(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】末梢神経障害又は末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患に伴う疼痛の予防又は治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240307BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240307BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240307BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240307BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240307BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240307BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240307BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61P25/02
A61P3/10
A61P25/00
A61P35/00
A61P37/02
A61P27/02
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2020530233
(86)(22)【出願日】2019-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2019027370
(87)【国際公開番号】W WO2020013238
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-07-11
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 勇人
(72)【発明者】
【氏名】石田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】パルンボ エム ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 淳
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0236477(US,A1)
【文献】特表2013-512942(JP,A)
【文献】特表2015-508061(JP,A)
【文献】国際公開第2017/210278(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/175236(WO,A1)
【文献】HARADA,K. et al.,Inhibition of RGMa alleviates symptoms in a rat model of neuromyelitis optica,Scientific Reports,2018年01月,Vol.8,No.34,pp.1-9
【文献】Scientific Reports,2017年,Vol.7, No.1,Article No.10529
【文献】端川勉,“脳神経”,[online],2014年06月,[令和5年5月15日検索],インターネット<URL:https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%84%B3%E7%A5%9E%E7%B5%8C>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RGMa阻害物質を含む、
糖尿病性神経障害の予防又は治療剤であって、
RGMa阻害物質が抗RGMa中和抗体又はそのフラグメントであ
る、
糖尿病性神経障害の予防又は治療剤。
【請求項2】
抗RGMa中和抗体がヒト化抗体である、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
抗RGMa中和抗体が配列番号16、配列番号36、配列番号37、配列番号38及び配列番号39から選択されるアミノ酸配列を認識する抗体である、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
抗RGMa中和抗体が、下記(a1)~(l1):
(a1)配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号7に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号8に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(b1)配列番号11に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号12に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号13に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号14に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号15に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及びSFGをアミノ酸配列に含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(c1)配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号18に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号19に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号20に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号21に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号22に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(d1)配列番号23に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号24に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号25に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号26に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号28に記載のアミノ酸配列を
含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(e1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号31に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(f1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号35に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(g1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号40に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(h1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号41に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(i1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号42に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(j1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号43に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(k1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号44に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、及び
(l1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号45に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
から選択される抗体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の剤。
【請求項5】
糖尿病性神経障害が、有痛性糖尿病性神経障害、及び/又は無症候性糖尿病性神経障害である、請求項
1~4のいずれか一項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RGMa活性を阻害することを特徴とする、末梢神経障害又は末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患に伴う疼痛の予防又は治療剤及びそれを用いる予防又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アストロサイト(Astrocyte)は、中枢神経系に存在するグリア細胞の1つであり、( 1 )構造面でニューロンのネットワークを支える機能、( 2 ) 物質輸送を介してアストロサイト周辺の様々な条件を調節する機能、( 3 ) 前シナプス、後シナプス、グリア細胞間の密接な関係を通して、3つの細胞で発揮する1つのシナプス機能、( 4 ) 細胞外イオンの濃度調節、( 5 ) エネルギー面における緩衝作用、及び( 6 ) オリゴデンドロサイトの髄鞘形成活性の増進等の多様な機能を有している。各種脳疾患における以上のようなアストロサイトの機能が注目され、特に、エージングに伴うアストロサイトの機能低下によるアルツハイマー病、パーキンソン病及び認知障害等の神経変性疾患、脳血管障害、並びに精神性疾患との関連性が注目されている(非特許文献1~3)。
末梢神経障害は、末梢神経の正常な伝導が障害される病態である。末梢神経障害にて障害される神経の種類は運動神経、感覚神経、自律神経に及ぶ。末梢神経障害は、臨床学的に、単神経障害(モノニューロパシー;単一の神経の障害)、多発単神経障害(多発性モノニューロパシー;別々の領域にある2つ以上の神経の障害)、又は多発神経障害(多発ニューロパシー;左右対称に生じた広範な神経障害)に分類され、病理学的には、軸索が中心に侵された軸索障害、又は髄鞘が変性脱落した髄鞘障害に分類される。末梢神経障害は、運動神経、感覚神経、及び自律神経に対して障害をもたらす。その結果、疼痛、知覚異常、麻痺、しびれ、筋力低下、発汗異常、又は排尿障害などの症状をもたらし、時間とともに悪化することを特徴とする。末梢神経障害の主な原因としては、変形等の身体的要因による損傷、圧迫、血行障害、遺伝的要因、代謝異常等が挙げられる。糖尿病性神経障害は多発神経障害と単神経障害を含み、多発神経障害は末梢神経系である感覚神経、運動神経および自律神経障害を含む。
末梢神経障害に対する治療薬としてメチルビタミンB12(メチルコバラミン)が臨床にて用いられるが(非特許文献4)、臨床的に有効である症例は極めて稀である。また、神経障害に伴う運動麻痺は、日常生活に深刻な影響をもたらすものの、有効な治療方法が未だ確立されていない。
【0003】
RGM(repulsive guidance molecule)は、当初、視覚系の軸索誘導分子として同定された膜タンパク質である(非特許文献5参照)。RGMファミリーには、RGMa、RGMb及びRGMcと呼ばれる3種類のメンバーが含まれ(非特許文献6)、少なくともRGMaとRGMbは同じシグナル伝達機構で働くことが知られている(非特許文献7参照)。RGMcは鉄代謝において重要な役割を発揮する。
その後の研究により、RGMは、ゼノパス及びニワトリ胚における軸索誘導及びラミナ形成、並びに、マウス胚における頭部神経管の閉鎖の制御等の機能を有することが明らかとなっている(非特許文献8参照)。特許文献1には抗RGM中和抗体を有効成分として含有する軸索再生促進剤が開示されている。
【0004】
RGMaが発生段階の機能に加えて、成人ヒト及びラットの中枢神経系損傷後に再発現すること、ラットにおいてRGMa阻害が脊髄損傷後の軸索成長を亢進し、機能回復を促進することから(非特許文献9参照)、RGMaは中枢神経系損傷後の軸索再生阻害剤であると考えられている。RGMaを中和する具体的な抗体としては、例えば、特許文献2(例えば、5F9、8D1)、特許文献3(例えば、AE12-1、AE12-1Y)、特許文献4(例えば、r116A3、r70E4、r116A3C、rH116A3)に記載されている。
また、抗RGMa抗体が視神経脊髄炎に対し効果を有することが知られている(非特許文献10参照)。
このように中枢神経系損傷ではRGMaの役割が明らかにされているが、末梢神経障害又は末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患に伴う疼痛症状においてはRGMaの関与は同定されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開 WO2005/087268号
【文献】国際公開 WO2009/106356号
【文献】国際公開 WO2013/112922号
【文献】国際公開 WO2016/175236号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Dallerac G et al., Prog Neurobiol. 144: 48-67(2016)
【文献】Gerkau NJ et al., J Neurosci Res. 2017 Feb 2.
【文献】Alam Q et al., Curr Pharm Des. 22: 541-8(2016)
【文献】Yamazaki et al. Neurosci Lett, 170: 195-197. (1994)
【文献】Stahl, B., Muller, B., von Boxberg, Y., Cox, E.C. & Bonhoeffer, F. Biochemical characterization of a putative axonal guidance molecule of the chick visual system. Neuron 5, 735-743 (1990)
【文献】Mueller et al.,Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 361: 1513‐29, 2006
【文献】Liu, X., Hashimoto, M., Horii, H., Yamaguchi, A., Naito, K. and Yamashita, T. Repulsive guidance molecule b inhibits neurite growth and is increased after spinal cord injury. Biochem. Biophys. Res. Commun. 382, 795-800 (2009)
【文献】Yamashita, T., Mueller, B.K. & Hata, K. Neogenin and repulsive guidance molecule signaling in the central nervous system. Curr. Opin. Neurobiol.17, 29-34 (2007)
【文献】Hata, K. et al. RGMa inhibition promotes axonal growth and recovery after spinal cord injury. J. Cell Biol. 173, 47-58 (2006)
【文献】Harada K. et al., Inhibition of RGMa alleviates symptoms in a rat model of neuromyelitis optica. Scientific Reports 8:34 1-9 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新規な末梢神経障害又は末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患に伴う疼痛症状の予防又は治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、RGMa阻害物質が、末梢神経障害の予防又は治療剤になりうることを見出した。また、RGMa阻害物質が、末梢神経障害だけでなく、アストロサイトの障害又は機能低下を改善することにより、疼痛症状に対して効果を示すことから、末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患に伴う疼痛症状に対する予防又は治療剤になりうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明に関する。
【0009】
1.RGM阻害物質を含む、末梢神経障害の予防又は治療剤。
2.RGM阻害物質がRGMa阻害物質である、項1に記載の剤。
3.RGMa阻害物質が抗RGMa中和抗体又はそのフラグメントである、項2に記載の剤。
4.抗RGMa中和抗体がヒト化抗体である、項3に記載の剤。
5.抗RGMa中和抗体が配列番号16、配列番号36、配列番号37、配列番号38及び配列番号39から選択されるアミノ酸配列を認識する抗体である、項3又は4に記載の剤。
6.抗RGMa中和抗体が、下記(a1)~(l1):
(a1)配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号7に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号8に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(b1)配列番号11に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号12に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号13に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号14に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号15に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及びSFGをアミノ酸配列に含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(c1)配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号18に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号19に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号20に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号21に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号22に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(d1)配列番号23に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号24に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号25に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号26に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号28に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(e1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号31に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(f1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号35に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(g1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号40に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(h1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号41に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(i1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号42に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(j1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号43に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(k1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号44に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、及び
(l1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号45に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
から選択される抗体である、項3~5のいずれか一項に記載の剤。
7.末梢神経障害が、糖尿病性神経障害、絞扼性神経障害(手根管症候群、肘部尺骨神経障害、腓骨神経麻痺又は足根管症候群)、家族性アミロイドポリニューロパチー、中毒性ニューロパチー、癌性ニューロパチー、免疫介在性ニューロパチー(ギラン・バレー症候群(GBS)又は慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP))、膠原病に伴うニューロパチー、クロウ-フカセ症候群(POEMS症候群)、遺伝性ニューロパチー(Charcor-Marie-Tooth病)、帯状疱疹後神経痛、AIDS又はライム病による末梢神経障害、尿毒症、多巣性運動ニューロパチー及び血管炎性ニューロパチーから選ばれる、項1~6のいずれかに記載の剤。
8.末梢神経障害が、糖尿病性神経障害である項1~6のいずれかに記載の剤。
9.糖尿病性神経障害が、有痛性糖尿病性神経障害、及び/又は無症候性糖尿病性神経障害である、項8に記載の剤。
10.末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患による疼痛症状の予防又は治療に用いるための、項1~6のいずれかに記載の剤。
11.末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患が、糖尿病性神経障害、絞扼性神経障害(手根管症候群、肘部尺骨神経障害、腓骨神経麻痺又は足根管症候群)、家族性アミロイドポリニューロパチー、中毒性ニューロパチー、癌性ニューロパチー、免疫介在性ニューロパチー(ギラン・バレー症候群(GBS)又は慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP))、膠原病に伴うニューロパチー、クロウ-フカセ症候群(POEMS症候群)、遺伝性ニューロパチー(Charcor-Marie-Tooth病)、帯状疱疹後神経痛、AIDS又はライム病による末梢神経障害、尿毒症、多巣性運動ニューロパチー、血管炎性ニューロパチー、視神経脊髄炎及びアレキサンダー病から選ばれる、項10に記載の剤。
12.末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患が、糖尿病性神経障害又は視神経脊髄炎である項11に記載の剤。
13.末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患が、糖尿病性神経障害である項11に記載の剤。
14.末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患が、視神経脊髄炎である項11に記載の剤。
15.治療を要する哺乳動物に対して有効量のRGMa阻害物質を投与することを含む、末梢神経障害の予防又は治療方法。
16.末梢神経障害が糖尿病性神経障害である、項15に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、末梢神経障害の予防又は治療剤を提供することができる。本発明は、また末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患に伴う疼痛症状の予防又は治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ラットストレプトゾシン(STZ)誘発糖尿病性神経障害モデルの機械的痛覚過敏に対するr116A3繰り返し投与による改善効果を示す図である。
【
図2】
図2は、ラットSTZ誘発糖尿病性神経障害モデルの運動神経伝導速度低下に対するr116A3繰り返し投与による改善効果を示す図である。
【
図3】
図3はラットSTZ誘発糖尿病性神経障害モデルの脊髄のグリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)免疫染色陽性面積率に対するr116A3繰り返し投与による効果を示す図である。
【
図4】
図4はラットSTZ誘発糖尿病性神経障害モデルの脊髄のIba1免疫染色陽性面積率に対するr116A3繰り返し投与による効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
本明細書中別途定義されていない限り、本発明に関連して使用されている科学用語及び技術用語は当業者が通常理解している意味を有する。用語の意味及び範囲は明らかでなければならないが、潜在的に意味が明確でない場合には本明細書中に与えられている定義が辞書又は外部の定義に優先する。更に、別段の記述がない限り、単数形の用語は複数を含み、複数形の用語は単数を含む。本明細書中、「又は」の使用は別段の記述がない限り「及び/又は」を意味する。
【0013】
一般的に、本明細書中に記載されている細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、タンパク質及び核酸化学、並びにハイブリダイゼーションに関連して使用されている命名法及びそれらの技術は当業界で公知であり、一般的に使用されている。本発明の方法及び技術は、別段の指示がない限り、通常当業界で公知であり、各種一般文献並びに本明細書中に引用、検討されているより具体的な文献に記載されている慣用方法に従って実施される。酵素反応及び精製技術は当業界で通常実施されているか、又は本明細書中に記載されているように製造業者の仕様書に従って実施される。本明細書中に記載されている分析化学、合成有機化学、並びに医化学及び医薬としての化学に関連して使用されている命名法並びにそれらの実験手順及び技術は当業界で公知であり、通常使用されているものである。化学合成、化学分析、医薬品、処方、デリバリー及び患者の治療のためには標準技術が使用される。
本発明の理解を容易にするため、以下に本発明に用いられる用語を説明する。
【0014】
[中和]
本願において中和とは目的の標的に結合し、かつ、その標的のいずれかの機能を阻害することができる作用のことをいう。例えば、RGMa阻害物質は、RGMaへの結合の結果、RGMaの生物活性が阻害される物質をいう。
【0015】
[エピトープ]
本願においてエピトープとは、免疫グロブリン又はT細胞受容体に対して特異的に結合し得るポリペプチド決定基を含む。ある実施形態では、エピトープは分子の化学的に活性な表面基(例えば、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル又はスルホニル)を含み、ある実施形態では特定の3次元構造特性及び/又は特定の電荷特性を有し得る。エピトープは抗体により結合される抗原の領域である。
【0016】
[単離された]
本願において単離されたRGMa阻害物質(例えば抗体等)等の「単離された」とは、同定され、かつ、分離された、及び/又は、自然状態での成分から回収された、という意味である。自然状態での不純物は、その抗体の診断的又は治療的使用を妨害し得る物質であり、酵素、ホルモン及びその他のタンパク質性の又は非タンパク質性の溶質が挙げられる。一般的に、RGMa阻害物質等を単離するには、少なくとも1つの精製工程によって精製すればよく、少なくとも1つの精製工程により精製されたRGMa阻害物質を「単離されたRGMa阻害物質」ということができる。
【0017】
[抗体]
本願において抗体とは、広義には免疫グロブリン(Ig)分子の実質的にエピトープに結合する特徴を保持している2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)の4本のポリペプチド鎖からなるIg分子を指す。
【0018】
[ヒト抗体]
本願において「ヒト抗体」とは、軽鎖、重鎖ともにヒト免疫グロブリン由来の抗体をいう。ヒト抗体は、重鎖の定常領域の違いにより、γ鎖の重鎖を有するIgG(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む)、μ鎖の重鎖を有するIgM、α鎖の重鎖を有するIgA(IgA1,IgA2を含む)、δ鎖の重鎖を有するIgD、又はε鎖の重鎖を有するIgEを含む。また原則として軽鎖は、κ鎖とλ鎖のどちらか一方を含む。
【0019】
[ヒト化抗体]
本願において「ヒト化抗体」は、非ヒト動物由来抗体の相補性決定領域と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域とからなる可変領域、及びヒト抗体由来の定常領域からなる抗体をいう。
【0020】
[キメラ抗体]
本願において「キメラ抗体」とは、軽鎖、重鎖、又はその両方が、非ヒト由来の可変領域と、ヒト由来の定常領域からなる抗体をいう。
【0021】
[モノスペシフィック抗体]
本願において「モノスペシフィック抗体」とは、単一の抗原特異性を有する、単一の独立した抗原認識部位を持ち合わせた抗体である。本明細書中においては、例えば、RGMaを認識するモノスペシフィック抗体をRGMaモノスペシフィック抗体と呼称することがある。
【0022】
[マルチスペシフィック抗体]
本願において「マルチスペシフィック抗体」とは、2つ以上の異なる抗原特異性を有する2つ以上の独立した抗原認識部位を持ち合わせた抗体であり、2つの抗原特異性を有するバイスペシフィック抗体、3つの抗原特異性を有するトリスペシフィック抗体などが挙げられる。
【0023】
[相補性決定領域(CDR)]
「相補性決定領域(CDR)」とは免疫グロブリン分子の可変領域のうち、抗原結合部位を形成する領域をいい、超可変領域とも呼ばれ、免疫グロブリン分子ごとに特にアミノ酸配列の変化が大きい部分をいう。CDRには軽鎖及び重鎖それぞれに3つのCDRがある。軽鎖に含まれる3つのCDRをそれぞれLCDR1、LCDR2及びLCDR3、並びに重鎖に含まれる3つのCDRをHCDR1、HCDR2及びHCDR3と呼称することがある。例えば免疫グロブリン分子のCDRはカバット(Kabat)の番号付けシステム(Kabatら、1987、Sequences of Proteins of Immunological Interest、US Department of Health and Human Services、NIH、USA)に従って決定される。
【0024】
[有効量]
「有効量」とは、障害又はその1つ以上の症状の重症度及び/又は期間を軽減又は改善させる、障害の進行を予防する、障害を後退させる、障害に関連する1つ以上の症状の再発、発生、発症又は進行を予防する、障害を検出する、或いは別の治療(例えば、予防薬又は治療薬)の1つ以上の予防又は治療効果を強化又は向上させるのに十分な予防又は治療剤の量を指す。
【0025】
[アミノ酸配列のパーセント(%)同一性]
可変領域等の候補ポリペプチド配列のアミノ酸配列の、参照ポリペプチド配列のアミノ酸配列に関する「パーセント(%)同一性」とは、配列を整列させ、最大の%同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした後の、特定の参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。%同一性を測定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列をアラインメントするための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%同一性値は、ペアワイズアラインメントにおいて、配列比較コンピュータプログラムBLASTを使用することによって得られる。
アミノ酸配列比較にBLASTが用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bとの%同一性は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムBLASTのA及びBのプログラムアラインメントによって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%同一性は、BのAに対する%同一性とは異なることは理解されるであろう。特に断らない限りは、ここでの全ての%同一性値は、直ぐ上のパラグラフに示したようにBLASTコンピュータプログラムを用いて得られる。
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の実施形態は、RGM阻害物質、とりわけRGMa阻害物質の新規な用途である末梢神経障害の予防又は治療剤を提供する。また、本発明の実施形態は、例えば、RGMa阻害物質の糖尿病性神経障害の予防又は治療剤を提供する。さらに、本発明の他の実施形態は、RGMa阻害物質の末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患による疼痛症状の予防又は治療剤を提供する。
また、本発明の他の実施形態は、治療を要する哺乳動物に対して、有効量のRGMa阻害物質を含む予防又は治療剤を投与するステップを含む、末梢神経障害、例えば糖尿病性神経障害の予防又は治療方法を提供する。
【0027】
<RGM阻害物質>
本発明のRGM阻害物質としては、後述する末梢神経障害又は末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患による疼痛症状を誘導する又は当該疾患又は症状からの回復を阻害するRGMの活性(以下、単に「RGM活性」と称することがある)を阻害する物質又はRGMの発現を阻害する物質のいずれのものでもよい。ここで、RGMは、RGMa、RGMb及びRGMcから選択される一つ又は二つ以上を意味し、好ましくはRGMaである。
【0028】
RGMaは中枢神経系における神経突起成長阻害タンパク質として同定され、ヒトRGMaタンパク質は配列番号1に示すように450アミノ酸からなる前駆タンパク質として生合成される。N末端に存在するシグナルペプチドMet1~Pro47(N末端側から1番目のメチオニン残基から47番目のプロリン残基までのペプチドを指す、以後同様に記載)が除去され、Asp168とPro169の間のペプチド結合が切断されてN末端ドメインが生成し、さらにPro169よりC末側のフラグメントのC末端ペプチドAla425~Cys450が除去されるとともに、C末端となったAla424のC末端カルボキシル基にGPIアンカーが付加され、C末側ドメインが生成する。更に、上記N末側ドメイン(Cys48~Asp168)とC末側ドメイン(Pro169~Ala424)がジスルフィド結合により繋がった成熟タンパク質として、GPIアンカーを介して細胞膜上に発現する。
【0029】
本発明においてRGMaは、いずれの動物由来のものでもよいが、好ましくはヒトRGMaである。ヒトのRGMaの前駆タンパク質は配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列からなる。マウスのRGMaの前駆タンパク質は配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列、ラットのRGMaの前駆タンパク質は配列表の配列番号3に示すアミノ酸配列からなるが、C末端ペプチドが除去されるため、成熟タンパク質としては同一のアミノ酸配列となる。
RGMa遺伝子としては、例えば配列番号4に示される塩基配列からなるヒトRGMa遺伝子等が挙げられるが、これに限定されるものではない。種々の生物由来のRGM遺伝子の塩基配列は公知のデータベース(GenBank等)から容易に取得することができる。
【0030】
本発明におけるRGMa阻害物質とは、末梢神経障害又は末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患による疼痛症状を誘導する又は当該疾患若しくは症状からの回復を阻害するRGMaの活性(以下、本明細書中において、単に「RGMa活性」ということがある。)を阻害(中和)する物質又はRGMaの発現を阻害する物質のいずれでもよい。例えば、本発明におけるRGMa阻害物質は、実施例1に記載する評価方法、すなわちラットSTZ誘発糖尿病性神経障害モデルを用いた疼痛及び神経伝導障害に対する改善効果を評価すること等により選択することができる。
【0031】
本発明におけるRGMa阻害物質としては、例えばRGMaに結合して直接的にRGMa活性を阻害する、あるいはRGMaと受容体の結合を阻害して間接的にRGMa活性を阻害する物質を意味し、具体的には、低分子化合物、抗RGMa中和抗体、その機能改変抗体、そのコンジュゲート抗体又はそれらフラグメント等が挙げられる。また、RGMaの発現を阻害することによりRGMa活性を阻害する物質もRGMa阻害物質であり、具体的には、RGMa遺伝子のsiRNA(short interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチドなどが挙げられる、これらのRGMa阻害物質のうち、好ましくは抗RGMa中和抗体、その機能改変抗体、そのコンジュゲート抗体、それらのフラグメント、より好ましくは抗RGMa中和抗体又はそのフラグメントであり、とりわけ好ましくは抗RGMa中和抗体である。
【0032】
さらには、本発明のRGMa阻害物質として、RGMaに直接働きかけるものではないが、RGMaが末梢神経障害、例えば、糖尿病性神経障害の症状を誘導するシグナル伝達系のうち、いずれかの関連分子の活性を阻害する物質も含まれる。
【0033】
本発明の実施形態において、抗RGMa中和抗体とは、RGMaに結合して、本発明のRGMa活性を中和する抗体であればよく、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でも良いが、好ましくはモノクローナル抗体である。また、本発明のRGMa中和抗体はRGMaモノスペシフィック抗体でもRGMa及び他の抗原を複数認識するマルチスペシフィック抗体でもよいが、好ましくはRGMaモノスペシフィック抗体である。
【0034】
また、具体的なエピトープとしては、ヒトRGMaにおいて、配列番号16(配列番号1のアミノ酸番号47-69)、配列番号36(配列番号1のアミノ酸番号298-311)、配列番号37(配列番号1のアミノ酸番号322-335)、配列番号38(配列番号1のアミノ酸番号349-359)、配列番号39(配列番号1のアミノ酸番号367-377)のうち、1つ以上であることが好ましく、配列番号36及び37の組み合わせがより好ましく、配列番号36、37及び39の組み合わせがとりわけ好ましい。
【0035】
本発明の抗RGMa中和抗体は、RGMaタンパク質又はその部分断片(例えば、上記したエピトープ断片)を抗原として、該抗原をマウス等の哺乳動物に免疫して得られるポリクローナル抗体やモノクローナル抗体、遺伝子組換え技術を用いて製造されるキメラ抗体及びヒト化抗体、並びにヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造されるヒト抗体などが含まれる。本発明の抗体を医薬としてヒトに投与する場合は、副作用の観点から、ヒト化抗体又はヒト抗体が望ましい。
【0036】
本発明の抗RGMa中和抗体として、具体的には、下記(a1)~(l2)の抗体が挙げられ、それぞれ製造方法は特許文献2-4に記載された方法を用いることができる。
【0037】
(a1)配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号7に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号8に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号36、37及び39をエピトープとする抗体も含む)、
(b1)配列番号11に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号12に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号13に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号14に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号15に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及びSFGをアミノ酸配列に含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号36、37及び38をエピトープとする抗体も含む)、
(c1)配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号18に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号19に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号20に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号21に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号22に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(d1)配列番号23に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号24に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号25に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号26に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号28に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(e1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号31に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(f1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号35に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(g1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号40に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(h1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号41に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(i1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号42に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(j1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号43に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(k1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号44に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、及び
(l1)配列番号29に記載のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号45に記載のアミノ酸配列を含むLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
から選択される抗体であり、
より好ましくは下記(a2)~(l2)、
(a2)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号36、37及び39をエピトープとする抗体も含む)、
(b2)配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号12に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号13に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及びSFGのアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号36、37及び38をエピトープとする抗体も含む)、
(c2)配列番号17に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号18に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号19に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号20に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号21に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号22に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(d2)配列番号23に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号24に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号25に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号27に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号28に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体、
(e2)配列番号29に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号31に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(f2)配列番号29に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号35に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(g2)配列番号29に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号40に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(h2)配列番号29に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号41に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(i2)配列番号29に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号42に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(j2)配列番号29に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号43に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
(k2)配列番号29に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号44に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、及び
(l2)配列番号29に記載のアミノ酸配列からなるLCDR1、配列番号30に記載のアミノ酸配列からなるLCDR2及び配列番号45に記載のアミノ酸配列からなるLCDR3を含む軽鎖可変領域、並びに配列番号32に記載のアミノ酸配列からなるHCDR1、配列番号33に記載のアミノ酸配列からなるHCDR2及び配列番号34に記載のアミノ酸配列からなるHCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗RGMa中和抗体(当該抗RGMa中和抗体は、さらに配列番号16をエピトープとする抗体も含む)、
から選択される抗体が挙げられる。
これらのうち、特に好ましくは(a2)に記載される抗体が挙げられる。
【0038】
本発明の抗RGMa中和抗体の製造方法は、既存の一般に用いられる製造方法を用いることができる。抗原はそのまま免疫に使用してもよいし、キャリアタンパク質との複合体として用いてもよい。抗原とキャリアタンパク質の複合体の調製にはグルタルアルデヒド、カルボジイミド、マレイミド活性エステル等の縮合剤を用いることができる。キャリアタンパク質は牛血清アルブミン、サイログロブリン、ヘモシアニン、KLH等が例示される。
【0039】
免疫される哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマあるいはウシ等が挙げられ、接種方法は皮下、筋肉内あるいは腹腔内の投与が挙げられる。投与に際しては抗原は完全フロイントアジュバンドや不完全フロイントアジュバンドと混和して投与してもよく、投与は通常2~5週毎に1回ずつ行われる。免疫された動物の脾臓あるいはリンパ節から得られた抗体産生細胞は骨髄腫(ミエローマ)細胞と細胞融合させ、ハイブリドーマとして単離される。骨髄腫細胞としては哺乳動物由来、例えばマウス、ラット、ヒト等由来のものが使用される。
【0040】
ポリクローナル抗体は、例えば、前述のような抗原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、上記のような哺乳動物に免疫することで該免疫感作動物から得た血清から取得することができる。
【0041】
モノクローナル抗体は 、例えば、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons(1987))、Antibodies:A Laboratory Manual, Ed.Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)に記載の方法を採用して得ることができ、モノクローナル抗体を分泌する「ハイブリドーマ」の調製は、ケーラー及びミルシュタインらの方法(ネイチャー(Nature) , 256,495, 1975)及びそれに準じる修飾方法に従って行うことができる。具体的にはモノクローナル抗体は下記のようにして取得することができる。即ち、前述の抗原を免疫原とし、該免疫原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、上記のような哺乳動物の皮下、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1~数回注射するかあるいは移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1~14日毎に1~4回免疫を行って、最終免疫より約1~5日後に免疫感作された該哺乳動物から抗体産生細胞が取得される。
【0042】
ハイブリドーマは、上記抗体産生細胞と、哺乳動物、好ましくはマウス、ラット又はヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞を、必要に応じて融合促進剤を使用して細胞融合させることにより調製される。
【0043】
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63-AG8.653(653)、P3/NSI/1-Ag4-1(NS-1)、P3/X63-Ag8.U1(P3U1)、SP2/0-Ag14(Sp2/O、Sp2)、PAI、F0あるいはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3-Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU-266AR1、GM1500-6TG-A1-2、UC729-6、CEM-AGR、D1R11あるいはCEM-T15等を使用することができる。
【0044】
融合促進剤としてはポリエチレングリコール等が挙げられ、通常には、20~50%程度の濃度のポリエチレングリコール(平均分子量1000~4000)を用いて20~40℃、好ましくは30~37℃の温度下、抗体産生細胞数と骨髄腫細胞数の比は通常1:1~10:1程度とし、約1~10分間程度反応させることにより細胞融合を実施することができる。
【0045】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、ウェルの培養上清の免疫抗原に対する反応性をELISA等の免疫化学的方法によって測定することにより行うことができる。
【0046】
抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングにおいては、RGMaタンパク質との結合アッセイに加えて、該抗体が本発明のRGMa活性を阻害するかの評価も行う。これらのスクリーニング方法により、本発明の抗RGMa中和抗体を選択することができる。
【0047】
目的の抗体を産生するハイブリドーマを含むウェルから更に、限界希釈法によってクローニングを行い、クローンを得ることができる。ハイブリドーマの選別、育種は、通常、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加して、10~20%牛胎児血清を含む動物細胞用培地で行われる。
【0048】
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをインビトロで培養するか、又はマウス、ラット等の哺乳動物の腹水中等のインビボで増殖させ、得られた培養上清、又は哺乳動物の腹水から単離することにより行うことができる。
【0049】
インビトロで培養する場合には、培養する細胞種の特性及び培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるのに適した栄養培地を用いることが可能である。栄養培地は、公知の栄養培地又は基本培地から調製される栄養培地等を上げることができる。
【0050】
基本培地としては、例えば、Ham’F12培地、MCDB153培地あるいは低カルシウムMEM培地等の低カルシウム培地及びMCDB104培地、MEM培地、D-MEM培地、RPMI1640培地、ASF104培地あるいはRD培地等の高カルシウム培地等が挙げられ、該基本培地は、目的に応じて、例えば血清、ホルモン、サイトカイン及び/又は種々の無機あるいは有機物質等を含有させることができる。
【0051】
モノクローナル抗体の単離、精製は、上述の培養上清あるいは腹水を、飽和硫酸アンモニウム、ユーグロブリン沈澱法、カプロン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAE又はDE52等)、抗イムノグロブリンカラムあるいはプロテインAカラム等のアフィニティカラムクロマトグラフィーに供すること等により行うことができる。具体的には、モノクローナル抗体の精製は免疫グロブリンの精製法として既知の方法を用いればよく、たとえば、当該製法は、硫安分画法、PEG分画法、エタノール分画法、陰イオン交換体の利用、さらにRGMaタンパク質を用いるアフィニティークロマトグラフィー等の手段により容易に達成することができる。
【0052】
モノクローナル抗体はファージディスプレイ法により取得することもできる。ファージディスプレイ法では、任意のファージ抗体ライブラリより選別したファージを、目的の免疫原を用いてスクリーニングを行い、免疫原に対する所望の結合性を有するファージを選択する。次に、ファージ内に含まれる抗体対応配列を単離又は配列決定し、単離された配列又は決定された配列情報に基づき、抗体又は抗原結合ドメインをコードする核酸分子を含む発現ベクターを構築する。そしてかかる発現ベクターをトランスフェクションされた細胞株を培養することにより、モノクローナル抗体を産生させることができる。ファージ抗体ライブラリとして、ヒト抗体ライブラリを用いることにより、所望の結合性を有するヒト抗体を生成することができる。
【0053】
抗RGM抗体又はそのフラグメントをコードする核酸分子は例えば、以下の方法によって得ることができる。まず、ハイブリドーマ等の細胞から、市販のRNA抽出キットを用いて全RNAを調製し、ランダムプライマー等を用い、逆転写酵素によりcDNAを合成する。次いで、既知のヒト抗体重鎖遺伝子、軽鎖遺伝子の可変領域において、それぞれ保存されている配列のオリゴヌクレオチドをプライマーに用いたPCR法によって、抗体をコードするcDNAを増幅させる。定常領域をコードする配列については、既知の配列をPCR法で増幅することによって得ることができる。DNAの塩基配列は、配列決定用プラスミドに組み込むなどして、常法により決定することができる。
あるいは、可変領域又はその一部の配列を化学合成し、定常領域を含む配列に結合することによっても本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAを得ることができる。
当該核酸分子は重鎖と軽鎖の定常領域と可変領域の全てをコードするものであってもよいが、重鎖と軽鎖の可変領域のみをコードするものであってもよい。定常領域と可変領域の全てをコードする場合における重鎖及び軽鎖の定常領域の塩基配列は、Nucleic Acids Research vol.14, p1779, 1986、 The Journal of Biological Chemistry vol.257, p1516, 1982 及び Cell vol.22, p197, 1980 に記載のものが好ましい。
【0054】
機能改変抗体は、以下のような方法で調製される。例えば、Fc受容体の1つであるFcRnへの結合を高めたFc領域の変異体を使用することにより、血中半減期の延長を図ることができる(橋口周平ら、生化学、2010、Vol.82(8), p710)。これらの機能改変抗体は、遺伝子工学的に製造することができる。
【0055】
コンジュゲート抗体としては、抗RGMa中和抗体にポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、成長因子(TGF-β、NGF、Neurotrophinなど)、アルブミン、酵素、他の抗体などの本願の抗RGMa中和抗体以外の機能分子を化学的又は遺伝子工学的に結合した抗RGMa中和抗体があげられる。
【0056】
機能分子としてPEGを結合する場合、PEGは非限定的に分子量2000から100000Da、より好ましくは10000から50000Daのものが使用でき、直鎖型でもよく、ブランチ型のものでもよい。PEGは、例えばNHS活性基を用いることにより、RGMa阻害物質のアミノ酸のN末端アミノ基等に結合することができる。
【0057】
機能分子として放射性物質を用いる場合、131I、125I、90Y、64Cu、99Tc、77Lu又は211Atなどが用いられる。放射性物質は、ク口ラミンT法などによってRGMa阻害物質に直接結合させることができる。
【0058】
機能分子として毒素を用いる場合、細菌毒素(例えば、ジフテリア毒素)、植物毒素(例えば、リシン)、低分子毒素(例えば、ゲルダナマイシン)、メイタンシノイド、及びカリケアマイシン等が用いられる。
【0059】
機能分子として低分子化合物を用いる場合、ダウノマイシン、ドキソルビシン、メトロレキサート、マイトマイシン、ネオカルチノスタチン、ビンデシン及びFITC等の蛍光色素等が挙げられる。
【0060】
機能分子として、酵素を用いる場合、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4737456号)、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、ペルオキシダーゼ(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRPO))、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、複素環式オキシダーゼ(例えば、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ等)、ラクトペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ等が用いられる。
【0061】
毒素、低分子化合物又は酵素を化学的に結合する時に使用するリンカーとしては、二価ラジカル(例えば、アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレン)、-(CR2)nO(CR2)n-(Rは任意の置換基、nは正の整数)で表されるリンカーやアルコキシの反復単位(例えば、ポリエチレンオキシ、PEG、ポリメチレンオキシ等)及びアルキルアミノの反復単位(例えば、ポリエチレンアミノ、JeffamineTM)、並びに、二酸エステル及びアミド(スクシネート、スクシンアミド、ジグリコレート、マロネート及びカプロアミド等が挙げられる)が挙げられる。機能分子を結合させる化学的修飾方法はこの分野において既に確立されている (D.J.King., Applications and Engineering of Monoclonal antibodies., 1998 T.J. International Ltd, Monoclonal Antibody-Based Therapy of Cancer., 1998 Marcel Dekker Inc; Chari et al., Cancer Res., 1992 Vol152:127; Liu et al., Proc Natl Acad Sci USA., 1996 Vol 93:8681)。
【0062】
本発明の実施形態において、抗体の「フラグメント」とは、前述のような抗体の、抗原結合性を有する一部分の領域を意味し、具体的にはF(ab')2 、Fab'、Fab 、Fv(variable fragment ofantibody)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖抗体(scFv)、及びこれらの重合体等が挙げられ、さらに、フラグメントにはポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、成長因子(TGF-β、NGF、Neurotrophinなど)、アルブミン、酵素、他の抗体などの本願の抗RGMa中和抗体以外の機能分子を化学的又は遺伝子工学的に結合しているコンジュゲートフラグメントが含まれる。
【0063】
「F(ab')2」及び「Fab」は、イムノグロブリンを、タンパク質分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で処理することにより製造され、ヒンジ領域中の2本の重鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを意味する。例えば、IgGをパパインで処理すると、ヒンジ領域中の2本の重鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断されてVL(軽鎖可変領域)とCL(軽鎖定常領域)からなる軽鎖、及びVH(重鎖可変領域)とCHγ1(重鎖定常領域中のγ1領域)とからなる重鎖フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つの抗体フラグメントを製造することができる。これら2つの相同な抗体フラグメントを各々Fabという。またIgGをペプシンで処理すると、ヒンジ領域中の2本の重鎖間に存在するジスルフィド結合の下流で切断されて前記2つのFabがヒンジ領域でつながったものよりやや大きい抗体フラグメントを製造することができる。この抗体フラグメントをF(ab')2という。
【0064】
本発明の抗RGMa中和抗体の好ましい態様としてキメラ抗体が挙げられる。「キメラ抗体」としては、可変領域が、非ヒト動物(マウス、ラット、ハムスター、ニワトリ等)のイムノグロブリン由来の可変領域であり、定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域である、キメラ抗体が例示される。例えば、抗原をマウスに免疫し、そのマウスモノクローナル抗体の遺伝子から抗原と結合する可変領域を切り出し、ヒト骨髄由来の抗体定常領域と結合して作製することができる。ヒトイムノグロブリン由来の定常領域は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA(IgA1、IgA2)、IgD及びIgE等のアイソタイプにより各々固有のアミノ酸配列を有するが、本発明における組換キメラ抗体の定常領域はいずれのアイソタイプに属するヒトイムノグログリンの定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgGの定常領域である。このように作製したキメラ抗体の遺伝子を用いて発現ベクターを作製することができる。該発現ベクターで宿主細胞を形質転換することによりキメラ抗体産生形質転換細胞を得、該形質転換細胞を培養することにより培養上清中から目的のキメラ化抗体を得る。
【0065】
本発明の抗RGMa中和抗体の別の好ましい態様としてヒト化抗体が挙げられる。本発明における「ヒト化抗体」は、マウスなどの非ヒト動物抗体の抗原結合部位(CDR;相補性決定領域)のDNA配列だけをヒト抗体遺伝子に移植(CDRグラフティング)した抗体である。例えば、特表平4-506458号公報及び特許2912618号明細書等に記載の方法を参照して作製することができる。具体的には、そのCDRの一部又は全部が非ヒト哺乳動物(マウス、ラット、ハムスター等)のモノクローナル抗体に由来するCDRであり、その可変領域のフレームワーク領域がヒトイムノグロブリン由来の可変領域のフレームワーク領域であり、かつその定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であることを特徴とするヒト化抗体を意味する。
【0066】
本発明におけるヒト化抗体は、例えば以下のようにして製造することができる。しかしながら、そのような製造方法に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0067】
例えば、マウスモノクローナル抗体に由来する組換えヒト化抗体は、特表平4-506458号公報及び特開昭62-296890号公報等を参照して、遺伝子工学的に作製することができる。即ち、マウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから、マウス重鎖CDR部分のDNAとマウス軽鎖CDR部分のDNAを単離し、ヒトイムノグロブリン遺伝子からヒト重鎖CDR以外の全領域のヒト重鎖遺伝子と、ヒト軽鎖CDR以外の全領域のヒト軽鎖遺伝子を単離する。
【0068】
単離したマウス重鎖CDR部分のDNAを移植したヒト重鎖遺伝子を発現可能なように適当な発現ベクターに導入し、同様にマウス軽鎖CDR部分のDNAを移植したヒト軽鎖遺伝子を発現可能なように適当なもう1つの発現ベクターに導入する。又は、マウスのCDRを移植したヒトの重鎖及び軽鎖遺伝子を同一の発現ベクターに発現可能なように導入することもできる。このようにして作製された発現ベクターで宿主細胞を形質転換することによりヒト化抗体産生形質転換細胞を得、該形質転換細胞を培養することにより培養上清中から目的のヒト化抗体を得る。
【0069】
本発明の抗RGMa中和抗体の別の好ましい態様としてヒト抗体が挙げられる。「ヒト抗体」とは、イムノグロブリンを構成する重鎖の可変領域及び重鎖の定常領域並びに軽鎖の可変領域及び軽鎖の定常領域を含むすべての領域がヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来するイムノグロブリンとなっている抗体であって、ヒト抗体遺伝子をマウスに導入して作製することができる。具体的には、例えば、少なくともヒトイムノグロブリン遺伝子をマウス等のヒト以外の哺乳動物の遺伝子座中に組込むことにより作製されたトランスジェニック動物を、抗原で免疫感作することにより、前述したポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体の作製法と同様にして製造することができる。
【0070】
例えば、ヒト抗体を産生するトランスジェニックマウスは、Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994;Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997;特表平4-504365号公報;特表平7-509137号公報;国際公開WO94/25585号パンフレット;Nature, Vol.368,p.856-859, 1994;及び特表平6-500233号公報等に記載の方法に従って作製することができる。より具体的には、HuMab(登録商標)マウス(Medarex, Princeton NJ)、KMTMマウス (Kirin Pharma Company, Japan)、KM(FCγRIIb-KO)マウス等が挙げられる。
【0071】
本発明の抗RGMa中和抗体として具体的には、重鎖可変領域に特定のアミノ酸配列を含むCDRを有し、軽鎖可変領域に特定のアミノ酸配列を含むCDRを有するもの(上述の(a1)~(l2)の抗体)が挙げられる。
なお、RGMaとの結合能を有し、RGMaの活性を阻害(中和)するという本発明の抗体の特性が維持される限り、抗RGMa中和抗体のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸(1~20個、1~10個、1~5個、1~3個又は1~2個)の置換、欠失、付加又は挿入があってもよい。このような置換、欠失、付加はCDRに導入されてもよいが、CDR以外の領域に導入されることが好ましい。また、該アミノ酸置換は本発明の特性を維持するために保存的置換であることが好ましい。
【0072】
アミノ酸配列において置換、欠失等が含まれた本発明の抗体のアミノ酸配列は、例えば、アミノ酸配列改変後の重鎖可変領域が改変前のアミノ酸配列と90%以上(より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%以上、)の%同一性を有するアミノ酸配列であり、アミノ酸配列改変後の軽鎖可変領域が改変前のアミノ酸配列と90%以上(より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%以上)の%同一性を有するアミノ酸配列である。
【0073】
siRNAは、標的となる遺伝子(本発明においてはRGMa遺伝子)の発現を抑制することができる短い二本鎖RNAである。本発明のRGMa活性を阻害するsiRNAとして機能する限りにおいて、塩基配列や長さ(塩基長)は特に限定されないが、好ましくは約30塩基未満、より好ましくは約19~27塩基、さらに好ましくは約21~25塩基である。shRNAは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、3'末端に突出部を有する短いヘアピン構造からからなる約20塩基対以上の分子のことをいう。そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様に標的となる遺伝子の発現を抑制することができる。本発明において、siRNA及びshRNAは、RGMa遺伝子の発現を抑制できるものであればどのような形態であってもよい。
【0074】
siRNA又はshRNAは、人工的に化学合成することができる。また、例えばT7RNAポリメラーゼ及びT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンス及びセンスのRNAをインビトロで合成することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、RGMa遺伝子のDNA配列中の連続する5から100の長さの塩基配列に対して相補的な、又はハイブリダイズするヌクレオチドであればよく、DNA又はRNAのいずれであってもよい。また、機能に支障がない限り修飾されたものであってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは常法によって合成することができ、例えば、市販のDNA合成装置によって容易に合成することができる。
好ましい配列は通常の選択方法を用いて選択することが出来、本発明におけるsiRNA又はshRNAとしては、機能性RGMaの発現阻害を評価することで確認することが出来る。
【0075】
本発明の実施形態において、末梢神経障害とは、糖尿病性神経障害、絞扼性神経障害(手根管症候群、肘部尺骨神経障害、腓骨神経麻痺又は足根管症候群等)、家族性アミロイドポリニューロパチー、中毒性ニューロパチー、癌性ニューロパチー、免疫介在性ニューロパチー(ギラン・バレー症候群(GBS)又は慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP))、膠原病に伴うニューロパチー、クロウ-フカセ症候群(POEMS症候群)、遺伝性ニューロパチー(Charcor-Marie-Tooth病)、帯状疱疹後神経痛、AIDS又はライム病による末梢神経障害、尿毒症、多巣性運動ニューロパチー又は血管炎性ニューロパチー等があげられる。
【0076】
本発明の他の実施形態において、アストロサイト障害が認められる疾患としては、アストロサイト障害或いは機能低下が認められる疾患を意味し、具体的には、視神経脊髄炎、アレキサンダー病等があげられる。
これら実施形態のうち、末梢神経障害として、好ましくは糖尿病性神経障害があげられる。また、アストロサイト障害が認められる疾患として、好ましくは、視神経脊髄炎があげられる。
【0077】
さらに、本発明の他の実施形態において、末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患による疼痛症状としては、末梢神経が損傷を受けるか、又は中枢神経系においてアストロサイトが障害され、若しくは機能低下することにより発症する症状があげられる。ここで、本発明においては、疼痛症状を引き起こす末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患としては、上述の末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患と同義である。
例えば、このような疼痛症状のうち、末梢神経障害が認められる疾患では後述の実施例1(1-6)で示されるように、RGMa阻害物質、例えば、抗RGMa抗体によって、神経伝導速度が改善していることから、RGMa阻害物質は末梢神経障害が認められる疾患を治療することが示唆され、さらに疼痛も抑制することからRGMa阻害物質は末梢神経障害が認められる疾患による疼痛に対し、鎮痛効果を示すことが示唆される。
【0078】
また、アストロサイト障害が認められる疾患による疼痛症状は、アストロサイトの障害又は機能低下により、中枢におけるグルタミン酸トランスポーターの発現が低下し、その結果、グルタミン酸の作用が増強され、神経が過敏化又は興奮することにより発症することが、1つの作用機序として考えられる(例えば、Neuron 67, 834-846, Sep.9, 2010)。当該疼痛症状は、アストロサイト障害によって、前記疾患の発症に伴うしびれ感、痛み又は感覚鈍麻などの症状が認められる。
【0079】
そのため、後述の実施例1(1-6)で示されるように、ラットSTZ誘発糖尿病性神経障害モデルでは、末梢神経障害とアストロサイト障害が引き起こされ、その結果、疼痛が発症し、RGMa阻害物質、例えば、抗RGMa中和抗体が当該疼痛に対して鎮痛効果が認められる。一方、RGMa阻害物質、例えば、抗RGMa中和抗体によって、ミクログリアの減少に対しては効果がないものの、アストロサイトの減少に対する抑制効果が認められることから、RGMa阻害物質、例えば、抗RGMa中和抗体はアストロサイト障害又は機能低下が認められる疾患による疼痛に対し、鎮痛効果を示すことが示唆される。したがって、実施例1の実験結果から、RGMa阻害物質、好ましくは、抗RGMa中和抗体が、このような末梢神経障害又はアストロサイト障害が認められる疾患のいずれか一方又は両方による疼痛症状に効果を示すことが期待できる。なお、非特許文献10では、視神経脊髄炎におけるアストロサイト障害に関する実験を行っている。しかしながら、本実験モデルでは痛みの評価ができない動物モデルであるため、当該文献からはアストロサイト障害が認められる疾患と疼痛症状の関係は不明であった。そのため、アストロサイト障害が認められる疾患と疼痛症状の関係は、本出願の実施例1で得られた新規な知見である。
【0080】
本発明の好ましい実施形態において、例えば、糖尿病性神経障害は、糖尿病患者で最も多い合併症のひとつであり、血糖コントロールの不良、長期の糖尿病罹病期間、高血圧、脂質異常等の公知のリスクファクターによって引き起こされるが、その発症機序については未だに特定がなされていない。糖尿病性神経障害は、遠位性対称性の多発神経障害と局所性の単神経障害に分けられ、特に前者は、糖尿病性神経障害の中核症状と言われ、感覚神経障害、運動神経障害、自律神経障害が含まれる。
【0081】
糖尿病性神経障害の診断としては、特異的な症状や検査は存在せず、患者から神経症状の聴診を注意深く行うとともに、痛覚、振動覚、圧触覚、腱反射検査等の神経学的検査を実施し、総合的に判断する。
糖尿病性神経障害の主な症状としては、大きく感覚神経障害、運動神経障害、自律神経障害が挙げられる。感覚神経障害には、痛覚異常が顕著である有痛性神経障害と、自発的感覚異常がない無症候性神経障害が存在する。感覚神経障害は、発症早期に下肢末端に、しびれ感、痛みがみとめられ、その後症状が進行すると、感覚鈍麻が顕著になってくる。また、症状が進行すると、下肢だけでなく上肢末端にもしびれ感、痛み、感覚鈍麻等の症状が出現する。感覚神経障害は患者のQOL低下につながるだけでなく、症状が進行し、感覚鈍麻が出現すると、足壊疽やシャルコー関節につながるリスクが高まり、四肢の切断や生命予後の悪化につながるおそれも生じる。そのため、糖尿病性神経障害は発症早期からの治療介入が重要である。一方、運動神経障害では、特に下肢の筋力低下及び筋萎縮、足の変形といった症状が認められる。通常、日常生活動作に影響が出るほどには目立たないが、これら症状は障害が進行すると、バランスの維持や、坂道や階段の昇り降り、速歩といった負荷がかかる歩行への影響が見られてくる。
本発明における糖尿病性神経障害の予防又は治療剤は、前記検査により見出される症状の改善又は前記症状から選択される症状の予防又は治療に用いることが出来る。
【0082】
本発明における糖尿病性神経障害の予防又は治療剤により予防又は治療される糖尿病性神経障害としては、上記症状を呈するもののなかで、好ましくは有痛性糖尿病性神経障害、及び無症候性糖尿病性神経障害が挙げられ、さらに好ましくは有痛性糖尿病性神経障害が挙げられる。
【0083】
ここで、「治療」とは、哺乳動物、特にヒトの疾患の任意の治療を含み、疾患症状を阻害する、即ち、その進行を阻止又は疾病又は症状を消滅させること、及び疾患症状を軽減すること、即ち、疾病又は症状の後退、又は症状の進行の遅延を引き起こすことを含む。なお、本発明において治療とは、血糖低下等による糖尿病の治療に基づき、糖尿病性神経障害を治療するものではなく、糖尿病性神経障害を直接治療するものである。別の実施形態では、治療は治療上の神経再生的又は神経保護的な、局所又は全身の治療である。
【0084】
また、「予防」とは、哺乳動物、特にヒトにおいて、上記疾患の発症を防止することを含む。
【0085】
本発明における末梢神経障害の予防若しくは治療剤又は末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患による疼痛症状の予防若しくは治療剤は、通常、全身的又は局所的に、経口又は非経口の形で投与される。
本発明における末梢神経障害の予防若しくは治療剤又は末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患による疼痛症状の予防若しくは治療剤は、RGMa阻害物質を有効成分とし、薬学的に許容される担体又は添加剤を適宜配合した医薬組成物として製剤化することができる。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤;注射剤、輸液、坐剤、軟膏、パッチ剤等の非経口剤とすることができる。担体又は添加剤の配合割合については、医薬品分野において通常採用されている範囲に基づいて適宜設定すればよい。配合できる担体又は添加剤は特に制限されないが、例えば、水、生理食塩水、その他の水性溶媒、水性又は油性基剤等の各種担体;賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の各種添加剤が挙げられる。
【0086】
RGMa阻害物質が抗RGMa中和抗体、その機能改変抗体、そのコンジュゲート抗体又はそれらのフラグメントである場合、薬学的に許容される担体とともに製剤化された注射剤又は輸液として、非経口投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮膚内、腹腔内、皮下又は局所に投与することが好ましい。抗RGMa中和抗体を含む注射剤又は輸液は、溶液、懸濁液又は乳濁液として用いることができる。その溶剤として、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖溶液及び等張液(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、プロピレングリコール等の溶液)等を用いることができる。さらに、この注射剤又は輸液は、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤、防腐剤、pH調整剤等を含んでいてもよい。安定剤としては、例えば、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、マンニトール、グルコース、デキストラン、エチレングリコール、プロピレングリコール、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、EDTAナトリウム、クエン酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン等を用いることができる。溶解補助剤としては、例えば、アルコール(例えば、エタノール等)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80(登録商標)、HCO-50等)等を用いることができる。懸濁化剤としては、例えば、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。乳化剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、等を用いることができる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等を用いることができる。防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。pH調整剤としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等を用いることができる。
【0087】
RGMa阻害物質が核酸(siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、並びに抗RGMa中和抗体及びそのフラグメントをコードする核酸分子など)である場合、非ウイルスベクター又はウイルスベクターの形態で投与することができる。非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ-リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクション法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などを利用することができる。例えば、ウイルスベクターを用いて生体に投与する場合は、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターを利用することができる。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40などのDNAウイルス又はRNAウイルスに、siRNA又はshRNAを発現するDNAを導入し、細胞又は組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞又は組織内に遺伝子を導入することができる。
【0088】
このようにして得られる製剤は、治療を必要とする対象、例えばヒトや他の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、その有効量を投与することにより、末梢神経障害、例えば、糖尿病性神経障害又は、末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患による疼痛症状を予防又は治療することができる。投与量は、目的、疾患の重篤度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、有効成分の種類などを考慮して、適宜設定される。例えば、有効成分が抗RGMa中和抗体である場合、約65~70kgの体重を有する平均的なヒトを対象とした場合、1日当たり0.02mg~4000mg程度が好ましく、0.1mg~200mg程度がより好ましい。1日当たりの総投与量は、単一投与量であっても分割投与量であってもよい。
【0089】
本発明の末梢神経障害の予防若しくは治療剤又は末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患における疼痛症状の予防若しくは治療剤は、既存の疼痛治療薬と併用あるいは合剤化することができる。
本発明と併用する薬剤としては、疼痛治療薬、糖尿病薬などが挙げられる。
疼痛治療薬として、例えば三環系抗うつ薬(アミトリプチリン、イミプラミンなど)、α2δリガンド((例えば、プレガバリンなど)、Naチャネルブロッカー(メキシレチンなど)、抗てんかん薬(ガバペンチン、カルバマゼピンなど)、アルドース還元酵素阻害薬(エパルレスタットなど)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI、例えばデュロキセチン)と併用あるいは合剤化ができる。
【0090】
抗糖尿病薬として、スルホニルウレア系抗糖尿病薬、ビグアナイド系抗糖尿病薬、インスリン抵抗性改善薬(ピオグリタゾンなど)、αグルコシダーゼ阻害薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬、GLP-1アナログ、インスリンアナログなどと併用あるいは合剤化ができる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を挙げて本発明を、より具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
[実施例1]
ラットSTZ誘発糖尿病性神経障害モデルの疼痛及び運動神経伝導障害に対する抗RGMa中和抗体の効果の検討
このラットSTZ誘発糖尿病性神経障害モデルは、末梢神経障害、とりわけ糖尿病性神経障害における末梢神経の障害に対する効果を評価するモデルである。それに加えて、本モデルは、末梢神経障害、とりわけ、糖尿病性神経障害の疼痛症状に対する効果とともに、アストロサイト障害が認められる疾患による疼痛症状に対する効果も評価できるモデルである。
(1-1)ラットSTZ誘発糖尿病性神経障害モデルの作製
実験にはSD系雄性ラットを使用した。0.75 mMクエン酸緩衝液(pH 4.5)で30%濃度に溶解したSTZ(ストレプトゾシン)(60 mg/kg)をラット尾静脈内に投与し、3週間後、血糖値が300 mg/dl以上に達したものをSTZ実験群(糖尿病群)として用いた。正常群には実験群と同一週齢のSTZ非投与ラットを用いた。
【0092】
(1-2)行動的疼痛評価
von Frey刺激試験はup-down法(Chaplan, S.R., Bach, F.W., Pogrel, J.W., Chung, J.M., Yaksh, T.L., Quantitative assessment of tactile allodynia in the rat paw, J. Neurosci. Methods, 53, 55-63(1994)を参照)を用いて後肢を挙上する50%逃避反応閾値(g)を求めて機械的痛覚過敏を評価した。
【0093】
(1-3)運動神経伝導速度(MNCV)の測定
ラットをイソフルランガスで持続吸入麻酔して腹位に固定し、体温制御装置(ATB-1100、日本光電株式会社)により体温(直腸温度)を一定(37.5~38.5°C)に保持し、MNCVを測定した。
右坐骨神経の坐骨結節部位を近遠位刺激点(S1)、右脛骨神経の足関節部位を遠近位刺激点(S2)とし、各々に針電極(-極)を挿入した。また、不関電極(+極)はS1から脊髄側に約1cmの所に挿入した。一方、記録用の導出電極(-極)及び基準電極(+極)はそれぞれ右足底筋部位に浅く挿入した。なお、基準電極(+極)は、-極より末梢側に設置した。誘発電位記録装置[ニューロパックμ(型番:MEB-9102、日本光電工業株式会社)]を用いてS1、S2それぞれに単一矩形パルス(刺激頻度:1Hz、持続時間:0.1msec、電流:supramaximal、刺激回数:1回)の電気刺激を加え、記録電極で得られた活動電位の変化を記録した。S1刺激、S2刺激それぞれについて刺激時から活動電位の立ち上がりまでの潜時t1、t2(msec)及びS1、S2間の距離d(mm)を測定し、次式によりMNCVを算出した。
【0094】
MNCV = d / (t1 - t2)
【0095】
(1-4)群分け及び抗RGMa中和抗体の投与
STZ投与3週後、血糖値が300 mg/dL以下の動物を群分け対象から除外し、体重、50%逃避閾値及びMNCVの平均値と分散が各群で均質化するように群分けした。STZ/コントロール抗体投与群、STZ/抗RGMa中和抗体投与群、正常/コントロール抗体投与群、いずれも10匹で構成した。
【0096】
抗RGMa中和抗体又はコントロール抗体(マウスIgG)を10 mg/kgの用量で尾静脈内投与し、STZ投与3週目から週1回、合計4回実施した。
抗RGMa中和抗体としては、文献記載の方法で作製したr116A3(特許文献4を参照)を用いた。
【0097】
(1-5)GFAP, Iba1免疫染色の病理組織学的評価
被験物質初回投与から28日後(STZ投与から51日後)に、生理食塩水を灌流し放血して安楽死させ、10vol%中性緩衝ホルマリンで灌流固定した。その後、脊髄を採取し、10vol%中性緩衝ホルマリンに浸漬固定した。
GFAP(アストロサイトの染色)およびIba1(ミクログリアの染色)の免疫染色を実施し、GFAPおよびIba1の発現を光学顕微鏡下で病理組織学的に評価した。
【0098】
スライド標本をバーチャルスライドスキャナーAperio(Aperio AT2, Leica Microsystems)で撮影(倍率20倍)した後、標本全体の画像を100%でextractし、JPEG画像に変換した。画像解析ソフトImage-Pro premier(ver.9.3.2, Media Cybernetics)を用いて、灰白質部分の前角(腹角)、後角(背角)をArea of Interest (AOI)で囲い、各領域における免疫染色陽性面積を抽出し測定(サイズ > 1 mm2)した後、各領域の全体面積あたりの染色陽性面積率を算出した。得られた結果は、個体値および平均値±標準誤差で示し、各面積率について、非糖尿病群と糖尿病群との間および糖尿病群と糖尿病+被験物質投与群との間でStudent's t検定を実施した。
【0099】
(1-6)結果
機械的痛覚過敏に対する抗RGMa中和抗体繰り返し投与の効果を
図1に示した。糖尿病惹起により低下した50%逃避反応閾値は抗RGMa中和抗体投与後1週から有意な改善がみられた。改善効果は経週的に強くなり、少なくとも最終評価時点の4週まで改善効果は持続した。
【0100】
運動神経伝導障害に対する抗RGMa中和抗体繰り返し投与の効果を
図2に示した。糖尿病惹起により低下した運動神経伝導速度に対しても抗RGMa中和抗体は改善作用を示し、投与開始後4週で有意な改善がみられた。
【0101】
GFAP陽性面積率の算出結果を
図3に示した。前角においては、非糖尿病群と比較して糖尿病群で有意な減少が認められ、前角および後角においては、糖尿病群と比較して糖尿病+被験物質投与群で有意な増加が認められた。
Iba1陽性面積率の算出結果を
図4に示した。前角および後角において、非糖尿病群と比較して糖尿病群で有意な減少が認められた。
【0102】
<配列表の説明>
配列番号1 :ヒトRGMa前駆タンパク質のアミノ酸配列
配列番号2 :マウスRGMa前駆タンパク質のアミノ酸配列
配列番号3 :ラットRGMa前駆タンパク質のアミノ酸配列
配列番号4 :ヒトRGMa遺伝子のDNA配列
配列番号5 :抗RGMa中和抗体r116A3のLCDR1のアミノ酸配列
配列番号6 :抗RGMa中和抗体r116A3のLCDR2のアミノ酸配列
配列番号7 :抗RGMa中和抗体r116A3のLCDR3のアミノ酸配列
配列番号8 :抗RGMa中和抗体r116A3のHCDR1のアミノ酸配列
配列番号9 :抗RGMa中和抗体r116A3のHCDR2のアミノ酸配列
配列番号10:抗RGMa中和抗体r116A3のHCDR3のアミノ酸配列
配列番号11:抗RGMa中和抗体r70EのLCDR1のアミノ酸配列
配列番号12:抗RGMa中和抗体r70EのLCDR2のアミノ酸配列
配列番号13:抗RGMa中和抗体r70EのLCDR3のアミノ酸配列
配列番号14:抗RGMa中和抗体r70EのHCDR1のアミノ酸配列
配列番号15:抗RGMa中和抗体r70EのHCDR2のアミノ酸配列
配列番号16:ヒトRGMaのエピトープのアミノ酸配列
配列番号17:抗RGMa中和抗体5F9のLCDR1のアミノ酸配列
配列番号18:抗RGMa中和抗体5F9のLCDR2のアミノ酸配列
配列番号19:抗RGMa中和抗体5F9のLCDR3のアミノ酸配列
配列番号20:抗RGMa中和抗体5F9のHCDR1のアミノ酸配列
配列番号21:抗RGMa中和抗体5F9のHCDR2のアミノ酸配列
配列番号22:抗RGMa中和抗体5F9のHCDR3のアミノ酸配列
配列番号23:抗RGMa中和抗体8D1のLCDR1のアミノ酸配列
配列番号24:抗RGMa中和抗体8D1のLCDR2のアミノ酸配列
配列番号25:抗RGMa中和抗体8D1のLCDR3のアミノ酸配列
配列番号26:抗RGMa中和抗体8D1のHCDR1のアミノ酸配列
配列番号27:抗RGMa中和抗体8D1のHCDR2のアミノ酸配列
配列番号28:抗RGMa中和抗体8D1のHCDR3のアミノ酸配列
配列番号29:抗RGMa中和抗体AE12-1のLCDR1のアミノ酸配列
配列番号30:抗RGMa中和抗体AE12-1のLCDR2のアミノ酸配列
配列番号31:抗RGMa中和抗体AE12-1のLCDR3のアミノ酸配列
配列番号32:抗RGMa中和抗体AE12-1のHCDR1のアミノ酸配列
配列番号33:抗RGMa中和抗体AE12-1のHCDR2のアミノ酸配列
配列番号34:抗RGMa中和抗体AE12-1のHCDR3のアミノ酸配列
配列番号35:抗RGMa中和抗体AE12-1YのLCDR3のアミノ酸配列
配列番号36:ヒトRGMaのエピトープのアミノ酸配列
配列番号37:ヒトRGMaのエピトープのアミノ酸配列
配列番号38:ヒトRGMaのエピトープのアミノ酸配列
配列番号39:ヒトRGMaのエピトープのアミノ酸配列
配列番号40:抗RGMa中和抗体AE12-1FのLCDR3のアミノ酸配列
配列番号41:抗RGMa中和抗体AE12-1HのLCDR3のアミノ酸配列
配列番号42:抗RGMa中和抗体AE12-1LのLCDR3のアミノ酸配列
配列番号43:抗RGMa中和抗体AE12-1VのLCDR3のアミノ酸配列
配列番号44:抗RGMa中和抗体AE12-1IのLCDR3のアミノ酸配列
配列番号45:抗RGMa中和抗体AE12-1KのLCDR3のアミノ酸配列
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、末梢神経障害の予防若しくは治療、又は末梢神経障害若しくはアストロサイト障害が認められる疾患に伴う疼痛症状の予防若しくは治療に有用であり、医薬品産業において高い利用価値を有する。
【配列表】