(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】リチウム化合物の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20240308BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240308BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20240308BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B7/00 C
C22B1/00 101
C22B3/44 101Z
(21)【出願番号】P 2023179938
(22)【出願日】2023-10-19
【審査請求日】2023-10-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】重森 一範
(72)【発明者】
【氏名】山本 嘉教
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏明
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2408888(KR,B1)
【文献】特開2011-230957(JP,A)
【文献】特開2016-191143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
H01M 4/00 - 4/62
C01D 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極材粉末および正極材粉末前駆体が除去された使用済み正極反応容器を粉砕した粒子を水中で攪拌し、次いでろ過を行い、得られたろ液に
ポリ塩化アルミニウムおよび硫酸アルミニウムから選択されるカチオン系凝集剤を加えて、さらにろ過を行うリチウム化合物の回収方法。
【請求項2】
前記粉砕した粒子が、目開き0.5mmメッシュを通過する粒子である、請求項1記載のリチウム化合物の回収方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の回収方法で得たリチウム化合物と炭酸ナトリウムとを反応させて炭酸リチウムを得る、炭酸リチウムの回収方法。
【請求項4】
請求項1
または2に記載の回収方法で得たリチウム化合物と二酸化炭素とを反応させて炭酸リチウムを得る、炭酸リチウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の使用済み正極反応容器からリチウム化合物を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、正極材の製造を反応容器(反応ルツボともいう)で行っている。正極材の原料の水酸化リチウム(LiOH・H2O)は、リチウム二次電池の高容量性能向上のために前駆体と混合および焼成時に過剰に使用されており、これにより正極材製造後、水洗過程を経て過剰のリチウム成分を除去しなければならない。
さらに、高温で進行する正極材製造過程で過剰に使用した水酸化リチウムの腐食反応により、正極材製造時に使用される反応容器が腐食されるため約30日周期で交換が必要になる。
従来、使用済反応容器は、廃棄されていたが反応容器には水酸化リチウムが高濃度に含侵しているため、リチウム化合物を回収し、正極材に再利用できると資源を有効活用できる。
【0003】
そこで、特許文献1には使用済み反応容器からのニッケル、コバルト、マンガンおよびリチウム化合物の回収方法が開示されている。
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の回収方法は、腐食性が高い硫酸を使用するため特別な装置が必要であった。また、使用済み反応容器を塩酸などの酸でリチウム化合物を抽出すると、リチウム以外の金属の回収量が増加(特にアルミニウムの回収量が増加)するため、後の精製工程でリチウム化合物の収率が低下する問題があった。
membrane capacitive deionization(MCDI)のような収着媒体と電場の組み合わせを使用する電気収着法によりリチウムを選択的に回収する方法はあるが、電極に引き寄せられるリチウムイオンしか処理できないため、リチウムの回収量が少ない問題があった。
【0006】
本発明の目的は、簡便かつ効率的にリチウム化合物を回収する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>本発明のリチウム化合物の回収方法は、正極材粉末および正極材粉末前駆体が除去された使用済み正極反応容器を粉砕した粒子を水中で攪拌し、次いでろ過を行い、得られたろ液にカチオン系凝集剤を加えて、さらにろ過を行い、リチウム化合物を回収する方法である。
<2>前記カチオン系凝集剤がポリ塩化アルミニウムおよびポリマー凝集剤からからなる群から選択される1種以上である、<1>のリチウム化合物の回収方法。
<3>前記粉砕した粒子が、目開き0.5mmメッシュを通過する粒子である、<1>または<2>のリチウム化合物の回収方法。
<4><1>~<3>いずれかの回収方法で得たリチウム化合物と炭酸ナトリウムとを反応させて炭酸リチウムを得る、炭酸リチウムの回収方法。
<5><1>~<3>いずれかの回収方法で得たリチウム化合物と二酸化炭素とを反応させて炭酸リチウムを得る、炭酸リチウムの回収方法。
【発明の効果】
【0008】
上記の本発明により簡便かつ効率的にリチウム化合物を回収する方法を提供できる。また本発明によりリチウム化合物から炭酸リチウムを回収する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のリチウム化合物の回収方法は、正極材粉末および正極材粉末前駆体が除去された使用済み正極反応容器を粉砕した粒子を水中で攪拌し、次いでろ過を行い、得られたろ液にカチオン系凝集剤を加えて、再度、ろ過を行い、リチウム化合物を回収する方法である。
【0010】
本発明のリチウム化合物の回収方法は、特別な装置を使用せずに正極材粉末および正極材粉末前駆体が除去された使用済み正極反応容器を粉砕した粒子を水中で攪拌し、次いでろ過を行い、ろ液を得る。得られたろ液には、リチウム化合物の他に正極反応容器由来のケイ素化合物やアルミニウム化合物が含まれる。得られたろ液にカチオン系凝集剤を加えて攪拌混合すると、ろ液中のマイナス電荷を有する微細な粒子とプラス電荷を有するカチオン系凝集剤が中和反応し、凝集物が生成する。次いでろ過を行い、前記凝集粒子を分離して、リチウム化合物を含む水溶液が得られる。ケイ素化合物やアルミニウム化合物の粒子は、マイナス電荷を有する場合が多くカチオン系凝集剤との中和反応で凝集物を生成するため、ろ過で除去できる。前記ろ過によりリチウム以外の金属化合物の大部分を除去できるため効率的にリチウム化合物を回収できる。
【0011】
<正極反応容器>
本発明で使用する正極反応容器は、リチウム二次電池の正極材の製造に使用される正極反応容器であればよく、特に限定されない。一般的には、Al2O3-SiO2-MgOを主成分とするセラミック製容器を使用することが好ましい。
【0012】
<使用済み正極反応容器の前処理>
使用済み正極反応容器の表面にはニッケル、コバルト、マンガン、およびリチウム等を含む正極材粉末前駆体が高濃度に堆積しているため、これらを回収して再利用する。これにより回収後の使用済み正極反応容器に残存する金属はリチウムが最も多くなる。なお、正極材粉末および正極材粉末前駆体は、使用済み正極反応容器から可能な範囲で除去すれば良く、少量が残量することを妨げない。
【0013】
<使用済み正極反応容器を粉砕する工程>
使用済み正極反応容器を粉砕する工程では、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。使用済み正極反応容器を粉砕する工程は、例えば、荒く粗砕する一次粉砕工程、およびスクリーン(穴の開いた金属板)等を通して、一定以下の粒子径まで粉砕する二次粉砕工程を行うことができる。
一次粉砕工程は、粗砕機や破砕機で正極反応容器を微粉砕機や超微粉砕機に投入できる大きさにまで粗砕する。二次粉砕工程は、粗砕物を微粉砕機や超微粉砕機で0.5mm以下に粉砕することが好ましい。
一次粉砕工程に使用される粗砕機は、例えば、衝撃式破砕機、圧縮式粗砕機、切断・せん断式粗砕機等が挙げられる。前記圧縮式粗砕機は、例えば、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、インパクトクラッシャー等が挙げられる。
一次粉砕工程に使用される破砕機は、例えば、一軸破砕機、二軸破砕機、ハンマー式破砕機、移動式破砕機等が挙げられる。
【0014】
二次粉砕工程に使用される微粉砕機は、例えば、ローラーミル、ジェットミル、高速回転粉砕機、容器駆動型ミル等が挙げられる。前記高速回転粉砕機は、例えば、ハンマーミル、ピンミルが挙げられ、前記容器駆動型ミルは、例えば、回転ミル、振動ミル、遊星ミル等が挙げられる。
二次粉砕工程には超微粉砕機を使用できる。超微粉砕機は、例えば、媒体攪拌ミルが挙げられる。前記媒体攪拌ミルは、例えばアトライター、ビーズミル等が挙げられる。
【0015】
二次粉砕工程で使用される粉砕機にはスクリーン(穴の開いた金属板)が使用できる。破砕する対象物がスクリーンの穴のサイズより小さい場合にのみ排出されるようになっており、前記スクリーンの目開きとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5mm以下のスクリーンを選定すると、正極反応容器を粉砕した粒子(以下、粉砕粒子という)の粒子径を0.5mm以下にコントロールできる。これにより粉砕粒子は、目開き0.5mmメッシュを通過する粒子に選別できる。
粉砕粒子を0.5mm以下にすると水中でのリチウム化合物の抽出率が向上する。
【0016】
<粉砕粒子を水中で攪拌する工程>
0.5mm以下の粉砕粒子に対して、3倍以上の質量の水を加える。次いで、30℃以上で10分以上加熱攪拌することでリチウム化合物を水層に抽出させる。使用する水の重量は、リチウムの抽出効率を考えると3倍以上が好ましく、5~10倍がより好ましい。水の質量を粉砕粒子の3倍以上にするとリチウム化合物の抽出効率が向上する。また、同じく10倍以下にするとろ過での分離効率が向上する。なお、水を使用する際、水と混和する親水性溶媒(例えば、アルコール等)も使用できる。
【0017】
抽出温度は30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。温度上昇に比例してリチウム化合物の水層への抽出効率は向上する。抽出時間は30分以上が好ましく1時間以上がより好ましい。抽出時間を延ばすほどリチウム化合物の抽出率は向上する。ただし、抽出設備などにより条件は異なってくる。
【0018】
<第1のろ過>
粉砕粒子を水中で攪拌し、次いでろ過を行い、粉砕粒子を除去したろ液を得る。ろ過の方法は、限定されないが、0.5mm以下の粉砕品をできるだけ除去することが好ましい。これにより粉砕粒子を抑制し、リチウム化合物の回収効率を高める。そのため、例えば、目の粗いろ紙から目の細かいろ紙までを使用して、段階的にろ過した後、メンブレンフィルターを用いて粉砕粒子を除去できる。
前記ろ材は、公知の種々のろ材を使用できる。
ろ材は、材質、構造、形状、目の粗さ(ろ過精度とも言う)で大別できる。
【0019】
ろ材の材質は、無機化合物および有機化合物に大別できる。
無機化合物は、例えば、チタン等の金属;ステンレス、ハステロイ等の合金;アルミナ、ジルコニア、酸化チタン;等の金属酸化物(セラミック);グラスファイバー等の二酸化ケイ素(ガラス)、活性炭、珪藻土等が挙げられる。
有機化合物は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロアルコキシアルカン、セルロースフェノール樹脂、ナイロン、ナイロン66、レーヨン、アセテート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、コットン、ウール、シルク等が挙げられる。
【0020】
ろ材の構造は、メッシュ、パウダー(粒子)、ファイバー等が挙げられる。
メッシュは、ろ材を繊維状に加工し、規則的に織った形状である。繊維同士の空隙を利用して粗大粒子を捕捉する。織り方としては、例えば、平織、綾織、畳織、綾畳織;等が挙げられる。
パウダーは、ろ材を微小粒子状に加工した形状である。微小粒子を密集させ、微小粒子同士の空隙を利用して粗大粒子を捕捉する。
ファイバーは、ろ材を繊維状に加工し、不規則的に絡み合わせた形状である。繊維同士の空隙を利用して粗大粒子を捕捉する。
上記以外にも、溶剤を含んだ空隙のない樹脂を薄膜状にし、溶剤を蒸発させることで樹脂に微小な空隙を生成させた構造(相転換法)、空隙のない樹脂を薄膜状にし、引っ張ることで微小な空隙を生成させた構造(延伸法)等が挙げられる。
【0021】
ろ材の形状は、例えば、ディスクフィルター、メンブレンフィルター、カートリッジフィルター等が挙げられる。前記カートリッジフィルターは、例えば、デプスフィルター、プリーツフィルター、デプスプリーツフィルター、糸巻きフィルター等が挙げられる。
デプスフィルターは、カートリッジの芯材の外側に厚みのあるろ材を配置し、ろ材の厚さを生かしてろ過を行うフィルターである。
プリーツフィルターは、カートリッジの芯材の外側に薄いろ材をひだ状に折った形状を有している。ろ材の面積の広さを生かしてろ過を行うフィルターである。
デプスプリーツフィルターは、カートリッジの芯材の外側に厚みのあるろ材をひだ状に折った形状を有している。ろ材の厚さと面積の広さを生かしてろ過を行うフィルターである。
デプスフィルターは、ろ材の厚さが厚く、粗大粒子を捕捉できる空隙が多いため、低粘度で粗大粒子が多い液体をろ過する用途に適する。プリーツフィルターは、ろ材の厚さが薄く、粗大粒子を捕捉できる空隙が少ないため、高粘度で粗大粒子が少ない液体をろ過する用途に適する。デプスプリーツフィルターは、両方の特性を併せ持つ。
【0022】
ろ材の目の粗さ(ろ過精度)としては、対象物のサイズに応じ、1nm~1mmの範囲で任意のろ材を選定することができる。
【0023】
ろ材の目の粗さ(ろ過精度)は、以下の方法で測定できる。
ろ材の目の粗さが50μm未満の場合、精製水中にダストとしてACFTD(ISO4402で規定された、粒子径50μm以下の分布を有する天然粒子)を添加し、10リットル/分の流量でろ過を開始し、メーカーの定める交換差圧に達するまでろ過を行い、交換差圧に達した時点でのろ液を採取する。ろ過前後の溶液をそれぞれ、パーティクルカウンター(BECKMAN COULTER社製HIAC9703+(測定レンジ0.5~600μm))を用いて粒子個数をカウントし、以下の数式(1)によりβ値(ろ過比)を算出し、β値が1,000以上(99.9%以上の粒子が除去された事を意味する)となった粒子サイズを、ろ材の目の粗さ(ろ過精度)とする。
【0024】
【0025】
ろ材は、ろ過勾配を有する構造が好ましい。ろ過勾配とは、ろ材の目の粗さが段階的に小さくなる構造である。ろ過前の溶液が接触する側のろ材の目の粗さが最も大きく、ろ過後の溶液が排出される側のろ材の目の粗さが最も小さくなる構造とすることで、大きな粒子から小さな粒子へと段階的に粗大粒子が除去されるため、粗大粒子が効率的に除去され、ろ材の寿命が長くなるため好ましい。
【0026】
本発明で用いるろ材の材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、グラスファイバーが好ましい。
ろ材の構造は、ファイバー、相転換法で得られる構造、延伸法で得られる構造が好ましい。
ろ材の形状は、デプスフィルターまたはデプスプリーツフィルターが好ましい。
ろ材の目の粗さ(ろ過精度)は、1~500μmが好ましく、10~300μmがより好ましく、50~150μmがさらに好ましい。
上記したろ材を選定することで、より効率的に粗大粒子を除去できる。
【0027】
ろ材の市販品は、例えば、ロキテクノ社製デプスフィルターSLSシリーズ(材質:ポリプロピレン、構造:ファイバー、形状:デプス、ろ過勾配を有する)、MPXシリーズ(材質:ポリプロピレン、構造:ファイバー、形状:プリーツ)、CTYシリーズ(材質:ポリテトラフルオロエチレン、構造:引っ張ることで微小な空隙を生成させた構造、形状:メンブレン)、SLPシリーズ(材質:ポリプロピレン、構造:ファイバー、形状:デプスプリーツ)、DIA-CSシリーズ(材質:コットン、構造:ファイバー、形状:糸巻き)、SNNシリーズ(材質:ナイロン、構造:ファイバー、形状:デプス、ろ過勾配を有する)、MPSシリーズ(材質:ポリエステル、構造:ファイバー、形状:プリーツ);等が挙げられる。
【0028】
ろ過する際の温度は、5~80℃が好ましく、15~60℃がより好ましく、20~45℃がさらに好ましい。ろ過する際の圧力は、0.01~2.00MPaが好ましく、0.02~1.00MPaがより好ましく、0.03~0.5MPaがさらに好ましい。
【0029】
<カチオン系凝集剤の添加および第2のろ過>
得られたろ液には、リチウム化合物の他に正極反応容器由来のケイ素化合物やアルミニウム化合物が含まれる。得られたろ液にカチオン系凝集剤を加えて攪拌混合すると、ろ液中のマイナス電荷を有する微細な粒子とプラス電荷をカチオン系凝集剤が中和反応し、凝集物が生成する。次いでろ過を行い前記凝集粒子を分離して、リチウム化合物を含む水溶液が得られる。ケイ素化合物やアルミニウム化合物の粒子は、マイナス電荷を有する場合が多くカチオン系凝集剤との中和反応で凝集物を生成するためろ過で除去できる。前記ろ過によりリチウム以外の金属化合物の大部分を除去できるため効率的にリチウム化合物を回収できる。この第2のろ過を実施した第2のろ液のリチウム濃度はICP分析において通常50%以上である。リチウム濃度が50%未満の場合は、その後の精製工程でリチウムを単離する効率が低下する。
【0030】
カチオン系凝集剤は、例えば、無機凝集剤、ポリマー凝集剤が挙げられる。無機凝集剤は、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第一鉄、消石灰、海水等が挙げられる。これらに中でも凝集効率の面でポリ塩化アルミニウムが好ましい。
ポリマー凝集剤は、例えばカチオン性ポリマー凝集剤等が挙げられる。
なお、無機凝集剤を添加した凝集物に、さらにポリマー凝集剤を添加するとより大きな凝集物が生成するため、後のろ過工程で分離しやすくなる。ポリマー凝集剤は、例えば、カチオン性凝集剤が必須だが、アニオン性凝集剤やノニオン性凝集剤を適宜選択して使用できる。
【0031】
カチオン系凝集剤の使用量は、ろ液100質量部に対して0.05~0.40質量部が好ましく、0.10~0.30質量部がより好ましい。適量使用するとケイ素化合物やアルミニウム化合物の凝集効率が向上し、ろ過が容易になる。
【0032】
ろ過は、凝集物を除去できれば良く限定されない。孔径5μm以下のフィルターでろ過することが好ましい。これによりろ液へのカチオン系凝集剤やリチウム以外の金属化合物の混入を抑制できる。ろ過は、より小さな孔径のフィルター、さらに小さな孔径のフィルターを使用する等、複数回行うことがきる。
フィルターは、既に説明したろ材を使用できる。フィルターは、例えば、メンブレンフィルター、セルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター、セルロースアセテートタイプメンブレンフィルター、PTFEタイプメンブレンフィルター、親水性PTFEタイプメンブレンフィルター、ポリカーボネートタイプメンブレンフィルター、コーテッドタイプフィルター等のメンブレンフィルターが好ましい。
【0033】
フィルターの孔径は、5μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましい。
また、ろ過は、前記フィルターでろ過を行う前に前処理を行うことが好ましい。前処理は、フィルターの目詰まり防止のため、ろ過サイズが大きなろ材で大きな凝集物を除去するために行う。前処理は、ろ過サイズ大、中、小のように複数のろ材を準備し、複数回前処理を行うことができる
前処理に使用するろ材は、例えば、ロキテクノ社製デプスフィルターSLSシリーズ(材質:ポリプロピレン、構造:ファイバー、形状:デプス、ろ過勾配を有する)、MPXシリーズ(材質:ポリプロピレン、構造:ファイバー、形状:プリーツ)、CTYシリーズ(材質:ポリテトラフルオロエチレン、構造:引っ張ることで微小な空隙を生成させた構造、形状:メンブレン)、SLPシリーズ(材質:ポリプロピレン、構造:ファイバー、形状:デプスプリーツ)、DIA-CSシリーズ(材質:コットン、構造:ファイバー、形状:糸巻き)、SNNシリーズ(材質:ナイロン、構造:ファイバー、形状:デプス、ろ過勾配を有する)、MPSシリーズ(材質:ポリエステル、構造:ファイバー、形状:プリーツ)等が挙げられる。
【0034】
<得られたリチウム抽出溶液から炭酸リチウムを単離する工程>
本発明の炭酸リチウムの回収方法は、上記回収方法で得たリチウム化合物と炭酸ナトリウムとを反応させて炭酸リチウムを得る方法である。
得られたリチウムを含む抽出液にリチウムと当量以上の塩酸を加えて、塩化リチウムを生成させる。次いで塩酸と当量以上の炭酸ナトリウム水溶液を加えると結晶が析出する。この結晶をろ過で回収し、水分を除去すると炭酸リチウムが得られる。
【0035】
本発明の他の炭酸リチウムの回収方法は、上記回収方法で得たリチウム化合物と二酸化炭素とを反応させて炭酸リチウムを得る方法である。
得られたリチウムを含む抽出液にリチウムと当量以上の塩酸を加えて、塩化リチウムを生成させる。次いで二酸化炭素を反応させると結晶が析出する。この結晶をろ過で回収し、水分を除去すると炭酸リチウムが得られる。二酸化炭素の導入方法としては、抽出液中にバブリングすることが好ましく、反応温度は25℃から100℃が好ましく、さらに好ましくは60℃~100℃である。25℃以下だと反応の進行が遅くなる。
リチウム抽出液に塩酸を加えて、塩化リチウムを生成させてから、炭酸ナトリウム、または二酸化炭素を反応させることでも炭酸リチウムは得られる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に特に限定されない。なお、実施例中、「部」は「質量部」「%」は「質量%」を表す。
【0037】
(実施例1)
ニッケル、コバルトおよびマンガン系列正極材の製造に30日間使用した正極反応容器(主成分:Al2O3-SiO2-MgO)からタッピングを行い、次いで表面を水洗して正極材粉末および正極材粉末前駆体を除去して使用済み正極反応容器を準備した。
前記使用済み正極反応容器をジョークラッシャーで一次粉砕して、粗砕物を得た。得られた粗砕物をマキノ式粉砕機(機種名:DD-2-3.7、槇野産業社製)を用いて回転数3500rpmで二次粉砕して粉砕物を得た。得られた粉砕物を目開き0.5mmのステンレス製スクリーンを使用して、粒子径0.5mm以下の粉砕粒子を得た。
温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、得られた粉砕粒子200部と蒸留水1000部を仕込み、90℃で1時間攪拌した。得られたスラリーをメンブレンフィルター(セルロース混合エステルタイプ 孔径3μm、ADVANTEC社製)でろ過し、第1のろ液950部を得た。
得られた第1のろ液のICP(高周波誘導結合プラズマ)分析を行った結果44.5%がリチウム原子であった。
次に第1のろ液400部を攪拌しながら、ポリ塩化アルミニウム(Al2O3、30%)3.0部を添加し、1時間攪拌した。この溶液をメンブレンフィルター(セルロース混合エステルタイプ 孔径0.1μm、ADVANTEC製)でろ過し、カチオン凝集剤凝集物を除去しリチウム化合物を含む第2のろ液を得た。なお、リチウム化合物の主成分は水酸化リチウムであった。
【0038】
<リチウム濃度評価>
得られた第2のろ液をICP分析(装置名:ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分析 アジレント製 720-ES))を行った。分析の結果、不揮発分中のリチウム原子の比率は92.4%であった。第2のろ液中のリチウム原子の含有量を回収効率の面から以下の基準で評価した。
【0039】
<リチウム回収量>
使用済み正極反応容器粉砕粒子(以下、粒子という)を処理した第2のろ液1gに含まれるリチウムの総量が2500ppm/るつぼ1g以上、〇良好
粒子を処理した第2のろ液1gに含まれるリチウムの総量が1000ppm/るつぼ1g以上 △実用可
粒子を処理した第2のろ液1gに含まれるリチウムの総量が1000ppm/るつぼ1g未満 ×実用不可
【0040】
<リチウム純度>
第2のろ液からリチウム化合物を効率的に取り出すためにはリチウム原子濃度が一定以上であることが好ましい。その観点から以下基準で評価した。
リチウム原子の比率が90%以上 ◎優れている
リチウム原子の比率が70%以上90%未満 〇良好
リチウム原子の比率が60%以上70%未満 △実用域
リチウム原子の比率が60%未満 ×実用不可
【0041】
(実施例2~7,比較例1)
実施例1の回収方法を表1に示した条件に変えた以外は、実施例1と同様に行い、実施例2~7,比較例1の方法でそれぞれリチウム化合物を回収した。
【0042】
【0043】
表1の結果から実施例1~7は、カチオン系凝集剤を使用しているため第2のろ液中のケイ素化合物の混入を抑制しつつ、リチウム化合物を高濃度で回収できる。
(実施例8)
実施例1で得られた第二のろ液300部に35%塩酸15.3部を加え、次に炭酸ナトリウム15.6部を水68.0部に溶解させた溶液を添加した。ロータリーエバポレーターで水を360部除去し、得られたスラリーをメンブレンフィルター(セルロース混合エステルタイプ 孔径0.1μm、ADVANTEC社製)でろ過した。次いで得られたろ物を200℃10分で乾燥させ、1.2部の白色固体を得た。白色固体はXRD分析で炭酸リチウムであることを確認した。なお、ICP分析の結果リチウム濃度は98.6%であった。
【0044】
(実施例9)
実施例1で得られた第二のろ液300部に35%塩酸15.3部を加え、二酸化炭素を吹き込みながら2時間攪拌した。ロータリーエバポレーターで水を290部除去し、得られたスラリーをメンブレンフィルター(セルロース混合エステルタイプ 孔径0.1μm、ADVANTEC製)でろ過した。次いで得られたろ物を200℃10分で乾燥させ、0.8部の白色固体を得た。白色固体はXRD分析(XRD(リガク製 SmartLab)で炭酸リチウムであることを確認した。なお、ICP分析の結果リチウム濃度は96.4%であった。
【0045】
実施例8および9の結果の通り、リチウム化合物から炭酸リチウムを回収できる。
【要約】
【課題】本発明の目的は、簡便かつ効率的にリチウム化合物を回収する方法の提供を目的とする。
【解決手段】正極材粉末および正極材粉末前駆体が除去された使用済み正極反応容器を粉砕した粒子を水中で攪拌し、次いでろ過を行い、得られたろ液にカチオン系凝集剤を加えて、さらにろ過を行うリチウム化合物の回収方法。なお、前記カチオン系凝集剤は、ポリ塩化アルミニウムおよびポリマー凝集剤からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【選択図】なし