(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】発光分光分析の改善
(51)【国際特許分類】
G01N 21/71 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
G01N21/71
(21)【出願番号】P 2022529382
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(86)【国際出願番号】 EP2020080821
(87)【国際公開番号】W WO2021104809
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-19
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511141744
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (エキュブラン) エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100224672
【氏名又は名称】深田 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】ランキューバ パトリック
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-230896(JP,A)
【文献】再公表特許第2009/090985(JP,A1)
【文献】特表2009-510486(JP,A)
【文献】特表2004-522168(JP,A)
【文献】特開2001-116738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01J 3/00-G01J 3/52
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光計を通るパージガスの流れを制御する方法であって、
前記分光計によって分析されるスペクトル領域内の光に対して透過性である前記ガスを、前記分光計の容積の中に流すステップと、
光源からの光を、前記ガス中を経路に沿って検出器まで透過させるステップと、
前記光の1つ以上の波長で、前記検出器において前記光源からの前記光の強度を検出するステップと、
前記光源からの前記光の検出された強度を、前記分光計の前記容積内の前記ガスの所望の透過率に対応するそれぞれの設定値と比較し、前記比較に基づいて少なくとも1つの誤差信号を生成するステップと、
前記誤差信号に基づいて、前記分光計の前記容積を通る前記ガスの流量を調整するステップと、を含
み、
前記光の前記強度は、単一波長もしくは単一波長帯域で検出され、または、前記光の前記強度は、2つ以上の非連続波長もしくは2つ以上の非連続波長帯域で検出される、方法。
【請求項2】
前記分光計の前記容積を通る前記ガスの前記流量は、前記検出された強度と設定値との間の差を最小化するように調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分光計は、発光分光計、好ましくはスパーク発光分光計またはLIBS分光計である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記経路は、前記分光計の前記容積内にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記経路は、前記容積と流体連通している測定セル内にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記測定セルは、閉ループ流体回路を介して前記容積と流体連通している、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記経路は、前記ガスを通るシングルパスである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記経路は、前記ガスを通る複数のパスを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記光は、VUV光または近IR(NIR)光である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記光の前記強度は、水および/または分子状酸素の1つ以上の吸収波長で検出される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記光の前記検出された強度を対応する設定値と比較するステップと、少なくとも1つの誤差信号を生成するステップと、前記ガスの流量を調整するステップとは、比例積分微分(PID)制御を使用して実行される、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
発光分光分析の方法であって、分光計において、
分析用の試料を提供するステップと、
前記試料を励起して光を放出させるステップと、
分光器を使用して、前記放出された光の分光分析を実行して、前記試料中に存在する1つ以上の元素を決定するステップと、
前記分光計の前記容積の中に実質的にUV透過性のガスを流すステップと、
請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法を使用して、前記容積を通る実質的にUV透過性のガスの前記流れを制御するステップと、を含む、方法。
【請求項13】
分光計を通るガスの流れを制御するための装置であって、
試料から放出された光が通過することができる容積を含むハウジングと、
前記容積の中に実質的にUV透過性のガスを流すためのガス供給源と、
前記ガス中を経路に沿って光を透過させるための光源と、
前記ガス中を前記経路に沿って透過した前記光源からの光の強度を、前記光の1つ以上の波長で検出するための検出器と、
前記光の前記検出された強度を、前記容積内の前記ガスの所望の透過率に対応するそれぞれの設定値と比較し、前記比較に基づいて少なくとも1つの誤差信号を生成し、前記少なくとも1つの誤差信号に基づいて前記分光計の前記容積を通る前記ガスの流量を調整するためのコントローラと、を含
み、
前記検出器は、前記光源からの単一波長もしくは単一波長帯域、または、前記光源からの2つ以上の非連続波長もしくは2つ以上の非連続波長帯域で、前記光の前記強度を検出する、装置。
【請求項14】
前記コントローラは、前記分光計の前記容積を通る前記ガスの前記流量を調整して、前記検出された強度と設定値との間の差を最小化するように構成されている、請求項
13に記載の装置。
【請求項15】
前記分光計は、発光分光計、好ましくはスパーク発光分光計またはLIBS分光計である、請求項
13または
14に記載の装置。
【請求項16】
前記経路は、前記分光計の前記容積内にある、請求項
13~
15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記容積と流体連通している測定セルをさらに含み、前記経路が、前記測定セル内にある、請求項
13~
16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記測定セルは、閉ループ流体回路を介して前記容積と流体連通している、請求項
17に記載の装置。
【請求項19】
前記経路は、前記ガスを通るシングルパスである、請求項
13~
18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記ガスを通して前記光源からの前記光を前後に反射するための2つのミラーをさらに含み、前記経路が、前記ガスを通る複数のパスを含む、請求項
13~
18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記光源は、真空紫外(VUV)光源または近IR(NIR)光源である、請求項
13~
20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記検出器は、水および/または分子状酸素の1つ以上の吸収波長で前記光の前記強度を検出するように適合されている、請求項
13~
21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
前記ガス中を2つ以上の経路に沿ってそれぞれ光を透過させるための2つ以上の光源と、それぞれの前記2つ以上の経路に沿って透過した光の強度をそれぞれ検出するための2つ以上の検出器とを含み、各光源が、異なる波長で光を放出するか、または各検出器が、異なる波長で光を検出し、光の前記強度が、2つ以上の非連続波長または2つ以上の非連続波長帯域で検出される、請求項
13~
22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
前記異なる波長は、それぞれ気体状の水および気体状の酸素の吸収に対応する、請求項
23に記載の装置。
【請求項25】
前記コントローラは、比例積分微分(PID)コントローラを含む、請求項
13~
24のいずれか一項に記載の装置。
【請求項26】
前記コントローラは、単一入力単一出力(SISO)コントローラまたは複数入力単一出力(MISO)コントローラを含み、これらはそれぞれ、単一誤差信号または複数誤差信号を、ガス流を制御するために使用される出力信号に変換する、請求項
13~
25のいずれか一項に記載の装置。
【請求項27】
前記出力信号は、前記ガスのための流量バルブおよび/またはポンプを制御する、請求項
26に記載の装置。
【請求項28】
請求項
13~
27のいずれか一項に記載のガスの流れを制御するための装置を含む、発光分光計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光分光分析の分野に関する。特に、本発明は、発光分光計におけるパージガスの制御の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
発光分光分析は、試料を分析するために使用される周知の技術である。発光分光分析は、試料の構成分子または原子を決定するために使用される。高エネルギー状態に励起された原子が、より低いエネルギー状態または基底エネルギー状態に緩和されると、光子が放出される。放出された光子の波長は、原子が緩和する励起状態と原子が減衰する緩和状態との間のエネルギーギャップに相関している。異なる原子種は異なる原子発光スペクトルを有するので、スペクトルの検出を使用して試料の成分を決定することができる。
【0003】
いわゆる輝線は、概して、電磁スペクトルの赤外帯域、可視帯域および紫外帯域にある。分光器は、電磁スペクトルの異なる波長で放射を検出するように構成することができる。特に、紫外領域内の原子輝線を検出することが注目されている。紫外(UV)放射は、スペクトルの可視領域とX線領域との間にある電磁放射であり、概して380nm~5nmである。真空紫外(VUV)放射は、200nm未満のスペクトルのUV領域の一部である。多くの元素がより低いエネルギー状態に緩和される際にこの波長域の光子を放出するため、試料内の広範囲の元素に関する情報を得るためには、分光計は、200nm未満、特に190nm未満の波長を有する光子を試料から検出器へと透過させる必要がある。炭素、窒素、硫黄および酸素などの元素をppm感度(すなわち、微量)で分析するためには、定量的な発光分光分析のためのVUV原子線の分光分析が最も重要である。
【0004】
この際に生じる問題は、VUV放射が空気によって、特に空気中に存在する酸素および水によって吸収されることである。このため、このVUV放射を検出するように構成された任意の分光分析は、通常、真空中または非吸収ガス環境中で実行される。空気によるUV光子の吸収を回避し、ガスの屈折率の変化(ガスの圧力およびガス組成とともに変化する)に伴う波長シフトを回避するために、分光器、および典型的には試料は、例えばアルゴンなどの実質的に紫外線を透過するガスでパージされるが、これは一般に真空環境を提供するより便利でより低コストである。分光器は、他の領域、例えば赤外線または可視光線の放射を検出することがあり、かかる場合、好ましくはガスはこれらの領域において実質的に透過性である。
【0005】
かかるガスは、高い純度が必要とされるため比較的高価であり、ガスの消費量から、分光計を使用する実験機関にとって、ガスによるパージコストは最も高い消耗品の1つである。典型的には、気体状の汚染物質の濃度を制御されたレベルに維持するために、試料分析中を含む分光計の動作の各段階中に、一定のアルゴン流が分光器に流入される。しかしながら、アルゴン消費に伴うコストを抑えるために、ユーザは、システムが使用されないときにはシステムのスイッチを切っている。パージシステムがスイッチオフされると、典型的には、分光計ハウジングが完全に気密ではないことから、空気漏れが徐々に浸透し、分光器を汚染する。小さな漏れがあると、外部から空気が侵入し、ハウジング内の圧力が時間とともに変化し、次にシステム内のガスの屈折率および吸収が変化し、検出されるスペクトル線の波長がシフトする。特に、空気中の酸素および水は、VUV光を強く吸収するため、それらは、分光器内の光強度透過を減少させ、定量分析の信頼性を低下させる。
【0006】
したがって、装置のスイッチを再びオンにした際にこれらの不純物を除去して、できるだけ短い時間内に光学的VUV透過率を最適レベルに回復するために、より高い流量のアルゴンで分光器をパージすることが必要である。
【0007】
パージは、典型的には一定期間にわたって行われる。この期間は、最悪の場合のシナリオであっても、すべての不純物が特定の閾値未満に戻されることを保証するのに少なくとも十分な長さであることが一般的である。このアプローチから生じる第1の問題は、不純物の実際の濃度にかかわらず、長時間のアルゴン集中パージが適用されることである。第2の問題は、一旦パージが完了すると、分光器内の透過率が信頼性のある定量分析が実行できる程度に安定したレベルに到達するまで、さらに長時間を要することが多いという点である。これは、パージの結果として透過率の「オーバーシュート」が生じるためである。すなわち、パージ後に分光器内で到達する透過率のレベルは非常に高く、システムがその定常状態で動作しているときの外部雰囲気からの一定の漏れと一定のアルゴン流とが平衡状態にないためである。定常状態条件に到達するために、長時間(例えば、24時間まで、または48時間まで)が必要とされ得る。一例が
図1に示されており、
図1には、分光器をアルゴンでパージした直後に記録された鉄(Fe)170.20nm原子輝線の正規化強度のグラフが示されている。最初に高いアルゴン流量でパージした後、より低い一定流量のアルゴン流量に切り替えて分析すると、検出される線の強度は減少し続け、少なくとも350分後には最終的に定常状態に到達する。
【0008】
前述のことを考慮して、パージガス消費を最適化し、それによってガス使用に関連するコストを低減するために、かつ/または分光器内の透過率レベルをより迅速に安定化させるために、分光器のパージガスシステムを制御するための信頼性のある簡単な方法および装置を提供し、それにより信頼性のある定量的元素分析を最小の機器休止時間で実行することができることが望ましい。本発明は、この背景に対してなされたものである。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一態様によれば、請求項1に記載の方法および請求項15に記載の装置が提供される。本発明の一部の好ましい特徴は、従属請求項に記載されている。
【0010】
本発明は、ランベルトベールの法則を利用し、分光計内のパージガスを透過した光の強度、したがってガスの透過率を測定する方法および装置を提供する。本発明は、パージガスの透過率を決定するための吸収分光法を用いることに基づいている。透過率の測定は、経時的に、連続的には非連続的に行うことができ、フィードバックループにより測定値を用いてガス流を調整または制御することができる。したがって、測定された透過率は、分光計の内部容積をパージするために分光計を通るガスの流れを動的に制御、すなわち調節するために使用される。本発明は、特定の実施形態では、吸収分光法を使用して、スペクトルのVUV領域で強く吸収する酸素および水などの分光計の容積中の吸収汚染物質のレベルを決定する。ガス流の調節は、ガス供給の制御または調節によって、例えば、分光計容積へのガス流を調節するバルブの制御または調節によって、または分光計容積を通してガスを圧送するポンプの制御または調節によって達成され得る。本発明は、有利には、安定した透過率レベルを迅速に、典型的にはガスの消費を低減して達成することを可能にする。
【0011】
本発明による方法は、分光計を通るガスの流れを制御する方法である。分光計は、例えば、発光分光計または吸光分光計であり得る。
【0012】
ガスは、分光計によって分析されるスペクトル領域において、試料からの光に対して透過性である。好ましくは、分光計の容積をパージし、透過率を改善するために使用されるガスは、アルゴンまたはヘリウムなどの実質的にUV透過性のガスである。窒素を使用することも可能だが、実際には試料中の窒素を分析できないという欠点があり、例えば高品質鋼の場合、微量の窒素を分析することが重要であり得るため、窒素はあまり使用されない。透過性ガスは、所望であれば、異なるガスの混合物、例えばアルゴンとヘリウムとの混合物であってもよい。ガスは、ガス供給源、例えば加圧ボトルまたはリザーバから供給することができる。ガスは、容積を圧送するために真空ポンプを使用し、ガスを供給源から圧送された容積に供給することによって、分光計の容積を通して圧送することができる。分光計へのガス流は、制御可能なバルブ、例えば測定された透過率のフィードバックに基づいて制御されるバルブによって制御することができる。システムは、例えば、流れを制御するための1つ以上のバルブを介して、容積を供給するために大気圧を超えて加圧されるガス供給を使用して、周囲圧力またはそれを上回る圧力で動作させることができる。次いで、加圧ガス供給源からのパージガスの流れによって、大気圧下の容積から残留空気をパージすることができる。
【0013】
容積は、試料からの光が第1の経路に沿って通過して第1の検出器に到達する容積である。そのため、第1の検出器は試料検出器と称される。試料は、典型的には試料チャンバ内に位置している。ガスが流れる容積は、概して、分光計のハウジング内に収容される。第1の検出器もまた、典型的には分光計ハウジング内に収容される。したがって、試料チャンバからの光は、第1の経路に沿って通過して第1の検出器に到達する。容積およびハウジングは、典型的には、試料からの光を分析するための分光器を含む。
【0014】
第1の検出器、すなわち試料検出器は、1つ以上の波長で試料からの光を検出するための光検出器であり、これは試料の組成、例えば元素組成を決定するために使用される。第1の検出器または試料検出器は、例えば、1つ以上の光電子増倍管(PMT)、および/または1つ以上のCCD検出器、または他のタイプの多次元ピクセル検出器を含んでもよい。第1の検出器は、複数のスペクトル線、すなわちスペクトルを並行して検出するCCD(単一線形または多重線形CCD)などのアレイ光検出器を含み得る。第1の検出器は、特定のスペクトル線を検出するための1つ、2つ、またはそれ以上のいわゆる固定検出チャネルを含み得る。アレイ検出器に加えて、1つ以上の固定チャネル検出器を設けることができる。かかる固定検出チャネルは、好ましくは、光電子増倍管(PMT)またはフォトダイオードなどのそれ自体の専用検出器によって各々提供され、特定のスペクトル線、例えば、対象となる特定の元素の特徴を検出するように位置決めされる。
【0015】
ガス流を制御する方法は、光源(試料ではない)からの光を、ガスを通る第2の経路に沿って第2の検出器まで透過させることを含む。光源および第2の検出器のこの配置は、ガスの透過率を測定するために利用される。したがって、第2の検出器は透過率検出器である。光源は、光を放出するように、具体的には、ガス中に存在する汚染物質種、例えば、酸素または水によって吸収される光の1つ以上の波長を放出するように適合される。光源は、典型的には、試料からの光が分光計によって分析されるスペクトル領域における波長で光を放出する。光源によって放出される波長は、IR、可視またはUVであり得る。特に有用な波長は、VUVまたは近IR(NIR)領域にある。したがって、一部の実施形態では、光はVUV光であり、他の実施形態では、光はNIR光である。
【0016】
VUV領域は、この領域における空気による(特に水および酸素による)強い吸収のために有利であるが、光源が比較的高価になる可能性がある。帯域通過VUVフィルタは、信号対雑音比を改善するためにVUV源とともに使用するのに好ましい。NIR領域は、NIR光源の高い安定性、比較的低いコストおよび長い寿命のために有利であるが、前述のガスによる吸収は、この領域では極めて弱く、この領域には水と酸素との両方に共通の吸収帯がないので、ガスを同時に測定することはできない。光源は、レーザ、またはUVもしくはIRランプであり得る。光源は、VUVレーザ源またはIRレーザ源、例えばダイオードレーザ源であってもよい。
【0017】
一部の実施形態では、光源は、単一波長または波長の単一(連続)帯域で光を放出するように構成することができる。一部の他の実施形態では、光源は、2つ以上の非連続波長または2つ以上の非連続波長帯域で光を放出するように構成することができる。光源は、この目的のために2つ以上の独立した光源、例えば、各々が異なる波長の光を放出する2つ以上のレーザを含んでもよい。スペクトルの特定の領域に共通の吸収帯を有さない2つ以上のガス種が検出される場合、2つ以上の異なる波長で発光する光源を使用することが好ましい場合がある。一部の実施形態では、装置は、ガスを通る2つ以上の第2の経路に沿ってそれぞれ光を透過させるための2つ以上の光源と、それぞれの第2以上の経路に沿って透過した光の強度をそれぞれ検出するための2つ以上の第2の検出器とを含み得、各光源は、異なる波長で光を放出するか、または各第2の検出器は、異なる波長で光を検出し、光の強度は、2つ以上の非連続波長または2つ以上の非連続波長帯域で検出される。
【0018】
第2の検出器は、光電子増倍管(PMT)、フォトダイオード、またはCCDなどの任意の好適なタイプの光検出器であり得る。VUV検出には、例えばGaPフォトダイオードまたはPMTを使用してもよい。NIR検出には、例えばシリコンフォトダイオードまたはCCDを使用してもよい。
【0019】
本方法は、光の1つ以上の波長で第2の(すなわち透過率)検出器で光の強度を検出することと、検出された光の強度を、分光計の容積内のガスの所望の透過率を表すそれぞれの設定値(換言すれば、設定値は所望の検出された強度に対応する)と比較することと、を含む。少なくとも1つの誤差信号が、比較に基づいて、典型的には差に基づいて生成される。例えば、誤差信号は、検出された強度と設定値との間の差に基づくことができ、典型的にはそれに比例することができる。本方法は、誤差を最小化し、それによって検出された強度と設定値との間の差を最小化するために、好ましくは検出された強度と設定値との間の差(したがって誤差)が閾値を下回るように、より好ましくは検出された強度が設定値と実質的に等しくなるように、誤差信号に基づいて分光計の容積を通るガスの流量を調整することによって進められる。コントローラ、特に自動コントローラは、第2の検出器によって提供される検出された光強度と設定値との比較、誤差信号の生成、およびガス流の調整のために使用することができる。コントローラは、ガス流を制御するための出力信号を生成することができ、例えば、出力信号に基づいて、バルブおよび/またはポンプを制御してもよい。一部の実施形態では、強度は2つ以上の波長に対して検出され、その結果、各々の波長に対して2つ以上の検出された強度が存在する。次いで、検出された各強度は、それぞれの設定値と比較され、それぞれの誤差信号が生成される。したがって、複数の誤差信号を使用することができる。特定の実施形態では、2つの誤差信号が使用される。
【0020】
検出された強度および設定値は、典型的には、代表的な電圧として提供される。検出器は、検出された強度を電圧として提供することができる。設定値は、コントローラに記憶され、電圧源から提供され得る。検出された強度は、設定値と比較する前に信号処理(例えば、増幅など)を受けてもよい。自動コントローラは、比例積分微分(PID)コントローラを含み得る。自動コントローラ、好ましくはPIDコントローラは、検出された強度(プロセス変数PV)と設定値SPとを、例えばそれらの電圧を比較することによって比較し、典型的には、電圧としても提供される誤差信号を生成するための比較器を含み得る。誤差信号は、典型的には、検出された電圧と設定値電圧との差を表す。一部の実施形態では、誤差信号は、単に電圧差とすることができる。自動コントローラは、単一入力単一出力(SISO)コントローラまたは複数入力単一出力(MISO)コントローラのいずれかを含むことができ、これらはそれぞれ、単一誤差信号または複数誤差信号を出力信号に変換する。出力信号は、例えばガス用の流量バルブおよび/またはポンプを制御する電力調節器を制御することによって、ガス流を制御するために使用される信号である。自動コントローラからの出力は、典型的には、1つ以上の誤差信号の大きさに依存する。PIDコントローラからの出力は、例えば、1つ以上の誤差信号の大きさ、持続時間、および/または変化率に依存する。次いで、電力調節器は、透過率の大きなステップ変化に対するオーバーシュートおよびアンダーシュートを低減するために、例えばバルブを介して、かつ/またはポンプを制御することによって流れを調節する。したがって、本発明は自動制御フィードバックループを提供する。自動制御フィードバックループは、定常状態条件でガスの透過率を確立し維持するために、規則的または所定の時間間隔で実行される。時間間隔は、測定され検出された強度信号連続する測定強度信号間の変化率に依存し得る。一実施形態では、連続する測定強度信号間の変化率が減少する場合、自動制御フィードバックループを実行するための時間間隔は同じままであってもよく、または好ましくは減少してもよい。一実施形態では、連続する測定強度信号間の変化率が増加する場合、自動制御フィードバックループを実行するための時間間隔は同じままであってもよく、または好ましくは増加してもよい。
【0021】
一部の実施形態では、ガスの流れを制御するためのプロセスは、ガスパージが開始されると(ガスパージが開始された直後、またはその後に)制御ループが起動されるように、分光計がシャットダウン、例えば長期または短期シャットダウン後にスイッチオンされると開始する。こうすることで、効率よくガス透過率を安定させ、信頼性の高い分析につなげることができる。コンピュータは、分光計がスイッチオンされ、ガス流が開始されるとガス流を制御するプロセスが開始するように、システムを制御することができる。
【0022】
一部の実施形態では、ガスの透過率を測定するための第2の経路は、分光計の容積内にある。第2の経路は、分光計の容積内に部分的または全体的にあってもよい。他の実施形態では、第2の経路は、容積と流体連通している測定セル内にある。第2の経路は、部分的または全体的に測定セル内にあってもよい。測定セルは、閉ループ流体回路を介して容積と流体連通して設けられてもよい。閉ループ流体回路は、例えば、分光計容積を圧送するための同じ圧送システムと流体連通することによって圧送されてもよい。ガスは、流体回路ループを通して循環され、分光計の容積からガスの一部を測定セル内に流入させ、測定セルから、ガスを分光計の容積に戻してもよい。ガスは、容積から測定セル内に、閉ループ流体回路を通して圧送することができる。ガス圧送システムを設けて、パージ容積を通してパージガスを流すことができ、一部の実施形態では、パージ容積を通して複数回パージガスを循環させ、任意選択的に、各サイクルで1つ以上のガス洗浄または濾過ステージを通過させて、汚染物質、例えばUV吸収ガスが除去される。このようにガスを再循環させるために、ガス循環ループを設けることができる。他の実施形態では、パージガスは、容積をパージした後に大気に放出されてもよい。
【0023】
一部の実施形態では、透過率を測定するための第2の経路は、ガスを通るシングルパスを形成する。一部の実施形態では、第2の経路は、ガスを通る複数のパスを含む。特にガスを複数回通過させる実施形態では、レーザが好ましい光源である。マルチパス測定セルは、典型的には、複数のパスを使用する実施形態において設けられる。低い吸収断面積を有する吸収帯に基づいて透過率を測定するためには、複数のパスがより好ましい。第2の経路の光路長は、マルチパス測定セルを使用して1~100mに増加させることができる。
【0024】
一部の実施形態では、光源からの光の強度は、単一波長または単一波長帯域(すなわち、単一帯域を形成する波長の単一連続セット)で検出することができる。一部の特に好ましい実施形態では、光の強度は、水および/または分子状酸素の1つ以上の吸収波長で検出される。これらのガスによる光の吸収は、ppm感度で検出することができる。一部の実施形態では、光は、2つ以上の汚染ガス(例えば、水および酸素)によって吸収される波長、すなわち、共通の吸収波長で検出されることが好ましい。他の実施形態では、光の強度は、2つ以上の非連続波長または2つ以上の非連続波長帯域で検出され得る。
【0025】
パージガスは、周囲圧力、すなわち大気圧で、容積内への漏れを低減するために好ましい高圧(大気圧を超える)で、または容積を圧送する真空ポンプによって減圧(真空)で、容積を通して流すことができる。高圧の実施形態では、圧力は1000mbar~1100mbarであり得る。真空の実施形態では、容積内のガスの圧力は、大気圧未満から約1mbarまで、例えば1~500mbar、または1~100mbarであってもよい。一部の実施形態では、1mbar未満、例えば、0.1mbar、または0.01mbar、または0.001mbarまでの真空圧を用いてもよい。パージガスは、容積を通って流れた後に大気に放出されてもよく、または任意選的に乾燥および/または濾過を介して、ガス流循環ループ内で容積に再循環されるか、または容積に戻されてもよい。流量は、例えば、100mL/分~5,000mL/分の範囲であってもよいが、この範囲よりも高いまたは低い流量を使用してもよい。
【0026】
分光計は、任意の分光計、例えば、光学発光または光学吸収分光計であってもよく、検出器で分析される試料からの光の光路(光路の全体または一部)を含む分光計の容積をパージするために、ガスが利用される。アルゴンなどのUV透過性パージガスを利用する発光分光計は、本発明に特に好適である。スパーク発光分光分析(Spark-OES)またはレーザ誘起ブレークダウン分光法(LIBS)を実行するための分光計は、かかる分光計の2つの例である。他のプラズマ源発光分光計(例えば、誘導結合プラズマ(ICP-OES)またはグロー放電発光分光計)を用いてもよい。
【0027】
発光分光計を使用して、発光分光分析を実行することができる。発光分光計は、試料から第1の検出器まで第1の経路に沿って移動した放出された光のスペクトルを記録するための分光器を含む。分光器は、例えば、1つ以上の格子を使用して、例えば、その波長に応じて光を分離し、分離された光を検出することによって、または第1の検出器としてエネルギー分散検出器を使用して、光をその異なるエネルギー(したがって、波長)にしたがって検出することによって、光をその波長に応じて分析することができる。したがって、分光器は、波長分散型またはエネルギー分散型分光器であってもよい。分光器は、光をその波長に応じて空間的に分散させるための格子などの分散手段を含んでもよい。第1の検出器は、分光された光を検出してスペクトルを生成することができる。したがって、強度対波長スペクトルを分光器によって記録することができる。放出された光のスペクトルにより、試料材料の組成の推定が可能となる。
【0028】
分光器には、分析される試料を収容する試料チャンバからの光を分析および検出することが含まれてもよく、試料チャンバは、例えば、試料の一部がプラズマによって励起されるプラズマチャンバであってもよい。光は、試料チャンバ内の励起された試料材料によって放出され得る。試料は、プラズマによって励起されて発光し得る。チャンバは、プラズマがスパークによって試料から生成されるスパークチャンバ、またはプラズマがレーザによって試料から生成される(例えば、LIBSにおける)チャンバであってもよい。したがって、プラズマは、試料に放電(スパークまたはアーク)またはレーザを適用することによって生成することができる。
【0029】
発光分光分析の一種は、プラズマ(例えば、誘導結合プラズマ(ICP)またはマイクロ波誘導プラズマ(MIP)またはグロー放電)を用いて試料を励起し、試料中に存在する1つ以上の元素に特徴的な波長で光を放出させることができる。
【0030】
発光分光分析の一種は、スパークまたはアークのいずれかを用いて試料を励起し、試料中に存在する1つ以上の元素に特徴的な波長で光を放出させることができる。便宜上、本明細書において使用される場合、スパーク発光分光分析という用語は、例えばスパーク放電またはアーク放電など、試料の励起に放電を採用するあらゆる発光分光分析を意味し、放電箱という用語は、あらゆる放電を起こさせるための箱を意味する。スパーク発光分光分析では、固体試料は、典型的には、分光計の一部を形成するスパークスタンドのテーブル上に載置される。発光スタンドは放電箱をさらに含み、その中には、先細の端が試料の表面に向かうように配向された電極がある。スパークスタンドのテーブルは、スパークチャンバ壁に開口を有し、その上に試料が、通常は気密シールを用いて、電極の端部に面するように取り付けられる。電極は、その先細の端を除き、絶縁体で取り囲まれている。一連の放電が電極と試料との間で開始され、試料は、カウンタ電極として作用する。絶縁体は、放電が箱の壁ではなく、試料に向けられるようにする。放電が向けられた部分の試料物質は蒸発し、蒸発した原子物質の一部が励起状態となる。緩和すると、原子物質が光子を放出し、そのエネルギーは物質中の元素ごとに特有である。放出された光子の分光分析によって、試料物質の組成を推定することができる。したがって、放電によって引き起こされた発光の一部は、第1の経路に沿ってスパークチャンバから分光分析のための分光器へと透過される。アルゴンなどの実質的にUV透過性のガスが、第1の経路および分光器を含む分光計の容積を通して流される。
【0031】
本発明の方法は、発光分光分析の方法の一部として使用することができる。すなわち、本発明は、発光分光分析の方法を提供し、方法には、本明細書に記載される分光計を通るガスの流れを制御するための方法が含まれる。
【0032】
発光分光分析の方法は、分析のための試料(好ましくは固体試料)を提供することと、(例えば、スパーク、レーザまたはプラズマを使用して)試料を励起して光を放出させることと、第1の検出器を有する分光器を使用して、放出された光の分光分析を実行して、試料中に存在する1つ以上の元素を決定することであって、放出された光が、容積を通る第1の経路に沿って通過して第1の検出器に到達する、決定することと、容積を通して実質的に(UV)透過性のガスを流すことと、本発明による方法を使用して容積を通る実質的に(UV)透過性のガスの流れを制御することと、を含み得る。具体的には、発光分光分析の方法は、光源からの光を、ガスを通る第2の経路に沿って第2の検出器まで透過させることと、光の1つ以上の波長で第2の検出器において光源からの光の強度を検出することと、検出された光の強度を、容積内のガスの所望の透過率に対応するそれぞれの設定値と比較し、比較に基づいて少なくとも1つの誤差信号を生成することと、誤差信号に基づいて容積を通るガスの流量を調整することと、を含み得る。
【0033】
発光分光分析の方法は、発光分光分析の他の周知のステップ、例えば、分析のための固体試料を提供するステップであって、この固体試料は、典型的には、発光分光計のスパークチャンバ中の電極の端部に試料の表面を提示するように、かつ/または典型的には、電極の端部に面するスパークチャンバ壁中の開口の上に位置するように、通常は気密シールを用いて取り付けられる、提供するステップと、電極と試料との間に1つ以上の典型的には一連の放電を引き起こすステップであって、試料が、対電極として作用する、放電を引き起こすステップと、試料から材料を蒸発させ、そして蒸発した材料の少なくとも一部を励起し、それにより、励起された材料が、光子を放出し、そのエネルギー(すなわち、波長)が、材料中の元素に特徴的である、ステップと、分光器を使用して放出された光子の分光分析を実行して、試料中に存在する1つ以上の元素を決定(すなわち、同定)するステップと、のいずれか、好ましくはすべてを含み得、使用時には、パージガス、好ましくは不活性ガス、例えばアルゴンが、分光器を含む容積を通って流れ、試料からの光が、第1の経路に沿って通過して検出器に到達する。パージガスが流れる容積は、好ましくは、分光器、スパークチャンバ、および放出された光が通過する分光器とスパークチャンバとを接続する任意の容積を含む。
【0034】
特定の態様では、本発明は、発光分光分析の方法を提供し、方法は、分析のための固体試料を、試料の表面をスパークチャンバ内の電極の端部に提示するように提供することと、電極と試料との間に1つ以上の放電を生じさせ、試料が対電極として作用することと、試料から材料を蒸発させ、蒸発した材料の少なくとも一部を励起し、それによって励起された材料が光を放出することと、第1の検出器を有する分光器を使用して放出された光の分光分析を実行して、試料中に存在する1つ以上の元素を決定することであって、放出された光が、容積を通る第1の経路に沿って通過して第1の検出器に到達する、決定することと、を含み、方法は、容積を通して実質的にUV透過性のガスを流すことと、光源からの光をガスを通る第2の経路に沿って第2の検出器まで透過させることと、光の1つ以上の波長で、第2の検出器において光源からの光の強度を検出することと、光の検出された強度を、容積内のガスの所望の透過率に対応するそれぞれの設定値と比較し、比較に基づいて少なくとも1つの誤差信号を生成することと、誤差信号に基づいて、容積を通るガスの流量を調整することと、を含む。
【0035】
本発明は、分光計を通るガスの流れを制御するための装置を提供し、装置は、試料からの光が第1の経路に沿って通過して第1の検出器に到達することができる容積を含むハウジングと、容積を通して実質的にUV透過性のガスを流すためのガス供給源と、ガスを通る第2の経路に沿って光を透過させるための光源と、ガスを通る第2の経路に沿って透過した光源からの光の強度を、光の1つ以上の波長で検出するための第2の検出器と、光の検出された強度を、容積内のガスの所望の透過率に対応するそれぞれの設定値と比較し、比較に基づいて(すなわち、検出された強度と設定値との間の差に基づいて)少なくとも1つの誤差信号を生成し、少なくとも1つの誤差信号に基づいて分光計の容積を通るガスの流量を調整するためのコントローラと、を含む。本発明は、ガスの流れを制御するための装置を含む発光分光計を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】分光器をアルゴンでパージした後に記録された鉄(Fe)170.20nm原子輝線の正規化強度のグラフを示す。
【
図2A】本発明の実施形態において利用され得るシングルパス吸収測定のためのアセンブリを概略的に示す。
【
図2B】本発明の実施形態において利用され得るシングルパス吸収測定のためのアセンブリを概略的に示す。
【
図3】本発明の実施形態において利用され得るマルチパス吸収測定のためのアセンブリを概略的に示す。
【
図4】ガスを透過した光の検出された強度のフィードバックに基づいて分光計容積を通るガス流を制御するための制御ループシステムの実施形態を概略的に示しており、ここではシングルパス吸収測定が使用される。
【
図5】ガスを透過した光の検出強度のフィードバックに基づいて分光計容積を通るガス流を制御するための制御ループシステムの別の実施形態を概略的に示しており、ここでは、2つの別個の波長でガスを透過した光の強度を監視するために、2つの光源を用いてマルチパス測定が使用される。
【
図6】シングルパス吸収測定を利用する分光計を通るパージガスの流れを制御するための装置を含む、スパーク発光分光計の実施形態を概略的に示す。
【
図7】マルチパス吸収測定を利用する分光計を通るパージガスの流れを制御するための装置を含む、スパーク発光分光計の実施形態を概略的に示す。
【
図8】本発明の実施形態による方法のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の特徴をさらに理解するために、種々の実施形態がここで説明されるが、それらは単なる例である。
【0038】
本発明は、ランベルトベールの法則を利用しており、この法則は、吸収ガスを通る光の測定透過率が、ガス濃度(c)と、光路長(d)と、ガス種の固有特性である吸収断面積(σ)との積の関数として指数関数的に減衰することを記述している。
【0039】
本発明の一実施形態は、
図2に概略的に示されるようなシングルパス吸収測定に基づいている。UV透過性パージガスは、試料から検出器への光の経路を含む分光計(図示せず)の容積を通して流される。容積は、分光計内部の透過率を改善し、それによって試料分析の安定性および感度を改善するために、ガスでパージされる。上側のグラフ(a)は、分光計からの流動パージガス、例えばアルゴンガスで満たされた測定セル102を示しており、吸収ガス種(例えば、酸素(O
2)および水(H
2O))の形態で比較的高濃度の汚染物質を有する。汚染物質は、分光計のパージ容積における漏れに起因してパージガス中に存在する可能性があり、分光計パージシステムをしばらくスイッチオフしたときに蓄積される可能性がある。下側のグラフ(b)は、比較的低濃度の汚染物質吸収ガス種(例えば、酸素(O
2)および水(H
2O))を有するガス、例えばアルゴンで充填された測定セル102を示している。
【0040】
本発明の一部の実施形態では、測定セル102は、分光計内部の透過率を改善するためにガスでパージされる発光分光計などの分光計(図示せず)の内部容積と流体連通している。ガスでパージされる分光計の容積は、試料からの光が第1の経路に沿って通過して第1の検出器(図示せず)に到達し、好ましくは光を分析するための第1の検出器を含む分光器を含む容積である。分光計からのガス(本明細書ではパージガスと称され得る)は、測定セルと流体連通しており、入口106を通って測定セルに入り、出口108を通ってセルから出て、例えば分光計に戻る。したがって、ガスは、閉ループ流体回路を介して分光計の容積と流体連通している。ガスは、一部の実施形態では、容積から測定セル内に、閉ループ流体回路を通して圧送されてもよい。
【0041】
図示の実施形態における真空紫外線(VUV)光源101は、測定セル102の一端に配置されて、好適なVUV透過低反射率窓104を使用することによってセルを通してVUV光を通過させる。光源101としては、重水素ランプまたはキセノンフラッシュランプなどを用いることができる。窓104はセルの両端に設けられている。測定セルは、この実施形態のように別個のセルであってもよく、または分光計自体の一部、例えば分光計の容積内にあってもよい。後者の場合、ガスの透過率の分析は分光計の内部で直接行われる。
図2に示す前者の場合、ポンプは、分光計内部からのガスが入口106を通って別個のガス測定セル102に入り、分析が実施される閉ループ回路内の出口108を通って出ることを可能にする。光源101からの光は、第2の経路110に沿って測定セル内のガスを通過し、GaPフォトダイオードまたは光電子増倍管(PMT)などのVUV高感度検出システム103の形態の第2の検出器を使用して検出される。セルは、経路長dを有する。セルが分光計内に一体化される一部の実施形態では、シングルパスの経路長dは5~30cmであり得る。セルが分光計の外側に位置する一部の実施形態では、シングルパスの経路長dは10~50cmであり得る。吸収ガス種である水および酸素の濃度に依存する受光の強度は、検出システム103によって検出することができる。
図2の(a)のように吸収ガスの濃度が高い場合と比較して、
図2の(b)のように吸収ガスの濃度が低い場合は、(ガスの透過率が高くなるため)検出強度が高くなる。水および酸素などの吸収ガスは、システム内の漏れにより分光計の外部の空気に由来している。(より低い検出光強度から分かるように)水および酸素の検出量が高すぎる場合、分光計へのUV透過性パージガスの流量を増加させる必要があることを示している。(より高い検出光強度から分かるように)検出された水および酸素の量が低すぎる場合、ガスの透過率のオーバーシュートが発生したことを示し、分光計へのUV透過性パージガスの流れを減少させる必要がある。このため、検出された光強度に基づいて動的にガス流を調整することができ、それによって、分光計容積へのガス流の定常状態を、効率的に、短時間で、かつ最小のガス消費で達成することができる。検出されたガスの透過率に基づくガス流の制御に関するさらなる詳細を以下で説明する。
【0042】
VUV光を使用する利点は、a)波長130nm~190nmの共通の電子遷移を利用することによって、水および酸素ガスの両方を同時に測定する能力、b)この波長範囲内でのこれら2つのガスの強い分子吸収断面積(10-19cm-1mol-1cm3)、およびc)コンパクトなシングルパス吸収セル内で強い感度で測定を実行する能力である。VUV光源は、比較的高価な傾向があること、良好な信号対雑音比を達成するために帯域通過VUVフィルタが通常必要とされるなどの欠点がある。
【0043】
本発明の別の実施形態は、
図3に概略的に示すようなマルチパス吸収測定に基づいている。マルチパス構成に関連する特徴以外、他の特徴および原理は、例えばガスの入口および出口などに関して、
図2に示すシングルパスシステムについて説明したものと同じである。
【0044】
図3に示される実施形態は、レーザダイオードなどの近赤外(NIR)光源201を使用して、電磁スペクトルのNIR部分(760~950nmの波長)における気体状の水または酸素の検出を実行する。NIRにおけるレーザ波長は、水による吸収については830nmおよび940nm、ならびに酸素による吸収については760nmを含み得る。マルチパス測定の原理は、
図2に示されるシングルパス測定の実施形態に適用されるように、再びランベルトベールの法則に依存する。しかしながら、NIR領域における水または酸素のいずれかの強い分子吸収断面積は、VUV領域におけるよりも2~4桁低い(10
-23~10
-21cm
-1mol
-1cm
2)。したがって、ppm精度で測定を実行するのに十分に高い感度を達成するために、より長い光路長が必要とされる。
【0045】
図3に示す実施形態では、NIR光ビーム207は、ガスの透過率を測定するために、NIR光源201からパージガスを含有するガス測定セル206を通過し、光ビームは、NIR透過低反射率窓204を介してセルに出入りする。感度の増加は、光がミラー間で複数回反射されるようにセルの両端に配置された高反射性NIRミラー203を使用することによって、セルを通る光ビームの光路長を2~4桁(シングルパスと比較して)増加させることで達成される。NIR透過窓204は、ミラー203内に位置決めされている。図示の実施形態では、窓204は同じミラー内に位置決めされているが、他の実施形態では、対向するミラー内に位置決めすることもできる。セルを通る光ビームの往復経路(本発明による第2の経路)は、点線207によって示されている。ミラー203の表面へのビーム207の入射または入射角θ(202)を調整することによって、反射の数を急激に増加させることができ、1~100mの光路長を有するコンパクトなガスセル(例えば、1~10dm
3)を設計することが可能となる。典型的な入射角θは、1°~10°である。複数回の反射の後、光ビームはセルを出て、本発明による第2の検出器であるNIR高感度検出器205(例えば、電荷結合素子(CCD)またはシリコンフォトダイオード)によって受光される。NIRマルチパス法の利点として、a)NIR光源の高い安定性および長い寿命、ならびにb)初期費用および維持費が低いことが挙げられる。この方法の欠点は、電磁スペクトルの赤外領域において2つのガスについて共通の吸収帯が存在しないので、酸素および水を同時に検出することができないという事実にある。後者に対処するために、水は水素結合によって表面に付着する能力があるため、密閉容器から除去されるのに酸素よりも長い時間を要することから、これらのガスのうちの1つのみ、好ましくは気体状の水のみを測定することによって、ガスの透過率に関する情報を得ることが可能である。あるいは、2つの独立した測定システム(例えば、2つの独立したマルチパスシステム)を使用して、気体状の水および気体状の酸素を測定することが可能である。各独立した測定システムは、それ自体の光源、ビーム経路および第2の検出器を含む。
【0046】
ガスを通る透過光の検出された強度(ガスの透過率)のフィードバックに基づいて分光計容積を通るガス流を制御するための制御ループシステムの実施形態が、
図4に概略的に示されている。このシステムは、比例積分微分(PID)制御に基づく自動制御ループを含む。測定システム401が示されており、これは、光源410を含んでおり、光源410は、測定容器412内にあるUV透過性ガスを通る経路に沿って光を透過させ、光は、検出器414で収集される。ガスは、入口416を通って容器412に入り、出口418を通って出る。出口に流体接続され得るポンプ(図示せず)は、容器を通してガスを引き込むか、または閉ループで容器を通してガスを循環させる。動作中、容器内の典型的なガス圧は、容器内への漏れを最小化するために、大気圧(例えば、1100mbar)より高く、好ましくは大気圧よりわずかに高い。可変バルブ407は、容器に入るガス流を制御する。容器412自体は、試料からの光が第1の経路に沿って通過して試料からの光を分析するための第1の検出器に到達する分光計の容積であってもよく、この容積はUV透過ガスによってパージされる。代替実施形態では、容器412は、分光計容積と流体連通している別個の測定セルであってもよい。
【0047】
測定システムの検出器414は、ガスの測定された透過率を表す検出された光強度に基づいて検出器信号402を生成する。検出器信号402は、PIDコントローラを含む自動コントローラ408に供給される。信号402は、典型的には、自動コントローラ408のPID制御へのプロセス変数(PV)入力403である電位電圧である。入力値403は、要求に応じて、吸収性汚染ガス、例えば水および酸素の所望のまたは所定の濃度に対応する所定の設定値(SP)404と比較される。設定値は、コントローラ408に記憶され、電圧源(図示せず)からの電圧として提供される。この比較から、誤差信号(E)が出力として与えられる。単一入力単一出力(SISO)PIDコントローラ405は、誤差信号を読み取り、基準値または信号420を電力調節器406に出力する。その結果、基準値または信号420は、誤差信号の大きさ、持続時間および変化率に依存し、すなわち、比例項、積分項および微分項に基づく補正となる。次に、電力調節器406は、バルブ407を制御、すなわち調整し、それによってバルブを通るガス流を調整するために、PIDコントローラからの基準値に基づいて、信号、この場合はDC電流409を出力する。誤差信号が大きい場合、例えば、ガスの低すぎる透過率(パージアンダーシュート)または高すぎる透過率(パージオーバーシュート)のために検出光強度値403と設定値404との差が大きい場合、バルブ407への電力調節器出力409を制御するための基準値420は、ガス流量を調整し、検出光強度と設定値との間の差を可能な限り迅速に低減するように調整される。誤差信号が減少するにつれて、すなわち、検出された光強度値403と設定値404との間の差が減少したことに基づいて、バルブ407への電力調節器出力409を制御するための基準値420は、それに応じて変更され、検出された光強度と設定値との間の差をさらに減少させる一方で、設定値と比較したガス透過率のオーバーシュートまたはアンダーシュートが回避または制限される。このようにして、システムは、透過率の大きなステップ変化に対するガスパージのオーバーシュートおよびアンダーシュートを減少させる。誤差信号が実質的に0になると、制御ループシステムは、定常状態ガス透過率を維持するように動作し続ける。自動制御ループシステムは、所定の時間間隔(サンプリング間隔)でまたは連続的に、例えば、規則的なサンプリング間隔または最後の基準値もしくは誤差信号に依存するサンプリング間隔で実行されて、定常状態条件で容器の容積内のガスの透過率に到達し、それが維持される。したがって、自動PIDコントローラは、検出された信号電圧と設定値電圧との間で有意な差(誤差信号が実質的にゼロのまま)が測定され続けることがないようにする。一部の実施形態では、制御ループシステムは、本発明による方法を制御ループシステムに実行させる命令を含むコンピュータプログラムを実行し得るプロセッサまたはコンピュータ425によって制御することができる。コンピュータプログラムは、コンピュータ可読媒体上に記憶され得る。一部の実施形態では、コンピュータは、シャットダウン後、例えば長期または短期シャットダウン後に分光計がスイッチオンされたときに、ガスパージが開始されると(ガスパージが開始された直後、またはその後に)制御ループ(光源、検出器、自動コントローラ、電力調節器)が起動されるように、システムを制御することができる。こうすることで、効率よくガス透過率を安定させ、信頼性の高い分析につなげることができる。
【0048】
ガスの透過率を測定するためにNIR光源を使用する実施形態では、前述の吸収ガスである水および酸素による吸収は、この領域では極めて弱く、この領域では水と酸素の両方に共通の吸収帯が存在しないので、単一のレーザなどの単一の光源を使用してガスを同時に測定することはできない。一実施形態は、分光計容積内のパージガスの透過率、すなわち純度に関するフィードバックを得るために、空気汚染からの吸収ガス種のうちの1つのみによる吸収の測定値を使用する。吸収ガス種の1つのみを測定する場合、水は水素結合により表面に付着する性質があるため、密閉容器から除去されるまでに酸素よりも長い時間を必要とするので、気体状の水のみを測定することが好ましい。もちろん、必要であれば、酸素のみを測定することも可能である。単一のガス種のみが測定される場合、
図4に示されるものと同じ原理が、制御ループシステムを使用したガス流制御に使用され得る。NIR光源が使用される場合、この領域におけるより弱い吸収に起因して、
図3に示されるように、ガスを通る光透過率を測定するためにマルチパス測定を使用することが好ましいが、
図4に示されるものと同じ制御システムをガス流制御のために使用することができる。
【0049】
アルゴンパージガスの透過率を測定するためにNIR光源を使用する別の実施形態は、分光計容積内のパージガスの透過率、すなわち純度に関するフィードバックを得るために、空気汚染からの2つ以上の吸収ガス種(例えば、水および酸素)による吸収の別個の測定を使用する。NIR領域においてこれらの吸収ガス種に共通の吸収帯が存在しないことから、2つ(またはそれ以上)の別個の光源が使用される。
図5は、ガスを透過した光の検出強度のフィードバックに基づいて分光計容積を通るガス流を制御するための制御ループシステムの別の実施形態を概略的に示しており、ここでは、2つの別個の波長でガスを透過した光の強度を監視するために、2つの光源を用いて
図3に示されるものと同様のマルチパス測定が使用される。測定システム501が示されており、これは、2つの別個のNIRレーザ光源510aおよび510bを有するNIR光源を含み、これらの光源は各々、異なる波長の光を、マルチパス測定容器512内にあるUV透過ガス(アルゴン)を通るそれぞれの多重反射経路に沿って透過させ、光は、それぞれの光検出器514aおよび514bにおいて収集される。一方の波長は水の吸収帯と一致し、他方の波長は酸素(O
2)の吸収帯と一致する。
【0050】
ガス供給源(図示せず)からのアルゴンガスは、入口516を通って容器512に入り、出口518を通って出る。容器の容積に接続された真空ポンプ(図示せず)により、ガスが供給源から容器を通って流れる。可変バルブ507は、容器に入るガス流を制御する。容器512自体は、容積がUV透過ガスによってパージされ、試料からの光が第1の経路に沿って通過して試料からの光を分析するための第1の検出器に到達する分光計の容積であってもよい。代替実施形態では、容器512は、分光計容積と流体連通している別個の測定セルであってもよい。
【0051】
このシステムを使用して、各光源からの検出された光強度は、それぞれの検出器で測定される。これは、吸収ガス種、水および酸素の各々についての透過率を表す。電位電圧(水および酸素測定用にそれぞれ503aおよび503b)は、各検出された光強度について検出器の各々から出力され、自動コントローラ508への入力として供給される。コントローラは、要求に応じてこれらの入力電圧値を、所望のガス濃度に対応するそれぞれの所定の設定値SP1およびSP2(504)と比較し、この比較から、誤差信号が出力として与えられる。複数入力単一出力(MISO)PIDコントローラ(505)は、これらの誤差信号(E1およびE2)を読み取り、PIDコントローラ505の予め定義された設定に応じて、出力戦略(協調的および非協調的に大別される)を生成する。協調的戦略では、各検出器に重みが与えられ、PID応答はこれら2つのセンサの加重平均に依存する。例えば、酸素は、典型的には、水よりもシステムから排除されるのが極めて速い。例えば10倍速い場合、酸素検出器は、両方の検出器の測定値を受信したときにPID制御がどう反応すべきかを判定する際に、水検出器と比較して総重量の1/10を有することができる。非協調的システムでは、一方のシステムが他方のシステムよりも優勢であると仮定される。この例では、PIDは最大濃度のガスのみに作用し、PIDはその単一ガスのみに基づいて動作する。ただし、支配的なシステムが切り替わる場合には、両方のガスを監視する必要がある。その場合、PID応答はまた、所与の時点で最大濃度を有するガスに切り替わる。次に、PIDコントローラ505は、誤差信号の大きさ、持続時間、および変化率に応じて、電力調節器506に対する基準値520を出力する。次いで、電力調節器は、バルブ507を通る流れを調節するDC電流を出力して、透過率の大きなステップ変化に対するオーバーシュートおよびアンダーシュートを低減し、上述のように、最小時間および最小パージガス消費でガスに対する定常状態透過率に到達する。自動制御ループシステムは、所定の時間間隔で実行され、定常状態条件に到達し、それが維持される。
【0052】
図6を参照すると、分光計を通るUV透過性パージガスの流れを制御するための装置を含むスパーク発光分光計600の構成が概略的に示されている。分光計は、分光器601を含み、これは、スパークチャンバ607内の固体試料にスパーク放電を適用することによって蒸発および励起された試料材料から放出された光を分析するための光学系、格子および検出システム(図示せず)を含む。分光器601は、分光器内部の容積をアルゴンでフラッシュすることによって空気をパージする。加圧供給源(図示せず)からのアルゴンは、ガス入口616を通って容積に入り、入口を通る流量は、調整可能なバルブ605によって制御される。真空ポンプ(図示せず)がガス出口618に接続されて、分光計内の圧力を大気圧と約1100mbarとの間に維持し、パージ中の漏れを最小化する。
【0053】
レーザなどのUV光源602は、分光器の外側に位置しており、UV透過窓を通して分光器容積内に光ビームを提供する。光源に対向して分光器の外側に位置する検出器603は、別のUV透過窓を通して透過光を受ける。透過光の検出された強度(ガスの透過率)のフィードバックに基づいて、分光器の容積を通るガス流を制御するために、制御ループシステムが提供される。検出器603で測定された検出光強度は、吸収ガス種である水および酸素の透過率のレベルを表しており、自動PIDコントローラ608に供給される電圧(603a)を生成するために使用される。コントローラ608は、入力電圧を所望のガス透過率(ガス濃度)に対応する設定値と比較し、この比較から誤差信号を生成し、次に、この誤差信号から、PIDコントローラが、誤差信号の大きさ、持続時間および/または変化率に応じて、電力調節器606のための出力基準信号620を生成する。次いで、基準信号に基づいて、電力調節器606は、バルブ605を制御するDC電流を出力して、アルゴン流のオーバーシュートおよびアンダーシュートを低減し、最小時間および最小アルゴンガス消費で分光器内のガスの定常状態透過率に到達するようにする。
【0054】
図7は、マルチパス吸収測定を利用する分光計を通るパージガスの流れを制御するための装置を含む、スパーク発光分光計700の実施形態を概略的に示している。この図は、内部容積および光ビーム経路の観察を可能にする分光計の部分破断図を示している。
【0055】
分光計の多くの構成要素は、
図6に示される分光計600と共通である。この装置もまた、分光計を通るUV透過性パージガスの流れを制御するためのものである。分光計は分光器701を含み、これは、スパークチャンバ(図示せず)内の固体試料にスパーク放電を適用することによって蒸発および励起された試料材料から放出された光を分析するための光学系、格子および検出システム(図示せず)を含み、光は開口707を通って分光器701内に受け入れられる。
【0056】
分光器701は、分光器内部の容積をアルゴンでフラッシュすることによって空気をパージする。加圧供給源(図示せず)からのアルゴンは、ガス入口716を通って容積に入り、入口を通る流量は、調整可能なバルブ705によって制御される。真空ポンプ(図示せず)がガス出口718に接続されて、分光器の容積内にアルゴンの圧力(1100mbarと大気圧との間)を生じさせ、それによって空気の大部分が除去される。アルゴンガスは、パージ中に容積内に流入し、空気の容積をフラッシュする。アルゴンは、出口718を通って容積を出る。
【0057】
レーザなどのUV光源702は、分光器の外側に位置しており、UV透過窓(図示せず)を通して分光器容積内に光ビーム714を提供する。検出器703も分光器の外側に位置しており、この例では、分光器の光源と同じ側にある。検出器703は、別のUV透過窓(図示せず)を通して分光器からの透過光を受け取る。この実施形態は、分光計の容積内の光路が、反射要素710、例えば高反射面またはミラーの間で繰り返し反射されることによってガスを通る複数のパス715を含むという点で、
図6に示されるものとは異なる。第1の反射素子710は、分光器の一方の内側711に取り付けられ、これは破断図に見ることができ、第2の反射素子(図示せず)は、分光器の反対側の内側712に第1の反射素子に対向して取り付けられる。したがって、この実施形態における光路715はジグザグを描く。
【0058】
透過光の検出された強度(ガスの透過率)のフィードバックに基づいて、分光器の容積を通るガス流を制御するために、制御ループシステムが提供される。検出器703で測定された検出光強度は、吸収ガス種である水および酸素の透過率のレベルを表しており、自動PIDコントローラ708に供給される電圧(703a)を生成するために使用される。コントローラ708は、入力電圧を所望のガス透過率(ガス濃度)に対応する設定値と比較し、この比較から誤差信号を生成し、次に、この誤差信号から、PIDコントローラが、誤差信号の大きさ、持続時間および/または変化率に応じて、電力調節器706のための出力基準信号720を生成する。次いで、基準信号に基づいて、電力調節器706は、バルブ705を制御するDC電流704を出力して、アルゴン流のオーバーシュートおよびアンダーシュートを低減し、最小時間および最小アルゴンガス消費で分光器内のガスの定常状態透過率に到達するようにする。
【0059】
ガス流の制御には、比例積分微分(PID)制御以外の他の機構を制御ループにおいて使用できることが理解されるであろう。単純な比較器を使用して、検出された光強度(ガス透過率を表す)を設定値と比較し、測定された光強度と設定値との間の差の大きさに基づいてガス供給流量バルブまたはポンプを制御するための出力基準値を変更することができる。
【0060】
前述の実施形態が好ましいと考えられ得るが、異なる構成が使用され得ることが理解されるであろう。例えば、言及された光源(UV、VUV、可視、IRまたはNIR)のいずれかを、シングルまたはマルチパス測定のいずれかで使用することができる。
【0061】
上述した実施形態に鑑みて、本発明による方法を
図8に示すフロー図に要約している。ステップ800において、プロセスは、分光計を通るパージガス流の始動から始まる。ステップ802において、光源を起動させてガスを通して検出器に光を透過させ、検出器における光強度を検出する。ステップ804において、検出された光強度信号は、コントローラによって、ガスの所望の光透過率に対応する設定値と比較される。ステップ806において、検出された信号と設定値との差に基づいて誤差信号が生成される。ステップ808において、コントローラは、誤差が所定の閾値誤差を下回るか上回るかを判定する。閾値は、検出された信号と設定値との間の最小差または0の差を表す。誤差が閾値を上回る場合、コントローラは、ステップ810でパージガスの流量を調整し、プロセスは、ステップ802で再び開始する。検出された光信号と設定値との比較が、検出された信号が低すぎる(ガスの透過率が低すぎる)ことを示す場合、ガス流を増加させることができる。同様に、検出された信号が高すぎる(ガスの透過率が高すぎる)ことを比較が示す場合、ガス流を減少させることができる。好ましい実施形態では、調整は、比例項、積分項、および微分項に基づくように、PID制御を使用して行われる。プロセスは、ステップ808で誤差がもはや閾値を超えないと判定されるまで、誤差を最小化するために反復的に実行され、その後、流量は調整されず、ステップ812において維持される。その後、破線で示すように、誤差信号が依然として閾値を超えないことを保証する間隔でプロセスが実行される。誤差がいずれかの点で閾値を超えて上昇する場合、コントローラは、ステップ810などでパージガスの流量を調整する。
【0062】
上記の説明から、以下の好ましい特徴を認識することができるは、これらは網羅的ではない。
【0063】
好ましくは、分光計の容積を通るガスの流量を調整することは、検出された強度と設定値との間の差を最小化する。
【0064】
分光計は、発光分光計であることが好ましい。好ましくは、分光計はスパーク発光分光計またはLIBS分光計である。
【0065】
好ましくは、第2の経路は分光計の容積内にある。
【0066】
好ましくは、第2の経路は、容積と流体連通している測定セル内にある。好ましくは、測定セルは、閉ループ流体回路を介して容積と流体連通している。好ましくは、ガスは、容積から測定セル内に、閉ループ流体回路を通して圧送される。
【0067】
一部の実施形態では、第2の経路は、ガスを通るシングルパスである。一部の他の実施形態では、第2の経路は、ガスを通る複数のパスを含む。
【0068】
一部の実施形態では、好ましくは、光はVUV光である。一部の他の実施形態では、好ましくは、光は近IR(NIR)光である。
【0069】
一部の実施形態では、好ましくは、光の強度は、単一波長または単一波長帯域で検出される。一部の他の実施形態では、好ましくは、光の強度は、2つ以上の非連続波長または2つ以上の非連続波長帯域で検出される。かかる実施形態では、好ましくは、ガスを通る2つ以上の第2の経路に沿ってそれぞれ光を透過させるための2つ以上の別個の光源と、それぞれの第2以上の経路に沿って透過した光の強度をそれぞれ検出するための2つ以上の第2の検出器とを含み、各光源は、異なる波長で光を放出し、かつ/または各第2の検出器は、異なる波長で光を検出し、光の強度は、2つ以上の非連続波長または2つ以上の非連続波長帯域で検出される。好ましくは、異なる波長は、それぞれ気体状の水および気体状の酸素の吸収に対応する。したがって、好ましくは、かかる実施形態は、2つの独立した測定システム(例えば、2つの独立したマルチパスシステム)を使用して気体状の水および気体状の酸素を測定することができ、各独立した測定システムは、それ自体の光源、第2のビーム経路および第2の検出器を含む。
【0070】
好ましくは、光の強度は、水および/または分子状酸素の1つ以上の吸収波長で検出される。
【0071】
一部の実施形態では、好ましくは、検出された光の強度を対応する設定値と比較するステップと、少なくとも1つの誤差信号を生成するステップと、ガスの流量を調整するステップとは、比例積分微分(PID)制御を使用して実行される。好ましくは、制御は、比例積分微分(PID)コントローラを含むコントローラによって実行される。好ましくは、コントローラは、単一入力単一出力(SISO)コントローラまたは複数入力単一出力(MISO)コントローラを含み、これらはそれぞれ、単一誤差信号または複数誤差信号を、ガス流を制御するために使用される出力信号に変換する。好ましくは、出力信号は、ガスのための流量バルブおよび/またはポンプを制御する。
【0072】
本発明の前述の実施形態に対する変形は、依然として本発明の範囲内にあるものとして、行われ得ることが認識されるであろう。
【0073】
本明細書におけるあらゆる例、または例示的な言い回し(「例えば(for instance)」、「など(such as)」、「例えば(for example)」、および同様の言い回し)の使用は、単に、発明をより良く例示するためのものであり、よって、別段の主張のない限り、発明の範囲に対する限定を示すものではない。本明細書におけるどの言い回しも、本発明の実施に不可欠なものとして任意の特許請求されない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0074】
特許請求の範囲内を含む、本明細書において使用される際、特に文脈が示さない限り、本明細書における用語の単数形は、複数形を含むものとして解釈され、逆の場合も同様である。例えば、特に文脈が示さない限り、特許請求の範囲内を含む本明細書における単数形の指示語、例えば、「a」または「an」などは、「1つ以上」を意味する。
【0075】
本明細書の本文および特許請求の範囲を通して、「備える(comprise)」、「含む(including)」、「有する(having)」および「含有する(contain)」という用語、ならびにこれらの用語の変形、例えば「備える(comprising)」および「備える(comprises)」、他は、「~を含むがこれらに限定されるものではない」ことを意味し、他の構成要素を排除する意図はない(よって、排除するものではない)。
【0076】
先行技術文献
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2)V.Ebert,T.Fernholz,and H.Pitz,T.Li,ed.,Vol.36 of OSA Trends in Optics and Photonics Series(Optical Society of America,2000),paper SaB4.
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