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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】臨床製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20240307BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240307BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20240307BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240307BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240307BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240307BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240307BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240307BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240307BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20240307BHJP
   C12N 1/04 20060101ALN20240307BHJP
   C12N 5/07 20100101ALN20240307BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K47/26
A61K47/12
A61K47/02
A61K47/36
A61K35/28
A61K35/15
A61P27/02
A61P9/10
A61P3/10
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61P43/00 105
A61P43/00 107
A61K9/08
C12N1/00 F
C12N1/04
C12N5/07
【請求項の数】 23
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021205350
(22)【出願日】2021-12-17
(62)【分割の表示】P 2018508674の分割
【原出願日】2016-08-18
(65)【公開番号】P2022040140
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】62/206,821
(32)【優先日】2015-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509236520
【氏名又は名称】アステラス インスティテュート フォー リジェネレイティブ メディシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲイ,ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ラトリフ,ジャドソン
(72)【発明者】
【氏名】サウスウィック,ロンマ,イー.
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-523682(JP,A)
【文献】特開平09-216826(JP,A)
【文献】特表2011-500024(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0216431(US,A1)
【文献】Arq Bras Oftalmol.,2008年,Vol.71, No.5,pp.644-650
【文献】IOVS,2010年,Vol.51, No.12,pp.6394-6400
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00 - 9/72
A61K 47/00 -47/69
A61K 35/00 -35/768
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞治療を必要とする対象を処置するための調製物であって、ここで調製物は細胞の集団を含み、ここで細胞の集団は、溶液中に存在し、ここで溶液は、
(i)0.5~0.9mM CaCl、0.2~0.4mM MgCl、1.6~2.4mM KCl、0.8~1.2mM クエン酸ナトリウム、13~19mM デキストロース、および116~174mM NaCl、または
(ii)0.008~0.012% CaCl二水和物、0.0048~0.0072% MgCl六水和物、0.012~0.018% KCl、0.028~0.042% クエン酸ナトリウム二水和物、0.23~0.35% デキストロース、および0.68~1.02% NaCl
を含み、
溶液のpHが6.8~7.8であり、溶液の浸透圧が270~345mOsm/lである、前記調製物。
【請求項2】
投与前に、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも12、少なくとも24、少なくとも36、少なくとも48時間、少なくとも60、または少なくとも72時間、調製物を保存することをさらに含む、請求項1に記載の調製物。
【請求項3】
対象の眼に細胞を注射するための、請求項1または2に記載の調製物。
【請求項4】
細胞の集団が、網膜色素上皮細胞(RPE)の集団である、および対象が、網膜疾患を有している、または網膜疾患と診断されている、請求項1~のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項5】
細胞の集団が、光受容体細胞の集団である、および対象が、網膜疾患を有している、または網膜疾患と診断されている、請求項1~のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項6】
網膜疾患が、桿体もしくは錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、レーバー先天性黒内障、またはシュタルガルト病である、請求項またはに記載の調製物。
【請求項7】
細胞の集団が、間葉系幹細胞(MSC)の集団または間葉系細胞の集団、または角膜細胞の集団、または網膜神経節細胞の集団、または網膜前駆細胞の集団、造血幹細胞もしくは造血前駆細胞の集団、神経幹細胞もしくは神経前駆細胞の集団、神経細胞の集団、アストロサイトもしくはアストロサイト前駆体の集団、グリア細胞もしくはグリア細胞前駆細胞の集団、または膵臓細胞の集団である、請求項1または2に記載の調製物。
【請求項8】
細胞の集団が、網膜色素上皮細胞(RPE)の集団である、および対象が、桿体もしくは錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜剥離、網膜異形成、網膜色素線条症、網膜色素変性症、コロイデレミア、糖尿病性網膜症、黄斑変性、近視性黄斑変性、網膜萎縮、病的近視、レーバー先天性黒内障、緑内障、またはシュタルガルト病を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項9】
細胞の集団が、光受容体細胞の集団である、および対象が、桿体もしくは錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜剥離、網膜異形成、網膜色素線条症、網膜色素変性症、コロイデレミア、糖尿病性網膜症、黄斑変性、近視性黄斑変性、網膜萎縮、病的近視、レーバー先天性黒内障、緑内障、またはシュタルガルト病を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項10】
溶液が、
(a)0.01~0.05%w/vの濃度で存在するポリマー、および/または
(b)酢酸ナトリウム
をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項11】
ポリマーが、
(a)0.05%w/vの濃度で存在する、および/または
(b)ヒアルロン酸またはその塩または溶媒和物である、および/または
(c)ヒアルロン酸ナトリウムである、
請求項10に記載の調製物。
【請求項12】
対象がヒトである、請求項1~11のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項13】
溶液が、0.5~0.9mM CaCl、0.2~0.4mM MgCl、1.6~2.4mM KCl、0.8~1.2mM クエン酸ナトリウム、13~19mM デキストロース、および116~174mM NaClを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項14】
溶液が、0.3mM MgClを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項15】
溶液が、2mM KClを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項16】
溶液が、1.2mM クエン酸ナトリウムを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項17】
溶液が、15~17mM デキストロースを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項18】
溶液が、15mM デキストロースを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項19】
溶液が、140~160mM NaClを含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項20】
溶液が、145mM NaClを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項21】
溶液が、0.9mM CaClを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項22】
溶液が、0.008~0.012% CaCl二水和物、0.0048~0.0072% MgCl六水和物、0.012~0.018% KCl、0.028~0.042% クエン酸ナトリウム二水和物、0.23~0.35% デキストロース、および0.68~1.02% NaClを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項23】
溶液が、0.01% CaCl二水和物、0.006%MgCl六水和物、0.015% KCl、0.035% クエン酸ナトリウム二水和物、0.25% デキストロース、および0.85% NaClを含む、請求項1~12および22のいずれか一項に記載の調製物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、「CLINICAL FORMULATIONS」と題する2015年8月18日出願の米国仮出願第62/206,821号の米国特許法第119条(e)の下における利益を主張し、その内容全体は参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
移植のための細胞および組織の保存および輸送のために用いられる現行で利用可能な臨床用培地は、比較的短い期間(例えば、最高4~6時間)を超えると細胞生存能および機能をサポートせず、それらの短い保存時間の間でさえも、細胞および細胞機能の顕著な損失が通常観察される。加えて、重炭酸アニオンを含む現行の臨床用培地は加熱滅菌に耐えることができず、常温における保存の間でさえも高頻度に炭素塩沈殿を形成し、短い品質保持期限をもたらす。
【発明の概要】
【0003】
多種多様な医療手術は、例えば術野の灌流、創傷消毒、術後癒着防止、および術野からの残骸除去のための臨床用溶液の使用に頼っている。細胞もしくは組織の埋植または移植においては、臨床用溶液は、細胞または組織を調製すること、調製後の対象への投与までの細胞または組織の保存のために、および投与の間に、例えば細胞または組織の注射の間に細胞または組織構造物を運搬するための培地として用いられる。臨床的観点では、例えば灌流、創傷消毒、注射などの間に細胞または組織と接触する溶液は、典型的には無菌であり、発熱物質を含まず、生理的pHに緩衝化され、生理的オスモル濃度を示す。
傷つきやすい細胞または組織の外傷を防止するために、手術の間に使用するための現行で利用可能な手術用灌流溶液に関連する1つの問題は、重炭酸アニオンとの沈殿を形成し得る塩、例えば、薬学的賦形剤として典型的に用いられる、実質的に全てのカルシウムおよびマグネシウムのイオン性塩などと一緒になった、緩衝化剤としての重炭酸アニオンの使用である。炭酸塩の形成および爾後の沈殿は、重炭酸塩とカルシウムおよび/またはマグネシウムとを含有する溶液が加熱滅菌されるときに急速に起こることがあり、多くの場合には常温保存条件においてもまた経時的に起こる。
【0004】
沈殿の問題に対する1つの可能な解決策は、2液型(two-part)キットとしての手術用灌流溶液の提供であり、このうち、一方の液は重炭酸塩緩衝剤を含有し、他方の液はカルシウムおよび/またはマグネシウム塩を含有する。液同士は、典型的には使用直前に一緒に混合されて単一の溶液を形成する。かかる2液型溶液の使用には、2つの別個の溶液を製造するという必要性、混合エラーのリスクを表す不便な混合ステップ、および混合された溶液の典型的には短い半減期を包含する、いくつかの短所が関係する。故に、1液型(one-part)灌流溶液が非常に望ましく、有利であろう。
【0005】
1液型灌流溶液を作る試みもなされてきた。例えば、欧州特許出願EP1067907B1(Armitage)参照。かかる試みは、典型的には、上で論じられた炭酸塩沈殿問題を防止するために、通常はHEPESと呼ばれるN-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)などの双性イオン有機緩衝剤の使用に頼ってきた。しかしながら、かかる1液型灌流溶液に用いられる双性イオン有機緩衝剤は、典型的には細胞または組織培養培地と適合せず、それゆえに細胞保存の間の沈殿形成の問題に対する幅広く適用可能な解決策を提供しない。
【0006】
上に記されている沈殿を形成することおよび通常の細胞培養成分との不適合性の問題に加えて、一般的に用いられる手術用灌流溶液にはまた、蒸気滅菌に耐え得ない成分、例えばある種の炭水化物またはグルタチオンジスルフィド(GSSG)の組み合わせも通常は含まれる。
【0007】
以前に開発された1液型灌流溶液とは対照的に、本開示は、双性イオン有機緩衝剤の使用を必要としない1液型溶液を提供する。本発明の安定した灌流溶液は、現行の灌流溶液の沈殿および関連する短い品質保持期限の問題を解決する。本明細書において提供される溶液は、現行で利用可能な溶液のものと比較して大いに改善された品質保持期限を有する。
【0008】
本明細書において提供される溶液は、灌流、(例えば、凍結保存もしくはペレット化された細胞の)細胞再構成、(例えば、運送もしくは移植のための製剤後の)細胞保存、輸送、および/または対象への細胞の投与(例えば、細胞埋植もしくは移植の観点において)にとって有用である。本明細書において提供される溶液は、異なる細胞種におよび異なる投与部位に関連して用いられ得る。眼科学の適用が好ましいが、他の適用もまた企図され、本開示によって包含される。
【0009】
本開示のいくつかの側面は、細胞の再構成、保存、輸送、および/または対象への投与のための溶液を提供する。いくつかの態様において、溶液は、(a)溶液を生理的pHに維持する緩衝剤(buffer);および(b)少なくとも2mMのグルコース;および(c)溶液を生理的オスモル濃度に維持する浸透圧剤を含む。いくつかの態様において、溶液は2~150mMのグルコース、例えば5~150mM、10~150mM、15~150mM、2~100mM、2~50mM、5~30mM、10~100mM、10~50mM、10~30mM、10~20mM、12~18mM、14~17mM、15~17、または16~17mMを含む。いくつかの態様において、溶液は少なくとも2.5mM、少なくとも3mM、少なくとも5mM、少なくとも7.5mM、少なくとも10mM、少なくとも15mM、少なくとも20mM、少なくとも25mM、または少なくとも30mMのグルコースを含む。いくつかの態様において、グルコースはデキストロースからなるかまたはそれを含む。いくつかの態様において、溶液は少なくとも2.5mM、少なくとも3mM、少なくとも5mM、少なくとも6mM、少なくとも7.5mM、少なくとも10mM、少なくとも15mM、少なくとも20mM、少なくとも25mM、または少なくとも30mMのデキストロースを含む。いくつかの態様において、溶液は少なくとも0.03%(w/v)、少なくとも0.05%(w/v)、少なくとも0.1%(w/v)、少なくとも0.125%(w/v)、少なくとも0.15%(w/v)、少なくとも0.175%(w/v)、少なくとも0.2%(w/v)、少なくとも0.225%(w/v)、少なくとも0.25%(w/v)、少なくとも0.275%(w/v)、少なくとも0.28%(w/v)、少なくとも0.29%(w/v)、少なくとも0.3%(w/v)、少なくとも0.35%(w/v)、少なくとも0.4%(w/v)、少なくとも0.45%(w/v)、少なくとも0.5%(w/v)、少なくとも0.55%(w/v)、少なくとも0.6%(w/v)、少なくとも0.65%(w/v)、少なくとも0.7%(w/v)、少なくとも0.75%(w/v)、少なくとも0.8%(w/v)、少なくとも0.9%(w/v)、少なくとも1%(w/v)、少なくとも1.25%(w/v)、少なくとも1.5%(w/v)、少なくとも1.75%(w/v)、少なくとも2%(w/v)、少なくとも2.125%(w/v)、少なくとも2.5%(w/v)、少なくとも2.75%(w/v)、または少なくとも3%(w/v)グルコースを含む。いくつかの態様において、溶液はさらに二価カチオン源を含む。いくつかの態様において、二価カチオンはカルシウムおよび/またはマグネシウムカチオンを含む。いくつかの態様において、二価カチオン源はカルシウム源および/またはマグネシウム源を含む。いくつかの態様において、溶液はカルシウム源を含む。いくつかの態様において、溶液はマグネシウム源を含む。いくつかの態様において、緩衝剤は、酢酸塩緩衝剤(acetate buffer)および/またはクエン酸塩緩衝剤(citrate buffer)を含む。
【0010】
本開示のいくつかの側面は、細胞の再構成、保存、輸送、および/または対象への投与のための溶液を提供し、溶液は、(a)溶液を生理的pHに維持する緩衝剤;および(b)グルコース;および(c)溶液を生理的オスモル濃度に維持する浸透圧剤;および(d)二価カチオン源を含む。いくつかの態様において、二価カチオン源はカルシウム源および/またはマグネシウム源を含む。いくつかの態様において、緩衝剤は酢酸塩および/またはクエン酸塩緩衝剤を含む。
【0011】
本願において提供される溶液のいくつかの態様において、グルコースはD-グルコース(デキストロース)である。いくつかの態様において、グルコースの濃度は5~50mMである。いくつかの態様において、グルコースの濃度は10~25mMである。いくつかの態様において、グルコースの濃度は10~20mMである。いくつかの態様において、グルコースの濃度は約10mM、約11mM、約12mM、約13mM、約14mM、約15mM、約16mM、約17mM、約18mM、約19mM、または約20mMである。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、二価カチオン源は二価カチオンの薬学的に許容される塩を含む。いくつかの態様において、二価カチオン源は薬学的に許容されるカルシウム塩を含む。いくつかの態様において、二価カチオン源は薬学的に許容されるマグネシウム塩を含む。いくつかの態様において、二価カチオン源は薬学的に許容されるカルシウムおよび/または薬学的に許容されるマグネシウム塩を含み、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、塩酸、マレイン酸、シュウ酸、リン酸、ステアリン酸、コハク酸、および硫酸を含む群から選択される酸と形成されるカルシウムおよび/またはマグネシウム塩の群から選択される。いくつかの態様において、二価カチオン源はカルシウム源を含む。いくつかの態様において、カルシウム源は塩化カルシウムを含む。いくつかの態様において、カルシウム源は塩化カルシウム二水和物を含む。いくつかの態様において、二価カチオン源はマグネシウム源を含む。いくつかの態様において、マグネシウム源は塩化マグネシウムを含む。いくつかの態様において、マグネシウム源は塩化マグネシウム六水和物を含む。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、カルシウム源の濃度は0.25~0.75mMである。いくつかの態様において、カルシウム源の濃度は0.4~0.65mMである。いくつかの態様において、カルシウム源の濃度は0.5~0.6mMである。いくつかの態様において、カルシウム源の濃度は約0.6mMである。いくつかの態様において、カルシウム源の濃度は0.5~0.9mMである。いくつかの態様において、カルシウム源の濃度は0.6~0.8mMである。いくつかの態様において、カルシウム源の濃度は約0.7mMである。
【0012】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、マグネシウム源の濃度は0.05~5mMである。いくつかの態様において、マグネシウム源の濃度は0.1~0.3mMである。いくつかの態様において、マグネシウム源の濃度は約0.3mMである。
【0013】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、クエン酸塩または酢酸塩緩衝剤はクエン酸または酢酸の塩の形態で提供される。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、クエン酸塩緩衝剤はクエン酸ナトリウムとして提供される。いくつかの態様において、クエン酸塩または酢酸塩の濃度は0.1~5mMである。いくつかの態様において、クエン酸塩または酢酸塩の濃度は0.5~2mMである。いくつかの態様において、クエン酸塩または酢酸塩の濃度は約1mMである。
【0014】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液のpHは6.8~7.8である。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液のpHは7.2~7.6である。いくつかの態様において、溶液のpHは7.4~7.5である。いくつかの態様において、溶液のpHは約7.5である。
【0015】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、浸透圧剤は塩である。いくつかの態様において、浸透圧剤はナトリウム塩である。いくつかの態様において、浸透圧剤は塩化ナトリウムである。いくつかの態様において、浸透圧剤の濃度は約100~250mMである。いくつかの態様において、浸透圧剤の濃度は約125~175mMである。いくつかの態様において、浸透圧剤の濃度は約150mMである。
【0016】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液は等張である。いくつかの態様において、溶液は高張である。いくつかの態様において、溶液は約270~345mOsm/lのオスモル濃度を示す。いくつかの態様において、溶液は約300~330mOsm/lのオスモル濃度を示す。いくつかの態様において、溶液のオスモル濃度は約315mOsm/lである。
【0017】
いくつかの態様において、溶液はさらにカリウム塩を含む。いくつかの態様において、カリウム塩は塩化カリウムである。いくつかの態様において、KClの濃度は0.2~5mMである。いくつかの態様において、KClの濃度は1~2.5mMである。いくつかの態様において、KClの濃度は約2mMである。
【0018】
いくつかの態様において、溶液はさらに粘弾性ポリマーを含む。いくつかの態様において、ポリマーは合成ポリマーである。いくつかの態様において、ポリマーは、溶液中の細胞の、剪断応力への暴露を低減するために有効な濃度で存在する。いくつかの態様において、ポリマーの濃度は0.001~5%w/vである。いくつかの態様において、ポリマーの濃度は約0.05%w/vである。いくつかの態様において、ポリマーはヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物である。いくつかの態様において、ポリマーはヒアルロン酸ナトリウムである。いくつかの態様において、ヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物はHealon Endocoat(登録商標)(Abbott)、Hyasis(登録商標)(Novozymes)、またはPro-Visc(登録商標)(Alcon)である。いくつかの態様において、ヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物の濃度は約0.001%~0.05%w/v、例えば0.01%~0.05%w/v、約0.02%~0.05%w/v、約0.01%、約0,02%、約0.03%、約0,04%、または約0,05%w/vである。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液は塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、およびグルコース、例えばD-グルコースを水溶液中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、グルコース、例えばD-グルコース、および塩化カリウムを水溶液中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.3mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、および約145mMのNaClを水溶液中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は約0.5~0.9mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.2~.4mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約0.8~1.2mMクエン酸ナトリウム、約13~19mMデキストロース、および約116~174mMのNaClを水溶液中に含むかまたは本質的にそれらからなる。
【0019】
いくつかの態様において、溶液はさらに約2mMのKClを含む。いくつかの態様において、溶液は約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.3mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、約145mMのNaCl、および約2mMのKClを水溶液中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は約0.5~0.9mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.2~.4mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約0.8~1.2mMクエン酸ナトリウム、約13~19mMデキストロース、約116~174mMのNaCl、および約1.6~2.4mMのKClを水溶液中に含むかまたは本質的にそれらからなる。
【0020】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液は塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、グルコース、例えばD-グルコース、および粘弾性ポリマー、例えばヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物を水溶液中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、グルコース、例えばD-グルコース、塩化カリウム、および粘弾性ポリマー、例えばヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物を水溶液中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.3mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、約145mMのNaCl、および約1~5%w/vの粘弾性ポリマー、例えばヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物を水溶液中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.3mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、約145mMのNaCl、約2mMのKCl、および約0.01~5%w/vの粘弾性ポリマー、例えば約0.01~0.05%w/vヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物を水溶液中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は、約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.3mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約2mMのKCl、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、約145mMのNaCl、および約0.05%ヒアルロン酸を含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は、約0.5~0.8mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.2~.4mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1.6~2.4mMのKCl、約0.8~1.2mMクエン酸ナトリウム、約13~19mMデキストロース、約116~174mMのNaCl、および約0.04~0.06%ヒアルロン酸を含むかまたは本質的にそれらからなる。
【0021】
いくつかの態様において、溶液は無菌である。いくつかの態様において、溶液は本質的に発熱物質を含まない。
【0022】
いくつかの態様において、溶液は炭酸塩緩衝剤を含まない。いくつかの態様において、溶液はグルタチオンまたはグルタチオンジスルフィド(GSSG)を含まない。いくつかの態様において、溶液は双性イオン有機緩衝剤を含まない。
【0023】
いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液は、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間、少なくとも24時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも120時間、少なくとも144時間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも1ヶ月間、25℃において、溶質の測定可能な沈殿ならびに/または溶液中に保存された細胞の生残および生存能をサポートする溶液の能力の測定可能な損失なしに保存され得る。いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液は、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間、少なくとも24時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも120時間、少なくとも144時間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも1ヶ月間、2~8℃において、溶質の測定可能な沈殿ならびに/または溶液中に保存された細胞の生残および生存能をサポートする溶液の能力の測定可能な損失なしに保存され得る。
【0024】
本開示のいくつかの側面は、本明細書において提供される溶液中に細胞の集団を含む調製物を提供する。いくつかの態様において、細胞の集団は対象への移植にとって好適である。いくつかの態様において、細胞の集団は対象の眼への移植にとって好適である。いくつかの態様において、細胞の集団はRPE細胞を含む。いくつかの態様において、細胞の集団は光受容体細胞を含む。いくつかの態様において、細胞の集団は間葉系細胞を含む。いくつかの態様において、細胞の集団は網膜神経節細胞を含む。いくつかの態様において、細胞の集団は網膜前駆細胞を含む。いくつかの態様において、細胞の集団は、造血幹もしくは前駆細胞、神経幹もしくは前駆細胞、神経細胞、アストロサイトもしくはアストロサイト前駆体、グリア細胞もしくはグリア細胞前駆体、および/または膵臓細胞を含む。いくつかの態様において、調製物は冷蔵される。いくつかの態様において、調製物は約2~8℃で冷蔵される。いくつかの態様において、調製物は、調製物の保存の間における細胞の集団中の細胞の生残をサポートする。いくつかの態様において、細胞集団中の細胞の少なくとも70%は、2~8℃における調製物の保存の24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、または144時間後に生存可能である。いくつかの態様において、細胞集団中の細胞の少なくとも80%は、2~8℃における調製物の保存の24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、または144時間後に生存可能である。いくつかの態様において、細胞集団中の細胞の少なくとも90%は、2~8℃における調製物の保存の24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、または144後に生存可能である。いくつかの態様において、調製物は、調製物の保存の間における細胞の集団の播種効率(plating efficiency)の維持をサポートする。いくつかの態様において、2~8℃における調製物の保存の24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、または144時間の後に、細胞の集団はその元の播種効率の少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%を示し、元の播種効率は、保存期間開始時における細胞の集団の播種効率を言う。いくつかの態様において、調製物は保存容器内に存在している。いくつかの態様において、調製物はシリンジ内に存在している。
【0025】
本開示のいくつかの側面は、本明細書において提供される調製物、例えば本明細書において提供される溶液中の細胞の集団を含む調製物を調製するための方法を提供し、ここで、方法は、細胞の集団を溶液と接触させることを含む。いくつかの態様において、方法は、凍結保存またはペレット化された細胞の集団を溶液と接触させ、それゆえに細胞を再構成することを含む。
【0026】
本開示のいくつかの側面は、対象への投与にとって好適な医薬組成物を提供し、ここで、医薬調製物は、本明細書において提供される溶液、または本明細書において提供される溶液中の細胞の集団を含む調製物を含む。
【0027】
本開示のいくつかの側面は、本明細書において提供される溶液または調製物をその必要がある対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの態様において、方法は溶液または調製物を対象の眼に投与することを含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも12、少なくとも24、少なくとも36、少なくとも24、少なくとも48、少なくとも60、少なくとも72、少なくとも96、少なくとも120、または少なくとも144時間の調製物の保存後に、調製物を対象に投与することを含む。いくつかの態様において、対象は網膜疾患を有するか、またはそれと診断される。いくつかの態様において、網膜疾患は、桿体もしくは錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、レーバー先天性黒内障、網膜神経節細胞に関連する疾患、緑内障、またはシュタルガルト病である。いくつかの態様において、調製物は、対象の網膜疾患の少なくとも1つの症状を軽減するために有効なサイズの細胞の集団を含む。いくつかの態様において、細胞の集団は、RPE細胞、光受容体細胞、または間葉系幹細胞を含む。いくつかの態様において、方法は、対象の網膜疾患の少なくとも1つの症状をモニタリングすることをさらに含む。
【0028】
本開示のいくつかの側面は、(a)細胞の集団を本明細書において提供される溶液と接触させて、細胞調製物を生成することを含む方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、さらに、(b)(a)の細胞調製物を少なくとも4、少なくとも6、少なくとも12、少なくとも18、少なくとも24、少なくとも36、少なくとも48、少なくとも60、少なくとも72、少なくとも96、少なくとも120、または少なくとも144時間保存することを含む。いくつかの態様において、方法は、さらに、(c)(b)の保存期間後に(a)の細胞調製物を対象に投与することを含む。いくつかの態様において、(c)の投与は、細胞を対象の眼に注射することを含む。いくつかの態様において、方法は、さらに、(b)の保存期間後に(a)の細胞調製物の細胞生存能を決定することを含む。いくつかの態様において、方法は、ステップ(b)の保存期間の間に(a)の細胞調製物を冷蔵することを含む。いくつかの態様において、冷蔵は、細胞調製物を2~8℃の温度で保存することを含む。いくつかの態様において、方法は、さらに、(a)において生成された調製物を、調製物が生成された場所とは異なる場所に(b)の保存期間内に輸送することを含む。いくつかの態様において、輸送は、調製物を、(c)の投与が行われるクリニックまたは手術室に輸送することを含む。
【0029】
本開示のいくつかの側面は、網膜疾患を処置するための方法を提供し、方法は、本明細書において提供される細胞調製物の有効量を、網膜疾患を有する対象の眼に投与することを含む。いくつかの態様において、対象は網膜疾患を有するか、またはそれと診断される。いくつかの態様において、網膜疾患は桿体もしくは錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、病的近視、レーバー先天性黒内障、緑内障、またはシュタルガルト病である。いくつかの態様において、調製物は、対象の網膜疾患の少なくとも1つの症状を軽減するために有効なサイズの細胞の集団を含む。いくつかの態様において、細胞の集団は、RPE細胞、光受容体細胞、網膜神経節、または間葉系幹細胞を含む。いくつかの態様において、方法は、対象の網膜疾患の少なくとも1つの症状をモニタリングすることをさらに含む。
【0030】
本開示のいくつかの側面は、キットであって、(a)本明細書において提供される溶液;および(b)細胞集団を(a)の溶液と接触させて細胞調製物を生成するための説明書;および(c)(b)の接触のためのおよび/または(b)の細胞調製物を保存するための容器を含む、前記キットを提供する。いくつかの態様において、(a)の溶液および(c)の容器は、対象への移植のための(b)の細胞調製物の使用にとって好適である。
【0031】
上の概要は、本明細書において開示されるテクノロジーの態様、利点、特徴、および使用のいくつかを限定することなく説明することを意味している。本明細書において開示されるテクノロジーの他の態様、利点、特徴、および使用は、詳細な説明、図面、例、および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】RPE細胞は、培養におけるその後の播種および増殖能力の明らかな損失なしにHypoThermosol中に24(48時間ではなく)維持され得る。
【0033】
図2】GS2中におけるRPE安定性(2~8℃)。RPE細胞は、生存細胞数または培養におけるその後の播種および増殖能力の明らかな損失なしにGS2中に少なくとも48時間維持され得る。
【0034】
図3】GS2中におけるRPE安定性(2~8℃)。RPE細胞は、生存細胞密度の有意な減少なしに、細胞生存能のわずかな損失のみで、GS2中に4~5日間維持され得る。
【0035】
図4】GS2中におけるRPE安定性(2~8℃)。RPE細胞の培養における播種および増殖能力は、GS2低温保存において5日後に減少し始める。
【0036】
図5】GS2中におけるRPE安定性(2~8℃)。GS2は現行の注射システムと適合する。
【0037】
図6】トリプリケートチューブからの平均生存細胞密度±標準偏差を示している。ヒトRPE細胞密度は血球計算盤を用いて決定された。細胞生存能はトリパンブルー排出によって得られた。各条件について作られた細胞のトリプリケートチューブから平均値を計算し、各チューブの生存細胞濃度をトリプリケート計数から決定した。MedOneの#3233カニューレからの細胞押出し後に観察された細胞数のパーセント変化(デルタ)が、各条件について値の各セットの上に示されている。
【0038】
図7】試験された各条件について6ウェルからのウェルあたりのヒトRPE細胞の平均数および標準偏差(±SD)が示されている。各条件について、ウェルあたり約20,000細胞をゼラチンコート96ウェルプレートに播き、RPE増殖培地(EGM2 Single Quotsを有するEBM-2、Stem Cell, Inc.)中で5%CO2、摂氏37度の湿度コントロールされたインキュベータ内で3日間培養した。増殖3日後の細胞数を決定するために、細胞をトリプシン(Sigma)およびHEPESベースの剥離培地(Gibco)の1:1ミックスによって剥がした。ひとたび細胞を剥がしたら、10%ウシ胎仔血清を含有する培地によってトリプシンを中和し、血球計算盤を用いて細胞を計数した。
【0039】
図8】MSCの保存のための異なる培地の比較。ヒト胚性幹細胞由来MSCを70%コンフルエントまで増殖させ、0.05%トリプシンによって収穫し、aMEM+15%FCS(MSC培地)中に再懸濁し、200×gで5分間スピンダウンした。細胞ペレットを小容量のMSC培地中に再懸濁し、トリパンブルー排出を用いて生存能について計数した。次いで、500万個のMSCを4つのエッペンドルフチューブのそれぞれの中に置き、スピンダウンし、指示されている緩衝剤の各1ml中に再懸濁した。チューブは、4℃にセットされた低温室に、指示されている時間だけ置いた。CS:イヌ血清、FBS:ウシ胎仔血清。
【0040】
図9】MSC生存能は、より高い密度でGS2中に保存されたときには向上するが、FBSの存在は24時間のGS2中における生存能をほとんど向上させない。
【0041】
図10】MSC生存能は、26G針/シリンジ中に保存およびそれから排出されたときに保全される(4℃でGS2中)。
【0042】
図11】BSS-PlusもしくはGS2輸送培地単独(細胞なし)のいずれかで処理されたかまたは偽(sham)処理もしくは無処理を受けた動物の眼と比較した、BSS-PlusまたはGS2輸送培地中に懸濁されたRPE細胞のいずれかで処置された16匹のラットの眼の群についての、処置後60日における網膜電図(ERG)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
詳細な説明
序論
多くの最新外科手術はより古い技術と比較して細胞および組織の損傷を最小化するが、ある種のデリケートな手術は、用いられる技術および材料によって非常に影響されやすいままである。例えば、眼科用外科手術、例えば白内障手術およびビトレクトミー手術には、(角膜内皮層などの)非常に脆い細胞および組織が関わり、従ってエラーに対する余裕はほとんどなく、かかる眼組織および患者の視覚を損なう大きな可能性を有する。加えて、細胞の移植には、多くの場合、例えば再生医療アプローチの観点では、不適切な取り扱いまたは非生理的条件に対する暴露によって損傷し得るかまたは再増殖能を失い得るデリケートなまたは脆い細胞を製剤、保存、輸送、および/または注射することが必要とされる。
【0044】
本開示は、灌流、細胞の再構成、細胞保存、細胞輸送、および/または対象への細胞投与のための溶液を提供する。本明細書において提供される溶液は、灌流、細胞の再構成、製剤、保存、および/または移植のための現行で利用可能な溶液と比べていくつかの利点を有する。例えば、現行で利用可能な培地とは対照的に、本明細書において提供される溶液は、脆い細胞ならびに組織を包含する様々な種類の細胞ならびに組織の生残をサポートし、延長された保存期間の間でさえも、細胞および組織生存能、再播種効率(re-plating efficiency)、ならびに再増殖能の改善されたレベルを維持する。本明細書の他所により詳細に説明される通り、灌流または術前の細胞製剤のための現行で利用可能な培地は、(例えば、炭素塩の沈殿に基づく)短い半減期を有し、ならびに/または保存された細胞の生残、再播種効率、および再増殖能を長期間は(例えば、4~6時間よりも多くは)サポートしない。短い半減期ならびに比較的短い期間を超えての細胞生存能および機能のサポートの欠如ゆえに、現行で利用可能な培地の使用は、培地または細胞調製物が用いられる(例えば移植される)臨床現場に近接しての、例えばクリニックにおいて自前でまたは近接した実験室においてのいずれかでの、培地ならびに/またはそれぞれの培地中の細胞および組織の製剤を要する。従って、現行で利用可能な溶液は、製剤された細胞または組織の臨床使用を、細胞生存能、再播種効率、および/または再増殖能が許容される短いタイムスパン内での投与を可能にする適用に限定する。臨床現場に近接した製剤が要求されることにより、追加の出費、リスク、およびオフサイトプロセシングのさらなる限定が生じる。
【0045】
対照的に、本明細書において提供される溶液は、現行で利用可能な溶液と比較して延長された品質保持期限を有し、RPEおよび光受容体細胞ならびに間葉系幹細胞などの脆い細胞を包含する様々な種類の細胞の細胞機能、生存能、再播種効率、ならびに再増殖能を、長い保存期間(例えば、24時間まで、48時間まで、またはより長い保存期間)の間でさえもまたサポートする。本明細書において提供される溶液はさらに生体適合性であり、それゆえに対象への投与にとって好適である。それゆえに、本明細書において提供される溶液中の製剤された細胞または組織は、培地置換の必要なしに対象に直接的に投与され得る。
【0046】
本明細書において提供される溶液の向上した性質により、製剤の現場から遠く離れた臨床現場への製剤された溶液、細胞、および組織の輸送が可能となり、これによって、最終製品の集中的なプロセシングおよび製剤が可能になり、臨床現場に近接して製剤する必要性がなくなる。本明細書において提供される溶液の改善された保存および輸送能力は、さらに、最終製品の製剤の現場からより遠隔である臨床現場の使用を許し、臨床適用をスケジューリングする際の、例えば本明細書において提供される溶液中の製剤された細胞または組織の投与のための手術をスケジューリングする際のフレキシビリティーをもまた増大させる。保存のために拡大した時間枠は、さらに、臨床手術が開始する前の(例えば、手術チームが手術の準備を始める前のまたは対象が手術の準備をする前の)、製剤された製品の品質管理のための追加の機会(例えば、最終的な製剤された製品中の病原性汚染物質の存在の試験)を提供する。
臨床用溶液
【0047】
本開示のいくつかの側面は、灌流のための、ならびに細胞および組織を製剤、保存、輸送、および投与するための臨床用溶液を提供する。
【0048】
灌流および細胞製剤のために用いられる現行で利用可能な培地、例えば平衡塩溶液または生理食塩水とは対照的に、本記載の臨床用溶液は、傷つきやすい細胞または組織の延長された生残および機能をサポートし、調製および滅菌することが容易であり、延長された品質保持期限を有する。
【0049】
リン酸緩衝生理食塩水または0.9%塩化ナトリウム溶液などの単一塩溶液は細胞の短期保存に用いられ得るが、それらの溶液はより長期の保存では細胞生存能または細胞機能を十分にはサポートせず、保存のごくわずかな期間の後でさえも、細胞生存能、再播種効率、および再増殖能について、顕著で多くの場合に許容されない減少をもたらす。
【0050】
より手の込んだ平衡塩溶液が臨床灌流または細胞および組織保存などの臨床目的のために利用可能であり、それらは典型的にはオスモル濃度を維持するための薬剤、カルシウム源、マグネシウム源、および緩衝化剤(buffering agent)を含む。
【0051】
塩化ナトリウムは溶液のオスモル濃度を維持するために通常用いられる。カルシウムイオンは、例えば角膜内皮において、細胞間ジャンクションを維持する役割を果たす。マグネシウムイオンはカルシウムイオンのように房水中に見いだされ、数多くの細胞プロセスに必須である。
【0052】
重炭酸アニオンは緩衝化剤として典型的に用いられる。なぜなら、これらは多くの組織にとって生理的緩衝剤を代表し、他の溶質と広く適合性であるからである。しかしながら、カルシウムおよびマグネシウムのある種の形態は重炭酸塩と反応して炭酸カルシウムまたはマグネシウムを形成することがあり、これはある種の状況においては溶液から沈殿し得る。反応および沈殿は、重炭酸塩ならびにカルシウムおよび/またはマグネシウムを含有する溶液が加熱滅菌されるときに急速に起こることがあり、常温保存条件においては経時的に起こり得る。カルシウムまたはマグネシウムおよび重炭酸塩の間の反応は、薬学的賦形剤として典型的に用いられる実質的に全てのカルシウムおよびマグネシウムのイオン性塩で起こるようである。
【0053】
沈殿を避けるための1つのアプローチは、重炭酸塩緩衝剤を用いる臨床用溶液を2つの別個のストック溶液として提供することであり、これらは適用の少し前に混合される。例えば、1つの広く用いられる臨床用培地はBSS PLUS(登録商標)無菌眼内灌流溶液(Alcon Laboratories, Inc.)である。BSS PLUS(登録商標)無菌眼内灌流溶液は2液型溶液である。液同士は手術の直前に一緒に混合されて単一の溶液を形成する。この混合ステップは、不便な場合があり、混雑した手術室において混合エラーのリスクを表す。加えて、2つの別個の溶液を製造することは1液型製剤を製造することよりも複雑でコストがかかる。故に、1液型臨床用溶液が非常に望ましく、有利であろう。
【0054】
BSS PLUS(登録商標)無菌眼内灌流溶液のI液は、注射のための水中に溶解した塩化ナトリウム、塩化カリウム、重炭酸ナトリウム、および二塩基性リン酸ナトリウムを含有する。I液のpHは中性に近く、これは生理的流体に対して等張に近いオスモル濃度を有する。BSS PLUS(登録商標)無菌眼内灌流溶液のII液は、注射のための水中に溶解した塩化カルシウム、塩化マグネシウム、デキストロース、およびグルタチオンジスルフィド(GSSG)を含有する。II液のpHは3および5の間に調整され、溶液は低張なオスモル濃度を有する。
【0055】
再構成されたBSS PLUS(登録商標)無菌眼内灌流溶液は中性のpHと等張であるオスモル濃度とを有する。II液中のカルシウムおよびマグネシウムなどの二価カチオンは、BSS PLUS(登録商標)無菌眼内灌流溶液の2つの液が組み合わせられた場合には、I液中の重炭酸塩およびリン酸塩と反応して沈殿を形成するであろう。この反応は、組み合わせた溶液が蒸気滅菌される場合にはほぼ直ちに、室温ではよりゆっくり、典型的には数時間から数日の期間をかけて進む。この沈殿を防止するために、再構成されたBSS PLUS(登録商標)無菌眼内灌流溶液のラベリングされた品質保持期限は6時間であり、その間に溶液は用いられなければならない。
【0056】
性能において2液型BSS PLUS(登録商標)無菌眼内灌流溶液に匹敵する1液型臨床用溶液を作る試みがなされてきた。欧州特許出願EP1067907B1(Armitage)は、上で論じられた沈殿を防止するために、通常はHEPESと呼ばれるN-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)などの双性イオン有機緩衝剤の使用を教示している。Armitageによって開示されている製剤は、オートクレーブされるかまたは生理的pH溶液に組み込まれるときに不安定であることが公知であるデキストロースおよびGSSGなどの成分を含有しない。Armitageによって開示されている製剤は、普通では組織培養培地中に存在する種類の成分、例えばアミノ酸をもまた含有しない。それゆえに、Armitageの教示は沈殿形成の問題の解決法を提供しない。
【0057】
以前に開発された1液型溶液とは対照的に、本開示のいくつかの側面は、溶液を生理的pH範囲内に維持するためのHEPES、BES、MOPS、TES、EPPS、およびTRICINEなどの双性イオン有機緩衝剤の使用を必要としない1液型臨床用溶液を提供する。本発明の臨床用溶液は短い品質保持期限の問題を解決する。本明細書において提供される臨床用溶液は現行で利用可能な臨床用培地と比較して大いに改善された品質保持期限を有し、24、48、60、72、96、120、144、または168時間以上の長期保存後でさえも細胞の生存能、再播種効率、および再増殖能をサポートする。
【0058】
本明細書において用いられる用語「溶液」は、主溶媒としての水と溶液中に溶解した1つ以上の溶質、例えば緩衝化剤、浸透圧剤、グルコース、塩、ポリマーなどとを含む水性媒体を言う。いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液は臨床使用のためであり、それゆえに非毒性で、本質的に発熱物質を含まず、ならびに無菌である。
【0059】
いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液は、生理的pHと、生理的オスモル濃度ともまた言われる生理的浸透圧とを示す。生理的pHは、細胞毒性ではなくかつ溶液が投与される細胞または組織のpHに似ているか、あるいは溶液中の製剤された細胞または組織がその天然環境において遭遇するpHを言う。大部分の細胞および組織にとって、生理的pHは約6.8~7.8のpH、例えば7~7.7のpH、7.2~7.6のpH、7.2~7.4のpH、または7.4~7.5のpHである。従って、いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液は約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、または約7.8のpHを示す。生理的浸透圧は、細胞毒性ではなくかつ溶液が投与される細胞または組織の浸透圧に似ているか、または溶液中の製剤された細胞または組織がその天然環境において遭遇する浸透圧を言う。大部分の細胞および組織にとって、生理的浸透圧は約270~345mOsm/l、例えば280~330mOsm/l、290~325mOsm/l、300~315mOsm/lである。いくつかの態様において、生理的浸透圧は約300、約305、約310、約315、約320、または約325mOsm/lである。
【0060】
溶液の用語「浸透圧」または「オスモル濃度」は、一方の純粋な溶媒と他方の溶液とを分離する半透膜の向こう側の溶液中への溶媒の流れを止めるために要求される圧力であり、半透膜は溶媒分子にとっては透過性であるが溶質分子にとっては非透過性である。溶液の浸透圧は溶液中の溶質粒子のモル濃度に比例し、mOsm/lまたはmOsm/kgで測定される。いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液は、約290mOsm/lおよび約320mOsm/lの間、または約300mOsm/lおよび310mOsm/lもしくは約305mOsm/lの間のオスモル濃度を示す。いくつかの態様において、溶液は約300~330mOsm/lのオスモル濃度を見せる。いくつかの態様において、溶液のオスモル濃度は約300、約305、約310、約315、約320、または約325mOsm/lである。
【0061】
いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液のオスモル濃度はその張度の観点から参照され、高張溶液は細胞が収縮することを引き起こす溶液であり、低張溶液は細胞が膨張することを引き起こす溶液であり、等張溶液は細胞体積の変化を生じない。用語「高張」、「低張」、および「等張」は、典型的には、溶液が接触をさせられる細胞、細胞集団、または組織に関して用いられる。例えば、灌流溶液が提供される態様において、等張性は、灌流の間に溶液と接触することになる細胞または組織の体積の変化を引き起こさない浸透圧を言う。同様に、溶液が細胞、細胞集団、または組織を臨床使用のために、例えば対象への移植のために、製剤するために用いられる態様において、等張性は、溶液中に製剤されたときに細胞、細胞集団の細胞、または組織の細胞の体積の変化を引き起こさない浸透圧を言う。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液は等張である。いくつかの態様において、溶液は高張である。
【0062】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、浸透圧剤は塩である。いくつかの態様において、塩は薬学的に許容される塩である。いくつかの態様において、浸透圧剤はナトリウム塩である。いくつかの態様において、浸透圧剤は塩化ナトリウムである。いくつかの態様において、浸透圧剤の濃度は約100~200mM、125~175mM、または140~160mMである。いくつかの態様において、浸透圧剤の濃度は約100、約105、約110、約115、約120、約125、約130、約135、約140、約145、約150、約155、約160、約165、約170、約175、約180、約185、約190、約195、または約200mMである。
【0063】
本明細書において用いられる用語「生理的オスモル濃度」は、細胞毒性ではなく(例えば、所与の細胞もしくは細胞種が破裂することを引き起こさず、または別様に細胞の損傷を引き起こさず)かつ溶液が投与される組織の浸透圧に似ているか、あるいは溶液中の製剤された細胞または組織がその天然環境において遭遇する浸透圧を言う。大部分の適用の生理的オスモル濃度の範囲は約280mOsm/lおよび約325mOsm/lの間、約290mOsm/lおよび約320mOsm/lの間、または約300mOsm/lおよび310mOsm/lの間、または約305mOsm/lである。
【0064】
いくつかの態様において、本明細書において提供される細胞の再構成、保存、輸送、および/または対象への投与のための溶液は、(a)溶液を生理的pHに維持する緩衝剤;および(b)少なくとも2mMのグルコース;および(c)溶液を生理的オスモル濃度に維持する浸透圧剤を含む。いくつかの態様において、溶液はさらに二価カチオン源を含む。いくつかの態様において、二価カチオン源はカルシウム源および/またはマグネシウム源を含む。いくつかの態様において、溶液はカルシウム源を含む。いくつかの態様において、溶液はさらにマグネシウム源を含む。いくつかの態様において、緩衝剤は酢酸塩緩衝剤および/またはクエン酸塩緩衝剤を含む。いくつかの態様において、溶液は少なくとも4mM、少なくとも5mM、少なくとも6mM、少なくとも7mM、少なくとも7.5mM、少なくとも8mM、少なくとも9mM、少なくとも10mM、少なくとも15mM、少なくとも20mM、少なくとも25mM、少なくとも30mM、少なくとも40mM、または少なくとも50mMのグルコースを含む。いくつかの態様において、溶液は少なくとも0.5mM、少なくとも1mM、少なくとも2mM、少なくとも2.5mM、少なくとも3mM、少なくとも5mM、少なくとも6mM、少なくとも7mM、少なくとも7.5mM、少なくとも8mM、少なくとも9mM、少なくとも10mM、少なくとも15mM、少なくとも16mM、少なくとも20mM、少なくとも25mM、少なくとも30mM、少なくとも40mM、または少なくとも50mMのデキストロースを含む。いくつかの態様において、溶液は3mM以下、4mM以下、5mM以下、6mM以下、7mM以下、7.5mM以下、8mM以下、9mM以下、10mM以下、15mM以下、17mM以下、20mM以下、25mM以下、30mM以下、40mM以下、または50mM以下のグルコースを含む。いくつかの態様において、溶液は0.5mM以下、1mM以下、2mM以下、2.5mM以下、3mM以下、4mM以下、5mM以下、6mM以下、7mM以下、7.5mM以下、8mM以下、9mM以下、10mM以下、15mM以下、20mM以下、25mM以下、30mM以下、40mM以下、または50mM以下のデキストロースを含む。
【0065】
いくつかの態様において、本明細書において提供される細胞の再構成、保存、輸送、および/または対象への投与のための溶液は、(a)溶液を生理的pHに維持する緩衝剤;および(b)グルコース;および(c)溶液を生理的オスモル濃度に維持する浸透圧剤;および(d)カルシウム源;および(e)マグネシウム源を含む。いくつかの態様において、緩衝剤は酢酸塩および/またはクエン酸塩緩衝剤を含む。いくつかの態様において、溶液は少なくとも0.5mM、少なくとも1mM、少なくとも2mM、少なくとも2.5mM、少なくとも3mM、少なくとも4mM、少なくとも5mM、少なくとも6mM、少なくとも7mM、少なくとも7.5mM、少なくとも8mM、少なくとも9mM、少なくとも10mM、少なくとも15mM、少なくとも16mM、少なくとも20mM、少なくとも25mM、少なくとも30mM、少なくとも40mM、または少なくとも50mMのグルコースを含む。いくつかの態様において、溶液は少なくとも0.5mM、少なくとも1mM、少なくとも2mM、少なくとも2.5mM、少なくとも3mM、少なくとも5mM、少なくとも6mM、少なくとも7mM、少なくとも7.5mM、少なくとも8mM、少なくとも9mM、少なくとも10mM、少なくとも15mM、少なくとも16mM、少なくとも20mM、少なくとも25mM、少なくとも30mM、少なくとも40mM、または少なくとも50mMのデキストロースを含む。いくつかの態様において、溶液は0.5mM以下、1mM以下、2mM以下、2.5mM以下、3mM以下、4mM以下、5mM以下、6mM以下、7mM以下、7.5mM以下、8mM以下、9mM以下、10mM以下、15mM以下、17mM以下、20mM以下、25mM以下、30mM以下、40mM以下、または50mM以下のグルコースを含む。いくつかの態様において、溶液は0.5mM以下、1mM以下、2mM以下、2.5mM以下、3mM以下、4mM以下、5mM以下、6mM以下、7mM以下、7.5mM以下、8mM以下、9mM以下、10mM以下、15mM以下、17mM以下、20mM以下、25mM以下、30mM以下、40mM以下、または50mM以下のデキストロースを含む。
【0066】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、グルコースのまたはデキストロースの濃度は0.5~150mM、0.5~50mM、2.5~50mM、5~50mM、10~50mM、0.5~25mM、2.5~25mM、5~25mM、10~25mM、または10~20mMである。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、グルコースのまたはデキストロースの濃度は約0.5mM、約1mM、約2mM、約2.5mM、約3mM、約4mM、約5mM、約6mM、約7mM、約7.5mM、約8mM、約9mM、約10mM、約11mM、約12mM、約12.5mM、約13mM、約14mM、約15mM、約16mM、約17mM、約18mM、約19mM、約20mM、約22.5mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM、または約50mMである。
【0067】
いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液は二価カチオン源を含む。好適な二価カチオンは、限定なしに、例えばCa2+、Mg2+、Zn2+、Fe2+、Mn2+、Cr2+、Cu2+、Ba2+、およびSr2+を包含する。いくつかの態様において、二価カチオン源はカルシウム源を含む。いくつかの態様において、二価カチオン源はマグネシウム源を含む。いくつかの態様において、二価カチオン源は、2つ以上の異なる二価カチオン源、例えばカルシウム源およびマグネシウム源を含む。
【0068】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液は、カルシウム源、例えばカルシウムイオン源を含む。いくつかの態様において、カルシウム源は薬学的に許容されるカルシウム塩を含む。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液は、マグネシウム源、例えばマグネシウムイオン源を含む。いくつかの態様においてマグネシウム源は薬学的に許容されるマグネシウム塩を含む。
【0069】
本明細書において用いられる用語「薬学的に許容される塩」は、ヒト対象への投与にとって好適であると見なされる塩を言う。いくつかの態様において、薬学的に許容される塩は、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、塩酸、マレイン酸、シュウ酸、リン酸、ステアリン酸、コハク酸、および硫酸を含む群から選択される酸と形成される塩である。いくつかの態様において、薬学的に許容される二価カチオン源は、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、塩酸、マレイン酸、シュウ酸、リン酸、ステアリン酸、コハク酸、および硫酸を含む群から選択される酸と形成されるカルシウムおよび/またはマグネシウム塩の群から選択される。例えば、この群の態様の薬学的に許容されるカルシウム塩は、酢酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、塩化カルシウム、マレイン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、および硫酸カルシウムを包含するであろう。溶液が2つ以上の薬学的に許容される塩(例えばカルシウム、マグネシウム、およびカリウム塩)を含む態様において、いくつかまたは全ての塩が同じ酸と形成され得るか(例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、および塩化カリウム)、または2つ以上の塩が異なる酸と形成され得る(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、および酢酸カリウム、塩化カルシウム、クエン酸マグネシウム、およびマレイン酸カリウムなど)ということは当業者には明らかであろう。
【0070】
いくつかの態様において、薬学的に許容される塩、例えば薬学的に許容されるカルシウムまたはマグネシウム塩は、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2,2-ジクロロ酢酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-オキソグルタル酸、4-アセトアミド安息香酸、4-アミノサリチル酸、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸(L)、アスパラギン酸(L)、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファー酸(+)、10-カンファースルホン酸(+)、カプリン酸(デカン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、炭酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸(D)、グルコン酸(D)、グルクロン酸(D)、グルタミン酸、グルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、イソ酪酸、乳酸(DL)、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸(-L)、マロン酸、マンデル酸(DL)、メタンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、ピログルタミン酸(-L)、サリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸(+L)、チオシアン酸、トルエンスルホン酸(p)、およびウンデシレン酸からなる群から選択される酸の塩である。追加の好適な薬学的に許容される塩は当業者には明らかであり、本開示がこの点で限定されないということは理解されるであろう。
【0071】
いくつかの態様において、二価カチオン源は0.1~20mMの、例えば約0.5~10mM、0.5~5mM、1~10mM、または2~10mMの二価カチオンの合計濃度を含む。いくつかの態様において、二価カチオン源の濃度は約0.2mM、約0.3mM、約0.4mM、約0.5mM、約0.6mM、約0.7mM、約0.8mM、約0.9mM、約1mM、約2mM、約3mM、約4mM、または約5mMである。いくつかの態様において、二価カチオン源はカルシウムおよび/またはマグネシウム源を含む。
【0072】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、カルシウム源は塩化カルシウムを含む。いくつかの態様において、カルシウム源は塩化カルシウム二水和物を含む。いくつかの態様において、マグネシウム源は塩化マグネシウムを含む。いくつかの態様において、マグネシウム源は塩化マグネシウム六水和物を含む。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、カルシウム源の濃度は0.1~1.2mM、0.25~0.75mM、0.4~0.65mM、または0.5~0.7mMである。いくつかの態様において、カルシウム源の濃度は約0.2mM、約0.3mM、約0.4mM、約0.5mM、約0.6mM、約0.7mM、約0.8mM、約0.9mM、約1mM、約1.1mM、または約1.2mMである。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、マグネシウム源の濃度は0.05~5mM、0.1~0.5mM、0.25~2.5mM、0.1~1mM、または0.1~0.3mMである。いくつかの態様において、マグネシウム源の濃度は約0.05mM、約0.1mM、約0.2mM、約0.3mM、約0.4mM、約0.5mM、約0.6mM、約0.7mM、約0.8mM、約0.9mM、約1mM、約2mM、約3mM、約4mM、または約5mMである。
【0073】
本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液は緩衝化剤を含む。本明細書において用語「緩衝剤」と交換可能に用いられる用語「緩衝化剤」は、加えられる酸または塩基を中和することによって溶液のpHを比較的安定に維持し得る薬剤を言う。典型的には、緩衝剤は、弱い共役酸-塩基対、すなわち弱酸およびその共役塩基または弱塩基およびその共役酸のいずれかを含む。
【0074】
いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液中に含まれる緩衝剤はクエン酸塩または酢酸塩緩衝剤であり、例えばクエン酸または酢酸の塩の形態で提供される。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、クエン酸塩緩衝剤はクエン酸ナトリウムとして提供される。いくつかの態様において、クエン酸塩または酢酸塩の濃度は0.1~5mMである。いくつかの態様において、クエン酸塩または酢酸塩の濃度は0.5~2mMである。いくつかの態様において、クエン酸塩または酢酸塩の濃度は約0.05mM、0.06mM、0.07mM、0.09mM、0.1mM、0.2mM、0.3mM、0.4mM、0.5mM、0.6mM、0.7mM、0.9mM、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、または10mMである。
【0075】
いくつかの態様において、溶液はさらにカリウム塩、好ましくは薬学的に許容されるカリウム塩を含む。いくつかの態様において、カリウム塩は塩化カリウムである。いくつかの態様において、KClの濃度は0.2~5mMまたは1~2.5mMである。いくつかの態様において、KClの濃度は約0.2mM、0.3mM、0.4mM、0.5mM、0.6mM、0.7mM、0.9mM、1mM、1.5mM、2mM、2.5mM、3mM、4mM、または5mMである。
【0076】
いくつかの態様において、溶液はさらに粘弾性ポリマーを含む。理論によって拘束されようとするものではないが、粘弾性ポリマーの添加は、細胞および組織を剪断応力から保護することによって、本明細書において提供される溶液中における保存後のおよび/または例えばカニュレーションを含む投与経路による対象への投与後の、細胞および組織生存能、再播種効率、ならびに再増殖能を向上させると考えられる。粘弾性ポリマーは当業者に周知であり、例示的な好適な粘弾性ポリマーは、ヒアルロン酸(例えば、Healon Endocoat(登録商標)(Abbott)、Hyasis(登録商標)(Novozymes)、およびPro-Visc(登録商標)(Alcon))、アルギン酸塩(アルギン酸ナトリウムを包含する)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)としてもまた公知のポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリアクリルアミド、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ヒドロキシルエチルセルロース(HEC)、ポリ(N-ヒドロキシエチルアクリルアミド)(PHEA)、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)、ポリメタクリル酸(カルボマー)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)、およびトリブロックコポリマー、例えばポロキサマー188(プルロニック(登録商標)F68)、ポロキサマーP108(プルロニック(登録商標)F38)、ポロキサマーP184(プルロニック(登録商標)L64)、ポロキサマーP401、ポロキサマーP402、ポロキサマーP407(プルロニック(登録商標)F127)、およびポロキサマーP408(プルロニック(登録商標)F108)、ヒドロキシルプロピルグアーポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(ポロキサマー)、またはそれらの塩もしくは混合物を包含するが、これに限定されず、ヒアルロン酸およびアルギン酸の混合物またはその塩を包含する(が、これに限定されない)。いくつかの態様において、ポリマーは非イオン性ポリマーである。ある種の態様において、ポリマーはポリエーテルである。ある種の態様において、ポリマーはポリアルキルエーテルである。ある種の態様において、ポリマーはポリアルキルエーテルおよび別のポリマー(例えばポリアルキルエーテル)のコポリマーである。いくつかの態様において、ポリマーはポロキサマーである(poloxymerとしてもまた公知)。Poloxymerは非イオン性トリブロックコポリマーであり、ポリオキシエチレン(POE)(ポリエチレングリコール(PEG)としてもまた公知)の2つの親水性鎖によってはさまれたポリオキシプロピレン(POP)(ポリプロピレングリコールとしてもまた公知)の中心的な疎水性鎖から構成される。当業者は、本開示に基づいて、本明細書において提供される溶液への使用のための追加の好適な粘弾性ポリマーに気付くであろう。本開示がこの点で限定されないということは理解されるであろう。当業者は、本明細書において提供される溶液および調製物への使用にとって好適な粘弾性ポリマーの量が、ポリマーの粘弾性特性に、例えばとりわけ用いられるポリマーの分子量に依存するであろうということを理解するであろう。いくつかの態様において、粘弾性ポリマーは本明細書において提供される溶液および調製物中において0.001%w/v~5%w/vの濃度で用いられる。いくつかの態様において、粘弾性ポリマーは、0.01%~0.05%ヒアルロン酸を含む同じ溶液または調製物の粘度に、例えば0.01%~0.05%のHealon Endocoat(登録商標)を含む同じ溶液または調製物が示す粘度に対応する、本明細書において提供される溶液または調製物の粘度を提供する濃度で用いられる。
【0077】
ある種の態様において、粘弾性ポリマーを含有する輸送培地は1,000、10,000、50,000、またはさらには100,000Pasよりも大きいゼロ剪断粘度を有し、好ましくは1,000から200,000Pasの範囲の、より好ましくは1,000から20,000Pasの範囲のゼロ剪断粘度を有する。ある種の態様において、粘弾性ポリマーは、得られる輸送培地のゼロ剪断粘度を、粘弾性ポリマーなしの輸送培地に対して5%、10%、15%、25%、またはさらには40%増大させる。
【0078】
溶液が、例えば溶液中の細胞または組織を含む調製物の形態で対象に投与される態様において、本発明に利用されるポリマーは生体適合性および/または生分解性である。
【0079】
いくつかの態様において、ポリマーはヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物である。いくつかの態様において、ポリマーはヒアルロン酸ナトリウムである。いくつかの態様において、ポリマーは、剪断応力に対する溶液中の細胞の暴露を低減するために有効な濃度で存在する。いくつかの態様において、ポリマーの濃度は0.01~5%w/vである。いくつかの態様において、ポリマーの濃度は約0.01%~0.05%w/vである。いくつかの態様において、ポリマーはHealon Endocoat(登録商標)である。
【0080】
いくつかの態様において、溶液は炭酸塩緩衝剤を含まない。いくつかの態様において、溶液はグルタチオンまたはグルタチオンジスルフィド(GSSG)を含まない。いくつかの態様において、溶液は双性イオン有機緩衝剤を含まない。
【0081】
本開示は、基準(例えば、pH、オスモル濃度、溶質(緩衝剤、グルコース、浸透圧剤、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ポリマー)、濃度など)の2つ以上またはいずれかの数を組み合わせた溶液を包含する。例えば、本開示は、加えられるポリマーありまたはなしで、緩衝剤、グルコース、および浸透圧剤を含む溶液、カリウムを含む溶液、ならびにカリウムを含まない溶液、ならびにそれぞれの溶質について提供されているあらゆる濃度での溶質のあらゆる組み合わせを含む溶液を包含する。本開示が、列記された溶質を含む溶液、および列記された溶質と溶媒、例えば水とから本質的になるかまたはそれらからなる溶液を包含するということもまた理解されるであろう。簡潔の目的のために、それらの代替はここでは書き出さない。
【0082】
例えば、本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、およびグルコース、例えばD-グルコースを水中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、グルコース、例えばD-グルコース、および塩化カリウムを水中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は、約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.03mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、および約145mMのNaClを水中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液はさらに約2mMのKClを含む。いくつかの態様において、溶液は、約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.03mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、約145mMのNaCl、および約2mMのKClを水中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は、約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.3mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、約145mMのNaCl、および約2mMのKClを水中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液はさらに粘弾性ポリマーを含む。いくつかの態様において、ポリマーはヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物である。いくつかの態様において、ポリマーはヒアルロン酸ナトリウムである。いくつかの態様において、ポリマーは、剪断応力に対する溶液中の細胞の暴露を低減するために有効な濃度で存在する。いくつかの態様において、ポリマーの濃度は0.01~5%w/vである。いくつかの態様において、ポリマーの濃度は約0.01~0.05%w/vである。本明細書において提供される溶液のいくつかの態様において、溶液は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、グルコース、例えばD-グルコース、および粘弾性ポリマー、例えばヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物を水中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、グルコース、例えばD-グルコース、塩化カリウム、および粘弾性ポリマー、例えばヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物を水中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は、約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.03mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、約145mMのNaCl、および粘弾性ポリマー、例えばヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物の約0.005~5%w/vを水中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は、約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.03mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、約145mMのNaCl、約2mMのKCl、および粘弾性ポリマー、例えばヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物の約0.005~5%w/vを水中に含むかまたは本質的にそれらからなる。いくつかの態様において、溶液は、約0.85%NaCl、約0.015%KCl、約0.01%CaCl二水和物(塩化カルシウム二水和物)、約0.006%MgCl六水和物(塩化マグネシウム六水和物)、約0.035%クエン酸ナトリウム二水和物、および約0.29%デキストロースを水中に含むかまたは本質的にそれらからなり、任意に、粘弾性ポリマー、例えばヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物の約0.01~5%w/v、例えば、例えば0.01~0.05%Healon Endocoat(登録商標)を含む。いくつかの態様において、溶液は、約0.68~1.02%NaCl、約0.008~0.012%CaCl二水和物(塩化カルシウム二水和物)、約0.0048~0.0072%MgCl六水和物(塩化マグネシウム六水和物)、約0.028~0.042%クエン酸ナトリウム二水和物、および約0.23~0.35%デキストロースを水中に含むかまたは本質的にそれらからなり、任意に、粘弾性ポリマー、例えばヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物の約0.01~5%w/v、例えば、例えば0.01~0.05%Healon Endocoat(登録商標)を含む。いくつかの態様において、溶液は、約0.68~1.02%NaCl、約0.012~0.018%KCl、約0.008~0.012%CaCl二水和物(塩化カルシウム二水和物)、約0.0048~0.0072%MgCl六水和物(塩化マグネシウム六水和物)、約0.028~0.042%クエン酸ナトリウム二水和物、および約0.23~0.35%デキストロースを水中に含むかまたは本質的にそれらからなり、任意に、粘弾性ポリマー、例えばヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物の約0.01~5%w/v、例えば、例えば0.01~0.05%Healon Endocoat(登録商標)を含む。
細胞および組織調製物
【0083】
本開示のいくつかの側面は、本明細書において提供される溶液中の細胞の集団または組織を含む調製物を提供する。いくつかの態様において、細胞の集団は対象への移植にとって好適である。いくつかの態様において、本明細書において提供される調製物は、対象への投与のために、例えば注射または灌流による投与のために製剤される。本明細書において提供される調製物は、本明細書に記載される溶液、例えばGS2中の細胞の集団または組織を、単独で、または1つ以上の追加の化合物もしくは薬剤、例えば抗酸化剤、静菌剤、もしくは薬学的活性剤との組み合わせで含み得る。例示的な医薬調製物は、本開示の例1に記載されるGS2中の細胞または組織を含む。
【0084】
本明細書において提供される溶液中の例示的な細胞または組織調製物は、ヒト患者を処置することへの使用にとって好適である、例えば発熱物質を含まないかまたは本質的に発熱物質を含まない、病原体を含まない、無菌、ならびに生理的pHおよびオスモル濃度であるように製剤され得る。いくつかの態様において、本明細書において提供される調製物は、具体的な部位への、例えば網膜疾患または障害を処置するための眼科用調製物の場合においては網膜または脈絡膜損傷の部位への送達のための硝子体液への、注射のために製剤される。
【0085】
本開示によって提供される調製物は、さらに治療薬剤、例えば免疫抑制剤、血管新生促進剤、または調製物中の細胞の生残および/もしくは定着をサポートする栄養もしくは成長因子を包含し得る。
【0086】
調製物の体積および調製物中の細胞の数は具体的な適用に依存するであろう。典型的には、細胞移植適用のためには、投与される体積を可能な限り減らすことが望ましい。従って、調製物は、最小化された体積が送達され得るように製剤され得る。注射のための細胞濃度は、有効で非毒性であるいずれの量であってもよい。例えば、いくつかの態様においては、移植のための細胞の調製物が提供され、これは本明細書において提供される溶液中、例えばGS2中に少なくとも約10細胞/mlを含む。いくつかの態様において、移植のための細胞調製物は、少なくとも約10、少なくとも約10、少なくとも約10、少なくとも約10、少なくとも約10、少なくとも約10、少なくとも約10、または少なくとも約1010細胞/mlの用量で製剤される。
【0087】
いくつかの態様において、本明細書において提供される調製物中の細胞の数および/または細胞の濃度は、生存細胞を計数し、非生存細胞を除外することによって決定され得る。例えば、非生存細胞は、(トリパンブルーなどの)生体染色色素を排出できないことによって、または(培養基質への接着能、ファゴサイトーシスなどの)機能的アッセイを用いて検出され得る。加えて、所望の細胞種の細胞の数または細胞の濃度は、その細胞種に特徴的な1つ以上の細胞マーカーを発現する細胞を計数すること、および/または所望の細胞種以外の細胞種の指標である1つ以上のマーカーを発現する細胞を除外することによって決定され得る。
【0088】
いくつかの態様においては、少なくとも約1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、または9,000細胞を含む細胞調製物が本明細書において提供される。いくつかの態様において、細胞調製物は少なくとも約1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、または9×1010細胞を含み得る。いくつかの態様において、細胞調製物は少なくとも約1×10~1×10、1×10~1×10、1×10~1×10、または1×10~1×10細胞を含み得る。いくつかの態様において、細胞調製物は少なくとも約10,000、20,000、25,000、50,000、75,000、100,000、125,000、150,000、175,000、180,000、185,000、190,000、または200,000細胞を含んでもよく、例えば、細胞調製物は、少なくとも約20,000~200,000細胞を、本明細書において提供される溶液の、例えばGS2の約50~200μlの体積中に含み得る。
【0089】
いくつかの態様において、細胞の集団は対象の眼への移植にとって好適である。いくつかの態様において、対象の眼への移植にとって好適な細胞の集団は、RPE細胞、RPE前駆細胞、虹彩色素上皮(IPE)細胞、および他の視覚に関連する神経細胞、例えば介在ニューロン(例えば、内顆粒層(INL)の「リレー」ニューロン)およびアマクリン細胞、網膜細胞、桿体、錐体、および角膜細胞、神経細胞、光受容体細胞、ならびに例えば間葉系幹細胞(MSC)などの間葉系細胞を含む。
【0090】
いくつかの態様において、提供される調製物は、本明細書において提供される溶液中に、例えば例1に記載されているGS2培地中に、RPE細胞の集団を含む。好適なRPE細胞は、ヒト胚性幹細胞またはiPS細胞などの多能性幹細胞から分化させることができ、胚性幹細胞、成体由来RPE細胞、および胎児由来RPE細胞とは分子的に別異のものであり得る。いくつかの態様においては、成体由来RPE細胞および胎児由来RPE細胞が用いられる。
【0091】
いくつかの態様において、ES細胞由来RPE細胞が用いられる場合、調製物は、検出可能な量の残存ES細胞を含まず、その結果、本明細書において提供される調製物は、RPE細胞培養物および調製物中における汚染の許容できないリスクをもたらさない。
【0092】
いくつかの態様において、対象の眼への移植にとって好適な細胞の集団を含む調製物は、対象の眼への注射にとって好適である。いくつかの態様において、かかる調製物は、網膜剥離、網膜異形成、網膜色素線条症、近視性黄斑変性、もしくは網膜萎縮を包含するが、これに限定されない、または例えばコロイデレミア、糖尿病性網膜症、黄斑変性(例えば、加齢黄斑変性)、網膜色素変性症、およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)などの光受容体損傷および失明をもたらす数多くの視覚に変化をきたす疾病に関連する、網膜変性疾患または障害を処置するために用いることができる。
【0093】
RPE細胞は、非RPE細胞種に脱分化しない安定な終末分化したRPE細胞であり得る。本明細書に記載されるRPE細胞は、ヒトまたは非ヒト動物への角膜、網膜下、または他の投与によって網膜と一体化する能力を特徴とする機能的なRPE細胞であり得る。
【0094】
RPE細胞はRPE細胞マーカーを発現し得る。例えば、RPE65、PAX2、PAX6、チロシナーゼ、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、および/またはMITFなどのマーカーの発現のレベルは、天然に存在するRPE細胞のものと同等であり得る。RPE細胞の成熟度のレベルは、PAX2、PAX6、およびチロシナーゼの少なくとも1つの発現、またはそれらのそれぞれの発現レベルを測定することによって評価され得る。
【0095】
いくつかの態様において、本明細書に記載される本明細書において提供される調製物中に含まれるRPE細胞は、細胞の色素沈着度に基づいて同定および特徴付けされ得る。色素の変化は、RPE細胞が培養および維持される密度と、RPEが培養中に維持される持続期間とによってコントロールされ得る。急速に分裂している分化したRPE細胞はより軽度に色素沈着している。対照的に、よりゆっくり分裂しているかまたは分裂していないRPEは、それらの特徴的な多角形または六角形形状をとり、メラニンおよびリポフスチンを蓄積することによって色素沈着レベルを増大させる。例えば、(例えば、コンフルエントであるために)静止期にあるRPE培養物は、典型的には経時的に色素沈着のそれらのレベルを増大させる。そのため、色素沈着の蓄積はRPE分化の指標としての役割を果たし、細胞密度に関連する増大した色素沈着はRPE成熟度の指標としての役割を果たす。例えば、成熟RPE細胞は、色素沈着が減少するように、より低い密度で継代培養され得る。この観点から、成熟RPE細胞は、より未成熟のRPE細胞を生ずるように培養され得る。かかるRPE細胞は、RPE分化のマーカーを発現するさらに分化したRPE細胞である。
【0096】
例えば、いくつかの態様においては、RPE細胞を含む調製物が提供され、その平均メラニン含量は8pg/細胞未満、7pg/細胞未満、6pg/細胞未満、または5pg/細胞未満、例えば0.1~8pg/細胞の間、0.1~7pg/細胞の間、0.1~6pg/細胞の間、0.1~5pg/細胞の間、0.1~4pg/細胞の間、0.1~3pg/細胞の間、0.1~2pg/細胞の間、0.1~1pg/細胞の間、1~8pg/細胞の間、1~7pg/細胞の間、1~6pg/細胞の間、1~5pg/細胞の間、1~4pg/細胞の間、1~3pg/細胞の間、1~2pg/細胞の間、2~6pg/細胞の間、3~5pg/細胞の間、または4~5pg/細胞の間、例えば4.2~4.8pg/細胞など、または0.1~5pg/細胞の間である。さらなる例において、平均メラニン含量は5pg/細胞未満、例えば0.1~5pg/細胞の間、0.2~5pg/細胞の間、0.5~5pg/細胞、1~5pg/細胞、2~5pg/細胞、3~5pg/細胞、4~5pg/細胞、または4.5~5pg/細胞であり得る。
【0097】
いくつかの態様においては、本明細書に記載される溶液、例えばGS2中のRPE細胞を含む調製物が提供され、ここで、RPE細胞は、対象へのRPE細胞の移植後に、例えば対象の眼への調製物の注射後にそれらの表現型を維持する。RPE細胞は、移植後のレシピエントの寿命までそれらの表現型を維持し得る。例えば、RPE細胞は、移植後にそれらの表現型を少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20日間維持し得る。さらに、RPE細胞は、移植後にそれらの表現型を少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10週間維持し得る。RPE細胞は、移植後にそれらの表現型を少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12ヶ月間維持し得る。RPE細胞は、移植後にそれらの表現型を少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20年以上の間、維持し得る。
【0098】
いくつかの態様において、本開示は、対象の眼への注射のための本明細書において提供される溶液中のRPE細胞の調製物を提供する。かかる態様において、調製物は眼内注射のための薬学的に許容される眼科用製剤である。調製物を硝子体内注射によって投与するときに、例えば、調製物は、最小化された体積が送達され得るように製剤され得る。注射のための濃度は、有効で非毒性であるいずれかの量であり得る。患者の処置のためのRPE細胞の調製物は、少なくとも約10細胞/ml(本明細書において提供される溶液)のの用量で製剤され得る。患者の処置のためのRPE細胞調製物は、少なくとも約10、10、10、10、10、10、10、または1010個のRPE細胞/mLの用量で製剤される。
【0099】
本明細書に記載されるRPE細胞の調製物は、少なくとも約1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、または9,000個のRPE細胞を、本明細書に記載される溶液中に、例えば例1に記載されるGS2中に含み得る。RPE細胞の医薬調製物は少なくとも約1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、または9×1010個のRPE細胞を含み得る。RPE細胞の医薬調製物は少なくとも約1×10~1×10、1×10~1×10、1×10~1×10、または1×10~1×10個のRPE細胞を含み得る。RPE細胞の医薬調製物は、少なくとも約10,000、20,000、25,000、50,000、75,000、100,000、125,000、150,000、175,000、180,000、185,000、190,000、または200,000個のRPE細胞を含み得る。例えば、RPE細胞の医薬調製物は、少なくとも約50~200μl体積中に少なくとも約20,000~200,000個のRPE細胞を含み得る。さらに、RPE細胞の医薬調製物は、150μlの体積中に約50,000個のRPE細胞、150μlの体積中に約200,000個のRPE細胞、または少なくとも約150μl体積中に少なくとも約180,000個のRPE細胞を含み得る。
【0100】
RPE細胞は、調製物が眼表面との接触をして十分な期間維持されて、細胞が眼の患部、例として前眼房、後眼房、硝子体、房水、硝子体液、角膜、虹彩/毛様体、水晶体、脈絡膜、網膜、強膜、上脈絡膜(suprachoridal)腔、結膜、結膜下腔、上強膜腔、角膜内腔、角膜上腔、毛様体扁平部、手術によって誘導された無血管部、または黄斑まで浸透することを可能にするように、薬学的に許容される眼科用基剤による送達のために本明細書において提供される調製物中に製剤され得る。
【0101】
いくつかの態様においては、細胞調製物が本明細書において提供され、その中のRPE細胞は細胞のシート中に含有される。例えば、RPE細胞を含む細胞のシートは、細胞の無傷のシートが剥離し得る基質、例えば温度応答性ポリマー、例えば温度応答性ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)グラフト表面上でRPE細胞を培養することによって調製され得る。その上に細胞が接着し、培養温度において増殖し、それから温度シフトによって表面特性が変化し、細胞の培養シートの剥離を引き起こす(例えば、下限臨界溶液温度(LCST)未満に冷却することによる(Silva et al., Trends Biotechnol. 2007 Dec;25(12):577-83、Hsiue et al., Transplantation. 2006 Feb 15;81(3):473-6、Ide, T. et al. (2006); Biomaterials 27, 607-614、Sumide, T. et al. (2005), FASEB J. 20, 392-394、Nishida, K. et al. (2004), Transplantation 77, 379-385、およびNishida, K. et al. (2004), N. Engl. J. Med. 351, 1187-1196参照。これらのそれぞれはその全体が参照によって本明細書に組み込まれる)。細胞のシートは、移植にとって好適な基質、例えばシートが宿主生物に移植されたときにインビボで溶解し得る基質、に対して接着性であってよく、例えば、移植にとって好適な基質上で細胞を培養すること、または細胞を別の基質(温度応答性ポリマーなどの)から移植にとって好適な基質上に解離させることによって調製される。可能性として移植にとって好適な例示的な基質はゼラチンを含み得る(Hsiue et al.,上記参照)。移植にとって好適であり得る代替的な基質は、フィブリンに基づくマトリックスおよび他を包含する。細胞のシートは、網膜変性の疾患の防止または処置のための医薬の製造に用いられ得る。RPE細胞のシートは、それを本明細書に記載される溶液、例えばGS2溶液と接触させることによって、その必要がある対象の眼への導入のための細胞または組織調製物に製剤され得る。いくつかの態様において、細胞のシートは、RPE細胞のシート移植を用いた中心窩下膜切除術によってその必要がある対象の眼に導入され得るか、または中心窩下膜切除術後の移植のための医薬の製造に用いられ得る。
【0102】
本開示のいくつかの態様によって提供される調製物の体積は、投与方法、送達されるべき細胞の数、患者の年齢および体重、ならびに処置されようとする疾患の種類および重症度などの因子に依存する。例えば、注射によって投与される場合に、本開示のRPE細胞の医薬調製物の体積は約1、1.5、2、2.5、3、4、または5mlであり得る。体積は約1~2mLであり得る。例えば、注射によって投与される場合に、本開示のRPE細胞の医薬調製物の体積は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、100、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、または200μL(マイクロリットル)であり得る。例えば、本開示の調製物の体積は約10~50、20~50、25~50、または1~200μLであり得る。本開示の調製物の体積は約10、20、30、40、50、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、または200μL以上であり得る。
【0103】
いくつかの態様において、本明細書において提供される調製物は、μLあたり、約1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、または9×10個のRPE細胞を含み得る。例えば、いくつかの態様において、調製物はμLあたり2000個のRPE細胞、例えば50μLあたり100,000個のRPE細胞、または90μLあたり180,000個のRPE細胞を含み得る。
【0104】
いくつかの態様において、調製物は冷蔵される。いくつかの態様において、調製物は約2~8℃で冷蔵される。
【0105】
いくつかの態様において、調製物は、調製物の保存の間における細胞の集団中の細胞の生残をサポートする。いくつかの態様において、細胞集団中の細胞の少なくとも70%は2~8℃における調製物の保存の48時間後に生存可能である。いくつかの態様において、細胞または細胞集団の少なくとも80%は、2~8℃における調製物の保存の48時間後に生存可能である。いくつかの態様において、細胞集団中の細胞の少なくとも90%は、2~8℃における調製物の保存の48時間後に生存可能である。いくつかの態様において、調製物は、調製物の保存の間における細胞の集団の播種効率の維持をサポートする。いくつかの態様において、2~8℃における調製物の保存の48時間後に、細胞の集団は、その元の播種効率の少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%を示し、元の播種効率は、保存期間開始時における細胞の集団の播種効率を言う。いくつかの態様において、調製物は保存容器内に存在する。いくつかの態様において、調製物はシリンジ内に存在する。
【0106】
本開示のいくつかの側面は、本明細書において提供される溶液中の細胞および組織の医薬調製物を提供する。かかる調製物は対象への投与にとって好適である。いくつかの態様において、医薬調製物は、細胞、細胞集団、または組織と、本明細書において提供される溶液とから本質的になる。いくつかの態様において、医薬調製物は、1つ以上の薬学的活性成分、例えば保存料、抗酸化剤、ラジカルスカベンジャー、免疫抑制剤、血管新生促進因子、血管新生抑制因子、成長ホルモン、または細胞増殖、生残、および定着をサポートする細胞栄養もしくは基質を含む。
【0107】
医薬パックおよび/またはキットもまた本開示によって包含される。提供される医薬パックおよび/またはキットは、本明細書において提供される細胞または組織調製物と容器(例えば、バイアル、アンプル、ボトル、シリンジ、および/またはクーラーパッケージ、または他の好適な容器)とを含み得る。いくつかの態様において、提供されるキットは、任意に、さらに第2の容器を包含することができ、細胞または組織調製物の希釈、洗浄、および/または再構成のために、調製物を製剤するために用いられる溶液を含む。いくつかの態様において、提供される製剤容器および溶媒容器の内容は組み合わさって、少なくとも1つのユニット剤形を形成する。
【0108】
本開示のいくつかの側面は、本明細書において提供される調製物、例えば本明細書において提供される溶液中の細胞の集団を含む調製物を調製するための方法を提供し、ここで、方法は、細胞の集団を溶液と接触させることを含む。いくつかの態様において、方法は、凍結保存またはペレット化された細胞の集団を溶液と接触させて、細胞を再構成することを含む。
【0109】
例えば、本開示のいくつかの側面は、(a)細胞の集団を本明細書において提供される溶液と接触させて、細胞調製物を生成することを含む方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、さらに、(b)(a)の細胞調製物を少なくとも4、少なくとも6、少なくとも12、少なくとも18、少なくとも24、少なくとも36、少なくとも48、少なくとも60、少なくとも72、または少なくとも96時間保存することを含む。いくつかの態様において、方法は、さらに、(c)(b)の保存期間後に対象に(a)の細胞調製物を投与することを含む。いくつかの態様において、(c)の投与は、細胞を対象の眼に注射することを含む。いくつかの態様において、方法は、さらに(b)の保存期間後に(a)の細胞調製物中の細胞生存能を決定することを含む。いくつかの態様において、方法は、ステップ(b)の保存期間の間に(a)の細胞調製物を冷蔵することを含む。いくつかの態様において、冷蔵は、細胞調製物を2~8℃の温度で保存することを含む。いくつかの態様において、方法は、さらに、(a)において作り出された調製物を、調製物が作り出された場所とは異なる場所に(b)の保存期間内に輸送することを含む。いくつかの態様において、輸送は、調製物を(c)の投与が行われるクリニックまたは手術室に輸送することを含む。
例示的な使用および方法
【0110】
本開示の溶液は種々の臨床適用のために用いられ得る。かかる適用は、臨床灌流、例えばペレット化または凍結保存後の細胞の再構成または製剤、ならびに例えば臨床適用のための細胞の製剤を包含し、対象への投与前の細胞保存および輸送、ならびに/あるいは対象への細胞、細胞単層、または組織の投与のための担体培地としてを包含するが、これに限定されない。
【0111】
例えば、いくつかの態様において、本開示の溶液は細胞の再構成のための溶液として用いられ得る。本明細書において用いられる用語「細胞の再構成」は、細胞の集団を含む溶液を生成するために、細胞の集団を溶液、例えば本明細書において提供される溶液と接触させるプロセスを言う。いくつかの態様において、細胞の集団を再構成することは、細胞のペレット、例えば遠心ステップ後に上清を捨てることによって得られた細胞のペレットから、細胞の集団を含む溶液を生成することを含む。いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液によって細胞の集団を再構成することは、細胞が最初に懸濁されているいずれかの培地を希釈または置換して、本明細書において提供される溶液から本質的になるかまたはそれからなる培地中の細胞の集団を得ることを含む。いくつかのかかる態様において、本明細書において提供される溶液以外の培地中に懸濁された細胞の集団は、本明細書において提供される溶液によって1回以上洗浄され得る。いくつかの態様において、洗浄ステップは、細胞を本明細書において提供される溶液と接触させることと、例えば遠心によって細胞をペレット化することと、上清を捨てることと、細胞ペレットを溶液によって再構成することとを含み得る。用いられる溶液の体積および細胞ペレットの体積に依存して、最初の培地は、単一の洗浄-再構成サイクル後に、または2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10回のかかるサイクル後に、溶液によって本質的に置換され得る。
【0112】
いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液は細胞および組織製剤のために用いられ得る。細胞および組織の観点から、本明細書において用いられる用語「製剤」は、細胞、細胞の集団、または組織を本明細書において提供される溶液のある体積と接触させて、臨床使用にとって、例えば対象への投与にとって、好適である細胞または組織調製物を得ることを言う。本明細書において提供される溶液は様々な細胞種、細胞集団、および組織と広く適合性であり、成体幹および前駆細胞、分化した細胞、ならびにかかる細胞を含む集団および組織を包含するが、これに限定されない。いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液中のそのように製剤された細胞、細胞集団、または組織は、例えば再生医療アプローチにおける臨床使用のための治療用細胞、細胞集団、または組織である。例えば、いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液中の製剤された細胞、細胞集団、または組織は、対象の失われたもしくは変性した細胞を置換し得るか、または対象の損傷したかもしくは機能不全である組織を修復もしくは置換し得る細胞の集団を含み得る。例えば、いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液中に製剤される細胞、細胞集団、または組織は、多能性幹または前駆細胞、あるいは機能的な分化した細胞、あるいはかかる細胞を含む集団または組織、あるいはかかる細胞の組み合わせを含み得る。いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液は、RPE細胞、光受容体細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経もしくはニューロン幹もしくは前駆細胞、グリア幹もしくは前駆細胞、膵臓幹もしくは前駆細胞、ベータ細胞、ケラチノサイト、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、またはかかる細胞を含むかもしくはそれから本質的になる集団もしくは組織、例えばRPE細胞の単層、膵島、もしくは皮膚移植片を製剤するために用いられる。いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液中の細胞の製剤は臨床使用まで(例えば、対象への投与まで)保存され、および/あるいは臨床現場に輸送され、提供されたまままたは製剤を所望の体積もしくは細胞の所望の濃度に希釈することなどの最小限のプロセシングのみのいずれかで、対象に投与され得る。
【0113】
いくつかの態様において、本明細書において提供される溶液は細胞または組織保存にとって有用である。本明細書において用いられる用語「保存」は、細胞および組織の観点において、本明細書において提供される溶液中の細胞(単数もしくは複数)または組織(単数もしくは複数)の製剤と、細胞(単数もしくは複数)または組織(単数もしくは複数)のさらなるプロセシングステップまたは臨床使用どちらかとの間の期間を言う。以前に利用可能な溶液とは対照的に、本明細書において提供される溶液は、RPE細胞、光受容体、およびMSCなどの傷つきやすい細胞および組織を包含する様々な種類の細胞および組織の保存を、延長された期間、例えば少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも12、少なくとも18、少なくとも24、少なくとも30、少なくとも36、少なくとも48時間、少なくとも60時間、または少なくとも72時間、細胞生存能、再播種効率、または再増殖能の最小限の減少のみでサポートする。例えば、いくつかの態様において、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも12、少なくとも18、少なくとも24、少なくとも30、少なくとも36、少なくとも48、少なくとも60、または少なくとも72時間の期間の、本明細書において提供される溶液中における例えばRPE細胞、光受容体細胞、またはMSCの細胞、細胞集団、または組織の保存は、保存期間開始時における生存能、再播種効率、および/または再増殖能の少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%という細胞生存能、再播種効率、および/または再増殖能をもたらす。いくつかの態様において、保存期間、例えば細胞または組織の製剤とそれらの臨床使用との間の期間は、4時間、6時間、8時間、12時間、18時間、24時間、30時間、36時間、48時間、60時間、または72時間を超過しないであろう。典型的には、本明細書において提供される溶液中の製剤された細胞または組織は、保存のために、例えば2~8℃の間の温度にして冷蔵される。従って、いくつかの態様において、細胞および組織は、本明細書において提供される溶液中において常温未満の温度で、例えば2~8℃の間の温度で保存される。しかしながら、いくつかの態様においては、より高い温度、例えば8℃および16℃の間の温度、16~22℃、または常温(典型的には約25℃)での保存が企図される。
【0114】
本明細書において提供される溶液は、細胞、細胞集団、および組織をそれらの製剤後に臨床現場に輸送するためにもまた有用である。本明細書において提供される溶液は細胞生残をサポートし、輸送の間の剪断応力を包含する代謝的および物理的ストレスを最小化する。細胞または組織輸送は、典型的には、上に記載されているように、細胞または組織の保存期間内に行われるため、保存にとって好適な条件において行われるであろう。本明細書において提供される溶液中の製剤された細胞または組織が冷蔵条件において、例えば常温未満の温度において輸送される態様においては、移動型冷蔵装置の使用が輸送にとって好ましい。かかる装置は、限定なしに、断熱の輸送または運送容器、氷パック、冷却ゲル、冷却容器、および移動型冷蔵ユニットを包含する。冷蔵輸送のためのいくつかの例示的な好適な輸送方法、容器、およびデバイスは本明細書に他所により詳細に記載される。当業者は、本開示に鑑みて、追加の好適な方法、容器、およびデバイスに気付くであろう。
【0115】
本開示のいくつかの側面は、本明細書に記載される臨床用溶液または細胞もしくは組織調製物の有効量を対象に投与することによって、その必要がある対象を処置するための方法を提供する。いくつかの態様において、対象は、細胞、細胞集団、または組織を例えば本明細書に記載される細胞または組織調製物の形態で投与することによって処置され得る疾患または障害を有するか、またはそれと診断される。いくつかの態様において、対象に投与されようとする調製物は、対象の疾患または障害の少なくとも1つの症状を軽減するために有効なサイズの細胞の集団を含む。いくつかの態様において、対象は手術を受けており、本明細書に記載される溶液または調製物は手術部位を灌流するために投与される。いくつかの態様において、方法は、対象の疾患の少なくとも1つの症状をモニタリングすることをさらに含む。
【0116】
用語「処置」、「処置する」、および「処置すること」は、本明細書に記載される疾患もしくは障害またはその1つ以上の症状を回復させるか、緩和するか、その発症を遅延させるか、またはその進行を阻害することを目的とする臨床的介入を言う。いくつかの態様において、処置は1つ以上の症状が発生した後におよび/または疾患が診断された後に投与され得る。他の態様において、処置は、症状の不在下において、例えば疾患の症状の発症を防止するかもしくは遅延させるか、または発症もしくは進行を阻害するために投与され得る。例えば、処置は、(例えば、症状の既往に照らして、および/または遺伝性もしくは他の易罹患性因子に照らして)症状の発症前の易罹患性の個体に投与され得る。処置は、症状が解消した後にもまた、例えばそれらの再発を防止するかまたは遅延させるために継続され得る。
【0117】
本明細書において用いられる用語「対象」は、個体の生物、例えば個体の哺乳動物を言う。いくつかの態様において、対象はヒトである。いくつかの態様において、対象は非ヒト哺乳動物である。いくつかの態様において、対象は非ヒト霊長類である。いくつかの態様において、対象は齧歯類である。いくつかの態様において、対象は羊、山羊、牛、猫、または犬である。いくつかの態様において、対象は実験動物である。いくつかの態様において、対象は、遺伝子操作されており、例えば遺伝子操作された非ヒト対象である。対象はどちらかの性別、発達のあらゆるステージであり得る。
【0118】
本明細書において用いられる用語「有効量」は、所望の生体応答を誘発するために十分である生物活性薬剤の量を言う。例えば、いくつかの態様において、本明細書に記載される細胞または組織調製物の有効量は、疾患または障害に関連する症状を改善するために十分、例えば網膜疾患または障害を有する対象の視覚を改善するために十分である細胞の数または組織の量を含む、調製物の量を言い得る。当業者によって理解されるように、本明細書において提供される溶液または調製物の有効量は、種々の因子に、例として所望の生体応答、例えば処置されようとする具体的な疾患、緩和されるべき具体的な症状、標的とされている細胞または組織、ならびに対象の年齢、性、および一般的な健康状態に依存して様々であり得る。
【0119】
本開示のいくつかの側面は、本明細書において提供される溶液または調製物をその必要がある対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、溶液または調製物を対象の眼に投与することを含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも12、少なくとも24、少なくとも36、または少なくとも48時間の調製物の保存後に、調製物を対象に投与することを含む。いくつかの態様において、対象は網膜疾患を有するか、またはそれと診断される。いくつかの態様において、網膜疾患は桿体もしくは錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、レーバー先天性黒内障、またはシュタルガルト病である。いくつかの態様において、調製物は、対象の網膜疾患の少なくとも1つの症状を軽減するために有効なサイズの細胞の集団を含む。いくつかの態様において、細胞の集団はRPE細胞、光受容体細胞、または間葉系幹細胞を含む。いくつかの態様において、方法は、対象の網膜疾患の少なくとも1つの症状をモニタリングすることをさらに含む。
【0120】
本開示のいくつかの側面は網膜疾患を処置するための方法を提供し、方法は、網膜疾患を有する対象の眼に、本明細書において提供される細胞調製物の有効量を投与することを含む。いくつかの態様において、対象は網膜疾患を有するか、またはそれと診断される。いくつかの態様において、網膜疾患は桿体もしくは錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、レーバー先天性黒内障、またはシュタルガルト病である。いくつかの態様において、調製物は、対象の網膜疾患の少なくとも1つの症状を軽減するために有効なサイズの細胞の集団を含む。いくつかの態様において、細胞の集団はRPE細胞、光受容体細胞、または間葉系幹細胞を含む。いくつかの態様において、方法は、対象の網膜疾患の少なくとも1つの症状をモニタリングすることをさらに含む。
【0121】
本明細書において用いられる用語「疾患の症状をモニタリングする」は、ある期間の複数の時点において疾患の症状の重症度を評価することを言う。例えば、対象の症状の重症度は、対象の処置が開始する前に、および次いで再び処置の期間後に、評価され得る。いくつかの態様において、モニタリングは、処置が類似の対象(例えば、同じ生物種、性、年齢、一般的な健康状態などの対象)の症状の測定可能な改善をもたらすために十分であることが公知であるかまたは予想される時間の後に、症状の重症度を評価することを包含し得る。いくつかの態様において、モニタリングは、規則的な間隔で症状の重症度を評価することを包含し得る。例えば、網膜障害を処置されようとする対象において、対象の視覚の最初の評価が実施され得る。当業者は、この評価が例示的であるということと、他の評価が対象の視覚の評価に加えてまたは代わりに実施され得るということとを理解するであろう。かかる評価は、網膜変性、網膜アブレーション、黄斑変性などのレベルを包含し得る。ひとたび対象が本明細書において提供される細胞調製物、例えば本明細書において提供されるGS2培地中にRPE細胞の有効数を含む調製物を投与することによって処置されたら、理想的には、投与された細胞が定着することとそれらの機能を実行することとを可能にするある期間が術後に経過した後に、例えば約1週間、約2週間、約3週間、約1ヶ月、約2ヶ月、約3ヶ月、約4ヶ月、約5ヶ月、約6ヶ月、または約1年後に、対象の視覚が再び評価され得る。術後評価の結果は記録され、術前評価と比較されて、症状が改善したかどうか、例えば対象の視覚のレベルが復活したかどうかを決定し得る。評価は1回または複数回繰り返されて、症状の軽減がなお進行中であるかどうか、またはエンドポイントに到達したかどうかを決定し得る。術後モニタリングの結果に依存して、追加の外科手術がスケジューリングされて、評価される症状を(さらに)改善し得る。最初の手術後に改善が観察されない場合には、細胞または組織調製物の投与量は、症状の軽減を促進するために増加し得る。
【0122】
網膜疾患の処置の方法は、本明細書において提供されるRPE細胞調製物の有効量の単一の用量、例えば本明細書に記載されるGS2培地中にRPE細胞の有効量を含む調製物の投与を含み得る。本明細書に記載される処置の方法は、RPE細胞がある程度の期間に渡って複数回投与され、かつ細胞の各投与量が疾患の症状を緩和するために有効であるかまたは複数の用量が有効量を累積的に送達する治療の過程をもまた含み得る。処置の例示的な過程は毎週、二週毎、一ヶ月毎、年4回、年2回、または毎年の処置を含み得る。代替的には、処置は段階的に進んでもよく、それによって多数の用量が最初に投与され(例えば、第1週には毎日の用量)、爾後により少なくより低頻度の用量が必要とされる。
【0123】
本明細書に記載されるRPE細胞調製物、例えばGS2溶液中にRPE細胞を含む調製物が眼内注射によって投与される場合には、RPE細胞調製物は、患者の一生を通して定期的に1回以上送達され得る。例えば、RPE細胞調製物は年あたり1回、6~12ヶ月毎に1回、3~6ヶ月毎に1回、1~3ヶ月毎に1回、または1~4週間毎に1回送達され得る。代替的には、より高頻度の投与がある種の状態または障害にとって望ましくあり得る。インプラントまたはデバイスによって投与される場合には、RPE細胞は、処置されようとする特定の患者および障害または状態の必要に応じて1回、または患者の生涯を通して定期的に1回以上投与され得る。同様に、経時的に変化する治療計画が企図される。例えば、より高頻度の処置が始めに必要とされ得る(例えば、毎日または毎週の処置)。経時的に患者の状態が改善するのに伴って、より低頻度の処置が必要とされ得るか、またはさらなる処置が必要とされないこともある。
【0124】
本明細書に記載される方法は、対象の網膜電図応答、視運動知覚閾値、または輝度閾値を測定することによって、処置または防止の効能をモニタリングするステップをさらに含み得る。方法は、眼における細胞の免疫原性または細胞の遊走をモニタリングすることによって、処置または防止の効能をモニタリングすることをもまた含み得る。
【0125】
RPE細胞またはRPE細胞と本明細書において提供される臨床用溶液、例えばGS2溶液とを含む調製物は、網膜変性を処置するための医薬の製造に用いられ得る。本開示は、失明の処置における、本明細書において開示されるRPE細胞を含む調製物の使用をもまた包摂する。例えば、ヒトRPE細胞を含む調製物は、糖尿病性網膜症、黄斑変性(加齢黄斑変性、例えば湿潤型加齢黄斑変性および乾燥型加齢黄斑変性を包含する)、網膜色素変性症、およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)などの、光受容体損傷および失明をもたらす多数の視覚に変化をきたす疾病に関連する網膜変性を処置するために用いられ得る。調製物は少なくとも約5,000~500,000個のRPE細胞(例えば、100,00個のRPE細胞)を含むことができ、これは、糖尿病性網膜症、黄斑変性(加齢黄斑変性を包含する)、網膜色素変性症、およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)などの光受容体損傷および失明をもたらす多数の視覚に変化をきたす疾病に関連する網膜変性を処置するために網膜に投与され得る。
【0126】
対象の処置のための調製物に用いられる細胞、例えば本明細書において提供されるRPE細胞調製物に用いられるRPE細胞は、ヒト細胞であり得る。ヒト細胞はヒト患者に、および動物モデルまたは患畜に用いられ得る。例えば、ヒト細胞は網膜変性のマウス、ラット、猫、犬、または非ヒト霊長類モデルによって試験され得る。加えて、ヒト細胞は、獣医療などにおいてその必要がある動物を処置するために治療用に用いられ得る。
【0127】
いくつかの態様において、網膜疾患を処置する方法は、さらに、本明細書において提供される臨床用調製物の投与に時間的に近接して免疫抑制剤の投与を含み得る。用いられ得る免疫抑制剤は、抗リンパ球グロブリン(ALG)ポリクローナル抗体、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)ポリクローナル抗体、アザチオプリン、BASILIXIMAB(登録商標)(抗IL-2Rα受容体抗体)、シクロスポリン(シクロスポリンA)、DACLIZUMAB(登録商標)(抗IL-2Rα受容体抗体)、エベロリムス、ミコフェノール酸、RITUXIMAB(登録商標)(抗CD20抗体)、シロリムス、およびタクロリムスを包含するが、これに限定されない。免疫抑制剤は、少なくとも約1、2、4、5、6、7、8、9、または10mg/kgで投薬され得る。免疫抑制剤が用いられる場合には、それらは全身または局所投与することができ、それらはRPE細胞の投与前に、投与と同時に、または投与後に投与され得る。免疫抑制治療はRPE細胞の投与後に数週間、数ヶ月間、数年間、または無期限に継続し得る。例えば、患者はRPE細胞の投与後に5mg/kgシクロスポリンを6週間投与され得る。
【0128】
いくつかの側面において、本明細書において提供される溶液は臨床灌流溶液として用いられ得る。かかる溶液は、臨床灌流にとって、例えば創傷または手術部位の灌流にとって有用である。本明細書において用語「灌流」と交換可能に用いられる用語「臨床灌流」は、一般的に、溶液、典型的には水溶液を創傷または手術部位に投与することを言う。本明細書において提供される灌流溶液は、種々の目的のために、例えば組織の水和、消毒、残骸もしくは表面病原体の除去、潤滑化、組織癒着の回避、または目視検査の補助の目的のために投与され得る。いくつかの態様において、灌流は、開放性創傷または手術部位に灌流溶液の定流を投与することを含む。いくつかの態様において、灌流溶液は間欠的に投与される。投与される灌流溶液の投与の様式ならびに体積および流量は、具体的な状況、例えば創傷のサイズ、灌流される組織、ならびに創傷または手術部位の状態(例えば、残骸の存在、表面病原体に対する暴露)に依存するであろう。当業者は、投与にとって好適な適切な方法およびデバイス、ならびに好適な体積および流量を特定することができるであろう。
【0129】
いくつかの状況においては、単純な灌流溶液が灌流の目的のいくつかを達成するためには十分であり得るが、従来の灌流溶液、例えば生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、消毒剤、または抗生物質は、いくつかの手術環境において傷つきやすい細胞または組織の生残をサポートすることができないかまたはそれに対して細胞毒性である場合もあり、それゆえに手術結果に負の影響を及ぼし得る。
【0130】
1つの通常用いられる臨床灌流液である生理食塩水(水中の0.9%NaCl)は、等張であり、その低い毒性、生理的特性(pHおよびオスモル濃度)、調製および滅菌(蒸気滅菌を包含する)の容易さ、ならびに常温における長い品質保持期限のために、創傷灌流のために高頻度に用いられる。生理食塩水の1つの欠点は、それが傷つきやすい細胞または組織の延長された生残をサポートしないということ、および他の灌流溶液と比較して比較的高い創傷感染率が生理食塩水による灌流後に報告されているということである。
【0131】
傷つきやすい手術部位または創傷、例えば、眼手術の間等に、生理食塩水または他の単純な灌流溶液の灌流によって負の影響を及ぼされ得る部位または創傷、を灌流するために、いくつもの商業的に利用可能な手術用灌流溶液が開発されてきた。例えば眼手術の間に傷つきやすい細胞または組織の外傷を防止するための、手術の間の使用のための現行で利用可能な手術用灌流溶液には、典型的には4つの主要成分がある:オスモル濃度を維持するための薬剤、カルシウム源、マグネシウム源、および緩衝化剤である。
【0132】
本開示のいくつかの態様は、本明細書において提供される溶液によって、例えばGS2溶液によって、手術部位を灌流するための方法を提供する。いくつかの態様において、手術部位は対象の眼である。
【0133】
手術部位の灌流のための方法およびデバイスは当業者に周知である。当業者は、用いられる送達の方法、体積、および圧力が手術部位の種類および状態に依存するということを理解するであろう。臨床灌流のための好適なデバイスは、限定なしに、バルブシリンジ、ピストンシリンジ、圧力キャニスター、ワールプール撹拌機、ワールプールホース・スプレイヤー、注ぎキャップまたはノズルを有するプラスチック容器中の灌流流体、およびパルス洗浄デバイス(例えばジェット洗浄、機械洗浄、パルス式洗浄、機械灌流、高圧灌流デバイス)を包含する。
【0134】
いくつかの態様において、灌流は連続的であり、灌流液の絶え間ない流れが手術部位に投与される。他の態様においては、パルスのまたは間欠的な灌流が採用され、灌流液の間欠的なまたは断続的な送達が実施される。灌流体積は手術部位の性質および灌流の目的(創傷消毒、水和など)に依存するであろう。
キット
【0135】
本開示のいくつかの側面はキットを提供し、(a)本明細書において提供される溶液;および(b)細胞集団を(a)の溶液と接触させて細胞調製物を生成するための説明書;および(c)(b)の接触のためのおよび/または(b)の細胞調製物を保存するための容器を含む。いくつかの態様において、(a)の溶液および(c)の容器は、対象への移植のための(b)の細胞調製物の使用にとって好適である。
【0136】
したがって、本開示は、とりわけ下記:
項目1. 溶液であって、
(a)溶液を生理的pHに維持する緩衝剤;および
(b)少なくとも2mMまたは少なくとも0.05%(w/v)のグルコース;および
(c)溶液を生理的オスモル濃度に維持する浸透圧剤
を含む、前記溶液。
項目2. 項目1の溶液であって、溶液が少なくとも5mMまたは少なくとも0.1%(w/v)のグルコースを含む。
項目3. 項目1の溶液であって、溶液が少なくとも7.5mMまたは少なくとも0.14%(w/v)のグルコースを含む。
項目4. 項目1の溶液であって、溶液が少なくとも10mMまたは少なくとも0.2%(w/v)のグルコースを含む。
項目5. 項目1の溶液であって、溶液が少なくとも15mMまたは少なくとも0.25%(w/v)のグルコースを含む。
項目6. 項目1の溶液であって、溶液が少なくとも20mMまたは少なくとも0.4%(w/v)のグルコースを含む。
項目7. 項目1の溶液であって、溶液が少なくとも25mMまたは少なくとも0.5%(w/v)のグルコースを含む。
項目8. 項目1~7のいずれか1つの溶液であって、溶液がさらに二価カチオン源を含む。
項目9. 項目8の溶液であって、二価カチオン源がカルシウムおよび/またはマグネシウム源を含む。
項目10. 項目1~9のいずれか1つの溶液であって、緩衝剤が酢酸塩緩衝剤および/またはクエン酸塩緩衝剤を含む。
項目11. 溶液であって、
(a)溶液を生理的pHに維持する緩衝剤(緩衝剤は二炭酸緩衝剤ではない);および
(b)グルコース;および
(c)溶液を生理的オスモル濃度に維持する浸透圧剤;および
(d)二価カチオン源
を含む、前記溶液。
項目12. 項目11の溶液であって、(d)の二価カチオン源がカルシウム源および/またはマグネシウム源を含む。
項目13. 項目11~12のいずれか1つの溶液であって、緩衝剤が酢酸塩緩衝剤および/またはクエン酸塩緩衝剤を含む。
項目14. 項目9~10または12~13のいずれか1つの溶液であって、カルシウム源が薬学的に許容されるカルシウム塩を含む。
項目15. 項目9~10または12~14のいずれか1つの溶液であって、マグネシウム源が薬学的に許容されるマグネシウム塩を含む。
項目16. 項目14~15のいずれか1つの溶液であって、薬学的に許容されるカルシウムおよび/または薬学的に許容されるマグネシウム塩が、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、塩酸、マレイン酸、シュウ酸、リン酸、ステアリン酸、コハク酸、および硫酸を含む群から選択される酸によって形成されるカルシウムおよび/またはマグネシウム塩の群から選択される。
項目17. 項目9~10または12~16のいずれか1つの溶液であって、カルシウム源が塩化カルシウムを含む。
項目18. 項目9~10または12~17のいずれか1つの溶液であって、カルシウム源が塩化カルシウム二水和物を含む。
項目19. 項目9~10または12~18のいずれか1つの溶液であって、マグネシウム源が塩化マグネシウムを含む。
項目20. 項目9~10または12~18のいずれか1つの溶液であって、マグネシウム源が塩化マグネシウム六水和物を含む。
項目21. 項目10または13~20のいずれか1つの溶液であって、クエン酸緩塩衝剤がクエン酸ナトリウムとして提供される。
項目22. 項目1~21のいずれか1つの溶液であって、グルコースがD-グルコース(デキストロース)である。
項目23. 項目1~22のいずれか1つの溶液であって、浸透圧剤が塩である。
項目24. 項目1~23のいずれか1つの溶液であって、浸透圧剤がナトリウム塩である。
項目25. 項目1~24のいずれか1つの溶液であって、浸透圧剤が塩化ナトリウムである。
項目26. 項目1~25のいずれか1つの溶液であって、溶液が塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、およびグルコースを含む。
項目27. 項目1~26のいずれか1つの溶液であって、溶液のpHが6.8~7.8である。
項目28. 項目1~27のいずれか1つの溶液であって、溶液のpHが7.4~7.5である。
項目29. 項目1~28のいずれか1つの溶液であって、溶液のpHが約7.5である。
項目30. 項目1~29のいずれか1つの溶液であって、溶液が等張である。
項目31. 項目1~29のいずれか1つの溶液であって、溶液が高張である。
項目32. 項目1~31のいずれか1つの溶液であって、溶液が約270~345mOsm/lのオスモル濃度を示す。
項目33. 項目1~32のいずれか1つの溶液であって、溶液のオスモル濃度が約315mOsm/lである。
項目34. 項目9~10または12~33のいずれか1つの溶液であって、カルシウム源の濃度が0.25~0.75mMである。
項目35. 項目9~10または12~34のいずれか1つの溶液であって、カルシウム源の濃度が0.4~0.65mMである。
項目36. 項目9~10もしくは12~35のいずれか1つの溶液であって、カルシウム源の濃度が0.5~0.6mMであるか、または項目9~10もしくは12~35のいずれか1つの溶液であって、カルシウム源の濃度が0.5~0.9mMであるか、もしくはカルシウム源の濃度が0.6~0.8mMである。
項目37. 項目9~10もしくは12~36のいずれか1つの溶液であって、カルシウム源の濃度が約0.6mMであるか、または項目9~10もしくは12~36のいずれか1つの溶液であって、カルシウム源の濃度が約0.7mMである。
項目38. 項目9~10または12~37のいずれか1つの溶液であって、マグネシウム源の濃度が0.05~5mMである。
項目39. 項目9~10または12~38のいずれか1つの溶液であって、マグネシウム源の濃度が0.1~0.3mMである。
項目40. 項目9~10または12~39のいずれか1つの溶液であって、マグネシウム源の濃度が約0.3mMである。
項目41. 項目1~40のいずれか1つの溶液であって、グルコースの濃度が5~50mMである。
項目42. 項目1~41のいずれか1つの溶液であって、グルコースの濃度が10~25mMである。
項目43. 項目1~42のいずれか1つの溶液であって、グルコースの濃度が10~20mMである。
項目44. 項目1~43のいずれか1つの溶液であって、グルコースの濃度が約16mMである。
項目45. 項目1~44のいずれか1つの溶液であって、浸透圧剤の濃度が約100~200mMである。
項目46. 項目1~45のいずれか1つの溶液であって、浸透圧剤の濃度が約125~175mMである。
項目47. 項目1~46のいずれか1つの溶液であって、浸透圧剤の濃度が約150mMである。
項目48. 項目10または13~47のいずれか1つの溶液であって、クエン酸塩または酢酸塩の濃度が0.1~5mMである。
項目49. 項目10または13~48のいずれか1つの溶液であって、クエン酸塩または酢酸塩の濃度が0.5~2mMである。
項目50. 項目10または13~39のいずれか1つの溶液であって、クエン酸塩または酢酸塩の濃度が約1mMである。
項目51. 項目1~51のいずれか1つの溶液であって、溶液がさらにカリウム塩を含む。
項目52. 項目51の溶液であって、カリウム塩が塩化カリウムである。
項目53. 項目51または52の溶液であって、KClの濃度が0.2~5mMである。
項目54. 項目53の溶液であって、KClの濃度が1~2.5mMである。
項目55. 項目54の溶液であって、KClの濃度が約2mMである。
項目56. 項目1~55のいずれか1つの溶液であって、溶液が約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.03mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、および約145mMのNaClを含むか、または項目1~55のいずれか1つの溶液であって、溶液が約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.3mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、および約145mMのNaClを含むか、または項目1~55のいずれか1つの溶液であって、溶液が約0.5~0.9mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.2~.4mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約0.8~1.2mMクエン酸ナトリウム、約13~19mMデキストロース、および約116~174mMのNaClを含む。
項目57. 項目1~55のいずれか1つの溶液であって、溶液が約0.85%NaCl、約0.01%CaCl二水和物(塩化カルシウム二水和物)、約0.006%MgCl六水和物(塩化マグネシウム六水和物)、約0.035%クエン酸ナトリウム二水和物、および約0.29%デキストロースを含むか、または項目1~55のいずれか1つの溶液であって、溶液が約0.68~1.02%NaCl、約0.008~0.012%CaCl二水和物(塩化カルシウム二水和物)、約0.0048~0.0072%MgCl六水和物(塩化マグネシウム六水和物)、約0.028~0.042%クエン酸ナトリウム二水和物、および約0.23~0.35%デキストロースを含む。
項目58. 項目1~57のいずれか1つの溶液であって、溶液がさらに約2mMのKClを含む。
項目59. 項目1~58のいずれか1つの溶液であって、溶液がさらに粘弾性ポリマーを含む。
項目60. 項目59の溶液であって、ポリマーがヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物である。
項目61. 項目59または60の溶液であって、ポリマーがヒアルロン酸ナトリウムである。
項目62. 項目59~61のいずれか1つの溶液であって、ポリマーが、剪断応力に対する溶液中の細胞の暴露を低減するために有効な濃度で存在する。
項目63. 項目59~62のいずれか1つの溶液であって、ポリマーの濃度が0.005~5%w/vである。
項目64. 項目63の溶液であって、ポリマーの濃度が約0.05%w/vである。
項目65. 項目1~64のいずれか1つの溶液であって、溶液が約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.03mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約2mMのKCl、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、約145mMのNaCl、および約0.05%ヒアルロン酸を含むか、または項目1~64のいずれか1つの溶液であって、溶液が約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.3mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約2mMのKCl、約1mMクエン酸ナトリウム、約16mMデキストロース、約145mMのNaCl、および約0.05%ヒアルロン酸を含むか、または項目1~64のいずれか1つの溶液であって、溶液が約0.5~0.8mMのCaCl(塩化カルシウム)、約0.2~.4mMのMgCl(塩化マグネシウム)、約1.6~2.4mMのKCl、約0.8~1.2mMクエン酸ナトリウム、約13~19mMデキストロース、約116~174mMのNaCl、および約0.04~0.06%ヒアルロン酸を含む。
項目66. 項目1~65のいずれか1つの溶液であって、溶液が炭酸塩緩衝剤を含まない。
項目67. 項目1~66のいずれか1つの溶液であって、溶液がグルタチオンまたはグルタチオンジスルフィド(GSSG)を含まない。
項目68. 項目1~67のいずれか1つの溶液であって、溶液が双性イオン有機緩衝剤を含まない。
項目69. 項目1~68のいずれか1つの溶液であって、溶液が、少なくとも48時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも120時間、少なくとも144時間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも1ヶ月間、25℃において、溶質の測定可能な沈殿ならびに/または溶液中に保存された細胞の生残および生存能をサポートする溶液の能力の測定可能な損失なしに保存され得る。
項目70. 項目1~69のいずれか1つの溶液であって、溶液が、少なくとも48時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも120時間、少なくとも144時間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも1ヶ月間、2~8℃において、溶質の測定可能な沈殿ならびに/または溶液中に保存された細胞の生残および生存能をサポートする溶液の能力の測定可能な損失なしに保存され得る。
項目71. 項目1~70のいずれか1つの溶液であって、溶液が対象への投与にとって好適、対象の眼への投与にとって好適、および/または対象の眼に細胞を移植することにとって好適である。
項目72. 項目1~71のいずれか1つの溶液であって、溶液が本質的に発熱物質を含まない。
項目73. 項目1~72のいずれか1つの溶液であって、溶液が無菌である。
項目74. 項目1~73のいずれか1つの溶液であって、溶液が灌流、細胞の再構成、細胞保存、細胞の輸送、および/または対象への投与のためのものである。
項目75. 調製物であって、項目1~74のいずれか1つの溶液中の細胞の集団を含む。
項目76. 項目75の調製物であって、細胞の集団が対象への移植にとって好適である。
項目77. 項目76の調製物であって、細胞の集団が対象の眼への移植にとって好適である。
項目78. 項目75~77のいずれか1つの調製物であって、細胞の集団がRPE細胞を含む。
項目79. 項目75~78のいずれか1つの調製物であって、細胞の集団が光受容体細胞を含む。
項目80. 項目75~79のいずれか1つの調製物であって、細胞の集団が間葉系細胞を含む。
項目81. 項目75~80のいずれか1つの調製物であって、調製物が冷蔵される。
項目82. 項目81の調製物であって、調製物が約2~8℃で冷蔵される。
項目83. 項目75~82のいずれか1つの調製物であって、調製物が、調製物の保存の間における細胞の集団中の細胞の生残をサポートし、細胞集団中の細胞の少なくとも70%が2~8℃における調製物の保存の48時間後に生存可能である。
項目84. 項目83の調製物であって、細胞集団中の細胞の少なくとも80%が2~8℃における調製物の保存の48時間後に生存可能である。
項目85. 項目83の調製物であって、細胞集団中の細胞の少なくとも90%が2~8℃における調製物の保存の48時間後に生存可能である。
項目86. 項目75~85のいずれか1つの調製物であって、調製物が、調製物の保存の間における細胞の集団の播種効率の維持をサポートし、細胞の集団が、2~8℃における調製物の保存の48時間の後にその元の播種効率の少なくとも70%を示し、元の播種効率が、保存期間開始時における細胞の集団の播種効率である。
項目87. 項目86の調製物であって、細胞の集団が、2~8℃における調製物の保存の48時間後にその元の播種効率の少なくとも80%を示す。
項目88. 項目86の調製物であって、細胞の集団がその元の播種効率の少なくとも90%を示す。
項目89. 項目75~88のいずれか1つの調製物であって、調製物が保存容器内に存在する。
項目90. 項目75~89のいずれか1つの調製物であって、調製物がシリンジ内に存在する。
項目91. 項目75~90のいずれか1つの調製物を調製するための方法であって、方法が、細胞の集団を項目1~74のいずれか1つの溶液と接触させることを含む。
項目92. 項目91の方法であって、方法が、凍結保存またはペレット化された細胞の集団を項目1~74のいずれか1つの溶液と接触させて、細胞を再構成することを含む。
項目93. 項目1~74のいずれか1つの溶液または項目75~90のいずれか1つの調製物を含む医薬組成物であって、医薬組成物が対象への投与にとって好適である。
項目94. 方法であって、項目1~74のいずれか1つの溶液または項目75~90のいずれか1つの調製物または項目88の医薬組成物をその必要がある対象に投与することを含む。
項目95. 項目94の方法であって、方法が、溶液または調製物を対象の眼に投与することを含む。
項目96. 項目94または95の方法であって、方法が、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも12、少なくとも24、少なくとも36、または少なくとも48時間の調製物の保存後に、調製物を対象に投与することを含む。
項目97. 項目96の方法であって、対象が、網膜疾患を有するか、またはそれと診断される。
項目98. 項目97の方法であって、網膜疾患が桿体もしくは錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、レーバー先天性黒内障、またはシュタルガルト病である。
項目99. 項目97または98の方法であって、調製物が、対象の網膜疾患の少なくとも1つの症状を軽減するために有効なサイズの細胞の集団を含む。
項目100. 項目97~99のいずれか1つの方法であって、方法が、対象の網膜疾患の少なくとも1つの症状をモニタリングすることをさらに含む。
項目101. 方法であって、
(a)細胞の集団を項目1~74のいずれか1つの溶液と接触させて、細胞調製物を生成することを含む。
項目102. 項目101の方法であって、さらに、
(b)(a)の細胞調製物を少なくとも4、少なくとも6、少なくとも12、少なくとも18、少なくとも24、少なくとも36、少なくとも48、少なくとも60、または少なくとも72時間保存することを含む。
項目103. 項目102の方法であって、方法が、さらに、
(c)(b)の保存期間後に対象に(a)の細胞調製物を投与することを含む。
項目104. 項目103の方法であって、(c)の投与が、細胞を対象の眼に注射することを含む。
項目105. 項目101~104のいずれか1つの方法であって、方法が、(b)の保存期間後に(a)の細胞調製物中の細胞生存能を決定することをさらに含む。
項目106. 項目101~105のいずれか1つの方法であって、方法が、ステップ(b)の保存期間の間に(a)の細胞調製物を冷蔵することを含む。
項目107. 項目106の方法であって、冷蔵が、細胞調製物を2~8℃の温度で保存することを含む。
項目108. 網膜疾患を処置するための方法であって、方法が、網膜疾患を有する対象の眼に項目75~90のいずれか1つの調製物または項目93の医薬組成物の有効量を投与することを含む。
項目109. 項目108の方法であって、網膜疾患が桿体もしくは錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、レーバー先天性黒内障、またはシュタルガルト病である。
項目110. キットであって、
(a)項目1~74のいずれか1つの溶液;
(b)細胞集団を(a)の溶液と接触させて細胞調製物を生成するための説明書;および
(c)(b)の接触のためのおよび/または(b)の細胞調製物を保存するための容器
を含む、前記キット。
項目111. 項目110のキットであって、(a)の溶液および(c)の容器が対象への移植のための(b)の細胞調製物の使用にとって好適である。
を提供する。

序論
【0137】
SMDおよびAMDを有する対象の眼にRPE細胞を投与するための第1相臨床治験を、Alcon BSS PLUS(登録商標)をRPE細胞製剤、保存、および移植培地として用いて実施した。BSS PLUS(登録商標)は、眼内手術への使用を承認された生理的に適合性の(オスモル濃度~310mOs、pH~7.4)溶液である。BSS PLUS(登録商標)中の製剤されたRPE細胞の品質保持期限は、臨床投与(注射)前に2~8℃で保存されるときには約4時間に限定される。この限定された製品品質保持期限のため、サテライトの細胞プロセシング実験室が、治験に参加する各臨床現場に近接して設置されなければならなかった。
【0138】
最終製品品質保持期限を顕著に(例えば48時間以上に)引き伸ばす培地を開発することは、数々の利点を授けるであろう。向上した品質保持期限は、最終製品製剤が単一の場所に統合されることを可能にし、そこから最終製品がUS内の全ての臨床現場に運送され得るであろう。このようにして、現行ではcGMPプロセシング現場に近接した所在のものに限られているクリニック現場の数が、拡大され得る。引き伸ばされた製品品質保持期限は、複数の材料の在庫を維持すること、担当者を訓練すること、および複数のサテライトのプロセシング現場を監督することに関連するロジスティクス的複雑さをもまた消し去る。引き伸ばされた品質保持期限は、現行で厳しい4時間の枠内で行われなければならない移植をスケジューリングする際のフレキシビリティーを向上させる。
【0139】
最終製品品質保持期限を引き伸ばすことは、患者が手術の準備をするかまたは手術室(OR)に入る充分前に、あらゆる遅延またはキャンセルの通知のための十二分な時間を許容するであろう。加えて、最終製品が品質出荷試験に不合格である場合には、手術を遅延させることまたはキャンセルすることなしに、同じ日に最終製品の追加の製剤を調製することが可能であり得る。品質保持期限を引き伸ばすことは、下で提案される混入微生物の存在を検出するための汎用プライマーを用いるDNAのqPCRなどの、補足の最終製品出荷試験のための追加時間を与える。
【0140】
BSS Plus(登録商標)中の製剤されたRPE最終製品を、MedOneのREF3233のPolyTip(登録商標)カニューレ23/38から送達した。現行のBSS PLUS(登録商標)製剤を用いて、~23%という生存細胞密度の平均損失が観察された。この損失は試験した全ての細胞密度で一貫しており、生存能または培養中に播種、増殖、および分化する爾後の能力の観点からは、カニューレから押出された細胞の残りの77%に及ぼす明らかな影響を有さなかった。接着を原因とするある程度の細胞損失が予想され得るが、爾後の実験は、細胞損失とおそらくカニューレ押出しの間に作り出される剪断力に帰せられる細胞溶解とについては一貫していた。予期される損失を補うために、カニューレ装填密度をしかるべく増大させて、要求される用量が送達されることを保証する。品質保持期限を向上させることに加えて、好適な粘弾性特性を有する最終的な製剤培地はカニューレ送達の間の細胞損失を最小化する。細胞損失を最小化することは、細胞断片の送達を低減し、細胞内コンポーネントに対する潜在的免疫反応を和らげる。
例1:培地組成
GS2培地
【0141】
細胞の再構成、保存、輸送、および/または対象への投与のための培地を調製した。「GS2」と名付けた培地を、次のように調製した。
水中の0.9%NaClの48.75ml、
水中のAlcon平衡塩溶液(BSS(登録商標))、300mOsmの13.10ml、および
0.9%NaCl(水中)中の5%デキストロース(560mOsm)の3.75ml
を組み合わせて、0.29%デキストロースの最終濃度および315mOsmのオスモル濃度を有する65.6mL培地を得た。
【0142】
したがって、基礎GS2培地は、
約145mMのNaCl(約0.85%NaCl)、
約2mMのKCl(約0.015%KCl)、
約0.7mMのCaCl(塩化カルシウム)(約0.01%CaCl二水和物(塩化カルシウム二水和物))、
約0.3mMのMgCl(塩化マグネシウム)(約0.006%MgCl六水和物(塩化マグネシウム六水和物))、
約1mMクエン酸ナトリウム(約0.035%クエン酸ナトリウム二水和物)、および
約16mMグルコース(約0.29%デキストロース)、
を水中に含む。
【0143】
任意に、GS2培地は、粘弾性ポリマーを、細胞への剪断応力を低減するために有効な量で、例えば約0.005~5%w/vの最終濃度でさらに含み得る。いくつかの態様において、粘弾性ポリマーはヒアルロン酸またはその塩もしくは溶媒和物である。
Alcon平衡塩溶液(BSS(登録商標))
【0144】
Alcon平衡塩溶液(BSS(登録商標)無菌灌流溶液)は無菌の平衡塩溶液であり、
0.64%塩化ナトリウム(NaCl)、
0.075%塩化カリウム(KCl)、
0.048%塩化カルシウム二水和物(CaCl・2HO)、
0.03%塩化マグネシウム六水和物(MgCl・6HO)、
0.39%酢酸ナトリウム三水和物(CNaO・3HO)、
0.17%クエン酸ナトリウム二水和物(CNa・2HO)、
水酸化ナトリウムおよび/または塩酸(pHを調整するため)、および
注射のための水
を含有する。
BSS(登録商標)のpHはおよそ7.5であり、オスモル濃度はおよそ300mOsm/kgである。
【0145】
それゆえに、Alcon BSSは、
約109mMのNaCl、
約10mMのKCl
約3mMのCaCl(塩化カルシウム)
約0.1mMのMgCl(塩化マグネシウム)
約5mMクエン酸ナトリウム
を含む
Alcon平衡塩溶液PLUS(BSS(登録商標)PLUS)
【0146】
Alcon平衡塩溶液PLUS(BSS PLUS(登録商標))は眼内外科手術の間の使用のための無菌眼内灌流溶液である。これは使用前に「I液」および「II液」と名付けた2つの液から再構成される。
【0147】
I液は500mL単一用量ボトル中の480mL無菌溶液であり、これにII液濃縮液を加える。BSS PLUS(登録商標)のI液は、
7.440mg/ml塩化ナトリウム、
0.395mg/ml塩化カリウム、
0.433mg/ml二塩基性リン酸ナトリウム、
2.190mg/ml重炭酸ナトリウム、
塩酸および/または水酸化ナトリウム(pHを調整するため)、および
注射のための水
を含有する。
【0148】
II液は、I液へ加えるための20ml単一用量バイアル中の無菌濃縮液である。
BSS PLUS(登録商標)のII液は、
3.85mg/ml塩化カルシウム二水和物、
5mg/ml塩化マグネシウム六水和物、
23mg/mlデキストロース、
4.6mg/mlグルタチオンジスルフィド(酸化グルタチオン)、および
注射のための水
を含有する。
【0149】
I液ボトルへのBSS PLUS(登録商標)II液の添加後に、再構成された製品は、
7.14mg/ml塩化ナトリウム、
0.38mg/ml塩化カリウム、
0.154mg/ml塩化カルシウム二水和物、
0.2mg/ml塩化マグネシウム六水和物、
0.42mg/ml二塩基性リン酸ナトリウム、
2.1mg/ml重炭酸ナトリウム、
0.92mg/mlデキストロース、
グルタチオンジスルフィド(酸化グルタチオン)0.184mg/ml、
塩酸および/または水酸化ナトリウム(pHを調整するため)を、
注射のための水中に含有する。
再構成された製品はおよそ7.4のpHおよびおよそ305mOsmのオスモル濃度を有する。
例2:BSS-Plus(登録商標)中の製剤されたRPE最終製品の品質保持期限
【0150】
BSS Plus(登録商標)中の製剤されたRPE最終製品は、低温保存(2~8℃)においてその生存能を4時間維持した。最終製品品質保持期限のより包括的な評価が完了した。この研究においては、RPEバルク製品を融解し、2,000個の生存細胞/μlという最終的な保存密度にまとめる(bracket)2つの生存細胞密度で製剤した。この保存密度は、調製された全ての用量で一定であった。BSS Plus(登録商標)の予め測定した体積による細胞の最終希釈を、シリンジに装填する直前にORにおいて実施する。この希釈ステップは、150μL注射体積中の送達される最終的な細胞密度を決定する(これもまた全ての用量で一定)。
【0151】
低温で保存された最終的なBSS-Plus(登録商標)によって製剤されたRPE細胞製品の細胞生存能、生存細胞密度、純度、および力価を、製剤の時に(0時間)、ならびに低温保存(2~8℃)の4および6時間の後に評価した。生存細胞密度および細胞生存能は低温保存の6時間では一定であることが示された。加えて、0、4、および6時間保存した製剤されたRPE細胞を播種し、爾後の純度および力価評価のために培養した。播種した各時点(0、4、および6時間)について、純度をMITFおよびPAX6免疫染色によって評価し、力価をファゴサイトーシスされた粒子のFACS解析を測定することによって評価した。データは、試験された全ての製品属性が評価された6時間の期間では一定のままであったということを示している。
【0152】
BSS Plus(登録商標)中に12時間保存されたRPE細胞は、一般的に70%未満の生存能を見せ、BSS-Plus中における24時間後には、RPE細胞生存能は典型的には20%未満である。
例3:改善された細胞の再構成、保存、輸送、および/または移植培地の開発
【0153】
(例えば凍結保存状態からの、細胞の再構成、細胞保存(例えば、再構成または細胞培養からの収穫と移植施設への輸送または対象への投与どちらかとの間の低温保存)、細胞輸送、および細胞移植のための改善された培地を開発した。得られた培地(GS2)の成分を下の表1に列記する。例示的な供給業者が提供されている。当業者は列記された成分の追加的供給源が存在するということを理解し、これらの試薬の好適な供給源を特定することができるであろう。
【表1】
【0154】
GS2最終製剤はpH(7.2~7.6)およびオスモル濃度(計算されたオスモル濃度315)の観点から生理的である。
【0155】
GS2培地を製剤し、専用のRPE細胞最終製品Iso-7クリーンルームにおいてIso-5のBSC内で分注した。表1の無菌成分を無菌リザーバに追加し、ロータリーシェーカー上に置いた(30~40RPM)。最低3時間後に、サンプルをリザーバから取り出し、pHを測定し、0.1NのNaOHの漸増的な添加によって7.4+/-0.2のpHに調整した。充填のためのGS2はpHプローブと接触しなかった。溶液をメンブレンフィルター滅菌し、pHを再チェックした。
【0156】
GS2の3ml分注物を、USPクラスVI制限値を満たすバージンポリプロピレン樹脂によって構成された、ガンマ照射したクライオバイアルに分注した。充填された各バイアルからサンプルを取り出し、バイアルにキャップをした。QC試験を、下に記載されているようにプールされたサンプルについて実施した。各バイアルを可視およびUV光下における目視点検にかけて、粒子状物質の不在を確認した。バイアルをラベリングのために無菌条件に戻し、2~8℃で保存する。低温保存における最低1日の後に、いくつかのいくつかのバイアルを取り出し、2~8℃のpH標準によって校正したpHメータを用いてpHを再試験して、利用温度(2~8℃)における許容性を確認した。
例4:GS2中のRPE細胞最終製品の品質管理および出荷仕様
【0157】
全ての充填されたバイアルから取り出されたサンプルからなるプールされたGS2の分注物を、14日のUSP無菌性、pH、オスモル濃度、およびエンドトキシン試験にかけた。製剤および注射カニューレからの押出し後にRPE細胞生存能および増殖を維持するGS2の各ロットの性能をもまた評価した。例示的な品質管理試験および出荷仕様が下の表2に提供されている。
【表2】
【0158】
表2に列記された出荷基準は例示的であるということ、ならびに、表2に列記されたいずれかの基準のいずれかの組み合わせで組み合わせることができ、単独でまたは出荷試験および品質管理のための追加の基準との組み合わせのいずれかで用いられ得るということが理解されるであろう。
【0159】
RPE細胞増殖アッセイの例示的な態様において、GS2保存期間後に、細胞は、ゼラチンコート96ウェルプレートに最初の密度で、例えばウェルあたり20,000細胞の密度で、RPE GMまたはEGM2/EBM2培地(Lonza、例えばCat.#:CC-3156、CC-4176)に播種される。細胞は、好適な条件において、例えば5%CO、37℃で、湿度コントロールしたインキュベータ内において2~3日間増殖させる。細胞を例えばトリプシン消化によってウェルから剥がしとり、それから計数する。この試験のGS2品質出荷試験基準は、培養期間の終わりにウェルあたりの細胞計数が最初の細胞密度の125%以上、例えば20,000細胞/ウェルという最初の密度では>/=25,000細胞/ウェル)である場合には満たされる。
例5:RPE最終製品製剤、パッケージング、および運送
【0160】
下に概説されているプロセスにおいては、BSS Plus(登録商標)をGS2プロセシングのための最初の洗浄ステップに用いる。BSS Plus(登録商標)の代わりにGS2による洗浄もまた企図され、本開示の態様によって包含される。臨床使用のために出荷された凍結保存されたMA09-hRPE細胞のバイアルを液体窒素保存から回収した。用量に応じて、細胞の2~4つのバイアルが必要とされた。クライオバイアルをクリーンルームに輸送し、37℃水浴によって急速に融解した。各バイアルの融解した内容物(凍結保存の時に200万細胞を含有する凍結保存培地(90%FCS+10%DMSO)の1ml)を温かいDMEM中に穏やかに再懸濁し、50mlコニカルチューブに移し、追加の温かいDMEMによって40mlの最終体積にした。再懸濁された細胞の各チューブを遠心し(室温における5分間の160×g)、各ペレットを室温BSS Plus(登録商標)の40ml中に再懸濁した。各細胞懸濁液を再び遠心し、ペレットをプールし、室温BSS Plus(登録商標)の10ml中に再懸濁した。再懸濁されたプールされた細胞を3回目に遠心し(室温における5分間の160×g)、上清を吸引した。
【0161】
下は、上で概説された製品製剤のステップを例示するフローチャートである(GS2プロセシングステップには下線を付けている)。
【表3】
【0162】
可能な限りの上清を除去した後に、ペレットは、融解された百万細胞毎に50μlの最終体積になるように低温BSS Plus(登録商標)(現行のプロセシング)または低温GS2(GS2プロセシング)の体積中に再懸濁した。このポイントから、細胞を予冷したチューブラック中に保って、細胞を残りのプロセスステップでは2~8℃に保った。15~25%を目標とする体積(target volume)の典型的な回収により、およそ4,000個の生存RPE細胞/μlの細胞懸濁液となるであろう。
【0163】
サンプルを取り出し、生存細胞計数を実施し、生存細胞密度および回収された細胞の合計数を決定した。追加の低温BSS Plus(登録商標)または低温GS2を細胞懸濁液に加えて、最終細胞濃度を2,300個の生存RPE細胞/μlにした(2,000個の生存RPE細胞/μlという目標とする最終製剤濃度よりも300細胞超えている)。確認用の細胞計数を実施し、追加の低温BSS Plus(登録商標)または低温GS2を加えて、最終濃度を2,000個の生存RPE細胞/μlにした。必要とされる体積の細胞を最終製品密封容器(0.5ml無菌マイクロ遠心チューブ、Fisher、Catno.02-707-351)に分注した。BSS Plus(登録商標)RPEの4時間の有効期限またはGS2のRPEの48時間の有効期限を表示する製品ラベルを、BSS Plus(登録商標)プロセシングのための各チューブに、またはGS2プロセシングのための製品チューブを含有するWhirl-Pakバッグに貼付した。サンプルを各製品チューブから取り出し、それらのサンプルはアーカイブおよびQC試験のためにプールした。
【0164】
加えて、培養細胞の製剤のためのプロトコールを開発した。このプロトコールにおいては、凍結保存されたRPE細胞を融解し、GS2移植培地中への細胞製剤前に3~7日間前培養した。培養細胞を培養皿から剥がしとり、最初にDMEMによって、次いでBSS-Plusによって、最終的にはGS2培地と1:1混合されたBSS-Plusによって洗浄した。最終洗浄ステップ後に、細胞を低温(2~8℃)GS2培地に移した。最終細胞密度のためのサンプル取り出し、試験、および体積の調整は上に記載されている通りであった。
【0165】
下は、上で概説された製品製剤のステップを例示するフローチャートである(GS2プロセシングステップには下線を付けている)。
【表4】
【0166】
BSS PLUS(登録商標)中のRPEのパッケージングおよび運送.臨床治験の移植(SMDおよびAMD)のために、各用量は一対のチューブからなった:1つは2,000個の生存RPE細胞/μlで製剤されたRPE細胞の予め測定した体積を含有し、別のチューブはBSS Plus(登録商標)の予め測定した体積を含有した。各対のチューブを2~8℃でLabtopチューブクーラーラック中に置いた。クーラーラックをバッグに入れ、予冷したInsul-Iceの~16ポンドを含有するColemanクーラー中に置き、配送業者によってクリニックに手渡し配達した。
【0167】
ORにおいて、移植の直前に、BSS Plus(登録商標)をブラントフィルニードルを用いて細胞に添加した。細胞を混合し、1ml注射シリンジに装填した。製品(全ての用量について150μl)を注射カニューレから網膜下腔内に押出した。シリンジ中の装填細胞密度はカニューレ押出しの間の25%の予期される損失を補うために1.33×送達密度にセットした。
【0168】
下は、BSS PLUS(登録商標)のパッケージングおよび運送のステップを例示するフローチャートである。
【表5】
【0169】
GS2中のRPEのパッケージングおよび運送.各用量は、2,300個の生存RPE細胞/μlで製剤されたRPE細胞の250μlを含有する1つのマイクロ遠心チューブからなった。最終的な製剤されたRPE製品の1用量を含有する単一チューブを2オンス無菌Whirl-Pakバッグ中に置いた。これには最終製品ラベルを貼付した。バッグに入れたチューブを、クリーンな予冷した(2~8℃)固有付番のポータブルチューブクーラー内に置いた。ラベリングされた製品チューブ(単数または複数)に加えて、RPE製品細胞の30μlを含有するラベリングされたサテライトチューブ(バッグに入れていない)と、0.4%トリパンブルーの100μlを含有する別個のチューブとを各Chilletteクーラー内に置いた。最終製品ラベルを各Chilletteクーラーにもまた貼付した。製品を有する各クーラーは無菌条件において無菌Whirl-Pakバッグ中に置いた。製品を有するバッグに入れたクーラー、付属の臨床オーダーフォーム、および2つの製品ラベルを、最終パッケージングおよび運送エリアに通ずるクリーンルームパススルーに置いた。混同を避けるために、各Chilletteクーラーに無菌条件において製品チューブを装填し、一度に1つずつクリーンルームパススルーに置いた。
【0170】
パッケージング担当者が各Chilletteクーラーならびに付属の文書および最終製品ラベルをクリーンルームパススルーから回収し、バッグに入れたChilletteクーラー、バブルラップ、ブラントフィルニードル、シリンジ、注射カニューレ、および血球計算盤を、予冷したNanoCool冷却ユニットの運送コンパートメント内に置いた。冷却ユニットの蓋を締めた。外側のシッパーに受け取り、点検、保存、および運送後生存能試験のための書類を詰める。パッケージングされた製品は、全ての製品出荷試験が実施され、「RPE細胞最終製品の移植向け出荷時証明書」が発行されるまでクアランティンに置いた。製品および書類を有するNanoCoolシッパーを一晩でクリニックに送った。受け取り時に、シッパーは、最終充填の時間から48時間以内の製品使用まで室温でまたは2~8℃で保存され得る。有効期限の日付および時間を有する最終製品ラベルが外側のシッパー、Chilletteチューブクーラー、および最終製品チューブを含有するバッグに貼付されている。
【表6】
【0171】
RPE最終製品品質出荷試験.移植前に実施される現行の最終製品(BSS PLUS(登録商標)中)品質出荷試験は、細胞生存能チェックおよびグラム染色を包含する。サンプルはUSPの14日間無菌性試験に送られ、結果は移植後に報告される。
【表7】
【0172】
汚染物質検出のためのqPCR.RPE最終製品品質保持期限は、GS2中においては、BSS-Plus(登録商標)中における4時間から少なくとも48時間に引き伸ばされているので、より長いターンアラウンド(turn-around)時間を有するアッセイが製品出荷前に実施され得る。例えば、今では、RPE最終製品をPCRアッセイにかけ、製品の出荷および使用前に品質管理および出荷目的の結果を受け取ることが可能である。実施され得る1つの好適なアッセイは、汎用プライマーのDNAのqPCRアッセイである。かかるアッセイは2時間以内に完了し得る。qPCRアッセイは極めて高感度であり、多様な病原性混入物質、例えば環境性、微生物性、およびウイルス性混入物質、ならびに通常の皮膚片利共生生物(commensules)を検出するために用いられ得る。グラム染色およびUSP無菌性試験に加えて、qPCRアッセイは、微生物混入を検出するためにアジュバントの最終製品出荷アッセイとして用いられ得る。qPCR結果は製品運送前に知ることになり、それによって、可能性として汚染された製品が施設から出ることを防止するであろう。本明細書に記載されるqPCRアッセイは例示的であるということ、ならびに、RPE最終製品の引き伸ばされた品質保持期限内に実施され得る他のPCRアッセイおよび他の種類のアッセイを包含するがこれに限定されない、他の好適なアッセイが代わりにまたは加えて実施され得るということが理解されるであろう。
【0173】
最終製品の運送後点検および生存能チェック.臨床現場での受け取り時に、訓練された担当者が外側のシッパーを回収し、正しいバッチおよびロット情報を確認し、シッパーの損傷の形跡についてチェックする。臨床現場が細胞生存能チェックを実施する能力を有する場合には、細胞を含有するサテライトチューブおよびトリパンブルーを含有するチューブをこの時にChilletteクーラーから取り出す。チューブは、運送後の細胞生存能チェックのために試験実験室に移す。細胞生存能が70%未満である場合には、製品を廃棄する。
【0174】
注射カニューレに装填するための説明.ORにおける移植の直前に、細胞を、ブラントフィルニードルを用いて混合し、1ml注射シリンジに装填する。製品(150μl)を注射カニューレから網膜下腔内に押出す。GS2のカニューレ押出しの間にはわずかな細胞損失があるのみであるので、シリンジ中の装填細胞密度(2,000個の生存RPE細胞/μl)は、300K用量では注射される150μLによって送達される密度である。
例6:GS2中での細胞安定性
【0175】
図1は、RPE細胞が、培養によって播種および増殖する爾後の能力の明らかな損失なしにHypoThermosol(BioLife Solutions, Inc.、ボセル、WA、USA)中に24時間(48時間ではなく)維持され得るということを説明している。
【0176】
図2~5は2~8℃におけるGS2中のRPE安定性を説明している。図2は、RPE細胞が、生存細胞数または培養によって播種および増殖する爾後の能力の明らかな損失なしに、GS2中に少なくとも48時間維持され得るということを示している。図3は、RPE細胞が、生存細胞密度の顕著な減少なしに、細胞生存能のわずかな損失のみでGS2中に4~5日間維持され得るということを示している。図4は、培養によって播種および増殖するRPE細胞の能力が、GS2低温保存の5日の後に減少し始めるということを示している。図5は、GS2が現行の注射システムと適合性であるということを示している。
例7:GS2移植培地-粘弾性ポリマーの効果
【0177】
種々の濃度の粘弾性ポリマーがカニュレーション後の細胞生存能に及ぼす効果を、評価した。ヒト網膜色素上皮細胞(RPE)バルクロットNRPE-3135CP2をcGMP手順に従って製造し、凍結保存した。実験の日に、バイアルを融解し、製剤した。細胞を予め加温した(37℃)DMEM(Gibco)中に融解した。次いで、細胞を遠心した(5分@160×g)。各ペレットを40mlの室温BSS Plus(登録商標)(Alcon)中に再懸濁し、再び遠心した。それから、ペレットを単一の遠心チューブにプールし、室温BSS Plus(登録商標)中に再懸濁し、次いで、最終スピンステップ前にチューブあたり10ml体積で複数の(4つの)チューブに分割した。細胞ペレットをGS2 TMと名付けた異なる移植培地製剤に入れた。
【0178】
移植培地GS2 TMは、生理食塩水(0.9%NaOH)BraunのNDC#00264-7610-00またはBaxterのNDC#0338-0089-04中の5%デキストロース、生理食塩水(0.9%NaOH)BaxterのNDC#0338-0049-11、Alcon BSS灌流溶液NDC#0065-0795-15、およびヒアルロン酸またはヒアルロン酸ナトリウム(HA)、例えばAbbott Healon EndoCoat、NDC#05047-4547-06を無菌リザーバ中で組み合わせることと、コンポーネントをオービタルシェーカー上で混合することとによって作った。pHを測定し、無菌濾過前に0.1NのNaOHの漸増的な添加によって7.4+/-0.2のpHに調整した。この実験では、Healon EndoCoat(Abbott)からのヒアルロン酸(HA)の0.15%、0.1%、0.05%、または0%のいずれかの最終濃度を含有するGS2 TMを作った。
【0179】
細胞を漸増的に希釈して、マイクロリットルあたり約2,000細胞という最終的な保存細胞密度を得た。異なる移植培地中で再構成、希釈した後に、細胞のトリプリケートバイアルを各条件について作った。細胞のバイアルを2~8℃で冷蔵庫に2日間保存した。そして、細胞数を、血球計算盤を用いて決定した。細胞生存能はトリパンブルー排出によって求めた。各条件について作られた細胞のトリプリケートチューブから平均値を計算し、各チューブの生存細胞濃度をトリプリケート計数から決定した。MedOneの#3233カニューレからの押出し前および後の細胞数の違い、またはデルタを計算した。
【0180】
この実験の結果を図6に示す。トリプリケートチューブからの平均生存細胞密度±標準偏差を示している。ヒトRPE細胞密度は血球計算盤を用いて決定した。細胞生存能はトリパンブルー排出によって求めた。各条件について作られた細胞のトリプリケートチューブから平均値を計算し、各チューブの生存細胞濃度をトリプリケート計数から決定した。MedOneの#3233カニューレからの細胞押出し後に観察された細胞数のパーセント変化(デルタ)が各条件について値の各セットの上に示されている。
【0181】
試験されたHAの全ての濃度はカニュレーション後に改善された細胞生存能の値を示したが、0.05%HAの追加は移植培地製剤にとって好ましいことが決定された。0.05%HAを含有するGS2 TMでは、MedOneの#3233カニューレからのRPE細胞の押出し後に、HAなしまたはHAの0.1%もしくは0.15%によって作られたGS2 TMよりも少ない細胞損失が観察された。最も著しくは、追加されるHAなしのGS2 TMと比較して、10%少ない損失が0.05%HAの包含によって観察された。
例8:GS2培地-細胞生存能に及ぼすグルコース濃度の効果
【0182】
種々の濃度の粘弾性ポリマーがカニュレーション後の細胞生存能に及ぼす効果を評価した。この目的のために、ヒト網膜色素上皮細胞(RPE)バルクロットNRPE-3135CP2をcGMP手順に従って製造し、凍結保存した。実験の日に、バイアルを融解し、細胞を予め加温した(37℃)DMEM(Gibco)中で再構成た。それから、細胞を遠心した(5分@160×g)。各ペレットを40mlの室温BSS Plus(登録商標)(Alcon)中に再懸濁し、再び遠心した。それから、ペレットを単一の遠心チューブ中にプールし、室温のBSS Plus(登録商標)中に再懸濁し、それから、最終スピンステップ前にチューブあたり10mlのBSS Plus(登録商標)で複数の(6つの)チューブに分割した。細胞ペレットを異なる移植培地GS2 TMに入れた。
【0183】
移植培地GS2 TMは、生理食塩水(0.9%NaOH)中の5%デキストロース、生理食塩水(0.9%NaOH)、およびAlcon BSS灌流溶液NDC#0065-0795-15を無菌リザーバ中に組み合わせることと、オービタルシェーカー上で混合することとによって作った。pHを測定し、無菌濾過前に0.1NのNaOHの漸増的な添加によって7.4+/-0.2のpHに調整した。この実験のGS2 TM培地は、下の表3に示されているように種々の濃度のグルコースで作った。記されている体積はミリリットルである。
【表8】
表3:
【0184】
一度、種々のGS2移植培地中に製剤した場合には、細胞を漸増的に希釈して、マイクロリットルあたり約2,000細胞という最終的な保存細胞密度を得た。次いで、細胞を無菌バイアル(Fischer)中で2~8℃にて冷蔵庫に3日間保存した。爾後に、生存細胞数を血球計算盤を用いて決定し、ウェルあたり大体20,000個の生存細胞をゼラチンコート(Stem Cell, Inc.)96ウェル組織培養プレート(COSTAR)に播種した。細胞は、RPE増殖培地(EGM2 Single Quotsを有するEBM-2、Stem Cell, Inc.、例えば、LonzaのCat.#:CC-3156、CC-4176)によって5%CO、37℃の湿度コントロールしたインキュベータ内で3日間培養した。細胞は、爾後に、40μl/ウェルの1:1トリプシン(Sigma)およびHEPESに基づく剥離液(Gibco)を用いてプレートから剥がしとった。血清含有培地(40μl/ウェル)を用いてトリプシン作用を中和し、ピペットで細胞にかけて剥がしとり、血球計算盤を用いて計数した。図7は、試験した各条件について6つのウェルからのウェルあたりのヒトRPE細胞の平均数±SDを示している。グルコースの各濃度はグルコースを含有しないコントロールと比較して向上した結果となった。
例9:GS2培地による間葉系幹細胞の向上した生存能
【0185】
図8は、異なる製剤培地中の間葉系幹細胞(MSC)の細胞生存能を説明している。ヒト胚性幹細胞由来MSCを70%コンフルエントまで増殖させ、0.05%トリプシンによって収穫し、aMEM+15%FCS(MSC培地)中に再懸濁し、200×gで5分間スピンダウンした。細胞ペレットをMSC培地の小体積中に再懸濁し、トリパンブルー排出を用いて生存能について計数した。500万個のMSCを4つのエッペンドルフチューブのそれぞれの中に置き、スピンダウンし、指示されている培地の各1ml中に再懸濁した。チューブを低温室に4℃で指示されている期間置いた。CS:イヌ血清、FBS:ウシ胎仔血清。図8は、GS2中の製剤が、血清ありおよびなし両方において、MSC細胞生存能を向上させ、MSC保存時間を引き伸ばすということを説明している。
【0186】
図9は、より高い細胞密度(mlあたりの百万細胞で示されている)が、GS2中に保存されたときのMSC生存能を向上させるということを説明している。血清(ここではFBS)の存在は、24時間のGS2中における保存後に細胞生存能に及ぼす効果をほとんど有さないことが見いだされた(矢印)。
【0187】
図10は、MSC生存能が、4℃におけるGS2中での保存および26G針/シリンジからの爾後の排出後に保全されるということを説明している。
例10:GS2輸送培地の例示的な分析証明書
【0188】
品質管理の一部として、ヒト患者および/または患畜への使用を意図される対象の輸送培地を、製薬または手術プロセスの一部としての培地の実用性を最大化し、有害反応または事象の可能性を最小化することを意図された、一通りの試験にかける。例えば、エンドトキシンは極めて強力であり、熱安定性であり、大部分の滅菌メンブレンフィルターを通過し、細菌が存在するかまたは存在したあらゆるところに存在する。注射のためのRPE細胞を製剤するために用いられるときに意図されるように、輸送培地が網膜下腔などへの局所的な送達のために用いられるところでは、エンドトキシンは最大の懸念である。従って、GS2輸送製剤を一通りの試験にかけ、次の基準を満たすことを実証した。
【表9】
例11:光遮蔽法による輸送培地の試験
【0189】
品質管理の一部としてもまた、特にヒト患者への使用のために製剤された細胞の使用のためには、本発明の輸送培地は、一般的に、粒子状物質の許容できない量を含まないであろう。特定の物質は、移動できる溶解していない粒子(すなわち、それらはガス気泡ではない)からなり、これらは、それが表す材料の小ささとその不均質な組成とのために、典型的には化学分析によって定量化され得ない。光遮蔽法(USP788試験プロセス)(すなわち、これは電子粒子カウンターの使用によって粒子状物質を計数する)を用いて試験されたときには、本発明の輸送培地製剤は、輸送培地のmLあたり25個未満の粒子≧10ミクロンサイズと輸送培地のmLあたり3個未満の粒子≧25ミクロンサイズとを有するということが実証された。
【0190】
USP788は、粒子状物質の決定のための手順、方法1(光遮蔽粒子計数試験)および方法2(顕微鏡粒子計数試験)を提供する。可視以下の粒子について輸送培地を検査するときには、方法1が好ましくは適用される。しかしながら、対象の製剤のいくつかの場合においては、光遮蔽粒子計数試験、次に顕微鏡粒子計数試験によって調製物を試験することが、要件への適合性についての結論に到達するために必要であり得る。
【0191】
全ての非経口調製物がこれらの方法の1つまたは両方によって可視以下の粒子を検査され得るわけではない。方法1が適用可能でないときには、例えば低減した透明性または増大した粘度を有する調製物の場合においては、試験は方法2に従って実行されるべきである。輸送培地がコロイドまたはリポソームをコンポーネントとして包含する場合は、後の例である。同様に、センサーに引き込まれたときに空気またはガス気泡を生じ得る輸送培地の態様でもまた、顕微鏡粒子計数試験を必要とし得る。対象の輸送の現行の好ましい態様は過度に粘着性ではないが、試験されるべき調製物の粘度が、どちらかの試験方法によるその検査を妨げるほどに十分に高い場合には、適切な希釈剤による定量的希釈をして、必要に応じて粘度を減少させて、分析が実施されることも許容され得る。
【0192】
USP法1.光遮蔽粒子計数試験.ヒアルロン酸コンポーネントありまたはなしのGS2輸送培地のサンプルを、光遮蔽の原理に基づく好適な器具によって試験した。これは、粒子のサイズおよびサイズに従った粒子の数の自動式決定が可能である。器具は、10μmおよび25μmの間の公知サイズの球状粒子の分散液、USP粒子計数参照標準を用いて校正した。これらの標準粒子は粒子を含まない水中に分散する。分散の間の粒子の凝集を避けるように注意した。粒子状物質試験は、粒子状物質を限定する条件において、すなわち層流(laminar-flow)キャビネット内において実行した。ガラス器具および濾過装置を非常に丁寧に洗浄し、濯いだ。使用の直前に、装置を上から下まで外も中も粒子を含まない水によって濯いだ。分析されようとする輸送培地の統計的に妥当な評価を提供するために適当ないくつもの試験標本を用いて、サンプルを10ミクロンおよび25ミクロンに等しいかまたはそれよりも大きい粒子の数について分析した。試験されたGS2輸送培地サンプルのそれぞれについて、サンプルは、輸送培地のmLあたりサイズが≧10ミクロンの≦25粒子と、輸送培地のmLあたりサイズが≧25ミクロンの≦3粒子とを包含した。
例12:GS2培地中のRPE細胞のインビボ生存能および効能の確認
【0193】
これの目的は、1)BSS PLUS(登録商標)中に製剤され、4時間以内に移植された胚性幹細胞(ES)株MA09に由来するヒト網膜色素上皮(hRPE)細胞、2)BSS PLUS(登録商標)中に製剤されたES細胞株J1に由来するhRPE細胞、ならびに3)GS2輸送培地中に製剤され、(a)22~28時間以内および(b)44~52時間以内に移植されたJ1細胞株に由来するhRPE細胞の、安全性、生着、ならびに機能性を評価および比較することであった。この研究は、GS2培地が、現行で用いられている臨床製剤培地(BSS-PLUS)と比較して最終製品の品質保持期限を引き伸ばすということを確認する。
【0194】
合計で32匹のRCS(王立外科医師会)若齢ラット(16匹の雄および16匹の雌)を研究のために受け取った。ラットは、投与開始において21~25日齢の間であった。
【0195】
馴化期間:最低7日間。第1日は網膜下注射の日に対応する。
【0196】
実験デザイン:8匹のRCSラット(4/性別)を、それぞれ3つの亜群からなる4つの用量群MA09-hRPE(群1)およびJ1-hRPE(群2、3、4)にランダム化した(下の表1)。全てのラットは、麻酔下において経強膜(transcleral)投与経路によって右眼(OD)にhRPE細胞の網膜下注射を受けた。群1はBSS PLUS(登録商標)中のMA09-hRPEを投与され(4時間以内)、群2はBSS Plus(登録商標)中のJ1-hRPE細胞を注射され(4時間以内)、群3はGS2中のJ1-hRPE細胞を注射され(22~28時間以内)、群4はGS2中のJ1-hRPE細胞を注射された(44~52時間以内)。亜群は左眼の投薬によって定義される。偽亜群(1/性別)は左眼の網膜下腔への針穿刺のみを受けた。注射なし(NIまたは未処置)亜群(1/性別)は左眼の注射を受けなかった。2つのビークル(vehicle)亜群(2/性別)はGS2またはBSS Plusビークルどちらかの網膜下注射を受けた。ラットは注射後70~80日に安楽死させた。
【表10】
【0197】
NI=注射なし 偽=空のピペットによって網膜下腔を穿刺。
【0198】
BSS PLUS(登録商標)=2μLビークル(細胞なし) GS2=2μLビークル(細胞なし)
【0199】
hRPE=BSS PLUS(登録商標)またはGS2ビークルの2μL中に100,000細胞。
【0200】
実施された評価のための生存中における測定、剖検、および組織病理エンドポイントの概要が下の表2に提示されている。
【表11】
【0201】
BSS-PLUS(登録商標)をラベリングの通り投与の日に再構成し、製剤の間にRPE細胞を希釈するための使用のために、ならびに注射器具に充填する術者による使用のために、およびビークル参照物としての使用のために、冷やして保存した(2~8℃)。簡潔には、BSS PLUS(登録商標)II液の内容をBSS PLUS(登録商標)I液に移し、再構成の6時間以内にRPE細胞を再懸濁するために用いた。再構成および注射の時間を記録し、研究記録に残した。
【0202】
この研究において用いられるGS2培地ロットを製剤し、2~8℃で保存した。GS2は、製剤の間の細胞を洗浄するためには室温で、RPE細胞最終製剤のため、ならびに注射器具を充填する術者による、および注射されるビークル参照物としての使用のためには2~8℃で用いる。
【0203】
BBS-Plus調製物:凍結保存されたMA09-hRPEおよびJ1-hRPE細胞を液体窒素(LN2)中に保存して、細胞を気相中で温度≦135℃に維持した。細胞は、プロセシングおよび移植の日までLN2保存で維持した。移植の日に、凍結保存されたhRPEを融解し、およそ50,000個の生存細胞/μLでBSS-PLUS(登録商標)中に製剤した。濃縮されたhRPE細胞は、製剤から4時間以内の使用のために、LabTopクーラー中の氷上に置かれた最終充填チューブによって術者に送達した(図11、「MA-09 RPE <4h」および「J1 RPE <4h」参照)。再構成および注射の時間を記録し、研究記録に残した。
【0204】
GS2調製物:凍結保存されたJ1-hRPEは、液体窒素(LN2)ドライ-中、気相中で温度≦135℃において保存した。細胞はプロセシングの日までLN2保存で維持した。移植の1または2日前に、J1-hRPE細胞を融解し、およそ1,500個の生存細胞/μLでGS2中に製剤した。それから、製剤されたRPEを2~8℃で保存し、製剤後の2~6時間後の生存細胞数を評価した。製剤後およそ20時間または42時間に、RPE細胞はGS2中においておよそ50,000個の生存細胞/μLまで濃縮された。濃縮されたhRPE細胞は、LabTopクーラー中の氷上に置かれた最終充填チューブによって術者に送達した。GS2中のRPE細胞を製剤後約22時間または44時間に移植した(図11、それぞれ「J1 RPE <lt;22」および「J1 RPE <lt;44」参照)。
【0205】
用量投与:網膜下注射
【0206】
動物は、ケタミン(75mg/kg)およびデクスメデトミジン(0.25mg/kg)のカクテル、次にカルプロフェン(5mg/kg)によって、SQによって用量投与のために麻酔した。投与前に、眼を注射のための0.9%塩化ナトリウム(無菌NaCl)USPによって洗い流した。それから、眼を2滴の0.3%Ocuflux眼用溶液USPによって消毒し、散瞳点眼薬(1%トロピカミド)、次に2.5%フェニレフリン塩酸塩眼科学用溶液USPによって散大させた。BSS PLUS(登録商標)中の試験品MA09およびJ1-hRPE細胞を製剤の0.25から4時間以内に注射した(群1および2、表1)。GS2中の試験品J1-hRPE細胞は製剤の22または44時間以内であった(群3および4、表1)。試験品は、各群(MA09-hRPE細胞またはJ1-hRPE細胞どちらかを受けた)について、上の実験デザイン(および表1)に指示されているように群あたり8匹の動物の右眼に網膜下注射によって投与した。群1および2のそれぞれの4匹の動物の左眼には参照品BSS PLUS(登録商標)を投与した。群3および4のそれぞれの4匹の動物の左眼には参照品GS2を投与した。4つの群のそれぞれの2匹の動物の左眼は注射手順にかけたが、材料は注射されないであろう(偽注射)。4つの群のそれぞれの残りの2匹の動物の左眼は注射を受けなかった(未処置)。
【0207】
簡潔には、網膜下注射を、手術用顕微鏡を用いて実施した。眼球の周りの巾着縫合ループを用いて、眼球赤道の後ろで縫合糸(suture)(Ethicon 4-0 Perma-Hand Silk)を用いて眼を安定させた。ヒプロメロース(または類似の)溶液を眼に適用し、リングによって固定した。はさみを用いて結膜の小さいエリアを切り取り、30G×1/2”金属針を適用して、眼球の背側の外上側部において強膜切開を実施した。校正した無菌ガラスピペット(World Precision Instruments、品#1B150-4)からなる投与器具を、およそ0.8mmボアTygon(商標)プラスチック管(Saint-Gobain Performance Plastics #R-3603)につなげ、18Gブラント針(Becton-Dickenson, Inc.参照#305196)につなげ、研究デザイン(表1)に記載されている適切なビークルを予め充填した25μLのHamiltonシリンジ(モデル#702LTカタログ#804010につなげた。空気の小量をラインに導入して、注射液を投与器具中のビークルから分離し、その後で試験または参照品を2μLの体積までガラスピペット中に引き込んだ。新しい無菌ガラスピペットを各注射/眼に用いた。
【0208】
強膜切開を非吸収性の手術用縫合糸(Ethicon Prolene 10-0)によって縫合した。眼球の周りの縫合糸(Ethicon 4-0 Perma-Hand Silk(登録商標))を除去し、最後に目蓋を正常な位置に返した。外用抗生物質(5mg/gエリスロマイシン眼軟膏)を、注射手順の完了後に、処置された眼に適用した。
【0209】
手術の間は、気泡(bleb)のサイズおよび場所、ならびにいずれかの他の眼の変化を記録するための丁寧な術中眼底描画。
【0210】
動物を、完全に回復するまで加温プレート上または加熱ブランケット下に維持し(~37℃)、その後で、それらをそれらのホームケージに返した。0.5%エリスロマイシン眼軟膏の追加の投与を必要に応じて眼の表面に適用して、動物が完全に覚醒し、正常に瞬きし得るまで乾燥を防止する。
【0211】
全ての動物は、飲用水によって投与される経口シクロスポリンA(CsA)によって維持した(およそ300g/Lの標的血中濃度をもたらす、210g/L)。デキサメタゾンの腹腔内注射もまた術後の14日間の間に毎日1回であった(1.6mg/kg/日)。
【0212】
少なくとも毎日1回、死亡/瀕死のケージサイド観察および臨床観察をした。体調不良の臨床徴候または処置に対する反応はなかった。動物は、馴化前に少なくとも1回、研究の間にはおよそ毎週、および剖検の直前に体重計測した(死亡時重量)。研究動物の体重の異常な変化は観察されなかった。眼の検査を、投与前、投与後およそ40日、および再び剖検前に実施した。動物の眼を、1滴/眼として点眼された1%トロピカミドを用いて検査のために散大させた。種々のRPE製剤群間において眼検査から明らかになる明白な違いはなかった。同じく、視運動性応答(OKR)を、様々な空間周波数の動く縞模様を用いて実施した。これは、表2に記載されている時間に全ての動物について測定する。視力を、実験およびコントロールの全ての眼についてOKRによって測定した。用いられるべき方法、検眼試験器具(Prusky et al., 2000)は、垂直な正弦波グレーティングによって被われた回転する円筒からなり、四角に並べた4つのコンピュータモニター上のバーチャル三次元(3D)空間に提示される。ラットを四角の中心のプラットフォーム上に非拘束的に置き、そこでそれらは頭部反射運動によってグレーティング(grating)を追跡した。「円筒」を試験対象の頭部に対して繰り返し中心合わせすることによって、グレーティングの空間周波数を観察位置にクランプした。視力は、視運動性反射が失われるまで精神物理学の階段進行を用いてグレーティングの空間周波数を増大させることによって定量し、それによって最高の閾値を得た。測定はc/d(サイクル/度)で取った。種々のRPE製剤群間においてOKR実験から明らかになる明らかな違いはなかった。スペクトラルドメイン光コヒーレンストモグラフィー(SD-OCT)もまた上のように実施され、種々のRPE製剤群間において眼検査から明らかになる明らかな違いはなかった。ラットを麻酔薬のIP注射によって麻酔した。トロピカミドを両眼に適用して、網膜のより良好なイメージングのために瞳孔を散大させた。ラットをイメージングシステム内に置き、GentealおよびSystaneの点眼液を角膜に適用して、角膜を湿潤に保った。
【0213】
図11は、ラットの16匹の群について、処置後60日の網膜電図(ERG)の結果を示している。上のように、種々のRPE製剤群間においてERG検査から明らかになる明白な違いはなかった。簡潔には、動物を完全な暗所に一晩(少なくとも12時間)保って、網膜の暗順応した状態を達成した。ERGを記録するために、動物を麻酔薬のIP注射によって麻酔し、定位頭部ホルダーに置いた。赤色の暗い照明下において、記録電極(中性コンタクトレンズに取り付けられた2つの共軸のワイヤーループ、ワイヤー直径50um)をリドカインによって前処置された動物の眼に置いた。1つの後肢を電気バリカンによって剃毛し、カニューレを挿入する前にベタダイン(betadyne)によって皮膚をプレップした(カニューレは手順の持続期間の間は後肢筋に埋め込む)。瞳孔をトロピカミドによって散大させた。記録を始める前に、暗順応の追加の1時間期間を用いて、動物の準備後の順応を復活させた。全体のERG記録は両眼で約20分間続ける(眼は一連に左~右、または右から左で試験する)。眼を全視野光の閃光によって刺激した。角膜電位は、電極につないだアンプによって記録した。閃光提示はコンピュータプログラムによってコントロールした。応答は、ERG強度に依存して5~100の刺激提示について平均した。これは進行性網膜変性を有する動物では非常に低くなり得る。
【0214】
概要として、これらの研究の結果は、GS2輸送培地が、4時間未満の懸濁後のBSS Plus培地と比較したときに、GS2輸送培地による懸濁の44時間までの後でさえも、機能的な生存RPE細胞のおよそ等しく有効な用量を提供するということを示している。後者は、RPE細胞注射のためのBSS-Plusの使用について現行でFDAおよびEMAによって承認された品質保持期限である。各ケースにおいて、コントロールとして、動物の偽および未処置の眼は、BSS-PlusおよびGS2輸送培地群のRPE細胞によって処置された眼と比較して全く改善を示さなかった。
均等物および範囲、参照による組み込み
【0215】
当業者は、本明細書に記載される態様の多くの均等物を認識するか、またはせいぜい慣例の実験法を用いて確かめることができるであろう。本開示の範囲は上の記載に限定されることを意図されず、むしろ添付の請求項に示されている通りである。
【0216】
「a」、「an」、および「the」などの冠詞は、文脈が明瞭に別様に指示しない限り単数形および複数形の言及を包含する。それゆえに、例えば、「薬剤」の言及は単一の薬剤および複数のかかる薬剤を包含する。
【0217】
群の2つ以上の構成要素の間に「または」を包含する請求項または記載は、群構成要素の1つ、1つよりも多く、または全てが存在する場合には、反対に指示されないかまたは文脈から別様に明白でない限り、満足していると考えられる。2つ以上の群構成要素の間に「または」を包含する群の開示は、群の厳密に1つの構成要素が存在する態様、群の1つの構成要素よりも多くが存在する態様、および群構成要素の全てが存在する態様を提供する。簡潔の目的のために、それらの態様は本明細書に個々に書き出さなかったが、それらの態様のそれぞれは本明細書によって提供され、具体的に請求または放棄され得るということは理解されるであろう。
【0218】
本発明が、請求項の1つ以上からのまたは明細書の1つ以上の該当箇所からの1つ以上の限定、要素、項目、または記述用語が別の請求項中に導入される全ての変形、組み合わせ、および入れ替えを包摂するということが理解されるべきである。例えば、別の請求項に従属するある請求項は、同じ被引用請求項に従属するいずれかの他の請求項に見いだされる限定の1つ以上を包含するように改変され得る。さらにその上に、請求項が組成物を記載しているところでは、別様に指示されない限り、または矛盾もしくは不一致が来されるであろうということが当業者にとって明白でない限り、本明細書において開示される作るかもしくは用いる方法のいずれかに従ってまたは何らかの当分野において公知の方法に従って組成物を作るかまたは用いる方法が包含されるということが理解されるべきである。
【0219】
要素がリストとして、例えばマーカッシュ群フォーマットで提示されるところでは、要素のあらゆる可能な亜群もまた開示されているということと、いずれかの要素または要素の亜群が群から除去され得るということとが理解されるべきである。用語「含む」は開放的であることを意図され、追加の要素またはステップの包含を許容するということもまた留意される。一般的に、ある態様、製品、または方法が特定の要素、特徴、またはステップを含むと言われるところでは、かかる要素、特徴、またはステップからなるかまたは本質的になる態様、製品、または方法が同じく提供されるということが理解されるべきである。簡潔の目的のために、それらの態様は本明細書に個々に書き出さなかったが、それらの態様のそれぞれは本明細書によって提供され、具体的に請求または放棄され得るということは理解されるであろう。
【0220】
範囲が与えられているところでは、エンドポイントが包含される。さらにその上に、別様に指示されないかまたは文脈および/もしくは当業者の理解から別様に明白でない限り、範囲として表現されている値は、いくつかの態様においては、文脈が明瞭に別様に述べていない限り、書かれた範囲内のいずれかの具体的な値を範囲の下限の単位の十分の一までとり得るということが理解されるべきである。簡潔の目的のために、各範囲内の値は本明細書に個々に書き出さなかったが、それらの値のそれぞれは本明細書によって提供され、具体的に請求または放棄され得るということは理解されるであろう。別様に指示されないかまたは文脈および/もしくは当業者の理解から別様に明白でない限り、範囲として表現された値は所与の範囲内のいずれかの部分範囲をとることができ、部分範囲のエンドポイントは範囲の下限の単位の十分の一と同じ正確度まで表現されるということもまた理解されるであろう。
【0221】
加えて、本発明のいずれかの特定の態様が請求項のいずれか1つ以上からはっきりと排除され得るということは理解されるべきである。範囲が与えられているところでは、範囲内のいずれかの値は請求項のいずれか1つ以上からはっきりと排除され得る。本発明の組成物および/または方法のいずれかの態様、要素、特徴、適用、または側面はいずれか1つ以上の請求項から排除され得る。簡潔の目的のために、1つ以上の要素、特徴、目的、または側面が排除された態様の全てが本明細書にはっきりと示されてはいない。
【0222】
本明細書において、例えば背景技術、発明の概要、詳細な説明、例、および/または参照の項において挙げられている全ての刊行物、特許、特許出願、刊行物、およびデータベースエントリー(例えば配列データベースエントリー)は、各個々の刊行物、特許、特許出願、刊行物、およびデータベースエントリーが参照によって本明細書に具体的かつ個々に組み込まれた場合のように、それらの全体が参照によってここに組み込まれる。相反のケースにおいては、本願のいずれかの定義を包含して、本願がコントロールする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11