(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】川崎病罹患判定キット及び川崎病罹患判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240308BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240308BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240308BHJP
【FI】
G01N33/53 W
C07K14/705 ZNA
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2019163111
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】510089878
【氏名又は名称】地方独立行政法人福岡市立病院機構
(73)【特許権者】
【識別番号】512132170
【氏名又は名称】株式会社プリメディカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 寿郎
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 洋
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0052200(US,A1)
【文献】特開2001-050966(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0377905(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0316921(US,A1)
【文献】HE Yue-E et al.,Oxidised Low-Density Lipoprotein and Its Receptor-Mediated Endothelial Dysfunction Are Associated wi,Journal of Cardiovascular Translational Research,2019年08月19日,Vol.13(2020),pp.204-214
【文献】KIM Hideaki et al.,Changes in apolipoproteins during the acute phase of Kawasaki disease,Acta Paediatrica Japonica,1995年12月,Vol.37, No.6,pp.672-676
【文献】鬼頭敏幸,川崎病の検査・診断 冠動脈病変マーカー(PTX3,sLOX-1,MMP),日本臨床,2016年08月20日,Vol.74, 増刊号No.6,pp.513-517
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性期川崎病の罹患
後の回復を検出するための方法であって、被験体から採取された単位量あたりの血液試料中に含まれる
アポリポタンパク質B含有Lox-1リガンド(LAB
)の量を測定してその測定値を得る測定工程
を含み、
前記測定工程で得られた測定値が所定のカットオフ値よりも低い場合、又は前記測定工程で得られた測定値を健常体群から採取された単位量当たりの血液試料中に含まれるLAB量と比較したときに、その間に有意差がない場合、その被験体は川崎病の罹患後、回復期に入っていることを指標とする、
前記方法。
【請求項2】
前記測定工程はLABと
レクチン様酸化低密度リポタンパク質受容体1タンパク質(LOX-1タンパク質
)及び/又はLAB結合能を有するその一部との受容体-リガンド活性を用いて測定する、請求項
1に記載の川崎病の罹患
後回復検出方法。
【請求項3】
前記LOX-1タンパク質が以下の(a)~(c)で示すいずれかのポリペプチドである、請求項2に記載の川崎病の罹患後回復検出方法。
(a)配列番号2で示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号2で示すアミノ酸配列において1~20個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたポリペプチド
(c)配列番号2で示すアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチド
【請求項4】
前記その一部が、以下の(d)~(f)で示すいずれかのポリペプチドである、請求項2に記載の川崎病の罹患後回復検出方法。
(d)配列番号3~5のいずれかで示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(e)配列番号3~5のいずれかで示すアミノ酸配列において1~15個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたポリペプチド
(f)配列番号3~5のいずれかで示すアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチド
【請求項5】
前記血液試料が血液、血清、又は血漿のいずれかである、請求項
1~
4のいずれか一項に記載の川崎病の罹患
後回復検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、川崎病罹患判定キット及び川崎病罹患判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
川崎病(Kawasaki Disease: 以下、しばしば「KD」と表記する)は、全身性血管炎を特徴とする発熱性疾患である。主として5歳未満の小児期に好発し、無治療の場合には約25~30%の割合で冠動脈異常(coronary artery lesions:CAL)を合併するため、血栓形成等による心筋梗塞発症のリスクファクターとなり得る。それ故に、現在、KDは先進国における小児期発症心疾患の主な原因として認識されている(非特許文献1~3)。
【0003】
川崎病は、1967年に報告されて以来、半世紀以上を経た現在でも、その病因及び成人心血管疾患との関連性は明らかにされていない(非特許文献1、4)。
【0004】
トロント小児病院の環境疫学研究は、疫学的研究からアレルゲンや大気中生物粒子等の外界刺激の少ない良好な衛生環境で生活した小児が、その後、何らかの感染性又は環境的誘因因子に曝露されることによってKDを発症し得ることを示唆している(非特許文献5)。したがって、KDは何らかの環境因子を契機に、過剰な免疫応答が生じ、特定の遺伝因子を有する小児に血管炎を起こすと考えられる。
【0005】
KDの原因として、これまでに多くの病原体が報告されたものの、異なるコホートで一致する結果が得られた研究はほとんどない。唯一の例外は、腸内細菌科に属するエルシニア シュードツベルクローシス(Yersinia pseudotuberculosis)であり、実際、日本ではY. pseudotuberculosis感染者の約10%がKDを発症している(非特許文献6)。欧州でもY. pseudotuberculosis感染が蔓延したときにKD発生率が上昇したことも確認されている。また、KD患者のうち、Y. pseudotuberculosis感染患者は、非感染患者よりも冠状動脈病変(CAL:coronary artery lesions)の発生率が高いことも知られている(非特許文献7)。
【0006】
以上の結果から、KDの発症には自然免疫系が重要な役割を果たすことが明らかとなっているが、その発生機序や原因因子については、依然明らかになっていない。それ故に、KDの診断は客観的な検査法が確立しておらず、現在でも臨床所見と、それに基づく他疾患の除外診断に依存している。したがって、KDの診断は、医師の主観や誤診を伴いやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hara T., et al,, 2016, Clin Exp lmmunol, 186: 134-143.
【文献】McCrindle B.W., et al., 2017, Circulation, 135: e927-e999.
【文献】Nakamura Y., 2018, Int J Rheum Dis, 21: 16-19.
【文献】Burgner D. & Harnden A., 2005, Int J lnfect Dis, 9: 185-194.
【文献】Manlhiot C, et al., 2018, PLoS One, 13: e0191087.
【文献】Sato K. et al., 1983, Pediatr Infect Dis, 2: 123-126.
【文献】Vincent, P., 2007, Pediatr Infect Dis J 26:629-63.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、KD罹患判定用マーカーを同定し、そのマーカーを用いて、KDの罹患の疑いがある被験者に対してKD罹患の有無を直接的に、かつ客観的に判定することのできるキット及び方法を開発し、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らはKDの原因因子の探索を目的として、KD患者群の血清を用いてLC-MS(Liquid chromatography mass spectrometry)分析法によるリピドミクス解析を行った。その結果、多数の分子を「川崎病特異的分子」として同定することができた。それらの中で28分子は、複数の異なるKD患者群において繰り返し検出されることを見出した(未発表)。さらに、そのうち2分子は、KDで併発することが知られている冠動脈異常にも関連していた。これら2分子についてLC-MS/MS(LC-tandem mass spectrometry)分析法を用いて構造解析を行った結果、1分子は、酸化ホスファチジルコリン(酸化PC)構造を有することが明らかとなった。酸化PCは、アポリポタンパク質Bと結合した状態でLAB(アポリポタンパク質B含有Lox-1リガンド)となる。LABは、動脈硬化の発症に関連する分子であることや、LOX-1タンパク質(レクチン様酸化低密度リポタンパク質受容体1タンパク質)と特異的に結合することが知られているが、KDとの関連についての報告は、これまでになかった。そこで、KD患者や健常者の血漿中のLAB存在量を、LOX-1タンパク質を捕捉体として用い、検証した結果、KD患者では、その量が有意に多いことが確認された。KD患者の血漿中のLAB量は、KD患者が回復期に入った後は、健常者と有意差が認められない程にその量が減少していた。これらの結果は、LABがKD罹患に関するバイオマーカーとなり得ることを示唆している。本発明は、KDに関する上記新規知見に基づくものであって、以下を提供する。
【0010】
(1)LAB捕捉器を含む川崎病罹患判定キットであって、前記LAB捕捉器は基材表面に固相化されたレクチン様酸化低密度リポタンパク質受容体1タンパク質(LOX-1タンパク質)及び/又はLAB結合能を有するその一部を含む、前記キット。
(2)前記LOX-1タンパク質が以下の(a)~(c)で示すいずれかのポリペプチドである、(1)に記載の川崎病罹患判定キット。
(a)配列番号2で示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号2で示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたポリペプチド
(c)配列番号2で示すアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチド
(3)前記その一部が、以下の(d)~(f)で示すいずれかのポリペプチドである、(1)に記載の川崎病罹患判定キット。
(d)配列番号3~5のいずれかで示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(e)配列番号3~5のいずれかで示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたポリペプチド
(f)配列番号3~5のいずれかで示すアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチド
(4)LAB検出剤をさらに含む、(1)~(3)のいずれかに記載の川崎病罹患判定キット。
(5)前記LAB検出剤が標識されている、(4)に記載の川崎病罹患判定キット。
(6)前記LAB検出剤が抗LAB抗体又はLAB結合能を有するその断片である、(4)又は(5)に記載の川崎病罹患判定キット。
(7)川崎病の罹患判定方法であって、被験体から採取された単位量あたりの血液試料中に含まれるLABの量を測定してその測定値を得る測定工程、及び前記測定工程で得られた測定値に基づいて、その被験体における川崎病の罹患の有無を判定する判定工程を含む、前記方法。
(8)前記判定工程は、前記測定工程で得られた測定値が所定のカットオフ値よりも高い場合、又は前記測定工程で得られた測定値が健常体群から採取された単位量当たりの血液試料中に含まれるLAB量と比較して有意に高い場合、その被験体が川崎病に罹患していると判定する、(7)に記載の川崎病の罹患判定方法。
(9)前記測定工程はLABとLOX-1タンパク質及び/又はLAB結合能を有するその一部との受容体-リガンド活性を用いて測定する、(7)又は(8)に記載の川崎病の罹患判定方法。
(10)前記血液試料が血液、血清、又は血漿のいずれかである、(7)~(9)のいずれかに記載の川崎病の罹患判定方法。
(11)LABの、川崎病の罹患判定のために用いるバイオマーカーとしての使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、KDに罹患の疑いのある被験者に対してKD罹患判定用マーカーを用いたKD罹患判定方法を適用することで、従来、臨床所見と除外診断に依存せざるを得なかったKDの診断を、直接的に、かつ客観的に判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】KD患者の血漿中におけるLABレベルを示す箱ひげ図である。図中、「Control」は通常対照者(n=5)の、「Disease Control」は疾患対照(n=7)の、また川崎病(KD)のうち「Acute」は急性期KD患者(n=16)由来の、そして「Convalescent」は回復期に入った元KD患者(n=8)の血漿試料を示す。図中、「*」はp<0.05を、また「***」はp<0.001(Tukey's HSD test)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.川崎病罹患判定キット(KD罹患判定キット)
1-1.概要
本発明の第1の態様は、川崎病罹患判定キット(KD罹患判定キット)である。本発明のキットは、LAB捕捉器を必須の構成要素として、またLAB検出剤を選択的構成要素として含む。本発明のKD罹患判定キットによれば、従来、臨床所見に基づく除外診断しか診断方法がなかったKDの罹患を高精度かつ高感度で判定可能となり、医師によるKD診断を補助することができる。
【0014】
1-2.定義
本明細書で頻用する用語について、以下で定義をする。
「川崎病(Kawasaki Disease: KD)」とは、前述のように、全身性血管炎を特徴とする小児性発熱性疾患である。本明細書では、罹患判定を目的とする対象疾患である。
【0015】
「川崎病(KD)罹患(を)判定(する)」とは、被験体におけるKD罹患の有無の判定、すなわち被験体がKDに罹患している疑いがあるか否かを判定する診断補助をいう。
【0016】
「LOX-1(lectin-like oxidized low-density lipoprotein receptor-1:レクチン様酸化低密度リポタンパク質受容体-1/レクチン様酸化LDL受容体-1)タンパク質」(本明細書では、しばしば「LOX-1タンパク質」と表記する)とは、N末端側を細胞質内に、そしてC末端側を細胞質外に露出させた1回膜貫通型の受容体型膜タンパク質である。ジスルフィド結合によりホモ二量体を形成し、血管内皮細胞、平滑筋、及びマクロファージ等で発現し、後述する酸化LDLのスカベンジャー受容体として機能しているが、近年では動脈硬化の促進因子としても注目をされている。LOX-1タンパク質は、血小板、内皮細胞、血管平滑筋、ニューロン及びマクロファージにおける虚血再灌流障害、活性酸素、及び炎症性サイトカインによって、その発現が誘導されることが知られている。
【0017】
「LDL(低比重リポタンパク質:low-density lipoprotein)」とは、アポタンパク質B(apo-protein B:apoB)からなるタンパク成分と、コレステロール、トリグリセリド、及びリン脂質からなる脂質成分が結合してなるリポタンパク質で、比重の低いものをいう。LDLは、肝臓で生産されたコレステロールを、血液を介して全身に輸送する機能を有する。LDLの血中濃度の増加は動脈硬化のリクスファクターとなることから、LDLは一般に「悪玉コレステロール」とも呼ばれている。
【0018】
「酸化LDL(oxidized LDL:ox-LDL)」とは、LDL中の脂質成分又はタンパク質成分が活性酸素等のフリーラジカルによって酸化的修飾や酸化的損傷を受けたLDLをいう。酸化LDLは、変性LDL、又はLAB(LOX-1 ligand containing apolipoprotein B:アポリポタンパク質B含有Lox-1リガンド)とも呼ばれる。本明細書では、断りのない限り酸化LDL又は変性LDLを「LAB」と表記する。KD罹患患者では、血液中のLABの量が有意に増加していることから、LABは、本明細書ではKD罹患判定用マーカーとして使用される。
【0019】
本明細書において「KD罹患判定用マーカー」とは、LABからなり、KD罹患の有無を判定することのできるバイオマーカーである。
【0020】
1-3.構成
本明細書のKD罹患判定キットは、LAB捕捉器を必須構成要件として、またLAB検出剤を選択構成要件として含む。以下、各構成要件について具体的に説明をする。
【0021】
1-3-1.LAB捕捉器
本明細書において「LAB捕捉器」は、基材と、その表面に固相化されたLOX-1タンパク質及び/又はその一部を備えてなる。
【0022】
(1)基材
本発明において「基材」とは、LOX-1タンパク質及び/又はその一部を固相化するための固相担体である。
【0023】
基材の材質は、少なくともその表面にLOX-1タンパク質及び/又はその一部を直接的に又は間接的に固相化できる材質であればよい。限定はしないが、非水溶性素材であることが望ましい。例えば、プラスチック、ガラス、金属、セラミックス、天然樹脂(例えば、天然ゴム又は漆)、天然繊維若しくは化学繊維又はそれらの集合体(例えば、紙、不織布、フィルター)、寒天のような多糖類高分子(例えば、寒天)、ゲル化タンパク質(例えば、ゼラチン、コラーゲン)、又はそれらの混合物が挙げられる。いずれの材質を選択するかは、LABの測定方法に応じて、適宜選択すればよい。例えば、ELISA法、蛍光法、又は比色法等の酵素免疫測定法で測定する場合、限定はしないが、コスト面、加工面及び操作等の理由から、プラスチックやガラスが好ましい。透明素材が好適である。プラスチックであれば、具体的には、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリサルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリビニルアルコール等を利用することができる。また、SPR測定センサやQCM測定センサ等で測定する場合、センサチップを構成する金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、銅(Cu)等の金属が好ましい。
【0024】
基材の形状は、本発明のキットの用途に応じて適宜定めることができる。形状例として、プレート(96穴マイクロタイタープレート等の方形を含む)、ディッシュ、チューブ、スティック、ビーズ、板、又は試験片等が挙げられる。ビーズ表面に形成させる場合には、基材は直径約1μm~約1cmの大きさの球体とすることができる。さらに、例えば、本発明のキットをSPR測定センサのセンサチップに使用するのであれば、基材は使用するSPR測定センサに適合する形状にすればよい。
【0025】
基材は、二以上の材質からなる多層構造体とすることもできる。例えば、ガラス表面に金薄膜が積層されている基材が該当する。このように基材が多層構造を有する場合、少なくとも基材表面を構成する層は、LOX-1タンパク質及び/又はその一部を固相化できる材質でなければならない。
【0026】
「基材表面」とは、被験体から採取された血液試料と直接接触し得る基材部分をいう。したがって、基材表面は、使用する基材の形状によって変化する。例えば、基材がスライドグラスのような板状の形状の場合、基材表面は、表裏及び/又は側面が該当する。また、基材がチューブ形状の場合、基材表面は、チューブ外面、内面及び断面が該当する。さらに、基材が球体形状の場合、基材表面は一般に球体外表面が該当するが、基材が内部空間を有し、当該内部空間が外界に一部開いている場合には、内部表面も含まれる。例えば、基材が中空ビーズの場合や多孔状素材の場合が該当する。
【0027】
「基材表面に固相化」とは、基材表面にペプチドを固定することをいう。ここでいうペプチドとは、本明細書では、特にLOX-1タンパク質及び/又はその一部が該当する。固相化の方法は、限定はしない。例えば、化学的吸着、物理的吸着、又は親和力が挙げられる。化学的吸着は共有結合又はイオン結合のような化学結合を含む。また、物理的吸着は、ファンデルワールス力を含む。
【0028】
(2)LOX-1タンパク質
本明細書におけるLOX-1タンパク質は、血液試料中に存在するKD罹患判定用マーカーであるLABの受容体タンパク質である。それ故、LOX-1タンパク質は、受容体-リガンド活性によりLAB結合能を有する。本明細書において「受容体-リガンド活性」とは、リガンドとその受容体の間で生じるタンパク質間の特異的な結合親和活性をいう。したがって、LAB捕捉器において、LOX-1タンパク質及び後述するその一部は受容体-リガンド活性によりLABと結合し、検出するための捕捉体として機能する。
【0029】
本明細書におけるLOX-1タンパク質は、特に断りのない限りヒトLOX-1タンパク質を意味する。LOX-1タンパク質は、野生型及び変異型を包含する。「野生型LOX-1タンパク質」とは、具体的には配列番号2で示すアミノ酸配列からなるヒトLOX-1タンパク質が該当する。また、「変異型LOX-1タンパク質」とは、野生型LOX-1タンパク質の一部に変異を生じたポリペプチドであり、かつLABとの結合能を保持したポリペプチドをいう。変異型LOX-1タンパク質には、例えば、配列番号2で示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたポリペプチド、又は配列番号2で示すアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチドが挙げられる。限定はしないが、具体的には、スプライシングバリアントやSNIPs等に基づく突然変異体等が挙げられる。
【0030】
本明細書において「複数個」とは、例えば、2~20個、2~15個、2~10個、2~7個、2~5個、2~4個又は2~3個をいう。また、「アミノ酸同一性」とは、比較する2つのポリペプチドのアミノ酸配列において、アミノ酸残基の一致数が最大限となるように、必要に応じて一方又は双方に適宜ギャップを挿入して整列化(アラインメント)したときに、全アミノ酸残基数における一致アミノ酸残基数の割合(%)をいう。アミノ酸同一性を算出するための2つのアミノ酸配列の整列化は、Blast、FASTA、ClustalW等の既知プログラムを用いて行なうことができる。
【0031】
本明細書において「(アミノ酸の)置換」とは、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸間において、電荷、側鎖、極性、芳香族性等の性質の類似する保存的アミノ酸群内での置換をいう。例えば、低極性側鎖を有する無電荷極性アミノ酸群(Gly, Asn, Gln, Ser, Thr, Cys, Tyr)、分枝鎖アミノ酸群(Leu, Val, Ile)、中性アミノ酸群(Gly, Ile, Val, Leu, Ala, Met, Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸群(Asn, Gln, Thr, Ser, Tyr,Cys)、酸性アミノ酸群(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸群(Arg,Lys,His)、芳香族アミノ酸群(Phe,Tyr,Trp)内での置換が挙げられる。これらの群内でのアミノ酸置換であれば、ポリペプチドの性質に変化を生じにくいことが知られているため好ましい。
【0032】
なお、LOX-1タンパク質は、組換えLOX-1タンパク質であってもよい。「組換えLOX-1タンパク質」とは、遺伝子クローニング技術によって得られたLOX-1タンパク質をコードする遺伝子(LOX-1遺伝子)を、宿主細胞を用いた遺伝子発現系で発現させて得られるタンパク質である。本明細書におけるLOX-1遺伝子は、特に断りのない限りヒトLOX-1遺伝子である。LOX-1遺伝子も野生型及び変異型を包含する。野生型ヒトLOX-1遺伝子は、配列番号2で示すアミノ酸配列からなるヒトLOX-1タンパク質をコードする遺伝子である。具体的には、配列番号1で示す塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。「変異型LOX-1遺伝子」は、前述の変異型LOX-1タンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドをいう。組換えLOX-1タンパク質は、当該分野の常法に基づきLOX-1遺伝子を宿主細胞内で発現させて調製してもよいし、市販の組換えLOX-1タンパク質を用いてもよい。
【0033】
(3)その一部
前記「その一部」とは、前記LOX-1タンパク質の部分断片であり、かつ受容体-リガンド活性によるLAB結合能を保持した領域をいう。限定はしないが、具体的な例として、可溶型LOX-1タンパク質が挙げられる。
【0034】
「可溶型LOX-1タンパク質」(soluble form of LOX-1 protein:本明細書では、しばしば「sLOX-1タンパク質」と表記する)とは、LOX-1タンパク質の細胞外領域からなるペプチド断片をいう。LOX-1タンパク質は、細胞外ドメインのN末端側に存在するネックドメインにプロテアーゼ感受性の高い部位が存在し、この部位で切断された場合、細胞外領域は、遊離状態となり細胞外に放出され、血液中に現れることが知られている。sLOX-1タンパク質は、LABとの結合領域を有することから全長LOX-1と同様のLAB結合能を保持している。sLOX-1タンパク質は、野生型であれば、例えば、配列番号2で示すLOX-1タンパク質のアミノ酸配列において、61位~273位に相当し、配列番号3で示すアミノ酸配列からなる213個のアミノ酸、91位~273位に相当し、配列番号4で示すアミノ酸配列からなる183個のアミノ酸、又は94位~273位に相当し、配列番号5で示すアミノ酸配列からなる180個のアミノ酸からなるポリペプチドが挙げられる。また、変異型LOX-1タンパク質の細胞外領域からなるペプチド断片であれば、例えば、配列番号3~5のいずれかで示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたポリペプチド、又は配列番号3~5のいずれかで示すアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0035】
上記その(LOX-1タンパク質の)一部は、組換えLOX-1タンパク質の一部であってもよい。そのような組換えLOX-1タンパク質の一部は、例えば、LOX-1タンパク質における所望の領域をコードするLOX-1遺伝子断片を遺伝子発現系にて発現させることで得ることができる。
【0036】
本発明のKD罹患判定キットに含まれるLAB捕捉器は、基材表面上にLOX-1タンパク質が固相化された構成を有する。したがって、LAB捕捉器に使用するLOX-1タンパク質は、膜貫通ドメインを介して生体膜に固定された全長LOX-1よりも、sLOX-1タンパク質のように遊離状態で、かつLAB結合能を保持するLOX-1タンパク質の部分断片の方が好適である。
【0037】
1-3-2.LAB検出剤
「LAB検出剤」とは、LABに対して特異的結合能を有する薬剤をいう。LAB検出剤は、ペプチド、核酸、低分子化合物、又はその組み合わせのいずれで構成されていてもよい。
【0038】
(1)ペプチド
LAB検出剤がペプチドで構成される場合、その具体例として、限定はしないが、抗体及びその活性断片、ペプチドアプタマー、及びLAB受容体タンパク質等が挙げられる。
【0039】
(i)抗体及びその活性断片
LAB検出剤として使用できる抗体は、LABを抗原として、それに免疫学的、かつ特異的に結合することのできる抗LAB抗体、及びLAB結合能を有するその断片をいう。
【0040】
抗体の由来生物種は、特に限定はしない。哺乳動物及び鳥を含む動物由来とすることができる。前記動物には、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ロバ、ヒツジ、ラクダ、ウマ、ニワトリ又はヒト等が挙げられる。
【0041】
抗体の種類は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、合成抗体、及びその組み合わせのいずれを使用してもよい。
【0042】
「ポリクローナル抗体」とは、同一抗原の異なるエピトープを認識し結合する複数種の免疫グロブリン群をいう。ポリクローナル抗体は、標的分子(ここではLAB)を抗原として動物に免疫後、その動物の血清から得ることができる。LABを抗原として得られるポリクローナル抗体を本明細書では「抗LABポリクローナル抗体」と表記する。
【0043】
「モノクローナル抗体」とは、単一免疫グロブリンのクローン群をいう。モノクローナル抗体を構成する各免疫グロブリンは、共通するフレームワーク領域(Frame work region:以下、「FR」と表記する)及び共通する相補性決定領域(Complementarity determining region:以下、「CDR」と表記する)を含み、同一抗原の同一エピトープを認識し、それに結合することができる。モノクローナル抗体は、単一細胞由来のハイブリドーマから得ることができる。LABを抗原として得られるモノクローナル抗体を本明細書では「抗LABモノクローナル抗体」と表記する。
【0044】
典型的な免疫グロブリン分子は、重鎖及び軽鎖と呼ばれる2本のポリペプチド鎖一組がジスルフィド結合によって2組相互接続された四量体として構成される。重鎖は、N末端側の重鎖可変領域(H鎖V領域:以下、「VH」と表記する)とC末端側の重鎖定常領域(H鎖C領域:以下、「CH」と表記する)からなり、軽鎖は、N末端側の軽鎖可変領域(L鎖V領域:以下、「VL」と表記する)とC末端側の軽鎖定常領域(L鎖C領域:以下、「CL」と表記する)からなる。このうち、VH及びVLは、抗体の結合特異性に関与する点で特に重要である。このVH及びVLは、いずれも約110個のアミノ酸残基からなり、その内部に抗原との結合特異性に直接関与する3つのCDR(CDR1、CDR2、CDR3)と、可変領域の骨格構造として機能する4つのFR(FR1、FR2、FR3、FR4)をN末端側からFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の順で有している。CDRは、抗原分子と相補的な立体構造を形成し、抗体の特異性を決定することで知られている(E.A.Kabat et al、1991、Sequences of proteins of immunological interest、Vol.1、eds.5、NIH publication)。可変領域において、前記CDRとFRは、N末端からC末端方向にFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配列されている。免疫グロブリン分子内においてVL及びVHは、相対して二量体を形成することによって抗原結合部位を形成している。
【0045】
抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の場合、免疫グロブリン分子には、IgG、IgM、IgA、IgE、及びIgDの各クラスが知られているが、本発明の抗体は、いずれのクラスであってもよい。好ましくはIgGである。
【0046】
LAB、又はそのペプチド断片を認識し結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製する具体的方法は、当該分野で公知の抗体作製方法に準じて行えばよい。
【0047】
本明細書において「組換え抗体」とは、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は多重特異性抗体を含む。「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の抗体のアミノ酸配列を組み合わせて作製される抗体で、ある抗体のV領域を他の抗体のV領域で置換した抗体をいう。例えば、ヒトLABに特異的に結合するマウス由来の抗ヒトLABモノクローナル抗体のV領域をヒト抗体のV領域と置き換えて、V領域がマウス由来、そしてC領域がヒト由来となった抗体が該当する。「ヒト化抗体」とは、ヒト以外の哺乳動物、例えば、ヒトLABと特異的に結合するマウス由来の抗ヒトLABモノクローナル抗体のV領域におけるCDR(CDR1、CDR2、CDR3)をヒトモノクローナル抗体のCDRとを置換したグラフト抗体が該当する。「多重特異性抗体」は、多価抗体、すなわち抗原結合部位を一分子内に複数有する抗体において、それぞれの抗原結合部位が異なるエピトープと結合する抗体をいう。例えば、IgGのように2つの抗原結合部位を有する抗体であれば、それぞれの抗原結合部位が第1態様に記載の同一の又は異なるLABと特異的に結合する二重特異性抗体(Bispecific抗体)が挙げられる。
【0048】
本明細書において「合成抗体」とは、化学的方法又は組換えDNA法を用いることによって合成した抗体をいう。例えば、適当な長さと配列を有するリンカーペプチド等を介して、特定の抗体の一以上のVL及び一以上のVHを人工的に連結させた一量体ポリペプチド分子、又はその多量体ポリペプチドが該当する。このようなポリペプチドの具体例としては、一本鎖Fv(scFv :single chain Fragment of variable region)(Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995, Pierce Chemical Co., Rockford, IL参照)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。免疫グロブリン分子において、VL及びVHは、通常別々のポリペプチド鎖(L鎖とH鎖)上に位置する。「一本鎖Fv」は、これら2つのポリペプチド鎖上のV領域を十分な長さの柔軟性リンカーによって連結し、1本のポリペプチド鎖に包含した構造を有する合成抗体断片である。一本鎖Fv内において両V領域は、互いに自己集合して1つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。一本鎖Fvは、それをコードする組換えDNAを、公知技術を用いてファージゲノムに組み込み、発現させることで得ることができる。「ダイアボディ」は、一本鎖Fvの二量体構造をベースとし、2つの機能的な抗原結合部位を有する分子である(Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448)。例えば、上記リンカーの長さが12アミノ酸残基よりも短い場合、一本鎖Fv内の2つの可変部位は構造的に自己集合化できない。しかし、ダイアボディを形成させて、2つの一本鎖Fvを互いに相互作用させることにより、一方のFv鎖のVLが他方のFv鎖のVHと集合可能となり、2つの機能的な抗原結合部位を形成することができる(Marvin et al., 2005, Acta Pharmacol. Sin. 26:649-658)。さらに、一本鎖FvのC末端にシステイン残基を付加させることにより、2本のFv鎖同士のジスルフィド結合が可能となり、安定的なダイアボディを形成させることもできる(Olafsen et al., 2004, Prot. Engr. Des. Sel. 17:21-27)。このようにダイアボディは二価の抗体断片であるが、それぞれの抗原結合部位は、同一エピトープと結合する必要はなく、それぞれが異なるエピトープを認識し、特異的に結合する二重特異性を有していてもよい。「トリアボディ」、及び「テトラボディ」は、ダイアボディと同様に一本鎖Fv構造を基本としたその三量体、及び四量体構造を有する。それぞれ、三価、及び四価の抗体断片であり、多重特異性抗体であってもよい。
【0049】
本明細書において「その活性断片」とは、前記ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の部分断片であって、該抗体が有する抗原特異的結合活性と実質的に同等の活性を有するポリペプチド鎖又はその複合体をいう。例えば、抗原結合部位を少なくとも1つ包含する抗体部分、すなわち、少なくとも1組のVLとVHを有するポリペプチド鎖、又はその複合体が該当する。具体例としては、免疫グロブリンを様々なペプチダーゼで切断することによって生じる多数の十分に特徴付けられた抗体断片等が挙げられる。より具体的な例としては、Fab、F(ab')2、Fab’等が挙げられる。Fabは、パパインによりIgG分子がヒンジ部のジスルフィド結合よりもN末端側で切断されることによって生じる断片であって、VH及びCHを構成する3つのドメイン(CH1、CH2、CH3)のうちVHに隣接するCH1からなるポリペプチドと、軽鎖から構成される。F(ab')2は、ペプシンによりIgG分子がヒンジ部のジスルフィド結合よりもC末端側で切断されることによって生じるFab’の二量体である。Fab’は、Fabよりもヒンジ部を含む分だけH鎖が若干長いが実質的にはFabと同等の構造を有する(Fundamental Immunology、Paul ed.、3d ed.、1993)。Fab'は、F(ab')2をマイルドな条件下で還元し、ヒンジ領域のジスルフィド連結を切断することによって得ることができる。これらの抗体断片は、いずれも抗原結合部位を包含しており、抗原である標的分子と特異的に結合する能力を有している。
【0050】
(ii)ペプチドアプタマー
「アプタマー」とは、立体構造によって標的物質と強固、かつ特異的に結合する能力を持つリガンド分子である。アプタマーを構成する分子の種類により、核酸アプタマーとペプチドアプタマーに大別することができる。
【0051】
「ペプチドアプタマー」とは、アミノ酸で構成されたアプタマーで、抗体と同様に標的分子の表面構造を認識して、立体構造によって標的物質と特異的に結合できる1~6kDのペプチド分子をいう。本明細書におけるペプチドアプタマーは、LABを標的分子とする。ペプチドアプタマーは、ファージディスプレイ法や細胞表層ディスプレイ法を用いて製造することができる。ペプチドアプタマーの製造法は、当該分野で公知の方法に基づいて作製すればよい。例えば、Whaley, S.R., et al., 2000, Nature, 405, 665-668を参照することができる。
【0052】
(iii)LAB受容体タンパク質
「LAB受容体タンパク質」は、前述のLOX-1タンパク質又はLAB結合能を有するその断片が挙げられる。LOX-1等については、すでに詳述していることからここでの説明は省略する。
【0053】
(2)核酸
LAB検出剤が核酸で構成される場合、その具体例として、限定はしないが、核酸アプタマーが挙げられる。
【0054】
(i)核酸アプタマー
「核酸アプタマー」は、前記アプタマーのうち、核酸で構成されるアプタマーをいう。核酸アプタマーを構成する核酸は、DNA、RNA又はそれらの組合せのいずれであってもよい。必要に応じて、PNA、LNA/BNA、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸を含むこともできる。
【0055】
核酸アプタマーは、LABを標的分子として、当該分野で公知の方法により作製することができる。例えば、RNAアプタマーであれば、SELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法を用いて試験管内選別により作製することができる。SELEX法とは、ランダム配列領域とその両端にプライマー結合領域を有する多数のRNA分子によって構成されるRNAプールからLABに結合したRNA分子を選択し、回収後にRT-PCR反応によって増幅した後、得られたcDNA分子を鋳型として転写を行い、それを次のラウンドのRNAプールにするという一連のサイクルを数~数十ラウンド繰り返して、LABに対して、より結合力の強いRNAを選択する方法である。ランダム配列領域とプライマー結合領域の塩基配列長は特に限定はしない。一般的にランダム配列領域は、20~80塩基、プライマー結合領域は、それぞれ15~40塩基の範囲である。以上の方法によって最終的に得られたRNA分子をLAB結合性RNAアプタマーとして利用する。なお、SELEX法は、公知の方法であり、具体的な方法は、例えば、Panら(Proc. Natl. Acad. Sci. 1995, U.S.A.92: 11509-11513)に準じて行えばよい。
【0056】
上述のLAB検出剤は、いずれも必要に応じて標識化されていてもよい。標識は、当該分野で公知の標識物質を利用すればよい。抗体及びペプチドアプタマーの場合、例えば、蛍光色素(フルオレセイン、FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、放射性同位元素(例えば、3H、14C、35S)又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンにより標識することができる。また、核酸アプタマーの場合、例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、cy3、cy5、cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエスター)が挙げられる。標識は、二以上の異なる標識であってもよい。標識物質で標識されたLAB検出剤は、LABを検出する際に有用なツールとなり得る。
【0057】
2.川崎病罹患判定方法(KD罹患判定方法)
2-1.概要
本発明の第2の態様は、KD罹患判定方法である。本発明は、被験体の血液試料中に含まれる第1態様に記載のKD罹患判定用マーカーとしてのLABを、その捕捉体であるLOX-1タンパク質及び/又はその一部を用いて検出し、その量の多寡によって被験体のKD罹患判定を行うように構成されている。本発明のKD罹患判定方法によれば、これまでKD罹患の疑いのある被験者に対して臨床所見と除外診断に依存せざるを得なかったKD診断を、KD罹患の有無を直接的に、かつ客観的に判定することができる。
【0058】
2-2.方法
本発明のKD罹患判定方法は、測定工程及び判定工程を含む。以下、各工程について具体的に説明をする。
【0059】
2-2-1.測定工程
「測定工程」とは、KDに罹患している疑いのある被験体から採取された血液試料の単位量あたりに含まれるLABを定量するため、その量を測定して測定値を得る工程である。
【0060】
本明細書において「被験体」とは、本発明のKD罹患判定方法に供される動物個体をいう。本発明のKD罹患判定方法に供されるには、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウサギ、フェレット、ハムスター、マウス等の哺乳動物が挙げられる。好ましくはヒトである。被験体は、KD罹患の疑いのある個体であることが好ましい。
【0061】
本明細書において「KD罹患の疑いのある被験体」とは、臨床所見等からKD患者に見られる症状を呈する被験体であって、原則として医師等によりその疑いがあると診断された個体をいう。本明細書においては、特に、急性期、亜急性期、及び慢性期のKD患者をいい、症状が認められなくなった回復期に入った者については、KD回復者又は元KD患者としてKD患者とは区別する。診断は、主として問診、臨床経過、身体診察所見、及び筋病理所見等を組み合わせて行われる。
【0062】
本明細書において「健常体」とは、少なくともKDに罹患していないことが明白な非KD罹患個体であり、原則として、医師等により非KDであると診断された、被験体と同種の個体をいう。好ましくはいずれの疾患にも罹患していない個体である。
【0063】
本明細書において「健常体群」は、複数の同種健常体からなる一群をいう。個体数は、2個体以上であれば特に限定しないが、好ましくは5個体以上、より好ましくは10個体以上、さらに好ましくは15個体以上である。この個体群を構成する各個体は、被験体と同種であり、また同性で、年齢、身長、及び体重等の各種身体的条件も被験体と同一又は近似であることが好ましい。
【0064】
「健常体群における測定値」とは、健常体群を構成する各個体から採取された血液試料の単位量あたりに含まれるKD罹患判定用マーカー、すなわちLABの量を測定して得られる測定値である。この測定値は、原則として前記測定工程において、KD罹患被験体の測定値を得た方法と同様の血液試料を用いて、同じ測定方法で得られた測定値である。健常体群における測定値は、予め試料中の各KD罹患判定用マーカー量を各測定方法で測定したときの測定値をデータベース化したものを使用してもよい。
【0065】
本明細書において「血液試料」とは、全血、血清、血漿、又は間質液が該当する。
【0066】
本明細書において「採取された血液試料」とは、被検体及び後述する健常体群のそれぞれから採取された血液試料をいう。採取方法は、既知の採血方法であればよく、特に限定はしない。例えば、末梢部の静脈等に注射をして末梢血を採取すればよい。血液試料は、採取後に直ちに判定方法で使用することもできるが、採取後に氷冷し、遠心処理により得られた血清や血漿を超低温槽で保存して、必要な時に解凍し使用することもできる。また、本工程前や本工程時に必要に応じて濃縮若しくは生理食塩水等で希釈してもよく、又はヘパリンのような血液凝固阻止剤を添加することもできる。
【0067】
「単位量」は、容量又は重量の所定の単位であって、例えば、マイクロリットル(μL)、ミリリットル(mL)、マイクログラム(μg)、ミリグラム(mg)、グラム(g)等が挙げられる。
【0068】
本明細書において「測定値」とは、本工程で測定されるLABの量を示す値である。この量は、蛍光強度、発光強度、濁度、吸光度、放射線量、イオン強度、又は濃度で示される相対量であってもよく、試料中に包含されるLABの重量又は容量のような絶対量であってもよい。
【0069】
本工程では、被験体由来の血液試料中に含まれるKD罹患判定用マーカーであるLABの量を測定する。
【0070】
本発明のKD罹患判定方法に供する上で必要な血液試料の量は、全血を用いる場合には、少なくとも100 μL、好ましくは200 μLあればよい。また、血清や血漿を用いる場合には、少なくとも50 μL、好ましくは100 μLあればよい。
【0071】
(1)測定方法
LABはリポタンパク質である。したがって、その測定方法には、公知のリポタンパク質定量方法を使用すればよく、特に限定はしない。例えば、免疫学的検出法、受容体-リガンド結合分析法、アプタマー解析法、ゲル濾過HPLC法、質量分析法、又はその組み合わせが挙げられる。
【0072】
(i) 免疫学的検出法
「免疫学的検出法」は、標的分子を抗原として、それに特異的に結合する抗体又はその断片を用いて、標的分子との免疫複合体を形成させて標的分子を検出及び定量する最も一般的な方法である。本発明では、LABが標的分子に該当するため、抗LAB抗体又はその断片を用いて血液試料中に含まれるLABの量を測定する方法をいう。
【0073】
免疫学的検出法には、例えば、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、表面プラズモン共鳴法(SPR法)、水晶振動子マイクロバランス(QCM)法、放射免疫測定法(RIA)、免疫比濁法、ラテックス凝集免疫測定法、ラテックス比濁法、粒子凝集反応法、金コロイド法、キャピラリー電気泳動法、ウェスタンブロット法又は免疫組織化学法(免疫染色法)が挙げられる。これらの方法は、いずれも公知の方法であり、原則として当該分野における通常の方法に準じて行えばよい。例えば、Current protocols in Protein Sciences, 1995, John Wiley & Sons Inc.;Current protocols in Immunology, 2001, John Wiley & Sons Inc.;Green & Sambrook, Molecular Cloning, 2012, Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press Cold Spring Harbor, New York;日本臨床病理学会編「臨床病理臨時増刊特集第53号,臨床検査のためのイムノアッセイ-技術と応用-」, 臨床病理刊行会,1983年;石川榮治ら編「酵素免疫測定法」, 第3版、医学書院,1987年;北川常廣ら編「タンパク質核酸酵素別冊No.31酵素免疫測定法」, 共立出版,1987年;入江實編「ラジオイムノアッセイ」、講談社サイエンティフィク, 1974年;入江實編「続ラジオイムノアッセイ」, 講談社サイエンティフィク, 1979年;永田和宏,半田宏編,生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法,シュプリンガー・フェアラーク東京,1988年;森泉豊栄,中本高道,センサ工学,昭晃堂,1997年等に記載の方法を参照することができる。
【0074】
「酵素免疫測定法」は、標的分子と結合した一次抗体を、標識された二次抗体等を介して検出子、その標識によりを発生した発色濃度や蛍光強度によって標的分子を定量する方法である。例えば、LABと結合した一次抗体の抗LAB抗体を、その一次抗体に結合する標識化二次抗体で捕捉し、標識からのシグナル強度等に基づいてLABを間接的に測定する方法が挙げられる。ELISA法やサンドイッチELISA法もこの方法に含まれる。
【0075】
「表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)法」は、金属薄膜へ照射したレーザー光の入射角度を変化させると特定の入射角度(共鳴角)において反射光強度が著しく減衰するという表面プラズモン共鳴現象を利用して、金属薄膜表面上の吸着物を高感度に検出、定量する方法である。本発明においては、例えば、金属薄膜表面にLOX-1タンパク質又は抗LAB抗体を固相化し、その他の金属薄膜表面部分をブロッキング処理した後、血液試料を金属薄膜表面に流通させることによってサンプル流通前後の測定値の差異からLABを検出、定量することができる。表面プラズモン共鳴法による検出、定量は、例えば、Biacore社で市販されるSPRセンサを利用して行なうことができる。
【0076】
「水晶振動子マイクロバランス(QCM: Quarts Crystal Microbalance)法」とは、水晶振動子に取り付けた電極表面に物質が吸着するとその質量に応じて水晶振動子の共振周波数が減少する現象を利用して、共振周波数の変化量によって極微量な吸着物を定量的に捕らえる質量測定法である。本方法による検出、定量もSPR法と同様に、市販のQCMセンサを利用して、標的分子を検出、定量することができる。本発明においては、例えば、電極表面に固相化したLOX-1タンパク質又は抗LAB抗体と試料中のLABとの抗原抗体反応によってLABを定量することができる。
【0077】
(ii) 受容体-リガンド結合分析法
「受容体-リガンド結合分析法」は、標的分子がリガンド又は受容体の場合に適用可能な方法であり、受容体-リガンド活性を利用し、一方を用いて試料中に存在する他方を捕捉し、その量を測定する方法である。本発明の標的分子であるLABはリガンド分子であり、その特異的受容体はLOX-1タンパク質であることから本方法も適用可能である。具体的な方法として、例えば、免疫学的検出法で使用される、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、表面プラズモン共鳴法(SPR法)、水晶振動子マイクロバランス(QCM)法、免疫比濁法、ラテックス凝集免疫測定法、ラテックス比濁法、粒子凝集反応法、金コロイド法等を改変した方法が挙げられる。例えば、LOX-1タンパク質又はLAB結合能を有するその断片を基材に固相化し、血液試料中のLABと結合して形成されるタンパク質複合体(受容体-リガンド複合体)を測定すればよい。酵素免疫測定法であれば、基材上のLAB-LOX-1タンパク質複合体を標識化抗LAB抗体で検出する改変サンドイッチELISA法により間接的に測定することができる。また、SPR法やQCM法であれば金属薄膜表面上、又は電極表面上に形成されたLAB-LOX-1タンパク質複合体を直接的に測定することができる。
【0078】
(iii)アプタマー解析法
「アプタマー解析法」は、核酸アプタマー又はペプチドアプタマーを用いて、標的分子を定量する方法である。基本的な方法は、前述の免疫学的検出方法における抗原結合性抗体を標的分子と特異的に結合するアプタマーに変更すれば足りる。本発明では、LAB結合アプタマー(LAB結合RNAアプタマー、LAB結合DNAアプタマー、LAB結合ペプチドアプタマー)を免疫学的検出方法における抗LAB抗体と同様に用いて、血液中のLABを検出し、測定すればよい。
【0079】
(iv)質量分析方法
「質量分析法(Mass Spectrometry)」は、試料を高真空下でイオン化し、そのイオンを電磁的に分離して試料中の物質を分析する方法である。試料中の検出すべき標的分子が明らかな場合、その標的分子を標品とした質量スペクトルと試料の質量スペクトルを比較することにより、視聴中の標的分子の検出及び定量を行うことができる。本発明では、LABがその標的分子に該当する。
【0080】
「質量分析法」には、高速液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS)、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析法(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)、ガスクロマトグラフタンデム質量分析法(GC-MS/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)及びICP質量分析法(ICP-MS)が挙げられる。
【0081】
本工程では、被験体の測定値と、健常体群における測定値を補正するために、単位量あたりの試料において量的差異のないことが期待される公知のタンパク質を内在性コントロールとして測定してもよい。このような内在性コントロール用として、例えばアルブミンが挙げられる。
【0082】
2-2-2.判定工程
「判定工程」とは、前記測定工程で得られた被験体の測定値に基づいて、その被験体におけるKD罹患の有無を判定する工程である。
【0083】
「被験体の測定値に基づいて」とは、前記測定工程の結果である「被験体の測定値の値に応じて」という意味であり、具体的には、例えば、カットオフ値に基づいて、又は被検体の測定値と健常体群における測定値との統計学的な有意差に基づいて、被験体のKD罹患の有無を判定することが挙げられる。
【0084】
(i)カットオフ値に基づく判定方法
「カットオフ値に基づく判定方法」とは、前記被験体の測定値を所定のカットオフ値と比較して、その比較結果によりKDの罹患の有無を判定する方法である。
【0085】
本明細書において「カットオフ値」とは、測定値を陽性、陰性に分類するための境界値をいう。ここでいう陽性とは、KDに罹患している可能性が高いことを、また陰性とはKDに罹患している可能性が低いことを示す。カットオフ値の設定法は、統計学分野で公知の方法に従えばよく、特に限定はしない。例えば、KD患者及び健常体の測定値からなる測定値群において、特定のパーセンタイルをカットオフ値とすることができる。例えば、KD患者のほぼ全ての測定値が、前記測定値群における90パーセンタイルに相当する測定値よりも高い値に包含される場合、90パーセンタイルに相当する測定値がカットオフ値となる。このとき、被験体の測定値が、カットオフ値よりも高い場合には被験体は陽性、すなわちKD罹患の可能性が高いと判定し、逆にカットオフ値以下の場合には被験体は陰性、すなわちKD罹患の可能性が低いと判定することができる。
【0086】
(ii)統計学的な有意差に基づく判定方法
統計学的な有意差に基づく判定方法は、被験体の測定値が前記健常体群の測定値よりも統計学的に有意に高いか否かで被験体のKD罹患の有無を判定する。
【0087】
本明細書において「統計学的に有意」とは、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には、p<0.05(5%未満)、p<0.01(1%未満)又はp<0.001(0.1%未満)の場合が挙げられる。ここで、「p(値)」とは、統計学的検定において、統計量が仮定した分布の中で、仮定が偶然正しくなる確率を示す。したがって、p値が小さいほど、仮定が真に近いことを意味する。「統計学的に有意に差がある」とは、被験体の測定値と個体群の測定値の差異を統計学的に処理したときに両者間に有意に差があることをいう。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法を用いることができる。
【0088】
本明細書で統計学的な有意差に基づいてKDの罹患を判定する場合、被験体におけるKD罹患判定用マーカーの測定値が健常体群におけるその測定値よりも有意に大きい場合、その被検体はKDに罹患している可能性が高いと判定する。一方、被験体におけるKD罹患判定用マーカーの測定値と健常体群におけるその測定値の間に有意差がない場合には、その被検体はKDに罹患していない可能性が高いと判定する。
【0089】
3.川崎病罹患判定用マーカー(KD罹患判定用マーカー)
3-1.概要
本発明の第3の工程はKD罹患判定用マーカーである。本発明のKD罹患判定用マーカーは、LABをKD罹患判定用のバイオマーカーとして使用する。被験体の血液試料中に含まれるそのマーカーの量を第2態様に記載のKD罹患判定方法を用いて測定することで、被験体のKDの罹患の有無を判定することができる。
【0090】
3-2.構成
KD罹患判定用マーカーは、LAB又はLOX-1結合能を保持するその一部で構成される。
LABは、前述のように、酸化LDL(変性LDL)とも呼ばれるアポリポタンパク質で、タンパク質成分としてアポタンパク質B(apoB)を包含する。本明細書におけるapoBは、特に断りのない限りヒトapoBである。apoBは、野生型及び変異型を包含する。野生型apoBは、具体的には配列番号6で示すアミノ酸配列からなるポリペプチドである。また、本明細書における変異型apoBは、野生型apoBの一部に変異を生じたポリペプチドであり、かつLOX-1との結合能を保持したポリペプチドをいう。変異型apoBは、限定はしないが、例えば、配列番号6で示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたポリペプチド、又は配列番号6で示すアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0091】
LABの一部は、LOX-1との結合能を有する限り、その領域やアミノ酸長は特に限定はしない。
【実施例】
【0092】
(目的)
KD罹患患者では、血漿中に存在する酸化LDL(LAB)の量が健常者と比較して有意に増加していることをLAB受容体であるLOX-1タンパク質を用いて検証する。
【0093】
(方法)
(1)試料の調製
(血液試料の調製)
KD診断ガイドライン(Ayusawa, M., et al., 2005, Pediatr Int 47: 232-234)に従ってKDと診断された16名のKD患者から、インフォームドコンセントを得た上で血液を採取した。対照用として、通常対照者5名、及び疾患対照者7名からも同様にして血液を採取した。ここで、「通常対照者」とは、食物アレルギーの既往歴は有するが感染症のない無熱の対照者であり、また「疾患対照者」とは、肺炎、胃腸炎、細菌感染症、ウイルス感染症(ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス)等の有熱性疾患患者である。
【0094】
各患者からの血液採取は、静脈内免疫グロブリン(IVIG)療法適用前の急性期に行った。患者8名に関しては、IVIG療法を行い、症状が解消した1ヶ月後に追跡試料として再度等量の血液を採取した。
【0095】
血漿は、CBCスピッツ(EDTA2Na)に1~1.5mL血液を採取し、直ちに遠心分離を行った後、上清を回収して得た。回収した血漿は、使用するまで-30℃で保存した。
【0096】
(組換え可溶性LOX-1タンパク質溶液の調製)
受容体-リガンド活性により血漿中のLBAを捕捉するためのLOX-1タンパク質を調製した。本実施例では、配列番号3で示すアミノ酸配列からなるヒト由来の組換え可溶型LOX-1(sLOX-1)タンパク質(横浜バイオリサーチアンドサプライ社)をPBS(-)で最終濃度5μL/mLとなるように希釈したものを用いた。組換えsLOX-1タンパク質は、配列番号3で示すアミノ酸配列の61位~273位に相当し、LABとの受容体-リガンド活性を維持している。
【0097】
(ブロッキング溶液の調製)
ブロックエース粉末(ケーエーシー社)とスクロースをそれぞれ蒸留水に溶解し、4%ブロックエース溶液と30%スクロース溶液を調製した。sLOX-1固相化プレートの作製前日に4%ブロックエース:蒸留水:30%スクロース=9.0mL:2.2mL:0.8mL(=基本比率)となるようにブロッキング液(3%ブロックエース、2%スクロース)を調製した。
【0098】
(抗体溶液の調製)
HRP標識化ニワトリ抗ヒトアポリポタンパク質モノクローナル抗体(HUC20:Creative Biolabs)をPBSに溶解し、HRP(Horse Radish Peroxidase)標識化抗アポリポタンパク質B抗体溶液(HRP-HUC20抗体溶液)を調製した。HRP-HUC20抗体は、ヒトアポリポタンパク質Bの細胞外ドメインを特異的に認識し、HRPで標識化されている。
【0099】
(2)sLOX-1固相化プレートの作製
96穴マイクロプレート(株式会社パーキンエルマージャパン)の各ウェルに100μLの組換えsLOX-1タンパク質溶液を分注し、プレートシェーカー(IKA(登録商標) Japan K.K.)で1000rpmにて3分間撹拌を行った。その後、プレートをシーリングして、4℃で16時間以上放置した。時間経過後にシールを剥がして380μLの洗浄液(タカラバイオ社)でウェルを1回洗浄した。洗浄液を除去後、300μLのブロッキング溶液をウェルに分注し、プレートを再びシーリングして4℃で18~24時間放置した。時間経過後にシールを剥がしてブロッキング溶液を吸引除去した後、クリーンベンチ内で室温(25~26℃)にて18~24時間プレートを乾燥させた。乾燥後にプレートをsLOX-1固相化プレートとした。
【0100】
(3)酵素免疫測定法によるLABの血漿レベルの測定
(sLOX-1とLABの結合)
(2)で作製したsLOX-1固相化プレートの各ウェルを使用前に380μLの洗浄液(タカラバイオ社)で3回洗浄し、十分に水分を除いた後に、各ウェルに血漿試料(急性期KD患者由来、回復期元KD患者由来、通常対照者由来、及び疾患対照者由来)を100μLずつ分注した。プレートをシーリングした後、室温にて2時間インキュベートした。血漿試料を除去した後に、380μLの洗浄液(タカラバイオ社)にて3回洗浄し、十分に水分を除いた。
【0101】
(LABの検出と定量)
(1)で調製したHRP標識化HUC20抗体溶液を最終倍率が420倍になるように希釈液(0.4% ブロックエース/PBS)で希釈しながら、各ウェルに100μLずつ分注した。プレートをシーリングして、1000rpmで1分間撹拌した後、室温で1時間インキュベートした。続いて、抗体溶液を除去して各ウェルを380μLの洗浄液(タカラバイオ社)にて3回洗浄し、十分に水分を除いた。
【0102】
LABに結合したHRP標識化HUC20抗体を検出するために、発光液として、SuperSignalTM ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific社)に付属のPeroxide SolutionとLuminol/Enhancer Solutionを1:1で混合した後、各ウェルに100μLずつ分注した。プレートシェーカーで1000rpmにて1分間撹拌した後、HRP活性により放出される発光をプレートリーダー(Infinite(登録商標) 200 PRO:テカンジャパン株式会社)で検出し、その光強度に基づいて定量化した。
【0103】
(結果)
図1に結果を示す。この図が示すように、急性期のLABレベル(Acute)は、通常対照(Control)及び疾患対照(Disease Control)よりも有意に高かった。一方、回復期(Convalescent)のLABレベルでは有意性は認められなかった。急性期のLAB患者と通常対照の値をROCで比較した結果、カットオフ値は1.55であった。
【0104】
上記結果から、急性期におけるKD患者の血液中では、LABの量が有意に増加していること、それはIVIG療法の適用によるKDの回復で減少することが明らかとなった。つまり、これは、血液中のLABがKD罹患判定用のバイオマーカーとなり得ることを示唆している。
【0105】
また、血液中のLABを検出する際に、sLOX-1タンパク質がLAB捕捉体として利用可能であることが明らかとなった。
【配列表】