(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】複合ポリマー固体電解質材料とその調製方法および使用
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20240308BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240308BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240308BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240308BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240308BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20240308BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0565
H01M10/052
C08L101/00
C08K3/08
C08K3/105
C08K5/00
(21)【出願番号】P 2022576121
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(86)【国際出願番号】 CN2020121426
(87)【国際公開番号】W WO2021248766
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】202010522368.X
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512000569
【氏名又は名称】華南理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】朱 敏
(72)【発明者】
【氏名】劉 雨軒
(72)【発明者】
【氏名】胡 仁宗
(72)【発明者】
【氏名】劉 軍
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105655635(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102709597(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110071327(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108933047(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102208680(CN,A)
【文献】特開2019-121609(JP,A)
【文献】特表2019-530175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0565
H01M 10/052
C08L 101/00
C08K 3/08
C08K 3/105
C08K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合ポリマー固体電解質材料であって、
前記複合ポリマー固体電解質材料は、ポリマー電解質、リチウム塩、フィラーおよび有機溶媒で調製され、
前記フィラーはリチウム合金であり、前記リチウム塩は、リチウムイオン電池に用いられるリチウム塩であり、
前記有機溶媒は、1,3-ジオキソランまたは2-メチル-1,3-ジオキソランの1つ以上を含み、
前記リチウム合金は、一般式Li
xMを有し、ここで、Mは金属元素または非金属元素であり、x≧1、xはLi/Mの原子比であり、リチウム合金は、Li
xMのうちの1つ以上であることを特徴とする、複合ポリマー固体電解質材料。
【請求項2】
前記リチウム合金におけるMは、Si、GeまたはSnであることを特徴とする、請求項1に記載の複合ポリマー固体電解質材料。
【請求項3】
前記リチウム合金は、Li
21Si
5、Li
21Ge
5およびLi
21Sn
5の1つ以上であることを特徴とする、請求項2に記載の複合ポリマー固体電解質材料。
【請求項4】
前記リチウム塩は、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウムまたはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのいずれか一つ以上であり、
前記ポリマー電解質は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートまたはポリフッ化ビニリデンおよびこれらの共重合体のうちの1つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の複合ポリマー固体電解質材料。
【請求項5】
前記フィラーの質量は、ポリマー電解質、リチウム塩およびフィラー総質量に対して1%~30%を占め、
前記ポリマー電解質とリチウム塩の質量比は、1:0.1~1:0.8であり、
前記有機溶媒は、さらに補助溶媒を含み、前記補助溶媒は、エーテル系またはエステル系有機溶媒であり、
前記有機溶媒とポリマー電解質との体積質量比は、(15~30)mL:1gであることを特徴とする、請求項1に記載の複合ポリマー固体電解質材料。
【請求項6】
前記補助溶媒は、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチルまたはジメチルホルムアミドの1つ以上であることを特徴とする、請求項5に記載の複合ポリマー固体電解質材料。
【請求項7】
フィラー、ポリマー電解質およびリチウム塩を有機溶媒中で混合し、混合物を得る工程1)と、
前記混合物から膜を形成し、複合ポリマー電解質材料を得る工程2)と、を含むことを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の複合ポリマー固体電解質材料の調製方法。
【請求項8】
前記有機溶媒は、主溶媒および補助溶媒であり、前記主溶媒は、1,3-ジオキソランまたは2-メチル-1,3-ジオキソランの1つ以上であり、前記補助溶媒は、エーテル系またはエステル系有機溶媒であり、前記補助溶媒と主溶媒の体積比は0.1:1~5:1であり、
前記膜を形成とは、基材上に混合物を流し込み、無水・無酸素環境下で60℃~100℃で6h~24h乾燥し、剥離し、膜材料を得ることを特徴とする、請求項7に記載の複合ポリマー固体電解質材料の調製方法。
【請求項9】
複合ポリマー固体電解質は、イオン伝導体またリチウムイオン電池の分野で使用されることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の複合ポリマー固体電解質材料の使用。
【請求項10】
正極と、負極と、正極と負極の間に配置された固体電解質とを含み、
前記固体電解質は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の複合ポリマー固体電解質材料であることを特徴とする、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質材料の技術分野に関し、特には、複合ポリマー固体電解質材料とその調製方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
実用化されているリチウムイオン電池は、電力用電池や大規模エネルギー貯蔵に求められる高エネルギー密度、高安全性、長寿命といった要件をほとんど満たしていない。従来の液体電解質は、可燃性で使用中に液漏れしやすく、電池の使用温度範囲外であると安定性が十分でない。固体電解質は、機械的特性が高く、液漏れがなく、かつ高温での安定性に優れている。そのため、従来の液体電解質に代わって固体電解質を用いることが、安全性が高く、エネルギー密度の高いリチウム電池の開発のカギを握っている。
【0003】
ポリマー電解質は、柔らかく曲げやすいため、電極-電解質界面での接触性が良く、無機固体電解質に比べて加工性に優れており、ポリマー電解質の工業生産に有利である。しかし、単一成分の固体電解質では、高イオン伝導度、低界面インピーダンス、高安定性、量産性という条件のうち、一つ以上を同時に満たすことは困難である。例えば、ポリマー電解質として最初に発見され、広く研究されてきたポリエチレンオキサイドは、その半結晶性という性質から、その用途に制限がある。半結晶のポリエチレンオキサイドでは、マトリックスの非晶質領域でのみイオンフローが起こるため、室温でのイオン伝導度は10-6~10-8 S・cm-1しかなく、実用にはほど遠い。そのため、複合電解質は、固体電解質の応用を実現するための妥協案として、電解質成分間の相補的な優位性を実現し、複合電解質の電気化学的性能を高めることが考えられている。無機物をフィラーとしてした複合ポリマー電解質では、無機フィラーとポリマー間の界面におけるリチウムイオンの高速輸送チャンネルが複合ポリマー電解質のイオン伝導度を高めるために重要であり、リチウムイオンが高速移動する界面を設計することがポリマーマトリックスの低いイオン伝導度に有効であることが示されている。
【0004】
複合ポリマー固体電解質に配合される既存のフィラーは、特許文献1、特許文献2のようなナノセラミックフィラー、特許文献3のようなイオン液体、特許文献4のような有機マイクロ・ナノ多孔質粒子などが主に使用されている。上記のこれらのフィラーの添加によるポリマー電解質のイオン伝導度の向上は、フィラーがポリマーマトリックスと相互作用してリチウムイオン輸送のためのチャネルを形成する一方で、ポリマーの結晶化度が低下することに要約される。
【0005】
しかしながら、現在開示されているフィラーによって調製された複合電解質は、フィラーとポリマー電解質間の界面相互作用が弱いため、これらの界面輸送チャンネルにおけるリチウムイオンの移動速度が低く、したがって、これらのフィラーは、ポリマーマトリックスのイオン伝導度を高めるのに限界がある。一方、既存の複合ポリマー電解質材料は、フィラー複合の微細構造の調節や高速イオン移動チャネルの設計が不十分であった。これらの要因は、現在調製されている複合ポリマー電解質材料の実用化において、満足のいく性能を発揮できない要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国特許出願公開第105655635号明細書
【文献】中国特許出願公開第102709597号明細書
【文献】中国特許出願公開第104538670号明細書
【文献】中国特許出願公開第106654363号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、既存のポリマー電解質の問題点に基づき、複合ポリマー固体電解質材料とその調製方法を提案することにある。本発明の複合ポリマー固体電解質材料は、広い温度範囲にわたって良好なイオン伝導度を有する。
【0008】
本発明のさらなる目的は、前記複合ポリマー固体電解質材料の応用を提供することである。前記複合ポリマー固体電解質材料は、リチウム電池用固体電解質としての応用に使用される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、以下の技術的解決手段によって達成される。
【0010】
複合ポリマー固体電解質材料は、ポリマー電解質、リチウム塩、フィラーおよび有機溶媒との成分から調製され、
前記フィラーはリチウム合金であり、前記リチウム塩は、リチウムイオン電池に用いられるリチウム塩である。
【0011】
前記リチウム塩は、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、またはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのいずれか1つ以上であることが好ましく、
前記リチウム合金は、一般式LixMを有し、ここで、Mは金属元素または非金属元素であり、x≧1、xはLi/Mの原子比であり、リチウム合金は、LixMの1つ以上である。
【0012】
前記リチウム合金におけるMは、Si、Ge又はSnであることが好ましい。
【0013】
前記リチウム合金は、より好ましくは、Li21Si5,Li21Ge5,Li21Sn5の1つ以上である。
【0014】
前記有機溶媒は、1,3-ジオキソランまたは2-メチル-1,3-ジオキソランの1つ以上を含む。
【0015】
前記有機溶媒は、さらに補助溶媒を含み、前記補助溶媒は、エーテル系またはエステル系有機溶媒であり、具体的には、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチルまたはジメチルホルムアミド(DMF)の1つ以上である。
【0016】
前記フィラーの質量は、ポリマー電解質、リチウム塩およびフィラー総質量に対して1%~30%を占める。前記ポリマー電解質とリチウム塩の質量比は、1:0.1~1:0.8である。
【0017】
前記ポリマー電解質は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートまたはポリフッ化ビニリデンおよびこれらの共重合体のうちの1つ以上である。
【0018】
前記有機溶媒とポリマー電解質との体積質量比は、(15~30)mL:1gである。
【0019】
前記複合ポリマー固体電解質材料は、25~200μmの厚さの膜状である。
【0020】
前記複合ポリマー固体電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
フィラー、ポリマー電解質およびリチウム塩を有機溶媒中で混合し、混合物を得る工程1)と、
前記混合物から膜を形成し、複合ポリマー電解質材料を得る工程2)と、を含む。
【0021】
前記有機溶媒は、主溶媒および補助溶媒であり、前記主溶媒は、1,3-ジオキソランまたは2-メチル-1,3-ジオキソランの1つ以上であり、前記補助溶媒は、エーテル系またはエステル系有機溶媒であり、具体的には、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチルまたはジメチルホルムアミドの1つ以上である。補助溶媒は粘度を調整する。
【0022】
前記有機溶媒とポリマー電解質との体積質量比は、(15~30)mL:1gである。前記補助溶媒と主溶媒の体積比は0.1:1~5:1である。
【0023】
前記成膜とは、具体的には、基材上に混合物を流し込み、無水・無酸素環境下で60℃~100℃で6h~24h乾燥し、剥離し、膜材料を得る。
【0024】
前記固体電解質は、30℃におけるイオン伝導度が3×10-5 S/cm以上である。
【0025】
上記複合ポリマー固体電解質は、イオン伝導体またリチウムイオン電池の分野で使用される。
【0026】
リチウムイオン電池は、正極と、負極と、正極と負極の間に配置された固体電解質とを含み、固体電解質は上記複合ポリマー固体電解質である。
【0027】
本発明の原理は、リチウム合金と有機溶媒との反応を利用して、1,3ジオキソランに基づく環状溶媒の開環を行い、リチウム合金の表面にリチウムイオンの高速移動を可能とする有機層をその場で形成するものである。この有機層はリチウム塩含有ポリマー電解質中にリチウム合金とともに均一に分散し、リチウム塩含有ポリマーマトリックスと相互作用することで、ポリマーマトリックス中に多数のイオン高速移動用チャネルを形成し、ポリマーイオン伝導度を高めるために極めて重要な役割を果たすことになる。同時に、ナノスケールのリチウム合金フィラーがポリマーマトリックスと相互作用することで、周囲の規則的な結晶鎖セグメントが破壊され、ポリマーマトリックス中の非晶質領域の割合が高くなる。ポリマー電解質中のリチウムイオンの移動は、主にポリマー中の非晶質領域が寄与しているため、非晶質領域の上昇により、複合ポリマー電解質のリチウムイオン移動能力をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
先行技術と比較して、本発明の有益な効果は、以下の通りである。
【0029】
(1)本発明では、ポリマー固体電解質とフィラーの間に、液体電池と類似するリチウムリッチ固体電解質界面を構築し、これらのポリマー電解質に構築された界面は、電池でのリチウムイオンの高速移動のためのチャネルを提供し、ポリマー電解質のイオン伝導度は大幅に増加する。本発明の複合ポリマー固体電解質は、従来の電池の隔膜と電解質を室温で置き換えることができ、全固体リチウム電池のサイクルを実現することができる。また、従来の液体電解質を置き換えることで、本固体電解質を適用したリチウム電池の温度制御システムを追加で構成する必要がなくなる。
【0030】
(2)本発明に記載の上記調製方法は、汎用的に使用できる。主な材料であるポリマー電解質とリチウム塩は広く入手可能で安価であり、この方法を用いて異なるポリマー電解質とリチウム塩の組み合わせが複合ポリマー固体電解質を調製でき、調製した固体電解質はサイクル安定性が良好であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施例1で調整した複合ポリマー電解質材料の断面高分解能走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例1、2、3および比較例1、2、3で調整した異なるリチウム合金と他の無機フィラーを配合したポリマー電解質の電気伝導度の温度依存性を示すグラフである。
【
図3】Li
21Si
5フィラーの含有量による、実施例1、4、5および比較例1で調整した複合ポリマー電解質の伝導度の変化を示すグラフである。
【
図4】実施例6で調整した複合ポリマー電解質を用いたリチウム対称型電池の充放電サイクル性能を示すグラフである。
【
図5】実施例1、7で調整した複合ポリマー電解質、リン酸鉄リチウム正極、およびリチウム金属正極を用いて組み立てた全固体リチウム金属電池サイクル性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施形態に即してさらに詳細に説明するが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。
【0033】
実施例1
ポリマー電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)粉末、アラジン(Aladdin)社製、平均分子量は600,000である。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
リチウム合金:リチウムシリコン合金Li21Si5、熱反応法による自作、自作方法は具体的なプロセスで説明する。
有機溶媒:1,3ジオキソラン(DOL)およびエチレングリコールジメチルエーテル(DME)、Macklin社製。
【0034】
リチウムシリコン合金Li21Si5の調製。
アルゴン雰囲気下で、リチウムペレットとシリコン粉末を実質21:5の割合(リチウムペレット約0.52g、シリコン粉末約0.48g)で混合し、加熱台上に置いて200℃に加熱し、リチウムペレットを液体リチウムに溶かし、撹拌してリチウムシリコン合金粉末とした。さらにリチウムシリコン合金Li21Si5の純度を向上させ、リチウムシリコン合金の粒径を小さくするために、粉末をボールミルジャーに充填し、粉砕ボールと混合粉末の比率が50:1、ボールミリング時間が20時間、回転数が1000rpmの振動ボールミリングによってリチウムシリコン合金粉末を微細化し、1000rpm,Li21Si5リチウムシリコン合金粉末(粒径200~300nm)を調製した。
【0035】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0036】
DOLおよびDMEをそれぞれ10mL計量してよく混合し、PEO:LiTFSIの質量比が1:0.4となるようにPEO 1gおよびLiTFSI 0.4gを計量し、リチウムシリコン合金Li21Si5が粉末の総質量に対して5%となるように、Li21Si5粉末を74mg計量して、PEO、LiTFSIとLi21Si5を上記DOLとDMEの混合有機溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、リチウムシリコン合金Li21Si5を添加したPEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0037】
実施例1で調整した複合ポリマー電解質の断面形態、すなわち高分解能走査型電子顕微鏡写真を
図1に示す。
【0038】
実施例1で調整した複合ポリマー電解質を、表面を研磨した2枚のステンレス基板で挟み込み、異なる温度でACインピーダンス分析を行い、異なる温度に対応するイオン伝導度を得た。実施例1で調整した複合ポリマー電解質について、広い温度範囲での伝導度の温度依存を
図2、
図3に示す。
【0039】
実施例1で調製した複合ポリマー電解質を正極リン酸鉄リチウムと負極金属リチウムとで組み立てて全固体リチウム金属電池とし、その45℃、0.2C条件でのサイクル性能を
図5に示した。30℃、0.2℃で100サイクル後の容量は140.5mA h g-1、45℃、0.5℃で200サイクル後の容量は1110.8mA h g-1であった。
【0040】
実施例2
ポリマー電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)粉末、アラジン(Aladdin)社製、平均分子量は600,000である。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
リチウム合金:リチウムゲルマニウム合金Li21Ge5、熱反応法による自作、実施例1のLi21Si5と同様の方法で自作し、シリコン粉末をGeに置き換える。
有機溶媒:1,3ジオキソラン(DOL)およびエチレングリコールジメチルエーテル(DME)、Macklin社製。
【0041】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0042】
DOLおよびDMEをそれぞれ10mL計量してよく混合し、PEO:LiTFSIの質量比が1:0.4となるようにPEO 1gおよびLiTFSI 0.4gを計量し、リチウムゲルマニウム合金Li21Ge5が粉末の総質量に対して5%となるようにLi21Ge5粉末を74mg計量して、PEO、LiTFSIおよびLi21Ge5を上記DOLとDMEの混合有機溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、リチウムゲルマニウム合金Li21Ge5を添加したPEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0043】
イオン伝導度の温度依存をテストした実施例1と同様に、実施例2で調製した複合ポリマー電解質について、広い温度範囲における伝導度の温度依存を
図2に示す。
【0044】
実施例3
ポリマー電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)粉末、アラジン(Aladdin)社製、平均分子量は600,000である。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
リチウム合金:リチウム錫合金Li21Sn5、熱反応法による自作、上記Li21Si5と同様の方法で自作し、シリコン粉末をSnに置き換える。
有機溶媒:1,3ジオキソラン(DOL)およびエチレングリコールジメチルエーテル(DME)、Macklin社製。
【0045】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0046】
DOLおよびDMEをそれぞれ10mL計量してよく混合し、PEO:LiTFSIの質量比が1:0.4となるようにPEO 1gおよびLiTFSI 0.4gを計量し、リチウム錫合金Li21Sn5が粉末の総質量に対して5%となるようにLi21Sn5粉末を74mg計量して、PEO、LiTFSIおよびLi21Sn5を上記DOLとDMEの混合有機溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、リチウム錫合金Li21Sn5を添加したPEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0047】
イオン伝導度の温度依存をテストした実施例1と同様に、実施例3で調製した複合ポリマー電解質について、広い温度範囲における伝導度の温度依存を
図2に示す。
【0048】
実施例4
ポリマー電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)粉末、アラジン(Aladdin)社製、平均分子量は600,000である。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
リチウム合金:リチウムシリコン合金Li21Si5、熱反応法による自作、実施例1と同様に自作した。
有機溶媒:1,3ジオキソラン(DOL)およびエチレングリコールジメチルエーテル(DME)、Macklin社製。
【0049】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0050】
DOLおよびDMEをそれぞれ10mL計量してよく混合し、PEO:LiTFSIの質量比が1:0.4となるようにPEO 1gおよびLiTFSI 0.4gを計量し、リチウムシリコン合金Li21Si5が粉末の総質量に対して10%となるようにLi21Si5粉末155mgを計量し、PEO、LiTFSIおよびLi21Si5を上記DOLとDMEの混合有機溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、リチウムシリコン合金Li21Si5を添加したPEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0051】
イオン伝導度の温度依存をテストした実施例1と同様に、実施例4で調製した複合ポリマー電解質について、広い温度範囲における伝導度の温度依存を
図3に示す。
【0052】
実施例5
ポリマー電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)粉末、アラジン(Aladdin)社製、平均分子量は600,000である。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
リチウム合金:リチウムシリコン合金Li21Si5、熱反応法による自作、実施例1と同様に自作した。
有機溶媒:1,3ジオキソラン(DOL)およびエチレングリコールジメチルエーテル(DME)、Macklin社製。
【0053】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0054】
DOLおよびDMEをそれぞれ10mL計量してよく混合し、PEO:LiTFSIの質量比が1:0.4となるようにPEO 1gおよびLiTFSI 0.4gを計量し、リチウムシリコン合金Li21Si5が粉末の総質量に対して15%となるようにLi21Si5粉末247mgを計量し、PEO、LiTFSIおよびLi21Si5を上記DOLとDMEの混合有機溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、リチウムシリコン合金Li21Si5を添加したPEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0055】
イオン伝導度の温度依存をテストした実施例1と同様に、実施例5で調製した複合ポリマー電解質について、広い温度範囲における伝導度の温度依存を
図3に示す。
【0056】
実施例6
ポリマー電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)粉末、アラジン(Aladdin)社製、平均分子量は600,000である。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
リチウム合金:リチウムシリコン合金Li21Si5とリチウムゲルマニウム合金Li21Ge5の混合リチウム合金、熱反応法による自作、実施例1と同様に自作した。
有機溶媒:1,3ジオキソラン(DOL)およびエチレングリコールジメチルエーテル(DME)、Macklin社製。
【0057】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0058】
DOLおよびDMEをそれぞれ10mL計量してよく混合し、PEO:LiTFSIの質量比が1:0.4となるようにPEOを1gおよびLiTFSI 0.4gを計量し、Li21Si5とLi21Ge5それぞれが粉末総質量に対して2.5%となるようにLi21Si5とLi21Ge5粉末それぞれ37mgを計量し、PEO、LiTFSI、Li21Si5およびLi21Ge5を上記DOLとDMEの混合有機溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、リチウムシリコン合金およびリチウムゲルマニウム合金を混合して添加したPEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0059】
実施例6で調製した複合ポリマー電解質とリチウム金属と組み立ててリチウム対称型電池とし、その30℃、0.1mA cm
-2の条件でのサイクル性能を
図4に示す。実施例6で調製した複合ポリマー解質を正極リン酸鉄リチウム、負極リチウム金属を組み立てて全固体リチウム金属電池とし、45℃、0.2Cの条件での初回放電時の容量は143.2 mA h g
-1、50サイクル後の容量は131.6mA h g
-1であり、容量保持率は92%であった。
【0060】
実施例7
ポリマー電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)粉末、アラジン(Aladdin)社製、平均分子量は600,000である。
リチウム塩:過塩素酸リチウム(LiClO4)、アラジン(Aladdin)社製。
リチウム合金:リチウムシリコン合金Li21Si5、熱反応法による自作、実施例1と同様に自作した。
有機溶媒:2-メチル-1,3-ジオキソランおよびエチレンカーボネート、Macklin社製。
【0061】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0062】
2-メチル-1,3-ジオキソラン15mLとエチレンカーボネート5mLを計量してよく混合し、PEO: LiClO4が1:0.4の質量比となるようにPEO 1g,LiClO4 0.4gを計量し、リチウムシリコン合金Li21Si5が粉末の総質量に対して5%となるようにLi21Si5粉末を74mg計量して、PEO,LiClO4とLi21Si5粉末を上記2-メチル-1,3-ジオキソランとエチレンカーボネートの混合有機溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、リチウムシリコン合金Li21Si5を添加したPEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0063】
実施例7で調製した複合ポリマー電解質を正極リン酸鉄リチウム、負極リチウム金属を組み立てて全固体リチウム金属電池とし、その45℃、0.2Cでのサイクル性能を
図5に示す。
【0064】
実施例8
ポリマー電解質:ポリプロピレンカーボネート(PPC)粉末,Macklin社製、平均分子量50,000。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
リチウム合金:リチウムシリコン合金Li21Si5、熱反応法による自作、実施例1と同様に自作した。
有機溶媒:1,3-ジオキソランおよびジメチルホルムアミド、Macklin社製。
【0065】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0066】
1,3-ジオキソラン5mLとジメチルホルムアミド5mLを計量してよく混合し、PPC: LiTFSIが1:0.2の質量比となるようにPPC 1g、LiTFSIを0.2g計量し、リチウムシリコン合金Li21Si5が粉末の総質量に対して5%となるようにLi21Si5粉末を63mg計量して、PPC、LiTFSIおよびLi21Si5粉末を上記1,3-ジオキソランおよびプロピレンカーボネートの混合有機溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、リチウムシリコン合金Li21Si5を添加したPEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0067】
実施例8で調製した複合ポリマー電解質を正極リン酸鉄リチウム、負極リチウム金属を組み立てて全固体リチウム金属電池とし、30℃、0.2Cの条件での初回放電時の容量は132.5mA h g-1、50サイクル後の容量は110mA h g-1であり、容量保持率は83%である。
【0068】
実施例9
ポリマー電解質:ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)粉末、Macklin社製,ヘキサフルオロプロピレンを12%含む。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
リチウム合金:リチウムシリコン合金Li21Si5、熱反応法による自作、実施例1と同様に自作した。
有機溶媒:1,3-ジオキソラン5mL、ジメチルホルムアミド5mL,Macklin社製。
【0069】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0070】
1,3-ジオキソラン5mLとジメチルホルムアミド5mLを計量し、PVDF-HFP: LiTFSIが1:0.3の質量比となるようにPVDF-HFP 1g、LiTFSI 0.3gを計量し、リチウムシリコン合金Li21Si5が粉末の総質量に対して5%となるようにLi21Si5粉末を68mg計量して、PVDF-HFP、LiTFSIおよびLi21Si5粉末を上記混合溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、リチウムシリコン合金Li21Si5を添加したPVDF-HFP系複合ポリマー電解質を得た。
【0071】
実施例9で調製した複合ポリマー電解質を正極リン酸鉄リチウム、負極リチウム金属を組み立てて全固体リチウム金属電池とし、その30℃、0.2Cの条件での初回放電時の容量は140.3 mA h g-1、50サイクル後の容量は124.3mA h g-1であり、容量保持率は、88.5%であった。
【0072】
比較例1
ポリマー電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)粉末、アラジン(Aladdin)社製、平均分子量は600,000である。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
有機溶媒:1,3ジオキソラン(DOL)およびエチレングリコールジメチルエーテル(DME)、Macklin社製。
【0073】
ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0074】
DOLおよびDMEをそれぞれ10mL計量してよく混合し、PEO:LiTFSIが1:0.4の質量比となるようにPEO 1g、LiTFSI 0.4gを計量し、PEOおよびLiTFSIを上記DOLとDMEの混合有機溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、PEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0075】
イオン伝導度の温度依存をテストした実施例1と同様に、比較例1で調製した複合ポリマー電解質について、広い温度範囲における伝導度の温度依存を
図2、
図3に示す。
【0076】
比較例2
ポリマー電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)粉末、アラジン(Aladdin)社製、平均分子量は600,000である。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
フィラー:純シリコン粉末、粉末粒径1μm、アラジン(Aladdin)社製。この粉末を実施例1と同様のボールミリングプロセスで処理した。
有機溶媒:1,3ジオキソラン(DOL)およびエチレングリコールジメチルエーテル(DME)、Macklin社製。
【0077】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0078】
DOLおよびDMEをそれぞれ10mL計量してよく混合し、PEO:LiTFSIの質量比が1:0.4となるようにPEOを1gおよびLiTFSIを0.4g計量し、シリコン粉末が粉末の総質量に対して5%となるようにシリコン粉末を74mg計量して、PEO、LiTFSIおよびシリコン粉末を上記DOLおよびDMEの混合有機溶媒に添加して、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、シリコン粉末を添加したPEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0079】
イオン伝導度の温度依存をテストした実施例1と同様に、比較例2で調製した複合ポリマー電解質について、広い温度範囲における伝導度の温度依存を
図2に示す。
【0080】
比較例3
ポリマー電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)粉末、アラジン(Aladdin)社製、平均分子量は600,000である。
リチウム塩:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、アラジン(Aladdin)社製。
フィラー:二酸化シリコン粉末、粉末粒径1μm、アラジン(Aladdin)社製。この粉末を実施例1と同様のボールミリングプロセスで処理した。
有機溶媒:1,3ジオキソラン(DOL)およびエチレングリコールジメチルエーテル(DME)、Macklin社製。
【0081】
複合ポリマー電解質材料の調製方法は、以下の工程を含む。
【0082】
DOLおよびDMEをそれぞれ10mL計量してよく混合し、PEO:LiTFSIの質量比が1:0.4となるようにPEO 1gおよびLiTFSI 0.4gを計量し、二酸化シリコン粉末が粉末の総質量に対して5%となるように二酸化シリコン粉末を74mg計量して、PEO、LiTFSIおよびシリコン粉末を上記DOLおよびDMEの混合有機溶媒に添加し、12時間攪拌を続けた後、清浄なポリテトラフルオロエチレンシート上に流し込み、さらに12時間60℃の温度で乾燥させることで、二酸化シリコン粉末を添加したPEO系複合ポリマー電解質を得た。
【0083】
イオン伝導度の温度依存をテストした実施例1と同様に、比較例3で調製した複合ポリマー電解質について、広い温度範囲における伝導度の温度依存を
図2に示す。
【0084】
図1は、実施例1で調整した複合ポリマー電解質材料の断面高分解能走査型電子顕微鏡写真である。
図2は、実施例1、2、3および比較例1、2、3で調整した異なるリチウム合金と他の無機フィラーを配合したポリマー電解質の電気伝導度の温度依存性を示すグラフである。
図3は、Li
21Si
5フィラーの含有量による、実施例1、4、5および比較例1で調整した複合ポリマー電解質の伝導度の変化を示すグラフである。
図4は、実施例6で調整した複合ポリマー電解質を用いたリチウム対称型電池の充放電サイクル性能を示すグラフである。
図5は、実施例1,7で調整した複合ポリマー電解質、リン酸鉄リチウム正極、およびリチウム金属正極を用いて組み立てた全固体リチウム金属電池サイクル性能を示すグラフである。
【0085】
以上の実施形態は、異なるポリマー固体電解質マトリックス、異なるリチウム塩、異なるリチウム合金フィラーおよび異なる有機溶媒成分の4つの側面から、本発明で採用したリチウム合金複合技術手法がポリマー系固体電解質の電気化学性能を高めるために広く適用可能であり有効であることを示し、またリチウム合金を用いた人工リチウム固体電解質界面の構築方法が、ポリマー電解質中のリチウムイオンの高速移動、ひいてはポリマー電解質のイオン伝導度の向上実現に、ユニークなことであると、実証できる。
【0086】
具体的には、
図2は、異なるリチウム合金フィラーを配合したポリマー固体電解質のイオン伝導度の温度による変化曲線を比較したものである。グラフから、複数のリチウム合金フィラーで配合したポリマー固体電解質のイオン伝導度は、比較例1に比べて、異なる温度で大きく向上していることがわかる。例えば、30℃において、実施例1、2、3の複合ポリマー電解質のイオン伝導度は、それぞれ3.92×10
-5 S cm
-1、2.72×10
-5 S cm
-1、1.80×10
-5 S cm
-1であり、いずれも比較例1のイオン伝導度6.89×10
-6 S cm
-1より数倍高い値であった。このことは、異なるリチウム合金フィラーが高分子固体電解質の改質において普遍的であることを示している。実施例1と比較例2,3を比較すると、実施例1のイオン伝導度は比較例2,3のイオン伝導度(それぞれ7.55×10
-6 S cm
-1、9.42×10
-6 S cm
-1)よりも数倍高く、このことは、リチウム合金フィラーを配合したポリマー固体電解質が他のフィラーよりもイオン伝導度を高める点で大きく有利であることを示す。この違いや特異性は、リチウム合金とポリマー電解質の相互作用によって形成されるリチウムリッチな人工固体電解質界面に起因している。
【0087】
好ましくは、実施例1で組み立てたフル電池テストの結果から、当該複合ポリマー電解質は、実施例1で与えられた全てのテスト条件下で、高いイオン伝導度を有し、高い容量で長サイクル安定性を達成することが示される。
【0088】
実施例1、4、5は、
図3に示すように、異なるリチウム合金含有量で配合したポリマー電解質の温度別のイオン伝導度を比較例1と比較したものである。リチウム合金で配合したポリマー電解質は、リチウム合金の含有量充填量の広い範囲でイオン伝導度が大きく向上していることがわかる。
【0089】
実施例6では、2種類のリチウム合金を配合したポリマー電解質をリチウム金属と組み立てて対称型電池を形成し、
図4に示すように、設定した条件で500サイクルの間、対称型電池は安定に推移し、1種類以上のリチウム合金フィラーを配合したポリマー電解質が電池をサイクルしてサイクル中に安定に推移できること、実施例の全固体リチウム金属電池もサイクル安定性に良好に推移することが実証された。
【0090】
実施例7のテスト結果を実施例1のテスト結果と比較すると、本発明の内容で述べた異なるリチウム塩と異なる溶媒の組み合わせを組み立てることで、サイクル性能に優れた全固体リチウム金属電池が得られることがわかり、
図5に示すように、リチウム合金複合ポリマー電解質溶液が、異なるリチウム塩や、調製プロセスにおいて異なる溶媒に対して普遍性を持っていることがわかる。
【0091】
実施例8及び9のテスト結果から、リチウム合金複合ポリマー電解質の技術手法は、異なるポリマー電解質材料に適用可能であり、そこで調製された全固体リチウム金属電池は、所定のテスト条件下で高い容量と良好なサイクル安定性を有することが示された。
【0092】
上記実施形態は本発明の好ましい実施形態であるが、本発明の実施形態は上記実施形態によって限定されるものではなく、本発明の精神および原理から逸脱することなく行われる他の変更、修正、置換、組み合わせ、簡略化は等価置換とし、本発明の保護範囲に含まれる。
【0093】
[付記]
[付記1]
複合ポリマー固体電解質材料であって、
前記複合ポリマー固体電解質材料は、ポリマー電解質、リチウム塩、フィラーおよび有機溶媒で調製され、
前記フィラーはリチウム合金であり、前記リチウム塩は、リチウムイオン電池に用いられるリチウム塩であり、
前記有機溶媒は、1,3-ジオキソランまたは2-メチル-1,3-ジオキソランの1つ以上を含み、
前記リチウム合金は、一般式LixMを有し、ここで、Mは金属元素または非金属元素であり、x≧1、xはLi/Mの原子比であり、リチウム合金は、LixMのうちの1つ以上であることを特徴とする、複合ポリマー固体電解質材料。
【0094】
[付記2]
前記リチウム合金におけるMは、Si、GeまたはSnであることを特徴とする、付記1に記載の複合ポリマー固体電解質材料。
【0095】
[付記3]
前記リチウム合金は、Li21Si5、Li21Ge5およびLi21Sn5の1つ以上であることを特徴とする、付記2に記載の複合ポリマー固体電解質材料。
【0096】
[付記4]
前記リチウム塩は、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウムまたはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのいずれか一つ以上であり、
前記ポリマー電解質は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートまたはポリフッ化ビニリデンおよびこれらの共重合体のうちの1つ以上であることを特徴とする、付記1に記載の複合ポリマー固体電解質材料。
【0097】
[付記5]
前記フィラーの質量は、ポリマー電解質、リチウム塩およびフィラー総質量に対して1%~30%を占め、
前記ポリマー電解質とリチウム塩の質量比は、1:0.1~1:0.8であり、
前記有機溶媒は、さらに補助溶媒を含み、前記補助溶媒は、エーテル系またはエステル系有機溶媒であり、
前記有機溶媒とポリマー電解質との体積質量比は、(15~30)mL:1gであることを特徴とする、付記1に記載の複合ポリマー固体電解質材料。
【0098】
[付記6]
前記補助溶媒は、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチルまたはジメチルホルムアミドの1つ以上であることを特徴とする、付記5に記載の複合ポリマー固体電解質材料。
【0099】
[付記7]
フィラー、ポリマー電解質およびリチウム塩を有機溶媒中で混合し、混合物を得る工程1)と、
前記混合物から膜を形成し、複合ポリマー電解質材料を得る工程2)と、を含むことを特徴とする、付記1から付記6のいずれか1つに記載の複合ポリマー固体電解質材料の調製方法。
【0100】
[付記8]
前記有機溶媒は、主溶媒および補助溶媒であり、前記主溶媒は、1,3-ジオキソランまたは2-メチル-1,3-ジオキソランの1つ以上であり、前記補助溶媒は、エーテル系またはエステル系有機溶媒であり、前記補助溶媒と主溶媒の体積比は0.1:1~5:1であり、
前記膜を形成とは、基材上に混合物を流し込み、無水・無酸素環境下で60℃~100℃で6h~24h乾燥し、剥離し、膜材料を得ることを特徴とする、付記7に記載の複合ポリマー固体電解質材料の調製方法。
【0101】
[付記9]
複合ポリマー固体電解質は、イオン伝導体またリチウムイオン電池の分野で使用されることを特徴とする、付記1から付記6のいずれか1つに記載の複合ポリマー固体電解質材料の使用。
【0102】
[付記10]
正極と、負極と、正極と負極の間に配置された固体電解質とを含み、
前記固体電解質は、付記1から付記6のいずれか1つに記載の複合ポリマー固体電解質材料であることを特徴とする、リチウムイオン電池。