(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】超音波診断装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2021005441
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-08-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 信彦
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0006266(US,A1)
【文献】特開平01-136641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環的に設定される複数の送受信条件に従って、送信信号の生成及び受信信号の処理を繰り返し行うことにより、フレーム列を生成する送受信部と、
前記フレーム列から合成フレーム列を生成する合成部であって、前記フレーム列におけるフレームセットごとに、当該フレームセットを構成する複数のフレームに基づいて合成フレームを生成する合成部と、
を含み、
前記複数の送受信条件には、近距離用の第1送受信条件及び遠距離用の第2送受信条件が含まれ、
前記第1送受信条件には、第1送信周波数、及び、第1送信焦点深さが含まれ、
前記第2送受信条件には、前記第1送信周波数よりも低い第2送信周波数、及び、前記第1送信焦点深さよりも深い第2送信焦点深さが含ま
れ、
前記合成部は、
前記フレームセットに基づいて、性質の異なる複数の中間フレームを生成する第1合成部と、
前記複数の中間フレームを合成することにより前記合成フレームを生成する第2合成部と、
を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
診断深さ範囲に基づいて前記第1送信焦点深さ及び前記第2送信焦点深さを設定する制御部を含む、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記第1送受信条件には、第1受信通過帯域が含まれ、
前記第2送受信条件には、前記第1受信通過帯域よりも狭い第2受信通過帯域が含まれる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記第1送受信条件には、第1ビーム偏向角度が含まれ、
前記第2送受信条件には、前記第1ビーム偏向角度とは異なる第2ビーム偏向角度が含まれる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1記載の超音波診断装置において、
主方向及び副方向に沿って並んだ複数の振動素子により構成された振動素子アレイを含み、
前記第1送受信条件には、前記副方向の開口サイズである第1開口サイズが含まれ、
前記第2送受信条件には、前記副方向の開口サイズであって前記第1開口サイズとは異なる第2開口サイズが含まれる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項
2記載の超音波診断装置において、
前記制御部は、前記診断深さ範囲に対して第1比率を乗じることにより前記第1送信焦点深さを定め、前記診断深さ範囲に対して第2比率を乗じることにより前記第2送信焦点深さを定める、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項
1記載の超音波診断装置において、
前記第1合成部は、前記複数の中間フレームとして、加算画像及びエッジ強調画像を生成し、
前記第2合成部は、前記加算画像及び前記エッジ強調画像を合成することにより前記合成フレームを生成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項
1記載の超音波診断装置において、
前記複数の中間フレームの少なくとも1つに基づいて評価値を演算する演算部と、
前記評価値に基づいて前記第1送信周波数及び前記第2送信周波数の組み合わせを変更する制御部と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
請求項8記載の超音波診断装置において、
前記複数の中間フレームには、加算画像及びエッジ強調画像が含まれ、
前記評価値は、前記加算画像と前記エッジ強調画像の間の差分に相当する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項10】
循環的に設定される複数の送受信条件に従って、送信信号の生成及び受信信号の処理を繰り返し行うことにより、フレーム列を生成する工程と、
前記フレーム列におけるフレームセットごとに、当該フレームセットに基づいて性質の異なる複数の中間フレームを生成する工程と、
前記フレームセットごとに、前記複数の中間フレームを合成することにより超音波画像形成用の合成フレームを生成する工程と、
前記複数の中間フレームの少なくとも1つに基づいて評価値を演算する工程と、
前記評価値に基づいて前記複数の送受信条件に含まれる複数の送信周波数の組み合わせを変更する工程と、
を含
み、
前記複数の送受信条件には、近距離用の第1送受信条件及び遠距離用の第2送受信条件が含まれる、ことを特徴とする超音波診断装置の制御方法。
【請求項11】
請求項10記載の制御方法において、
前記複数の中間フレームには、
加算フレーム及びエッジ強調フレームが含まれ、
前記評価値は、前記
加算フレームと前記エッジ強調フレームの差分に相当する、
ことを特徴とする超音波診断装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置及びその制御方法に関し、特に、超音波画像の品質を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、生体(被検体)内へ超音波を送信し、生体内からの超音波を受信することにより得られた受信信号に基づいて超音波画像を生成する医療用装置である。具体的には、超音波ビームを繰り返し電子走査することにより、時系列順で並ぶ複数の受信フレーム(複数の受信フレームデータ)からなる受信フレーム列が生成される。受信フレーム列に基づいて、時系列順で並ぶ複数の表示フレーム(複数の表示フレームデータ)からなる表示フレーム列が生成される。表示フレーム列が動画像として表示される。
【0003】
超音波画像の画質を高めるための技術として、受信フレーム列中のフレームセットごとに、合成フレームを生成する技術が知られている。具体的には、フレームセットに基づいて複数の中間フレームが生成され、それらを合成することにより合成フレームが生成される。中間フレームを生成する方法として、加算法、エッジ抽出法、等が知られている。
【0004】
加算法は、フレームセットを構成する複数のフレームを加算することにより加算フレームを生成するものである。エッジ抽出法は、フレームセットを構成する複数のフレームに基づいてエッジ成分が抽出、強調されたエッジ強調フレームを生成するものである。
【0005】
特許文献1に記載された超音波診断装置においては、フレームセットを構成する複数のフレームから、複数の中間フレームとして加算フレーム及びエッジ強調フレームが生成され、それらの重み付け加算により合成フレームが生成されている。エッジ強調フレームの生成に際してはウェーブレットフュージョン法が利用されている。特許文献1に記載された技術は、複数のフレームの加算に伴って生じるボケをエッジ成分のブレンドにより改善するものである。特許文献2にも、ウェーブレットフュージョン法が開示されている。特許文献1及び特許文献2には、同一の診断深さ範囲を有するフレームセット内において、送信焦点深さを変化させることについては記載されていない。
【0006】
超音波画像の画質を高めるための他の技術として、空間コンパウンド法や周波数コンパウンド法が知られている。それらの方法は、性質の異なる複数のフレームを合成することにより合成フレームを生成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-153415号公報
【文献】特開2011- 56249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、超音波画像それ全体にわたって画質を向上させることにある。あるいは、本開示の目的は、プローブに近い領域(浅い領域)及びプローブから遠い領域(深い領域)の両方の画質を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る超音波診断装置は、循環的に設定される複数の送受信条件に従って、送信信号の生成及び受信信号の処理を繰り返し行うことにより、フレーム列を生成する送受信部と、前記フレーム列から合成フレーム列を生成する合成部であって、前記フレーム列におけるフレームセットごとに、当該フレームセットを構成する複数のフレームに基づいて合成フレームを生成する合成部と、を含み、前記複数の送受信条件には、近距離用の第1送受信条件及び遠距離用の第2送受信条件が含まれ、前記第1送受信条件には、第1送信周波数、及び、第1送信焦点深さが含まれ、前記第2送受信条件には、前記第1送信周波数よりも低い第2送信周波数、及び、前記第1送信焦点深さよりも深い第2送信焦点深さが含まれる、ことを特徴とする。
【0010】
本開示に係る超音波診断装置の制御方法は、循環的に設定される複数の送受信条件に従って、送信信号の生成及び受信信号の処理を繰り返し行うことにより、フレーム列を生成する工程と、前記フレーム列におけるフレームセットごとに、当該フレームセットに基づいて性質の異なる複数の中間フレームを生成する工程と、前記フレームセットごとに、前記複数の中間フレームを合成することにより超音波画像形成用の合成フレームを生成する工程と、前記複数の中間フレームの少なくとも1つに基づいて評価値を演算する工程と、前記評価値に基づいて前記複数の送受信条件に含まれる複数の送信周波数の組み合わせを変更する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、超音波画像それ全体にわたって画質を向上させることができる。あるいは、本開示によれば、プローブに近い領域(浅い領域)及びプローブから遠い領域(深い領域)の両方の画質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断措置は、送受信部、及び、合成部、を有する。送受信部は、 循環的に設定される複数の送受信条件に従って、送信信号の生成及び受信信号の処理を繰り返し行うことにより、フレーム列を生成する。合成部は、フレーム列から合成フレーム列を生成する。詳しくは、合成部は、フレーム列におけるフレームセットごとに、当該フレームセットを構成する複数のフレームに基づいて合成フレームを生成する。複数の送受信条件には、近距離用の第1送受信条件及び遠距離用の第2送受信条件が含まれる。第1送受信条件には、第1送信周波数、及び、第1送信焦点深さが含まれ、第2送受信条件には、第1送信周波数よりも低い第2送信周波数、及び、第1送信焦点深さよりも深い第2送信焦点深さが含まれる。
【0015】
上記構成において、フレームセットは、性質の異なる複数のフレームにより構成される。それらのフレームの合成により合成フレームが生成される。フレームセットの生成過程において、近距離用の第1送受信条件及び遠距離用の第2送受信条件が適用されるので、特に、第1送信周波数と第1焦点深さのコンビネーション、及び、第2送信周波数と第2焦点深さのコンビネーション、が選択的に適用されるので、合成部により生成された合成フレームにおいて、近距離領域及び遠距離領域の両方の品質(特に、空間分解能及び感度)を高めることが可能となる。
【0016】
実施形態において、複数の送受信条件が段階的に適用される過程においては、診断深さ範囲が維持される。この点で、実施形態に係る技術は、従来の送信多段フォーカス技術とは区別される。また、複数の送受信条件が段階的に適用される過程においては、複数の送信焦点深さが段階的に設定される。この点で、実施形態に係る技術は、従来の周波数コンパウンド法とは区別される。複数の送受信条件は、2つの送受信条件で構成され、あるいは、3つ以上の送受信条件で構成される。フレーム列は、受信フレーム列及び表示フレーム列を含む概念である。
【0017】
なお、送信焦点深さは、一般に、電子リニア走査方式(電子コンベックス走査方式を含む)が採用される場合、プローブにおける送受波面(通常、生体に当接される表面)に直交する方向における当該送受波面からの距離として定義され、電子セクタ走査方式が採用される場合、送受信原点からの距離として定義される。送信周波数は、一般に、送信中心周波数である。
【0018】
実施形態に係る超音波診断装置は、制御部を有する。制御部は、診断深さ範囲に基づいて第1送信焦点深さ及び第2送信焦点深さを設定する。この構成によれば、ユーザーの負担を軽減しつつ超音波画像の画質を高められる。例えば、近距離焦点について第1比率を定めておき、また遠距離焦点について第2比率を定めておいてもよい。その場合、診断深さ範囲(画像化する最大深さ)に対して第1比率を乗じることにより近距離用の送信焦点深さが自動的に定められ、同様に、診断深さ範囲に対して第2比率を乗じることにより遠距離用の送信焦点深さが自動的に定められる。
【0019】
実施形態において、第1送受信条件には、第1受信通過帯域が含まれる。第2送受信条件には、第1受信通過帯域よりも狭い第2受信通過帯域が含まれる。一般に、受信過程では、受信ダイナミックフィルタが利用される。すなわち、受信焦点深さの変化に応じて通過周波数帯域を動的に変化させる技術が利用される。上記第1受信通過帯域及び上記第2受信通過帯域は、それぞれ、所定の深さ、所定の深さ範囲又は全深さ範囲における通過帯域である。例えば、第1送信焦点深さ及び第2送信焦点深さにおいて、第1受信通過帯域よりも第2受信通過帯域の方が狭くされてもよい。
【0020】
実施形態において、第1送受信条件には、第1ビーム偏向角度が含まれ、第2送受信条件には、第1ビーム偏向角度とは異なる第2ビーム偏向角度が含まれる。この構成は、上述した構成に対して空間コンパウンド法を組み合わせるものである。
【0021】
実施形態に係る超音波診断装置は、主方向及び副方向に沿って並んだ複数の振動素子により構成された振動素子アレイを含む。第1送受信条件には、副方向の開口サイズである第1開口サイズが含まれ、第2送受信条件には、副方向の開口サイズであって第1開口サイズとは異なる第2開口サイズが含まれる。
【0022】
実施形態において、合成部は、フレームセットに基づいて、性質の異なる複数の中間フレームを生成する第1合成部と、複数の中間フレームを合成することにより合成フレームを生成する第2合成部と、を有する。実施形態において、第1合成部は、複数の中間フレームとして、加算画像及びエッジ強調画像を生成する。第2合成部は、加算画像及びエッジ強調画像を合成することにより合成フレームを生成する。この構成によれば、加算画像の利用により、感度を高められる。エッジ強調画像の利用により、空間分解能を高められる。換言すれば、加算画像において生じるボケをエッジ成分のブレンドにより改善することが可能となる。
【0023】
実施形態に係る超音波診断装置は、複数の中間フレームの少なくとも1つに基づいて評価値を演算する演算部と、評価値に基づいて第1送信周波数及び第2送信周波数の組み合わせを変更する制御部と、を含む。被検体の性状(例えば脂肪の多さ又は少なさ)が複数の中間フレームに現れる。複数の中間フレームの一部及び全部を参照することにより、被検体の性状を示す評価値が得られる。評価値に応じて複数の送信周波数の組み合わせが変更され、望ましくは最適化される。
【0024】
実施形態において、複数の中間フレームには、加算画像及びエッジ強調画像が含まれる。評価値は、加算画像とエッジ強調画像の間の差分に相当する。例えば、加算画像とエッジ強調画像の差分は、エッジの量に相当する。エッジが少ない場合、エッジが増大するように送信周波数の組み合わせが変更される。
【0025】
実施形態に係る超音波診断装置の制御方法は、第1工程、第2工程、第3工程、第4工程、及び、第5工程を有する。第1工程では、循環的に設定される複数の送受信条件に従って、送信信号の生成及び受信信号の処理を繰り返し行うことにより、フレーム列が生成される。第2工程では、フレーム列におけるフレームセットごとに、当該フレームセットに基づいて性質の異なる複数の中間フレームが生成される。第3工程では、フレームセットごとに、複数の中間フレームを合成することにより超音波画像形成用の合成フレームが生成される。第4工程では、複数の中間フレームの少なくとも1つに基づいて評価値が演算される。第5工程では、評価値に基づいて複数の送受信条件に含まれる複数の送信周波数の組み合わせが変更される。
【0026】
上記構成によれば、超音波画像の画質を高められる。特に、合成処理において生成される情報を送受信条件の設定にフィードバックすることが可能となる。例えば、脂肪の少ない被検者の場合に相対的に見て高い送信周波数ペアが選択され、脂肪の多い被検者の場合に相対的に見て低い送信周波数ペアが選択される。
【0027】
実施形態においては、複数の中間フレームには、加算フレーム及びエッジ強調フレームが含まれる。評価値は、加算フレームとエッジ強調フレームの差分に相当する。フレームの全体にわたって又は一部分内において差分を積算することにより評価値が演算されてもよい。エッジ強調フレームだけを参照することも考えられる。
【0028】
(2)実施形態の詳細
図1には、第1実施形態に係る超音波診断装置が示されている。診断対象となる組織は、例えば、肝臓である。心臓、胎児等の他の組織が診断対象とされてもよい。
【0029】
プローブ10は、生体に当接されるプローブヘッドを有している。プローブヘッド内には、一次元配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイが設けられている。複数の振動素子は、直線状に配列されており、あるいは、円弧状に配列されている。後述するように、二次元配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイが設けられてもよい。
【0030】
送信時において、送信部20から振動素子アレイに対して複数の送信信号が供給される。これにより超音波が生体内へ放射される。その際には、送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波が振動素子アレイで受信されると、振動素子アレイから受信部22へ複数の受信信号が出力される。受信部22は、複数の受信信号に対して整相加算(遅延加算)を適用し、これにより整相加算後の受信信号を生成する。その受信信号は受信ビームに相当する。
【0031】
超音波ビームは、送信ビーム及び受信ビームの両方を合成したビームに相当する。超音波ビームは電子走査される。電子走査方式として、電子リニア走査方式(電子コンベックス走査方式を含む)、電子セクタ走査方式等が知られている。超音波ビームの1回の電子走査により、1つの受信フレーム(受信フレームデータ)が得られる。受信フレームは、電子走査方向に並ぶ複数のビームデータにより構成される。個々のビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。超音波ビームを繰り返し電子走査することにより、時系列順で並ぶ複数の受信フレームが生成される。それらは受信フレーム列を構成する。なお、
図1において、符号16は超音波ビーム(又は送信ビーム)を示しており、符号18は送信焦点を示している。
【0032】
図示された受信部22は、複数のA/D変換器、複数の遅延回路、加算回路等を有する。更に、受信部22は、検波回路、対数変換回路等を有する。受信部22が有する複数の機能の全部又は一部はハードウエア又はソフトウエアにより実現される。
【0033】
実施形態においては、制御部40が複数の送受信条件を循環的に設定する。複数の送受信条件は、第1実施形態において、近距離用の第1送受信条件、及び、遠距離用の第2送受信条件からなる。具体的には、第1送受信条件は、第1パラメータセットPS1により構成され、第2送受信条件は、第2パラメータセットPS2により構成される。各送受信条件には、送信周波数、送信焦点深さ、受信通過帯域(使用するBPF)、等が含まれる。2つの送受信条件がフレームごとに交互に設定される。
【0034】
具体的には、第1送受信条件には、第1送信周波数f1、第1送信焦点深さd1、及び、第1受信周波数帯域(BPF1)が含まれ、第2送受信条件には、第2送信周波数f2、第2送信焦点深さd2、及び、第2受信周波数帯域(BPF2)が含まれる。ここで、f1>f2及びd1<d2の関係がある。
【0035】
受信時には、受信ダイナミックフィルタ方式が適用される。例えば、送信焦点深さd1,d2の一方又は両方において、BPF1の通過帯域よりもBPF2の通過帯域の方が狭い。診断深さ範囲の全体にわたって、BPF1の通過帯域よりもBPF2の通過帯域の方が狭くてもよい。
【0036】
第1走査面12の形成に際しては、プローブ10に近い領域の画像化に適する第1送受信条件が設定され、第2走査面14の形成に際しては、プローブ10から遠い領域の画像化に適する第2送受信条件が設定される。第1送受信条件及び第2送受信条件の循環的な設定により、第1走査面12及び第2走査面14が交互に生成される。換言すれば、性質の異なる第1受信フレーム及び第2受信フレームが循環的に得られる。
【0037】
制御部40は、上記のように、複数の送受信条件の循環的設定を制御しており、具体的には、送信部に対して、第1送信周波数f1及び第1送信焦点深さd1を与えており、また、第2送信周波数f2及び第2送信焦点深さd2を与えている。同様に、制御部40は、受信部22に対して、第1走査面12の形成時において第1受信通過帯域(BPF1)を指定しており、また、第2走査面14の形成時において第2受信通過帯域(BPF2)を指定している。
【0038】
第1送受信条件及び第2送受信条件の相互間で、診断深さ範囲は同一である。診断深さ範囲は、ユーザーにより指定され、又は、プリセットされている。実施形態においては、制御部40は、診断深さ範囲dmaxに応じて第1送信焦点深さd1及び第2送信焦点深さd2を自動的に設定している。これに関しては後に詳述する。
【0039】
受信部22から受信フレーム列が出力される。受信フレーム列は図示の構成例において合成部24へ送られている。合成部24は、例えば、プロセッサにより構成される。制御部40を構成するプロセッサ(例えばCPU)が合成部24として機能してもよい。
【0040】
合成部24は、受信フレームから表示フレーム列を生成するものである。メモリ26は、例えば半導体メモリにより構成され、それはリングバッファ構造を有する。メモリ26として、2つ又は3つのフレームメモリが設けられてもよい。メモリ26上に受信フレーム列が格納される。格納される個々の受信フレームは、検波後のデータであり、且つ、スキャンコンバート前のデータである。検波前のRFフレーム列及び表示フレーム列に対して合成処理が適用されてもよい。
【0041】
加算フレーム生成器28及びエッジ強調フレーム生成器30は、中間フレーム生成部(第1合成部)として機能する。後述する合成器32は、第2合成部として機能する。受信フレーム列において、個々の受信フレームごとに受信フレームセットが定義される。例えば、現時点で取得された受信フレームとそれより1つ前の過去の受信フレームとが受信フレームセットを構成する。受信フレームセットは時間軸に沿って受信フレーム単位でシフトされる。
【0042】
加算フレーム生成器28は、受信フレームセットごとに、それを構成する2つの受信フレームを加算し、加算フレームを生成する。その際においては、走査面上の空間アドレスごとに、単純加算(平均処理)及び重み付け加算(重み付け平均処理)が適用される。
2つの受信フレームの加算により、見かけ上、感度を高められる。受信フレームセットごとに上記処理を適用することに、受信フレーム列から加算フレーム列が生成される。
【0043】
エッジ強調フレーム生成器30は、受信フレームセットごとに、それを構成する2つの受信フレームに対してウェーブレットフュージョン法を適用し、これによりエッジ強調フレームを生成するものである。具体的には、2つの受信フレームに対して個別的にウェーブレット変換が適用され、これにより2つの変換後フレームが生成される。2つの変換後フレームの融合により融合後フレームが生成される。融合後フレームに対する逆変換(ウェーブレット逆変換)によりエッジ強調フレームが生成される。2つの変換後フレームの融合に際してはエッジ成分が維持又は強調される方法が採用される。その方法として例えば最大値法が挙げられる。
【0044】
ウェーブレットフュージョン法以外の方法を利用してエッジ強調フレームが生成されてもよい。例えば、差分法、エッジ抽出フィルタ法等が利用され得る。もっとも、ウェーブレットフュージョン法によれば、ぼけた成分を除外しつつ鮮明な成分を簡便に抽出できる。エッジ強調フレーム生成器30において、受信フレーム列からエッジ強調フレーム列が生成される。
【0045】
合成器32は、2つの中間フレーム、つまり、加算フレーム及びエッジ強調フレームを重み付け加算することにより、合成フレームを生成する。具体的には、走査面上のアドレスごとに重みづけ加算が実施される。その際に利用される重み係数ペアは、固定的に設定され又は動的に設定される。各加算フレームに対して各エッジ強調フレームを加算することにより、エッジが強調された高品位のフレーム、つまりエッジ強調フレームが生成される。エッジ強調フレームのブレンドにより深さ方向における空間分解能を高められる。合成器32により、加算フレーム列及びエッジ強調フレーム列から合成フレーム列が生成される。
【0046】
DSC(デジタルスキャンコンバータ)34は、受信フレーム列(具体的には合成フレーム列)から表示フレーム列を生成するものである。DSC34は、プロセッサにより構成される。制御部40を構成するプロセッサによりDSC34が実現されてもよい。DSC34は、座標変換機能、画素補間機能、フレームレート変換機能等を有する。表示フレーム列を構成する個々の表示フレームは、例えば、断層画像を構成する。
【0047】
表示処理部36は、画像合成機能、カラー演算機能等を有する。表示フレーム列は、表示処理部を経由して、表示器38へ送られる。表示器38には超音波画像が表示される。具体的には、表示器38には動画像としての断層画像が表示される。
【0048】
制御部40は、
図1に示された複数の構成要素の動作を制御する。実施形態において、制御部40は、既に説明したように、複数の送受信条件を循環的に設定する。制御部40には、操作パネル42が接続されている。操作パネル42は、複数のスイッチ、複数の摘み、トラックボール、キーボード等を有する。表示器38は、LCD、有機EL表示デバイス等により構成される。
【0049】
図2には、合成部での処理が模式的に示されている。メモリ26には、受信フレーム列44が一時的に格納される。
図2には、受信フレームF1,F2,F3が示されており、ここで、最新の受信フレームは、受信フレームF3である。受信フレームごとにフレームセットが構成される。図示の例では、受信フレームF2と受信フレームF3が受信フレームセットを構成し、受信フレームF1と受信フレームF2が別の受信フレームセットを構成している。
【0050】
加算フレーム生成器28は、受信フレームセットごとに、それを構成する2つの受信フレームを加算し、加算フレームを生成する。例えば、受信フレームF1,F1から加算フレームS12を生成する。同様に、受信フレームF2,F3から加算フレームS23を生成する。その場合、単純加算、重み付け加算等を用い得る。受信フレーム列44から加算フレーム列45が生成される。
【0051】
エッジ強調フレーム生成器30は、受信フレームセットごとに、それを構成する2つの受信フレームに対してウェーブレットフュージョン法を適用し、エッジ強調フレームを生成する。例えば、受信フレームF2,F3からエッジ強調フレームE23を生成する。同様に、受信フレームF1,F2からエッジ強調フレームE12を生成する。これにより、受信フレーム列44からエッジ強調フレーム列46が生成される。
【0052】
合成器32は、受信フレームセットごとに、加算フレーム及びエッジ強調フレームを合成し、合成フレームを生成する。例えば、加算フレームS12及びエッジ強調フレームE12の合成により合成フレームR12を生成する。同様に、加算フレームS23及びエッジ強調フレームE23の合成により合成フレームR23を生成する。結果として、受信フレーム列44から合成フレーム列47が生成される。
【0053】
実施形態においては、例えば、加算フレームに対して重み0.8が与えられ、エッジ強調フレームに対して重み0.2が与えられる。2つの重みの関係を状況に応じて動的に変化させてもよい。
【0054】
図2において、符号50は、ウェーブレットフュージョン法の内容を示している。受信フレームF1,F2のそれぞれに対するウェーブレット変換Wにより変換後フレーム52,54が生成される。フレーム52,54を融合することにより融合後フレーム56が生成される。その際には最大値法等を使用し得る。融合後フレーム56に対する逆変換W
-1によりエッジ強調フレームE12が生成される。
【0055】
図3には、送信焦点深さの決定方法が示されている。ユーザー指定60等により診断深さ範囲62が設定される。制御部40は、診断深さ範囲62に対して第1比率を乗ずることにより近距離用送信焦点深さ64を決定し、また、診断深さ範囲62に対して第2比率を乗ずることにより遠距離用送信焦点深さ66を決定する。第1比率及び第2比率は、事前に決定され、また、ユーザーにより設定される。第1比率は例えば1/3であり、第2比率は例えば2/3である。この処理により、2つの送信焦点深さを自動的に最適化できる。画面上において、2つの送信焦点深さが2つのマーカーにより表示される。
【0056】
図4には、周波数ペアの選択方法が示されている。なお、
図4において、
図2に示した要素と同様の要素には同一符号を付しその説明を省略する。
【0057】
差分演算器68は、同じ受信フレームセットから生成された加算フレームS12とエッジ強調フレームE12の間で差分を演算するものである。具体的には、走査面(フレーム)上のアドレスごとに差分が演算され、フレーム全体にわたって差分の総和が演算される。その総和は、エッジ量を示す評価値として利用される。
【0058】
周波数ペア選択器70は、メモリ71上に登録された2つの送信周波数ペアの内から特定の送信周波数ペアを選択するものである。図示の構成例では、プローブの周波数帯域内又は送信部で生成可能な周波数範囲内に3つの送信周波数fa,fb,fcが定められている。それらは、fa<fb<fcの関係を有する。例えば、最初に、送信周波数ペア(fb、fc)が選択される。その後、演算された差分が所定の閾値よりも小さい場合、つまり、エッジ量が少ない場合、例えば、被検体における脂肪量が多く、送信周波数を下げる必要があるため、別の送信周波数ペア(fa,fb)が選択される。
【0059】
3つ以上の送信周波数セットを用意しておき、差分に応じて、最適な送信周波数セットを選択してもよい。差分に基づいて他のパラメータ(例えば受信通過帯域)が変更されてもよい。フレームごとに差分を演算してもよいし、一定の時間幅内において平均差分を演算してもよい。超音波検査開始後の一定時間内において試行的に送受信を繰り返してその期間内で得られた差分に基づいて送信周波数セットを自動的に最適化してもよい。
【0060】
図5には、第2実施形態に係る合成処理が示されている。
図5において、
図2に示した要素と同様の要素には同一符号を付しその説明を省略する。第2実施形態に係る超音波診断装置は、概ね、
図1に示した構成と同様の構成を有する。以下、相違部分について説明する。
【0061】
第2実施形態においては、空間コンパウンド法が実行される。すなわち、最初に第1ビーム偏向角度が設定され、次に第2ビーム偏向角度が設定され、続いて第3ビーム偏向角度が設定される。この一連の設定が循環的に繰り返される。これにより受信フレーム列72が生成される。図示の例において、第1ビーム偏向角度が+θ1で示されており、第2ビーム偏向角度が0で示されており、第3ビーム偏向角度が-θ1で示されている。
【0062】
図示の例では、一方の遠距離用送受信条件、近距離用送受信条件、及び、他方の遠距離用送受信条件が1つの送受信条件セットを構成しており、それらが循環的に設定される。一方の遠距離用送受信条件には、第1ビーム偏向角度+θ1、送信周波数f2、送信焦点深さd2、及び、第2受信通過帯域(BPF2)、が含まれる。近距離用送受信条件には、第2ビーム偏向角度0、送信周波数f1、送信焦点深さd1、及び、第1受信通過帯域(BPF1)、が含まれる。ここで、f1>f2であり、d1<d2である。また、第1受信通過帯域(BPF1)は、第2受信通過帯域(BPF2)よりも広い。他方の遠距離用送受信条件には、第3ビーム偏向角度-θ1、送信周波数f2、送信焦点深さd2、及び、第2受信通過帯域(BPF2)、が含まれる。
【0063】
加算フレーム生成器28は、受信フレームセットごとに、それを構成する3つの受信フレームを加算して、加算フレームを生成する(S1-3,S2-4,S3-5を参照)。受信フレーム列72から加算フレーム列74が生成される。エッジ強調フレーム生成器30は、受信フレームセットごとに、それを構成する3つの受信フレームからエッジ強調フレームを生成する(E1-3,E2-4,E3-5を参照)。3つの変換後フレームに対して最大値法等が適用され、これにより1つの融合フレームが生成される。その逆変換によりエッジ強調フレームが生成される。受信フレーム列72からエッジ強調フレーム列76が生成される。
【0064】
合成器32は、加算フレーム列74及びエッジ強調フレーム列76から合成フレーム列78を生成する(R1-3,R2-4,R3-5を参照)。なお、一方の遠距離用送受信条件と他方の遠距離用送受信条件との間で、送信周波数、送信焦点深さ、受信通過帯域、等を切り替えてもよい。
【0065】
図6には、第3実施形態が示されている。第3実施形態に係る超音波診断装置は、
図1に示した構成と同様の構成を備える。表80は、近距離用の第1送受信条件82及び遠距離用の第2送受信条件84を示している。第3実施形態においては、短軸方向(後述する副方向)の開口サイズが変更されている。具体的には、近距離用の第1送受信条件82には大きな開口サイズが含まれ、遠距離用の第2送受信条件84には小さな開口サイズが含まれる。
【0066】
符号10Aは、第3実施形態に係るプローブを示している。プローブ10Aには振動素子アレイ86が含まれる。x方向が電子走査方向としての主方向を示しており、y方向が副方向を示している。振動素子アレイ86は、x方向及びy方向に並ぶ複数の振動素子86aにより構成される。
【0067】
振動素子アレイ86において、y方向において開口可変のみを行える場合、プローブ10Aは1.25D型プローブと称される。振動素子アレイ86において、y方向において開口可変及び電子フォーカスを行える場合、プローブ10Aは1.5D型プローブと称される。振動素子アレイ86において、y方向において開口可変、電子フォーカス及び一定角度範囲内でのビーム偏向を行える場合、プローブ10Aは1.75D型プローブと称される。
【0068】
第3実施形態では、上述したように、近距離用の第1送受信条件82には、振動素子アレイ86においてy方向の開口として大きな開口(最大開口)88を設定することが含まれる。遠距離用の第2送受信条件84には、振動素子アレイ86においてy方向の開口として小さな開口90を設定することが含まれる。
【0069】
上記とは逆に、近距離用の第1送受信条件82に、振動素子アレイ86においてy方向の開口として小さな開口を設定することを含めてもよく、遠距離用の第2送受信条件84に、振動素子アレイ86においてy方向の開口として大きな開口を設定することを含めてもよい。
【0070】
図7には、第4実施形態が示されている。第4実施形態に係る超音波診断装置は、
図1に示した構成と同様の構成を備える。表92は、近距離用送受信条件94、中距離用送受信条件96、及び、遠距離用送受信条件98を示している。近距離用送受信条件94において、送信周波数は高い周波数Hであり、送信焦点深さはd1であり、受信通過帯域は広帯域である。中距離用送受信条件96において、送信周波数は中間周波数Mであり、送信焦点深さはd2であり、受信通過帯域は広帯域である。遠距離用送受信条件98において、送信周波数は低い周波数Lであり、送信焦点深さはd3であり、受信通過帯域は狭帯域である。ここで、H>M>Lの関係があり、d1<d2<d3の関係がある。受信通過帯域は、例えば、受信点が所定の深さにある場合における受信通過帯域である。
【0071】
上記実施形態において、複数の受信フレームから1つの合成フレームを生成する場合において、最新の受信フレームに対してより大きな重みを設定してもよい。その際において、フレーム間ごとに相関値を演算し、相関値に応じて複数の受信フレームに与える複数の重みを変化させてもよい。その場合、フレーム間において位相情報の相関値が演算されてもよい。
【0072】
穿刺針像を有する超音波画像を生成する場合に上記技術を利用してもよい。例えば、組織をより明瞭に表示するための第1送受信条件と穿刺針を明瞭に表示するための第2送受信条件とが循環的に設定されてもよい。その場合に、単位時間当たりにおける第1送受信条件の設定回数よりも、単位時間当たりにおける第2送受信条件の設定回数を多くしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 プローブ、20 送信部、22 受信部、24 合成部、28 加算フレーム生成器、30 エッジ強調フレーム生成器、32 合成器、40 制御部。