IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 煙台首鋼磁性材料株式有限公司の特許一覧

<>
  • 特許-耐熱磁性体の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】耐熱磁性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240308BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20240308BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240308BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20240308BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240308BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240308BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240308BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240308BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20240308BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20240308BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240308BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240308BHJP
   C22C 45/00 20230101ALI20240308BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
C22C28/00 A
B22F3/00 F
B22F1/00 Y
B22F1/052
B22F3/24 B
B22F3/24 K
B22F9/08 A
B22F9/04 D
B22F9/04 E
C22C33/02 H
C22C30/00
C22C45/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022139896
(22)【出願日】2022-09-02
(65)【公開番号】P2023047306
(43)【公開日】2023-04-05
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】202111120165.9
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】310005618
【氏名又は名称】煙台東星磁性材料株式有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【弁理士】
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】王伝申
(72)【発明者】
【氏名】彭衆傑
(72)【発明者】
【氏名】楊昆昆
(72)【発明者】
【氏名】丁開鴻
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/070827(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/155113(WO,A1)
【文献】特表2022-516380(JP,A)
【文献】特開2010-114200(JP,A)
【文献】特表2018-505540(JP,A)
【文献】特開2018-060997(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110767402(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、41/02
C22C 28/00、30/00、33/02、38/00、45/00
B22F 1/00、1/052、3/00、3/24、9/04、9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱磁性体の製造方法であって、
(ステップ1)Nd-Fe-B系合金の原料を溶錬、ストリップキャスト法を用いてNd-Fe-B系合金薄片を作成し、前記Nd-Fe-B系合金薄片を150~400μmの合金薄片に粉砕し、
前記Nd-Fe-B系合金の原料成分及び重量百分率は、28%≦R≦30%、0.8%≦B≦1.2%、0%M≦3%、残部はFeであり、RはNd、Pr、Hoの少なくとも一つ、MはCo、Tiの少なくとも一つであり、
(ステップ2)粉砕後の前記合金薄片と、低融点合金の粉体及び潤滑剤を撹拌混合し、水素化処理炉内に投入して水素吸着処理及び脱水素処理を行い、ジェットミルによって粒子径3~5μmmのNd-Fe-B系合金粉末を作成し、
前記低融点合金は、NdCu、NdAl、NdGaの少なくとも一つを含み、前記Nd-Fe-B系合金粉末における重量百分率は0%NdCu≦3%、0%NdAl≦3%、0%NdGa≦3%、前記低融点合金の前記粉体の粒子径は200nm~4μmであり、
(ステップ3)前記Nd-Fe-B系合金粉末を押圧成型し、焼結、時効処理してNd-Fe-B系磁性体とし、
(ステップ4)焼結後の前記Nd-Fe-B系磁性体を所望の形状に機械加工し、前記Nd-Fe-B系磁性体のC軸方向に垂直又は平行な面に重希土類拡散源膜を形成し、
前記重希土類拡散源膜の成分は、R1R21-x-y-zで示され、R1はNd、Prの少なくとも一つ、R1の重量百分率xは30%<x<50%、R2はHo、Gdの少なくとも一つ、R2の重量百分率yは0%<y≦10%、前記HはTb、Dyの少なくとも一つ、Hの重量百分率zは40%≦z≦50%、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも一つ、Mの重量百分率は100%-x-y-zであり、
(ステップ5)拡散処理及び時効処理を行う、
ことを特徴とする耐熱磁性体の製造方法。
【請求項2】
前記重希土類拡散源膜の原料となる前記R1R21-x-y-zは噴霧製粉、アモルファスストリップ又はインゴットにより作成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の耐熱磁性体の製造方法。
【請求項3】
前記(ステップ2)における前記脱水素温度は、400~600℃である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱磁性体の製造方法。
【請求項4】
前記(ステップ3)において、焼結完了後、Arガスで冷却し、その後第1次時効処理及び第2次時効処理を行い、焼結温度は980~1060℃、焼結時間は6~15時間であり、前記第1次時効処理の温度は850℃、時効時間は3時間、前記第2次時効処理の温度は450~660℃、時効時間は3時間である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱磁性体の製造方法。
【請求項5】
前記(ステップ5)において、前記拡散処理の温度は850~930℃、拡散時間は6~30時間であり、前記時効処理の温度は420~680℃、時効時間は3~10時間である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱磁性体の製造方法。
【請求項6】
前記第1次時効処理及び前記第2次時効処理の昇温速度は1~5℃/分、降温速度は5~20℃/分である、
ことを特徴とする請求項4に記載の耐熱磁性体の製造方法。
【請求項7】
前記耐熱磁性体は、主相、R元素シェル層、遷移金属元素シェル層、及び前記主相、前記R元素シェル層、前記遷移金属元素シェル層で囲まれる三角領域を含み、
前記R元素シェル層は、Nd、Prの少なくとも一つ、及びHо、Gdの少なくとも一つであり、前記遷移金属元素シェル層はCu、Al、Gaの少なくとも一つであり、前記三角領域の3つのポイントスキャン成分は成分1、成分2及び/又は成分3を含み、
前記成分1は、NdaFebRcMdで示され、RはPr、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも三つ、Ndの重量百分率aは30%≦a≦70%、Feの重量百分率bは5%≦b≦40%、Rの重量百分率cは5%≦c≦35%、Mの重量百分率dは0%d≦15%であり、
前記成分2は、NdeFefRg、Hh、Ki、Mjで示され、RはPr、HはDy、Tbの少なくとも一つ、KはHo、Gdの少なくとも一つ、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも三つであり、Ndの重量百分率eは25%≦e≦65%、Feの重量百分率fは5%≦f≦35%、Rの重量百分率gは5%≦g≦30%、Hの重量百分率hは5%≦h≦30%、Kの重量百分率iは1%≦i≦12%、Mの重量百分率jは0%j≦10%であり、
前記成分3は、NdkFelRm、Dn、Moで示され、RはPr、DはAl、Cu、Gaの少なくとも一つ、MはTi、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも一つであり、Ndの重量百分率kは30%≦k≦70%、Feの重量百分率lは5%≦l≦35%、Rの重量百分率mは5%≦m≦35%、Dの重量百分率nは5%≦n≦25%、Mの重量百分率oは0%o≦10%である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱磁性体の製造方法。
【請求項8】
前記耐熱磁性体の厚さは0.3~6mmである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱磁性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体の製造分野に属し、特に耐熱磁性体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B系焼結永久磁性体は、電子情報機器、医療機器、新エネルギー自動車、家電、ロボット等のハイテク分野で広く利用されている。過去数十年、Nd-Fe-B系永久磁性体の発展は目覚ましく、残留磁気性能は理論上の極限に達しているが、保磁力に関しては、理論値との差が依然として大きく、保磁力の向上は今日の重要な研究テーマとなっている。
【0003】
従来の保磁力向上を目的とする技術では、TbやDyといった重希土類元素を大量に消費し、その結果、高コストとなることが課題となっている。結晶粒界拡散技術の登場によって重希土類元素の含有量を大幅に削減することができるようになっているが、昨今の重希土類元素Tbの価格の高騰に伴い、依然として高コスト問題は解決できていない。重希土類元素含有量の低減は、依然として重要な研究テーマであり、磁性体及び拡散源の研究課題は重要である。結晶粒界拡散技術は重希土類元素の使用量を少なくしても、Nd-Fe-B系永久磁性体の保磁力は顕著に向上する。結晶粒界拡散は、重希土類元素を結晶粒界に沿って拡散させ、Nd-Fe-B主相と反応させた後にその表面に重希土類リッチ相なシェル層を形成し、NdFe14B主相へと硬化させることで、主相のHAが顕著に向上し、更にはNd-Fe-B系永久磁性体の保磁力も向上する。従って、Nd-Fe-B系永久磁性体の保磁力及び拡散源を研究し、これらを好ましく組み合わせることで、拡散効率及び保磁力の増加幅を向上させることが重要となっている。
【0004】
重希土類元素の拡散は、Nd-Fe-B系永久磁性体の保磁力を顕著に向上させるが、重希土類のリッチ度が低く、価格が高騰してしまう。多くの研究者が、低融点の重希土類合金を拡散源とし、拡散によって保磁力向上という目的を達成しようとしてきた。特殊な結晶粒界相の形成によって保磁力を向上させようとする技術は、いくつか特許出願されている。
【0005】
例えば、中国特許公開CN112735717A公報には、Nd-Fe-B系材料及びその製造方法として、磁性体の表面に重希土類元素Tb、Dyを塗布・拡散させた特殊構造を有する磁性体によって、磁性体への拡散深さ及び保磁力を向上させているが、当該方法は主に磁性体自体に対する設計である。当該磁性体は、ReFe14B主相の結晶粒子及びそのシェル層、近接するReFe14B主相の結晶粒子のNdリッチ相及び結晶粒界三角領域を含み、ReFe14B主相中のReにはHo及び/又はDyを含み、シェル層は(Nd/Ho)Fe14B、(Nd/Dy)Fe14B及び(Nd/Tb)Fe14Bの一つ又は複数を含み、結晶粒界三角領域はHo、Ho、Dy及びDyの一つ又は複数を含む技術案である。しかしながら当該発明に係る技術は、Nd-Fe-B系永久磁性体の外殻に関する改良であり、拡散源に関する改良ではない。
【0006】
また、中国特許公開CN105513734A公報には、Nd-Fe-B系磁性体用軽重希土類混合物、Nd-Fe-B系磁性体及びその製造方法として、主に重希土類混合物を拡散させることで、保磁力Hcjの増加幅を広げる技術が開示されているが、この重希土類混合物は均一性が悪く、更には合金形成後に磁性体の拡散係数を向上させる特殊作用を奏することもできなかった。低融点重希土類拡散源は磁性体の保磁力を大幅に向上させることができるが、磁性体の耐熱性が悪く、磁性体の残留磁気及び保磁力の耐熱性能が低いという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国特許公開CN112735717A公報
【文献】中国特許公開CN105513734A公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術が有する課題を解消する耐熱磁性体及びその製造方法を提供することを目的とする。具体的には、拡散源及びNd-Fe-B系磁性体の双方の改良により、重希土類元素の使用量を少なくしても、拡散後のNd-Fe-B系磁性体の保磁力及び耐熱性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本願発明は耐熱磁性体の製造方法であって、
(ステップ1)Nd-Fe-B系合金の原料を溶錬、ストリップキャスト法を用いてNd-Fe-B系合金薄片を作成し、前記Nd-Fe-B系合金薄片を150~400μmの合金薄片に粉砕し、
前記Nd-Fe-B系合金の原料成分及び重量百分率は、28%≦R≦30%、0.8%≦B≦1.2%、0%<M≦3%、残部はFeであり、RはNd、Pr、Hoの少なくとも一つ、MはCo、Tiの少なくとも一つであり、
(ステップ2)粉砕後の前記合金薄片と、低融点合金の粉体及び潤滑剤を撹拌混合し、水素化処理炉内に投入して水素吸着処理及び脱水素処理を行い、ジェットミルによって粒子径3~5μmmのNd-Fe-B系合金粉末を作成し、
前記低融点合金は、NdCu、NdAl、NdGaの少なくとも一つを含み、前記Nd-Fe-B系合金粉末における重量百分率は0%<NdCu≦3%、0%<NdAl≦3%、0%<NdGa≦3%、前記低融点合金の前記粉体の粒子径は200nm~4μmであり、
(ステップ3)前記Nd-Fe-B系合金粉末を押圧成型し、焼結、時効処理してNd-Fe-B系磁性体とし、
(ステップ4)焼結後の前記Nd-Fe-B系磁性体を所望の形状に機械加工し、前記Nd-Fe-B系磁性体のC軸方向に垂直又は平行な面に重希土類拡散源膜を形成し、
前記重希土類拡散源膜の成分は、R1 R2 1-x-y-z で示され、R1はNd、Prの少なくとも一つ、R1の重量百分率xは30%<x<50%、R2はHo、Gdの少なくとも一つ、R2の重量百分率yは0%<y≦10%、前記HはTb、Dyの少なくとも一つ、Hの重量百分率zは40%≦z≦50%、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも一つ、Mの重量百分率は100%-x-y-zであり、
(ステップ5)拡散処理及び時効処理を行う、ことを特徴とする。
【0010】
前記重希土類拡散源膜の原料となる前記R1 R2 1-x-y-z は噴霧製粉、アモルファスストリップ又はインゴットにより作成する、ことを特徴とする。
【0011】
前記(ステップ2)における前記脱水素温度は、400~600℃である、ことを特徴とする。
【0012】
前記(ステップ3)において、焼結完了後、Arガスで冷却し、その後第1次時効処理及び第2次時効処理を行い、焼結温度は980~1060℃、焼結時間は6~15時間であり、前記第1次時効処理の温度は850℃、時効時間は3時間、前記第2次時効処理の温度は450~660℃、時効時間は3時間である、ことを特徴とする。
【0013】
前記(ステップ5)において、前記拡散処理の温度は850~930℃、拡散時間は6~30時間であり、前記時効処理の温度は420~680℃、時効時間は3~10時間である、ことを特徴とする。
【0014】
前記第1次時効処理及び前記第2次時効処理の昇温速度は1~5℃/分、降温速度は5~20℃/分である、ことを特徴とする。
【0015】
前記耐熱磁性体は、主相、R元素シェル層、遷移金属元素シェル層、及び前記主相、前記R元素シェル層、前記遷移金属元素シェル層で囲まれる三角領域を含み、
前記R元素シェル層は、Nd、Prの少なくとも一つ、及びHо、Gdの少なくとも一つであり、前記遷移金属元素シェル層はCu、Al、Gaの少なくとも一つであり、前記三角領域の3つのポイントスキャン成分は成分1、成分2及び/又は成分3を含み、
前記成分1は、NdaFebRcMdで示され、RはPr、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも三つ、Ndの重量百分率aは30%≦a≦70%、Feの重量百分率bは5%≦b≦40%、Rの重量百分率cは5%≦c≦35%、Mの重量百分率dは0%<d≦15%であり、
前記成分2は、NdeFefRg、Hh、Ki、Mjで示され、RはPr、HはDy、Tbの少なくとも一つ、KはHo、Gdの少なくとも一つ、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも三つであり、Ndの重量百分率eは25%≦e≦65%、Feの重量百分率fは5%≦f≦35%、Rの重量百分率gは5%≦g≦30%、Hの重量百分率hは5%≦h≦30%、Kの重量百分率iは1%≦i≦12%、Mの重量百分率jは0%<j≦10%であり、
前記成分3は、NdkFelRm、Dn、Moで示され、RはPr、DはAl、Cu、Gaの少なくとも一つ、MはTi、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも一つであり、Ndの重量百分率kは30%≦k≦70%、Feの重量百分率lは5%≦l≦35%、Rの重量百分率mは5%≦m≦35%、Dの重量百分率nは5%≦n≦25%、Mの重量百分率oは0%<o≦10%である、ことを特徴とする。
【0016】
前記耐熱磁性体の厚さは0.3~6mmである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、従来技術と対比して以下の有益な効果を奏する。
(1)本願発明の磁性体は、結晶粒界を低融点合金とし、拡散源にHo又はGdを用いて拡散処理を行い、特有な結晶粒界構造を有する重希土類元素であるTb、Dyの含有量が少ない安価なNd-Fe-B系磁性体であり、磁性体の成分及び拡散源をコントロールすることで、保磁力の大幅な向上を実現できる。
【0018】
(2)本願発明に係る磁性体はHo又はGdを用いることで耐熱性能を備え、かつ本願発明に係る製造方法によって、優れた耐熱性を備えたNd-Fe-B系磁性体を大量に製造することができる。
【0019】
(3)本願発明に係る重希土類合金が拡散された後の磁性体保磁力は、拡散前に比べてその増加幅は、8~10.5kOeに達する。
【0020】
(4)本願発明の磁性体には、低融点合金相であるNdCu、NdAl、NdGaが含まれることにより、磁性体の結晶粒界への拡散係数が増加し拡散源の拡散効率が向上する。
【0021】
(5)本願発明の拡散源は、低融点合金相及び希土類相に同時かつ速やかに入り込み、磁性体の耐熱性能が大きく向上するだけでなく、磁気カップリング作用を有するシェル層が良好に形成されることで保磁力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ZEISS社製走査型電子顕微鏡によってサンプルを撮影した写真を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本願発明の実施形態について詳細に説明する。下記実施例は、本発明の解釈のみに用いるものであり、本願発明に係る構成を限定するものではない。
【0024】
ここで、「及び」、「又は」といった用語は、排他的なものはなく網羅的なものである。これによって羅列された要素だけでなく、列挙されていない一切の要素、方法、プロセス、アイテム及び設備も含まれる。
【0025】
本願発明に係る実施例1~22は、基本的にいずれも下記に記載した方法で作成した。各実施例の具体的成分、焼結処理・時効処理の条件等は、表1~3に整理しているとおりである。また後述する比較例1~22も、基本的に実施例1~22と同じ方法で作成した。
【0026】
(ステップ1)溶錬した配合済のNd-Fe-B系合金からなる原料をストリップキャスト法によりNd-Fe-B系合金薄片とした。得られた合金薄片を粉砕機によって150~400μmの合金薄片へと粉砕した。
【0027】
(ステップ2)合金薄片と、NdCu、NdAl、NdGaを含む低融点合金の粉末と、潤滑剤を攪拌混合械で撹拌混合した。その後、水素化処理炉内に投入して水素吸着処理及び脱水素処理を行った。脱水素温度は全ての600℃であり、ジェットミルを用いて粒子径3~5μmのNd-Fe-B系合金粉末を作成した。
【0028】
(ステップ3)ジェットミル粉砕後の合金粉末を配向成型及び冷間等静圧し、これを真空状態で焼結し、Arガスで急速冷却し、その後第1次時効処理及び第2次時効処理を行った。
【0029】
(ステップ4)機械加工によって焼結後の磁性体を所望のサイズに切断し、C軸方向に垂直な二つの面に重希土類拡散源スラリーを塗布した。
【0030】
(ステップ5)拡散処理及び時効処理を行い、Nd-Fe-B系磁性体を作成した。
【0031】
拡散源中にHo又はGdを含む例を実施例1~22とし、拡散源中にHo又はGdを含まない例を比較例1~22とした。
【0032】
表1は、合金薄片及び潤滑剤を混合した後の各元素及びその含有量を重量百分率で示したものである。番号1~22は、実施例1~22及び比較例1~22に共通したものである。
【0033】
また表2は、番号1~22に係る焼結、時効処理に係る温度、時間、昇温速度、降温速度、出来上がった磁性体(拡散処理前)の磁気特性をそれぞれ示している。
【0034】
また表3は、実施例1~22で用いた拡散源及び拡散処理の諸条件、時効処理に係る温度、時間、昇温速度、降温速度、拡散処理後に完成した磁性体の磁気特性をそれぞれ示している。
【0035】
また表4は、比較例1~22で用いた拡散源及び拡散処理の諸条件、時効処理に係る温度、時間、昇温速度、降温速度、拡散処理後に完成した磁性体の磁気特性をそれぞれ示している。
【0036】
<実施例1>
実施例1は拡散源としてPrHоDyCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは200μm、水素吸着温度は100℃、脱水素温度は450℃、酸素含有量は600ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は4μmであった。拡散前と対比して、Brは0.23kGs降下し、Hcjは10.61kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.500%であった。
【0037】
<比較例1>
一方、比較例1は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例1と同じである。拡散前と対比して、Brは0.20kGs降下し、Hcjは10.21kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.530%であり、実施例1よりも明らかに劣っている。
【0038】
<実施例2>
実施例2は拡散源としてPrHоDyCuTiを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは150μm、水素吸着温度は120℃、脱水素温度は400℃、酸素含有量は500ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は800nm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は4μmであった。拡散前と対比して、Brは0.21kGs降下し、Hcjは9.08kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.500%であった。
【0039】
<比較例2>
一方、比較例2は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例2と同じである。拡散前と対比して、Brは0.24kGs降下し、Hcjは8.78kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.510%であり、実施例2よりも明らかに劣っている。
【0040】
<実施例3>
実施例3は拡散源としてPrHоDyCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは260μm、水素吸着温度は200℃、脱水素温度は520℃、酸素含有量は600ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は200nm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。拡散前と対比して、Brは0.24kGs降下し、Hcjは8.08kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.450%であった。
【0041】
<比較例3>
一方、比較例3は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例3と同じである。拡散前と対比して、Brは0.22kGs降下し、Hcjは7.58kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.510%であり、実施例3よりも明らかに劣っている。
【0042】
<実施例4>
実施例4は拡散源としてPrHоTbCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは280μm、水素吸着温度は150℃、脱水素温度は500℃、酸素含有量は700ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は2μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。拡散前と対比して、Brは0.21kGs降下し、Hcjは12.02kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.425%であった。
【0043】
<比較例4>
一方、比較例4は拡散源としてPrTbCuを用いた以外、その他の条件は実施例4と同じである。拡散前と対比して、Brは0.24kGs降下し、Hcjは11.52kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.440%であり、実施例4よりも明らかに劣っている。
【0044】
<実施例5>
実施例5は拡散源としてNdHоDyCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは290μm、水素吸着温度は180℃、脱水素温度は520℃、酸素含有量は600ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は2.5μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。拡散前と対比して、Brは0.27kGs降下し、Hcjは10.11kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.490%であった。
【0045】
<比較例5>
一方、比較例5は拡散源としてNdDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例5と同じである。拡散前と対比して、Brは0.25kGs降下し、Hcjは9.51kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.510%であり、実施例5よりも明らかに劣っている。
【0046】
<実施例6>
実施例6は拡散源としてNdHоDyCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは300μm、水素吸着温度は300℃、脱水素温度は550℃、酸素含有量は800ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は4μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は5μmであった。拡散前と対比して、Brは0.25kGs降下し、Hcjは8.71kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.492%であった。
【0047】
<比較例6>
一方、比較例6は拡散源としてNdDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例6と同じである。拡散前と対比して、Brは0.23kGs降下し、Hcjは8.31kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.520%であり、実施例6よりも明らかに劣っている。
【0048】
<実施例7>
実施例7は拡散源としてNdHоDyCoを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは270μm、水素吸着温度は200℃、脱水素温度は600℃、酸素含有量は700ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3.5μmであった。拡散前と対比して、Brは0.25kGs降下し、Hcjは9.32kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.480%であった。
【0049】
<比較例7>
一方、比較例7は拡散源としてNdDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例7と同じである。拡散前と対比して、Brは0.22kGs降下し、Hcjは8.82kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.515%であり、実施例7よりも明らかに劣っている。
【0050】
<実施例8>
実施例8は拡散源としてPrGdDyCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは280μm、水素吸着温度は220℃、脱水素温度は550℃、酸素含有量は600ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は800nm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。拡散前と対比して、Brは0.26kGs降下し、Hcjは9.85kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.490%であった。
【0051】
<比較例8>
一方、比較例8は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例8と同じである。拡散前と対比して、Brは0.21kGs降下し、Hcjは9.35kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.510%であり、実施例8よりも明らかに劣っている。
【0052】
<実施例9>
実施例9は拡散源としてPrGdDyCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは300μm、水素吸着温度は150℃、脱水素温度は450℃、酸素含有量は800ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3.5μmであった。拡散前と対比して、Brは0.24kGs降下し、Hcjは9.75kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.470%であった。
【0053】
<比較例9>
一方、比較例9は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例9と同じである。拡散前と対比して、Brは0.24kGs降下し、Hcjは9.35kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.500%であり、実施例9よりも明らかに劣っている。
【0054】
<実施例10>
実施例10は拡散源としてPrGdDyCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは270μm、水素吸着温度は180℃、脱水素温度は400℃、酸素含有量は900ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は2μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。拡散前と対比して、Brは0.27kGs降下し、Hcjは10.88kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.480%であった。
【0055】
<比較例10>
一方、比較例10は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例10と同じである。拡散前と対比して、Brは0.22kGs降下し、Hcjは9.88kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.515%であり、実施例10よりも明らかに劣っている。
【0056】
<実施例11>
実施例11は拡散源としてPrGdTbCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは210μm、水素吸着温度は270℃、脱水素温度は600℃、酸素含有量は600ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。拡散前と対比して、Brは0.21kGs降下し、Hcjは11.74kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.435%であった。
【0057】
<比較例11>
一方、比較例11は拡散源としてPrTbCuを用いた以外、その他の条件は実施例1と同じである。拡散前と対比して、Brは0.21kGs降下し、Hcjは11.24kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.450%であり、実施例11よりも明らかに劣っている。
【0058】
<実施例12>
実施例12は拡散源としてPrGdDyCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは300μm、水素吸着温度は230℃、脱水素温度は550℃、酸素含有量は900ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は4μmであった。拡散前と対比して、Brは0.27kGs降下し、Hcjは8.10kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.457%であった。
【0059】
<比較例12>
一方、比較例12は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例12と同じである。拡散前と対比して、Brは0.22kGs降下し、Hcjは7.60kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.510%であり、実施例12よりも明らかに劣っている。
【0060】
<実施例13>
実施例13は拡散源としてPrHoDyCuGaを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは400μm、水素吸着温度は170℃、脱水素温度は550℃、酸素含有量は1000ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は2μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は5μmであった。拡散前と対比して、Brは0.25kGs降下し、Hcjは7.90kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.460%であった。
【0061】
<比較例13>
一方、比較例13は拡散源としてPrDyCuGaを用いた以外、その他の条件は実施例13と同じである。拡散前と対比して、Brは0.25kGs降下し、Hcjは7.60kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.510%であり、実施例13よりも明らかに劣っている。
【0062】
<実施例14>
実施例14は拡散源としてPrHoDyCuGaを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは260μm、水素吸着温度は200℃、脱水素温度は450℃、酸素含有量は600ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は3μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。拡散前と対比して、Brは0.27kGs降下し、Hcjは8.85kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.470%であった。
【0063】
<比較例14>
一方、比較例14は拡散源としてPrDyCuGaを用いた以外、その他の条件は実施例14と同じである。拡散前と対比して、Brは0.22kGs降下し、Hcjは8.25kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.520%であり、実施例14よりも明らかに劣っている。
【0064】
<実施例15>
実施例15は拡散源としてPrHoDyCuZnを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは230μm、水素吸着温度は150℃、脱水素温度は550℃、酸素含有量は700ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。拡散前と対比して、Brは0.23kGs降下し、Hcjは9.48kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.460%であった。
【0065】
<比較例15>
一方、比較例15は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例15と同じである。拡散前と対比して、Brは0.25kGs降下し、Hcjは8.98kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.505%であり、実施例15よりも明らかに劣っている。
【0066】
<実施例16>
実施例16は拡散源としてPrHoDyCuAlを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは230μm、水素吸着温度は150℃、脱水素温度は550℃、酸素含有量は700ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。拡散前と対比して、Brは0.26kGs降下し、Hcjは9.44kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.470%であった。
【0067】
<比較例16>
一方、比較例16は拡散源としてPrDyCuAlを用いた以外、その他の条件は実施例16と同じである。拡散前と対比して、Brは0.20kGs降下し、Hcjは10.21kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.510%であり、実施例16よりも明らかに劣っている。
【0068】
<実施例17>
実施例17は拡散源としてPrHoDyCuAlを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは260μm、水素吸着温度は200℃、脱水素温度は560℃、酸素含有量は600ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は2μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は4μmであった。拡散前と対比して、Brは0.20kGs降下し、Hcjは8.77kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.480%であった。
【0069】
<比較例17>
一方、比較例17は拡散源としてPrDyCuAlを用いた以外、その他の条件は実施例17と同じである。拡散前と対比して、Brは0.20kGs降下し、Hcjは10.21kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.520%であり、実施例17よりも明らかに劣っている。
【0070】
<実施例18>
実施例18は拡散源としてPrHoDyCuAlを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは250μm、水素吸着温度は150℃、脱水素温度は480℃、酸素含有量は800ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は4μmであった。拡散前と対比して、Brは0.28kGs降下し、Hcjは9.10kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.490%であった。
【0071】
<比較例18>
一方、比較例18は拡散源としてPrDyCuAlを用いた以外、その他の条件は実施例18と同じである。拡散前と対比して、Brは0.26kGs降下し、Hcjは8.60kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.505%であり、実施例18よりも明らかに劣っている。
【0072】
<実施例19>
実施例19は拡散源としてPrGdDyCuSnを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは280μm、水素吸着温度は220℃、脱水素温度は500℃、酸素含有量は600ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は1.5μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は4μmであった。拡散前と対比して、Brは0.28kGs降下し、Hcjは9.10kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.470%であった。
【0073】
<比較例19>
一方、比較例19は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例19と同じである。拡散前と対比して、Brは0.25kGs降下し、Hcjは8.50kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.495%であり、実施例19よりも明らかに劣っている。
【0074】
<実施例20>
実施例20は拡散源としてPrGdDyCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは260μm、水素吸着温度は170℃、脱水素温度は450℃、酸素含有量は700ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は4μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は5μmであった。拡散前と対比して、Brは0.20kGs降下し、Hcjは7.70kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.475%であった。
【0075】
<比較例20>
一方、比較例20は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例20と同じである。拡散前と対比して、Brは0.20kGs降下し、Hcjは7.50kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.500%であり、実施例20よりも明らかに劣っている。
【0076】
<実施例21>
実施例21は拡散源としてPrGdDyCuを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは290μm、水素吸着温度は200℃、脱水素温度は550℃、酸素含有量は700ppm、低融点粉体の平均粒子径D50はμm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。拡散前と対比して、Brは0.25kGs降下し、Hcjは9.80kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.460%であった。
【0077】
<比較例21>
一方、比較例21は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例21と同じである。拡散前と対比して、Brは0.25kGs降下し、Hcjは9.50kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.510%であり、実施例21よりも明らかに劣っている。
【0078】
<実施例22>
実施例22は拡散源としてPrGdDyMgを用いた。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは240μm、水素吸着温度は190℃、脱水素温度は550℃、酸素含有量は700ppm、低融点粉体の平均粒子径D50は4μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は5μmであった。拡散前と対比して、Brは0.25kGs降下し、Hcjは8.00kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.455%であった。
【0079】
<比較例22>
一方、比較例22は拡散源としてPrDyCuを用いた以外、その他の条件は実施例22と同じである。拡散前と対比して、Brは0.20kGs降下し、Hcjは7.50kОe増加した。且つ150℃における磁性体の保磁力の耐熱係数は-0.510%であり、実施例22よりも明らかに劣っている。
【0080】
表1

【0081】
表2

【0082】
表3

【0083】
表4
【0084】
以上のとおり、合金薄片の結晶粒界にNdCu又はNdAl又はNdGa相の粉末を添加し、磁性体への拡散に適切な低融点結晶チャネルを持つ結晶粒界を有するNd-Fe-B系永久磁性体は、重希土類Dy合金拡散源の拡散に効果的であり、重希土類Tb合金拡散源の拡散後にはΔHcj>11.0kОeと顕著に向上し、150℃における保磁力の耐熱係数も比較例より明らかに優れていることが分かる。
【0085】
本願発明に係る重希土類拡散源を拡散した磁性体の耐熱性能は、比較例の耐熱性能よりも優れていることが明らかとなったが、本願発明に係る磁性体のミクロ構造をZEISS社製走査型電子顕微鏡で観察し、オックスフォードEDSで磁性体の元素組成を測定した。
【0086】
以下、各実施例の測定結果を示す。本願発明は、拡散源を拡散させてR元素シェル層及び遷移金属元素シェル層を形成しているが、下記説明において、希土類シェル層、即ちR元素シェル層とは、結晶粒子を連続的に60%以上取り囲んだものを指し、遷移金属元素シェル層とは、結晶粒子を連続的に40%以上取り囲んだものを指す。
【0087】
図1に示す3つのポイントa、b、cは、SEMで撮影した異なる3つの位置のスキャニングポイント(主相、R元素シェル層、遷移金属元素シェル層で囲まれる3つのポイント)である。サイズが1μm未満の小さな三角領域は、6:14相型のCuリッチ相である。EDSによる化学式は、Fe30-51(NdPr)45-60Cu2-15Ga0-5Co0-5、又は、Fe30-51(NdPr)45-60Dy2-15Cu2-15Ga0-5Co0-5である(各元素の右下数値は重量百分率である)。実施例1~22におけるa、b、cの各ポイントの分析結果は、以下の通りであった(aは成分1に対応し、bは成分2に対応し、cは成分3に対応する)。
【0088】
実施例1は、PrHoDyCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Ho希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd70Fe10Pr15Cu、ポイントスキャン成分2はNd50Fe15Pr15Dy10HoCu、ポイントスキャン成分3はNd50Fe25Pr15Cu10であった。
【0089】
実施例2は、PrHoDyCuTiを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Ho希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd60Fe15Pr16CuTiAl、ポイントスキャン成分2はNd55Fe10Pr11Dy15HoCu、ポイントスキャン成分3はNd50Fe18Pr15Cu12CoTiであった。
【0090】
実施例3は、PrHoDyCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Ho希土類シェル層及びCu及びAl遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd55Fe10Pr20CuGaAl、ポイントスキャン成分2はNd55Fe15Pr15DyHoCu、ポイントスキャン成分3はNd45Fe30Pr10CuAlCoであった。
【0091】
実施例4は、PrHoTbCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Tb、Ho希土類シェル層及びCu及びAl遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd60Fe15Pr10CuGaAl、ポイントスキャン成分2はNd45Fe10Pr15Tb15HoCuAl、ポイントスキャン成分3はNd45Fe25Pr10Cu15AlCoであった。
【0092】
実施例5は、NdHoDyCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Nd、Dy、Ho希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd55Fe20Pr15CuCo、ポイントスキャン成分2はNd60Fe10Pr10Dy15Ho、ポイントスキャン成分3はNd50Pr10Fe30Cu10であった。
【0093】
実施例6は、NdHoDyCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Nd、Dy、Ho希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd50Fe20Pr20CuGa、ポイントスキャン成分2はNd45Fe24Pr10Dy15Ho、ポイントスキャン成分3はNd60Pr10Fe20CuCoであった。
【0094】
実施例7は、NdHoDyCoを拡散しており、拡散後の磁性体は、Nd、Dy、Ho希土類シェル層及びCu及びAl遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd40Fe40Pr10CuCo、ポイントスキャン成分2はNd50FePr10Dy20HoAl、ポイントスキャン成分3はNd50Pr15Fe20CuAlであった。
【0095】
実施例8は、PrGdDyCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Gd希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd60Fe15Pr20Cu、ポイントスキャン成分2はNd25Fe20Pr25Dy20GdCoCu、ポイントスキャン成分3はNd35Pr15Fe20Cu25Coであった。
【0096】
実施例9は、PrGdDyCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Gd希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd50Fe19Pr25Cu、ポイントスキャン成分2はNd40Fe12Pr16Dy18GdCoCu、ポイントスキャン成分3はNd45Pr20Fe12CuCoであった。
【0097】
実施例10は、PrGdDyCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Gd希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd60Fe20Pr20、ポイントスキャン成分2はNd40Fe25Pr15Dy10GdCoCu、ポイントスキャン成分3はNd45Pr20Fe30Cuであった。
【0098】
実施例11は、PrGdTbCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Tb、Gd希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd55Fe10Pr20CuGaAl、ポイントスキャン成分2はNd45Fe20Pr15Tb10GdCu、ポイントスキャン成分3はNd70FePr10Cu10Gaであった。
【0099】
実施例12は、PrGdDyCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Gd希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd50Fe18Pr20CuGaAl、ポイントスキャン成分2:Nd55Fe15Pr10DyGdCoGa、ポイントスキャン成分3:Nd50Fe20PrCu15AlCoであった。
【0100】
実施例13は、PrHoDyCuGaを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Ho希土類シェル層及びCu及びGa遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd45Fe20Pr25GaCu、ポイントスキャン成分2はNd40Fe10Pr25Dy15HoCu、ポイントスキャン成分3はNd35Pr30Fe15Cu10GaCoであった。
【0101】
実施例14は、PrHoDyCuGaを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Ho希土類シェル層及びCu及びGa遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd55Fe15Pr20GaCu、ポイントスキャン成分2はNd40Fe20Pr27Dy5-15Ho、ポイントスキャン成分3はNd30Pr20Fe30Cu10GaCoであった。
【0102】
実施例15は、PrHoDyCuZnを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Ho希土類シェル層及びCu及びGa遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd50Fe15Pr25ZnCu、ポイントスキャン成分2はNd3035Pr15DyHo12、ポイントスキャン成分3はNd30Pr35Fe15Cu10CoZnであった。
【0103】
実施例16は、PrHoDyCuAlを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Ho希土類シェル層及びCu及びAl遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd65Fe15PrCu10Al、ポイントスキャン成分2はNd65FePrDy10HoCuAl、ポイントスキャン成分3はNd45Fe20Pr10Cu20Alであった。
【0104】
実施例17は、PrHoDyCuAlを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Ho希土類シェル層及びCu及びAl遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd45Fe20Pr20Cu10Al、ポイントスキャン成分2はNd45Fe15PrDy15HoCuAl、ポイントスキャン成分3はNd49Fe120Pr15Cu10GaAlであった。
【0105】
実施例18は、PrHoDyCuAlを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Ho希土類シェル層及びCu及びAl遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd65Fe10Pr15CuAl、ポイントスキャン成分2はNd45Fe10Pr20DyHoCu10Al、ポイントスキャン成分3はNd45Fe25Pr13Cu10GaAlであった。
【0106】
実施例19は、PrGdDyCuSnを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Gd希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd55FePr35Sn、ポイントスキャン成分2はNd54FePr20Dy15Gd、ポイントスキャン成分3はNd35Fe20Pr30CuSn、Coであった。
【0107】
実施例20は、PrGdDyCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Gd希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd40Fe20Pr30CuGaAl、ポイントスキャン成分2はNd50Fe10Pr15Dy20Gd、ポイントスキャン成分3はNd40Fe35Pr15CuGaであった。
【0108】
実施例21は、PrGdDyCuを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Gd希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd30Fe25Pr20CuGaCoTi、ポイントスキャン成分2はNd30Fe20Pr10Dy30GdHo、ポイントスキャン成分3はNd45Fe15Pr20Cu15Coであった。
【0109】
実施例22は、PrGdDyMgを拡散しており、拡散後の磁性体は、Pr、Dy、Gd希土類シェル層及びCu遷移金属元素シェル層を有し、ポイントスキャン成分1はNd35Fe25Pr30CuMg、ポイントスキャン成分2はNd45Fe12Pr25Dy10Gd、ポイントスキャン成分3はNd45Fe20Pr16Cu10GaCoであった。
【0110】
上記各実施例は、いずれも本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限するものではなく、本発明の技術思想の範囲内で行われる修正、改良等は、全て本発明の保護範囲内に属する。

図1