IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スタンレー電気株式会社の特許一覧

特許7449784MEMSデバイスの製造方法及びMEMSデバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】MEMSデバイスの製造方法及びMEMSデバイス
(51)【国際特許分類】
   B81C 1/00 20060101AFI20240307BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20240307BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20240307BHJP
   B81B 7/02 20060101ALI20240307BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B81C1/00
G02B26/10 104Z
G02B26/08 E
B81B7/02
B81B3/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020103309
(22)【出願日】2020-06-15
(65)【公開番号】P2021194740
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特許第3895507(JP,B2)
【文献】特開2016-115890(JP,A)
【文献】特開2012-009922(JP,A)
【文献】特開平06-260643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81C 1/00
G02B 26/10
G02B 26/08
B81B 7/02
B81B 3/00
H10N 30/20
H10N 30/082
H10N 30/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側表面、下側表面及び前記上側表面と前記下側表面との間の段差の表面である傾斜面を有する基板部と、前記上側表面と前記下側表面との間で延在する配線と、を備えたMEMSデバイスの製造方法であって、
前記基板部上に、前記配線の材料として、前記段差より小さい厚さを有する金属膜を成膜する第1工程と、
前記金属膜の表面上にフォトレジストを塗布する第2工程と、
前記傾斜面上の傾斜マスク部と、前記傾斜面から前記上側表面及び前記下側表面にそれぞれ延在する上側及び下側延在マスク部とからなる段差マスク部のライン幅が、前記傾斜マスク部から前記上側表面及び前記下側表面上をそれぞれ延在する上側表面マスク部及び下側表面マスク部のライン幅より広くなるように、前記フォトレジストのパターニングを行ってエッチングマスクを形成する第3工程と、
前記エッチングマスクを用いて前記金属膜をエッチングして、前記配線を形成する第4工程と、
を備え
前記フォトレジストは、ポジ型であり、
前記傾斜面は、PZTの圧電膜の結晶が露出して、前記傾斜面の長手方向に沿って配列された複数の半円柱状側面を有し、
前記半円柱状側面は、前記第3工程においての露光工程における、前記半円柱状側面からの散乱光の集光位置が、前記段差マスク部の前記下側延在マスク部の側縁に位置する形状を有することを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のMEMSデバイスの製造方法において、
前記段差マスク部と前記下側表面マスク部との境界は、前記傾斜面の下端からライン方向に前記段差の1.6倍以上の長さ、離れていることを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。
【請求項3】
請求項2記載のMEMSデバイスの製造方法において、
前記段差マスク部と前記下側表面マスク部との境界は、前記傾斜面の下端から前記ライン方向に前記段差の1.6倍と、前記パターニングにおけるアライメントのずれとして予め設定してある設定値との和の長さ以上、離れていることを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のMEMSデバイスの製造方法において、
前記段差マスク部のライン幅の両端は、前記下側表面マスク部のライン幅の両端からライン幅方向の外側に前記段差の0.6倍以上の長さ、離れていることを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。
【請求項5】
請求項4記載のMEMSデバイスの製造方法において、
前記段差マスク部のライン幅の両端は、前記下側表面マスク部のライン幅の両端から前記ライン幅方向の外側に前記段差の0.6倍と、前記パターニングにおけるアライメントのずれとして予め設定してある設定値との和の長さ以上、離れていることを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のMEMSデバイスの製造方法において、
前記基板部は、前記上側表面及び前記下側表面の下に共通の基板を有し、前記上側表面の下には、さらに、前記基板の上に積層されて圧電膜層を含む積層部を有していることを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。
【請求項7】
請求項記載のMEMSデバイスの製造方法において、
前記MEMSデバイスは、MEMSの光偏向器であることを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器(Micro Electro Mechanical Systems)等のMEMSデバイスの製造方法及びMEMSデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
MEMSデバイスとして製造される光偏向器は、圧電アクチュエータに駆動電圧を供給するため、配線が表面側に形成される。光偏向器の表面側は、圧電膜層等の積層のために、段差が生じているので、配線は、段差の傾斜面の表面に傾斜線部を有することになる。
【0003】
一方、MEMSデバイスの配線は、半導体素子と同様に、フォトリソグラフィを使用して、製作される。
【0004】
特許文献1は、半導体デバイスの配線を形成する際、配線の導電性薄膜がサイドエッチングによりライン幅がくびれて減少し、断線し易くなることに対処する方法を開示する。該方法では、くびれて幅狭になり易い箇所は、該箇所に対するフォトマスクのパターニング線を曲線又は折れ線にして、くびれが生じても、所望のライン幅が確保されるようにしている。
【0005】
特許文献2は、表面が配線により凹凸になることを防止する半導体デバイスを開示する。該半導体デバイスによれば、表面に溝を形成し、配線を該溝内に少なくとも部分的に埋設し、表面が平滑化されるようにしている。その場合、配線は、溝内に出入りする際、溝の段差を通ることになって、断線を起こし易くなる。この対策として、特許文献2では、配線において、段差を含む所定の線部のライン幅をその前後の線部のライン幅より幅広にする。
【0006】
特許文献3は、表面側に段差を有し、配線が段差の傾斜面を通って延在する半導体デバイスを開示する。該半導体デバイスでは、配線は、肩部、すなわち傾斜面を上り切った上側表面における傾斜面側の端部において太くして(ライン幅又は配線厚さを大きくして)、断線を防止している。
【0007】
なお、ライン幅を全体にわたり、幅広にすることは、断線対策としては、有効である。しかし、このことは、配線と基板との間の容量を増大させ、クロストークを増大させてしまう。したがって、MEMSデバイスの表面側のライン幅は、断線を防止できる範囲で、極力、幅狭であることが望ましい。また、クロストーク抑制のために、基板をアースに接続することは、構成の複雑化及びコストの増大になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭62-280890号公報
【文献】特許第3895507公報
【文献】特開2009-253035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、フォトリソグラフィを利用して、MEMSデバイスを製造するときに、MEMSデバイスの表面側の傾斜面で散乱光が発生し、該散乱光によるフォトレジストの二次露光のために、エッチング時に傾斜面及びその近傍においてライン幅が縮小し、これが断線につながる可能性が高いという知見を得た。
【0010】
特許文献1~3は、フォトリソグラフィ時の傾斜面からの散乱光に対処するパターニングについて開示するものではない。
【0011】
すなわち、特許文献1は、パターニングは正常であるにも関わらず、オーバエッチング及びサイドエッチングに因るライン幅の縮小に対処するものである。そして、特許文献1の配線は、傾斜面の線部だけを幅狭にするものではなく、配線全長にわたり幅広とする。これは、クロストークの増大につながってしまう。
【0012】
特許文献2のMEMSデバイスの配線は、溝の側壁としての段差の表面上で幅広になっている。しかしながら、溝は、MEMSデバイスの表面の平滑化のために、隆起の原因になる配線を少なくとも部分的に埋設するために、形成されているものである。すなわち、溝の深さが配線の厚さより大きかったり、溝の幅がライン幅より大き過ぎると、溝の場所が周囲よりへこんでしまったりし、MEMSデバイスの表面の平滑化を阻害してしまう。換言すると、溝の幅は、ほぼライン幅に等しい。このような溝の段差では、フォトレジストの二次露光につながる散乱光は生じない。
【0013】
特許文献3は、配線において、肩部、すなわち上側表面の傾斜面側の端部における線部を幅広にするものである。配線において傾斜面における線部を幅広にするものではない。
【0014】
本発明の目的は、クロストークの原因になるライン幅の増大を抑えつつ、配線に関して信頼性の高いMEMSデバイスの製造方法及びMEMSデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のMEMSデバイスの製造方法は、
上側表面、下側表面及び前記上側表面と前記下側表面との間の段差の表面である傾斜面を有する基板部と、前記上側表面と前記下側表面との間で延在する配線と、を備えたMEMSデバイスの製造方法であって、
前記基板部上に、前記配線の材料として、前記段差より小さい厚さを有する金属膜を成膜する第1工程と、
前記金属膜の表面上にフォトレジストを塗布する第2工程と、
前記傾斜面上の傾斜マスク部と、前記傾斜面から前記上側表面及び前記下側表面にそれぞれ延在する上側及び下側延在マスク部とからなる段差マスク部のライン幅が、前記傾斜マスク部から前記上側表面及び前記下側表面上をそれぞれ延在する上側表面マスク部及び下側表面マスク部のライン幅より広くなるように、前記フォトレジストのパターニングを行ってエッチングマスクを形成する第3工程と、
前記エッチングマスクを用いて前記金属膜をエッチングして、前記配線を形成する第4工程と、
を備える。
【0016】
本発明によれば、第3工程におけるエッチングマスクは、段差マスク部のライン幅が、下側表面マスク部及び上側表面マスク部のライン幅より広くされる。これにより、第4工程の金属膜のエッチングでは、フォトレジストが傾斜面からの散乱光により二次露光されても、配線の金属膜は、十分なライン幅が確保され、傾斜面及びその近傍表面上の配線の断線を防止することができる。
【0017】
本発明によれば、配線幅の増大は、傾斜面の範囲に限定されるので、基板をアースに接続するアース線の設置を省略することができる。
【0018】
好ましくは、本発明のMEMSデバイスの製造方法において、
前記段差マスク部と前記下側表面マスク部との境界は、前記傾斜面の下端からライン方向に前記段差の1.6倍以上の長さ、離れている。
【0019】
この構成によれば、幅広の配線範囲をライン方向に適切に設定することができる。
【0020】
好ましくは、本発明のMEMSデバイスの製造方法において、
前記段差マスク部と前記下側表面マスク部との境界は、前記傾斜面の下端から前記ライン方向に前記段差の1.6倍と、前記パターニングにおけるアライメントのずれとして予め設定してある設定値との和の長さ以上、離れている。
【0021】
この構成によれば、パターニングにおけるアライメントのずれも考慮して、幅広の配線範囲をライン方向に適切に設定することができる。
【0022】
好ましくは、本発明のMEMSデバイスの製造方法において、
前記段差マスク部のライン幅の両端は、前記下側表面マスク部のライン幅の両端からライン幅方向の外側に前記段差の0.6倍以上の長さ、離れている。
【0023】
この構成によれば、幅広の配線範囲のライン幅を適切に設定することができる。
【0024】
好ましくは、本発明のMEMSデバイスの製造方法において、
前記段差マスク部のライン幅の両端は、前記下側表面マスク部のライン幅の両端から前記ライン幅方向の外側に前記段差の0.6倍と、前記パターニングにおけるアライメントのずれとして予め設定してある設定値との和の長さ以上、離れている。
【0025】
この構成によれば、パターニングにおけるアライメントのずれも考慮して、幅広の配線範囲のライン幅を適切に設定することができる。
【0026】
好ましくは、本発明のMEMSデバイスの製造方法において、
前記フォトレジストは、ポジ型であり、
前記傾斜面は、PZTの圧電膜の結晶が露出して、前記傾斜面の長手方向に沿って配列された複数の半円柱状側面を有し、
前記半円柱状側面は、前記第3工程においての露光工程における、前記半円柱状側面からの散乱光の集光位置が、前記段差マスク部の前記下側延在マスク部の側縁に位置する形状を有する。
【0027】
この構成によれば、傾斜面の半円柱状側面部からの散乱光を利用して、配線にくびれ部を形成し、下側表面からの配線の剥がれを防止することができる。
【0028】
好ましくは、本発明のMEMSデバイスの製造方法において、
前記基板部は、前記上側表面及び前記下側表面の下に共通の基板を有し、前記上側表面の下には、さらに、前記基板の上に積層されて圧電膜層を含む積層部を有している。
【0029】
この構成によれば、圧電膜層を備えるMEMSデバイスの製造方法として適切に実施することができる。
【0030】
好ましくは、本発明のMEMSデバイスの製造方法において、
前記MEMSデバイスは、MEMSの光偏向器である。
【0031】
この構成によれば、MEMSデバイスの光偏向器の製造方法として適切に実施することができる。
【0032】
本発明のMEMSデバイスは、
上側表面、下側表面及び前記上側表面と前記下側表面との間の段差の表面である傾斜面を有する基板部と、前記上側表面と前記下側表面との間で延在する配線と、を備えたMEMSデバイスであって、
前記配線は、
前記傾斜面上の傾斜延在部と、前記傾斜面から前記上側表面及び前記下側表面にそれぞれ延在する上側及び下側延在部とからなる段差線部と、
前記段差線部から延び出してそれぞれ前記上側表面及び前記下側表面上に延在する上側表面線部及び下側表面線部と、
を備え、
前記配線は、全長にわたり前記段差より小さい厚さを有し、
前記配線のライン幅は、前記段差線部において前記上側表面線部及び前記下側表面線部より広い。
【0033】
本発明のMEMSデバイスによれば、クロストークを抑制しつつ、配線の断線を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】光偏向器の正面図である。
図2図1のA2における配線の延在状態を示す図である。
図3A】傾斜面における配線構造の模式図である。
図3B】第1比較例としての配線構造の模式図である。
図3C】第2比較例としての配線構造の模式図である。
図3D】第3比較例としての配線構造の模式図である。
図4】MEMSデバイスにおけるクロストークの説明図である。
図5A】光偏向器の製造方法を工程順に示す概略説明図である。
図5B図5Aの工程に続く工程を工程順に示す光偏向器の製造方法の概略説明図である。
図6A】多層板の断面における散乱光の到達範囲の解析図である。
図6B】傾斜面に因る配線の幅方向の散乱光の到達範囲を説明する平面図である。
図7】傾斜面の電子顕微鏡写真である。
図8】半円柱状側面からの散乱光により生成されたくびれ部を有する配線構造を示す図である。
図9A】所定の試作品において散乱光により配線にくびれ部が実際に形成されることを調べたときの電子顕微鏡写真である。
図9B】多層板において図9Aのくびれ部の箇所に対応する部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本発明は、実施形態に限定されないことは、言うまでもない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々に変形して実施可能である。図面全体を通して、同一の構成要素に対しては、同一の符号を付けている。
【0036】
(MEMSデバイス)
図1は、光偏向器10の正面図である。ここで、構成を説明する便宜上、3軸座標系を定義する。光偏向器10の周輪郭は、光偏向器10の正面視で矩形となっている。X軸及びY軸は、それぞれ光偏向器10の長辺及び短辺に平行である。Z軸は、光偏向器10の厚さ方向に平行である。
【0037】
図1は、光偏向器10を作動停止時の状態で示している。光偏向器10の作動時では、光偏向器10の可動部分は、図1に示されている状態から変位する。
【0038】
MEMSの光偏向器10は、ミラー部11、トーションバー12a,12b、内側圧電アクチュエータ13a,13b、可動枠14、外側アクチュエータ15a,15b及び固定枠16を備える。
【0039】
ミラー部11は、光偏向器10の中心に位置し、この例では、円形になっている。入射ビームBiは、不図示の光源からミラー部11の中心Oに入射する。ミラー部11は、内側圧電アクチュエータ13(内側圧電アクチュエータ13a,13bの総称)及び外側アクチュエータ15(外側アクチュエータ15a,15bの総称)の作動により中心Oで直交する第1回転軸22y及び第2回転軸22xの2軸の回りに往復揺動する。これにより、入射ビームBiは、ミラー部11において反射して、走査ビームBsとなって、ミラー部11から出射する。走査ビームBsは、その照射領域においてラスタースキャンする。
【0040】
内側圧電アクチュエータ13a,13bは、X軸方向にミラー部11の両側に配置され、第1回転軸22y上で相互に結合して、環状体を形成する。該環状体は、Y軸方向の両側が半円で、中間が直線の輪郭を有し、ミラー部11を包囲している。
【0041】
可動枠14は、内側圧電アクチュエータ13(内側圧電アクチュエータ13a,13bの総称)と同一の形状を有し、内側圧電アクチュエータ13を包囲する。
【0042】
トーションバー12a,12bは、ミラー部11からY軸方向にそれぞれ反対方向へ突出し、第1回転軸22yに沿って延在する。各トーションバー12(トーションバー12a,12bの総称)は、先端において可動枠14の内周に結合し、中間部において内側圧電アクチュエータ13に結合している。
【0043】
外側アクチュエータ15a,15bは、可動枠14に対してX軸方向の各側に配置され、可動枠14と固定枠16との間に介在している。外側アクチュエータ15(外側アクチュエータ15a,15bの総称)は、ミアンダパターンの配列で直列に結合した複数のカンチレバー18から構成されている。各連結部24は、X軸方向に隣り合っているカンチレバー18同士を相互に連結している。
【0044】
各カンチレバー18は、専用の圧電膜層60(図5A)を有し、該圧電膜層60に駆動電圧が印加されて、Z軸方向に湾曲する。X軸方向に隣り合うカンチレバー18同士は、相互に逆位相の駆動電圧が印加される。これにより、各カンチレバー18の両端間のZ軸方向の変位量が加算され、可動枠14をX軸に平行な回転軸の回りに大きな振れ角で往復回動させる。
【0045】
電極パッド20a,20bは、固定枠16の短辺部に形成される。光偏向器10は、不図示のパッケージに封入されて、使用される。その際、各電極パッド20(電極パッド20a,20bの総称)は、パッケージ側の対応電極に不図示のボンディングワイヤにより接続される。各電極パッド20は、光偏向器10内の配線25(図2)を介して内側圧電アクチュエータ13及び可動枠14に接続されて、駆動電圧を供給する。
【0046】
光偏向器10の作用について簡単に説明する。内側圧電アクチュエータ13は、トーションバー12を介してミラー部11を第1回転軸22yの回りに共振周波数(例えば、約1.6kHz)で往復回動させる。外側アクチュエータ15は、可動枠14をX軸に平行な回転軸の回りに非共振周波数(例えば、60Hz)往復回動させる。これにより、ミラー部11は、それぞれ第2回転軸22x及び第1回転軸22yの回りに往復回動する。光偏向器10の作動中、ミラー部11が真正面を向いた時には、第2回転軸22x及び第1回転軸22yは、それぞれX軸及びY軸に平行となる。
【0047】
なお、内側圧電アクチュエータ13及び外側アクチュエータ15は、共に、ユニポーラ型の圧電アクチュエータである。
【0048】
(内部配線)
図2は、図1のA2における配線25の延在状態を示す図である。A2は、X軸方向に隣り合うカンチレバー18と、それらの間の連結部24とを含んでいる。
【0049】
図2では、内部配線としての配線25の延在状態を分かり易くするために、Z軸方向(積層方向)に表面側の被覆層をはぎ取って、配線25を露出状態で示している。
【0050】
カンチレバー18は、連結部24より隆起している。この結果、連結部24の表面としての下側表面29は、カンチレバー18の表面としての上側表面30より低くなっている。そして、段差としての傾斜面32が下側表面29と上側表面30との間に形成される。
【0051】
(配線構造)
図3Aは、傾斜面32における配線構造の模式図である。図3B図3Dは、比較例としての配線構造の模式図である。
【0052】
図3Aにおいて、配線25は、下側表面29、傾斜面32及び上側表面30の各表面をそれぞれ延在する下側表面線部35、段差線部36及び上側表面線部37を有している。換言すると、下側表面線部35及び上側表面線部37は、段差線部36の上側及び下側の端から下側表面29及び上側表面30に延び出している。
【0053】
段差線部36は、下側表面線部35から上側表面線部37へ順番に下側延在部36a、傾斜延在部36b及び上側延在部36cを有している。図3Aは、段差線部36の拡大部分を含んでいる。
【0054】
段差線部36における下側延在部36a、傾斜延在部36b及び上側延在部36cの範囲を明確にするために、図3Aには、境界線38a,38b,38c,38dを記載している。境界線38aは、下側表面線部35と下側延在部36aとを仕切る線である。境界線38bは、傾斜面32の下端に沿って延在し、下側延在部36aと傾斜延在部36bとを仕切る。境界線38cは、傾斜面32の上端に沿って延在し、傾斜延在部36bと上側延在部36cとを仕切る。段差線部36は、上側延在部36cと上側表面線部37とを仕切る。
【0055】
下側表面線部35及び上側表面線部37のライン幅Wは、標準値Wsとされる。これに対し、段差線部36のライン幅Wは、標準値Ws以上の拡大値Wb(Wb≧Ws又はWb>Ws>)とされる。標準値Wsは、水平な平面上の配線25の断線を回避しつつ、配線25に因るクロストークをー20dB以下(後述の(表1)参照)に保持する値として設定される。Wbは、傾斜面32における配線25の断線を防止する値としてWs以上の値に設定される。
【0056】
図3B及び図3Cは、それぞれ第1比較例及び第2比較例の配線構造図である。第1比較例では、ライン幅は、全体にわたり等幅のWsとされている。第2比較例では、ライン幅は、上側表面30の表面の傾斜面32側の端部の延在部分において幅広のWbとされ、その他の延在部分は標準のWsとされる。第1比較例(図3B)は、従来の一般的なMEMSデバイスにおける配線構造である。第2比較例(図3C)は、例えば、特許文献3に開示されている配線構造である。
【0057】
図3Cの配線構造には、さらに、アース線42が追加されている。アース線42については、特許文献3には開示されていない。アース線42は、半導体デバイス又はMEMSデバイスの基板45をアースに接続し、クロストークを防止する役割がある。
【0058】
(クロストーク)
図4は、MEMSデバイス44におけるクロストークの説明図である。MEMSデバイス44は、基板45と、基板45の表面に積層された入力側アルミ配線46及び出力側アルミ配線47とを備える。入力側アルミ配線46及び出力側アルミ配線47は、基板45の表面を相互に平行に延在している。基板45は、SOI(Silicon on Insulator)50と、SOI50の表面側及び裏面側に形成された酸化膜層51a,51bとを備える。
【0059】
入力側アルミ配線46及び出力側アルミ配線47は、基板45の酸化膜層51aを間に挟んでSOI50と対向している。この結果、入力側アルミ配線46-出力側アルミ配線47間には、基板45を経由するクロストーク回路53が生成される。クロストーク回路53は、コンデンサ54a、抵抗55及びコンデンサ54bの直列回路から構成される。クロストーク回路53において、入力側アルミ配線46及び出力側アルミ配線47の直下の酸化膜層51aの箇所は、コンデンサ54a,54bとして作用し、SOI50は、抵抗55として作用する。
【0060】
コンデンサ54a,54bの容量は、入力側アルミ配線46及び出力側アルミ配線47のライン幅Wに比例する。また、抵抗55で消費される電力は、入力側アルミ配線46及び出力側アルミ配線47を流れる電流Ictに比例する。クロストークを減少させるためには、可及的にライン幅Wを小さくすることが望ましい。
【0061】
図3Bのように、傾斜面32における配線25の断線を防止するために、配線25の長さ全体にわたり、配線25のライン幅を一律に幅広にすることは、傾斜面32における断線対策としては優れるが、クロストークを増大させてしまう。逆に一律に幅狭にすることは、クロストーク対策には優れるが、断線が生じ易くしてしまう。また、図3Cのように、基板45をアース線42で電圧=0Vにすることは、MEMSデバイス44の構造を複雑にし、コストを増大させる。
【0062】
次の(表1)は、入力側アルミ配線46の信号の周波数、並びに入力側アルミ配線46及び出力側アルミ配線47のライン幅Wと、クロストーク量との関係を示している。クロストーク量は、入力側アルミ配線46aの信号電力÷入力側アルミ配線46bの信号電力とする。
【0063】
【表1】
【0064】
上記(表1)より、20000Hzにおけるクロストーク量をー20dB以下に抑えるのであれば、ライン幅W≦10μmにする必要があることが理解される。
【0065】
(製造方法)
図5A及び図5Bは、光偏向器10の製造方法の概略説明図である。該製造方法では、工程がSTEPの番号順に実施される。図5A及び図5Bの各断面図は、例えば、図2の傾斜面32の範囲の断面となっている。
【0066】
STEP1では、多層板58が用意される。多層板58は、基板45と、基板45の表面に積層される積層部57とを備える。多層板58は、本発明の基板部に相当する。積層部57は、下から順に下側電極層59、圧電膜層60及び上側電極層61を備える。圧電膜層60の材料は、例えばPZT(チタンジルコン酸鉛)である。
【0067】
STEP2では、エッチングにより下側表面29、上側表面30及び傾斜面32が形成される。傾斜面32は、下側表面29と上側表面30との間の段差を構成する。
【0068】
STEP3では、多層板58の表面側に層間絶縁膜63と金属膜としてのアルミ膜層65とを順番に成膜する。
【0069】
STEP4では、ポジ型のフォトレジスト66が、アルミ膜層65の上に成膜される。フォトレジスト66の表面は、同一の高さに揃えられる。
【0070】
STEP5では、フォトマスク69が、多層板58の表面に対して平行に多層板58に対向してアライメントされる。そして、フォトマスク69の露光パターン70を介して多層板58の表面をUV光(紫外光)71で露光する。また、露光パターン70は、配線25の形成に必要な遮光及び露光のパターニングを備える。該パターニングには、配線25のライン幅を決めるパターニング線が含まれる。
【0071】
STEP6では、フォトレジスト66を現像する。これにより、フォトレジスト66のうちSTEP5で露光された領域は除去され、露光されなかった領域はエッチングマスクとなる。STEP6では、さらに、このエッチングマスクを用いて、多層板58の表面側からアルミ膜層65をエッチングする。この結果、配線25が、傾斜面32を通って、下側表面29-上側表面30間に形成される。
【0072】
図5BのSTEP6bは、従来技術のSTEP6の現像後のエッチングマスク67(現像後のフォトレジスト66)の問題点を指摘している。STEP6bの図は、断面図ではなく、平面図である。また、参考のために、散乱光75もSTEP5における図示している。
【0073】
発明者の知見では、STEP5において、UV光71が傾斜面32で反射し、散乱光75となって周囲に発散し、一部の散乱光75は、本来は遮光しなければならない配線25の直上のフォトレジスト66を露光してしまう。この結果、上側表面30の傾斜面32側の配線25の相当部分のエッチングマスク67に極端に細い狭窄部74が形成されてしまう。該狭窄部74は、その後のアルミ膜層65のエッチングにおいて、図3Bの切断部41の発生原因になる。
【0074】
このような散乱光75の対処方法を以下に説明する。なお、STEP6bの平面図において、A6a-A6a線は、STEP6の断面の位置を示している。また、A6b-A6b線は、次の図6Aの断面の位置を示している。U1,U2については、図6Bで説明する。
【0075】
(散乱光対策)
図6Aは、多層板58の断面における散乱光75の到達範囲の解析図である。図6Aは、図5BのA6b-A6b断面でもある。図6Aでは、エッチングマスク67は、多層板58の表面全体を覆っている。
【0076】
図6Aにおいて、各記号の定義は、次のとおりである。なお、La1~La4は、該断面における水平方向(横方向)の長さであり、Lsは、該断面における垂直方向(縦方向)の長さである。
【0077】
Rl:散乱光75が所定強度以上で到達できる距離。なお、Rlの起点は、傾斜面32の下端である。
Cu:傾斜面32の上方向延長線
Ls:傾斜面32の段差
La1:Rlの範囲内にあって、傾斜面32の上端より上側表面30側の長さ。La1は、後述の設定値La4を含めて設定ざれる。
La2:傾斜面32の長さ
La3:=Rl
La4:パターニングにおける配線25のライン方向のパターニングにおける配線25のライン方向のアライメントのずれとして予め設定してある設定値。
Ls:垂直方向の傾斜面32の長さ(段差)
【0078】
次の(式1)が成り立つ。
散乱光75の強度=La2÷2・π・Rl・・・(式1)
【0079】
Rlを、UV光71の強度に対してー20dB(=0.1)の散乱光75の到達距離とすると、(式1)は、次の(式2)のようになる。
Rl=La2÷2・π÷0.1=La2×1.6・・・(式2)
【0080】
傾斜面32の傾斜角を45~60°とすると、La2≒Lsである。換言すると、散乱光75に因る下側表面29上の配線25のライン幅の縮小にも関わらず、該ライン幅を標準値Ws以上に確保するためのエッチングマスク67を形成するためには、境界線38aは、配線25の延在方向に傾斜面32の下端から下側表面29の方へ配線25に沿って1.6・Ls(=La3)以上離れた箇所に設定する必要がある。
【0081】
望ましくは、パターニングにおける配線25のライン方向のアライメントのずれを考慮して、境界線38aは、配線25のライン方向に傾斜面32の下端から1.6・Ls(=La3)の長さとLa4との和の長さ以上離れた箇所に設定する必要がある。
【0082】
図6Bは、傾斜面32に因る配線25の幅方向の散乱光75の到達範囲を説明する平面図である。図6Bにおいて、各記号の定義は、次のとおりである。
U1:傾斜面32におけるエッチングマスク67の一側の側縁を通る直線
78:U1と境界線38bとの交点
Rw:交点78からの散乱光75が所定強度以上で到達できる距離。
U2:境界線38b上で交点78からRw、内側の位置
【0083】
次の(式3)が成り立つ。
散乱光75の強度=La2÷4・π・Rw・・・(式3)
【0084】
Rwを、UV光71の強度に対してー20dB(=0.1)の散乱光75の到達距離とすると、(式3)は、次の(式4)のように変換される。
Rw=√((La)÷4・π÷0.1)=La2×0.6・・・(式4)
【0085】
傾斜面32の傾斜角を45~60°とすると、La2≒Lsである。換言すると、散乱光75に因る境界線38a-境界線38b間のエッチングマスク67のライン幅の減少にも関わらず下側表面29上の配線25のライン幅を標準値Ws以上にするためには、U1は、U2より境界線38bに沿って外側に0.6・Ls(=La3)以上離れた箇所に設定する必要がある。
【0086】
さらに、パターニングにおける配線25のライン幅方向のアライメントのずれを考慮すると、散乱光75に因る境界線38a-境界線38b間のエッチングマスク67の幅の減少にも関わらず下側表面29上の配線25のライン幅を標準値Ws以上にするためには、U1は、U2より境界線38bに沿って外側に0.6・Ls(=La3)とパターニングにおける配線25のライン幅方向のアライメントのずれとして予め設定してある設定値(該ライン幅方向の設定値は、前述のライン方向の設定値La4に等しくしてもよい。)との和の長さ以上離れた箇所に設定する必要がある。
【0087】
(別の実施形態)
図7は、傾斜面32の電子顕微鏡写真である。傾斜面32は、圧電膜層60が露出するので、平面ではなく、圧電膜層60のPZTの各結晶の半円柱状の面である半円柱状側面82が露出する。そして、傾斜面32は、下側表面29との境界線の延在方向に(傾斜面32の長手方向に)配列された複数の半円柱状側面82を有している。
【0088】
半円柱状側面82に露出している半円柱状側面82は、圧電膜層60のPZTの結晶として同一寸法で同一形状の側面となっている。半円柱状側面82は、STEP5においての露光工程における、半円柱状側面82からの散乱光75の集光位置が、エッチングマスク67の段差マスク部の下側延在マスク部の側縁に位置する形状を有する。散乱光75の集光位置を利用して、配線25の段差線部36の剥がれの防止に役立つくびれ部85(図8)を下側延在部36aに形成することが可能である。
【0089】
図8は、半円柱状側面82からの散乱光75により生成されたくびれ部85を有する配線構造を示す図である。
【0090】
半円柱状側面82からの散乱光75は、配線25の段差線部36の下側延在部36aの側縁の特定の部位に集光する。この結果、図8に図示するように、該箇所に溝86が形成される。そして、幅方向の両側の溝86の間は、くびれ部85となって、ライン幅が減少する。くびれ部85及び溝86の意義について、次に説明する。
【0091】
図9Aは、所定の試作品において散乱光75により配線25にくびれ部85が実際に形成されることを調べたときの電子顕微鏡写真である。該試作品では残存の線幅5μmを目標にして、線幅40μmのアルミニウムの配線25を作成した。図9Aからくびれ部85が形成されていることが確認できた。
【0092】
図9Bは、多層板58において図9Aのくびれ部85の箇所に対応する部分の断面図である。該断面図は、前述の図5BのSTEP6の後、エッチングマスク67を除去し、さらに、その後、表面を絶縁膜91で被覆する工程があり、該工程における断面図に相当する。
【0093】
図9Bにおいて、くびれ部85の両側の溝86には、絶縁膜91が入り込んでいる。絶縁膜91は、配線25の表面を被覆するとともに、溝86に入り込んで、配線25の側縁に固着し、絶縁膜91は、配線25を下側表面29に強固に固着させる。この結果、光偏向器10の稼働時に圧電膜層60が動作した場合においても、配線25が下側表面29の表面から剥がれるのが防止される。これにより、光偏向器10の信頼性が高まる。また、くびれ部85の分だけアルミ配線の面積が減るため、クロストークの改善にも寄与する。
【0094】
(変形例及び補足説明)
本発明の第1工程及び第2工程は、実施形態のSTEP3及びSTEP4にそれぞれ対応する。本発明の第3工程は、実施形態のSTEP5とSTEP6の前半とに対応する。本発明の第4工程は、実施形態のSTEP6の後半に対応する。
【0095】
本発明の金属膜は、実施形態のアルミ膜層65に対応する。本発明の金属膜の材料は、アルミニウムに限定されない。アルミニウムにCuやNdなどの他金属を6%未満で含有する他金属であってもよい。
【0096】
図5A等の実施形態において、酸化膜層51aの膜厚は、300nm以上で、望ましくは1000nmである。配線25の膜厚は、500nmが望ましい。また、配線25の膜厚が500nmである場合、配線太さ(径)は電流量1μA当たり1μm以上であることが望ましい。配線25のライン幅は、電極パッド20μm以下であることが好ましい。
【0097】
本発明の製造方法が適用される製造方法は、実施形態の光偏向器10に限定されない。該製造方法は、MEMSデバイスの圧電膜層の有無に関係なく、適用可能になっている。
【0098】
実施形態では、段差線部36は、上側延在部36cを備えている。本発明はでは、段差線部は、上側延在部36cを備えていなくてもよい。
【0099】
実施形態の製造方法で製造される光偏向器10は、配線25のライン幅Wは、全長にわたり幅広の拡大値Wbとされることなく、下側表面29及びその近辺の延在部分のみが拡大値Wbとなる。したがって、図3Dに図示したアース線42を省略して、クロストークを抑制することができる。
【0100】
実施形態では、フォトリソグラフィでの露光用光は、UV光71が使用されている。本発明では、UV光71に代えて他の露光用光を使用してもよい。
【符号の説明】
【0101】
10・・・光偏向器(MEMSデバイス)、25・・・配線、29・・・下側表面、30・・・上側表面、32・・・傾斜面、35・・・下側表面線部、36・・・段差線部、36a・・・下側延在部、36b・・・傾斜延在部、36c・・・上側延在部、37・・・上側表面線部、57・・・積層部、58・・・多層板、59・・・下側電極層、60・・・圧電膜層、61・・・上側電極層、65・・・アルミ膜層、66・・・フォトレジスト、67・・・エッチングマスク、69・・・フォトマスク、71・・・UV光、75・・・散乱光、82・・・半円柱状側面、85・・・くびれ部、86・・・溝。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B