(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】除去式アンカー工法の止水方法、除去式アンカー工法におけるストランドの除去方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/80 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
E02D5/80 A
(21)【出願番号】P 2020108792
(22)【出願日】2020-06-24
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】391019740
【氏名又は名称】三信建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】篠原 洋子
(72)【発明者】
【氏名】原田 良信
(72)【発明者】
【氏名】塚越 梓
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-153410(JP,A)
【文献】特開2007-231701(JP,A)
【文献】特開平05-059724(JP,A)
【文献】特開2008-088772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22- 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除去式アンカー工法においてストランドをシースから除去する際に、
ループ状に曲げ返したストランドの引き抜き側端部とは別の端部に、ロープ状の止水手段を接続し、
前記ストランドの引き抜きと同時に前記ロープ状の止水手段がシース内に挿入されるように、前記ストランドを引き抜くことを特徴とする除去式アンカー工法の止水方法。
【請求項2】
除去式アンカー工法においてストランドをシースから除去する際に、
ループ状に曲げ返したストランドの引き抜き側端部とは別の端部に、ロープ状の止水手段を接続し、
前記ストランドの引き抜きと同時に前記ロープ状の止水手段がシース内に挿入されるように、前記ストランドを引き抜くことを特徴とする除去式アンカー工法におけるストランドの除去方法。
【請求項3】
前記ロープ状止水手段は、シース内径とほぼ同径で、止水材を塗布したロープで構成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループ状に曲げ返したストランド(アンボンドPC鋼より線)を耐荷体と組み合わせた機構を用いた除去式アンカー工法に関するものであって、山留め等の構築完了後に地中障害物となるストランドを引き抜き撤去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は、除去式アンカー工法の施工例を示す断面図である。
図4は、
図3に示す除去式アンカー工法の作業手順を示す工程図である。
除去式アンカー工法は、都市部の建築物築造に伴う山留め壁の反力を負担するために施工されるものである。
図3に示すとおり、除去式アンカー工法では、アンボンドPC鋼より線83を使用する。このアンボンドPC鋼より線83は、ストランド85を、ポリエチレンなどのシース87に収め、空隙にグリス89を充填したもので構成される。
【0003】
除去式アンカー工法は、グラウト材硬化後に
図4(a)に示すようにストランド85を緊張させることで山留等の構造物に反力を与えるものである。山留め等の構築完了後には、
図4(b)に示すように、地中障害物となるストランドをガス切断して荷重を解放し、次いで、
図4(c)に示すように台座を取外す。そして、
図4(d)に示すように、クレーン車やレッカー車、油圧ジャッキなどを用いてストランド85をシース87から容易に引き抜き撤去することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のとおり、地中障害物となるストランド85は引き抜くことができるが、ストランド引抜後に地中にはシース87が残るため、このシース87に損傷があると
図5に示すようにシース87の内部に地下水(自由水・被圧水)が入り込み、口元部(アンカー頭部)から湧水を引き起こす懸念がある。そのため、
図4(e)(f)に示すように、口元部に止水装置等の取り付けや止水材の注入等を行う必要がある。
【0005】
また、クレーン車等でストランド85を引抜いた直後に
図6に示すようにストランド85が巻き付いたり跳ね上がったりするため非常に危険であり、ストランド85の挙動に対する安全対策が必要である。さらに、この時シース87内に充填されているグリスの飛散も起こることから、グリスの飛散に対する周辺の構造物等の養生や飛散物の清掃が必要である。
【0006】
そこで上述した従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、除去式アンカー工法において、ストランド引抜時のシース内からの湧水を防ぐことが出来る方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、除去式アンカー工法において、効率的かつ安全性が高くストランドの引抜が出来る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決すべく、本発明に係る方法は次の特徴を含んでいる。
(1)
図1に示すようにループ状に曲げ返したストランド5の引き抜き側とは別の端部に、シース内径と同径の止水材を塗布したロープ21を接続する。このロープ21はストランド5の引き抜きと同時にシース7内に挿入される。これによりシース7内に止水体ができ、シース7が破損しても地下水の浸水を防ぐことができる。
(2)
図2に示すようにストランド5の端部にロープ21が接続されているため、ストランド5を引抜いた直後に当該ストランドが巻き付いたり跳ね上がったりすることを防ぐことができる。
【0008】
すなわち、前述した目的は、除去式アンカー工法においてストランドをシースから除去する際に、ループ状に曲げ返したストランドの引き抜き側端部とは別の端部に、ロープ状の止水手段を接続し、前記ストランドの引き抜きと同時に前記ロープ状の止水手段がシース内に挿入されるように、前記ストランドを引き抜くことによって達成される。この方法で使うロープ状止水手段は、シース内径とほぼ同径で、止水材を塗布したロープで構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ストランドを引抜く際に、ストランドと止水材を塗布したロープ(ロープ状の止水手段)を置き換えるので、シースが破損している場合でも、当該破損したシース内に流入する地下水を遮水できる。したがって、
図4(e)(f)に示すような口元部の止水処理や止水装置等の取り付けやストランド引き抜き後の止水材の注入等が不要となり、施工の簡略化、工程の短縮、工費の削減が図れる。
【0010】
また、本発明によれば、止水材を塗布したロープは、ストランドの引抜き動作に連動してシース内に自動的に引きずり込まれる。したがって、ストランドを引抜いた後に、わざわざロープを挿し込む必要がないので、前述した施工の簡略化や工程の短縮を妨げることがない。
【0011】
さらに、本発明によれば、シース内に挿入するロープがストランドの後端に繋がっていて、ストランド引き抜きの抵抗となる。すなわち、
図2に示すように、引抜いた直後のストランドの後端に繋がっているロープが、当該ストランドの動きを拘束する。したがって、引抜いた直後のストランドが巻き付いたり跳ね上がったりする事象やストランドに付着したグリスの飛散を防止でき、飛散養生等も不要となり、引き抜き時の作業性や安全性が向上する。
【0012】
さらに、本発明によれば、ロープの挿入(ストランドとの置き換え)によりストランドの残材が無いことを目視確認することができ、品質の確実性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る方法の実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る方法の実施形態を示す断面図である。
【
図3】除去式アンカー工法の施工例を示す断面図である。
【
図4】従来の除去式アンカー工法の作業手順を示す工程図である。
【
図5】従来の除去式アンカー工法の課題を示す図である。
【
図6】従来の除去式アンカー工法の課題を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1、
図2に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
除去式アンカー工法では、アンカーケーブル(張力支持材)としてアンボンドPC鋼より線3を用いる。アンボンドPC鋼より線3は、
図1に示すように、ストランド5(PC鋼より線)をポリエチレンなどのシース7に収め、空隙にグリス9を充填したもので構成される。
【0016】
除去式アンカー工法の施工の際には、はじめに、耐荷体11の先端に、アンボンドPC鋼より線3をループ状に曲げ返した状態で装着し、アンボンドPC鋼より線3と耐荷体11を組み合わせた機構を、地盤に掘削したアンカー孔内に挿入し、ストランド5の両端を土止め板に貫通させて地盤外部に引き出す。次いで、アンカー孔内にグラウト材を充填し、硬化後、土留め壁に反力をとって、ストランド5の両端をジャッキにより引張して緊張・定着し、土留めを行う。
【0017】
山留め等の構築完了後には、地表に引き出されているストランド5の一端側から当該ストランドを引抜いてシース7から除去する。ストランド5をシース7から除去する際には、はじめに、従来技術と同様にストランド5をガス切断して荷重を解放し、次いで、台座を取外す。
図4(b)(c)参照。
【0018】
続いて、ループ状に曲げ返したストランド5の引き抜き側端部(先端)とは別の端部(後端)に、シース7の内径とほぼ同径であって止水材を塗布したロープ21(ロープ状の止水手段)を接続する。以下、止水材を塗布したロープを、「止水ロープ」と略称する。ストランド5の後端に止水ロープ21を接続することで、ストランド5の後端に止水ロープ21が繋がって1本化した状態が確保される。
【0019】
なお、ロープに塗布する止水材は、止水効果があるものであれば特に限定されず、その具体例としては、エポキシ系やウレタン系樹脂を主剤とした、止水材や水中硬化型の充填材が挙げられる。この材料は地中で水と反応すると膨張し空隙を充填後硬化させるものである。充填接着剤、水中硬化型硬化剤、湿潤面硬化材などと称される材料は、本発明で利用可能な止水材に含まれる。
【0020】
続いて、ストランド5の引き抜き側端部を、連結具やフックを介してクレーン車やレッカー車などの引抜き装置に連結する。図示する実施形態では、引抜き装置の一例としてクレーン車を用いている。
【0021】
次いで、ストランド5の引き抜きと同時に止水ロープ21がシース7内に挿入されるように、ストランド5を引き抜く。前述したとおり、止水ロープ21はストランド5の後端に繋がって一体化しているので、ストランド5を地盤外部に引き抜くことによって、同時に、止水ロープ21がシース7内(ストランドの引き抜き跡)に引きずり込まれる。したがって、ストランド5を地盤外部へ引っ張り続ければ、シース7内のストランド5が止水ロープ21に置き換わる。
【0022】
ストランドを引き抜く過程では、止水ロープ21がストランド5の後端に繋がっているために、ストランド引き抜きの抵抗となる。そして、
図2に示すように、引抜いた直後のストランド5の後端に繋がっている止水ロープ21が、当該ストランドの動きを拘束する。したがって、引抜いた直後のストランド5が巻き付いたり跳ね上がったりする事象やストランド5に付着したグリスの飛散を防止でき、飛散養生等も不要となり、引き抜き時の作業性や安全性が向上する。
【0023】
最後に、シース7から引き抜いたストランド5の挙動が落ち着いたら、引抜いたストランド5から止水ロープ21を切り離す。
【符号の説明】
【0024】
3 アンボンドPC鋼より線(アンカーケーブル/張力支持材)
5 ストランド(PC鋼より線)
7 シース
9 グリス
11 耐荷体
21 止水材を塗布したロープ(止水ロープ/ロープ状の止水手段)
83 アンボンドPC鋼より線
85 ストランド
87 シース
89 グリス