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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】メタン浄化用触媒材料
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/44 20060101AFI20240308BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240308BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B01J23/44 A ZAB
B01D53/94 280
F01N3/10 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019114458
(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公開番号】P2021000588
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直人
(72)【発明者】
【氏名】成田 慶一
(72)【発明者】
【氏名】今井 啓人
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-007343(JP,A)
【文献】特開2014-091119(JP,A)
【文献】特開2015-073936(JP,A)
【文献】米国特許第04906176(US,A)
【文献】特開2002-263491(JP,A)
【文献】特開2002-166172(JP,A)
【文献】特表2018-510767(JP,A)
【文献】特開昭54-136589(JP,A)
【文献】国際公開第2017/079826(WO,A1)
【文献】特開平11-169728(JP,A)
【文献】Kazumasa Murata, Yuji Mahara, Junya Ohyama, Yuta Yamamoto, Shigeo Arai, Atsushi Satsuma,The Metal-Support Interaction Concerning the Particle Size Effect of Pd/Al2O3 on Methane Combustion,Angewandte Chemie International Edition,ドイツ,Wiley-VCH,2017年10月26日,vol. 56,pp. 15993,doi.org/10.1002/anie.201709124,Supporting Information
【文献】アルミナ製品 データブック,住友化学 無機材料事業部,sumika-alchem.co.jp/products/pdf/Almina_Products_Data_Book.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/94
F01N 3/10- 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンの浄化に用いられるメタン浄化用触媒材料であって、
アルミナからなる担体と、
前記担体に直接担持されたパラジウムおよびパラジウム酸化物の少なくとも一つからなる触媒と、
を含み、
前記担体の比表面積が20m/g以上70m/g以下であり、
前記触媒の平均粒子径が7nm以下であり、
当該メタン浄化用触媒材料を用いた1gのペレット状排ガス浄化用触媒供試体について、以下の組成:
CH :4000ppm
:10質量%
O:10質量%
CO :500ppm
NO :500ppm
:残部
のガスを使用して該触媒供試体への流入ガスのメタン濃度に対する排出ガスのメタン濃度が50%となるような環境温度であるメタン50%浄化温度が347℃以下である、メタン浄化用触媒材料。
【請求項2】
前記触媒と前記担体との接合面における前記触媒の結晶面のうち、Pd(100)およびPdO(101)が占める割合は、35個数%以上である、請求項1に記載のメタン浄化用触媒材料。
【請求項3】
前記担体と前記触媒との総量に占める前記触媒の担持率は、10質量%以下である、請
求項1または2に記載のメタン浄化用触媒材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンを含む排ガスの浄化に用いられるメタン浄化用触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両などの内燃機関(エンジン)から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)等の有害な気体成分とともに、炭素を主成分とする粒子状物質(Particulate Matter:PM)が含まれる。これらの有害ガスやPMの排出量を規制する排ガス規制は年々強化されている。そのため、内燃機関およびその周辺技術においては、車両等から排出される有害ガスやPMの排出量を低減するための研究が進められている。
【0003】
そして近年では、単位距離あたりのCO2排出量が低いことから、天然ガスを燃料とする天然ガス内燃機関を利用する車両(例えば、CNG(Compressed Natural Gas)車両)が注目されている。ここで、ガソリンを燃料とするガソリン内燃機関から排出されるHCは、アロマ,オレフィン,パラフィン等の比較的低温で燃焼が容易な成分であるのに対し、天然ガス内燃機関から排出されるHCは、その殆どが化学的に安定で低温で分解され難いメタン(CH)である。したがって、内燃機関から発生される有害ガス成分、特にメタンを適切に浄化できる排ガス浄化用触媒の実現が求められる。天然ガス内燃機関の排ガスに含まれるメタンを浄化するための触媒に関する従来技術としては、例えば特許文献1~5が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-336655号公報
【文献】特開2002-263491号公報
【文献】特開2001-190931号公報
【文献】特開2008-246473号公報
【文献】特開2014-091119号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、排ガス浄化用触媒が機能するのは、触媒が活性化される温度にまで温められてからである。したがって、内燃機関の冷間始動時の排出ガスにおけるメタンの浄化は困難であり、浄化されないメタンが大量に大気に放出される虞がある。天然ガスを燃料とする天然ガス内燃機関は、単位距離あたりのCO2排出量は低いものの、メタンはCO2に比べて温暖化係数が約25倍と高い点において、重要な問題となり得る。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、化学的に安定なメタンの浄化性能に優れたメタン浄化用触媒材料を提供することにある。
【0007】
本発明により、メタンの浄化に用いられるメタン浄化用触媒材料が提供される。このメタン浄化用触媒材料は、アルミナからなる担体と、上記担体に直接担持されたパラジウムおよびパラジウム酸化物の少なくとも一つからなる触媒と、を含む。そして当該メタン浄化用触媒材料を用いた排ガス浄化用触媒供試体について、25℃におけるメタン浄化率を基準としたとき、メタン浄化率がその50%となるような環境温度であるメタン50%浄化温度が347℃以下である。上記構成によると、ここに開示されるメタン浄化用触媒材料のメタン50%浄化温度はこれまでにないレベルにまで低下されており、従来よりも低い温度で高いメタン浄化性能を発揮することができる。
【0008】
本技術によって提供されるメタン浄化用触媒材料の好適な一態様では、上記担体の比表面積は80m/g以下である。このような構成を採用した上で、上記担体上に適切に触媒を析出させることで、上記メタン50%浄化温度を達成するメタン浄化用触媒材料が好適に実現されるために好ましい。
【0009】
本技術によって提供されるメタン浄化用触媒材料の好適な一態様では、上記触媒と上記担体との接合面における上記触媒の結晶面のうち、Pd(100)およびPdO(101)が占める割合は、35個数%以上である。このような構成によると、上記メタン50%浄化温度を達成するメタン浄化用触媒材料が好適に実現されるために好ましい。
【0010】
本技術によって提供されるメタン浄化用触媒材料の好適な一態様では、上記触媒の平均粒子径は20nm以下である。平均粒子径は10nm以下であるとより好ましい。このような構成によっても、上記メタン50%浄化温度を達成するメタン浄化用触媒材料が好適に実現されるために好ましい。
【0011】
本技術によって提供されるメタン浄化用触媒材料の好適な一態様では、上記担体と上記触媒との総量に占める上記触媒の担持率は、10質量%以下である。ここに開示されるメタン浄化用触媒材料は、より少ない触媒量で高いメタン浄化性能を発揮し得る。そのため、触媒の担持率は10質量%以下であっても、その効果が明瞭に発揮され得るために好ましい。
【0012】
本技術によって提供されるメタン浄化用触媒材料は、パラジウム源と多価カルボン酸とが含まれる液相中で、アルミナからなる担体に、パラジウムおよび/またはパラジウム酸化物を析出させることで、好適に得ることができる。なおこのメタン浄化用触媒材料のメタン浄化性能については、触媒であるパラジウムおよび/またはパラジウム酸化物の特徴的な結晶性に大きく依存していることが推察される。しかしながら、当該触媒は微細な形態で担体に担持されていることから、後述する実施例にて検討しているように、当該触媒の高い結晶性を、本願の出願時において上記のメタン50%浄化温度以外に定量的に特定し得る指標を見出すことができておりません。例えば、触媒の析出に影響を与えている多価カルボン酸は、その後の乾燥等の処理によってメタン浄化用触媒材料に必ず残存するものではありません。また、X線回折(XRD)のような分析機器を用いたとしても、触媒は担体上に微細に析出しているため、その結晶性の違いを現すデータを取得することはできません。このように、適切な測定及び解析の手段が存在していないのが実状です。したがって、ここに開示されるメタン浄化用触媒材料と、従来技術との相違に係る構造又は特性を、上記の「メタン50%浄化温度」以外で特定する文言を見いだすことができず、かつ、かかる構造又は特性を測定に基づき解析し特定することも不可能又は非実際的です。したがって、ここに開示されるメタン浄化用触媒材料については、いわゆる「不可能・非実際的事情」が存在し、このメタン浄化用触媒材料を製造方法によって特定した場合であっても、特許法第36条第6項第2号に規定される明確性要件は充足するといえます。
【0013】
本技術によって提供されるメタン浄化用触媒材料は、天然ガスを燃料とする内燃機関から排出される排ガスを浄化するために好ましく用いられる。内燃機関が天然ガスを燃料とする場合、排ガスに含まれるHCの80質量%以上がメタンとなり得る。本技術の排ガス浄化用触媒は、このようなメタン含有率の高い排ガスの浄化に適用された場合に、上述した効果をより好適に発揮するために好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係るメタン浄化用触媒材料の構成を模式的に示す部分断面図である。
図2】一実施形態に係る排ガス浄化システムの構成を示す模式図である。
図3】一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
図4】一実施形態に係る排ガス浄化用触媒における触媒層の構成を模式的に示す部分断面図である。
図5】各例のメタン浄化用触媒材料について、担体の比表面積とメタン50%浄化温度との関係を示すグラフである。
図6】各例のメタン浄化用触媒材料について、担体の比表面積と触媒の平均粒子径との関係を示すグラフである。
図7】各例のメタン浄化用触媒材料について、担体の比表面積と、触媒の析出界面における特定結晶面の割合と、の関係を示したグラフである。
図8】各例のメタン浄化用触媒材料について、触媒の平均粒子径とメタン50%浄化温度との関係を示すグラフである。
図9】各例のメタン浄化用触媒材料について、触媒の析出界面における特定結晶面の割合と、メタン50%浄化温度との関係を示すグラフである。
図10】例2、5~8のメタン浄化用触媒材料について、触媒の析出界面における特定結晶面の割合とメタン50%浄化温度とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、「A以上B以下」を意味する。
【0016】
図1は、一実施形態に係るメタン浄化用触媒材料30の構成を示す断面模式図である。ここに開示されるメタン浄化用触媒材料30は、メタンの浄化に用いられるメタン浄化用触媒材料である。メタン浄化用触媒材料30は、担体32と、この担体32に直接的に担持された触媒34と、を含む。図1において触媒34は二つしか記載されていないが、触媒34の数はこれに限定されず、一つまたは二つ以上の任意の数であってよい。以下、メタン浄化用触媒材料30の構成要素について説明する。
【0017】
ここに開示されるメタン浄化用触媒材料30において、触媒34を担持する担体32はアルミナからなる。アルミナの結晶構造は特に制限されない。アルミナには、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、α-アルミナ等の各種の多形が知られており、担体32としてのアルミナの結晶構造はこれらのいずれか1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。高温安定相のα-アルミナ以外のアルミナは遷移アルミナ(中間アルミナともいう)と呼ばれ、一般的には一次粒子が超微粒子であり、比表面積が大きい。従来の自動車用触媒のアルミナ担体としては、中間アルミナ、とりわけ高比表面積を有するγ-アルミナが広く一般的に用いられていた。これに対し、本発明者らの検討によると、担体32としてのアルミナは、比表面積が90m/g以下(例えば、0.5m/g以上90m/g以下)と比較的小さいことが好ましい。
【0018】
アルミナの比表面積は、過剰に広いと担体表面を構成するアルミナの結晶性が乱れやすく、そこに担持される触媒の結晶性にも影響を与えると考えられる。したがって、アルミナの比表面積は、好ましくは80m/g以下であり、より好ましくは70m/g以下、65m/g以下、60m/g以下、55m/g以下、50m/g以下などであってよい。しかしながら、比表面積が小さすぎると、触媒性能に優れた触媒を析出させることが困難となる場合があり得る。したがって、アルミナの比表面積は、これに限定されるものではないが、例えば1m/g以上であってよく、5m/g以上、10m/g以上、20m/g以上、30m/g以上であってよい。
【0019】
結晶の比表面積と結晶の表面に析出される結晶面との間に一義的な関係はないものの、アルミナの比表面積とその表面に現出する結晶面との間にはある程度の相関が見られると考えられる。そして、上記の比表面積を有するアルミナは、その表面に、触媒34を好適な外形で成長させやすい特別な結晶面が高い割合で露出しやすい。アルミナのこのような特別な結晶面(以下、単に「アルミナの特定面」等という場合がある。)とは、アルミナのθ(001)、θ(111)、およびα(104)である。このようなアルミナを担体として用いることにより、例えば後述するメタン浄化用触媒材料30の製造において、その表面に特定の結晶配向性を有する触媒34の生成を促進することができるために好適である。
【0020】
担体32は、上記の比表面積を有している限りにおいて、その形状は特に制限されない。好適な一例として、担体32は、粉末状のアルミナ、および/または、多孔質アルミナによって構成されているとよい。担体32が、粉末状のアルミナである場合、その平均粒子径は、例えば20μm以下、典型的には10μm以下や7μm以下、例えば5μm以下であることが好ましい。また、担体32のの平均粒子径は、メタン浄化用触媒材料30の耐熱性を高めるとの観点から、典型的には0.1μm以上、例えば0.5μm以上、1μm以上や3μm以上であってよい。
【0021】
なお、本明細書において、メタン浄化用触媒材料30や担体32等であって粉末状を呈する材料の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により測定される体積基準の粒度分布における累積50%粒子径(D50)である。
また、担体32についての比表面積は、ガス吸着法(定容量吸着法)によって測定されたガス吸着量に基き、BET法(例えばBET一点法)により算出される値である。ガス吸着法における吸着質は特に制限されず、例えば、窒素(N)ガスを好適に用いることができる。
【0022】
ここに開示されるメタン浄化用触媒材料30において、触媒34は、パラジウムおよびパラジウム酸化物の少なくとも一つからなる。この触媒34は、担体32であるアルミナの表面に、直接的かつ一体的に担持されている。換言すると、触媒34は、バインダ等の結着剤を介することなく、担体32の表面に結合されている。例えば、具体的には、触媒34は、担体であるアルミナの表面に、直接結晶成長することで担持されている。このとき、触媒34は、アルミナの表面に結晶成長するが、担体32であるアルミナの結晶面が上記特定面であるとき、触媒34には、このアルミナの特定面とある一定の結晶方位関係をもった結晶成長が誘導されやすい。アルミナの上記特定面に成長が誘導されやすいパラジウムおよびパラジウム酸化物の結晶面とは、それぞれ、Pd(100)およびPdO(101)(以下、単に「パラジウムの特定面」という場合がある。)であり得る。換言すると、担体32であるアルミナの特定面上には、パラジウム(Pd)が(100)面配向して成長しやすい。あるいは、パラジウム酸化物(PdO)が(101)面配向して成長しやすい。PdとPdOとは、例えば環境の雰囲気変動によってPdの電子状態が可逆的に変化することにより、Pdが容易にPdOに酸化され、PdOが容易にPdに還元される。このPdとPdOの酸化還元反応において、Pd(100)とPdO(101)とは等価な面であり、ここに開示される触媒34においてパラジウム(Pd)とパラジウム酸化物(PdO)とは同等に扱うことができる(以下、「パラジウム」と「パラジウム酸化物」とを特に区別する必要のない場合は、「パラジウムおよびパラジウム酸化物」を単に「パラジウム」と表現する場合があり得る。)。したがって、触媒34は、全部または一部がパラジウムであってもよいし、全部または一部がパラジウム酸化物であってもよい。また、一つの触媒粒子についても、全部または一部がパラジウムであってもよいし、全部または一部がパラジウム酸化物であってもよい。ここに開示される触媒34において、パラジウム酸化物におけるPdの価数は、+2以外の値(例えば、+1~+3程度の値)であってもよい。
【0023】
このように、担体32であるアルミナの上記特定面に、触媒34としてのパラジウム(Pd)およびパラジウム酸化物(例えばPdO)がエピタキシャルに成長しやすい。このことによって、ここに開示されるメタン浄化用触媒材料は、図1に示すように、担体32と触媒34とが面配向している割合が高い。例えば、触媒34と担体32との接合面における触媒34の結晶面のうち、上記のパラジウムの特定面が占める割合は、35個数%以上と高い値となり得る。発明者らの検討によると、パラジウムの特定面の占める割合がこのように高くなることで、当該メタン浄化用触媒材料30は低温からメタン浄化性能を発現し得ることが確認されている。詳細は明らかではないが、触媒34であるPdおよびPdOが配向成長することによって、その結晶外形に特定の結晶面や成長ステップ等が形成され、これが低温環境においてもメタン浄化反応における活性点を提供するものと考えられる。
【0024】
メタン浄化用触媒材料30の触媒/担体界面における上記パラジウムの特定面の占める割合は、その割合が多くなるほど、例えばメタン50%浄化温度が低下するなどして、メタン浄化性能が向上される。パラジウムの特定面の占める割合は、35個数%以上が好ましく、40個数%以上がより好ましく、例えば、45個数%以上や、50個数%以上、55個数%以上や、60個数%以上などであってよい。触媒/担体界面におけるパラジウムの特定面の占める割合の上限について特に制限はなく、実質的に100個数%以下(例えば100個数%)であってよく、例えば95個数%以下、90個数%以下、85個数%以下、80個数%以下、75個数%以下等であってよい。
【0025】
なおここで、触媒/担体界面におけるパラジウムの特定面は、上述の通り、アルミナの特定面によって成長が誘起され得る。かかる観点によると、触媒/担体界面を構成するアルミナの結晶面において、アルミナの特定面が占める割合が多い方が好ましいといえる。したがって、界面におけるアルミナの特定面の占める割合は、30個数%以上が好ましく、32個数%以上がより好ましく、例えば、35個数%以上などであってよい。触媒/担体界面におけるパラジウムの特定面の占める割合の上限について特に制限はなく、100個数%以下(例えば100個数%)であってよく、実質的には50個数%以下、45個数%以下、例えば40個数%以下程度等であってよい。
【0026】
なお、ここに開示される技術において、触媒34と担体32との界面を構成する結晶面は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electro Microscope:TEM)観察による公知の手法によって特定することができる。一例では、触媒34と担体32との界面における結晶構造像あるいは結晶光子像を取得し、触媒34と担体32とのそれぞれについて界面を構成する結晶面を同定すればよい。結晶面の同定は、公知の結晶面間隔(格子間隔)に基づいて実施してもよいし、TEMの電子回折観察モードを利用して結晶面を同定してもよい。本明細書では、後述の実施例に記載のとおり、結晶面間隔に基づき結晶面を同定するようにしている。
【0027】
なお、触媒34としてのパラジウムおよびパラジウム酸化物の大きさについては厳密には制限されない。触媒34はコスト低減等の観点から、ある程度は比表面積が大きな粒子状の触媒(以下、触媒粒子などという。)であるとよく、例えば触媒粒子の90個数%以上の粒径が、30nm以下程度であることが好ましい。また、触媒粒子は、例えば平均粒子径が20nm以下程度が適切であり、15nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下、典型的には8nm以下や、7nm以下、6nm以下などであってよい。なお、ここに開示される触媒34は、そのものが触媒性能に優れた形態で形成されることから、触媒粒子の平均粒子径の下限は必ずしも小さいものに限定されない。したがって、触媒粒子の平均粒子径の下限は特に制限されず、典型的には、凡そ0.1nm以上であり、例えば1nm以上であってよく、例えば2nm以上、4nm以上、5nm以上等であってもよい。
【0028】
なお、触媒粒子についての平均粒子径は、吸着ガスとして一酸化炭素(CO)を用いたパルス吸着法により算出される値(体積球相当径)である。パルス吸着法による平均粒子径は、触媒学会の参照触媒部会による「COパルス法による金属表面積測定法」に準じて測定することができる。
【0029】
ここに開示されるメタン浄化用触媒材料30において、担持される触媒34の担持量は特に制限されないが、触媒34の担持量が少なすぎると、触媒34により得られる触媒活性が不十分となることがあるために好ましくない。一例として、排ガス浄化用触媒として好適な触媒34の担持量として、例えば、メタン浄化用触媒材料30の全質量に占める触媒34の割合(担持量)は、0.001質量%以上が適切であり、0.01質量%以上が好ましく、例えば0.1質量%以上とするとよい。その一方で、触媒34の担持量が多すぎると、触媒34が粒成長を起こしやすくなるとともに、コスト面でも不利である。したがって、メタン浄化用触媒材料30の全質量に占める触媒34の割合は、例えば、10質量%以下であるとよく、8質量%以下が好ましく、典型的には5質量%以下であってよい。
【0030】
このようなメタン浄化用触媒材料30は、担体32としてのアルミナの表面に、接合面(結晶界面)におけるPd(100)またはPdO(101)の割合が多くなるようにパラジウムまたはパラジウム酸化物を一体的に形成、かつ、担持させることで得ることができる。例えば、担体32の表面に、触媒34としてのパラジウムまたはパラジウム酸化物を、メタン浄化性能が高まるような形態で液相析出させることで得ることができる。このようなメタン浄化用触媒材料30の製造方法としては、これに限定されるものではないが、好適な一例として、例えば、担体32を、触媒源とともに多価カルボン酸を含有する液相に含浸させた後、乾燥させることにより調製することが挙げられる。このとき、担体32として、上記比表面積のアルミナを用いることで、析出界面においてパラジウムの特定面の割合の多いメタン浄化用触媒材料30が得られやすくなるために好ましい。
【0031】
液相を構成する液媒体としては、水や水系溶媒を好ましく用いることができる。液媒体としては、100%水であってもよいし、水と低級アルコールとの混合溶媒等であってもよい。水としては、例えば、イオン交換水、純水、蒸留水等を使用することができる。低級アルコールとしては、例えば、炭素数が1~4の低級アルコールを好ましく用いることができる。具体的には、例えば、メタノール,エタノール,1-プロパノール,2-プロパノール,1-ブタノール,2-メチル-1-プロパノール,2-ブタノール,2-メチル-2-プロパノール等が挙げられる。
【0032】
触媒源としては、上記液媒体中でパラジウム成分がイオンの形態で存在し得る各種の化合物を用いることができる。例えば、パラジウム成分を含む塩や錯体を適宜選択して使用することができる。パラジウム塩としては、例えば、パラジウムの塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物や、水酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩、さらには、カリウム複合酸化物、アンモニウム複合酸化物、ナトリウム複合酸化物などの複合酸化物等が例示される。パラジウムの錯体としては、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体等が例示される。液相におけるパラジウムの濃度は特に制限されず、担体の表面に触媒源が凝集することなく析出できる程度に調整するとよい。パラジウムの濃度は、担体の表面形態等にもよるが、例えば、0.01~1M程度、典型的には、0.1~0.5M程度とすることが例示される。
【0033】
多価カルボン酸は、詳細は明らかではないものの、パラジウム源と結びついて、担体の表面にパラジウム結晶(または酸化パラジウム結晶)を、凝集を抑制して微細に、かつ、結晶性高く、析出することに寄与すると考えられる。多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸;クエン酸、2-メチルプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、ブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ベンゼン-1,2,3-トリカルボン酸(ヘミメリト酸)、ベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸(トリメット酸)、ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸(トリメシン酸)、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸(トリカルバリル酸)、1,シス-2,3-プロペントリカルボン酸(アコニット酸)等のトリカルボン酸;ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、シクロペンタンテトラ-1,2,3,4-ルボン酸、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸(ピロメリット酸)等のテトラカルボン酸;ベンゼンペンタカルボン酸、ペンタン-1,2,3,4,5-ペンタカルボン酸等のペンタカルボン酸;ベンゼンヘキサカルボン酸(メリト酸)等のヘキサカルボン酸;が例示される。
【0034】
多価カルボン酸は、少量でも液相中に添加されていることでパラジウム(およびパラジウム酸化物)の析出状態を改善できるために厳密には制限されない。しかしながら、パラジウム(およびパラジウム酸化物)の結晶性をより好適に整えるとの観点からは、多価カルボン酸の割合は、例えば、液相中のパラジウムの総量に対して、モル比で1.5倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、例えば5倍以上とするとよい。多価カルボン酸の割合の上限は特に制限されないものの、例えば10倍以下程度を目安とすることができる。
【0035】
上記の触媒源および多価カルボン酸を含む液媒体(すなわち液相)に担体を浸漬させることで、担体の表面に均一に液相を接触または含浸させることができる。担体の浸漬時間は、担体の形態にもよるが、例えば、10分間程度から1時間程度を目安にすることができる。担体への液相の含浸を促進するために、担体を予め乾燥させておいたり、担体を浸漬した液相を撹拌したり、担体を浸漬した液相を減圧したりすることの1つ以上を採用してもよい。
【0036】
乾燥は、上記液相を構成する液媒体(典型的には水)を除去するものであり、例えば、自然乾燥、吸引乾燥、上記液媒体の揮発温度(例えば100~150℃程度)への加熱乾燥や、減圧乾燥、凍結乾燥等であってよい。
また必須ではないものの、上記乾燥後の触媒34を担体32ごと焼成してもよい。焼成は、例えば触媒34中に水酸化物等の形態で含まれる前駆体をパラジウム(およびパラジウム酸化物)に変化させたり、パラジウム(およびパラジウム酸化物)の結晶性を高めたりできるために好ましい。焼成は、パラジウム(およびパラジウム酸化物)の粗大化が起こらないような温度範囲(例えば、250~600℃程度)で、おおよそ30分間~数時間(例えば0.5~3時間)程度加熱することが例示される。
【0037】
これにより、ここに開示されるメタン浄化用触媒材料30を得ることができる。メタン浄化用触媒材料30は、得られた形態(例えば粉末状)のままであってもよいし、所望の形態に成形して用いてもよい。例えば、パラジウム(およびパラジウム酸化物)の液相析出を好適に行うために担体32としては粉末状のものを用い、液相析出後に得られたメタン浄化用触媒材料30をより大きな粒状やペレット状等に成形してもよい。これにより、取り扱い性に優れたメタン浄化用触媒材料30を得ることができる。
【0038】
以上のメタン浄化用触媒材料30は、メタン浄化性能に優れたものとして提供される。例えば、メタン50%浄化温度が347℃以下と従来の同様の触媒材料よりも比較的低温からメタン浄化触媒活性が発現され得る。したがって、このメタン浄化用触媒材料30は、例えば、天然ガスを燃料とした内燃機関の排ガスを浄化するための浄化用触媒、特に、運転と停止が繰り返し行われる用途の内燃機関の排ガスを浄化するための浄化用触媒などとして、好適に用いることができる。以下、このメタン浄化用触媒材料30を利用した排ガスの浄化システムについて簡単に説明する。
【0039】
図2は、一実施形態に係る排ガス浄化システム1を示す模式図である。排ガス浄化システム1は、内燃機関2から排出される排ガスに含まれる有害成分、例えば、HC、CO、NOを浄化するとともに、排ガスに含まれるPMを捕集する。この排ガス浄化システム1は、内燃機関2とその排気経路とを備えている。本実施形態に係る排ガス浄化システム1は、内燃機関2と、排気経路と、エンジンコントロールユニット(Engine Control Unit:ECU)7と、センサ8とを備えている。本技術における排ガス浄化用触媒は、この排ガス浄化システム1の一構成要素として内燃機関2の排気経路に設けられている。そして排気経路の内部を、排ガスが流通する。図中の矢印は排ガスの流れ方向を示している。なお、本明細書において、排ガスの流れに沿って内燃機関2に近い側を上流側、内燃機関2から遠ざかる側を下流側という。
【0040】
内燃機関2には、酸素と燃料ガスとを含む混合気が供給される。内燃機関2は、この混合気を燃焼させることで発生した熱エネルギーを運動エネルギーに変換する。内燃機関2に供給される酸素と燃料ガスとの比率は、ECU7によって制御される。燃焼された混合気は排ガスとなって排気経路に排出される。図2に示す構成の内燃機関2は、天然ガスを燃料とした内燃機関を主体として構成されている。
【0041】
内燃機関2は、図示しない排気ポートにおいて排気経路と接続される。本実施形態の排気経路は、エキゾーストマニホールド3と排気管4とにより構成されている。内燃機関2は、エキゾーストマニホールド3を介して、排気管4に接続されている。排気経路には、典型的には、触媒体5とフィルタ体6とが備えられている。例えば、触媒体5は、本技術による触媒体を備えている。触媒体5は、例えば、二元触媒や、HC選択還元型NOx触媒やNOx吸蔵還元触媒、尿素選択還元型NOx触媒などの他の触媒を備えていてもよい。フィルタ体6は必須の構成ではなく、必要に応じて備えることができる。フィルタ体6を備える場合、その構成については従来と同様でよく、特に限定されない。フィルタ体6は、例えば、微小なPMを補足してその排出個数を低減させるパティキュレート・フィルタ(Particulate Filter:PF)や、これに二元または三元触媒等を担持させて触媒浄化機能を付与した触媒パティキュレート・フィルタ等であってよい。なお、触媒パティキュレート・フィルタにおける触媒として、ここに開示されるメタン浄化用触媒材料30を用いることもできる。触媒体5とフィルタ体6との配置は任意に可変であって、触媒体5とフィルタ体6とは独立して単数または複数個が設けられてもよい。
【0042】
ECU7は、内燃機関2とセンサ8とに電気的に接続されている。ECU7は、内燃機関2の運転状態を検出する各種センサ(例えば、酸素センサや、温度センサ、圧力センサ)8から信号を受信し、内燃機関2の駆動を制御する。ECU7の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。ECU7は、例えば、プロセッサや集積回路である。ECU26は、例えば、車両等の運転状態や、内燃機関2から排出される排ガスの量、温度、圧力等の情報を受信する。また、ECU7は、例えば受信した情報に応じて、内燃機関2に対する燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御を実施する。
【0043】
図3は、一実施形態に係る触媒体5の斜視図である。図中のXは、触媒体5の第1方向である。触媒体5は、第1方向が排ガスの流れ方向に沿うように排気管4に設置される。便宜上、排ガスの流れに着目したときに、第1方向Xのうちの、一の方向X1を排ガス流入側(上流側)といい、他の方向X2を排ガス流出側(下流側)という。また、触媒体5については、一の方向X1をフロント側、他の方向X2をリア側という場合がある。図4は、一実施形態に係る触媒体5を、第1方向Xに沿って切断した断面の一部を拡大した模式図である。ここに開示される触媒体5は、例えば、ストレートフロー構造の基材10と、触媒層20とを備えている。以下、基材10、触媒層20の順に説明する。
【0044】
基材10としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。基材10は、典型的には、いわゆるハニカム構造を有している。この基材10は、例えば、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたはステンレス等の合金等に代表される、高耐熱性でかつ急激な温度変化に対する耐性の高い材料からなる基材を好適に採用することができる。基材10の外形は特に制限されず、一例として円柱形状(本実施形態)の基材が挙げられる。ただし、基材全体の外形については、円柱形の他に、楕円柱形、多角柱形、無定形、ペレット形等を採用してもよい。本実施形態では、円柱形の基材10の柱軸方向が第1方向Xに一致している。基材10の一の方向X1の端部は第1端部10aであり、他の方向X2の端部は第2端部10bである。かかる本明細書において、基材10等の構成要素についての第1方向Xに沿う寸法を長さという。
【0045】
基材10には、ハニカム構造におけるセル(空洞)12が第1方向Xに延びている。セル12は基材10を第1方向Xに貫通する貫通孔であり、排ガスの流路となる。基材10には、セル12を区画する隔壁14が含まれる。セル12の第1方向Xに直交する断面(以下、単に「断面」という。)における形状、換言すれば、セルを仕切る隔壁14の構造は特に制限されない。セル12の断面形状は、例えば、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの矩形、三角形、その他の多角形(例えば、六角形、八角形)、円形など種々の幾何学形状であってよい。セル12の形状、大きさおよび数等は、触媒体5に供給される排ガスの流量や成分を考慮して適設に設計することができる。
【0046】
隔壁14は、セル12に面し、隣り合うセル12を区切っている。隔壁14の厚み(表面に直交する方向の寸法。以下同じ。)Twは、薄い方が基材10の比表面積を増やすことができ、また、軽量化、低熱容量化にも繋がるために好ましい。隔壁14の厚みTwは、例えば1mm以下、0.75mm以下、0.5mm以下、0.1mm以下等とすることができる。その一方で、隔壁14が適度な厚みを有することで触媒体5の強度および耐久性が高められる。かかる観点から、隔壁14の厚みTwは、例えば0.01mm以上、0.025mm以上であってよい。隔壁14のX方向の長さ(全長)Lwは特に限定されないが、概ね50~500mm、例えば100~200mm程度であるとよい。なお、本明細書において、基材10の体積とは、基材の見掛け体積をいう。したがって、基材10の体積には、骨格たるハニカム構造体(隔壁14を含む)の実質的な体積に加えて、セル12容積を含む。
【0047】
触媒層20は、図4に示すように、隔壁14の表面に配置されている。触媒層20は、貴金属触媒であるパラジウム触媒として、ここに開示されるメタン浄化用触媒材料30を含む。本技術によって提供されるメタン浄化用触媒材料30を用いて触媒体5のPd層を構成することにより、より低い温度からメタンを浄化することができ、メタン排出量を低減することができる。換言すると、メタンの浄化性能に優れた触媒体5を提供することができる。
【0048】
なお、触媒層20は、パラジウム触媒とともに、他の貴金属触媒を含んでもよい。あるいは、触媒体5は、パラジウム触媒を含む触媒層(以下、パラジウム(Pd)層という。)20とは別に、図示しない他の貴金属触媒を含む触媒層を備えていてもよい。このような他の触媒層としては、プラチナ(Pt)層や、ロジウム(Rh)層を考慮することができる。Pt層は、貴金属触媒としてのプラチナ(Pt)およびPtを主体とする合金を含む。Rh層は、貴金属触媒としてのロジウム(Rh)およびRhを主体とする合金を含む。これら触媒層20および他の触媒層は、それぞれ、上述した貴金属触媒の他に、他の金属触媒を含んでいてもよい。このような金属触媒としては、Rh、Pd、Pt、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)およびこれらの合金である白金族触媒や、これら白金族元素に加えて、あるいは上記白金族にかえて、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの金属元素を含む金属またはその合金等が挙げられる。しかしながら、Pd層、Pt層、およびRh層に含まれる金属触媒は、それぞれ80質量%以上がPd、Pt、およびRhであるとよく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは実質的に100質量%がそれぞれPd、Pt、およびRhであるとよい。当然のことながら、不可避的に混入される他の金属触媒の含有は許容される。
【0049】
Pd層、Pt層およびRh層のうち、Pd層およびPt層は、特に酸化触媒としての活性が高く、触媒体5においては、排ガス中の有害成分のうち、特にCOおよびHCについて高い酸化作用を示す。Rh層は、特に還元触媒としての活性が高く、触媒体5においては、排ガス中の有害成分のうち、特にNOxに対しする高い還元作用を示す。触媒体5は、これらPd層、Pt層、およびRh層を備えることにより、三元触媒としての機能を備え得る。Pd層、Pt層、およびRh層の配置は特に制限されないが、Pd層は、例えばメタン50%浄化温度がより低減され得ることから、相対的にフロント側(例えば、上流側の第1端部10aから下流側に向かう領域)に配置されることがより好ましい。Pt層については、相対的にリア側(例えば、下流側の第2端部10bから上流側に向かう領域)に配置されることがより好ましい。Rh層については、NOx浄化能を高めるとの観点からは、第1方向に沿ってより長い領域に配置されること(例えば、Pd層とPt層とに積層して配置すること)が好ましい。
【0050】
Pt層およびRh層においては、それぞれが含有する貴金属触媒の他に、これらの触媒を担持する担体を含むことができる。このような担体としては、従来この種の用途に使用し得ることが知られている担体(典型的には粉体)を適宜採用することができる。例えば、担体の好適例としては、アルミナ(Al)、希土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、セリア(CeO)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO)などの金属酸化物や、これらの固溶体、例えばセリア-ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物:CeO-ZrO)が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、アルミナおよびCZ複合酸化物の少なくとも一方を使用することが好ましい。担体は、多結晶体または単結晶体であってよい。
【0051】
Pd層、Pt層およびRh層には、それぞれ、貴金属触媒や該貴金属触媒の担体の他に、適宜に任意成分を含んでもよい。かかる任意成分としては、例えば、金属触媒が担持されていない助触媒、酸素吸蔵能を有する酸素吸蔵材(OSC材:oxygen storage capacity)、NO吸蔵能を有するNO吸着剤、安定化剤などが挙げられる。助触媒としては、例えば、アルミナやシリカが挙げられる。OSC材としては、例えば、セリアや、セリア含有複合酸化物、例えば、CZ複合酸化物などが挙げられる。
【0052】
安定化剤としては、例えば、ランタン(La)、イットリウム(Y)などの希土類元素、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)などのアルカリ土類元素、その他遷移金属元素などが挙げられる。これらの元素は、典型的には酸化物の形態で触媒層内に存在する。中でも、ランタン、イットリウム等の希土類元素は、触媒機能を阻害せずに高温における比表面積を向上できるため、安定化剤として好適に用いられる。かかる担体は、多結晶体または単結晶体であり得る。触媒層20のうち、酸化触媒を含むPd層には、安定化剤、例えばバリウム元素を含むことが好ましい。これにより、酸化触媒の被毒が好適に抑えられ、触媒活性を向上することができる。また、酸化触媒の分散性が高められて、酸化触媒の粒成長をより高いレベルで抑制することができる。
【0053】
Pd層、Pt層、およびRh層の、それぞれのコート量は特に限定されない。隔壁14の排ガスの流通性を高くして、圧損を低減するとの観点からは、基材の体積1L当たりについて、概ね120g/L以下、100g/L以下、好ましくは80g/L以下、例えば70g/L以下とするとよい。いくつかの態様において、コート量は、例えば50g/L以下であってもよく、典型的には30g/L以下であってもよい。一方、メタンおよび他の排ガス浄化性能をより良く向上する観点からは、基材の体積1L当たりについて、概ね5g/L以上、好ましくは10g/L以上、例えば20g/L以上とするとよい。上記範囲を満たすことにより、圧損の低減と排ガス浄化性能の向上とをさらに高いレベルで両立することができる。なお、触媒層20についてのコート量とは、単位体積あたりの基材に含まれる触媒層20の質量をいう。ただし、基材の体積は、第1方向Xに沿って当該触媒層20が形成されている部分の基材についてのみ考慮し、当該触媒層20が形成されていない部分の基材については考慮しない。
【0054】
Pd層、Pt層、およびRh層は、その厚みは特に限定されず、基材10のセル12の大きさ等に応じて適宜設計することができる。一例として、Pd層、Pt層、およびRh層の厚みは、独立して、20μm~500μm程度が適当であり、例えば50μm~200μm程度であることが好ましい。
【0055】
なお、上述したような構成の触媒体5は、例えば以下のような方法で製造することができる。先ず、基材10と、触媒層20を形成するためのスラリーと、を用意する。スラリーは、Pd層形成用スラリーと、Pt層形成用スラリーと、Rh層形成用スラリーとを、それぞれ必要に応じて別個に用意するとよい。Pd層形成用スラリーについては、メタン浄化用触媒材料30を分散媒に分散させて調製するとよい。また、その他の触媒層形成用スラリーは、当該金属触媒を構成する成分(典型的には触媒金属をイオンとして含む溶液)を必須の成分として含み、その他の任意成分、例えば担体、助触媒、OSC材、バインダ、各種添加剤などを分散媒に分散させて調製するとよい。ここでスラリー中のメタン浄化用触媒材料30等の粉末の平均粒子径は、例えば、凡そ0.1μm以上、好ましくは1μm以上であるとよく、例えば凡そ10μm以下、好ましくは5μm以下程度とするとよい。なおバインダとしては、アルミナゾル、シリカゾルなどを採用し得る。なお、スラリーの性状(粘度や固形分率など)は、使用する基材10のサイズや、セル12(隔壁14)の形態、触媒層20の所望の性状などによって適宜調整するとよい。
【0056】
次に、調製した触媒層形成用スラリーを基材10の端部からセル12に流入させ、X方向に沿って所定の長さまで供給する。Pd層を形成する場合は、第1端部10aからスラリーを流入させ、X2方向に向かって長さL1まで供給するとよい。Pt層を形成する場合は、第2端部10bからスラリーを流入させ、X1方向に向かって所定の長さまで供給するとよい。Rh層を形成する場合は、第1端部10aと第2端部10bのいずれからスラリーを流入させてもよく、所望の長さまで供給するとよい。このとき、余分なスラリーを反対側の端部から吸引してもよい。また、反対側の端部から送風する等して余分なスラリーをセル12から排出させてもよい。このときの吸引速度および/または送風速度は、スラリーの粘度にもよるが、概ね10~100m/s、好ましくは10~80m/s、例えば50m/s以下とするとよい。その後、一つのスラリーを供給するごとに、スラリーを供給した基材10を所定の温度および時間で乾燥し、焼成する。このことにより、粒子状の原料が焼結されて、多孔質な触媒層20が形成される。乾燥や焼成の方法は従来の触媒層形成時と同様でよい。これにより、触媒層20を、基材10の隔壁14の表面に形成することができる。
【0057】
以上のような構成の触媒体5によると、内燃機関2から排出された排ガスが、基材10の第1端部10aからセル12に流入する。セル12に流入した排ガスは、隔壁14の表面に形成された触媒層20を通過して、第2端部10bから排出される。ここで、触媒層20の上流側には、例えばPd層が配置されている。Pd層には、ここに開示されるメタン浄化用触媒材料30が含まれている。このメタン浄化用触媒材料30は、例えば、メタンの50%浄化温度を360℃よりも低い温度とすることができ、低温浄化性能に優れる。そのため、排ガスがHCとしてメタンを含有する場合であって、例えばF/C制御等によって排ガスの温度が低下しがちであっても、触媒体5は従来よりも低い温度でより多くのメタンを浄化することができる。また、上流側での触媒反応によって、排ガスはより高温に暖められる。また、Rh層が積層されたPd層を通過した排ガスは、Rh層が積層されたPt層を通過する。このPt層およびRh層に到達した排ガスは、温度がより高温に暖められているため、Rh層が積層されたPt層を通過する間に、排ガス中からメタンを含む有害成分は高い浄化率で浄化される。また、Rh層が存在することにより、排ガス中のNOx成分も浄化される。これにより、排ガスは、有害成分が除去された状態で、排ガス流出側の端部10bから触媒体5の外部へと排出される。
【0058】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0059】
[試験例1]
(例1)
担体として比表面積が6m/gのアルミナ粉末を9.8g用意し、Pd担持量が0.2gとなるよう濃度および量を調整した硝酸パラジウム水溶液中に分散させ、30分間撹拌混合したのち、120℃で12時間加熱することで乾燥させた。得られた乾燥粉末を、500℃で1時間熱処理することで、粉末状の例1の触媒材料を得た。また、この触媒材料をプレス装置を用いて300kNの圧力でプレスし、得られた成形物を篩い分けして0.5~1.0mmに粒度調整することで、例1のペレット状の触媒供試体とした。
【0060】
(例2)
例1における担体を、比表面積が44m/gのアルミナ粉末に変更し、その他の条件は例1と同様にして、例2の触媒材料と触媒供試体とを用意した。
(例3)
例1における担体を、比表面積が90m/gのアルミナ粉末に変更し、その他は例1と同様にして、例3の触媒材料と触媒供試体とを用意した。
(例4)
例1における担体を、比表面積が109m/gのアルミナ粉末に変更し、その他は例1と同様にして、例4の触媒材料と触媒供試体とを用意した。
【0061】
(例5)
例1における硝酸パラジウム水溶液に対し、クエン酸1.8gを添加した。また、担体としては、比表面積が51m/gのアルミナ粉末を用いた。そして、その他の条件は例1と同様にして、例5の触媒材料と触媒供試体とを用意した。
(例6)
例5における硝酸パラジウム水溶液に代えて、アンミン系パラジウム水溶液(Pd担持量0.2gに調整)を用い、クエン酸1.8gを添加した。その他の条件は例1と同様にして、例6の触媒材料と触媒供試体とを用意した。
【0062】
(例7)
例6におけるクエン酸1.8gに代えて、リンゴ酸1.3gをPd水溶液に添加し、その他の条件は例6と同様にして、例7の触媒材料と触媒供試体とを用意した。
(例8)
例6におけるクエン酸1.8gに代えて、酢酸0.6gをPd水溶液に添加し、その他の条件は例6と同様にして、例8の触媒材料と触媒供試体とを用意した。
【0063】
(例9)
例6における担体を、比表面積が6m/gのアルミナ粉末に変更し、その他は例6と同様にして、例9の触媒材料と触媒供試体とを用意した。
(例10)
例6における担体を、比表面積が41m/gのアルミナ粉末に変更し、その他は例6と同様にして、例10の触媒材料と触媒供試体とを用意した。
(例11)
例6における担体を、比表面積が109m/gのアルミナ粉末に変更し、その他は例6と同様にして、例11の触媒材料と触媒供試体とを用意した。
【0064】
[メタン浄化用触媒材料のTEM観察]
上記で用意した例1~11のメタン浄化用触媒材料についてX線回折分析を行ったところ、担体としてのアルミナの他に、パラジウム(Pd)と酸化パラジウム(PdO)が検出された。そこで、各例のメタン浄化用触媒材料について、TEMを用いて観察したところ、粉末状のアルミナの表面に、コントラストのより暗い物質がナノ粒子状に担持されていることが確認された。これらのことから、各例のメタン浄化用触媒材料は、アルミナ担体の表面にPdおよび/またはPdOが析出したものであることがわかった。PdとPdOとは、例えば排ガス組成等の雰囲気変動によってPdの電子状態が可逆的に変化し、Pdが容易にPdOに酸化され、PdOが容易にPdに還元されることが知られている。以下、アルミナ担体の表面に析出したPdおよび/またはPdOを、簡便のため、単に「パラジウム粒子」という場合がある。
【0065】
(界面における特定結晶面の割合)
次いで、例1~11のメタン浄化用触媒材料について原子構造像を取得し、アルミナ担体とパラジウム粒子との界面の結晶構造解析を行った。具体的には、各例のメタン浄化用触媒材料について、アルミナ担体とパラジウム粒子との結晶界面の原子構造像を、11点以上(N=11以上)用意した。原子構造像は、例えば、電子線の入射方向がアルミナ担体とパラジウム粒子の晶帯軸に沿うようにTEM観察試料の傾斜を調整することで得ることができる。また、アルミナ担体とパラジウム粒子との結晶界面は、複数のアルミナ粒子に担持されたそれぞれ異なるパラジウム粒子について観察するようにした。
【0066】
得られた界面の原子構造像から、アルミナとパラジウムの界面におけるパラジウムの結晶面を調べた。本実施例において、パラジウムの析出界面における結晶面は、パラジウムについて界面に平行な面の面間隔を測定し、パラジウムの各結晶面の面間隔と同定することで調べた。その結果から、パラジウムの界面における結晶面が同定された総数(N=11以上)のうち、特定結晶面の割合を、次式:特定結晶面の割合(個数%)=(界面の結晶面が特定結晶面であったサンプルの数)÷(界面の結晶面を同定したサンプルの数)×100;に基づいて算出した。なお、パラジウムの特定結晶面は、Pd(100)、およびPdO(101)の2つの面とした。その結果を下記の表1に示した。
【0067】
[パラジウム粒子の粒子径]
また、アルミナ担体の表面に析出したパラジウム粒子の粒子径を測定した。パラジウム粒子の粒子径は、COパルス法による化学吸着分析装置を用い、得られた金属表面積とパラジウム量とから算出された値(体積球相当径)を採用した。その結果を下記の表1に示した。
【0068】
[メタン浄化性能の評価]
例1~7の触媒供試体について、触媒評価装置を用いて、天然ガス(CNG)車両の模擬排ガスにおけるメタン浄化性能を調べた。この触媒評価装置は、マスフローコントローラ、加熱炉、エンジン排ガス分析計を備えており、所定の組成のガスを生成して触媒サンプルに供給するとともに、触媒サンプルへの流入ガスおよび触媒サンプルからの流出ガスの成分を分析することができる。具体的には、各例の触媒供試体1.0gを触媒評価装置に設置し、CNG車両の模擬排ガスを供給しながら、触媒供試体の設置部分の温度を室温(25℃)から500℃まで昇温速度20℃/minで昇温させた。このとき測定される触媒供試体への流入ガスと排出ガスとにおけるメタン(CH)濃度の比から、メタン浄化率を連続的に測定し、メタン浄化率が50%に達したときの触媒供試体の温度(メタン50%浄化温度:T50%)を調べた。その結果を、下記の表1に示した。
【0069】
なお、CNG車両の模擬排ガスとしては、以下の組成のガスを使用した。
CH:4000ppm
:10質量%
O:10質量%
CO :500ppm
NO :500ppm
:残部
【0070】
【表1】
【0071】
[評価]
(パラジウム特定結晶面とメタン50%浄化温度)
例1~11のメタン浄化用触媒材料について、担体の比表面積とメタン50%浄化温度との関係を図5に、担体の比表面積とパラジウム粒子の平均粒子径との関係を図6に、担体の比表面積と、担体とパラジウム粒子の界面におけるパラジウム粒子の特定結晶面の割合との関係を図7に示した。また、パラジウム粒子の平均粒子径とメタン50%浄化温度との関係を図8に、上記特定結晶面の割合とメタン50%浄化温度との関係を図9示した。なお、メタン50%浄化温度は、その値が低いほど、より低温で高いメタン浄化性能が得られることを示す。
【0072】
パラジウム原料として硝酸パラジウムを用いた例1~4のメタン浄化用触媒材料については、図5に示すように、触媒としてのパラジウムの担持量が同じであっても、担体の比表面積によってメタン50%浄化温度が谷なりに変化することがわかった。本例では例2の、担体の比表面積が概ね40m/g近傍でメタン50%浄化温度が最も低くなる傾向があることがわかった。一般に、結晶を析出させるための担体の比表面積が大きくなるほど結晶は小粒径で析出しすることが知られており、図6に示すように、パラジウム原料として硝酸パラジウム水溶液を用いた例1~4でも同様の傾向が確認できる。また一般に、触媒は微細になるほど触媒活性が高くなり得る。しかしながら、例3,4のメタン浄化用触媒材料では、パラジウムの平均粒子径が微細であるのにメタン50%浄化温度が高くなってしまうことがわかった。これは、図7に示されるように、例3,4のメタン浄化用触媒材料では、担体に析出したパラジウム粒子の析出界面における特定結晶面(すなわち、Pd(100)またはPdO(101))の割合が極端に低クなることによると考えられる。換言すると、図8,9に示されるように、担体の比表面積が大きくパラジウム粒子が過度に微細になると、担体の表面とそこに析出するパラジウムの結晶性が悪くなり、パラジウムの触媒性能が劣化して、却ってメタン50%浄化温度が高くなると考えられる。
【0073】
これに対し、パラジウム源やパラジウムの析出環境を変化させて得た例5~11のメタン浄化用触媒材料については、例1~4のメタン浄化用触媒材料とはやや異なる特徴が見られることが解った。すなわち、例えば例1と同じ比表面積が6m/gと小さい担体を用いた場合でも、図5に示されるように、パラジウム源としてアミン系Pdとクエン酸との水溶液を用いて作製した例9のメタン浄化用触媒材料は、メタン50%浄化温度が顕著に低下されることがわかった。例9のメタン浄化用触媒材料のメタン50%浄化温度は、348℃以下(具体的には約345℃)と、パラジウム原料として硝酸パラジウムを用いた場合には実現し得なかった低いメタン50%浄化温度を達成できることが確認された。例9のメタン浄化用触媒材料は、パラジウムの平均粒子径が例1の場合よりは小さいものの(図6参照)、19.5nmと比較的粗大である。しかしながら、図7に示されるように、例9のパラジウム粒子は、担体との界面における特定結晶面の割合が増大されており、この特定結晶面の存在によって低温から触媒活性が発現し、低温であっても高いメタン浄化率が実現されると考えられる。このことから、パラジウム源として、硝酸パラジウム水溶液ではなく、アミン系Pdとクエン酸との水溶液を用いることで、メタン浄化性能に優れたパラジウム粒子を析出できることが解った。
【0074】
図7に示されるように、パラジウム源としてアミン系Pdとクエン酸との水溶液を用い、担体の比表面積を変化させた例,9~11と、例1~4との比較から、パラジウムの析出環境を変化させることで、メタン浄化用触媒材料におけるパラジウムの特定結晶面の割合が増大することが解った。またその結果、図5に示されるように、例,9~11のメタン浄化用触媒材料のメタン50%浄化温度が低下することが解った。ただし、担体の比表面積が大きくなるとメタン50%浄化温度の低下幅は減少し、比表面積が109m/gの例4と例11とではパラジウム源が異なってもメタン50%浄化温度に大きな差は見られなくなることが解った。これは、担体の比表面積が大きくなりすぎてパラジウムの析出に好適な担体表面を提供できず、後述するように、結晶性の良好なパラジウムの微粒子を形成できなくなることによると考えられる。かかる観点から、少なくとも担体の比表面積は大きすぎない方がよく、例えば100m/g以下、好ましくは90m/g以下、例えば60m/g以下程度であるとよいと考えられる。
【0075】
また、例5~8は、担体の比表面積を51m/gで一定として、パラジウム源を変更して析出環境を種々変化させた例である。例えば図5に示されるように、例5~7のメタン浄化用触媒材料については、パラジウム源として硝酸Pd水溶液を用いた場合よりもメタン50%浄化温度が低くなるものの、例8のメタン浄化用触媒材料についてはメタン50%浄化温度がが大幅に高くなることが確認できた。図6,7から、担体の比表面積が同一であっても、例5~7のメタン浄化用触媒材料においてはパラジウム粒子の平均粒子径が小さく、かつ、特定結晶面の割合が増えるのに対し、例8ではパラジウム粒子の平均粒子径が大きく特定結晶面の割合が少ないことが確認できた。このことから、パラジウムの析出環境を変化させることで、パラジウムの結晶性をメタン浄化に適するように変化できることがわかった。
【0076】
なお、図10に示すように、担体の比表面積が若干異なるものの、Pd源として硝酸Pd水溶液のみを用いた例2と、硝酸Pd水溶液にクエン酸を加えた例5とを比較すると、クエン酸の添加によりメタン50%浄化温度が大きく低下することが理解できる。また、パラジウム源としては、例5の(硝酸Pd+クエン酸)の組合せよりも、例6の(アミン系Pd+クエン酸)のほうが、メタン浄化性能の向上に好適であることがわかる。さらに、添加するのは、例6のクエン酸に限らず、例7のリンゴ酸でも同様の効果が得られるが、例8の酢酸では特定結晶面の割合を増大させたりメタン50%浄化温度を低減させる効果は得られないことがわかった。これらのことから、パラジウム粒子の析出に際し、多価カルボン酸が共存することで、析出するパラジウム粒子の平均粒子径を小さくかつ析出界面における特定結晶面の割合を増大させることができると考えられる。そしてモノカルボン酸の存在は、却ってパラジウム粒子の平均粒子径の粗大化と特定結晶面の割合の低下を引き起こすといえる。
【0077】
以上のことから、パラジウム粒子は、Pd(100)またはこれに等価なPdO(101)を結晶成長面とし、これらの面が担体の表面に平行になるように担持されていることで、メタン浄化性能が高くなることがわかった。換言すれば、担体に対しPd[100]またはこれに等価なPdO[101]方位に成長しているパラジウム粒子の割合が多いほうが、メタン浄化性能が高くなることがわかった。また、パラジウム粒子は粗大すぎない(例えば30nm以下程度、好ましくは20nm以下程度である)ほうが、メタン浄化性能が高くなるといえる。本試験例では、メタン浄化用触媒材料は、例えば、多価カルボン酸が存在する液相中で、比表面積100m/g以下の担体にパラジウムを析出させて作製することが好ましいといえる。
【0078】
また、メタン浄化用触媒材料において、パラジウムの平均粒子径は20nm以下であり、かつ、界面における特定結晶面の割合は30個数%よりおおく、例えば40個数%程度以上であると、メタン50%浄化温度が348℃を下回り、メタン浄化性能が高く好ましいといえる。
【0079】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0080】
例えば、上述した実施形態では、メタン浄化触媒としてパラジウムのみを含むメタン浄化用触媒材料を用いていたが、メタン浄化用触媒材料の態様はこれに限定されない。例えば、パラジウムのみを含む触媒のほかに、ロジウムを含むメタン浄化用触媒材料や、白金を含むメタン浄化用触媒材料、ロジウムと白金とを含むメタン浄化用触媒材料等としてもよい。あるいは、パラジウムのみを含むメタン浄化用触媒材料と、パラジウム以外の触媒を含むメタン浄化用触媒材料と、を併用してもよい。
【0081】
また例えば、上述した実施形態では、内燃機関がCNGエンジンであったが、メタンの浄化を目的として用いる限り、触媒と組み合わせて設けられる内燃機関は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどであってもよい。さらに、これらの内燃機関は、車両駆動用電源を備えるハイブリッド車に搭載されるエンジンであってもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 排ガス浄化システム
2 内燃機関
5 触媒体
10 基材
12 セル
14 隔壁
20 触媒層
30 メタン浄化用触媒材料
32 担体
34 触媒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10