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特許7449925ATR結晶と試料との間の接触を自動化する方法及び装置
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  • 特許-ATR結晶と試料との間の接触を自動化する方法及び装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ATR結晶と試料との間の接触を自動化する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/552 20140101AFI20240307BHJP
【FI】
G01N21/552
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021514503
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2019043297
(87)【国際公開番号】W WO2020068257
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】16/147,828
(32)【優先日】2018-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】コール,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ゲトラー,アンドリュー
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09863877(US,B1)
【文献】欧州特許出願公開第00819932(EP,A1)
【文献】特開2001-147379(JP,A)
【文献】特開2018-084582(JP,A)
【文献】特開2007-286147(JP,A)
【文献】特開平09-257700(JP,A)
【文献】特開2004-069379(JP,A)
【文献】特開2016-161408(JP,A)
【文献】特開平11-132941(JP,A)
【文献】特開2004-125540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01N 21/64
G02B 19/00 - G02B 21/00
G02B 21/06 - G02B 21/36
G02B 27/56
G01C 3/00 - G01C 3/32
G01B 11/00 - G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する光が全反射される反射面を特徴とするATR対物レンズと、
光ビームを前記ATR対物レンズに入射させ、前記光ビームが、コントローラによって制御される前記反射面上のあるポイントにおいて前記反射面から全反射されるように、前記光ビームを前記ポイントに合焦させる前記コントローラであって、前記反射面上の複数の異なるポイントのそれぞれにおいて前記反射面から反射された光の強度を計測することによって、前記反射面の画像を形成するコントローラと、
前記コントローラによって決定された速度で前記反射面に向かう方向に試料を移動させるz軸ステージと、
前記z軸ステージが第1の速度で前記試料を移動させているときに、前記試料と前記反射面との間の距離を計測する高さプロファイラと
を備え
前記コントローラは、前記試料と前記反射面との距離が第1の距離になる前に、前記反射面の背景画像を形成し、
前記コントローラは、前記試料と前記反射面との距離が前記第1の距離内になったら、前記反射面のアプローチ画像を形成し、前記反射面の前記アプローチ画像を前記背景画像と光の吸収に関して比較しつつ、前記第1の速度未満の第2の速度で前記反射面に向けて前記z軸ステージを移動させるものである、ATR走査システム。
【請求項2】
前記第2の速度は5μm/秒未満である、請求項に記載のATR走査システム。
【請求項3】
前記反射面の前記画像を前記背景画像と光の吸収に関して前記比較した結果として、前記反射面の前記アプローチ画像のうちの1つが、前記試料と前記反射面との間の接触に一致する光の吸収を示すある領域を示しているとき、前記コントローラは、前記z軸ステージの更なる移動を停止する、請求項に記載のATR走査システム。
【請求項4】
前記コントローラが前記z軸ステージを停止した後に、前記コントローラは、前記試料が前記反射面と接触していることを確認する、請求項に記載のATR走査システム。
【請求項5】
試料をATR対物レンズの反射面と自動的に接触させる方法であって、前記試料は、コントローラによって前記反射面に向かう方向に前記試料を移動させるz軸ステージ上に取り付けられ、
前記試料と前記反射面との間の距離が、前記試料が前記反射面に接触しないことを保証するのに十分な第1の距離よりも大きいときには、高さプロファイラを用いて前記試料と前記反射面との間の前記距離を計測しながら、第1のz軸速度で前記反射面に向けて前記試料を移動させることと、
前記試料が前記第1の距離よりも接近しているときに、前記反射面の第1の画像を形成しつつ、前記第1の画像が前記試料が前記反射面と接触していることを示すまで、アプローチステップサイズずつ前記z軸ステージを繰り返し段階的に進行させることと
を含み、
前記第1の画像は、前記試料が前記反射面に接触していないときの前記反射面の第2の画像と光の吸収に関して比較されて、前記試料が前記反射面と接触しているか否かが判断され、
前記反射面は、所定の波長の光を反射するように構成され、
前記光の吸収は、前記反射面から反射する前記光によって生成される電場との相互作用による吸収を示すものである、方法。
【請求項6】
前記第1の画像は、光が前記反射面から反射された後の所定の波長の前記光の減衰を前記反射面上の位置の関数として計測することによって形成される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
記反射面から反射する前記光によって生成される前記電場が、前記反射面から前記試料に向かって前記第1の距離だけ広がり、前記アプローチステップサイズは前記第1の距離よりも小さい、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記アプローチステップサイズは5μm未満である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記アプローチステップサイズは3μm未満である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記アプローチステップサイズは1μm未満である、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
量子カスケードレーザ(quantum cascade laser)は、分光計測と分光画像(spectroscopic measurements and images)に使用することができる波長可変中赤外(MIR:mid-infrared)光源を提供する。興味の対象となる多くの化学成分は、2.5ミクロン~25ミクロンの波長にわたる光学スペクトルのMIR領域において励振される分子振動を有する。したがって、サンプル上の様々な場所においてMIR光の吸収を計測することによって、サンプルの化学的性質についての有用な情報をサンプル上の位置の関数として提供することができる。
【0002】
撮像分光計(imaging spectrometer:イメージングスペクトロメータ)の1つの部類は、サンプルから直接反射される光を、サンプル上の位置及び照射MIR光の波長の関数として計測する。反射される光の量は、サンプルの化学的属性と物理的属性との双方に依存する。なぜならば、光は、試料の化学的組成を反映するサンプルにおける吸収と、試料の表面の物理的状態に依存する散乱との双方によって失われる可能性があるからである。したがって、直接反射を用いて生成されるスペクトルを、ライブラリにおいて利用可能な既知の化学的吸収スペクトルを有する吸収と比較することは、大きな難題を呈する。
【0003】
減衰全反射(ATR:attenuated total reflection)を利用して試料を照射するシステムは、試料(specimen)による入射光の散乱によって引き起こされる問題を回避する。例えば、2018年1月9日に発行された特許文献1は、ATRを使用して試料の一部分を走査する方式を記載している。これらの方式は、入射光ビームを結晶表面から臨界角よりも小さな角度で反射する。反射光強度が計測され、入射光強度と比較され、反射面と接触しているが結晶の外側にある試料によってもたらされる吸収が求められる。光は全反射されるが、光によって生成される電場は、反射面の外側に数ミクロン広がっており、試料と相互作用することができる。試料が入射ビームにおける波長の光を吸収する場合には、反射光は減衰される。
【0004】
これらの方式は、試料を反射面の数ミクロンの範囲内に持って来る必要があり、好ましくは、試料が反射面と接触している必要がある。試料が壊れやすいもの又は硬いもののいずれかであるときは、問題が生じる。ユーザは、試料又は結晶のいずれかに損傷を与えるのに十分な力で試料を反射面に押し付けることなく、試料が反射面に接触するように試料を移動させなければならない。実際上、試料を適切な位置に移動させるには数分を要し、したがって、分光計のスループットが制限され、所望の結果を達成するには、操作者のかなりの技術が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第9,863,877号
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ATR対物レンズ(ATR objective)の反射面に対して試料を位置決めする方法とATR走査システムを含む。本走査システムは、ATR対物レンズ、コントローラ、z軸ステージ、及び高さプロファイラを備える。ATR対物レンズは、このATR対物レンズに入射する光が全反射される反射面によって特徴付けられる。コントローラは、光ビームをATR対物レンズに入射させ、光ビームがコントローラによって制御される反射面上の位置において反射面から全反射されるように反射面上の或るポイントに合焦させる。コントローラは、反射面上の複数の異なるポイントのそれぞれにおいて反射面から反射された光の強度を計測することによって、反射面の画像を形成する。z軸ステージは、コントローラによって決定された速度で反射面に向かう方向に試料を移動させる。高さプロファイラは、z軸ステージが第1の速度で試料を移動させているときに、試料と反射面との間の最小距離を計測する。
【0007】
本発明の1つの態様では、コントローラは、試料が反射面の第1の距離内に存在する前に、反射面の背景画像を形成する。
【0008】
本発明の別の態様では、コントローラは、反射面のアプローチ画像を形成し、画像を背景画像と比較している間、第1の速度未満である第2の速度でz軸ステージを反射面に向けて移動させる。
【0009】
本発明の別の態様では、第2の速度は5ミクロン/秒未満である。
【0010】
本発明の別の態様では、アプローチ画像のうちの1つが、試料と反射面との間の接触に一致するある領域を示しているとき、コントローラは、z軸ステージの更なる移動を停止する。
【0011】
本発明の別の態様では、コントローラがz軸ステージを停止した後に、コントローラは、試料が反射面に接触していることを確認する。
【0012】
本発明の方法は、コントローラの制御下で反射面に向かう方向に試料を移動させるz軸ステージ上に試料が取り付けられている間に、ATR対物レンズの反射面に試料を自動的に接触させる。本方法は、試料と反射面との間の距離が、試料が反射面に接触しないことを保証するのに十分な第1の距離よりも大きい間、高さプロファイラを用いて試料と反射面との間の距離を計測しながら、第1のz軸速度で反射面に向けて試料を移動させることを含む。試料が上記第1の距離よりも反射面の近くに位置決めされた後、第1の画像が試料の反射面への接触を示すまで、z軸距離はあるアプローチ(approach:接近)ステップサイズずつ繰り返し段階的に変更され、反射面の第1の画像が形成されていく。
【0013】
本発明の1つの態様では、第1の画像は、光が反射面から反射された後の所定の波長の光の減衰を反射面上の位置の関数として計測することによって形成される。
【0014】
本発明の別の態様では、第1の画像は、試料が反射面に接触していないときの反射面の第2の画像と比較され、試料が試料と接触しているか否かが判断される。
【0015】
本発明の別の態様では、反射面が所定の波長の光を反射するように構成され、反射面から反射する光によって生成される電場(electric field)が、反射面から試料に向かって第1の距離だけ広がり、アプローチステップサイズは第1の距離よりも小さいものである。
【0016】
本発明の別の態様では、アプローチサイズは5ミクロン未満である。
【0017】
本発明の別の態様では、アプローチサイズは3ミクロン未満である。
【0018】
本発明の別の態様では、アプローチサイズは5ミクロン未満である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】試料に取り付けられている簡単なATR光学系を示す図である。
図2】本発明を実施することができる走査ATRシステムを示す図である。
図3】本発明とともに使用することができる光学プロファイリング推定器の1つの実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明がその利点を提供する方法は、試料に取り付けられている簡単なATR光学システムを示す図1を参照することによって、より容易に理解することができる。図1は、反射性配置モード(reflective geometry mode)にあるサンプル27による光の吸収の計測を容易にすることができる界面結晶の断面図である。結晶21は高屈折率を有する。光ビーム26は、ポート22を通って結晶21に入射し、臨界角よりも大きな角度でファセット(facet)23に当たる。この光ビームは、ファセット23から全反射され、ポート24を通って結晶から出射する。光ビームがファセット23から反射されるポイントでは、25に示すように、光ビームに伴う電場が結晶の外側に広がっている。ファセット23の下方の媒体が光ビーム26の波長における光を吸収する場合には、エバネッセント場(evanescent field)がこの媒体と相互作用し、エネルギーが光ビームから媒体に移動される。この場合に、結晶21から離れるビームのエネルギーは削減される。波長の関数としての入力ビームと出力ビームとの間の強度の差は、高品質透過スペクトルと一致するスペクトルであり、様々な化合物の従来のスペクトルと照合するために容易に使用することができる。
【0021】
上述したタイプの界面結晶(interface crystal)は、サンプル上のポイントのMIRスペクトルを計測するには有用であるが、試料上のエリアの画像が必要とされる場合、特に試料の表面が滑らかでない場合には課題を呈する。画像を形成するには、界面(interface)を試料に対して移動させなければならない。界面結晶が試料に損傷を与えないようにするには、試料を垂直に移動させ、対象となる次のポイントに結晶を配置することを可能にしなければならない。試料上の各ポイントにおいて高い分解能でスペクトルを生成するのに非常に長い時間が許容できればよいが、そうでないと、そのようなポイント間計測にかかる時間ゆえに、撮像及び分光計測の組み合わせは実用的でない。
【0022】
上記の特許文献1は、結晶を移動させる必要なく入力光ビームの相互作用のポイントを試料の全域で高速に走査することができるATR計測システムを教示している。次に図2を参照する。図2は、本発明を実施することができる走査ATRシステム60を示している。レーザ61からの光18は、ビームスプリッタ62によって2つのビームに分割される。第1のビームは、レーザパルスの強度を計測する検出器63aに誘導される。第2のビームは、軸外放物面反射器65上におけるビームの照射ポイントを調整する位置変調器64に誘導される。この照射位置によって、放物面反射器(parabolic reflector)65からの光が第2の軸外放物面反射器66に当たる位置が決まる。放物面反射器66は、ビームを再コリメートし、ビームの直径を、ATR対物レンズ67の入力アパーチャと一致するように設定する。ビームがATR対物レンズ67に入射する傾きは、放物面反射器65上の照射ポイントによって決まる。ATR対物レンズ67によって反射されて戻される光は、入射光の経路を引き返し、その光の一部分は、ビームスプリッタ62によって検出器63b内に誘導される。コントローラ69は、その後、ATR対物レンズ67からの反射において失われた光の量を求めることができ、したがって、サンプル27によって吸収された光の量を求めることができる。サンプル27上の別の小エリアを撮像するために、コントローラ69は3軸ステージ68を動作させる。
【0023】
対象となる多くの試料が不規則な表面を有する。その結果生じる高さ変動は、多くの場合に、ATR対物レンズの反射面における電場の深さよりもはるかに大きい。上述したように、ATR対物レンズの反射面下の場の有効な深さは数ミクロンである。したがって、表面変動が数ミクロン未満でない限り、又は、サンプルが圧縮可能でない限り、対物レンズを試料と接触させるときに、通常は事前に予測することができない孤立した接点が存在する。
【0024】
本出願において、試料は、反射ビームから吸収された光が、反射光ビームの減衰の計測において雑音と区別可能であるとき、反射面上の或る場所において試料と接触していると定義される。したがって、「接触」は、試料が実際の反射面からの光ビームの1つ又は2つの波長内にあることを含むことができる。
【0025】
本発明は、サンプルをATR対物レンズと接触させる2フェーズプロセスを利用する。第1のフェーズでは、サンプルが取り付けられているステージが、ATR対物レンズの方向に大きな/高速のステップで移動されるとともに、サンプルとATR対物レンズとの間の距離が、光学プロファイリング推定器を使用して推定される。サンプルがATR対物レンズとの接触から所定の距離内に入ると、進行のステップサイズ/レート(rate:速度、変化量)が大幅に縮小され、ATR対物レンズによって見られるサンプルの画像が、ステージが引き続き移動している間にサンプルがATR対物レンズの反射面に丁度接触するときを判断するのに使用される。
【0026】
次に図3を参照する。図3は、本発明とともに使用することができる光学プロファイリング推定器の1つの実施形態を示している。サンプル32は、コントローラ40の制御下で当該サンプルをZ方向に移動させるステージ31上に取り付けられる。このステージの移動によって、サンプルをATR対物レンズ33の反射面34に接近させることが可能になる。光学プロファイラは、光源35を備える。この光源は、試料と反射面34との間の空間を照射するコリメートされた光ビーム36を生成し、サンプル及びATR対物レンズ反射面の影を撮像アレイ37上に投じる。ステージがATR対物レンズのより近くにサンプルを移動させるにつれて、撮像アレイ37に到達する光の量が減少する。サンプルがATR対物レンズの近くではあるが、まだ安全距離にあるときに、コントローラは、位置決め方法の第2のフェーズに切り替わる。第1のフェーズでは、結晶からほぼ2mm~0.5mmの範囲をカバーする一連の離散的な計測が行われる。これらの計測は、結晶と試料との間の接触位置を高速に推定するのに使用される。光学プロファイラは完璧な正確さを有していないので、これらの計測間の不一致は、プロファイラがどの程度正確であるのかを示し、この第1のフェーズの適切な停止距離を特定することを可能にする。
【0027】
ステージが、反射面から所定の距離内に試料を移動させると、撮像システムが使用され、より低速の動きの速度を用いて試料を更に位置決めする。上述したように、反射光ビームからのエバネッセント場が、ATR対物レンズの表面の下方に数ミクロン広がっている。その結果、反射面の画像は、試料が反射面に実際に接触する前に、吸収エリアを示し始める。「近」接触(”near” contact)のエリアを雑音と区別することは、試料の表面が反射ビームからの光を丁度吸収し始めるときに難題をもたらす。
【0028】
吸収を計測するには、システムは、光が合焦されるポイントにおけるATR対物レンズ結晶の反射面上の入射光強度を「知って」いなければならない。試料内の電場は数ミクロンの深さしかなく、したがって、曝露される材料の量はかなり少ない。レーザから試料までの光路は数センチメートルであり、したがって、その経路内のいずれの吸収体も、試料によって実際に吸収される光と比較して強度を大幅に変える可能性がある。
【0029】
ビームスプリッタ62とATR対物レンズ67との間の光路は真空ではない。光は、MIRに吸収帯を有する気体環境を通過しなければならない。それらの吸収帯は、ATR対物レンズの反射面に到達する光を減少させ、表面から戻る光も減少させる。例えば、この経路は、通常、或るレベルの水蒸気を含む。水蒸気吸収は、波長及び温度の関数である。これらの変動は、短期間にわたって変化する可能性があり、したがって、周波数の関数としての吸収のあらゆる走査に先立って直ちに較正される必要がある。
【0030】
本発明の1つの態様では、反射面の背景画像が、試料が反射面に近いときを判断する際に使用される特定の波長において形成される。この背景画像は、試料が反射面から十分に除去されて、画像が試料による吸収を反映していないことが保証されるときに形成される。試料が反射面のより近くに移動されるにつれて、反射面の画像は、継続的に形成され、背景画像と比較される。試料が表面の数ミクロン内になると、試料は、反射面の下方に広がる反射光によって生成される電場からの光の吸収を開始する。
【0031】
試料が反射面から遠くにあるときに、雑音によって生成される表面の画像が試料からの吸収と解釈されないようにすることは有利である。本発明の1つの態様では、空間フィルタリングが、そのような誤検知を試料の一部分の画像と区別するのに利用される。1つの実施形態では、所定のサイズよりも小さな画像特徴が排除される。例えば、2ピクセル未満の画像特徴は排除される。別の実施形態では、連続フレームシーケンスにおいて背景画像に対して正及び負に変動する画像特徴は排除される。
【0032】
雑音でなく、かつ、接触領域又は近接触領域と一致する空間的広がりを有する画像特徴が見つかると、Z方向の動きは停止し、3つの連続画像が順に撮られる。動きを停止させた画像特徴が、試料が反射面と接触した結果のものである場合には、この画像特徴は、3つの全ての画像においてほぼ同じ強度及び位置を有する。そうでない場合には、低速のアプローチの動きが再開され、プロセスは繰り返される。
【0033】
1つの実施形態では、第2のフェーズにおける動きのレートは調整可能であり、動きのレートは1μm、3μm(デフォルト/推奨)、又は5μmのいずれかの離散ステップで行われる。第2のフェーズは離散ステップで実施される。z軸ステージは、選ばれたステップごとに段階的に進行し、画像が形成される。この段階的進行及び画像形成には約1秒を要する。推奨ステップサイズにおいて、第2のフェーズの位置決めは約3ミクロン/秒で進む。非常に壊れやすい試料又は小さな特徴部を有する試料には、より小さなステップサイズ選択肢が使用される。損傷を受けにくいより強固な試料には、より大きなステップサイズ選択肢が使用される。
【0034】
本発明の上述した実施形態は、本発明の種々の態様を示すために提供されている。しかし、異なる特定の実施形態において示される本発明の異なる態様を組み合わせて、本発明の他の実施形態を提供することができることが理解される。さらに、本発明に対する種々の変更形態が、上記の説明及び添付図面から明らかになるであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲だけによって制限される。
なお、出願当初の特許請求の範囲の記載は以下の通りである。
請求項1:
入射する光が全反射される反射面を特徴とするATR対物レンズと、
光ビームを前記ATR対物レンズに入射させ、前記光ビームが、コントローラによって制御される前記反射面上のあるポイントにおいて前記反射面から全反射されるように、前記光ビームを前記ポイントに合焦させる前記コントローラであって、前記反射面上の複数の異なるポイントのそれぞれにおいて前記反射面から反射された光の強度を計測することによって、前記反射面の画像を形成するコントローラと、
前前記コントローラによって決定された速度で前記反射面に向かう方向に試料を移動させるz軸ステージと、
前記z軸ステージが第1の速度で前記試料を移動させているときに、前記試料と前記反射面との間の最小距離を計測する高さプロファイラと
を備える、ATR走査システム。
請求項2:
前記コントローラは、前記試料が前記反射面の第1の距離内にある前に、前記反射面の背景画像を形成する、請求項1に記載のATR走査システム。
請求項3:
前記コントローラは、前記反射面のアプローチ画像を形成し、前記アプローチ画像を前記背景画像と比較しつつ、前記第1の速度未満の第2の速度で前記反射面に向けて前記z軸ステージを移動させる、請求項2に記載のATR走査システム。
請求項4:
前記第2の速度は5ミクロン/秒未満である、請求項3に記載のATR走査システム。
請求項5:
前記アプローチ画像のうちの1つが、前記試料と前記反射面との間の接触に一致するある領域を示しているとき、前記コントローラは、前記z軸ステージの更なる移動を停止する、請求項3に記載のATR走査システム。
請求項6:
前記コントローラが前記z軸ステージを停止した後に、前記コントローラは、前記試料が前記反射面と接触していることを確認する、請求項5に記載のATR走査システム。
請求項7:
試料をATR対物レンズの反射面と自動的に接触させる方法であって、前記試料は、コントローラによって前記反射面に向かう方向に前記試料を移動させるz軸ステージ上に取り付けられ、
前記試料と前記反射面との間の距離が、前記試料が前記反射面に接触しないことを保証するのに十分な第1の距離よりも大きい間、高さプロファイラを用いて前記試料と前記反射面との間の前記距離を計測しながら、第1のz軸速度で前記反射面に向けて前記試料を移動させることと、
前記試料が前記第1の距離よりも接近しているときに、前記反射面の第1の画像を形成しつつ、前記第1の画像が前記試料が前記反射面と接触していることを示すまで、アプローチステップサイズずつ前記z軸ステージを繰り返し段階的に進行させることと
を含む方法。
請求項8:
前記第1の画像は、光が前記反射面から反射された後の所定の波長の前記光の減衰を前記反射面上の位置の関数として計測することによって形成される、請求項7に記載の方法。
請求項9:
前記第1の画像は、前記試料が前記反射面に接触していないときの前記反射面の第2の画像と比較され、前記試料が前記試料と接触しているか否かが判断される、請求項8に記載の方法。
請求項10:
前記反射面は、所定の波長の光を反射するように構成され、前記反射面から反射する前記光によって生成される電場が、前記反射面から前記試料に向かって第1の距離だけ広がり、前記アプローチステップサイズは前記第1の距離よりも小さい、請求項7に記載の方法。
請求項11:
前記アプローチサイズは5ミクロン未満である、請求項7に記載の方法。
請求項12:
前記アプローチサイズは3ミクロン未満である、請求項7に記載の方法。
請求項13:
前記アプローチサイズは5ミクロン未満である、請求項7に記載の方法。
図1
図2
図3