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特許7450240分布型位置検知ロープおよび分布型位置検知システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】分布型位置検知ロープおよび分布型位置検知システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20240308BHJP
   G01D 5/353 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
G01B11/16 Z
G01D5/353 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022556773
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2020038936
(87)【国際公開番号】W WO2022079855
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】303021609
【氏名又は名称】ニューブレクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000196565
【氏名又は名称】西日本電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 欣増
(72)【発明者】
【氏名】山内 良昭
(72)【発明者】
【氏名】川端 淳一
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 昭治
(72)【発明者】
【氏名】永谷 英基
(72)【発明者】
【氏名】今井 道男
(72)【発明者】
【氏名】浜田 行洋
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 一光
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/083989(WO,A1)
【文献】特開2009-048938(JP,A)
【文献】特表平11-514940(JP,A)
【文献】中国実用新案第209386023(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/16
G01D 5/353
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量を計測する光ファイバと、この光ファイバと間隔を置き、前記光ファイバを挟むように配置された複数の抗張力体と、前記光ファイバおよび前記抗張力体を取り囲んで前記光ファイバと前記抗張力体とを一体化させたシース材と、を有する基本光エレメント、
中心軸体、
前記中心軸体の軸方向に所定のピッチで螺旋状に巻回され、前記中心軸体の軸に直交する断面では、第1の径上に所定の間隔で配置された前記基本光エレメントを持つ第1の光エレメントを有し、前記中心軸体の外側に前記中心軸体と同軸状に設けられた筒状の内部シース層、
前記中心軸体の軸方向に、前記第1の光エレメントとは異なる方向で螺旋状に巻回され、前記中心軸体の軸に直交する断面では、第1の径とは異なる第2の径上に所定の間隔で配置され、かつ、前記第1の光エレメントの前記基本光エレメントとは敷設角が異なる前記基本光エレメントを持つ第2の光エレメントを有し、前記内部シース層の外側に配置され前記中心軸体と同軸状に設けられた筒状の外部シース層、
を備えたことを特徴とする分布型位置検知ロープ。
【請求項2】
前記中心軸体はパイプであり、
前記中心軸体の軸に直交する断面において、軸中心に対して対向した同径上の位置に配置されたテンションメンバを複数有し、前記中心軸体の外周に配置され、かつ前記内部シース層の内周に配置され、前記中心軸体と同軸状に設けられた筒状の第2の内部シース層を備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載の分布型位置検知ロープ。
【請求項3】
前記中心軸体は複数の鋼線を含んで構成された中実軸である中心軸コアであり、
前記中心軸体の軸に直交する断面において、前記中心軸体の外周に配置され、かつ前記内部シース層の内周に配置され、前記中心軸体と同軸状に設けられた筒状の第3の内部シース層を備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載の分布型位置検知ロープ。
【請求項4】
前記シース材は、前記内部シース層、前記外部シース層のいずれとも異なる材質で形成されているとともに、軸方向表面に一定間隔で設けられた凹凸形状部を有する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の分布型位置検知ロープ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の分布型位置検知ロープと、
前記分布型位置検知ロープが外周部に巻回され、軸周りに回転するドラムスキッドと、
前記分布型位置検知ロープの一端に接続される錘と、
前記分布型位置検知ロープを前記ドラムスキッドの回転に同期させて移動させるハンドルと、
前記分布型位置検知ロープを所望の計測位置に設置するため、被測定体上に設置された前記分布型位置検知ロープの設置位置調整用の傾斜計と、
前記第1の光エレメントの光ファイバおよび前記第2の光エレメントの光ファイバで計測された信号を演算して被測定体の物理量を計測する計測器と、
前記分布型位置検知ロープの他端に接続され、前記計測器に信号を伝送する接続ケーブルと、
を備え、
前記ドラムスキッドに巻回されている前記分布型位置検知ロープを、前記ドラムスキッドを回転させつつ、前記ハンドルと前記錘により所望の位置に移動させ、前記傾斜計により所望の角度に設置するとともに、前記計測器を用いて、前記所望の位置で被測定体の物理量の計測を行うことを特徴とする分布型位置検知システム。
【請求項6】
ジャイロセンサが搭載された円弧状構造部と、分布型位置検知ロープ固定用楔と、分布型位置検知ロープ姿勢アジャスターと、を持ち、前記ドラムスキッドの外側に前記ドラムスキッドの軸と軸並行に設置されたアークスタンドを有するとともに、
前記ジャイロセンサと前記分布型位置検知ロープ姿勢アジャスターとによって前記分布型位置検知ロープの姿勢を調整しつつ、前記分布型位置検知ロープを前記アークスタンドの円弧状構造部に沿って移動させ、前記分布型位置検知ロープ固定用楔で前記分布型位置検知ロープを所望の位置に固定して被測定体の物理量の計測を行うことを特徴とする請求項5に記載の分布型位置検知システム。
【請求項7】
前記外部シース層に設けられた3個の基本光エレメントと、前記内部シース層に設けられた少なくとも1個の基本光エレメントとによって検出した信号から、前記計測器により、計測した被測定体のひずみを基に前記被測定体のねじりを求めることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の分布型位置検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、分布型位置検知ロープおよび分布型位置検知システムに関わる。
【背景技術】
【0002】
分布型光ファイバセンシング(DFOS:Distributed Fiber Optic Sensing)技術が実用化に向けて進展しつつある。本技術は、変形、温度、音波、圧力など、多岐に亘って発展しており、本技術の現場への適用についても、実績が積み上げられつつある。
【0003】
一方、社会インフラである橋梁、トンネル、道路などの大規模建設物に関わる技術は、数10年前にほぼ完成しているが、これらの社会インフラに関わる設備は、老朽化が進んでおり、これらの老朽化した設備を如何に維持してゆくかは、大きな社会問題となっている。
【0004】
このような設備の維持に関しては、光ファイバによる監視技術が、長距離、長寿命の視点から、大きな期待を持たれている。
特に、光ファイバによる変形計測については、上記設備を扱う土木業界における基礎技術は、直接計測することのできる、線上の1次元歪である。しかしながら、現場で必要とされるのは、3次元の変位であり、ギャップがある。
【0005】
これまでに開発された、光ファイバによる監視技術として、以下の技術が挙げられる。
まず、トンネル掘削に伴う地山および先受け鋼管の挙動を調べるために、PPP-BOTDA(Pulse-PrePump Brillouin Optical Time Domain Analysis)方式による超長尺先受け鋼管の光ファイバひずみ計測手法が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。この手法を用いることにより、距離分解能2cmまでの計測が可能となった。
【0006】
また、スイスのモンテリ地下研究所で実施中の実スケール実証実験では、母岩と人工バリアシステム(EBS: engineered barrier system)における熱・水・応力の連成挙動(THM:thermo-hydro-mechanical)の調査・検証のために、オパリナス粘土岩中での1:1スケールの多数熱試験が行われているが、数年という長期間にわたるこの連続モニタ試験に、高分解能(空間分解能2cm)の分布型光ファイバモニタシステムが使用されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
また、分布型光ファイバセンサの適用例として、ポーランドにおける最大の吊り橋の1つであるWislok川のTadeusz Mazowiecki橋の鋼製の桁についてのひずみ計測例がある。この橋は、ポーランドにおける案内塔としては2番目の高さを持ち、108m高さのA形状の案内塔に、ケーブル総延長482mの64本の鉄製ケーブルで固定されている。分布型光ファイバセンサは、川幅150m内の北側に設けられた、全計測長が600mになる、鋼製の桁の試験的なひずみの計測に用いられている(例えば、非特許文献3参照)。
【0008】
また、長距離ケーブルの形状計測について、ケーブルの周りに設けられた光ファイバのひずみデータを利用した形状センシング法が提案されている。この方法は、ひずみ計測から得た曲率と捩り率を含む係数をもつ移動フレームの方程式を解くことで、その形状を評価するものである。この手法においては、評価誤差が確立微分方程式によって公式化されている(例えば、非特許文献4参照)。
【0009】
また、円形状断面をもつ形状体の外周の筒状取付層に、螺旋状に埋め込まれた複数の光ファイバは、この形状体に負荷される外圧により、この形状体に発生した、曲げ、ねじり、あるいは伸び変形によって変形するが、この際、光ファイバに入射したパルスレーザ光の後方散乱光である、ブリルアン散乱またはレイリー散乱の周波数変化、あるいは位相変化を利用して、前記形状体の変形後の3次元位置を計測する手法が提案されているが、量産品への適用については触れられていない(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
また、2つ以上の単一コアを持つ光ファイバ、あるいは2以上のコアを持つマルチコア光ファイバによる位置とセンシングの計測器において、いずれの光ファイバも、ファイバコアは、ファイバコア間のモードカップリングを減少させるために、可能な限り最小距離で空間的に分離されているものが提案されている。この計測器において、上記の光ファイバは対象物に対して物理的に関連づけられており、対象物に関連する光ファイバの一部分のひずみは、その部分についての1以上のレイリー散乱パターンを用いたOFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)によって決定される。そして、この決定されたひずみにより、対象物の位置、あるいは形状が決まる(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
さらに、マルチコアファイバによる形状計測に関する精密測定方法および装置が提案されている。この方法および装置では、光学的長さが、マルチコアファイバ上の一点に至るまで、マルチコアファイバ内のどのコアでも検出される。その場所または/および方向指示は、光学長の検出変化を基にした、マルチコアファイバ上の点で決定される。その決定の正確度は、マルチコアファイバ長の0.5%以下である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】淡路 他、「PPP-BOTDA方式光ファイバ計測による超長尺先受け鋼管のひずみ挙動」、土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)、VI-022、pp.43-44
【文献】K.Kishida, et al., ”High resolution fibre-optic monitoring system for the FE Experiment in Mont Terri”, Clay Conference 2015 (6th International conference), Brussel, March 23-26, 2015, P-16-07
【文献】R.Sienko, et al.,“SUSPENSION BRIDGE DEFORMATION MEASUREMENTS WITH DISTRIBUTED FIBER OPTIC SENSORS DFOS”, Hybrid Bridges, Wroclaw(Poland),29-30 November,2018
【文献】K.Nishiguchi, et al., ”Error analysis for 3D shape sensing by fiber-optic distributed sensors”, Proceedings of the 49th ISCIE International Symposium on Stochastic Systems Theory and Its Applications, Hiroshima, Nov.3-4, 2017
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開2014/083989号
【文献】米国特許出願公開第2008/0212082号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0109898号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
非特許文献1、あるいは非特許文献2に用いられている光ファイバセンサは、モジュール化されておらず、現場で製作されているため、多用途へ普及させたい要望に対して課題がある。また、工業製品ではないため、装置としての信頼性が確立されているわけではない。
【0015】
また、非特許文献3に示された光ファイバセンサは、量産品の場合には、ねじり計測ができないという問題がある。また、被測定対象物について、3次元の変位を計測することができないという問題もある。
【0016】
さらに、特許文献2、3に用いられている光ファイバセンサは、短距離での計測精度は確認されているが、長尺度への応用はできていないという問題がある。
【0017】
本願は、上記のような問題点を解決するためになされたものであって、被測定対象物について、対象物が長尺度のものであっても測定が可能で3次元の変位を計測することができ、また、光ファイバセンサのモジュール化が可能で、さらに、量産品の場合にも、ねじり計測が可能な分布型位置検知ロープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願に開示される分布型位置検知ロープは、
物理量を計測する光ファイバと、この光ファイバと間隔を置き、前記光ファイバを挟むように配置された複数の抗張力体と、前記光ファイバおよび前記抗張力体を取り囲んで前記光ファイバと前記抗張力体とを一体化させたシース材と、を有する基本光エレメント、
中心軸体、
前記中心軸体の軸方向に所定のピッチで螺旋状に巻回され、前記中心軸体の軸に直交する断面では、第1の径上に所定の間隔で配置された前記基本光エレメントを持つ第1の光エレメントを有し、前記中心軸体の外側に前記中心軸体と同軸状に設けられた筒状の内部シース層、
前記中心軸体の軸方向に、前記第1の光エレメントとは異なる方向で螺旋状に巻回され、前記中心軸体の軸に直交する断面では、第1の径とは異なる第2の径上に所定の間隔で配置され、かつ、前記第1の光エレメントの前記基本光エレメントとは敷設角が異なる前記基本光エレメントを持つ第2の光エレメントを有し、前記内部シース層の外側に配置され前記中心軸体と同軸状に設けられた筒状の外部シース層、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0019】
本願に開示される分布型位置検知ロープによれば、被測定対象物について、対象物が長尺度のものであっても測定が可能で3次元の変位を計測することができ、また、光ファイバセンサのモジュール化が可能で、さらに、量産品の場合にも、ねじり計測が可能となる分布型位置検知ロープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態1に係る分布型位置検知ロープの光エレメントの一例を説明するための図である。
図2】実施の形態1に係る分布型位置検知ロープの一例を説明するための断面図である。
図3】実施の形態2に係る分布型位置検知ロープの一例を説明するための断面図である。
図4】実施の形態3に係る分布型位置検知システムの一例を説明するための概念図である。
図5】実施の形態3に係る分布型位置検知システムのスキッドドラムの構成を説明するための概念図である。
図6】実施の形態3に係る分布型位置検知システムの初期姿勢計測手法を説明するための図である。
図7】実施の形態3に係る分布型位置検知システムで計測された被測定体のひずみデータの一例を説明するための図である。
図8】実施の形態3に係る分布型位置検知システムで計測された被測定体のねじりデータの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
実施の形態1の分布型位置検知ロープについて、以下図を用いて説明する。
本実施の形態1の分布型位置検知ロープは、社会インフラである橋梁、トンネル、道路などの監視に、光ファイバを用いたシステムを使用することを、その目的の1つとして開発されたものである。そこで、以下この分布型位置検知ロープの構造について説明する。
【0022】
まず、実施の形態1の分布型位置検知ロープ100のセンシング機能を持つ主構成品であって、光ファイバ1を含む構造体である基本光エレメント5について、図1を用いて説明する。
図1において、手前に示した楕円状の面は、この基本光エレメント5の長手方向に直交する断面を示している。なお、この楕円状の面の中央部の上下端には、光ファイバの取り出しを考慮してV字状の切欠き(凹み)が形成され、楕円柱状の長手方向に直交する断面形状で示される外形が眼鏡枠状となっているのが特徴である。
【0023】
この眼鏡枠状の面で見ると、その中央位置には、被測定物のひずみなどの物理量を測定するための、曲げ強度を大きくしたシングルモードの光ファイバ1が配置されている。この光ファイバ1とは間隔を空け、その左右両側位置には、ケブラ繊維(KFRP:Kevlar Fiber Reinforced Plastics)製の抗張力体2が、ほぼ線対称に配置されている。抗張力体2により、予め、光ファイバ1にプレテンションが掛けられている。これにより、光エレメントに予めテンション歪を生じさせることにより、光エレメントに過大な負荷がかかった場合でも断線を防止することができる。また、基本光エレメント5において、光ファイバ1と抗張力体2以外の部分は、難燃材であるFRPE(ここでFRPEはFrame Retardant PE(ポリエチレン)の略)を用いた基本光エレメント用のシース材3によって覆われている。
なお、以下で詳しく説明する分布型位置検知ロープ100のシースと基本光エレメント5との位置ずれを抑制するため、基本光エレメント5のシース表面には、ほぼ等ピッチの間隔で、凹凸形状部4が設けられている(図1では上側の外面部分に当該部分を示す)。
【0024】
次に、分布型位置検知ロープ100について、以下、図2を用いて説明する。
図2に、実施の形態1の分布型位置検知ロープ100の一例を示す。分布型位置検知ロープ100の軸中心部分には、中空のパイプ7が設けられている。その外周に配置された、前記パイプ7の外側の層である筒状の内部シース層8aの内部には、敷設時にかかる張力、あるいは温度変化による伸縮などから光ファイバを保護するため、鋼製の撚り線でできたテンションメンバ6が軸方向に沿って直線状に設置されるとともに、図2に示したように、分布型位置検知ロープ100の軸に直交する断面においては、中心に対して対向した位置に、言い換えると、中心角で180度の角度分だけ離れた位置に、このテンションメンバ6が一対(2個)、互いに向かい合うように配置されている。なお、上記テンションメンバ6は必ずしも撚り線構造である必要はなく、撚っていない構造のものでもよい。
【0025】
このテンションメンバ6の材質を工夫する(例えばKFRPにする)ことで、多少の伸びを加えても、弾性変形を維持することができる効果がある。また、このテンションメンバのヤング率を低下させることができる場合には、分布型位置検知ロープ100の変形に対して光ファイバ1のひずみが出やすくなり、光センサとしての感度アップにつながるという効果もある。
【0026】
また、上記内部シース層8aの外周に配置された、内部シース層8aの外側の層である筒状の内部シース層8bの内部には、その構造が上記基本光エレメント5と全く同じ基本光エレメント5が3個、軸方向に螺旋状に巻回されて設置される(これら3個分の基本光エレメントを総称して第1の光エレメント5aと呼ぶ)とともに、図2に示したように、分布型位置検知ロープ100の軸に直交する断面においては、同径上に予め定めた所定の間隔で配置されている。
【0027】
また、内部シース層8bの外周に配置された、内部シース層8bの外側の層である筒状の外部シース層9の内部には、その構造が上記基本光エレメント5と全く同じ基本光エレメント5が3個、軸方向に螺旋状に巻回されて設置される(これら3個分の基本光エレメントを総称して第2の光エレメント5bと呼ぶ)とともに、図2に示したように、分布型位置検知ロープ100の軸に直交する断面においては、同径上に予め定めた所定の間隔で配置されている。なお、内部シース層8a、8b、および外部シース層9の材質はPVC等で、例えば黒色のものを用いる。
【0028】
また、被測定体のねじりによる歪の検出を可能とするため、第2の光エレメント5bの螺旋状の巻回方向は、第1の光エレメント5aの螺旋状の巻回方向と、互いに逆になるように設置されている。ここで、第1の光エレメントと第2の光エレメントの巻き付けピッチは同一である。なお、これらの光エレメントは、その設定位置が変化しないように、(図示しない)支持体(シース)により支持されている。このような構成とすることにより、被測定体のねじれによる歪を精度よく計測することができ、ひいては、曲げによる歪の検出精度も良くなる。なお、原理的には、上記第1の光エレメントと第2の光エレメント同士で、互いに螺旋状の巻回方向が違っていれば、巻き付けピッチPと軸に直交する断面での設置半径rの比、即ちP/rの値が同一な場合を除き、ねじりによる歪の検出が可能である(実際に、ねじりを検出したデータについては、後程、詳しく説明する)。ここで、比P/rは敷設角θ(特許文献1参照)を用いてtanθ=P/(2πr)の関係があるので、この敷設角が同一でなければ、すなわち敷設角が異なれば、螺旋状の巻回方向が違っている限り、被測定体のねじりによる歪の検出が可能であると言え換えることができる。
【0029】
なお、基本光エレメント5のエレメント用のシース材3の材質と、分布型位置検知ロープ100の内部シース層8a、8b、および外部シース層9の材質とは、互いに異なったものとすることで、基本光エレメント5の取り出しを容易にした。また、分布型位置検知ロープ100の長手方向(軸方向)に沿うケーブルの外周表面の一部に、外部シース層の色とは異なる色(例えば黄色)で着色された色帯10が設けられている。これにより、分布型位置検知ロープを現場で設置する場合に、分布型位置検知ロープ100の設置方向(設置状態)を容易に確認することができる。
以上説明したように基本光エレメントを構成したので、センサとしての光ファイバを基本光エレメントの形態でモジュール化することができ、これにより、分布型位置検知ロープの量産が可能となった。
【0030】
実施の形態2.
実施の形態2の分布型位置検知ロープ101について、以下図3を用いて説明する。本実施の形態2の分布型位置検知ロープ101は、図3に示すように、実施の形態1の分布型位置検知ロープ100と比較して、軸中心部を中実構造にして外径をより小さくしている。これにより、ケーブル曲げ時のファイバ断線が、さらに生じ難くなる効果がある。なお、軸中心部を多層の鋼線による中実構造としたので、実施の形態1で説明したテンションメンバは、本実施の形態2では使用していない。主構成品である基本光エレメント5については、抗張力体の材質(鋼線を使用)、および外径のサイズ(小径化)を除いては実施の形態1とほぼ同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0031】
次に、本実施の形態2の分布型位置検知ロープ101の詳細構造について図3を用いて説明する。図3において、中心軸コア11は、温度計測用のTファイバ12を含む、多層の鋼線で構成されている。なお、ケーブル曲げにより発生するひずみに加え、ケーブルのねじりにより発生するひずみを計測するため、実施の形態1と同様に、第1の光エレメント5aは、内部シース層8b内に、分布型位置検知ロープ101の軸方向に螺旋状に配置され、第2の光エレメント5bは、外部シース層9内に、分布型位置検知ロープ101の軸方向に螺旋状に配置されるとともに、第1の光エレメント5aと第2の光エレメント5bは、互いに逆向きに巻回されている点などは実施の形態1と同様である。
【0032】
以上説明したように、実施の形態1および実施の形態2のいずれの分布型位置検知ロープにおいても、計測用の光ファイバは、その両側に設けられた2つの抗張力体とともに、基本光エレメント5の主要な構成要素として、基本光エレメント5内に配置されているため、量産化も容易である。
【0033】
実施の形態3.
次に、実施の形態1の分布型位置検知ロープ100、あるいは実施の形態2の分布型位置検知ロープ101を実際の現場で使用する際の分布型位置検知システム200について、図4図5等を用いて説明する。
【0034】
図4は、実施の形態1の分布型位置検知ロープ100を例に、現場で使用する際の分布型位置検知システム200について説明するためのモデル図である。図4Aに示したように、分布型位置検知ロープ100で計測された被測定物で発生したひずみ等による後方散乱光による測定データは、分布型位置検知ロープ100の巻き取り用のドラムスキッド14に設けられた、後述する2つの光接続箱(図示せず)を介して、8種類の信号を伝送する8芯の接続ケーブル13に伝送された後、この接続ケーブル13の接続先である被測定体のひずみを計測するための計測器30に送られ、この計測器30により演算処理され、被測定体のひずみが求められる。なお、上記8芯には、実施の形態1で説明した基本光エレメント用、実施の形態2で説明したTファイバ用、および後述するジャイロセンサ用、のものが含まれる。
【0035】
また、被測定体からデータを収集するため、分布型位置検知ロープ100は、坑井の入り口部近くに設置されたハンドル15により、ドラムスキッド14の回転と連動させて、坑井内部に降下され、所定の場所に設置される。この場合において、坑井の入り口部には、分布型位置検知ロープ100を地面に対して正確に設置するため傾斜計31が設置されている。そして、分布型位置検知ロープ100は、分布型位置検知ロープ先端部分であるロープ端部100aから、このロープ端部100aに接続された錘100bを用いて、坑井内部に順次、降下され、所定の位置に設置される。
【0036】
なお、図4Bは、ドラムスキッド14を側面から見た図であり、図に示すように、ドラムスキッド14の回転軸部分の周りの軸方向に、分布型位置検知ロープ100、および接続ケーブル13が巻回されている。
【0037】
図5は、上記ドラムスキッド14の詳細な構造を説明するための説明図である。図5Aにおいて、ドラムスキッド14は、分布型位置検知ロープ100を巻回するための円筒体14a、この円筒体を軸の周りに回転させるための、軸部分で交叉するよう構成された複数の板状支持体14b、ドラムスキッドが回転しないよう静止させておくためのストッパー16、上記軸部分でドラムスキッドを支持するドラムスキッド支持体40、ドラムスキッド14を移動させる際に利用される車輪41、などで構成され、このドラムスキッド14には、分布型位置検知ロープ100で計測された信号を信号伝送用の接続ケーブル13に中継するための2つの光接続箱(成端箱50及び成端箱51の2つ)、この2つの光接続箱間をつなぐジャンパ線17などが設置されている。なお、図5Bは、上記で説明したドラムスキッド14の側面図を示している。この図5Bに示したように、板状支持体14bは、円筒体14aの左右に一対設けられている。なお、この図5Bには、光接続箱など、ドラムスキッド14以外の構成物は図示していない。
【0038】
次に、上記ドラムスキッド14に巻回された分布型位置検知ロープ100を現場に設置して、所望の(所定の、言い換えると、予め定められた)データを計測するために必要となる初期構成について図6を用いて説明する。
図6Aに示したように、ドラムスキッド14の上方部分から引き出された分布型位置検知ロープ100の先端部分は、円の4分の1に相当する円弧状の構成を含むアークスタンド20の外周に沿って、被測定対象である坑井の入り口部分に設けられた分布型位置検知ロープ固定用楔22を通り、坑井中の所定位置まで移動される。移動が終わると、分布型位置検知ロープ100は、移動後の位置が変動しないように、上記円弧状部分に設けられている複数のロープ押さえ21、および上記分布型位置検知ロープ固定用楔により、その位置が固定される。このとき、円弧状部分の内側には、位置計測の際、より正確な位置検出をするためのジャイロセンサ32が配置されている。
【0039】
また、図6Bに示したように、坑井がある地表面との角度位置を微調整するため、坑井の入り口部分に設けられた位置調整のための分布型位置検知ロープ姿勢アジャスター23により、分布型位置検知ロープ100の坑井の入り口部分での設置位置(地表面に対する方向)が微調整される。なお、この図6Bにも示したように、分布型位置検知ロープ100をスムーズに移動させて、所望の(所定の、言い換えると、予め定められた)測定位置に速やかに設置するため、分布型位置検知ロープ100のロープ端部100aには錘100bが接続されている。
【0040】
分布型位置検知ロープ100の初期構成を図6に示したように設定することにより、光エレメントで測定した被測定体のひずみ、温度などの測定した物理データに対応する測定位置をより精度よく同定することが可能となる。
【0041】
以上説明したような分布型位置検知システム200を用いた際に、加わった外力により発生したひずみ量を評価するため、両端(図中の0.4m位置および4.6m位置)で固定支持した全長5mの評価用の分布型位置検知ロープの中央部分に変位を与えたときの分布型位置検知ロープに発生したひずみ量の測定結果を図7Aに示す。
【0042】
図7Aにおいて、横軸は、分布型位置検知ロープの基準位置からの距離(単位:m)を示し、縦軸は、分布型位置検知ロープに発生したひずみ量(単位:με)を示す。また、この図7Aに示された4つの曲線はそれぞれ、図7Bの基本光エレメント5a-1、5b-4、5b-5、5b-6に対応する計測データである。
【0043】
すなわち、図7Aの実線で示した曲線は、(内部シース層8bに配置された)基本光エレメント5a-1の計測データであり、図7Aの破線で示した曲線は、(外部シース層9に配置された)基本光エレメント5b-4の計測データであり、図7Aの点線で示した曲線は、(外部シース層9に配置された)基本光エレメント5b-5の計測データであり、図7Aの一点鎖線で示した曲線は、(外部シース層9に配置された)基本光エレメント5b-6の計測データにそれぞれ対応している。
【0044】
また、図7Aにおいて、距離0.4mから距離2mの前半区間と、距離3mから距離4.6mの後半区間における外部シース層における基本光エレメント5b-4、5b-5、5b-6の3データは、それぞれ、ほぼ同一の値のひずみ分布を示し、一方で、上記2つの区間における内部シース層8bに配置された基本光エレメント5a-1のひずみの値と、外部シース層に配置された基本光エレメント5b-4、5b-5、5b-6のひずみの値の関係は、互いに逆の関係になっていることがわかる。すなわち、上記評価用分布型位置検知ロープの前半区間と後半区間との間で「ねじり」が生じていることを示している。
【0045】
このことは、設置シース層、および螺旋の巻付角が互いに異なる、外部シース層の3個の基本光エレメントと内部シース層の少なくとも1個の基本光エレメントにより、上記評価用分布型位置検知ロープに発生している「ねじり」を検出できることを示している。さらに詳しくは、上記の逆のケースである内部シース層の3個の基本光エレメントと外部シース層の少なくとも1個の基本光エレメントの組み合わせであっても良い。
そこで、図7Aのこれら4個のデータを基に、分布型位置検知システムの計測器30を用いて、評価用分布型位置検知ロープに生じている「ねじり」を演算で求める。求めた結果を図8に示す。
【0046】
図8は、分布型位置検知システムの計測器30を用いて求めた、評価用分布型位置検知ロープに生じた「ロープの位置(距離で示されている)」と「ねじり角」の関係を示す図である。
図8において、評価用分布型位置検知ロープの両端の固定支持点(距離0.4mと距離4.6mの点。図8に示すように、これらの点では、ねじれ角の値はゼロを示している。)間において、分布型位置検知ロープのねじり角は、概略、山形で変化していることがわかる。
【0047】
つまり、設置シース層、および螺旋の巻付角が互いに異なる3個の基本光エレメントと1個の基本光エレメントを組み合わせて用いることにより、分布型位置検知ロープに生じた「ねじり」が計測可能となることがわかる。
【0048】
以上のように、本分布型位置検知ロープを使用して、これを被測定体に固定することなどにより、被測定体に生じているひずみ計測を通じて、被測定体に生じている「ねじり」を計測することが可能であることが判った。
なお、上記においては、内部シース層の基本光エレメントは1個用いて「ねじり」を計測する例をしめしたが、これに限らず、内部シース層の基本光エレメントの使用していない2本の基本光エレメント(のうち少なくとも1本)を使用すれば、さらに精度の良い「ねじり」計測が可能である。
【0049】
また、外部シース層に配置された基本光エレメント5b-4、5b-5、5b-6の3個のひずみのデータから、分布型位置検知ロープの特定の断面(断面の座標をx、yとするとx方向とy方向で定まる面)、すなわち、分布型位置検知ロープの長手方向に沿う各断面に生じている曲げの量を評価することができる。
以上により、本分布型位置検知システムにより、被測定体の3次元の変形の計測が可能であることが判る。
【0050】
なお、本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。具体的には、実施の形態1、2で示した色帯10はその一例であり、この色帯が無い場合でも、それぞれの実施の形態において、本願の目的は達成可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 光ファイバ、2 抗張力体、3 シース材、4 凹凸形状部、5、5a-1、5b-4、5b-5、5b-6 基本光エレメント、5a 第1の光エレメント、5b 第2の光エレメント、6 テンションメンバ、7 パイプ、8a、8b 内部シース層、9 外部シース層、10 色帯、11 中心軸コア、12 Tファイバ、13 接続ケーブル、14 ドラムスキッド、14a 円筒体、14b 板状支持体、15 ハンドル、16 ストッパー、17 ジャンパ線、20 アークスタンド、21 ロープ押さえ、22 分布型位置検知ロープ固定用楔、23 分布型位置検知ロープ姿勢アジャスター、30 計測器、31 傾斜計、32 ジャイロセンサ、40 ドラムスキッド支持体、41 車輪、50、51 成端箱、100、101 分布型位置検知ロープ、100a ロープ端部、100b 錘、200 分布型位置検知システム
図1
図2
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図4
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図6
図7
図8