線上に並ぶ少なくとも1つのローラ63(本実施形態では3つ)を含む。ローラ組の各ローラ63は、ローラ組の自転軸線を中心として回転可能である。各ローラ63は第1カム面613及び第2カム面151に挟まれており、その周面は第1カム面613及び第2カム面151の双方と接触する。
【0025】
押圧装置17が出力ディスク15から受けるアキシャル方向の荷重は、変速機出力軸9に固定されたサポート軸受4によって支持される。本実施形態において、サポート軸受4はアンギュラ玉軸受である。サポート軸受4は、カム板61の背面側に配置されて当該カム板61を変速機出力軸9に相対回転可能に支持させる。具体的には、サポート軸受4は内輪41と、外輪42と、内輪41と外輪42との間に回転自在に挟まれた複数の転動体43とを有する。内輪41は、変速機出力軸9と、当該変速機出力軸9に螺入されたナット51との間で挟圧されることによって、変速機出力軸9に固定されている。外輪42は内輪41に対し回転自在であり、外輪42はカム板61と一体的に回転軸線A1を中心として回転する。
【0026】
カム板61とサポート軸受4の外輪42との間には予圧バネ64が配置されている。予圧バネ64は、変速機出力軸9の非回転時にも出力ディスク15が入力ディスク13へ向けて押圧(予圧)されるように、カム板61に出力ディスク15へ向かう軸線方向Xの押圧力を付与するものである。本実施形態に係る予圧バネ64は、カム板61のカム部611とサポート軸受4の外輪42との間に挟まれて、軸線方向Xに圧縮されている。予圧バネ64が圧縮されると、やがてカム板61の筒軸部612も外輪42と当接する。
【0027】
カム板61の筒軸部612の外周面には、外歯614が形成されている。この外歯614は、動力伝達機構7の第1ギヤ71に設けられた内歯711と噛合して、ドッグクラッチを構成している。出力ディスク15から複数のローラ63を介して回転力を受けてカム板61が回転すると、カム板61の回転が動力伝達機構7の第1ギヤ71へ伝達される。動力伝達機構7は、変速機10からの出力を発電機5及びオイルポンプユニット(図示略)へ伝達する。
【0028】
〔動力伝達機構7の構成〕
図1に示すように、動力伝達機構7は、第1ギヤ71~第4ギヤ74を含む複数のギヤで構成される。第1ギヤ71は、中空ギヤである。第1ギヤ71は、内歯711と外歯712とを有する。内歯711はカム板61の外歯614と噛合し、外歯712は第2ギヤ72と噛合している。
【0029】
第2ギヤ72は、主歯721と副歯722とを有する。主歯721は、第1ギヤ71の外歯712及び第3ギヤ73と噛合している。副歯722は、変速機10の出力をオイルポンプユニット(図示略)へ伝達するためのギヤ(図示略)と噛合している。第3ギヤ73は、第2ギヤ72の主歯721及び第4ギヤ74と噛合している。第4ギヤ74は、発電機5の発電機入力軸5aに固定されている。
【0030】
〔変速機10の動作方法〕
上記構成の変速機10において、入力ディスク13,13が回転駆動されると、パワーローラ18を介して出力ディスク14,15が回転駆動され、変速機出力軸9が回転駆動される。トラニオン19及びパワーローラ18が傾転軸線A2方向に変位すると、パワーローラ18の傾転軸線A2周りの傾転角が変更され、変速機10の変速比が傾転角に応じて連続的に変更される。パワーローラ18は、傾転軸線A2回りに傾転可能な状態で、入力ディスク13,13の凹面13aと出力ディスク14,15の凹面14a,15aとの間に挟まれ、入力ディスク13の回転駆動力を傾転角に応じた変速比で変速して出力ディスク14,15に伝達する。出力ディスク14,15の回転トルクが増加すると、押圧装置17によって出力ディスク15が入力ディスク13に近づく向きに押圧され、入力ディスク13,13及び出力ディスク14,15がパワーローラ18を挟む圧力が増加する。
【0031】
出力ディスク15が回転すると、カム面151によって複数のローラ63がカム板61のカム面613に押し付けられる。この結果、出力ディスク15がパワーローラ18に押圧されると同時に、一対のカム面151,613と複数のローラ63との噛合に基づいて、カム板61が回転する。そして、このカム板61の回転がドッグクラッチ(カム板61の外歯614と第1ギヤ71の内歯711)の噛合によって動力伝達機構7へ入力され、発電機入力軸5aが回転する。
【0032】
〔ボールスプライン16の構造〕
ここで、ボールスプライン16の構造について詳細に説明する。図3は、変速機出力軸9と出力ディスク15との間に設けられたボールスプライン16の拡大断面図である。図3では、一部の構成要素が省略されている。
【0033】
図3に示すように、変速機出力軸9(回転軸の一例)は中空軸であって、軸内部は油路90として機能する。変速機出力軸9には、一方の軸端91から順に、ネジ部92、軸受支持部93、ストッパ配置部94、及び、ディスク配置部95が形成されている。
【0034】
ネジ部92の外周面には、ナット51の雌ネジと噛合する雄ネジ921が形成されている。軸受支持部93には、サポート軸受4の内輪41が外嵌される。軸受支持部93とストッパ配置部94との境界部分には、両者の径の差によって、軸線方向Xの軸端91側を向いた係合面96が形成されている。つまり、係合面96は、軸受支持部93とストッパ配置部94との段差面である。ストッパ配置部94には、後述するストッパ30が外嵌される。ストッパ配置部94には、小径部941と、小径部941よりも大径且つ軸端91側に位置する大径部942とが設けられている。ディスク配置部95の外周面は溝形成部951となっている。溝形成部951には、周方向に並ぶ複数の内スプライン溝952が形成されている。各内スプライン溝952は、軸線方向Xに延び、径方向外側へ向けて開放する断面半円状の溝である。
【0035】
出力ディスク15の内周面であって、変速機出力軸9のディスク配置部95と径方向に対向する部分は、溝形成部153となっている。溝形成部153には、周方向に並ぶ複数の外スプライン溝154が形成されている。内スプライン溝952の数と外スプライン溝154の数とは対応している。各外スプライン溝154は、軸線方向Xに延び、径方向内側へ向けて開放する断面半円状の溝である。出力ディスク15の主面側において、複数の外スプライン溝154に連続する止め輪57が嵌められている。
【0036】
本実施形態に係るボールスプライン16は、変速機出力軸9の外周面と出力ディスク15の内周面との間に形成されたボール収容部55と、ボール収容部55に配置された複数のボール56と、複数のボール56のボール収容部55から軸端91側への落脱を防止するストッパ30とを有する。
【0037】
ボール収容部55は、径方向に並ぶ内スプライン溝952と外スプライン溝154との組み合わせにより形成される、軸線方向Xに延びる円筒状の空間である。変速機出力軸9の外周面と出力ディスク15の内周面との間には、複数のボール収容部55が円周方向に等間隔で並んでいる。各ボール収容部55には、少なくとも1つ(本実施形態では4つ)のボール56が転動自在に配置されている。
【0038】
図4は、ストッパ30の斜視図である。図3及び図4に示すように、ストッパ30は、筒体31と、筒体31から軸線方向Xに突出する複数のピン32と、筒体31から径方向内側へ突出する内フランジ33とを一体的に有する。
【0039】
筒体31は、軸線方向Xに延びる薄肉の円筒状部材であって、変速機出力軸9のストッパ配置部94に外嵌されている。筒体31の外周側には、押圧装置17の構成要素であるローラユニット60及びカム板61が配置されている。
【0040】
筒体31の内周の半径R31bと、ストッパ配置部94の大径部942の半径R942とは、筒体31の一部分(軸端91側の部分)の内周面と大径部942の外周面とが接触するように対応している(R31b≒R942)。これにより、変速機出力軸9にストッパ30を嵌める操作によって、変速機出力軸9とストッパ30との心合わせが行われる。つまり、筒体31の内周面とストッパ配置部94の大径部942の外周面とが、ストッパ30と変速機出力軸9とのインロウ部となっている。
【0041】
筒体31には、変速機出力軸9に設けられた径方向の油路と対応する位置に、周方向に連続する油溝と、当該油溝から作動油を径方向外側へ排出する油孔が形成されている。油溝には遠心力によって作動油が溜まり、この作動油が油孔から噴出する。このように、ストッパ配置部94と筒体31との間に作動油の経路が形成されているので、変速機出力軸9に外嵌されたストッパ30によって変速機出力軸9の油路90から押圧装置17への作動油の供給は妨げられない。
【0042】
本実施形態において、複数のピン32は、筒体31の軸線方向Xの一方の端面からボール収容部55へ向かって突出するピン状(棒状)を呈する。複数のピン32は周方向に等間隔で並んでいる。複数のピン32により形成される輪の内径の半径R32bは、筒体31の内周の半径R31bと等しい(R32b≒R31b)。半径R31b及び半径R32bは、回転軸線A1から内スプライン溝952の溝底までの距離R95よりも大きい(R31b>R95、R32b>R95)。複数のピン32により形成される輪の外周の半径R32aは、筒体31の外周の半径R31aよりも小さい(R32a<R31a)。半径R32aは、回転軸線A1から外スプライン溝154の溝底までの距離R154よりも小さい(R32a<R154)。なお、筒体31の外周の半径R31aは、回転軸線A1から外スプライン溝154の溝底までの距離R154と同じ又はそれよりも若干大きい(R31a≧R154)。
【0043】
各ピン32の先端面には凹部321が形成されている。各凹部321は、ボール56の曲率と対応した球状の窪みであって、ボール56の一部分が当該凹部321に嵌ることができる。但し、各ピン32の先端面の凹部321は必須ではなく、各ピン32の先端面は平らであってもよい。本実施形態では、筒体31、複数のピン32及び内フランジ33が一体成形されたものである。但し、ストッパ30の成形方法はこれに限定されず、円筒形材料からピン32以外の部分の肉が削り取られることによって、複数のピン32が形成されてもよい。
【0044】
複数のピン32の径方向の位置は、ボール収容部55の径方向中央部分の位置と対応している。複数のピン32の周方向の位置は複数のボール収容部55の周方向の位置と対応している。各ピン32の断面はボール収容部55の断面より小さい。そして、複数のピン32の各々は、その少なくとも先端部分がボール収容部55に挿入されている。ここで、各ピン32と、外スプライン溝154の溝壁及び内スプライン溝952の溝壁とは、接触していない。
【0045】
変速機出力軸9が回転していない状態で、ボール56とピン32との間には隙間が設けられており、ボール56はピン32と当接していない。変速機出力軸9が回転して、出力ディスク15が変速機出力軸9に対して軸端91側へ最大に移動した状態で、ボール56はピン32と当接する。なお、出力ディスク15が変速機出力軸9に対して軸端91側へ最大に移動したときに出力ディスク15と筒体31との干渉を回避するために、出力ディスク15の背面の内周部には切欠155が設けられている。
【0046】
内フランジ33は、筒体31の軸端91側の端部に設けられている。内フランジ33は、変速機出力軸9の係合面96と軸線方向Xに当接する座面331を有する。内フランジ33は、変速機出力軸9のネジ部92に螺入されたナット51と係合面96との間で挟圧されることによって、変速機出力軸9に固定されている。より詳細には、変速機出力軸9の係合面96とナット51との軸線方向Xの間には、内フランジ33、予圧調整用のシム49、及び内輪41が挟まれている。
【0047】
〔変速機10の組み立て手順〕
ここで、上記構成の変速機10の軸アセンブリの組み立て手順について説明する。先ず、変速機出力軸9に、出力ディスク14、入力ディスク13、変速機入力軸11、入力ディスク13、及び、出力ディスク15がこの順番で挿通される。出力ディスク15には予め止め輪57が嵌められている。次に、出力ディスク14と入力ディスク13との間、及び、入力ディスク13と出力ディスク15との間に、それぞれパワーローラ18が挟み込まれる。続いて、出力ディスク15の外スプライン溝154と変速機出力軸9の内スプライン溝952との位相が合わされて、形成された各ボール収容部55にボール56が挿入される。
【0048】
続いて、変速機出力軸9にストッパ30が挿通される。ストッパ30の内フランジ33と係合面96とが当接することにより、ストッパ30が軸線方向Xに位置決めされる。ここで、ストッパ30の筒体31は、変速機出力軸9のストッパ配置部94の径方向外側に位置する。また、ストッパ30のピン32は、先端部分がボール収容部55内に挿入されており、ボール56、出力ディスク15、及び変速機出力軸9のいずれにも当接していない。
【0049】
ストッパ30が外装された変速機出力軸9に、ローラユニット60、カム板61、及び予圧バネ64がこの順番で挿通される。続いて、変速機出力軸9の軸受支持部93に、シム49及びサポート軸受4がこの順に挿通される。最後に、変速機出力軸9のネジ部92にナット51が螺入される。以上により、変速機10の軸アセンブリが組み立てられる。
【0050】
以上に説明した通り、本実施形態に係るトロイダル無段変速機10は、軸線方向Xに延びる変速機出力軸9(回転軸の一例)と、主面どうしが軸線方向Xに対向するように変速機出力軸9に挿通された出力ディスク15(第1ディスクの一例)及び入力ディスク13(第2ディスクの一例)と、出力ディスク15を変速機出力軸9に支持させるボールスプライン16と、出力ディスク15と入力ディスク13との間に傾転可能に挟まれたパワーローラ18とを備える。
【0051】
上記変速機10において、変速機出力軸9は、外周面に複数の内スプライン溝952が形成されたディスク配置部95と、ディスク配置部95よりも一方の軸端91側に設けられたストッパ配置部94と、ストッパ配置部94の軸端91側に設けられて軸端91側を向いた係合面96とを有する。出力ディスク15は、複数の外スプライン溝154が形成された内周面を有する。ボールスプライン16は、径方向に並ぶ内スプライン溝952と外スプライン溝154との組み合わせにより形成されるボール収容部55に配置された複数のボール56と、複数のボール56のボール収容部55から軸端91側への移動を規制するストッパ30とを有する。そして、ストッパ30は、ストッパ配置部94に外嵌された筒体31と、筒体31から軸線方向Xに突出し、少なくとも先端部分が溝壁と接触せずにボール収容部55に挿入されている複数のピン32と、筒体31から径方向内側へ突出し、係合面96と係合する内フランジ33とを有する。
【0052】
上記構成の変速機10によれば、ボールスプライン16のボール56は、ボール収容部55に挿入されているピン32によって軸端91側への移動が規制され、ボール収容部55からの落脱が防止される。ピン32は、溝壁と接触せずにボール収容部55に挿入されているため、ストッパ30は出力ディスク15及び変速機出力軸9の内スプライン溝952の形成部(溝形成部951)と当接しない。また、係合面96と内フランジ33との係合により、回転軸線A1に対するボール収容部55側へストッパ30が移動することが規制される。よって、ストッパ30は出力ディスク15及び変速機出力軸9から軸線方向Xの荷重を受けない。これにより、ストッパ30に要求される軸線方向Xの荷重に対する強度が抑えられるため、ストッパ30の筒体31の薄肉化が可能であり、ひいては、ストッパ30の軽量化に寄与することができる。また、ストッパ30が変速機出力軸9の溝形成部951と衝突しないので、溝形成部951に要求される軸線方向Xの荷重に対する強度が抑えられるため、変速機出力軸9の小径化が可能であり、ひいては、変速機出力軸9の軽量化に寄与することができる。
【0053】
また、本実施形態に係る変速機10において、筒体31の少なくとも一部分の内周面と、当該内周面の径方向内側に位置する変速機出力軸9のストッパ配置部94の少なくとも一部分の外周面とは、それらが接触するように対応する半径を有している。
【0054】
上記構成により、変速機出力軸9にストッパ30が嵌められると、筒体31の内周面と、変速機出力軸9のストッパ配置部94(本実施形態では大径部942)の外周面とが接触して、ストッパ30と変速機出力軸9との心合わせがなされ、適正なセンタリングが得られる。
【0055】
また、本実施形態に係る変速機10において、複数のピン32は、先端面にボール56が嵌る凹部321を有している。
【0056】
上記構成により、ピン32とボール56とが面で接触する。よって、ピン32とボール56とが点で接触する場合と比較して、ボール56からピン32にかかる荷重が分散されるので、ピン32に要求される軸線方向Xの荷重に対する強度が抑えられる。これにより、ピン32の薄肉化(細径化)に寄与することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る変速機10において、出力ディスク15は、背面の内周部分に切欠155を有している。
【0058】
上記構成により、ストッパ30の筒体31が、外スプライン溝154の溝底の半径と同じ又はそれよりも大きい半径を有することが許容される。また、筒体31の端部をボール収容部55により近づけることが可能となり、その分、ピン32の長さを短くすることができる。これにより、ピン32に要求される軸線方向Xの荷重に対する強度が抑えられる。これにより、ピン32の薄肉化(細径化)に寄与することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る変速機10は、出力ディスク15を入力ディスク13へ向けて押圧する押圧装置17と、押圧装置17を変速機出力軸9に回動可能に支持させる軸受4と、軸受4を変速機出力軸9に固定するナット51とを更に備える。そして、係合面96とナット51との軸線方向Xの間で内フランジ33が挟圧されている。
【0060】
前述の通り、ストッパ30の筒体31は出力ディスク15及び変速機出力軸9から直接に軸線方向Xの荷重を受けないことから、筒体31が押圧装置17と対応する軸線方向Xの長さを有していても筒体31に座屈が発生しにくい。よって、筒体31の内フランジ33が設けられた端部を軸受4の近傍まで延長することができる。そして、ストッパ30の内フランジ33が軸受4とともにナット51で変速機出力軸9に締結されることによって、変速機出力軸9に対してストッパ30が固定される。よって、ストッパ30を変速機出力軸9に固定するための専用部材が不要である。
【0061】
また、変速機10の軸アセンブリを組み立てる際には、変速機出力軸9に入力ディスク13及び出力ディスク15を挿通させてから、出力ディスク15と変速機出力軸9との間に形成されたボール収容部55にボール56を装填し、ストッパ30を変速機出力軸9に挿通させる。このように、ボール56の仮押さえや、ストッパ30の仮押さえをすることなく、ストッパ30を変速機出力軸9に挿入するだけでボール56の落脱が阻止される。従来のように、変速機出力軸9に止め輪を嵌めるために出力ディスク15を軸線方向Xに押圧する操作は不要である。よって、ストッパ30を備えることで、変速機10の組み立て性が向上する。更に、ナット51を締める際に、ストッパ30のピン32は自由端であるため、ナット51から変速機出力軸9の溝形成部951やストッパ30の筒体31に荷重がかからない。よって、ナット51からストッパ30を介して変速機出力軸9の溝形成部951に荷重が加わる場合と比較して、変速機出力軸9に要求される軸線方向Xの荷重に対する強度が抑えられる。これにより、変速機出力軸9の薄肉化や小径化に寄与することができる。
【0062】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の思想を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の構成は、以下のように変更することができる。
【0063】
例えば、変速機10は、中央入力型に限定されず、中央出力型でもよい。中央出力型の場合には、前述した入力ディスク13と出力ディスク14との位置関係が逆転し、出力ディスクが中央ディスク(第2ディスク)となり、入力ディスクが外ディスク(第1ディスク)となる。この場合、押圧装置17は入力ディスクを出力ディスクに向けて押圧するように構成され、カム板61には外歯614と噛合するギヤから回転が入力される。
【符号の説明】
【0064】
4 :サポート軸受
9 :変速機出力軸(回転軸の一例)
10 :トロイダル無段変速機
13 :入力ディスク(第2ディスクの一例)
14 :出力ディスク
15 :出力ディスク(第1ディスクの一例)
32 :ピン
33 :内フランジ
51 :ナット
55 :ボール収容部
56 :ボール
91 :軸端
94 :ストッパ配置部
95 :ディスク配置部
96 :係合面
153 :溝形成部
154 :外スプライン溝
155 :切欠
321 :凹部
951 :溝形成部
952 :内スプライン溝
X :軸線方向
図1
図2
図3
図4