(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】起泡済み食材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 9/20 20160101AFI20240308BHJP
A23G 9/04 20060101ALI20240308BHJP
A23L 3/36 20060101ALI20240308BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240308BHJP
【FI】
A23L9/20
A23G9/04
A23L3/36 A
A23L19/00 A
(21)【出願番号】P 2021562290
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2019047638
(87)【国際公開番号】W WO2021111591
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】519431188
【氏名又は名称】FULLLIFE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137394
【氏名又は名称】横井 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】豊田 剛史
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-187843(JP,A)
【文献】特開2011-147422(JP,A)
【文献】特開2019-170330(JP,A)
【文献】国際公開第2019/116473(WO,A1)
【文献】特開2011-026207(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0069427(KR,A)
【文献】特開平08-173075(JP,A)
【文献】特開平04-316469(JP,A)
【文献】山田 修平 ほか,イチゴのポリフェノール成分,日本食品化学学会誌,1998年,Vol. 5, No. 2,P. 201-205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00 - 9/52
A23L 7/117- 9/20
A23L 19/00 -19/20
A23L 29/212-29/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーム原料に、
イチゴの茎又は葉から抽出された、
イチゴ果実の果汁に比べて色が薄い抽出物を混合して起泡させ、クリーム状食品を得る起泡ステップと、
起泡したクリーム状食品を成形する成形ステップと、
成形したクリーム状食品を冷凍する冷凍ステップと
を有し、
前記起泡ステップにおいて、前記クリーム原料に対し、体積比で0.5%以上かつ10%未満となるように、抽出された抽出物を加えて起泡させる
起泡済み冷凍食材の製造方法。
【請求項2】
イチゴの茎又は葉を85℃以上125℃以下で10分以上加熱して、
イチゴ果実の果汁に比べて色が薄い抽出液を抽出する抽出ステップと、
クリーム原料に対し、体積比で0.5%以上かつ10%未満となるように、抽出された抽出液を加えて起泡させ、クリーム状食品を得る起泡ステップと、
起泡したクリーム状食品を成形する成形ステップと、
成形したクリーム状食品を冷凍する冷凍ステップと
を有する起泡済み冷凍食材の製造方法。
【請求項3】
前記抽出ステップは、85℃以上95℃以下で30分以上、又は、115℃以上125℃以下で10分以上の条件で、
イチゴの茎又は葉から熱水抽出する
請求項2に記載の冷凍食材の製造方法。
【請求項4】
起泡されているクリーム状食品と、
前記クリーム状食品に添加された、
イチゴの茎又は葉から抽出された、
イチゴ果実の果汁に比べて色が薄い抽出物と、
を有し、
前記抽出物は、
前記クリーム状食品に対し、体積比で0.5%以上かつ10%未満である
起泡済み食材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡済み食材、その製造方法、及び、イチゴの茎又は葉からの抽出部に係り、更に詳しくは、クリーム状食品を起泡させる起泡済み食材の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
生クリーム、アイスクリーム、ソフトクリームなどのクリームは、空気を混ぜ込んで起泡させることにより、適度な柔らかさを保ちつつ、多彩な形状に成形することができる。このため、起泡させたクリームは、デザートなどの食品のデコレーションに広く用いられている。
【0003】
この様な起泡後のクリームは、室温で長時間放置すると、起泡状態が維持できなくなって形状が崩れてしまうため、低温で保存する必要がある。これに対し、例えば、特許文献1には、イチゴの果実から抽出された抽出液を加えることにより、クリームの保形性を向上させ、起泡後のクリームの形状を室温で長時間維持することが記載されている。
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のクリームでは、起泡後のクリームの形状を室温で長時間維持することができるが、イチゴの果実に由来する色がクリームで発色してしまい、外観上の制約から用途が限られるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも汎用性が高く、かつ、室温で起泡後の形状をより長時間維持することのできる起泡済み食材を提供することを目的とする。更に、本発明は、断熱性を高めて、室温で起泡後の形状をより長時間維持することのできる起泡済み食材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の事情に鑑みて、鋭意検討を行った結果、果物の茎又は葉から抽出された抽出物を添加することによって、形状を室温で長時間維持する効果があることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
第1の本発明による起泡済み冷凍食材の製造方法は、クリーム原料に、果物の茎又は葉から抽出された抽出物を混合して起泡させ、クリーム状食品を得る起泡ステップと、起泡したクリーム状食品を成形する成形ステップと、成形したクリーム状食品を冷凍する冷凍ステップとを有する。
【0009】
第2の本発明による起泡済み冷凍食材の製造方法は、果物の茎又は葉を85℃以上125℃以下で10分以上加熱して、抽出液を抽出する抽出ステップと、クリーム原料に対し、体積比で0.5%以上かつ10%未満となるように、抽出された抽出液を加えて起泡させ、クリーム状食品を得る起泡ステップと、起泡したクリーム状食品を成形する成形ステップと、成形したクリーム状食品を冷凍する冷凍ステップとを有する。
【0010】
前記抽出ステップは、85℃以上95℃以下で30分以上、又は、115℃以上125℃以下で10分以上の条件で、果物の茎又は葉から熱水抽出する。
【0011】
第3の本発明による起泡済み食材は、起泡されているクリーム状食品と、前記クリーム状食品に添加された、果物の茎又は葉から抽出された抽出物とを有する。
【0012】
前記抽出物は、85℃以上95℃以下で30分以上、又は、115℃以上125℃以下で10分以上の条件で、イチゴの茎又は葉から熱水抽出して得られたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の起泡済み食品は、従来品に比して汎用性が高く、高い保形性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】イチゴの茎及び葉を煮詰めた抽出液の色と、イチゴ果実の果汁(比較例)の色とを比較する図である。
【
図2】イチゴの茎及び葉からの抽出液を0.5%添加したクリームと、イチゴ濃縮果汁を1.0%添加したクリーム(比較例)との保形性(開始から30分)を比較した図である。
【
図3】イチゴの茎及び葉からの抽出液を0.5%添加したクリームと、イチゴ濃縮果汁を1.0%添加したクリーム(比較例)との保形性(60分~75分)を比較した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のクリーム状食品は、起泡させることのできる水中油型乳化物であり、具体的には、生クリームや、起泡前のアイスクリーム、ソフトクリームなどがある。生クリームは、乳脂肪分18%以上のものに限定されず、例えば、乳脂肪分に安定剤や乳化剤を添加したものであってもよいし、植物性脂肪分に脱脂粉乳、乳化剤、安定剤及び水等を加えた合成クリームであってもよい。また、アイスクリームは、乳固形分を含み、起泡されることにより製造される氷菓子であり、乳固形分15%以上のものに限定されない。
【0016】
本実施の形態のクリームは、クリーム状食品や、クリーム状食品と果物の茎又は葉からの抽出物との混合物の総称である。クリームには、起泡前のものも起泡後のものも含まれ、例えば、イチゴの茎又は葉から熱水抽出された抽出物を加えて起泡させて製造されるアイスクリームや、その中間産物が含まれる。
【0017】
以下、本発明の起泡済み食材及びその製造方法について説明する。本発明の起泡済み食材は、クリーム状食品に、果物の茎又は葉から抽出された抽出物を加えて起泡させたものである。クリーム状食品に、茎又は葉の抽出物を加えることにより、外観への影響を抑えつつ、起泡後のクリームの保形性を向上させ、クリームの形状を室温で長時間維持することができる。また、従来、起泡後のクリームを冷凍及び解凍した場合、クリームの水分と油脂とが分離する離水という現象が起こり、クリームの起泡状態が維持できなくなるという問題があった。特に、クリーム状食品が生クリームの場合、起泡後のクリームを冷凍すると離水してしまうため、起泡後のクリームを長期保存することができないという問題があった。これに対し、本発明では、クリーム状食品に茎又は葉の抽出物を加えて起泡させることにより、冷凍時及び解凍時の離水を抑制することができる。また、離水を抑制することにより、冷凍前の味を解凍後も維持することができる。特に、クリーム状食品が生クリームの場合、起泡後のクリームを離水することなく冷凍保存することができるので、利便性が大きい。
【0018】
<果物の茎又は葉からの抽出物>
本発明の抽出物は、果物の茎又は葉に加熱、破砕等の加工を行った食品である。この抽出物に使用する果物は、ペクチンやクエン酸、ポリフェノールを多く含む果実であることが望ましい。例えば、イチゴ、オレンジ、リンゴ、桃、ブドウ、ブルーベリー、レモン、メロン、バナナ及びマンゴーなどが好適である。また、2種類以上の果実の組み合わせであってもよい。特に、イチゴの茎又は葉を使用した抽出物では、起泡後のクリームの長時間の形状維持や、離水抑制の顕著な効果があることが確認されている。
【0019】
また、本発明によれば、特許文献1に記載の様に、イチゴの果実を使用した場合に比べ、クリームへの添加量を少なくすることができる。このため、クリームの口どけのよさを損なうことがなく、かつ、外観上の影響を抑えることができる。また、果実を使用した場合に比べて、クリームの味への影響も抑えることができる。
【0020】
また、本発明の抽出物としては、特にイチゴの茎又は葉から水で抽出した水溶性成分のみであることが望ましい。果実や茎、葉の不溶成分を除去することにより、起泡後のクリーム中で抽出物の濃度が一定になる。このため、クリーム中で起泡状態を維持する効果にムラが生じることがない。不溶成分とは、水に溶解していない成分をいい、例えば、ろ過することにより除去される。
【0021】
更に、抽出物を製造する際、果物の茎又は葉を煮詰めた後に不溶成分を除去することが望ましい。不溶成分を除去する前に果物の茎又は葉を煮詰めることにより、不溶成分に含まれるポリフェノールが抽出液中に溶け出し、抽出液に含まれるポリフェノールの量を増やすことができる。ポリフェノールには、界面活性剤としての性質があり、クリームの起泡状態を維持することができる。このため、上述した様にポリフェノールの濃度を高める方法で抽出物を製造することによって、起泡後のクリームの長時間の形状維持及び離水抑制のいずれについても更に顕著な効果を得ることができる。ポリフェノールは、例えば、イチゴ、オレンジ、リンゴ、桃、ブドウ、ブルーベリー、レモン、メロン、バナナ及びマンゴーなどに含まれる。
【0022】
<その他の材料>
本発明では、クリーム状乳製品、茎又は葉の抽出物、あるいは、これらの混合物に甘味料を加えることができる。甘味料には、例えば、砂糖、粉糖、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、水飴、オリゴ糖、トレハロース、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、はちみつ及びサッカリン等が含まれる。
【0023】
本発明では、上述した成分以外に例えば、チョコレート、抹茶、卵加工品、香料、着色料及び保存料等を適宜選択して加えることができる。
【0024】
<起泡済み食材の製造工程>
本発明の起泡済み食材は、以下の工程により製造できる。
(A)茎又は葉の抽出物をクリーム状食品に加えて起泡させる工程
(B)起泡後のクリームを成型する工程
以下、(A)及び(B)の各工程について詳しく説明する。
【0025】
工程(A):
クリーム状食品に茎又は葉の抽出物を加える。このとき、起泡前の状態で、クリーム状食品の体積の0.5%以上の抽出物を加えることが望ましい。この割合で抽出物を加えることにより、起泡後のクリームでは、長時間の形状維持及び離水抑制のいずれについても顕著な効果を得ることができる。特に、抽出物の割合は、特許文献1の場合(2%以上)に比べて、少なくしても、保形性の効果が得られる。
【0026】
次に、クリーム状食品及び抽出物の混合物を起泡させる。抽出物に含まれるペクチンやポリフェノールの作用により、抽出物を加えない場合に比べ、短時間で容易に起泡させることができる。
【0027】
工程(B):
起泡させたクリームを成形する。例えば、クリームを容器に盛り付け、あるいは、口金を使ってクリームの搾り出しを行う。工程(A)及び(B)により製造される菓子の例としては、ケーキ、ムース、パフェ、アイスクリーム、ソフトクリームなどがある。
【0028】
本発明によれば、成形後のクリームの形状を室温で長時間維持することができる。また、冷解凍時のクリームの離水を抑制することができるので、成形した後のクリームを冷凍保存することができる。具体的には、クリームをデコレーションした状態の菓子を長期保存することができる。更に、クリームの冷解凍を繰り返したとしてもクリームの離水が抑制されるので、流通時の温度管理が容易になる。なお、本発明では、起泡後のクリームを成形する工程は必須ではなく、省略することができる。
【実施例1】
【0029】
イチゴの茎及び葉を煮詰めてから搾汁し、抽出液を生成し、更に加熱して濃縮し、固形分65質量%の濃縮抽出液を得た。固形分20~30質量%の純乳脂肪の生クリーム100mlに対し、この濃縮抽出液5mlと砂糖100gとを加え、濃縮抽出液のだまがなくなるまで混ぜ合わせ、更に起泡させてクリームを得た。起泡させたクリームを静置すると、つのが立つ程度の固さになった。
【0030】
図1は、イチゴの茎及び葉を煮詰めた抽出液の色と、イチゴ果実の果汁の色とを比較する図である。
図1に示すように、イチゴ果実の果汁は、濃い赤色を発色しており、クリーム等の外観に影響する。一方、茎及び葉からの抽出液は、イチゴ果実の果汁に比べて色が薄く、クリーム等の食品の外観への影響は抑えられる。
【0031】
図2及び
図3は、イチゴの茎及び葉からの抽出液を0.5%添加したアイスクリームと、イチゴ濃縮果汁を1.0%添加したアイスクリーム(比較例)との保形性を比較した図である。
図2及び
図3からわかるように、イチゴの茎及び葉からの抽出液は、イチゴ濃縮果汁よりも少ない添加量であっても、同等以上の保形性を発揮する。
なお、生クリーム100mlに固形分39%のイチゴ濃縮果汁を2ml以上添加すると、生クリームにイチゴの酸味が加わり、味に影響してしまう。
【0032】
[変形例1]
上記実施例の変形例として、高温高圧でイチゴの茎及び葉から濃縮抽出液を抽出して、クリーム状食品の保形性をさらに向上させた例を説明する。変形例1では、1.5気圧以上3.0気圧以下の高圧下で、イチゴの茎及び葉を150℃以上250℃以下に加熱して、濃縮抽出液を抽出する。より具体的には、1.9気圧以上2.2気圧以下の高圧下で、イチゴの茎及び葉を190℃以上210℃以下で煮詰めた後に不溶成分を除去して、濃縮抽出液を抽出する。
このように抽出された濃縮抽出液を、クリーム状食品に対し、体積比で0.5%以上かつ10%未満となるように加えて起泡させる。
起泡した混合物を成形し、冷凍することにより、保形性の高いアイスクリーム様食品が製造される。