(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】舶用機械の状態診断システム及び状態診断方法
(51)【国際特許分類】
B63B 79/30 20200101AFI20240308BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20240308BHJP
B63B 43/00 20060101ALI20240308BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20240308BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B63B79/30
G06Q10/20
B63B43/00 Z
B63B49/00 Z
G05B23/02 302R
(21)【出願番号】P 2020044557
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501016995
【氏名又は名称】トライボテックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】310020482
【氏名又は名称】株式会社相浦機械
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】川畑 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】井原 聡
(72)【発明者】
【氏名】筒井 健
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 羊平
(72)【発明者】
【氏名】吉本 貴司
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-78709(JP,A)
【文献】特開2000-303504(JP,A)
【文献】特開2002-183341(JP,A)
【文献】特開平8-285181(JP,A)
【文献】特開2002-326598(JP,A)
【文献】特開2002-161800(JP,A)
【文献】特開2015-105687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 79/30
B63B 43/00
B63B 49/00
G06Q 10/00- 10/30
G06Q 30/00- 30/08
G06Q 50/00- 50/20
G06Q 50/26- 99/00
G05B 23/02
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの船舶に搭載される1又は複数の舶用機械の状態診断システムであって、
前記舶用機械毎に潤滑油の循環部に具備され、前記循環部の作動中に潤滑油に含まれる汚染物質を計測する計測部と、
前記船舶上に具備され、潤滑油情報として前記計測部による計測値及び時刻を蓄積して記憶すると共に前記計測値に基づいて前記舶用機械の異常を判断する一次検査部と、
前記船舶が寄港する港湾側において稼働し、港湾域で使用される無線通信を用いて前記一次検査部に蓄積された前記潤滑油情報を取得し、取得された前記潤滑油情報に基づいて前記舶用機械の状態診断を行う診断部と、
を備えることを特徴とする舶用機械の状態診断システム。
【請求項2】
前記計測部は、前記潤滑油に光を照射することにより潤滑油に含まれる汚染物質の粒子径及び粒子数を計測し、
前記一次検査部は、前記粒子径及び前記粒子数のうちの少なくとも一方の値又はその増加率が所定の基準値を超えたときは前記舶用機械の異常と判断する請求項1記載の舶用機械の状態診断システム。
【請求項3】
前記一次検査部は、前記舶用機械の異常と判断したときは外部に異常を通報する請求項1又は2に記載の舶用機械の状態診断システム。
【請求項4】
前記舶用機械の前記循環部、前記計測部及び前記一次検査部を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記船舶の航海中に前記舶用機械が稼働されていない場合には前記船舶の寄港前に少なくとも2回、前記循環部、前記計測部及び前記一次検査部を作動させる請求項1乃至3のいずれかに記載の舶用機械の状態診断システム。
【請求項5】
前記船舶の航海中に前記舶用機械に加えられた振動の大きさを検知する振動検知部を備える請求項1乃至4のいずれかに記載の舶用機械の状態診断システム。
【請求項6】
前記船舶の識別情報及び運行情報、前記舶用機械の識別情報、稼働情報及び前記潤滑油情報を蓄積して記憶する舶用機械データベースを備え、
前記診断部は、前記舶用機械データベースに蓄積された情報に基づき前記舶用機械の状態診断を行うと共に、前記船舶の次の航海期間に応じて、前記舶用機械に異常が生じるか否かを予測する請求項1乃至5のいずれかに記載の舶用機械の状態診断システム。
【請求項7】
1つの船舶に搭載される1又は複数の舶用機械の状態診断方法であって、
前記舶用機械毎に具備された潤滑油の循環部において、前記循環部の作動中に潤滑油に含まれる汚染物質を計測する計測工程と、
前記船舶上において、潤滑油情報として前記計測工程による計測値及び時刻を蓄積して記憶すると共に前記計測値に基づいて前記舶用機械の異常を判断する一次検査工程と、
前記船舶が寄港する港湾側において、港湾域で使用される無線通信を用いて前記一次検査工程により蓄積された前記潤滑油情報を取得し、取得された前記潤滑油情報に基づいて前記舶用機械の状態診断を行う診断工程と、
を含むことを特徴とする舶用機械の状態診断方法。
【請求項8】
前記計測工程は、前記潤滑油に光を照射することにより潤滑油に含まれる汚染物質の粒子径及び粒子数を計測し、
前記一次検査工程は、前記粒子径及び前記粒子数のうちの少なくとも一方の値又はその増加率が所定の基準値を超えたときは前記舶用機械の異常と判断する請求項7記載の舶用機械の状態診断方法。
【請求項9】
前記一次検査工程は、前記舶用機械の異常と判断したときは外部に異常を通報する請求項7又は8に記載の舶用機械の状態診断方法。
【請求項10】
前記舶用機械の前記循環部の作動、前記計測工程及び前記一次検査工程の実行を制御する制御工程を含み、
前記制御工程は、前記船舶の航海中に前記舶用機械が稼働されていない場合には前記船舶の寄港前に少なくとも2回、前記循環部を作動させると共に前記計測工程及び前記一次検査工程を実行させる請求項7乃至9のいずれかに記載の舶用機械の状態診断方法。
【請求項11】
前記船舶の航海中に前記舶用機械に加えられた振動の大きさを検知する振動検知工程を含む請求項7乃至10のいずれかに記載の舶用機械の状態診断方法。
【請求項12】
前記船舶の識別情報及び運行情報、前記舶用機械の識別情報、稼働情報及び前記潤滑油情報を蓄積して記憶する舶用機械データベースを使用し、
前記診断工程は、前記舶用機械データベースに蓄積された情報に基づき前記舶用機械の状態診断を行うと共に、前記船舶の次の航海期間に応じて前記舶用機械に異常が生じるか否かを予測する請求項7乃至11のいずれかに記載の舶用機械の状態診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舶用機械の状態診断システム及び状態診断方法に関する。更に詳しくは、船舶に搭載された舶用機械の状態を診断し、船舶が港湾に係留されているときに必要に応じて舶用機械の整備が行えるようにする舶用機械の状態診断システム及び状態診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶には、原動機やスクリュー、操舵機、発電機、荷役機械など多数の機械が搭載されている。これら舶用機械においては可動部の摩擦を軽減するために潤滑油が使用されているが、機械の稼働につれて、摩擦によって削られた金属粉等の汚染物質により潤滑油が汚染され、潤滑性能が低下する。潤滑性能の低下は舶用機械における可動部の摩擦の増加、摩耗、故障等の原因となるため、潤滑油がある程度汚染されたら交換する等、適宜のメンテナンスが不可欠である。舶用機械の部品や潤滑油の交換等の整備作業は船舶の寄港時に行われる場合が多く、整備作業を適切かつ迅速に行うには、その船舶の寄港地において舶用機械の状態を予め把握することができるようにすることが求められる。
機械の潤滑油の汚染状態については、例えば、機械の潤滑油循環経路中にセンサを設けて、潤滑油中の金属粉等を検知する手段が知られている(例えば特許文献1を参照)。
また、船舶から整備者への機械の情報の通知については、船舶の無線通信装置が携帯電話通信網に接続可能な状態になっていたら通信をする手段が知られている(例えば特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-280180号公報
【文献】特開2016-027501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船舶に搭載される舶用機械においては、摺動や歯車等による可動部の摩擦を軽減するために潤滑油が使用される。潤滑油は、機械の稼働につれて、摩擦によって削られた金属粉等の汚染物質により汚染され、潤滑性能が低下する。潤滑性能の低下は舶用機械において可動部の摩擦の増加、摩耗、故障等の原因となるため、潤滑油がある程度汚染されたら交換する等、適切なメンテナンスが不可欠である。
しかし、舶用機械の部品や潤滑油の交換等の整備作業は船舶の寄港時に行われる場合が多く、航海中の舶用機械の状態を正確に把握することが困難であったため、船舶の接岸中に整備作業を適切かつ迅速に行うことが困難であるという問題があった。このためメンテナンスが過剰となり、無駄なメンテナンス費用が生じていた。
また、各種船舶の運行や舶用機械の稼働は一様ではなく、舶用機械の中には、デッキクレーン等の荷役機械等、主として船舶の接岸中に使用されるものもある。船舶が航海中であっても停泊中であっても、舶用機械の性能を維持し、突発的な故障を防止するためには、舶用機械の異常の兆候をいち早く検知すると共に、その状態を正確に診断することが必要である。正確な診断のためには、その船舶及び舶用機械等について蓄積されたデータを参照可能とする必要がある。しかし、舶用機械の診断用の装置を狭い船舶上に搭載することは困難であり、航海中は利用可能な通信手段も限られる。
【0005】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、船舶に搭載された舶用機械の状態を監視及び診断し、船舶が港湾に係留されているときに必要に応じて舶用機械の整備が行えるようにする舶用機械の状態診断システム及び状態診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.1つの船舶に搭載される1又は複数の舶用機械の状態診断システムであって、
前記舶用機械毎に潤滑油の循環部に具備され、前記循環部の作動中に潤滑油に含まれる汚染物質を計測する計測部と、
前記船舶上に具備され、潤滑油情報として前記計測部による計測値及び時刻を蓄積して記憶すると共に前記計測値に基づいて前記舶用機械の異常を判断する一次検査部と、
前記船舶が寄港する港湾側において稼働し、港湾域で使用される無線通信を用いて前記一次検査部に蓄積された前記潤滑油情報を取得し、取得された前記潤滑油情報に基づいて前記舶用機械の状態診断を行う診断部と、
を備えることを特徴とする舶用機械の状態診断システム。
2.前記計測部は、前記潤滑油に光を照射することにより潤滑油に含まれる汚染物質の粒子径及び粒子数を計測し、
前記一次検査部は、前記粒子径及び前記粒子数のうちの少なくとも一方の値又はその増加率が所定の基準値を超えたときは前記舶用機械の異常と判断する前記1.記載の舶用機械の状態診断システム。
3.前記一次検査部は、前記舶用機械の異常と判断したときは外部に異常を通報する前記1.又は2.に記載の舶用機械の状態診断システム。
4.前記舶用機械の前記循環部、前記計測部及前記一次検査部を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記船舶の航海中に前記舶用機械が稼働されていない場合には前記船舶の寄港前に少なくとも2回、前記循環部、前記計測部及び前記一次検査部を作動させる前記1.乃至3.のいずれかに記載の舶用機械の状態診断システム。
5.前記船舶の航海中に前記舶用機械に加えられた振動の大きさを検知する振動検知部を備える前記1.乃至4.のいずれかに記載の舶用機械の状態診断システム。
6.前記船舶の識別情報及び運行情報、前記舶用機械の識別情報、稼働情報及び前記潤滑油情報を蓄積して記憶する舶用機械データベースを備え、
前記診断部は、前記舶用機械データベースに蓄積された情報に基づき前記舶用機械の状態診断を行うと共に、前記船舶の次の航海期間に応じて、前記舶用機械に異常が生じるか否かを予測する前記1.乃至5.のいずれかに記載の舶用機械の状態診断システム。
7.1つの船舶に搭載される1又は複数の舶用機械の状態診断方法であって、
前記舶用機械毎に具備された潤滑油の循環部61において、前記循環部の作動中に潤滑油に含まれる汚染物質を計測する計測工程と、
前記船舶上において、潤滑油情報として前記計測工程による計測値及び時刻を蓄積して記憶すると共に前記計測値に基づいて前記舶用機械の異常を判断する一次検査工程と、
前記船舶が寄港する港湾側において、港湾域で使用される無線通信を用いて前記一次検査工程により蓄積された前記潤滑油情報を取得し、取得された前記潤滑油情報に基づいて前記舶用機械の状態診断を行う診断工程と、
を含むことを特徴とする舶用機械の状態診断方法。
8.前記計測工程は、前記潤滑油に光を照射することにより潤滑油に含まれる汚染物質の粒子径及び粒子数を計測し、
前記一次検査工程は、前記粒子径及び前記粒子数のうちの少なくとも一方の値又はその増加率が所定の基準値を超えたときは前記舶用機械の異常と判断する前記7.記載の舶用機械の状態診断方法。
9.前記一次検査工程は、前記舶用機械の異常と判断したときは外部に異常を通報する前記7.又は8.に記載の舶用機械の状態診断方法。
10.前記舶用機械の前記循環部の作動、前記計測工程及び前記一次検査工程の実行を制御する制御工程を含み、
前記制御工程は、前記船舶の航海中に前記舶用機械が稼働されていない場合には前記船舶の寄港前に少なくとも2回、前記循環部を作動させると共に、前記計測工程及び前記一次検査工程を実行させる前記7.乃至9.のいずれかに記載の舶用機械の状態診断方法。
11.前記船舶の航海中に前記舶用機械に加えられた振動の大きさを検知する振動検知工程を含む前記7.乃至10.のいずれかに記載の舶用機械の状態診断方法。
12.前記船舶の識別情報及び運行情報、前記舶用機械の識別情報、稼働情報及び前記潤滑油情報を蓄積して記憶する舶用機械データベースを使用し、
前記診断工程は、前記舶用機械データベースに蓄積された情報に基づき前記舶用機械の状態診断を行うと共に、前記船舶の次の航海期間に応じて、前記舶用機械に異常が生じるか否かを予測する前記7.乃至11.のいずれかに記載の舶用機械の状態診断方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、1つの船舶に搭載される1又は複数の舶用機械の状態診断システムであって、前記舶用機械毎に潤滑油の循環部に具備され、前記循環部の作動中に潤滑油に含まれる汚染物質を計測する計測部と、前記船舶上に具備され、潤滑油情報として前記計測部による計測値及び時刻を蓄積して記憶すると共に前記計測値に基づいて前記舶用機械の異常を判断する一次検査部と、を備えるため、潤滑油の潤滑性能を低下させる汚染物質を計測することにより、航海中及び停泊中における舶用機械の異常状態をいち早く検知することができる。また、前記船舶が寄港する港湾側において稼働し、港湾域で使用される無線通信を用いて前記一次検査部に蓄積された前記潤滑油情報を取得し、取得された前記潤滑油情報に基づいて前記舶用機械の状態診断を行う診断部を備えるため、航海中及び停泊中の舶用機械の情報を取得して、正確な診断を行うことができる。船舶側に備えられた一次検査部と港湾側で稼働する診断部とは、港湾域で使用される無線通信により高速・大容量の通信が可能となる。これにより、各寄港地における舶用機械の適切なメンテナンスが可能になり、過剰なメンテナンス作業、無駄なメンテナンス費用の発生を防止することができる。更に、本状態診断システムによって生成された舶用機械の状態や診断結果の情報は、船舶オペレータ、荷役作業者、港湾運送事業者、舶用機械のメンテナンス事業者、船舶の所有者・管理者等の間で通信ネットワークを介して共有することが可能になる。
【0008】
前記計測部は、前記潤滑油に光を照射することにより潤滑油に含まれる汚染物質の粒子径及び粒子数を計測し、前記一次検査部は、前記粒子径及び前記粒子数のうちの少なくとも一方の値又はその増加率が所定の基準値を超えたときは前記舶用機械の異常と判断する場合には、潤滑油の清浄度を確実に計測し、舶用機械の異常をいち早く検知することができる。
前記一次検査部は、前記舶用機械の異常と判断したときは外部に異常を通報する場合には、舶用機械の異常情報を船上のオペレータに知らせたり、通信可能であれば寄港地に送信したりすることができる。
前記舶用機械の前記循環部、前記計測部及前記一次検査部を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記船舶の航海中に前記舶用機械が稼働されていない場合には前記船舶の寄港前に少なくとも2回、前記循環部、前記計測部及び前記一次検査部を作動させる場合には、通常の航海中には使用されない舶用機械であっても、次の寄港地に到着する前に少なくとも舶用機械の循環部を作動させ、潤滑油中の汚染物質を計測して舶用機械の異常状態を寄港前に検知することができる。
前記船舶の航海中に前記舶用機械に加えられた振動の大きさを検知する振動検知部を備える場合には、舶用機械の異常の検知や診断において、船舶の揺れに伴う舶用機械の振動の影響を受けないようにすることができる。
前記船舶の識別情報及び運行情報、前記舶用機械の識別情報、稼働情報及び前記潤滑油情報を蓄積して記憶する舶用機械データベースを備え、前記診断部は、前記舶用機械データベースに蓄積された情報に基づき前記舶用機械の状態診断を行うと共に、前記船舶の次の航海期間に応じて、前記舶用機械に異常が生じるか否かを予測する場合は、舶用機械データベースに記憶されている当該船舶の運行履歴情報、当該舶用機械の作動履歴情報、同種舶用機械の異常情報等を参照して、取得された潤滑油情報に基づく当該舶用機械の状態をより正確に診断することができる。また、船舶の次の運行スケジュールを取得して、取得された潤滑油情報に基づき当該舶用機械が次の運行中に異常を生じるか否かを予測することができる。
【0009】
他の発明は、1つの船舶に搭載される1又は複数の舶用機械の状態診断方法であって、主として前記計測部、前記一次検査部、前記制御部、前記振動検知部及び前記診断部によってそれぞれ実行される計測工程、一次検査工程、制御工程、振動検知工程及び診断工程を含んで構成され、上記舶用機械の状態診断システムによる効果と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】実施形態に係る舶用機械の状態診断システムの構成を説明するためのブロック図である。
【
図2】舶用機械の状態診断システムの使用環境を説明するための模式図である。
【
図4】計測部による汚染物質の計測例を表す表である。
【
図5】一時検査部において収集される潤滑油情報の構成例を示す表である。
【
図6】時間経過に伴う汚染物質の粒子径及び粒子数の増加を説明するための模式的グラフである。
【
図7】舶用機械の状態診断方法における工程の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図8】制御工程における処理を説明するためのフローチャートである。
【
図9】診断工程における処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0012】
1.舶用機械の状態診断システム
本実施形態に係る舶用機械の状態診断システム1は、1つの船舶5に搭載される1又は複数の舶用機械6の状態診断システムであって、舶用機械6毎に潤滑油の循環部61に具備され、循環部61の作動中に潤滑油に含まれる汚染物質を計測する計測部11と、船舶5上に具備され、潤滑油情報として計測部11による計測値及び時刻を蓄積して記憶すると共に前記計測値に基づいて舶用機械6の異常を判断する一次検査部12と、船舶5が寄港する港湾8側において稼働し、港湾8域で使用される無線通信手段2を用いて一次検査部12に蓄積された前記潤滑油情報を取得し、取得された前記潤滑油情報に基づいて舶用機械6の状態診断を行う診断部16と、を備える(
図1参照)。
【0013】
また、舶用機械6の循環部61、計測部11及び一次検査部12を制御する制御部13を備え、制御部13は、船舶5の航海中に舶用機械6が稼働されていない場合には船舶5の寄港前に少なくとも2回、循環部61、計測部11及び一次検査部12を作動させるように構成することができる。
また、船舶5の航海中に舶用機械6に加えられた振動の大きさを検知する振動検知部14を備えることができる。
また、舶用機械の状態診断システム1には、船舶5の運行情報、舶用機械6の稼働情報及びその潤滑油情報を蓄積して記憶する舶用機械データベース17を備えることができる。舶用機械データベース17には、診断を行う船舶5及び舶用機械6に関する過去のデータに限らず、同一又は同種の舶用機械6のデータ等、舶用機械6のメンテナンスに有用な各種情報を蓄積することができる。そして、診断部16は、舶用機械データベース17に蓄積された情報を利用して舶用機械6の状態診断を行うように構成することができる。
【0014】
図2に示すように、計測部11、一次検査部12、制御部13及び振動検知部14は、船舶5上に設けられている。計測部11は舶用機械6毎に具備される。一次検査部12は船舶5の乗員が持つ携帯情報端末に実装されていてもよい。携帯情報端末である場合には、乗員は記憶されている舶用機械6の潤滑油情報をいつでも見ることができ、一次検査部12により舶用機械6が異常と判断されたときは直ちに乗員に通知することができる。また、一次検査部12は、船舶5が港湾8に近付いて港湾側で稼働する診断部16と無線通信可能となったときは、蓄積して記憶している舶用機械6の潤滑油情報を診断部16に送信するように構成されている。一次検査部12と診断部16との無線通信は特に限定されず、例えばIEEE802.11に基づいた通信手段を利用するようにすることができる。
【0015】
診断部16は、船舶5が寄港する港湾8又は港湾8から接続可能なデータセンター等に設けられる。そして、診断部16は、港湾域で使用される無線通信手段2を用いて船舶5の一次検査部12から受信した潤滑油情報に基づいて、舶用機械6の状態診断を行うように構成されている。この状態診断は、舶用機械データベース17に蓄積されている当該舶用機械6の過去のメンテナンス情報、他の舶用機械のメンテナンス情報等、各種情報を参照して行うように構成することができる。
診断部16により取得された舶用機械6の潤滑油情報やそれに基づく診断結果等は、通信ネットワーク9を介して、荷役現場、船舶・舶用機械の管理者、船主等の関係者に提供可能に構成することができる。また、荷役作業や次の運行のために船舶5(一次検査部12)に診断結果等を送信するように構成することができる。
【0016】
状態診断システム1が適用される船舶5は特に問わない。船舶5には1以上の舶用機械6が搭載されている。
前記舶用機械6の種類は特に問わず、例えば、原動機、スクリュー、操舵機、発電機、モータ、ポンプ、巻き上げ機、荷役機械等が挙げられる。これらのうち、デッキクレーン等の荷役機械は、主として船舶の接岸中に使用されるものである。
舶用機械6は、摺動や歯車等を利用した可動部を有し、可動部の摩擦を軽減するために潤滑油が使用される。舶用機械6には、可動部に潤滑油を供給すると共に潤滑油を回収する潤滑油の循環経路として、循環部61が形成されている。通常、舶用機械6が使用されている間は循環部61が作動している。また、舶用機械6は、舶用機械6が使用されていないときであっても、循環部61を作動させることにより潤滑油を循環させることが可能なように構成されている。
【0017】
(計測部)
計測部11は、舶用機械6毎に潤滑油の循環部61に具備され、循環部61の作動中に、潤滑油の流量、油量、潤滑油に含まれる汚染物質等を計測するように構成されている。潤滑油の汚染は、舶用機械の摩耗に伴って金属粉等の固体物が潤滑油に混入したり、潤滑油の過熱等により生じた酸化物等の固体物が潤滑油に混入したりすること等によって生じる。油溶性の汚染物が潤滑油に溶存することを含めてもよい。
汚染物質を計測するためのセンサは、循環部61の潤滑油の循環経路に設け、常時又は定期的に計測を可能とすることができる。また、計測部11は、舶用機械6から採取された潤滑油を用いて汚染物質を計測するように構成されてもよい。その他、計測部11には、潤滑油の油量を計測する油量計、潤滑油の流量を計測する流量計等を備えることができる。更に計測部11は潤滑油の透明度、潤滑油に含まれる水分量等を計測可能に構成することもできる。
【0018】
計測部11は、例えば
図3に示すように、循環部61中の潤滑油に光を照射する光源を備えている。また、潤滑油の透過光、反射光、散乱光等を検出する光学センサを備えている。光学センサの数や配置は特に問わない。更に、計測部11は、光学センサの検出信号から一定量の潤滑油に含まれる汚染物質の粒子径及び粒子数を算出するマイクロプロセッサ等を備えて構成することができる。なお、汚染物質は、舶用機械6から採取した潤滑油に光を照射し又は伝搬させ、その透過光や散乱光の強度により計測することもできる。磁界や電界の変化等により潤滑油又は汚染物質の特性が計測されてもよい。
【0019】
汚染物質の粒子数は、粒子径を区分し、その区分毎の粒子数が算定できるように計測されることが好ましい。粒子径の区分方法は適宜設定されればよい。例えば、粒子径を1μm毎に区分し、計測部11による計測によって5~10μm程度の範囲で各区分に含まれる粒子数(潤滑油100ml当りの粒子数)を求めることができる(
図4参照)。
なお、潤滑油中の粒子数により潤滑油の清浄度を表すNAS等級(National Aerospace Standard 1638:2001)では、粒子径が5~100μmの範囲で5つに区分されており、潤滑油100ml中の各区分に含まれる粒子数の分布によって14に等級化されている。計測部11により計測された汚染物質の粒子径及び粒子数は、このNAS等級に対応させることもできる。
【0020】
計測部11は、船舶5が航海中か停泊中かを問わず、少なくとも舶用機械6の循環部61の作動中に汚染物質の計測を行うように構成される。その計測のタイミングは問わず、常時であってもよいし、一定の時間間隔で(例えば、1分毎に)計測を行うようにしてもよい。また、舶用機械6の循環部61の作動、計測部11の作動は、制御部13により制御されるように構成することができる。
計測部11には、計測されたデータを一次検査部12に送信する無線通信部を備えることができる。
【0021】
(一次検査部)
一次検査部12は、船舶5の船上において、計測部11によって計測された潤滑油のデータを潤滑油情報として収集する。一次検査部12の具体的な構成は特に問わず、一次検査部12として、パーソナルコンピュータや、スマートフォン、タブレット等の携帯情報端末を使用することができる。計測部11と一次検査部12との間の通信方法は特に問わず、通信線を介した有線通信であってもよいし、無線通信(例えば、IEEE802.11等の無線LAN、Bluetooth(登録商標)、携帯電話通信網等)であってもよい。また、独自の通信手段を備えてもよい。一次検査部12は、計測部11と結合して一体に構成されていてもよい。
【0022】
一次検査部12には、船舶5や舶用機械6の識別情報を記憶しておくことができる。そして、一次検査部12は、その舶用機械6の潤滑油情報として、計測部11によって計測された汚染物質の計測値(汚染情報)、潤滑油の流量、油量等を時刻と共に蓄積して記憶するように構成することができる(
図5参照)。その他、一次検査部12は、潤滑油に含まれる水分量の計測結果、潤滑油の酸価の判定結果等を潤滑油情報として記憶しておくことができる。
前記潤滑油情報には、舶用機械6の作動開始及び終了時刻など、舶用機械6の稼働状態に関する情報(稼働情報)を含むことができる。一次検査部12は、稼働情報を基に舶用機械6の稼働回数、稼働時間、休止時間等を算定することができる。
また、前記潤滑油情報には、船舶5の位置の情報(位置情報)を含むことができる。船舶5の位置は、舶用機械6が稼働しているか否かを問わず、定期的又は適宜のタイミングで取得して記憶される。船舶5の位置の取得方法は特に問わず、例えば衛星測位システム(GPS)を利用することができる。一次検査部12は、位置情報を基に船舶5の移動距離、移動時間等を算定することができる。その他、一次検査部12は、位置情報に関連付けて、船舶5の位置及び時刻における気象情報(例えば、外部の気象データベースにより得られる情報)等を記憶するように構成することもできる。
【0023】
また、一次検査部12は、前記潤滑油情報(汚染情報)に基づいて、舶用機械6の異常を判断するように構成される。汚染情報による異常判断の具体的な処理は適宜選択することができる。
機械の摩耗が進行すると粒子数が増加し、発生する粒子径は大きくなるため、潤滑油に含まれる汚染物質の粒子径及び粒子数により、舶用機械6の摩耗状態を判断することが可能である(
図6参照)。一次検査部12は、計測された汚染物質の粒子径及び粒子数のうちの少なくとも一方の値、又はその時間経過に伴う増加率が所定の基準値を超えたときは舶用機械6の異常と判断することができる。粒子数については、粒子径の各区分の粒子数や分布、それらの時間経過に伴う変化率等とすることができる。一次検査部12は、粒子径の各区分に含まれる粒子数、区分間の比率、それらの変化率等を算出することができる。舶用機械6を異常と判断する基準は、以上のような項目を種々組み合わせた条件により設定することができる。
【0024】
一次検査部12は、舶用機械6の異常と判断したときは外部に異常を通報するように構成することができる。一次検査部12としてパソコンや携帯情報端末等が使用されている場合には、表示や音響により異常であることを通知することができる。それにより、船上の作業者は舶用機械6を常時監視する必要はなくなる。また、港湾側のデータセンターや端末装置等と通信可能な状態であれば、それらに対して異常であることを送信するようにすることができる。
【0025】
(制御部)
舶用機械の状態診断システム1には、舶用機械6の循環部61、計測部11、一次検査部12、振動検知部14を制御する制御部13を備えることができる。制御部13は、船舶5上における舶用機械6の状態診断システムの全般的な制御を司るものであり、計測部11、一次検査部12等と結合して一体に構成されていてもよい。
舶用機械の状態診断システム1において、一次検査部12により潤滑油情報を収集すると共に異常の有無を判断するタイミングは接岸中、航海中を問わない。また、潤滑油情報を収集する回数も特に問わないが、航海中は次の寄港までに舶用機械6のメンテナンスに必要な情報を取得しておくことが好ましい。このため、制御部13は、船舶5の運行状況や舶用機械6の稼働状況に応じて計測部11により潤滑油の汚染物質を計測し、一次検査部12により異常の有無を判断するようにするように制御する。
【0026】
制御部13は、船舶5の航海中に舶用機械6が稼働されていない場合であっても、船舶5の寄港前に少なくとも2回(好ましくは3回以上)、循環部61、計測部11及び一次検査部12を作動させるように制御する。この制御のため、制御部13には船舶5の運行スケジュールを記憶させておくことができる。
特に、デッキクレーン等の荷役機械等は主として船舶5の接岸中に使用され、通常、航海中は使用されない。このような航海中に使用されない舶用機械6であっても、制御部13の制御によって、船舶5の次の寄港前に舶用機械6の循環部61を作動させて潤滑油情報を取得することができる。これによって、寄港時に舶用機械6の診断が可能になり、また接岸時に必要なメンテナンス作業を行うことができる。
循環部61、計測部11及び一次検査部12を作動させるタイミングは適宜設定されればよく、例えば、出港時刻からの一定期間毎、寄港予定時刻から一定期間内(例えば半日前、1日前)等とすることができる。
【0027】
(振動検知部)
舶用機械6の稼働状態にかかわらず、船舶5が揺られて舶用機械6に大きな振動が与えられた場合には、循環油に汚染源が混入したり撹拌されたりすることにより、正確な潤滑油情報が得られないおそれがある。また、計測部11による計測波形に、振動に起因するノイズが重畳され、正確な潤滑油情報が得られないおそれがある。
舶用機械の状態診断システム1には、船舶5の航海中に舶用機械6に加えられた振動の大きさを検知する振動検知部を備えることができる。振動検知部14は、船舶5の航海中に前記舶用機械6に加えられた振動の大きさを検知する手段である。振動検知部14は、船舶5に1つ設けて舶用機械6の数に関わらず各舶用機械6に与えられる振動の大きさとして扱ってもよいし、舶用機械6毎に舶用機械6やその基台に設けて舶用機械6毎に与えられる振動の大きさとして扱ってもよい。振動の大きさを検知する手段は特に問わず、例えば、加速度センサ、角速度センサを用いることができる。また、振動検知部14は、計測部11による計測値を継続的に取得し、その時間的変化に基づいて振動の大きさを検知するようにしてもよい。
一次検査部12における異常の検知や診断部16における診断においては、振動検知部14により得られた前記振動の大きさ及び持続時間が所定の基準を超えるときは、舶用機械6の異常と判断する方法や基準を変更するようにすることができる。大きい振動が続いた場合には、その間の潤滑油情報によって舶用機械6を異常と判断しないようにすることもできる。
【0028】
(診断部)
診断部16は、港湾8又は港湾8から接続可能なデータセンター等に置かれるサーバ装置上のソフトウェアであり、船舶5が寄港する港湾8側において稼働する。そして、診断部16は、港湾域で使用される無線通信手段2を用いて一次検査部12に蓄積された潤滑油情報を取得し、取得された潤滑油情報に基づいて舶用機械6の状態診断を行うように構成される。
前記のとおり、潤滑油情報には、汚染物質の計測情報、船舶5の位置・運行情報、舶用機械6の稼働情報等が含まれている。診断部16は、舶用機械6の積算稼働時間、循環部61の積算稼働時間等を条件に加え、潤滑油情報に基づいて総合的に舶用機械6の状態を診断することができる。また、更なる精密診断の要否を判断することができる。
汚染物質の計測情報に基づいた潤滑油や舶用機械6の異常の有無の判断には、既存の診断方法(例えば特許3659891号に記載される潤滑対象部診断システム)を適用することができる。
また、診断部16は、船舶5の位置(航路)情報と、別途提供される地域別の天候情報とを照合し、舶用機械6が高温又は低温に晒されたり、時化により舶用機械6に大きな振動等が与えられたりしたと判断する場合は、舶用機械6の状態を異常と判断する条件や基準を変更するようにすることができる。
【0029】
船舶の識別情報、運行情報、舶用機械の識別情報、稼働情報、潤滑油情報等を蓄積して記憶する舶用機械データベース17を備え、診断部16はその舶用機械データベース17をアクセス可能に構成することができる。診断部16は、舶用機械データベース17に蓄積されている当該船舶5の運行情報、当該舶用機械6の過去のメンテナンス情報、他の船舶や舶用機械のメンテナンス情報等、各種情報を参照して舶用機械6の状態診断を行うようにすることができる。
また、診断部16は、航海の予定期間や運行距離等を含む船舶5の運行情報を取得するように構成することができる。そして、現在の潤滑油の汚染物質の時間的変化率等を基に、船舶5の次の航海期間に応じて、舶用機械6に異常が生じるか否かを予測するようにすることができる。また、船舶5の次の航海の移動距離や、次の航海中において予測される舶用機械6の可動時間、可動回数等に応じて、舶用機械6に異常が生じるか否かを予測するようにすることもできる。
【0030】
診断部16による舶用機械6の状態の診断結果は、通信ネットワーク9を介して、荷役現場、船舶・舶用機械の管理者、船主等の関係者に提供可能に構成することができる。また、荷役作業や次の運行のために船舶5(一次検査部12)に診断結果等を送信するようにすることができる。これらの情報の通信手段や送受信方法は特に問わない。
【0031】
2.舶用機械の状態診断方法
舶用機械の状態診断システム1(
図1参照)を使用して行う場合を例として、舶用機械の状態診断方法について説明する。
実施形態に係る舶用機械の状態診断方法は、1つの船舶5に搭載される1又は複数の舶用機械6の状態診断方法であって、舶用機械6毎に具備された潤滑油の循環部61において、循環部61の作動中に潤滑油に含まれる汚染物質を計測する計測工程S11と、船舶5上において、潤滑油情報として計測工程S11による計測値及び時刻を蓄積して記憶すると共に前記計測値に基づいて舶用機械6の異常を判断する一次検査工程S12と、船舶5が寄港する港湾8側において、港湾域で使用される無線通信手段2を用いて一次検査工程S12により蓄積された前記潤滑油情報を取得し、取得された前記潤滑油情報に基づいて舶用機械6の状態診断を行う診断工程S16と、を含む。
また、舶用機械6の循環部61の作動、計測工程S11及一次検査工程S12の実行を制御する制御工程S13を含むことができる。
また、船舶5の航海中に舶用機械6に加えられた振動の大きさを検知する振動検知工程を含むことができる。
【0032】
図7は、船舶5側において行う舶用機械6の状態診断の工程の流れを示している。
汚染物質の計測は、船舶5が航海中か停泊中かを問わず、少なくとも舶用機械6の循環部61の作動中に行う。その計測のタイミングは問わず、常時であってもよいし、一定の時間間隔で(例えば、1分毎に)計測を行うようにしてもよい。このため、汚染物質を計測すべき時刻になるまで待機した後(S10)、計測工程を行う。
計測工程(S11)では、潤滑油の流量、油量、潤滑油に含まれる汚染物質等を計測する。
図4に、潤滑油の油量、流量、潤滑油100ml当りの汚染物質の粒子数を短時間(約6分間)計測した例を示す。本例では、汚染物質の粒子径を1μm毎に区分し、その区分毎の粒子数が算定されている。計測結果は一次検査工程へ送られる。
【0033】
本例において、一次検査工程S12では、適宜の時間間隔で、GPS等を利用して船舶5の位置情報を取得する(S121)。そして、潤滑油情報として、計測工程S11による計測値、時刻及び船舶5の位置を、蓄積して記憶する。
図5に、潤滑油情報の例を示す。本例では、船舶5の位置情報の他、船舶5及び舶用機械6を特定するための識別情報が潤滑油情報に含まれている。
【0034】
更に、潤滑油情報に基づいて舶用機械6の状態が異常であるかどうかを判断する(S123)。舶用機械6の異常の判断方法は適宜設定できるが、汚染物質の粒子径が所定の基準値を超えた場合、粒子数が所定の基準値を超えた場合、粒子径又は粒子数の時間経過に伴う増加率が所定の基準値を超えた場合、粒子径の各区分の粒子数の分布比率が所定範囲を超えた場合等には、異常であると判断することができる。異常の判断方法は、以上の基準を組み合わせて設定することができる。
異常ありと判断した場合には、船上のオペレータに異常を通報する(S125)。
【0035】
一次検査工程S12では、港湾域の無線通信を使用して港湾8側のデータセンター等と通信可能であるかどうかを確かめ(S126)、通信可能である場合には、港湾8側で実行される診断工程S16に対して、蓄積した情報を送信する(S127)。
船舶5側においては、以上の工程を繰り返し行うようにすることができる。
【0036】
図8は、制御工程S13の処理の流れを示している。
制御工程S13は、船舶5の航海中に舶用機械6が稼働されていない場合であっても、船舶5の寄港前に少なくとも2回(好ましくは3回以上)、循環部61を作動させると共に、計測工程S11及び一次検査工程S12を実行させるように制御する。制御を行うタイミングは適宜設定できるが、舶用機械6が主として船舶5の接岸中に使用され、航海中は使用されないデッキクレーン等の荷役機械等である場合、定期的に、又は寄港予定時刻から一定期間内に複数回(例えば半日前、1日前)等とすることができる。
制御工程S13は前記タイミングにおいて実行され、先ず舶用機械6の潤滑油の循環部61を作動させる(S131)。そして一定時間待って(S132)、計測工程S11及び一次検査工程S12の実行を開始させる(S133)。そして、計測工程S11及び一次検査工程S12により潤滑油情報の取得が完了するまで待機し(S134)、潤滑油情報の取得が完了したら、循環部61、計測工程、一次検査工程を停止させる(S135)。
【0037】
図9は、港湾8側において行う診断工程S16の処理の流れを示している。
診断工程S16では、先ず、港湾8域で使用される無線通信手段2を用いて、船舶5側で行われる一次検査工程S12により蓄積された潤滑油情報を取得する(S161)。
また、船舶5の運行情報、舶用機械6の稼働情報、潤滑油情報等が蓄積して記憶されている舶用機械データベース17をアクセスし、舶用機械6のメンテナンスに必要な情報を取得する(S162)。
診断工程S16は、舶用機械データベース17に蓄積されている当該船舶5の運行情報、当該舶用機械6の過去のメンテナンス情報、他の船舶や舶用機械のメンテナンス情報等、各種情報を参照して、一次検査工程S12から取得した潤滑油情報に基づいて舶用機械6の状態診断を行う(S163)。
そして、舶用機械6の状態が異常であるかを判断すると共に(S164)、舶用機械6のメンテナンス作業が必要な状態であるかを判断する(S164)。舶用機械6が異常と判断した場合、及びメンテナンス作業が必要と判断した場合には、荷役現場、船舶・舶用機械の管理者、船主等の関係者に診断結果を通報する(S166)。また、関係者に必要な情報は、通信ネットワーク9を介して各関係者が閲覧可能にすることができる。
【0038】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【符号の説明】
【0039】
1;舶用機械の状態診断システム、
11;計測部、12;一次検査部、13;制御部、14;振動検知部、16;診断部、17;舶用機械データベース、
2;無線通信手段、
5;船舶、
6;舶用機械、61;循環部、
8;港湾、9;通信ネットワーク。