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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び送信方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
A61B8/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020084849
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021178007
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 由幸
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-305129(JP,A)
【文献】特開2008-237647(JP,A)
【文献】特開2010-005322(JP,A)
【文献】特開2014-073273(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0102703(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドプラモードにおいて、心拍を表す信号に基づいて、各心拍期間内に主観測期間及び副観測期間を設定する期間設定部と、
前記主観測期間内において第1送信パワーで超音波が送信されるようにし、前記副観測期間内において前記第1送信パワーよりも弱い第2送信パワーで超音波が送信されるようにする送信制御部と、
を含み、
前記期間設定部は、検査者により指定された注目弁及び注目流の組み合わせに従って、前記各心拍期間内に前記主観測期間及び前記副観測期間を設定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記期間設定部は、前記主観測期間として拡張期及び収縮期の内の一方を設定し、前記副観測期間として前記拡張期及び前記収縮期の内の他方を設定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波診断装置において、
心臓内の複数の弁と心臓内で生じる逆流及び順流とによって定義される複数の組み合わせに対応する複数のセルを有するテーブルを含み、
前記各セルは、前記主観測期間を特定する情報を有し、
前記期間設定部は、前記テーブルの参照により前記各心拍期間内に前記主観測期間及び前記副観測期間を設定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項記載の超音波診断装置において、
前記検査者により前記注目弁及び前記注目流を指定するための入力部を含む、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項記載の超音波診断装置において、
前記注目弁は臓内の複数の弁の中から選択され、
前記注目流は逆流及び順流の中から選択される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1記載の超音波診断装置において、
検査者により前記主観測期間を直接的又は間接的に指定するための入力部と、
生体内からの反射波を受信することにより得られた受信信号に基づいてドプラ波形を生成するドプラ波形生成部と、
前記ドプラ波形に基づいて、前記検査者による前記主観測期間の誤指定の可能性を判定する判定部と、
前記誤指定の可能性が判定された場合に前記検査者に対して前記誤指定の可能性を報知する報知部と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1記載の超音波診断装置において、
心臓からの反射波を受信することにより得られた受信信号に基づいてドプラ波形を生成するドプラ波形生成部と、
前記主観測期間及び前記副観測期間を表す補助画像を生成する補助画像生成部と、
を含み、
前記ドプラ波形と共に前記補助画像が表示される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
連続波ドプラモードにおいて、心臓の心拍を表す信号に基づいて、各心拍期間内に主観測期間及び副観測期間を設定する工程と、
前記主観測期間内において前記心臓に対して第1送信パワーで連続波が送信されるようにし、前記副観測期間内において前記心臓に対して前記第1送信パワーよりも弱い第2送信パワーで連続波が送信されるようにする工程と、
を含み、
検査者により指定された注目弁及び注目流の組み合わせに従って、前記各心拍期間内に前記主観測期間及び前記副観測期間が設定される、
ことを特徴とする送信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置及び送信方法に関し、特に、ドプラモードにおける送信制御に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、一般に、複数の動作モード(送受信モード)を備えている。それらの中には、連続波ドプラモード(CWドプラモード)及びパルスドプラモード(PWドプラモード)が含まれる。CWドプラモードでは、被検体(生体)に対する連続波の送信と被検体内からの反射波の受信とが同時に実行される。一方、PWドプラモードでは、被検体に対するパルス波の送信と被検体内からの反射波の受信とが交互に実行される。
【0003】
CWドプラモード及びPWドプラモードのいずれにおいても、受信信号に含まれるドプラ情報を周波数解析することにより血流速度分布を示すスペクトルが生成される。各時刻で得られたスペクトルからドプラ波形が生成される。
【0004】
PWドプラモードでは、計測可能な速度範囲の上限がパルス繰り返し周波数(PRF)により制限される。これに対し、CWドプラ法にはそのような制限はない。CWドプラモードは、高速血流の観測に適する。例えば、心臓の超音波検査において、弁狭窄により生じる高速血流(順流)や弁閉鎖不全で生じる逆流がCWドプラモードを利用して観測される。一方、CWドプラモードでは、連続波を送信するため、PWドプラモードの実行時に比べ、プローブにおいて大きな発熱が生じる。プローブの送受波面の温度が上がり易い。送受波面の温度が規定温度まで達すると、送信パワーが強制的に制限されてしまう。
【0005】
特許文献1には、CWドプラモードの実行中において、送信開口の位置をローテーションすることにより発熱部位を分散化することが記載されている。特許文献2には、CWドプラモードの実行中において、心拍に同期させて超音波ビーム方向を変更することにより体動に合わせてサンプルボリューム位置を変化させることが記載されている。しかし、特許文献1及び特許文献2のいずれにも、心拍に同期した送信パワー制御については記載されていない。なお、特許文献3には、ボリュームデータの取得に際して生体信号に同期させて送信パワーを切り換えることが記載されているが、ドプラモードにおける送信パワー制御については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-223612号公報
【文献】特開2015-119917号公報
【文献】特開2010-005322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ドプラモード、特にCWドプラモードにおいては、注目する血流を感度良く観測することが求められ、また、プローブでの発熱量を低減することが求められる。
【0008】
本開示の目的は、ドプラモードにおいて、プローブでの発熱量を抑制しながら、注目する血流を感度良く観測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る超音波診断装置は、ドプラモードにおいて、心拍を表す信号に基づいて、各心拍期間内に主観測期間及び副観測期間を設定する期間設定部と、前記主観測期間内において第1送信パワーで超音波が送信されるようにし、前記副観測期間内において前記第1送信パワーよりも弱い第2送信パワーで超音波が送信されるようにする送信制御部と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本開示に係る送信方法は、連続波ドプラモードにおいて、心臓の心拍を表す信号に基づいて、各心拍期間内に主観測期間及び副観測期間を設定する工程と、前記主観測期間内において前記心臓に対して第1送信パワーで連続波が送信されるようにし、前記副観測期間内において前記心臓に対して前記第1送信パワーよりも弱い第2送信パワーで連続波が送信されるようにする工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ドプラモードにおいて、プローブでの発熱量を抑制しながら、注目する血流を感度良く観測できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
図2】送受信制御部の機能を示すブロック図である。
図3】注目弁及び注目流の組み合わせから特定される主観測期間を示す図である。
図4】第1表示例を示す図である。
図5】第2表示例を示す図である。
図6】第3表示例を示す図である。
図7】動作例を示すフローチャートである。
図8】変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、期間設定部、及び、送信制御部を含む。期間設定部は、ドプラモードにおいて、心拍を表す信号に基づいて、各心拍期間内に主観測期間及び副観測期間を設定する。送信制御部は、主観測期間内において第1送信パワーで超音波が送信されるようにし、副観測期間内において第1送信パワーよりも弱い第2送信パワーで超音波が送信されるようにする。
【0015】
上記構成によれば、各心拍期間において、主観測期間内では相対的に大きな第1送信パワーで超音波が送信され、一方、副観測期間内では相対的に小さな第2送信パワーで超音波が送信される。これにより、主観測期間内に生じる注目流(注目する血流)を感度良く観測できる。同時に、1心拍期間当たりの送信パワー総量を低減してプローブでの発熱量を抑制できる。
【0016】
心拍を表す信号として、例えば、心電信号、受信信号、超音波画像、ドプラ波形、等があげられる。心電信号を参照することにより、比較的に容易に個々の心拍周期を特定し得る。主観測期間及び副観測期間を定める条件は、検査者により直接的又は間接的に指定され、あるいは、自動的に設定される。例えば、基準時相から一定時間を拡張期とみなし、それ以外を収縮期とみなし、その前提の下で、拡張期又は収縮期を主観測期間と定めてもよい。ドプラ波形を一定期間にわたって参照し、拡張期と収縮期の平均比率を特定し、それに基づいて各心拍周期における拡張期及び収縮期を推定してもよい。心臓の拡張期又は収縮期が主観測期間に完全に一致している必要はない。注目流(特に注目流中の観測部分)が主観測期間内に含まれるように、主観測期間を定めるのが望ましい。
【0017】
送信パワーの制御は、送信電圧の可変、送信開口サイズの可変、駆動する送信素子数の可変、等によって行える。1心拍期間内に、主観測期間及び副観測期間以外の第3の観測期間が設定されてもよい。例えば、主観測期間と副観測期間の間に送信パワーを連続的に変化させる移行期間を設定してもよい。上記構成は、特に連続波ドプラモードにおいて有用なものであるが、他のドプラモードに対しても適用し得る。
【0018】
実施形態において、期間設定部は、心臓内の注目流が心臓の拡張期内において発生する場合に当該拡張期に対して主観測期間を設定する。一方、期間設定部は、注目流が心臓の収縮期内において発生する場合に当該収縮期に対して主観測期間を設定する。実施形態において、主観測期間は心臓内の注目弁から出る注目流に対応した期間である。副観測期間は主観測期間以外の期間である。
【0019】
実施形態に係る超音波診断装置は、検査者により注目弁及び前記注目流を指定するための入力部を含む。期間設定部は、注目弁及び注目流の指定に基づいて、主観測期間及び副観測期間を設定する。実施形態においては、注目弁は心臓内の複数の弁の中から選択される。注目流は逆流及び順流の中から選択される。
【0020】
実施形態に係る超音波診断装置は、入力部、ドプラ波形生成部、判定部、及び、報知部を含む。入力部は、検査者により主観測期間を直接的又は間接的に指定するためのものである。ドプラ波形生成部は、生体内からの反射波を受信することにより得られた受信信号に基づいてドプラ波形を生成する。判定部は、ドプラ波形に基づいて、検査者による主観測期間の誤指定の可能性を判定する。報知部は、誤指定の可能性が判定された場合に検査者に対して誤指定の可能性を報知する。
【0021】
上記構成によれば、誤指定の可能性が認められる場合にその可能性を検査者に報知できる。例えば、最高流速(つまり注目流中のピーク)の発生タイミングが主観測期間内ではなく副観測期間内である場合に、誤指定の可能性が報知される。
【0022】
実施形態に係る超音波診断装置は、ドプラ波形生成部、及び、補助画像生成部を含む。ドプラ波形生成部は、心臓からの反射波を受信することにより得られた受信信号に基づいてドプラ波形を生成する。補助画像生成部は、主観測期間及び副観測期間を表す補助画像を生成する。ドプラ波形と共に補助画像が表示される。
【0023】
上記構成によれば、補助画像の観察を通じて、第1送信パワーで送信が行われている期間つまり主観測期間、及び、第2送信パワーで送信が行われている期間つまり副観測期間、を検査者において識別することが可能となる。補助画像の観察を通じて、注目流が主観測期間内に生じていることを確認できる。
【0024】
本発明に係る送信方法は、設定工程、及び、送信制御工程を含む。設定工程では、連続波ドプラモードにおいて、心臓の心拍を表す信号に基づいて、各心拍期間内に主観測期間及び副観測期間が設定される。送信制御工程では、主観測期間内において心臓に対して第1送信パワーで連続波が送信され、副観測期間内において心臓に対して第1送信パワーよりも弱い第2送信パワーで連続波が送信される。
【0025】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置が示されている。超音波診断装置は、被検体(生体)に向けて超音波を送信し、被検体内からの反射波を受信することにより、超音波画像を形成する医用装置である。実施形態に係る超音波診断装置は、断層画像を表示するBモード、ドプラ波形を表示する連続波(CW)ドプラモード、等の動作モードを備えている。
【0026】
プローブ10は可搬型の送受波器である。プローブ10の送受波面(具体的には音響レンズ表面)が被検体の表面(心臓検査の場合には胸部表面)に当接される。図示された構成において、プローブ10は一次元配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイを有している。振動素子アレイにより超音波ビーム12が形成される。
【0027】
Bモードが選択された場合、超音波ビーム12が電子走査される。これにより二次元データ取込領域としての走査面14が形成される。走査面14は、深さ方向r及び走査方向θで定義される座標系を有する。電子走査方式として、電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式、等が知られている。
【0028】
Bモードにおいては、送信時に、送信回路20から複数の送信信号が振動素子アレイに供給され、これにより送信ビームが形成される。受信時に、被検体内からの反射波が振動素子アレイで受信され、これにより生じた複数の受信信号が受信回路22へ送られる。受信回路22において複数の受信信号に対する整相加算(遅延加算)が実行され、これにより受信ビームに相当するビームデータが生成される。
【0029】
なお、1回の電子走査で複数のビームデータが生成され、それらにより受信フレームデータが構成される。個々のビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。受信回路22から断層画像形成部24へ複数の受信フレームデータが出力される。なお、超音波ビーム12は送受総合ビームとして観念される。
【0030】
CWドプラモードにおいては、振動素子アレイにおける第1振動素子グループ(送信開口)を用いて連続波が送信され、振動素子アレイにおける第2振動素子グループ(受信開口)を用いて生体内からの連続波(反射波)が受信される。すなわち、第1振動素子グループにより連続的に送信ビームが形成され、同時に、第2振動素子グループにより連続的に受信ビームが形成される。その際、検査者により指定されたサンプルボリューム18に送信焦点及び受信焦点が設定される。送信ビームと受信ビームとがサンプルボリューム18においてクロスする。
【0031】
CWドプラモードにおいては、送信回路20は、第1振動素子グループに対して複数の送信信号を供給し続ける。受信回路22は、第2振動素子グループからの複数の受信信号に対する整相加算を実行し続ける。これにより生成された受信信号はドプラ処理部28へ送られる。
【0032】
心臓内の注目弁(例えば僧房弁)から出る注目流(例えば弁閉鎖不全による高速の逆流)を観測したい場合、最初にBモードが選択され、断層画像上において注目弁又はその付近にサンプルボリューム18が設定される。その後、CWドプラモードが選択され、ドプラ波形が観測される。ドプラ波形には注目流に相当する波形部分が含まれる。例えば、その波形部分のピークから最高流速が特定される。Bモードに代えてCFM(カラーフローマッピング)モードが選択されることもある。CFMモードにおいては、白黒の断層画像上にカラーの二次元血流像を合成した画像が表示される。
【0033】
プローブ10内に2D振動素子アレイを設けることも可能である。その場合、超音波ビームの二次元電子走査により、三次元データ取込空間が形成される。その空間からボリュームデータが取得される。2D振動素子アレイを用いる場合においても、CWドプラモードを実行することが可能である。その場合には、プローブ10における発熱対策の必要性がより高まる。
【0034】
図示の構成例において、送信回路20及び受信回路22の動作は、主制御部44内の送受信制御部48により制御される。送受信制御部48は、後に詳述するように、CWドプラモードにおいて、心拍周期に同期させて送信パワーを切り換える機能を有する。
【0035】
受信回路22と断層画像形成部24の間にビームデータ処理回路が設けられているが、その図示が省略されている。ビームデータ処理回路は、例えば、検波回路、相関回路、対数変換回路、等を有する。
【0036】
断層画像形成部24は、受信フレームデータ列から表示フレームデータ列を形成するモジュールである。表示フレームデータ列を構成する個々の表示フレームデータは断層画像に相当する。複数の断層画像から動画像が構成される。断層画像形成部24は、デジタルスキャンコンバータ(DSC)を有している。DSCは、座標変換機能、画素補間機能、フレームレート変換機能、等を有する。表示フレームデータ列が表示処理部26へ送られている。
【0037】
ドプラ処理部28について説明する。直交検波部30は、受信信号に対して直交検波を行う回路である。これにより、実数部信号及び虚数部信号からなる複素信号(アナログ複素信号)が生成される。複素信号は、2つのA/D変換器32A,32Bにより、デジタル複素信号に変換される。受信回路22内にA/D変換部を設けてもよい。
【0038】
2つのウォールモーションフィルタ34A,34Bは、ローカットフィルタつまりハイパスフィルタとして機能する。受信信号中に含まれる大きな不要成分(心臓壁運動成分である低域ノイズつまりクラッタ)が除去され、血流成分が抽出される。
【0039】
FFT演算器36は、入力されるデジタル複素信号に対して周波数解析を実行するモジュールである。これによりスペクトルが生成される。スペクトルは、血流速度軸上のパワー分布を示すものである。
【0040】
ドプラ波形生成部38は、FFT演算器36から順次出力されるスペクトルに基づいてドプラ波形を生成する。ドプラ波形の横軸は時間軸であり、ドプラ波形の縦軸は周波数軸つまり速度軸である。ドプラ波形を構成する各画素の輝度によりパワーが表現される。トレース部40は、ドプラ波形をトレースする処理を実行する。
【0041】
直交検波部30からトレース部40までの構成がドプラ処理部28に相当する。ドプラ処理部28には、上述した各処理を実行するプロセッサが含まれる。断層画像形成部24及び表示処理部26もそれぞれプロセッサにより構成され得る。後述するCPUにより、ドプラ処理部28内の幾つかの処理が実行されてもよい。
【0042】
表示処理部26は、画像合成機能、カラー演算機能、等を有する。表示処理部26により、表示器42に表示される画像が形成される。Bモードが選択された場合に表示器42に断層画像が表示され、CWドプラモードが選択された場合に表示器42にドプラ波形が表示される。ドプラ波形と共に、以下に説明するように、心電波形、補助画像等も表示される。2画面表示形式が選択された場合、フリーズされた断層画像とリアルタイムで形成されるドプラ波形とが並んで表示される。表示器42は、LCD、有機ELデバイス等によって構成される。
【0043】
主制御部44は、図1に示されている各構成の動作を制御する。主制御部44には心電計(ECG)46が接続されている。心電計46には被検者に装着される複数の電極が含まれる。心電計46において生成された心電信号が、図示されていない信号処理回路を経由して、主制御部44に送られている。
【0044】
主制御部44には操作パネル55が接続されている。操作パネル55は、トラックボール、複数のスイッチ、複数のボタン等を備える入力デバイスである。操作パネル55を利用して、検査者により動作モードが選択される。また、CWドプラモードの実行開始時に、操作パネル55を利用して、検査者により注目弁及び注目流が指定される。
【0045】
主制御部44は、具体的には、プログラムを実行するCPUで構成される。図1においては、主制御部44が有する複数の主要機能が複数のブロックで表現されており、具体的には、送受信制御部48及び生成部50が示されている。
【0046】
送受信制御部48は、送信回路20及び受信回路22の動作を制御する。送受信制御部48は、CWドプラモードにおいて、心電信号に基づいて、具体的には、心電信号に含まれるR波に基づいて、心拍期間ごとに、主観測期間及び副観測期間を設定する。主観測期間は、通常の送信パワー(第1送信パワー)で連続波の送信を行う期間であり、副観測期間は、低減された送信パワー(第2送信パワー)で連続波の送信を行う期間である。
【0047】
注目流が拡張期において生じる場合、拡張期が主観測期間とされる。注目流が収縮期において生じる場合、収縮期が主観測期間とされる。主観測期間が拡張期又は収縮期に完全に一致している必要はなく、注目流の中で実際に計測対象となる波形部分の発生時期又は発生期間が主観測期間内に含まれるように、主観測期間及び副観測期間が設定される。注目流は、例えば、弁狭窄により生じる高速の順流であり、弁閉鎖不全により生じる高速の逆流である。通常、ドプラ波形に基づいて、それらの異常流における最高速度が計測される。
【0048】
第1送信パワーを100%とした場合、第2送信パワーは例えば50%に設定される。もっともそれらの比率や個々のパワーについては任意に設定し得る。例えば、第2の送信パワーを25%に設定してもよい。ドプラ波形に基づいて第1送信パワー及び第2送信パワーが自動的に設定されてもよい。主観測期間と副観測期間の間に、送信パワーを連続的に変化させる移行期間が設けられてもよい。
【0049】
生成部50は、ドプラ波形と共に表示する心電信号波形及び補助画像を生成する。それらは、いずれも、グラフィック画像を構成する表示要素である。心電信号波形は、心電信号から生成される。補助画像は、主観測期間及び副観測期間を表す参照画像である。それらの画像データは、主制御部44から表示処理部26へ送られている。なお、主制御部44において、心電信号波形及び補助画像を含むグラフィック画像それ全体が生成されてもよい。
【0050】
表示器42には、CWドプラモードにおいて、ドプラ波形、心電信号波形、及び、補助画像が表示される。補助画像を通じて、検査者において、個々の心拍周期内における主観測期間及び副観測期間を識別し得る。
【0051】
図2には、送受信制御部48により発揮される複数の機能が複数のブロックにより表現されている。図示の構成例では、検査者により注目弁51及び注目流52が指定される。注目弁51及び注目流52の組み合わせに従って、主観測期間及び副観測期間が自動的に設定される(符号54を参照)。検査者により、主観測期間が直接的に指定されてもよい。例えば、R波から一定期間を主観測期間と定めてもよい。残りの期間が副観測期間となる。過去の心拍周期に基づいて拡張期又は収縮期の平均比率を求め、それに基づいて拡張期又は収縮期を主観測期間として定めるようにしてもよい。
【0052】
心電信号56に含まれる各R波が検出される(符号58を参照)。各R波に基づいて各心拍周期の開始タイミングが定められる。隣り合う2つのR波の間が1心拍周期である。主観測期間60においては、通常の送信パワー(第1送信パワー)64が設定される。一方、副観測期間62においては、低減された送信パワー(第2送信パワー)66が設定される。実際には、送受信制御部48において、送信パワーを指定する制御信号68が生成され、その制御信号68が送信回路へ送られる。なお、心電信号は心電信号波形を生成するために生成部へ送られる(符号56Aを参照)。
【0053】
一般に、収縮期の時間長は0.3~0.4secであり、拡張期の時間長は0.6~0.7secである。それを考慮して、R波から0.3sec又は0.4secを収縮期とみなし、その直後から次のR波までを拡張期とみなしてもよい。具体的には、主観測期間が収縮期である場合、R波から0.4secを収縮期とみなしてもよい。主観測期間が拡張期である場合、R波から0.3secを収縮期とみなしてもよい。つまり、主観測期間の時間長を長めに設定してもよい。心電波形又はドプラ波形に基づいて拡張期と収縮期を自動的に決定してもよい。
【0054】
送信パワーの切換えは、送信電圧の変更、送信開口の変更、駆動する振動素子数の変更、等によって行える。送信パワーの低減に連動させて受信ゲインを高めてもよい。
【0055】
例えば、図3に示すテーブル70に従って、収縮期又は拡張期が主観測期間として定められる。符号72は、検査者において選択可能な複数の弁を示している。具体的には、三尖弁(T)、僧房弁(M)、大動脈弁(A)及び肺動脈弁(P)の中の特定の弁を注目弁として選択し得る。また、符号74は、検査者において選択可能な複数の血流を示している。具体的には、収縮期(R)で生じ得る逆流及び拡張期(S)で生じる順流を選択し得る。弁閉鎖不全の場合には収縮期において高速の逆流が生じ得る。弁狭窄の場合には拡張期において高速の順流(過大順流)が生じ得る。
【0056】
各セル76には、注目弁と注目流の組み合わせごとに、主観測期間として設定されるべき収縮期又は拡張期が示されている。このように、検査者により指定された注目弁及び注目流の組み合わせから主観測期間が定められる。なお、プローブ当接方法によっては、プローブに対する流れの向きが逆転するが、注目流の発生期間は不変である。
【0057】
図4図6には、第1表示例~第3表示例が示されている。各表示例は、実施形態を分かり易く説明するためのものであり、実際のドプラ波形とは必ずしも一致しない。
【0058】
図4に示す第1表示例では、三尖弁が注目弁であり、逆流が注目流である。その組み合わせの場合、収縮期において注目流が生じるので、収縮流が主観測期間とされている。ドプラ波形80の横軸は時間軸であり、縦軸は周波数軸(速度軸)である。ベースライン82が速度0を示す場合、ベースライン82よりも上側の波形部分がプローブに近付く流れに相当し、ベースライン82よりも下側の波形部分がプローブから遠ざかる流れに相当する。
【0059】
ドプラ波形80の下側には心電信号波形84が示されている。心電信号波形84には、心拍周期ごとのR波86が含まれる。複数のR波86によって複数の心拍周期が区分される。上記のように、収縮期88A,88B,88Cがそれぞれ主観測期間として定められる。例えば、R波発生時点t1を基準としてそこから所定時間経過後の時点t2までが収縮期とみなされる。収縮期後の残余期間が拡張期つまり副観測期間とみなされる。各主観測期間には、逆流に相当する波形部分80Aが含まれ、特に最高流速に相当するピーク80Bが含まれる。
【0060】
心電信号波形84の下側には補助画像90が表示されている。補助画像90は、心拍周期ごとの主観測期間及び副観測期間を示す画像である。図示の例では、主観測期間は例えば実線92で表現され、副観測期間は例えば破線94で表現されている。主観測期間と副観測期間が互いに異なる色相で表現されてもよい。他の識別方法が採用されてもよい。
【0061】
ちなみに、ドプラ波形は、時間の経過に伴って成長する。ドプラ波形と共に、心電信号波形84及び補助画像90も時間の経過に伴って成長する。
【0062】
図5に示す第2表示例において、図4に示した要素と同一の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。このことは後に示す図6においても同様である。
【0063】
図5に示す第2表示例では、注目弁が大動脈弁であり、注目流が逆流である。その組み合わせの場合、拡張期において注目流が生じ、拡張期が主観測期間として定められる。図示の例では、ベースライン82よりも下側の部分が順流に相当し、ベースライン82よりも上側の部分が逆流に相当する。
【0064】
ドプラ波形100の下側には心電信号波形84が表示され、その下側には補助画像90が表示されている。各心拍周期は各R波86に基づいて画定される。R波発生時点t3から一定期間経過後の時点t4が拡張期の開始時点とされる。時点t4から一定期間後の時点t5までが拡張期である。各心拍周期において拡張期104A,104Bが特定され、それぞれが主観測期間とされる。各心拍周期において収縮期102A,102Bがそれぞれ副観測期間とされる。例えば、主観測期間内には逆流に相当する波形部分100Aが含まれ、特にピーク100Bが含まれている。
【0065】
図6に示す第3表示例においては、第1表示例の場合と同様、三尖弁が注目弁であり、逆流が注目流である。その組み合わせの場合、収縮期において注目流が生じ、収縮期が主観測期間とされている。但し、第1表示例と第3表示例の間では、プローブを当てる方向が逆になっている。すなわち、第3表示例では、ベースライン82よりも上側の波形部分が逆流に相当し、ベースライン82よりも下側の波形部分が順流に相当する。例えば、収縮期88Cである主観測期間内に、逆流に相当する波形部分106Aが生じている。特に、その期間内にピーク106Bが生じている。
【0066】
図7には動作例が示されている。S8においては、検査者により、注目弁及び注目流が指定される。それらの指定が送受信制御部において受け付けられる。送受信制御部は、注目弁と注目流の組み合わせに基づいて主観測期間として収縮期又は拡張期が指定される。S10では、Bモードの実行が開始され、検査者により、注目弁が断層画像上に現れるようにプローブの位置及び姿勢が調整される。S10において、CFMモードが選択されてもよい。S12では、フリーズ操作が行われ、フリーズされた断層画像上においてサンプルボリュームが設定される。
【0067】
S14では、CWドプラモードの実行が開始される。S16では、心電信号に基づいて主観測期間及び副観測期間が設定される。主観測期間では第1送信パワーで連続波が送信され、副観測期間では第2送信パワーで連続波が送信される。S18でフリーズ操作があったと判断された場合、図示の動作例では、S20で注目流の最高速度が計測される。
【0068】
図8には変形例が示されている。図8において、図1に示した構成要素と同様の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0069】
図8に示す変形例では、図1に示した構成に対して、ドプラ波形解析部110、判定部112及び断層画像解析部114が付加されている。
【0070】
ドプラ波形解析部110は、ドプラ波形の解析により、例えば、最高血流が収縮期で発生しているか拡張期で発生しているかを解析する。例えば、各心拍期間においてピーク発生タイミングを特定することにより、その識別を行える。
【0071】
判定部112は、ドプラ波形解析部110の解析結果に基づいて、主観測期間の設定の誤りの可能性、つまりユーザーの誤指定の可能性を判定する。その可能性が判定された場合には、判定部112は、表示器42にアラートが表示されるように制御を行う。アラートは、検査者に対して、誤指定の可能性を報知するための情報である。判定部112は報知部として機能する。
【0072】
以上の構成により、第2送信パワーが設定されている副観測期間において最高流速が生じる場合、検査者にアラートが表示される。そのような報知により、検査者において誤指定を是正することが可能となる。例えば、注目弁及び注目流の一方又は両方が是正される。主観測期間の設定それ自体が是正されてもよい。
【0073】
断層画像解析部114は、フリーズされた断層画像に基づいて、注目弁を特定するものである。例えば、機械学習型の画像推定器により断層画像解析部114が構成される。断層画像解析部114によれば検査者による注目弁の指定が不要となる。なお、ドプラ波形解析部110において、ドプラ波形に基づいて各心拍周期が特定されてもよい。その場合、心電信号に基づく心拍周期の特定が不要となる。
【0074】
上記実施形態によれば、副観測期間において送信パワーを低減できるので、プローブでの発熱量を抑制できる。主観測期間においては送信パワーを維持又は増強できるので、注目流を高感度で観測できる。PWドプラモードに上記制御を適用してもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 プローブ、24 断層画像形成部、26 表示処理部、28 ドプラ処理部、39 ドプラ波形生成部、44 主制御部、48 送受信制御部、50 生成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8