(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】プリント配線板用金属箔、キャリア付金属箔及び金属張積層板、並びにそれらを用いたプリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/09 20060101AFI20240307BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20240307BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20240307BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
H05K1/09 C
B32B15/04 A
C25D7/06 A
H05K3/18 G
(21)【出願番号】P 2021508964
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2020010017
(87)【国際公開番号】W WO2020195748
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2019060651
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】加藤 翼
(72)【発明者】
【氏名】松田 光由
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/141985(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/133638(WO,A1)
【文献】特開2014-46600(JP,A)
【文献】特開2015-16688(JP,A)
【文献】特開2015-9556(JP,A)
【文献】特開2015-10273(JP,A)
【文献】特開2015-10274(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141983(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/04
C25D 7/06
B32B 15/04
B32B 15/08
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1エッチング犠牲層、第2エッチング犠牲層、及び銅層をこの順に備え、Cuのエッチングレートに対する、前記第1エッチング犠牲層のエッチングレートの比をr
1とし、Cuのエッチングレートに対する、前記第2エッチング犠牲層のエッチングレートの比をr
2とした場合、r
1>r
2>1.0を満たす、プリント配線板製造用金属箔。
【請求項2】
前記比r
1が1.2以上である、請求項1に記載の金属箔。
【請求項3】
前記比r
2が1.2以上である、請求項1又は2に記載の金属箔。
【請求項4】
前記第1エッチング犠牲層が、Cu-Zn合金、Cu-Sn合金、Cu-Mn合金、Cu-Al合金、Cu-Mg合金、Fe金属、Zn金属、Co金属、Mo金属及びこれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種で構成され、かつ、前記第2エッチング犠牲層が、Cu-Zn合金、Cu-Sn合金、Cu-Mn合金、Cu-Al合金、Cu-Mg合金、Fe金属、Zn金属、Co金属、Mo金属及びこれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項5】
前記第1エッチング犠牲層及び前記第2エッチング犠牲層の各々が、Cu-Zn合金で構成され、前記第1エッチング犠牲層のZn含有量をxとし、前記第2エッチング犠牲層のZn含有量をyとした場合、x>y≧50重量%を満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項6】
前記第1エッチング犠牲層がCu-Zn合金又はZn金属で構成され、かつ、前記第2エッチング犠牲層がFe金属で構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項7】
前記第1エッチング犠牲層の前記第2エッチング犠牲層と反対側の表面に追加銅層をさらに備えた、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項8】
前記追加銅層と前記第1エッチング犠牲層との間に拡散防止層をさらに備えた、請求項7に記載の金属箔。
【請求項9】
前記拡散防止層が、Fe金属、Fe-W合金、Co金属、Co-W合金、Co-Ni合金及びこれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項8に記載の金属箔。
【請求項10】
前記金属箔の単位面積当たりのピンホール数が2個/mm
2以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項11】
前記第1エッチング犠牲層の厚さd
1、前記第2エッチング犠牲層の厚さd
2、前記銅層の厚さd
3、存在する場合には前記拡散防止層の厚さd
2’、及び存在する場合には前記追加銅層の厚さd
3’の合計厚さd
1+d
2+d
3+d
2’+d
3’が3.0μm以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項12】
前記第2エッチング犠牲層の厚さd
2が0.05μm以上2.5μm以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項13】
前記銅層の厚さd
3が0.1μm以上2.5μm以下である、請求項1~12のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項14】
前記追加銅層の厚さd
3’が0.1μm以上2.5μm以下である、請求項7~13のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項15】
Cuのエッチングレートに対する、前記拡散防止層のエッチングレートの比をr
2’とした場合、前記第1エッチング犠牲層の前記比r
1に対する前記厚さd
1の比d
1/r
1、前記第2エッチング犠牲層の前記比r
2に対する前記厚さd
2の比d
2/r
2、前記追加銅層の厚さd
3’、及び存在する場合には前記拡散防止層の前記比r
2’に対する前記厚さd
2’の比d
2’/r
2’が、d
1/r
1+d
2/r
2≧d
3’+d
2’/r
2’を満たす、請求項7~14のいずれか一項に記載の金属箔。
【請求項16】
キャリア、剥離層、及び請求項1~15のいずれか一項の金属箔をこの順に備えた、キャリア付金属箔。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか一項に記載の金属箔を備えた、金属張積層板。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか一項に記載の金属箔又は請求項16に記載のキャリア付金属箔を用いることを特徴とする、プリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板製造用金属箔、キャリア付金属箔及び金属張積層板、並びにそれらを用いたプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回路の微細化に適したプリント配線板の製造工法として、MSAP法(モディファイドセミアディティブ法)が広く採用されている。MSAP法は、極めて微細な回路を形成するのに適した手法であり、その特徴を活かすため、キャリア付銅箔を用いて行われている。例えば、
図6及び7に示されるように、下地基材111a上に下層回路111bを備えた絶縁樹脂基板111上にプリプレグ112とプライマー層113を用いて、極薄銅箔110をプレスして密着させ(工程(a))、キャリア(図示せず)を引き剥がした後、必要に応じてレーザー穿孔によりビアホール114を形成する(工程(b))。次いで、化学銅めっき115を施した(工程(c))後に、ドライフィルム116を用いた露光及び現像により所定のパターンでマスキングし(工程(d))、電気めっき117を施す(工程(e))。ドライフィルム116を除去して配線部分117aを形成した後(工程(f))、隣り合う配線部分117a,117a間の不要な極薄銅箔等をそれらの厚み全体にわたってエッチングにより除去して(工程(g))、所定のパターンで形成された配線118を得る。
【0003】
ここで、ビアホール114の形成(工程(b))後で、かつ、化学銅めっき115の形成(工程(c))前に、ビアホール底面の下層回路111bのクリーニングやビアホール周囲に付着したスプラッシュの除去を目的としてマイクロエッチング(Cuエッチング)が行われる場合がある。近年、回路を微細化する観点から、従来よりも極薄銅箔110の厚さを予め薄くしておき、前記マイクロエッチング後の時点でのシード層(極薄銅箔110)が0.3μm程度の厚さとなるようにすることが望まれるようになってきた。しかしながら、このように薄くされた極薄銅箔110と絶縁樹脂基板111との積層体をマイクロエッチングしようとすると、
図8に概念的に示されるように、マイクロエッチング中、マイクロエッチングの面内ばらつきにより部分的に極薄銅箔110(シード層)に欠損110aが生じることがある。
【0004】
そこで、Cuよりもエッチングされやすいエッチング犠牲層を備えた極薄銅箔を用いることで、マイクロエッチングの面内ばらつきを有意に低減させる手法が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2017/141985号)には、第一銅層、Cu-Zn合金等で構成されるエッチング犠牲層、及び第二銅層(シード層)をこの順に備え、Cuのエッチングレートに対する、エッチング犠牲層のエッチングレートの比rが1.0よりも高いプリント配線板製造用銅箔が開示されている。かかる銅箔によれば、
図9に概念的に示されるように、エッチング犠牲層212が2つの銅層213,211間にサンドイッチされることで、金属箔210と絶縁層228との積層体に対するマイクロエッチング中、エッチング犠牲層212が不均一に溶解して第二銅層(シード層)213が局所的に露出しても、エッチング犠牲層212が優先的に溶解する。その結果、第二銅層(シード層)213の厚さは概して均一に保たれることになり、欠損が発生しにくくなるとされている。
【0005】
一方、特許文献1には、上記エッチング犠牲層を備えた銅箔をコアレスビルドアップ法によるプリント配線板の製造に好ましく採用できることも開示されている。コアレスビルドアップ法とは、支持体(コア)表面の金属層上に配線層(第一配線層)を形成し、更にビルドアップ層を形成した後、支持体(コア)を除去してビルドアップ層のみで配線板を形成する方法である。かかる方法により製造されるプリント配線板は回路パターンが絶縁層の中に埋め込まれているタイプのものであるため、この工法はETS(Embedded Trace Substrate)工法と呼ばれている。特許文献1によれば、
図10(b)及び(c)に概念的に示されるように、Cuエッチングの際にエッチング犠牲層212が不均一に溶解して且つ/又はエッチング犠牲層212に偶発的に存在しうるピンホール等に起因してCu(第二銅層213又は第一配線層226のCu)が局所的に露出したとしても、局部電池反応により下地の第二銅層213又は第一配線層226(銅層)の溶解が抑制される。その結果、面内で均一に第二銅層213がエッチングされるとともに、第一配線層226の局所的な回路凹みの発生を抑制することができるとされている。しかも、この方法によれば、エッチング犠牲層212はCuエッチングに伴い溶解除去されるので、エッチング犠牲層212を除去するための追加工程が不要になり、生産性も向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
このように、プリント配線板の製造において、シード層の欠損や回路凹みの発生を有意に抑制できるという観点から、エッチング犠牲層を備えた銅箔は有用性が高いといえる。 ところで、MSAP法(
図6及び7を参照)において、レーザー穿孔等によるビアホール114の形成(工程(b))に起因して、樹脂残渣(スミア)がビアホール114底部等に生じる場合があり、かかる樹脂残渣を除去する処理として、薬液を用いたデスミア処理が行われている。このデスミア処理は、上述したETS工法におけるビルドアップ層形成の際にも行われうる。一方、極薄銅箔としてエッチング犠牲層を備えた銅箔を採用する場合、
図3に概念的に示されるように、穿孔後において、エッチング犠牲層212がビアホール214の側面から露出した状態となる。この状態でデスミア処理を行うと、ビアホール214側面以外の部分では第一銅層211によってエッチング犠牲層212が保護されるものの、ビアホール214側面部ではエッチング犠牲層212の露出部分から薬液が浸食しうる。このため、マイクロエッチングの開始時点において、既にエッチング犠牲層212が消失しているおそれがある。その結果、マイクロエッチング時にエッチング犠牲層212がシード層(第二銅層213)よりも優先的に溶解するという犠牲効果が十分に発揮されず、シード層に欠損213aが発生しうる。
【0008】
一方、近年プリント配線板に要求される回路の更なる微細化に伴い、銅配線と絶縁樹脂材料との熱膨張差によって引き起こされる回路破断等の不具合を防止すべく、絶縁基材として低い熱膨張係数(CTE)を有する低CTE基材が広く採用されている。しかしながら、低CTE基材は概して硬化温度が高いため、銅箔と密着させる際のプレス温度が高温(例えば220℃以上)となりやすい。この点、Cu-Zn合金等のエッチング犠牲層を備えた銅箔を使用して高温プレス加工を行う場合、
図5に概念的に示されるように、エッチング犠牲層212から銅層211,213に金属(例えばZn)等が拡散し、結果としてこれらの層が全体としてエッチング犠牲層212と類似した組成の合金層220となりうる。このため、マイクロエッチング時に、エッチング犠牲層212の犠牲効果が十分に発揮されず、エッチング犠牲層212とシード層(第二銅層213)とが一体として除去されるおそれがある。
【0009】
本発明者らは、今般、プリント配線板の製造において、シード層(銅層)と第一のエッチング犠牲層との間に、エッチングレートがCuより高く第一のエッチング犠牲層より低い第二のエッチング犠牲層を介在させた金属箔を用いることで、穿孔後に薬液処理を行った場合でも、シード層の欠損の発生を抑制できるとの知見を得た。また、シード層(銅層)と第一のエッチング犠牲層との間に第二のエッチング犠牲層を介在させることで、高温プレス加工を行った場合でも、第一のエッチング犠牲層からシード層への金属等の拡散を効果的に防止し、その結果、エッチング犠牲層が本来有する犠牲効果を発揮できるとの知見も得た。
【0010】
したがって、本発明の第一の目的は、穿孔後に薬液処理を行った場合でも、シード層の欠損の発生を抑制可能な、プリント配線板製造用金属箔を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、高温プレス加工を行った場合でも、第一のエッチング犠牲層からシード層への金属等の拡散を効果的に防止し、その結果、エッチング犠牲層が本来有する犠牲効果を発揮可能な、プリント配線板製造用金属箔を提供することにある。
【0011】
本発明の一態様によれば、第1エッチング犠牲層、第2エッチング犠牲層、及び銅層をこの順に備え、Cuのエッチングレートに対する、前記第1エッチング犠牲層のエッチングレートの比をr1とし、Cuのエッチングレートに対する、前記第2エッチング犠牲層のエッチングレートの比をr2とした場合、r1>r2>1.0を満たす、プリント配線板製造用金属箔が提供される。
【0012】
本発明の他の一態様によれば、キャリア、剥離層、及び前記金属箔をこの順に備えた、キャリア付金属箔が提供される。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、前記金属箔を備えた、金属張積層板が提供される。
【0014】
本発明の他の一態様によれば、前記金属箔又は前記キャリア付金属箔を用いることを特徴とする、プリント配線板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の金属箔を含むキャリア付金属箔の一例を示す断面模式図である。
【
図2】エッチング犠牲層が2層の積層体における穿孔後の薬液浸食を説明するための断面模式図である。
【
図3】エッチング犠牲層が1層の積層体における穿孔後の薬液浸食を説明するための断面模式図である。
【
図4】エッチング犠牲層が2層の積層体における高温プレス加工時の拡散を説明するための断面模式図である。
【
図5】エッチング犠牲層が1層の積層体における高温プレス加工時の拡散を説明するための断面模式図である。
【
図6】MSAP法を用いたプリント配線板の製造方法の従来例における、前半の工程を示す図である。
【
図7】MSAP法を用いたプリント配線板の製造方法の従来例における、
図6に示される工程に続く後半の工程を示す。
【
図8】従来の銅箔を用いたMSAP法におけるシード層(極薄銅箔)の不均一エッチングを説明するための断面模式図である。
【
図9】MSAP法におけるエッチング犠牲層の機能を説明するための断面模式図である。
【
図10】コアレスビルドアップ法(ETS工法)におけるエッチング犠牲層の機能を説明するための断面模式図である。
【
図11】本発明の金属箔を用いたコアレスビルドアップ法(ETS工法)によるプリント配線板の製造方法の一例における、前半の工程を示す図である。
【
図12】本発明の金属箔を用いたコアレスビルドアップ法(ETS工法)によるプリント配線板の製造方法の一例における、
図11に示される工程に続く後半の工程を示す。
【
図13】シード層に欠損が生じない場合のエッチング過程を説明する図である。
【
図14】追加銅層の残存がシード層の欠損を引き起こす場合のエッチング過程を概念的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
プリント配線板製造用金属箔
本発明による金属箔は、プリント配線板の製造に用いられる金属箔である。
図1に本発明の金属箔の模式断面図が示される。
図1に示されるように、金属箔10は、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12、及び銅層(シード層)13をこの順に備える。金属箔10は、必要に応じて第1エッチング犠牲層11の第2エッチング犠牲層12と反対側の表面に、追加銅層14をさらに備えてもよい。また、金属箔10は、追加銅層14と第1エッチング犠牲層11との間に拡散防止層15をさらに備えてもよい。一般的には金属箔10の絶縁樹脂との積層の際、絶縁樹脂と密着しない銅層が「追加銅層14」であり、絶縁樹脂と密着する銅層が「銅層13」である。なお、本発明の金属箔10をETS工法に適用する場合は、回路パターンが形成されない側の銅層が「追加銅層14」であり、回路パターンが形成される側の銅層が「銅層13」である。本明細書において、「銅層13」は専ら回路パターンの形成に用いられる層であるため、この機能に着目して「銅層13」を「シード層13」と称することがある。
【0017】
第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12は銅合金層ではありうるとしても、金属銅層ではないため、金属箔10はその内層ないし外層として銅以外の金属又は合金を含むことになる。このため、本発明では金属箔10を「プリント配線板製造用金属箔」と称しているが、この金属箔10は一般的にプリント配線板製造用銅箔として認識される銅箔と同様の用途に使用することが可能である。また、「第1エッチング犠牲層」及び「第2エッチング犠牲層」の名称に含まれる序列はキャリアがある場合にキャリア側から数えた順序に従ったものである。例えば、金属箔10が
図1に示されるようなキャリア付金属箔16の形態で供される場合、キャリア17、剥離層18、追加銅層14(存在する場合)、拡散防止層15(存在する場合)、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12、及び銅層13(シード層)の順に構成されていることになる。
【0018】
そして、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12は、Cuのエッチングレートに対する、第1エッチング犠牲層11のエッチングレートの比をr1とし、Cuのエッチングレートに対する、第2エッチング犠牲層12のエッチングレートの比をr2とした場合、r1>r2>1.0を満たすことによって特徴付けられる。このように、プリント配線板の製造において、銅層13と第1エッチング犠牲層11との間に、エッチングレート比が第1エッチング犠牲層11より低い第2エッチング犠牲層12を介在させた金属箔を用いることで、穿孔後に薬液処理を行った場合でも、シード層の欠損等の発生を抑制できる。
【0019】
前述のとおり、
図3に概念的に示されるように、銅層211、213間に1層のエッチング犠牲層212が介在された従来の金属箔210と絶縁層228との積層体では、穿孔後において、エッチング犠牲層212がビアホール214の側面から露出した状態となる。この状態でデスミア処理を行うと、ビアホール214側面以外の部分では第一銅層211によってエッチング犠牲層212が保護されるものの、ビアホール214側面部ではエッチング犠牲層212の露出部分から薬液が浸食しうる。とりわけ、エッチング犠牲層212は、銅層211,213と比べてエッチングされやすい層であるため、薬液浸食が起こりやすいといえる。このため、マイクロエッチングの開始時点において、既にエッチング犠牲層212が消失しているおそれがある。その結果、マイクロエッチング時にエッチング犠牲層212がシード層(第二銅層213)よりも優先的に溶解するという犠牲効果が十分に発揮されず、シード層に欠損213aが発生しうる。
【0020】
これに対して、本発明の金属箔10を用いることで、上記技術的課題を好都合に解消することができる。すなわち、
図2に概念的に示されるように、金属箔10(追加銅層14、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12、及び銅層13を備える)と絶縁層28との積層体では、穿孔によるビアホール54形成後にデスミア処理を行った場合でも、第2エッチング犠牲層12がシード層(銅層13)上に残存する。換言すれば、第2エッチング犠牲層12は、そのエッチングレート比r
2が第1エッチング犠牲層11のエッチングレート比r
1よりも低いため、デスミア等の薬液処理の際に、局部電池反応により第1エッチング犠牲層11が第2エッチング犠牲層12等よりも優先的に溶解する。こうして、第2エッチング犠牲層12の薬液浸食が抑制され、マイクロエッチングの開始時点において、積層体にはシード層13のみならず少なくとも第2エッチング犠牲層12が残存することになる。これにより、マイクロエッチング時にCuが局部的に露出する状況が生じてしまっても、局部電池反応により第2エッチング犠牲層12が優先的に溶解することができ、その結果、下地のシード層13の溶解が抑制され、欠損の発生が生じにくくなる。
【0021】
また、銅層13と第1エッチング犠牲層11との間に第2エッチング犠牲層12を介在させることで、例えば220℃以上の高温プレス加工を行った場合でも、第1エッチング犠牲層11からシード層(銅層13)への金属等の拡散を効果的に防止できる。この点、前述したように、Cu-Zn合金等で構成される1層のエッチング犠牲層を備えた銅箔を使用して高温プレス加工を行う場合、
図5に概念的に示されるように、エッチング犠牲層212から銅層211,213に金属(例えばZn)等が拡散し、結果としてこれらの層が全体としてエッチング犠牲層212と類似した組成の合金層220となりうる。このため、マイクロエッチング時に、エッチング犠牲層212の犠牲効果が十分に発揮されず、エッチング犠牲層212とシード層(第二銅層213)とが一体として除去されるおそれがある。これに対して、本発明の金属箔10においては、
図4に概念的に示されるように、第1エッチング犠牲層11と銅層13との間に第2エッチング犠牲層12が介在する。また、必要に応じて、第1エッチング犠牲層11と追加銅層14との間に拡散防止層15が介在しうる。このため、第1エッチング犠牲層11からの金属の拡散が第2エッチング犠牲層12ないし拡散防止層15(存在する場合)で防止される。その結果、シード層13及び追加銅層14(存在する場合)が合金化するのを抑制でき、上記技術的課題を解消することができる。これにより、低い熱膨張係数(CTE)を有するが硬化温度が高い低CTE基材を絶縁基材として用いることができ、結果としてプリント配線板の製造において回路の更なる微細化を実現することが可能となる。
【0022】
金属箔10は高温プレス加工などのプロセスを経るため、真空中、220℃で2時間加熱した後においても、第1エッチング犠牲層11からシード層13への拡散が起こらないことが好ましい。本明細書において「拡散が起こらない」とは、(i)金属箔10加熱前の銅層13に1重量%以下(0重量%を含む)しか含まれず、かつ、(ii)金属箔10加熱前の第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12の少なくとも一方に1重量%以上含まれる元素(以下、「拡散確認元素」とする)が、金属箔10加熱後の銅層13の所定の測定地点において1重量%以下の含有率であることをいう。したがって、例えば、銅層13における加熱前及び加熱後の炭素含有率がそれぞれ0.5重量%及び2重量%であったとしても、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12のいずれにおいても、加熱前の炭素含有率が1重量%未満である場合には、炭素は拡散確認元素に該当しない(上記(ii)を満足しない)ため、このことにより拡散が起こったとはみなされない。ここで、「金属箔10加熱後の銅層13の測定地点」とは、(a)銅層13の第2エッチング犠牲層12と反対側の表面、又は(b)銅層13の第2エッチング犠牲層12との境界面から銅層13の深さ方向に0.3μm離れた地点のうち、第2エッチング犠牲層12からの距離が近い方の地点をいう。すなわち、銅層13の厚さが0.3μm以下の場合は上記(a)が測定地点となり、銅層13の厚さが0.3μmを超える場合は上記(b)が測定地点となる。加熱後の金属箔10において、銅層13と第2エッチング犠牲層12との境界が判別不可能となった場合には、拡散が起こったとみなすものとする。なお、金属箔10の加熱時に、銅層13の第2エッチング犠牲層12と反対側の面には、拡散確認元素を実質的に含まない別の部材(例えば支持体等)が接着されていてもよい。各層の元素含有率は、後述する実施例で言及されるように、グロー放電発光分析装置(GD-OES)を用いて金属箔10の深さ方向元素分析を行うことにより特定される値とする。
【0023】
第1エッチング犠牲層11は、エッチングレートがCu及び第2エッチング犠牲層12よりも高いものであれば特に限定されない。換言すれば、Cuのエッチングレートに対する、第1エッチング犠牲層11のエッチングレートの比r1(以下、エッチングレート比r1という)と、Cuのエッチングレートに対する、第2エッチング犠牲層12のエッチングレートの比r2(以下、エッチングレート比r2という)とが、r1>r2>1.0を満たす。この関係を満たすことで、Cuエッチングによって第1エッチング犠牲層11をシード層13等と同時に溶解除去することができるとともに、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12が不均一に溶解してCuが局所的に露出したとしても、局部電池反応により下地の銅層(シード層)の溶解が抑制される。それにより面内で均一にシード層のエッチングを行えるとともに、シード層の欠損や局所的な回路凹みや欠損の発生を抑制することができる。また、上記関係を満たすことで、穿孔後のデスミア処理のように、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12の両方が局所的に露出した状態で薬液処理を行う場合に、局部電池反応により第1エッチング犠牲層11が第2エッチング犠牲層12等よりも優先的に溶解される。これにより、マイクロエッチング開始時点において、第2エッチング犠牲層12を溶解が抑制された状態で残存させることができ、その結果、穿孔後に薬液処理を行った場合でも、シード層の欠損等の発生を抑制できる。
【0024】
第1エッチング犠牲層11のエッチングレートは、第1エッチング犠牲層11と同じ材料で構成される箔サンプルと、参照試料としての銅箔サンプルとを、エッチング工程において同じ時間処理を行い、エッチングによる各サンプルの厚み変化を溶解時間で除することにより算出されるものである。なお、厚み変化は両サンプルの重量減少量を測定して、それぞれの金属の密度から厚さに換算することにより決定されてもよい。好ましいエッチングレート比r1は、高い犠牲効果を得る観点から、1.2以上であり、より好ましくは1.25以上、さらに好ましくは1.3以上である。エッチングレート比r1の上限は特に限定されないが、面内における第1エッチング犠牲層11の溶解速度を均一に保ち、第2エッチング犠牲層12ないし銅層13との局部電池反応を面内均一に作用させるためには、エッチングレート比r1は5.0以下が好ましく、より好ましくは4.5以下であり、さらに好ましくは4.0以下であり、特に好ましくは3.5以下であり、最も好ましくは3.0以下である。ここで、エッチング液としては、酸化還元反応により銅を溶解できる公知の液が採用可能である。エッチング液の例としては、塩化第二銅(CuCl2)水溶液、塩化第二鉄(FeCl3)水溶液、過硫酸アンモニウム水溶液、過硫酸ナトリウム水溶液、過硫酸カリウム水溶液、硫酸/過酸化水素水等の水溶液等が挙げられる。この中でもCuのエッチングレートを精密に制御でき、第1エッチング犠牲層11とのエッチング時間差を確保するのに好適な点から、過硫酸ナトリウム水溶液、過硫酸カリウム水溶液、及び硫酸/過酸化水素水が好ましく、この中でも硫酸/過酸化水素水が最も好ましい。エッチング方式としては、スプレー法、浸漬法等が採用できる。また、エッチング温度としては、25℃以上70℃以下の範囲で適宜設定されうるものである。本発明におけるエッチングレートは、上記エッチング液やエッチング方式等の組合せと、下記に示す第1エッチング犠牲層11の材料の選択とによって調整されるものである。
【0025】
第1エッチング犠牲層11を構成する材料はCuよりも電気化学的に卑な金属が好ましく、そのような好ましい金属の例としては、Cu-Zn合金、Cu-Sn合金、Cu-Mn合金、Cu-Al合金、Cu-Mg合金、Fe金属、Zn金属、Co金属、Mo金属及びこれらの酸化物、並びにこれらの組合せが挙げられ、特に好ましくはCu-Zn合金である。第1エッチング犠牲層11を構成しうるCu-Zn合金は、高い犠牲効果を得る観点から、Zn含有量が40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。また、Cu-Zn合金におけるZn含有量は、上述した第1エッチング犠牲層11の面内溶解速度の均一な保持、及び第2エッチング犠牲層12ないし銅層13との局部電池反応の面内均一作用の観点から、好ましくは98重量%以下、より好ましくは96重量%以下であり、さらに好ましくは94%重量%以下である。第1エッチング犠牲層11は0.1μm以上5μm以下の厚さd1を有するのが好ましく、より好ましい厚さd1は0.1μm以上4.5μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上4μm以下、特に好ましくは0.2μm以上3.5μm以下、最も好ましくは0.3μm以上3μm以下である。
【0026】
第2エッチング犠牲層12は、エッチングレートがCuより高く、かつ、第1エッチング犠牲層11より低い(すなわち前述したr1>r2>1.0の関係を満たす)ものであれば特に限定されない。エッチングレートがCuより高ければ(エッチングレート比r2が1.0より高ければ)Cuエッチングによって同時に溶解除去することができるとともに、第2エッチング犠牲層12が不均一に溶解してCuが局所的に露出したとしても、局部電池反応により下地の銅層(シード層)の溶解が抑制され、それにより面内で均一にシード層のエッチングを行えるとともに、シード層の欠損や局所的な回路凹みや欠損の発生を抑制することができる。また、エッチングレート比r2がエッチングレート比r1より低いことで、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12の両方が局所的に露出した状態で薬液処理を行う場合に、局部電池反応により第1エッチング犠牲層11が第2エッチング犠牲層12等よりも優先的に溶解される。これにより、マイクロエッチング開始時点において、第2エッチング犠牲層12を溶解が抑制された状態で残存させることができ、その結果、穿孔後に薬液処理を行った場合でも、シード層の欠損等の発生を抑制できる。第2エッチング犠牲層12のエッチングレートは、第1エッチング犠牲層11に関して上述したとおりであり、エッチング液やエッチング方式等の好ましい態様は、第2エッチング犠牲層12にもそのまま当てはまる。好ましいエッチングレート比r2は、高い犠牲効果を得る観点から、1.2以上であり、より好ましくは1.25以上である。エッチングレート比r2の上限は特に限定されないが、面内における第2エッチング犠牲層12の溶解速度を均一に保ち、銅層13との局部電池反応を面内均一に作用させるためには、エッチングレート比r2は5.0以下が好ましく、より好ましくは4.5以下であり、さらに好ましくは4.0以下であり、さらに好ましくは3.5以下であり、特に好ましくは3.0以下であり、最も好ましくは2.7以下である。
【0027】
第2エッチング犠牲層12を構成する材料は、高い犠牲効果を得る観点から、Cuよりも電気化学的に卑な金属が好ましく、そのような好ましい金属の例としては、Cu-Zn合金、Cu-Sn合金、Cu-Mn合金、Cu-Al合金、Cu-Mg合金、Fe金属、Zn金属、Co金属、Mo金属及びこれらの酸化物、並びにこれらの組合せが挙げられ、より好ましい例としてはCu-Zn合金、Fe金属及びこれらの酸化物、並びにこれらの組合せが挙げられ、特に好ましくはCu-Zn合金が挙げられる。第2エッチング犠牲層12を構成しうるCu-Zn合金は、高い犠牲効果を得る観点から、Zn含有量が40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上である。また、Cu-Zn合金におけるZn含有量は、上述した第2エッチング犠牲層12の面内溶解速度の均一な保持、及び銅層13との局部電池反応の面内均一作用の観点から、好ましくは98重量%以下、より好ましくは96重量%以下であり、さらに好ましくは94重量%以下、特に好ましくは92重量%以下である。
【0028】
高い拡散防止効果を得る観点から、第2エッチング犠牲層12はFe金属、Fe-W合金、Co金属、Co-W合金、Co-Ni合金及びこれらの酸化物、並びにこれらの組合せから選択される少なくとも1種で構成されるのも好ましく、より好ましい例としてはFe金属、Fe-W合金及びこれらの酸化物、並びにこれらの組合せが挙げられ、特に好ましくはFe金属が挙げられる。第2エッチング犠牲層12は0.05μm以上2.5μm以下の厚さd2を有するのが好ましく、より好ましい厚さd2は0.06μm以上2.0μm以下、さらに好ましくは0.06μm以上1.5μm以下、特に好ましくは0.07μm以上1.0μm以下、最も好ましくは0.07μm以上0.5μm以下である。このような範囲内の厚さd2であると、所望の犠牲効果を得られるとともに、より一層優れた拡散防止効果を発揮することができる。
【0029】
第1エッチング犠牲層11と第2エッチング犠牲層12とは、上述したr1>r2>1.0の関係を満たすように、例えば上述した金属ないし合金の任意の組合せを選択することができる。第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12は同一種類の合金であってもよいし、異なる種類の金属ないし合金であってもよい。第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12が同一種類の合金で構成される場合には、r1>r2>1.0の関係を満たすように各々の合金を構成する元素の割合を調整するのが好ましい。例えば、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12の各々が、Cu-Zn合金で構成されてもよく、第1エッチング犠牲層11のZn含有量をxとし、第2エッチング犠牲層12のZn含有量をyとした場合に、x>y≧50重量%を満たすのが高い犠牲効果を得る観点から好ましい。また、第1エッチング犠牲層11がCu-Zn合金又はZn金属で構成され、かつ、第2エッチング犠牲層12がFe金属で構成されるのも好ましく、こうすることで、第1エッチング犠牲層11からのZnの拡散を第2エッチング犠牲層12でより一層効果的に防止できる。
【0030】
銅層13は、公知の構成であってよく特に限定されない。例えば、銅層13は、無電解めっき法及び電解めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び化学蒸着等の乾式成膜法、又はそれらの組合せにより形成したものであってよい。銅層13は0.1μm以上2.5μm以下の厚さd3を有するのが好ましく、より好ましい厚さd3は0.1μm以上2μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上1.5μm以下、特に好ましくは0.2μm以上1μm以下、最も好ましくは0.2μm以上0.8μm以下である。このような範囲内の厚さd3であると、回路形成に好都合な十分な薄さでありながらも、Cuエッチング時の欠損等の不具合をより効果的に防止することができる。
【0031】
銅層13の表面には、粗化処理がされていることが好ましい。このように銅層の表面に粗化処理により形成された粗化粒子が付着されていることで、金属張積層板やプリント配線板製造時における絶縁樹脂層との密着性を向上することができる。また、ETS工法において、配線パターン形成後の画像検査をしやすくするとともにフォトレジストパターン20との密着性を向上することができる。粗化粒子は画像解析による平均粒径Dが0.04μm以上0.53μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.08μm以上0.13μm以下であり、さらに好ましくは0.09μm以上0.12μm以下である。上記好適範囲内であると、ETS工法において、粗化面に適度な粗さを持たせてフォトレジストとの優れた密着性を確保しながら、フォトレジスト現像時にフォトレジストの不要領域の開口性を良好に実現することができ、その結果、十分に開口しきれなかったフォトレジストに起因してめっきされにくくなることで生じうるパターンめっき22のライン欠損を効果的に防止することができる。したがって、上記好適範囲内であるとフォトレジスト現像性とパターンめっき性に優れるといえ、それ故、配線パターン24の微細形成に適する。なお、粗化粒子の画像解析による平均粒径Dは、走査型電子顕微鏡(SEM)の一視野に粒子が所定数(例えば1000個以上3000個以下)入る倍率にて像を撮影し、その像に対して市販の画像解析ソフトで画像処理を行うことにより測定するのが好ましく、例えば任意に選択した200個の粒子を対象とし、それら粒子の平均直径を平均粒径Dとして採用すればよい。
【0032】
また、粗化粒子は画像解析による粒子密度ρが4個/μm2以上200個/μm2以下であるのが好ましく、より好ましくは40個/μm2以上170個/μm2以下、70個/μm2以上100個/μm2以下である。また、銅層表面の粗化粒子が緻密で密集している場合には、ETS工法において、フォトレジストの現像残渣が発生しやすいが、上記好適範囲内であるとそのような現像残渣が発生しにくく、それ故、フォトレジストパターン20の現像性にも優れる。したがって、上記好適範囲内であると配線パターン24の微細形成に適するといえる。なお、粗化粒子の画像解析による粒子密度ρは、走査型電子顕微鏡(SEM)の一視野に粒子が所定数(例えば1000個以上3000個以下)入る倍率にて像を撮影し、その像に対して市販の画像解析ソフトを用いて画像処理を行うことにより測定するのが好ましく、例えば粒子200個が入る視野においてそれらの粒子個数(例えば200個)を視野面積で除算した値を粒子密度ρとして採用すればよい。
【0033】
銅層13の表面は、上述した粗化処理による粗化粒子の付着の他、ニッケル-亜鉛/クロメート処理等の防錆処理や、シランカップリング剤によるカップリング処理等を施すことも好ましい。これらの表面処理により銅層表面の化学的安定性の向上や、絶縁層積層時の密着性の向上を図ることができる。
【0034】
所望により設けられる追加銅層14は公知の銅箔構成であってよく特に限定されない。追加銅層14を備えることでCuエッチング工程における前処理等で溶解速度の速い第1エッチング犠牲層11を露出させないように制御することが可能になる、また、下記剥離層との剥離を容易なものとすることができるといった利点がある。追加銅層14は、無電解めっき法及び電解めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び化学蒸着等の乾式成膜法、又はそれらの組合せにより形成したものであってよい。追加銅層14は0.1μm以上2.5μm以下の厚さd3’を有するのが好ましく、より好ましくは0.1μm以上2μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上1.5μm以下、特に好ましくは0.2μm以上1μm以下、最も好ましくは0.3μm以上0.8μm以下である。このような範囲内の厚さd3’であるとCuエッチングの前工程(例えばデスミア等の薬液工程)において第1エッチング犠牲層11をより効果的に保護できるとともに、後述するd1/r1+d2/r2≧d3’+d2’/r2’及び/又はd1+d2+d3+d3’+d2’≦3.0μmの条件を満たしやすくなり、その結果、Cuエッチング時の欠損等の不具合をより効果的に防止することができる。
【0035】
所望により設けられる拡散防止層15は、第1エッチング犠牲層11から追加銅層14への金属等の拡散を防止する機能を有する層であり、第2エッチング犠牲層12に準じた構成とすることができる。したがって、高い拡散防止効果を得る観点から、拡散防止層15はFe金属、Fe-W合金、Co金属、Co-W合金、Co-Ni合金及びこれらの酸化物、並びにこれらの組合せから選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましく、より好ましい例としてはFe金属、Fe-W合金及びこれらの酸化物、並びにこれらの組合せが挙げられ、特に好ましくはFe金属が挙げられる。拡散防止層15は0.05μm以上2.5μm以下の厚さd2’を有するのが好ましく、より好ましくは0.06μm以上2.0μm以下、さらに好ましくは0.06μm以上1.5μm以下、特に好ましくは0.07μm以上1.0μm以下、最も好ましくは0.07μm以上0.5μm以下である。このような範囲内の厚さd2’であると、第1エッチング犠牲層11からの金属等の拡散をより効果的に防止できるととともに、後述するd1/r1+d2/r2≧d3’+d2’/r2’及び/又はd1+d2+d3+d3’+d2’≦3.0μmの条件を満たしやすくなり、その結果、Cuエッチング時の欠損等の不具合をより効果的に防止することができる。
【0036】
ところで、追加銅層14及び拡散防止層15は、Cuエッチングの前工程(例えばデスミア等の薬液工程)で薬液による溶解から第1エッチング犠牲層11を保護することができる、あるいは第1エッチング犠牲層11からの金属等の拡散を防止できる一方で、過剰に厚い場合はエッチング後の銅層13(シード層)に欠損が生じることがある。かかる欠損を効果的に防止する観点から、Cuのエッチングレートに対する拡散防止層15のエッチングレートの比をr
2’とした場合、第1エッチング犠牲層11のエッチングレート比r
1に対する厚さd
1の比d
1/r
1、第2エッチング犠牲層12のエッチングレート比r
2に対する厚さd
2の比d
2/r
2、追加銅層14の厚さd
3’、及び拡散防止層15(存在する場合)の比r
2’に対する厚さd
2’の比d
2’/r
2’が、d
1/r
1+d
2/r
2≧d
3’+d
2’/r
2’を満たすのが好ましい。このことは
図13及び14に概念的に示される金属箔10,10’と絶縁層28との積層体を参照しながら以下のように説明される。なお、説明の便宜のため、
図13及び14並びに以下の説明において、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12を合わせて単に「エッチング犠牲層11,12」と称することや、追加銅層14、14’及び拡散防止層15、15’を合わせて「追加銅層14、14’等」と称することがある。まず、
図14(a)に示されるように追加銅層14’等が過剰に厚い場合には、追加銅層14’等が不均一に溶解してエッチング犠牲層11,12が露出し(
図14(b))、露出したエッチング犠牲層11,12が直ちに(残った追加銅層14’等よりも優先的に)溶解してシード層13が露出しうる(
図14(c))。その結果、残存した追加銅層14’等の溶解と並行して、露出したシード層13の溶解が進行してしまい(
図14(d))、シード層13に欠損13aが発生しうる(
図14(e)参照)。これに対して、
図13(a)に示されるように追加銅層14等が適度に薄い場合には、追加銅層14等が薄いが故に溶解時のばらつきが少なく(
図13(b))、エッチング犠牲層11,12が溶解してシード層13が露出する前に追加銅層14等が溶け切ることになる(
図13(c))。その結果、エッチング犠牲層11,12とシード層13が同時にエッチング液に接触することにより、エッチング犠牲層11,12による犠牲効果が発現し(
図13(d))、シード層13には欠損が生じないこととなる(
図13(e))。してみると、追加銅層14及び拡散防止層15が溶け切る時間が、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12が溶け切る時間よりも短いことが欠損防止の観点から望ましいといえる。したがって、第1エッチング犠牲層11のエッチングレートをv
1、第2エッチング犠牲層12のエッチングレートをv
2、追加銅層14のエッチングレートをv
3’、拡散防止層15のエッチングレートをv
2’とした場合、以下の関係:
d
1/v
1+d
2/v
2≧d
3’/v
3’+d
2’/v
2’
⇔ d
1×v
3’/v
1+d
2×v
3’/v
2≧d
3’+d
2’×v
3’/v
2’
⇔ d
1/r
1+d
2/r
2≧d
3’+d
2’/r
2’
を満たすのが望ましいといえる。すなわち、追加銅層14のエッチングレートv
3’はCuに対するエッチングレートに他ならないことから、前述したエッチングレート比rを用いると、v
1/v
3’=r
1、v
2/v
3’=r
2、v
2’/v
3’=r
2’である。よって、上記のとおりd
1/r
1+d
2/r
2≧d
3’+d
2’/r
2’を満たすのが好ましいといえる。
【0037】
金属箔10は、単位面積当たりのピンホール数が2個/mm2以下であるのが好ましい。こうすることで、Cuエッチング時の薬液浸食による欠損等の不具合をより一層低減することができる。特に、追加銅層14(追加銅層14が存在しない場合には第1エッチング犠牲層11)の単位面積当たりのピンホール数が2個/mm2以下であるのが好ましい。これは、追加銅層14におけるピンホール数が上記のとおり少ないと、金属箔10の製造プロセスにおいて、追加銅層14にめっきされる拡散防止層15、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12及び銅層13において発生しうるピンホールもまた少なくすることができるためである。
【0038】
金属箔10は、第1エッチング犠牲層11の厚さd1、第2エッチング犠牲層12の厚さd2、銅層13の厚さd3、拡散防止層15(存在する場合)の厚さd2’、及び追加銅層14(存在する場合)の厚さd3’の合計厚さd1+d2+d3+d2’+d3’が3.0μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.3μm以上2.8μm以下、さらに好ましくは0.6μm以上2.8μm以下、特に好ましくは0.9μm以上2.6μm以下である。このような範囲内の合計厚さは金属箔10の厚さが十分に薄いことを意味し、金属箔10のダイレクトレーザー孔開け性が向上する。
【0039】
所望により、追加銅層14と拡散防止層15との間、拡散防止層15と第1エッチング犠牲層11との間、第1エッチング犠牲層11と第2エッチング犠牲層12との間、及び/又は第2エッチング犠牲層12と銅層13との間には、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12の犠牲効果を妨げないかぎり、別の層が存在していてもよい。
【0040】
キャリア付金属箔
金属箔10(すなわち銅層13、第2エッチング犠牲層12、第1エッチング犠牲層11、存在する場合には拡散防止層15、及び存在する場合には追加銅層14の積層体)は、キャリア無し金属箔の形態で提供されてもよいし、
図1に示されるようにキャリア付金属箔16の形態で提供されてもよいが、キャリア付金属箔16の形態で提供されるのが好ましい。この場合、キャリア付金属箔16は、キャリア17、剥離層18、追加銅層14(存在する場合)、拡散防止層15(存在する場合)、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12、及び銅層13を順に備えるものであってもよいし、あるいはキャリア17、追加銅層14(存在する場合)、拡散防止層15(存在する場合)、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12、及び銅層13を順に備えるものであってもよい。すなわち、剥離層18を有していてもよいし、剥離層18を単独の層として有しない構成であってもよい。好ましいキャリア付金属箔は、キャリア17、剥離層18、及び金属箔10をこの順に備えたものである。
【0041】
キャリア17は、金属箔を支持してそのハンドリング性を向上させるための層(典型的には箔)である。キャリアの例としては、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔、樹脂フィルム、表面をメタルコーティングした樹脂フィルム、ガラス板等が挙げられ、好ましくは銅箔である。銅箔は圧延銅箔及び電解銅箔のいずれであってもよい。キャリアの厚さは典型的には250μm以下であり、好ましくは12μm以上200μm以下である。
【0042】
剥離層18は、キャリア17の引き剥がし強度を弱くし、該強度の安定性を担保し、さらには高温でのプレス成形時にキャリアと金属箔の間で起こりうる相互拡散を抑制する機能を有する層である。剥離層は、キャリアの一方の面に形成されるのが一般的であるが、両面に形成されてもよい。剥離層は、有機剥離層及び無機剥離層のいずれであってもよい。有機剥離層に用いられる有機成分の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられ、中でもトリアゾール化合物は剥離性が安定し易い点で好ましい。トリアゾール化合物の例としては、1,2,3-ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、N’,N’-ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア、1H-1,2,4-トリアゾール及び3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾール等が挙げられる。硫黄含有有機化合物の例としては、メルカプトベンゾチアゾール、チオシアヌル酸、2-ベンズイミダゾールチオール等が挙げられる。カルボン酸の例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸等が挙げられる。一方、無機剥離層に用いられる無機成分の例としては、Ni、Mo、Co、Cr、Fe、Ti、W、P、Zn、クロメート処理膜、炭素層等が挙げられる。なお、剥離層の形成はキャリアの少なくとも一方の表面に剥離層成分含有溶液を接触させ、剥離層成分をキャリアの表面に溶液中で吸着されること等により行えばよい。キャリアを剥離層成分含有溶液に接触させる場合、この接触は、剥離層成分含有溶液への浸漬、剥離層成分含有溶液の噴霧、剥離層成分含有溶液の流下等により行えばよい。その他、電解めっきや無電解めっき等のめっき法、蒸着やスパッタリング等による気相法で剥離層成分を被膜形成する方法も採用可能である。また、剥離層成分のキャリア表面への固定は、剥離層成分含有溶液の乾燥、剥離層成分含有溶液中の剥離層成分の電着等により行えばよい。剥離層の厚さは、典型的には1nm以上1μm以下であり、好ましくは5nm以上500nm以下である。なお、剥離層18とキャリアとの剥離強度は5gf/cm以上50gf/cm以下であることが好ましく、より好ましくは5gf/cm以上40gf/cm以下、さらに好ましくは6gf/cm以上30gf/cm以下である。
【0043】
金属張積層板
本発明の金属箔はプリント配線板用金属張積層板の作製に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、上述した金属箔を備えた金属張積層板が提供される。金属張積層板は金属箔をキャリア付金属箔の形態で備えていてもよい。また、金属箔は樹脂層の片面に設けられてもよいし、両面に設けられてもよい。樹脂層は、典型的には樹脂、好ましくは絶縁樹脂を含んでなる。樹脂層はプリプレグ及び/又は樹脂シートであるのが好ましく、より好ましくはプリプレグである。プリプレグとは、合成樹脂板、ガラス板、ガラス織布、ガラス不織布、紙等の基材に合成樹脂を含浸又は積層させた複合材料の総称である。プリプレグに含浸される絶縁樹脂の好ましい例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。また、樹脂シートを構成する絶縁樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂(液晶ポリマー)等の絶縁樹脂が挙げられる。また、樹脂層には熱膨脹係数を下げ、剛性を上げる等の観点からシリカ、アルミナ等の各種無機粒子からなるフィラー粒子等が含有されていてもよい。樹脂層の厚さは特に限定されないが、3μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上400μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上200μm以下である。樹脂層は複数の層で構成されていてよい。プリプレグ及び/又は樹脂シート等の樹脂層は予め金属箔表面に塗布されるプライマー樹脂層を介してキャリア付金属箔に設けられていてもよい。
【0044】
プリント配線板の製造方法
上述したような本発明の金属箔又はキャリア付金属箔を用いてプリント配線板を好ましく製造することができる。プリント配線板の製造方法の好ましい例として、MSAP法(モディファイドセミアディティブ法)及びコアレスビルドアップ法(ETS工法)が挙げられるが、これらの工法に限らず、本発明の金属箔又はキャリア付金属箔は、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12の犠牲効果による何らかの利点を期待できる様々な工法に採用可能である。
【0045】
一例として、本発明の金属箔を採用したコアレスビルドアップ法(ETS工法)によるプリント配線板の製造方法を以下に説明する。この方法においては、まず、追加銅層14(存在する場合)、拡散防止層15(存在する場合)、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12、及び銅層13を備えた金属箔10を用いて支持体を得る。次いで、銅層13上に、銅製の第一配線層26と絶縁層28とを少なくとも含むビルドアップ配線層を形成してビルドアップ配線層付積層体を得る。なお、ビルドアップ配線層は、後述する
図12に示されるように、第n配線層40(nは2以上の整数)まで形成された多層のビルドアップ配線層を採用可能であることはいうまでもない。その後、追加銅層14(存在する場合)、拡散防止層15(存在する場合)、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12及び銅層13をエッチング液により除去して第一配線層26を露出させ、それによりビルドアップ配線層を含むプリント配線板を得る。
【0046】
以下、
図1に加え、
図11及び12に示される工程図をも適宜参照しながら製造方法を説明する。なお、
図11及び12に示される態様は説明の簡略化のためにコアレス支持体19の片面にキャリア付金属箔16を設けてビルドアップ配線層42を形成するように描かれているが、コアレス支持体19の両面にキャリア付金属箔16を設けて当該両面に対してビルドアップ配線層42を形成するのが望ましい。
【0047】
(1)金属箔を用いた支持体の用意
金属箔10又はそれを含むキャリア付金属箔16を支持体として用意する。所望により、ビルドアップ配線層付積層体の形成に先立ち、金属箔10(追加銅層14側)又はキャリア付金属箔16(キャリア17側)をコアレス支持体19の片面又は両面に積層して積層体を形成してもよい。すなわち、この段階で、上述した金属張積層板を形成してもよい。この積層は、通常のプリント配線板製造プロセスにおいて銅箔とプリプレグ等との積層に採用される公知の条件及び手法に従って行えばよい。コアレス支持体19は、典型的には樹脂、好ましくは絶縁樹脂を含んでなる。コアレス支持体19はプリプレグ及び/又は樹脂シートであるのが好ましく、より好ましくはプリプレグである。すなわち、コアレス支持体19は上述した金属張積層板における樹脂層に相当するものであり、それ故、金属張積層板ないし樹脂層に関して上述した好ましい態様はそのままコアレス支持体19に当てはまる。
【0048】
(2)ビルドアップ配線層付積層体の形成
銅層13上に、銅製の第一配線層26と絶縁層28とを少なくとも含むビルドアップ配線層42を形成してビルドアップ配線層付積層体を得る。絶縁層28は上述したような絶縁樹脂で構成すればよい。ビルドアップ配線層42の形成は、公知のプリント配線板の製造方法に従って行えばよく、特に限定されない。本発明の好ましい態様によれば、以下に述べるように、(i)フォトレジストパターンを形成、(ii)電気銅めっき、及び(iii)フォトレジストパターンの剥離を行って第一配線層26を形成した後、(iv)ビルドアップ配線層42が形成される。
【0049】
(i)フォトレジストパターンを形成
まず、銅層13の表面にフォトレジストパターン20を形成する。フォトレジストパターン20の形成は、ネガレジスト及びポジレジストのいずれの方式で行ってもよく、フォトレジストはフィルムタイプ及び液状タイプのいずれであってもよい。また、現像液としては炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、アミン系水溶液等の現像液であってよく、プリント配線板の製造に一般的に用いられる各種手法及び条件に従い行えばよく特に限定されない。
【0050】
(ii)電気銅めっき
次に、フォトレジストパターン20が形成された銅層13に電気銅めっき22を施す。電気銅めっき22の形成は、例えば硫酸銅めっき液やピロリン酸銅めっき液等のプリント配線板の製造に一般的に用いられる各種パターンめっき手法及び条件に従い行えばよく特に限定されない。
【0051】
(iii)フォトレジストパターンの剥離
フォトレジストパターン20を剥離して配線パターン24を形成する。フォトレジストパターン20の剥離は、水酸化ナトリウム水溶液や、アミン系溶液ないしその水溶液等が採用され、プリント配線板の製造に一般的に用いられる各種剥離手法及び条件に従い行えばよく特に限定されない。こうして、銅層13の表面には第一配線層26からなる配線部(ライン)が間隙部(スペース)を隔てて配列された配線パターン24が直接形成されることになる。例えば、回路の微細化のためには、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下(例えば12μm/12μm、10μm/10μm、5μm/5μm、2μm/2μm)といった程度にまで高度に微細化された配線パターンを形成することが好ましい。
【0052】
(iv)ビルドアップ配線層の形成
銅層13上にビルドアップ配線層42を形成してビルドアップ配線層付積層体を作製する。例えば、銅層13上に既に形成されている第一配線層26に加え、絶縁層28及び第二配線層38が順に形成されてビルドアップ配線層42とされうる。例えば、
図12に示されるように、ビルドアップ配線層42を形成すべく絶縁層28及びキャリア付銅箔30(キャリア32、剥離層34及び銅箔36を備える)を積層し、キャリア32を剥離し、かつ、炭酸ガスレーザー等により銅箔36及びその直下の絶縁層28をレーザー加工してもよい。続いて、化学銅めっき、フォトレジスト加工、電解銅めっき、フォトレジスト剥離及びフラッシュエッチング等によりパターニングを行って第二配線層38を形成し、このパターニングを必要に応じて繰り返して第n配線層40(nは2以上の整数)まで形成してもよい。
【0053】
第二配線層38以降のビルドアップ層の形成方法についての工法は上記手法に限定されず、サブトラクティブ法、MSAP(モディファイド・セミ・アディティブ・プロセス)法、SAP(セミアディティブ)法、フルアディティブ法等が使用可能である。例えば、樹脂層及び銅箔に代表される金属箔を同時にプレス加工で張り合わせる場合は、ビアホール形成及びパネルめっき等の層間導通手段の形成と組み合わせて、当該パネルめっき層及び金属箔をエッチング加工して、配線パターンを形成することができる。また、銅層13の表面に樹脂層のみをプレス又はラミネート加工により張り合わせる場合は、その表面にセミアディティブ法で配線パターンを形成することもできる。
【0054】
上記工程を必要に応じて繰り返して、ビルドアップ配線層付積層体を得る。この工程では樹脂層と配線パターンを含む配線層とを交互に積層配置したビルドアップ配線層を形成して、第n配線層40(nは2以上の整数)まで形成されたビルドアップ配線層付積層体を得るのが好ましい。この工程の繰り返しは所望の層数のビルドアップ配線層が形成されるまで行えばよい。この段階で、必要に応じて、外層面にソルダーレジストや、ピラー等の実装用のバンプ等を形成してもよい。また、ビルドアップ配線層の最外層面は後の外層加工工程で外層配線パターンを形成してもよい。
【0055】
(3)ビルドアップ配線層を含むプリント配線板の形成
(i)ビルドアップ配線層付積層体の分離
ビルドアップ配線層付積層体を形成した後は、ビルドアップ配線層付積層体を剥離層18等で分離することができる。キャリア付金属箔が、キャリア17、剥離層18、追加銅層14、拡散防止層15、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12、及び銅層13を順に備える場合、本発明の方法は、後述のエッチング液による除去に先立ち、剥離層18でビルドアップ配線層付積層体を分離して追加銅層14を露出させるのが好ましい。分離の方法は、物理的な引き剥がしが好ましく、この引き剥がし方法については、機械若しくは冶具、手作業又はこれらの組合せによる方法が採用され得る。
【0056】
一方、キャリア付金属箔が、キャリア17、追加銅層14、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12、及び銅層13を順に備えてなる場合(すなわち剥離層18を単独の層として有しない場合)、本発明の方法は、後述のエッチング液による除去に先立ち、キャリア17と追加銅層14との間又は追加銅層14内部でビルドアップ配線層付積層体を分離して、追加銅層14を露出させるのが好ましい。
【0057】
(ii)エッチング犠牲層及び銅層のエッチング
本発明の方法においては、追加銅層14、拡散防止層15、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12、及び銅層13をエッチング液により除去して第一配線層26を露出させ、それによりビルドアップ配線層42を含むプリント配線板46を得る。プリント配線板46は好ましくは多層プリント配線板である。いずれにしても、第1エッチング犠牲層11及び第2エッチング犠牲層12の存在により、追加のエッチング工程を別途要することなく、Cuエッチングにより面内で均一に各層のエッチングによる除去を効率的に行えるとともに、局所的な回路凹みの発生を抑制することができる。したがって、本発明の方法によれば、追加銅層14、拡散防止層15、第1エッチング犠牲層11、第2エッチング犠牲層12、及び銅層13のエッチング液による除去を1工程で行うことができる。この際に用いるエッチング液及びエッチング工法は、上述したとおりである。
【0058】
(iii)外層加工
図12に示されるようなプリント配線板46は様々な工法により外層を加工することが可能である。例えば、プリント配線板46の第一配線層26にさらにビルドアップ配線層としての絶縁層と配線層を任意の層数として積層してもよく、或いは第一配線層26の表面にソルダ―レジスト層を形成し、Ni-Auめっき、Ni-Pd-Auめっき、水溶性プレフラックス処理等の外層パッドとしての表面処理を施してもよい。さらには外層パッドに柱状のピラー等を設けてもよい。この際、本発明におけるエッチング犠牲層を用いて作成された第一配線層26は、面内で回路厚さの均一性を保持できるとともに、第一配線層26の表面は、局所的な回路凹みの発生が少ないものとなる。このため、回路厚さの極端に薄い部位や回路凹み等に起因する表面処理工程における局所的な処理不良やソルダ―レジスト残渣不良、更には実装パッドの凹凸による実装不良等の不具合発生率の少ない、実装信頼性に優れたプリント配線板を得ることができる。
【0059】
上述したプリント配線板の製造方法は、コアレスビルドアップ法(ETS工法)によるものであるが、MSAP法によるプリント配線板の製造方法については、
図6及び7に基づいて説明した従来のMSAP工法において、極薄銅箔110の代わりに本発明の金属箔10を用いることにより、プリント配線板を好ましく製造することができる。
【実施例】
【0060】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0061】
例1~4
本発明のプリント配線板製造用金属箔の作製及び各種評価を以下のようにして行った。
【0062】
(1)キャリアの作製
陰極として表面を#2000のバフで研磨したチタン製の電極を用意した。また、陽極としてDSA(寸法安定性陽極)を用意した。これらの電極を用い、銅濃度80g/L、硫酸濃度260g/Lの硫酸銅溶液に浸漬して、溶液温度45℃、電流密度55A/dm2で電解し、厚さ18μmの電解銅箔をキャリアとして得た。
【0063】
(2)剥離層の形成
酸洗処理されたキャリアを、CBTA(カルボキシベンゾトリアゾール)濃度1g/L、硫酸濃度150g/L及び銅濃度10g/LのCBTA溶液に、液温30℃で30秒間浸漬し、CBTA成分をキャリアの電極面に吸着させた。こうして、キャリアの電極面の表面にCBTA層を有機剥離層として形成した。
【0064】
(3)補助金属層の形成
有機剥離層が形成されたキャリアを、硫酸ニッケルを用いて作製されたニッケル濃度20g/Lの溶液に浸漬して、液温45℃、pH3、電流密度5A/dm2の条件で、厚さ0.001μm相当の付着量のニッケルを有機剥離層上に付着させた。こうして有機剥離層上にニッケル層を補助金属層として形成した。
【0065】
(4)追加銅層の形成
例1~3については、補助金属層が形成されたキャリアを、銅濃度60g/L、硫酸濃度200g/Lの硫酸銅溶液に浸漬して、溶液温度50℃、電流密度5A/dm2以上30A/dm2以下で電解し、厚さ0.3μmの追加銅層を補助金属層上に形成した。一方、例4については、追加銅層の形成を行わなかった。
【0066】
(5)拡散防止層の形成
例1及び2については、追加銅層が形成されたキャリアを、表1に示されるめっき浴に浸漬して、表1に示されるめっき条件で電解し、表2に示される組成及び厚さの拡散防止層を追加銅層上に形成した。一方、例3及び4については、拡散防止層の形成を行わなかった。
【0067】
(6)第1エッチング犠牲層の形成
拡散防止層が形成されたキャリア(例1及び2)又は追加銅層が形成されたキャリア(例3)を、表1に示されるめっき浴に浸漬して、表1に示されるめっき条件で電解し、表2に示される組成及び厚さの第1エッチング犠牲層を拡散防止層上又は追加銅層上に形成した。一方、例4については、第1エッチング犠牲層の形成を行わなかった。
【0068】
(7)第2エッチング犠牲層の形成
例1及び2については、第1エッチング犠牲層が形成されたキャリアを、表1に示されるめっき浴に浸漬して、表1に示されるめっき条件で電解し、表2に示される組成及び厚さの第2エッチング犠牲層を第1エッチング犠牲層上に形成した。一方、例3及び4については、第2エッチング犠牲層の形成を行わなかった。
【0069】
(8)銅層(シード層)の形成
第2エッチング犠牲層が形成されたキャリア(例1及び2)、第1エッチング犠牲層が形成されたキャリア(例3)、又は補助金属層が形成されたキャリア(例4)を、銅濃度60g/L、硫酸濃度145g/Lの硫酸銅溶液に浸漬して、溶液温度45℃、電流密度30A/dm2で電解し、表2に示される厚さの銅層を第2エッチング犠牲層上、第1エッチング犠牲層上、又は補助金属層上に形成した。
【0070】
(9)粗化処理
こうして形成されたキャリア付金属箔の表面に粗化処理を行った。この粗化処理は、銅層の上に微細銅粒を析出付着させる焼けめっき工程と、この微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程とから構成される。焼けめっき工程では、銅濃度10g/L及び硫酸濃度120g/Lを含む酸性硫酸銅溶液を用いて、液温25℃、電流密度15A/dm2で粗化処理を行った。その後の被せめっき工程では、銅濃度70g/L及び硫酸濃度120g/Lを含む酸性硫酸銅溶液を用いて、液温40℃及び電流密度15A/dm2の平滑めっき条件で電着を行った。
【0071】
(10)防錆処理
得られたキャリア付金属箔の表面に、亜鉛-ニッケル合金めっき処理及びクロメート処理からなる防錆処理を行った。まず、亜鉛濃度0.2g/L、ニッケル濃度2g/L及びピロリン酸カリウム濃度300g/Lの電解液を用い、液温40℃、電流密度0.5A/dm2の条件で、粗化処理層及びキャリアの表面に亜鉛-ニッケル合金めっき処理を行った。次いで、クロム酸3g/L水溶液を用い、pH10、電流密度5A/dm2の条件で、亜鉛-ニッケル合金めっき処理を行った表面にクロメート処理を行った。
【0072】
(11)シランカップリング剤処理
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2g/L含む水溶液をキャリア付金属箔の銅層側の表面に吸着させ、電熱器により水分を蒸発させることにより、シランカップリング剤処理を行った。このとき、シランカップリング剤処理はキャリア側には行わなかった。
【0073】
(12)評価
こうして得られたキャリア付金属箔及びその構成層について、各種評価を以下のとおり行った。
【0074】
評価1:エッチングレート比
拡散防止層のエッチングレート比r2’、第1エッチング犠牲層のエッチングレート比r1、及び第2エッチング犠牲層のエッチングレート比r2を以下のようにして測定した。
【0075】
まず、例1及び2については以下のサンプル(i)~(iii)を、例3については以下のサンプル(ii)を用意した。また、例4については以下のサンプル(iv)を用意した。
(i)上記(5)で得られた最表面が拡散防止層であるキャリア付金属箔(すなわち拡散防止層までが形成され、第1エッチング犠牲層の形成及びその後の処理が行われていない中間製品)
(ii)上記(6)で得られた最表面が第1エッチング犠牲層であるキャリア付金属箔(すなわち第1エッチング犠牲層までが形成され、第2エッチング犠牲層の形成及びその後の処理が行われていない中間製品)
(iii)上記(7)で得られた最表面が第2エッチング犠牲層であるキャリア付金属箔(すなわち第2エッチング犠牲層までが形成され、銅層の形成及びその後の処理が行われていない中間製品)
(iv)上記(8)で得られた最表面が銅層であるキャリア付金属箔(すなわち銅層までが形成され、粗化処理及びその後の処理が行われていない中間製品)
【0076】
一方、水に市販の濃硫酸(95重量%)と過酸化水素水(30重量%)を溶解させて、硫酸濃度5.9重量%、過酸化水素濃度2.1重量%のエッチング液を作製した。各キャリア付金属箔サンプルをキャリア側がエッチングされないようにマスキングし、エッチング液に25℃で一定時間浸漬して溶解させ、溶解前後のめっき皮膜の厚み変化を蛍光X線膜厚計(フィッシャー・インストルメンツ社製、Fischerscope X-Ray XDAL-FD)で測定した。得られた厚み変化を溶解時間で除することにより、対象となる各めっき皮膜のエッチングレートを求めた。こうして求めた例4のサンプル(iv)のエッチングレートがCuのエッチングレートであり、例1~3におけるサンプル(i)、(ii)及び(iii)のエッチングレートがそれぞれ各拡散防止層、各第1エッチング犠牲層及び各第2エッチング犠牲層のエッチングレートである。そして、拡散防止層、第1エッチング犠牲層及び第2エッチング犠牲層のエッチングレートをそれぞれCuのエッチングレートで除することにより、拡散防止層のエッチングレート比r2’、第1エッチング犠牲層のエッチングレート比r1、及び第2エッチング犠牲層のエッチングレート比r2を算出した。結果は表2に示されるとおりであった。
【0077】
評価2:単位面積当たりのピンホール数
追加銅層の単位面積当たりのピンホール数を測定するために、上記(4)で得られた最表面が追加銅層であるキャリア付銅箔(すなわち厚み0.3μmの追加銅層までが形成され、拡散防止層の形成及びその後の処理が行われていない中間製品)を用意した。このキャリア付銅箔を絶縁樹脂基材(パナソニック株式会社製プリプレグ、R-1661、厚さ0.1mm)に追加銅層側が接するように積層し、圧力4.0MPa、温度190℃で90分間熱圧着した。その後、キャリアを剥離して積層板を得た。この積層板を、暗室中でバックライトを当てながら、光学顕微鏡で観察して、ピンホールの数を数えた。こうして1mm2あたりのピンホール数を測定したところ、例1~3のいずれにおいても、追加銅層の単位面積当たりのピンホール数は2個/mm2以下であった。
【0078】
評価3:銅層(シード層)への金属等の熱拡散
熱拡散の評価を行うため、例1~3について、上記(8)で得られた最表面が銅層であるキャリア付金属箔(すなわち銅層までが形成され、粗化処理及びその後の処理が行われていない中間製品)を用意した。このキャリア付金属箔を真空中、温度220℃で2時間加熱し、加熱前後のキャリア付金属箔の組成分析をグロー放電発光分析装置(GD-OES)(株式会社堀場製作所製、JY-5000RF)により行った。加熱前のサンプルにおいて、銅層に1重量%以下(0重量%を含む)しか含まれず、かつ、第1エッチング犠牲層及び第2エッチング犠牲層(存在する場合)の少なくとも一方に1重量%以上含まれる元素を拡散確認元素と定義した。加熱後のサンプルについて、以下の地点:
(a)銅層の第2エッチング犠牲層と反対側の表面(第2エッチング犠牲層が存在しない場合には銅層の第1エッチング犠牲層と反対側の表面)、又は
(b)銅層と第2エッチング犠牲層との境界面(第2エッチング犠牲層が存在しない場合には銅層と第1エッチング犠牲層との境界面)から銅層の深さ方向に0.3μm離れた地点
のうち、第2エッチング犠牲層(第2エッチング犠牲層が存在しない場合には第1エッチング犠牲層)からの距離が近い方の地点における、全ての拡散確認元素の含有率が1重量%以下であるものを拡散無しと判定し、そうでないものを拡散有りと判定した。なお、銅層と第2エッチング犠牲層との境界の判別が不可能となったものについても拡散有りと判定した。結果は表2に示されるとおりであった。
【0079】
評価4:シード層の欠損
内層基板の表面に、上記(11)で得られたキャリア付金属箔を、絶縁樹脂基材(三菱瓦斯化学株式会社製プリプレグ、GHPL-830NS、厚さ0.1mm)を介して銅層側が近接するように積層し、圧力4.0MPa、温度220℃で90分間熱圧着した。こうして得られた金属張積層板のキャリアを剥離し、10cm×10cmの大きさに切断し、評価1で作製したエッチング液に第1エッチング犠牲層及び第2エッチング犠牲層(存在する場合)が完全に消失するまで浸漬させた後、目視で欠損の有無を確認し、以下の基準に従い格付け評価した。なお、ここでいう欠損とは下地の基材が目視できる状態を指す。結果は表2に示されるとおりであった。
・評価A:銅層に欠損が無いもの
・評価B:銅層に1箇所以上3箇所以下の欠損が生じているもの
・評価C:銅層に4箇所以上の欠損が生じているもの
【0080】
【0081】