(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】過給機異常判定装置及び過給機異常判定方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240307BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D43/00 301Y
F02D45/00 360Z
F02D45/00 364G
F02D45/00 364Z
F02D45/00 369
(21)【出願番号】P 2021051310
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 哲也
(72)【発明者】
【氏名】金澤 真吾
(72)【発明者】
【氏名】冨田 勲
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190413(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154105(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/145021(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/146827(WO,A1)
【文献】実開昭64-15749(JP,U)
【文献】特開2016-20672(JP,A)
【文献】特開2013-19319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機の異常状態を判定するための過給機異常判定装置であって、
エンジンの負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出部と、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、正の値と負の値との入れ替わりを第1単位時間内に所定回数以上有している場合に、前記過給機の内部に異常が発生していると判定するように構成された異常判定部と、
を備える、過給機異常判定装置。
【請求項2】
前記所定回数は2回以上である、請求項1に記載の過給機異常判定装置。
【請求項3】
前記第1単位時間は、前記過給機回転数取得部によって取得する前記過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期の2倍以上10倍以下の時間である、請求項1に記載の過給機異常判定装置。
【請求項4】
前記第1単位時間は、前記過給機回転数取得部によって取得する前記過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期の3倍以上5倍以下の時間である、請求項2に記載の過給機異常判定装置。
【請求項5】
前記エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の基準値を生成する基準値生成部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数について、第2単位時間毎の移動平均を算出するように構成された移動平均算出部と、
を更に備え、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、正の値と負の値との入れ替わりを前記第1単位時間内に複数回有している第1区間を含み、且つ、前記移動平均算出部によって前記第1区間について算出した前記過給機の回転数の前記移動平均が前記基準値生成部によって生成した前記過給機の回転数の基準値を下回っている場合に、前記過給機の内部に異常が発生していると前記異常判定部が判定するように構成された、請求項1乃至4の何れか1項に記載の過給機異常判定装置。
【請求項6】
前記第2単位時間は、前記過給機回転数取得部によって取得する前記過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期の2倍以上10倍以下の時間である、請求項5に記載の過給機異常判定装置。
【請求項7】
前記エンジンの始動から停止までを1サイクルとすると、前記エンジン過給機相関情報は、複数のサイクルにおける前記負荷パラメータの平均と前記複数のサイクルにおける前記過給機の回転数の平均との比率を示す、請求項5に記載の過給機異常判定装置。
【請求項8】
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合が第3単位時間以上である場合に、前記エンジンの燃焼の異常に起因する前記過給機の異常が生じていると前記異常判定部が判定するように構成された、請求項1に記載の過給機異常判定装置。
【請求項9】
前記第3単位時間は、前記過給機回転数取得部によって取得する前記過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期の2倍以上10倍以下の時間である、請求項8に記載の過給機異常判定装置。
【請求項10】
前記エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の基準値を生成する基準値生成部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数について、第2単位時間毎の移動平均を算出するように構成された移動平均算出部と、
を備え、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値のみを有する前記第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が負の値のみを有する前記第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が前記第3単位時間以上であり、且つ、前記第2区間及び前記第3区間の各々において、前記移動平均算出部によって算出した前記過給機の回転数の前記移動平均が前記基準値生成部によって生成した前記過給機の回転数の基準値を上回っている場合に、前記エンジンの燃焼の異常に起因する前記過給機の異常が生じていると前記異常判定部が判定するように構成された、請求項8又は9に記載の過給機異常判定装置。
【請求項11】
前記エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の基準値を生成する基準値生成部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数について、第2単位時間毎の移動平均を算出するように構成された移動平均算出部と、
を備え、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が負の値のみを有する前記第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値のみを有する前記第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が前記第3単位時間以上であり、且つ、前記第2区間及び前記第3区間の各々において、前記移動平均算出部によって算出した前記過給機の回転数の前記移動平均が前記基準値生成部によって生成した前記過給機の回転数の基準値を下回っている場合に、前記エンジンの燃焼の異常に起因する前記過給機の異常が生じていると前記異常判定部が判定するように構成された、請求項8又は9に記載の過給機異常判定装置。
【請求項12】
過給機の異常状態を判定するための過給機異常判定装置であって、
エンジンの負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出部と、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が第3単位時間以上である場合に、前記エンジンの燃焼に起因する前記過給機の異常が生じていると判定するように構成された異常判定部と、
を備える、過給機異常判定装置。
【請求項13】
前記第3単位時間は、前記過給機回転数取得部によって取得する前記過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期の2倍以上10倍以下の時間である、請求項12に記載の過給機異常判定装置。
【請求項14】
前記エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の基準値を生成する基準値生成部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数について、第2単位時間毎の移動平均を算出するように構成された移動平均算出部と、
を備え、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値のみを有する前記第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が負の値のみを有する前記第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が前記第3単位時間以上であり、且つ、前記第2区間及び前記第3区間の各々において、前記移動平均算出部によって算出した前記過給機の回転数の前記移動平均が前記基準値生成部によって生成した前記過給機の回転数の基準値を上回っている場合に、前記エンジンの燃焼の異常に起因する前記過給機の異常が生じていると前記異常判定部が判定するように構成された、請求項12又は13に記載の過給機異常判定装置。
【請求項15】
前記エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータの時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の基準値を生成する基準値生成部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数について、第2単位時間毎の移動平均を算出するように構成された移動平均算出部と、
を備え、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が負の値のみを有する前記第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値のみを有する前記第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が前記第3単位時間以上であり、且つ、前記第2区間及び前記第3区間の各々において、前記移動平均算出部によって算出した前記過給機の回転数の前記移動平均が前記基準値生成部によって生成した前記過給機の回転数の基準値を下回っている場合に、前記エンジンの燃焼の異常に起因する前記過給機の異常が生じていると前記異常判定部が判定するように構成された、請求項12又は13に記載の過給機異常判定装置。
【請求項16】
過給機の異常状態を判定するための過給機異常判定方法であって、
エンジンの負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得する過給機回転数取得ステップと、
前記過給機回転数取得ステップで取得した前記過給機の回転数の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出ステップと、
前記回転数時間変化率算出ステップで算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、正の値と負の値との入れ替わりを第1単位時間内に所定回数以上有している場合に、前記過給機の内部に異常が発生していると判定する異常判定ステップと、
を備える、過給機異常判定方法。
【請求項17】
過給機の異常状態を判定するための過給機異常判定方法であって、
エンジンの負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得する過給機回転数取得ステップと、
前記過給機回転数取得ステップで取得した前記過給機の回転数の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出ステップと、
前記回転数時間変化率算出ステップで算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が第3単位時間以上である場合に、前記エンジンの燃焼に起因する前記過給機の異常が生じていると判定する異常判定ステップと、
を備える、過給機異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、過給機異常判定装置及び過給機異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンの停止後における過給機の回転数の時系列データについて該回転数の勾配を算出し、算出した勾配に基づいて過給機の軸受部の潤滑不良や損傷を判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、エンジンの停止後における過給機の回転数の時系列データに基づいて過給機の軸受部の潤滑不良や損傷等を判定するため、エンジンの運転中に過給機の異常を判定することはできない。このため、エンジンの運転中に過給機に異常が発生した場合に、異常が発生してから異常を把握するまでに大きな時間遅れ生じてしまう。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態は、エンジンの運転中に過給機の異常をわずかな時間遅れで把握することを可能とする過給機異常判定装置及び過給機異常判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常判定装置は、
過給機の異常状態を判定するための過給機異常判定装置であって、
エンジンの負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出部と、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、正の値と負の値との入れ替わりを第1単位時間内に所定回数以上有している場合に、前記過給機の内部に異常が発生していると判定するように構成された異常判定部と、
を備える。
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常判定装置は、
過給機の異常状態を判定するための過給機異常判定装置であって、
エンジンの負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得部と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出部と、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が第3単位時間以上である場合に、前記エンジンの燃焼に起因する前記過給機の異常が生じていると判定するように構成された異常判定部と、
を備える。
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常判定方法は、
過給機の異常状態を判定するための過給機異常判定方法であって、
エンジンの負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得する過給機回転数取得ステップと、
前記過給機回転数取得ステップで取得した前記過給機の回転数の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出ステップと、
前記回転数時間変化率算出ステップで算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、正の値と負の値との入れ替わりを第1単位時間内に所定回数以上有している場合に、前記過給機の内部に異常が発生していると判定する異常判定ステップと、
を備える。
【0009】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常判定方法は、
過給機の異常状態を判定するための過給機異常判定方法であって、
エンジンの負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得する過給機回転数取得ステップと、
前記過給機回転数取得ステップで取得した前記過給機の回転数の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データを算出する回転数時間変化率算出ステップと、
前記回転数時間変化率算出ステップで算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が第3単位時間以上である場合に、前記エンジンの燃焼に起因する前記過給機の異常が生じていると判定する異常判定ステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、エンジンの運転中に過給機の異常をわずかな時間遅れで把握することを可能とする過給機異常判定装置及び過給機異常判定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る過給機異常判定装置24を備えるエンジンシステム2の概略構成図である。
【
図2】
図1に示した過給機異常判定装置24のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】
図1及び
図2に示した過給機異常判定装置24の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図3に示した過給機異常判定装置24を用いた過給機8の異常判定のフローの一例を示す図である。
【
図5A】エンジン過給機相関情報の一例を示す図である。
【
図5B】エンジン過給機相関情報の算出方法の一例を示す図である。
【
図6A】エンジン6の負荷パラメータ(エンジン6の負荷L又は回転数Ne)が一定範囲内に収まっている状態における、時間とエンジン6の負荷パラメータとの関係の一例を示す図である。
【
図6B】
図5Aに示した期間における、時間と過給機8の回転数Ntとの関係の一例を示す図である。
【
図7A】エンジン6の負荷パラメータ(エンジン6の負荷L又は回転数Ne)が一定範囲内に収まっている状態における、時間とエンジン6の負荷パラメータとの関係の一例を示す図である。
【
図7B】
図6Aに示した期間における、時間と過給機8の回転数Ntとの関係の一例を示す図である。
【
図7C】
図6Aに示した期間における、時間と過給機8の回転数Ntとの関係の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
図1は、一実施形態に係る過給機異常判定装置24を備えるエンジンシステム2の概略構成図である。
図1に示すように、エンジンシステム2は、エンジン6、過給機8、吸気通路10、排気通路12、負荷センサ20、回転数センサ22及び過給機異常判定装置24を備える。エンジン6の構成は特に限定されず、エンジン6は、例えば舶用主機エンジンであってもよいし、発電用エンジンであってもよい。
【0014】
過給機8は、エンジン6に接続する吸気通路10に設けられたコンプレッサ8a、エンジン6に接続する排気通路12に設けられたタービン8b、及び、コンプレッサ8aとタービン8bとを連結するシャフト8cを含む。コンプレッサ8a、タービン8b及びシャフト8cは同軸上に連結されており、一体的に回転するように構成されている。エンジン6の排気が排気通路12を介してタービン8bに供給されることによりタービン8bが回転し、タービン8bにシャフト8cを介して連結されたコンプレッサ8aが駆動して空気を圧縮する。コンプレッサ8aによって圧縮された空気は吸気通路10を介してエンジン6に供給される。
【0015】
負荷センサ20は、エンジン6の負荷パラメータを検出するように構成されている。負荷センサ20によって検出するエンジン6の負荷パラメータは、エンジン6の負荷Lであってもよいし、エンジン6の回転数Neであってもよい。エンジン6の負荷パラメータは、ガバナ信号であってもよいし、ロードインジケータの値であってもよい。また、エンジン6がディーゼルエンジンである場合には、エンジン6の負荷パラメータは、エンジン6が備える不図示の燃料噴射ポンプにおける燃料調整ラックの目盛の値であってもよい。また、エンジン6がガスエンジン又はガソリンエンジンである場合には、エンジン6の負荷パラメータはエンジン6が備える不図示のスロットル弁のスロットル開度であってもよい。
回転数センサ22は、過給機8の回転数Ntを検出するように構成されている。
【0016】
過給機異常判定装置24は、過給機の異常状態を判定するように構成されている。以下、過給機異常判定装置24について説明する。
【0017】
図2は、
図1に示した過給機異常判定装置24のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3は、
図1及び
図2に示した過給機異常判定装置24の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図4は、
図3に示した過給機異常判定装置24を用いた過給機8の異常判定のフローの一例を示す図である。
【0018】
図2に示すように、過給機異常判定装置24は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ72、RAM(Random Access Memory)74、ROM(Read Only Memory)76、HDD (Hard Disk Drive)78、入力I/F80、及び出力I/F82を含み、これらがバス84を介して互いに接続されたコンピュータを用いて構成される。なお、過給機異常判定装置24のハードウェア構成は上記に限定されず、制御回路と記憶装置との組み合わせにより構成されてもよい。また過給機異常判定装置24は、過給機異常判定装置24の各機能を実現するプログラムをコンピュータが実行することにより構成される。以下で説明する過給機異常判定装置24における各部の機能は、例えばROM76に保持されるプログラムをRAM74にロードしてプロセッサ72で実行するとともに、RAM74やROM76におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0019】
図3に示すように、過給機異常判定装置24は、過給機回転数取得部28、回転数時間変化率算出部30、移動平均算出部32、負荷パラメータ取得部34、基準値生成部36、相関情報記憶部38、異常判定部40及びアラーム信号発信部42等を備える。以下、
図3に示す過給機異常判定装置24の各部の機能について、
図4に示す異常判定のフローを用いて説明する。
【0020】
S11において、過給機回転数取得部28は、エンジン6の負荷が一定範囲内に収まっている状態における過給機8の回転数Ntの時系列データを取得する。エンジン6が発電用エンジンの場合には、エンジン6の負荷が一定範囲内に収まっている状態とは、エンジン6によって駆動する発電機の周波数の異常が発報されない状態を意味してもよい。また、エンジン6が舶用主機エンジンである場合には、エンジン6の負荷が一定範囲内に収まっている状態とは、ガバナ指令信号によりエンジンの回転数Ne又は負荷Lが設定値に維持できる状態を意味してもよい。
【0021】
S12において、回転数時間変化率算出部30は、S11で過給機回転数取得部28によって取得した過給機8の回転数Ntの時系列データに基づいて、エンジン6の負荷が一定範囲内に収まっている状態における過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データを算出する。回転数時間変化率算出部30は、過給機回転数取得部28によって取得した過給機8の回転数Ntを各時間において時間微分することにより、過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データを算出する。
【0022】
S13において、移動平均算出部32は、S11で過給機回転数取得部28によって取得した過給機8の回転数Ntについて、予め定められた所定の単位時間u2毎の移動平均を算出する。ここで、単位時間u2は、過給機回転数取得部28によって取得する過給機の回転数Ntの時系列データのサンプリング周期(過給機8の回転数Ntをサンプリングする時間間隔)の2倍以上10倍以下の時間であってもよく、より好ましくは、該サンプリング周期の3倍以上5倍以下の時間であってもよい。
【0023】
S14において、負荷パラメータ取得部34は、S11で取得した回転数Ntの時系列データに対応する期間における、エンジン6の負荷パラメータ(エンジン6の負荷L又は回転数Ne)の時系列データを負荷センサ20から取得する。
【0024】
S15において、基準値生成部36は、負荷パラメータ取得部34によって取得したエンジン6の負荷パラメータの時系列データと、相関情報記憶部38から読み出したエンジン過給機相関情報とに基づいて、過給機8の回転数の基準値A
Ntを生成する。このエンジン過給機相関情報は、
図5Aに示すように、エンジン6の負荷パラメータ(負荷L又は回転数Ne)と過給機8の回転数Ntとの相関関係を示す相関情報であり、相関情報記憶部38に記憶されている。基準値生成部36は、負荷パラメータ取得部34によって取得したエンジン6の負荷パラメータの時系列データを、エンジン過給機相関情報を参照して過給機8の回転数の基準値A
Ntの時系列データに変換する。なお、エンジン6の負荷が一定である状態とは、エンジン6の負荷の整定状態、すなわちエンジン6の負荷指令値が一定の状態(エンジン6の負荷上げ及び負荷下げの何れの指令も出されていない状態)を意味する。
【0025】
なお、エンジン6の始動から停止までを1サイクルとすると、エンジン過給機相関情報は、例えば直近の複数のサイクル(例えば数十サイクル程度)における負荷パラメータの平均と該直近の複数のサイクルにおける過給機8の回転数Ntの平均との比率(Nt/L又はNt/Ne)であってもよいし、過給機8の運用開始前に行った試験結果に基づいて定められてもよいし、過給機8の運用開始直後の負荷パラメータと過給機8の回転数Ntとの相関関係であってもよい。
【0026】
S16において、異常判定部40は、回転数時間変化率算出部30によって算出された過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データと、移動平均算出部32によって算出した過給機8の回転数の移動平均Ntaveと、基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値ANtとに基づいて、過給機8の異常状態を判定する。異常判定部40は、後述するように、過給機8の内部に異常が発生しているか否か、及び、エンジン6の燃焼の異常に起因する過給機8の異常が発生しているか否かを判定する。
【0027】
【0028】
図6Aは、エンジン6の負荷パラメータ(エンジン6の負荷L又は回転数Ne)が一定範囲内に収まっている状態における、時間とエンジン6の負荷パラメータとの関係の一例を示す図である。
図6Bは、
図6Aに示した期間における、時間と過給機8の回転数Ntとの関係の一例を示す図である。
図6Bにおいて、実線は過給機回転数取得部28によって取得した過給機8の回転数Ntを示しており、太い破線は移動平均算出部32によって算出した過給機8の回転数の移動平均Nt
aveを示しており、細い破線は基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値A
Ntを示している。
【0029】
例えば
図6Bに示すように、回転数時間変化率算出部30によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、予め定められた所定の単位時間u1内に正の値と負の値との入れ替わりを予め定められた所定回数nth以上有している第1区間s1を含み、且つ、移動平均算出部32によって第1区間s1について算出した過給機8の回転数の移動平均Nt
aveが、基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値A
Ntを下回っている場合に、異常判定部40は、過給機8の内部に異常が発生していると判定する。一方、回転数時間変化率算出部30によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、正の値と負の値との入れ替わりを単位時間u1内に上記所定回数nth以上有していない場合には、異常判定部40は、過給機8の内部に異常が発生していないと判定する。また、移動平均算出部32によって第1区間s1について算出した過給機の回転数の移動平均Nt
aveが基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値A
Ntを下回っていない場合には、異常判定部40は、過給機8の内部に異常が発生していないと判定する。
【0030】
ここで、過給機8の内部の異常とは、過給機8の内部損傷が発生している状態を意味し、例えば、過給機8の不図示の軸受(ジャーナル軸受又はスラスト軸受)の損傷により過給機8のシャフト8cを含むロータの回転抵抗が正常状態よりも大きくなっている状態、及び、上記ロータ(コンプレッサ8aのインペラ、タービン8bのインペラ及びシャフト8cのうち少なくとも1つ)が過給機8の内部構成部品(過給機8の軸受以外の部品)に接触することにより当該回転体の回転抵抗が正常状態よりも大きくなっている状態、のうち少なくとも一方に該当する状態を意味する。また、単位時間u1は、過給機回転数取得部28によって取得する過給機8の回転数Ntの時系列データのサンプリング周期(過給機8の回転数Ntが取得される時間間隔)の2倍以上10倍以下の時間であってもよく、より好ましくは、該サンプリング周期の3倍以上5倍以下の時間であってもよく、上述の単位時間u2と同一であってもよい。また、上記所定回数nthは、好ましくは2回以上であってもよく、より好ましくは3回以上である。
【0031】
図7Aは、エンジン6の負荷パラメータ(エンジン6の負荷L又は回転数Ne)が一定範囲内に収まっている状態における、時間とエンジン6の負荷パラメータとの関係の一例を示す図である。
図7Bは、
図7Aに示した期間における、時間と過給機8の回転数Ntとの関係の一例を示す図である。
図7Cは、
図7Aに示した期間における、時間と過給機8の回転数Ntとの関係の他の一例を示す図である。
図7B及び
図7Cの各々において、実線は過給機回転数取得部28によって取得した過給機8の回転数Ntを示しており、太い破線は移動平均算出部32によって算出した過給機8の回転数の移動平均Nt
aveを示しており、細い破線は基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値A
Ntを示している。
【0032】
回転数時間変化率算出部30によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、時間変化率dNt/dtが正の値のみを有する第2区間s2と、第2区間s2の後において第2区間s2に連続し、時間変化率dNt/dtが負の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間s2の時間長さt2と第3区間s3の時間長さt3の合計(t2+t3)が予め定められた所定の単位時間u3以上であり、且つ、第2区間s2及び第3区間s3の各々において、移動平均算出部32によって算出した過給機8の回転数の移動平均Ntaveが基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値ANtを上回っている場合には、エンジン6の燃焼の異常に起因する過給機8の異常が生じていると異常判定部40が判定する。
【0033】
回転数時間変化率算出部30によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、時間変化率dNt/dtが負の値のみを有する第2区間s2と、第2区間s2に連続し、時間変化率dNt/dtが正の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間s2の時間長さt2と第3区間s3の時間長さt3の合計(t2+t3)が単位時間u3以上であり、且つ、第2区間s2及び第3区間s3の各々において、移動平均算出部32によって算出した過給機8の回転数の移動平均Ntaveが基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値ANtを下回っている場合には、エンジン6の燃焼の異常に起因する過給機8の異常が生じていると異常判定部40が判定する。
【0034】
なお、回転数時間変化率算出部30によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、時間変化率dNt/dtが正の値のみを有する第2区間s2と、第2区間s2に連続し、時間変化率dNt/dtが負の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間s2の時間長さt2と第3区間s3の時間長さt3の合計(t2+t3)が単位時間u3未満である場合には、エンジン6の燃焼の異常に起因する過給機8の異常が生じていないと異常判定部40が判定する。
【0035】
また、回転数時間変化率算出部30によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、時間変化率dNt/dtが正の値のみを有する第2区間s2と、第2区間s2に連続し、時間変化率dNt/dtが負の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間s2の時間長さt2と第3区間s3の時間長さt3の合計(t2+t3)が予め定められた所定の単位時間u3以上であり、且つ、第2区間s2及び第3区間s3の各々において、移動平均算出部32によって算出した過給機8の回転数の移動平均Ntaveが基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値ANtを上回っていない場合には、エンジン6の燃焼の異常に起因する過給機8の異常が生じていないと異常判定部40が判定する。
【0036】
また、回転数時間変化率算出部30によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、時間変化率dNt/dtが負の値のみを有する第2区間s2と、第2区間s2に連続し、時間変化率dNt/dtが正の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間s2の時間長さt2と第3区間s3の時間長さt3の合計(t2+t3)が単位時間u3以上であり、且つ、第2区間s2及び第3区間s3の各々において、移動平均算出部32によって算出した過給機8の回転数の移動平均Ntaveが基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値ANtを下回っていない場合には、エンジン6の燃焼の異常に起因する過給機8の異常が生じていないと異常判定部40が判定する。
【0037】
単位時間u3は、過給機回転数取得部28によって取得する過給機8の回転数Ntの時系列データのサンプリング周期(過給機8の回転数Ntが取得される時間間隔)の2倍以上10倍以下の時間であってもよく、より好ましくは、該サンプリング周期の3倍以上5倍以下の時間であってもよく、上述の単位時間u2と同一であってもよい。
【0038】
幾つかの実施形態では、
図3に示すように、過給機異常判定装置24は、異常判定部40の判定結果に基づいてアラーム信号を発信するアラーム信号発信部42を備えていてもよい。アラーム信号発信部42は、例えば、異常判定部40が過給機8の内部に異常が発生していると判定した場合には、異常判定部40が過給機8の内部に異常が発生していることを報知するためのアラーム信号を発信してもよいし、過給機8のメンテナンスを促すアラーム信号を発信してもよい。アラーム信号発信部42は、例えば、異常判定部40がエンジン6の燃焼の異常に起因する異常が過給機8に発生していると判定した場合には、エンジン6の燃焼の異常に起因する異常が過給機8に発生していることを報知するためのアラーム信号を発信してもよいし、エンジン6のメンテナンスを促すアラーム信号を発信してもよい。これにより、異常判定部40の判定結果に基づく適切な情報を発信することができる。
【0039】
次に、上述した過給機異常判定装置24が奏する効果について説明する。
本願発明者の鋭意検討の結果、エンジン6の負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、単位時間u1内に正の値と負の値との入れ替わりを所定回数nth以上有している第1区間s1を含み、且つ、該第1区間s1について算出した過給機の回転数の移動平均Ntaveがエンジンの負荷パラメータに応じた過給機8の回転数の基準値ANtを下回っている場合には、過給機8の内部に異常が発生している可能性が高いことが判明した。
【0040】
そこで、上記過給機異常判定装置24では、上述のように、エンジン6の負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、単位時間u1内に正の値と負の値との入れ替わりを所定回数nth以上有している区間s1を含み、且つ、移動平均算出部32によって区間s1について算出した過給機の回転数の移動平均Ntaveが、基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値ANtを下回っている場合に、異常判定部40は、過給機8の内部に異常が発生していると判定する。
【0041】
これにより、過給機8の内部の異常をエンジン6の運転中に精度良く判定することができる。また、エンジン6側の性能や負荷に異常が現れる状態だけでなく、エンジン6側の性能や負荷に異常が現れない状態であっても、過給機8の異常を把握することが可能となる。
【0042】
また、仮に、エンジン6側のパラメータ(エンジン6の性能や負荷等)のみによって過給機8の異常を判定する場合には、高速で回転する過給機8の異常の兆候がエンジン6側の性能や負荷の異常に表れるまでに大きな時間遅れが生じてしまうのに対して、上記過給機異常判定装置24では、過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtに基づいて異常を判定することにより、異常の発生からわずかな時間遅れで異常を把握することが可能となる。
また、過給機8の入口や出口の温度や圧力の変化によって過給機8の異常を判定する従来の方法と比較して、過給機8の内部の異常の発生からわずかな時間遅れで異常を把握することが可能となる。また、過給機の回転数の移動平均Ntaveを考慮して過給機8の異常を判定しているため、過給機8の内部の異常を精度良く判定することが可能となる。
【0043】
また、単位時間u1及びu2の各々を過給機8の回転数Ntの時系列データのサンプリング周期の2倍以上10倍以下(より好ましくは、該サンプリング周期の3倍以上5倍以下)の時間に設定することにより、過給機8の内部の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0044】
また、本願発明者の鋭意検討の結果、エンジン6の負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間s2と、第2区間s2の後に第2区間s2に連続し、時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間s2の時間長さと第3区間s3の時間長さの合計が所定時間u3以上である場合に、エンジン6の燃焼に起因する過給機8の異常が生じている可能性が高いことが判明した。
【0045】
具体的には、エンジン6側で瞬間的な過剰燃焼やエンジン6の排気管内での発火等が生じた場合には、タービンへ流入する排ガスのエネルギーが上昇して
図7Bに示したように過給機の回転数が瞬間的に上昇し、エンジン側で失火等が生じた場合には
図7Cに示したように過給機の回転数が低下する。
【0046】
そこで、エンジン6の負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、時間変化率dNt/dtが正の値のみを有する第2区間s2と、第2区間s2に連続し、時間変化率dNt/dtが負の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間s2の時間長さt2と第3区間s3の時間長さt3の合計が単位時間u3以上であり、且つ、第2区間s2及び第3区間s3の各々において、移動平均算出部32によって算出した過給機8の回転数の移動平均Ntaveが基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値ANtを上回っている場合に、エンジン6の燃焼に起因する過給機8の異常が生じている(より詳細にはエンジン側で燃焼室に漏れ出た潤滑油に起因する瞬間的な過剰燃焼やエンジンの排気管内での未燃燃料の発火等が生じている)と異常判定部40が判定する。
【0047】
また、エンジン6の負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、時間変化率dNt/dtが負の値のみを有する第2区間s2と、第2区間s2に連続し、時間変化率dNt/dtが正の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間s2の時間長さt2と第3区間s3の時間長さt3の合計が単位時間u3以上であり、且つ、第2区間s2及び第3区間s3の各々において、移動平均算出部32によって算出した過給機8の回転数の移動平均Ntaveが基準値生成部36によって生成した過給機8の回転数の基準値ANtを下回っている場合に、エンジン6の燃焼に起因する過給機8の異常が生じている可能性がある(エンジン6側で失火等が生じている可能性がある)と異常判定部40が判定する。
【0048】
これにより、エンジン6の燃焼の異常に起因する過給機8の異常が生じているか否かをエンジン6の運転中に精度良く判定することができる。また、単位時間u2及びu3の各々を過給機8の回転数Ntの時系列データのサンプリング周期の2倍以上10倍以下(より好ましくは、該サンプリング周期の3倍以上5倍以下)の時間に設定することにより、該判定の精度を高めることができる。
【0049】
また、直近の複数サイクルにおける負荷パラメータの平均と過給機8の回転数の平均との比率を示すエンジン過給機相関情報を用いることにより、
図5Bに示すように、周囲環境条件(例えば温度、気圧、エンジンの使用燃料、エンジンにおける燃料の噴射タイミングや着火タイミングの変更などのエンジンの仕様変更、の少なくとも1つ)や経年劣化によって負荷パラメータと過給機の回転数との相関関係が変化しても、過給機8の異常状態を精度良く判定することができる。
【0050】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0051】
例えば、異常判定部40は、回転数時間変化率算出部30によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、予め定められた所定の単位時間u1内に正の値と負の値との入れ替わりを予め定められた所定回数nth以上有している場合に、過給機8の回転数の移動平均Ntaveの値に関わらず、過給機8の内部に異常が発生していると判定してもよい。ただし、上述のように過給機8の回転数の移動平均Ntaveを考慮することで判定の精度を高めることができる。
【0052】
また、異常判定部40は、回転数時間変化率算出部30によって算出した過給機8の回転数の時間変化率dNt/dtの時系列データが、時間変化率dNt/dtが正の値のみを有する第2区間s2と、第2区間s2に連続し、時間変化率dNt/dtが負の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間s2の時間長さt2と第3区間s3の時間長さt3の合計が単位時間u3以上である場合に、過給機8の回転数の移動平均Ntaveの値に関わらず、エンジン6の燃焼の異常に起因する過給機の異常が生じていると判定してもよい。ただし、上述のように過給機8の回転数の移動平均Ntaveを考慮することで判定の精度を高めることができる。
【0053】
また、
図7Bに示した例では、過給機8の回転数Ntが回転数Ntのデータのサンプリング周期の数倍程度の時間をかけて上昇及び低下する場合を示し、
図7Cに示した例では、過給機8の回転数Ntが回転数Ntのデータのサンプリング周期の数倍程度の時間をかけて低下及び上昇する場合を示したが、
図7Bに示した回転数Ntの変動のパターンと
図7Cに示した回転数Ntの変動のパターンとが組み合わさった場合においても、各変動毎に異常の有無を同様に判定すればよい。
【0054】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0055】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常判定装置(例えば上述の過給機異常判定装置24)は、
過給機(例えば上述の過給機8)の異常状態を判定するための過給機異常判定装置であって、
エンジン(例えば上述のエンジン6)の負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数(例えば上述の回転数Nt)の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得部(例えば上述の過給機回転数取得部28)と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率(例えば上述の時間変化率dNt/dt)の時系列データを算出する回転数時間変化率算出部(例えば上述の回転数時間変化率算出部30)と、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、正の値と負の値との入れ替わりを第1単位時間(例えば上述の単位時間u1)内に所定回数(例えば上述の所定回数nth)以上有している場合に、前記過給機の内部に異常が発生していると判定するように構成された異常判定部(例えば上述の異常判定部40)と、
を備える。
【0056】
本願発明者の鋭意検討の結果、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、第1単位時間内に正の値と負の値との入れ替わりを所定回数以上有している場合には、過給機の内部に異常が発生している可能性が高いことが判明した。
そこで、上記(1)に記載の過給機異常判定装置では、上述のように、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態において算出した過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、第1単位時間内に正の値と負の値との入れ替わりを所定回数以上有している場合に、過給機の内部に異常が発生していると判定する。
これにより、過給機の内部の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。また、エンジン側の性能や負荷に異常が現れる状態だけでなく、エンジン側の性能や負荷に異常が現れない状態であっても、過給機の異常を把握することが可能となる。
また、仮に、エンジン側のパラメータ(エンジンの性能や負荷等)のみによって過給機の異常を判定する場合には、高速で回転する過給機の異常の兆候がエンジン側の性能や負荷の異常に表れるまでに大きな時間遅れが生じてしまうのに対して、上記(1)に記載の過給機異常判定装置では、過給機の回転数の時間変化率に基づいて過給機の内部の異常を判定することにより、異常の発生からわずかな時間遅れで異常を把握することが可能となる。
また、過給機の入口や出口の温度や圧力の変化によって過給機の異常を判定する従来の方法と比較して、過給機の内部の異常の発生からわずかな時間遅れで異常を把握することが可能となる。
【0057】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の過給機異常判定装置において、
前記所定回数は2回以上である。
【0058】
上記(2)に記載の過給機異常判定装置によれば、過給機の内部の異常とは無関係な回転数の変動が上記(1)の判定に与える影響を低減することができ、過給機の内部の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0059】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の過給機異常判定装置において、
前記第1単位時間は、前記過給機回転数取得部によって取得する前記過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期の2倍以上10倍以下の時間である。
【0060】
上記(3)に記載の過給機異常判定装置によれば、上記(1)の第1単位時間を過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期に応じた適切な時間に設定することにより、過給機の内部の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0061】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)に記載の過給機異常判定装置において、
前記第1単位時間は、前記過給機回転数取得部によって取得する前記過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期の3倍以上5倍以下の時間である。
【0062】
上記(4)に記載の過給機異常判定装置によれば、上記(1)の第1単位時間を過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期に応じた適切な時間に設定することにより、過給機の内部の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0063】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかに記載の過給機異常判定装置において、
前記エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータ(例えば上述の負荷L又は回転数Ne)の時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部(例えば上述の負荷パラメータ取得部34)と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の基準値(例えば上述の基準値ANt)を生成する基準値生成部(例えば上述の基準値生成部36)と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数について、第2単位時間(例えば上述の単位時間u2)毎の移動平均(例えば上述の移動平均Ntave)を算出するように構成された移動平均算出部(例えば上述の移動平均算出部32)と、
を更に備え、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、正の値と負の値との入れ替わりを前記第1単位時間内に複数回有している第1区間(例えば上述の第1区間s1)を含み、且つ、前記移動平均算出部によって前記第1区間について算出した前記過給機の回転数の前記移動平均が前記基準値生成部によって生成した前記過給機の回転数の基準値を下回っている場合に、前記過給機の内部に異常が発生していると前記異常判定部が判定するように構成される。
【0064】
上記(5)に記載の過給機異常判定装置によれば、上記(1)の異常判定部に係る条件に加えて、エンジンの負荷パラメータに基づいて算出した過給機の回転数の基準値よりも過給機の回転数の移動平均が下回っている場合に、過給機の内部に異常が発生していると判定することにより、過給機の内部の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0065】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載の過給機異常判定装置において、
前記第2単位時間は、前記過給機回転数取得部によって取得する前記過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期の2倍以上10倍以下の時間である。
【0066】
上記(6)に記載の過給機異常判定装置によれば、上記(5)の第2単位時間を過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期に応じた適切な時間に設定することにより、過給機の内部の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0067】
(7)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載の過給機異常判定装置において、
前記エンジンの始動から停止までを1サイクルとすると、前記エンジン過給機相関情報は、複数のサイクルにおける前記負荷パラメータの平均と前記複数のサイクルにおける前記過給機の回転数の平均との比率を示す。
【0068】
上記(7)に記載の過給機異常判定装置によれば、直近の複数サイクルにおける上記比率を示すエンジン過給機相関情報を用いることにより、周囲環境条件(例えば温度、気圧、エンジンの使用燃料、エンジンにおける燃料の噴射タイミングや着火タイミングの変更などのエンジンの仕様変更、の少なくとも1つ)や経年劣化によって負荷パラメータと過給機の回転数との相関関係が変化しても、過給機の異常状態を精度良く判定することができる。
【0069】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかに記載の過給機異常判定装置において、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間(例えば上述の第2区間s2)と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間(例えば上述の第3区間s3)とを含む場合において、前記第2区間の時間長さ(例えば上述の時間長さt2)と前記第3区間の時間長さ(例えば上述の時間長さt3)の合計が第3単位時間(例えば上述の単位時間u3)以上である場合に、前記エンジンの燃焼の異常に起因する前記過給機の異常が生じていると前記異常判定部が判定するように構成される。
【0070】
エンジン側で瞬間的な過剰燃焼やエンジンの排気管内での発火等が生じた場合には、タービンへ流入する排ガスのエネルギーが上昇して過給機の回転数が瞬間的に上昇し、エンジン側で失火等が生じた場合には過給機の回転数が低下する。本願発明者の鋭意検討の結果、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間と、第2区間に連続し、時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間の時間長さと第3区間の時間長さの合計が過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期よりも十分大きい場合に、エンジンの燃焼に起因する過給機の異常が生じている可能性が高いことが判明した。
そこで、上記(7)に記載のようにエンジンの燃焼の異常に起因する過給機の異常が生じていると異常判定部が判定することにより、エンジンの燃焼起因する過給機の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0071】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載の過給機異常判定装置において、
前記第3単位時間は、前記過給機回転数取得部によって取得する前記過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期の2倍以上10倍以下の時間である。
【0072】
上記(9)に記載の過給機異常判定装置によれば、上記(8)の第3単位時間を過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期に応じた適切な時間に設定することにより、過給機の内部の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0073】
(10)幾つかの実施形態では、上記(8)又は(9)に記載の過給機異常判定装置において、
前記エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータ(例えば上述の負荷L又は回転数Ne)の時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部(例えば上述の負荷パラメータ取得部34)と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の基準値(例えば上述の基準値ANt)を生成する基準値生成部(例えば上述の基準値生成部36)と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数について、第2単位時間毎の移動平均(例えば上述の移動平均Ntave)を算出するように構成された移動平均算出部(例えば上述の移動平均算出部32)と、
を備え、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値のみを有する前記第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が負の値のみを有する前記第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が前記第3単位時間以上であり、且つ、前記第2区間及び前記第3区間の各々において、前記移動平均算出部によって算出した前記過給機の回転数の前記移動平均が前記基準値生成部によって生成した前記過給機の回転数の基準値を上回っている場合に、前記エンジンの燃焼の異常に起因する前記過給機の異常が生じていると前記異常判定部が判定するように構成される。
【0074】
エンジン側で瞬間的な過剰燃焼やエンジンの排気管内での発火等が生じた場合には、タービンへ流入する排ガスのエネルギーが上昇し、過給機の回転数が瞬間的に上昇する。本願発明者の鋭意検討の結果、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、時間変化率が正の値のみを有する第2区間と、第2区間に連続し、時間変化率が負の値のみを有する第3区間とを含む場合において、第2区間の時間長さと第3区間の時間長さの合計が過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期よりも十分大きく、且つ、第2区間及び第3区間の各々において、過給機の回転数の移動平均がエンジンの負荷パラメータに応じた過給機の回転数の基準値を上回っている場合に、エンジンの燃焼に起因する過給機の異常が生じている(より詳細にはエンジン側で燃焼室に漏れ出た潤滑油に起因する瞬間的な過剰燃焼やエンジンの排気管内での未燃燃料の発火等が生じている)可能性が高いことが判明した。
このため、上記(10)に記載のようにエンジンの燃焼の異常に起因する過給機の異常を判定することにより、エンジンの燃焼起因する過給機の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0075】
(11)幾つかの実施形態では、上記(8)乃至(10)の何れかに記載の過給機異常判定装置において、
前記エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータ(例えば上述の負荷L又は回転数Ne)の時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部(例えば上述の負荷パラメータ取得部34)と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の基準値(例えば上述の基準値ANt)を生成する基準値生成部(例えば上述の基準値生成部36)と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数について、第2単位時間(例えば上述の単位時間u2)毎の移動平均(例えば上述の移動平均Ntave)を算出するように構成された移動平均算出部(例えば上述の移動平均算出部32)と、
を備え、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が負の値のみを有する前記第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値のみを有する前記第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が前記第3単位時間以上であり、且つ、前記第2区間及び前記第3区間の各々において、前記移動平均算出部によって算出した前記過給機の回転数の前記移動平均が前記基準値生成部によって生成した前記過給機の回転数の基準値を下回っている場合に、前記エンジンの燃焼の異常に起因する前記過給機の異常が生じていると前記異常判定部が判定するように構成される。
【0076】
エンジン側で失火等が生じた場合には過給機の回転数が低下する。本願発明者の鋭意検討の結果、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、時間変化率が負の値のみを有する第2区間と、第2区間に連続し、時間変化率が正の値のみを有する第3区間とを含む場合において、第2区間の時間長さと第3区間の時間長さの合計が過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期よりも十分大きく、且つ、第2区間及び第3区間の各々において、過給機の回転数の移動平均がエンジンの負荷パラメータに応じた過給機の回転数の基準値を下回っている場合に、エンジンの燃焼に起因する過給機の異常が生じている可能性が高い(エンジン側で失火等が生じている可能性が高い)と判明した。
このため、上記(11)に記載のようにエンジンの燃焼の異常に起因する過給機の異常を判定することにより、エンジンの燃焼起因する過給機の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0077】
(12)本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常判定装置は、
過給機(例えば上述の過給機8)の異常状態を判定するための過給機異常判定装置(例えば上述の過給機異常判定装置24)であって、
エンジン(例えば上述のエンジン6)の負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得するように構成された過給機回転数取得部(例えば上述の過給機回転数取得部28)と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率(例えば上述の時間変化率dNt/dt)の時系列データを算出する回転数時間変化率算出部(例えば上述の回転数時間変化率算出部30)と、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間(例えば上述の第2区間s2)と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間(例えば上述の時間長さt2)とを含む場合において、前記第2区間の時間長さ(例えば上述の時間長さt2)と前記第3区間の時間長さ(例えば上述の時間長さt3)の合計が第3単位時間(例えば上述の単位時間u3)以上である場合に、前記エンジンの燃焼に起因する前記過給機の異常が生じていると判定するように構成された異常判定部と、
を備える。
【0078】
エンジン側で瞬間的な過剰燃焼やエンジンの排気管内での発火等が生じた場合には、過給機の回転数が瞬間的に上昇し、エンジン側で失火等が生じた場合には過給機の回転数が低下する。本願発明者の鋭意検討の結果、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間と、第2区間に連続し、時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間の時間長さと第3区間の時間長さの合計が過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期よりも十分大きい場合に、エンジンの燃焼に起因する過給機の異常が生じている可能性が高いことが判明した。
そこで、上記(12)に記載のようにエンジンの燃焼の異常に起因する過給機の異常が生じていると異常判定部が判定することにより、エンジンの燃焼起因する過給機の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0079】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)に記載の過給機異常判定装置において、
前記第3単位時間は、前記過給機回転数取得部によって取得する前記過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期の2倍以上10倍以下の時間である。
【0080】
上記(13)に記載の過給機異常判定装置によれば、上記(12)の第3単位時間を過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期に応じた適切な時間に設定することにより、過給機の内部の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0081】
(14)幾つかの実施形態では、上記(12)又は(13)に記載の過給機異常判定装置において、
前記エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータ(例えば上述の負荷L又は回転数Ne)の時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部(例えば上述の負荷パラメータ取得部34)と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の基準値(例えば上述の基準値ANt)を生成する基準値生成部(例えば上述の基準値生成部36)と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数について、第2単位時間(例えば上述の単位時間u2)毎の移動平均(例えば上述の移動平均Ntave)を算出するように構成された移動平均算出部(例えば上述の移動平均算出部32)と、
を備え、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値のみを有する前記第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が負の値のみを有する前記第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が前記第3単位時間以上であり、且つ、前記第2区間及び前記第3区間の各々において、前記移動平均算出部によって算出した前記過給機の回転数の前記移動平均が前記基準値生成部によって生成した前記過給機の回転数の基準値を上回っている場合に、前記エンジンの燃焼の異常に起因する前記過給機の異常が生じていると前記異常判定部が判定するように構成される。
【0082】
エンジン側で瞬間的な過剰燃焼やエンジンの排気管内での発火等が生じた場合には、過給機の回転数が瞬間的に上昇する。本願発明者の鋭意検討の結果、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、時間変化率が正の値のみを有する第2区間と、第2区間に連続し、時間変化率が負の値のみを有する第3区間とを含む場合において、第2区間の時間長さと第3区間の時間長さの合計が過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期よりも十分大きく、且つ、第2区間及び第3区間の各々において、過給機の回転数の移動平均がエンジンの負荷パラメータに応じた過給機の回転数の基準値を上回っている場合に、エンジンの燃焼に起因する過給機の異常が生じている(より詳細にはエンジン側で燃焼室に漏れ出た潤滑油に起因する瞬間的な過剰燃焼やエンジンの排気管内での未燃燃料の発火等が生じている)可能性が高いことが判明した。
このため、上記(14)に記載のようにエンジンの燃焼の異常に起因する過給機の異常を判定することにより、エンジンの燃焼起因する過給機の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0083】
(15)幾つかの実施形態では、上記(12)又は(13)に記載の過給機異常判定装置において、
前記エンジンの負荷又は回転数を示す負荷パラメータ(例えば上述の負荷L又は回転数Ne)の時系列データを取得するように構成された負荷パラメータ取得部(例えば上述の負荷パラメータ取得部34)と、
前記負荷パラメータ取得部によって取得した前記負荷パラメータの時系列データと、前記負荷パラメータと前記過給機の回転数との相関関係を示すエンジン過給機相関情報とに基づいて、前記過給機の回転数の基準値(例えば上述の基準値ANt)を生成する基準値生成部(例えば上述の基準値生成部36)と、
前記過給機回転数取得部によって取得した前記過給機の回転数について、第2単位時間(例えば上述の単位時間u2)毎の移動平均(例えば上述の移動平均Ntave)を算出するように構成された移動平均算出部(例えば上述の移動平均算出部32)と、
を備え、
前記回転数時間変化率算出部によって算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が負の値のみを有する前記第2区間と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値のみを有する前記第3区間とを含む場合において、前記第2区間の時間長さと前記第3区間の時間長さの合計が前記第3単位時間以上であり、且つ、前記第2区間及び前記第3区間の各々において、前記移動平均算出部によって算出した前記過給機の回転数の前記移動平均が前記基準値生成部によって生成した前記過給機の回転数の基準値を下回っている場合に、前記エンジンの燃焼の異常に起因する前記過給機の異常が生じていると前記異常判定部が判定するように構成される。
【0084】
エンジン側で失火等が生じた場合には過給機の回転数が低下する。本願発明者の鋭意検討の結果、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、時間変化率が負の値のみを有する第2区間と、第2区間に連続し、時間変化率が正の値のみを有する第3区間とを含む場合において、第2区間の時間長さと第3区間の時間長さの合計が過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期よりも十分大きく、且つ、第2区間及び第3区間の各々において、過給機の回転数の移動平均がエンジンの負荷パラメータに応じた過給機の回転数の基準値を下回っている場合に、エンジンの燃焼に起因する過給機の異常が生じている可能性が高い(エンジン側で失火等が生じている可能性が高い)と判明した。
このため、上記(15)に記載のようにエンジンの燃焼の異常に起因する過給機の異常を判定することにより、エンジンの燃焼起因する過給機の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【0085】
(16)本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常判定方法は、
過給機(例えば上述の過給機8)の異常状態を判定するための過給機異常判定方法であって、
エンジン(例えば上述のエンジン6)の負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得する過給機回転数取得ステップと、
前記過給機回転数取得ステップで取得した前記過給機の回転数(例えば上述の回転数Nt)の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率(例えば上述の時間変化率dNt/dt)の時系列データを算出する回転数時間変化率算出ステップと、
前記回転数時間変化率算出ステップで算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、正の値と負の値との入れ替わりを第1単位時間(例えば上述の単位時間u1)内に所定回数(例えば上述の所定回数nth)以上有している場合に、前記過給機の内部に異常が発生していると判定する異常判定ステップと、
を備える。
【0086】
本願発明者の鋭意検討の結果、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、第1単位時間内に正の値と負の値との入れ替わりを所定回数以上有している場合には、過給機の内部に異常が発生している可能性が高いことが判明した。
そこで、上記(16)に記載の過給機異常判定方法では、上述のように、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態について算出した過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、第1単位時間内に正の値と負の値との入れ替わりを所定回数以上有している場合に、過給機の内部に異常が発生していると判定する。
これにより、過給機の内部の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。また、エンジン側の性能や負荷に異常が現れる状態だけでなく、エンジン側の性能や負荷に異常が現れない状態であっても、過給機の異常を把握することが可能となる。
また、仮に、エンジン側のパラメータ(エンジンの性能や負荷等)のみによって過給機の異常を判定する場合には、高速で回転する過給機の異常の兆候がエンジン側の性能や負荷の異常に表れるまでに大きな時間遅れが生じてしまうのに対して、上記(16)に記載の過給機異常判定装方法では、過給機の回転数の時間変化率に基づいて過給機の内部の異常を判定することにより、異常の発生からわずかな時間遅れで異常を把握することが可能となる。
また、過給機の入口や出口の温度や圧力の変化によって過給機の異常を判定する従来の方法と比較して、過給機の内部の異常の発生からわずかな時間遅れで異常を把握することが可能となる。
【0087】
(17)本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機異常判定方法は、
過給機(例えば上述の過給機8)の異常状態を判定するための過給機異常判定方法であって、
エンジン(例えば上述のエンジン6)の負荷が一定範囲内に収まっている状態における前記過給機の回転数の時系列データを取得する過給機回転数取得ステップと、
前記過給機回転数取得ステップで取得した前記過給機の回転数(例えば上述の回転数Nt)の時系列データに基づいて、前記過給機の回転数の時間変化率(例えば上述の時間変化率dNt/dt)の時系列データを算出する回転数時間変化率算出ステップと、
前記回転数時間変化率算出ステップで算出した前記過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間(例えば上述の第2区間s2)と、前記第2区間に連続し、前記時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間(例えば上述の第3区間s3)とを含む場合において、前記第2区間の時間長さ(例えば上述の時間長さt2)と前記第3区間の時間長さ(例えば上述の時間長さt3)の合計が第3単位時間(例えば上述の単位時間u3)以上である場合に、前記エンジンの燃焼に起因する前記過給機の異常が生じていると判定する異常判定ステップと、
を備える。
【0088】
エンジン側で瞬間的な過剰燃焼やエンジンの排気管内での発火等が生じた場合には、過給機の回転数が瞬間的に上昇し、エンジン側で失火等が生じた場合には過給機の回転数が低下する。本願発明者の鋭意検討の結果、エンジンの負荷パラメータが一定範囲内に収まっている状態における過給機の回転数の時間変化率の時系列データが、時間変化率が正の値又は負の値のうち一方の値のみを有する第2区間と、第2区間に連続し、時間変化率が正の値又は負の値のうち他方の値のみを有する第3区間s3とを含む場合において、第2区間の時間長さと第3区間の時間長さの合計が過給機の回転数の時系列データのサンプリング周期よりも十分大きい場合に、エンジンの燃焼に起因する過給機の異常が生じている可能性が高いことが判明した。
そこで、上記(17)に記載のようにエンジンの燃焼の異常に起因する過給機の異常が生じていると判定することにより、エンジンの燃焼起因する過給機の異常をエンジンの運転中に精度良く判定することができる。
【符号の説明】
【0089】
2 エンジンシステム
6 エンジン
8 過給機
8a コンプレッサ
8b タービン
8c シャフト
10 吸気通路
12 排気通路
16 バイパス通路
20 負荷センサ
22 回転数センサ
24 過給機異常判定装置
28 過給機回転数取得部
30 回転数時間変化率算出部
32 移動平均算出部
34 負荷パラメータ取得部
36 基準値生成部
38 相関情報記憶部
40 異常判定部
42 アラーム信号発信部
72 プロセッサ
74 RAM
76 ROM
78 HDD
80 入力I/F
82 出力I/F
84 バス