(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】異常要因推定方法、異常要因推定装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2020125085
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】志田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】園田 隆
(72)【発明者】
【氏名】熊野 信太郎
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
事象ごとに要因の発生頻度を示した要因テーブルに基づいて、各要因が発生する確率である事前確率を算出するステップと、
各要因の前記事前確率と、各要因によって各事象が発生する確率である尤度とを用いて、ある事象がある前記要因によって引き起こされる確率である事後確率を算出するステップと、
前記事後確率に、センサ計測値のSN比利得値に関する
前記事象ごとの重み係数を乗算し、前記要因と前記事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出するステップと、
を含む異常要因推定方法。
【請求項2】
前記事前確率を算出するステップにおいて、前記要因テーブルに含まれる情報のうち、前記SN比利得値が基準値より大きい前記センサ計測値に関連する前記事象及び前記要因に関する情報を抽出して使用する
請求項1に記載の異常要因推定方法。
【請求項3】
前記重み係数は、前記SN比利得値の閾値に対する超過量に基づいて設定される係数である
請求項
1又は2に記載の異常要因推定方法。
【請求項4】
前記発生確率を示す指標は、ある事象が起きた際の各要因の発生確率であり、
各要因の発生確率は、前記事後確率と前記重み係数との乗算値を要因ごとに小計した小計値を、前記小計値をすべての前記要因において合計した値である合計値で除算することによって算出される
請求項1乃至
3の何れか一項に記載の異常要因推定方法。
【請求項5】
各要因の発生確率を大きい順にランク付けし、上位の前記要因を出力するステップを含む
請求項
4に記載の異常要因推定方法。
【請求項6】
前記センサ計測値に基づくマハラノビス距離を監視するステップと、
前記マハラノビス距離に基づいて異常な前記事象を検知した場合に前記SN比利得値を取得するステップと、
を含む請求項1乃至
5の何れか一項に記載の異常要因推定方法。
【請求項7】
プロセスごとの複数の前記要因テーブルの中から計算に使用する前記要因テーブルを選択するステップをさらに含む
請求項1乃至
6の何れか一項に記載の異常要因推定方法。
【請求項8】
事象ごとに要因の発生頻度を示した要因テーブルに基づいて、各要因が発生する確率である事前確率を算出するように構成された事前確率算出部と、
各要因の前記事前確率と、各要因によって各事象が発生する確率である尤度とを用いて、ある前記事象がある前記要因によって引き起こされる確率である事後確率を算出するように構成された事後確率算出部と、
前記事後確率に、センサ計測値のSN比利得値に関する
前記事象ごとの重み係数を乗算し、前記要因と前記事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出するように構成された指標算出部と、
を備える異常要因推定装置。
【請求項9】
コンピュータに、
事象ごとに要因の発生頻度を示した要因テーブルに基づいて、各要因が発生する確率である事前確率を算出する手順、
各要因の前記事前確率と、各要因によって各事象が発生する確率である尤度とを用いて、ある前記事象がある前記要因によって引き起こされる確率である事後確率を算出する手順、
前記事後確率に、センサ計測値のSN比利得値に関する
前記事象ごとの重み係数を乗算し、前記要因と前記事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出する手順、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常要因推定方法、異常要因推定装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電設備、ボイラ、ガスタービン、化学プラント等には多様な機器が使用されている。これらの機器の異常(例えば故障や故障の予兆)を検出したり、その要因を推定したりすることが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の要因を含むFT図と技術員のノウハウに基づく要因ごとの重み付けポイントとを用いて、故障要因及び故障箇所を推定する機器故障診断方法(推定方法)が開示されている。また、機器の異常をマハラノビス・タグチ法で検出し、マハラノビス距離増大に影響したセンサ計測値のSN比(Signal to Noise Ratio)利得値を参照し、その発生事象と要因を推定する推定方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の推定方法は、要因ごとの確度を求めて、その中から確からしい要因を選択して異常の要因を推定する方法である。しかしながら、実際には、複数の要因の相互作用によって機器の異常が発生したり、異常の要因として複数の要因が混在したりする場合がある。そのため、要因ごとの計算結果(絶対評価)による異常要因の推定では異常要因の推定精度が低下する場合がある。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示は、異常要因の推定精度を向上させることが可能な異常要因推定方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る異常要因推定方法は、
事象ごとに要因の発生頻度を示した要因テーブルに基づいて、各要因が発生する確率である事前確率を算出するステップと、
ある事象がある前記要因によって引き起こされる確率である事後確率を算出するステップと、
前記事後確率に、センサ計測値のSN比利得値に関する重み係数を乗算し、前記要因と前記事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出するステップと、
を含む。
【0008】
本開示に係る異常要因推定装置は、
事象ごとに要因の発生頻度を示した要因テーブルに基づいて、各要因が発生する確率である事前確率を算出するように構成された事前確率算出部と、
ある前記事象がある前記要因によって引き起こされる確率である事後確率を算出するように構成された事後確率算出部と、
前記事後確率に、センサ計測値のSN比利得値に関する重み係数を乗算し、前記要因と前記事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出するように構成された指標算出部と、
を備える。
【0009】
本開示に係るプログラムは、
コンピュータに、
事象ごとに要因の発生頻度を示した要因テーブルに基づいて、各要因が発生する確率である事前確率を算出する手順、
ある前記事象がある前記要因によって引き起こされる確率である事後確率を算出する手順、
前記事後確率に、センサ計測値のSN比利得値に関する重み係数を乗算し、前記要因と前記事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出する手順、
を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、異常要因の推定精度を向上させることが可能な異常要因推定方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る異常要因推定装置のハードウェア構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係る異常要因推定装置の機能的構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】一実施形態に係る異常要因推定装置が実行する処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図4】一実施形態に係る異常要因推定装置が取得するSN比利得値の一例を示す図である。
【
図5】一実施形態に係る異常要因推定装置が使用するセンサテーブルの一例を示す図である。
【
図6】一実施形態に係る異常要因推定装置の算出結果の一例を示す図である。
【
図7】一実施形態に係る異常要因推定装置の算出結果(重み係数)の一例を示す図である。
【
図8】一実施形態に係る異常要因推定装置の要因テーブルに基づく抽出結果の一例を示す図である。
【
図9】一実施形態に係る異常要因推定装置の事前確率の算出結果の一例を示す図である。
【
図10】一実施形態に係る異常要因推定装置の尤度の算出結果の一例を示す図である。
【
図11】一実施形態に係る異常要因推定装置の事後確率の算出結果の一例を示す図である。
【
図12】一実施形態に係る異常要因推定装置の算出結果の一例を示す図である。
【
図13】一実施形態に係る異常要因推定装置が出力する情報の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
(異常要因推定装置の構成)
一実施形態に係る異常要因推定装置100の全体構成を説明する。
図1は、一実施形態に係る異常要因推定装置100のハードウェア構成を概略的に示すブロック図である。異常要因推定装置100は、例えば、機器に関する計測を行うセンサ(不図示)やセンサ計測値を蓄積するサーバ装置(不図示)等からセンサ計測値を取得して、機器に発生した異常な事象の要因を推定するための装置である。
【0014】
例えば、
図1に示すように、異常要因推定装置100は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ72と、RAM(Random Access Memory)74と、ROM(Read Only Memory)76と、HDD(Hard Disk Drive)78と、入力I/F80と、出力I/F82と、を含み、これらがバス84を介して互いに接続されたコンピュータを用いて構成される。異常要因推定装置100のプロセッサ72がROMやRAM等のメモリに記憶されているプログラムを実行することにより、後述する各種機能を実現する。
【0015】
図2は、一実施形態に係る異常要因推定装置100の機能的構成を概略的に示すブロック図である。
図2に示すように、異常要因推定装置100は、機能的には、SN比利得値を取得するように構成された利得取得部101と、重み係数を取得するように構成された重み係数取得部102と、事前確率を算出するように構成された事前確率算出部103と、事後確率を算出するように構成された事後確率算出部104と、指標を算出するように構成された指標算出部105と、各種情報(推定結果を含む)を出力ように構成された出力部106とを備える。
【0016】
(処理の流れ)
以下、一実施形態に係る異常要因推定装置100が実行する処理の流れについて説明する。
図3は、一実施形態に係る異常要因推定装置100が実行する処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0017】
図3に示すように、利得取得部101は、センサ計測値のSN比利得値を取得する(ステップS1)。なお、利得取得部101は、センサ計測値に基づくマハラノビス距離を監視し、そのマハラノビス距離に基づいて異常な事象を検知した場合にSN比利得値を取得するように構成されていてもよい。この場合、異常な事象が検知された場合に異常要因推定を行うため、異常要因推定に伴う演算処理を抑えることができる。
【0018】
図4は、一実施形態に係る異常要因推定装置100が取得するSN比利得値の一例を示す図である。
図4に示すように、利得取得部101は、例えば、時系列で取得可能な複数のセンサ計測値(信号A~F)から信号ごとのSN比利得値を取得する。なお、
図4では、一つの時刻におけるSN比利得値を取得した場合を示しているが、利得取得部101は、複数の時刻において各時刻におけるSN比利得値を取得してもよい。
【0019】
図3に示すように、重み係数取得部102は、センサ計測値のSN比利得値に関する重み係数を取得する(ステップS2)。重み係数は、SN比利得値であってもよいし、以下の一例に示すようにSN比利得値に対して閾値処理した後の値であってもよい。
【0020】
ここで、閾値処理によって重み係数を取得する場合の例について説明する。
図5は、一実施形態に係る異常要因推定装置100が使用するセンサテーブルの一例を示す図である。
図6は一実施形態に係る異常要因推定装置100の算出結果の一例を示す図である。
図7は、一実施形態に係る異常要因推定装置100の算出結果(重み係数)の一例を示す図である。
【0021】
重み係数取得部102は、
図5に示すセンサテーブルを重み係数の算出に使用してもよい。センサテーブルは、どの信号がどの発生事象に関連するかを示す情報である。センサテーブルにおいて、例えば、信号Aでは、発生事象2,4,8に関係するために値が1であるのに対し、その他の発生事象には関係ないため値が0である。このような1と0の二値で関係性が示される。なお、重み係数取得部102は、センサテーブルを使用する構成に限られない。重み係数取得部102は、センサテーブルを使用せずに各信号に関係する発生事象を抽出するように構成されてもよい。
【0022】
発生事象は、例えば、ガスタービンの軸振動、排ガス温度の異常な上昇等である。要因は、例えば、排ガス温度の上昇の要因であれば、冷却空気が少ない、センサの不具合等である。発生事象と要因は1対1に対応していて明らかな場合もあるが、複合的な要因で発生する事象もあるため、このような絞り込みは有意義である。
【0023】
重み係数取得部102は、
図5に示すセンサテーブルの値に対して
図4に示すSN比利得値を乗じることによって
図6に示す算出結果を取得してもよい。例えば、
図6に示す算出結果において、信号Aでは、発生事象1、3、5~7は0と5.1の積であるため、値がゼロであり、発生事象2、4、8では1と5.1の積であるため値が5.1である。信号B~Fについても、
図4に示すSN比利得値と
図5に示すセンサテーブルの1又は0との積によって同様な計算が行われる。
【0024】
重み係数取得部102は、
図6に示す算出結果からA値を取得してもよい。A値は、各発生事象におけるSN比利得値の最大値である。例えば、
図6に示す発生事象1において、信号Bに対応する算出値が2.2であり、信号Fに対応する算出値が1.8であり、その他の信号に対応する算出値は0である。この場合、
図7に示すように、発生事象1のA値は2.2である。同様に他の発生事象のA値も取得される。
【0025】
重み係数取得部102は、
図7に示すようにSN比利得値の閾値を用いて、A値に対応するB値を取得してもよい。
図7に示す例では、SN比利得値の閾値は3である。SN比利得値の閾値は、マハラノビス距離の増大に影響を与えたと推定するための判別基準となる値に設定される。SN比利得値の閾値は、ユーザが知見に基づいて手動入力した値であってもよいし、統計的な手法によって自動計算される値であってもよい。
図7に示す例では、全事象について同じ閾値3が設定されている。しかし、事象ごとに異なる閾値が設定されてもよい。
【0026】
B値は、SN比利得値の閾値によってA値をフィルタリングした値である。具体的には、B値は、SN比利得値の閾値以下のA値を0にして、SN比利得値の閾値を超えるA値をそのままにした値である。例えば、発生事象1は、A値が3以下の2.2であるためにB値が0であり、発生事象2は、A値が3を超える5.1であるためにB値が5.1である。
【0027】
重み係数取得部102は、
図7に示すようにB値を用いて、各発生事象のC値を取得してもよい。C値は、重み係数である。重み係数であるC値は、SN比利得値の閾値に対する超過量に基づいて設定される係数であってもよい。例えば、図示の例ではB値からSN比利得の閾値を引いた値に2を乗じることによってC値が算出されている。しかし、C値の計算式はこれに限られず、適宜変更可能である。
【0028】
以上、閾値処理によって重み係数を取得する場合の例について説明した。しかし、閾値処理によって重み係数を取得する手順は上述の例に限られない。例えば、重み係数取得部102は、
図4に示すSN比利得値に対して先に閾値処理をした後に
図5に示すセンサテーブルの値を乗じてもよい。また、重み係数取得部102は、
図7に示すようにA値からB値を算出してC値を算出するような構成ではなく、A値からC値を直接的に算出し、算出結果が負の値となるC値を0とするように算出する構成であってもよい。このように手順を変更しても同じ結果を得ることが可能である。
【0029】
このような重み係数を後述する指標の計算に使用すれば、単にSN比利得値が基準値より大きい事象及び要因について計算するだけでなく、SN比利得値の大きさの大小関係を重み係数に反映し、それを計算に使用することができる。そのため、SN比利得値の大きさの大小関係を際立たせることができる。
【0030】
図3に示すように、事前確率算出部103は、各要因が発生する確率である事前確率を算出する(ステップS3)。事前確率算出部103は、事象ごとに要因の発生頻度を示した要因テーブルに基づいて、事前確率を算出する。
【0031】
要因テーブルに含まれる情報には、滅多に生じない事象、特殊な事象、発生要因が不明な事象等の情報も含まれる。このような情報を異常要因の推定に使用する場合、精度が低下する虞がある。そのため、事前確率算出部103は、要因テーブルに含まれる情報のうち、SN比利得値が基準値より大きいセンサ計測値に関連する事象及び要因に関する情報を抽出して使用するように構成されてもよい。この場合、要因テーブルに含まれる情報のうち、SN比利得値が基準値より大きいセンサ計測値に関連する事象及び要因に関する情報に絞って事前確率や事後確率を算出できるので、高精度となる。なお、事前確率算出部103は、このような抽出を行わずに要因テーブルから直接的に事前確率を算出するように構成されてもよい。
【0032】
図8は、一実施形態に係る異常要因推定装置100の要因テーブルに基づく抽出結果の一例を示す図である。この例では、
図4に示すように、センサ(信号)6個にSN比利得が見られ、それら6個の信号(信号A~F)が関係する発生事象が
図5に示すように発生事象1~8の8個である。これら8個の発生事象とそれぞれの要因とを併せて要因テーブルから抜き出したものが
図8である。このように、事前確率算出部103は、発生事象と要因とを対応付けた要因テーブルから、幾つかの発生事象とそれぞれの要因とを抽出する。
図8において、例えば、発生事象1は、要因7によって発生した回数が2回であり、要因8によって発生した回数が3であり、要因1~6によって発生した回数が0である。このように、
図8に示す抽出結果は、各発生事象の発生件数を要因別で示し、さらに、それらの要因ごとの小計値(例えば、要因7の発生件数が27回)と小計値を合計した合計値も示している。
【0033】
図9は、一実施形態に係る異常要因推定装置100の事前確率の算出結果の一例を示す図である。
図9に示すR1~R8は、
図8に示す要因1~要因8に対応している。Pは確率を示している。例えば、P(R1)は、要因1が発生する確率(要因1の事前確率)を示している。事前確率は、
図8に示す抽出結果が示す要因ごとの小計値を合計値で除算することによって算出される。例えば、要因8の事前確率P(R8)は、小計値22を合計値288で割った値であり、0.076389である。事前確率算出部103は、このような算出を各要因について行う。
【0034】
図3に示すように、事後確率算出部104は、ある事象がある要因によって引き起こされる確率である事後確率を算出する(ステップS4)。事後確率算出部104は、各要因の事前確率と、各要因Rjによって各事象Fiが発生する確率である尤度P(Fi|Rj)とを用いて事後確率P(Rj|Fi)を算出してもよい。この場合、事前確率と尤度とを用いて事後確率を容易に算出することができる。
【0035】
図10は、一実施形態に係る異常要因推定装置100の尤度P(Fi|Rj)の算出結果の一例を示す図である。
図10に示すFiは、発生事象1~8のうちのいずれかの発生事象iを示している。例えば、P(Fi|R1)は、要因R1によって事象Fiが発生する確率である尤度を示している。例えば、要因R1によって事象F2(発生事象2)が発生する尤度は、0.30303である。
【0036】
尤度は、
図8に示す要因テーブルの抽出結果において、ある事象Fiがある要因Riによって発生した件数を要因ごとの小計値で除算することによって算出される。例えば、尤度P(F1|R7)は、事象F1が要因R7によって発生した件数2を小計値27で割った値であり、
図10に示すように、0.074074である。事後確率算出部104は、
図10に示すように、このような尤度を各事象と各要因の組み合わせごとに計算してもよい。
【0037】
事後確率算出部104は、このような尤度を用いて事後確率を算出してもよい。
図11は、一実施形態に係る異常要因推定装置100の事後確率P(Rj|Fi)の算出結果の一例を示す図である。ある事象Fiがある要因Rjによって引き起こされる確率である事後確率P(Rj|Fi)は、ある尤度P(Fi|Rj)とある事前確率P(Rj)との積を、その要因Rjに対応する各尤度と各事前確率の積の総和で除算することによって算出される。
【0038】
n個の要因がある場合の事後確率P(Rj|Fi)は、事後確率P(Rj|Fi)=P(Fi|Rj)・P(Rj)/(P(Fi|R1)・P(R1)+P(Fi|R2)・P(R2)+・・・+P(Fi|Rn)・P(Rn))の式から算出される。このように事後確率は、ある事象が複数の要因(R1~Rn)で起こる場合も考慮した数式で計算される。
【0039】
なお、例えば、
図11において、発生事象2が要因1によって引き起こされる事後確率P(R1|F2)を求める場合、事後確率P(R1|F2)=P(F2|R1)・P(R1)/(P(F2|R1)・P(R1)+P(F2|R2)・P(R2)+P(F2|R3)・P(R3)+P(F2|R4)・P(R4)++P(F2|R5)・P(R5)+P(F2|R6)・P(R6)+P(F2|R7)・P(R7)+P(F2|R8)・P(R8))=0.357143である。なお、
図11において、事後確率を要因ごと又は事象ごとで小計し、それらを合計すると、合計値は図中右下に示すように、発生事象の数と同じ値8になる。
【0040】
図3に示すように、指標算出部105は、発生確率を示す指標を算出する(ステップS5)。指標算出部105は、事後確率算出部104が算出した事後確率に、重み係数取得部102が取得した重み係数(C値)を乗算し、要因と発生事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出する。発生確率を示す指標は、発生確率として算出するための正規化を行う前段階の数値であってもよいし、正規化後の発生確率であってもよい。
【0041】
まず、前者について具体例を説明する。
図12は、一実施形態に係る異常要因推定装置100の算出結果の一例を示す図である。事後確率算出部104が算出した事後確率に、重み係数取得部102が取得した重み係数(C値)を乗算した値である発生確率を示す指標を要因と発生事象との組み合わせ毎に示している。
【0042】
例えば、要因2によって発生事象1が発生する発生確率を示す指標は、事後確率0とC値0との積であるため、0である。要因2によって発生事象2が発生する発生確率を示す指標は、事後確率0.53714とC値4.2との積であるため、2.25である。このように、
図7に示す各発生事象に対応するC値を
図11に示す事後確率の表の値に乗じることによって各々の発生確率を示す指標が算出される。
【0043】
なお、
図12において、発生確率を示す指標を要因ごと又は事象ごとで小計し、それらを合計すると、合計値は図中右下に示すように、13.2になる。この合計値は、重み係数の影響を受けることによって発生事象の数とは異なる値になり得る。この例においても8ではなく13.2である。
【0044】
次に、後者について具体例を説明する。
図13は、一実施形態に係る異常要因推定装置100が出力する情報の一例を示す図である。
図13に示す発生確率は、
図12に示す各々の値を合計値13.2で除算することによって正規化した後の発生確率を示している。例えば、
図13において、要因ごとの発生確率の小計値を合計すると、発生確率の表において図中右下に示すように1すなわち100%になる。このように、発生確率を示す指標は、ある事象が起きた際の各要因の発生確率であり、各要因の発生確率は、事後確率と重み係数との乗算値を要因ごとに小計した小計値を、それらの小計値をすべての前記要因において合計した値である合計値で除算することによって算出されてもよい。この場合、各要因の発生確率を把握することができる。
【0045】
図3に示すように、出力部106は、推定結果を出力する(ステップS6)。例えば、出力部106は、
図13に示すように、各要因の発生確率を大きい順にランク付けし、上位の要因を出力してもよい。この場合、何が要因でその異常な事象が発生しているかを容易に把握することができる。例えば、要因2によってその事象が発生している確率が24.7%で最上位であることがわかる。なお、出力部106は、最上位の1つの要因だけを出力してもよいし、最上位から順番に選択した複数の要因を出力してもよい。また、出力部106は、
図12又は
図13に示すように発生確率を示す指標を推定結果として出力してもよい。
【0046】
以上、
図3を参照しながら、一実施形態に係る異常要因推定装置100が実行する処理の流れについて説明した。なお、
図3に示す処理の一部は、ユーザによって実行されてもよい。また、
図3に示す処理の順序は変更されてもよい。例えば、ステップS3、S4はステップS1、S2よりも先に実行されてもよい。事前確率、尤度、及び事後確率は、センサ計測値ではなく要因テーブルから算出できるため、それらを予め算出しておいてからSN比利得値や重み係数を取得して発生確率を示す指標を算出してもよい。
【0047】
また、異常要因推定装置100は、要因テーブルを使用したり、事前確率、尤度、事後確率を算出したりせずに、予め取得しておいた事後確率を示すテーブルを使用して発生確率を示す指標を算出してもよい。この場合、ステップS3、S4は省略可能である。ただし、要因テーブル、事前確率、尤度、事後確率等を示すテーブルは最新情報を反映するように更新されることが好ましい。このような更新処理は異常要因推定装置100によって自動実行されてもよいし、ユーザの手動入力によって実行されてもよい。更新頻度が多い場合には、
図3に示すように、その都度、事前確率、尤度、事後確率を算出することが好ましい。
【0048】
異常要因推定装置100は、プロセスごとの複数の要因テーブルの中から計算に使用する要因テーブルを選択するように構成されてもよい。例えば、機器又は機器を備えるシステムにおいて、起動時、停止時等の過渡的な動作状態や温度、圧力、振動などの計測値が例えば通常の2σ(分散値の基準値)以上のような特殊な動作状態である場合には、通常の動作状態とは異なる挙動を示す場合がある。この場合、発生事象や要因も運転状態のプロセスによって異なる。そのため、例えば、起動時、運転時、停止時等のプロセスごとに要因テーブルを作成しておき、異常な事象が発生したときのプロセスに応じた要因テーブルを選択して使用することにより、推定精度を向上させることができる場合がある。
【0049】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、複数の実施形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0050】
(まとめ)
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0051】
(1)本開示に係る異常要因推定方法は、
事象ごとに要因の発生頻度を示した要因テーブルに基づいて、各要因が発生する確率である事前確率を算出するステップと、
ある事象がある前記要因によって引き起こされる確率である事後確率を算出するステップと、
前記事後確率に、センサ計測値のSN比利得値に関する重み係数を乗算し、前記要因と前記事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出するステップと、
を含む。
【0052】
上記方法によれば、事後確率に基づいて、要因と事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出する。事後確率は、ある事象が複数の要因で起こる場合も考慮した数式で計算される。そのため、要因ごとの計算結果(絶対評価)による異常要因の推定ではなく、複数要因の相互作用を考慮した計算(相対評価)による異常要因の推定を行うことができる。したがって、異常要因の推定精度を向上させることができる。
【0053】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の方法において、
前記事前確率を算出するステップにおいて、前記要因テーブルに含まれる情報のうち、前記SN比利得値が基準値より大きい前記センサ計測値に関連する前記事象及び前記要因に関する情報を抽出して使用する。
【0054】
要因テーブルに含まれる情報には、滅多に生じない事象、特殊な事象、発生要因が不明な事象等の情報も含まれる。このような情報を異常要因の推定に使用する場合、精度が低下する虞がある。この点、上記方法によれば、要因テーブルに含まれる情報のうち、SN比利得値が基準値より大きいセンサ計測値に関連する事象及び要因に関する情報に絞って事前確率や事後確率を算出できるので、高精度となる。
【0055】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の方法において、
前記事後確率を算出するステップにおいて、各要因の前記事前確率と、各要因によって各事象が発生する確率である尤度とを用いて前記事後確率を算出する。
【0056】
上記方法によれば、事前確率と尤度とを用いて事後確率を容易に算出することができる。
【0057】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れか一つに記載の方法において、
前記重み係数は、前記SN比利得値の閾値に対する超過量に基づいて設定される係数である。
【0058】
上記方法によれば、単にSN比利得値が基準値より大きい事象及び要因について計算するだけでなく、SN比利得値の大きさの大小関係を重み係数に反映し、それを計算に使用する。そのため、SN比利得値の大きさの大小関係を際立たせることができる。
【0059】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか一つに記載の方法において、
前記発生確率を示す指標は、ある事象が起きた際の各要因の発生確率であり、
各要因の発生確率は、前記事後確率と前記重み係数との乗算値を要因ごとに小計した小計値を、前記小計値をすべての前記要因において合計した値である合計値で除算することによって算出される。
【0060】
上記方法によれば、各要因の発生確率を把握することができる。
【0061】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載の方法において、
各要因の発生確率を大きい順にランク付けし、上位の前記要因を出力するステップを含む。
【0062】
上記方法によれば、何が要因でその異常な事象が発生しているかを容易に把握することができる。
【0063】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか一つに記載の方法において、
前記センサ計測値に基づくマハラノビス距離を監視するステップと、
前記マハラノビス距離に基づいて異常な前記事象を検知した場合に前記SN比利得値を取得するステップと、
を含む。
【0064】
上記方法によれば、異常な事象が検知された場合に異常要因推定を行うため、異常要因推定に伴う演算処理を抑えることができる。
【0065】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れか一つに記載の方法において、
プロセスごとの複数の前記要因テーブルの中から計算に使用する前記要因テーブルを選択するステップをさらに含む。
【0066】
上記方法によれば、異常な事象が発生したときのプロセスに応じた要因テーブルを選択して使用することにより、推定精度を向上させることができる場合がある。
【0067】
(9)本開示に係る異常要因推定装置(100)は、
事象ごとに要因の発生頻度を示した要因テーブルに基づいて、各要因が発生する確率である事前確率を算出するように構成された事前確率算出部(103)と、
ある前記事象がある前記要因によって引き起こされる確率である事後確率を算出するように構成された事後確率算出部(104)と、
前記事後確率に、センサ計測値のSN比利得値に関する重み係数を乗算し、前記要因と前記事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出するように構成された指標算出部(105)と、
を備える。
【0068】
上記構成によれば、異常要因推定装置(100)は、事後確率に基づいて、要因と事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出する。事後確率は、ある事象が複数の要因で起こる場合も考慮した数式で計算される。そのため、要因ごとの計算結果(絶対評価)による異常要因の推定ではなく、複数要因の相互作用を考慮した計算(相対評価)による異常要因の推定を行うことができる。したがって、異常要因の推定精度を向上させることができる。
【0069】
(10)本開示に係るプログラムは、
コンピュータに、
事象ごとに要因の発生頻度を示した要因テーブルに基づいて、各要因が発生する確率である事前確率を算出する手順、
ある前記事象がある前記要因によって引き起こされる確率である事後確率を算出する手順、
前記事後確率に、センサ計測値のSN比利得値に関する重み係数を乗算し、前記要因と前記事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標を算出する手順、
を実行させる。
【0070】
上記プログラムによれば、事後確率に基づいて、要因と事象との組み合わせ毎に発生確率を示す指標が算出される。事後確率は、ある事象が複数の要因で起こる場合も考慮した数式で計算される。そのため、要因ごとの計算結果(絶対評価)による異常要因の推定ではなく、複数要因の相互作用を考慮した計算(相対評価)による異常要因の推定を行うことができる。したがって、異常要因の推定精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 読取装置
10 パレット
11 孔
20 スロット
30 測距装置
72 プロセッサ
74 RAM
76 ROM
78 HDD
80 入力I/F
82 出力I/F
84 バス
100 異常要因推定装置
101 利得取得部
102 重み係数取得部
103 事前確率算出部
104 事後確率算出部
105 指標算出部
106 出力部