(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】真空処理装置
(51)【国際特許分類】
B01J 3/03 20060101AFI20240307BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20240307BHJP
F16C 11/04 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B01J3/03 Z
F16J15/10 T
F16C11/04 F
(21)【出願番号】P 2023519145
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2022009105
(87)【国際公開番号】W WO2023166653
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】横山 周一
(72)【発明者】
【氏名】竹山 輝茂
(72)【発明者】
【氏名】岸 伊織
(72)【発明者】
【氏名】河野 寿光
(72)【発明者】
【氏名】吉川 知博
(72)【発明者】
【氏名】生長 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】塚本 典史
(72)【発明者】
【氏名】大石 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田村 尚己
(72)【発明者】
【氏名】安松 保志
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-077815(JP,A)
【文献】特開2012-087923(JP,A)
【文献】実開昭57-196854(JP,U)
【文献】特開2011-179531(JP,A)
【文献】特開2005-012174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 3/03
F16J 15/00-15/56
F16J 13/04
F16C 11/04
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1開口部及び第2開口部が形成された上壁を有するチャンバーと、
前記第1開口部を開閉する上蓋と、
前記第2開口部を覆うように設けられ、前記第1開口部に対して前記上蓋を回動可能に支持するヒンジ機構と、
前記第1開口部を囲むように前記上蓋と前記上壁との間に設けられ、弾性変形する第1封止部材と、
前記第2開口部を囲むように前記ヒンジ機構と前記上壁との間に設けられ、弾性変形する第2封止部材と、
を備えることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記チャンバーの内部空間に対する真空排気処理において、前記第1封止部材及び前記第2封止部材は圧縮される、
ことを特徴とする請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項3】
前記真空排気処理において、前記第1封止部材の鉛直方向における第1つぶし量と、前記第2封止部材の前記鉛直方向における第2つぶし量が同等である、
ことを特徴とする請求項2に記載の真空処理装置。
【請求項4】
前記ヒンジ機構は、
前記上蓋に連結されたヒンジ本体と、
前記ヒンジ本体と前記上壁との間に設けられ、前記ヒンジ本体を支持する台座と、
を有し、
前記台座には、前記第2開口部を介して前記内部空間に連通する貫通孔が形成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の真空処理装置。
【請求項5】
複数の前記台座が、前記鉛直方向に重ね合わされており、
複数の前記第2封止部材が、前記鉛直方向において隣り合う2つの前記台座の間にそれぞれ設けられている、
ことを特徴とする請求項4に記載の真空処理装置。
【請求項6】
前記第1つぶし量は、複数の前記第2封止部材の各々の前記第2つぶし量の合算値と同等である、
ことを特徴とする請求項5に記載の真空処理装置。
【請求項7】
前記第2封止部材の個数がN、前記鉛直方向の断面視における前記第1封止部材の真空排気前の第1直径がWt、前記第1直径に対する前記第1つぶし量のつぶししろがQt、前記断面視における前記第2封止部材の真空排気前の第2直径がWh、前記第2直径に対する前記第2つぶし量のつぶししろがQhである場合、
0≦[(Wh×Qh)×N]-(Wt×Qt)<Wh×Qh
の式が成り立つ、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の真空処理装置。
【請求項8】
前記第1封止部材は、前記上壁に形成された第1溝に収容され、
複数の前記第2封止部材は、前記上壁又は前記台座に形成された第2溝に収容され、
前記断面視において、前記第1溝の深さがdt、前記第1
つぶし量がLtである場合、Wt-Lt>dtの式が成り立ち、
前記断面視において、前記第2溝の深さがdh、前記第2
つぶし量がLhである場合、Wh-Lh>dhの式が成り立つ、
ことを特徴とする請求項7に記載の真空処理装置。
【請求項9】
前記第1直径は、前記第2直径よりも大きい、
ことを特徴とする請求項8に記載の真空処理装置。
【請求項10】
前記第1封止部材及び前記第2封止部材は、同じ硬度を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の真空処理装置。
【請求項11】
前記第1封止部材及び前記第2封止部材は、互いに異なる硬度を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の真空処理装置。
【請求項12】
前記第1封止部材及び前記第2封止部材は、それぞれ環状に形成される、
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、組立中の調整が不要であり、高精度な組み立てが可能な真空処理装置が開示されている。当該真空処理装置は、上蓋を開閉するためのヒンジ機構を持ち、ヒンジ機構に備えられた長穴ヒンジ穴、ヒンジ軸、及びバネ機構により上蓋が上下に変位することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているようなヒンジ機構及び上蓋を有する真空処理装置では、チャンバーの内部空間を真空状態にする際、大気圧により上蓋に対して鉛直下方向の力が加わる。このため、上蓋は下方に移動するが、ヒンジ機構の軸の高さは変わらないため、上蓋が非平行に下がる形となり、最悪の場合、排気不良が生じる。また、大気圧状態でヒンジ機構と上蓋との位置関係を調整できたとしても、真空排気時には両者の位置関係が変化するため、大気圧状態で調整したヒンジ機構と上蓋との位置関係ではチャンバーと上蓋との間を確実に封止できない可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑み、大気圧状態及び真空状態において上蓋とチャンバーとの間を確実に封止できる真空処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、第1開口部及び第2開口部が形成された上壁を有するチャンバーと、前記第1開口部を開閉する上蓋と、前記第2開口部を覆うように設けられ、前記第1開口部に対して前記上蓋を回動可能に支持するヒンジ機構と、前記第1開口部を囲むように前記上蓋と前記上壁との間に設けられ、弾性変形する第1封止部材と、前記第2開口部を囲むように前記ヒンジ機構と前記上壁との間に設けられ、弾性変形する第2封止部材と、を備えることを特徴とする真空処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大気圧状態及び真空状態において上蓋とチャンバーとの間を確実に封止できる真空処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る真空処理装置を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る真空処理装置を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る真空処理装置のチャンバー、第1封止部材及び第2封止部材の位置関係を示す上面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る真空処理装置において第1封止部材が弾性変形する前の状態を示す拡大断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る真空処理装置において第1封止部材が弾性変形した後の状態を示す拡大断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る真空処理装置において第2封止部材が弾性変形する前の状態を示す拡大断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る真空処理装置において第2封止部材が弾性変形した後の状態を示す拡大断面図である。
【
図8】所定の硬度を有するゴム製Oリングの中心円周において単位長当たりに加わる力とつぶししろとの関係を示す図である。
【
図9】比較例に係る真空処理装置の調整機構を説明するための拡大断面図である。
【
図10】比較例に係る真空処理装置の調整機構を説明するための拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る真空処理装置1を示す概略断面図である。
図1は、後述する上蓋30が閉じている状態であり、
図2は、上蓋30が開いている状態をそれぞれ示している。
【0010】
図1及び
図2に示されるように、真空処理装置1は、チャンバー10と、排気機構20と、上蓋30と、ヒンジ機構40と、第1封止部材50と、第2封止部材60とを備える。
【0011】
チャンバー10は、上壁部11と、側壁部12と、側壁部13と、底壁部14とを備える。チャンバー10は、上壁部11、側壁部12、側壁部13、及び底壁部14に囲まれた内部空間Sを有している。
【0012】
また、上壁部11には、第1開口部111と、第2開口部112とが形成されている。第1開口部111は、内部空間Sへの対象物の搬入時及び内部空間Sからの対象物の搬出時に用いられる開口の端部である。第2開口部112は、内部空間Sに連通する通気経路を構成する貫通孔である。真空処理装置1において内部空間Sに対して真空排気処理が行われると、第2開口部112及び後述する貫通孔421を通して第2封止部材60に囲まれている部分に存在する気体も同時に排気される。本実施形態では、第2開口部112は、第1開口部111よりも小さい。
【0013】
また、上壁部11には、上面側に第1開口部111を囲むように溝113が形成されている。溝113は、第1封止部材50を収容する。溝113のサイズは、第1封止部材50のサイズに対応して設計される。
【0014】
さらに、上壁部11には、上面側に第2開口部112を囲むように溝114が形成されている。溝114は、後述する第2封止部材60dを収容する。溝114のサイズは、第2封止部材60dのサイズに対応して設計される。
【0015】
底壁部14には、排気口141が形成されている。排気口141は、排気機構20に接続されている。排気機構20は、排気ライン21と、バルブ22と、ポンプ23とを有する。排気機構20は、図示しない制御装置からの指示に従って、または手動でバルブ22の開閉及びポンプ23の駆動を制御することにより、排気口141及び排気ライン21に向う気体の流れを形成し、内部空間Sの真空排気処理を行うことができる。
【0016】
上蓋30は、チャンバー10の外側に設けられ、第1開口部111を覆う蓋部材である。上蓋30の一部は、ヒンジ機構40に連結されている。上蓋30の縦横の寸法は、第1開口部111の縦横の寸法よりも大きい。
【0017】
ヒンジ機構40は、ヒンジ本体41と、例えば4個の台座42と、台座42とチャンバー10を固定するためのショルダーボルト43とを有し、第1開口部111に対して上蓋30を開閉可能に支持する。ヒンジ本体41は、ヒンジ軸411と、ヒンジ軸411を中心に回動可能なアーム部412とを有する。
【0018】
台座42は、ヒンジ本体41を底面側から支持する部材である。
図1に示すように、本実施形態では台座42は、4個設けられ、鉛直方向(図中、Z軸方向)に重ね合わされている。なお、台座42の数量は、4個に限られず、後述する計算によって最適な数量が求められる。
【0019】
上から2番目から4番目に位置する台座42b~42dの中央部分には、貫通孔421がそれぞれ形成されている。貫通孔421は、鉛直方向(図中、Z軸方向)において上壁部11の第2開口部112に連通している。すなわち、貫通孔421は、第2封止部材60で囲まれており、第2開口部112を介して内部空間Sに連通する通気経路を構成している。
【0020】
また、台座42b~42dには、上面側に貫通孔421を囲むように溝422がそれぞれ形成されている。3つの溝422は、第2封止部材60a~60cをそれぞれ収容する。溝422のサイズは、第2封止部材60a~60cのサイズに対応して設計される。本実施形態では、4つの第2封止部材60a~60dの材質、硬度及びサイズは同一とする。また、3つの溝422と上述した溝114は、鉛直方向に沿って配列されている。
【0021】
ショルダーボルト43は、チャンバー10にヒンジ機構40(ヒンジ本体41及び台座42b~42d)を鉛直方向において固定するための部材である。ここでは、ショルダーボルト43の座面でヒンジ機構40を固定する。ショルダーボルト43は、チャンバー10に締め込むと第2封止部材60を適切なつぶししろになるようにネジ部の長さが設計されている。
【0022】
第1封止部材50は、上蓋30から加わる力に応じて弾性変形する封止用の部材である。第1封止部材50に対して上蓋30から加わる力としては、上蓋30の重量による鉛直下方向の押圧力と、真空排気処理時において大気圧と真空との差圧による力がある。
【0023】
第1封止部材50は、水平方向(図中、X-Y方向)において第1開口部111を囲むように設けられている。また、第1封止部材50は、上蓋30の位置に合せて上壁部11に形成された溝113に収容されている。第1封止部材50は、上蓋30が第1開口部111を閉じている場合に、チャンバー10の上壁部11と上蓋30とに挟まれた状態で弾性変形する。第1封止部材50の弾性変形により、チャンバー10の内部空間Sは第1開口部111側で封止される。
【0024】
第2封止部材60は、鉛直方向においてヒンジ機構40から加わる力に応じて弾性変形する封止用の部材である。第2封止部材60に対してヒンジ機構40から加わる力としては、ヒンジ機構40の重量による鉛直下方向の押圧力と、真空排気処理時において大気圧と真空との差圧によって鉛直下方向に生じる力がある。第2封止部材60は、鉛直方向に配列された4つの第2封止部材60a~60dからなる。
【0025】
第2封止部材60a~60cは、水平方向において貫通孔421を囲むように設けられている。第2封止部材60dは、水平方向において第2開口部112を囲むように設けられている。また、第2封止部材60a~60cは、台座42b~42dに形成された溝422にそれぞれ収容されている。第2封止部材60dは、水平方向におけるヒンジ機構40の位置に合せて上壁部11に形成された溝114に収容されている。
【0026】
複数の第2封止部材60a~60dがそれぞれ弾性変形することにより、台座42aと台座42bとの間隙、台座42bと台座42cとの間隙、台座42cと台座42dとの間隙、台座42dと上壁部11との間隙は、それぞれ封止される。
【0027】
また、上蓋30側には1つの第1封止部材50、ヒンジ機構40側には4つの第2封止部材60a~60dがそれぞれ配置されている。このため、真空排気処理が行われた場合において、第1封止部材50がつぶれる前(真空排気前)の鉛直方向における長さからつぶれた後(真空排気後)の長さを差し引いた変位量(第1つぶし量)は、複数の第2封止部材60~60dの各々のつぶれる前の鉛直方向における長さからつぶれた後の長さを差し引いた変位量(第2つぶし量)の合算値と一致するように調整されるものとする。なお、本明細書において、「一致する」の語句は、2つの数値が完全に一致する場合のみに限らず、2つの数値が同等である場合も含む意味で使用する。「同等」の具体的な範囲については、後述する。また、「つぶし量」の語句は、鉛直方向につぶされる第1封止部材50及び第2封止部材60の圧縮量を意味する。「つぶししろ」の語句は、鉛直方向につぶされた第1封止部材50及び第2封止部材60の元の太さに対する圧縮量(つぶし量)の割合、すなわち、圧縮率を意味する。
【0028】
本実施形態の第1封止部材50及び第2封止部材60としては、一般的な真空処理装置に使用されるバイトン硬さ(ショアA)70のOリングを使用するものとする。
【0029】
続いて、真空排気処理時において、第1封止部材50及び第2封止部材60に対して加わる力について
図3を参照しながら説明する。
【0030】
図3は、チャンバー10、第1封止部材50及び第2封止部材60の位置関係を示す上面図である。ここでは、説明の便宜上、チャンバー10に対して上蓋30及びヒンジ機構40を取り付けていない状態を示している。なお、図中の破線は、上蓋30及びヒンジ機構40が取り付けられる位置を示している。
【0031】
第1封止部材50及び第2封止部材60は、それぞれ環状に形成されている。第1封止部材50の中心線C1の寸法を縦At[mm]、横Bt[mm]とすると、第1封止部材50の周長Ctは、以下のように算出される。実際にはAt部とBt部の境目はR形状で曲げられるが計算モデルの簡略化のために省略している。
Ct[mm]=2×(At+ Bt) [mm]
【0032】
同様に、第2封止部材60の中心線C2の寸法を、縦Ah[mm]、横Bh[mm]とすると、第2封止部材60の周長Chは、以下のように算出される。
Ch[mm]=2×(Ah+ Bh) [mm]
【0033】
また、大気圧をPatm[N/mm2]とすると、真空排気処理時に上蓋30に加わる力Ftは、以下のように算出される。
Ft[N]=At [mm]×Bt [mm]×Patm[N/mm2]
【0034】
したがって、真空排気処理時に上蓋30側の第1封止部材50に対して単位長当たりに加わる力Fotは、以下のように算出される。
Fot[N/mm]=Ft[N]/Ct[mm]
【0035】
同様に、真空排気処理時にヒンジ機構40に加わる力Fhは、以下のように算出される。
Fh[N]=Ah [mm]×Bh[mm]×Patm[N/mm2]
【0036】
したがって、真空排気処理時にヒンジ機構40側の第2封止部材60に対して単位長当たりに加わる力Fohは、以下のように算出される。
Foh[N/mm]=Fh[N]/Ch[mm]
【0037】
続いて、真空排気処理時において、第1封止部材50及び第2封止部材60に加わる力の大きさとつぶし量との関係について
図4乃至
図7を参照しながら説明する。
【0038】
図4は、本発明の一実施形態に係る真空処理装置1において第1封止部材50が弾性変形する前の状態を示す拡大断面図である。一方、
図5は、第1封止部材50が弾性変形した後の状態を示す拡大断面図である。
【0039】
図4及び
図5において、Wtは、鉛直方向の断面視における第1封止部材50の直径(線径)を表す。dtは、第1封止部材50を収容する上壁部11の溝113の深さを表す。stは、上蓋30側で第1封止部材50をつぶした後の上蓋30の底面と上壁部11の上面との隙間の長さを表す。
【0040】
この場合、鉛直方向における第1封止部材50のつぶし量Ltは、以下のように算出される。
Lt[mm]=Wt[mm]-dt[mm]-st[mm]
【0041】
よって、第1封止部材50のつぶししろQt[%]は、以下のように算出される。
Qt[%]=(Lt/Wt)×100
【0042】
図6は、本発明の一実施形態に係る真空処理装置1において第2封止部材60が弾性変形する前の状態を示す拡大断面図である。一方、
図7は、第2封止部材60が弾性変形した後の状態を示す拡大断面図である。
図6及び
図7では、第2封止部材60cを収容する溝422と、第2封止部材60dを収容する溝114とが示されている。
【0043】
また、
図6及び
図7において、Whは、鉛直方向の断面視における第2封止部材60の直径(線径)を表す。dhは、第2封止部材60を収容する台座60の溝422の深さと、上壁部11の溝114の深さとをそれぞれ表す。shは、ヒンジ機構40側で第2封止部材60を圧縮した後における、鉛直方向において隣接する台座42cと台座42dとの隙間の長さと、台座42dの底面と上壁部11の上面との隙間の長さをそれぞれ表す。
【0044】
この場合、鉛直方向における第2封止部材60のつぶし量Lhは、以下のように算出される。
Lh[mm]=Wh[mm]-dh[mm]-sh[mm]
【0045】
よって、第2封止部材60のつぶししろQh[%]は、以下のように算出される。
Qh[%]=(Lh/Wh)×100
【0046】
なお、本実施形態に係る真空処理装置1では、第1封止部材50のつぶししろQtと、第2封止部材60のつぶししろQhは、いずれも約10%から30%となるように設計することが適正値として推奨されている。
【0047】
また、
図4及び
図5に示すように、真空排気処理の前後において、第1封止部材50の直径Wt、溝113(第1溝)の深さdt、第1封止部材50のつぶれによる鉛直方向の変位量(第1つぶし量)をLtとする。Wt、Lt及びdtには、Wt-Lt>dtの式が成り立つ。
【0048】
図6及び
図7に示すように、第2封止部材60の直径Wh、溝114及び溝422の深さdh、第1封止部材50のつぶれによる鉛直方向の変位量(第2つぶれ量)をLhとする。Wh、Lh及びdhには、Wh-Lh>dhの式が成り立つ。すなわち、本実施形態では、真空排気処理後において、第1封止部材50の一部及び第2封止部材60の一部は、常に収容先の溝内部に押し込められて溝内部での封止部材の充填率が上がり、第1封止部材50はLt、第2封止部材60は使用数量1本につきLhつぶれる。これは、
図1に示した貫通孔421が鉛直方向(図中、Z軸方向)において城壁部11の第2開口部112に連通した構造によるものである。
【0049】
図8は、所定の硬度を有するゴム製Oリングの中心円周において単位長当たりに加わる力と圧縮率との関係を示す図である。ここでは、横軸は単位長当たりに加わる力x、縦軸はつぶししろyをそれぞれ示す。
【0050】
図8は両対数グラフであるため、図中の直線において力xとつぶししろyには以下の式(1)に示される関係がある。
Log y=a(Log x)+Log c ・・・式(1)
なお、定数a、cの値はOリングの直径Wによって異なる。
【0051】
また、式(1)を変形すると、以下の式(2)が得られる。
y=cxa ・・・式(2)
【0052】
ここで、真空排気処理時に上蓋30に加わる力Ft及びヒンジ機構40に加わる力Fhの大小関係は、Oリングの中心線が囲む面積に比例することから、Ft>Fhである。
【0053】
したがって、上蓋30側の第1封止部材50及びヒンジ機構40側の第2封止部材60として同じOリングを使用した場合には、真空排気処理時に第1封止部材50に対して単位長当たりに加わる力Fot及び第2封止部材60に対して単位長当たりに加わる力Fohの大小関係は、Fot>Fohである。
【0054】
すなわち、同じ直径のOリングを上蓋30とヒンジ機構40に各1本使用した場合には、上蓋30側のOリングとヒンジ機構40側のOリングのつぶし量に差異が生じ得る。
【0055】
よって、本発明の目的を達成するためには、真空排気処理時にかかるFotのときの第1封止部材50のつぶし量と、Fohのときの第2封止部材60とのつぶし量を同等にする必要がある。
【0056】
そこで、本実施形態では、第1封止部材50として使用するOリングの線径よりも、第2封止部材60として使用するOリングの線径を細くして、かつ、それを複数段重ね合わせる。これにより、Ft>Fhの場合においても、Lt≦N×Lhの関係が成立するようにNの値を定める。
【0057】
以下では、上蓋30側の第1封止部材50として直径Wtが6.98[mm]であるOリングを用い、かつ、ヒンジ機構40側の第2封止部材60として直径Whが2.62[mm]であるOリングを用いた場合について、複数段に重ね合わせる第2封止部材60の段数N(Nは、2以上の整数とする。)すなわち第2封止部材60の使用本数を求める計算方法を説明する。なお、単位長当たりに加わる力xとつぶししろyの関係については、
図8に示すような公知のデータから取得できるものとする。
【0058】
(A)Wt=6.98[mm]の場合
図8における直線E上の点P1のxy座標は、(0.04,1)である。点P2のxy座標は、(0.4,4)である。点P1、P2におけるx及びyの値と、上述した式(1)の関係を使って定数a及びcを算出すると、a=0.602、c=6.950となる。
【0059】
よって、定数a及びcを式(2)に適用すると、以下の式(3)が導かれる。
y=6.95x0.602 ・・・式(3)
【0060】
(B)Wh=2.62[mm]の場合
図8における線B上の点P3のxy座標は、(0.07,6)である。点P4のxy座標は、(10,50)である。点P3、P4におけるx及びyの値と、上述した式(1)の関係を使って定数a及びcを算出すると、a=0.427、c=18.70となる。
【0061】
よって、定数a及びcを式(2)に適用すると、以下の式(4)が導かれる。
y=18.707x0.427 ・・・式(4)
【0062】
ここで、式(3)において、xをOリングの単位長当たりに加わる力Fotに、yをつぶししろQtにそれぞれ置き換える。同様に、式(4)において、xをOリングの単位長当たりに加わる力Fohに、yをつぶししろQhにそれぞれ置き換える。これにより、複数の第2封止部材60を重ね合わせて装置を構成する場合において、第2封止部材60の段数Nは、以下の式(5)により算出できる。
【0063】
N=ceil(Lt/Lh)=ceil((Wt×(6.95×Fot0.602/100))/(Wh×(18.707×Foh0.427/100))) ・・・式(5)
数式のceil(x)は実数xに対してN以上の最小の整数を求める天井関数である。天井関数を用いる必要がある理由は、Nが第2封止部材60の本数を表すために、整数である必要があるためである。
【0064】
また、式(5)より、以下の式(6)も導かれる。
Lt≦N・Lh ・・・式(6)
【0065】
すなわち、同じ直径Whを有する第2封止部材60がN段で重ね合わされる構成の場合には、鉛直方向において、第1封止部材50の真空と大気の差圧によってつぶれる前の直径Wtから真空と大気との差圧によってつぶれた後の長さを引いた変位量(第1つぶし量)は、第2封止部材60の圧縮前の直径Whから圧縮後の長さを引いた変位量(第2つぶし量)をN倍したものと等しいか小さい。
【0066】
続いて、上蓋30及びヒンジ機構40の寸法に基づいて、具体的な数値を順次算出する。例えば、At=Bt=440[mm]、Wt=6.98[mm]とすると、Ct、Ft、Fotの値は、以下の通りである。
Ct=1760[mm]
Ft=440×440×0.101325=19617[N/mm]
Fot=Ft/Ct=11.1
【0067】
よって、上蓋30に使用するOリングの直径Wtが6.98である場合、Fotは11.1となる。
【0068】
そして、上述した式(3)のxにFotの値11.1を代入すると、つぶししろQtは以下のように算出される。
y=29.6〔%〕=Qt
【0069】
同様に、Ah=Bh=50[mm]、Wh=2.62[mm]とすると、Ch、Fh、Fohの値は、以下の通りである。
Ch=200[mm]
Fh=50×50×0.101325=253[N/mm]
Foh=Fh/Ch=1.3
【0070】
よって、ヒンジ機構40に使用するOリングの直径Whが2.62である場合、Fohは1.3となる。
【0071】
そして、上述した式(4)のxにFohの値1.3を代入すると、つぶししろQhは以下のように算出される。
y=20.9〔%〕=Qh
【0072】
Wt、Qt、Wh、Qhの値を上述した式(5)に代入することで、Nは以下のように算出される。
N=ceil(Lt/Lh)
=ceil((Wt×(6.95Fot0.602/100))/(Wh×(18.707Foh0.427/100)))
=ceil((Wt×Qt/100)/(Wh×Qh/100))
=ceil((6.98×29.6/100)/(2.62×20.9/100))
≒ceil(3.7731)
=4
よって、第2封止部材60を4段に重ね合わせればよいことが分かる。
【0073】
また、本実施形態において、上述したWh、Qh、N、Wt、Qtの間には、以下の式(7)が成り立つ。
0≦[(Wh×Qh)×N]-(Wt×Qt)<Wh×Qh ・・・式(7)
【0074】
式(7)は、第1封止部材50のつぶし量と、N段重ねた時の第2封止部材60(第2封止部材60~60d)のつぶし量の合算値(以下、「合算つぶし量」という。)とが「同等」とみなされる範囲を定義している。
【0075】
すなわち、本実施形態では、以下の(A)及び(B)の両方が満たされる場合に、2つの数値が「同等」とみなされる。
(A)第1封止部材50のつぶし量と第2封止部材60の合算つぶし量とが等しい、もしくは、第1封止部材50のつぶし量が第2封止部材60の合算つぶし量よりも小さいこと。
(B)第1封止部材50のつぶし量と第2封止部材60の合算つぶし量との差が、第2封止部材60の1本分のつぶし量よりも小さいこと。
【0076】
続いて、比較例に係る真空処理装置と、本実施形態に係る真空処理装置との相違点について詳細に説明する。
【0077】
一般的に、上蓋を有する真空処理装置では、チャンバーの内部空間を真空状態にする際、大気圧により上蓋30に対して鉛直下方向の力が加わる。このため、上蓋30は下方に移動するが、ヒンジ機構40の軸の高さは変わらないため、蓋が非平行に下がる形となり、排気不良が生じる可能性が考えられる。
【0078】
また、比較例に係る真空処理装置としては、上蓋30の位置を調整するための調整機構を有するものが考えられる。
図9及び
図10は、比較例に係る真空処理装置の調整機構を説明するための拡大断面図である。なお、図中において本実施形態に係る真空処理装置1と共通する部材については、同じ符号を付して説明する。
【0079】
図9においては、ヒンジ機構40の下方に設けられた複数のシム45が、上蓋30の位置を調整するための調整機構として機能する。
図9の調整機構は、積層されたシム45の個数や種類を変更することにより、ヒンジ機構40の取り付け高さを変更する。これにより、調整機構は、チャンバー10に対する上蓋30の位置を調整することができる。
【0080】
一方、
図10においては、ヒンジ機構40は、ヒンジ軸411を中心に回動可能に連結されたアーム部412と、アーム部412と上蓋30とを締結するための締結ボルト46とを備え、調整機構として機能する。
図10の調整機構は、締結ボルト46の締め込み量を変更することにより、アーム部412と上蓋30との間隔が調整することで、チャンバー10に対する上蓋30の位置を調整することができる。しかし、
図9及び
図10のいずれの調整機構においても、上蓋30を適切な位置に調整することは容易ではない。
【0081】
また、上述した特許文献1に示されたヒンジ機構を有する真空処理装置の場合、真空排気時には上蓋とともにヒンジ機の軸が下がるため、排気不良は解決できると考えられる。しかし、上蓋の開閉中にはヒンジの軸部に対して上蓋の荷重がかかるため、それに相応した強固なバネを備える必要がある。そのような強固なバネをヒンジ部に組み込むことは容易ではない。例えば、真空処理装置の上蓋が200kgの重量を有する場合、1つのヒンジに対して100kgを超える荷重がかかることになる。
【0082】
したがって、同機構では、バネの力が上蓋を十分保持できる強さを有する場合には、非常に大きいバネが必要になってしまう。逆に、同機構では、バネの力が弱い場合には、ヒンジ部のヒンジ軸が当該ヒンジ軸を通す穴に対して上蓋30の開閉時に上下方向に動いてしまう可能性がある。よって、軸部の摩耗等による摩擦力の増加で開閉時に余分な摩擦が生じて開閉動作に力を要する、あるいは、ヒンジ軸の位置が開閉時にずれることによって意図する場所に上蓋30を位置決めすることができない等の不都合が生じ得る。
【0083】
これに対し、本実施形態に係る真空処理装置1によれば、ヒンジ機構40の位置に対応して上壁部11の一部に第2開口部112が形成されているので、真空排気処理時にはチャンバー10の内部空間Sだけでなく、第2開口部112及び貫通孔421により構成される通気経路に対しても排気が行われる。これにより、大気圧と真空との差圧によってヒンジ機構40は鉛直下方向の力を受け、ヒンジ機構40の固定位置は上蓋30とチャンバー10との間を封止する第1封止部材50の弾性変形に追従して鉛直下方向に動く。このため、大気圧状態及び真空状態の両方の状態において、上蓋30とヒンジ機構40との位置関係を維持できる。すなわち、大気圧状態及び真空圧状態において、上蓋30とヒンジ機構40との間を確実に封止することができる。
【0084】
また、上蓋30とヒンジ機構40との位置関係を維持できるため、上蓋30とヒンジ機構40との位置関係の調整及び確認は、大気圧状態において一度だけ行えばよい。例えば、大気圧状態でチャンバー10の上壁部11の第1封止部材50の上には上蓋30を設置し、第2封止部材60の上にはヒンジ機構40を設置する。次に、この設置状態において、ヒンジ機構40の上下位置を合わせる調整を行えばよい。確認結果によっては、調整は不要の場合もある。
【0085】
本実施形態に係る真空処理装置1を用いる場合には、具体的には以下の確認を行う。先ず、大気圧状態で第1封止部材50を上壁部11に設置して上壁部11と上蓋30との隙間の寸法、すなわち
図5に記載のst+Ltを測定し、その値をaとする。次に第2封止部材60の設置部において隣接する台座42同士及び上壁面11と台座42との間で生じている隙間の寸法、すなわち
図7に記載のsh+Lhを測定し、その値の合計をbとする。なお、a<bの場合は、その後の調整は不要である。
【0086】
a>bの場合は、真空排気時に41ヒンジ本体41に大きな力がかかるのでa<bとなるように調整が必要である。調整の方法は、例えばショルダーボルト43のネジ部にスペーサを挿入して台座42をおさえこむ量を小さくする手法がある。
【0087】
ただし、上述のように第1封止部材50及び第2封止部材60のつぶししろ及びつぶし量が予め計算されており、台座42を締め込むショルダーボルト43の締め込み量も、第2封止部材60のつぶし量が適切となるようにするので調整の必要性は低い。したがって第1封止部材50及び第2封止部材60を装置の内部に組み込むだけでよいため、組立時間を短縮でき、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0088】
また、比較例に係る真空処理装置とは異なり、ヒンジ機構40側に複雑な構造の調整機構を設ける必要がなく、構造を単純化できる。また、第1封止部材50及び第2封止部材60の選定は、上述のように計算式を用いて容易に行えるため、使用する第1封止部材50及び第2封止部材60の種類や個数等の検討も容易である。
【0089】
<変形実施形態>
上述した実施形態においては、上蓋30側に使用する第1封止部材50及びヒンジ機構40側に用いる第2封止部材60が同じ硬度を有するOリングである場合を説明した。しかし、第1封止部材50及び第2封止部材60の硬度は、互いに異なってもよい。
【0090】
例えば、上蓋30側の第1封止部材50よりも硬度が小さい第2封止部材60をヒンジ機構40側に使用することもできる。真空処理装置の用途ではフッ素ゴムの使用が適しており、例えば上蓋30に使用する第1封止部材50として「硬さ(ショアA)70」のOリングを使用し、ヒンジ機構40側に使用する第2封止部材60として「硬さ(ショアA)60」のOリングを使用してもよい。この場合、第2封止部材60を第1封止部材50よりもつぶれ易くできる。具体的には、第1封止部材50に加える力の約半分の力を第2封止部材60に加えることで、鉛直方向において同等のつぶし量を得ることが可能となる。
【0091】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために以下の請求項を添付する。
【符号の説明】
【0092】
1・・・真空処理装置
10・・・チャンバー
11・・・上壁部
12・・・側壁部
13・・・側壁部
14・・・底壁部
20・・・排気機構
30・・・上蓋
40・・・ヒンジ機構
41・・・ヒンジ本体
42,42a~42d・・・台座
50・・・第1封止部材
60,60a~60d・・・第2封止部材
111・・・第1開口部
112・・・第2開口部
113・・・溝
421・・・貫通孔
422・・・溝