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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】コイル装置およびパルストランス
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20240308BHJP
   H01F 19/04 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
H01F27/29 G
H01F27/29 125
H01F19/04 U
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018187974
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2020057706
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-05-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】御子神 祐
(72)【発明者】
【氏名】大井 康裕
(72)【発明者】
【氏名】木本 裕介
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】岩田 淳
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-188018(JP,A)
【文献】特開2006-80231(JP,A)
【文献】特開2017-228766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F27/29
H01F17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部と鍔部とを有するコア部材と、
前記巻芯部に巻回され一端が前記鍔部に位置するワイヤと、
前記鍔部に具備される複数の端子電極とを有するコイル装置であって、
前記端子電極は、前記ワイヤの一端が熱圧着される継線部と、前記巻芯部の軸芯方向に沿って前記継線部に対して前記巻芯部から離れる側に前記継線部に連続して形成される実装部と、前記継線部と前記実装部との間に形成された最表面剥離部と、を有し、
前記最表面剥離部は、前記継線部に熱圧着された前記ワイヤの延伸方向に沿って、前記継線部に隣接して形成してあるコイル装置。
【請求項2】
前記鍔部の高さ方向に沿って、前記継線部および前記最表面剥離部は、前記実装部より低い位置に配置してある請求項1に記載のコイル装置。
【請求項3】
前記継線部と前記実装部との間には、段差部が形成してある請求項2に記載のコイル装置。
【請求項4】
巻芯部と鍔部とを有するコア部材と、
前記巻芯部に巻回され一端が前記鍔部に位置するワイヤと、
前記鍔部に具備される複数の端子電極とを有するコイル装置であって、
前記端子電極は、前記ワイヤの一端が熱圧着される継線部と、前記巻芯部の軸芯方向に沿って前記継線部に対して前記巻芯部から離れる側に前記継線部に連続して形成される実装部と、前記継線部と前記実装部との間に形成された最表面剥離部と、を有し、
前記実装部と前記鍔部との間には、隙間が形成してあるコイル装置。
【請求項5】
前記継線部と前記実装部との間には、段差部が形成してあり、前記段差部と前記継線部との間に、前記最表面剥離部が形成してある請求項2に記載のコイル装置。
【請求項6】
前記鍔部は、前記継線部が配置される第1領域と、前記実装部が配置される第2領域とを有する請求項1~5のいずれかに記載のコイル装置。
【請求項7】
前記継線部の前記巻芯部側の縁部と、前記鍔部の前記巻芯部側の内側面との間には、前記鍔部の外周面が露出している露出面が形成してある請求項1~6のいずれかに記載のコイル装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のコイル装置を有するパルストランス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばパルストランスなどとして用いられるコイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルストランスなどとして用いられるコイル装置としては、特許文献1に示すコイル装置が知られている。この従来のコイル装置では、実装面を有する端子電極に対して、コイルを形成するワイヤの端部が熱圧着により継線されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の従来のコイル装置では、ワイヤを被覆している被膜の一部が熱圧着の際に被膜カスとして端子電極の実装面に残るおそれがある。その結果、コイル装置を基板に実装するとき、端子電極の実装面と基板とを接続するハンダなどの接続部材にボイドなどが発生し、ボイドからクラックが発生して接続信頼性を低下させるおそれがある。
【0004】
また、熱圧着による継線時の熱の影響で、電極端子の実装面でのSn層が溶けて少なくなり、その結果、ハンダなどの接続部材と端子電極との密着性が悪くなり、接合強度が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-78155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、接合強度が高く、しかも接合信頼性が高いコイル装置およびパルストランスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るコイル装置は、
巻芯部と鍔部とを有するコア部材と、
前記巻芯部に巻回され一端が前記鍔部に位置するワイヤと、
前記鍔部に具備される複数の端子電極とを有するコイル装置であって、
前記端子電極は、前記ワイヤの一端が接続される継線部と、前記巻芯部の軸芯方向に沿って前記継線部に対して前記巻芯部から離れる側に前記継線部に連続して形成される実装部とを有する。
【0008】
本発明に係るコイル装置では、端子電極に、継線部と実装部とを別個に設けているため、ワイヤの一端を端子電極の継線部に熱圧着する際に、継線部で生じるおそれがある被膜カスが実装部に付着するおそれが少なくなる。その結果、コイル装置を基板に実装するとき、端子電極の実装面と基板とを接続するハンダなどの接続部材にボイドなどが発生するおそれが少なくなり、クラックの発生が抑制され、接続信頼性が向上する。
【0009】
また、端子電極に実装部と継線部とを別個に設けているため、熱圧着による継線時の熱の影響が実装部に及び難くなり、実装部の表面のSn層(ハンダなどの接続部材との密着性を向上させる最表面層)が溶けるおそれが少なくなる。その結果、コイル装置を基板に実装する際に、端子電極の実装部とハンダなどの接続部材との密着性が良好となり、接合強度が向上する。
【0010】
また、実装部は、巻芯部の巻軸方向に沿って継線部に対して巻芯部から離れる側に前記継線部に連続して形成されるため、継線部が巻芯部に近くなり、継線部から巻芯部までのワイヤの長さを短くすることが可能になり、コイル装置の直流内部抵抗を低くすることができる(低DCR化)。
【0011】
さらに、実装部は、巻芯部の巻軸方向に沿って継線部に対して巻芯部から離れる側に前記継線部に連続して形成されるため、継線部が、コイル装置の鍔部の幅方向の外側(巻芯部の中心軸から離れる側)に飛び出すことがない。したがって、コイル装置のコンパクト化が図れると共に、コイル装置の搬送や取り扱いが容易になると共に、実装時の取り扱い性も向上する。
【0012】
好ましくは、前記鍔部の高さ方向に沿って、前記継線部は、前記実装部より低い位置に配置されている。このように構成することで、継線部で生じるおそれがある被膜カスが実装部に付着するおそれがさらに少なくなる。また、熱圧着による継線時の熱の影響が実装部にさらに及び難くなる。さらにコイル装置の基板などへの実装時には、端子電極の継線部ではなく、実装部が基板の接続箇所に接触するので、端子電極の実装部と基板との接続強度が向上すると共に接続信頼性も向上する。
【0013】
好ましくは、前記継線部と前記実装部との間には、段差部が形成してある。段差部を形成することで、継線部と実装部とを近接させた状態で、継線部を実装部より低い位置に配置させることが容易になる。また、段差部があることで、継線部で生じるおそれがある被膜カスが実装部に付着するおそれがさらに少なくなる。
【0014】
好ましくは、前記継線部と前記実装部との間には、最表面剥離部が形成してある。端子電極を構成する金属部材の最表面には、たとえばSn層などのように、ハンダなどの接続部材との密着性が高い層が形成されている。そのため、巻芯部に巻回されたワイヤを継線部の端部で切断するとき、熱圧着による継線時の熱の影響により、ワイヤから切断されて分離除去されるワイヤ部分が端子電極に接合されてしまい、ワイヤの切断が適切に行えないおそれがある。
【0015】
継線部と実装部との間に、端子電極の最表面を剥離除去した最表面剥離部を形成することで、ワイヤを継線部の端部で切断するとき、ワイヤの不要な部分が端子電極に接合してしまうおそれを少なくすることができる。その結果、ワイヤを継線部の端部で適切に切断し、不要な部分を確実に分離除去することができる。
【0016】
また、継線部と実装部との間に最表面剥離部を形成することにより、実装部が継線部から分離されて配置されることになり、継線部で生じるおそれがある被膜カスが実装部に付着するおそれがさらに少なくなる。また、熱圧着による継線時の熱の影響が実装部にさらに及び難くなる。
【0017】
好ましくは、前記継線部と前記実装部との間には、段差部が形成してあり、段差部と継線部との間に、最表面剥離部が形成してある。この場合、鍔部の高さ方向に沿って、最表面剥離部は、実装部より低い位置に配置される。このように構成することで、巻芯部に巻回されたワイヤを切断するとき、ワイヤを継線部と最表面剥離部の表面に直線的に配置することができ、ワイヤを継線部の端部で適切に切断することができる。また、継線部で生じるおそれがある被膜カスが実装部に付着するおそれが一層少なくなる。また、熱圧着による継線時の熱の影響が実装部に一層及び難くなる。
【0018】
前記鍔部は、前記継線部が配置される第1領域と、前記実装部が配置される第2領域とを有していてもよい。第1領域と第2領域との間には、端子電極に形成してある段差部に合わせた形状の段差部が形成してあっても良い。あるいは、端子電極の実装部と第2領域との間には、端子電極の継線部と第1領域との間の隙間よりも大きな隙間空間が形成してあっても良い。なお、第1領域と継線部とは、接着されていないことが好ましく、第2領域と実装部とも接着されていないことが好ましい。
【0019】
好ましくは、端子電極は、継線部と実装部との連結部とは別の位置で実装部に連続して形成される設置部をさらに有することが好ましく、設置部が鍔部の外側面に接着剤などで固定してある。このように構成することで、端子電極の継線部と実装部とは、鍔部に対して固定する必要がなくなり、実装後のコイル装置の耐熱衝撃特性などが向上する。
【0020】
好ましくは、前記端子電極において、前記継線部の面積は、前記実装部の面積より小さい。このような構成とすることで、継線部の熱容量を相対的に小さくすることができ、ワイヤの熱圧着時の熱が実装部に与える影響を小さくできる。
【0021】
前記巻芯部の軸心方向に沿って、前記継線部の幅は、前記実装部の幅より狭くてもよい。このように構成することで、継線部の面積を、実装部の面積より小さくすることができる。
【0022】
好ましくは、前記継線部の前記巻芯部側の縁部と、前記鍔部の前記巻芯部側の内側面との間には、前記鍔部の外周面が露出している露出面が形成してある。さらに好ましくは、前記露出面は、面取りしてある。このように構成することで、ワイヤの端部が継線部の巻芯部側の縁部に当接する角度を大きくすることが可能になり、ワイヤの端部に対するダメージを低減することができる。
【0023】
前記鍔部に具備される複数の前記端子電極の内の一つは、他の端子電極の継線部の幅よりも広い幅の幅広継線部を有し、当該幅広継線部には、二本以上のワイヤの端が、前記鍔部の外周方向に並んで接続されてもよい。
【0024】
本発明に係るパルストランスは、上記したいずれかのコイル装置を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は本発明の一実施形態に係るコイル装置の斜視図である。
図2図2図1に示すコイル装置の部分斜視図であって、図1のIIの部分の拡大図である。
図3図3図1に示すコイル装置の部分平面図であって、図1のIIIから見た図である。
図4図4図1に示すコイル装置の部分側面図であって、図1のIVから見た図である。
図5図5図1に示すコイル装置の端子部材を示す斜視図である。
図6A図6A図1に示すコイル装置においてワイヤを熱圧着する状態を示す図である。
図6B図6B図1に示すコイル装置においてワイヤを切断する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0027】
図1に示すように、コイル装置1は、たとえばパルストランスとして用いられる表面実装型のコイル部品である。コイル装置1は、ドラム型のコア部材としてドラムコア10と、コイル部30と、端子電極51~56とを有する。
【0028】
コイル装置1は、図1においてZ軸方向の上面が、コイル装置1を基板などに実装するときの実装面となる。なお、以下の説明では、コイル装置1のコイル部30の巻軸と平行な軸をX軸、コイル装置1の高さ方向に平行な軸をZ軸、X軸およびZ軸に略垂直な軸をY軸とする。
【0029】
コイル装置1は、その外形寸法は特に限定されないが、たとえばX軸長さが3.0~6.0mmで、Y軸幅が3.0~6.0mmで、Z軸高さが1.5~4.0mmである。
【0030】
ドラムコア10は、コイル部30が巻回されている棒状部分(図3および図4に破線で示す巻芯部11)と、巻芯部11のX軸方向の両端に設けられる1対の鍔部12,12とを有する。巻芯部11の断面形状は、本実施形態では略四角形であるが、その他の多角形あるいは円形または楕円形でもよく特に限定されない。図1に示すように、2個の鍔部12,12の外形形状は、ともに同一形状の略直方体であるが、これらは相互に形状またはサイズが異なっていてもよい。
【0031】
ドラムコア10は、磁性体で構成され、たとえば、比較的透磁率の高い磁性材料、たとえばNi-Zn系フェライトや、Mn-Zn系フェライト、あるいは金属磁性体などの磁性粉体を含む。
【0032】
2個の鍔部12,12は、X軸方向に所定の間隔を空けて、互いに略平行になるように配置されている。巻芯部11のX軸方向の両端は、図3および図4に示すように、一対の鍔部12,12の対向する内側面13,13の各Y軸方向の中央部に接続している。
【0033】
図1に示すように、鍔部12,12のそれぞれにおいて、一方の鍔部12の実装側面20には、3つの第1~第3端子電極51~53が形成されており、他方の鍔部12の実装側面20には、3つの第4~第6端子電極54~56が配置してある。
【0034】
ドラムコア10の巻芯部11には、コイル部30が形成されている。本実施形態において、コイル部30は、巻芯部11に巻回された4本のワイヤ31~34により構成されており、第1ワイヤ31と第2ワイヤ32とがパルストランスとしての一次コイルを構成し、第3ワイヤ33と第4ワイヤ34とが二次コイルを構成している。一次コイルを形成する第1ワイヤ31と第2ワイヤ32とは逆方向に巻回してあり、二次コイルを形成する第3ワイヤ33と第4ワイヤ34とは逆方向に巻回してある。
【0035】
このように巻回された4本のワイヤ31~34の各端部31a~34a,31b~34bは、ドラムコア10の鍔部12,12に配置された端子電極51~56に、それぞれ熱圧着などにより継線されている。
【0036】
具体的には、第1ワイヤ31の一方の端部31aは第1端子電極51に継線され、第2ワイヤ32の一方の端部32aは第2端子電極52に継線され、第3ワイヤ33と第4ワイヤ34の一方の端部33a,34aはともに第3端子電極53に継線される。
【0037】
また、第1ワイヤ31と第2ワイヤ32の他方の端部31b,32bはともに第6端子電極56に継線され、第3ワイヤ33の他方の端部33bは第5端子電極55に継線され、第4ワイヤ34の他方の端部34bは第4端子電極54に継線される。
【0038】
ワイヤ31~34を、このような構成で巻回し、端子電極51~56に継線することにより、第1端子電極51と第2端子電極52とが一次コイル側端子(入力側端子)となり、第4端子電極54と第5端子電極55とが二次コイル側端子(出力側端子)となる。また、第3端子電極53および第6端子電極56は、それぞれ、一次コイル側(入力側)および二次コイル側(出力側)の中間タップとなる。
【0039】
各ワイヤ31~34は、被覆導線で構成してあり、たとえば、銅(Cu)などの良導体からなる芯材を、イミド変成ポリウレタンなどからなる絶縁材で覆い、さらに最表面をポリエステルなどの薄い樹脂膜で覆っている。ただし、ワイヤ31~34の芯材や被膜材の材質はこれに限られない。
【0040】
また、各ワイヤ31~34の線径、巻回数、巻線方法、コイル部30における巻回されるワイヤの層数などは、求められるコイル装置1の特性に応じてワイヤごとに決定してよい。本実施形態においては、各ワイヤ31~34の線径および巻回数は同じであり、同じ方向に巻かれる一対のワイヤ31および33(または32および34)毎に巻回してあり、コイル部30においては、たとえば4本のワイヤが2層に巻回されている。
【0041】
図5に示すように、端子電極51~56は、それぞれ金属板状の端子部材61を折曲成形で一体に成形してある。端子部材61は、たとえば銅、銅合金などの金属、あるいはその他の導電板で構成してある。
【0042】
図5に示すように、本実施形態では、端子電極51~56は、それぞれ同じサイズと形状を有し、それぞれが、継線部63と、実装部65と、設置部66とを有する。ただし、二つのワイヤの端部がそれぞれ接続される端子電極53および56の継線部63は、他の端子電極51,52,54,55の継線部63に比較して、Y軸方向の幅を大きくしてもよい。
【0043】
各端子電極51~56では、継線部63と実装部65との間に、段差部64が形成してあり、段差部64と継線部63との間に、最表面剥離部68が形成してある。継線部63と最表面剥離部68と、段差部64と、実装部65とは、図3に示すように、巻芯部11に近い側から、この順で、各端子電極51~56にX軸方向に連続して形成してある。また、設置部66は、継線部63とはX軸方向の反対側で、実装部65のX軸方向の他端部からZ軸の下方に折り曲げられるように連続的に形成してある。
【0044】
最表面剥離部68は、端子部材61の最表面層であるSn層が剥離された部分である。Sn層は、ハンダとの密着性が高いため、端子部材61を構成する金属材料の最表面に形成されている。最表面剥離部68は、このSn層が存在しないため、ワイヤとも接合し難い。この最表面剥離部68を、切断して分離すべきワイヤが接触する可能性のある位置に配置することにより、切断して分離された不要なワイヤが端子部材61に接合してしまうことを防ぐことができる。
【0045】
したがって、最表面剥離部68は、継線部63に隣接してワイヤの延伸方向に配置されるのが好ましく、本実施形態では継線部63と段差部64との間に形成してある。なお、本実施形態において最表面剥離部68は、端子部材61の最表面を機械加工、レーザ加工、溶剤加工などにより剥離して形成するが、たとえば、端子部材61を構成する金属材料の最表面剥離部68となる箇所に、当初よりSn層を形成しない方法により形成してもよい。
【0046】
設置部66のZ軸方向の高さz1は、図4に示す鍔部12のZ軸方向の高さz0と同等またはそれより短いことが好ましく、z1/z0は、好ましくは、0.2~1である。図5に示すように、設置部66のY軸方向の幅は、本実施形態では、実装部65の軸方向の幅y2と同じであるか大きいことが好ましいが、小さくてもよい。継線部63のY軸方向の幅y1は、実装部65のY軸方向の幅y2と同程度であるが、異なっていてもよく、好ましくは、y1/y2は、0.5~2の範囲内である。
【0047】
また、継線部63のX軸方向の幅x2は、実装部65のX軸方向の幅x1と同等またはそれよりも短いことが好ましく、x2/x1は、好ましくは1/4~4/4であり、さらに好ましくは1/3~3/4である。しかも、継線部63の面積s1(図示省略)は、実装部65の面積s2(図示省略)と同等以下であることが好ましく、s1/s2は、好ましくは1/4~4/4であり、さらに好ましくは1/3~3/4である。
【0048】
実装部65のX軸方向長さx1は、図4に示す鍔部12の実装側面20のX軸方向幅x0より短いことが好ましく、x1/x0は、好ましくは1/3~2/3である。最表面剥離部68のX軸方向の幅x3は、継線部63のX軸方向の幅x2よりも短いことが好ましく、x3/x2は、好ましくは1/10~1/2であり、さらに好ましくは2/10~4/10である。
【0049】
継線部63は、段差64により、継線部63よりもZ軸方向に段差高さz2で高い位置に配置される。最表面剥離部68は、継線部63に比較して、最表面層であるSn層が除去されている分で、継線部63よりもZ軸方向に低い位置にあるが、Sn層は、0.1~10μm程度に薄いため、実質的には、最表面剥離部68は、継線部63と略同じ高さに配置される。
【0050】
図5に示すように、段差部64のX軸方向の幅x4は、金属板状の端子部材61の板厚t1と同程度か、板厚t1の1.0倍~2倍程度であることが好ましい。段差部64が継線部63と実装部65との間に形成されることで、段差部64のZ軸方向の段差高さz2で、実装部65は、継線部63よりもZ軸方向に高い位置に配置される。段差部64のZ軸方向の段差高さz2は、端子部材61の板厚t1と同程度か、板厚t1の1.0倍~2.0倍程度であることが好ましい。板厚t1は特に限定されないが、好ましくは、50~150μmである。
【0051】
実装部65と段差部64と最表面剥離部68と継線部63とのX軸方向の合計長さx5は、図4に示す鍔部12のX軸方向の幅x0との関係で決定される。すなわち、図3に示すように、端子電極の継線部63の巻芯部側の縁部67と、鍔部12の巻芯部側の内側面13との間に、実装側面20の一部(鍔部12の外周面の一部)が露出している露出面23a~23cが形成されるように、図5に示す合計長さx5が決定される。
【0052】
図1に示すように、鍔部12,12の実装側面20,20は、凹凸の無い平らな面に構成されている。したがって、図2および図4に示すように、端子電極53の実装部65と、実装部65に対応する実装側面20の第2領域22cとの間は、隙間空間となる。
【0053】
図4に示すように、継線部63は、鍔部12の実装側面20の第1領域21c上に密着して配置してある。後工程で継線部63にワイヤ34(33)の端部34a(33a)を熱圧着することから、継線部63は実装側面20に密着してあることが好ましいが、接着されている必要は無く、多少隙間があってもよい。実装部65と実装側面20との間には、隙間が形成してあることが好ましく、隙間があることで、実装部65の弾性変形範囲が大きくなり、コイル装置1の基板などへの実装後の耐熱衝撃特性などが向上する可能性がある。また、隙間があることで、コイル装置1の実装面のコプラナリティ(平面度)を向上させることもできる。なお、図2および図4を用いて端子電極53について行った上述の説明は、図1に示す他の端子電極51~56にも同様に適用することができる。
【0054】
図1に示すように、端子電極51~56を構成する端子部材61の設置部66は、鍔部12,12の外側面14,14にそれぞれ接着などの手段で接合してある。図5に示す端子部材61の実装部65、段差部64、最表面剥離部68および継線部63は、図1に示す鍔部12のZ軸方向の上面である実装側面20に対して接着されずに自由に移動可能であることが好ましい。
【0055】
各端子電極51~56の継線部63、最表面剥離部68および実装部65を、鍔部12,12の実装側面20,20に接着固定しないことにより、コイル装置1の実装面のコプラナリティ(平面度)を向上させることができる。また、コイル装置1を基板などに実装した時の基板の歪みや振動などに対する耐性が向上し、実装信頼性を向上させることができる。
【0056】
図3に示すように、端子部材61が、鍔部12に取り付けられると、継線部63と実装部65とは、巻芯部11の巻軸方向(本実施形態ではX軸方向)に沿って配置されると共に、継線部63が実装部65より巻芯部11側となる位置関係に配置される。すなわち、鍔部12に沿って配置される全ての端子電極51~53(54~56)は、それぞれの実装部65の内側(巻芯部11側)に継線部63が位置する。
【0057】
このような構成のコイル部品1を製造する際は、まず、ドラムコア10に端子部51~56を設置する。各端子電極51~56は、対応する端子部材61の継線部63、最表面剥離部68、段差面64および実装部65を実装側面20上に配置し、設置部66を接着剤により鍔部12,12の外側面14,14に接着することにより形成される。
【0058】
なお、端子電極51~56の形成方法は、端子部材61を設置する方法に限定されず、印刷または塗布された導電膜の焼付け処理、メッキ処理などにより形成してもよい。そのような方法でも、本実施形態と同様の継線部63、段差部64、実装部65および最表面剥離部68を有する端子電極を実装側面20,20に形成可能であると共に、実装側面20,20に露出面23a~23cを形成することも可能である。
【0059】
ドラムコア10の鍔部のそれぞれに端子電極51~53および54~56を装着した後、次に、ドラムコア10を巻線機にセットし、ワイヤ31~34を所定の順序でドラムコア10の巻芯部11に巻回する。
【0060】
巻線に際しては、ワイヤ31~34の端部31a~34aおよび31b~34bを、端子電極51~56の継線部63に熱圧着により固定する。たとえば、第3端子電極53の継線部63への第3ワイヤ33および第4ワイヤ34の端部33a,34aの継線においては、図6Aに示すように、図示せぬ巻線機により引っ張られたワイヤ33,34の途中が第3端子電極53の継線部63に配置された状態で、上方よりヒータHをワイヤ33,34および継線部63に圧接させて加熱する。なお、ワイヤ33の継線部63に対する熱圧着と、ワイヤ34の継線部63に対するワイヤの熱圧着は、別々の工程で行ってもよい。
【0061】
熱圧着により、ワイヤ33または34の被膜材は溶融あるいは剥離され、導体であるワイヤ33,34の芯材が露出し、ワイヤ33,34は端子電極53の継線部63に圧着されて電気的に接続される。このとき、継線部63に隣接する最表面剥離部68は表面のSn層が剥離された領域なので、熱圧着時の熱の影響によりワイヤ33,34が最表面剥離部68にまで接着されてしまう可能性は低く、ワイヤ33,34は、端子電極53の継線部63にのみ適切に圧着される。
【0062】
本実施形態のコイル装置1においては、各端子電極51~56の継線部63が実装部65よりコイル部30側に配置されている。それぞれ3個の端子電極51~53または54~56が配置される鍔部12,12においては、一方の鍔部12について、それぞれ幅広の1つのヒータHを用いて熱圧着してもよいし、単一のヒータで、熱圧着する位置を変えて4本のワイヤ31~34の熱圧着を行ってもよい。
【0063】
また、幅広の1つのヒーターにより、同じ方向に巻回してあるワイヤ32および34の端部を、同時的に熱圧着することもできる。したがって、コイル装置1においては、ワイヤ31~34の端部31a~34a,31b~34bを端子電極51~56に熱圧着する工程を容易にすることもできると共に、製造装置を簡単にすることも可能である。
【0064】
ワイヤ31~34の両端部31a~34a,31b~34bの端子電極51~56への熱圧着が終了した後、ワイヤ端部31a~34a,31b~34bの継線部分から先を切断する。たとえば、第3端子電極53の継線部63へ圧着した第3ワイヤ33および第4ワイヤ34においては、図6Bに示すように、継線部63と最表面剥離部68との境界の位置に上方より降下させたワイヤカッターCにより、ワイヤ33,34を切断する。
【0065】
ワイヤカッターCによる切断時には、切断部より内側(鍔部12の内側面13側)に位置するワイヤ33,34のワイヤ端部33a,34aが端子電極53の継線部63に熱圧着された状態に維持される。一方、切断部より外側(鍔部12の外側面14側)のワイヤの不要部分33c、34cは、最表面剥離部68上に位置するため、端子電極53に熱融着されずに、適切に除外される。
【0066】
本実施形態のコイル装置1においては、端子電極51~56に、継線部63と実装部65とを別個に設けているため、ワイヤ31~34の一端を端子電極51~56の継線部63に熱圧着する際に、継線部63で生じるおそれがある被膜カスが実装部65に付着するおそれが少なくなる。その結果、コイル装置1を回路基板(図示省略)などに実装するとき、端子電極51~56の実装面63と基板などとを接続するハンダなどの接続部材にボイドなどが発生するおそれが少なくなり、クラックの発生が抑制され、接続信頼性が向上する。
【0067】
また、端子電極51~56に、継線部63と実装部65とを別個に設けているため、熱圧着による継線時の熱の影響が実装部65に及び難くなり、実装部65の表面のSn層(ハンダなどの接続部材との密着性を向上させる層)が溶けるおそれが少なくなる。その結果、コイル装置1を基板などに実装する際に、端子電極51~56の実装部とハンダなどの接続部材との密着性が良好となり、接合強度が向上する。
【0068】
また、実装部65は、X軸方向に沿って巻芯部11から離れる側に継線部63に連続して形成されるため、継線部63が巻芯部11に近くなり、継線部63から巻芯部11までのワイヤの引出長さを短くすることが可能になり、コイル装置1の直流内部抵抗を低くすることができる(低DCR化)。
【0069】
さらに、実装部65は、継線部63に対して巻芯部11から離れる側に継線部63に連続して形成されるため、継線部63が、鍔部12のY軸方向の外側に飛び出すことがない。したがって、コイル装置1のコンパクト化が図れると共に、コイル装置1の搬送や取り扱いが容易になると共に、実装時の取り扱い性も向上する。
【0070】
また、実装部65は段差部64を介して継線部63に近接して形成してあるため、さらに低DCR化を図ることができる。さらに、鍔部12の高さ方向(Z軸方向)に沿って、継線部63は、実装部65より低い位置に配置されている。このため、継線部63で生じるおそれがある被膜カスが実装部65に付着するおそれがさらに少なくなる。また、熱圧着による継線時の熱の影響が実装部65にさらに及び難くなる。さらにコイル装置1の基板などへの実装時には、端子電極の継線部63ではなく、実装部65が基板の接続箇所に最初に接触するので、端子電極51~56の実装部65と基板との接続強度が向上すると共に接続信頼性も向上する。
【0071】
また、継線部63と実装部65との間には、段差部64が形成されているため、段差部64は、ワイヤ31~34の巻始めまたは巻き終わり時のワイヤ31~34の熱圧着後の切断時の位置決め機能を果たし、ワイヤ31~34の端部を適切に切断することができる。また、段差部64があることで、継線部63で生じるおそれがある被膜カスが実装部65に付着するおそれがさらに少なくなる。
【0072】
また、端子電極51~56において、継線部63と実装部65との間には、端子部材61の最表面のSn層を剥離した最表面剥離部68が形成されている。そのため、ワイヤ31~34の端部を継線部63で熱圧着してから切断するとき、熱圧着による継線時の熱の影響により、切断して分離除去さけるワイヤの不要部分(たとえば図6Bに示す33c、34c)が端子電極51~56に接合されるおそれが少なくなる。その結果、ワイヤ31~34を適切に切断し、不要な部分を確実に分離除去することができる。
【0073】
また、継線部63と実装部65との間に最表面剥離部68を形成することにより、実装部65が継線部63から分離されて配置されることになり、継線部63で生じるおそれがある被膜カスが実装部に付着するおそれがさらに少なくなる。また、熱圧着による継線時の熱の影響が実装部にさらに及び難くなる。
【0074】
また、鍔部12,12の高さ方向(Z軸方向)に沿って、最表面剥離部68は、実装部65より低い位置に配置されているので、巻芯部に巻回されたワイヤ31~34を切断するとき、ワイヤ31~34を継線部63と最表面剥離部68の表面に直線的に配置することができ、ワイヤ31~34を継線部63の端部で適切に切断することができる。また、継線部で生じるおそれがある被膜カスが実装部に付着するおそれが一層少なくなる。また、熱圧着による継線時の熱の影響が実装部に一層及び難くなる。
【0075】
しかも本実施形態では、継線部63の巻芯部11側の縁部67と、鍔部12の巻芯部11側の内側面13との間には、鍔部12の外周面が露出している露出面23a~23cが形成してあり、露出面23a~23cは、面取りしてある。このように構成することで、ワイヤ31~34の端部が継線部63の巻芯部11側の縁部67に当接する角度を大きくすることが可能になり(たとえば図2参照)、ワイヤ31~34の引出端部(リード)に対するダメージを低減することができる。
【0076】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0077】
たとえば、上述した実施形態において、実装側面20,20は、凹凸の無い平らな面に構成したが、継線部63が配置される第1領域21a~21cと、実装部65が配置される第2領域22a~22cに関して、実装側面20,20に、第1領域21a~21cより高い第2領域22a~22cを形成してもよい。第1領域21a~21cと第2領域22a~22cとの間には、コア段差部が形成され、第2領域22a~22cが、第1領域21a~21cよりもZ軸方向に高い位置に配置される。コア段差部の段差高さは、図5に示す段差部64の段差高さz2と略同一、またはそれより小さいことが好ましい。
【0078】
この構成においては、図5に示す継線部63は、第1領域21c(21a~21c)の上に密着して配置され、図5に示す実装部65は、第2領域22c(22a~22c)の上に密着して配置される。また、コア段差部の上には、図5に示す段差部64が配置される。
【0079】
ただし、この構成においても、継線部63は、第1領域21c(21a~21c)の上に接着されている必要は無く、多少隙間があってもよい。また、実装部65は、第2領域22c(22a~22c)の上に接着されている必要は無く、隙間があってもよい。
【0080】
図4に示す継線部63と第1領域21cとの間の隙間よりも、実装部65と第2領域22cとの間の隙間が大きいことが好ましい。後工程で継線部63に二本のワイヤ33,34の端部を熱圧着することから、継線部63と第1領域21cとは密着してあることが好ましいが、実装部65と第2領域22cとの間には、隙間があっても何ら問題は無い。むしろ隙間があることで、実装部65の弾性変形範囲が大きくなり、コイル装置1の基板などへの実装後の耐熱衝撃特性などが向上する可能性がある。
【0081】
さらに、上述した実施形態では、一対の鍔部12,12の実装側面20と反対側の面には、これらの鍔部12,12を磁気的に連絡する板状のコアが接合されていないが、板状のコアを接着などの手段で接合してもよい。
【0082】
また、上述した実施形態では、入力側および出力側それぞれの中間タップとして第3端子電極53および第6端子電極56を形成しているが、用途によっては中間タップを省略してもよい。その場合には、第3端子電極53および第6端子電極56は不要となると共に、2本のワイヤによりコイル装置(パルストランス)を構成可能になる。
【0083】
また、上述した実施形態では、LANケーブルなどを介したパルス信号の伝送に使用するパルストランスとして好適な装置として本発明を説明したが、本発明の用途はこれに限られない。本発明は、たとえばコモンモードフィルタなど他のコイル装置にも適用可能であると共に、熱圧着または熱圧着以外の方法によりワイヤのリードを端子電極に継線する全ての電子部品に適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1…コイル装置
10…ドラムコア(コア部材)
11…巻芯部
12…鍔部
13…内側面
14…外側面
20…実装側面
21a~21c…第1領域
22a~22c…第2領域
23a~23c…露出面
30…コイル部
31~34…ワイヤ
31a~34a,31b~34b…端部(リード)
51~56…端子電極
61…端子部材
63…継線部
64…段差部
65…実装部
66…設置部
67…継線部の縁部
68…最表面剥離部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B