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特許7449889過給機異常予兆判定装置及び過給機異常予兆判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】過給機異常予兆判定装置及び過給機異常予兆判定方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/16 20060101AFI20240307BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20240307BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240307BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20240307BHJP
   F02B 37/16 20060101ALI20240307BHJP
   F02B 37/18 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
F02B39/16 F
F02B37/00 301
F02D45/00 345
F02D23/00 N
F02B37/16 B
F02B37/18 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021051129
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149129
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 哲也
(72)【発明者】
【氏名】金澤 真吾
(72)【発明者】
【氏名】冨田 勲
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-351129(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108801641(CN,A)
【文献】実開昭64-15749(JP,U)
【文献】国際公開第2007/145021(WO,A1)
【文献】特開2016-56762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/16
F02B 37/00
F02D 45/00
F02D 23/00
F02B 37/16
F02B 37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機の異常状態の予兆を判定するための過給機異常予兆判定装置であって、
エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部と、
前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得部と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の基準値を生成する基準値生成部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数の時系列データから前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出部と、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データと、前記基準値生成部によって生成された前記基準値とに基づいて、前記過給機の異常状態の予兆を判定するように構成された異常予兆判定部と、
を備える、過給機異常予兆判定装置。
【請求項2】
前記異常予兆判定部は、前記基準値生成部によって生成された前記基準値よりも前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が大きく、且つ、前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が一定で正の値である場合に、前記過給機の過回転の予兆が示されていると判定するように構成された、請求項1に記載の過給機異常予兆判定装置。
【請求項3】
前記異常予兆判定部は、前記基準値生成部によって生成された前記基準値よりも前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が大きく、且つ、前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が時間の経過とともに大きくなる場合には、前記過給機のオーバーランの予兆が示されていると判定するように構成された、請求項1に記載の過給機異常予兆判定装置。
【請求項4】
前記異常予兆判定部は、前記基準値生成部によって生成された前記基準値よりも前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が小さい場合には、前記過給機の内部損傷の予兆が示されていると判定するように構成された、請求項1に記載の過給機異常予兆判定装置。
【請求項5】
前記異常予兆判定部は、前記エンジンの前記負荷パラメータが一定の状態において、前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が0より大きい場合には、前記過給機のオーバーランの予兆が示されていると判定するように構成された、請求項1に記載の過給機異常予兆判定装置。
【請求項6】
前記異常予兆判定部は、前記エンジンの前記負荷パラメータが一定の状態において、前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が0よりも小さい場合には、前記過給機の内部損傷の予兆が示されていると判定するように構成された、請求項1に記載の過給機異常予兆判定装置。
【請求項7】
前記エンジンの負荷の上昇時の前記過給機の回転数の時系列データから前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率と、前記基準値生成部によって生成された前記基準値との差分に基づいて、前記過給機の性能劣化の度合を判定し、前記エンジン過給機相関情報が示す前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を前記性能劣化の前記度合に応じて更新するように構成された相関情報更新部を更に備える、請求項1に記載の過給機異常予兆判定装置。
【請求項8】
前記エンジンの始動から停止までを1サイクルとすると、前記エンジン過給機相関情報は、複数のサイクルにおける前記負荷パラメータの平均と前記複数のサイクルにおける前記過給機の回転数の平均との比率を示す、請求項1に記載の過給機異常予兆判定装置。
【請求項9】
前記過給機の過回転の予兆、前記過給機のオーバーランの予兆又は前記過給機の内部損傷の予兆が示されていると前記異常予兆判定部が判定した場合に、前記異常予兆判定部の判定結果に基づくアラーム信号を発信するように構成されたアラーム信号発信部を更に備える、請求項1乃至8の何れか1項に記載の過給機異常予兆判定装置。
【請求項10】
前記過給機の過回転の予兆又は前記過給機のオーバーランの予兆が示されていると前記異常予兆判定部が判定した場合に、(1)前記エンジンに接続する吸気通路における前記過給機の下流側の圧力を低下させるための安全弁の開度を大きくするためのバルブ制御信号、及び、(2)エンジンに接続する排気通路における前記過給機を迂回するバイパス通路に設けられたバイパス弁の開度を大きくするためのバルブ制御信号、のうち少なくとも一方のバルブ制御信号を発信するように構成されたバルブ制御信号発信部を更に備える、請求項1乃至8の何れか1項に記載の過給機異常予兆判定装置。
【請求項11】
過給機の異常状態の予兆を判定するための過給機異常予兆判定方法であって、
エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するエンジン負荷パラメータ取得ステップと、
前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得ステップと、
前記エンジン負荷パラメータ取得ステップで取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の基準値を生成する基準値生成ステップと、
前記過給機回転数取得ステップで取得した前記過給機の回転数の時系列データから前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出ステップと、
前記回転数時間変化率算出ステップで算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データと、前記基準値生成ステップで生成した前記基準値とに基づいて、前記過給機の異常状態の予兆を判定する異常予兆判定ステップと、
を備える、過給機異常予兆判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、過給機異常予兆判定装置及び過給機異常予兆判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、過給機のコンプレッサの上流側の吸気通路の面積縮小に起因する過給機の異常状態を判定する方法として、過給機のコンプレッサの上流側の圧力変化に基づいて過給機の過回転状態を判定することが記載されている。
【0003】
特許文献2には、エンジンの負荷と過給機の目標回転数との関係を定めたマップと、過給機の実回転数とを比較して過給機の過回転状態を判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4770759号公報
【文献】特開第2007-023816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の過給機の異常状態の判定方法では、ターボ過給機の回転数が急上昇してからコンプレッサの上流側の圧力上昇が検出されるまでに時間遅れがあり、過給機の異常状態の予兆を速やかに判定することができない。
【0006】
特許文献2に記載の過給機の異常状態の判定方法では、過給機の回転数に基づいて過給機の過回転状態を判定しており、エンジンの負荷が変化する過渡状態に過給機の異常状態の予兆を速やかに判定することは困難である。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本開示は、エンジンが一定負荷または一定回転数の定常運転状態のみならず、エンジンの負荷が変化する過渡状態であっても過給機の異常状態の予兆を速やかに判定可能な過給機異常予兆判定装置及び過給機異常予兆判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常予兆判定装置は、
過給機の異常状態の予兆を判定するための過給機異常予兆判定装置であって、
エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部と、
前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得部と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の基準値を生成する基準値生成部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数の時系列データから前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出部と、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データと、前記基準値生成部によって生成された前記基準値とに基づいて、前記過給機の異常状態の予兆を判定するように構成された異常予兆判定部と、
を備える。
【0009】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常予兆判定方法は、
過給機の異常状態の予兆を判定するための過給機異常予兆判定方法であって、
エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するエンジン負荷パラメータ取得ステップと、
前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得ステップと、
前記エンジン負荷パラメータ取得ステップで取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の基準値を生成する基準値生成ステップと、
前記過給機回転数取得ステップで取得した前記過給機の回転数の時系列データから前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出ステップと、
前記回転数時間変化率算出ステップで算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データと、前記基準値生成ステップで生成した前記基準値とに基づいて、前記過給機の異常状態の予兆を判定する異常予兆判定ステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、エンジンが一定負荷または一定回転数の定常運転状態のみならず、エンジンの負荷が変化する過渡状態であっても過給機の異常状態の予兆を速やかに判定可能な過給機異常予兆判定装置及び過給機異常予兆判定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る過給機異常予兆判定装置24を備えるエンジンシステム2の概略構成図である。
図2図1に示した過給機異常予兆判定装置24のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3図1及び図2に示した過給機異常予兆判定装置24の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図4図3に示した過給機異常予兆判定装置24を用いた過給機8の異常予兆判定のフローを示す図である。
図5A】エンジン過給機相関情報の一例を示す図である。
図5B】エンジン過給機相関情報の算出方法の一例を示す図である。
図6】エンジン6の負荷パラメータを上昇させる過程及び一定に維持する過程について、時間とエンジン6の負荷パラメータとの関係、及び時間と過給機8の回転数との関係を示す図であり、エンジン6が舶用主機エンジンである場合の一例を示している。
図7】エンジン6の負荷パラメータを上昇させる過程及び一定に維持する過程について、時間とエンジン6の負荷パラメータとの関係、及び時間と過給機8の回転数との関係を示す図であり、エンジン6が発電用エンジンである場合の一例を示している。
図8】エンジン6の負荷パラメータを時間に比例して低下させる過程について、時間と過給機8の回転数との関係を示す図である。
図9】エンジン6の負荷パラメータを上昇させる過程及び一定に維持する過程について、時間とエンジン6の負荷パラメータとの関係、及び時間と過給機8の回転数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
図1は、一実施形態に係る過給機異常予兆判定装置24を備えるエンジンシステム2の概略構成図である。
図1に示すように、エンジンシステム2は、エンジン6、過給機8、吸気通路10、排気通路12、安全弁14、バイパス通路16、バイパス弁18、負荷センサ20、回転数センサ22及び過給機異常予兆判定装置24及びを備える。エンジン6の構成は特に限定されず、エンジン6は、例えば舶用主機エンジンであってもよいし、発電用エンジンであってもよい。
【0014】
過給機8は、エンジン6に接続する吸気通路10に設けられたコンプレッサ8a、エンジン6に接続する排気通路12に設けられたタービン8b、及び、コンプレッサ8aとタービン8bとを連結するシャフト8cを含む。コンプレッサ8a、タービン8b及びシャフト8cは同軸上に連結されており、一体的に回転するように構成されている。エンジン6の排気が排気通路12を介してタービン8bに供給されることによりタービン8bが回転し、タービン8bにシャフト8cを介して連結されたコンプレッサ8aが駆動して空気を圧縮する。コンプレッサ8aによって圧縮された空気は吸気通路10を介してエンジン6に供給される。
【0015】
安全弁14は、過給機8の過回転等の異常予兆が発生した場合に吸気通路10を大気開放して吸気通路10の圧力を低下させるために設けられている。
【0016】
バイパス通路16は、排気通路12において、タービン8bの上流側から分岐してタービン8bをバイパスし、タービン8bの下流側に接続している。バイパス弁18は、バイパス通路16に設けられており、ウェイストゲートバルブとも呼ばれる。バイパス弁18の開度の調節により、タービン8bへのエンジン6の排ガスの流入量が調節され、過給機8の回転数が調節される。バイパス弁18の開度を大きくすると、タービン8bへのエンジン6の排ガスの流入量が減少し、過給機8の回転数が低下する。
【0017】
負荷センサ20は、エンジン6の負荷パラメータを検出するように構成されている。負荷センサ20によって検出するエンジン6の負荷パラメータは、エンジン6の負荷Lであってもよいし、エンジン6の回転数Neであってもよい。エンジン6の負荷パラメータは、ガバナ信号であってもよいし、ロードインジケータの値であってもよい。また、エンジン6がディーゼルエンジンである場合には、エンジン6の負荷パラメータは、エンジン6が備える不図示の燃料噴射ポンプにおける燃料調整ラックの目盛の値であってもよい。また、エンジン6がガスエンジン又はガソリンエンジンである場合には、エンジン6の負荷パラメータはエンジン6が備える不図示のスロットル弁のスロットル開度であってもよい。
回転数センサ22は、過給機8の回転数Ntを検出するように構成されている。
【0018】
過給機異常予兆判定装置24は、過給機の異常状態の予兆を判定するように構成されている。以下、過給機異常予兆判定装置24について説明する。
【0019】
図2は、図1に示した過給機異常予兆判定装置24のハードウェア構成の一例を示す図である。図3は、図1及び図2に示した過給機異常予兆判定装置24の機能的な構成の一例を示すブロック図である。図4は、図3に示した過給機異常予兆判定装置24を用いた過給機8の異常予兆判定のフローの一例を示す図である。
【0020】
図2に示すように、過給機異常予兆判定装置24は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ72、RAM(Random Access Memory)74、ROM(Read Only Memory)76、HDD (Hard Disk Drive)78、入力I/F80、及び出力I/F82を含み、これらがバス84を介して互いに接続されたコンピュータを用いて構成される。なお、過給機異常予兆判定装置24のハードウェア構成は上記に限定されず、制御回路と記憶装置との組み合わせにより構成されてもよい。また過給機異常予兆判定装置24は、過給機異常予兆判定装置24の各機能を実現するプログラムをコンピュータが実行することにより構成される。以下で説明する過給機異常予兆判定装置24における各部の機能は、例えばROM76に保持されるプログラムをRAM74にロードしてプロセッサ72で実行するとともに、RAM74やROM76におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0021】
図3に示すように、過給機異常予兆判定装置24は、負荷パラメータ取得部26、過給機回転数取得部28、基準値生成部30、回転数時間変化率算出部32及び異常予兆判定部34及び相関情報記憶部35等を備える。以下、図3に示す過給機異常予兆判定装置24の各部の機能について、図4に示す異常予兆判定のフローを用いて説明する。
【0022】
図4に示すように、S11において、負荷パラメータ取得部26は、エンジン6の負荷パラメータ(エンジン6の負荷L又は回転数Ne)の時系列データを負荷センサ20から取得する。
【0023】
S12において、過給機回転数取得部28は、過給機8の回転数Ntの時系列データを回転数センサ22から取得する。
【0024】
S13において、基準値生成部30は、負荷パラメータ取得部26によって取得したエンジン6の負荷パラメータの時系列データと、相関情報記憶部35から読み出したエンジン過給機相関情報とに基づいて、過給機8の回転数Ntの時間変化率dNt/dtの基準値Aを生成する。このエンジン過給機相関情報は、図5Aに示すように、エンジン6の負荷パラメータ(負荷L又は回転数Ne)と過給機8の回転数Ntとの相関関係を示す相関情報であり、相関情報記憶部35に記憶されている。基準値生成部30は、負荷パラメータ取得部26によって取得したエンジン6の負荷パラメータの時系列データを、エンジン過給機相関情報を参照して過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの基準値Aに変換する。
【0025】
ここで、基準値生成部30が生成する過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの基準値Aは、負荷パラメータ取得部26によって取得したエンジン6の負荷パラメータの時系列データに対応する時系列データであり、負荷パラメータ取得部26によって取得したエンジン6の負荷パラメータの時系列データが図5Aに示すように時間に比例して変化する場合には、この基準値Aは時間に依らない一定値であってもよい。以下、「基準値A」とは、基準値生成部30によって生成された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの基準値を意味する。
【0026】
なお、エンジン6の始動から停止までを1サイクルとすると、エンジン過給機相関情報は、例えば直近の複数のサイクル(例えば数十サイクル程度)における負荷パラメータの平均と該直近の複数のサイクルにおける過給機8の回転数Ntの平均との比率(Nt/L又はNt/Ne)であってもよいし(図5B参照)、過給機8の運用開始前に行った試験結果に基づいて定められてもよいし、過給機8の運用開始直後の負荷パラメータと過給機8の回転数Ntとの相関関係であってもよい。
【0027】
S14において、回転数時間変化率算出部32は、過給機回転数取得部28によって取得した過給機8の回転数Ntの時系列データから過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データを算出する。回転数時間変化率算出部32は、過給機回転数取得部28によって取得した過給機8の回転数Ntを各時間において時間微分することにより、過給機8の回転数の時間変化率の時系列データを算出する。
【0028】
S15において、異常予兆判定部34は、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データと、基準値生成部30によって生成された基準値Aとに基づいて、過給機8の異常状態の予兆を判定する。
【0029】
ここで、図6図8を用いて、異常予兆判定部34による過給機8の異常状態の予兆の判定方法について説明する。
図6及び図7の各々は、エンジン6の負荷パラメータ(エンジン6の負荷L又は回転数Ne)を上昇させる期間及び一定に維持する期間について、時間とエンジン6の負荷パラメータとの関係、及び時間と過給機8の回転数Ntとの関係を示す図である。図6は、エンジン6が舶用主機エンジンである場合の一例を示しており、図7は、エンジン6が発電用エンジンである場合の一例を示している。
【0030】
図6に示す舶用主機エンジンの例では、図6の上段部に示すように、期間a1においてエンジン6の負荷パラメータは時間経過に応じて増加し、期間a1に続く期間a2においてエンジン6の負荷パラメータは一定(例えば定格負荷)に維持される。期間a2は負荷パラメータの整定状態である。この場合、基準値生成部30によって生成された期間a1の基準値Aは正の値であり、基準値生成部30によって生成された期間a2の基準値Aは0である。また、図6において、直線LA1は、期間a1の基準値Aを傾きとする直線であり、直線LA2は、期間a2の基準値Aを傾きとする直線である。
【0031】
例えば図6の直線LB及びLCに示すように、基準値生成部30によって生成された基準値Aよりも回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが大きい場合には、異常予兆判定部34は、過給機8の過回転又はオーバーランの予兆が示されていると判定する。例えば図6の直線LBに示すように、基準値生成部30によって生成された基準値Aよりも回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが大きく、且つ、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが一定で正の値である場合には、異常予兆判定部34は、過給機8の過回転の予兆が示されていると判定する。なお、過給機8の「過回転」とは、過給機8の回転数が過給機8の許容回転数を超えることを意味する。過給機8の「許容回転数」とは、過給機8の損傷を回避するために過給機8の設計上設定される回転数の上限を意味する。この許容回転数は、設計上設定される回転数の上限に対して安全側にマージンを設けた値であってもよい。
【0032】
例えば図6の曲線LCに示すように、基準値生成部30によって生成された基準値Aよりも回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが大きく、且つ、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが時間の経過とともに大きくなる場合には、異常予兆判定部34は、過給機8のオーバーランの予兆が示されていると判定する。過給機8の「オーバーラン」とは、過給機8の回転数Ntが過給機8の許容回転数を超えて更に上昇し過給機8の破壊に至る回転数まで上昇することを意味する。オーバーランの主な原因は、エンジン6の燃焼異常である。エンジンの燃焼異常は、例えば、排気管内の未燃燃料や燃焼室に漏れ出た潤滑油などが燃焼する現象を含む。
【0033】
例えば図6の曲線LD及びLαに示すように、基準値生成部30によって生成された基準値Aよりも回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが小さい場合には、過給機8の内部損傷の予兆が示されていると判定する。基準値Aよりも過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが小さい場合は、曲線LDに示すように時間変化率dNt/dtが時間の経過とともに小さくなる場合と、曲線Lαに示すように時間変化率dNt/dtが一定である場合(回転数Ntが直線LA1に対して時間の経過とともに一定の割合で小さくなる場合)の両方を含む。なお、過給機8の内部損傷とは、例えば、過給機8の不図示の軸受(ジャーナル軸受又はスラスト軸受)の損傷により過給機8のシャフト8cを含むロータの回転抵抗が正常状態よりも大きくなっている状態、及び、上記ロータ(コンプレッサ8aのインペラ、タービン8bのインペラ及びシャフト8cのうち少なくとも1つ)が過給機8の内部構成部品(過給機8の軸受以外の部品)に接触することにより当該回転体の回転抵抗が正常状態よりも大きくなっている状態、のうち少なくとも一方に該当する状態を意味する。
【0034】
例えば図6の曲線LE1及び直線LE2に示すように、エンジン6の負荷が一定の状態において、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率が0よりも大きい場合には、異常予兆判定部34は、過給機8の過回転又はオーバーランの予兆が示されていると判定する。なお、エンジン6の負荷が一定の状態とは、エンジン6の負荷の整定状態、すなわちエンジン6の負荷指令値が一定の状態(エンジン6の負荷上げ及び負荷下げの何れの指令も出されていない状態)を意味する。
【0035】
例えば図6の曲線LF1及び直線LF2に示すように、エンジン6の負荷が一定の状態において、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが0よりも小さい場合には、異常予兆判定部34は、過給機8の内部損傷の予兆が示されていると判定する。
【0036】
図7に示す発電用エンジンの例では、図7の上段部に示すように、期間b1においてエンジン6の回転数Neは時間に比例して増加し、期間b1に続く期間b2~b4ではエンジン6の回転数Neは一定(例えば定格回転数)に維持される。また、エンジン6の負荷Lは、期間b1及びb2において0であり、期間b3において時間に比例して増加し、期間b4において一定(例えば定格負荷)に維持される。この場合、期間b1の基準値Aは値であり、期間b2の基準値Aは0であり、期間b3の基準値Aは正の値であり、期間b4の基準値Aは0である。図7において、直線LA3は期間b1の基準値Aを傾きとする直線であり、直線LA4は期間b2の基準値Aを傾きとする直線であり、直線LA5は期間b3の基準値Aを傾きとする直線であり、直線LA6は期間b4の基準値Aを傾きとする直線である。
【0037】
例えば図7の直線LGに示すように、基準値生成部30によって生成された基準値Aよりも回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが大きく、且つ、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが一定で正の値である場合には、異常予兆判定部34は、過給機8の過回転の予兆が示されていると判定する。
【0038】
例えば図7の曲線LH及び曲線LIに示すように、基準値生成部30によって生成された基準値Aよりも回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが大きく、且つ、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが時間の経過とともに大きくなる場合には、異常予兆判定部34は、過給機8のオーバーランの予兆が示されていると判定する。
【0039】
例えば図7の曲線LJ及び曲線LKに示すように、エンジン6の負荷が一定の状態において、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが0よりも大きい場合には、異常予兆判定部34は、過給機8の過回転又はオーバーランの予兆が示されていると判定する。
【0040】
例えば図7の曲線LL及び曲線LMに示すように、エンジン6の負荷が一定の状態において、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが0よりも小さい場合には、異常予兆判定部34は、過給機8の内部損傷の予兆が示されていると判定する。
【0041】
例えば図7の曲線Lβ及び曲線Lγに示すように、基準値生成部30によって生成された基準値Aよりも回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが小さい場合には、過給機8の内部損傷の予兆が示されていると判定する。基準値Aよりも過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが小さい場合は、曲線Lγに示すように時間変化率dNt/dtが時間の経過とともに小さくなる場合と、曲線Lβに示すように時間変化率dNt/dtが一定である場合(回転数Ntが直線LA5に対して時間の経過とともに一定の割合で小さくなる場合)の両方を含む。
【0042】
図8は、エンジン6の負荷パラメータを時間に比例して低下させる期間cについて、時間と過給機8の回転数Ntとの関係を示す図である。図8は、エンジン6が舶用主機エンジンである場合及びエンジン6が発電用エンジンである場合に共通の一例を示している。
【0043】
図8に示す例では、基準値生成部30によって生成された期間cの基準値Aは負の値であり、直線LA7は、期間cの基準値Aを傾きとする直線である。
【0044】
例えば図8の曲線LNに示すように、基準値生成部30によって生成された基準値Aよりも回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが大きく、且つ、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが時間の経過とともに大きくなる場合には、異常予兆判定部34は、過給機8のオーバーランの予兆が示されていると判定する。
【0045】
例えば図8の曲線LOに示すように、基準値生成部30によって生成された基準値Aよりも回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが小さく、且つ、回転数時間変化率算出部32によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが時間の経過とともに小さくなる場合には、過給機8の内部損傷の予兆が示されていると判定する。
【0046】
上記過給機異常予兆判定装置24によれば、エンジン6の負荷パラメータの時系列データとエンジン過給機相関情報とに基づいて、過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの基準値Aを生成し、過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データと、生成した基準値Aとに基づいて、過給機8の異常状態の予兆を判定することができる。これにより、エンジン6の負荷が変化する過渡状態であっても、過給機8の複数種類の異常状態の予兆(過給機8の過回転の予兆、過給機8のオーバーランの予兆及び過給機8の内部異常の予兆)を速やかに判定することができる。
【0047】
また、直近の複数サイクルにおける負荷パラメータの平均と過給機8の回転数の平均との比率を示すエンジン過給機相関情報を用いることにより、図5Bに示すように周囲環境条件(例えば温度、気圧、エンジン6の使用燃料、エンジン6における燃料の噴射タイミングや着火タイミングの変更などのエンジン6の仕様変更、の少なくとも1つ)や経年劣化によって負荷パラメータと過給機の回転数との相関関係が変化しても、過給機8の異常状態の予兆を精度良く判定することができる。
【0048】
幾つかの実施形態では、図3に示すように、過給機異常予兆判定装置24は、アラーム信号発信部36を備えていてもよい。アラーム信号発信部36は、過給機8の過回転の予兆、過給機8のオーバーランの予兆又は過給機8の内部損傷の予兆が示されていると異常予兆判定部34が判定した場合に、異常予兆判定部の判定結果に基づくアラーム信号を発信する。これにより、異常予兆判定部34の判定結果を報知することができる。
【0049】
幾つかの実施形態では、図3に示すように、過給機異常予兆判定装置24は、バルブ制御信号発信部38を備えていてもよい。バルブ制御信号発信部38は、過給機8の過回転の予兆又は過給機8のオーバーランの予兆が示されていると異常予兆判定部34が判定した場合に、(1)図1に示す吸気通路10における過給機8の下流側の圧力を低下させるための安全弁14の開度、又は、(2)排気通路12における過給機8を迂回するバイパス通路16に設けられたバイパス弁18の開度、を大きくするためのバルブ制御信号を発信する。これにより、(1)の安全弁14の開度を大きくするためのバルブ制御信号を発信する場合にはエンジンに過剰な圧縮空気を送ることを抑制することができ、(2)のバイパス弁18の開度を大きくするためのバルブ制御信号を発信する場合には過給機8の過回転又はオーバーランの発生を抑制することができる。なお、仮にバイパス通路16によって排ガスの全量をバイパスさせた場合、過給機8は運転できず、エンジン6に圧縮空気を送れなくなるため、エンジン6は停止することとなる。その為、エンジン6の停止を回避したい場合には、排ガスの全量をバイパスさせずに過給機8の運転を維持し、エンジン6側で所望する空気量及び圧力となるように安全弁14の開度を調整してもよい。
【0050】
幾つかの実施形態では、図3に示すように、過給機異常予兆判定装置24は、相関情報更新部40を備えていてもよい。相関情報更新部40は、基準値生成部30によって生成された基準値A(例えば図9に示す例における直線LA1の傾き)と、エンジン6の負荷の上昇時の過給機8の回転数の時系列データから回転数時間変化率算出部32によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dt(図9に示す例における直線LPの傾き)との差分に基づいて、過給機8の性能劣化の度合を判定する。相関情報更新部40は、該差分が大きいほど(回転数時間変化率算出部32によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtが基準値Aに対して小さくなるほど)過給機8の性能劣化の度合が深刻であると判定する。ここで、比較対象となる基準値Aは、運転試験時や運航開始初期の時点の値であってもよいし、前回のメンテナンスの時点の値であってもよい。
【0051】
そして、相関情報更新部40は、判定した過給機8の性能劣化の度合に応じて、相関情報記憶部35に記憶されたエンジン過給機相関情報が示す負荷パラメータと過給機8の回転数との相関関係を更新する。例えば、相関情報更新部40は、判定した過給機8の性能劣化の度合が深刻であるほど、過給機相関情報が示す負荷パラメータに対する過給機8の回転数Ntの傾き(例えば図5Aに示す直線の傾き、すなわちdNt/dL又はdNt/dNe)が小さくなるように、相関情報記憶部35に記憶されたエンジン過給機相関情報が示す負荷パラメータと過給機8の回転数Ntとの相関関係を更新する。また、過給機8の性能劣化の度合が予め定めた規定レベルよりも深刻であると相関情報更新部40が判定した場合には、アラーム信号発信部36(図3参照)がアラーム信号を発信してもよい。
【0052】
このように、エンジン6の負荷の上昇時の過給機8の回転数の時間変化率と基準値Aとの差分に基づいて過給機8の性能劣化の度合を判定し、判定した性能劣化の度合に応じてエンジン過給機相関情報を更新することにより、過給機8の性能劣化の度合を考慮して過給機8の異常状態の予兆を精度良く判定することができる。
【0053】
幾つかの実施形態では、例えば図9の上段部に示すようにエンジン6の負荷パラメータが一定の状態において、過給機8の回転数の基準値(図9に示す例における直線LA2に対応する値)と、過給機回転数取得部28によって取得した過給機8の回転数Nt(図9に示す例における直線LQに対応する回転数Nt)との差に基づいて過給機8の性能劣化の度合を判定してもよい。この場合においても、相関情報更新部40は、判定した過給機8の性能劣化の度合に応じて、相関情報記憶部35に記憶されたエンジン過給機相関情報が示す負荷パラメータと過給機8の回転数Ntとの相関関係を更新してもよい。これにより、過給機8の性能劣化の度合を考慮して過給機8の異常状態の予兆を精度良く判定することができる。また、過給機8の性能劣化の度合が予め定めた規定レベルよりも深刻であると判定した場合には、アラーム信号発信部36(図3参照)がアラーム信号を発信してもよい。
【0054】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0055】
例えば、図3に例示した構成では、相関情報記憶部35を過給機異常予兆判定装置24が備えていたが、相関情報記憶部35は過給機異常予兆判定装置24の外部に設けられていてもよい。
【0056】
上述した実施形態では、バルブ制御信号発信部38は、過給機8の過回転の予兆又は過給機8のオーバーランの予兆が示されていると異常予兆判定部34が判定した場合に、(1)図1に示す吸気通路10における過給機8の下流側の圧力を低下させるための安全弁14の開度、又は、(2)排気通路12における過給機8を迂回するバイパス通路16に設けられたバイパス弁18の開度、を大きくするためのバルブ制御信号を発信した。
ただし、バルブ制御信号発信部38は、過給機8の過回転の予兆又は過給機8のオーバーランの予兆が示されていると異常予兆判定部34が判定した場合に、(1)図1に示す吸気通路10における過給機8の下流側の圧力を低下させるための安全弁14の開度を大きくするためのバルブ制御信号、及び、(2)排気通路12における過給機8を迂回するバイパス通路16に設けられたバイパス弁18の開度を大きくするためのバルブ制御信号、の両方を発信してもよい。
このように、バルブ制御信号発信部38は、過給機8の過回転の予兆又は過給機8のオーバーランの予兆が示されていると異常予兆判定部34が判定した場合に、(1)図1に示す吸気通路10における過給機8の下流側の圧力を低下させるための安全弁14の開度を大きくするためのバルブ制御信号、及び、(2)排気通路12における過給機8を迂回するバイパス通路16に設けられたバイパス弁18の開度を大きくするためのバルブ制御信号、のうち少なくとも一方のバルブ制御信号を発信してもよい。
【0057】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0058】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常予兆判定装置(例えば上述の過給機異常予兆判定装置24)は、
過給機(例えば上述の過給機8)の異常状態の予兆を判定するための過給機異常予兆判定装置であって、
エンジン(例えば上述のエンジン6)の負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部(例えば上述の負荷パラメータ取得部26)と、
前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得部(例えば上述の過給機回転数取得部28)と、
前記エンジン負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の基準値を生成する基準値生成部(例えば上述の基準値生成部30)と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数の時系列データから前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出部(例えば上述の回転数時間変化率算出部32)と、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データと、前記基準値生成部によって生成された前記基準値とに基づいて、前記過給機の異常状態の予兆を判定するように構成された異常予兆判定部(例えば上述の異常予兆判定部34)と、
を備える。
【0059】
上記(1)に記載の過給機異常予兆判定装置によれば、エンジンの負荷パラメータの時系列データとエンジン過給機相関情報とに基づいて、過給機の回転数の時間変化率の基準値を生成し、過給機の回転数の時間変化率の時系列データと、生成した基準値とに基づいて、過給機の異常状態の予兆を判定することができる。これにより、エンジンが一定負荷または一定回転数の定常運転状態のみならず、エンジンの負荷が変化する過渡状態であっても過給機の異常状態の予兆を速やかに判定することができる。また、異常予兆の種類についても判定することができる。
【0060】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の過給機異常予兆判定装置において、
前記異常予兆判定部は、前記基準値生成部によって生成された前記基準値よりも前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が大きく、且つ、前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が一定で正の値である場合に、前記過給機の過回転の予兆が示されていると判定するように構成される。
【0061】
上記(2)に記載の過給機異常予兆判定装置によれば、エンジンが一定負荷または一定回転数の定常運転状態のみならず、エンジンの負荷が変化する過渡状態であっても過給機の過回転の予兆を速やかに判定することができる。
【0062】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の過給機異常予兆判定装置において、
前記異常予兆判定部は、前記基準値生成部によって生成された前記基準値よりも前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が大きく、且つ、前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が時間の経過とともに大きくなる場合には、前記過給機のオーバーランの予兆が示されていると判定するように構成される。
【0063】
上記(3)に記載の過給機異常予兆判定装置によれば、エンジンが一定負荷または一定回転数の定常運転状態のみならず、エンジンの負荷が変化する過渡状態であっても過給機のオーバーランの予兆を速やかに判定することができる。
【0064】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかに記載の過給機異常予兆判定装置において、
前記異常予兆判定部は、前記基準値生成部によって生成された前記基準値よりも前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が小さく、且つ、前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が時間の経過とともに小さくなる場合には、前記過給機の内部損傷の予兆が示されていると判定するように構成される。
【0065】
上記(4)に記載の過給機異常予兆判定装置によれば、エンジンが一定負荷または一定回転数の定常運転状態のみならず、エンジンの負荷が変化する過渡状態であっても過給機の内部損傷の予兆を速やかに判定することができる。
【0066】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかに記載の過給機異常予兆判定装置において、
前記異常予兆判定部は、前記エンジンの前記負荷パラメータが一定の状態において、前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が0より大きい場合には、前記過給機のオーバーランの予兆が示されていると判定するように構成される。
【0067】
上記(5)に記載の過給機異常予兆判定装置によれば、エンジンの負荷が一定の状態において過給機のオーバーランの予兆を速やかに判定することができる。
【0068】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかに記載の過給機異常予兆判定装置において、
前記異常予兆判定部は、前記エンジンの前記負荷パラメータが一定の状態において、前記回転数時間変化率算出部によって算出された前記過給機の回転数の時間変化率が0よりも小さい場合には、前記過給機の内部損傷の予兆が示されていると判定するように構成される。
【0069】
上記(6)に記載の過給機異常予兆判定装置によれば、エンジンの負荷が一定の状態において過給機の内部損傷の予兆を速やかに判定することができる。
【0070】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れかに記載の過給機異常予兆判定装置において、
前記エンジンの負荷の上昇時の前記過給機の回転数の時系列データから前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率と、前記基準値生成部によって生成された前記基準値との差分に基づいて、前記過給機の性能劣化の度合を判定し、前記エンジン過給機相関情報が示す前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を前記性能劣化の前記度合に応じて更新するように構成された相関情報更新部(例えば上述の相関情報更新部40)を更に備える。
【0071】
上記(7)に記載の過給機異常予兆判定装置によれば、過給機の性能劣化の度合を考慮して過給機の異常状態の予兆を精度良く判定することができる。
【0072】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかに記載の過給機異常予兆判定装置において、
前記エンジンの始動から停止までを1サイクルとすると、前記エンジン過給機相関情報は、複数のサイクルにおける前記負荷パラメータの平均と前記複数のサイクルにおける前記過給機の回転数の平均との比率を示す。
【0073】
上記(8)に記載の過給機異常予兆判定装置によれば、直近の複数サイクルにおける上記比率を示すエンジン過給機相関情報を用いることにより、周囲環境条件(例えば温度、気圧、エンジンの使用燃料、の少なくとも1つ)や経年劣化によって負荷パラメータと過給機の回転数との相関関係が変化しても、過給機の異常状態の予兆を精度良く判定することができる。
【0074】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れかに記載の過給機異常予兆判定装置において、
前記過給機の過回転の予兆、前記過給機のオーバーランの予兆又は前記過給機の内部損傷の予兆が示されていると前記異常予兆判定部が判定した場合に、前記異常予兆判定部の判定結果に基づくアラーム信号を発信するように構成されたアラーム信号発信部(例えば上述のアラーム信号発信部36)を更に備える。
【0075】
上記(9)に記載の過給機異常予兆判定装置によれば、給機の過回転の予兆、過給機のオーバーランの予兆又は過給機の内部損傷の予兆をアラーム信号により報知することができる。
【0076】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)の何れかに記載の過給機異常予兆判定装置において、
前記過給機の過回転の予兆又は前記過給機のオーバーランの予兆が示されていると前記異常予兆判定部が判定した場合に、前記エンジンに接続する吸気通路における前記過給機の下流側の圧力を低下させるための安全弁の開度を大きくするためのバルブ制御信号、及び、エンジンに接続する排気通路における前記過給機を迂回するバイパス通路に設けられたバイパス弁の開度を大きくするためのバルブ制御信号、のうち少なくとも一方のバルブ制御信号を発信するように構成されたバルブ制御信号発信部(例えば上述のバルブ制御信号発信部38)を更に備える。
【0077】
上記(10)に記載の過給機異常予兆判定装置によれば、過給機の過回転又は過給機のオーバーランの発生を抑制することができる。
【0078】
(11)本開示の少なくとも一実施形態に過給機異常予兆判定方法は、
過給機の異常状態の予兆を判定するための過給機異常予兆判定方法であって、
エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するエンジン負荷パラメータ取得ステップと、
前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得ステップと、
前記エンジン負荷パラメータ取得ステップで取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の基準値を生成する基準値生成ステップと、
前記過給機回転数取得ステップで取得した前記過給機の回転数の時系列データから前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出ステップと、
前記回転数時間変化率算出ステップで算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データと、前記基準値生成ステップで生成した前記基準値とに基づいて、前記過給機の異常状態の予兆を判定する異常予兆判定ステップと、
を備える。
【0079】
上記(11)に記載の過給機異常予兆判定方法によれば、エンジンの負荷パラメータの時系列データとエンジン過給機相関情報とに基づいて、過給機の回転数の時間変化率の基準値を生成し、過給機の回転数の時間変化率の時系列データと、生成した基準値とに基づいて、過給機の異常状態の予兆を判定することができる。これにより、エンジンが一定負荷または一定回転数の定常運転状態のみならず、エンジンの負荷が変化する過渡状態であっても過給機の異常状態の予兆を速やかに判定することができる。また、異常予兆の種類についても判定することができる。
【符号の説明】
【0080】
2 エンジンシステム
6 エンジン
8 過給機
8a コンプレッサ
8b タービン
8c シャフト
10 吸気通路
12 排気通路
14 安全弁
16 バイパス通路
18 バイパス弁
20 負荷センサ
22 回転数センサ
24 過給機異常予兆判定装置
26 負荷パラメータ取得部
28 過給機回転数取得部
30 基準値生成部
32 回転数時間変化率算出部
34 異常予兆判定部
35 相関情報記憶部
36 アラーム信号発信部
38 バルブ制御信号発信部
40 相関情報更新部
72 プロセッサ
74 RAM
76 ROM
78 HDD
80 入力I/F
82 出力I/F
84 バス
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9