(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法、及びポリスチレン系樹脂押出発泡板
(51)【国際特許分類】
C08J 9/12 20060101AFI20240307BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240307BHJP
B29C 48/07 20190101ALI20240307BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20240307BHJP
B29C 48/395 20190101ALI20240307BHJP
【FI】
C08J9/12 CET
B29C44/00 E
B29C48/07
B29C48/305
B29C48/395
(21)【出願番号】P 2020150378
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-05-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年1月23日に一般社団法人発明推進協会の公開技報に発明の内容を掲載した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(72)【発明者】
【氏名】奥田 彰
(72)【発明者】
【氏名】檜山 敏之
(72)【発明者】
【氏名】小暮 直親
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-531633(JP,A)
【文献】特開2022-032685(JP,A)
【文献】特開2021-038313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
B29C 48/07
B29C 48/305
B29C 48/395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂、難燃剤及び物理発泡剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を押出し発泡させて成形具により板状に成形する工程を含む、見掛け密度20~40kg/m
3、押出方向垂直断面積100cm
2以上のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法において、
該物理発泡剤が、発泡剤(A)と発泡剤(B)を含有し、
該発泡剤(A)が、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(A1)、炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィン(ただし、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを除く。)(A2)及び炭素数3~5の飽和炭化水素(A3)から選択される1種以上の発泡剤であり、
該発泡剤(B)が、水、二酸化炭素、アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル、塩化アルキル及び炭素数1~5の脂肪族アルコールから選択される1種以上の発泡剤であり、
該発泡剤(A)の配合量と該発泡剤(B)の配合量との合計が、基材樹脂1kgに対して0.8~2molであり、
該発泡剤(A)の配合量が、基材樹脂1kgに対して0.3~1.5molであり、
該発泡剤(A1)の配合量と該発泡剤(A2)の配合量との合計が、基材樹脂1kgに対して0.1~0.8molであり、
該発泡剤(A1)の配合量と該発泡剤(A2)の配合量との合計の配合量中の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの配合比率が50mol%以上であり、
該発泡剤(B)の配合量が基材樹脂1kgに対して0.1~0.9molであることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
【請求項2】
前記発泡剤(B)が、発泡剤(B1)と発泡剤(B2)を含有し、該発泡剤(B1)が、水及び二酸化炭素から選択される1種以上の発泡剤であり、該発泡剤(B2)が、アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル、塩化アルキル及び炭素数1~4の脂肪族アルコールから選択される1種以上の発泡剤であることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
【請求項3】
前記発泡剤(B1)の配合量(mol/kg)に対する前記発泡剤(B2)の配合量(mol/kg)の比(B2/B1)が0.5以上であることを特徴とする請求項2に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
【請求項4】
ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂及び難燃剤を含む、見掛け密度20~40kg/m
3、押出方向垂直断面積100cm
2以上のポリスチレン系樹脂押出発泡板において、
該押出発泡板中の炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィンの残存量が、該押出発泡板1kgあたり0.1~0.8molであり、該ハイドロフルオロオレフィンの残存量中の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフロオロプロペンの残存比率が50mol%以上であることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板。
【請求項5】
前記ポリスチレン系樹脂押出発泡板がグラファイトを含有しており、該グラファイトの含有量が前記基材樹脂100質量部に対して0.2~10質量部であることを特徴とする請求項4に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法に関し、詳しくは、建築物の壁、床、屋根等の断熱材として好適に使用可能なポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法、及び該製造方法により得られるポリスチレン系樹脂押出発泡板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂押出発泡板(以下、単に「押出発泡板」ともいう。)は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから、断熱材等として広く使用されている。このような板状の押出発泡板は、一般に押出機中でポリスチレン系樹脂を加熱溶融した後、得られた溶融物に物理発泡剤を圧入、混練して得られる発泡性溶融樹脂混練物を、押出機先端に付設されたフラットダイ等から低圧域に押出発泡し、成形具により板状に成形することにより製造されている。
【0003】
該押出発泡板の製造に用いられる発泡剤として、発泡性に優れ、オゾン破壊係数が0で、地球温暖化係数も小さく、断熱性に優れることからノルマルブタン、イソブタン等のブタンが用いられている。しかし、該ブタンは、極めて燃えやすく、長期間にわたって押出発泡板内に残存するので、ブタンを含む押出発泡板は長期間にわたって易燃性となるので、建材用途の断熱材として使用するには多量の難燃剤を添加して、難燃化しなければならない。
【0004】
ブタンによる易燃性の問題を解決するために、水、二酸化炭素、エーテル、アルコール等の早期散逸性発泡剤をブタンと組み合わせて使用することにより、低見掛け密度であっても、ブタンの残存量が少ない押出発泡板の製造が行われてきた。さらに、近年、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンや1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等のハイドロフルオロオレフィンが、前記したブタンや早期散逸性発泡剤と組合わせて用いられるようになった。該ハイドロフルオロオレフィンは、ポリスチレン系樹脂に対して溶解性を有するため発泡性を有し、そのため低見掛け密度の押出発泡板の製造が可能である。更に、該ハイドロフルオロオレフィンは不燃性で、気体状態の熱伝導率が低いことから断熱性に優れ、長期にわたって押出発泡板内に残存することから、長期断熱性を押出発泡板に付与することができる。
【0005】
さらに、該ハイドロフルオロオレフィンは、オゾン層破壊係数や地球温暖化係数が非常に小さく、環境に優しい発泡剤である。該ハイドロフルオロオレフィンを併用することにより製造された押出発泡板としては、例えば、特許文献1~3に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-82805号公報
【文献】特開2015-229771号公報
【文献】特開2017-95618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
該ハイドロフルオロオレフィンとして、入手容易なものには、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下、HFO-1234zeともいう。)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、HFO-1233zdともいう。)、1-クロロ-2, 3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下、HFO-1224ydともいう。)がある。
これらの中では、HFO-1234zeは、HFO-1233zdに比べると、熱伝導率を低くする効果(低熱伝導率化)に優れるが、発泡性に劣るものである。即ち、HFO-1234zeは、ポリスチレン系樹脂に対する溶解度がHFO-1233zdに比べると低いため、得られた押出発泡体の気泡の空間中に存在する量が多くなるので、熱伝導率を低下させる効果には優れるものの、発泡性に劣り、低見掛け密度の押出発泡板を得ることが、HFO-1233zdに比べると難しいものである。一方、HFO-1233zdは、HFO-1234zeに比べると発泡性に優れるが、HFO-1234zeよりも熱伝導率を低下させる効果(低熱伝導率化)が若干低いものである。即ち、HFO-1233zdは、ポリスチレン系樹脂に対する溶解度がHFO-1234zeに比べると大きいため発泡性に優れ、気泡径の小さな押出発泡板を得ることには優れているが、得られた押出発泡体の気泡壁中に存在する割合が高いので、配合量や配合割合によっては熱伝導率を低下させる効果への寄与が不十分となることもある。
【0008】
これらのハイドロフルオロオレフィンに対し、HFO-1224ydは、発泡性、低熱伝導率化が、HFO-1234zeとHFO-1233zdの中間にあり、発泡性と低熱伝導率化のバランスに優れるものである。従って、HFO-1224ydは、HFO-1234zeに比べると発泡性に優れ、低見掛け密度の押出発泡板の製造が可能であることが予想される。また、HFO-1233zdに比べると、ポリスチレン系樹脂に対する溶解度が低く、押出発泡板の気泡中の濃度が高いので、得られる押出発泡板は低熱伝導率を有することが期待される。
【0009】
しかし、HFO-1224ydを発泡剤として用いた場合、低見掛け密度(高発泡倍率)の発泡体を得ようとして、HFO-1224ydを多量に添加すると、発泡体表面に局所的に大きく凹んだ箇所(以下、スポットともいう。)が多数形成され、押出発泡板の外観が悪化する現象が発生し、高厚みの押出発泡板を得ることは容易ではなかった。
【0010】
本発明は、1-クロロ-2, 3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd)を主成分とするハイドロフルオロオレフィンと任意に選択される炭素数3~5の飽和炭化水素とからなる発泡剤とからなる発泡剤と、水、二酸化炭素、アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル、塩化アルキル及び炭素数1~4の脂肪族アルコールから選択される1種以上の早期散逸性発泡剤とを組合わせた物理発泡剤を用いることにより、スポットを発生させることなく、表面が美麗で、低見掛け密度で、低熱伝導率のポリスチレン系樹脂押出発泡板を、安定して製造可能な方法を提供することを、その課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示すポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法、及びポリスチレン系樹脂押出発泡板が提供される。
[1]ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂、難燃剤及び物理発泡剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を押出し発泡させて成形具により板状に成形する工程を含む、見掛け密度20~40kg/m3、押出方向垂直断面積100cm2以上のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法において、
該物理発泡剤が、発泡剤(A)と発泡剤(B)を含有し、
該発泡剤(A)が、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(A1)と、炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィン(ただし、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを除く。)(A2)及び炭素数3~5の飽和炭化水素(A3)から選択される1種以上の発泡剤であり、
該発泡剤(B)が、水、二酸化炭素、アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル、塩化アルキル及び炭素数1~5の脂肪族アルコールから選択される1種以上の発泡剤であり、
該発泡剤(A)の配合量と該発泡剤(B)の配合量との合計が、基材樹脂1kgに対して0.8~2molであり、
該発泡剤(A)の配合量が、基材樹脂1kgに対して0.3~1.5molであり、
該発泡剤(A1)の配合量と該発泡剤(A2)の配合量との合計が、基材樹脂1kgに対して0.1~0.8molであり、
該発泡剤(A1)の配合量と該発泡剤(A2)の配合量との合計の配合量中の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの配合比率が50mol%以上であり、
該発泡剤(B)の配合量が基材樹脂1kgに対して0.1~0.9molであることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
[2]前記発泡剤(B)が、発泡剤(B1)と発泡剤(B2)を含有し、
該発泡剤(B1)が、水及び二酸化炭素から選択される1種以上の発泡剤であり、
該発泡剤(B2)が、アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル、塩化アルキル及び炭素数1~4の脂肪族アルコールから選択される1種以上の発泡剤であることを特徴とする前記1に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
[3]前記発泡剤(B1)の配合量(mol/kg)に対する前記発泡剤(B2)の配合量(mol/kg)の比(B2/B1)が0.5以上であることを特徴とする前記2に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
[4]ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂及び難燃剤を含む、見掛け密度20~40kg/m3、押出方向垂直断面積100cm2以上のポリスチレン系樹脂押出発泡板において、
該押出発泡板中の炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィンの残存量が、該押出発泡板1kgあたり0.1~0.8molであり、該ハイドロフルオロオレフィンの残存量中の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフロオロプロペンの残存比率が50mol%以上であることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板。
[5]前記ポリスチレン系樹脂押出発泡板がグラファイトを含有しており、該グラファイトの含有量が前記基材樹脂100質量部に対して0.2~10質量部であることを特徴とする請求項4に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。
【発明の効果】
【0012】
本発明方法によれば、1-クロロ-2, 3,3,3-テトラフルオロプロペンを主成分とするハイドロフルオロオレフィンと任意に選択されるブタン等の飽和炭化水素とからなる発泡剤と、水、二酸化炭素、ジアルキルエーテル、塩化アルキル及び脂肪族アルコールから選択される1種以上の早期散逸性発泡剤とを組合わせた物理発泡剤を用いることにより、スポットを発生させることなく、表面が美麗で、低見掛け密度で、長期にわたって低熱伝導率のポリスチレン系樹脂押出発泡板を、安定して製造可能な方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、円換算平均気泡径の測定箇所の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法、及び該方法により得られるポリスチレン系樹脂押出発泡板について詳細に説明する。
本発明の製造方法においては、ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂、難燃剤及び物理発泡剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を押出し発泡させて成形具により板状に成形する工程を含む方法により、ポリスチレン系樹脂押出発泡板(以下、単に押出発泡板ともいう。)が製造される。
【0015】
具体的には、ポリスチレン系樹脂と必要に応じて添加される他の樹脂からなる基材樹脂、難燃剤、必要に応じて配合される気泡調整剤、その他の添加剤を押出機内で加熱下に溶融、混練し、得られた溶融混練物に発泡剤を圧入し、さらに混練して発泡性樹脂溶融物とし、該発泡性樹脂溶融物を発泡適正温度に調整し、フラットダイを通して高圧の押出機内から低圧域に押出して発泡させ、該ダイの出口に配置された成形型[例えば、平行あるいは入り口から出口方向に向かって緩やかに拡大するように設置された上下二枚のポリテトラフルオロエチレン樹脂等の板で構成される型(ガイダーともいう。)]や、成形ロール等の賦形装置を通過させることによって板状の押出発泡板が製造される。
【0016】
本発明方法においては、ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂を、前記したように加工することにより、押出発泡板が得られる。ここで、ポリスチレン系樹脂を主成分とするとは、基材樹脂の50質量%以上がポリスチレン系樹脂であることをいい、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0017】
本発明の製造方法で用いられるポリスチレン系樹脂としては、例えばポリスチレンや、スチレン単位成分を50モル%以上含むスチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-メチルスチレン共重合体、スチレン-ジメチルスチレン共重合体、スチレン-エチルスチレン共重合体、スチレン-ジエチルスチレン共重合体等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。これらの中では、ポリスチレンを好適に用いることができる。なお、ポリスチレンには、スチレン単位成分以外に、多官能性単量体や多官能性マクロモノマー等の分岐化剤による単位成分が含まれていてもよい。
【0018】
なお、基材樹脂は、押出発泡板の断熱性を高めるために非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体を含むことができる。この場合、非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、基材樹脂中に5質量%以上50質量%未満となるように配合することが好ましく、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、更に好ましくは15質量%以上30質量%以下である。なお、該非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体においては、JIS K7122に基づく樹脂の融解に伴う融解熱量が5J/g未満である。該融解熱量は、JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用して得られるDSC曲線に基づいて測定されるものである。
【0019】
なお、本発明方法で用いられるポリスチレン系樹脂の溶融粘度は、発泡性や成形性に優れることから、200℃、剪断速度100sec-1の条件下で、500~2500Pa・sであることが好ましく、より好ましくは600~2000Pa・s、さらに好ましくは700~1500Pa・sである。
【0020】
該基材樹脂には、本発明の目的、効果が達成される範囲内において、ポリスチレン系樹脂及び非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体以外のその他の重合体を添加することができる。該その他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂(エチレン単独重合体及びエチレン単位成分含有量が50モル%以上のエチレン系共重合体の群から選択される1種又は2種以上の混合物)、ポリプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体及びプロピレン単位成分含有量が50モル%以上のプロピレン系共重合体の群から選択される1種又は2種以上の混合物)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂や、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体水添物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水添物、スチレン-エチレン共重合体等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの他の重合体は、ポリスチレン系樹脂中で50質量%未満となるように、好ましくは30質量%以下となるように、さらに好ましくは10質量%以下となるように、目的に応じて混合することができる。
【0021】
次に、本発明方法で用いられる物理発泡剤について説明する。
該物理発泡剤は、発泡剤(A)と発泡剤(B)との二種の発泡剤からなるものである。
発泡剤(A)を構成する発泡剤は、発泡性に優れると共に、押出発泡板中に長く残存し、断熱性の向上に寄与するものである。しかし、難燃性については、燃焼しやすく、難燃性の向上のために難燃剤を添加しなければならないものと、発泡剤そのものが不燃のものに分かれる。
発泡剤(B)は、発泡性を有し、低見掛け密度の押出発泡板を得ることには寄与するが、押出発泡板から早期に逸散するので(早期散逸性発泡剤)、押出発泡板の燃焼性を高めることがないものである。本発明方法によれば、発泡剤(A)に属する発泡剤と発泡剤(B)に属する発泡剤とを適宜組み合わせることにより、低見掛け密度で外観に優れ、長期間の断熱性に優れ、適量の難燃剤を添加するだけで難燃化可能な押出発泡板を得ることができる。
次に、発泡剤(A)及び発泡剤(B)を構成する各々の発泡剤について説明する。
【0022】
本発明において、該発泡剤(A)は、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(A1)、炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィン(1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを除く。)(A2)及び炭素数3~5の飽和炭化水素(A3)から選択される1種以上の発泡剤を含むものである。即ち、発泡剤(A)は、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd(発泡剤(A1)))を必須成分として含み、HFO-1224ydを除く炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィン(発泡剤(A2))を含むことができ、炭素数3~5の飽和炭化水素(発泡剤(A3))を含むことができるものである。
従って、発泡剤(A)は、HFO-1224yd(A1)を必ず含み、HFO-1224yd(A1)以外の特定のハイドロフルオロオレフィン(A2)及び特定の飽和炭化水素(A3)を含むことも、含まないこともできる。
【0023】
該HFO-1224ydは、ハイドロフルオロオレフィンの中では、ポリスチレン系樹脂に対する溶解度を適度に有し、発泡性に優れるので、HFO-1224ydを用いることにより、低見掛け密度の押出発泡板を製造しやすくなる。また、該HFO-1224ydは、ポリスチレン系樹脂に対する溶解度が大きすぎるということはないので、押出発泡板の気泡中に存在する割合が高くなり、得られる押出発泡板は熱伝導率が低いものとなる。また、HFO-1224ydは、難燃性なので、押出発泡板製造時の静電気による着火等の危険性を低下させることができる。
【0024】
炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィン(以下、HFOともいう。)としては、HFO-1224yd以外に、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランスHFO-1234ze)、シス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(シスHFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)等が挙げられる。なお、これらのハイドロフルオロオレフィンには一部塩素が導入されたハイドロクロロフルオロオレフィンも含まれる。これらの発泡剤は単独でまたは2種以上を用いることもできる。これらのハイドロフルオロオレフィンは、オゾン破壊係数が低く、地球温暖化係数も非常に小さく、環境に与える負担が小さい発泡剤である。さらに、気体状態の熱伝導率が低く、燃えにくい特性を有する。従って、後述するブタン等の飽和炭化水素を発泡剤として使用する場合であっても、該飽和炭化水素の使用量を減らすことができ、難燃剤の添加量を低減させることができる。また、押出発泡板製造時の静電気による着火等の危険性を低下させることができる。
【0025】
発泡剤(A2)としては、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd)から選択される1種以上が好ましい。
【0026】
さらに、該発泡剤(A)は、炭素数3~5の飽和炭化水素(発泡剤(A3))から任意に選択された1種以上の発泡剤を含むことができる。該飽和炭化水素は、ポリスチレン樹脂に対する溶解度が高いので押出安定性を向上させることができ、低見掛け密度の押出発泡板を容易に製造することができる。また、ポリスチレン樹脂に対するガス透過速度が遅いので、該飽和炭化水素が押出発泡板中に長期間にわたって残存することにより、長期間にわたって押出発泡板の熱伝導率を低く保つことができる。
【0027】
炭素数3~5の飽和炭化水素(A3)としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン(2-メチルプロパン)、ノルマルペンタン、イソペンタン(2-メチルブタン)、シクロブタン、ネオペンタン(2,2-ジメチルプロパン)、シクロペンタン等が挙げられる。また、これらを2種以上併用してもよい。
【0028】
本発明で用いられる物理発泡剤は、前記した発泡剤(A)に加えて発泡剤(B)から選択された発泡剤を含むものである。
該発泡剤(B)は、発泡剤(B1)と、発泡剤(B2)の二種の発泡剤からなり、それぞれを含有することが好ましい。
【0029】
発泡剤(B1)は、水及び二酸化炭素から選択される1種以上の発泡剤である。水及び二酸化炭素は、前記HFOや前記飽和炭化水素と共に用いられることにより、得られる押出発泡板の発泡倍率を増加させて、見掛け密度が小さく、外観の良好な押出発泡板を得ることを可能にする。また、該飽和炭化水素の配合量を低減させることにより、難燃性を向上させることができる。また、水及び二酸化炭素は環境負荷の低減を可能とし、押出発泡板から早期に散逸していくため、得られた押出発泡板の寸法を早期に安定させることができる。
【0030】
発泡剤(B2)は、アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル、塩化アルキル及び炭素数1~5の脂肪族アルコールから選択される1種以上の発泡剤である。
アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を用いることができる。これらの中では、ポリスチレン系樹脂への相溶性、取り扱い易さなどの点からジメチルエーテルが好適に用いられる。
【0031】
ジメチルエーテルは、易散逸性の物理発泡剤の中でも、特に押出発泡性に優れた発泡剤であり、前記HFOや前記飽和炭化水素と共に用いられることにより、得られる押出発泡板の発泡倍率を増加させて、見掛け密度が小さく、外観の良好な押出発泡板を得ることを可能にする。また、ジメチルエーテルは、飽和炭化水素の配合量を低減させ、押出発泡板からの散逸が早いので、難燃性を向上させることを可能にする。
また、ジメチルエーテルは、環境負荷の低減を可能とする。
但し、ジメチルエーテルは、非常に燃焼しやすい性質を有するため、多量に使用すると、押出発泡板製造時において押出発泡板から散逸したジメチルエーテルが静電気により着火する可能性がある。
【0032】
塩化アルキルとしては、例えば塩化メチル、塩化エチル等が挙げられる。塩化アルキルは、ポリスチレン系樹脂を発泡させやすく、前記HFOや前記飽和炭化水素と共に用いられることにより、所望される見掛け密度の押出発泡板を得ることができる。さらに、塩化アルキルはポリスチレン系樹脂に対する透過速度が速く、押出発泡板の製造後早期に逸散することから、得られた押出発泡板の寸法を早期に安定させることができる。
【0033】
炭素数1~5の脂肪族アルコールは、オゾン層を破壊することがなく、地球を温暖化させることもない上に、押出発泡板から早期に逸散することから、押出発泡板の形状を早期に安定化させることができる。該脂肪族アルコールは、前記飽和炭化水素や前記HFOと共に用いることにより、低見掛け密度(高発泡倍率)の押出発泡板を得ることに寄与できるものである。
【0034】
炭素数1~5の脂肪族アルコールとしては、例えばメチルアルコール(メタノール)、エチルアルコール(エタノール)、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール、n-アミルアルコール,sec-アミルアルコール,イソアミルアルコール、tert-アミルアルコール、ネオペンチルアルコール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール等が挙げられる。これらの中では、エタノールが環境、人体への安全性に優れるため好ましい。
【0035】
次に、本発明方法における発泡剤(A)や発泡剤(B)などの配合量について説明する。
【0036】
該発泡剤(A)の配合量と該発泡剤(B)の配合量との合計は、基材樹脂1kgに対して0.8~2molである。該配合量が少なすぎると、得られる押出発泡板の見掛け密度が大きくなり、所望される低見掛け密度の押出発泡板を得ることができないおそれがある。該配合量が多すぎると、見掛け密度が小さくなりすぎて、得られる押出発泡板の強度が低下して、建材用の断熱材として使用できなくなるおそれがある。かかる理由により、該配合量の下限は、0.9molであることが好ましく、より好ましくは1molである。また、その上限は、1.7molであることが好ましく、より好ましくは1.5molである。
【0037】
発泡剤(A)の配合量は、基材樹脂1kgに対して0.3~1.5molである。該配合量が少なすぎると、得られる押出発泡板の見掛け密度が大きすぎて、所望される低見掛け密度の押出発泡板を得ることができないおそれがある。該配合量が多すぎると、見掛け密度が小さくなりすぎて得られる押出発泡板の強度が低下して、建材用の断熱材として使用できなくなるおそれがある。また、発泡剤(A)中の発泡剤(A1)及び発泡剤(A2)の量が多すぎる場合には、前記スポットが多数発生し、得られる押出発泡板の外観が低下するおそれがあり、炭素数3~5の飽和炭化水素(A3)の量が多すぎる場合には、難燃性が低下するおそれがある。かかる理由により、該配合量の下限は、0.35molであることが好ましく、より好ましくは0.5mol、更に好ましくは0.7molである。また、その上限は、1.4molであることが好ましく、より好ましくは1.3mol、更に好ましくは1.2molである。
【0038】
発泡剤(A1)の配合量と発泡剤(A2)の配合量との合計は、基材樹脂1kgに対して0.1~0.8molである。該配合量が少なすぎると、難燃性が低下するおそれがある。該配合量が多すぎると、前記スポットが多数発生し、得られる押出発泡板の外観が低下するおそれがある。かかる理由により、該配合量の下限は、基材樹脂1kgに対して0.11molであることが好ましく、より好ましくは0.13mol、更に好ましくは0.15mol、特に好ましくは0.2molである。また、その上限は、0.7molであることが好ましく、より好ましくは0.6molであり、更に好ましくは0.5molである。
【0039】
該発泡剤(A1)の配合量と発泡剤(A2)の配合量との合計の配合量中の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd)の配合比率は50mol%以上である。該配合比率が50mol%未満であると、発泡性と低熱伝導率化のバランスが悪くなり、発泡性が低下するおそれや熱伝導率を小さくする効果が不十分になるおそれがある。かかる理由により、該配合比率は70mol%以上であることが好ましく、より好ましくは80mol%以上であり、更に好ましくは90mol%以上であり、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd)のみからなることが特に好ましい。
【0040】
炭素数3~5の飽和炭化水素(A3)の配合量は、基材樹脂1kgに対して0~0.8molであることが好ましい。該飽和炭化水素は発泡性に優れるので、該飽和炭化水素を用いると、低見掛け密度の押出発泡板を容易に製造することができる。かかる理由により、該配合量の下限は、基材樹脂1kgに対して0.1molであることがより好ましく、更に好ましくは0.2molであり、特に好ましくは0.3molである。一方、難燃性に優れる押出発泡板とする観点からは、該配合量の上限は、0.7molであることがより好ましく、更に好ましくは0.6molである。
【0041】
該発泡剤(B)の配合量は、基材樹脂1kgに対して0.1~0.9molである。該発泡剤(B)配合量が少なすぎると、所望される見掛け密度の押出発泡板を得るには、発泡性に優れる発泡剤(A)中の飽和炭化水素の配合量を多くしなければならないので、難燃性が低下するおそれがある。該配合量が多すぎると、得られる押出発泡板にスポットが多数発生して、外観が低下するおそれがある。かかる理由により、該配合量の下限は、0.2molであることが好ましく、より好ましくは0.25molであり、更に好ましくは0.3molである。また、その上限は、0.8molであることが好ましく、より好ましくは0.7molである。
【0042】
本発明においては、発泡剤(B)は、前記したように発泡剤(B1)と発泡剤(B2)とをそれぞれ含むことが好ましく、発泡剤(B1)が、水及び二酸化炭素から選択される1種以上の発泡剤であり、発泡剤(B2)が、アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル、塩化アルキル及び炭素数1~5の脂肪族アルコールから選択される1種以上の発泡剤である。発泡剤(B1)と発泡剤(B2)は、共に早期散逸性発泡剤である。しかし、ポリスチレン系樹脂に対する親和性は発泡剤(B2)が優れており、製造時の着火防止性は発泡剤(B1)が優れている。従って、親和性と着火防止性のバランスをとるという観点から、該発泡剤(B1)から選択される1種以上の発泡剤と、該発泡剤(B2)から選択される1種以上の発泡剤とを、それぞれ含むことが好ましい。
【0043】
また、低見掛け密度の押出発泡板を容易に得ることができ、スポットの発生を防止するという観点から、基材樹脂1kgに対する発泡剤(B1)の配合量(mol)に対する、基材樹脂1kgに対する発泡剤(B2)の配合量(mol)の比(B2/B1)が0.5以上であることが好ましく、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは1.0以上である。一方、該比(B2/B1)の上限は1.5であることが好ましく、より好ましくは1.2である。
【0044】
また、低見掛け密度の押出発泡板を容易に得ることができ、製造の安定性に優れることから、発泡剤(B1)中の水及び二酸化炭素の配合量は、基材樹脂1kgに対して、それぞれ0.5mol以下であることが好ましく、0.45mol以下であることがより好ましく、0.4mol以下であることが更に好ましい。
【0045】
本発明方法により得られる押出発泡板は、主として建材用の断熱材として使用されるものであり、難燃剤を前記基材樹脂に配合することにより難燃性が付与されたものである。
本発明で用いる難燃剤は特に限定されるものではないが、臭素系難燃剤が好ましい。該臭素系難燃剤としては、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体等の臭素化ブタジエン系重合体、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-S-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-F-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-S-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-F-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)に代表される臭素化ビスフェノール化合物、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、モノ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、ジ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、トリス(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレートに代表される臭素化イソシアヌレート等が挙げられる。これら臭素系難燃剤の1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0046】
また、これら臭素系難燃剤のほかに、クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、スズ酸亜鉛、シアヌル酸、ペンタブロモトルエン、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛等の無機化合物、トリフェニルホスフェートに代表されるリン酸エステル系、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、次亜リン酸塩等のリン系化合物等を併用することができる。
【0047】
これら難燃剤の中でも、押出発泡板に高い難燃性を付与できることから、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)(2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)(2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモ-2-メチルプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン)、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートの1種又は2種以上を含む難燃剤を使用することが好ましい。また、これらの中でも、高い難燃性が付与でき、かつ押出時にポリスチレン系樹脂を分解させにくく、また、低見掛け密度(高発泡倍率)で、さらに大断面積の場合であっても、安定して押出発泡板を得ることが容易となることから、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体を含む難燃剤を使用することがより好ましい。
【0048】
難燃剤の配合量は、押出発泡板に高度な難燃性を付与できるとともに、押出発泡性の低下及び機械的物性の低下を抑制することもできることから、ポリスチレン系樹脂100質量部に対して概ね0.1~10質量部であり、より好ましくは0.5~7質量部であり、さらに好ましくは1~6質量部である。この範囲内であれば、難燃剤が発泡性を阻害することなく、JIS A9521:2014測定方法Aに規定される難燃性が得られる押出発泡板を得ることができる。
【0049】
また、本発明方法においては、押出発泡板の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を前記難燃剤と併用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、3,4-ジエチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-エチル-1-ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン等のポリアルキル化芳香族化合物等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。難燃助剤の配合量は、ポリスチレン系樹脂100質量部に対して概ね0.01~1質量部であり、より好ましくは0.05~0.5質量部である。
【0050】
本発明方法においては、断熱性を向上させるために、該発泡性樹脂組成物に輻射抑制剤としてグラファイトを配合することができる。該グラファイトは赤外線を反射することにより、押出発泡板の断熱性を向上させることができる。
【0051】
該グラファイトとしては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、人造黒鉛、土状黒鉛等が挙げられ、主成分が鱗片状黒鉛であるものを用いることが好ましい。後述するように、該グラファイトは、ポリスチレン系樹脂に高濃度で配合されたマスターバッチとして用いることが好ましい。該マスターバッチを製造する際の作業性が良好であるとともに、得られる押出発泡板の断熱性向上効果が優れていることから、固定炭素分が90%以上のグラファイトが好ましい。押出発泡板の断熱性を更に高めるために、グラファイトとしては固定炭素分93%以上のものがより好ましく、95%以上のものが更に好ましい。尚、該グラファイトの固定炭素分は、JIS M 8511(1976年)記載の方法で測定した値を言う。
【0052】
該グラファイトの配合量は、前記基材樹脂100質量部に対して0.2~10質量部であることが好ましい。該配合量がこの範囲内であると、断熱性が向上し、所望の低熱伝導率の押出発泡板を得ることができる。この観点から、該グラファイトの配合量は押出発泡板の基材樹脂100質量部に対して0.3~5質量部であることがより好ましく、0.4~3質量部であることがさらに好ましい。
【0053】
また、本発明方法においては、断熱性をさらに向上させるために、押出発泡板に該グラファイト以外の輻射抑制剤を含有させることができる。
該グラファイト以外の輻射抑制剤としては、例えば、酸化チタン等の金属酸化物、アルミニウム等の金属、セラミック、カーボンブラック、黒鉛、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイト等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。 グラファイト以外の輻射抑制剤の配合量は、基材樹脂100質量部に対して概ね0.5~5質量部であり、より好ましくは1~4質量部である。
【0054】
また、本発方法においては、必要に応じて、前記基材樹脂に公知のその他の添加剤を適宜配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、気泡径拡大剤、気泡調整剤、顔料、染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を挙げることができる。
【0055】
該安定剤は、押出発泡板を製造する際や押出発泡板の端材等をリサイクルしてリペレット化する際などに、原料や端材等に配合することにより前記臭素系難燃剤の熱安定性を向上させることができる。該熱安定剤としては、例えば、DIC製EPICLONシリーズ等のビスフェノール型エポキシ系化合物やノボラック型エポキシ系化合物、(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])等のヒンダードフェノール系化合物、(ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト)等のホスファイト系化合物から選択される1又は2以上の熱安定剤が挙げられる。なお、該熱安定剤の配合量は、難燃剤の総量100質量部に対して、0.1~40質量部であることが好ましい。
【0056】
本発明方法においては、前記基材樹脂に気泡調整剤を配合して、前記発泡性樹脂組成物を形成することが好ましい。
気泡調整剤としてはタルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末を用いることができる。なかでも気泡径の調整が容易であるとともに、難燃性を阻害することなく気泡径を小さくし易いタルクが好適であり、特に50%粒径(光透過遠心沈降法)が0.1~20μmの細かいタルクが好ましく、0.5~15μmの細かいタルクが好ましい。気泡調整剤の添加量は、調整剤の種類、目的とする気泡径等によっても異なるが、気泡調整剤としてタルクを使用する場合、ポリスチレン系樹脂100重量部当たり0.1~7重量部が好ましく、0.3~5重量部がより好ましく、0.5~3重量部が更に好ましい。
【0057】
本発明方法において、前記難燃剤やグラファイトの前記基材樹脂への配合方法としては、所定割合の難燃剤やグラファイトを基材樹脂と共に押出機上流に設けられている供給部に供給し、押出機中にて混練する方法を採用することができる。その他、押出機途中に設けられた供給部より溶融ポリスチレン樹脂中にグラファイトや難燃剤を供給する方法も採用することができる。具体的には、難燃剤、グラファイト及び基材樹脂をドライブレンドしたものを押出機に供給して溶融混練する方法、難燃剤、グラファイト及び基材樹脂をニーダー等により混練した溶融混練物を押出機に供給する方法、あらかじめ高濃度の難燃剤やグラファイトをポリスチレン系樹脂に配合したマスターバッチを作製し、これを押出機に供給して基材樹脂と溶融混練する方法等を採用することができ、特に分散性の点からグラファイトマスターバッチや難燃剤マスターバッチを作製し押出機に供給する方法を採用することが好ましい。グラファイトマスターバッチの調整は、ベースレジンにMFR0.5~30g/10分のポリスチレン系樹脂を使用して、マスターバッチ中にグラファイトが10~80重量%含有されるように調整することが好ましく、20~70重量%含有されるように調整することがより好ましく、30~60重量%含有されるように調整することが更に好ましい。また、難燃剤マスターバッチの調整は、ベースレジンにMFR0.5~30g/10分のポリスチレン系樹脂を使用して、マスターバッチ中に難燃剤が10~80重量%含有されるように調整することが好ましく、20~70重量%含有されるように調整することがより好ましく、30~60重量%含有されるように調整することが更に好ましい。
【0058】
本発明方法においては、以上説明した、基材樹脂、難燃剤等の添加剤及び物理発泡剤を含む溶融した発泡性樹脂組成物を、大気圧下に押出し発泡させて成形具により板状に賦型することにより、ポリスチレン系樹脂押出発泡板を得ることができる。
【0059】
次に、本発明方法により得られるポリスチレン系樹脂押出発泡板について説明する。
該押出発泡板の見掛け密度は、20~40kg/m3である。該見掛け密度が小さすぎると、機械的強度が低下して、例えば断熱材として使用できないおそれがある。該見掛け密度が大きすぎると、軽量性が失われ、断熱性が低下して、例えば建築用の断熱材として使用できないおそれがある。
【0060】
また、本発明の押出発泡板は板状であり該押出発泡板は、その押出方向垂直断面積が100cm2以上であり、200cm2以上であることが好ましい。その断面積の上限は概ね1500cm2である。
本明細書において、押出方向垂直断面積とは、押出発泡板の押出方向と直交する断面の面積をいう。
【0061】
本発明の押出発泡板は通常、所望のサイズよりも一回り以上大きなサイズの原板を作製し、原板を切削加工して、幅と長さ、場合によっては厚みを調整することにより製造される。
【0062】
しかし、製造中に原板の幅が大きく変動し、幅が規定よりも狭くなってしまうと、規定のサイズの押出発泡板を得ることができなくなり、歩留まりが悪くなる。また、押出発泡板の製造においては、前述したように、見掛け密度が小さく、断面積が大きいほど発泡が難しくなる傾向がある。本発明の製造方法によれば、厚みが厚く、断面積が大きい押出発泡板を製造する場合であっても、外観が良好な押出発泡板を安定して製造することができる。
【0063】
該押出発泡板は、断熱材として使用される場合、その厚みは10~150mmが好ましく、15mm~120mmがより好ましい。
【0064】
該押出発泡板の幅は、800mm以上であることが好ましく、より好ましくは900mm以上である。その上限は、概ね1200mmである。
【0065】
該押出発泡板においては、炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィン(HFO)の残存量が、製造後7日経過後において、該発泡板1kgあたり0.1~0.6molであることが好ましい。該残存量がこの範囲内であれば、HFOが断熱性向上効果を発揮して、断熱性に優れる押出発泡板となる。
【0066】
さらに、本発明の押出発泡板においては、
該炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィン(HFO)の残存量中における1-クロロ-2,3,3,3-テトラフロオロプロペン(HFO-1224yd)の残存比率が50mol%以上である。HFO-1224ydは、HFO-1234zeに比べると発泡性に優れ、得られる押出発泡板は低見掛け密度で軽量性に富むものである。また、HFO-1233zdに比べると、ポリスチレン系樹脂に対する溶解度が低く、押出発泡板の気泡中の濃度が高いので、得られる押出発泡板の熱伝導率を低下させることができる。該残存比率が50mol%以上であれば、HFO-1234zeや、HFO-1233zdや、HFO-1234zeとHFO-1233zdの合計の残存比率が50mol%以上の押出発泡板に比べると、低見掛け密度の押出発泡板として製造されたことと低熱伝導率であることとのバランスに優れる押出発泡板となる。
【0067】
本発明の押出発泡板は、前記したように、特定量のHFOを含む発泡剤を用いて押出発泡することにより、押出発泡板中にHFOが特定量残存するものである。
【0068】
本明細書における押出発泡板中のHFO残存量は、ガスクロマトグラフを用いて内部標準法により測定される値である。具体的には、押出発泡板から適量のサンプルを切り出し、このサンプルを適量のトルエンと内部標準物質の入った蓋付き試料ビン中に入れ蓋を閉めた後、充分に撹拌し押出発泡板中のHFOをトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行って押出発泡板中のHFO残存量を求める。
【0069】
本発明の押出発泡板においては、製造7日後における熱伝導率は0.018~0.027W/m・Kが好ましく、より好ましくは0.018~0.026W/m・Kであり、さらに好ましくは0.018~0.025W/m・Kである。
また、製造270日後における熱伝導率は0.022~0.030W/m・Kが好ましく、より好ましくは0.022~0.029W/m・Kであり、さらに好ましくは0.018~0.028W/m・Kである。
【0070】
該熱伝導率は、JIS A1412-2:1999記載の熱流計法(試験体1枚・対称構成方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定することができる。具体的な測定方法については実施例で説明する。
【0071】
また、長期熱伝導率は、ISO 11561に準拠し、促進試験を行ったサンプルに対して測定される。この方法によれば、例えば厚さ30mmの押出発泡板を厚さ10mmにスライスしたサンプルにより、製造後30日後に測定された熱伝導率は、30mm厚みの押出発泡板の製造後約270日経過後の熱伝導率に相当する。具体的には、製造直後、押出発泡板サンプルを両面のスキン層から均等に削り、中心部分を残したサンプルを作製する。これを温度23℃、湿度50%の恒温恒湿環境下で30日間保管した試験片を用いて測定した値を上記製造後270日後における熱伝導率とする。
【0072】
該押出発泡板は前記グラファイトを含有していることが好ましい。該グラファイトを含有する押出発泡板は、グラファイトが赤外線を反射することにより、長期断熱性がより向上した押出発泡板となる。
該グラファイトの含有量は、前記した理由により、押出発泡板を構成する基材樹脂100質量部に対して0.2~10質量部であるこが好ましく、より好ましくは0.3~5質量部である。
該含有量は、押出発泡板の製造時における配合量と同じである。
【0073】
該押出発泡板の独立気泡率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。独立気泡率がこの範囲内であれば、前記HFOや前記飽和炭化水素が気泡中に留まりやすくなり、押出発泡板の高い断熱性能を長期に亘って維持することができる。また、機械的強度にも優れた押出発泡板とすることができる。
【0074】
なお、発泡板の独立気泡率は、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、空気比較式比重計(例えば、東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計、型式:930型)を使用して測定される押出発泡板の真の体積Vxを用いて、下記式(1)から求めることができる。
【0075】
具体的には、押出発泡板の中央部及び幅方向両端部付近の計3箇所からカットサンプルを切り出して、各々のカットサンプルを測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を測定し、3箇所の独立気泡率の算術平均値を採用する。なお、カットサンプルは、押出発泡板から縦25mm×横25mm×厚み20mmの大きさに切断された押出発泡板の表皮を有しないサンプルとし、厚みが薄く厚み方向に20mmのサンプルが切り出せない場合には、例えば縦25mm×横25mm×厚み10mmの大きさに切断された試料(カットサンプル)を2枚重ねて測定する。
【0076】
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) (1)
【0077】
ただし、式中のVx、Va、W、ρは以下の通りである。
Vx:前記空気比較式比重計による測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm3)(押出発泡板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
Va:測定に使用されたカットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm3)
W:測定に使用されたカットサンプル全質量(g)
ρ:押出発泡板を構成する基材樹脂の密度(g/cm3)
【実施例】
【0078】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0079】
実施例及び比較例において、以下に示す装置及び原料を用いた。
【0080】
内径115mmの第1押出機と内径180mmの第2押出機を直列に連結し、第1押出機の終端付近に物理発泡剤注入口を設け、間隙1mm×幅440mmの横断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイを第2押出機の出口に連結した押出装置を用いた。また、第2押出機の樹脂出口には上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板が、略一定の間隔を隔てて水平に設置された成形装置(ガイダー)を付設した。
【0081】
(1)ポリスチレン系樹脂
略称「PS1」:DIC(株)製ポリスチレン「HP600ANJ」、溶融粘度1400Pa・s
略称「PS2」:PSジャパン(株)製ポリスチレン「680」、溶融粘度930Pa・s
略称「PET」:MGC(株)製スピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート、溶融粘度2000Pa・s
略称「樹脂1」:PS1/PS2(50質量%/50質量%)
略称「樹脂2」:PS1/PS2/PET(40質量%/40質量%/20質量%)
【0082】
なお、上記樹脂の溶融粘度は、株式会社東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dを使用して、以下の方法により測定した。シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーの先端に穴径1.0mm、長さ10.0mmのキャピラリーを取り付け、シリンダー及びキャピラリーを200℃に昇温した後、シリンダー内に測定試料(樹脂ペレット)を充填し、4分間の予備加熱にて十分に溶融させ、剪断速度100sec-1の条件にて樹脂の溶融粘度を測定した。
【0083】
(3)物理発泡剤
(A1)HFO-1224yd:ハネウェルジャパン社製
(A2-1)HFO-1233zd:ハネウェルジャパン社製
(A2‐2)HFO-1233ze:ハネウェルジャパン社製
(A3)イソブタン:三井化学社製
(B1-1)水
(B1-2)二酸化炭素(CO2):昭和炭酸社製
(B2-1)ジメチルエーテル(DME):三菱ガス化学社製
(B2-2)アルコール(エタノール/イソプロピルアルコール/1-プロパノール=90重量%/6重量%/4重量%):山一化学工業社製
【0084】
(3)難燃剤
略称「難燃剤1」:Chemtura製ポリスチレン-臭素化ポリブタジエン-スチレンブロック共重合体難燃剤「Emerald3000」
略称「難燃剤2」:[テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、第一工業製薬「SR130」]/[テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、第一工業製薬「SR720」]=60質量%/40質量%
【0085】
(4)輻射抑制剤
グラファイト:日本黒鉛工業(株)製「CP-N」(鱗片状黒鉛)、一次粒径(d50)=10μm
酸化チタン :テイカ(株)製「JR-405」、一次粒径(d50)=0.2μm
【0086】
(5)気泡調整剤:タルク(松村産業株式会社製、製品名「ハイフィラー#12」)
【0087】
実施例1~13、比較例1~5
表1(実施例1~7)、表2(実施例8~13)、表3(比較例1~5)に示す種類、量の基材樹脂、表1、表2、表3に示す種類、量の難燃剤、表1、表2、表3に示す量のタルク(気泡調整剤)を第1押出機に供給し、200℃まで加熱して混練し、第1押出機に設けられた物理発泡剤注入口から、表1、表2、表3に示す種類、量の物理発泡剤を供給し、更に混錬して発泡性樹脂溶融物を形成した。次に、得られた発泡性樹脂溶融物を第2押出機に移送して樹脂温度を調整した後、吐出量400kg/hrでガイダー内に押出し、発泡させながらガイダー内を通過させて板状に成形(賦形)して押出発泡板の原板を作製し、さらに、切削加工により原板の幅及び長さを調整して、直方体状のポリスチレン系樹脂発泡板(幅:910mm、長さ:1820mm、厚み:30mm、押出方向に直交する断面積:273cm2)を製造した。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
実施例1は、標準的な配合の物理発泡剤で押出発泡板を製造した例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れ、スポットの発生がなく、外観が良好なものであった。
実施例2は、実施例1に対し、HFO-1224ydの配合量を増やし、イソブタンの配合量はそのままで、発泡剤B(水、DME、アルコール)の配合量を減らした例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れていた。
実施例3は、実施例2に対し、HFO-1224ydの配合量を更に増やし、イソブタンの配合量は略そのままで、発泡剤B(DMEのみ使用)の配合量を更に減らした例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れているが、独立気泡率が僅かに低下しており、製造270日後の熱伝導率はHFO-1224ydの配合量の増量に対して高い値となった。
実施例4は、実施例1に対し、HFO-1224ydの配合量を減らし、イソブタンの配合量を増やし、発泡剤B(水、DME、アルコール)の配合量はそのままにした例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れ、スポットの発生がなく、外観が良好なものであった。
実施例5は、実施例1に対し、HFO-1224ydの配合量とイソブタンの配合量を減らし、発泡剤B(水、DME)の配合量を増やした例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れ、スポットの発生がなく、外観が良好なものであった。
実施例6は、実施例1に対し、イソブタンを配合せずに、HFO-1224ydの配合量を増やし、発泡剤B(水、DME)の配合量を増やした例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れ、スポットの発生がなく、外観が良好なものであった。
実施例7はHFO-1224ydとイソブタン(発泡剤A)の配合量は実施例1と同じで、DMEを配合することなく、発泡剤B(水、CO2、アルコール)の合計配合量は実施例1と同じにした例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れていた。
実施例8は、実施例1に対し、HFO-1224ydの配合量は変えずに、イソブタンの配合量を少なくし、発泡剤B(水、DME)の合計配合量を大きくし、比(B2/B1)を小さくした例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れていた。
実施例9は、実施例1に対し、物理発泡剤の配合は変えずに、難燃剤の種類を変えた例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れ、スポットの発生がなく、外観が良好なものではあった。
実施例10は、実施例1に対し、タルクの配合量を少なくし、輻射抑制剤として、酸化チタンとグラファイトを配合した例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れ、スポットの発生がなく、外観が良好なものであった。
実施例11は、実施例1に対し、HFO-1224ydの配合量を増やし、さらにHFO-1233zdを配合して、HFO中のHFO-1224ydの配合率を低くし、発泡剤B(水、CO2、アルコール)の配合量を減らした例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れ、スポットの発生がなく、外観が良好なものであった。
実施例12は、実施例1に対し、HFO-1224ydの配合量を増やし、さらにHFO-1234zeを配合して、HFO中のHFO-1224ydの配合率を低くし、発泡剤B(水、CO2、アルコール)を減らした例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れ、スポットの発生がなく、外観が良好なものであった。
実施例13は、実施例1に対し、ポリスチレン系樹脂を、ポリスチレンとスピログリコール変性ポリエチレンテレフタレートの混合樹脂に変更した例である。得られた押出発泡板は低熱伝導率で、長期断熱性に優れ、スポットの発生がなく、外観が良好で、難燃性に優れるものであった。
【0092】
比較例1は、実施例1に対し、HFO-1224ydの配合量を大きく減らし、代わりにイソブタンの配合量を大きく増やし、発泡剤B(水、DME、アルコール)の配合量はそのままにした例である。得られた押出発泡板は、実施例5の押出発泡板に比べると、熱伝導率が僅かに小さいものの、難燃性が劣るものであった。
比較例2は、実施例1に対し、HFO-1224ydの配合量を大きく増やし、イソブタンの配合量を減らし、発泡剤B(DME)の配合量を減らした例である。得られた押出発泡板は、製造7日後の熱伝導率は実施例の押出発泡板に勝るが、製造270日後の熱伝導率が増大し、実施例の押出発泡板に対して長期断熱性が劣るものであった。
比較例3は、実施例1に対し、HFO-1224ydとイソブタンの配合量を少なくし、代わりに発泡剤B(水、アルコール)の配合量を多くした例である。得られた押出発泡板は、製造7日後、製造270日後の熱伝導率は実施例5の押出発泡板と同じ程度であるもののガススポットの発生が多いものであった。
比較例4は、実施例1に対し、HFO-1224ydとイソブタンの配合量を増やし、発泡剤Bを全く配合しない例である。得られた押出発泡板は、製造270日後の熱伝導率は実施例の押出発泡板と同程度であるものの、難燃性が劣るものであった。
【0093】
実施例、比較例で得られた押出発泡板の見掛け密度、独立気泡率、熱伝導率(7日後、270日後)、独立気泡率、押出発泡板中央部の気泡径の変動係数、難燃性(JISA9521のろうそく試験)、外観(スポット発生の有無)を測定し、評価した。結果を表4(実施例1~7)、表5(実施例8~13)、表6(比較例1~5)に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
表4、表5、表6中の測定、評価は次のように行った。
【0098】
(見掛け密度)
押出発泡板の見掛け密度は、次のようにして求めた。得られた押出発泡板の幅方向の中央部、両端部付近から50mm×50mm×厚み:発泡板の厚みの表皮を含まない直方体の試料を各々切り出して質量を測定し、該質量を体積で割算することにより夫々の試料の見掛け密度を求め、それらの算術平均値を見掛け密度とした。
【0099】
(独立気泡率)
前記した方法により測定した。
【0100】
(熱伝導率)
製造7日後の熱伝導率
製造直後の押出発泡板の中央部から200mm×200mm×25mmの成形表皮が存在しない試験片を切り出し、該試験片を温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造7日後に、JIS A1412-2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて熱伝導率を測定した。
【0101】
(製造270日後の熱伝導率)
該熱伝導率は、ISO 11561に準拠し、促進試験を行った押出発泡板に対して熱伝導率の測定を行って得られた値である。具体的には、厚さ30mmの製造直後の押出発泡板の中央部において、200mm×200mm×10mmの成形表皮が存在しない試験片を両面のスキン層から均等に切り出し、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造30日後(30mm厚みの押出発泡板の製造270日後に相当)にJIS A1412-2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて熱伝導率を測定した。
【0102】
(押出発泡板の気泡径の変動係数)
下記(2)式を用いて押出発泡板の円換算気泡径の変動係数(Cv)を算出した。
Cv(%)=({Σ(Di-Dav)2/(n-1)}1/2)/Dav)×100
・・・(2)
【0103】
但し、(2)式において、nは、
図1に示す、幅方向垂直断面第一端部6a、幅方向垂直断面中央部6b、幅方向垂直断面第二端部6cにおける円換算平均気泡径を求めるために、各断面から得た(拡大写真において測定対象とした)200から500個程度のセルの数と、
図1に示す、押出方向垂直断面第一端部8a、前記押出方向垂直断面中央部8b、押出方向垂直断面第二端部8cにおける円換算平均気泡径を求めるために、各断面から得た(拡大写真において測定対象とした)200から500個程度のセルの数とを合計した全セルの数であり、Diは個々のセルについて得られた測定値であり、Davは該押出発泡板の円換算平均気泡径である。
【0104】
変動係数Cvについては、上記で計測した個々の気泡の円換算の気泡径を用いて、(2)式により求め、下記基準により評価した。
○:変動係数が36%以下である。
△:変動係数が36%を超え40%以下である。
×:変動係数が40%を超える
【0105】
(難燃性評価:ろうそく試験)
製造直後の押出発泡板を気温23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造4週間後に、押出発泡板から試験片を無作為に5個切り出して(N=5)、JIS A9521:2014の「測定方法A」に基づいて燃焼性を測定し、下記基準により、押出発泡板の難燃性を評価した。
評価基準
◎:全ての試験片において3秒以内で消え、5個の試験片の平均燃焼時間が1.5秒以内である。
〇:全ての試験片において3秒以内で消え、5個の試験片の平均燃焼時間が1.5秒を超え3秒以内である。
×:5個の試験片の平均燃焼時間が3秒を超える。
【0106】
(外観)
外観の評価は、下記基準により行った。
◎:発泡状態が良好であり、表面にざらつきやスポット孔などがない、外観が極めて良好な板状の押出発泡板が安定して得られた。
○:発泡状態は比較的良好であるが、表面にざらつきやスポット孔などがまれに発生し、良好な板状の押出発泡板が得られない場合もあった。
×:発泡板の表面にざらつきやスポット孔などが複数見られ、良好な板状の押出発泡板が得られなかった。