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特許7450268がん幹細胞マーカー及びがん幹細胞標的薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】がん幹細胞マーカー及びがん幹細胞標的薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/713 20060101AFI20240308BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240308BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20240308BHJP
   A61K 48/00 20060101ALN20240308BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALN20240308BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALN20240308BHJP
【FI】
A61K31/713
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P43/00 121
G01N33/574 B
G01N33/574 D
A61K45/00
A61K48/00
A61K31/7105
A61K31/7088
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020537086
(86)(22)【出願日】2019-08-13
(86)【国際出願番号】 JP2019031894
(87)【国際公開番号】W WO2020036183
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2018152526
(32)【優先日】2018-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02449
(73)【特許権者】
【識別番号】517111918
【氏名又は名称】株式会社キャンサーステムテック
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】森 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩文
(72)【発明者】
【氏名】呉 しん
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】RIDGWAY LD. et al.,Modulation of GEF-H1 Induced Signaling by Heparanase in Brain Metastatic Melanoma Cells.,Journal of Cellular Biochemistry,2010年,Vol.111,p.1299-1309
【文献】BRULE S. et al.,Biochimica et Biophysica Acta,2009年,Vol.1790,p.1643-1650
【文献】Neoplasia,2016年,Vol.18, No.5,pp.294-306
【文献】MCDONALD AI. et al.,Journal of Investigative Medicine,2012年,Vol.60, No.1,p.232 380
【文献】日本臨床,2008年,Vol,66, Suppl.6,pp.162-166
【文献】最新医学,2004年,Vol.59, No.8,pp.1734-1741
【文献】日薬理誌,2016年,Vol.147,pp.168-174
【文献】YAKUGAKU ZASSHI,2017年,Vol.137, No.7,pp.817-822
【文献】LABROPOULOU VT. et al.,Expression of Syndecan-4 and Correlation with Metastatic Potential in Testicular Germ Cell Tumours.,BioMed Research International,2013年,Article ID 214864
【文献】TANG MR. et al.,Identification of CD24 as a marker for tumorigenesis of melanoma.,Onco Targets and Therapy,2018年06月,Vol.11,p.3401-3406
【文献】DOU J. et al.,Isolation and Identification of Cancer Stem-Like Cells from Murine Melanoma Cell Lines.,Cellular & Molecular Immunology,2007年,Vol.4, No.6,p.467-472
【文献】KIM S. et al.,FGFR2 Promotes Breast Tumorigenicity through Maintenance of Breast Tumor-Initiating Cells.,PLOS ONE,2013年,Vol.8, No.1,e51671
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C07K 16/00-16/46
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SDC4の発現又は機能を抑制する物質を含有してなる、抗がん剤であって、SDC4の発現又は機能を抑制する物質が、
(a)SDC4遺伝子の転写産物に対するsiRNA、又は
(b)SDC4に対する抗体
であ
ここで、前記siRNAが、配列番号1で表されるヌクレオチド配列中、ヌクレオチド番号475~606で示される領域内の、連続する少なくとも15個のヌクレオチドからなる配列と相補的なヌクレオチド配列を含む核酸もしくはその前駆体である、剤。
【請求項2】
siRNAが、配列番号3および4、配列番号5および6、配列番号7および8、又は配列番号11および12で示されるヌクレオチド配列を含むか、それからなる核酸である、請求項に記載の剤。
【請求項3】
他の抗腫瘍薬と組み合わせてなる、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
他の抗腫瘍薬が、化学療法薬、Wnt阻害薬及びmTOR阻害薬から選択される1種以上である、請求項に記載の剤であり、
ここで、Wnt阻害薬がFH535、PNU及びIWRからなる群から選択される1種以上であり、mTOR阻害薬がラパマイシンである、剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん幹細胞マーカーであり、且つがん幹細胞特異的な創薬標的としてのSyndecan4(SDC4)、並びにそれを指標とするがん幹細胞の検出方法及びそれを標的とするがん幹細胞特異的抗がん薬に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん幹細胞と呼ばれるがん細胞のサブセットのみががん組織を再構築することができ、再発と転移の両方を引き起こすことがわかってきている。がん幹細胞は、分裂のスピードが遅いため抗がん剤や放射線治療に対して抵抗性を示し、様々な種類のがんの予後不良の要因であると考えられている。逆に言えば、がん幹細胞を叩けば根治も期待できるため、がん幹細胞を同定するためのマーカー探索や、同定されたがん幹細胞の特性解析が盛んに行われている。
【0003】
がん細胞の中には、プロテアソーム活性のきわめて低下した低代謝細胞集団が存在し、種々のがんにおいて低プロテアソーム活性細胞とがん幹細胞との関連が報告されている(例えば、非特許文献1、2)。本発明者らは、膵臓癌細胞株Panc-1に、低代謝を可視化すべく蛍光標識したオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)-degronを導入した。プロテアソーム活性の低下した細胞はODC-degronを分解できず、蛍光タンパク質(ZsGreen)が蓄積して可視化される。本発明者らは、蛍光を発する細胞(dZsG+)をソーティングして、該細胞を全体の0.06%から81.18%にまで濃縮した。dZsG+細胞はスフェア形成能を有し、抗がん剤に抵抗性を示し、既知のがん幹細胞マーカーであるDclk1やCD44v9を高発現し、非対称性分裂を示すなど、がん幹細胞に特徴的な種々の性質が確認された。
【0004】
非癌幹細胞(dZsG-)と癌幹細胞(dZsG+)とを、それぞれ150個免疫不全マウスに皮下移植したところ、6週間後に、すべてのマウスにおいて、非癌幹細胞は腫瘍形成しなかったのに対し、癌幹細胞は腫瘍を形成することができた。非癌幹細胞と癌幹細胞のそれぞれについて、CD44v9を高発現するもの(dZsG-/CD44v9high及びdZsG+/CD44v9high)を150個免疫不全マウスに皮下移植したところ、やはり、すべてのマウスにおいて、dZsG-/CD44v9highは腫瘍形成しなかったのに対し、dZsG+/CD44v9highは腫瘍を形成した。
【0005】
dZsG-/CD44v9-を106個免疫不全マウスに移植して腫瘍を形成させたもの(腫瘍群1)、dZsG+/CD44v9-及びdZsG+/CD44v9highを移植したもの(いずれも150個の移植で腫瘍形成できた;それぞれ腫瘍群3及び腫瘍群4)について、次世代シーケンサーを用いて遺伝子発現解析を行った結果、主成分解析により三者間で遺伝子的な相違があることが分かった。かかる遺伝的相違につき、分子間ネットワーク・パスウェイ解析を用いて分子機能的な意味づけを行った結果、腫瘍群1に対して腫瘍群4で活性化されたパスウェイには、腫瘍組織の増殖・進行、腫瘍細胞の転移・分化・増殖に関わるものが認められたが、腫瘍群1に対して腫瘍群3で活性化されたパスウェイには腫瘍関連のものはなかった。従って、腫瘍群4はきわめて活発な腫瘍細胞集団であることが明らかとなった。
【0006】
そこで、腫瘍群4の腫瘍を単細胞化し細胞株を樹立した(super Panc-1 CSC)。このsuper Panc-1 CSCからdZsG+/CD44v9highの集団をソーティングし、1個ずつ免疫不全マウスに移植したところ、45日目に腫瘍形成を認め、その後2週間の間に爆発的な腫瘍増殖が見られた。このように、本発明者らは、単一細胞から腫瘍形成能を有する癌幹細胞を得ることに成功している。
【0007】
CD44のスプライシングバリアントであるCD44v9は、大腸がん、膵臓がん、乳がん、胃がん、前立腺がん等の種々のがんにおけるがん幹細胞マーカーとして知られるが、単に標識としてあるだけでなく、がん組織の増大や治療抵抗性の獲得にも関与していることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Vlashi, E.et al., J. Natl. Cancer Inst., 101: 350-359 (2009)
【文献】Adikrisna, R. et al., Gastroenterology, 143: 234-245 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、単にがん幹細胞を特異的に検出できるマーカー分子となるだけでなく、がん幹細胞を死滅させる治療標的ともなり得る新規マーカー分子を提供することであり、以て、がん幹細胞の新規な検出方法、並びにがん幹細胞標的治療薬等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ヘパラン硫酸プロテオグリカンであるSyndecanファミリーに属するSyndecan-4(SDC4)が、膵臓癌の非癌幹細胞であるPanc-1 dZsG-/CD44v9-よりも癌幹細胞であるPanc-1 dZsG+/CD44v9highにおいて発現が高いことを見出した。106個の非癌幹細胞の移植によりできた腫瘍からの培養細胞と、150個の癌幹細胞の移植によりできた腫瘍からの培養細胞につきウェスタンブロット解析を行ったところ、前者よりも後者において、SDC4及びCD44v9の両方の発現が高く、両者はタンパク質的に連動していることが明らかとなった。細胞免疫染色においても、両者の共局在が確認された。
【0011】
本発明者らが樹立した膵臓癌幹細胞super Panc-1 CSCからdZsG+/CD44v9high及びdZsG+/SDC4highの細胞をそれぞれソーティングし、免疫不全マウスに1個ずつ移植して造腫瘍能を比較したところ、後者の方が造腫瘍率が高く、SDC4は、がん幹細胞マーカーとしてCD44v9より優れていることがわかった。さらに、dZsG+/SDC4highの細胞を、SDC4のリガンドであるFGF2とともに移植すると、造腫瘍率が約2倍に上昇したことから、SDC4のシグナリングががん幹細胞特性に寄与していることが示唆された。dZsG+/CD44v9high及びdZsG+/SDC4highの1個の細胞から生じた腫瘍を組織蛍光染色したところ、いずれにおいてもCD44v9陽性細胞はほとんどなかったのに対し、SDC4陽性細胞は高頻度に観察された。
【0012】
super Panc-1 CSCからCD44v9high及びSDC4highの細胞をそれぞれソーティングし、免疫不全マウスに腹腔内投与したところ、後者において、顕著な腫瘍形成及び体重減少を認めた。さらに、遺伝子操作していない膵臓癌細胞株Panc-1及びBxpc3から、CD44v9high及びSDC4highの細胞をそれぞれソーティングし、免疫不全マウスに皮下移植したところ、いずれの細胞株においても、前者より後者の方が造腫瘍率が高かった。また、Bxpc3から、CD44v9high及びSDC4highの細胞をそれぞれソーティングし、免疫不全マウスに腹腔内投与したところ、後者において、顕著な腫瘍形成及び体重減少を認めた。即ち、低代謝細胞集団を選別せずとも、SDC4の高発現のみを指標として、がん細胞集団から効率よくがん幹細胞を選別できることが明らかとなった。
【0013】
大腸癌患者からの摘出癌組織におけるCD44v9とSDC4の組織蛍光染色の結果、CD44v9は発現が認められない場合もあったのに対し、SDC4はいずれの検体でも高発現を認めた。また、大腸癌患者からの摘出癌組織のPDXモデルの腫瘍サンプルや該モデル由来の細胞株を蛍光免疫染色したところ、SDC4は高発現していたが、CD44v9は発現を認めなかった。さらに、前記PDXモデル由来細胞株から、SDC4高発現細胞と低発現細胞とをそれぞれソーティングし、免疫不全マウスに腹腔内投与したところ、前者において、顕著な腫瘍形成を認めた。食道癌細胞株TE4でも同様に、SDC4高発現細胞において顕著な腫瘍形成を認めた。これらの結果より、SDC4はヒト臨床において、種々のがん種で有効ながん幹細胞マーカーとなり得ることが明らかとなった。
【0014】
次に、SDC4ががん幹細胞に対する治療標的となり得るか否かを調べるべく、本発明者らが独自に設計した3種類のSDC4に対するsiRNAと、市販の3種類のSDC4 siRNAとを、それぞれsuper Panc-1 CSCと大腸癌患者からの摘出癌組織のPDXモデル由来細胞株とに導入したところ、2種のsiRNAが著明な抗腫瘍効果を示した。化学療法剤やmTOR阻害剤との併用により、これらのsiRNAの抗腫瘍効果はさらに増大した。Wnt阻害剤との併用では、1種のsiRNAが著明な抗腫瘍効果を示した。これらのSDC4 siRNAは正常細胞に対しては毒性を示さず、がん幹細胞に対する高い選択毒性を認めた。また、SDC4 siRNAはin vitroのみならず、in vivoでも抗腫瘍効果を発揮した。
【0015】
ウェスタンブロット解析の結果、SDC4に対するsiRNAによる抗腫瘍効果の発揮には、持続的なSDC4タンパク質の発現低下が必要であると考えられた。SDC4に対するsiRNAのがん幹細胞に対する抗腫瘍効果のメカニズムを調べるため、抗腫瘍効果を奏するsiRNAとコントロールsiRNAをそれぞれ導入した膵臓癌幹細胞からRNAを抽出し、発現が著明に変動する遺伝子群についてIPA解析を行った結果、mTOR、PPARγ1A、Jnk、ERK1/2、ERK、Creb等の上流調節因子の抑制が予測された。また、膵臓癌幹細胞をWnt阻害剤で処理したところ、SDC4の発現増加が認められ、WntシグナリングへのSDC4の関与が示唆された。
【0016】
super Panc-1 CSCからdZsG+/CD44v9high及びdZsG+/SDC4highをそれぞれソーティングして得た単一細胞から形成した固形腫瘍に対して、HIF1αとSDC4の免疫染色を行った結果、HIF1α核染色陽性(低酸素領域)でSDC4陽性細胞が多数確認され、がん幹細胞が低酸素領域に局在するという知見と一致した。
【0017】
siRNAと同様、SDC4に対する抗体も、in vitro及びin vivoの両方で、種々のがん細胞、がん幹細胞に対して顕著な抗腫瘍効果を示した。抗SDC4抗体も、正常細胞に対しては毒性を示さず、がん幹細胞に対する高い選択毒性を認めた。
【0018】
Cancer Cell Line Encyclopedia(CCLE)のデータベースによると、中皮腫細胞(mesothelioma)のSdc4 mRNA発現量は、全体3位と高かったので、本発明者らは、中皮種細胞株に対するSDC4 siRNA、抗SDC4抗体の効果を調べた。その結果、SDC4 siRNA、抗SDC4抗体のいずれもが、中皮腫細胞株に対して顕著な抗腫瘍効果を示した。中皮腫のがん幹細胞マーカーであるCD24陽性を指標にソーティングした中皮腫がん幹細胞に対して、特に強い抗腫瘍効果を認めた。
【0019】
本発明者らは、これらの知見に基づいて、SDC4は既知のがん幹細胞マーカーであるCD44v9よりも優れたがん幹細胞マーカーであり、且つがん幹細胞に対する治療薬の創薬標的になることを見出し、SDC4の発現を抑制することによりがん幹細胞を効率よく除去する薬剤の開発に成功して、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
[1]SDC4の発現又は機能を抑制する物質を含有してなる、がん幹細胞除去剤。
[2]SDC4の発現を抑制する物質が、
(a)SDC4遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体、
(b)SDC4遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸、又は
(c)SDC4遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸
である、[1]に記載の剤。
[3]SDC4の発現を抑制する物質が、配列番号1で表されるヌクレオチド配列中、ヌクレオチド番号41~637で示される領域内の、連続する少なくとも15個のヌクレオチドからなる配列と相補的なヌクレオチド配列を含む核酸もしくはその前駆体である、[2]に記載の剤。
[4]SDC4の発現を抑制する物質が、配列番号1で表されるヌクレオチド配列中、ヌクレオチド番号475~606で示される領域内の、連続する少なくとも15個のヌクレオチドからなる配列と相補的なヌクレオチド配列を含む核酸もしくはその前駆体である、[2]に記載の剤。
[5]siRNAである、[3]又は[4]に記載の剤。
[6]SDC4の機能を抑制する物質が、
(a)SDC4に対する抗体、又は
(b)SDC4に対するアンタゴニスト
である、[1]に記載の剤。
[7]他の抗腫瘍薬と組み合わせてなる、[1]~[6]のいずれかに記載の剤。
[8]他の抗腫瘍薬が、化学療法薬、Wnt阻害薬及びmTOR阻害薬から選択される1種以上である、[7]に記載の剤。
[9]がん細胞集団において、SDC4の発現を指標としてがん幹細胞を検出又は選別する方法。
[10]SDC4に対する抗体を含有してなる、がん幹細胞の検出用試薬。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、がん幹細胞を標的とする抗腫瘍薬を提供することができるので、がんの再発・転移を抑制し、がんの根治が可能となる。また、本発明によれば、既知のがん幹細胞マーカーよりも優れたがん幹細胞マーカーが提供されるので、がん幹細胞の検出・選別が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1-1】Panc-1 dZsG-/CD44v9-、Panc-1 dZsG+/CD44v9high、およびsuper Panc-1 CSCにおける遺伝子発現の主成分解析結果を示す図である。
図1-2】Panc-1 dZsG-/CD44v9-、Panc-1 dZsG+/CD44v9high、およびsuper Panc-1 CSCにおけるSDC4遺伝子の発現比較を示す図である。
図2-1】1-1: dZsG-/CD44v9-、1-2: dZsG-/CD44v9high、3-3: dZsG+/ CD44v9-、3-4: dZsG+/ CD44v9highにおけるSDC4及びCD44v9の発現を示す図である。
図2-2】super Panc-1 CSCのdZsG+/CD44v9highの細胞におけるSDC4及びCD44v9の発現を示す細胞免疫染色の結果を示す図である。赤:CD44v9 緑:SDC4 青:細胞核
図3-1】シングルセルレベルでの造腫瘍能を指標として、SDC4がCD44v9よりも優れたがん幹細胞マーカーであることを示す図である。
図3-2】シングルセルからできた腫瘍の組織機構免疫染色の結果を示す図である。CD44v9陽性細胞を認めず、Sdc4陽性細胞が多数認められたことから、SDC4がCD44v9よりも優れたがん幹細胞マーカーであることが示された。HE:ヘマトキシリン-エオシン染色
図4-1】腹腔内投与による造腫瘍能を指標として、SDC4がCD44v9よりも優れたがん幹細胞マーカーであることを示す図である(super Panc-1 CSC)。
図4-2】腹腔内投与による造腫瘍能を指標として、SDC4がCD44v9よりも優れたがん幹細胞マーカーであることを示す図である(Bxpc3)。
図5-1】皮下注射による造腫瘍能を指標として、SDC4がCD44v9よりも優れたがん幹細胞マーカーであることを示す図である(Panc-1)。
図5-2】皮下注射による造腫瘍能を指標として、SDC4がCD44v9よりも優れたがん幹細胞マーカーであることを示す図である(Bxpc3)。
図6-1】大腸癌患者摘出癌組織におけるCD44v9とSDC4の組織蛍光免疫染色の結果を示す図である(No. 2検体)。高悪性度領域では、CD44v9陽性細胞を認めず、Sdc4陽性細胞が多数認められた。緑:CD44v9 赤:SDC4 青:細胞核
図6-2】大腸癌患者摘出癌組織におけるCD44v9とSDC4の組織蛍光免疫染色の結果を示す図である(No. 4検体)。CD44v9陽性細胞を認めず、Sdc4陽性細胞が多数認められた。緑:CD44v9 赤:SDC4 青:細胞核
図6-3】大腸癌患者摘出癌組織におけるCD44v9とSDC4の組織蛍光免疫染色の結果を示す図である(No. 6検体)。緑:CD44v9 赤:SDC4 青:細胞核
図6-4】大腸癌患者摘出癌組織におけるCD44v9とSDC4の組織蛍光免疫染色の結果を示す図である(No. 8検体)。緑:CD44v9 赤:SDC4 青:細胞核
図7-1】大腸癌患者摘出癌組織のPDXモデルにおけるCD44v9とSDC4の組織蛍光免疫染色の結果を示す図である(No. 2検体)。CD44v9陽性細胞を認めず、Sdc4陽性細胞が多数認められた。緑:CD44v9 赤:SDC4 青:細胞核
図7-2】大腸癌患者摘出癌組織のPDXモデル由来の細胞株(PDX No. 2)におけるCD44v9とSDC4の組織蛍光免疫染色の結果を示す図である。緑:CD44v9 赤:SDC4 青:細胞核
図8-1】腹腔内投与による造腫瘍能を指標として、SDC4が優れた大腸癌のがん幹細胞マーカーであることを示す図である(PDX No. 2)。
図8-2】腹腔内投与による造腫瘍能を指標として、SDC4が優れた大腸癌のがん幹細胞マーカーであることを示す図である(PDX No. 2)。
図8-3】腹腔内投与による造腫瘍能を指標として、SDC4が優れた食道癌のがん幹細胞マーカーであることを示す図である(TE4)。
図9-1】SDC4標的siRNAによる抗腫瘍細胞効果を示す図である。
図9-2】SDC4標的siRNAと化学療法剤との併用による抗腫瘍細胞効果を示す図である。
図9-3】SDC4標的siRNAとWnt阻害剤FH535との併用による抗腫瘍細胞効果を示す図である。
図9-4】SDC4標的siRNAとWnt阻害剤PNUとの併用による抗腫瘍細胞効果を示す図である。
図9-5】SDC4標的siRNAとmTOR阻害剤との併用による抗腫瘍細胞効果を示す図である。
図9-6】正常細胞及びがん幹細胞対するSDC4標的siRNAの毒性試験の結果を示す図である。
図9-7】正常細胞及びがん幹細胞におけるSDC4の発現を示す図である。
図9-8】マウス皮下固形腫瘍モデルにおける、SDC4標的siRNAの抗腫瘍効果を示す図である。
図10-1】SDC4標的siRNAによる抗腫瘍細胞効果とSDC4発現レベルの関係を示す図である。
図10-2】SDC4標的siRNAによる抗腫瘍細胞効果のメカニズムをIPAの上流解析で解析した結果を示す図である。
図10-3】Wnt阻害剤によりsuper Panc-1 CSCにおいてSDC4発現が誘導されることを示す図である。
図11】1個のがん幹細胞から形成された腫瘍において、低酸素領域にSDC4が発現していることを示す図である。(a)~(c) super Panc-1 CSCのdZsG+/CD44v9high由来の固形腫瘍。(d)~(f) super Panc-1 CSCのdZsG+/SDC4high由来の固形腫瘍。
図12-1】大腸癌に対するSdc4抗体の抗腫瘍効果を示す図である。
図12-2】大腸癌に対するSdc4抗体の抗腫瘍効果を示す図である。
図12-3】膵臓癌に対するSdc4抗体の抗腫瘍効果を示す図である。
図12-4】膵臓癌に対するSdc4抗体の抗腫瘍効果を示す図である。
図12-5】正常細胞に対するSdc4抗体の毒性試験の結果を示す図である。
図12-6】正常細胞に対するSdc4抗体の毒性試験の結果を示す図である。
図12-7】マウス皮下固形腫瘍モデルにおける、SDC4抗体の抗腫瘍効果を示す図である。
図13-1】中皮腫細胞株に対するSDC4標的siRNAの抗腫瘍細胞効果を示す図である。
図13-2】中皮腫細胞株に対するSDC4抗体の抗腫瘍細胞効果を示す図である。
図13-3】中皮腫がん幹細胞に対するSDC4抗体の抗腫瘍細胞効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、Syndecan-4(SDC4)の発現又は機能を抑制する物質を含有してなる、がん幹細胞除去剤(以下、「本発明のCSC除去剤」ともいう。)を提供する。
【0024】
本明細書において「がん幹細胞(CSC)」とは、自己複製能と多分化能とを有するがん細胞であり、高い造腫瘍性と転移能を有し、化学療法剤や放射線治療に対して抵抗性であり、幹細胞から幹細胞及び非幹細胞とに非対称性分裂することを特徴とする細胞を意味する。
【0025】
本明細書においてがん幹細胞のがん種は特に制限されず、任意のがんが挙げられる。例えば、上皮細胞由来の癌であり得るが、非上皮性の肉腫や血液がんであってもよい。より具体的には、例えば、消化器のがん(例えば、食道がん、胃がん、十二指腸がん、大腸がん(結腸がん、直腸がん)、肝がん(肝細胞がん、胆管細胞がん)、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、肛門がん)、泌尿器のがん(例えば、腎がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、精巣(睾丸)がん)、胸部のがん(例えば、乳がん、肺がん(非小細胞肺がん、小細胞肺がん))、生殖器のがん(例えば、子宮がん(子宮頸がん、子宮体がん)、卵巣がん、外陰がん、膣がん)、頭頸部のがん(例えば、上顎がん、咽頭がん、喉頭がん、舌がん、甲状腺がん)、皮膚のがん(例えば、基底細胞がん、有棘細胞がん)、中皮細胞のがん(中皮腫)を含むが、これらに限定されない。好ましくは、大腸がん、膵臓がん、食道がん、中皮腫、乳がん、胃がん、前立腺がん等、より好ましくは大腸がん、膵臓がん、中皮腫等が挙げられる。
【0026】
本発明のCSC除去剤の標的分子であるSDC4は、ヘパラン硫酸プロテオグリカンであるSyndecanファミリーに属する1回膜貫通型のタンパク質であり、ヒトでは、配列番号2で表される198アミノ酸からなるアミノ酸配列を有し、そのうち1-18位がシグナルペプチドであり、19-145位が細胞外領域、146-170位が膜貫通領域、171-198位が細胞内領域である。
【0027】
本明細書において、「SDC4」とは、配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。本明細書において、タンパク質及びペプチドは、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。
「配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列」とは、
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトSDC4の、他の温血動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)におけるオルソログのアミノ酸配列;又は
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトSDC4もしくは上記(a)のオルソログの天然のアレル変異体もしくは遺伝子多型におけるアミノ酸配列
を意味する。
好ましくは、SDC4は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトSDC4もしくはその天然のアレル変異体もしくは遺伝子多型である。該遺伝子多型としては、例えば、dbSNPにrs2228384として登録されている、12位のPhe(TTC)がLeu(CTC)に置換するSNPが挙げられるが、それに限定されない。
【0028】
本発明において「SDC4の発現を抑制する物質」とは、SDC4遺伝子の転写レベル、転写後調節のレベル、タンパク質への翻訳レベル、翻訳後修飾のレベル等のいかなる段階で作用するものであってもよい。従って、SDC4の発現を抑制する物質としては、例えば、SDC4遺伝子の転写を阻害する物質(例、アンチジーン)、初期転写産物からmRNAへのプロセッシングを阻害する物質、mRNAの細胞質への輸送を阻害する物質、mRNAからタンパク質への翻訳を阻害するか(例、アンチセンス核酸、miRNA)あるいはmRNAを分解する(例、siRNA、リボザイム、miRNA)物質、初期翻訳産物の翻訳後修飾を阻害する物質などが含まれる。いずれの段階で作用するものであっても用いることができるが、mRNAに相補的に結合してタンパク質への翻訳を阻害するかあるいはmRNAを分解する物質が好ましい。
【0029】
SDC4遺伝子のmRNAからタンパク質への翻訳を特異的に阻害する(あるいはmRNAを分解する)物質として、好ましくは、該mRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸が挙げられる。
SDC4遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列とは、生理的条件下において、該mRNAの標的配列に結合してその翻訳を阻害し得る(あるいは該標的配列を切断する)程度の相補性を有するヌクレオチド配列を意味し、具体的には、例えば、該mRNAのヌクレオチド配列と完全相補的なヌクレオチド配列(すなわち、mRNAの相補鎖のヌクレオチド配列)と、オーバーラップする領域に関して、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有するヌクレオチド配列である。本発明における「ヌクレオチド配列の相同性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。
【0030】
より具体的には、SDC4遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列とは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列である。ここで「ストリンジェントな条件」とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50~65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
【0031】
SDC4遺伝子のmRNAの好ましい例としては、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を含むヒトSDC4A(RefSeq Accession No. NM_002999)、あるいは他の温血動物におけるそのオルソログ、さらにはそれらの天然のアレル変異体もしくは遺伝子多型などのmRNAがあげられる。
【0032】
「SDC4遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列の一部」とは、SDC4遺伝子のmRNAに特異的に結合することができ、且つ該mRNAからのタンパク質の翻訳を阻害(あるいは該mRNAを分解)し得るものであれば、その長さや位置に特に制限はないが、配列特異性の面から、標的配列に相補的な部分を少なくとも10塩基以上、好ましくは15塩基以上、より好ましくは19塩基以上含むものである。
【0033】
具体的には、SDC4遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列の一部を含む核酸として、以下の(a)~(c)のいずれかのものが好ましく例示される。
(a) SDC4遺伝子のmRNAに対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体
(b) SDC4遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸
(c) SDC4遺伝子のmRNAに対するリボザイム核酸
【0034】
(a) SDC4遺伝子のmRNAに対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体
本明細書においては、SDC4遺伝子のmRNAに相補的なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNA、いわゆるsiRNAは、SDC4遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。
【0035】
siRNAは、標的遺伝子のcDNA配列情報に基づいて、例えば、Elbashirら(Genes Dev., 15, 188-200 (2001))の提唱する規則に従って設計することができる。siRNAの標的配列としては、例えばAA+(N)19、AA+(N)21もしくはNA+(N)21(Nは任意の塩基)等が挙げられるが、それらに限定されない。標的配列の位置も特に制限されるわけではない。選択された標的配列の候補群について、標的以外のmRNAにおいて16-17塩基の連続した配列に相同性がないかどうかを、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)等のホモロジー検索ソフトを用いて調べ、選択した標的配列の特異性を確認する。例えば、AA+(N)19、AA+(N)21もしくはNA+(N)21(Nは任意の塩基)を標的配列とする場合、特異性の確認された標的配列について、AA(もしくはNA)以降の19-21塩基にTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するセンス鎖と、該19-21塩基に相補的な配列及びTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するアンチセンス鎖とからなる2本鎖RNAをsiRNAとして設計してもよい。また、siRNAの前駆体であるショートヘアピンRNA(shRNA)は、ループ構造を形成しうる任意のリンカー配列(例えば、5-25塩基程度)を適宜選択し、上記センス鎖とアンチセンス鎖とを該リンカー配列を介して連結することにより設計することができる。
【0036】
siRNA及び/又はshRNAの配列は、種々のwebサイト上に無料で提供される検索ソフトを用いて検索が可能である。このようなサイトとしては、例えば、Dharmaconが提供するsiDESIGN Center(http://dharmacon.horizondiscovery.com/jp/design-center/?rdr=true&LangType=1041&pageid=17179928204)、GenScriptが提供するsiRNA Target Finder(https://www.genscript.com/tools/sirna-target-finder )等が挙げられるが、これらに限定されない。ヒットしたsiRNA配列情報に基づいて合成したsiRNA又はshRNAが、実際に、治療上有効な程度にがん幹細胞におけるSDC4発現を抑制し得ることは、例えば、後述の実施例2の(4-1)に示されるように、該核酸の導入から3日後のがん幹細胞におけるSDC4タンパクの発現レベルを測定することにより、検証することができる。尚、本来的にはRNAi活性を有するものの、導入後3日以内にSDC4タンパクの発現抑制効果が減衰する場合には、後述するようにsiRNA又はshRNAの構成ヌクレオチドに種々の修飾を加えることで、その生体内安定性を向上させることにより、SDC4の発現抑制効果をより持続させることが可能であり、所望の治療効果を奏し得る。
【0037】
好ましい実施態様において、本発明のsiRNA及びshRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列中、ヌクレオチド番号41~637で示される領域内の、連続する少なくとも15個のヌクレオチドからなる配列と相補的なヌクレオチド配列を含む。特に好ましい一実施態様において、本発明のsiRNA及びshRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列中、ヌクレオチド番号475~606、より好ましくは564~594で示される領域内の、連続する少なくとも15個のヌクレオチドからなる配列と相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0038】
本明細書においては、SDC4遺伝子のmRNAを標的とするマイクロRNA(miRNA)もまた、SDC4遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。miRNAは、標的となるmRNAに相補的に結合してmRNAの翻訳を抑制するか、あるいはmRNAを分解することにより、遺伝子発現の転写後制御に関与している。
【0039】
miRNAはまず、それをコードする遺伝子から一次転写産物であるprimary-microRNA (pri-miRNA)が転写され、次いで、Droshaにより特徴的なヘアピン構造を有する約70塩基長のprecursor-microRNA (pre-miRNA)にプロセッシングされた後、核から細胞質に輸送され、さらに、Dicer介在によるプロセシングにより成熟型miRNAとなり、RISCに取り込まれて標的mRNAに作用する。従って、miRNAの前駆体として、pre-miRNAやpri-miRNA、好ましくはpre-miRNAを用いることもできる。
【0040】
miRNAは、種々のwebサイト上に無料で提供される標的予測ソフトを用いて検索が可能である。このようなサイトとしては、例えば、米国ホワイトヘッド研究所が公開しているTargetScan(http://www.targetscan.org/vert_72/)、ギリシアのアレクサンダー・フレミング生体医科学研究センターが公開しているDIANA-micro-T-CDS(http://diana.imis.athena-innovation.gr/DianaTools/index.php?r=microT_CDS/index)等が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、チェザレー大学・パスツール研究所等が公開している、標的mRNAに作用することが実験的に証明されているmiRNAに関するデータベースであるTarBase(http://carolina.imis.athena-innovation.gr/diana_tools/web/index.php?r=tarbasev8/index)を用いて、SDC4 mRNAを標的とするmiRNAを検索することもできる。例えば、該データベース上でヒットしたSDC4 mRNAに対するmiRNAのうち上記標的予測ソフトで高スコアのものとして、例えば、hsa-miR-1277-5p、hsa-miR-140-3p、hsa-miR-224-5p、hsa-miR-936等が挙げられる。これらのmiRNA及び/又はpre-miRNAの配列情報は、例えば、英国マンチェスター大学が公開しているmiRBase(http://www.mirbase.org/search.shtml)を用いて取得することができる。
【0041】
siRNA及び/又はshRNA、あるいはmiRNA及び/又はpre-miRNAを構成するヌクレオチド分子は、天然型のRNAもしくはDNAでもよいが、安定性(化学的および/または対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を含むことができる。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンス核酸を構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、-OR(R=CH3(2’-O-Me)、CH2CH2OCH3(2’-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。
【0042】
RNAの糖部のコンフォーメーションはC2’-endo(S型)とC3’-endo(N型)の2つが支配的であり、一本鎖RNAではこの両者の平衡として存在するが、二本鎖を形成するとN型に固定される。したがって、標的RNAに対して強い結合能を付与するために、2’酸素と4’炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したRNA誘導体であるBNA(LNA)(Imanishi, T. et al., Chem. Commun., 1653-9, 2002; Jepsen, J.S. et al., Oligonucleotides, 14, 130-46, 2004)やENA(Morita, K. et al., Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids, 22, 1619-21, 2003)もまた、好ましく用いられ得る。
【0043】
siRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90~約95℃で約1分程度変性させた後、約30~約70℃で約1~約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、siRNAの前駆体となるshRNAを合成し、これをダイサー(dicer)を用いて切断することにより調製することもできる。miRNA及びpre-miRNAは、それらの配列情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機で合成することができる。
【0044】
本明細書においては、生体内でSDC4遺伝子のmRNAに対するsiRNA又はmiRNAを生成し得るようにデザインされた核酸もまた、SDC4遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。そのような核酸としては、上記したshRNAもしくはsiRNA又はmiRNAもしくはpre-miRNAを発現するように構築された発現ベクターなどが挙げられる。shRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖およびアンチセンス鎖を適当なループ構造を形成しうる長さ(例えば5~25塩基程度)のスペーサー配列を間に挿入して連結したヌクレオチド配列を含むオリゴRNAをデザインし、これをDNA/RNA自動合成機で合成することにより調製することができる。shRNAを発現するベクターには、タンデムタイプとステムループ(ヘアピン)タイプとがある。前者はsiRNAのセンス鎖の発現カセットとアンチセンス鎖の発現カセットをタンデムに連結したもので、細胞内で各鎖が発現してアニーリングすることにより2本鎖のsiRNA(dsRNA)を形成するというものである。一方、後者はshRNAの発現カセットをベクターに挿入したもので、細胞内でshRNAが発現しdicerによるプロセシングを受けてdsRNAを形成するというものである。プロモーターとしては、polII系プロモーター(例えば、CMV前初期プロモーター)を使用することもできるが、短いRNAの転写を正確に行わせるために、polIII系プロモーターを使用するのが一般的である。polIII系プロモーターとしては、マウスおよびヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーターなどが挙げられる。また、転写終結シグナルとして4個以上Tが連続した配列が用いられる。miRNAやpre-miRNAの発現カセットも、shRNAと同様にして作製することができる。
このようにして構築したsiRNAもしくはshRNA又はmiRNAもしくはpre-miRNA発現カセットを、次いでプラスミドベクターやウイルスベクターに挿入する。このようなベクターとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターや、動物細胞発現プラスミドなどが用いられる。
【0045】
(b) SDC4遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸
本発明における「SDC4遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸」とは、該mRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸であって、標的mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、タンパク質合成を抑制する機能を有するものである。
アンチセンス核酸は、2-デオキシ-D-リボースを含有しているポリデオキシリボヌクレオチド、D-リボースを含有しているポリリボヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドであるその他のタイプのポリヌクレオチド、非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販のタンパク質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッドであってもよく、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えばタンパク質(例、ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど)や糖(例、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例、アクリジン、ソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。このような修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオシドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲンとか、脂肪族基などで置換されていたり、またはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていてよい。
【0046】
上記の通り、アンチセンス核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。アンチセンス核酸がDNAの場合、標的RNAとアンチセンスDNAとによって形成されるRNA:DNAハイブリッドは、内在性RNase Hに認識されて標的RNAの選択的な分解を引き起こすことができる。したがって、RNase Hによる分解を指向するアンチセンスDNAの場合、標的配列は、mRNA中の配列だけでなく、SDC4遺伝子の初期翻訳産物におけるイントロン領域の配列であってもよい。イントロン配列は、ゲノム配列と、SDC4遺伝子のcDNAヌクレオチド配列とをBLAST、FASTA等のホモロジー検索プログラムを用いて比較することにより、決定することができる。
【0047】
本発明のアンチセンス核酸の標的領域は、該アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてタンパク質への翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、タンパク質をコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約10塩基程度、長いものでmRNAもしくは初期転写産物の全配列が挙げられる。合成の容易さや抗原性、細胞内移行性の問題等を考慮すれば、約10~約40塩基、特に約15~約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいが、それに限定されない。具体的には、SDC4遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端6-ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域または3’端ヘアピンループなどが、アンチセンス核酸の好ましい標的領域として選択しうるが、それらに限定されない。
【0048】
一実施態様において、本発明のアンチセンス核酸の標的領域として、上記siRNAと同様に、配列番号1で表されるヌクレオチド配列中、ヌクレオチド番号41~637で示される領域内の、連続する少なくとも15個のヌクレオチドからなる配列、特に、配列番号1で表されるヌクレオチド配列中、ヌクレオチド番号475~606、より好ましくは564~594で示される領域内の、連続する少なくとも15個のヌクレオチドからなる配列を挙げることができる。
【0049】
さらに、本発明のアンチセンス核酸は、SDC4遺伝子のmRNAや初期転写産物とハイブリダイズしてタンパク質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるこれらの遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAへの転写を阻害し得るもの(アンチジーン)であってもよい。
【0050】
アンチセンス核酸を構成するヌクレオチド分子もまた、安定性、比活性などを向上させるために、上記のsiRNA等の場合と同様の修飾を受けていてもよい。
【0051】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、SDC4遺伝子のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。また、上記した各種修飾を含むアンチセンス核酸も、いずれも自体公知の手法により、化学的に合成することができる。
【0052】
(c) SDC4遺伝子のmRNAに対するリボザイム核酸
SDC4遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸の他の例としては、該mRNAをコード領域の内部で特異的に切断し得るリボザイム核酸が挙げられる。「リボザイム」とは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイム核酸として最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイム核酸は、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。SDC4遺伝子のmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0053】
SDC4遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸は、リポソーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、遺伝子治療に適用されたり、付加された形態で与えられることができうる。こうして付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大せしめるような脂質(例、ホスホリピド、コレステロールなど)などの疎水性のものが挙げられる。付加するに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)が挙げられる。こうしたものは、核酸の3’端または5’端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。その他の基としては、核酸の3’端または5’端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、それに限定されるものではない。
【0054】
これらの核酸のSDC4タンパク質発現抑制活性は、SDC4遺伝子を導入した形質転換体、生体内や生体外のSDC4遺伝子発現系、または生体内や生体外のSDC4タンパク質翻訳系を用いて調べることができる。
【0055】
本発明におけるSDC4の発現を抑制する物質は、上記のようなSDC4遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列またはその一部を含む核酸に限定されず、SDC4タンパク質の産生を直接的または間接的に阻害する限り、低分子化合物などの他の物質であってもよい。
【0056】
本発明において「SDC4の機能を抑制する物質」とは、いったん機能的に産生されたSDC4のがん幹細胞特性に寄与する機能(例、リガンドであるFGF2を介したシグナル伝達等)を抑制する限りいかなるものでもよく、例えば、SDC4に結合して前記機能を抑制する物質、SDC4とリガンドとの結合活性を阻害する物質、SDC4の細胞膜への移行を阻害する物質等が挙げられる。
【0057】
具体的には、SDC4の機能を抑制する物質として、例えば、SDC4に対する抗体が挙げられる。該抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。これらの抗体は、自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。抗体のアイソタイプは特に限定されないが、好ましくはIgG、IgMまたはIgA、特に好ましくはIgGが挙げられる。また、該抗体は、SDC4を特異的に認識し結合するための相補性決定領域(CDR)を少なくとも有するものであれば特に制限はなく、完全抗体分子の他、例えばFab、Fab'、F(ab’)2等のフラグメント、scFv、scFv-Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子、あるいはポリエチレングリコール(PEG)等のタンパク質安定化作用を有する分子等で修飾されたそれらの誘導体などであってもよい。
【0058】
好ましい一実施態様において、SDC4に対する抗体はヒトを投与対象とする医薬品として使用されることから、該抗体(好ましくはモノクローナル抗体)はヒトに投与した場合に抗原性を示す危険性が低減された抗体、具体的には、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス-ヒトキメラ抗体などであり、特に好ましくは完全ヒト抗体である。ヒト化抗体およびキメラ抗体は、常法に従って遺伝子工学的に作製することができる。また、完全ヒト抗体は、ヒト-ヒト(もしくはマウス)ハイブリドーマより製造することも可能ではあるが、大量の抗体を安定に且つ低コストで提供するためには、ヒト抗体産生マウスやファージディスプレイ法を用いて製造することが望ましい。
【0059】
SDC4の機能を抑制する物質はまた、例えば、リガンドであるFGF2と競合的にSDC4に結合するアンタゴニストであってもよい。そのようなアンタゴニストは、SDC4とFGF2を用いた競合アッセイ系を構築し、化合物ライブラリーをスクリーニングすることにより取得することができる。
【0060】
後述の実施例に示されるように、SDC4の発現もしくは機能を抑制する物質は、がん幹細胞に特異的に作用して死滅させる効果を有するので、がん細胞標的治療薬としてがんの根治に有用である。また、SDC4の発現もしくは機能を抑制する物質は、正常細胞に対して低毒性であり、副作用のリスクが低いというさらなる有利な効果を奏する。したがって、SDC4の発現もしくは機能を抑制する物質を含有する医薬は、がん幹細胞の除去薬、ひいてはがんの治療薬として使用することができる。
【0061】
SDC4の発現もしくは機能を抑制する物質は1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の、SDC4の発現もしくは機能を抑制する物質は、それぞれ別個の医薬として製剤化してもよいし、同一の医薬組成物中に配合してもよい。2種以上の、SDC4の発現もしくは機能を抑制する物質が、それぞれ別個の医薬として製剤化される場合、各製剤を同時に投与してもよいし、時間をおいて投与してもよい。また、投与経路は同一であってもよいし、異なっていてもよい。後述する投与量は、1種の、SDC4の発現もしくは機能を抑制する物質の投与量を示すが、2種以上の物質を組み合わせて用いる場合でも、投与対象に好ましくない影響を与えない範囲で、それぞれの物質について同様の投与量を用いることができる。
【0062】
(1)アンチセンス核酸、リボザイム核酸、siRNAおよびその前駆体を含有する医薬
SDC4遺伝子の転写産物に相補的に結合し、該転写産物からのタンパク質の翻訳を抑制することができる本発明のアンチセンス核酸(もしくはmiRNA)や、SDC4遺伝子の転写産物における相同な(もしくは相補的な)塩基配列を標的として該転写産物を切断し得るsiRNA(もしくはリボザイム、miRNA)、さらに該siRNAやmiRNAの前駆体であるshRNAやpre-miRNAなど(以下、包括的に「本発明の核酸」という場合がある)は、がん幹細胞の除去薬、ひいてはがんの治療薬として使用することができる。
本発明の核酸を含有する医薬はそのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは非ヒト温血動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、ニワトリなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
【0063】
本発明の核酸をがん幹細胞の除去薬として使用する場合、自体公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。即ち、本発明の核酸を単独で用いてもよいし、あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当な哺乳動物細胞用の発現ベクターに機能可能な態様で挿入することもできる。該核酸は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することができる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記核酸を単独またはリポソームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
【0064】
本発明の核酸は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明の核酸と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
【0065】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤、鼻腔内投与剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の核酸を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記核酸を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
【0066】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0067】
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。本発明の核酸は、例えば、投薬単位剤形当たり通常0.01~500mg程度含有されていることが好ましい。
【0068】
本発明の核酸を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、がんの治療・再発予防においてがん幹細胞の除去のために使用する場合には、本発明の核酸を1回量として、通常0.0001~20mg/kg体重程度を、1日~6ヶ月に1回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
【0069】
なお前記した各組成物は、本発明の核酸との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。他の活性成分としては、例えば、がんに対して治療効果を有する種々の化合物を適宜配合することができる。例えば、他の活性成分として、アルキル化薬(例、マスタード類、ニトロソウレア類)、代謝拮抗薬(例、葉酸系、ピリミジン系、プリン系)、抗腫瘍性抗生物質(例、アントラサイクリン)、ホルモン類似薬(例、抗エストロゲン薬、抗アンドロゲン薬、LH-RHアゴニスト、プロゲステロン、エストラジオール)、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害薬(例、トポイソメラーゼI阻害薬、トポイソメラーゼII阻害薬)、生物製剤(例、インターフェロン、インターロイキン)、分子標的薬(例、抗体(例、トラスツズマブ、パニツムマブ)、低分子(ゲフィニチブ、エルロチニブ、ソラフェニブ)、レチノイン)などを含有していてもよい。特に、化学療法薬(例、ゲムシタビン、オキサリプラチン等)、Wnt阻害薬(例、FH535、PNU、IWR等)、mTOR阻害薬(例、ラパマイシン等)は、本発明の核酸との併用により、がん幹細胞に対して優れた抗腫瘍細胞効果を発揮し得る。
【0070】
(2)SDC4に対する抗体、SDC4の発現もしくは機能を抑制する低分子化合物等を含有する医薬
SDC4に対する抗体や、SDC4の発現もしくは機能を抑制する低分子化合物は、SDC4の産生またはそのがん幹細胞特性に寄与する機能を阻害することができる。したがって、これらの物質は、がん幹細胞の除去薬、ひいてはがんの治療薬として使用することができる。
上記の抗体や低分子化合物を含有する医薬は、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは他の温血動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、ニワトリなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
【0071】
上記の抗体や低分子化合物は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、上記の抗体もしくは低分子化合物またはその塩と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってもよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
【0072】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤、鼻腔内投与剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の抗体もしくは低分子化合物またはその塩を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記抗体またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されても良い。
【0073】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0074】
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。抗体や低分子化合物は、投薬単位剤形当たり通常0.1~500mg、とりわけ注射剤では5~100mg、その他の剤形では10~250mg含有されていることが好ましい。
【0075】
上記の抗体もしくは低分子化合物またはその塩を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、抗体もしくは低分子化合物を1回量として、通常0.0001~20mg/kg体重程度、低分子化合物であれば1日1~5回程度、経口または非経口で、抗体であれば1日~数ヶ月に1回、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
【0076】
なお前記した各組成物は、上記抗体や低分子化合物との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。例えば、他の活性成分として、アルキル化薬(例、マスタード類、ニトロソウレア類)、代謝拮抗薬(例、葉酸系、ピリミジン系、プリン系)、抗腫瘍性抗生物質(例、アントラサイクリン)、ホルモン類似薬(例、抗エストロゲン薬、抗アンドロゲン薬、LH-RHアゴニスト、プロゲステロン、エストラジオール)、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害薬(例、トポイソメラーゼI阻害薬、トポイソメラーゼII阻害薬)、生物製剤(例、インターフェロン、インターロイキン)、分子標的薬(例、抗体(例、トラスツズマブ、パニツムマブ)、低分子(ゲフィニチブ、エルロチニブ、ソラフェニブ)、レチノイン)などを含有していてもよい。
【0077】
本発明はまた、がん細胞集団において、SDC4の発現を指標としてがん幹細胞を検出又は選別する方法(以下、「本発明の検出・選別方法」ともいう。)を提供する。
後述の実施例に示されるとおり、SDC4は既知のがん幹細胞マーカーであるCD44v9よりも優れたがん幹細胞マーカーである。従って、がん細胞集団から、SDC4の発現を指標としてがん幹細胞を特異的に検出し、選別することができる。
【0078】
本発明の検出・選別方法により検出・選別され得るがん幹細胞のがん種は特に制限されず、任意のがんが挙げられる。例えば、上皮細胞由来の癌であり得るが、非上皮性の肉腫や血液がんであってもよい。より具体的には、例えば、消化器のがん(例えば、食道がん、胃がん、十二指腸がん、大腸がん(結腸がん、直腸がん)、肝がん(肝細胞がん、胆管細胞がん)、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、肛門がん)、泌尿器のがん(例えば、腎がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、精巣(睾丸)がん)、胸部のがん(例えば、乳がん、肺がん(非小細胞肺がん、小細胞肺がん))、生殖器のがん(例えば、子宮がん(子宮頸がん、子宮体がん)、卵巣がん、外陰がん、膣がん)、頭頸部のがん(例えば、上顎がん、咽頭がん、喉頭がん、舌がん、甲状腺がん)、皮膚のがん(例えば、基底細胞がん、有棘細胞がん)、中皮細胞のがん(中皮腫)を含むが、これらに限定されない。好ましくは、大腸がん、膵臓がん、食道がん、中皮腫、乳がん、胃がん、前立腺がん等、より好ましくは大腸がん、膵臓がん、食道がん、中皮腫等が挙げられる。
【0079】
本発明の検出・選別方法において、SDC4の発現は、好ましくはSDC4に対する抗体を用いて、各種免疫化学的手法を用いて検出することができる。SDC4に対する抗体としては、前記がん幹細胞除去剤の有効成分として使用される抗体が同様に使用され得る。この目的のためには、完全抗体分子を用いてもよく、また、抗体分子のF(ab')2、Fab'、あるいはFab画分などいかなるフラグメントを用いてもよい。
【0080】
がん幹細胞の検出・選別の対象となるがん細胞集団は特に制限はなく、例えば、がん患者から摘出されたがん組織や、がん組織から誘導されたがん細胞株などであってよい。
【0081】
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、[125I]、[131I]、[3H]、[14C]などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート(FITC)、フィコエリスリン(PE)などが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。
【0082】
本発明の抗体を直接標識物質で標識してもよいし、間接的に標識してもよい。好ましい態様においては、抗SDC4抗体は非標識抗体とし、該抗SDC4抗体を作製した動物に対する抗血清や抗Ig抗体等の標識された二次抗体により、SDC4を検出することができる。あるいは、ビオチン化した二次抗体を用いて、SDC4-抗SDC4抗体-二次抗体の複合体を形成させ、これを標識したストレプトアビジンを用いて可視化することもできる。
【0083】
例えば、被検がん細胞サンプルをグルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド等で固定・透過処理しPBS等の緩衝液で洗浄、BSA等でブロッキングした後、本発明の抗iPS/ES細胞抗体とインキュベートする。PBS等の緩衝液で洗浄して未反応の抗体を除去した後、抗SDC4抗体と反応した細胞を標識した二次抗体で可視化し、共焦点レーザー走査型顕微鏡や、IN Cell Analyzer(Amarsham/GE)等の自動化された生細胞画像解析装置等を用いて解析することができる。
【0084】
別の実施態様では、抗SDC4抗体を用いて、がん幹細胞を含むがん細胞集団から、がん幹細胞を単離することができる。この目的のためには、例えば、抗SDC4抗体をアガロース、アクリルアミド、セファロース、セファデックス等の任意の適切なマトリクスを含む固相上に固定化することができる。該固相は、マイクロタイタープレート等の任意の適切な培養器であってもよい。サンプルを該固相と接触させると、サンプル中のがん幹細胞は該固相上に固定される。該細胞は適当な溶出バッファーを用いて固相から遊離させることができる。
【0085】
別の実施態様においては、抗SDC4抗体を磁性ビーズ上に固定化し、磁場を与えるとがん幹細胞がサンプルから分離(即ち、磁気活性化細胞分離(MACS))するようにすることができる。さらに別の好ましい態様においては、抗SDC4抗体を、上述のような任意の適切な蛍光分子で直接もしくは間接的に標識し、蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いてがん幹細胞を単離することができる。
【0086】
本発明はまた、SDC4に対する抗体を含有してなる、がん幹細胞の検出用試薬を提供する。ここで用いられる抗SDC4抗体としては、前記がん幹細胞除去剤の有効成分として使用される抗体が同様に使用され得る。該抗体は完全抗体分子を用いてもよく、また、F(ab')2、Fab'、あるいはFab画分などいかなるフラグメントを用いてもよい。抗SDC4抗体は、自体公知の適切な緩衝液中に溶解して凍結保存することができる。抗SDC4抗体に加えて、標識化した二次抗体、反応用バッファー、ブロッキング液、洗浄液等を組み合わせてキット化することもできる。
【0087】
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0088】
実施例1 新規がん幹細胞マーカーの探索
(1)シングルセル遺伝子解析
ヒト膵臓癌細胞株Panc-1(ATCC CRL1469)に、CMVプロモーターの制御下に蛍光タンパク質ZsGreenとオルニチンデカルボキシラーゼ-degronとの融合タンパク質をコードするレトロウイルスベクターを導入して、低代謝細胞を可視化し、抗CD44v9抗体Anti human CD44v9(入手先:コズモバイオ;二次抗体として、Mouse Anti-Rat IgG2a(入手先:BD pharmingen))と、FACS(装置名:SH800Z SONY)を用い、ZsGreen陰性(dZsG-)/CD44v9陰性(CD44v9-)細胞集団と、dZsG+/CD44v9高発現(CD44v9high)細胞集団とを、ソーティングした。これらのPanc-1 dZsG-/CD44v9-、Panc-1 dZsG+/CD44v9high、並びに、150個のPanc-1 dZsG+/CD44v9high細胞を免疫不全マウスに移植して生じた腫瘍由来の培養細胞であるsuper Panc-1 CSC(受託番号:NITE BP-02449)のそれぞれについて、次世代シーケンサー(装置名:HiSeqイルミナ)を用いて遺伝子解析を行った。主成分解析の結果、PC1(70.7%)+PC2(29.3%)の遺伝子群において、三者を遺伝子的に分けることができ、遺伝子的に相違があることが明らかとなった(図1-1)。
【0089】
シングルセル遺伝子解析により、ヘパラン硫酸プロテオグリカンであるSyndecanファミリーに属するSyndecan-4(SDC4)の発現について測定・較した結果、膵臓癌の非癌幹細胞であるPanc-1 dZsG-/CD44v9-(n=8)よりも、癌幹細胞であるPanc-1 dZsG+/CD44v9high(n=9)のほうがSDC4の発現が高かった(Fold Change:4.826; P-value:0.0001)。一方、Panc-1 dZsG+/CD44v9highから生じた腫瘍由来の細胞株であるsuper Panc-1 CSC(n=13)では、Sdc4の発現は減少した(図1-2)。
【0090】
(2)SDC4タンパク質の発現
(2-1)ウェスタンブロッティング
以下の4種類の細胞を用いたウェスタンブロッティングを行った。抗CD44v9抗体としてAnti human CD44v9(入手先:コズモバイオ)、二次抗体として、Mouse Anti-Rat IgG2a(入手先:BD pharmingen))を用い、抗SDC4抗体としてSyndecan-4 (5G9) sc-12766(入手先:Santa Cruz)、二次抗体としてAlexa Fluor 647(入手先:invitrogen)を用いた。
1-1: dZsG-/CD44v9- (1×106個の非癌幹細胞でできた腫瘍からの培養細胞)
1-2: dZsG-/CD44v9high(1×106個の非癌幹細胞でできた腫瘍からの培養細胞)
3-3: dZsG+/ CD44v9- (150個の癌幹細胞でできた腫瘍からの培養細胞)
3-4: dZsG+/ CD44v9high(150個の癌幹細胞でできた腫瘍からの培養細胞)
結果を図2-1に示す。1-1及び1-2よりも、3-3及び3-4でSDC4の発現が高く、同時にCD44v9の発現も高かった。両者はタンパク的に連動していることがわかった。
【0091】
(2-2)細胞免疫染色
膵臓癌幹細胞super Panc-1 CSCを用い、上記(1)と同様の方法で、FACSにてsuper Panc-1 CSCのdZsG+/CD44v9highの細胞をソーティングし、24時間培養後にSDC4とCD44v9の細胞共染色を行なった。SDC4の染色は、抗SDC4抗体(入手先:Santa Cruz)と二次抗体として、Alexa Fluor 647(入手先:Invotrogen)とを用いて行った。Keyecnce all-in-one蛍光顕微鏡(装置名:BZ-X700)にて観察したところ、SDC4とCD44v9とが共局在している領域が観察できた(図2-2)。
【0092】
(3)シングルセルレベルの造腫瘍能を指標としたSDC4のがん幹細胞マーカーとしての評価
膵臓癌幹細胞super Panc-1 CSCを用い、上記(1)と同様の方法で、FACSにてsuper Panc-1 CSCのdZsG+/CD44v9highの細胞をソーティングして、図3-1に示すように、SCID beigeマウス(入手先:オリエンタル酵母)の背中9カ所に、それぞれ一個ずつ皮下移植した(50μl DMEM+50μl matrigel中に1細胞)。184個皮下移植して、1~2ヶ月後に21個の固形腫瘍の形成が確認できた。その造腫瘍率が11.4%であった(図3-1)。
一方、同様に膵臓癌幹細胞super Panc-1 CSCを用い、FACSにてsuper Panc-1 CSCのdZsG+/SDC4highの細胞をソーティングした。抗SDC4抗体としてSyndecan-4 (5G9) sc-12766(入手先:Santa Cruz)、二次抗体としてAlexa Fluor 647(入手先:Invotrogen)を用いた。得られた細胞を、SCID beigeマウスの背中9カ所に、それぞれ一個ずつ皮下移植した(50μl DMEM+50μl matrigel中に1細胞)。64個皮下移植して、1~2ヶ月後に11個の固形腫瘍の形成が確認できた。その造腫瘍率が17.2%であった(図3-1)。
以上より、がん幹細胞マーカーとして、SDC4は既知マーカーであるCD44v9より優れていることがわかった。
【0093】
さらに、SDC4のリガンドであるFGF2を混ぜて(10μg/ml FGF2含有50μl DMEM+50μl matrigel中に1細胞)皮下移植すると、dZsG+/SDC4high細胞の造腫瘍率が33.33%に増えた。一方、super Panc-1 CSCのdZsG+/CD44v9highの細胞にFGF2を混ぜて皮下移植しても、その造腫瘍率は11.11%であり変化はなかった(図3-1)。
【0094】
(4)シングルセルからできた腫瘍の組織蛍光免疫染色
super Panc-1 CSCのdZsG+/CD44v9highの1個の細胞からできた腫瘍について、CD44v9およびSDC4の組織蛍光免疫染色を行った。CD44v9の染色には、抗CD44v9抗体(入手先:コスモバイオ;二次抗体として、Mouse Anti-Rat IgG2a(入手先:BD pharmingen))を用い、SDC4の染色には、抗SDC4抗体としてSyndecan-4 (5G9) sc-12766(入手先:Santa Cruz)、二次抗体としてAlexa Fluor 647(入手先:Invotrogen)を用いた。その結果、CD44v9陽性細胞(緑)はほとんどないが、SDC4陽性細胞(赤)は高頻度で認めた(図3-2)。
【0095】
(5)腹腔内投与による造腫瘍能を指標としたSDC4のがん幹細胞マーカーとしての評価
(5-1)2017年5月14日に、以下の3群の細胞をFACSにてソーティング後、それぞれ100,000個細胞/1ml DMEMをSCID beigeマウスに腹腔内投与し、同年7月5日にマウスをサクリファイスして、マウスの外見・体重、腹腔内の腫瘍の有無を調べた。
(1)super Panc-1 CSCの2次抗体のみ
(2)super Panc-1 CSCのCD44v9high 上位4%
(3)super Panc-1 CSCのSDC4high 上位4%
(1)のマウスは、外見に特記すべき事項はなく、体重も22.1gと正常だったが、(2)(3)のマウスの体重がそれぞれ16.6gと17.1gで、特に(3)のマウスには黄疸を認めた(図4-1左)。また、(1)のマウスは腹腔内に腫瘍を認めなかったが、(2)のマウスでは腸管周辺に数個の腫瘍形成を認めた。一方、(3)マウスには、腸管周辺により多くの固形腫瘍を認め、更に肝胆膵臓周辺にも腫瘍形成があり、肝臓一部が黄色に変色し、明らかな胆嚢肥大を認めた(図4-1右)。
【0096】
(5-2)2017年8月16日に、以下の3群の細胞をFACSにてソーティング後、それぞれ98,000個細胞/1ml DMEMをSCID beigeマウスに腹腔内投与し、同年9月19日にマウスをサクリファイズして、マウスの外見・体重、腹腔内の腫瘍の有無を調べた。
(1)super Panc-1 CSCの2次抗体のみ
(2)super Panc-1 CSCのCD44v9high上位5%
(3)super Panc-1 CSCのSDC4high 上位3.5%
(1)(2)のマウスは、外見に特記すべき事項はなく、体重もそれぞれ22.0gと22.1gと正常だったが、(3)のマウスの体重は15.1gで、黄疸を認めた。また、(1)(2)のマウスは腹腔内に腫瘍を認めなかったが、(3)のマウスには、特に肝胆膵臓周辺に腫瘍形成があり、胆嚢腫大を認めた。
【0097】
(5-3)2017年8月14日に、以下の3群の細胞をFACSにてソーティング後、それぞれ100,000個細胞/1ml DMEMをSCID beigeマウスに腹腔内投与し、同年10月3日にマウスをサクリファイズして、マウスの外見・体重、腹腔内の腫瘍の有無を調べた。
(1)super Panc-1 CSCの2次抗体のみ
(2)super Panc-1 CSCのCD44v9high 上位5%
(3)super Panc-1 CSCのSDC4high 上位4%
(1)(2)のマウスは、外見に特記すべき事項はなく、体重もそれぞれ21.2gと21.0gと正常だったが、(3)のマウスの体重は16.7gで、黄疸を認めた。また、(1)(2)のマウスは腹腔内に腫瘍を認めなかったが、(3)のマウスには、腸管周辺一部に固形腫瘍を認め、肝胆膵臓周辺にも腫瘍形成があり、肝臓一部が黄色に変色し、明らかな胆嚢肥大を認めた。
【0098】
(5-4)2017年8月14日に、以下の3群の細胞をFACSにてソーティング後、それぞれ50,000個細胞/1ml DMEMをSCID beigeマウスに腹腔内投与し、同年9月28日にマウスをサクリファイズして、マウスの外見・体重、腹腔内の腫瘍の有無を調べた。
(1)super Panc-1 CSCの2次抗体のみ
(2)super Panc-1 CSCのCD44v9high 上位5%
(3)super Panc-1 CSCのSDC4high 上位4.5%
(1)(2)のマウスは、外見に特記すべき事項はなく、体重もそれぞれ18.0と19.4gと正常だったが、(3)のマウスの体重は15.0gであった。また、(1)(2)のマウスは腹腔内に明らかな腫瘍を認めなかったが、(3)のマウスには、肝胆膵臓周辺に腫瘍形成を認めた。
【0099】
(5-5)別の膵臓癌細胞株Bxcp3(ATCC CRL-1687)を用いて、(5-1)~(5-4)と同様の実験を行った。2017年9月6日に、以下の3群の細胞をFACSにてソーティング後、それぞれ21,954個細胞/1ml DMEMをSCID beigeマウスに腹腔内投与し、同年6月12日にマウスをサクリファイズして、マウスの外見・体重、腹腔内の腫瘍の有無を調べた。
(1)Bxpc3 2次抗体のみ
(2)Bxpc3 CD44v9high上位4%
(3)Bxpc3 SDC4high上位5%
(1)(2)のマウスは、外見に特記すべき事項はなく、体重もそれぞれ21.5と21.3gと正常だったが、(3)のマウスの体重は15.2gであった(図4-2左)。また、(1)(2)のマウスは腹腔内に明らかな腫瘍を認めなかったが、(3)のマウスには、肝胆膵臓周辺に腫瘍形成を認め、腸閉塞を起こし、胃の著明な拡張を認めた(図4-2右)。
【0100】
(6)皮下注射による造腫瘍能を指標としたSDC4のがん幹細胞マーカーとしての評価
(6-1)Panc-1
1st 実験:2017年1月27日に、以下の3群の細胞をFACSにてソーティング後、それぞれ50個細胞/100ul (DMEM:matrigel = 1:1)を、図5-1のようにSCID beigeマウスの背中に皮下注射し、同年3月21日までの腫瘍形成を観察した。
2nd 実験:2017年2月28日に、以下の3群の細胞をFACSにてソーティング後、それぞれ50個細胞/100ul (DMEM:matrigel = 1:1)を図5-1のようにSCID beigeマウスの背中に皮下注射し、同年4月13日までの腫瘍形成を観察した。
(1)Panc-1
(2)Panc-1 CD44v9high上位8.5%
(3)Panc-1 SDC4high上位1%
結果を図5-1に示す。(3)の細胞が最も造腫瘍能が高かった。
【0101】
(6-2)Bxpc3
別の膵臓癌細胞株Bxcp3を用いて(6-1)と同様の実験を行った。2017年3月5日に、以下の3群の細胞をFACSにてソーティング後、それぞれ75個細胞/100ul (DMEM:matrigel = 1:1)を図5-2のようにSCID beigeマウスの背中に皮下注射し、同年6月12日までの腫瘍形成を観察した。
(1)Bxpc3
(2)Bxpc3 CD44v9high上位4%
(3)Bxpc3 SDC4high上位5%
結果を図5-2に示す。(3)の細胞が最も造腫瘍能が高かった。
【0102】
(7)大腸癌患者からの摘出癌組織におけるCD44v9とSDC4の組織蛍光免疫染色
4人の大腸癌患者から摘出した癌組織について、上記(4)と同様の方法で、組織蛍光免疫染色を行った。用いられた4サンプルの一般情報・病理所見を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
No. 2検体のサンプルの組織蛍光染色の結果の代表例を図6-1に示す。#14のような中分化領域では、SDC4は染まらないが、#10や#9のような低分化領域では、SDC4は高発現であった。しかし、癌部でのCD44v9の発現は認められなかった。
【0105】
No. 4検体のサンプルの組織蛍光染色の結果の代表例を図6-2に示す。#9や#14などの領域では、SDC4は高発現であったが、CD44v9の発現は認められなかった。
【0106】
No. 6検体のサンプルの組織蛍光染色の結果の代表例を図6-3に示す。#6や#7などの領域では、細胞膜に高いCD44v9とSDC4との共発現を認めた。
【0107】
No. 8検体のサンプルの組織蛍光染色の結果の代表例を図6-4に示す。#9や#10では、全体的にSDC4の発現が高いが、細胞膜に高いCD44v9とSDC4との共発現を認めた部分もあった。
【0108】
(8)大腸癌患者からの摘出癌組織のPDXモデルにおけるCD44v9とSDC4の組織蛍光免疫染色
(8-1)No.2検体から摘出した癌組織を、図7-1に示すようにSCID beigeマウスに移植し、5回継続移植した腫瘍サンプル(MP5)を用いて、上記(7)と同様に蛍光免疫染色を行なった。その結果、癌部では、SDC4は高発現であったが、CD44v9の発現は認められなかった(図7-1)。
【0109】
(8-2)No.2検体から摘出した癌組織のPDX腫瘍サンプル(MP5)を用いて細胞株化を行なった。得られた細胞株PDX No.2について、上記(7)と同様に蛍光免疫染色を行なった。その結果、SDC4は高発現であったが、CD44v9の発現は認められなかった(図7-2)。
【0110】
(9)PDX No.2を用いた造腫瘍能を指標としたSDC4のがん幹細胞マーカーとしての評価
(9-1)2017年9月10日に、以下の2群の細胞をFACSにてソーティング後、それぞれ10,000個細胞/1ml DMEMをSCID beigeマウスに腹腔内投与し、同年12月2日にマウスをサクリファイズして、マウスの外見・体重、腹腔内の腫瘍の有無を調べた。
(1)PDX No.2 のSDC4染色 下位12%
(2)PDX No.2 のSDC4染色 上位1.2%
(1)(2)のマウスは、外見に特記すべき事項はなく、体重はそれぞれ22.9と21.4gであった。しかし、(2)のマウスは腹腔内に明らかな腫瘍を認め、肝胆膵臓周辺、横隔膜、更に胸腔内壁側胸膜に腫瘍形成を認めた(図8-1)。
【0111】
(9-2)2018年1月30日に、以下の3群の細胞をFACSにてソーティング後、それぞれ10,000個細胞/800ul DMEMをSCID beigeマウス(オス)に腹腔内投与し、同年3月21日にマウスをサクリファイズして、マウスの外見・体重、腹腔内の腫瘍の有無を調べた。
(1)PDX No.2 のSDC4染色 下位12%
(2)PDX No.2 のSDC4染色 上位1%
(3)PDX No.2 の2次抗体のみ
(1)(3)のマウスは、外見に特記すべき事項はなく、体重もそれぞれ29.6gと23.2gであった。一方、(2)のマウスの体重は20.3gで、黄疸を認めた(図8-2左)。また、(2)のマウスは、腸管周辺一部に腫瘍形成、肝胆膵臓周辺に明らかな腫瘍形成があり、肝臓一部が黄色に変色し、胆嚢肥大を認めた。(3)のマウスは、肝胆膵臓周辺一部に腫瘍形成のみを認めた。(1)のマウスには腫瘍形成を認めなかった(図8-2右)。
【0112】
(10)食道癌細胞株を用いた造腫瘍能を指標としたSDC4のがん幹細胞マーカーとしての評価
2018年3月31日に、以下の2群の細胞をFACSにてソーティングした後、それぞれ10,000個細胞/800ul DMEMをSCID beigeマウス(オス)に腹腔内投与し、同年6月26日にマウスをサクリファイズして、マウスの外見・体重、腹腔内の腫瘍の有無を調べた。
(1)TE4 のSDC4 陽性 上位2%
(2)TE4 の2次抗体のみ
(2)のマウスは体重が20.1gであったのに対して、(1)のマウスの体重は17.9gであった。(2)のマウスに比べて、(1)のマウスには腫瘍形成を認めた(図8-3)。
【0113】
実施例2 SDC4標的siRNAによる抗腫瘍効果
(1)単独投与
SDC4を標的とする独自に設計したsiRNA3種類#6, #7, #10、市販のSDC4標的siRNA#1, #2, #3(入手先:applied biosystems)、並びにネガティブコントロールsiRNANCの、7種類のsiRNAを用いて、大腸癌患者(No. 2検体)からの摘出癌組織のPDXモデル由来細胞株PDX No.2、膵臓癌幹細胞super Panc-1 CSCに対する抗腫瘍細胞効果を検証した。7種のsiRNAのヌクレオチド配列を以下に示す。
#6:(sense)5’-GGUCCUGGCAGCUCUGAUUdTdT(配列番号3)
(anti-sense) 5’-AAUCAGAGCUGCCAGGACCdTdT(配列番号4)
#7:(sense)5’-AGGAUGAAGGCAGCUAUGAdTdT(配列番号5)
(anti-sense) 5’-UCAUAGCUGCCUUCAUCCUdTdT(配列番号6)
#10:(sense)5’-GCAAGAAACCCAUCUACAAdTdT(配列番号7)
(anti-sense) 5’-UUGUAGAUGGGUUUCUUGCdTdT(配列番号8)
#1:(sense)5’-CUACUGCUCAUGUACCGUAtt(配列番号9)
(anti-sense) 5’-UACGGUACAUGAGCAGUAGga(配列番号10)
#2:(sense)5’-GCUAUGACCUGGGCAAGAAtt(配列番号11)
(anti-sense) 5’-UUCUUGCCCAGGUCAUAGCtg(配列番号12)
#3:(sense)5’-CCAAGAAACUAGAGGAGAAtt(配列番号13)
(anti-sense) 5’-UUCUCCUCUAGUUUCUUGGgt(配列番号14)
NC:(sense)5’-AUCCGCGCGAUAGUACGUA(配列番号15)
(anti-sense) 5’-AUCCGCGCGAUAGUACGUA(配列番号16)
96 wellに細胞を6000個/wellずつFACSにてソーティングして一晩静置後、siRNA 10 pmol/wellをlipofectamin200(入手先:Invitrogen)にて導入して、72h後にWST8(入手先:DojinDo)にて細胞の生存度を測定した。更に全wellをDMEM(FBS10%)に培地交換して、72h後に再度WST8にて細胞の生存度を測定した。72h+72h後では、siRNA#7および#2が著しい抗腫瘍細胞効果を示した(図9-1)。
【0114】
(2)他の抗腫瘍薬との併用投与
(2-1)化学療法剤との併用
上記(1)と同様にして、7種類のsiRNAと化学療法剤との併用効果を調べた。96 wellに細胞を6000個/wellずつFACSにてソーティングして一晩静置後、siRNA 10 pmol/wellをlipofectamine2000にて導入して、72h後にWST8にて細胞の生存度を測定し、次いで膵臓癌super Panc-1 CSCには全wellをジェムシタビン(GEM)含有DMEM(FBS10%)に培地交換し、大腸癌PDX No.2には全wellをオキサリプラチン(L-OHP)含有DMEM(FBS10%)に培地交換して、72h後に再度WST8にて細胞の生存度を測定した。72h+72h後では、膵臓癌super Panc-1 CSCは、siRNA7+GEMおよび#2+GEMが著しい抗腫瘍細胞効果を示し、大腸癌PDX No.2にはsiRNA7+L-OHPおよび#2+L-OHPが著しい抗腫瘍細胞効果を示した(図9-2)。
【0115】
(2-2)Wnt阻害剤との併用
上記(1)と同様にして、7種類のsiRNAとWnt阻害剤との併用効果を調べた。96 wellに細胞を6000個/wellずつFACSにてソーティングして一晩静置後、siRNA 10 pmol/wellをlipofectamine2000にて導入して、72h後にWST8にて細胞の生存度を測定し、次いで全wellをWnt阻害剤(FH535)含有DMEM(FBS10%)に培地交換して、72h後に再度WST8にて細胞の生存度を測定した。72h+72h後では、siRNA#7+FH535が著しい抗腫瘍細胞効果を示した(図9-3)。
【0116】
また、96 wellに細胞を6000個/wellずつFACSにてソーティングして一晩静置後、siRNA 10 pmol/wellをlipofectamine2000にて導入し、同時にWnt阻害剤PNUも添加した。72h後にWST8にて細胞の生存度を測定し、次いで全wellをPNU含有DMEM(FBS10%)に培地交換して、72h後に再度WST8にて細胞の生存度を測定した。72h+72h後では、siRNA#7+PNUが著しい抗腫瘍細胞効果を示した(図9-4)。
【0117】
(2-3)mTOR阻害剤との併用
上記(1)と同様にして、7種類のsiRNAとmTOR阻害剤との併用効果を調べた。96 wellに細胞を6000個/wellずつFACSにてソーティングして一晩静置後、siRNA 10 pmol/wellをlipofectamine2000にて導入して、72h後にWST8にて細胞の生存度を測定し、次いで全wellをmTOR阻害剤(ラパマイシン)含有DMEM(FBS10%)に培地交換して、72h後に再度WST8にて細胞の生存度を測定した。72h+72h後では、siRNA#7+ラパマイシン及びsiRNA#2+ラパマイシンが著しい抗腫瘍細胞効果を示した(図9-5)。
【0118】
(3)SDC4標的siRNAの正常細胞に対する毒性
(3-1)正常細胞及びがん幹細胞対するSDC4標的siRNAの毒性試験
市販のSDC4標的siRNA#2と、ネガティブコントロールsiRNA NCを用 いて、BJ-5ta正常包皮由来線維芽細胞株、HPNE正常膵管由来上皮細胞 株、3-4膵臓癌癌幹細胞、No.2 H16-2490 大腸癌患者摘出癌組織の PDXモデル由来細胞株PDX No.2に対する毒性を検証した。6 wellに 200,000個/wellずつ播き一晩培養後、siRNA 100 pmol/wellを lipofectamine2000にて導入し、96h後にWST8にて細胞の生存度を測定した。その結果、2つの正常細胞に対しては毒性を認めず、2種類の癌細胞に対しては著しい毒性を認めた(図9-6)。
【0119】
(3-2)正常細胞及びがん幹細胞におけるSDC4の発現
BJ-5ta正常包皮由来線維芽細胞株、HPNE正常膵管由来上皮細胞株、super Panc-1 CSC 膵臓癌癌幹細胞、No.2 H16-2490 大腸癌患者摘出癌組織のPDXモデル由来細胞株PDX No.2に対して、SDC4抗体による細胞免疫染色を行い、FACSにて解析した。その結果、2つの正常細胞では、SDC4の発現を認めず、2種類の癌細胞では著しいSDC4発現を認めた(図9-7)。
【0120】
(3-3)マウス皮下固形腫瘍モデルにおけるSDC4標的siRNAの抗腫瘍効果
ヌードマウスの皮下にsuper Panc-1 CSC 膵臓癌癌幹細胞 3×106個/Tumorを移植し、体積が約70 mm3に達したら、毎日一回、SDC4標的siRNA#7、又はネガティブコントロールsiRNA NCを、核酸デリバリーシステムであるスーパーアパタイトを用いて20 ug/回、マウス尾静脈より静脈注射した。未処置群(control)及びネガティブコントロール投与群(NC)と比較して、#7投与群では著しい抗腫瘍効果を認めた。Day5およびDay9では、#7投与群はcontrol 及びNCと比較して腫瘍の体積が有意に小さかった(図9-8)。
【0121】
(4)SDC4標的siRNAによる抗腫瘍効果のメカニズム
(4-1)SDC4のタンパクレベルと抗腫瘍効果との関係
市販のSDC4標的siRNA#1, #2, #3、ネガティブコントロールsiRNANCの膵臓癌幹細胞super Panc-1 CSCに対する抗腫瘍細胞効果メカニズムを検証した。96 wellに細胞を6000個/wellずつFACSにてソーティングして一晩静置後、siRNA 10 pmol/wellをlipofectamine2000にて導入し、48hおよび72hr後の細胞の生存度をWST8にて測定し、また、ウェスタンブロッティングにより、SDC4のタンパクレベルを測定した。その結果、48hrでは、ネガティブコントロールsiRNANCに比べて、siRNA#1, #2, #3によるSDC4タンパクの減少がみられるが、細胞の生存度に変化はなかった。72hrでは、SDC4標的siRNA #2によってのみ、SDC4のタンパクおよび細胞の生存度の減少を認めた(図10-1)。
【0122】
(4-2)IPAの上流解析によるメカニズム予測
市販のSDC4標的siRNA#2の、膵臓癌幹細胞super Panc-1 CSCに対する抗腫瘍細胞効果メカニズムを検証した。96 wellに細胞を6000個/wellずつFACSにてソーティングして一晩静置後、siRNA 10 pmol/wellをlipofectamine2000にて導入し、36h後に回収してRNAを抽出し、RNA-sequencingを行なった。その結果、ネガティブコントロールsiRNANCに対して、siRNA#2において、Fold Change 2.0以上, p<0.05で変動する遺伝子が172個あった。この172個の変動遺伝子セットを、Ingenuity Pathways Analysis(IPA)のUpstream解析を行なった結果、mTOR, PPARG1A, Jnk, ERK1/2, ERK, CrebなどのUpstream regulatorの抑制が予測された(図10-2)。
【0123】
(4-3)Wnt阻害剤によるSDC4発現の誘導
膵臓癌幹細胞super Panc-1 CSCを、96 wellに6000個/wellずつFACSにてソーティングして一晩培養後、セツキシマブ(Cmab)、ラパマイシン(Rapamycin)、2種類のWnt阻害剤(IWR、FH535)を添加して、48時間後に、SDC4の細胞免疫染色、およびウェスタンブロッティングを行なった。ウェスタンブロッティングではWnt阻害剤IWR、FH535の添加によって、SDC4のタンパク発現が増加した。細胞蛍光免疫染色でも、FH535によるSDC4発現増加が見られた(図10-3)。
【0124】
実施例3 1個のがん幹細胞形成腫瘍における低酸素領域とSDC4の発現
実施例1(3)で得られた、super Panc-1 CSCのdZsG+/CD44v9highシングルセル由来の21個の固形腫瘍、及びsuper Panc-1 CSCのdZsG+/SDC4highシングルセル由来の11個の固形腫瘍のうち、それぞれ6個(n=6)について、HIF1αとSDC4の免疫蛍光染色を行なった。HIF1αは低酸素状態で安定・蓄積し、細胞質から核へ移行することから、HIF1αとDAPIの二重染色により、細胞核がHIF1α陽性の領域が低酸素領域、細胞核がHIF1α陰性の領域が非低酸素領域に相当する。結果を図11に示す。図11(a)~(c)(dZsG+/CD44v9highシングルセル由来)において、白実線で囲んでいる部分は細胞核がHIF1α陽性で、白点線で囲んでいる部分は細胞核がHIF1α陰性である。従って、低酸素領域においてSDC4(+)細胞が多数確認できた。dZsG+/SDC4highシングルセル由来の固形腫瘍(図11(d)~(f))でも、同様に、HIF1α核染色陽性(白実線で囲んでいる部分)の低酸素領域では、SDC4(+)が確認できた。一方、非低酸素領域では、SDC4の発現が確認できなかった。
【0125】
実施例4 抗SDC4抗体による抗腫瘍効果
(1)膵臓癌及び大腸癌に対する抗SDC4抗体の抗腫瘍効果
No.2 H16-2490 大腸癌患者摘出癌組織のPDXモデル由来細胞株PDX No.2及び大腸癌細胞株HCT116, HT29, SW480、更に膵臓癌幹細胞super Panc-1 CSC及び膵臓癌細胞株miapaca, PSN, Panc-1に対する抗腫瘍細胞効果を検証した。96 wellに5000個/wellずつFACSにてソーティングし、一晩静置した後、IBL社製ポリクロナール抗体であるSDC4抗体又はIgG抗体(NCとして)を、2.5, 5, 10及び20 ug/mlとなるように加え、Day4及びDay6にWST8にて細胞の生存度を測定した。その結果、抗SDC4抗体は、いずれの癌細胞株に対しても著しい抗腫瘍細胞効果を示した(図12-1~図12-4)。
【0126】
(2)正常細胞に対するSDC4抗体の毒性
BJ-5ta正常包皮由来線維芽細胞株、HPNE正常膵管由来上皮細胞、MRC5ヒト胎児肺正常線維芽細胞、及びHEK293ヒト 胎児腎細胞を、96 wellに5000個/wellずつFACSにてソーティングし、一晩静置した後、IBL社製ポリクロナール抗体であるSDC4抗体を、10 ug/mlとなるように加え、Day4にWST8にて細胞の生存度を測定した。その結果、抗SDC4抗体は、いずれの正常細胞にも比較的毒性を示さなかった(図12-5)。
また、BJ-5ta正常包皮由来線維芽細胞株、HPNE正常膵管由来上皮細胞を、96 wellに5000個/wellとなるように播き、一晩静置した後、IBL社製ポリクロナール抗体であるSDC4抗体又はIgG抗体(NCとして)を、20 ug/mlとなるように加え、48hr, 72hrにWST8にて細胞の生存度を測定した。その結果、抗SDC4抗体は、いずれの正常細胞にも比較的毒性を示さなかった(図12-6)。
【0127】
(3)マウス皮下固形腫瘍モデルにおける抗SDC4抗体の抗腫瘍効果
ヌードマウスの皮下にsuper Panc-1 CSC 膵臓癌癌幹細胞 3×106個/Tumorを移植し、体積が約70 mm3に達した時点で、IBL社製ポリクロナール抗体であるSDC4抗体又はIgG抗体を、2日に一回、毎回100 ug/mlあるいは25 ug/mlを1 mlにてマウスに腹腔内注射した。その結果、未処置群(control)及びネガティブコントロール投与群(IgG 100ug)と比較して、SDC4 100 ug及びSDC4 25 ug投与群では著しい抗腫瘍効果を認めた。Day5及びDay9では、SDC4投与群はcontrol及びNCと比較して腫瘍の体積が有意に小さかった(図12-7)。
【0128】
実施例5 中皮腫に対するSDC4標的治療の抗腫瘍効果
(1)中皮腫細胞株に対するSdc4標的siRNAの抗腫瘍細胞効果
Cancer Cell Line Encyclopedia(CCLE)のデータベースによると、中皮腫細胞(mesothelioma)のSDC4 mRNA発現量は全体3位と高い。そこで、市販のSDC4標的siRNA#2、本発明者らが独自に設計したsiRNA#7、ネガティブコントロールsiRNA NCを用いて、2種類の中皮腫細胞株MSTO-211HとH2052に対する抗腫瘍細胞効果を検証した。96 wellに5000個/wellずつFACSにてソーティングし、一晩静置した後、siRNA 10 pmol/wellをlipofectamine2000にて導入して、72h後にWST8にて細胞の生存度を測定した。その結果、SDC4標的siRNAは著しい抗腫瘍細胞効果を示した(図13-1)。
(2)中皮腫細胞株及びそのがん幹細胞分画に対する抗SDC4抗体の抗腫瘍細胞効果
中皮腫細胞株H2452とH28に対する抗腫瘍細胞効果を検証した。96 wellに5000個/wellずつFACSにてソーティングし、一晩静置した後、IBL社製ポリクロナール抗体であるSDC4抗体(poly)又はIgG抗体(NC)を、10及び20 ug/mlとなるように加え、48hr, 72hr後にWST8にて細胞の生存度を測定した。その結果、抗SDC4抗体は著しい抗腫瘍細胞効果を示した(図13-2)。
CD24は中皮腫の癌幹細胞マーカーとして知られており、CD24陽性細胞はがん幹細胞としての性質が強いと文献報告されている。H2452のCD24陽性率が3.7%であるのに対し、H28のCD24陽性率は81.8%と高い。H2452と比較して、H28に対するSDC4の抗体は、より早期に(72hより48hr)かつより著しい抗腫瘍細胞効果を示した。従って、抗SDC4抗体は、中皮腫癌幹細胞にはとりわけ強い抗腫瘍細胞効果があることがわかった。
そこで、中皮腫細胞株H28を96 wellに10000個/wellとなるように撒き、更にCD24陽性上位40%の細胞を、FACSにて96 wellに10000個となるようにソーティングし、一晩静置した後、IBL社製ポリクロナール抗体であるSDC4抗体(poly)又はIgG抗体(NC)を、20 ug/mlとなるように加え、96hr後にWST8にて細胞の生存度を測定した。その結果、抗SDC4抗体は、未分画のH28に対して著しい抗腫瘍細胞効果を示したのみならず、CD24強陽性のH28細胞群により著しい抗腫瘍細胞効果を示した(図13-3)。
【産業上の利用可能性】
【0129】
SDC4は、既知のがん幹細胞マーカーよりも優れたがん幹細胞マーカーであるので、SDC4発現を指標としてがん幹細胞を検出・選別することは、がん幹細胞の同定及びその研究利用において、有用である。
さらに、SDC4は単なるマーカーではなく、がん幹細胞に対する治療の標的となるため、SDC4を標的とする核酸等の薬剤は、がん幹細胞の除去、ひいてはがんの根治療法に利用することができ、極めて有用である。
【0130】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図9-4】
図9-5】
図9-6】
図9-7】
図9-8】
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図12-4】
図12-5】
図12-6】
図12-7】
図13-1】
図13-2】
図13-3】
【配列表】
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