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特許7449874低減された青色光透過率を示す、カラーバランスが調節されたレンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】低減された青色光透過率を示す、カラーバランスが調節されたレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20240307BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20240307BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20240307BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20240307BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240307BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
G02C7/10
G02C7/00
G02C7/02
G02B1/00
G02B1/04
C08L101/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020567846
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 EP2019065159
(87)【国際公開番号】W WO2019238648
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】18305722.3
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518182542
【氏名又は名称】エシロール アテルナジオナール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】マーク, クリステル
(72)【発明者】
【氏名】フレンチ, エリオット
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-531058(JP,A)
【文献】特開2013-238634(JP,A)
【文献】特開2008-134618(JP,A)
【文献】国際公開第2018/045040(WO,A1)
【文献】米国特許第05646781(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学物品であって、
少なくとも1つのポリマーを含む重合レンズと、
複数の波長領域にわたる低減された光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントであって、
60ナノメートル~510ナノメートルに配置された低減された光透過率の第1の領域を付与するように構成された第1の光透過率低減色素、
70ナノメートル~600ナノメートルに配置された低減された光透過率の第2の領域を付与するように構成された第2の光透過率低減色素、及び
70ナノメートル~715ナノメートルに配置された低減された光透過率の第3の領域を付与するように構成された第3の光透過率低減色素
を含むレンズコンポーネントと
を含み、
460ナノメートル~510ナノメートルの結果的な平均透過率は、60%未満であり、
570ナノメートル~600ナノメートルの結果的な平均透過率は、75%未満であり、及び
670ナノメートル~715ナノメートルの結果的な平均透過率は、80%未満である、光学物品において、結果的な全透過率TvD65は、68%超であることを特徴とする光学物品。
【請求項2】
前記レンズコンポーネントは、低減された光透過率を前記重合レンズに付与するように構成され、前記重合レンズは、前記少なくとも1つのポリマーと前記光透過率低減色素とのブレンドを含む、請求項1に記載の光学物品。
【請求項3】
請求項2に記載の光学物品を製造する方法であって、前記光透過率低減色素とポリマーペレットの第1の組とをブレンドするステップを含む、マスターバッチ濃縮物を製造するステップを含む方法。
【請求項4】
低減された光透過率を付与するように構成された前記レンズコンポーネントは、着色されたウエハである、請求項1に記載の光学物品。
【請求項5】
請求項4に記載の着色されたウエハを製造する方法であって、前記光透過率低減色素とポリマーペレットの第1の組とをブレンドするステップを含む、マスターバッチ濃縮物を製造するステップを含む方法。
【請求項6】
前記着色されたウエハは、押し出され且つ熱成形された薄膜である、請求項4に記載の光学物品。
【請求項7】
前記着色されたウエハは、射出成形された薄膜である、請求項4に記載の光学物品。
【請求項8】
前記レンズは、少なくとも1つの追加的な光透過率低減コンポーネントを含む、請求項1に記載の光学物品。
【請求項9】
光透過率を低減する前記少なくとも1つの追加的な光透過率低減コンポーネントは、干渉フィルタである、請求項8に記載の光学物品。
【請求項10】
低減された光透過率を付与するように構成された前記レンズコンポーネントは、被覆マトリックスである、請求項1に記載の光学物品。
【請求項11】
前記被覆マトリックスは、ポリウレタン被覆マトリックス層を含む、請求項10に記載の光学物品。
【請求項12】
前記少なくとも1つの追加的な光透過率低減コンポーネントは、着色された薄膜である、請求項8に記載の光学物品。
【請求項13】
前記光透過率低減色素のターゲット濃度を有するポリマーペレットのクオリファイアバッチブレンドを製造するステップを含み、前記ポリマーペレットの第2の組内において前記光透過率低減色素の前記ターゲット濃度を達成するために、前記ポリマーペレットの第2の組に前記マスターバッチ濃縮物を追加するステップを含む、請求項3又は5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科レンズの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
メラトニンは、睡眠調節及び覚醒において役割を果たすホルモンである。このホルモンは、身体が良好な睡眠の仕組みを維持することを支援し、この仕組みは、迅速に眠りに落ち、深く且つ元気を回復させるように7~8時間にわたって眠り且つ頻繁に目覚めることなく夜の全体を通して眠る能力を含む。メラトニンは、いくつかの網膜細胞で発現される感光色素であるメラノプシンによって生成される。メラノプシン細胞が光を検出した際、より乏しいメラトニンが生成され、人は、より目を覚ます感覚になる。周囲が暗く、且つメラノプシン細胞が光を検出しない際により多くのメラトニンが生成され、人は、疲れを感じることになる。国際公開第2017/108,976号パンフレットは、メラノプシンの光吸収に関連する生理学的効果を刺激する光フィルタの効率を定量化する方法を開示しており、且つ参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0003】
可視範囲内の光のいくつかの波長は、人間に対して生理学的効果を有することが示されている。例えば、470~525nmの波長を有する青色光に対する曝露は、不眠をトリガすることが示されている。青色光は、他の光波長の2倍超だけメラトニン生成を抑圧し、且つ特に幼児では2倍の程度だけ概日リズムを変更する。身体の24時間の概日リズムの妨害は、健康に対する大きい影響を有し、心血管、新陳代謝及び免疫系に伴う問題を発生させ、気分を損じさせ、且つ認識機能を損なう可能性がある。また、研究者は、青色光が、体温が夜間に低下することを妨げることも見出しており、これも、睡眠に影響を及ぼし、且つ概日リズムを変更する可能性がある。
【0004】
日中の時間帯における青色光への曝露の増大は、昼間の眠気を低減し、反応時間を高速化し、敏捷性を向上させ、且つ注意持続時間を増強することが示されている。残念ながら、コンピュータ画面、タブレット、テレビ及び携帯電話から放出される光の大部分は、この波長範囲に含まれている。青色光への曝露を管理する対策を講じることにより、メラトニン分泌の回復及び睡眠の仕組みの改善を支援することができる。これを目的として、眼鏡装用者には、就寝時刻の近傍において、青色光透過率を減衰させる眼科レンズを装用することを推奨することが合理的であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
装用者の眼に到達する青色光の量を低減するようにレンズを適合させることができる。レンズを通して透過される特定の周波数範囲の光の量をチューニングするために色素がレンズに内蔵され得る。青色光透過率を低減するように設計されたレンズのカラーバランスの調節を支援するために色素の組み合わせが使用され得る。また、このようなレンズは、コントラスト感度の増大に起因して視覚性能の向上を提供することもできる。上述の内容に鑑み、青色光及び青色スペクトルの外の光の他の周波数を少なくとも部分的に阻止する能力を有する光学物品に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
それぞれ可視スペクトルの異なる領域内の透過率を低減する複数の色素の内蔵により、青色光の透過率を低減し、且つメラトニン分泌を実現する光学物品が提供される。青色光透過率を低減し、且つニュートラルな着色レンズを提供するために色素の組み合わせが使用され得る。色素は、様々な製造方法を利用して異なるレンズコンポーネントに内蔵され得る。様々な波長において透過率をチューニングするために、且つ望ましい程度のカラーバランスを提供するために色素の相対的な量が調節され得る。いくつかの態様では、望ましい程度のカラーバランスは、12未満のaと4未満のb値とを有する透過光に対応し、b値は、好ましくは、1未満である。
【0007】
本開示のいくつかの態様は、少なくとも1つのポリマーを含む重合レンズを含む光学物品を対象とする。光学物品は、複数の波長範囲にわたる低減された光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントであって、約460ナノメートル~510ナノメートルに配置された低減された光透過率の第1の領域を付与するように構成された第1の光透過率低減色素、約570ナノメートル~600ナノメートルに配置された低減された光透過率の第2の領域を付与するように構成された第2の光透過率低減色素及び約670ナノメートル~715ナノメートルに配置された低減された光透過率の第3の領域を付与するように構成された第3の光透過率低減色素を有するレンズコンポーネントを含む。いくつかの実施形態では、カラーバランスが調節された光学物品を提供するように第1の2つの色素のそれぞれの特性及び濃度を選択することができる。いくつかの態様では、カラーバランスが調節された光学物品は、透過光が12未満のaと4未満のb値とを有し、好ましくはb値が1未満である光学物品に対応する。いくつかの態様では、第1の2つの色素のカラーバランスを調節するために第3の色素の特性及び濃度を使用することができる。いくつかの態様では、透過率低減色素は、60%未満の、460ナノメートル~510ナノメートルの結果的な平均透過率、75%未満の、570ナノメートル~600ナノメートルの結果的な平均透過率、80%未満の、670ナノメートル~715ナノメートルの結果的な平均透過率を提供する。いくつかの態様では、3つの光透過率低減色素を有する光学物品は、8%超、好ましくは68%超の結果的な全透過率TvD65を有する。全発光透過率TvD65は、CIE D65光源を使用することにより、380nm~780nmの範囲で定義される。これは、700nm~780nmの範囲における光源D65の外挿値を使用することによって算出されるべきである。透過率低減色素は、12未満のa(10°におけるCIED65)と、4未満のb(10°におけるCIED65)とを有する眼科レンズを提供し、好ましくは、b値は、1未満である。
【0008】
低減された光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントは、最終的な眼科物品の製品の任意のコンポーネントであり得る。いくつかの実施形態では、低減された光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントは、ベースレンズとも呼称される重合レンズである。この実施形態では、重合レンズは、少なくとも1つのポリマーと光透過率低減色素とのブレンドを含む。少なくとも1つのポリマーは、ポリカーボネート、ポリウレタン又はトライベックス(Trivex)であり得る。いくつかの態様では、ターゲット色素濃度を有するポリマーペレットクオリファイアバッチを提供するためにポリマーペレットが光透過率低減色素とブレンドされる。色素包含クオリファイアバッチペレットブレンドは、光透過率低減色素を含む重合レンズ、即ちベースレンズを製造するために使用され得る。
【0009】
いくつかの態様では、低減された光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントは、着色されたウエハである。着色されたウエハは、色素包含クオリファイアバッチペレットブレンドから製造され得る。いくつかの実施形態では、着色されたウエハは、押し出され且つ熱成形された薄膜である。いくつかの実施形態では、着色されたウエハは、射出成形された薄膜である。
【0010】
いくつかの実施形態では、低減された光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントは、被覆マトリックスである。被覆マトリックスは、ポリウレタン被覆、エポキシ、アクリル、ゾル-ゲル又はこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0011】
光透過率低減色素を有する光学物品は、少なくとも1つの追加的な光透過率低減コンポーネントを含むことができる。いくつかの実施形態では、光透過率を低減する少なくとも1つの追加的な光透過率低減コンポーネントは、干渉フィルタである。干渉フィルタは、少なくとも2つからなる光フィルタであり、このそれぞれは、それぞれの材料の境界から反射された光が望ましい波長において協働して、改善された状態となるように設計された特定の屈折率及び形状を有する。このような1つの例は、それぞれ他の波長を反射しつつ、光の特定の波長を選択的に通過させるように設計された特定の屈折率及び厚さを有する層の複数の積層体からなる多層光学薄膜である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加的な光透過率低減コンポーネントは、第1、第2及び第3の光の低減された光透過率領域の少なくとも1つと重なる領域内の光透過率を低減する。少なくとも1つの追加的な光透過率低減コンポーネントは、いくつかの実施形態では、着色された薄膜である。
【0012】
本開示のいくつかの態様は、複数の波長領域にわたる低減された光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントであって、約460ナノメートル~510ナノメートルに配置された低減された光透過率の第1の領域を付与するように構成された第1の光透過率低減色素、約570ナノメートル~600ナノメートルに配置された低減された光透過率の第2の領域を付与するように構成された第2の光透過率低減色素及び約670ナノメートル~715ナノメートルに配置された低減された光透過率の第3の領域を付与するように構成された第3の光透過率低減色素を有するレンズコンポーネントを有する光学物品を製造する方法を対象とする。複数の波長領域にわたる低減された光透過率を示す眼科レンズを製造する方法は、マスターバッチ濃縮物を生成するために光透過率低減色素とポリマーペレットの第1の組とをブレンドするステップを含む。次いで、マスターバッチ濃縮物は、本明細書でクオリファイアバッチブレンドと呼称される、ポリマーペレットの第2の組内における光透過率低減色素のターゲット濃度を達成するためにポリマーペレットの第2の組に追加される。いくつかの実施形態では、色素含有クオリファイアバッチペレットブレンドは、光透過率低減色素を含む重合レンズ、即ちベースレンズを製造するために使用される。いくつかの実施形態では、色素包含クオリファイアバッチペレットブレンドは、着色されたウエハを製造するために使用される。
【0013】
本開示による「眼科レンズ」は、その機能が眼を保護し、且つ/又は視力を矯正することである、適合された、即ち眼鏡内における取付のためのレンズとして定義される。このレンズは、無限焦点、単焦点、二焦点、三焦点又は累進レンズであり得る。眼科レンズは、矯正用又は非矯正用であり得る。眼科レンズが取り付けられることになる眼鏡は、1つが右眼用であり、1つが左眼用である、2つの別個の眼科レンズを含む従来のフレームであり得るか、又は類似したマスク、バイザ、ヘルメットサイト若しくはゴーグルであり得、この場合、1つの眼科レンズが右及び左眼に同時に対向する。眼科レンズは、円としての従来の形状を有するように製造され得るか、又は意図されたフレームにフィットするように製造され得る。
【0014】
「重合レンズ」は、熱重合可能な組成、光重合可能な組成又はこれらの混合物から導出された少なくとも1つのポリマーから製造することができる。好適な重合可能な組成は、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルフォン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネートのコポリマー、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)のポリマー及びコポリマーなどのアルキレングリコールビスアリルカーボネートの重合又は(共)重合から結果的に得られる樹脂(例えば、PPG Industries社により、CR-39(登録商標)という商標名の下で販売されており、対応する市販のレンズは、ESSILORからのORMA(登録商標)レンズと呼称される)、ビスフェノールAから誘導されたものなどのポリカーボネート、(メト)アクリル又はチオ(メト)アクリルポリマー及びポリメチルメタクリレート(PMMA)などのコポリマー、ウレタン及びチオウレタンポリマー及びコポリマー、エポキシポリマー及びコポリマー、エピスルフィドポリマー及びコポリマーを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのポリマーは、CR-39とも呼称されるポリジエチレングリコールビスアリルカーボネートというポリマーである。熱重合可能な組成は、重合が、上昇した温度に対する曝露時に発生する組成である。光重合可能な組成は、重合が、限定なしに、UV、可視、IR、マイクロ波などを含む、化学作用を有する放射に対する曝露時に発生する組成である。本明細書で使用される「重合された」は、1つ又は複数のモノマー又はオリゴマーが、互いに接合する化学反応によって生成されたポリマーを含む組成を指す。
【0016】
本明細書で使用される、基材/被覆「上」に位置するか又は基材/被覆「上に」堆積されたウエハ又は被覆マトリックスは、(i)基材/被覆の上方に位置決めされ、(ii)必ずしも基材/被覆との接触状態になく、即ち1つ又は複数の中間被覆が、基材/被覆と関連するウエハ又は被覆マトリックス間に介在し得(但し、好ましくは前記基材/被覆と接触する)、且つ(iii)必ずしも基材/被覆を完全にカバーしていないものとして定義される。
【0017】
「眼科レンズ」という用語は、眼を保護するために且つ/又は視力を矯正するために眼鏡フレームに適合されたレンズを意味するように使用される。前記レンズは、無限焦点、単焦点、二焦点、三焦点、累進レンズ及びフレスネルレンズから選択することができる。眼科オプティクスは、本発明の好ましい分野であるが、本発明は、青色波長のフィルタリングが有益であり得る他のタイプの光学要素にも適用され得ることを理解されたい。いくつかの態様では、青色光は、両端を含む400~460nmの波長を有する光として定義される。
【0018】
ベースレンズは、本発明の意味では、被覆されていない基材を意味すると理解されたく、且つ一般に2つの主面を有する。ベースレンズは、具体的には、例えば眼鏡内に取り付けられるように意図された眼科レンズなど、光学物品の形状を有する光学的に透明な材料であり得る。これに関連して、「ベースレンズ」という用語は、光学レンズ及び更に具体的には眼科レンズのベース構成材料を意味すると理解されたい。この材料は、1つ又は複数の被覆マトリックス又は層の積層体のための支持部として機能する。
【0019】
開示される組成及び/又は方法の任意のものの任意の実施形態は、記述される要素、及び/又は特徴、及び/又はステップの任意のもの――を含む/包含する/収容する/有するのではなく――からなり得るか又は基本的になり得る。従って、請求項の任意のものにおいて、「からなる」又は「から基本的になる」という用語は、さもなければオープンエンド型の連結動詞を使用することになるものから所与の請求項の範囲を変更するために、以上で記述されたオープンエンド型の連結動詞の任意のものを置換することができる。
【0020】
「実質的に」という用語及びその変形は、必ずしても全体的ではなく、概略的に当業者によって理解されるように規定されるものとして定義され、且つ非限定的な一実施形態では、実質的には、10%以内、5%以内、1%以内又は0.5%以内の範囲を指す。「約」、又は「ほぼ」、又は「実質的に不変である」という用語は、当業者によって理解されるものに近いものとして定義され、且つ非限定的な一実施形態において、これらの用語は、10%以内、好ましくは5%以内、更に好ましくは1%以内及び最も好ましくは0.5%以内であると定義される。
【0021】
請求項及び/又は本明細書における「含んでいる」という用語との関連において使用される際の「1つの(a)」又は「1つの(an)」という用語の使用は、「1つ」を意味し得るが、これは、「1つ又は複数」、「少なくとも1つ」及び「1つ又は2つ以上」の意味とも一貫性を有する。「減衰させる」という用語は、計測可能な要素、成分又は効果の振幅又は値を低減することとして定義される。更に、「透過率を減衰させる」は、物体を通して光の特定の周波数の透過率を低減することを指す。「百分率透過」とも呼称される「Tv%」は、レンズ又は光学物品上に入射する発光強度に対する、レンズ又は光学物品を通して透過された発光強度の比率である。本特許出願の全体を通して、色座標は、10°の標準的観察者及び15°の入射角度における光源D65のCIE L色空間系において定義される。CIE L色系及び本開示では、「a」及び「b」という用語は、+aが赤色方向であり、-aが緑色方向であり、+bが黄色方向であり、且つ-bが青色方向である色度座標である。a及びbがゼロである色度座標中心は、無色である。「D65」とも呼称される「CIE標準光源D65」は、平均日光を表すことが意図され、且つ約6500Kの補正された色温度を有する。光源D65は、最大で830nmの外挿を伴って330nm~700nmの波長範囲内で定義される。
【0022】
本明細書及び請求項で使用される「含んでいる」(並びに「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」などの含んでいるの任意の形態)、「有している」(並びに「有する(have)」及び「有する(has)」などの有しているの任意の形態)、「包含している」(並びに「包含する(includes)」及び「包含する(include)」などの包含しているの任意の形態)又は「収容している」(並びに「収容する(contains)」及び「収容する(contain)」などの収容しているの任意の形態)という用語は、包含的又はオープンエンド型であり、且つ記述されていない追加的な要素又は方法ステップを排除しない。
【0023】
その使用のための組成及び方法は、本明細書の全体を通して開示される構成要素又はステップの任意のものを「含む」か、それらから「基本的になる」か、又はそれらから「なる」ことが可能である。「基本的になる」という移行句との関係において、非限定的な一態様では、本明細書で開示される組成及び方法の基本的な且つ新規の特性は、改善された色コントラストを提供するための眼科レンズの能力を含む。
【0024】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。但し、詳細な説明及び例は、本発明の特定の実施形態を示し、例示を目的としてのみ付与されることを理解されたい。加えて、本発明の趣旨及び範囲内の変更形態及び変形形態もこの詳細な説明から当業者に明らかになると想定される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】1つ又は複数の透過率低減色素の既知の濃度を有するマスターPCペレットバッチを製造するプロセスを描く図である。
図1B】1つ又は複数の透過率低減色素のターゲット濃度を有するクオリファイアPCペレットバッチを製造するプロセスを描く図である。
図2】1つ又は複数の透過率低減色素を有する眼科レンズを製造する射出成形プロセスを描く図である。
図3】ポリカーボネートレンズ内における様々な色素のモル吸収率値(ε)対波長を描くグラフである。
図4A】1つ又は複数の透過率低減色素を有するウエハを製造する射出成形プロセスを描く図である。
図4B】1つ又は複数の透過率低減色素を有するウエハを製造するプロセスを描く図である。プロセスは、キャスト薄膜押出しステップ、薄膜裁断ステップ及びウエハ熱成形ステップを含む。
図4C】1つ又は複数の透過率低減色素を有するウエハに溶融接合されたレンズを製造する射出オーバーモールドプロセスを描く図である。
図5】その内部に内蔵された1つ又は複数の透過率低減色素を有するポリウレタン被覆マトリックスを描く図である。
図6】例2(ポリカーボートレンズ内に統合された色素)の概念A及びB並びに例5(ポリウレタン被覆マトリックス内の色素)の概念Eの透過率スペクトルを描くグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
添付図面に示され、且つ以下の説明で詳述される非限定的な実施形態を参照して、様々な特徴及び有利な詳細について更に十分に説明する。但し、詳細な説明及び具体的な例は、実施形態を示すが、限定ではなく、例示を目的としてのみ付与されることを理解されたい。本開示から、様々な置換形態、変更形態、追加形態及び/又は再構成が当業者に明らになるであろう。
【0027】
以下の説明では、開示される実施形態の十分な理解を提供するために多数の特定の詳細が提供される。但し、関連する当業者は、本発明が、特定の詳細の1つ若しくは複数を伴うことなく又は他の方法、コンポーネント、材料などを伴って実施され得ることを認識するであろう。他の例では、周知の構造、材料又は動作は、本発明の態様を曖昧にすることを回避するために詳細に図示又は記述されない。
【0028】
本開示では、そうではない旨が規定されない限り、透過率は、0.7~2mm、好ましくは0.8~1.5mmの範囲の厚さの眼科レンズの中心において、0°~15°の範囲、好ましくは0°の入射角度で計測される。本明細書で使用される透過光は、眼科レンズのフロント主面に到来し、且つレンズを通して通過した光を指す。a及びb値は、CIEによって定義されるように、光源D65を使用することにより評価することができる。
【0029】
可視スペクトル内において光を少なくとも部分的に抑制する手段として機能し得る透過率低減色素の化学的な特性は、390~700nmの範囲内で吸収ピーク、理想的には最大吸収ピークを有することを条件として特に限定されない。いくつかの態様において、透過率低減色素は、オーラミンO、クマリン343、クマリン314、ニトロベンゾキサジアゾール、ルシファーイエローCH、9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン、プロフラビン、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(4-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン、2-[4-(ジメチルアミノ)スチリル]-1-メチルピリジニウムヨウ化物、ルテイン及びゼアキサンチンからなる群からの1つ又は複数の色素を含む。実施形態では、透過率低減色素は、1つ若しくは複数のポルフィリン、ポルフィリン錯体、コリン、クロリン及びコルフィンを含むポルフィリンに関係する他のヘテロ環、これらの誘導体又はペリレン、クマリン、アクリジン、インドレニン(3H-インドールとしても知られる)及びインドール-2-イリデン族を含む。親化合物との関係における「誘導体」は、化学的に修飾された親化合物又はその類似のものを指し、この場合、少なくとも1つの置換基は、親化合物又はその類似のものにおける対応する置換基と異なる。1つのこのような非限定的な例は、共有結合的に修飾された親化合物である。
【0030】
ポルフィリンは、メチンブリッジを介してその炭素原子で相互接続された4つの修飾されたピロールサブユニットからなる周知の大環状化合物である。親ポルフィリンは、ポルフィンであり、且つ置換されたポルフィンは、ポルフィリンと呼称される。ポルフィリンは、錯体を形成(配位)するために金属を結合させるリガンドの共役酸である。特定のポルフィリン又はポルフィリン錯体若しくは誘導体は、いくつかの場合、例えば選択された波長の範囲内において20nmの帯域幅を有する選択型吸収フィルタを提供する。この選択性特性は、部分的に分子の対称性によって提供される。
【0031】
例えば、1つ又は複数のポルフィリン又はポルフィリン錯体若しくは誘導体は、クロロフィルa、クロロフィルb、5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリンナトリウム塩錯体、5,10,15,10-テトラキス(N-アルキル-4-ピリジル)ポルフィリン錯体、5,10,15,20-テトラキス(N-アルキル-3-ピリジル)ポルフィリン錯体及び5,10,15,20-テトラキス(N-アルキル-2-ピリジル)ポルフィリン錯体からなる群から選択され、この場合、アルキルは、好ましくは、1つの鎖当たり1つ~4つの炭素原子を含む線形又は分岐型のアルキル鎖である。例えば、アルキルは、メチル、エチル、ブチル又はプロピルからなる群から選択することができる。
【0032】
錯体は、通常、金属錯体であり、金属錯体は、Cr(III)、Ag(II)、In(III)、Mn(III)、Sn(IV)、Fe(III)、Co(II)、Mg(II)及びZn(II)からなる群から選択される。Cr(III)、Ag(II)、In(III)、Mn(III)、Sn(IV)、Fe(III)、Co(II)及びZn(II)は、鋭い吸収ピークを伴って、425nm~448nmの範囲内における水中吸収を示す。更に、これらが提供する錯体は、安定しており、且つ酸に敏感でない。Cr(III)、Ag(II)、In(III)、Sn(IV)、Fe(III)は、具体的には、眼科レンズなどの光学レンズにおいて有用な特性である、室温における蛍光を示さない。
【0033】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数のポルフィリン又はポルフィリン錯体若しくは誘導体は、マグネシウムメソ-テトラ(4-スルホナトフェニル)ポルフィンテトラナトリウム塩、マグネシウムオクタエチルポルフィリン、マグネシウムテトラメシチルポルフィリン、オクタエチルポルフィリン、テトラキス(2,6-ジクロロフェニル)ポルフィリン、テトラキス(o-アミノフェニル)ポルフィリン、テトラメシチルポルフィリン、テトラフェニルポルフィリン、亜鉛オクタエチルポルフィリン、亜鉛テトラメシチルポルフィリン、亜鉛テトラフェニルポルフィリン及びジプロトン化されたテトラフェニルポルフィリンからなる群から選択される。
【0034】
本開示の目的の1つは、色が、12未満のaと4未満、好ましくは1未満のbとを提供するためにチューニングされる、その内部に内蔵された2つ以上の透過率低減色素を有する眼科物品を提供することである。以下の例及び実験で記述されるように、色素は、ベースレンズ又は他のレンズコンポーネント内に内蔵されることが可能であり、且つその透過率低減能力を保持することができる。色素は、カラーバランスの調節のために、495nm(ピーク1)、585nm(ピーク2)及び700nm(ピーク3)の周りでセンタリングされた透過極小値を提供するように選択した。
【0035】
ポリカーボネート(PC)熱硬化性ポリマーは、以下の例で記述されるレンズ及びレンズウエハを製造するために使用されるが、異なる熱硬化性ポリマー又は熱硬化性ポリマーの組み合わせを使用することができる。以下で使用される「色素」という用語は、限定なしに、色素、ティント又は薄膜若しくはラミネート内への内蔵のために望ましい他の添加剤を含む任意の機能性添加剤を包含する。
【実施例
【0036】
例1:予めブレンドされたPC樹脂内への色素の内蔵
透過率低減色素は、その内部に内蔵された色素を有する、予めブレンドされたPC樹脂を提供するためにPC樹脂ペレットと組み合わされ得る。図1Aに描かれた実施形態に示されているように、PCペレット及び1つ又は複数の透過率低減色素は、例えば、タンブリング容器内で組み合わせることができると共に、色素包含PCマスターバッチ濃縮物を提供するためにタンブリングすることもできる。色素包含PC濃縮物中のそれぞれの色素の濃度(ppm)は、既知であり、且つこの色素包含PCマスターバッチ濃縮物は、ターゲット色素濃度を有するPC樹脂クオリファイアバッチブレンドを提供するために、色素を有さない(又は異なる色素を有する)PCペレットと組み合わせることができる(図1B)。次いで、PCターゲット濃度バッチは、色素包含レンズ又は色素包含ウエハの製造で使用することができる。
【0037】
例2:レンズとして成形された色素包含PCペレット
例1で製造された、ターゲット色素濃度を有するPCペレット、即ちクオリファイアバッチは、その内部に内蔵された透過率低減色素を有するレンズを製造するために使用することができる。図2に描かれているように、溶融した色素包含ポリカーボネート/色素ブレンドを、閉じた型の内部に注入することができる。冷却後に型が開放され、且つレンズが取り出される。レンズは、均一に内蔵された透過率低減色素を含む。
【0038】
図3のグラフは、ポリカーボネートレンズ内の様々な色素のモル吸収率値(ε)対波長を描いている。色素9は、ほとんど又はまったく吸収を示さず、且つ従ってPCレンズ製造プロセスとの適合性を有さない。色素1、6、8及び10は、改善された吸収スペクトルを示し、且つPCレンズ製造プロセスとの適合性を有する。
【0039】
【表1】
【0040】
例3:ウエハとして成形された色素包含PCペレット(後続のオーバーモールド及びラミネーション用)
例1で製造された、ターゲット色素濃度を有するPCペレットは、射出成形プロセスを通して薄いウエハを製造するために使用することができる。図4Aに描かれた実施形態を参照すると、溶融した色素含有ポリカーボネート/色素ブレンドを型の内部に注入する。冷却後に型が開放され、且つ薄いウエハが取り出される。薄いウエハは、均一に内蔵された透過率低減色素を含む。
【0041】
【表2】
【0042】
例4:薄膜としてキャスト押出しされた色素含有PCペレット(後続のオーバーモールド及びラミネーション用)
例1で製造された、ターゲット色素濃度を有するPCペレットは、キャスト押出しプロセスを通して薄いウエハを製造するために使用することができる。図4Bに描かれているように、色素包含ポリカーボネートブレンドが押出機に導入される。押出機ダイを離脱した際、出現した薄膜は、一連のロールにわたって平坦化及び/又は延伸される。色素内蔵薄膜の一部分は、裁断プレス上で例えば円形などの適切な形状に裁断される。次いで、円形薄膜は、1つ又は複数の追加的な薄膜と組み合わせることができると共に、薄いウエハとして熱成形することができる。
【0043】
例5:被覆マトリックス中における色素の統合
1つ又は複数の透過率減衰色素を被覆マトリックス内に内蔵することができる。いくつかの態様において、1つ又は複数の色素は、攪拌により全液体被覆内に混合され得るか、又は被覆のコンポーネントの1つ内に予め混合され得る。図5に描かれた被覆マトリックスは、その内部に内蔵された1つ又は複数の透過率減衰色素を有するポリウレタンマトリックスである。レンズ概念Eを、ポリウレタン被覆マトリックス内に統合された色素を使用してシミュレートした。レンズは、2のaと1のbとを有する。図6のグラフは、例2(ポリカーボネートレンズ内に統合された色素)の概念A及びB並びに例5(ポリウレタン被覆マトリックス内に統合された色素)の概念Eの透過率スペクトルを描いている。
【0044】
【表3】
【0045】
例6:色素及びマトリックスの適合性
以下の表は、異なるマトリックスとの色素の適合性を描いている。「C」は、色素とマトリックスとの間の適合性を示す。「X」は、色素とマトリックスとが適合していないことを示す。
【0046】
【表4】
【0047】
まとめると、本開示は、眼科物品内に1つ又は複数の透過率減衰色素を内蔵する様々な方法を提供する。異なる製造者からの異なる色素を組み合わせることが可能であり、且つ異なる波長において透過率を適合させるためにそれらの相対的な量を調節することができる。異なる波長における透過率を適合させることにより、レンズ製造者は、装用者によって知覚されるカラーバランスをカスタムチューニングすることができる。
【0048】
請求項は、ミーンズプラス又はステッププラスファンクション限定が、それぞれ「~の手段」又は「~のステップ」という句を使用して所与の請求項で明示的に記述されない限り、ミーンズプラス又はステッププラスファンクション限定を含むものとして解釈されてはならない。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6