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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】情報処理システム及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/06 20230101AFI20240308BHJP
【FI】
G06Q10/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023091206
(22)【出願日】2023-06-01
【審査請求日】2023-06-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316014906
【氏名又は名称】株式会社FRONTEO
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 悠一
(72)【発明者】
【氏名】久光 徹
【審査官】田上 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特許第7274160(JP,B1)
【文献】特開2023-050018(JP,A)
【文献】特開2015-088037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の企業にそれぞれ対応する複数のノードが、取引関係を示すエッジで接続された取引ネットワークを取得する取引ネットワーク取得部と、
前記複数のノードのいずれかをベクトル算出ノードとした場合に、前記複数のノードのそれぞれについて、前記ベクトル算出ノードまでの距離に応じた位相、及び、前記ベクトル算出ノードへと向かう流量または前記ベクトル算出ノードからの流量に応じた絶対値を有する複素数を割り当てることによって、前記ベクトル算出ノードの他のノードとの関係性を表現する複素ベクトルを求めるベクトル取得部と、
前記複数のノードのそれぞれを表す前記複素ベクトルに基づいて、前記取引ネットワークの一部であるサプライチェーンネットワークを抽出するサプライチェーン抽出部と、
前記複数のノードのうち、前記サプライチェーンネットワークに含まれるノードに付与されたタグに基づいて、前記サプライチェーンネットワークにおける前記タグの情報を示すタグ遷移図を生成するタグ遷移図生成部と、
を含み、
前記タグは、産業分類を表す情報を含み、
前記タグ遷移図生成部は、
前記サプライチェーンネットワーク上の経路に沿った複数のノードに付与された前記タグに基づいて、前記経路に沿った複数のノードにおいて、前記産業分類がどのように変化したか、あるいは変化しないかを表す前記タグ遷移図を生成する情報処理システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記タグ遷移図生成部は、
前記サプライチェーンネットワークの経路上での前記タグの遷移を表す複数の遷移パターンのそれぞれについて、前記サプライチェーンネットワークにおける流量に基づいて重みを求め、
前記複数の遷移パターンの前記重みに基づいて前記タグ遷移図を生成する情報処理システム。
【請求項3】
請求項2において、
前記タグ遷移図に含まれる前記複数の遷移パターンの一部を選択遷移パターンとして選択する選択操作に基づいて、前記サプライチェーンネットワークのうち、前記選択遷移パターンによって表される一部のネットワークを、サブネットワークとして抽出するサブネットワーク抽出部をさらに含む情報処理システム。
【請求項4】
請求項1において、
前記サプライチェーン抽出部は、
前記取引ネットワーク及び前記複素ベクトルに基づいて、サプライチェーンネットワーク群を抽出する処理と、
前記サプライチェーンネットワーク群のうちの処理対象ノードを含む一部を、前記タグ遷移図の生成対象である前記サプライチェーンネットワークとして選択する処理と、
を行う情報処理システム。
【請求項5】
請求項4において、
前記サプライチェーン抽出部は、
前記サプライチェーンネットワークに含まれる前記ノードに付与された前記タグに基づいて、処理対象ノードからの距離毎に前記タグの統計量を求める情報処理システム。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項において、
前記複数のノードは、第1~第n(nは2以上の整数)のノードを含み、
第i(iは1≦i≦nを満たす整数)のノードに対応する前記複素ベクトルをxiとしたとき、前記第1~第nのノードに対応する前記複素ベクトルを並べることによって取得される行列Xと、前記行列Xの各成分の共役複素数を取って転置した行列X*を求め、複素相関行列CをC=XX*またはC=X*Xにより求める行列取得部をさらに含み、
前記サプライチェーン抽出部は、
前記複素相関行列Cの固有値分解によって求められる固有ベクトルに基づいて、前記サプライチェーンネットワークを抽出する情報処理システム。
【請求項7】
請求項6において、
前記サプライチェーン抽出部は、
前記取引ネットワークに含まれる前記エッジの上流側に接続される上流側ノードと、前記エッジの下流側に接続される下流側ノードについて、前記固有ベクトルの要素の前記位相によって表される前記上流側ノードと前記下流側ノードの間の距離を判定することによって、前記サプライチェーンネットワークを抽出する情報処理システム。
【請求項8】
請求項7において、
前記サプライチェーン抽出部は、
前記固有ベクトルに基づいて判定された前記上流側ノードと前記下流側ノードの間の距離と、隣接する2つのノードの間の距離との差分値が閾値未満であると判定された前記エッジからなるネットワークを、前記サプライチェーンネットワークとして抽出する情報処理システム。
【請求項9】
請求項6において、
前記サプライチェーン抽出部は、
前記取引ネットワークの前記エッジの上流側に接続される上流側ノードと、前記エッジの下流側に接続される下流側ノードについて、前記固有ベクトルの要素の前記絶対値によって表される前記上流側ノードの流量及び前記下流側ノードの流量の大きさを判定する第1判定、及び、前記固有ベクトルの前記要素の前記位相によって表される前記上流側ノードと前記下流側ノードの間の距離を判定する第2判定を行うことによって、前記サプライチェーンネットワークを抽出する情報処理システム。
【請求項10】
情報処理システムが、
複数の企業にそれぞれ対応する複数のノードが、取引関係を示すエッジで接続された取引ネットワークを取得し、
前記複数のノードのいずれかをベクトル算出ノードとした場合に、前記複数のノードのそれぞれについて、前記ベクトル算出ノードまでの距離に応じた位相、及び、前記ベクトル算出ノードへと向かう流量または前記ベクトル算出ノードからの流量に応じた絶対値を有する複素数を割り当てることによって、前記ベクトル算出ノードの他のノードとの関係性を表現する複素ベクトルを求め、
前記複数のノードのそれぞれを表す前記複素ベクトルに基づいて、前記取引ネットワークの一部であるサプライチェーンネットワークを抽出し、
前記複数のノードのうち、前記サプライチェーンネットワークに含まれるノードに付与されたタグに基づいて、前記サプライチェーンネットワークにおける前記タグの情報を示すタグ遷移図を生成し、
前記タグは、産業分類を表す情報を含み、
前記タグ遷移図の生成において、
前記サプライチェーンネットワーク上の経路に沿った複数のノードに付与された前記タグに基づいて、前記経路に沿った複数のノードにおいて、前記産業分類がどのように変化したか、あるいは変化しないかを表す前記タグ遷移図を生成する、
情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム及び情報処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サプライチェーンの分析に関する種々の手法が知られている。サプライチェーンとは、製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの一連の流れをいう。例えば特許文献1には、サプライチェーンにおいて、関心企業の上流側サブネットワーク及び下流側サブネットワークの少なくとも一方を含むサブネットワークを分析し、その結果を表示する情報処理システムが開示されている。また、非特許文献1には、コミュニティ分解手法により関連性の高い企業を抽出する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第7034447号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Takayuki Mizuno, Takaaki Ohnishi, Tsutomu Watanabe, “Structure of global buyer-supplier networks and its implications for conflict minerals regulations” EPJ Data Science, 2016年1月16日発行, (URL:https://doi.org/10.1140/epjds/s13688-016-0063-7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば公開情報等に基づいて、対象企業と取引関係のある企業を接続することによって取引ネットワークを生成した場合、当該取引ネットワークには当該対象企業に直接関係しない取引の連鎖が偶然つながったものも含まれてしまう。特許文献1等の従来手法は、当該取引ネットワークから対象企業に直接関連するネットワーク(サプライチェーンネットワーク)を抽出した上で、当該サプライチェーンネットワークの概要を分かりやすく提示するものではない。
【0006】
本開示のいくつかの態様によれば、サプライチェーンネットワークの概要を分かりやすく提示する情報処理システム及び情報処理方法等を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、複数の企業にそれぞれ対応する複数のノードが、取引関係を示すエッジで接続された取引ネットワークを取得する取引ネットワーク取得部と、前記複数のノードのいずれかをベクトル算出ノードとした場合に、前記複数のノードのそれぞれについて、前記ベクトル算出ノードまでの距離に応じた位相、及び、前記ベクトル算出ノードへと向かう流量または前記ベクトル算出ノードからの流量に応じた絶対値を有する複素数を割り当てることによって、前記ベクトル算出ノードの他のノードとの関係性を表現する複素ベクトルを求めるベクトル取得部と、前記複数のノードのそれぞれを表す前記複素ベクトルに基づいて、前記取引ネットワークの一部であるサプライチェーンネットワークを抽出するサプライチェーン抽出部と、前記複数のノードのうち、前記サプライチェーンネットワークに含まれるノードに付与されたタグに基づいて、前記サプライチェーンネットワークにおける前記タグの情報を示すタグ遷移図を生成するタグ遷移図生成部と、を含む情報処理システムに関係する。
【0008】
本開示の他の態様は、情報処理システムが、複数の企業にそれぞれ対応する複数のノードが、取引関係を示すエッジで接続された取引ネットワークを取得し、前記複数のノードのいずれかをベクトル算出ノードとした場合に、前記複数のノードのそれぞれについて、前記ベクトル算出ノードまでの距離に応じた位相、及び、前記ベクトル算出ノードへと向かう流量または前記ベクトル算出ノードからの流量に応じた絶対値を有する複素数を割り当てることによって、前記ベクトル算出ノードの他のノードとの関係性を表現する複素ベクトルを求め、前記複数のノードのそれぞれを表す前記複素ベクトルに基づいて、前記取引ネットワークの一部であるサプライチェーンネットワークを抽出し、前記複数のノードのうち、前記サプライチェーンネットワークに含まれるノードに付与されたタグに基づいて、前記サプライチェーンネットワークにおける前記タグの情報を示すタグ遷移図を生成する、情報処理方法に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る情報処理システムを含むシステムの構成例である。
図2】サーバシステムの詳細な構成例を示す機能ブロック図である。
図3】端末装置の詳細な構成例を示す機能ブロック図である。
図4】情報処理システムにおいて実行される処理の概略を示すフローチャートである。
図5A】公開情報に基づいて取得されるデータの構造例である。
図5B】公開情報に基づいて取得されるデータの構造例である。
図5C】公開情報に基づいて取得される取引ネットワークの一部の例を示す図である。
図6】取引ネットワークを説明する模式図である。
図7】ベクトル表現の決定処理を説明するフローチャートである。
図8】上流側サブ取引ネットワークの抽出処理を説明するフローチャートである。
図9A】サブ取引ネットワークの一部の例を示す図である。
図9B】サブ取引ネットワークの一部の例を示す図である。
図10】サブ取引ネットワークの例を示す図である。
図11A】ノードのベクトル表現を求める処理を説明するフローチャートである。
図11B】ノードのベクトル表現を求める処理を説明するフローチャートである。
図12A】サブ取引ネットワークにおける流量を例示する図である。
図12B】サブ取引ネットワークにおける位相付き流量を例示する図である。
図13】所与のノードに対応する複素ベクトルの例である。
図14】サブ取引ネットワークにおける位相付き流量を例示する図である。
図15】サプライチェーンネットワークの第1抽出処理を説明するフローチャートである。
図16】サプライチェーンネットワークの第2抽出処理を説明するフローチャートである。
図17】取引ネットワークの例、及び各ノードのタグの例を示す図である。
図18】ノードの遷移と重みの関係を示す図である。
図19図17の取引ネットワークにおける各ノードの重み(流量)の例である。
図20】タグ遷移パターンと重みの関係を示す図である。
図21】隣接タグ遷移パターンと重みの関係を示す図である。
図22】タグ遷移図であるサンキー・タイアグラムの例である。
図23】選択遷移パターンによって抽出されるサブネットワークの例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面において、同一又は同等の構成要素には同一の符号を付し、同一又は同等の構成要素に関する説明が重複する場合は適宜省略する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された内容を限定するものではない。また、実施形態で説明される構成の全てが、必ずしも本開示の必須構成要件であるとは限らない。本開示で説明する機能を発揮する限りにおいて、実施形態で説明される構成は、適宜省略されてもよい。
【0011】
1.システム構成例
図1は、一実施形態に係る情報処理システム10を含むシステムの構成例である。本実施形態に係るシステムは、サーバシステム100と端末装置200とを含む。ただし、情報処理システム10を含むシステムの構成は必ずしも図1に限定されず、例えば一部の構成を省略したり他の構成を追加したりするなどの種々の変形実施が可能である。例えば、図1では端末装置200として、端末装置200-1と端末装置200-2の2つが図示されているが、端末装置200の数はこれに限定されない。また、構成の省略や追加などの変形実施が可能である点は、後述する図2及び図3においても同様である。
【0012】
本実施形態の情報処理システム10は、例えばサーバシステム100に対応する。ただし、本実施形態の手法はこれに限定されず、サーバシステム100と他の装置を用いた分散処理によって、本明細書で説明する情報処理システム10の処理が実行されてもよい。例えば、本実施形態の情報処理システム10は、サーバシステム100と端末装置200との分散処理によって実現されてもよい。以下、本明細書では、情報処理システム10がサーバシステム100である場合の例について説明する。
【0013】
サーバシステム100は、1つのサーバであってもよいし、複数のサーバを含んで構成されていてもよい。例えば、サーバシステム100は、データベースサーバとアプリケーションサーバとを含んで構成されていてもよい。データベースサーバは、後述する取引ネットワーク121、複素ベクトルなどを含む、種々のデータを記憶する。アプリケーションサーバは、図4図7図8図11A図11B図15図16などを用いて後述する処理を実行する。なお、ここでの複数のサーバは、物理サーバであってもよいし、仮想サーバであってもよい。また、仮想サーバが用いられる場合、当該仮想サーバは、1つの物理サーバに設けられてもよいし、複数の物理サーバに分散して配置されてもよい。このように、本実施形態におけるサーバシステム100の具体的な構成は、種々の変形実施が可能である。
【0014】
端末装置200は、情報処理システム10を利用するユーザによって使用される装置である。端末装置200は、PC(Personal Computer)であってもよいし、スマートフォンなどの携帯端末装置であってもよいし、本明細書で説明する機能を有する他の装置であってもよい。
【0015】
サーバシステム100は、例えばネットワークを介して端末装置200-1及び端末装置200-2と通信する。以下、複数の端末装置を互いに区別する必要がない場合、単に端末装置200と表記する。ここでのネットワークは、例えばインターネットなどの公衆通信網であるが、LAN(Local Area Network)などであってもよい。
【0016】
本実施形態の情報処理システム10は、例えば公開情報を用いて、対象に関するデータの収集、分析などを行うOSINT(Open Source Intelligence)システムである。ここでの公開情報は、広く公開されており、合法的に入手可能な種々の情報を含む。例えば公開情報は、有価証券報告書、産業連関表、政府の公式発表、国や企業に関する報道、サプライチェーンデータベースなどを含んでもよい。また、公開情報は、SNS(Social Networking Service)において送受信される種々の情報を含んでもよい。例えばSNSは、テキストまたは画像などを投稿可能なサービスを含み、本実施形態における公開情報は、当該テキストまたは画像、あるいはそれらに対する自然言語処理または画像処理などの結果を含んでもよい。
【0017】
サーバシステム100は、公開情報に基づいて様々な属性を含むノードを生成する。1つのノードは、所与のエンティティを表す。ここでのエンティティは企業である。ノードに付与される属性(タグ)は、公開情報に基づいて決定される情報であって、企業の名称、国籍、事業分野、産業分類、取引先及び取引品目などの種々の情報を含む。エンティティを表すノードが企業である場合、当該企業に関する属性がノードに付与される。なお、ここでの属性は、売り上げ、従業員数、株主及び出資比率、ボードメンバーなどを含んでよい。本実施形態では、属性のうち、少なくとも産業分類がノードに対して付与される。産業分類は、産業の種類をその性質ごとに分類したものである。産業分類として、例えば産業分類コードが用いられてよい。産業分類コードは、産業をいくつかに分類し、各分類結果に「01」等のコードを割り当てた情報である。産業分類コードは例えばNAICS(North American Industry Classification System)であるが、国際標準産業分類や日本標準産業分類等の他の分類コードが用いられてもよい。
【0018】
所与のノードと他のノードとの間に関係性がある場合、当該所与のノードと他のノードとが、向きを有するエッジによって接続される。例えば、所与の企業が、他の企業に対して何らかの取引製品を提供(売却)しているとする。この場合、他の企業に対応するノードと、所与の企業に対応するノードとの間が、製品の売買関係(流通関係)を表す属性が付与されたエッジによって接続される。ここでのエッジは、影響を与える側から受ける側への方向を有するエッジであり、例えば何らかの製品を売る側から買う側への方向を有するエッジである。つまり、製品の提供元企業及び提供先企業を対応付けた取引関係が、エッジにより示される。またエッジに付与される属性は製品に限定されず、起点企業、終点企業、製品、価格、取引(数)量等の種々の情報を含むことが可能である。なお製品に関する情報は、エッジに付与される必須の属性ではなく、省略が可能である。また起点企業等の他の情報についても同様であり、これらの情報は属性としてエッジに付与されてもよいし、省略されてもよい。
【0019】
本実施形態の手法では、サーバシステム100は、複数のエンティティ(例えば企業)を表す複数のノードが、取引関係を示す複数のエッジで接続されたネットワークである、エンティティネットワークを取得する。エッジは方向を有するため、エンティティネットワークは有向グラフである。サーバシステム100は、エンティティネットワークに基づく分析を行い、分析結果を提示する処理を行う。例えば、端末装置200は、OSINTシステムが提供するサービスを利用するユーザによって使用される装置である。例えばユーザは、端末装置200を用いて何らかの分析を情報処理システム10であるサーバシステム100に依頼する。サーバシステム100は、エンティティネットワークに基づく分析を行い、分析結果を端末装置200に送信する。
【0020】
ここでのエンティティネットワークは、企業間の取引関係を示すネットワークである。ただし、エンティティネットワーク中の経路には、(A)実際にその企業の製品に部品や材料として関わる様々なものの取引が連鎖するもの(上流側)及び/またはその企業の製品の取引が連鎖するもの(下流側)と、(B)その企業に直接関係しない取引の連鎖が偶然複数つながったもの、の二種類があった。よって本実施形態では、公開情報に基づいて取得される取引関係を表すエンティティネットワークを取引ネットワークと表記し、そのうち所与の企業の実質的な取引に関する一部をサプライチェーンネットワークと表記する。即ち、取引ネットワークは上記の(A)と(B)の両方を含むネットワークであり、所与の企業に関するサプライチェーンネットワークとは上記の(A)を含み、且つ、(B)を含まないと推定されるネットワークである。
【0021】
図2は、サーバシステム100の詳細な構成例を示す機能ブロック図である。サーバシステム100は、例えば図2に示すように、処理部110と、記憶部120と、通信部130と、を含む。
【0022】
本実施形態の処理部110は、下記のハードウェアによって構成される。ハードウェアは、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路の少なくとも一方を含むことができる。例えば、ハードウェアは、回路基板に実装された1又は複数の回路装置や、1又は複数の回路素子によって構成できる。1又は複数の回路装置は例えばIC(Integrated Circuit)、FPGA(field-programmable gate array)等である。1又は複数の回路素子は例えば抵抗、キャパシタ等である。
【0023】
また処理部110は、下記のプロセッサによって実現されてもよい。本実施形態のサーバシステム100は、情報を記憶するメモリと、メモリに記憶された情報に基づいて動作するプロセッサと、を含む。情報は、例えばプログラムと各種のデータ等である。プログラムは、サーバシステム100に、本明細書で説明する処理を実行させるものを含んでよい。プロセッサは、ハードウェアを含む。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等、各種のプロセッサを用いることが可能である。メモリは、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの半導体メモリであってもよいし、レジスタであってもよいし、ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)等の磁気記憶装置であってもよいし、光学ディスク装置等の光学式記憶装置であってもよい。例えば、メモリはコンピュータによって読み取り可能な命令を格納しており、当該命令をプロセッサが実行することによって、処理部110の機能が処理として実現される。ここでの命令は、プログラムを構成する命令セットの命令でもよいし、プロセッサのハードウェア回路に対して動作を指示する命令であってもよい。
【0024】
処理部110は、例えば取引ネットワーク取得部111、ベクトル取得部112、行列取得部113、サプライチェーン抽出部114、タグ遷移図生成部115及びサブネットワーク抽出部116を含む。
【0025】
取引ネットワーク取得部111は、取引ネットワーク121を取得する。例えば取引ネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて取引ネットワーク121を作成することにより取得してもよい。公開情報は、製品の提供元企業及び提供先企業を対応付けた取引関係情報を含む。取引ネットワーク取得部111は、作成した取引ネットワーク121を、記憶部120に記憶する。ただし、取引ネットワーク121の作成は、本実施形態に係る情報処理システム10とは異なるシステムにおいて行われてもよい。この場合、取引ネットワーク取得部111は、当該異なるシステムから作成結果を取得する処理を行ってもよい。
【0026】
取引ネットワーク取得部111は、例えば図5A図5Cを用いて後述するように、企業間の取引関係に基づいて、複数の企業に対応する複数のノードが接続されたネットワークを、取引ネットワーク121として取得してもよい。
【0027】
ベクトル取得部112は、取引ネットワーク121に含まれる各ノードのベクトル表現(複素ベクトル)を求める。具体的には、複数のノードのいずれかをベクトル算出ノードとした場合に、複数のノードのそれぞれについて、ベクトル算出ノードまでの距離に応じた位相、及び、ベクトル算出ノードへと向かう流量またはベクトル算出ノードからの流量に応じた絶対値を有する複素数を割り当てることによって、ベクトル算出ノードの他のノードとの関係性を表現する複素ベクトルを求める。ベクトル表現を求める手法については、図7図14等を用いて後述する。ベクトル取得部112は、取得した各ノードの複素ベクトルを記憶部120に記憶する。
【0028】
行列取得部113は、ベクトル取得部112によって取得された各ノードの複素ベクトルに基づいて、複素相関行列Cを求める。また行列取得部113は、複素相関行列Cの固有値分解を行うことによって、固有値と固有ベクトルを求める。
【0029】
サプライチェーン抽出部114は、複数のノードのそれぞれを表す複素ベクトルに基づいて、取引ネットワーク121の一部であるサプライチェーンネットワーク122を抽出する。具体的には、サプライチェーン抽出部114は、固有ベクトルに基づいて、取引ネットワーク121から、所与の企業の実質的な取引関係を表すサプライチェーンネットワーク122を抽出してもよい。例えばサプライチェーン抽出部114は、企業を限定せずに、少なくとも1つの企業にとってのサプライチェーンネットワーク122となるネットワークの集合をサプライチェーンネットワーク群として抽出する第1抽出処理と、当該サプライチェーンネットワーク群から対象企業や対象製品等の属性によって決定される一部をさらに抽出する第2抽出処理を実行する。
【0030】
タグ遷移図生成部115は、取引ネットワークの複数のノードのうち、サプライチェーンネットワーク122に含まれるノードに付与されたタグに基づいて、サプライチェーンネットワーク122におけるタグの情報を示すタグ遷移図を生成する。ここでのタグとは、ノードに付与された付加情報であり、上述した各種の属性と、当該属性における属性値の組み合わせであってもよい。またタグ遷移図によって示されるタグの情報とは、具体的にはサプライチェーンネットワーク122に含まれる複数のタグの間の関係を表す情報であってもよい。またタグ遷移図は、例えば図22を用いて後述するサンキー・ダイアグラムであるが、これ以外の図が用いられてもよい。タグ遷移図は、例えば端末装置200の表示部240に表示される。
【0031】
サブネットワーク抽出部116は、サプライチェーンネットワーク122の一部から構成されるサブネットワークを抽出する処理を行う。例えば、サブネットワーク抽出部116は、タグ遷移図に表示される複数のタグの遷移パターンのうちの1または複数の選択操作を取得してもよい。選択操作は、例えば端末装置200のユーザによって実行される操作である。サブネットワーク抽出部116は、サプライチェーンネットワーク122のうち、選択された遷移パターンからなる一部をサブネットワークとして抽出する。サブネットワークは、例えば端末装置200において表示される。
【0032】
記憶部120は、処理部110のワーク領域であって、種々の情報を記憶する。記憶部120は、種々のメモリによって実現が可能であり、メモリは、SRAM、DRAM、ROM、フラッシュメモリなどの半導体メモリであってもよいし、レジスタであってもよいし、ハードディスク装置等の磁気記憶装置であってもよいし、光学ディスク装置等の光学式記憶装置であってもよい。
【0033】
記憶部120は、例えば取引ネットワーク取得部111が取得した取引ネットワーク121を記憶する。また記憶部120は、サプライチェーン抽出部114が抽出したサプライチェーンネットワーク122を記憶する。また、記憶部120は、有価証券報告書、産業連関表等の公開情報を記憶してもよい。例えば記憶部120は、産業分類コード123及び規制対象企業リスト124等を記憶する。産業分類コード123は、産業をいくつかに分類し、各分類結果に「01」等のコードを割り当てた情報である。規制対象企業リスト124は、例えばESGの観点から問題がある企業を特定する情報である。その他、記憶部120は本実施形態の処理に係る種々の情報を記憶可能である。
【0034】
通信部130は、ネットワークを介した通信を行うためのインターフェイスであり、例えばアンテナ、RF(radio frequency)回路、及びベースバンド回路を含む。通信部130は、処理部110による制御に従って動作してもよいし、処理部110とは異なる通信制御用のプロセッサを含んでもよい。通信部130は、例えばTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)に従った通信を行うためのインターフェイスである。ただし具体的な通信方式は種々の変形実施が可能である。
【0035】
図3は、端末装置200の詳細な構成例を示すブロック図である。端末装置200は、処理部210と、記憶部220と、通信部230と、表示部240と、操作部250を含む。
【0036】
処理部210は、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路の少なくとも一方を含むハードウェアによって構成される。また処理部210は、プロセッサによって実現されてもよい。プロセッサは、CPU、GPU、DSP等、各種のプロセッサを用いることが可能である。端末装置200のメモリに格納された命令をプロセッサが実行することによって、処理部210の機能が処理として実現される。
【0037】
記憶部220は、処理部210のワーク領域であって、SRAM、DRAM、ROM等の種々のメモリによって実現される。
【0038】
通信部230は、ネットワークを介した通信を行うためのインターフェイスであり、例えばアンテナ、RF回路、及びベースバンド回路を含む。通信部230は、例えばネットワークを介して、サーバシステム100との通信を行う。
【0039】
表示部240は、種々の情報を表示するインターフェイスであり、液晶ディスプレイであってもよいし、有機ELディスプレイであってもよいし、他の方式のディスプレイであってもよい。操作部250は、ユーザによる操作入力を受け付けるインターフェイスである。操作部250は、例えば端末装置200に設けられるボタン等であってよい。また表示部240と操作部250は、一体として構成されるタッチパネルであってもよい。
【0040】
本実施形態の手法によれば、各ノードのベクトル表現として位相(距離)を考慮した複素ベクトルが用いられ、当該複素ベクトルを用いて取引ネットワーク121からサプライチェーンネットワーク122が抽出される。従って、取引ネットワーク121が上述した(A)と(B)の両方を含む多数のノード及びエッジからなるネットワークであったとしても、そのうちの重要度の高い情報をサプライチェーンネットワーク122として抽出すること、及び当該サプライチェーンネットワーク122を表すタグ遷移図を生成することが可能になる。結果として、所与の企業にとって本質的な取引関係を示すサプライチェーンネットワーク122の概要を分かりやすい態様で提示できるため、ユーザによる判断、分析を適切にサポートすることが可能になる。
【0041】
また、本実施形態の情報処理システム10が行う処理の一部又は全部は、プログラムによって実現されてもよい。情報処理システム10が行う処理とは、狭義にはサーバシステム100の処理部110が行う処理であるが、端末装置200の処理部210が実行する処理を含んでもよい。
【0042】
本実施形態に係るプログラムは、例えばコンピュータによって読み取り可能な媒体である非一時的な情報記憶媒体(情報記憶装置)に格納できる。情報記憶媒体は、例えば光ディスク、メモリーカード、HDD、或いは半導体メモリなどによって実現できる。半導体メモリは例えばROMである。処理部110等は、情報記憶媒体に格納されるプログラムに基づいて本実施形態の種々の処理を行う。即ち情報記憶媒体は、処理部110等としてコンピュータを機能させるためのプログラムを記憶する。コンピュータは、入力装置、処理部、記憶部、出力部を備える装置である。具体的には本実施形態に係るプログラムは、図4等を用いて後述する各ステップを、コンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0043】
また本実施形態の手法は、以下のステップを含む情報処理方法に適用できる。情報処理方法は、情報処理システム10が、複数の企業にそれぞれ対応する複数のノードが、取引関係を示すエッジで接続された取引ネットワーク121を取得し、複数のノードのいずれかをベクトル算出ノードとした場合に、複数のノードのそれぞれについて、ベクトル算出ノードまでの距離に応じた位相、及び、ベクトル算出ノードへと向かう流量またはベクトル算出ノードからの流量に応じた絶対値を有する複素数を割り当てることによって、ベクトル算出ノードの他のノードとの関係性を表現する複素ベクトルを求め、複数のノードのそれぞれを表す複素ベクトルに基づいて、取引ネットワーク121の一部であるサプライチェーンネットワーク122を抽出し、複数のノードのうち、サプライチェーンネットワーク122に含まれるノードに付与されたタグに基づいて、サプライチェーンネットワーク122におけるタグの情報を示すタグ遷移図を生成する、ステップを含む。
【0044】
2.処理の流れ
2.1 全体の流れ
図4は、本実施形態の情報処理システム10において実行される処理の概略を説明するフローチャートである。
【0045】
まず、ステップS101において、取引ネットワーク取得部111は、取引ネットワーク121を取得する。取引ネットワーク取得部111は、取引ネットワーク121を記憶部120に記憶する。
【0046】
ステップS102において、ベクトル取得部112は、取引ネットワーク121に含まれる複数のノードのそれぞれについて、ベクトル表現を求める。ベクトル取得部112は、求めたベクトル表現を記憶部120に記憶する。
【0047】
ステップS103において、行列取得部113は、ベクトル表現に基づいて複素相関行列Cを決定する。ステップS104において、行列取得部113は、複素相関行列Cの固有値分解を行い、固有値と固有ベクトルを求める。行列取得部113は、少なくとも固有ベクトルを記憶部120に記憶する。
【0048】
ステップS105において、サプライチェーン抽出部114は、固有ベクトルに基づいて、取引ネットワーク121からサプライチェーンネットワーク122を抽出する。例えばサプライチェーン抽出部114は、所与の企業Xの所与の製品Yに関するサプライチェーンネットワーク122を抽出してもよい。
【0049】
ステップS106において、タグ遷移図生成部115は、ステップS105で取得されたサプライチェーンネットワーク122に基づいて、タグ(属性)の関係を示すタグ遷移図を生成する。また図4には不図示であるが、処理部110は表示制御部を含み、当該表示制御部はタグ遷移図を端末装置200の表示部240に表示させる処理を行ってもよい。
【0050】
以下、各ステップの処理について詳細に説明する。
【0051】
2.2 取引ネットワーク取得
図4のステップS101に対応する取引ネットワーク121の取得処理について説明する。取引ネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて、取引ネットワーク121を生成してよい。公開情報には、例えば有価証券報告書やニュースリリース等の情報が含まれる。
【0052】
取引ネットワーク取得部111は、多数の企業のそれぞれについて、企業の名称、国籍、事業分野、取引先と取引品目等の種々の情報を特定する。また取引ネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて、各企業の従業員数、株主と出資比率、ボードメンバー等を特定してもよい。
【0053】
また取引ネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて、各企業の評判を表す評判情報を取得してもよい。例えば、評判情報とは、対象の企業が、ESG(Environment, Social, Governance)の観点から問題を有する企業であるか、制裁を受けた履歴があるか等を表す情報である。例えば評判情報は、輸出規制への違反をした企業であるか、紛争鉱物を取り扱う企業であるか、奴隷労働に関与する企業であるか、違法伐採に関する企業であるか等を表す情報であってもよい。また公開情報は、政府等の機関が発行する文書であってもよく、評判情報は、所定の国等において取引規制の対象となっているか否かを表す情報であってもよい。また上述したように公開情報はSNSに関する情報を含んでもよく、ここでの評判情報はSNSに基づいて決定される情報であってもよい。例えば取引ネットワーク取得部111は、SNSにおいて企業等の公式アカウントが発信した情報に基づいて評判情報を取得してもよい。また本実施形態の手法で用いられるSNSの情報は、公式アカウントから発信するものには限定されない。例えばSNSにおいて所定数以上のユーザが「紛争鉱物」、「奴隷労働」、「違法伐採」等のワードとともに所与の企業名を発信していた場合、当該企業に対して、ネガティブな評判情報が対応付けられてもよい。
【0054】
図5A図5Bは、公開情報に基づいて取得されるデータの構造例である。図5Aに示すように、取引ネットワーク取得部111は、公開情報に含まれる各企業について、企業名、産業分類、評判、国籍が対応付けられた情報を取得する。
【0055】
企業名は、例えば対象の企業の名称を表すテキストデータである。産業分類は、対象の企業の事業分野を表す情報である。評判は上記の通り、対象の企業が、ESGの観点から問題を有する企業であるか否か等を表す情報である。国籍は、対象の企業が属する国を表す情報である。
【0056】
なお図5Aでは産業分類をテキストで図示しているが、産業分類を表す情報は産業分類コードであってもよい。例えば日本標準産業分類であれば、非鉄金属第1次製錬・精製業には「231」というコードが割り当てられ、半導体素子製造業には「2813」等のコードが割り当てられる。なお、産業分類は上述したようにNAICS等、他の分類であってもよい。以下では、説明の便宜上、産業分類が分類名を表すテキストであるものとして説明する。ただし、以下の処理における分類名は産業分類コードに置き換えが可能である。また、記憶部120は図2に示すように産業分類コード123を含んでもよい。産業分類コード123は、例えばNAICSにおける分類名と分類コードを対応付けた情報である。処理部110は、産業分類コード123に基づいて、分類名と分類コードの間の変換処理を行ってもよい。
【0057】
また図5Bに示すように、取引ネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて、企業間の取引を表す情報を取得する。例えば公開情報に含まれる取引関係情報は、図5Bに示す情報、あるいは、図5Bに示す情報を特定することが可能な態様の情報である。企業間の取引を表す情報は、例えば販売元企業を特定する情報と、販売先企業を特定する情報と、取引される製品を特定する情報とを対応付けた情報である。
【0058】
取引ネットワーク取得部111は、これらの情報に基づいて、企業をノードとし、取引関係をエッジとする有向グラフである取引ネットワーク121を作成する。
【0059】
図5Cは、図5Bに示す取引関係に基づいて生成される取引ネットワーク121の一部を例示する図である。図5Bに示すように、企業C1が、企業C10に製品P1を売るという関係がある。この場合、取引ネットワーク取得部111は、企業C1を表すノードと、企業C10を表すノードとの間に、C1からC10への向きのエッジを付与する。企業C1を表すノードには、図5Aに示すように、企業名である「C1」の他、産業分類、評判、国籍等の情報が対応付けられる。企業C10を表すノードについても同様である。またC1からC10へと向かうエッジには、取引製品であるP1が対応付けられる。なお取引ネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて、取引量や取引価格等の情報を取得してもよく、これらの情報がエッジに対応付けられてもよい。
【0060】
また、図5Bに示すように、企業C10が、企業C5に製品P2を売るという関係があるとする。この場合、取引ネットワーク取得部111は、企業C10を表すノードと、企業C5を表すノードの間に、C10からC5への向きのエッジを付与する。各ノードには図5Aに示す情報が対応付けられ、エッジには取引製品等に関する情報が対応付けられる。
【0061】
なお、上述したように、有向グラフである取引ネットワーク121において、何らかのものを提供する(売る)側を「上流側」と表記し、何らかのものの提供を受ける(買う)側を「下流側」と表記する。なお上流及び下流の定義は、後述するサプライチェーンネットワーク122においても同様である。
【0062】
ここでの取引ネットワーク121は、狭義には処理対象の公開情報に含まれるすべての企業に対応するノードを含むネットワークである。そのため、取引ネットワーク121は非常に多くのノードを含むネットワークであり、ノード数は数千程度や、それ以上であってもよい。ただし、公開情報に含まれる一部の企業を除外する等、取引ネットワーク121の構成手法は種々の変形実施が可能である。
【0063】
図6は、取引ネットワーク121の概略を示す図である。図6に示すように、取引ネットワーク121は、複数のノードが、取引関係を表すエッジによって結合された有向グラフである。なお、図6では説明を分かりやすくするため、製造工場であるか、流通拠点であるか等に応じてノードの形状を変えている。上述したように、各ノードに対応する企業の名称や産業分類等の情報が取得されているため、例えば産業分類に応じて表示態様を変える等の処理を実行することが可能である。ただし、本実施形態の手法では、ノードの形状を制御することは必須ではない。
【0064】
なお、図5A及び図5Bは取引ネットワーク121に関するデータ構造の一例であり、具体的なデータ構造はこれに限定されない。例えば図5A図5Bではリレーショナルデータベース等のテーブルデータを用いる例を示したが、他の構造のデータが用いられてもよい。またテーブルデータを用いる場合であっても、テーブル数は2つに限定されず、1つにまとめられてもよいし、3つ以上に分割して管理されてもよい。また図5A図5Bに示した項目の一部が省略されてもよいし、他の項目が追加されてもよい。例えば取引ネットワーク取得部111は企業名、産業分類コード、売買の向きを表す情報を取得し、他の情報については欠落が許容されてもよい。
【0065】
2.3 ベクトル表現の算出
2.3.1 ベクトル算出ノードに関する取引ネットワーク抽出
図7は、図4のステップS102における複素ベクトル決定処理を説明するフローチャートである。この処理が開始されると、まずベクトル取得部112は、取引ネットワーク121に含まれる複数のノードの内の1つをベクトル算出ノードとして選択する。
【0066】
ステップS202において、ベクトル取得部112は、ベクトル算出ノードに関するサブ取引ネットワークを抽出する。サブ取引ネットワークとは、取引ネットワーク121のうち、ベクトル算出ノードを含む一部のネットワークを表す。
【0067】
ステップS203において、ベクトル取得部112は、ステップS202で抽出されたサブ取引ネットワークに基づいて、ベクトル算出ノードのベクトル表現を求める。ここでのベクトルは、図13を用いて後述するように、大きさと位相を有する複素数を要素とする複素ベクトルである。
【0068】
ステップS204において、ベクトル取得部112は、取引ネットワーク121に含まれる全てのノードのベクトル表現が求められたか否かを判定する。ベクトル表現が未算出のノードが存在する場合(ステップS204:No)、ステップS201に戻り、処理が継続される。例えばベクトル取得部112は、複素ベクトルが未算出のノードをベクトル算出ノードとして選択し、当該ベクトル算出ノードのベクトル表現を求める。
【0069】
全ノードのベクトル表現が算出された場合(ステップS204:Yes)、ベクトル取得部112は、図7に示した処理を終了する。
【0070】
図8は、図7のステップS202に対応するサブ取引ネットワーク抽出処理を説明するフローチャートである。
【0071】
ステップS301において、ベクトル取得部112は、サブ取引ネットワークの抽出の基準となる特定の企業を決定する。例えば、ここでの特定の企業は図7のステップS202で選択されるベクトル算出ノードに対応する企業であってもよい。例えば図7のステップS201~S204に示したように、取引ネットワーク121に含まれる複数のノードが順次、ベクトル算出ノードとして選択される。以下、特定の企業を企業Aとも表記する。
【0072】
ステップS302において、ベクトル取得部112は、ベクトル算出ノードに対応する企業Aに隣接し、当該企業Aに何かを売っている企業Xをすべて選択し、この集合をS1(A)とする。
【0073】
図9Aは、S1(A)を例示する図である。例えば図9Aは、取引ネットワーク121のうち、企業Aを含む一部を抽出した図である。図9Aの例では、企業X1を表すノードが、X1からAへと向かうエッジによって、企業Aを表すノードと直接接続されている。すなわち、X1は、企業Aに隣接し、企業Aに何かを売っている企業であるため、S1(A)の要素と判定される。同様に、X2及びX3も企業Aに隣接し、企業Aに何かを売っている企業であるため、S1(A)の要素と判定される。この場合のS1(A)は、(X1,X2,X3)という3つの要素からなる集合である。
【0074】
ステップS303において、ベクトル取得部112は、探索のための変数iを1に初期化し、Si+1(A)を空集合とする。ここではi=1に初期化するため、Si+1(A)はS2(A)となる。従って、ここでは、ベクトル取得部112は、S2(A)を空集合とする。
【0075】
ステップS304において、ベクトル取得部112は、Si(A)の各要素Xに対して、Xに隣接し、Xに製品を売っている企業Yのすべてに対し、企業YをSi+1(A)に追加する。所与の企業Aを対象として初めてステップS304の処理が行われる場合、i=1である。よって、この場合、ベクトル取得部112は、S1(A)の各要素Xに対して、Xに隣接し、Xに製品を売っている企業Yのすべてを、S2(A)に追加する。
【0076】
図9Bは、S2(A)を例示する図である。S1(A)は、この例では図9Aを用いて上述したとおり、(X1,X2,X3)という3つの要素からなる集合である。ベクトル取得部112は、まずX1に隣接し、X1に製品を売っている企業Yを特定する。ここではX4及びX5の2つが条件を満たすため、この2つの企業がS2(A)に追加される。次にベクトル取得部112は、X2に隣接し、X2に製品を売っている企業Yを特定する。ここではX5及びX6の2つが条件を満たす。X5についてはすでにS2(A)に追加済であるため、X6がS2(A)に追加される。次にベクトル取得部112は、X3に隣接し、X3に製品を売っている企業Yを特定する。ここではX7、X8及びX9の3つが条件を満たすため、この3つの企業がS2(A)に追加される。結果として、ステップS304では、例えば図9Bに示すように、S2(A)として、(X4,X5,X6,X7,X8,X9)という6つの要素からなる集合が生成される。
【0077】
ステップS305において、ベクトル取得部112は、Si+1(A)が空集合であるか否かを判定する。図9Bの例であれば、S2(A)は6つの要素を含むため、空集合ではない(ステップS305:No)と判定される。この場合、ステップS306において、ベクトル取得部112は、変数iをインクリメントして、Si+1(A)を空集合に初期化する。そして、ステップS304の処理に戻る。例えばベクトル取得部112は、図9Bに示すようにS2(A)を求めた後、ステップS306において、S3(A)を空集合に初期化した上でステップS304の処理に戻る。
【0078】
この場合、ステップS304において、ベクトル取得部112は、S2(A)の各要素Xに隣接し、Xに製品を売っている企業Yを特定し、企業YをS3(A)に追加する。例えばベクトル取得部112は、X4に隣接しX4に製品を売っている企業を特定し、特定された企業をS3(A)に追加する。X5からX9についても同様であり、ベクトル取得部112は、各企業に隣接し、且つ、製品を売っている企業をS3(A)に追加する。
【0079】
もしS3(A)が空集合でなければ、ステップS305の判定結果がNoとなるため、再度ステップS304に戻り、S4(A)を求める処理が実行される。これ以降の処理も同様であり、Si+1(A)が空集合となるまで、ステップS304からS306の処理が繰り返される。
【0080】
ステップS305においてSi+1(A)が空集合とは、ステップS304の処理によって条件を満たす要素が1つも見つからないことを表す。即ち、Si(A)の要素である企業Xのいずれにも、それ以上、上流側の企業が存在しないことを表す。
【0081】
よってこの場合(ステップS305:Yes)、ステップS307において、ベクトル取得部112は、S1(A)、S2(A)、…、Si(A)の和集合をSとする。
【0082】
ステップS308において、ベクトル取得部112は、企業Aと、Sに含まれるすべての企業に対応するノードを含む有向グラフを、サブ取引ネットワークとして出力する。ここでのサブ取引ネットワークは、ベクトル算出ノードに対応する企業Aを基準として上流側の企業を表すサブネットワークであるため、上流側サブ取引ネットワークとも表記する。
【0083】
図10は、上流側サブ取引ネットワークの例である。図10に示すように、上流側サブ取引ネットワークは、企業Aと直接的または間接的に接続される企業を表すノードからなる有向グラフである。このようにすれば、取引ネットワーク121のうち、所望の企業に関連する部分を適切に抽出することが可能になる。上流側サブ取引ネットワークは、企業Aと接続関係を特定可能な情報であるため、企業Aの特徴を複素ベクトルで表現する上で有用な情報である。
【0084】
なお、ステップS304においてSi+1(A)を求める際、ベクトル取得部112は、「Si(A)の要素Xに隣接しXに何かを売っている」という条件に加えて、「{A}、S1(A)、…、及びSi(A)の和集合に含まれない」という条件に基づいて企業Yを特定してもよい。
【0085】
例えば3つの企業Xa,Xb、Xcについて、Xa←Xb←Xc←Xaという循環が存在する場合であって、XaがSi-2(A)の要素であり、XbがSi-1(A)の要素であり、XcがSi(A)の要素である場合を考える。「Xa←Xb」は、XbがXaに隣接し且つ何かを売っていることを表す。この場合、XaはすでにSi-2(A)の要素であるが、Xcに隣接しXcに何かを売っているため、Si+1(A)の要素となり得る。すなわち、循環まで考慮すると、ベクトル取得部112による処理が複雑化するおそれがある。その点、上記「{A}、S1(A)、…、及びSi(A)の和集合に含まれない」という条件を追加することによって、XaはSi+1(A)の要素から除外されるため、処理の簡略化が可能である。
【0086】
また図8のステップS305において、ベクトル取得部112は、Si+1(A)が空集合であるか否かの判定に加えて、i≧kであるか否かを判定してもよい。ここでkは、サブ取引ネットワークの抽出対象となる段数を決定する値である。kは例えば3程度の値であるが、異なる値が設定されてもよい。ベクトル取得部112は、Si+1(A)が空集合であるという第1条件と、i≧kであるという第2条件の少なくとも一方が満たされた場合に、ステップS305でNoと判定し、それ以上の探索を終了してもよい。このようにすれば、ベクトル表現を求めるためのサブ取引ネットワークの上流側の段数をk段に限定できる。そのため、ベクトル算出ノードに対応する企業との距離が遠い企業を処理から除外できるため、処理負荷の軽減が可能になる。より具体的には後述するベクトル表現において値が0となる要素の数を増やすことができるため、複素ベクトルを用いた処理(例えば類似度算出や、複素相関行列Cの固有値分解)における計算負荷を軽減できる。
【0087】
なお以上では企業Aを基準として上流側の企業からなる上流側サブ取引ネットワークについて説明した。ただしサブ取引ネットワークは上流側サブ取引ネットワークに限定されず、下流側サブ取引ネットワークを含んでもよい。下流側についても探索方向が変わるのみであり、処理は図8と同様であるため説明は省略する。例えばベクトル取得部112は、ベクトル算出ノードの上流k段、及び下流k段の範囲において当該ベクトル算出ノードのサブ取引ネットワークを抽出する。
【0088】
2.3.2 ベクトル表現を求める処理
次にサブ取引ネットワークに基づいてベクトル算出ノードのベクトル表現を求める処理について説明する。本実施形態の手法では、ベクトル取得部112は、ベクトル算出ノードのサブ取引ネットワークに含まれる各ノードに対して、ベクトル算出ノードまでの距離に応じた位相、及び、ベクトル算出ノードへと向かう流量またはベクトル算出ノードからの流量に応じた絶対値を有する複素数を割り当てることによって、ベクトル算出ノードを表す複素ベクトルを求める。なお本実施形態における流量とは、有向グラフにおいて当該グラフ上を流れるものの量を表す。本実施形態のグラフは上流側企業から下流側企業へ向かう方向の有向グラフであり、流量とは上流側企業が下流側企業へ与える影響度合いを表す。本実施形態の流量は、図12Aを用いて後述するように、有向グラフにおけるノードの接続関係に基づいて決定される情報であってもよい。また流量は、例えば上流側企業から下流側企業へ供給される製品(材料、原料、製造装置等を含む)の具体的な量を反映した情報であってもよい。
【0089】
本実施形態の手法によれば、有向グラフである取引ネットワーク121(狭義にはそのうちのサブ取引ネットワーク)における流量(フロー)の大きさを絶対値により表現することに加えて、ノード間の距離を位相により表現することが可能になる。そのため、ベクトル算出ノードを含むサブ取引ネットワーク(局所グラフ)の構造を正確に反映したベクトル表現が可能になる。より具体的には、ノードのベクトル表現として、当該ノードがその上流、下流において、どのような企業とつながっているかという情報を、詳細に反映する情報を用いることが可能になる。
【0090】
図11A及び図11Bは、図7のステップS203に対応するベクトル算出ノードのベクトル表現を求める処理を説明するフローチャートである。まずステップS401において、ベクトル取得部112は、上流側ノードに関する初期化処理を実行する。以下では、ベクトル算出ノードnsの上流側ノードをxとしたとしき、上流側ノードxの位相付き流量をF(Δθ,x)とする。ベクトル取得部112は、取引ネットワーク121に含まれ、且つ、ベクトル算出ノードnsよりも上流側に位置する全ての上流側ノードxについて、F(Δθ,x)を0で初期化する。またベクトル取得部112は、ベクトル算出ノードns自身の位相付き流量であるF(Δθ,ns)を1に設定する。またベクトル算出ノードから上流にm段離れたノードの集合をN とする。ベクトル算出ノードnsから0段離れたノードはベクトル算出ノード自身となるため、N ={ns}である。またベクトル取得部112は、mを1で初期化する。
【0091】
ステップS402において、ベクトル取得部112は、m>kと、N =φの少なくとも一方が満たされるかを判定する。ここでのkは、例えばサブ取引ネットワークの抽出処理において上述したkと同様であり、探索範囲の上限段数を表す数値である。φは空集合を表す。
【0092】
m≦k、且つ、N ≠φである場合(ステップS402:No)、ステップS403において、ベクトル取得部112は、N に含まれる全てのノードxを対象として、下式(1)を用いてF(Δθ,x)を更新する。
【0093】
【数1】
【0094】
図12A図12Bを用いて具体例を説明する。図12A及び図12Bでは、取引ネットワーク121として、全ノード数n=14の例を示している。ここで、ベクトル算出ノードとしてノード8が選択された場合を考える。なおここでの取引ネットワーク121は小規模であり、取引ネットワーク121と、ノード8の上下3段分のサブ取引ネットワークが同一となるため、以下の説明では取引ネットワーク121とサブ取引ネットワークを区別しない。
【0095】
図12Aは、取引ネットワーク121のノード8に着目した場合の流量を示す図である。この場合、ノード8から上流に1段離れたノードは、ノード3とノード4となる。即ち、ノード8の1段上流からノード8へと流れ込むためのエッジは、ノード3とノード8を結ぶエッジと、ノード4とノード8を結ぶエッジの2本となる。よってノード8に流れ込む流量を1とした場合、当該流量が2本のエッジに所与の比率で分配されることになる。
【0096】
例えば分配比率が等分である場合、ノード3からノード8への流量が1/2、ノード4からノード8への流量が1/2となる。当然、ノード8の1段上流からノード8へと流れ込むためのエッジがN本(Nは2以上の整数)である場合、各エッジに対応する流量は1/Nとなる。以下では分配比率が等分である例について説明する。ただし、具体的な製品の取引量等がエッジに対応付けられている場合、当該取引量等に基づいて分配比率が設定されてもよい。
【0097】
分配比率が決定されたら、具体的に上式(1)の計算が行われる。例えばF(Δθ,3)を求める場合、右辺第1項の更新前のF(Δθ,3)は初期値そのものとなるため0である。またN は、ノード8のみとなるため、「Nm-1 の中でxにつながるノードyすべて」はノード8となる。またノード3とノード8を結ぶエッジの分配比率は上記の通り1/2である。またF(Δθ,y)は、ベクトル算出ノードであるノード8の位相付き流量であるため、ステップS401で設定したとおり1である。従って、F(Δθ,3)は以下のように更新される。同様に、F(Δθ,4)は以下のように更新される。
(Δθ,3)=0+eiΔθ×(1/2)×1=0.5eiΔθ
(Δθ,4)=0+eiΔθ×(1/2)×1=0.5eiΔθ
【0098】
図12Bは、図12Aと同様の取引ネットワーク121を対象とした場合であって、ノード8をベクトル算出ノードとしたときの各ノードの位相付き流量を例示した図である。上述したように、ノード3及び4の位相付き流量は、いずれも0.5eiΔθとなる。
【0099】
次のステップS404において、ベクトル取得部112はmをインクリメントし、ステップS402に戻って処理を行う。例えば2回目のステップS402の処理ではm=2に設定されているため、2>kであるかの判定、及び、N が空集合であるかの判定が行われる。
【0100】
例えばk=3である場合、2>kは満たされない。また図12A図12Bの例では、ノード8から上流に2段離れたノードとして、ノード3の1段上流に隣接し且つノード4の1段上流に隣接するノード1と、ノード4の1段上流に隣接するノード2が存在する。即ち、N はノード1とノード2の集合であり、空集合ではない。よってこの例ではベクトル取得部112は、ステップS402でNoと判定し、ステップS403の処理を実行する。
【0101】
この場合、N に含まれるノード1とノード2を対象として位相付き流量の更新処理が実行される。図12Aに示すように、ノード3から上流に1段離れたノードは、ノード1のみとなる。即ち、ノード3の1段上流からノード3へと流れ込むためのエッジは、ノード1とノード3を結ぶエッジの1本のみとなる。よってノード3の流量は、その全てがノード1に起因する流量となるため、分配比率は1になる。
【0102】
またノード4から上流に1段離れたノードは、ノード1とノード2の2つとなる。即ち、ノード4の1段上流からノード4へと流れ込むためのエッジは、ノード1とノード4を結ぶエッジと、ノード2とノード4を結ぶエッジの2本となる。よってノード4の流量は、その1/2がノード1に起因し、残り1/2がノード2に起因する流量となるため、分配比率はそれぞれ1/2になる。
【0103】
分配比率が決定されたら、具体的に上式(1)の計算が行われる。例えばF(Δθ,1)を求める場合、右辺第1項の更新前のF(Δθ,1)は初期値そのものとなるため0である。またN は、ノード3とノード4であり、この両方がノード1とつながるため、「Nm-1 の中でxにつながるノードyすべて」はノード3とノード4の2つとなる。またノード1とノード3を結ぶエッジの分配比率は1であり、ノード3の位相付き流量F(Δθ,3)は上述したとおり0.5eiΔθである。またノード1とノード4を結ぶエッジの分配比率は1/2であり、ノード4の位相付き流量F(Δθ,4)は上述したとおり0.5eiΔθである。従って、F(Δθ,1)は以下のように更新される。
(Δθ,1)=0+eiΔθ×{1×0.5eiΔθ+1/2×0.5eiΔθ
=0.75e2iΔθ
【0104】
またF(Δθ,2)を求める場合、右辺第1項の更新前のF(Δθ,2)は初期値そのものとなるため0である。またN は、ノード3とノード4であり、このうちノード2とつながるのはノード4のみであるため、「Nm-1 の中でxにつながるノードyすべて」はノード4の1つとなる。またノード2とノード4を結ぶエッジの分配比率は1/2であり、ノード4の位相付き流量F(Δθ,4)は上述したとおり0.5eiΔθである。従って、F(Δθ,2)は以下のように更新される。
(Δθ,2)=0+eiΔθ×{1/2×0.5eiΔθ}=0.25e2iΔθ
【0105】
以上の説明から分かるように、ベクトル算出ノードからの段数が増えるごとにeiΔθが乗算されることになるため、位相がΔθずつずれている。即ち、本実施形態の手法では、ベクトル算出ノードから上流にm段離れたノードの位相は、mΔθとなる。
【0106】
次のステップS404において、ベクトル取得部112はmをインクリメントし、ステップS402に戻って処理を行う。例えば3回目のステップS402の処理ではm=3に設定されているため、3>kであるかの判定、及び、N が空集合であるかの判定が行われる。
【0107】
図12A図12Bの取引ネットワーク121の例では、ノード1よりも上流のノード、及び、ノード2よりも上流のノードは存在しないため、N が空集合となる。よってステップS402でYesと判定され、図11Bに示す下流側の処理に移行する。N が空集合でなく、且つk≧3である場合には、ステップS402でNoと判定されるため、N に含まれる各ノードを対象として、位相付き流量の更新処理が実行される。即ち、本実施形態の手法では、上流側にk段分の処理が完了する、及び、それよりも上流側にノードが存在しないという条件の少なくとも一方が満たされるまで、1段ずつ上流に向かって位相付き流量を更新する処理が繰り返される。
【0108】
上流側の処理が完了した場合、図11BのステップS405において、ベクトル取得部112は、下流側ノードに関する初期化処理を実行する。以下では、ベクトル算出ノードnsの下流側ノードをxとしたとしき、下流側ノードxの位相付き流量をF(Δθ,x)とする。ベクトル取得部112は、取引ネットワーク121に含まれ、且つ、ベクトル算出ノードnsよりも下流側に位置する全ての下流側ノードxについて、F(Δθ,x)を0で初期化する。またベクトル取得部112は、ベクトル算出ノードns自身の位相付き流量であるF(Δθ,ns)を1に設定する。またベクトル算出ノードから下流にm段離れたノードの集合をN とする。ベクトル算出ノードnsから0段離れたノードはベクトル算出ノード自身となるため、N ={ns}である。またベクトル取得部112は、mを1で初期化する。
【0109】
ステップS406において、ベクトル取得部112は、m>kと、N =φの少なくとも一方が満たされるかを判定する。即ち、下流側においても上流側と同様に、k段分の処理が完了する、または、それよりも下流側にノードが存在しないという条件が満たされるまで、処理が繰り返される。
【0110】
k段分の処理が完了しておらず、且つ、下流側にノードが存在する場合(ステップS406:No)、ステップS407において、ベクトル取得部112は、N に含まれる全てのノードxを対象として、下式(2)を用いてF(Δθ,x)を更新する。
【0111】
【数2】
【0112】
図12Aの例であれば、ベクトル算出ノードであるノード8から下流に1段離れたノードは、ノード11とノード12となる。即ち、ノード8からノード8の1段下流へと流れ出るためのエッジは、ノード8とノード11を結ぶエッジと、ノード8とノード12を結ぶエッジの2本となる。よってノード8から流れ出る流量を1とした場合、当該流量が2本のエッジに所与の比率で分配されることになる。分配比率が等分である場合、ノード8からノード11への流量が1/2、ノード8からノード12への流量が1/2となる。
【0113】
分配比率が決定されたら、具体的に上式(2)の計算が行われる。例えばF(Δθ,11)を求める場合、右辺第1項の更新前のF(Δθ,11)は初期値そのものとなるため0である。またN は、ノード8のみとなるため、「Nm-1 の中でxにつながるノードyすべて」はノード8となる。またノード8とノード11を結ぶエッジの分配比率は上記の通り1/2である。またF(Δθ,y)は、ベクトル算出ノードであるノード8の位相付き流量であるため、ステップS405で設定したとおり1である。従って、F(Δθ,11)は以下のように更新される。同様に、F(Δθ,12)は以下のように更新される。
(Δθ,11)=0+e-iΔθ×(1/2)×1=0.5e-iΔθ
(Δθ,12)=0+e-iΔθ×(1/2)×1=0.5e-iΔθ
【0114】
次のステップS408において、ベクトル取得部112はmをインクリメントし、ステップS406に戻って処理を行う。例えば2回目のステップS406の処理ではm=2に設定されているため、2>kであるかの判定、及び、N が空集合であるかの判定が行われる。
【0115】
図12A図12Bの例では、N に含まれるノード13及びノード14に関する処理が行われ、F(Δθ,13)及びF(Δθ,14)が更新される。処理の詳細については、以上で説明した例と同様であるため説明を省略する。なおベクトル算出ノードからの段数が増えるごとにe-iΔθが乗算されることになるため、位相が-Δθずつずれている。即ち、本実施形態の手法では、ベクトル算出ノードから下流にm段離れたノードの位相は、-mΔθとなる。
【0116】
下流側にk段分の処理が完了する、及び、それよりも下流側にノードが存在しないという条件の少なくとも一方が満たされた場合(ステップS406:Yes)、ステップS409において、ベクトル取得部112は、各ノードについて求められた位相付き流量に基づいて、ベクトル算出ノードのベクトル表現を決定する。
【0117】
具体的には、ベクトル取得部112は、取引ネットワーク121に含まれるn個のノードの全てについて、位相付き流量を所定順に並べたn次元複素ベクトルを、ベクトル算出ノードのベクトル表現とする。
【0118】
図13は、図12A及び図12Bを用いて上述した例におけるベクトル表現を示す図である。上述したように、ここでの取引ネットワーク121は14個のノードを含むため、求められるベクトルは14次元複素ベクトルとなる。例えば14次元複素ベクトルは、ノード1~ノード14の位相付き流量をこの順に並べたベクトルである。ただし、取引ネットワーク121に含まれる複数のノードの順序はこれに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【0119】
上述したように、ノード1~ノード4、ノード11~ノード14はベクトル算出ノードであるノード8に接続されるため、位相付き流量が更新される。従って、1~4番目、及び11~14番目の要素は0でない複素数となる。一方、ノード5~ノード7、ノード9~ノード10は更新対象とならないため位相付き流量は初期値である0のままとなる。従って、5~7番目、9~10番目の要素は0となる。8番目の要素は、ノード8自身の位相付き流量であるため1となる。
【0120】
本実施形態の手法によれば、流量そのものだけでなく、ベクトル算出ノードからの段数を考慮したベクトル表現を用いることが可能になる。図13の例であれば、複素ベクトルの1番目の要素の位相が2Δθであることから、当該複素ベクトルは、ノード1がベクトル算出ノードから上流に2段離れているという情報を保持できる。同様に、3番目の要素の位相がΔθであることから、複素ベクトルは、ノード3がベクトル算出ノードから上流に1段離れているという情報を保持できる。これらの情報を保持する複素ベクトルをこれ以降の処理に用いることによって、段数を含む情報が処理に反映されるため、処理精度を向上させることが可能になる。
【0121】
なお、上下k段までの処理を行う場合、要素となる複素数の位相は、上流側でΔθ、2Δθ、3Δθ、・・・、kΔθとなり、下流側で-Δθ、-2Δθ、-3Δθ、・・・、-kΔθとなる。位相と段数の関係を明確にするためには、これらの位相が互いに重複しないことが望ましい。例えば、k=3である場合にΔθ=π/2に設定してしまうと、e2iΔθ=e-2iΔθ=-1等の重複が発生するため、例えば上流側に2段離れていることと、下流側に2段離れていることの区別が難しくなる。よって本実施形態では、Δθはkに基づいて値が設定されてもよい。例えばΔθは、(k+1)×Δθ=πを満たす正の実数である。
【0122】
図14は、異なる構造の取引ネットワーク121の一部を例示する図である。図14において、ノード1がベクトル算出ノードとして選択され、ノード2~ノード5等の位相付き流量を求める場合を考える。
【0123】
ここでノード5は、ノード1と直接接続されるため、N に含まれるノードである。具体的には、ノード5の位相付き流量F(Δθ,5)は、N を対象とした処理により以下のように更新される。
(Δθ,5)=0+eiΔθ×(1/3)×1=(1/3)eiΔθ
【0124】
またノード5は、N に含まれるノード2から1段上流のノードであるため、N に含まれるノードである。具体的には、ノード5の位相付き流量F(Δθ,5)は、N を対象とした処理により以下のように更新される。なおノード2の位相付き流量F(Δθ,2)は(1/3)eiΔθである。
(Δθ,5)=(1/3)eiΔθ+eiΔθ×(1/2)×(1/3)eiΔθ
=(1/3)eiΔθ+(1/6)e2iΔθ
【0125】
さらにノード5は、N に含まれるノード4から1段上流のノードであるため、N に含まれるノードである。具体的には、ノード5の位相付き流量F(Δθ,5)は、N を対象とした処理により以下のように更新される。なお、ノード4の位相付き流量F(Δθ,4)は(1/6)e2iΔθである。
(Δθ,5)=(1/3)eiΔθ+(1/6)e2iΔθ
+eiΔθ×(1/2)×(1/6)e2iΔθ
=(1/3)eiΔθ+(1/6)e2iΔθ+(1/12)e3iΔθ
【0126】
以上のように、本実施形態の手法では、ベクトル算出ノードから対象ノードまでの経路として、距離(段数)の異なる複数の経路が存在するネットワーク構造であったとしても、対象ノードの位相付き流量を用いて、当該ネットワーク構造を表現することが可能になる。例えば上述の例であれば、F(Δθ,5)には位相がΔθの項と、2Δθの項と、3Δθの項の3つが含まれるため、図14に示したサブ取引ネットワークの構造が適切にベクトル表現に反映される。
【0127】
取引ネットワーク121の各ノードの複素ベクトルは、例えばノード間の類似度算出に用いられてもよい。例えば処理部110は、下式(3)に基づいてノードiとノードjの類似度Sを求める不図示の類似度算出部を含んでもよい。下式(3)において、x はxの各要素について共役複素数を取った複素共役ベクトルを表す。即ち、右辺の分子はxとxのエルミート内積を表す。また|x|及び|x|は、それぞれx及びxの大きさ(ノルム)を表す。R{}は実部を表す。
【0128】
【数3】
【0129】
このようにすれば、例えばベクトル間の類似度算出に用いられるコサイン類似度を複素数に拡張することが可能になる。具体的には、上述したようにノード間の距離(位相差)を用いた判定が可能になるため、類似度の算出精度を高くすることが可能である。
【0130】
2.4 複素相関行列と固有値分解
本実施形態の複素ベクトルは、取引ネットワーク121からサプライチェーンネットワーク122を抽出する処理に用いられてもよい。具体的には、まず図4のステップS103に示したように、行列取得部113は、複素ベクトルに基づいて複素相関行列Cを決定し、ステップS104に示したように当該複素相関行列Cの固有値分解を行う。
【0131】
まず行列取得部113は、取引ネットワーク121に含まれる第1~第nノードのそれぞれの複素ベクトル表現を取得する。以下、第i(iは1≦i≦nを満たす整数)のノードに対応する複素ベクトルをxとする。例えばベクトル取得部112は、第1~第nのノードのそれぞれをベクトル算出ノードとして、図11A及び図11Bに示した処理を実行することで複素ベクトルx~xを求め、求めたx~xを記憶部120に記憶する。x~xは、それぞれがn次元複素ベクトルであり、例えば縦ベクトルである。
【0132】
次に行列取得部113は、x~xを並べることによって行列Xを取得する。例えば行列取得部113は、x~xを所定順に並べた行列X=[x,x,・・・,x]を取得し、成分ごとに絶対値が1となるように規格化する。そして行列取得部113は、規格化後の行列を改めて行列Xとする。以上のように、本実施形態において「x~xを並べることによって行列Xを取得する」処理とは、単純にx~xを並べる処理に限定されず、規格化等の他の処理(並べる前の前処理であってもよいし、並べた後の後処理であってもよい)を含んでもよい。
【0133】
行列Xは、n行n列の正方行列である。また行列取得部113は、行列Xの各成分の共役複素数を取って転置した行列(複素共役転置)Xを求める。行列Xもn行n列の正方行列である。なお、取引ネットワーク121に含まれるn個のノードを並び順は、複素ベクトル表現を求める際の順序と同じである。
【0134】
そして行列取得部113は、C=XXにより、複素相関行列Cを求める。複素相関行列Cもn行n列の正方行列である。Cの各成分は2つの複素ベクトルのエルミート内積に相当するため、上式(3)に示した類似度に対応する情報である。従ってCは取引ネットワーク121の第1~第nのノードのノード間の相関を表す複素相関行列Cとして用いることが可能である。
【0135】
次に行列取得部113は、複素相関行列Cの固有値分解を行う。具体的には行列取得部113は、C=VΛV-1により、複素相関行列Cを、固有ベクトルを列ベクトルとする行列Vと、固有値を対角成分とする対角行列Λに分解する。以下、m個の固有値をe~eと表記し、それぞれの固有値に対応するm個の固有ベクトルをv~vと表記する。ここでmはm≦nを満たす整数である。なお固有値分解については公知の手法であるため詳細な説明は省略する。
【0136】
なお以上ではx~xが縦ベクトルとして表現される例について説明したがx~xは横ベクトルとして表現されてもよい。この場合、例えば行列取得部113は、x~xを縦方向に並べて絶対値を1に規格化した行列をXとする。また行列取得部113は、C=XXにより、複素相関行列Cを求めてもよい。以上のように、本実施形態の行列取得部113は、取引ネットワークの各ノードを表現する複数の複素ベクトルから複素相関行列Cを求める処理、及び、複素相関行列Cの固有値分解を行う処理を行うものであり、具体的な処理は種々の変形実施が可能である。
【0137】
2.5 サプライチェーンネットワークの取得
次に図4のステップS105に対応するサプライチェーンネットワーク122の抽出処理を説明する。
【0138】
サプライチェーン抽出部114は、取引ネットワーク及び複素ベクトルに基づいて、サプライチェーンネットワーク群を抽出する処理と、当該サプライチェーンネットワーク群のうちの処理対象ノードを含む一部を、タグ遷移図の生成対象であるサプライチェーンネットワーク122として選択する処理と、を行う。このようにすれば、取引ネットワーク121のうちの重要な部分をサプライチェーンネットワーク122として抽出するだけでなく、具体的なノード(企業)を特定した処理を行うことが可能になる。結果として、タグ遷移図の生成に用いる情報の量を適切に抑制することが可能になる。
【0139】
以下、企業(ノード)を限定せずにサプライチェーンネットワーク群を抽出する処理を第1抽出処理と表記し、サプライチェーンネットワーク群から企業や製品等を限定したサプライチェーンネットワーク122を抽出する処理を第2抽出処理と表記する。
【0140】
2.5.1 サプライチェーンネットワーク群の取得
図15は、サプライチェーン抽出部114による第1抽出処理を説明するフローチャートである。まずステップS501において、サプライチェーン抽出部114は、m個の
固有ベクトルv~vのうち、vを選択する。ここでjは1以上m以下の整数であり、例えば初期値はj=1である。
【0141】
ここでvは、n行n列の複素相関行列Cの固有値分解によって得られるベクトルであるため、n個の要素を含む縦ベクトルとなる。例えば固有ベクトルvは以下の式(4)となる。なお下式(4)では表現を容易にするため、固有ベクトルvの転置表現を用いている。
【0142】
【数4】
【0143】
ここで固有ベクトルvの1番目の要素は、取引ネットワーク121のノード1に関する情報を表す。即ち、ノード1の絶対値(流量)はrj1であり、位相(基準ノードからの距離)はpj1である。固有ベクトルvの2~n番目の要素についても同様であり、それぞれがノード2~ノードnの流量と位相を表す。つまり1つの固有ベクトルは、取引ネットワーク121に含まれるn個のノード間の関係(ネットワーク構造)を特定する情報である。そして、固有ベクトルが複素相関行列Cから求められることに鑑みれば、固有ベクトルが表すネットワーク構造は、取引ネットワーク121における主要なネットワーク構造を表すと考えられる。従って本実施形態のサプライチェーン抽出部114は、固有ベクトルに基づいて取引ネットワーク121からサプライチェーンネットワーク群を抽出する第1抽出処理を行う。
【0144】
ステップS502において、サプライチェーン抽出部114は、取引ネットワーク121に含まれるエッジE~E(Lはエッジ総数を表す2以上の整数)のうち、Eを選択する。ここでlは1以上L以下の整数であり、例えば初期値はl=1である。
【0145】
ステップS503において、サプライチェーン抽出部114は、エッジEの上流側ノードc(l,s)と下流側ノードc(l,t)を特定する。例えばエッジEは属性として上流側ノードc(l,s)と下流側ノードc(l,t)を含み、サプライチェーン抽出部114は当該属性値を参照することによってステップS503の処理を行う。
【0146】
ステップS504において、サプライチェーン抽出部114は、固有ベクトルvに基づいて上流側ノードc(l,s)の絶対値rj(l,s)と位相pj(l,s)を決定する。具体的には、サプライチェーン抽出部114は上流側ノードc(l,s)が取引ネットワーク121に含まれるノード1~ノードnのうちの何番目のノードであるかを特定し、固有ベクトルvのn個の要素のうち、対応する要素を読み出すことによって絶対値rj(l,s)と位相pj(l,s)を決定する。例えば上流側c(l,s)がノード1に対応する場合、rj(l,s)=rj1であり、pj(l,s)=pj1である。
【0147】
ステップS505において、サプライチェーン抽出部114は、固有ベクトルvに基づいて下流側ノードc(l,t)の絶対値rj(l,t)と位相pj(l,t)を決定する。具体的な処理については上流側ノードc(l,s)の場合と同様である。
【0148】
そしてサプライチェーン抽出部114は、固有ベクトルvの要素の絶対値によって表される上流側ノードc(l,s)の流量及び下流側ノードc(l,t)の流量の大きさを判定する第1判定、及び、固有ベクトルvの要素の位相によって表される上流側ノードc(l,s)と下流側ノードc(l,t)の間の距離を判定する第2判定を行うことによって、サプライチェーンネットワーク122を抽出する。ただし、第1判定と第2判定の両方は必須ではなく、何れか一方が省略されてもよい。
【0149】
このようにすれば、固有ベクトルvから求められる流量や位相を用いてエッジEの重要度合いを判定できる。具体的には、固有ベクトルにおいて上流側ノードc(l,s)の流量及び下流側ノードc(l,t)の流量の両方がある程度大きい場合、当該2つのノードを結ぶエッジEは取引ネットワーク121内でも重要なエッジと推定される。また固有ベクトルvから求められる位相は、当該固有ベクトルvによって表されるネットワーク構造における上流側ノードc(l,s)と下流側ノードc(l,t)の主要な接続関係(距離、段数)を表している。つまり固有ベクトルの位相から特定される接続関係と、エッジEにおける接続関係が近ければエッジEの重要度は高く、遠ければエッジEの重要度は低いと判定できる。以上のように、流量及び位相を用いることによって、エッジEに関する判定を適切に実行することが可能になる。
【0150】
ステップS506において、サプライチェーン抽出部114は流量に基づく第1判定を行う。具体的には、サプライチェーン抽出部114は、上流側ノードc(l,s)の絶対値rj(l,s)が所与の閾値δよりも大きく、且つ、下流側ノードc(l,t)の絶対値rj(l,t)が所与の閾値δよりも大きいかを判定する。
【0151】
j(l,s)とrj(l,t)の両方がδより大きい場合(ステップS506:Yes)、ステップS507において、サプライチェーン抽出部114は位相(距離)に基づく第2判定を行う。具体的には、サプライチェーン抽出部114は、上流側ノードc(l,s)の位相pj(l,s)から下流側ノードc(l,t)の位相pj(l,t)を減算し、その値が(1-ε)より大きく、且つ、(1+ε)より小さいかを判定する。ここでεは所与の閾値である。
【0152】
(1+ε)及び(1-ε)に含まれる1とは、隣り合う2つのノード間の処理を表す値である。上述したように、取引ネットワーク121において、上流側ノードc(l,s)と下流側ノードc(l,t)はエッジEによって直接接続される2つのノードであり、ノード間の距離は1となる。つまりエッジEが取引ネットワーク121の中で重要なエッジである場合、固有ベクトルvによって表されるネットワーク構造においても、上流側ノードc(l,s)と下流側ノードc(l,t)はエッジEに相当するエッジにより直接接続される、即ち固有ベクトルvから求められるノード間距離が1に十分近い値になると推定される。一方で、エッジEが取引ネットワーク121の中で重要なエッジでない場合、固有ベクトルvによって表されるネットワーク構造においては、上流側ノードc(l,s)と下流側ノードc(l,t)はそもそも接続されないか、エッジEとは異なるエッジにより接続されることによりノード間距離が1とは異なる値となると推定される。
【0153】
従ってステップS507において、サプライチェーン抽出部114は、固有ベクトルvから決定される上流側ノードc(l,s)と下流側ノードc(l,t)の間の距離と、隣接する2つのノードの間の距離(具体的には1)との差分値を判定する。これにより、位相に基づいてエッジEの重要度を適切に判定することが可能になる。
【0154】
流量の少なくとも一方が閾値δ以下である場合(ステップS506:No)、または、距離と1との差分絶対値がε以上である場合(ステップS507:No)、処理対象としているエッジEの重要度が低いと判定される。従って、ステップS508において、サプライチェーン抽出部114はEを抽出対象のサプライチェーンネットワーク122から除外する処理を行う。
【0155】
一方、流量の両方が閾値δより大きく(ステップS506:Yes)、距離と1との差分絶対値がεより小さい場合(ステップS507:Yes)、エッジEはサプライチェーンネットワーク122を構成するエッジとして残される。
【0156】
以上でエッジEに関する処理が終了する。ステップS509において、サプライチェーン抽出部114は、取引ネットワーク121に含まれる全てのエッジE~Eに関する処理が終了したかを判定する。
【0157】
未処理のエッジがある場合(ステップS509:No)、ステップS510において、サプライチェーン抽出部114は変数lを更新した後、ステップS502に戻る。例えばサプライチェーン抽出部114は、エッジEに関する処理を行った後、lをインクリメントすることでl=2に更新し、エッジEを対象として上述したステップS502~S509の処理を実行する。
【0158】
全てのエッジに関する処理が終了した場合(ステップS509:Yes)、ステップS511において、サプライチェーン抽出部114は、エッジE~Eのうち、ステップS508の処理で除外されずに残ったエッジにより構成されるネットワークをサプライチェーンネットワーク群に追加する。ここで追加されるネットワークは、取引ネットワーク121の部分ネットワークである。なおエッジE~Eのうち、ステップS508の処理で除外されずに残ったエッジにより構成されるネットワークは、全てのノードが接続されたグラフになるとは限らず、いくつかのネットワークに分割されていてもよい。この場合、サプライチェーン抽出部114は、分割されたそれぞれのネットワークをサプライチェーンネットワーク群に追加する処理を行う。
【0159】
ステップS501~S511の処理によって、固有ベクトルvを対象としたサプライチェーンネットワーク122の抽出処理が終了する。次にステップS512において、サプライチェーン抽出部114は、固有値分解で求められた全ての固有ベクトルv~vに関する処理が終了したかを判定する。
【0160】
未処理の固有ベクトルがある場合(ステップS512:No)、ステップS513において、サプライチェーン抽出部114は変数jを更新した後、ステップS501に戻る。例えばサプライチェーン抽出部114は、固有ベクトルvに関する処理を行った後、jをインクリメントすることでj=2に更新し、固有ベクトルvを対象として上述したステップS502~S513の処理を実行する。なお処理対象の固有ベクトルが更新される際には、ステップS508の処理結果も初期化され、エッジE~Eの全てが削除されていない状態から再度ステップS502の処理が開始される。
【0161】
全ての固有ベクトルに関する処理が終了した場合(ステップS512:Yes)、サプライチェーン抽出部114は、サプライチェーンネットワーク群を抽出する第1抽出処理を終了する。つまりサプライチェーンネットワーク群とは、固有ベクトルv~vのそれぞれについて求められた部分ネットワークの集合である。
【0162】
2.5.2 サプライチェーンネットワークの選択
次にサプライチェーンネットワーク群から特定の企業及び製品(材料、原料等を含む)に関するサプライチェーンネットワーク122を抽出する第2抽出処理について説明する。図16は、第2抽出処理を説明するフローチャートである。
【0163】
ステップS601において、サプライチェーン抽出部114は、図15に示した第1抽出処理によって求められたサプライチェーンネットワーク群から、所与の企業Xに対応するノードを含むサプライチェーンネットワーク122を抽出する。ここで所与の企業Xは、端末装置200の操作部250を用いて入力されてもよい。例えば端末装置200のユーザは、自社、競合他社、買収予定企業等、何らかの分析が必要となる対象企業を、企業Xとして選択する操作を行う。サプライチェーン抽出部114は、企業Xに対応するノードXを特定し、サプライチェーンネットワーク群に含まれる各ネットワークについて、ノードXを含むか否かの判定を行う。
【0164】
本実施形態では、ステップS601の処理結果であるサプライチェーンネットワーク122を対象として後述するタグ遷移図の表示処理等が行われてもよい。ただし、企業Xが多様な製品を製造している場合、特に異なる業種で多角化経営を行っている場合等には、企業Xに対応するサプライチェーンネットワーク122の数が多くなりユーザの閲覧負担が大きいことも考えられる。よって本実施形態のサプライチェーン抽出部114は、製品Yに関するサプライチェーンネットワーク122を抽出する処理を行ってもよい。ここで所与の製品Yは、端末装置200の操作部250を用いて入力されてもよい。
【0165】
具体的には、ステップS602において、サプライチェーン抽出部114は、サプライチェーンネットワーク122に含まれるノードに付与されたタグに基づいて、処理対象ノードからの距離毎にタグの統計量を求める。上述したように、ノードに付与されるタグは、産業分類、所在地、売り上げ規模、製品、評判(ESG的な観点での問題の有無、制裁を受けたことの有無等)等の属性と、各属性での属性値を含む。サプライチェーン抽出部114は、タグの内、製品に関する属性値を読み出し、読み出し結果を企業Xからの距離毎に求める。例えばサプライチェーン抽出部114は、距離毎に最も多く現れた製品カテゴリを求めてもよいし、当該製品カテゴリが対応付けられたノードの数や割合等を求めてもよい。またここでは製品を用いる例を説明するが、製品以外の属性を用いてサプライチェーンネットワーク122を抽出する処理が行われてもよい。即ち、ここでの製品Yは、製品以外の属性Yに拡張が可能である。
【0166】
ステップS603において、サプライチェーン抽出部114は、サプライチェーンネットワーク122に含まれるエッジに付与されたタグに基づいて、処理対象ノードからの距離毎にタグの統計量を求める。上述したようにエッジに付与されるタグは、起点企業、終点企業、製品、価格、取引(数)量等の属性と、各属性での属性値を含む。距離毎に統計量を求める処理についてはステップS602のノードに関する処理と同様である。
【0167】
ステップS604において、サプライチェーン抽出部114は、ステップS602及びステップS603で求められた情報に基づいて、製品Yに関連するサプライチェーンネットワーク122を抽出する。例えば、サプライチェーン抽出部114は、ステップS602及びS603において、製品Yが最も多く現れている距離が存在する場合、対象のサプライチェーンネットワーク122を抽出対象として決定する。あるいは、企業Xにとって、製品Yとは材料であり、企業Xの上流側の企業から供給されることが既知であったとする。この場合、サプライチェーン抽出部114は、ステップS602及びS603において、企業Xから上流側の所定距離範囲において、製品Yが最も多く現れている場合に、対象のサプライチェーンネットワーク122を抽出対象として決定してもよい。
【0168】
またステップS602とS603の処理の両方は必須ではなく、何れか一方に基づいて製品Yに関するサプライチェーンネットワーク122が抽出されてもよい。
【0169】
2.6 タグ遷移図の作成
以上の処理により、端末装置200のユーザにとって重要と考えられるサプライチェーンネットワーク122が抽出される(図4のステップS105)。次に図4のステップS106に対応するタグ遷移図の作成処理の詳細について説明する。
【0170】
2.6.1 遷移パターン毎の重み決定
タグ遷移図生成部115は、サプライチェーンネットワーク122の経路上でのタグの遷移を表す複数の遷移パターンのそれぞれについて、サプライチェーンネットワーク122における流量に基づいて重みを求め、複数の遷移パターンの重みに基づいてタグ遷移図を生成する。ここでタグの遷移パターンとは、例えばサプライチェーンネットワーク上での経路に沿った複数のノードにおいて、所与の属性の属性値がどのように変化したか、あるいは変化しないかを表す情報である。タグ遷移図ではサプライチェーンネットワーク122の経路に沿った属性の変化を図示できるため、サプライチェーンネットワーク122全体の概要を提示することが可能になる。タグ遷移図の作成において、取引ネットワーク121全体ではなく、サプライチェーンネットワーク122を対象とするため、情報量を抑制した分かりやすい表示が可能になる。
【0171】
なおここでのタグは、産業分類を表す情報を含んでもよい。例えばタグに含まれる属性は産業分類であり、属性値は産業分類コードである。この場合、サプライチェーンネットワーク122に基づくタグ遷移図は、どの産業分類とどの産業分類がどの程度の重みによって結びついているかを可視化する図となる。従って、サプライチェーンネットワーク122の構造(業種間の結びつき等)を分かりやすく提示することが可能になる。ただし以下の説明において、タグに含まれる属性として産業分類以外の属性が用いられてもよい。即ちタグ遷移図は、産業分類以外の属性の関係を示す図であってもよい。
【0172】
以下、サプライチェーンネットワーク122からタグ遷移図を生成する処理の流れを説明する。
【0173】
図17は、タグ遷移図の生成対象となるサプライチェーンネットワーク122の例である。ここではノードA~ノードIの9個のノードを含むシンプルな構成のサプライチェーンネットワーク122について説明する。ここでa~gは、それぞれのノードに対応付けられたタグ(属性値)を表す。例えばノードAには産業分類としてaが対応付けられている。また1つの企業が複数の事業を行うこともあるため、1つのノードに複数の産業分類が対応付けられてもよい。例えばノードBには、産業分類としてb及びcが対応付けられる。ノードC~ノードIについても同様であり、それぞれ1または複数の産業分類を含むタグが付与される。
【0174】
図18は、図17のサプライチェーンネットワーク122における下流から上流へのノードの遷移と、各遷移での重みを表す図である。例えば図17のサプライチェーンネットワーク122ではノードAが下流端であり、ノードD,E,F,G,Iがそれぞれ上流端である。
【0175】
ここでノードAからノードDに遷移する経路は、ノードA→ノードB→ノードDの1通りである。以下このようなノード遷移を単にABDと表記する。またノードAからノードEに遷移する経路は、ABEの1通りである。ノードAからノードFに遷移する経路は、ABFの1通りである。ノードAからノードGに遷移する経路は、ABGとACGの2通りである。ノードAからノードIに遷移する経路は、ACHIの1通りである。ノードの遷移は以上の6通りとなる。
【0176】
タグ遷移図生成部115は、これらのそれぞれについて重みを求める。図19は、サプライチェーンネットワーク122の構造に基づく重み、即ち流量を表す図である。例えばノードAにおける流量を1とした場合、ノードAにはノードBとノードCの2つが接続される。流量が等分される場合、ノードBの流量はノードAの流量である1の半分である0.5となる。同様にノードCの流量も0.5となる。
【0177】
またノードBにはノードD~ノードGの4つが接続される。よってノードBの流量である0.5がこれら4つのノードに分配される。従って、各ノードの流量は0.5×(1/4)=0.125となる。
【0178】
またノードCにはノードGとノードHの2つが接続される。よってノードCの流量である0.5がこれら2つのノードに分配される。従って、各ノードの流量は0.5×(1/2)=0.25となる。
【0179】
ノードHには、ノードIのみが接続される。よってノードHの流量である0.25がそのままノードIに流れるため、ノードIの流量は0.25となる。
【0180】
図18に示したように、ノードの遷移であるABD,ABE,ABF,ABG,ACG,ACHIのそれぞれの重みとして、末端(上流端)での流量が割り当てられる。ABDであれば上流端はノードDであるため、ノードAからノードBを経由してノードDに至る経路での流量である0.125が対応付けられる。他の遷移についても同様である。なお、ノードGについては、ABGとACGのそれぞれに分けて重みが設定される。
【0181】
次にノードに付与されたタグ(属性)について考える。ノードの遷移ABDを考えた場合、ノードAの属性はaのみであり、ノードBの属性はbとcの2通りであり、ノードCの属性はdとeの2通りである。つまりABDの経路に沿ったタグの遷移パターンとしては、abd,abe,acd,aceの4通りが考えられる。他のノードの遷移についても同様であり、ABEでは4通り、ABFでは2通り、ABGでは4通り、ACGでは4通り、ACHIでは2通りの遷移パターンが考えられる。
【0182】
タグ遷移図生成部115は、上記20通りの遷移パターン(図18における#1~#20)に対して、それぞれ重みを求める。例えばタグ遷移図生成部115は、ノードの遷移に対して与えられた重みを、当該ノードの遷移に対して考えられるタグ遷移パターンのそれぞれに等分することによって、タグ遷移パターンの重みを求める。例えば上述したように、ABDの経路に沿ったタグの遷移パターンとして、abd,abe,acd,aceの4通りが考えられる。そしてABDの重みは上述したように0.125である。この場合、タグ遷移図生成部115は、0.125を4等分することによって、タグ遷移パターン#1~#4に対応するabd,abe,acd,aceのそれぞれに対して、0.03125という重みを割り当てる。#5~#20のそれぞれについても同様である。
【0183】
ここで、図18の例では、ノードDとノードEは、ともに属性としてdが対応付けられている。従って、ノードで考えた場合、ABDという経路とABEという経路は異なる経路となるが、タグで考えた場合、ABDとABEで同じタグ遷移パターンが現れる場合も考えられる。具体的には、タグ遷移パターンabdは、ABDに対応する#1とABEに対応する#5の両方に現れる。これ以外についても同様であり、図18の#1~#20のなかには重複するタグ遷移パターンが含まれる。よってタグ遷移図生成部115は、重複するタグ遷移パターンをまとめることによってタグ遷移パターンごとに重みを求める処理を行う。
【0184】
図20は、タグ遷移パターンをまとめる処理を説明する図である。例えば上述したようにタグ遷移パターンabdは、#1と#5の両方に現れる。従ってタグ遷移図生成部115は、abdの重みとして#1の重みである0.03125と、#5の重みである0.03125を加算する。これにより、タグ遷移図生成部115は、abdの重みを0.0625とする。
【0185】
またタグ遷移図生成部115は、タグ遷移パターンabeが図18の#2、#9、#11、#15の4箇所に現れることから、これら4つに対応する重みを加算することによって、abeの重みを0.1875とする。これ以降も同様であり、図17のサプライチェーンネットワーク122の例では、図20に示すように下流端から上流端までのタグ遷移パターンは12通りとなり、それぞれについて重みが決定される。
【0186】
次にタグ遷移図生成部115は、隣接する2つのノード間でのタグ遷移パターンである隣接タグ遷移パターンを求める。タグ遷移図に用いられるタグ遷移パターンとは、狭義には隣接タグ遷移パターンであってもよい。
【0187】
図21は、隣接タグ遷移パターンを求める処理を説明する図である。例えばタグ遷移パターンabdには、隣接タグ遷移パターンabと、隣接タグ遷移パターンbdの2通りが含まれている。またタグ遷移パターンabeには、隣接タグ遷移パターンabと、隣接タグ遷移パターンbeの2通りが含まれている。タグ遷移図生成部115は、図20で求められた12通りのタグ遷移パターンを細分化することによって、隣接タグ遷移パターンの重みを決定する。
【0188】
例えばタグ遷移図生成部115は、下流端から上流端までのタグ遷移パターンから、隣接タグ遷移パターンabを含むものを特定する。図20の例では、#1のabd、#2のabe、#5のabc、#7のabf、#11のabegが該当する。これは図21における「エッジが現れるタグ遷移」の欄に対応する。この場合、タグ遷移図生成部115は、隣接タグ遷移パターンabの重みとして、5つのタグ遷移パターンabd、abe、abc、abf、abegのそれぞれの重みを加算する処理を行う。これにより、図21に示すように隣接タグ遷移パターンabの重みは0.5となる。
【0189】
図17のサプライチェーンネットワーク122の例では、図21に示すように14通りの隣接タグ遷移パターンが存在し、タグ遷移図生成部115はそれぞれについて同様に、対象の隣接タグ遷移パターンを含むタグ遷移パターンの重みを加算することによって、重みを決定する。
【0190】
2.6.2 タグ遷移図等の表示処理
タグ遷移図生成部115は、上述した処理によって求められた隣接タグ遷移パターンの重みに基づいて、タグ遷移図を生成する。上述したように、図17のサプライチェーンネットワーク122では、属性(産業分類)としてa~gが存在する。そしてこれらの属性間のうち、図21に示した14通りの遷移に重みが設定されている。従ってタグ遷移図生成部115は、これらの情報に基づくサンキー・タイアグラムを、タグ遷移図として生成する。
【0191】
図22は、図17のサプライチェーンネットワーク122に対応するタグ遷移図であるサンキー・タイアグラムの例である。サンキー・タイアグラムでは属性同士が幅を有する線(帯状の表示オブジェクト)によって連結され、当該線の幅が遷移パターンの重みによって決定される。例えば図22のa→bに対応する帯は、隣接タグ遷移パターンabに対応するため、0.5に相当する幅を有する。図22に示すサンキー・タイアグラムを表示することによって、企業Xの製品Yに関するサプライチェーンネットワーク122の概要を分かりやすく提示することが可能になる。なお実際にはサプライチェーンネットワーク122に含まれるノードの数は図17の例に比べて多いことが想定されるが、その場合もノード単位ではなくタグ(属性、狭義には産業分類)単位での遷移が表示されるため、情報が複雑になりすぎることを抑制できる。
【0192】
例えば情報処理システム10は、不図示の表示処理部を含み、表示処理部は、タグ遷移図を端末装置200の表示部240に表示させる制御を行う。このようにすれば、企業Xに関する情報の閲覧を要求した端末装置200のユーザに対して、当該企業Xのサプライチェーンネットワーク122の概要を分かりやすく提示することが可能になる。
【0193】
またサブネットワーク抽出部116は、タグ遷移図に含まれる複数の遷移パターンの一部を選択遷移パターンとして選択する選択操作に基づいて、サプライチェーンネットワーク122のうち、選択遷移パターンによって表される一部のネットワークを、サブネットワークとして抽出してもよい。例えば端末装置200の操作部250は、タグ遷移図に対するユーザの選択操作を受け付ける。
【0194】
例えば表示処理部は、図22に示したように隣接タグ遷移パターンを示すテキスト等を含むタグ遷移図を表示させてもよい。また隣接タグ遷移パターンを示すテキスト等は、タグ遷移図中の対応する位置にポインタが配置された場合に表示されてもよい。端末装置200のユーザは、ポイティングデバイス等の操作部250を用いて、遷移パターンの選択操作を行う。
【0195】
ここで選択される遷移パターンは、下流端から上流端までの全ての遷移パターンの集合であってもよいし、そのうちの一部であってもよい。例えば選択遷移パターンは、abdという遷移パターンであってもよいし、abやbd等の隣接タグ遷移パターンであってもよい。あるいは、遷移パターンに含まれる2以上の属性値のみが指定され、当該属性値を含む遷移パターンが自動的に選択されてもよい。例えばユーザは属性値の組み合わせとしてaとdという入力を行い、当該入力に基づいてサブネットワーク抽出部116がad,abd,acd等のadが端点となる遷移パターンを自動的に選択遷移パターンとして決定してもよい。
【0196】
図23は、選択遷移パターンがad,abdである場合のサブネットワーク抽出部116の例である。この場合、サブネットワーク抽出部116は、abdに対応するA→B→Dというノード遷移及びA→B→Eというノード遷移を抽出する。またサブネットワーク抽出部116は、adに対応するA→Cというノード遷移を抽出する。そしてサブネットワーク抽出部116は、抽出したノード遷移から構成されるネットワークをサプライチェーンネットワーク122のサブネットワークとして抽出する。
【0197】
例えば情報処理システム10の表示処理部は、サブネットワークを端末装置200の表示部240に表示させる制御を行う。このようにすれば、サンキー・タイアグラムにおいて選択遷移パターンの入力操作が行われた場合に、当該選択遷移パターンに対応する詳細なネットワーク構造をユーザに提示することが可能になる。これにより、サプライチェーンネットワーク122のうち、特にユーザが注目している部分を、サブネットワークとして抽出、提示することが可能になる。
【0198】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本実施形態の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本開示の範囲に含まれる。また情報処理システム、サーバシステム、端末装置等の構成及び動作等も、本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0199】
10…情報処理システム、100…サーバシステム、110…処理部、111…取引ネットワーク取得部、112…ベクトル取得部、113…行列取得部、114…サプライチェーン抽出部、115…タグ遷移図生成部、116…サブネットワーク抽出部、120…記憶部、121…取引ネットワーク、122…サプライチェーンネットワーク、123…産業分類コード、124…規制対象企業リスト、130…通信部、200,200-1,200-2…端末装置、210…処理部、220…記憶部、230…通信部、240…表示部、250…操作部
【要約】
【課題】サプライチェーンネットワークの概要を分かりやすく提示する情報処理システム及び情報処理方法等の提供。
【解決手段】 情報処理システムは、複数のノードが取引関係を示すエッジで接続された取引ネットワークを取得する取引ネットワーク取得部と、複数のノードのいずれかをベクトル算出ノードとした場合に、ベクトル算出ノードまでの距離に応じた位相、及び、流量に応じた絶対値を有する複素数を割り当てることによって、ベクトル算出ノードの他のノードとの関係性を表現する複素ベクトルを求めるベクトル取得部と、複数のノードのそれぞれを表す複素ベクトルに基づいて、取引ネットワークの一部であるサプライチェーンネットワークを抽出するサプライチェーン抽出部と、サプライチェーンネットワークに含まれるノードに付与されたタグに基づいて、サプライチェーンネットワークにおけるタグの情報を示すタグ遷移図を生成するタグ遷移図生成部と、を含む。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23