(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】修飾蛋白質の生産装置及び生産方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/18 20060101AFI20240308BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20240308BHJP
G01N 30/44 20060101ALI20240308BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20240308BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20240308BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C07K1/18
G01N30/06 E
G01N30/44
G01N30/86 E
G01N30/88 J
G01N30/02 B
(21)【出願番号】P 2020037151
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2022-12-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」「バイオ医薬品の高度製造技術の開発/先端的バイオ製造技術開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】吉本 則子
(72)【発明者】
【氏名】山本 修一
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/097122(WO,A1)
【文献】Bioconjugate Chem.,2007年,Vol.18,p.1728-1734,DOI:10.1021/bc060245m
【文献】Biotechnology and Bioengineering,2016年,Vol.113, No.8,p.1711-1718,DOI:10.1002/bit25932
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/16
G01N 30/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口と出口を有し蛋白質と
両親媒性高分子ポリエチレングリコールとを内部で
固相反応によって修飾反応させ修飾蛋白質の生成をする
イオン交換クロマトカラムと、
非修飾蛋白質を前記
イオン交換クロマトカラムに供給する非修飾蛋白質供給部と、
両親媒性高分子ポリエチレングリコールを前記
イオン交換クロマトカラムに供給する修飾体供給部と、
塩含有液を前記
イオン交換クロマトカラムに供給する塩含有液供給部と、
塩含有液の塩濃度を制御する塩濃度制御部と、
前記
イオン交換クロマトカラム内の蛋白質と修飾反応せずに前記出口から排出される
両親媒性高分子ポリエチレングリコールを回収する修飾体回収部と、
前記出口から排出される
複数種の修飾蛋白質を回収する修飾蛋白質回収部と、
前記出口から排出される非修飾蛋白質を前記非
修飾蛋白質供給部に還流させて回収する非修飾蛋白質還流部を備えている
ことを特徴とする修飾蛋白質の生産装置。
【請求項2】
前記出口から排出される排出物の吸光度を検出する吸光度検出部を備え、
検出された吸光度に基づいて、前記修飾蛋白質回収部及び前記非修飾蛋白質還流部の作動を制御する制御部を備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の修飾蛋白質の生産装置。
【請求項3】
前記吸光度検出部は、前記出口から排出される
複数種の修飾蛋白質及び非修飾蛋白質の吸光度を検出し、
前記制御部は、
前記
複数種の修飾蛋白質及び前記非修飾蛋白質の各蛋白質毎の前記吸光度がピークとなる溶出塩濃度を予備実験に基づいて演算する溶出塩濃度演算部を有し、
前記溶出塩濃度演算部によって演算された各蛋白質毎の前記溶出塩濃度に対応する前記
イオン交換クロマトカラムへの塩含有液供給量に基づいて、前記修飾蛋白質回収部及び前記非修飾蛋白質還流部の動作を制御する
ことを特徴とする請求項2に記載の修飾蛋白質の生産装置。
【請求項4】
前記制御部は、
あらかじめ前記
複数種の修飾蛋白質及び前記非修飾蛋白質を前記
イオン交換クロマトカラムの内部に供給してから前記塩含有液により溶出させる予備実験で得られる所定の定数に基づき、前記
複数種の修飾蛋白質及び前記非修飾蛋白質の前記吸光度がピークとなる時における溶出塩濃度を演算する溶出塩濃度演算部と、
前記溶出塩濃度を含む関数であって前記
イオン交換クロマトカラムの液相中における前記
複数種の修飾蛋白質又は前記非修飾蛋白質のいずれかの成分の濃度に対する前記液相中の成分と同じ成分の固相中の濃度の比である分配係数に基づいて、前記
複数種の修飾蛋白質又は前記非修飾蛋白質が
前記出口に達する塩含有液供給量を演算する溶出量演算部を有し、
前記塩含有液供給量に基づいて前記修飾蛋白質回収部及び前記非修飾蛋白質還流部の作動を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の修飾蛋白質の生産装置。
【請求項5】
回収した非修飾蛋白質を含む塩含有溶液の塩濃度を低減する塩濃度低減部を備えている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の修飾蛋白質の生産装置。
【請求項6】
入口と出口を有する
イオン交換クロマトカラム内に非修飾蛋白質を供給する非修飾蛋白質供給工程と、
両親媒性高分子ポリエチレングリコールを前記入口から供給することによって非修飾蛋白質と
両親媒性高分子ポリエチレングリコールとを
固相反応によって修飾反応させ修飾蛋白質を生成する修飾反応工程と、
前記修飾反応工程中に前記
イオン交換クロマトカラム内の蛋白質と修飾反応せずに前記出口から排出される
両親媒性高分子ポリエチレングリコールを回収する修飾体回収工程と、
両親媒性高分子ポリエチレングリコールの供給を停止した後、第1濃度の塩含有液の供給を開始するとともに塩濃度を前記第1濃度よりも高い第2濃度まで高めて前記入口から供給することによって前記出口から排出される
複数種の修飾蛋白質を回収する修飾蛋白質回収工程と、
前記第2濃度よりも高濃度の塩含有液を前記入口から供給することによって前記出口から排出される非修飾蛋白質を還流させて回収する非修飾蛋白質還流工程と、
回収した非修飾蛋白質を還流させ前記入口から供給する再供給工程を含む
ことを特徴とする修飾蛋白質の生産方法。
【請求項7】
請求項2に係る修飾蛋白質の生産装置における前記修飾蛋白質回収部及び前記非修飾蛋白質還流部の動作を制御するための制御プログラムであって、
コンピュータに、
前記出口から排出される
複数種の修飾蛋白質及び非修飾蛋白質の各蛋白質毎の吸光度がピークとなる溶出塩濃度を予備実験に基づいて演算させ、
演算された各蛋白質毎の前記溶出塩濃度に対応する前記
イオン交換クロマトカラムへの塩含有液供給量に基づいて、前記制御部に対して前記修飾蛋白質回収部及び前記非修飾蛋白質還流部の動作制御を実行させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一つのカラム内で蛋白質の修飾反応と分離を連続して行い、未反応の蛋白質を再利用することのできる修飾蛋白質の生産装置及び生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体分子である蛋白質に合成化合物を修飾した修飾蛋白質は、生体安定性・分子特異性の高い優れた医薬品として機能する。例えば、両親媒性高分子ポリエチレングリコール(PEG)を修飾したPEG化蛋白質は、PEG付加による水和半径の増加とともに生体半減期が長くなる。また、抗体蛋白質に毒性の高い薬物を結合した抗体-薬物複合体(ADCs)は、特定の細胞のみで薬理活性を発揮することが可能となる。
しかし、蛋白質の修飾反応では複数の修飾位置・修飾数異性体(以下「修飾異性体」という。)が副生する。このため、修飾反応後に複数の精製ステップが必要である。蛋白質医薬品の精製にはクロマトグラフィー分離が用いられており、修飾蛋白質の精製にも応用されるが、精製操作を終えた蛋白質を反応槽に導入し、その後、修飾異性体の精製を行う一連のプロセスの中には精製操作の重複がある。
そこで、本発明者らは、非特許文献1(Biotechnology Journal, 2013, 8, 801-810)において、クロマトカラムを蛋白質修飾反応用の流通型反応器として利用可能であることを報告し、非特許文献2(Biotechnology Journal, 2018, 13, 1700738)において、クロマトカラムを蛋白質修飾反応用の流通型反応器として利用し、さらに反応条件を蛋白質の溶出条件に設定することで蛋白質を修飾反応させると同時に修飾蛋白質を分離させることが可能であることを報告しており、非特許文献3(Biotechnology and Bioengineering, Vol.113, No.8, 2016, 1711-1718)では、クロマトカラムを蛋白質修飾反応用の流通型反応器として利用し、修飾蛋白質と修飾されていない蛋白質(以下「非修飾蛋白質」という。)を分離するとともに、非修飾蛋白質を再利用する図が報告されている。
【0003】
また、特許文献1(特表2018-524146号公報)記載の発明は、複数のクロマトカラムからバイオ医薬プロダクト、生物学的プロダクト、高分子プロダクトを連続的に溶出する方法を提供しており、特許文献2(特表2018-519498号公報)記載の発明は、少なくとも2つの単位操作を含む、流体中の生体分子を分離するための液体クロマトグラフィーシステム、装置及び方法であって、第1単位操作がマルチカラムクロマトグラフィーのステップであり、第2単位操作が生体分子または流体を改変するステップで構成され、生体分子の連続的または半連続的な処理を可能にするものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Noriko Yoshimoto, Yu Isakari, Daisuke Itoh, Shuichi Yamamoto,“PEG chain length impacts yield of solid‐phase protein PEGylation and efficiency of PEGylated protein separation by ion‐exchange chromatography: Insights of mechanistic models”, Biotechnology Journal, 2013, 8, 801-810
【文献】Yu Isakari, Yuhi Kishi, Noriko Yoshimoto, Shuichi Yamamoto, Ales Podgornik,“Reaction‐Mediated Desorption of Macromolecules: Novel Phenomenon Enabling Simultaneous Reaction and Separation”, Biotechnology Journal, 2018, 13, 1700738
【文献】David Pfister, Massimo Morbidelli, “Integrated Process for High Conversion and High Yield Protein PEGylation”, Biotechnology and Bioengineering, Vol.113, No.8, 2016, 1711-1718
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2018-524146号公報
【文献】特表2018-519498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1及び2に記載されている技術は、クロマトカラムを蛋白質修飾反応用の流通型反応器として利用しているが、非特許文献1では連続的な修飾反応や分離を行っておらず、非特許文献2では修飾反応と分離が同時に達成可能ではあるものの、その達成条件は限られており汎用性に乏しいものであった。
また、非特許文献3に記載されている技術では、官能基を有するいわゆる活性化PEGによる蛋白質の修飾反応は液体の反応槽で行い、液相反応によって生成するPEG化蛋白質のPEG結合数の選択性に乏しい上に、その後のPEG化蛋白質の分離はイオン交換クロマトカラムで行われるため、反応と分離を別々に行わなければならない。そして図面ではクロマトカラムから排出された蛋白質が回収されて反応槽に戻されていることが図示されているが、連続操作を行っているものではない。さらに仮に蛋白質の再利用のための循環ラインを設けて連続操作を行うにしても、クロマトカラム出口に設けた吸光度検出部から受信される排出成分のピークを監視員が監視してバルブを切り替える場合は、人為ミスにより修飾蛋白質や非修飾蛋白質に異物が混合し、廃棄するか再分離が必要となるおそれがあった。さらに吸光度を検出してバルブを切り替える自動制御を行う場合は、バルブ切り替えを行うことによって修飾蛋白質や非修飾蛋白質がクロマトカラムから溶出されていないにもかかわらず吸光度のピークが発現する、いわゆるゴーストピークが現れることがあるため、上記の人為ミスと同様の問題を生じるおそれがあった。
そして、非特許文献1~2で利用している固相反応場における蛋白質修飾反応は、修飾位置や修飾数の制御を行うことができるので、目的とする修飾蛋白質を得ることができるが、非修飾蛋白質が残留し易く、反応収率が低いという問題があり、非特許文献3、特許文献1及び2で利用している液相反応場における蛋白質修飾反応は、修飾位置の制御を行うことができず、目的とする修飾蛋白質だけでなく目的としない修飾異性体が含まれる修飾蛋白質の混合物が生成されてしまうという問題があった。
【0007】
この発明は、これらの問題に鑑み、固相反応によって目的とする修飾蛋白質を高い収率で得られるようにすることを第1の目的とし、非修飾蛋白質の再利用における修飾反応及び分離プロセスにおける誤操作や誤制御を防止し、生産性を向上させることを第2の目的とする修飾蛋白質の生産装置等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明の修飾蛋白質の生産装置は、
入口と出口を有し蛋白質と両親媒性高分子ポリエチレングリコールとを内部で固相反応によって修飾反応させ修飾蛋白質の生成をするイオン交換クロマトカラムと、
非修飾蛋白質を前記イオン交換クロマトカラムに供給する非修飾蛋白質供給部と、
両親媒性高分子ポリエチレングリコールを前記イオン交換クロマトカラムに供給する修飾体供給部と、
塩含有液を前記イオン交換クロマトカラムに供給する塩含有液供給部と、
塩含有液の塩濃度を制御する塩濃度制御部と、
前記イオン交換クロマトカラム内の蛋白質と修飾反応せずに前記出口から排出される両親媒性高分子ポリエチレングリコールを回収する修飾体回収部と、
前記出口から排出される複数種の修飾蛋白質を回収する修飾蛋白質回収部と、
前記出口から排出される非修飾蛋白質を前記非修飾蛋白質供給部に還流させて回収する非修飾蛋白質還流部を備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の修飾蛋白質の生産装置において、
前記出口から排出される排出物の吸光度を検出する吸光度検出部を備え、
検出された吸光度に基づいて、前記修飾蛋白質回収部及び前記非修飾蛋白質還流部の作動を制御する制御部を備えていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の修飾蛋白質の生産装置において、
前記吸光度検出部は、前記出口から排出される複数種の修飾蛋白質及び非修飾蛋白質の吸光度を検出し、
前記制御部は、
前記複数種の修飾蛋白質及び前記非修飾蛋白質の各蛋白質毎の前記吸光度がピークとなる溶出塩濃度を予備実験に基づいて演算する溶出塩濃度演算部を有し、
前記溶出塩濃度演算部によって演算された各蛋白質毎の前記溶出塩濃度に対応する前記イオン交換クロマトカラムへの塩含有液供給量に基づいて、前記修飾蛋白質回収部及び前記非修飾蛋白質還流部の動作を制御することを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の修飾蛋白質の生産装置において、
前記制御部は、
あらかじめ前記複数種の修飾蛋白質及び前記非修飾蛋白質を前記イオン交換クロマトカラムの内部に供給してから前記塩含有液により溶出させる予備実験で得られる所定の定数に基づき、前記複数種の修飾蛋白質及び前記非修飾蛋白質の前記吸光度がピークとなる時における溶出塩濃度を演算する溶出塩濃度演算部と、
前記溶出塩濃度を含む関数であって前記イオン交換クロマトカラムの液相中における前記複数種の修飾蛋白質又は前記非修飾蛋白質のいずれかの成分の濃度に対する前記液相中の成分と同じ成分の固相中の濃度の比である分配係数に基づいて、前記複数種の修飾蛋白質又は前記非修飾蛋白質が前記出口に達する塩含有液供給量を演算する溶出量演算部を有し、
前記塩含有液供給量に基づいて前記修飾蛋白質回収部及び前記非修飾蛋白質還流部の作動を制御することを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の修飾蛋白質の生産装置において、
回収した非修飾蛋白質を含む塩含有溶液の塩濃度を低減する塩濃度低減部を備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明の修飾蛋白質の生産方法は、
入口と出口を有するイオン交換クロマトカラム内に非修飾蛋白質を供給する非修飾蛋白質供給工程と、
両親媒性高分子ポリエチレングリコールを前記入口から供給することによって非修飾蛋白質と両親媒性高分子ポリエチレングリコールとを固相反応によって修飾反応させ修飾蛋白質を生成する修飾反応工程と、
前記修飾反応工程中に前記イオン交換クロマトカラム内の蛋白質と修飾反応せずに前記出口から排出される両親媒性高分子ポリエチレングリコールを回収する修飾体回収工程と、
両親媒性高分子ポリエチレングリコールの供給を停止した後、第1濃度の塩含有液の供給を開始するとともに塩濃度を前記第1濃度よりも高い第2濃度まで高めて前記入口から供給することによって前記出口から排出される複数種の修飾蛋白質を回収する修飾蛋白質回収工程と、
前記第2濃度よりも高濃度の塩含有液を前記入口から供給することによって前記出口から排出される非修飾蛋白質を還流させて回収する非修飾蛋白質還流工程と、
回収した非修飾蛋白質を還流させ前記入口から供給する再供給工程を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項2に係る修飾蛋白質の生産装置における前記修飾蛋白質回収部及び前記非修飾蛋白質還流部の動作を制御するための制御プログラムであって、
コンピュータに、
前記出口から排出される複数種の修飾蛋白質及び非修飾蛋白質の各蛋白質毎の吸光度がピークとなる溶出塩濃度を予備実験に基づいて演算させ、
演算された各蛋白質毎の前記溶出塩濃度に対応する前記イオン交換クロマトカラムへの塩含有液供給量に基づいて、前記制御部に対して前記修飾蛋白質回収部及び前記非修飾蛋白質還流部の動作制御を実行させるための制御プログラムである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の修飾蛋白質の生産装置及び請求項6に係る発明の修飾蛋白質の生産方法によれば、入口と出口を有するイオン交換クロマトカラム内に非修飾蛋白質を供給し、両親媒性高分子ポリエチレングリコールを入口から供給することによって非修飾蛋白質と両親媒性高分子ポリエチレングリコールとを固相反応によって修飾反応させ、修飾反応工程中に蛋白質と修飾反応せずに出口から排出される両親媒性高分子ポリエチレングリコールを回収し、両親媒性高分子ポリエチレングリコールの供給を停止した後に第1濃度の塩含有液の供給を開始するとともに塩濃度を第1濃度よりも高い第2濃度まで高めて入口から供給することによって複数種の修飾蛋白質を回収し、第2濃度よりも高濃度の塩含有液を入口から供給することによって非修飾蛋白質を還流させて回収し、回収した非修飾蛋白質を還流させ入口から再供給することができ、修飾反応させた後にイオン交換クロマトカラム内に残留している非修飾蛋白質を廃棄することなく再度両親媒性高分子ポリエチレングリコールと修飾反応させて分離することができるので、目的とする修飾蛋白質が高い収率で得られる。
【0016】
請求項2に係る発明の修飾蛋白質の生産装置によれば、請求項1に係る発明の効果に加え、出口から排出される排出物の吸光度を検出し、検出された吸光度に基づいて、修飾蛋白質回収部及び非修飾蛋白質還流部の作動を制御し、また、修飾蛋白質を回収するタイミング及び非修飾蛋白質を還流させて回収するタイミングを制御することができるので、修飾蛋白質の生産に係る操作を自動化でき、誤操作をなくすとともに、生産性が格段に向上する。
【0017】
請求項3に係る発明の修飾蛋白質の生産装置及び請求項7に係る発明の制御プログラムによれば、請求項2に係る発明の効果に加え、出口から排出される複数種の修飾蛋白質及び非修飾蛋白質の各蛋白質毎の吸光度がピークとなる溶出塩濃度を予備実験に基づいて演算し、演算された各蛋白質毎の溶出塩濃度に対応するイオン交換クロマトカラムへの塩含有液供給量に基づいて修飾蛋白質回収部及び非修飾蛋白質還流部の動作を制御することができるので、ゴーストピークの影響を受けることなく複数種の修飾蛋白質を回収するタイミング及び非修飾蛋白質を還流させて回収するタイミングを制御することができる。
【0018】
請求項4に係る発明の修飾蛋白質の生産装置によれば、請求項3に係る発明の効果に加え、溶出塩濃度を含む関数であってイオン交換クロマトカラムの液相中における修飾蛋白質又は非修飾蛋白質のいずれかの成分の濃度に対する液相中の成分と同じ成分の固相中の濃度の比である分配係数に基づいて、複数種の修飾蛋白質又は非修飾蛋白質がイオン交換クロマトカラムの出口に達する塩含有液供給量を演算するので、より精度良く修飾蛋白質回収部及び非修飾蛋白質還流部の作動を制御することができる。
【0019】
請求項5に係る発明の修飾蛋白質の生産装置によれば、請求項1から請求項4のいずれか1項に係る発明の効果に加え、回収した非修飾蛋白質を含む塩含有溶液の塩濃度を低減してクロマトカラムに供給することができるので、目的とする修飾蛋白質がさらに高い収率で得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態1に係る修飾蛋白質の生産装置の概念図。
【
図2】修飾蛋白質を生産するプロセスを示すフローチャート。
【
図3】修飾蛋白質の主な生産プロセスにおける生産装置の状態を示す図。
【
図4】修飾蛋白質の生産プロセスにおける主要操作の開始から停止の区間を示した図。
【
図5】必要な塩含有液の供給量を予測するための予備実験の内容及び処理手順を示すフロー図。
【
図6】実施形態2に係る修飾蛋白質の生産装置の概念図。
【
図7】液相反応から得られた蛋白質等のIECカラム排出時の吸光度及び塩濃度の変化を示すグラフ。
【
図8】塩濃度勾配と蛋白質等の溶出量がピークとなる塩濃度との関係を示す両対数の曲線を示すグラフ。
【
図9】溶出実験結果に基づき計算から求めた塩濃度Iと分配係数Kの関係を示すグラフ。
【
図10】溶出実験結果及び数値計算の結果から求めた塩濃度勾配溶出法による蛋白質等の移動距離を示すグラフ。
【
図11】各プロセスにおける排出物の吸光度と塩濃度の変化を示すグラフ。
【
図12】修飾反応の回数と修飾蛋白質の選択性及び収率の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明の実施形態は以下に述べる態様に限定されるものではない。
【0022】
〔実施形態1〕
図1は実施形態1に係る修飾蛋白質の生産装置の概念図である。
実施形態1に係る修飾蛋白質の生産装置は、
図1の概念図に示すように、以下の構成を備えている。
(a)入口1と出口2を有し蛋白質と修飾体を内部で修飾反応させるクロマトカラム3を備えている。
(b)非修飾蛋白質を含む溶液を供給する非修飾蛋白質供給部4を備えている。非修飾蛋白質供給部4は供給部をもつタンクであればよく、GE Healthcare Life Sciences製のスーパーループ(Superloop)を用いることができる。
(c)修飾体を含む修飾体溶液を供給する修飾体供給部5を備えている。修飾体供給部5としては、配管、タンクを用いることができ、タンクとしては前述のスーパーループを用いることができる。修飾体供給部は修飾体の分解防止のため冷却可能な冷却装置をさらに備えていることが好ましい。
(d)塩を含む塩含有液を供給する塩含有液供給部6を備えている。塩含有液供給部6は純水または塩濃度の相対的に低い液が供給される第1濃度の塩含有液の貯槽と、塩濃度が低濃度塩含有液よりも高い濃度の第3濃度の塩含有液の貯槽と、第1濃度の塩含有液及び第3濃度の塩含有液をそれぞれ生産装置の系内へ送出する2台のポンプを有している。第1濃度の塩含有液と第3濃度の塩含有液とはそれぞれ別々に系内に供給される他、必要に応じて混合されて所定濃度にして系内に供給される。
(e)塩含有液の塩濃度を制御する塩濃度制御部7を備えている。塩濃度制御部7は、第1濃度の塩含有液、第3濃度の塩含有液のそれぞれの貯槽から系内へ供給するラインのバルブの開閉もしくは開度またはポンプの起動停止若しくは回転数を制御してこれらの塩含有液の供給量を制御する。塩濃度制御部7の供給量制御を後述の制御部18から行うことができるようになっている。
(f)クロマトカラム3の出口2から排出される排出物の吸光度(典型的には波長が280nmの紫外線吸光度)及び電気伝導度を検出し、吸光度に基づく吸光度信号及び電気伝導度に基づく塩濃度信号を送信する吸光度等検出部8を備えている。
(g)クロマトカラム3内の蛋白質と修飾反応せずに出口2から排出される修飾体を回収する修飾体回収部9を備えている。
(h)出口2から排出される修飾蛋白質を回収する修飾蛋白質回収部10を備えている。
(i)出口2から排出される非修飾蛋白質を非修飾蛋白質供給部4に還流させ回収する非修飾蛋白質還流部11を備えている。
(j)還流させた非修飾蛋白質を含む塩含有液のうち非修飾蛋白質供給部4を通過した塩含有液を受け入れる廃棄部13を備えている。
(k)塩含有液供給部6から供給される塩含有液及び非修飾蛋白質還流部11から還流される非修飾蛋白質を含む溶液の通過経路を切り替える第1バルブ14を備えている。
(l)回収した非修飾蛋白質をクロマトカラム3に供給する際に塩濃度を低減する塩濃度低減部としての脱塩カラム15を備えている。脱塩カラム15としてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)のカラムを備えることができる。
(m)非修飾蛋白質供給部4及び塩含有液供給部6側から供給される非修飾蛋白質や塩含有液の通過経路を切り替える第2バルブ16を備えている。
(n)クロマトカラム3から排出される排出物の通過経路を切り替える第3バルブ17を備えている。
(о)非修飾蛋白質、修飾体及び塩含有液の各溶液について、クロマトカラム3等系内への供給動作、すなわち供給開始、供給停止、塩含有液の濃度変更等を制御する制御部18を備えている。また、制御部18は、中央演算処理部を備えている。中央演算処理部は、修飾蛋白質及び非修飾蛋白質の各蛋白質毎の前記吸光度がピークとなる溶出塩濃度を後述の予備実験に基づき演算をする溶出塩濃度演算部を有しており、溶出塩濃度に達する前記クロマトカラムへの塩含有液供給量に基づいて修飾蛋白質回収部及び非修飾蛋白質還流部の動作を制御する。また、制御部18は、これらの演算部から得られる数値を記憶させ読み出し可能な記憶部をさらに備えている。
そのほかに制御部18は各溶液の供給量を供給容積又は経路の容量から逆算した供給時間を記憶部に記憶させることにより制御することもできる。また、各溶液の供給の開始、停止及び供給量調節の動作を塩濃度制御部7へ信号を送信して実行することができる。さらに、制御部18は吸光度等検出部8からの吸光度信号及び塩濃度信号を受信してモニタリングしつつ、受信信号を記憶部に記憶するようにしてもよい。
【0023】
図2は固相反応によって修飾蛋白質を生産するプロセスを示すフローチャートであり、
図3は修飾蛋白質の主な生産プロセスにおける生産装置の状態を示す図である。
なお、
図3において太線で示す部分は、各プロセスにおいて塩含有液等が通過する経路を示している。また、
図3においては
図1における制御部からの制御信号を示す破線を省略したものを図示した。
図2及び
図3に示すように、実施形態1においては、以下のプロセスによって修飾蛋白質が生産される。
(1)非修飾蛋白質のクロマトカラムへの供給
第3バルブを修飾体回収部側に設定しておく。第1バルブ14において、塩含有液供給部6から供給される塩含有液の通過経路を非修飾蛋白質供給部4の一方側(
図3では上側)とするとともに、非修飾蛋白質供給部4の他方側(
図3では下側)から排出される非修飾蛋白質を含む溶液及び塩含有液の通過経路を第2バルブ16側とし、第2バルブ16において、非修飾蛋白質を含む溶液の通過経路を脱塩カラム15の一方側(
図3では左側)とするとともに、脱塩カラム15の他方側(
図3では右側)から排出される非修飾蛋白質を含む溶液の通過経路をクロマトカラム3の入口1側として、非修飾蛋白質を含む溶液とともに第1塩濃度の塩含有液をクロマトカラム3の内部に供給開始する。(
図2のプロセス1及び
図3左上の生産プロセス(I)を参照)。このように脱塩カラム15に通液させることにより非修飾蛋白質の溶液の塩濃度を低下させてクロマトカラム3の内部に供給する。
この塩濃度の低減によってクロマトカラム3内部の固相の上流側から下流側にわたり広範囲に蛋白質が分散されにくく狭い範囲に吸着する。そのためクロマトカラム3からの分離成分が混合されて排出されることを抑制できより確実に分離できる。
この非修飾蛋白質供給終了後、クロマトカラム3の内部に第1濃度の塩含有液を供給し、クロマトカラム3内の固相である担体を平衡化するのが好ましい。
図4は、本実施形態の修飾蛋白質の生産プロセスにおける主要操作の区間を各溶液の供給液量(溶出液量)で示した図である。蛋白質としては限定するものではないが、リゾチーム、ウシ血清アルブミン、DNAなどの核酸などが挙げられる。塩含有液の塩の成分としては限定されるものではないが、塩化ナトリウム(NaCl),塩化カリウム(KCl)などを用いることができる。塩含有液は、緩衝液などを含んでいるものが好ましい。
(2)修飾体のクロマトカラムへの供給による蛋白質修飾反応
第3バルブ17において、修飾体溶液の通過経路は修飾体回収部9側のまま第1バルブ14において、塩含有液供給部6から供給される塩含有液の通過経路を第2バルブ16側とし、第2バルブ16において、塩含有液の通過経路を修飾体供給部5の一方側(
図3では左側)とするとともに、修飾体供給部5の他方側(
図3では右側)から排出される修飾体を含む溶液の通過経路をクロマトカラム3の入口1側として、修飾体を含む溶液をクロマトカラム3の内部に供給開始し(
図2のプロセス2及び
図3右上の生産プロセス(II)を参照)、クロマトカラム3内での蛋白質修飾反応を進める(
図2のプロセス2及び
図4を参照)。その後、第2バルブ16をクロマトカラム入口1側として修飾体溶液のクロマトカラム3の内部への供給を停止する。その後、第1バルブ14及び第3バルブ17の状態を変えずに、第1濃度の塩含有液をクロマトカラム3の内部に供給する。これにより、クロマトカラム内及び配管内の修飾体溶液は第1濃度の塩含有液によって洗浄される。
修飾体溶液の供給量はあらかじめ反応に必要とされる量以上の所定量あればよく、所定量を記憶部に記憶し制御部18によって供給制御することができる。修飾体溶液は、アミノ基と反応するNHS基を有するポリエチレングリコール、いわゆる活性化PEGを含む溶液が好ましく、重量平均分子量は4,000~20,000(g/mol)の範囲であればよいが、5,000~10,000(g/mol)が好ましい。活性化PEGは低温ほど活性が維持されるため供給前に10℃以下、好ましくは5℃以下に冷却される。PEG溶液は低温のままクロマトカラム3に供給されてもよいが、供給直前に室温程度に戻してから供給されるほうが反応促進上好ましい。
【0024】
(3)塩含有液の塩濃度を漸増させるクロマトカラムへの供給による修飾蛋白質回収
第3バルブ17において、塩含有液の通過経路を修飾蛋白質回収部10側として、塩濃度制御部7により塩含有液の塩濃度を第1濃度から後述の蛋白質等の溶出予測手法により求めた第2濃度まで徐々に上げながら、塩含有液を所定量クロマトカラム3の内部へ供給開始する(
図2のプロセス3及び
図4を参照)。この操作によって修飾蛋白質がクロマトカラムから排出され回収される(
図3右下の生産プロセス(III)を参照)。この後、第1濃度の塩含有液によってクロマトカラム3内及び配管内が洗浄される。
(4)塩濃度をさらに上昇させた塩含有液のクロマトカラムへの供給による非修飾蛋白質回収
第3バルブ17において、塩含有液の通過経路を非修飾蛋白質還流部11側とし、また、第1バルブ14において、非修飾蛋白質還流部11から送られてくる塩含有液を非修飾蛋白質供給部4の方側(
図3では下側)に送る通過経路を加えるとともに、非修飾蛋白質供給部4の一方側(
図3では上側)から排出される塩含有液を廃棄部13側に送る通過経路を加えて、非修飾蛋白質を非修飾蛋白質供給部4に回収する(
図2のプロセス4、
図4及び
図3左下の生産プロセス(IV)を参照)。
この非修飾蛋白質回収は塩濃度制御部7により塩含有液の塩濃度を第2濃度から第3濃度(
図4参照)まで高めて行なう。その後、第3バルブ17において、塩含有液の通過経路を修飾体回収部9側として、排出される塩含有液を回収し、その後塩濃度が第1濃度の塩含有液を供給してクロマトカラム3内や配管内を洗浄する。
第3濃度までの塩濃度の上昇は、速やかに行うため、第1濃度の塩含有液を停止して行う。なお、非修飾蛋白質が高濃度塩含有液とともに回収される場合は後述の塩濃度低減操作をする。このため後述の蛋白質等の溶出予測手法から求めた溶出ピークが生じる塩濃度に達してから速やかに非修飾蛋白質の回収を終了する。具体的には非修飾蛋白質の回収が終了したら第3バルブ17を直ちに修飾体回収部9側へ切り替える。実用的には吸光度のピークが観測される場合には、吸光度のピークの裾野からピークに達するまでの塩含有液供給量を記憶し、その供給量の2倍の量以上に達したら非修飾蛋白質の回収を終了するようにしてもよい。必要な場合は、予備実験によって吸光度のピークの上昇及びその後の下降の挙動を確認後、非修飾蛋白質の回収を終了させるタイミング、すなわち塩含有液供給量を決定してもよい。
【0025】
(5)非修飾蛋白質溶液の塩濃度低減後のクロマトカラムへの供給
非修飾蛋白質供給部4に蓄えた非修飾蛋白質を、上記(1)のプロセス(
図2のプロセス5及び
図3左上の生産プロセス(I)を参照)により脱塩カラム15で塩濃度を低減した後、非修飾蛋白質を含む溶液をクロマトカラム3の内部に供給開始する(
図2のプロセス5、プロセス1及び
図3左上の生産プロセス(I)を参照)。このクロマトカラム3への非修飾蛋白質の供給終了後、さらに第1濃度の塩含有液を供給し、クロマトカラム3の固相である担体を平衡化する(
図4参照)。
なお、このプロセス(
図2のプロセス5)からは、2回目の修飾反応のプロセス開始となり、このサイクルを複数回繰り返して実施する。
【0026】
(蛋白質等の溶出予測手法)
本実施形態では制御部が所定の吸光度信号を受信して非修飾蛋白質の信号のピークが検出されるまでの塩含有液の供給量を記憶して、記憶された供給量の供給を経てから必要なバルブの操作による非修飾蛋白質の回収を行う制御が可能であることを述べた。このような制御は修飾蛋白質の回収におけるバルブの操作を行う制御にも同様に応用できる。しかし、バルブ操作の際に修飾蛋白質および非修飾蛋白質(以下「蛋白質等」という。)が吸光度等検出部8を流れていないのにかかわらずあたかもこれらの吸光度を示すピークが出現する、いわゆるゴーストピークが見られることがあった。このような場合には、吸光度信号にもとづいたバルブ制御を行っても、誤操作となってしまいせっかくの回収物に他の不要な成分が混入するなどの不都合が生じるおそれがあった。こうした誤操作になるきっかけとしてはバルブ制御のほかにポンプの起動や停止でも生じるおそれもあった
そこで以下では、蛋白質等の種類毎の溶出ピークとなる塩濃度を予備実験に基づく数値計算を含む演算により求め、その塩濃度に達する塩含有液の供給量に達してから蛋白質等の回収の操作を行う手法を述べる。クロマトカラムの固相である担体に吸着した修飾蛋白質や非修飾蛋白質の吸着帯が塩含有液によってクロマトカラム出口へ移動して溶出されるタイミング、すなわちこれらの蛋白質等の吸光度がピークを迎えるタイミングをあらかじめ蛋白質等の種類毎、具体的には修飾蛋白質の種類毎と非修飾蛋白質とに分けて求めておき、クロマトカラム3内に塩含有液を供給しその供給量に応じてバルブ操作を行うシーケンス制御を実行するための溶出予測手法を述べる。
【0027】
蛋白質等の吸光度がピークを迎えるタイミング、すなわち蛋白質等の吸着帯がカラム出口に達するときの塩濃度及び必要な塩含有液の供給量の予測は以下の手順で行うことができる。
【0028】
<イオン交換体上での分配係数>
クロマトカラム3はイオン交換クロマトグラフィーカラムを前提とする。イオン交換体上でのB個(Bは吸着サイト数)のイオンSと交換される蛋白質等Pのイオン交換反応は数式1で表される。
【数1】
ここで、上付きバーは固定相、すなわち担体に吸着した濃度を示す。
上式により平衡定数Keは以下のように導かれる。
【数2】
活量係数を一定とし、1と仮定した場合、次式が導かれる。
【数3】
ここでCqは固定相の表面に吸着した蛋白質等の濃度、Cは移動相、すなわち液相の蛋白質等の濃度である。Iは移動相中の塩濃度、Iqは固定相の塩濃度(つまりイオン交換体のイオン交換基に結合した塩の濃度)である。
固定相中の全濃度はイオン交換容量Λに等しい。よってIqとC
Pは次式で表される。
【数4】
蛋白質等の分子量が大きくなるほど、蛋白質分子は複数のイオン交換基を覆い隠し、蛋白質等に結合しないイオン交換基が存在するはずである。この検討事項に基づき、覆い隠された電荷もしくは立体障害S
Fが立体的物質作用(SMA)方程式としてCramerらによって導出された(Clayton A. Brooks Steven M. Cramer,’’ Steric mass‐action ion exchange: Displacement profiles and induced salt gradients”, AIChE J.,vol.38, pp.1969, 1992)。ここで、S
Fは蛋白質等に立体的に隠されたイオン交換サイト数の平均である。従って、固定相の合計のイオン交換容量は、
【数5】
【数6】
となる。ここでの蛋白質等の濃度は低く、Λ=Iqである。分配係数Kq=Cq/Cは次のようになる。
【数7】
吸着サイト数BはSMAモデルで特有の電荷として参照される。
【0029】
<塩濃度に基づく分配係数の導出式>
固定相は細孔を有する多孔性微粒子群であり次のように示すことができる。
【数8】
ここでε
Pは多孔性微粒子の空隙率、C
Pは細孔内の蛋白質等の濃度、ρ
Pは粒子密度、qは単位重量あたりの多孔性微粒子対する蛋白質等の重量である。C
PとC
qは次のようになる。
【数9】
【数10】
従ってC
Sは、
【数11】
【数12】
となる。
ここでKはクロマトグラフィーにおける溶出塩濃度を含む関数であってクロマトカラムの液相中における蛋白質等の濃度に対する固相中における同じ蛋白質等の濃度の比である分配係数、K
SECは分子サイズに基づいた微粒子細孔への蛋白質等の分配のされやすさを示す分配係数である。
数式7の右辺をK
pqに代入すると、次の方程式が導かれる。
【数13】
ここでAは比例定数である。
【0030】
<蛋白質等の溶出がピークとなる塩濃度の演算式>
クロマトカラム内の蛋白質等の吸着帯の移動は次式で表される。
【数14】
ここでHは相率(相体積比)であり数式15で表される。
【数15】
ここでuは移動相速度u=F
v/(A
Cε)、F
vは体積流量、A
Cはクロマトカラム断面積であり、またV
tカラム体積、V
0はカラム空隙体積、εはカラム空隙率である。
時間tとカラム入り口から出口方向への移動距離zの関数として直線的な塩濃度勾配で塩含有液をカラムに供給した場合の移動相中の塩濃度Iは、次式で表される。
【数16】
ここでgは塩濃度勾配g=(I
F-I
0)/V
g、V
gは勾配に必要な溶液量、すなわち塩濃度勾配を開始するときの初期塩濃度I
0から目的とする最終塩濃度I
Fに達するまでにクロマトカラムに供給した塩含有液量、K’は塩の分配係数(定数)である。次に数学的操作を行う。
【数17】
ここでGは空隙体積で規格化した塩濃度勾配G=V
0gであり、Zはカラム長さである。
上式より以下の式が得られる。
【数18】
上式をカラム入口(z = 0)においてI = I
0、カラム出口(z = Z)においてI = I
Rの条件で積分すると、
【数19】
が得られる。ここで、I
Rは溶出する塩含有液の塩濃度(溶出塩濃度)である。数式13に示されるように、規格化した塩濃度勾配をGHと溶出塩濃度I
Rの関係式である数式20が成立する。
【数20】
pHを一定にしてクロマトカラムに供給する移動相の塩濃度を徐々に上げることで蛋白質等をクロマトカラムから溶出させる塩濃度勾配溶出法による予備実験で得られる蛋白質等の吸光度がピークになる溶出塩濃度(I
R)を横軸に、GHを縦軸にとり両対数グラフ上にプロットする。塩濃度勾配を少なくとも異なる4条件で行われ、それらの4プロット以上のプロットに対して最小二乗法によって直線を引く。このグラフをGH-I
R曲線と呼ぶ。数式20に示されるようにGH-I
R曲線の直線の傾きおよび切片から吸着サイト数B及び比例定数Aの各定数が求められる。
A及びBを求めたのち、それぞれの塩濃度勾配gにおける蛋白質等のK
Rを算出した。K
Rは数式12及び数式13により求められ、この結果が次の数式21で用いられる。
【0031】
<クロマトカラムから蛋白質等が溶出する塩含有液供給量の予測>
次にクロマトグラフィーの分配モデルに基づき、単位時間あたりのカラム内における蛋白質等の移動速度を数式21に示す。
【数21】
ここでzはクロマトカラム内移動距離、tは時間、uは移動相速度である。なお、K
SECは、蛋白質等がすべて溶出する一定濃度の塩含有液共存下でのイソクラティック溶出法により求められる。
一方、溶出塩濃度Iは時間の関数として次の数式22から求まる。
【数22】
数式21のIを数式22に変換したうえで、蛋白質等毎の上記A、B及びKsecの値、クロマトカラムへの塩含有液の供給流量、使用クロマトカラムの長さ、内径及び空隙率を用い数式21を数値計算で積分し、ある時間tにおけるクロマトカラム内の移動相である蛋白質等の移動距離zを算出する。数値計算は典型的にはルンゲクッタ法を用いて行う。移動距離zがクロマトカラム長さを超えた時点で蛋白質等の溶出がピークとなる溶出時間となり、その塩濃度Iの理論値が求められる。以上の結果蛋白質等がクロマトカラム出口から溶出する時間が求められ、クロマトカラムの容積等から溶出に必要な塩含有液の供給量を計算によって予測できる。
図5は、蛋白質等の溶出に必要な塩含有液の供給量を予測するための予備実験の内容及び処理手順を示すフロー図である。
【0032】
〔実施形態2〕
図6は実施形態2に係る修飾蛋白質の生産装置の概念図である。
本実施形態に係る修飾蛋白質の生産装置は、
図6の概念図に示すように、回収した非修飾蛋白質をクロマトカラム3に供給する際に脱塩する脱塩カラム15を第1バルブ16とクロマトカラム3の入口1との間に備えていない点のみで、実施形態1に係る修飾蛋白質の生産装置と相違している。そのため、実施形態2に係る修飾蛋白質の生産装置の構成についての説明は省略する。
塩濃度低減部としての脱塩カラムがない代わりに非修飾蛋白質を含む溶液の脱塩ではなく塩濃度を希釈して低下させるだけの希釈部を設けることができる。この希釈部として非修飾蛋白質供給部4を兼用することができるので、この場合の希釈手法について実施形態1との相違点だけを述べる。実施形態1のプロセス(1)に替えて非修飾蛋白質の溶液を直接クロマトカラム3の入口へ供給する。以下プロセスとは実施形態1で述べたプロセスをいう。その後、プロセス(2)~(5)を行うが、プロセス(5)の際に非修飾蛋白質を非修飾蛋白質供給部4に回収後、カラム平衡化とともに第1濃度の塩含有液を非修飾蛋白質供給部4に注入させておくことで希釈が行われる。
その後プロセス(1)へ戻り、これら本実施形態のプロセスの操作を繰り返す。このようにすることで、クロマトカラム3の固相内で非修飾蛋白質は流れ方向に分散されるのを抑制することができる。
【0033】
(実施形態の他の変形例)
実施形態1及び2に係る修飾蛋白質の生産装置及び生産方法に関する変形例を列記する。
(01)実施形態1及び2では、
図2に示すプロセス3において、塩含有液の塩濃度を第1濃度から第2濃度まで徐々に上昇させながら供給し、プロセス4において、溶液の塩濃度を第2濃度から第3濃度まで上昇させるために第1濃度の塩含有液の供給を停止して第3濃度の塩含有液だけを供給したが、塩濃度の上昇率は第1濃度から第2濃度までと、第2濃度から第3濃度までとにおいて、同じにしても良い。また、非修飾蛋白質の溶出において第1塩濃度の塩含有液ともに第3濃度の塩含有液を供給し、第2濃度より高く第3濃度より低い濃度で供給してもよい。
(02)実施形態1及び2において、塩濃度勾配溶出法による蛋白質等の溶出における塩含有液の塩濃度を第1濃度から第2濃度まで上昇させる間に濃度変化の勾配を途中で変えてもよい。蛋白質への修飾体の修飾数が異なるものあるいは修飾異性体が生成する場合で、これら各々成分がカラム出口の溶出ピークとなる時間、すなわち溶出速度が異なる場合には、それらの分離を行いやすくするために濃度変化の勾配を小さくするとよい。濃度勾配を途中で変える塩濃度勾配溶出法によって蛋白質等の溶出ピークを得るタイミングをあらかじめ把握することでシーケンス制御が可能となる。
(03)実施形態1及び2において、ゴーストピークの出現のタイミングによっては回収物のコンタミのおそれが小さいと見込まれる場合は、制御部18に上記吸光度等検出部8からの吸光度信号を所定値で受信してから吸光度のピーク値までの上昇時間を記憶部に記憶させ、修飾体の供給、非修飾蛋白質の回収に要する時間をその上昇時間の所定倍数時間に設定して制御させるようにしてもよい。同様に塩含有液供給による配管洗浄等に要する時間をあらかじめ設定して記憶部に記憶させ、その時間だけ洗浄等するなどの制御をしてもよい。
(04)実施形態1及び2において各種溶液の供給の制御は、供給量のほかに、クロマトカラムや配管の断面積や容積から逆算した蛋白質等の移動距離や塩含有液の供給時間に基づいて制御してもよい。
(05)実施形態1及び2において必要に応じてカラム出口に流量計を設けてカラムへの蛋白質等や修飾体の試薬の供給量を監視することができる。また、各溶液を所定容積供給する際に、制御部18にかかる流量計の出力を送信し、カラムへの各溶液の供給量を制御してもよい。
(06)実施形態1および2において非修飾蛋白質を含む溶液として塩濃度が概ね0.5M(Mはmol/Lを指す。以下同じ。)以下の低濃度で供給量も少ない場合は、必ずしも塩濃度低減部を通液させなくてもよい。特にサイクル1の初回の蛋白質が購入時のものなどバージンのものを使用する場合はその溶液の塩濃度によっては塩濃度低減を不要としてもよい。
(07)実施形態1および2において非修飾蛋白質を繰り返しクロマトカラムへ再供給する際に、非修飾蛋白質とは別にバージンの蛋白質を非修飾蛋白質供給部に補給しておいてもよい。
(08)実施形態2において、非修飾蛋白質供給部を希釈部として用いる代わりに長めもしくは十分な容積の配管をクロマトカラム3の入口1の上流側の系内に設けて、その配管へ希釈用の比較的低濃度の塩含有液あらかじめ滞留させておき、高濃度塩含有液を含む非修飾蛋白質を混合させて希釈するようにしてもよい。また、上記配管を設けるのと同様に系内に希釈用の配管とともにまたは希釈用配管とは別に貯槽を設けてもよい。さらに希釈時の混合を促進させるため配管内に混合用のステータや貯槽内に攪拌装置を設けてもよい。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕
実施形態1の
図1に基づきプロセス(1)~(5)に従って修飾蛋白質の生産実験を行った方法及び結果を以下に述べる。
【0035】
<比例定数A及び吸着サイト数Bの決定>
生産実験の前に、クロマトカラムからの蛋白質等の溶出がピークとなる塩濃度を計算で求めるために、まず数式20の比例定数A及び吸着サイト数Bの決定をするため
図1の生産装置の一部を用いてクロマトカラムによる塩濃度勾配溶出実験を行った。
使用蛋白質、使用試薬、使用カラム、計測装置の条件(試験条件No.1)を以下に示す。
-試験条件No.1-
・蛋白質(非修飾蛋白質)
Sigma-Aldrich社製Hen egg white lysozyme(以下「Lysozyme」という。)
・修飾体
日油(株)製 ME-050CS(重量平均分子量5000g/mol)
・カラム供給用の塩含有液
第1濃度用:0.01Mリン酸緩衝液と0.03M NaClの混合液(pH7)
第3濃度用:0.01Mリン酸緩衝液と1M NaClの混合液(pH7)
・陽イオン交換クロマトカラムNo.1(以下「IECカラムNo.1」という)
REPRIGEN社製 Atoll SPHP、カラム担体cross-linked agarose 充填カラム長さ5cm、カラム内径0.5cm、カラム空隙率0.35
・導電率計及び制御装置等
吸光度(UV)及び塩濃度を計測する導電率計並びに各溶液の供給及び供給量の制御は、GE Healthcare Life Sciences製自動液体クロマトグラフィーAKTA pure25に付属の機器及びソフトウエアを使用。
・非修飾蛋白質供給装置
GE Healthcare Life Sciences製 Superloop 容量150mL
【0036】
以下液相反応により修飾蛋白質を得てIECカラムNo.1を用いて塩濃度勾配溶出法による蛋白質等の溶出を行った詳細を述べる。
試験管内で10mgの Lysozymeに10mMのリン酸ナトリウム緩衝液と30mMのNaCl(pH7.0)との混合液を加えて、室温で保管されていたME-050CSをLysozymeに対して6倍のモル数を混合し、25℃で30min反応させて修飾蛋白質を得た。この液相反応において得られた修飾蛋白質とLysozymeの混合溶液をIECカラムNo.1内に供給したのち、pH7に保持した塩含有液を流量1.0mL/minでNaCl濃度を0.03Mから直線的に上昇させて溶出させる塩濃度勾配溶出を行った。その結果を
図7に示す。修飾蛋白質としてこれらの溶出ピークはLysozyme にPEGの分子が1つだけ結合した3つの修飾異性体(PEG1,PEG2及びPEG3)、PEGの分子が2つ結合した2つの修飾異性体(PEG4,PEG5)、PEGの分子が3つ結合した修飾異性体(PEG6)の6種と同定された。そこで液相反応で得られた溶液について塩濃度勾配溶出法を異なる塩濃度勾配で4条件行った。
図8は上記溶出実験結果から得た蛋白質等の溶出量がピークとなる塩濃度(NaCl)I
Rと規格化した塩濃度勾配GHを示す両対数の曲線(GH-I
R曲線)である。この図中最も右側の曲線上にある4つのプロットがLysozymeであり、その左側にPEG1~6が番号順に並んでいる。7つの各曲線は各蛋白質等の4つのプロットについて最小二乗法により引いた直線である。これらの結果から、求めた吸着サイト数BおよびパラメーターAの各定数を表1に示す。
【0037】
【0038】
<塩濃度に対応する分配係数の決定>
図9は、上記溶出実験結果に基づき計算から求めた溶出塩濃度Iと分配係数Kの関係を示すグラフである。この結果を数式21の数値計算で用いた。またK
SECの定数値は試験条件No.1において1M NaClの塩含有液共存下でのイソクラティック溶出法により各蛋白質等について求め表1に示した。
【0039】
<蛋白質等がクロマトカラムから溶出する塩含有液供給量の算出>
図10は、上記溶出実験結果で求められた表1の各数値、IECカラムNo.1へ供給される塩含有液流量1ml/min、同カラムの長さ、内径及びカラム空隙率を用いて数式21をルンゲクッタ法による数値計算によって求めた結果から描いた塩濃度と蛋白質等の移動距離を示すグラフである。同図にLysozyme及びPEG1~4について時間と移動距離の関係の計算結果も示した。この結果からIECカラムNo.1出口における溶出がピークとなるために必要な塩含有液の供給量を求めた。
【0040】
<修飾蛋白質の生産及び分離試験とその結果>
以上の結果から求められた各蛋白質等の溶出に必要な塩含有塩の供給量、その他IECカラムへの非修飾蛋白質の供給量、修飾体の供給量、系内の洗浄や置換に必要な塩含有液の供給量についても吸光度及び伝導率の計測値あらかじめ制御部の記憶部に設定しシーケンス制御を行う生産試験を4回繰り返した。
修飾蛋白質の生産および分離試験の条件を試験条件No.2として以下に示す。この試験では使用蛋白質、使用試薬、計測装置は試験条件No.1と同一であり異なるのは次のようにIECカラムNo.2及び脱塩カラムを使用したことであるため、相違する試験条件だけを示す。
-試験条件No.2-
・IECカラムNo.2
GE Healthcare Life Sciences製 SP Sepharose High Performance カラム担体cross-linked agarose、充填カラム長さ5cm、カラム内径0.9cm 、カラム空隙率0.36
・脱塩カラム
GE Healthcare Life Sciences製 HiTrap Desalting、カラム担体cross-linked agarose、充填カラム長さ2.5cm、カラム内径1.6cm
・修飾体供給装置
ループ配管を使用(5℃のME-050CSを室温ループ配管へ供給)
【0041】
修飾異性体の組成比、転化率および活性化PEGの加水分解の半減期に基づき、陽イオン交換クロマトカラムの担体に吸着したLysozymeのモル濃度とのME-050CSのモル濃度の比(反応仕込み比)、反応時間はそれぞれ1:6、4時間とした。また、陽イオン交換クロマトカラムへ供給したME-050CSの供給モル数はLysozyme供給モル数の24倍とし、ME-050CS2mLを流速0.017mL/分及び室温で供給して修飾反応を実施した。修飾体溶液供給後、修飾蛋白質を溶出させるため塩含有液を1mL/min及び室温で供給しながら塩濃度勾配溶出法による溶出を行った。修飾体の温度は反応開始直前まで5℃に冷却してあった。蛋白質の修飾反応の条件は、液相反応において最適化したものに倣い決定した。なお、塩含有液の第1濃度から第2濃度までの調整は第1濃度用及び第3濃度用の塩含有液を混合させて行い、第2濃度から第3濃度までの調整は第1濃度用の塩含有液の供給を停止して、第3濃度用の塩含有液だけを供給して行った。
脱塩カラムを使用した「脱塩カラム有」の場合と脱塩カラムを使用せず希釈による「脱塩カラム無」の場合のシーケンス制御による操作名とIECカラムNo.2、すなわち第3バルブからの排出先を表2に示す。同表でIECカラム洗浄は第1濃度用の塩含有液の供給による洗浄である。また各操作名の項目で括弧書きの101~105の数字は、後述の
図11の図中に示した各区間を示す。
【0042】
【表2】
図11の「脱塩カラム有」のグラフは本実施例の各プロセスにおけるクロマトカラムからの排出物の吸光度と塩濃度の変化を示すグラフである。
なお、
図11の上部に示した数字は実施形態1における修飾蛋白質の生産工程の流れを示しており、1が上記(2)のプロセスに、2が上記(3)のプロセスに、3が上記(4)のプロセスに、4が上記(5)後半のプロセスに対応している。
【0043】
以下、各生産工程における吸光度と塩濃度の変化について説明する。
生産工程1:上記(2)のプロセスにおいては修飾反応を行っているが、修飾体の一部がIECカラムを素通りするため、修飾体による大きな吸収が見られる。また、修飾体供給とともに供給される塩含有液の塩濃度は第1濃度でありほぼ0.03Mとなっている。
生産工程2:上記(3)のプロセスで溶液の塩濃度を0.03Mから第2濃度の0.25Mまで連続的に増加させるため、塩濃度は0.03Mから0.25Mに徐々に上がっている。塩濃度が上がるにつれて生成したPEG化したLysozyme(修飾蛋白質)の溶出が起こり、その修飾蛋白質による吸収が見られる。
生産工程3:上記(4)のプロセスにおいては非修飾蛋白質の溶出が起こるため、その非修飾蛋白質による大きな吸収が見られるが、非修飾蛋白質の溶出が終了すると吸光度はほぼ0となる。また、上記(4)のプロセスにおいて塩濃度が第3濃度(1M)の塩含有液が供給されるので、塩濃度は0.25Mから1Mに急激に上昇し、その後上記(4)のプロセスにおいて塩濃度0.03Mの塩含有液が供給されるので、塩濃度は1Mからほぼ0.03Mに急激に下降している。
生産工程4:上記(5)のプロセスにおいては、非修飾蛋白質等の溶出は起こらないので、吸光度はほぼ0となっている。また、同プロセスでは塩濃度0.03Mの塩含有液が供給され続けるので、塩濃度はほぼ0.03MでIECカラムの固相が平衡化され、その後回収した非修飾蛋白質を脱塩部へ供給するが、脱塩部や配管に残留した塩分が排出され一時期において塩濃度が上昇していると考えられる。
【0044】
〔実施例2〕
本実施例においては、脱塩カラムを設けない実施形態2の生産装置を用い、希釈部としての非修飾蛋白質供給部に第1濃度の塩濃度の塩含有液を希釈液として注入しておき、IECカラムへ供給した点が実施例1の実験装置及びその方法が異なる。
図11の「脱塩カラム無」のグラフは本実施例の各プロセスにおけるクロマトカラムからの排出物の吸光度と塩濃度の変化を示した。生産工程1~4の区分は実施例1と同様である。本実施例では生産工程1~3まではほぼ実施例1と同様の溶出挙動を示した。生産工程4終了前に塩濃度の小さな溶出ピークが出たのは、Lysozyme溶液が第1濃度の塩含有液に置換されていなかったためと考えられる。
【0045】
図12は、実施例1及び2に係る生産工程による修飾反応の回数、修飾蛋白質の選択性(目的とする修飾蛋白質(PEG1)生成量(W)と、目的とする修飾蛋白質(PEG1)生成量(W)及びその修飾蛋白質のすべての異性体の生成量(X)の合計量(W+X)との比率)並びに修飾蛋白質の収率(目的とする修飾蛋白質生成量(W)と、非修飾蛋白質回収量(R)及びすべての修飾蛋白質生成量(Y)の合計量(R+Y)との比率)の変化を示すグラフである。比率の計算は、目的とする各成分の吸光度の曲線を積分して得られた吸光面積を、全ての成分の吸光面積の合計値で割って求めた。
【0046】
図12のグラフから分かるように、修飾蛋白質の選択性は各回ともほぼ同じであり、脱塩カラムの有無による影響もほとんどない。
また、修飾蛋白質の収率は、修飾反応の回数2回までは脱塩カラムの有無による影響を受けていないが、修飾反応の回数が多くなるにつれて脱塩カラム有の方が収率はわずかに大きいものの大差ない。
表3は、実施例1及び2における未反応のLysozyme及び生成物のPEG1~6の吸光面積をそれぞれ4サイクル分合計算したときの未反応のLysozyme及び生成物のPEG1~6の存在比、すなわち収率をそれぞれ示している。また、同表には、実施例1で述べた比例定数A及び吸着サイト数Bの決定時の試験条件で、液相反応の時間を30分、480分とした場合について得られた蛋白質等をIECカラムに供給して得られた溶出成分からの収率をそれぞれ比較例1、2として示した。
この結果から、未反応のLysozymeについては実施例1と比較例1、2を比べても収率に大差はなく同等に近いレベルに達しており、繰り返し蛋白質を反応させる効果が見られる。一方、実施例1、2とも修飾蛋白質であるPEG1~3、すなわちPEG分子が1つだけ修飾さえた生成物の収率が高く、比較例はその収率が極めて低いので本発明の選択性が高かった。
【0047】
【符号の説明】
【0048】
1 入口 2 出口 3 クロマトカラム
4 非修飾蛋白質供給部 5 修飾体供給部 6 溶液供給部
7 塩濃度制御部 8 吸光度等検出部 9 修飾体回収部
10 修飾蛋白質回収部 11 非修飾蛋白質還流部
13 廃棄部 14 第1バルブ 15 脱塩カラム
16 第2バルブ 17 第3バルブ 18 制御部