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特許74498973次元モデル化支援装置、3次元モデル化支援方法及び3次元モデル化支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】3次元モデル化支援装置、3次元モデル化支援方法及び3次元モデル化支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 17/05 20110101AFI20240307BHJP
   G09B 29/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
G06T17/05
G09B29/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021077808
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022171259
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹觜 優輔
(72)【発明者】
【氏名】林 征弥
(72)【発明者】
【氏名】邊見 一考
(72)【発明者】
【氏名】畑瀬 紋子
【審査官】村松 貴士
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-086797(JP,A)
【文献】特開2007-108202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 11/60
G06T 17/05
G09B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検討対象地点からの3次元の高精度の眺望を生成させるための3次元モデル化支援装置であって、
高精度の3次元モデルを配置する前の3次元の基礎地図データを取得する基礎データ取得部と、
前記検討対象地点を中心に高精度の3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準を生成させる抽出基準生成部と、
前記抽出基準生成部によって生成された前記判定基準を前記基礎地図データに重ねて表示させる表示制御部とを備え、
前記判定基準は、前記検討対象地点からの近景範囲及び中景範囲に対して設定されることを特徴とする3次元モデル化支援装置。
【請求項2】
前記判定基準は、円筒形に形成される近景抽出部と、逆円錐形に形成される中景抽出部とによって構成されることを特徴とする請求項1に記載の3次元モデル化支援装置。
【請求項3】
前記置換対象物を決定する置換物特定部と、
前記置換対象物の高精度の3次元モデルと前記基礎地図データとの位置合わせを行う位置調整部とを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の3次元モデル化支援装置。
【請求項4】
検討対象地点からの3次元の高精度の眺望を生成させるための3次元モデル化支援方法であって、
高精度の3次元モデルを配置する前の3次元の基礎地図データを取得して表示装置に出力させるステップと、
前記検討対象地点を中心に高精度の3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準を生成して、前記表示装置に前記基礎地図データに重ねて表示させるステップとを備え、
前記検討対象地点からの近景範囲及び中景範囲に対して前記判定基準が表示されることを特徴とする3次元モデル化支援方法。
【請求項5】
前記置換対象物の高精度の3次元モデルを、前記基礎地図データに対して位置合わせするステップを備えたことを特徴とする請求項4に記載の3次元モデル化支援方法。
【請求項6】
検討対象地点からの3次元の高精度の眺望を生成させるための3次元モデル化支援プログラムであって、
高精度の3次元モデルを配置する前の3次元の基礎地図データを取得して表示装置に出力させる手順と、
前記検討対象地点を中心に高精度の3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準を生成して、前記表示装置に前記基礎地図データに重ねて表示させる手順とをコンピュータに実行させるにあたって、
前記検討対象地点からの近景範囲及び中景範囲に対して前記判定基準を表示させる処理を行わせることを特徴とする3次元モデル化支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検討対象地点からの3次元の高精度の眺望を生成させるための3次元モデル化支援装置、3次元モデル化支援方法及び3次元モデル化支援プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
Google Earth(登録商標)などの地図ツールは、広範なデータを適宜更新している公開データであり、目的に応じて利用するには有効である。例えば特許文献1には、物件の窓から見える昼夜の風景情報の生成や、建物内部に視点をおいて建物の外部に実際に見える眺望の画像や映像を表示する技術が開示されているが、風景情報は、インターネット上の風景生成サービスから得ている。
【0003】
また、特許文献2には、マンションの内部、あるいは外部の複数の視点からの画像を自動的に生成できる建築意匠シミュレーション装置が開示されている。この装置を使用して抽出結果に基づいて視点を指定することで、購入を希望する部屋からの眺望を予めシミュレーションによって知ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-81548号公報
【文献】特開2002-318821号公報
【文献】特表2018-522297号公報
【文献】特表2018-517952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような地図ツールのデータは、距離との相関がないうえに、形状を表すデータとしての精度が低い。一方において、特許文献3,4に開示されているように、コンピュータ上に高精度の3次元の建物などのデジタルモデルを作成する、BIM(Building Information Modeling)などの高精度の3次元モデルの存在が知られている。
【0006】
そこで本発明は、広範なデータが適宜更新される地図ツールの基礎地図データに、高精度の3次元モデルを併用させることで、有効かつ効率的な各種シミュレーションが行えるようになる3次元モデル化支援装置、3次元モデル化支援方法及び3次元モデル化支援プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の3次元モデル化支援装置は、検討対象地点からの3次元の高精度の眺望を生成させるための3次元モデル化支援装置であって、高精度の3次元モデルを配置する前の3次元の基礎地図データを取得する基礎データ取得部と、前記検討対象地点を中心に高精度の3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準を生成させる抽出基準生成部と、前記抽出基準生成部によって生成された前記判定基準を前記基礎地図データに重ねて表示させる表示制御部とを備え、前記判定基準は、前記検討対象地点からの近景範囲及び中景範囲に対して設定されることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記判定基準は、円筒形に形成される近景抽出部と、逆円錐形に形成される中景抽出部とによって構成させることができる。また、前記置換対象物を決定する置換物特定部と、前記置換対象物の高精度の3次元モデルと前記基礎地図データとの位置合わせを行う位置調整部とを備えた構成とすることができる。
【0009】
また、3次元モデル化支援方法の発明は、検討対象地点からの3次元の高精度の眺望を生成させるための3次元モデル化支援方法であって、高精度の3次元モデルを配置する前の3次元の基礎地図データを取得して表示装置に出力させるステップと、前記検討対象地点を中心に高精度の3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準を生成して、前記表示装置に前記基礎地図データに重ねて表示させるステップとを備え、前記検討対象地点からの近景範囲及び中景範囲に対して前記判定基準が表示されることを特徴とする。ここで、前記置換対象物の高精度の3次元モデルを、前記基礎地図データに対して位置合わせするステップを備えた構成とすることができる。
【0010】
さらに、3次元モデル化支援プログラムの発明は、検討対象地点からの3次元の高精度の眺望を生成させるための3次元モデル化支援プログラムであって、高精度の3次元モデルを配置する前の3次元の基礎地図データを取得して表示装置に出力させる手順と、前記検討対象地点を中心に高精度の3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準を生成して、前記表示装置に前記基礎地図データに重ねて表示させる手順とを備え、前記検討対象地点からの近景範囲及び中景範囲に対して前記判定基準を表示させる処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の3次元モデル化支援装置は、地図ツールの3次元の基礎地図データを取得する基礎データ取得部と、高精度の3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準を生成させる抽出基準生成部とを備えている。そして、表示制御部によって、抽出基準生成部により生成された判定基準を基礎地図データに重ねて表示させる。また、この判定基準は、検討対象地点からの近景範囲及び中景範囲に対して設定される。
【0012】
このように、広範なデータが適宜更新される利用しやすい基礎地図データに、高精度の3次元モデルを併用させることで、基礎地図データだけを利用するときよりも精度が高く、高精度の3次元モデルだけを利用するときよりも少ない負荷で、有効かつ効率的な各種シミュレーションが行えるようになる。
【0013】
また、高精度の3次元モデルに置き換える置換対象物を決定して、置換対象物の高精度の3次元モデルと基礎地図データとの位置合わせを行う位置調整部を備えることで、基礎地図データと高精度の3次元モデルとを、合理的に統合することができるようになる。
【0014】
さらに、3次元モデル化支援方法の発明及び3次元モデル化支援プログラムの発明についても、基礎地図データに高精度の3次元モデルを併用させることで、有効かつ効率的な各種シミュレーションが行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施の形態の3次元モデル化支援装置の構成を説明するブロック図である。
図2】本実施の形態の3次元モデル化支援方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
図3】高精度3次元モデルに置き換える範囲を概念的に示した説明図である。
図4】対象建物と中・近景範囲との関係を2次元地図上に示した説明図である。
図5】高精度3次元モデルに置き換える範囲を決定する処理の流れを説明するフローチャートである。
図6】置換対象物を抽出するための判定基準を断面で示した説明図である。
図7】置換対象物を抽出するための判定基準を3次元で示した説明図である。
図8】判定基準を基礎地図データに重ねて表示させた一例を示した説明図である。
図9】高精度3次元モデルと基礎地図データとの位置合わせの方法を概念的に示した説明図である。
図10】高精度3次元モデルと基礎地図データとの位置合わせの処理の流れを説明するフローチャートである。
図11】位置合わせを行う際に建物を回転させる方向を示した説明図である。
図12】位置合わせを行う際の調整方法Aを概念的に示した説明図である。
図13】位置合わせを行う際の調整方法Bを概念的に示した説明図である。
図14】位置合わせを行う際の調整方法Cを概念的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の3次元モデル化支援装置1の構成を説明するブロック図である。また、図2は、本実施の形態の3次元モデル化支援方法及び3次元モデル化支援プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
【0017】
本実施の形態の3次元モデル化支援装置1は、検討対象地点からの3次元の高精度の眺望を生成させるための装置である。例えば、検討対象地点に建設される対象建物の屋上や各階からの眺望を生成させるために、検討対象地点の周囲の建物(周辺建物)等を所望する精度の3次元モデルにするのを支援する装置である。
【0018】
本実施の形態の3次元モデル化支援装置1では、図1に示すように、3次元の基礎地図データが保存された基礎地図データベース21を利用する。基礎地図データとは、Google Earth(登録商標)や3D地図データ(株式会社ゼンリン)など、広範なデータを適宜更新している地図ツールの3次元地図データである。
【0019】
基礎地図データは、通常、建物などを正確な立体モデルにするための数値情報は持っていない。また、基礎地図データは、高精度である必要はないので、公開データとして入手しやすいものを使用すればよい。
【0020】
一方、高精度の3次元モデルとは、BIM(Building Information Modeling)などの3次元の数値情報を持った、高精度に作成される建物などのデジタルモデルのデータである。高精度の3次元モデルが保存された高精度3次元データベース22からは、すべての建物についての高精度3次元モデルが入手できるわけではないが、対象建物の周囲で、1つ以上の高精度3次元モデルが得られるだけでも、3次元の高精度の眺望の生成に寄与させることができる。
【0021】
基礎地図データベース21と高精度3次元データベース22とを使用する本実施の形態の3次元モデル化支援装置1は、演算処理部3と、記憶部4と、表示制御部5と、ディスプレイなどの表示装置6とを備えている。
【0022】
演算処理部3は、3次元の基礎地図データを取得するための基礎データ取得部31と、高精度の3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための抽出基準生成部32と、置換対象物を決定する置換物特定部33と、置換対象物の高精度3次元モデルと基礎地図データとの位置合わせを行う位置調整部34とによって主に構成される。
【0023】
抽出基準生成部32では、検討対象地点(対象建物)を中心にして、高精度3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するために、判定基準を生成する。なお、判定基準の詳細については、後述する。
【0024】
置換物特定部33では、判定基準に基づいて抽出された置換対象物の中から、高精度3次元データベース22にデータが存在するなど、置換の可能性や必要性を考慮しながら、最終的に高精度3次元モデルに置換する置換対象物を決定する。
【0025】
一方、位置調整部34では、特定された置換対象物の高精度3次元モデルを、基礎地図データ上に配置するに際して必要となる位置調整を行う。なお、位置調整の詳細については、後述する。
【0026】
演算処理部3に接続される表示制御部5では、表示装置6に、基礎地図データ、判定基準、高精度3次元モデルなどを表示させたり、これらを重ねて表示させたりする際の制御を行う。
【0027】
一方、記憶部4は、演算処理部3における処理時に生成されたデータや演算処理に必要なデータを記録させる記憶媒体で、ハードディスク、フラッシュメモリ、磁気ディスク、光ディスクなどが該当する。また、クラウドサーバを記憶部4として使用することもできる。
【0028】
以下では、高精度3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準の詳細について説明する。図3は、高精度3次元モデルに置き換える範囲について説明するための図である。
【0029】
本実施の形態の3次元モデル化支援装置1では、広範かつ適宜更新されている基礎地図データを効率的に活用しつつ、対象建物から見て近景域や中景域にあたる範囲には、高い精度を持った3次元モデルを作成して配置する。一方、遠景域にあたる精度が低くても問題のない範囲には、3次元の基礎地図データをそのまま活用することで、3次元モデルの取得や更新に関する負担や、シミュレーション時の演算負荷を低減できるようにする。
【0030】
具体的には、図4に示すように、対象建物を中心にして、近景域及び中景域となる半径X mの中・近景範囲に高精度3次元モデルを配置し、それより外側の領域については、基礎地図データをそのまま使用する。
【0031】
図5は、高精度3次元モデルに置き換える範囲を決定する処理の流れを説明するフローチャートである。また、図6は、高精度3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準Jを断面で示した説明図である。
【0032】
本実施の形態の3次元モデル化支援装置1では、高精度3次元モデルの作成範囲をフローに沿って決定することで、眺望シミュレーションに使えるだけでなく、環境解析にも使用可能な最小範囲のモデルを作成することができる。環境解析に必要となる範囲外は、基礎地図データの3次元モデルを用いることで、眺望シミュレーションのモデル作成時間の短縮が可能となる。
【0033】
まずステップS11では、眺望シミュレーションに要する範囲を範囲Aとして設定する。眺望用の範囲Aとしては、第1には、人間が視認することのできる距離の観点から導くことができる。東京大学工学博士である篠原修氏の「景観のデザインに関する基礎的研究」という論文によると、人間が目視で一つの物体を確認するいわゆる近景域の距離を340mまでと定義している。ここから、対象建物を中心とした半径340mの領域を、近景範囲として設定することができる。
【0034】
第2には、景観を客観的に認識する水平距離の指標として、「街並みの美学」(芦原義信、岩波現代文庫、2001.4.16)に、街並みなどを一望する際に、人間が建築を群として見渡せる仰角より、視点から建物高さの3倍の水平距離まで見渡すことが可能という記述がある。
【0035】
そこで、眺望シミュレーションの範囲Aとして、周辺建物高さの3倍に含まれる領域も加えることとする。周辺建物とは、対象建物の周辺に存在する建物であり、周辺建物の高さが高いほど「周辺建物高さの3倍」に該当する水平距離は長くなる。すなわち、対象建物から中景域にある建物であっても、高さが高ければ高精度3次元モデルに置き換えたほうがよいことになる。よって、対象建物を中心に半径340mかつ周辺建物高さの3倍の距離の範囲Aを、まずは高精度3次元モデルに置き換える範囲として設定する。
【0036】
続いてステップS12では、日影シミュレーションを行うか否かを判定する。対象建物が中高層建築物となる場合には、計画の公開が義務付けられており、住民説明会には、配置図、平・立面図、日影図の説明を求められることが多い。そこで、通常、日影検討が必要とされる、着工前の近隣住民への説明に要する範囲の観点も加えることとする。
【0037】
日影検証が実施される場合は、ステップS13に移行する。日影図の説明範囲の境界ラインは、「建築申請memo2020」(新日本法規 建築申請実務研究会編)によれば、計画建築物(対象建物)の外壁からの水平距離がその高さの2倍、すなわち建物高さの約2倍の距離が必要である。このことから、日影シミュレーションを採用する場合には、この数値を基準とすることができる。そこで、対象建物の高さの2倍の領域を、範囲Bとして設定する。
【0038】
さらにステップS14では、気流シミュレーションを行うか否かを判定する。そして、気流検証が実施される場合は、ステップS15に移行する。「ビル風の基礎知識」(風工学研究所、鹿島出版会、2005.11.23)によると、ビル建設において風速が増加影響する範囲は、建物高さの1倍~2倍とされており、風洞実験用の模型作成時には、それを上回る2倍~4倍の範囲を模型化する。
【0039】
このことから、3次元での気流シミュレーションを行う場合においても、最小の値となる2倍の距離を最低でも確保すれば、充分な検証結果を得ることが可能であると判断できる。そこで、対象建物の高さの3倍の領域を、風洞実験の際に模型化する必要がある範囲Cとして設定する。
【0040】
そして、ステップS16では、ここまでのステップで設定された範囲(A,B,C)の中から、最大値となる範囲を選択して、その範囲に基づいた置換対象物を抽出するための判定基準を生成する。
【0041】
例えば図6に示すように、対象建物高さをH0とし、周辺建物の最高高さをHとし、人間の目線の高さをhとする。ここで、人間が物体を認識可能な視野角は60°と言われている。また、上述したように街並みを群として捉えることができる仰角は18°(視点から建物高さの3倍の水平距離)となる。
【0042】
そこで、眺望シミュレーションの範囲A、日影シミュレーションの範囲B、気流シミュレーションの範囲Cの中から、最大値となる値を、対象建物(検討対象地点)からの近景範囲を設定する近景抽出部J1を表す距離aとして設定する。
【0043】
さらに、周辺建物の最高高さHの3倍を、対象建物(検討対象地点)からの中景範囲を設定する中景抽出部J2を表す距離bとして設定する。図7は、このようにして生成された置換対象物を抽出するための判定基準Jを、3次元で示した説明図である。
【0044】
このようにして設定された判定基準Jは、近景抽出部J1は円筒形に形成されるとともに、中景抽出部J2は逆円錐形に形成される。そして、図8が、判定基準Jを基礎地図データBMに重ねて表示させた一例を示した説明図である。
【0045】
この図に示すように、近景抽出部J1の範囲に入る基礎地図データBMの建物は、すべて高精度3次元モデルに置き換える置換対象物の候補となる。一方、中景抽出部J2の範囲については、逆円錐形の判定基準Jより上方に突出した基礎地図データBMの建物だけが、高精度3次元モデルに置き換える置換対象物の候補となる。
【0046】
次に、本実施の形態の3次元モデル化支援方法及び3次元モデル化支援プログラムの処理の流れについて、図2を参照しながら説明する。
まず、ステップS1では、基礎データ取得部31によって、基礎地図データベース21から基礎地図データの取り込みを行う。
【0047】
続いてステップS2では、抽出基準生成部32において、基礎地図データに存在する建物の中から、検討対象地点を中心に、高精度3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準Jを生成する処理を行う。判定基準Jは、上述したように、図5に示したフローによって決定された範囲に基づいて、図7に示すような円筒形と逆円錐形とを組み合わせた形状に生成される。
【0048】
ステップS3では、基礎地図データに重ねて判定基準Jが表示装置6に出力される(図8参照)。ここで、近景抽出部J1に干渉する建物と、中景抽出部J2に干渉する建物は、置換対象物の候補として、置換物特定部33によって自動的に抽出される(ステップS4)。なお、表示装置6に表示された基礎地図データ上の建物と判定基準Jとの干渉を目視で確認しながら、置換対象物の候補を手動で抽出していくこともできる。
【0049】
ここで、置換物特定部33の干渉チェックによって自動的に抽出された建物のすべてについて、高精度3次元データベース22に該当するデータが保存されているとは限らない。また、置換対象物として高精度3次元モデルに置き換えられる建物の数が多くなればなるほど、データ量が大きくなるので、その後のシミュレーションの機動性にも影響を及ぼすことになる。
【0050】
そこで、置換物特定部33で高精度3次元モデルに置き換える置換対象物を選択して、決定された置換対象物の高精度3次元モデルを、高精度3次元データベース22から取り込む(ステップS5)。
【0051】
ここで、基礎地図データベース21に記憶されている地図データは、地球儀上の標高、経緯度、方位といった座標に基づいて作成されている。一方、BIMなどの高精度3次元データベース22に記憶されている建物のデータは、メートル法で作成されている。このため、基礎地図データBMの上に、緯度経度を調整してメートル法で作成された高精度3次元モデルの位置を合わせることは容易ではなく、位置調整を支援する機能が必要になる。
【0052】
そこで以下では、置換対象物の高精度3次元モデルを、基礎地図データ上に配置するに際して、位置調整部34によって行われる位置調整の詳細について説明する。まず、図9は、高精度3次元モデルHMと基礎地図データBMとの位置合わせの方法を、概念的に示した説明図である。
【0053】
すなわち、高精度3次元モデルHMと基礎地図データBMとをそのまま統合しても、完全に一致させることはできないので、何らかの方法で位置調整を行う必要がある。具体的には、高精度3次元モデルと基礎地図データとの位置合わせの処理の流れを示した、図10のフローチャートを参照しながら説明する。
【0054】
まずステップS21では、置換物特定部33で選択された高精度3次元モデルを、基礎地図データの上にそのまま配置する。ここで、位置合わせの際に行われる高精度3次元モデルの回転については、図11に示すように、Z軸周りの方位のみの回転とし、X軸周りやY軸周りの回転は行わない。
【0055】
そしてステップS22では、位置調整を行う建物と、位置合わせの調整方法を決定する。位置調整は、基礎地図データBMと高精度3次元モデルHMとの両方に存在する建物等(構造物や目印になるオブジェクトを含む)を使って行われる。調整方法としては、いくつか考えられるが、以下では調整方法A,調整方法B及び調整方法Cという3つの調整方法について説明する。
【0056】
図12は、ステップS231となる調整方法Aを概念的に説明する図である。調整方法Aでは、選択した1つ以上の建物等の容積の重なり比率が最大となる最適解を見い出して、高精度3次元モデルを配置する位置、向き(方位)及び高さを決定する。
【0057】
図12では、96%の比率で容積が最も重なる立体同士を検出し、高精度3次元モデルHMの全体について、位置、高さ、方位の回転角を、基礎地図データBMに合わせ込む。続いて、次点で最も容積の重なる立体同士を同様に合わせ込む。そして、すべての立体同士の重なり比率が、ほぼ同値となるまで調整を行う。
【0058】
また、ステップS232となる調整方法Bでは、図13に示すように、3つ以上の選択した建物等の重心GPの位置を取り、重心GPで囲まれる立体の容積の重なり比率が最大となる最適解を見い出して、高精度3次元モデルを配置する位置、向き(方位)及び高さを決定する。
【0059】
具体的には、基礎地図データBM上で作成した三角形と、高精度3次元モデルHM上で作成した三角形とが最も重なる位置を抽出し、その位置に、位置調整を行う建物の高精度3次元モデルを配置する。対象建物が建設予定の建物である場合は、基礎地図データBM上に存在していないので、この方法で配置することになる。ここで、三角形の大きさを大きくする方が、配置誤差を小さくすることができる。
【0060】
さらに、図14は、ステップS233となる調整方法Cを概念的に説明する図である。調整方法Cでは、選択した1つ以上の建物の隅角点APの座標を4つ以上とり、その座標の差分が最小となる最適解を見い出して、高精度3次元モデルを配置する位置、向き(方位)及び高さを決定する。なお、選択する建物の数が多い方が、位置合わせの精度は向上する。
【0061】
具体的には、基礎地図データBMの建物から4つの隅角点APを取るとともに、高精度3次元モデルHMの建物からも4つの隅角点APを取り、それらの座標の差分が最小となる最適な位置で統合を行う。この際、建物の傾斜角は考慮せず、建物は垂直であるとする。
【0062】
ステップS24では、実行された調整方法による位置調整が適切であったか否かの判定を行い、許容範囲内であれば位置調整の処理を終了し、適切に位置調整がされなかった場合は、別の調整方法を選択して、位置調整をやり直す。
【0063】
このようにしてステップS6で上述した位置合わせを行った後に、ステップS7では、基礎地図データBMの置換対象物を高精度3次元モデルに置き換えた3次元モデルを、表示装置6に表示させる。
【0064】
そしてステップS8では、検討対象地点に建設予定の対象建物の任意の高さを視点として選択して、その所望する高さからの3次元の高精度な眺望を、眺望シミュレーションとして生成させる。
【0065】
次に、本実施の形態の3次元モデル化支援装置1、3次元モデル化支援方法及び3次元モデル化支援プログラムの作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の3次元モデル化支援装置1は、地図ツールの3次元の基礎地図データを取得する基礎データ取得部31と、高精度3次元モデルに置き換える置換対象物を抽出するための判定基準Jを生成させる抽出基準生成部32とを備えている。
【0066】
そして、表示制御部5によって、抽出基準生成部32によって生成された判定基準Jを基礎地図データに重ねて表示させる。また、この判定基準Jは、対象建物(検討対象地点)からの近景範囲を設定する近景抽出部J1及び中景範囲を設定する中景抽出部J2によって構成される。
【0067】
このように、広範なデータが適宜更新される基礎地図データに、高精度3次元モデルを併用させることで、基礎地図データだけを利用するときよりも精度が高く、高精度3次元モデルだけを利用するときよりも少ない負荷で、有効かつ効率的な各種シミュレーションが行えるようになる。
【0068】
要するに、3次元の基礎地図データだけでも眺望シミュレーションを行うことはできるが、近景域や中景域の範囲において精度が不足しているため、対象建物に隣接する建物との距離感や、対象建物から見える建物の形状や高さが、実際とは異なる結果となり、正確な検討ができなくなる。
【0069】
これに対して、対象建物を中心にして近景範囲及び中景範囲に存在するいくつかの周辺建物を高精度3次元モデルに置き換えるだけでも、隣接する建物との距離感、対象建物からよく見える建物の形状及び高さが、実際に近い状態の眺望シミュレーションが行えるようになって、正確な検討が可能になる。
【0070】
また、高精度3次元モデルに置き換える置換対象物を決定して、置換対象物の高精度3次元モデルHMと基礎地図データBMとの位置合わせを行う位置調整部34を備えることで、基礎地図データBMと高精度3次元モデルHMとを、合理的に統合することができる。
【0071】
さらに、本実施の形態の3次元モデル化支援方法及び3次元モデル化支援プログラムについても、基礎地図データBMに高精度3次元モデルHMを併用させることで、有効かつ効率的な各種シミュレーションが行えるようになる。
【0072】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0073】
例えば、前記実施の形態では、円筒形に形成された近景抽出部J1と逆円錐形に形成された中景抽出部J2とによって形成される判定基準Jを使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、別の知見に基づいて設定される近景範囲及び中景範囲に対する判定基準によって置換対象物を抽出することもできる。
【0074】
また、前記実施の形態では、位置調整部34で基礎地図データBMと高精度3次元モデルHMとの位置調整を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、高精度3次元モデルHMが位置情報を持っている場合は、その位置情報だけで基礎地図データBMの上に配置していくこともできる。
【符号の説明】
【0075】
1 :3次元モデル化支援装置
31 :基礎データ取得部
32 :抽出基準生成部
33 :置換物特定部
34 :位置調整部
5 :表示制御部
6 :表示装置
BM :基礎地図データ
HM :高精度3次元モデル
J :判定基準
J1 :近景抽出部
J2 :中景抽出部
図1
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