(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】施工方法、製作方法、情報処理装置
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20240308BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240308BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20240308BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
E04G23/02 A
B33Y10/00
B33Y50/00
B28B1/30
(21)【出願番号】P 2020106989
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】宮里 心一
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖
(72)【発明者】
【氏名】坂井 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昇
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158467(JP,A)
【文献】特開2018-060361(JP,A)
【文献】特開2002-167976(JP,A)
【文献】特開2016-061098(JP,A)
【文献】特開2013-127415(JP,A)
【文献】特開2017-052289(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0270239(US,A1)
【文献】Rebuilding a Frank Lloyd Wright Classic With 3-D Printed Blocks,2014年10月18日,https://web.archive.org/web/20141018212213/https://www.smithsonianmag.com/arts-culture/rebuilding-frank-lloyd-wright-classic-3-D-blocks-180953007/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02-23/03
B33Y 10/00
B33Y 50/00-50/02
B28B 1/30-1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、
計測された前記表面の形状に基づき、3Dプリンタにより付加部材を製作する工程と、
前記付加部材を前記表面に設置する工程と、
を有
し、
前記付加部材は、前記表面側の面にスペーサを有し、前記表面との間に隙間ができるように設置され、前記隙間に充填材が充填されることを特徴とする施工方法。
【請求項2】
コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、
計測された前記表面の形状に基づき、3Dプリンタにより型枠を製作する工程と、
前記型枠を用いて付加部材を製作する工程と、
前記付加部材を前記表面に設置する工程と、
を有
し、
前記付加部材は、前記表面側の面にスペーサを有し、前記表面との間に隙間ができるように設置され、前記隙間に充填材が充填されることを特徴とする施工方法。
【請求項3】
コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、
計測された前記表面の形状に基づき、3Dプリンタにより付加部材を製作する工程と、
前記付加部材を前記表面に設置する工程と、
を有
し、
前記表面にボルトが設けられ、
前記付加部材は、前記表面側の面から前面まで貫通する貫通孔を有し、前記ボルトを前記貫通孔に通して前記表面に設置され、前記ボルトの先端にナットが締め込まれることを特徴とする施工方法。
【請求項4】
コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、
計測された前記表面の形状に基づき、3Dプリンタにより型枠を製作する工程と、
前記型枠を用いて付加部材を製作する工程と、
前記付加部材を前記表面に設置する工程と、
を有
し、
前記表面にボルトが設けられ、
前記付加部材は、前記表面側の面から前面まで貫通する貫通孔を有し、前記ボルトを前記貫通孔に通して前記表面に設置され、前記ボルトの先端にナットが締め込まれることを特徴とする施工方法。
【請求項5】
前記表面は、前記コンクリート構造物の一部を除去した後の表面であることを特徴とする請求項1
から請求項
4のいずれかに記載の施工方法。
【請求項6】
コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、
計測された前記表面の形状に基づき、前記コンクリート構造物の表面
との間に充填材を充填するための隙間ができるよう前記表面に設置
される付加部材、または、前記付加部材を製作するための型枠を3Dプリンタにより製作する工程と、
を有
し、
前記付加部材は、前記表面側の面にスペーサを有することを特徴とする製作方法。
【請求項7】
コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、
計測された前記表面の形状に基づき、前記コンクリート構造物の表面
に設けられたボルトを用いて前記表面に設置
される付加部材、または、前記付加部材を製作するための型枠を3Dプリンタにより製作する工程と、
を有
し、
前記付加部材は、前記ボルトを通すための、前記表面側の面から前面まで貫通する貫通孔を、前記ボルトと対応する位置に有することを特徴とする製作方法。
【請求項8】
コンクリート構造物の表面
との間に充填材を充填するための隙間ができるよう前記表面に設置
される付加部材を製作するために用いられる情報処理装置であって、
前記表面の形状を計測したデータに基づき、前記付加部材、または前記付加部材を製作するための型枠を3Dプリンタにより製作するための3次元形状データを作成
し、
前記付加部材は、前記表面側の面にスペーサを有することを特徴とする情報処理装置。
【請求項9】
コンクリート構造物の表面
に設けられたボルトを用いて前記表面に設置
される付加部材を製作するために用いられる情報処理装置であって、
前記表面の形状を計測したデータに基づき、前記付加部材、または前記付加部材を製作するための型枠を3Dプリンタにより製作するための3次元形状データを作成
し、
前記付加部材は、前記ボルトを通すための、前記表面側の面から前面まで貫通する貫通孔を、前記ボルトと対応する位置に有することを特徴とする情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工方法、製作方法、情報処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、経年劣化等の理由から、コンクリート構造物の補修(補強)工事を行うことが多くなっている。通常、コンクリート構造物の補修工事では、補修箇所に型枠を設置してモルタルやコンクリートを打設したり、モルタルを吹き付けたりすることが多い。
【0003】
例えば特許文献1には、既設コンクリート床版のコンクリートを除去した後、この除去部分に短繊維補強モルタルまたはコンクリートを吹き付けて増厚する補強工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの補修工事は、補修のための材料や機械の準備が手間となり、効率性や経済性の面で課題がある。特に小規模な箇所であれば、補修工事はより非効率かつ不経済な作業となる。
【0006】
さらに、既設構造物との取り合い部分のように複雑な箇所では施工が困難になる。補修箇所の耐久性を確保するためには高い技術力をもつ作業員による丁寧な施工が必要となり、少子高齢化により作業員が減少傾向にあるなか、作業員の確保も困難である。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、作業が簡単にできる施工方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための第1の発明は、コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、計測された前記表面の形状に基づき、3Dプリンタにより付加部材を製作する工程と、前記付加部材を前記表面に設置する工程と、を有し、前記付加部材は、前記表面側の面にスペーサを有し、前記表面との間に隙間ができるように設置され、前記隙間に充填材が充填されることを特徴とする施工方法である。
第2の発明は、コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、計測された前記表面の形状に基づき、3Dプリンタにより型枠を製作する工程と、前記型枠を用いて付加部材を製作する工程と、前記付加部材を前記表面に設置する工程と、を有し、前記付加部材は、前記表面側の面にスペーサを有し、前記表面との間に隙間ができるように設置され、前記隙間に充填材が充填されることを特徴とする施工方法である。
第3の発明は、コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、計測された前記表面の形状に基づき、3Dプリンタにより付加部材を製作する工程と、前記付加部材を前記表面に設置する工程と、を有し、前記表面にボルトが設けられ、前記付加部材は、前記表面側の面から前面まで貫通する貫通孔を有し、前記ボルトを前記貫通孔に通して前記表面に設置され、前記ボルトの先端にナットが締め込まれることを特徴とする施工方法である。
第4の発明は、コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、計測された前記表面の形状に基づき、3Dプリンタにより型枠を製作する工程と、前記型枠を用いて付加部材を製作する工程と、前記付加部材を前記表面に設置する工程と、を有し、前記表面にボルトが設けられ、前記付加部材は、前記表面側の面から前面まで貫通する貫通孔を有し、前記ボルトを前記貫通孔に通して前記表面に設置され、前記ボルトの先端にナットが締め込まれることを特徴とする施工方法である。
【0009】
本発明では、コンクリート構造物の表面の形状を元に、3Dプリンタを用いて付加部材または付加部材を製作するための型枠を製作し、これにより得られた付加部材をコンクリート構造物の表面に取り付けることで、コンクリート構造物に対し補修等の施工を行う。
【0010】
本発明では、自由な形状を短時間で作成できる3Dプリンタによって付加部材またはその型枠が製作されるため、作業ムラが無く、複雑な形状の付加部材であっても、精度の良い安定した品質の付加部材を提供できる。施工作業はこの付加部材を現場で取り付けるのみとなるため、短時間の簡単な作業となり作業員の数を従来よりも減らすことが可能で、材料や機械の準備も最小限とすることができる。
【0011】
前記表面は、例えば前記コンクリート構造物の一部を除去した後の表面である。
これにより、コンクリート構造物の劣化部位を除去した後、付加部材を取り付けることでコンクリート構造物の補修を簡単に行うことができる。
【0012】
第1、第2の発明において、前記付加部材は、前記表面との間に隙間ができるように設置され、前記隙間に充填材が充填される。また前記付加部材は、前記表面側の面にスペーサを有する。
付加部材とコンクリート構造物の表面の間に隙間を設け、この隙間に充填材を充填することで、コンクリート構造物の表面の形状と付加部材の当該表面側の面の形状とが必ずしも一致する必要がなく、付加部材の製作が容易になる。付加部材にスペーサを設けておくことで、付加部材を上記の隙間ができるようにコンクリート構造物の表面に設置することが容易になる。
【0013】
第3、第4の発明において、前記付加部材は、前記表面側の面から前面まで貫通する貫通孔を有する。また、前記表面にボルトが設けられ、前記付加部材は、前記ボルトを前記貫通孔に通して前記表面に設置され、前記ボルトの先端にナットが締め込まれる。
付加部材に貫通孔を設けることで、貫通孔にボルトを通して付加部材の取り付けを行うことができ、ボルトを用いて付加部材をコンクリート構造物にしっかりと固定できる。
【0014】
第5の発明は、コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、計測された前記表面の形状に基づき、前記コンクリート構造物の表面との間に充填材を充填するための隙間ができるよう前記表面に設置される付加部材、または、前記付加部材を製作するための型枠を3Dプリンタにより製作する工程と、を有し、前記付加部材は、前記表面側の面にスペーサを有することを特徴とする製作方法である。
第6の発明は、コンクリート構造物の表面の形状を計測する工程と、計測された前記表面の形状に基づき、前記コンクリート構造物の表面に設けられたボルトを用いて前記表面に設置される付加部材、または、前記付加部材を製作するための型枠を3Dプリンタにより製作する工程と、を有し、前記付加部材は、前記ボルトを通すための、前記表面側の面から前面まで貫通する貫通孔を、前記ボルトと対応する位置に有することを特徴とする製作方法である。
第5、第6の発明は、第1、第3の発明の付加部材または第2、第4の発明の型枠を製作する製作方法である。
【0015】
第7の発明は、コンクリート構造物の表面との間に充填材を充填するための隙間ができるよう前記表面に設置される付加部材を製作するために用いられる情報処理装置であって、前記表面の形状を計測したデータに基づき、前記付加部材、または前記付加部材を製作するための型枠を3Dプリンタにより製作するための3次元形状データを作成し、前記付加部材は、前記表面側の面にスペーサを有することを特徴とする情報処理装置である。
第8の発明は、コンクリート構造物の表面に設けられたボルトを用いて前記表面に設置される付加部材を製作するために用いられる情報処理装置であって、前記表面の形状を計測したデータに基づき、前記付加部材、または前記付加部材を製作するための型枠を3Dプリンタにより製作するための3次元形状データを作成し、前記付加部材は、前記ボルトを通すための、前記表面側の面から前面まで貫通する貫通孔を、前記ボルトと対応する位置に有することを特徴とする情報処理装置である。
第7、第8の発明は、第1、第3の発明の付加部材または第2、第4の発明の型枠の製作に用いる情報処理装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、作業が簡単にできる施工方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】情報処理装置3のハードウェア構成を示す図。
【
図3】コンクリート構造物100の補修箇所101の表面の計測について説明する図。
【
図4】3次元形状データ200、300と付加部材10を示す図。
【
図6】付加部材10a、10b、10c、10dの例。
【
図7】台車6を用いて付加部材10bの設置を行う例。
【
図8】コンクリート構造物100の補修箇所101と付加部材10eについて説明する図。
【
図9】コンクリート構造物100の補修箇所101の表面の計測について説明する図。
【
図10】3次元形状データ200、400、型枠40、付加部材10fを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
[第1の実施形態]
(1.付加部材10の製作システム1)
図1は、本発明の実施形態に係る施工方法を実施するための付加部材10の製作システム1を示す図である。
【0020】
本発明の実施形態に係る施工方法は、コンクリート構造物100の所定箇所に付加部材10を設置することで、コンクリート構造物100の補修等を行うものである。製作システム1は付加部材10を3Dプリンタ4によって製作するものであり、3Dプリンタ4の他、計測装置2、情報処理装置3等を有する。
【0021】
計測装置2は、コンクリート構造物100の所定箇所(付加部材10の設置箇所)の表面の形状を計測するものであり、無線等のネットワークを介して情報処理装置3に接続される。計測装置2には既知の3Dスキャナー、ドローン等を用いることができる。ただし、コンクリート構造物100の表面の形状は実測することも可能である。
【0022】
情報処理装置3は、3Dプリンタ4によって付加部材10を製作するため、計測されたコンクリート構造物100の表面の形状に基づき、付加部材10の3次元形状データを作成する。
【0023】
図2は情報処理装置3のハードウェア構成を示す図である。
図2に示すように、情報処理装置3は、例えば制御部31、記憶部32、入力部33、表示部34、通信部35等をバスにより接続して構成したコンピュータにより実現できる。但しこれに限ることなく、情報処理装置3は適宜様々な構成をとることができる。
【0024】
制御部31はCPU、ROM、RAMなどから構成される。CPUは、記憶部32、ROMなどの記憶媒体に格納された情報処理装置3の処理に係るプログラムをRAM上のワークエリアに呼び出して実行する。ROMは不揮発性メモリであり、ブートプログラムやBIOSなどのプログラム、データなどを恒久的に保持している。RAMは揮発性メモリであり、記憶部32、ROMなどからロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部31が各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0025】
記憶部32はハードディスクドライブやソリッドステートドライブ、フラッシュメモリ等であり、制御部31が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OSなどが格納される。これらのプログラムやデータは、制御部31により必要に応じて読み出され実行される。
【0026】
入力部33は情報処理装置3に各種の設定入力を行うものである。
表示部34は例えば液晶ディスプレイ等である。
通信部35はネットワーク等を介した通信を媒介する通信インタフェースであり、計測装置2や3Dプリンタ4等との間で通信を行う。
【0027】
図1の説明に戻る。3Dプリンタ4は、造形材料(モデル材)を用いて付加部材10を製作するものである。3Dプリンタ4が実行する造形方法は特に限定されず、既知のバインダージェット法やFDM法(熱溶解積層法)を適用することができる。造形材料としてはこれらの造形方法に応じた既知のものを用いればよく、例えばセメント系材料や樹脂材料を用いることができる。
【0028】
本実施形態では造形材料としてセメント系材料を用いるものとする。セメント系材料としては、一般的な配合のモルタルや、超高強度繊維補強モルタル、ECC(高靱性セメント複合材料;Engineered Cementitious
Composites)などを用いることができる。セメント系材料は、要求される耐久性等に応じて適当なものを選定し、例えばコンクリート構造物100のコンクリートより圧縮強度の高いもの、硬化促進剤を含有する早強型のものなどとすることができる。
【0029】
(2.施工方法)
本実施形態の施工方法は、
図3(a)のコンクリート構造物100の点線部分で示す一部を劣化部位とし、この劣化部位の補修を行う例により説明する。本実施形態ではこの劣化部位をはつるなどして
図3(b)に示すように除去し、劣化部位を除去した残りの部分が補修箇所101(付加部材10の設置箇所)となる。コンクリート構造物100は例えば橋脚などであるが、これに限ることはない。
【0030】
本実施形態では、
図3(c)に示すように、補修箇所101に付加部材10を取り付けるためのボルト102を埋め込む。ボルト102は複数本平行に設けられる。その後、
図3(d)に示すように計測装置2により補修箇所101の表面の3次元形状を計測する。計測結果は3次元形状のデジタルデータ(以下、3次元形状データという)として得られる。
【0031】
図4(a)は補修箇所101の表面の3次元形状データ200の例である。本実施形態では、補修箇所101の表面の3次元形状データ200を情報処理装置3に入力し、この3次元形状データ200を元に、付加部材10の3次元形状データを情報処理装置3によって作成する。
【0032】
ここで、入力された3次元形状データ200は付加部材10において補修箇所101の表面側の面(以下、背面という)となるため、情報処理装置3は、
図4(b)に示すように、上記面の反対側に位置する、付加部材10の前面aの形状を補完する。
【0033】
この形状補完に当たっては、オペレータが前面aの形状を入力し、オペレータの入力に応じて情報処理装置3が前面aの形状補完を行うようにしてもよいし、補修箇所101の近傍を撮影した画像から、前面aの形状が画像認識・画像処理技術により自動的に生成され、形状補完が行われるようにしてもよい。
【0034】
さらに本実施形態では、3次元形状データ200のボルト102の部分を前面aまで貫通させ、その前面a側の端部を
図4(c)に示すようにボルト径方向に拡径して拡径部bを形成する。これにより付加部材10の3次元形状データ300の作成が完了する。
【0035】
情報処理装置3は、作成された3次元形状データ300を上下複数層にスライスし、各層のスライスデータを作成する。これらのスライスデータは3Dプリンタ4に入力され、3Dプリンタ4は、3次元形状データ300に対応する付加部材10を、スライスデータに従って既知の造形方法により製作する。
【0036】
図4(d)は3Dプリンタ4によって製作された付加部材10を示す図である。前記した3次元形状データ300のボルト102の部分は、付加部材10を背面から前面まで貫通する貫通孔11となり、前記の拡径部bは付加部材10の前面の凹部12となる。
【0037】
付加部材10は製作場所から施工現場に運搬され、施工現場の作業員は、付加部材10を補修箇所101に設置してコンクリート構造物100の補修を行う。
【0038】
なお、付加部材10を複数の部位に分割して製作することも可能であり、付加部材10の運搬がより容易になる。また3Dプリンタ4を施工現場に設置し、運搬の手間を減らして製作後の付加部材10を即設置することも可能である。
【0039】
図5は付加部材10の設置について説明する図である。本実施形態では、補修箇所101の表面に接着剤(不図示)を塗布した後、
図5(a)に示すように、貫通孔11にボルト102を通して付加部材10を補修箇所101に設置し、付加部材10の背面を補修箇所101の表面に接着する。
【0040】
そして、
図5(b)に示すように、凹部12に突出するボルト102の先端にナット103を締め込み、
図5(c)に示すように凹部12に無収縮モルタル等の充填材30を充填して付加部材10の前面を平滑化する。これによりコンクリート構造物100の補修が行われる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態では、コンクリート構造物100の補修箇所101の表面の形状を元に、3Dプリンタ4を用いて付加部材10を製作し、これにより得られた付加部材10をコンクリート構造物100の表面に取り付けることで、コンクリート構造物100の補修を行う。
【0042】
本実施形態では、自由な形状を短時間で作成できる3Dプリンタ4によって付加部材10が製作されるため、作業ムラが無く、複雑な形状の付加部材10であっても、精度の良い安定した品質の付加部材10を迅速に提供できる。施工作業はこの付加部材10を現場で取り付けるのみとなるため、短時間の簡単な作業となり作業員の数を従来よりも減らすことも可能で、材料や機械の準備も最小限とすることができる。
【0043】
また本実施形態では、付加部材10に貫通孔11を設けることで、貫通孔11にボルト102を通して付加部材10の取り付けを行うことができ、ボルト102を用いることで付加部材10をコンクリート構造物100にしっかりと固定できる。
【0044】
しかしながら、本発明が以上の実施形態に限定されることはない。例えば本実施形態ではコンクリート構造物100の劣化部位を除去した後、付加部材10を補修箇所101に設置することで既設のコンクリート構造物100の補修を簡単に行うことができ、オーダーメイドの小部品である付加部材10の製作に3Dプリンタ4を用いることで3Dプリンタ4の特性を最大限に生かした簡易な施工が実現されるが、本発明の施工方法は補修工事以外の場合でも適用可能である。
【0045】
例えばコンクリート構造物100の新築時に、コンクリート構造物100の施工が難しい位置等にある一部を付加部材10とすることも可能である。この場合も、コンクリート構造物100における付加部材10の設置箇所の表面の形状を計測装置2によって計測し、その3次元形状データを元に付加部材10を製作すればよい。
【0046】
また、本実施形態では補修箇所101に接着剤を塗布し、付加部材10を接着したが、
図6(a)に示すように、付加部材10aを、補修箇所101の表面との間に隙間ができるように設置し、その隙間に充填材であるグラウト20を充填することも可能である。
【0047】
付加部材10aの3次元形状データ300も、計測装置2で計測した補修箇所101の表面の3次元形状データ200に基づき、付加部材10aの背面の位置を上記表面から一定間隔だけ外側に離すなどして作成できる。付加部材10aの背面の形状は、必ずしも補修箇所101の表面の形状と一致する必要はなく、当該形状に応じた凹凸を有する必要もないので、付加部材10aの製作が容易になる。
【0048】
また、
図6(b)に示すように付加部材10bの設置に当たってボルト102を省略することも可能であり、この場合は付加部材10bにおいて前記した貫通孔11や凹部12が省略される。
【0049】
さらに、
図6(c)に示すように付加部材10cの背面にスペーサ13を設けることも可能であり、当該スペーサ13が補修箇所101の表面に接するように付加部材10cを設置することで、補修箇所101の表面との間に隙間ができるように付加部材10cを設置することが容易になる。
【0050】
付加部材10cの製作にあたっては、例えば、計測装置2で計測した補修箇所101の表面の3次元形状データ200を元に、付加部材10cのスペーサ13を除く部分の3次元形状データを作成した後、当該3次元形状データの適当箇所に、スペーサ13の3次元形状データを付与する。これにより、付加部材10cの3次元形状データ300を作成することができる。
【0051】
3次元形状データ300の作成時には、補修箇所101の表面の3次元形状データ200から補修箇所101の表面の平らな位置を検出し、スペーサ13の先端が当該検出した位置に接するように3次元形状データ300を作成することも可能である。その他、スペーサ13を有しない付加部材10cを製作し、補修箇所101の表面にスペーサを配置した上で付加部材10cの設置を行うことも可能である。
【0052】
また
図6(d)に示すように、前記の隙間にグラウト20を充填するための貫通孔(グラウト注入孔)14を、付加部材10dの背面から前面まで貫通するように設けてもよい。貫通孔14はグラウト20の充填確認に用いることもでき、貫通孔14からグラウト20が溢れ出したことをもって前記の隙間に十分にグラウト20が充填されたと判断することもできる。
【0053】
この場合も、補修箇所101の表面の3次元形状データ200を元に、付加部材10dの貫通孔14を除く部分の3次元形状データを作成した後、当該3次元形状データの適当箇所に、付加部材10dを貫通する貫通孔14の3次元形状データを付与する。これにより付加部材10dの3次元形状データ300を作成することができる。あるいは、貫通孔14を有しない付加部材10dを先に製作した後、当該付加部材10dを穿孔して貫通孔14を形成することも可能である。
【0054】
また
図7に示すように、付加部材(図の例では付加部材10b)の設置に当たって、移動可能なアーム61の先端で付加部材を保持する台車6を用いてもよい。アーム61にはグラウト20を充填するためのグラウト注入装置(不図示)なども設けられ、施工が難しい位置であっても、台車6を用いることで付加部材の設置が容易になる。その他、台車6のアーム61先端あるいはその他の移動装置に計測装置2を取り付けて補修箇所101の表面の形状を計測することなども可能である。
【0055】
また、コンクリート構造物100の劣化部位を除去した補修箇所101では、
図8(a)に示すように鉄筋111などの補強材が露出することもある。この場合も前記と同様に補修箇所101の表面の3次元形状を計測し、
図8(b)に示すように付加部材10eの製作、設置を行えばよい。
図8(c)は
図8(b)の線A-Aによる水平断面を示したものである。
【0056】
この例では、鉄筋111の前面が補修箇所101の表面の3次元形状として計測され、鉄筋111の背後にある補修箇所101の表面は計測されないので、
図8(b)、(c)に示すように、鉄筋111に対応する位置では、付加部材10eが鉄筋111の前面近傍まで達するように製作、設置される。
【0057】
なお、補修箇所101に露出した鉄筋111の一部を切断して除去した後、鉄筋111の除去部分に新たな補強筋を配置することも可能であり、この場合は補強筋の配置後に補修箇所101の表面の3次元形状を計測装置2で計測すればよい。
【0058】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、3Dプリンタ4により付加部材を製作する代わりに、付加部材を製作するための型枠を3Dプリンタ4により製作する例である。
【0059】
すなわち、本実施形態でも
図9(a)の点線部分に示すコンクリート構造物100の劣化部位を
図9(b)に示すように除去し、その補修箇所101に
図9(c)に示すようにボルト102を埋め込み、
図9(d)に示すように補修箇所101の表面の形状を計測する。
【0060】
図10(a)は、補修箇所101の表面の3次元形状データ200の例である。本実施形態では、情報処理装置3により、
図9(b)に示すように、3次元形状データ200を固化材の充填面とする型枠の3次元形状データ400を作成する。
【0061】
3次元形状データ400は、補修箇所101の表面の3次元形状データ200に、型枠本体部分cの3次元形状データを付与することにより作成できる。なお本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、3次元形状データ200のボルト102の部分に拡径部bが形成され、ボルト102の部分が付加部材を背面から前面まで貫通する貫通孔11(
図10(e)参照)となり、拡径部bが付加部材の前面の凹部12(
図10(e)参照)となる。
【0062】
情報処理装置3は、作成された3次元形状データ400を上下複数層にスライスし、各層のスライスデータを作成する。スライスデータは3Dプリンタ4に入力され、3Dプリンタ4は、
図10(c)に示すように、3次元形状データ400に対応する型枠40をスライスデータに従って製作する。
【0063】
補修箇所101に設置する付加部材は、
図10(d)に示すように型枠40にセメント系材料等の固化材を打設し充填することで製作され、製作された付加部材10fを、第1の実施形態と同様に補修箇所101に設置する。
【0064】
図10(e)は付加部材10fをコンクリート構造物100の補修箇所101に設置した状態を示したものであり、本実施形態でも付加部材10fを用いることでコンクリート構造物100の補修を簡単に行うことができる。付加部材10fの前面は平坦となっており、付加部材10fの製作の容易さ等の観点から、本実施形態の手法はこのような場合に特に適している。
【0065】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0066】
1:製作システム
2:計測装置
3:情報処理装置
4:3Dプリンタ
10、10a、10b、10c、10d、10e、10f:付加部材
11、14:貫通孔
12:凹部
13:スペーサ
20:グラウト
30:充填材
40:型枠
100:コンクリート構造物
101:補修箇所
102:ボルト
103:ナット
111:鉄筋
200、300、400:3次元形状データ