(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ガラスセラミックおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 10/02 20060101AFI20240307BHJP
C03B 32/02 20060101ALI20240307BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C03C10/02
C03B32/02
G02B5/22
(21)【出願番号】P 2020532732
(86)(22)【出願日】2018-12-11
(86)【国際出願番号】 US2018064990
(87)【国際公開番号】W WO2019118488
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-12-13
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】デイネカ,マシュー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】コール,ジェシー
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03293052(US,A)
【文献】米国特許第03607320(US,A)
【文献】特表2016-534019(JP,A)
【文献】特開2006-124201(JP,A)
【文献】特開平10-310452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00-35/26
40/00-40/04
C03C 1/00-14/00
G02B 5/20-5/28
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミックであって、
50モル%から80モル%のSiO
2、
0.3モル%から15モル%のAl
2O
3、
5モル%から40モル%のB
2O
3、
2モル%から15モル%のWO
3、
0モル%から15モル%のR
2O、
第1のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第1の屈折率を有する第1の部分、および
複数の結晶性タングステン析出物を含む熱処理された第2の部分であって、第2のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび前記参照波長での第2の屈折率の少なくとも一方を示す熱処理された第2の部分、
を含み、
R
2Oは、Li
2O、Na
2O、K
2O、Rb
2O、およびCs
2Oの1つ以上であり、
R
2OとAl
2O
3の量の差は、-12モル%から2.5モル%に及び、
前記第1のカットオフ波長は、355nmであり、前記第1の屈折率は、589nmの前記参照波長において、1.507であり、
前記第2のカットオフ波長は、320nmから420nmであり、前記第2の屈折率は、589nmの前記参照波長において、1.52である、ガラスセラミック。
【請求項2】
ガラスセラミックであって、
55モル%から75モル%のSiO
2、
5モル%から12モル%のAl
2O
3、
10モル%から25モル%のB
2O
3、
4モル%から10モル%のWO
3、
3モル%から12モル%のR
2O、
第1のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第1の屈折率を有する第1の部分、および
複数の結晶性タングステン析出物を含む熱処理された第2の部分であって、第2のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび前記参照波長での第2の屈折率の少なくとも一方を示す熱処理された第2の部分、
を含み、
R
2Oは、Li
2O、Na
2O、K
2O、Rb
2O、およびCs
2Oの1つ以上であり、
R
2OとAl
2O
3の量の差は、-12モル%から2.5モル%に及び、
熱処理されていない前記第1の部分は、355nmの前記第1のカットオフ波長および、
589nmの前記参照波長において、1.507の前記第1の屈折率を有し、
該熱処理された第2の部分は、
700nmから2700mmでの少なくとも60%の光透過率、320nmから420nmの急な前記第2のカットオフ波長、および589nmの前記参照波長において、1.52の前記第2の屈折率を有するガラスセラミック。
【請求項3】
ガラスセラミックであって、
50モル%から80モル%のSiO
2、
1モル%から15モル%のAl
2O
3、
5モル%から40モル%のB
2O
3、および
2モル%から15モル%のWO
3、
0モル%から15モル%のR
2O、
を含み、
第1のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第1の屈折率を有する第1の部分、および
複数の結晶性タングステン析出物を含む熱処理された第2の部分であって、第2のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび前記参照波長での第2の屈折率の少なくとも一方を示す熱処理された第2の部分、
を含み、
R
2Oは、Li
2O、Na
2O、K
2O、Rb
2O、およびCs
2Oの1つ以上であり、
R
2OとAl
2O
3の量の差は、-12モル%から2.5モル%に及び、
前記第1のカットオフ波長は、355nmであり、前記第1の屈折率は、589nmの前記参照波長において、1.507であり、
前記第2のカットオフ波長は、320nmから420nmであり、前記第2の屈折率は、589nmの前記参照波長において、1.52である、ガラスセラミック。
【請求項4】
前記ガラスセラミックが、10×10
-7/℃から60×10
-7/℃の熱膨張係数を有する、請求項1から3いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項5】
Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Pb、Pd、Au、Cd、Se、Ta、Bi、Ag、Ce、Pr、Nd、およびErからなる群より選択される少なくとも1種類のドーパントをさらに含む、請求項1から4いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項6】
ガラスセラミック物品を形成する方法であって、
50モル%から80モル%のSiO
2、1モル%から15モル%のAl
2O
3、5モル%から40モル%のB
2O
3、および2モル%から15モル%のWO
3、0モル%から15モル%のR
2Oを含む溶融ガラスを形成する工程、
前記溶融ガラスを冷却して、第1のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第1の屈折率を有するガラスセラミック物品を形成する工程、および
所定の時間に亘り所定の温度で前記ガラスセラミック物品
の第1の部分以外の一部分を熱処理して、該ガラスセラミック物品の熱処理された第2の部分内に複数の結晶性タングステン析出物を形成する工程であって、該ガラスセラミック物品の熱処理された第2の部分は、第2のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび前記参照波長での第2の屈折率の少なくとも一方を示す工程、
を有し、
R
2Oは、Li
2O、Na
2O、K
2O、Rb
2O、およびCs
2Oの1つ以上であり、
R
2OとAl
2O
3の量の差は、-12モル%から2.5モル%に及び、
前記第1のカットオフ波長は、355nmであり、前記第1の屈折率は、589nmの前記参照波長において、1.507であり、
前記第2のカットオフ波長は、320nmから420nmであり、前記第2の屈折率は、589nmの前記参照波長において、1.52である方法。
【請求項7】
前記第1と第2の屈折率の間の屈折率差分が、400nmから800nmに及ぶ波長で1×10
-2以上である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記第2のカットオフ波長が前記第1のカットオフ波長より長く、前記参照波長での前記第2の屈折率が、該参照波長での前記第1の屈折率より大きい、請求項6または7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2017年12月13日に出願された米国仮特許出願第62/598108号に優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、広く、酸化タングステン、アルミノホウケイ酸塩組成物を含むガラスセラミック材料および物品を含む、ガラスセラミックおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
レーザを利用する用途を含む様々な工業用途にとって、低波長光(例えば、青色およびそれより短い波長の光)の透過を遮断するまたは減少させるのに有用な特殊な透明性が、多くの場合、望ましい。そのような透明性は、「ブルーブロッカー(blue blockers)」としても知られているであろう。その透明性が利用されるであろう苛酷な作動条件のために、紫外線(UV)遮断コーティングは望ましくないであろう。何故ならば、そのコーティングは、多くの場合、必要な機械的、化学的、および熱的耐久性を欠如するからである。UV吸収ガラスも利用することができるが、UV吸収ガラスに用いられるUV吸収ドーパントは、色を与えたり、他の様式でガラスの光学的性質に悪影響を及ぼしたりすることがある。さらに、ドーパントにカドミウムおよびセレンを用いるガラスは、極めて毒性が高いであろう。実質的に全てのUV吸収ガラスの光学的吸収は、ガラスの組成および炉内の溶融条件(例えば、酸化性または還元性の炉の雰囲気)の影響を受ける。何故ならば、その組成および炉の雰囲気は、ドーパントの酸化状態まはた酸化状態の比に影響するからである。それゆえ、これらのガラスが一旦、溶融され、成形されたら、最小の後処理で、その光学的吸収を変えることができる。
【0004】
UV吸収と同様に、材料(例えば、銀でイオン交換されたガラス)内に比較的大きい屈折率差分を生じるための技術がいくつかある。これらの技術は、比較的大きい屈折率差分を生じるが、他の様式で、ガラスを光学的に変えてしまう、例えば、可視光波長のヘイズ、散乱、または望ましくない吸収を増加させてしまう。各技術には、二律背反と制限があるが、これらの方法を評価する場合、重要なパラメータは、パターン化できる特徴サイズ(すなわち、解像度)、誘発できる屈折率の変化(差分nまたはΔn)、および透過率である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、低いCTE、低い毒性、調整可能なUVカットオフおよび/または調整可能な屈折率を有するUV吸収材料の開発が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のいくつかの態様によれば、ガラスセラミックは、約50モル%から約80モル%のSiO2、約0.3モル%から約15モル%のAl2O3、約5モル%から約40モル%のB2O3、約2モル%から約15モル%のWO3、および約0モル%から約15モル%のR2Oを含む。R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、およびCs2Oの1つ以上である。R2OとAl2O3の量の差は、約-12モル%から約2.5モル%に及ぶ。
【0007】
本開示のいくつかの態様によれば、ガラスセラミックは、約55モル%から約75モル%のSiO2、約5モル%から約12モル%のAl2O3、約10モル%から約25モル%のB2O3、約4モル%から約10モル%のWO3、および約3モル%から約12モル%のR2Oを含む。R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、およびCs2Oの1つ以上である。このガラスセラミックは、約700nmから約2700mmでの少なくとも60%の光透過率、および約320nmから約420nmの急なカットオフ波長を有する。
【0008】
本開示のさらなる態様によれば、ガラスセラミック物品を形成する方法であって、約50モル%から約80モル%のSiO2、約1モル%から約15モル%のAl2O3、約5モル%から約40モル%のB2O3、および約2モル%から約15モル%のWO3を含む溶融ガラスを形成する工程、その溶融ガラスを冷却して、第1のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第1の屈折率を有するガラスセラミック物品を形成する工程、および所定の時間に亘り所定の温度でそのガラスセラミック物品の一部分を熱処理して、そのガラスセラミック物品の熱処理された部分内にタングステンを含む複数の結晶性析出物を形成する工程を有してなる方法が提供される。このガラスセラミック物品の熱処理された部分は、第2のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第2の屈折率の少なくとも一方を示す。
【0009】
本開示のさらなる態様によれば、ガラスセラミック物品は、約50モル%から約80モル%のSiO2、約1モル%から約15モル%のAl2O3、約5モル%から約40モル%のB2O3、および約2モル%から約15モル%のWO3を含む。第1のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第1の屈折率を有する第1の部分、およびタングステンを含む複数の結晶性析出物を含む熱処理された部分。そのガラスセラミック物品の熱処理された部分は、第2のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第2の屈折率の少なくとも一方を示す。
【0010】
追加の特徴および利点が、以下の詳細な説明に述べられており、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載されたような実施の形態を実施することによって、認識されるであろう。
【0011】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、例示に過ぎず、本開示および付随の特許請求の範囲の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供することが意図されていることを理解すべきである。
【0012】
添付図面は、本開示の原理のさらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、1つ以上の実施の形態を示しており、説明と共に、例として、本開示の原理および作動を説明する働きをする。本明細書および図面に開示された本開示の様々な特徴は、任意の組合せと全ての組合せで使用できることを理解すべきである。非限定例として、本開示の様々な特徴は、以下の実施の形態にしたがって、互いに組み合わされてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下は、添付図面における図の説明である。図は、必ずしも一定の縮尺で描かれておらず、図の特定の特徴および特定の視野は、明瞭さと簡潔さのために、縮尺および図式において誇張されて示されることがある。
【
図1A】本開示の少なくとも1つの例による物品の断面図
【
図1B】本開示の少なくとも1つの例による物品の断面図
【
図3A】本開示の少なくとも1つの例にしたがって調製された熱処理されたガラスセラミックの透過率対波長のプロット
【
図3B】熱処理されたガラスセラミック試料のカットオフ波長を示すために目盛りが変えられた
図3Aのプロット
【
図4】
図4Aは、本開示のガラスセラミックの徐冷されていない試料の画像、
図4Bは、2時間16分に亘り550℃で熱処理された本開示のガラスセラミックの試料の画像、
図4Cは、1時間38分に亘り600℃で熱処理された本開示のガラスセラミックの試料の画像
【
図5】徐冷されていないガラスセラミック試料および熱処理されたガラスセラミック試料の屈折率(n)対波長(nm)のプロット
【
図6】
図5の試料に関する屈折率差分対波長のプロット
【
図7A】本開示の少なくとも1つの例による、未処理の非晶質状態にある酸化タングステンガラスセラミックの粉末X線回折データのプロット
【
図7B】本開示の少なくとも1つの例による、熱処理(30分間に亘る700℃)状態にある酸化タングステンガラスセラミックの粉末X線回折データのプロット
【
図7C】本開示の少なくとも1つの例による、徐冷状態にある酸化タングステンガラスセラミックの粉末X線回折データのプロット
【
図8A】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る600℃)における組成物889FLZの0.5mm研磨の平面で収集された透過率スペクトル;
【
図8B】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る600℃)における組成物889FLZの0.5mm研磨の平面で収集されたOD/mmで表された吸光度スペクトル;
【
図9A】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る700℃)における組成物889FMBの0.5mm研磨の平面で収集された透過率スペクトル
【
図9B】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る700℃)における組成物889FMBの0.5mm研磨の平面で収集されたOD/mmで表された吸光度スペクトル
【
図10A】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る500℃および1時間に亘る600℃)における組成物889FMCの0.5mm研磨の平面で収集された透過率スペクトル
【
図10B】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る500℃および1時間に亘る600℃)における組成物889FMCの0.5mm研磨の平面で収集されたOD/mmで表された吸光度スペクトル
【
図11A】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る500℃および1時間に亘る600℃)における組成物889FMDの0.5mm研磨の平面で収集された透過率スペクトル
【
図11B】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る500℃および1時間に亘る600℃)における組成物889FMDの0.5mm研磨の平面で収集されたOD/mmで表された吸光度スペクトル
【
図12A】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る600℃および1時間に亘る700℃)における組成物889FMEの0.5mm研磨の平面で収集された透過率スペクトル
【
図12B】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る600℃および1時間に亘る700℃)における組成物889FMEの0.5mm研磨の平面で収集されたOD/mmで表された吸光度スペクトル
【
図13A】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る700℃および2時間に亘る700℃)における組成物889FMGの0.5mm研磨の平面で収集された透過率スペクトル
【
図13B】製造されたままの未徐冷状態および熱処理条件(1時間に亘る700℃および2時間に亘る700℃)における組成物889FMGの0.5mm研磨の平面で収集されたOD/mmで表された吸光度スペクトル
【
図14A】1時間に亘り700℃で熱処理された組成物889FMCの熱処理された試料内のチタン含有結晶のある倍率のTEM顕微鏡写真
【
図14B】1時間に亘り700℃で熱処理された組成物889FMCの熱処理された試料内のチタン含有結晶のより大きい倍率のTEM顕微鏡写真
【
図14C】1時間に亘り700℃で熱処理された組成物889FMCの熱処理された試料内のチタン含有結晶のさらに大きい倍率のTEM顕微鏡写真
【
図14D】1時間に亘り700℃で熱処理された組成物889FMCの熱処理された試料内のチタン含有結晶のさらにより大きい倍率のTEM顕微鏡写真
【
図15A】1時間に亘り700℃で熱処理された組成物889FMCの熱処理された試料内のチタン含有結晶のTEM顕微鏡写真
【
図15B】
図19AのTEM顕微鏡写真のチタンの電子分散型分光法(EDS)元素マップ
【発明を実施するための形態】
【0014】
追加の特徴および利点が、以下の詳細な説明に述べられており、その説明から当業者に容易に明白となるか、または特許請求の範囲および添付図面と共に、以下の説明に記載されたように実施の形態を実施することによって、認識されるであろう。
【0015】
ここに用いられているように、「および/または」という用語は、2つ以上の項目のリストに使用される場合、列挙された項目のいずれか1つをそれ自体で利用することができる、または列挙された項目の2つ以上のいずれの組合せも利用できることを意味する。例えば、組成物が、成分A、B、および/またはCを含有すると記載されている場合、その組成物は、Aのみ;Bのみ;Cのみ;AとBの組合せ;AとCの組合せ;BとCの組合せ;またはA、B、およびCの組合せを含有し得る。
【0016】
この文書において、第1と第2、上部と底部などの関係語は、ある実体または作用を別の実体または作用から区別するためだけに使用され、必ずしも、どのような実際のそのような関係も、もしくはそのような実体または作用の間の順序も、必要または暗示するものではない。
【0017】
本開示の改変が、当業者または本開示の利用者に想起されるであろう。したがって、図面に示され、先に記載された実施の形態は、均等論を含む特許法の原則にしたがって解釈されるように、説明目的のためだけであり、本開示の範囲を限定する意図はなく、本開示の範囲は、以下の特許請求の範囲により定義されることが理解されよう。
【0018】
本開示の目的に関して、「結合された」という用語(その形態の全てで:結合する、結合している、結合されたなど)は、広く、互いに直接的または間接的な2つの成分の連結(電気的または機械的)を意味する。そのような連結は、事実上静止していても、事実上可動であってもよい。そのような連結は、互いに単一体として一体成形されたその2つの成分(電気的または機械的)と任意の追加の中間部材により、またはその2つの成分により、行われてもよい。特に明記のない限り、そのような連結は、事実上永久的であっても、事実上取り外し可能または解放可能であってもよい。
【0019】
ここに用いられているように、「約」という用語は、量、サイズ、配合、パラメータ、および他の数量と特徴が、正確ではなく、正確である必要ないが、許容範囲、変換係数、丸め、測定誤差など、および当業者に公知の他の要因を反映して、要望通りに、近似および/またはより大きいかより小さいことがあることを意味する。値または範囲の端点を記載する上で、「約」という用語が使用されている場合、その開示は、言及されているその特定の値または端点を含むと理解すべきである。明細書における数値または範囲の端点に「約」が付いていようとなかろうと、その数値または範囲の端点は、以下の2つの実施の形態:「約」で修飾されているもの、および「約」で修飾されていないものを含むことが意図されている。それらの範囲の各々の端点は、他方の端点に関してと、他方の端点に関係なくの両方で有意であることがさらに理解されよう。
【0020】
ここに用いられているような、「実質的」、「実質的に」などの用語、およびその変種は、記載された特徴が、ある値または記載と等しいまたはほぼ等しいことを指摘する意図がある。例えば、「実質的に平らな」表面は、平らまたはほぼ平らである表面を意味する意図がある。さらに、「実質的に」は、2つの値が等しいまたはほぼ等しいことを意味する意図がある。いくつかの実施の形態において、「実質的に」は、互いの約5%以内、または互いの約2%以内など、互いの約10%以内の値を意味することがある。
【0021】
ここに用いられているように、名詞は、「少なくとも1つの」対象を指し、明確に反対であると示されていない限り、「たった1つ」の対象に限定されるべきではない。それゆえ、例えば、「成分」への言及は、文脈が明らかに別なふうに示していない限り、そのような成分を2つ以上有する実施の形態を含む。
【0022】
またここに用いられているように、「ガラスセラミック」、「ガラス要素」、および「ガラスセラミック物品」という用語は、交換可能に、最も広い意味で、ガラスおよび/またはガラスセラミック材料から全体が製造されたまたはそれから部分的に製造されたどの物体も含むように、使用される。特に明記のない限り、全ての組成物は、モルパーセンサ(モル%)で表されている。熱膨張係数(CTE)は、10-7/℃で表され、特に明記のない限り、約20℃から約300℃の温度範囲に亘り測定された値を表す。
【0023】
ここに用いられているように、「透過」および「透過率」は、吸収、散乱および反射を考慮に入れた、外部透過または透過率を称する。フレネル反射は、ここに報告される透過および透過率値から差し引かれていない。
【0024】
またここに用いられているように、「[成分]を含まない[ガラスまたはガラスセラミック]」(例えば、「カドミウムおよびセレンを含まないガラスセラミック」)という用語は、列挙された成分を完全に含まず、または実質的に含まず(すなわち、<500ppm)、列挙された成分が能動的に、意図的に、または目的を持ってそのガラスまたはガラスセラミックに添加またはバッチ配合されないように調製されたガラスまたはガラスセラミックを表す。
【0025】
本開示のガラスセラミック、ガラスセラミック材料および物品に関するように、圧縮応力および圧縮深さ(「DOC」)は、特に明記のない限り、有限会社折原製作所(日本国、東京都所在)により製造されているFSM-6000などの市販の装置を使用して表面応力を評価することによって測定される。表面応力測定は、ガラスの複屈折に関係する応力光学係数(「SOC」)の精密測定に依存する。次に、SOCは、手順Cの改良版にしたがって測定され、これは、その内容がここに全て引用される、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient」と題するASTM標準C770-98(2013)(「改良手順C」)に記載されている。この改良手順Cは、5から10mmの厚さおよび12.7mmの直径を有する試験片としてガラスまたはガラスセラミックディスクを使用する工程を含む。このディスクは、等方性かつ均一であり、芯に穴が開けられ、両面は研磨され平行である。この改良手順Cは、ディスクに印加すべき最大力Fmaxを計算する工程も含む。この力は、少なくとも20MPaの圧縮応力を生じるのに十分であるべきである。Fmaxは、式:
Fmax=7.854*D*h
を使用して計算され、式中、Fmaxは、ニュートン(N)で測定される最大力であり、Dは、ミリメートル(mm)で測定されるディスクの直径であり、hは、ミリメートル(mm)で測定される光路の厚さである。印加された各力について、応力は、式:
σ(MPa)=8F/(π*D*h)
を使用して計算され、式中、Fは、ニュートン(N)で測定される力であり、Dは、ミリメートル(mm)で測定されるディスクの直径であり、hは、ミリメートル(mm)で測定される光路の厚さである。
【0026】
またここに用いられているように、「急なカットオフ波長」および「カットオフ波長」という用語は、交換可能に使用され、約350nmから800nmの範囲のカットオフ波長であって、ガラスセラミックが、そのカットオフ波長(λc)より下での透過率と比べて実質的に高い、カットオフ波長(λc)より上での透過率を有する、カットオフ波長を称する。カットオフ波長(λc)は、ガラスセラミックの所定のスペクトルにおける「吸収限界波長」と「高透過率限界波長」との間の中点での波長である。「吸収限界波長」は、透過率が5%である波長と指定され、「高透過率限界波長」は、透過率が72%である波長と定義される。ここに用いられる「急なUVカットオフ」は、電磁スペクトルの紫外バンド内で生じる、上述したようなカットオフ波長の急なカットオフ波長である可能性があることが理解されよう。
【0027】
ここで
図1Aおよび1Bを参照すると、本開示によるガラスおよび/またはガラスセラミック組成を有する基板14を含む物品10が示されている。物品10は、いくつの用途にも利用できる。例えば、物品10および/または基板14は、以下の用途のいずれかにおける、基板、要素、カバーおよび他の要素の形態で利用することができる:マイクロレンズアレイ;ブラッグ反射器;勾配屈折率レンズ;光ファイバ;導波路;体積格子(例えば、拡張現実装置エンジンにおける)および/または紫外線レーザ用眼の保護レンズ。
【0028】
基板14は、一対の互いに反対の主面18、22を画成するまたは備える。物品10のいくつかの例において、基板14は、圧縮応力領域26を備える。
図1Aに示されるように、圧縮応力領域26は、主面18からその基板中の第1の選択深さ30まで延在する。さらに、いくつかの例では、多数の圧縮応力領域26が、主面18、22および/または基板14のエッジから延在することがある。基板14は、表面積を画成するために、選択された長さと幅、または直径を有することがある。基板14は、その長さと幅、または直径により画成される基板14の主面18、22の間に少なくとも1つのエッジを有することがある。基板14は、選択された厚さも有することがある。いくつかの例では、基板14は、約0.2mmから約1.5mm、約0.2mmから約1.3mm、または約0.2mmから約1.0mmの厚さを有する。他の例では、基板14は、約0.1mmから約1.5mm、約0.1mmから約1.3mm、または約0.1mmから約1.0mmの厚さを有する。
【0029】
ここに用いられているように、「選択深さ」(例えば、第1の選択深さ30)、「圧縮深さ」、および「DOC」は、ここに記載されたような、基板14における応力が圧縮から引張に変化する深さを規定するために、互いに交換可能に使用される。DOCは、イオン交換処理に応じて、FSM-6000、または散乱光偏光器(SCALP)などの表面応力計によって測定されることがある。ガラスまたはガラスセラミック組成を有する基板14における応力が、ガラス基板中にカリウムイオンを交換することによって生じる場合、DOCを測定するために、表面応力計が使用される。応力が、ガラス基板中にナトリウムイオンを交換することによって生じる場合、DOCを測定するために、SCALPが使用される。ガラスまたはガラスセラミック組成を有する基板14における応力が、ガラス基板中にカリウムイオンとナトリウムイオンの両方を交換することによって生じる場合、DOCはSCALPにより測定される。何故ならば、ナトリウムイオンの交換深さがDOCを表し、カリウムイオンの交換深さが、圧縮応力の大きさの変化(しかし、圧縮から引張への応力の変化ではない)を表すと考えられるからである。そのようなガラス基板におけるカリウムイオンの交換深さは、表面応力計で測定される。またここに用いられているように、「最大圧縮応力」は、基板14中の圧縮応力領域26内の最大圧縮応力と定義される。いくつかの例では、最大圧縮応力は、圧縮応力領域26を画成する1つ以上の主面18、22で、またはそこに近接して得られる。他の例では、最大圧縮応力は、1つ以上の主面18、22と、圧縮応力領域26の選択深さ30との間で得られる。
【0030】
図1Aにおける例示形態で示されるような、物品10のいくつかの例で、基板14は、化学強化されたアルミノホウケイ酸塩ガラスまたはガラスセラミックから選択される。例えば、基板14は、10μm超の第1の選択深さ30まで延在する圧縮応力領域26を有する化学強化されたアルミノホウケイ酸塩ガラスまたはガラスセラミックから選択することができ、最大圧縮応力は150MPa超である。さらに別の例において、基板14は、25μm超の第1の選択深さ30まで延在する圧縮応力領域26を有する化学強化されたアルミノホウケイ酸塩ガラスまたはガラスセラミックから選択され、最大圧縮応力は400MPa超である。物品10の基板14は、主面18、22の1つ以上から選択深さ30まで延在する、150MPa超、200MPa超、250MPa超、300MPa超、350MPa超、400MPa超、450MPa超、500MPa超、550MPa超、600MPa超、650MPa超、700MPa超、750MPa超、800MPa超、850MPa超、900MPa超、950MPa超、1000MPa超の最大圧縮応力、およびこれらの値の間の全ての最大圧縮応力レベルを有する1つ以上の圧縮応力領域26を備えることもある。いくつかの例では、最大圧縮応力は2000MPa以下である。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約150MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約200MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約250MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約300MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約350MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約400MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約450MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約500MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約550MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約600MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約650MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約700MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約750MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約800MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約850MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約900MPaから約2000MPaである。いくつかの実施の形態において、最大圧縮応力は約1000MPaから約2000MPaである。それに加え、圧縮深さ(DOC)または第1の選択深さ30は、基板14の厚さおよび圧縮応力領域26の生成に関連する加工条件に応じて、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上、およびさらに深い深さに設定することができる。いくつかの例では、DOCは、基板14の厚さの0.3倍以下、例えば、0.3t、0.28t、0.26t、0.25t、0.24t、0.23t、0.22t、0.21t、0.20t、0.19t、0.18t、0.15t、または0.1t、およびそれらの間の全ての値である。
【0031】
物品10の基板14は、ガラスセラミック組成物により特徴付けることができる。そのガラスセラミック組成物は、約10×10-7/℃から約60×10-7/℃の熱膨張係数を有することがある。さらに、そのガラスセラミックは、良好な耐久性および耐湿性を示す。本開示のガラスセラミック組成物は、表1に開示された物理的性質の1つ以上を有することがある。
【0032】
【0033】
様々な例において、基板14のガラスセラミック組成物は、Al2O3、SiO2、B2O3、WO3および随意的なアルカリ金属酸化物を含むことがある。そのガラスセラミック組成物は、約0.3モル%から約15モル%のAl2O3、または約5モル%から約12モル%のAl2O3、または約5モル%から約10モル%のAl2O3を含むことがある。例えば、そのガラスセラミック組成物は、約0.3モル%、0.5モル%、0.8モル%、1モル%、2モル%、3モル%、4モル%、5モル%、6モル%、7モル%、8モル%、9モル%、10モル%、11モル%、12モル%、13モル%、14モル%、または15モル%のAl2O3を有することがある。そのガラスセラミック組成物は、約5モル%から約40モル%のB2O3、または約10モル%から約25モル%のB2O3を含有することがある。B2O3の約5モル%から約40モル%の間の任意と全ての値が考えられることが理解されよう。そのガラスセラミック組成物は、約50モル%から約80モル%のSiO2、または約55モル%から約75モル%のSiO2、または約60モル%から約70モル%のSiO2を有することがある。SiO2の約50モル%から約80モル%の間の任意と全ての値が考えられることが理解されよう。さらに、そのガラスセラミックは、約0モル%から約0.5モル%のSnO2、または約0モル%から約0.2モル%のSnO2、または約0モル%から約0.1モル%のSnO2を含むことがある。
【0034】
前記ガラスセラミック組成物は、少なくとも1種類のアルカリ金属酸化物を含むことがある。そのアルカリ金属酸化物は、化学式R2Oで表されることがあり、ここで、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2Oおよび/またはその組合せの内の1つ以上である。そのガラスセラミック組成物は、約0モル%から約15モル%、または約3モル%から約12モル%、または約7モル%から約10モル%のアルカリ金属酸化物を有することがある。例えば、そのガラスセラミック組成物は、約1モル%、2モル%、3モル%、4モル%、5モル%、6モル%、7モル%、8モル%、9モル%、10モル%、11モル%、12モル%、13モル%、14モル%、または15モル%のアルカリ金属酸化物を有することがある。様々な例によれば、少なくとも1種類のアルカリ金属酸化物とAl2O3の量の差は、約-12モル%から約2.5モル%、または約-6モル%から約0.25モル%、または約-3.0モル%から約0モル%に及ぶ。これにより、全てのアルカリがガラスにより束縛され、アルカリタングステンブロンズ(非化学量論的亜酸化タングステン)または化学量論的タングステン酸アルカリ(例えば、Na2WO4)が形成されないようになる。そのガラスセラミック組成物がアルカリ金属酸化物含有量を持たなくてもよいことが理解されよう。
【0035】
前記ガラスセラミックは、カドミウムを実質的に含まず、セレンを実質的に含まないことがある。様々な例によれば、そのガラスセラミックは、紫外、可視、および/または近赤外吸光度を変えるために、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Pb、Pd、Au、Cd、Se、Ta、Bi、Ag、Ce、Pr、Nd、およびErからなる群より選択される少なくとも1種類のドーパントをさらに含み得る。そのドーパントは、そのガラスセラミック内に約0.0001モル%から約1.0モル%の濃度を有することがある。そのガラスセラミックは、ガラスセラミックを軟化させるために、約0モル%から約5モル%の範囲のフッ素を含むことがある。そのガラスセラミックは、ガラスセラミックの物理的性質をさらに変更し、結晶成長を調整するために、約0モル%から約5モル%の範囲のリンを含むことがある。そのガラスセラミックは、ガラスセラミックの物理的性質をさらに変更し、結晶成長を調整するために、約0モル%から約5モル%の範囲のZnOを含むことがある。いくつかの実施の形態において、そのガラスセラミックは、ガラスセラミックの物理的性質および光学的性質(例えば、屈折率)をさらに変更するために、Ga2O3、In2O3および/またはGeO2を含むことがある。いくつかの実施の形態において、Ga2O3、In2O3および/またはGeO2は、それぞれ、75%までのAl2O3およびSiO2と置換されることがある。以下の微量不純物が、UV、可視(例えば、390nmから約700nmまで)、および近赤外(例えば、約700nmから約2500nmまで)吸光度をさらに変更する、および/またはそのガラスセラミックに蛍光を発せさせるために、約0.001モル%から約0.5モル%の範囲で存在することがある:Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Se、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Te、Ta、Re、Os、Ir、Pt、Au、Ti、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLu。
【0036】
前記ガラスセラミック組成物は、約2モル%から約15モル%のWO3、または約4モル%から約10モル%のWO3、または約5モル%から約7モル%のWO3を含むことがある。例えば、そのガラスセラミック組成物は、約2モル%、3モル%、4モル%、5モル%、6モル%、7モル%、8モル%、9モル%、10モル%、11モル%、12モル%、13モル%、14モル%、または15モル%、およびそれらの間の全ての値のWO3を有することがある。
【0037】
様々な例において、基板14のガラスセラミック組成物は、TiO2を含むことがある。その物品は、約0.25モル%、または約0.50モル%、または約0.75モル%、または約1.0モル%、または約2.0モル%、または約3.0モル%、または約4.0モル%、または約5.0モル%、または約6.0モル%、または約7.0モル%、または約8.0モル%、または約9.0モル%、または約10.0モル%、または約11.0モル%、または約12.0モル%、または約13.0モル%、または約14.0モル%、または約15.0モル%、または約16.0モル%、または約17.0モル%、または約18.0モル%、または約19.0モル%、または約20.0モル%、または約21.0モル%、または約22.0モル%、または約23.0モル%、または約24.0モル%、または約25.0モル%、または約26.0モル%、または約27.0モル%、または約28.0モル%、または約29.0モル%、または約30.0モル%、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲の濃度でTiO2を含むことがある。例えば、その物品は、約0.25モル%から約30モル%のTiO2、または約1モル%から約30モル%のTiO2、または約1.0モル%から約15モル%のTiO2、または約2.0モル%から約15モル%のTiO2、または約2.0モル%から約15.0モル%のTiO2の濃度でTiO2を含むことがある。TiO2の先に述べた範囲の間の任意と全ての値および範囲が考えられることが理解されよう。
【0038】
様々な例によれば、前記物品は、1種類以上の金属硫化物を含むことがある。例えば、金属硫化物としては、MgS、Na2S、および/またはZnSが挙げられるであろう。様々な例によれば、その物品は、1種類以上の金属硫化物を含むことがある。例えば、金属硫化物としては、MgS、Na2S、および/またはZnSが挙げられるであろう。その物品は、約0.25モル%、または約0.50モル%、または約0.75モル%、または約1.0モル%、または約2.0モル%、または約3.0モル%、または約4.0モル%、または約5.0モル%、または約6.0モル%、または約7.0モル%、または約8.0モル%、または約9.0モル%、または約10.0モル%、または約11.0モル%、または約12.0モル%、または約13.0モル%、または約14.0モル%、または約15.0モル%、または約16.0モル%、または約17.0モル%、または約18.0モル%、または約19.0モル%、または約20.0モル%、または約21.0モル%、または約22.0モル%、または約23.0モル%、または約24.0モル%、または約25.0モル%、または約26.0モル%、または約27.0モル%、または約28.0モル%、または約29.0モル%、または約30.0モル%、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲の濃度で金属硫化物を含むことがある。例えば、その物品は、約0.25モル%から約30モル%、または約1.0モル%から約15モル%、または約1.5モル%から約5モル%の濃度で金属硫化物を含むことがある。
【0039】
先に強調された酸化タングステンおよびモリブデンと同様に、チタンを含む物品の例も、酸化チタンの析出物からなる結晶相を生じることがある。その結晶相は、Tiおよびアルカリ金属陽イオンの、結晶相の約0.1モル%から約100モル%の酸化物を含む。理論で束縛されないが、物品の熱加工(例えば、熱処理)中、チタン陽イオンが凝集して、金属硫化物の近くおよび/またはその上で結晶質析出物を形成し、それによって、ガラス状態をガラスセラミック状態に転換させると考えられる。その金属硫化物は、核形成剤(すなわち、金属硫化物は、溶融物より高い溶融温度を有し、それによって、チタンがその上に凝集するであろう種晶として働くことがある)および還元剤(すなわち、金属硫化物は、高還元剤であり、それゆえ、凝集したチタンは、3+状態に還元されるであろう)の両方として機能する二元的役割を果たすことがある。このように、析出物中に存在するチタンは、金属硫化物のために、還元されている、または部分的に還元されていることがある。例えば、析出物内のチタンは、0と約+4の間の酸化状態を有することがある。例えば、析出物は、TiO2の一般化学構造を有することがある。しかしながら、相当な比率のチタンが+3の酸化状態にもあり得、ある場合には、これらのTi3+陽イオンは、チタニア結晶格子内のチャンネル中に挿入される種によって電荷安定化され、非化学量論的亜酸化チタン、「チタンブロンズ」または「ブロンズタイプ」チタン結晶として知られる化合物を形成することがある。上述したアルカリ金属および/またはドーパントの1つ以上が、Ti上の+3の電荷を補うために、析出物内に存在することがある。チタンブロンズは、MxTiO2の一般化学形態をとる非化学量論的亜酸化チタンの群であり、式中、M=H、Li、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、Ba、Zn、Ag、Au、Cu、Sn、Cd、In、Tl、Pb、Bi、Th、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、U、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Pd、Se、Ta、Bi、およびCeの1つ以上のドーパント陽イオンであり、0<x<1である。構造MxTiO2は、還元されたTiO2網状構造における正孔(すなわち、結晶格子内の空孔またはチャンネル)が、M原子で無作為に占められた固体欠陥構造であると考えられ、このM原子は、M+陽イオンおよび遊離電子に解離される。「M」の濃度に応じて、材料特性は、金属から半導体に及び得、それによって、多種多様な光吸収および電子特性を調整することができる。3+Tiが多いほど、補うのにより多くのM+が必要であろうし、xの値が大きくなる。
【0040】
上記開示に一貫して、チタンブロンズは、概して式MxTiO2の非化学量論的化合物であり、式中、Mは、いくつかの他の金属、最も一般的にアルカリなどの陽イオンドーパントであり、xは1未満の変数である。明確にするために、「ブロンズ」と称されるが、これらの化合物は、銅とスズの合金である金属ブロンズとは構造的または化学的に関係していない。チタンブロンズは、均一性がxの関数として変動する固相の範囲である。ドーパントMおよび対応する濃度xに応じて、チタンブロンズの材料特性は、金属から半導体に及び、調整可能な光吸収を示すことがある。これらのブロンズの構造は、M’ドーパント陽イオンが二元酸化物ホストの正孔またはチャンネルに挿入され(すなわち、それを占め)、M+陽イオンと遊離電子に解離する固体欠陥構造である。
【0041】
明確にするために、MxTiO2は、単斜晶、六方晶、正方晶、立方晶、またはパイロクロアであり得る様々な結晶構造を有し、式中、Mが周期表の特定の元素の内の1つまたは組合せであり得、xが0<x<1で変動し、ブロンズ形成種(この場合、Ti)の酸化状態が、最高酸化状態にある種(Ti4+)と最低酸化状態にある種(例えば、Ti3+)の混合物であり、TiO2における数値の二(「2」)は、1と2の間であることがある酸素陰イオンの数を表す、非化学量論的または「半化学量論的」化合物の複合系の命名法である。したがって、MxTiO2は、代わりに、化学形態MxTiOzとして表されることがあり、式中、0<x<1、1<z<2、または化学形態MxTiO2-zとして表されることがあり、式中、0<x<1、0<z<1である。しかしながら、簡潔さのために、この群の非化学量論的結晶に、MxTiO2が利用される。同様に、「ブロンズ」は、一般に、式M’xM”yOzの三元金属酸化物に適用され、式中、(i)M”は遷移金属であり、(ii)M”yOzはその最高二元酸化物であり、(iii)M’はいくつかの他の金属であり、(iv)xは0<x<1の範囲に入る変数である。
【0042】
様々な例によれば、チタンを含むガラスセラミック物品は、W、Mo、および希土類元素を実質的に含まないことがある。先に強調されたように、チタンがそれ自体の亜酸化物を形成する能力により、タングステンおよびモリブデンの必要がなくなることがあり、亜酸化チタンには、希土類元素が必要ないことがある。
【0043】
様々な例によれば、前記ガラスセラミック物品は、低濃度の鉄を有するまたは鉄を含まないことがある。例えば、その物品は、約1モル%以下のFe、または約0.5モル%以下のFe、または約0.1モル%以下のFe、または0.0モル%のFe、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲のFeを含むことがある。
【0044】
様々な例によれば、前記ガラスセラミック物品は、低濃度のリチウムを有するまたはリチウムを含まないことがある。例えば、その物品は、約1モル%以下のLi、または約0.5モル%以下のLi、または約0.1モル%以下のLi、または0.0モル%のLi、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲のLiを含むことがある。
【0045】
様々な例によれば、前記ガラスセラミック物品は、低濃度のジルコニウムを有するまたはジルコニウムを含まないことがある。例えば、その物品は、約1モル%以下のZr、または約0.5モル%以下のZr、または約0.1モル%以下のZr、または0.0モル%のZr、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲のZrを含むことがある。
【0046】
タングステンまたはモリブデン含有物品の形成と同様に、チタンを含む物品は、シリカおよびチタンを含む成分を一緒に溶融して、ガラス溶融物を形成する工程;そのガラス溶融物を固化させて、ガラスを形成する工程;およびそのガラス内に、チタンを含むブロンズタイプの結晶を析出させて、ガラスセラミックを形成する工程を含む方法によって形成されることがある。様々な例によれば、そのブロンズタイプの結晶を析出させる工程は、1つ以上の熱処理によって行われることがある。チタンブロンズタイプの結晶の熱処理は、約400℃から約900℃、または約450℃から約850℃、または約500℃から約800℃、または約500℃から約750℃、または約500℃から約700℃、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲の温度で行われることがある。言い換えると、ブロンズタイプの結晶を析出させる工程は、約450℃から約850℃の温度で行われる、またはブロンズタイプの結晶を析出させる工程は、約500℃から約700℃の温度で行われる。その熱処理は、約15分から約240分、または約15分から約180分、または約15分から約120分、または約15分から約90分、または約30分から約90分、または約60分から約90分、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲の期間に亘り行われることがある。言い換えると、ブロンズタイプの結晶を析出させる工程は、約15分から約240分の期間に亘り行われる、またはブロンズタイプの結晶を析出させる工程は、約60から約90分の期間に亘り行われる。その熱処理は、周囲空気中、不活性雰囲気中、または真空中で行われることがある。
【0047】
前記物品のチタン含有例における亜酸化チタンの形成により、光の異なる波長域の吸収および透過率に差が生じることがある。光の紫外(UV)帯(例えば、約200nmから約400nm)において、ガラス状態にある物品は、亜酸化チタンの析出前に、約18%から約30%の平均UV透過率を有することがある。例えば、ガラス状態にある物品の平均UV透過率は、約18%、または約19%、または約20%、または約21%、または約22%、または約23%、または約24%、または約25%、または約26%、または約27%、または約28%、または約29%、または約30%、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲にあることがある。亜酸化チタンの形成または析出後、ガラスセラミック状態にある物品は、約0.4%から約18%の平均UV透過率を有することがある。例えば、ガラスセラミック状態にある物品の平均UV透過率は、約0.4%、または約0.5%、または約1%、または約2%、または約3%、または約4%、または約5%、または約6%、または約7%、または約8%、または約9%、または約10%、または約11%、または約12%、または約13%、または約14%、または約15%、または約16%、または約17%、または約18%、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲にあることがある。上述した透過率の値は、約0.4mmから約1.25mmの厚さまたは光の経路長を有する物品に存在することがあることが理解されよう。
【0048】
光の可視帯(例えば、約400nmから約750nmまで)において、ガラス状態にある物品は、亜酸化チタンの析出前に、約60%から約85%の平均可視透過率を有することがある。例えば、ガラス状態にある物品の平均可視透過率は、約60%、または約61%、または約62%、または約63%、または約64%、または約65%、または約66%、または約67%、または約68%、または約69%、約70%、または約71%、または約72%、または約73%、または約74%、または約75%、または約76%、または約77%、または約78%、または約79%、約80%、または約81%、または約82%、または約83%、または約84%、または約85%、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲にあることがある。亜酸化チタンの形成または析出後、ガラスセラミック状態にある物品は、約4%から約85%の平均可視透過率を有することがある。例えば、ガラスセラミック状態にある物品の平均可視透過率は、約4%、または約5%、または約10%、または約20%、または約30%、または約40%、または約50%、または約60%、または約70%、または約80%、または約85%、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲にあることがある。上述した透過率の値は、約0.4mmから約1.25mmの厚さまたは光の経路長を有する物品に存在することがあることが理解されよう。
【0049】
光の赤外(NIR)帯(例えば、約750nmから約1500nmまで)において、ガラス状態にある物品は、亜酸化チタンの析出前に、約80%から約90%の平均NIR透過率を有することがある。例えば、ガラス状態にある物品の平均NIR透過率は、約80%、または約81%、または約82%、または約83%、または約84%、または約85%、または約86%、または約87%、または約88%、または約89%、または約90%、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲にあることがある。亜酸化チタンの形成または析出後、ガラスセラミック状態にある物品は、約0.1%から約10%の平均NIR透過率を有することがある。例えば、ガラスセラミック状態にある物品の平均NIR透過率は、約1%、または約2%、または約3%、または約4%、または約5%、または約6%、または約7%、または約8%、または約9%、または約10%、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲にあることがある。上述した透過率の値は、約0.4mmから約1.25mmの厚さまたは光の経路長を有する物品に存在することがあることが理解されよう。
【0050】
光のNIR帯において、亜酸化チタンを含まない、ガラス状態にある物品は、約0.4以下、または約0.35以下、または約0.3以下、または約0.25以下、または約0.2以下、または約0.15以下、または約0.1以下、または約0.05以下、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲にあるmm当たりの平均光学密度(すなわち、第1の近赤外吸光度)を有することがある。亜酸化チタンの析出後、亜酸化チタンを含む、ガラスセラミック状態にある物品は、約6.0以下、または約5.5以下、または約5.0以下、または約4.5以下、または約4.0以下、または約3.5以下、または約3.0以下、または約2.5以下、または約2.0以下、または約1.5以下、または約1.0以下、または約0.5以下、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲にあるmm当たりの平均光学密度(すなわち、第2の近赤外吸光度)を有することがある。このように、ある場合には、第1の平均近赤外吸光度に対する第2の平均近赤外吸光度の比は、約1.5以上、または約2.0以上、または約2.5以上、または約3.0以上、または約5.0以上、または約10.0以上であることがある。そのような例において、亜酸化チタンを含む、ガラスセラミック状態にある物品の可視波長でのmm当たりの平均光学密度は、1.69以下であることがある。
【0051】
様々な例によれば、前記物品は、低ヘイズを示すことがある。例えば、その物品は、約20%以下、または約15%以下、または約12%以下、または約11%以下、または約10.5%以下、または約10%以下、または約9.5%以下、または約9%以下、または約8.5%以下、または約8%以下、または約7.5%以下、または約7%以下、または約6.5%以下、または約6%以下、または約5.5%以下、または約5%以下、または約4.5%以下、または約4%以下、または約3.5%以下、または約3%以下、または約2.5%以下、または約2%以下、または約1.5%以下、または約1%以下、または約0.5%以下、または約0.4%以下、または約0.3%以下、または約0.2%以下、または約0.1%以下、またはそれらの間の任意と全ての値および範囲のヘイズを示すことがある。その物品のヘイズは、1mm厚の試料について、ヘイズ測定に関して先に概説された手法にしたがって測定される。様々な例によれば、その物品のヘイズは、特定のガラスセラミックに大抵存在するが、ヘイズを増加させる傾向にあるベータ石英(すなわち、バージライト(Virgilite))の不在のために、従来のガラスセラミックよりも低いことがある。言い換えると、そのガラスセラミック物品は、ベータ石英結晶相を含まないことがある。さらに、その物品のヘイズは、光を散乱させる傾向にある大きい晶子が少量しかない、またはないためであろう(例えば、約100nm未満、または約60nm未満、または約40nm未満)。
【0052】
亜酸化チタンを含む物品を使用すると、一般式MxTiO2を有する結晶または非化学量論的チタンブロンズは、多数の利点を与えるであろう。
【0053】
第一に、亜酸化チタンを生じるための熱加工時間は、他のガラスセラミックの製造よりも短いことがある。さらに、熱加工温度は、その物品の軟化点よりも低いことがある。そのような特徴は、製造の複雑さおよび製造費を減少させる上で都合よいであろう。
【0054】
第二に、イオン交換能力を有するものを含む、幅広い溶融組成物に、カラーパッケージ(例えば、TiO2+ZnS)を導入することができる。それに加え、比較的低い濃度のカラーパッケージが必要とされるので、そのようなカラーパッケージの添加は、物品の化学的耐久性および他の関連特性にそれほど影響しないであろう。
【0055】
第三に、亜酸化チタンを含有するガラスセラミックを使用すると、放射トラッピングによる溶融の難点を持たないであろう紫外線および/または赤外線遮断材料のための、フュージョン成形可能であり、化学強化可能な材料が提供されるであろう。例えば、亜酸化チタンを含む物品は、溶融状態または注型された状態(すなわち、熱処理前の未処理状態)にあるときに、溶融されたときでさえ近赤外で強力に吸収する、Fe2+ドープガラスと異なり、可視およびNIR波長で極めて透明である。
【0056】
本開示の原理によるガラスセラミックの非限定的な近似組成範囲(すなわち、組成1、2および3)が、表2(モル%で報告されている)において下記に列挙されている。化学式R2Oは、先に説明したように、アルカリ金属酸化物(例えば、Li2O、Na2O、K2O、Cs2Oおよび/またはその組合せ)を表すことが理解されよう。
【0057】
【0058】
組成範囲3内の具体例によれば、そのガラスセラミック組成物は、約60.1モル%のSiO2、約6.6モル%のAl2O3、約6.6モル%のCs2O、約6.6モル%のWO3、約0.1モル%のSnO2、および約20モル%のB2O3を含むことがある。さらに別の具体例において、そのガラスセラミック組成物は、約66モル%のSiO2、約9モル%のAl2O3、約3モル%のLi2O、約2モル%のWO3、約0モル%のSnO2、および約20モル%のB2O3を含むことがある。
【0059】
本開示の原理によるガラスセラミックの非限定例の試料組成が、表2.1において下記に列挙されている。その組成の成分は、モル%で与えられている。
【0060】
【0061】
ここで
図1Bを参照すると、先に記載されたガラスセラミックを具現化した基板14は、複数のタングステン含有構造が基板14内に析出するように加工されることがある。そのようなタングステン含有析出物は、ここでは、酸化タングステン、タングステン相、タングステン含有析出物および/またはタングステン析出物と称されることがある。少なくとも1つの例によれば、基板14は、基板14の全体に亘る結晶性酸化タングステンおよび/またはタングステン含有析出物の形成を促進するために、熱処理されるか、または他の様式で熱加工されることがある。理論で束縛されるものではないが、ガラスセラミック組成物の加工(例えば、熱処理)中、タングステン陽イオンが凝集して、結晶性析出物を形成し、それによって、ガラスセラミックを形成すると考えられる。その結晶性析出物は、基板14が熱処理された場合に均質な様式でガラスセラミック内に内部核形成する(すなわち、表面だけではない)。様々な例によれば、その析出物は、概して結晶性構造を有することがある。このように、その析出物は、タングステンを含む結晶性析出物と称されることがある。
【0062】
前記ガラスセラミック内の析出物の存在は、多段階技術によって決定されることがある。最初に、結晶性析出物の存在を検出するためにX線回折を使用して、ガラスセラミック組成物の試料を分析することができる。X線回折が結晶性析出物を検出し損なう(例えば、析出物のサイズ、量および/または化学的性質のために)場合、ラマン分光法を使用してガラスセラミックの試料を分析する第2の工程を行うことができる。ラマン分光法は、X線回折よりも大きい試料サイズを分析できるので、結晶相の存在を決定する上で確実な方法を表す。必要に応じて、ガラスセラミック内の結晶相の存在を目視で確認するために、透過電子顕微鏡法も使用されることがある。
【0063】
タングステンを含む結晶性析出物は、約1nmと約100nmの間、または約3nmと約30nmの間、または約6nmと約20nmの間の直径、または最長長さ寸法を有することがある。その析出物のサイズは、走査型電子顕微鏡または透過電子顕微鏡を使用して測定されることがある。一例では、析出物の最長の長さ寸法は、最長の長さ寸法を視覚的に測定することによって、決定されることがある。析出物の最長の長さ寸法が視覚的に確認できるサイズより小さい例において、析出物の寸法は、析出相の存在を推測し(例えば、X線回折および/またはラマン分光法により)、電子顕微鏡法でどのような析出物も解像できないことにより(例えば、析出物の最長寸法が、約10nm、好ましくは約1nmである走査型電子顕微鏡の解像レベルより小さいことを示す)、決定されることがある。析出物の比較的小さい直径またはサイズは、析出物により散乱される光の量を減少させ、先に概説されたガラスセラミックを使用して製造した場合の基板14の高い光学的透明度をもたらす上で都合よいであろう。タングステン析出物は、実質的に均一な直径を有することがある、または様々なサイズを有することがあることが理解されよう。析出物中に存在するタングステンは、還元されているか、または部分的に還元されているであろう。例えば、析出物内のタングステンは、0と約+6との間の酸化状態を有することがある。様々な例によれば、タングステンは+6の酸化状態を有することがある。いくつかの実施の形態によれば、ガラスセラミックには、+6未満の酸化状態を有するタングステンがない。いくつかの実施の形態によれば、ガラスセラミックは、+6未満の酸化状態を有するタングステンがない結晶相を有する。例えば、その析出物は、WO3の一般化学構造を有することがある。その析出物は、非化学量論的亜酸化タングステンおよび/または「タングステンブロンズ」としても知られているであろう。上述したアルカリ金属および/またはドーパントの1種類以上が、その析出物内に存在することがある。析出物が存在するであろう基板14の部分は、異なる析出物(例えば、サイズおよび/または量)が存在するおよび/または析出物が存在しない、基板14の部分と比べて、光の吸光度、反射率および/または透過率、並びに屈折率の変化をもたらすことがある。
【0064】
物品10の様々な部分が熱処理されることがある。例えば、物品10および/または基板14の一部、大半、実質的に全ておよび/または全てが熱処理されることがある。物品10および/または基板14は、多数の部分を画成することがある。例えば、基板14内に第1の部分14Aおよび第2の部分14Bが存在することがある。物品10および/または基板14は、ここに与えられた教示から逸脱せずに、3つ以上の部分を含むことがあることが理解されよう。第1と第2の部分14A、14Bの一方または両方は、注型されたままである、徐冷される、および/または熱処理されることがある。様々な例において、その第1と第2の部分は、両方とも熱処理されているが、異なる時間に亘り、および/または異なる温度で、である。さらに他の例において、第1と第2の部分14A、14Bの一方は注型されたままであり、他方の部分は熱処理されている。
【0065】
様々な例によれば、本開示のガラスセラミックは、析出物が存在するところと、析出物が存在しないところの両方で、スペクトルの可視領域(すなわち、約400nmから約700nm)で光学的に透明であることがある。ここに用いられているように、「光学的に透明」という用語は、約400nmから約700nmの範囲の光の少なくとも1つの50nm幅の波長域に亘り1mmの経路長で約1%(例えば、%/mmの単位)超の透過率を称する。いくつかの例において、そのガラスセラミックは、全て、そのスペクトルの可視領域の光の少なくとも1つの50nm幅の波長域に亘り、少なくとも、約5%/mm超、約10%/mm超、約15%/mm超、約20%/mm超、約25%/mm超、約30%/mm超、約40%/mm超、約50%/mm超、約60%/mm超、約70%/超、およびこれらの値の間の全ての下限より大きい透過率を有する。光透過率値は、物品10および/または基板14の熱処理された部分および熱処理されていない部分(例えば、部分14Aおよび14B)の両方に得られることがあることが理解されよう。
【0066】
様々な例によれば、本開示のガラスセラミックは、追加のコーティングまたは膜を使用せずに、析出物の存在に基づいて、紫外(「UV」)領域の光(すなわち、約370nm未満の波長)を吸収する。いくつかの実施において、そのガラスセラミック状態は、スペクトルのUV領域(例えば、約200nmから約400nmまで)の光の少なくとも1つの50nm幅の波長域の光について、10%/mm未満、9%/mm未満、8%/mm未満、7%/mm未満、6%/mm未満、5%/mm未満、4%/mm未満、3%/mm未満、2%/mm未満、およびさらに1%/mm未満の透過率によって特徴付けられる。いくつかの例において、そのガラスセラミックは、そのスペクトルのUV領域の光の少なくとも1つの50nm幅の波長域の光について、少なくとも90%/mm、少なくとも91%/mm、少なくとも92%/mm、少なくとも93%/mm、少なくとも94%/mm、少なくとも95%/mm、少なくとも96%/mm、少なくとも97%/mm、少なくとも98%/mm、または少なくとも99%/mmさえ吸収する、またはその吸光度を有する。そのガラスセラミックは、約320nmから約420nmの急なUVカットオフ波長を有することがある。例えば、そのガラスセラミックは、約320nm、約330nm、約340nm、約350nm、約360nm、約370nm、約380nm、約390nm、約400nm、約410nm、約420nm、約430nm、またはそれらの間の任意の値での急なUVカットオフを有することがある。UV透過率およびUVカットオフの値は、物品10および/または基板14の熱処理された部分および熱処理されていない部分(例えば、14Aおよび14B)の両方に得られることがあることが理解されよう。
【0067】
いくつかの例において、前記ガラスセラミックは、全て、スペクトルの近赤外(NIR)領域(例えば、約700nmから約2700nmまで)の光の少なくとも1つの50nm幅の波長域に亘り、約5%/mm超、約10%/mm超、約15%/mm超、約20%/mm超、約25%/mm超、約30%/mm超、約40%/mm超、約50%/mm超、約60%/mm超、約70%/mm超、約80%/mm超、約90%/mm超、およびこれらの値の間の全ての下限より大きい透過率を有する。このように、そのガラスセラミックは、約700nmから約2700nmで、約50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上の光透過率、および約320nmから約420nmの急な紫外線カットオフ波長を示すことがある。近赤外透過率値は、物品10および/または基板14の熱処理された部分および熱処理されていない部分の両方に得られることがあることが理解されよう。
【0068】
様々な例によれば、前記ガラスセラミック組成物は、以下の透過率仕様を有することがある:351nm以下の波長での5%未満の透過率;374nmでの50%以上の透過率;および1053nmで99%超の透過率。
【0069】
いくつかの実施において、前記ガラスセラミックは、スペクトルの近赤外(IR)領域(例えば、700nmから約2500nmまで)の光の少なくとも1つの50nm幅の波長域の光について、10%/mm未満、9%/mm未満、8%/mm未満、7%/mm未満、6%/mm未満、5%/mm未満、4%/mm未満、3%/mm未満、2%/mm未満、およびさらに1%/mm未満の透過率によって特徴付けられる。他の例において、そのガラスセラミックは、スペクトルの近赤外領域の光の少なくとも1つの50nm幅の波長域の光について、少なくとも90%/mm、少なくとも91%/mm、少なくとも92%/mm、少なくとも93%/mm、少なくとも94%/mm、少なくとも95%/mm、少なくとも96%/mm、少なくとも97%/mm、少なくとも98%/mm、またはさらには少なくとも99%/mmを吸収する、またはその吸光度を有する。
【0070】
理論で束縛されないが、前記ガラスセラミック組成物は、その結晶性析出物の結果として、紫外線(「UV」)カットオフおよび屈折率の変化を示すと考えられる。より詳しくは、結晶性酸化タングステンおよび/またはタングステン含有結晶は、析出物が存在する基板14について、屈折率および/またはUVカットオフをもたらすと考えられる。析出物のないガラスセラミック(例えば、非熱処理)は、約1.505と約1.508の間の屈折率を有することがあり、一方で、析出物を有する物品10の部分は、約1.520から約1.522の屈折率を有することがある。例えば、表3は、波長に照らして、WO3の近似屈折率を示す。
【0071】
【0072】
酸化タングステンおよび/またはタングステン含有結晶性析出物は、ホスト基板14よりも高い屈折率を有するので、析出物が存在する基板14の部分または区域は、析出物が存在しない基板14の部分または区域よりも高い屈折率を有するであろう。言い換えると、析出物を有する基板14の部分は、ガラスセラミックと析出物(例えば、ガラスセラミックより高い)の屈折率の組合せである屈折率を有することがある。さらに、析出物のサイズおよび量が成長する(例えば、より高い熱処理温度および/またはより長い熱処理のために)につれて、基板14内の析出物の全体積が増加し、それに対応して屈折率の上昇をもたらす。屈折率に対する効果と同様に、より大きくより数の多い析出物(例えば、より高い熱処理温度および/またはより長い熱処理のために)は、基板14のUVカットオフ波長の上昇をもたらす。例えば、析出物がサイズと数において増加するにつれて、析出物は、より長い波長の紫外線を吸収し、UVカットオフ波長の上昇をもたらすことがある。
【0073】
ここで
図2を参照すると、物品10および/または基板14を製造する例示の方法50が示されている。方法50は、溶融ガラスを形成する工程54から始まることができる。その溶融ガラスは、上述したガラスセラミックの組成を有することがある。例えば、そのガラスセラミック組成物は、約50モル%から約80モル%のSiO
2、約0.3モル%から約15モル%のAl
2O
3、約5モル%から約40モル%のB
2O
3、約2モル%から約15モル%のWO
3を含むことがある。様々な例によれば、ガラスセラミック組成を有する溶融ガラスを形成する工程54は、ガラスセラミック組成物の成分を一緒に混合することから始められる。例えば、適切な比率の成分が、乱流混合および/またはボールミル粉砕によって、混合され、ブレンドされることがある。次いで、バッチ配合された材料は、所定の期間に亘り約1500℃から約1700℃に及ぶ温度で溶融されて、その溶融ガラスを形成する。いくつかの実施において、所定の期間は、約6時間から約12時間に及ぶ。
【0074】
次に、溶融ガラスを冷却して、物品10および/または基板14を形成する工程58を、方法50にしたがって行うことができる。溶融ガラスを冷却する工程は、当該技術分野で公知のどの過程によって行われてもよい。様々な例によれば、工程54および58は、溶融-急冷過程として知られているであろう。ガラスセラミック組成物の溶融および注型により形成されたガラスセラミック物品10は、第1の波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第1の屈折率を有することがある。先に説明したように、析出物の形成(例えば、下記により詳しく説明される熱処理工程により)により、物品10のUVカットオフ波長の変化、並びに屈折率の変化がもたらされることがある。例えば、注型されたままのガラスセラミック物品10のUVカットオフは、約355nmの第1の波長にあることがある。そのガラスセラミック構造の屈折率は、約400nmから約1550nmの波長に亘り約1.490から約1.534の第1の屈折率を有することがあり、589nmの参照波長では、約1.507の屈折率である。下記により詳しく説明されるように、結晶性析出物の析出により、その析出物を含有する物品10および/または基板14の熱処理された部分のUVカットオフ波長並びに屈折率が変化する。
【0075】
次に、所定の期間に亘り所定の温度でガラスセラミック物品10の一部を熱処理して、そのガラスセラミック構造の熱処理された部分内に複数の析出物を形成する工程62を、方法50にしたがって行うことができる。先に説明したように、その結晶性析出物は、WO3の一般化学式を有することがある。そのガラスセラミック構造の熱処理は、炉、レーザ(例えば、赤外、紫外、可視)、および/またはガラスセラミック物品10を加熱する当該技術分野で公知の他の方法によって行われることがある。例えば、レーザは、高度に局所的(例えば、約100nmから約1μmの区域)熱を生じるために使用されるフェムト秒のレーザであることがある。言い換えると、物品10および/または基板14の熱処理された部分は、約100nmから約1μmの長さ、幅、深さまたは最大直径を有することがある。そのレーザは、熱処理がパターンで行われるようにラスターであることがある。レーザラスターパターンの非限定例としては、英数字、記号、証印、および画像が挙げられる。ガラスセラミック物品10の熱処理は、ガラスセラミック物品10の一部、大半、実質的に全てまたは全体に亘り行われることがある。このように、熱処理により形成された析出物は、ガラスセラミック物品10の一部、実質的に全てまたは全体に位置付けられることがある。したがって、析出物がガラスセラミック物品10の紫外線カットオフおよび屈折率を変えるので、ガラスセラミック物品10の異なる部分は、異なる紫外線カットオフおよび屈折率を示す、または有すると特徴付けられることがある。熱処理は、約0.1時間と約4時間の間、または約0.5時間と約3時間の間、または約0.5時間と約2時間の間に亘り行われることがある。例えば、ガラスセラミック物品10は、約0.5時間、1.0時間、1.5時間、2.0時間、2.5時間、3.0時間およびそれらの間の全ての値に亘り熱処理されることがある。熱処理工程62は、前記ガラスセラミック組成物の徐冷点で、またはそれよりわずかに高く、かつその軟化点より低い温度で行われて、1つ以上の結晶性タングステン相または析出物を発生させる。その熱処理は、約400℃と約800℃の間、または約500℃から約750℃、または約550℃から約700℃、または約600℃から約650℃の温度で行われることがある。例えば、熱処理は、約400℃、450℃、500℃、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃、およびそれらの間の全ての値の温度で行われることがある。熱処理の温度は、そのガラスセラミック組成物が、約1012ポアズから約108ポアズ、または約1011ポアズから約109ポアズの比較的高い粘度を有するように十分に低いことがある。下記により詳しく説明されるように、熱処理中のガラスセラミックの高い粘度は、ガラスセラミックの加熱により生じる傷または収差を減少させるであろう。何故ならば、熱処理は、ガラスセラミックの軟化点より低い温度で行われるからである。
【0076】
先に説明したように、ガラスセラミック物品10の熱処理された部分は、WO3析出物の存在に基づいて、第2の波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第2の屈折率の少なくとも一方を示す。例えば、物品10の熱処理された部分のUVカットオフは、約320nmから約420nmの第2の波長にあるであろう。このように、第2のUVカットオフ波長は、第1のUVカットオフ波長よりも長いことがある。そのガラスセラミック構造は、約400nmから約1550nmの波長に亘り約1.496から約1.543の第1の屈折率を有することがあり、589nmの参照波長では、約1.52の屈折率である。この参照波長での第2の屈折率は、参照波長での第1の屈折率より大きいことがある。例えば、第1と第2の屈折率の間の屈折率差分は、約1.5×10-3以上または1.5×10-2以上であることがある。さらに、第1と第2の屈折率の間の屈折率差分は、約400nmから約800nmに及ぶ波長では約1×10-2以上、または約415nmから約680nmに及ぶ波長では約1.2×10-2以上であることがある。
【0077】
本開示の使用は、様々な利点を提示するであろう。第一に、析出物は比較的小さいサイズを有するので、析出物は、光を散乱させないことがある、または光をわずかしか散乱させないことがある、または光をわずかな量しか散乱させないことがある。そのような特徴は、基板14を通る光の様々な波長の明確な透過を可能にする上で都合よいであろう。
【0078】
第二に、析出物は注型後の熱処理過程で形成されるので、屈折率およびUVカットオフは、局所的に変えられるであろう。この調節可能性は、実質的に全ての公知のUV吸収ガラスおよびガラスセラミックに対して独特である。これらの公知のガラスおよびガラスセラミックでは、光学的吸収を変えるために、組成または溶融条件の変更が必要である。例えば、1.5×10-2以上の屈折率差分が達成されるであろうから、析出物を含有する基板14の部分は、物品10および/または基板14がブラッグフィルタ、導波路、回折系技術(例えば、拡張現実)、およびその部材であるように、光を導くであろう。さらに、そのガラスセラミック組成物により、従来の導波路をなくすことでぎ、それにより、寸法安定性が大きくなるので、ガラスと高分子のCTE不一致(例えば、従来の高分子とガラスの解決策)により生じる収差がなくなるであろう。生じるであろう屈折率差分は、公知の無機光屈折方法よりも一桁大きいので、より効率的な導波路および光学部品が製造されるであろう。
【0079】
第三に、析出物のサイズと量は、注型後の熱処理により制御されるであろうから、単一の溶融ガラスが様々なガラスセラミック構造において注型されるであろう。それらの構造の各々は、異なる光学プロファイル(例えば、異なる屈折率、UVカットオフ、近赤外線透過および/またはそのパターン)を生じるために異なって熱処理されることがある。そのような特徴は、ガラスセラミックの単一組成物から注型されるべき、各々が異なる光学的プロファイルを有する、様々な部品を可能にする上で都合よいであろう。
【0080】
第四に、ガラスセラミック組成物は比較的低い熱膨張係数を有するであろうから、そのガラスセラミック材料から形成されたガラスセラミック物品10および基板14は、様々な温度感受性用途に使用することができる。さらに、そのガラスセラミック組成物から形成された物品10は、温度の大きく急な変動に耐えることができ、それらが苛酷な環境における作動に適したものとなる。
【0081】
第五に、析出物を生じるために使用される熱処理温度はガラスセラミックの軟化点より低いので、そのガラスセラミックから製造された物品10は、物品10を成形するための他の製造過程の前または後に、析出物を形成するために熱処理されることがある。さらに、析出物を生成しつつ、従来の熱処理および徐冷工程中にガラスセラミック材料の軟化に関連する欠陥が避けられるであろう。
【実施例】
【0082】
以下の実施例は、その製造方法を含む、本開示のガラスセラミック材料および物品の特定の非限定例を表す。
【0083】
ここで
図3Aおよび3Bを参照すると、異なる注型後手順(例えば、熱処理工程62)を経たタングステン含有ガラスセラミック組成物(例えば、前記ガラスセラミック組成物)を用いたガラスセラミック構造(例えば、物品10および/または基板14)の6つの実施例(「実施例1~6」)の透過率スペクトルが示されている。試料は、表4により与えられた組成(例えば、表2.1の試料15)を有する1mm厚の研磨平板であった。
【0084】
【0085】
試料は、バッチ成分を秤量し、15~60分に亘りシェーカー・ミキサーまたはボールミルでそれらを混合し、Pt坩堝内において約1550℃から約1650℃の温度で6~12時間に亘り溶融することによって、調製した。実施例1~6は、約520℃から約570℃の温度で徐冷した。2枚の鋼板の間でガラスセラミックの約100gの試料を約10mmの厚さにプレスすることによって、急冷試験片を製造した。独特の光減衰(例えば、UVカットオフ)を発生させるために、試料を様々な温度で様々な時間に亘り熱処理した。実施例1は、注型したままのタングステン含有ガラスセラミックの試料である。実施例2は、注型され、次に徐冷されたタングステン含有ガラスセラミックの試料である。実施例3は、徐冷され、次に、約136分に亘り約550℃で熱処理されたタングステン含有ガラスセラミックの試料である。実施例4は、徐冷され、次に、約98分に亘り約600℃で熱処理されたタングステン含有ガラスセラミックの試料である。実施例5は、徐冷され、次に、約130分に亘り約650℃で熱処理されたタングステン含有ガラスセラミックの試料である。実施例6は、徐冷され、次に、約30分に亘り約700℃で熱処理されたタングステン含有ガラスセラミックの試料である。表5は、351nm、374nm、および1053nmでの、0.9mm、0.8mm、および0.7mmの厚さでの、実施例4の研磨平板に関する透過率パーセントのデータを与えている。表5に報告された透過率値は、全透過率(すなわち、反射率は除かれていない)として報告されていることに留意のこと。転じて、反射率を考慮し、反射防止コーティングを加えると、タングステン含有ガラスセラミックは、1053nmで99%超の透過率を達成できると考えられる。
【0086】
【0087】
図3Aおよび3Bに与えられた透過率スペクトルから分かるように、異なる熱処理により、異なる可視領域透過率、並びに異なる光減衰の両方がもたらされる。熱処理が行われる長さおよび/または温度を変えることによって、実施例3と5の間に入る透過率スペクトルを有するガラスセラミックが製造され、それによって約360nmから約380nmに及ぶUVカットオフ波長を有する材料が製造されるであろうと考えられる。検出器のアーチファクトにおける約800nmでの急騰または「スパイク」吸光度は、変化し、吸光度の変化を実際には表さないことが理解されよう。
【0088】
ここで
図4A~4Cを参照すると、様々な後処理技術後のタングステン含有ガラスセラミックにより得られた光学的透明度および最小色を示す、製造されたままの実施例1(
図4A)、実施例2(
図4B)および実施例4(
図4C)の画像が示されている。
【0089】
ここで
図5を参照すると、実施例1(例えば、注型されたままのタングステン含有ガラスセラミック)と実施例5(例えば、徐冷され、次に、約130分に亘り約650℃で熱処理されたタングステン含有ガラスセラミック)の間の、屈折率対波長のプロットが示されている。図から分かるように、熱処理過程で生じた結晶性酸化タングステンおよび/またはタングステン含有析出物は、示された全ての波長について、実施例1に対して実施例5の屈折率を増加させ、タングステン含有析出物の存在が、タングステン含有ガラスセラミックの屈折率を、表3に与えられたようなWO
3の屈折率に近づけることを示す。
【0090】
ここで
図6を参照すると、実施例1と実施例5の間の屈折率の差、または変化のプロットが示されている。このプロットから分かるように、屈折率の差は、全ての波長について、約1.5×10
-3より大きく、475nm辺りで約1.5×10
-2のピークとなる。先に説明したように、異なる熱処理により得られるであろう屈折率の大きい差により、より効率の高い導波路、ホログラフィック光学素子、体積回折、および/または屈折率の周期的変調に依存する他のタイプの受動的光学装置が可能になるであろう。
【0091】
ここで
図7A~7Cを参照すると、先に与えられた異なる実施例に関する、粉末X線回折(XRD)プロットが示されている。
図7Aは、熱処理前の「未処理の」X線非晶質状態にある実施例1の粉末XRDを示す。そのプロットから分かるように、実施例1では、XRDが検出できる結晶相がそのタングステン含有ガラスセラミック内に存在しない。これは、注型されたままのタングステン含有ガラスセラミックは、熱処理が行われるまで、析出物を生じないことを示す。
図7Bは、実施例2の粉末XRDを示す。そのプロットから分かるように、タングステン含有ガラスセラミックを徐冷すると、結晶性析出物を形成し始める。
図7Cは、実施例6の粉末XRDを示す。そのプロットから分かるように、熱処理は、ガラスセラミック内に結晶性酸化タングステン析出物を生成し、それによって、ガラスセラミックの構造が確認される。
図7A~7Cのプロットは、ガラスセラミックの光学的性質を変える種であるタングステン含有結晶性析出物を生じるのは、ガラスセラミックの熱処理であることを示す。
【0092】
チタンを含む実施例
ここで
図6Aおよび6Bを参照すると、チタンを含む物品の例示のガラスセラミック組成物のリストが与えられている。
【0093】
【0094】
【0095】
ここで表6Cおよび
図8A~13Bを参照すると、表6Aおよび6Bからの組成物の試料に関する光学データが与えられている。
【0096】
【0097】
表6Cおよび
図8A~13Bの様々な組成物は、バッチ成分を秤量し、そのバッチ成分を、シェーカー・ミキサーまたはボールミルで混合し、溶融シリカ製坩堝内において1300℃~1650℃の温度で4~32時間に亘り溶融することによって、調製した。ガラスを金属テーブル上に注いで、0.5mm厚のガラスパテを製造した。いくらかの溶融物は、スチールテーブル上に注ぎ、次いで、スチールローラを使用して、シートに圧延した。光の透過と吸収を生じさせ、制御するために、周囲空気の電気オーブン内において425~850℃に及ぶ温度で5~500分に及ぶ時間に亘り、試料を熱処理した。次いで、試料のパテを、0.5mmの厚さに研磨し、試験した。
【0098】
表6Cおよび
図8A~13Bのデータから明らかなように、チタン含有ガラスの製造されたままの状態は、NIR領域において高度に透明であり、可視波長でおおむね透明である。約500℃から約700℃に及ぶ温度での熱処理の際に、結晶相(すなわち、亜酸化チタン)が析出し、これらの試料の光透過率が低下し、いくつかは、NIRにおいて強力に吸収性になる。
【0099】
粉末X線回折が、表6Cの組成物の各々に行われ、全ての組成物が、製造されたままと徐冷されていない状態において、X線非晶質であった。熱処理された試料は、アナターゼ(889FLY)およびルチル(889FMCおよび889FMD)を含む、いくつかのチタン担持結晶相の証拠を示した。その試料は、低いヘイズ(すなわち、約10%以下、または約5%以下、または約1%以下、または約0.1%以下)を示した。理論で束縛されるものではないが、製造されたままの状態と熱処理後の状態でこれらの組成物が示した低いヘイズは、晶子が極めて小さく(すなわち、約100nm以下)、少量(すなわち、TiO2が約2モル%しか導入されていないという事実のために)であるという事実のためである。したがって、これらの材料中に形成する種は、従来の粉末XRDの検出限界(サイズと存在度)未満であると考えられる。この仮説は、TEM顕微鏡法で確認された。
【0100】
ここで
図14A~Dを参照すると、1時間に亘り700℃で熱処理されたガラスコード889FMCの試料内のチタニア含有結晶の4つの異なる倍率のTEM顕微鏡写真が与えられている。これらの結晶は、外観が棒状であり、約5nmの平均幅および約25nmの平均長さを有する。
【0101】
ここで
図15Aおよび15Bを参照すると、ガラスコード889FMCの熱処理された試料のTEM顕微鏡写真(
図15A)および対応するEDS元素マップ(
図15B)が与えられている。
図15Aから分かるように、試料は複数の晶子を含む。EDSマップは、チタンを検出するように設定された。チタンのEDSマッピングの結果は、晶子と密接に一致し、晶子にチタンが豊富なことを示すのが分かる。このマップにおいて、明るいまたは「白い」領域は、Tiの存在を示す。
【0102】
ここで表7Aを参照すると、チタンを含まない例示のガラス組成物が与えられている。
【0103】
【0104】
表7Bは、様々なガラスの太陽光性能評価指標を与えている。表7Bにおいて、組成物196KGAは、二重融合積層体のクラッド層として組み込まれており(すなわち、クラッドとガラスセラミックの全厚=0.2mm)、その積層体のコア組成物は、Corning Incorported(登録商標)からの化学強化されたGorilla(登録商標)ガラスであった。組成物196KGAは、1mm厚であり、30分に亘り550℃で熱処理され、毎分1℃で475℃に冷却された。889FMD試料は、5mm厚であり、1時間に亘り600℃で熱加工された。889FMG試料は、0.5mm厚であり、2時間に亘り700℃で熱加工された。VG10試料は、Saint-Gobain(登録商標)により商標名SGG VENUS(VG10)で販売されているガラスを称し、厚さが互いに異なる。
【0105】
【0106】
表7Bにおいて、T_Lは、全可視光透過率(380nmから780nmの波長範囲で板ガラスを通る光の加重平均透過率であり、ISO9050 Section3.3にしたがい試験される)である。T_TSは全透過太陽光(太陽因子(「SF」)または全太陽熱透過(「TSHT」)とも称され、これは、ISO13837-2008 Annex BおよびISO9050-2003 section3.5により測定される、板ガラスにより吸収され、次いで、車室に再放射される太陽エネルギーの分率に加えた、T_DS(全直接太陽光)の合計である)。この場合、T_TSは、4m/s(14km/hr)%の風速での停車中の車の条件で計算され、T_TSは、(%T_DS)+0.276*(%太陽吸収)と等しい。T_DSは全直接太陽光透過率(「太陽光透過率」(「Ts」)または「エネルギー移動」とも称され、ISO13837 section6.3.2により測定される、300nmから2500nmの波長範囲で板ガラスを通る光の加重平均透過率である)である。R_DSは反射太陽光成分(すなわち、公称4%のフレネル反射を含む)である。T_Eは太陽光直接透過率である。T_UVは、ISO9050およびISO13837Aで測定される、UV透過率である。T_IRは、Volkswagen基準TL957で測定される赤外線透過率である。
【0107】
表7Bのデータから自明であるように、ガラスコード196KGAは、最良の光学性能を有し、非常に短い経路長(0.2mm)で最低のUV、VIS、およびNIR透過率を生じることができる。0.5mmの厚さでのチタン含有組成物889FMDおよび889FMGは、3.85mmまたはそれより短い経路長でVG10ガラスより優れた光学性能を生じる。言い換えると、チタン含有組成物889FMDおよび889FMGは、より短い経路長を有するにもかかわらず、VG10より優れた性能を有した。
【0108】
例示の実施の形態および実施例を説明目的のために述べてきたが、先の記載は、本開示の範囲および付随の特許請求の範囲を限定するようには、決して意図されていない。したがって、本開示の精神および様々な原理から実質的に逸脱せずに、上述した実施の形態および実施例に変更および改変を行ってもよい。そのような改変および変更の全ては、本開示の範囲内に含まれ、以下の特許請求の範囲により保護されることが意図されている。
【0109】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0110】
実施形態1
ガラスセラミックであって、
約50モル%から約80モル%のSiO2、
約0.3モル%から約15モル%のAl2O3、
約5モル%から約40モル%のB2O3、
約2モル%から約15モル%のWO3、および
約0モル%から約15モル%のR2O、
を含み、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、およびCs2Oの1つ以上であり、
R2OとAl2O3の量の差は、約-12モル%から約2.5モル%に及ぶ、ガラスセラミック。
【0111】
実施形態2
ガラスセラミックであって、
約55モル%から約75モル%のSiO2、
約5モル%から約12モル%のAl2O3、
約10モル%から約25モル%のB2O3、
約4モル%から約10モル%のWO3、および
約3モル%から約12モル%のR2O、
を含み、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、およびCs2Oの1つ以上であり、
約700nmから約2700mmでの少なくとも60%の光透過率、および約320nmから約420nmの急なカットオフ波長を有するガラスセラミック。
【0112】
実施形態3
ガラスセラミックであって、
約50モル%から約80モル%のSiO2、
約1モル%から約15モル%のAl2O3、
約5モル%から約40モル%のB2O3、および
約2モル%から約15モル%のWO3、
を含み、
第1のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第1の屈折率を有する第1の部分、および
タングステンを含む複数の結晶性析出物を含む熱処理された部分であって、第2のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび前記参照波長での第2の屈折率の少なくとも一方を示す熱処理された部分、
を含むガラスセラミック。
【0113】
実施形態4
前記第1と第2の屈折率の間の屈折率差分が、約400nmから約800nmに及ぶ波長で約1×10-2以上である、実施形態3に記載のガラスセラミック。
【0114】
実施形態5
前記ガラスセラミックの結晶相に、+6未満の酸化状態を有するタングステンが含まれない、実施形態1から4のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0115】
実施形態6
前記ガラスセラミックが、WO3およびタングステン含有相を含む群から選択される複数の結晶性タングステン析出物を含む、実施形態1から5のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0116】
実施形態7
前記ガラスセラミックが、約10×10-7/℃から約60×10-7/℃の熱膨張係数を有する、実施形態1から6のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0117】
実施形態8
前記ガラスセラミックが、約1mmから約3mmの厚さで約500nmから約2700nmの波長域に亘り約90%以上の光透過率を示す、実施形態1から7のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0118】
実施形態9
Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Pb、Pd、Au、Cd、Se、Ta、Bi、Ag、Ce、Pr、Nd、およびErからなる群より選択される少なくとも1種類のドーパントをさらに含む、実施形態1から8のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0119】
実施形態10
ガラスセラミック物品を形成する方法であって、
約50モル%から約80モル%のSiO2、約1モル%から約15モル%のAl2O3、約5モル%から約40モル%のB2O3、および約2モル%から約15モル%のWO3を含む溶融ガラスを形成する工程、
前記溶融ガラスを冷却して、第1のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび参照波長での第1の屈折率を有するガラスセラミック物品を形成する工程、および
所定の時間に亘り所定の温度で前記ガラスセラミック物品の一部分を熱処理して、該ガラスセラミック物品の熱処理された部分内にタングステンを含む複数の結晶性析出物を形成する工程であって、該ガラスセラミック物品の熱処理された部分は、第2のカットオフ波長での紫外線カットオフおよび前記参照波長での第2の屈折率の少なくとも一方を示す工程、
を有してなる方法。
【0120】
実施形態11
前記第1と第2の屈折率の間の屈折率差分が、約400nmから約800nmに及ぶ波長で約1×10-2以上である、実施形態10に記載の方法。
【0121】
実施形態12
前記第2のカットオフ波長が前記第1のカットオフ波長より長い、実施形態10または11に記載の方法。
【0122】
実施形態13
前記参照波長での前記第2の屈折率が、該参照波長での前記第1の屈折率より大きい、実施形態12に記載の方法。
【0123】
実施形態14
前記所定の時間が、約0.5時間から約2.0時間である、実施形態10から13のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
実施形態15
前記所定の温度が約550℃から約700℃である、実施形態10から14のいずれか1つに記載の方法。
【符号の説明】
【0125】
10 物品
14 基板
14A 第1の部分
14B 第2の部分
18、22 主面
26 圧縮応力領域
30 第1の選択深さ