(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】熱変性ポリマー層-無機基材複合体、ポリマー部材-無機基材複合体、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 37/00 20060101AFI20240308BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240308BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B32B37/00
B32B27/32 Z
B29C65/02
(21)【出願番号】P 2019170045
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2018184497
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019061073
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】添田 淳史
(72)【発明者】
【氏名】池田 吉紀
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-292286(JP,A)
【文献】特開2015-003990(JP,A)
【文献】特開平07-266495(JP,A)
【文献】特開平06-166140(JP,A)
【文献】特開平07-304132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B29C 65/00- 65/82
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00- 10/00,
101/00-201/10
C09J 1/00- 5/10,
9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機基材上に第1のポリマー層を形成し、そして前記第1のポリマー層を
酸素含有雰囲気中で加熱して第1の熱変性ポリマー層に
することによって、前記第1の熱変性ポリマー層に含まれる酸素原子と炭素原子の原子数の合計に対する、前記第1の熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))が、0.3%以上30%以下とな
るようにし、それによって前記無機基材上に前記第1の熱変性ポリマー層を密着させること、
を含み、
前記無機基材が、半金属、金属及び半金属の酸化物、金属及び半金属の窒化物、金属及び半金属の炭化物、炭素材料、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択され
、
前記金属は、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、鉄、銅、金、銀、タングステン、ジルコニウム、イットリウム、インジウム、及びイリジウムから選択され、
前記半金属は、シリコン及びゲルマニウムから選択され、
前記第1のポリマー層は、オレフィンポリマーから形成される、
熱変性ポリマー層-無機基材複合体の製造方法。
【請求項2】
前記第1のポリマー層は、シクロオレフィンポリマー又はポリエチレンから形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の熱変性ポリマー層を形成した後で、前記第1の熱変性ポリマー層上に第2のポリマー層を形成し、そして前記第2のポリマー層を
酸素含有雰囲気中で加熱して第2の熱変性ポリマー層にし、それによって前記第1の熱変性ポリマー層上に前記第2の熱変性ポリマー層を密着させること、
をさらに含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度が、前記第1の熱変性ポリマー層の熱変性の程度よりも小さい、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の熱変性ポリマー層を形成した後で、前記第2の熱変性ポリマー層上に第3のポリマー層を形成し、そして前記第3のポリマー層を
酸素含有雰囲気中で加熱して第3の熱変性ポリマー層にし、それによって前記第2の熱変性ポリマー層上に前記第3の熱変性ポリマー層を密着させること、
をさらに含む、請求項
3又は
4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度が、前記第1の熱変性ポリマー層の熱変性の程度よりも小さく、かつ
前記第3の熱変性ポリマー層の熱変性の程度が、前記第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度よりも小さい、
請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のポリマー層の形成を、コーティング及び/又は熱圧着によって行う、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のポリマー層、及び前記第2のポリマー層の形成を、コーティング及び/又は熱圧着によって行う、請求項
3に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のポリマー層、前記第2のポリマー層、及び前記第3のポリマー層の形成を、コーティング及び/又は熱圧着によって行う、請求項
5に記載の方法。
【請求項10】
請求項1
、2又は
7に記載の方法によって前記熱変性ポリマー層-無機基材複合体を製造すること、及び
ポリマー部材が、前記第1の熱変性ポリマー層を介して無機基材に接合するようにして、前記ポリマー部材を前記第1の熱変性ポリマー層に接合させること、
を含む、ポリマー部材-無機基材複合体の製造方法。
【請求項11】
前記ポリマー部材が膜状である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマー部材の接合を、コーティング又は熱圧着によって行う、請求項
10又は
11に記載の方法。
【請求項13】
第1の熱変性ポリマー層が無機基材に密着しており、
前記第1の熱変性ポリマー層に含まれる酸素原子と炭素原子の原子数の合計に対する、前記第1の熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))が、0.3%以上30%以下
であり、
前記無機基材が、半金属、金属及び半金属の酸化物、金属及び半金属の窒化物、金属及び半金属の炭化物、炭素材料、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択され
、
前記金属は、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、鉄、銅、金、銀、タングステン、ジルコニウム、イットリウム、インジウム、及びイリジウムから選択され、
前記半金属は、シリコン及びゲルマニウムから選択され、
前記第1の熱変性ポリマー層は、オレフィンポリマーから形成されたポリマー層を酸素含有雰囲気中で加熱することにより熱変性された熱変性ポリマー層である、
熱変性ポリマー層-無機基材複合体。
【請求項14】
前記第1の熱変性ポリマー層は、シクロオレフィンポリマー又はポリエチレンから形成されたポリマー層を酸素含有雰囲気中で加熱することにより熱変性された熱変性ポリマー層である、請求項13に記載の複合体。
【請求項15】
前記無機基材に密着している第1の熱変性ポリマー層、及び前記第1の熱変性ポリマー層に密着している第2の熱変性ポリマー層を少なくとも有する、請求項
13又は14に記載の複合体。
【請求項16】
前記第2の熱変性ポリマー層に密着している第3の熱変性ポリマー層を更に有する、請求項15に記載の複合体。
【請求項17】
ポリマー部材が、請求項15に記載の前記熱変性ポリマー層-無機基材複合体の前記第1の熱変性ポリマー層及び第2の熱変性ポリマー層を介して、前記無機基材に密着している、ポリマー部材-無機基材複合体。
【請求項18】
前記ポリマー部材が膜状である、請求項17に記載の複合体。
【請求項19】
前記ポリマー部材、前記第1の熱変性ポリマー層及び第2の熱変性ポリマー層が、いずれもオレフィンポリマーで形成されている、請求項17又は18に記載の複合体。
【請求項20】
前記オレフィンポリマーが、シクロオレフィンポリマーである、請求項19に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱変性ポリマー層-無機基材複合体、ポリマー部材-無機基材複合体、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー部材、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、シクロオレフィンポリマーなどのポリオレフィン系ポリマー部材は、軽さ、機械的強度、耐薬品性などに優れていることから、樹脂フィルム、不織布、自動車用部品、電気機器用部品、カメラレンズなどの成形品に幅広く用いられている。これに対して、金属、半導体、又はそれらの酸化物等の無機材料は、ポリマー部材とは異なる機械的、熱的、光学的、及び化学的性質を有する。
【0003】
したがって、ポリマー部材を無機基材に接合して、それらの異なる性質を好ましく利用することが検討されている。
【0004】
これに関して、例えば特許文献1では、接着剤を使用しないで無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを一体化して、マイクロチップ、テレビの液晶保護膜等に有用な複合材料を提供している。具体的には、この特許文献1では、無機材料及びポリオレフィン系樹脂材料を有する複合材料の製造方法であって、無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる厚さが1~50nmである薄膜を形成させ、当該薄膜が形成された無機材料及びポリオレフィン系樹脂材料に、それぞれ波長が100~200nmである紫外線を照射した後、当該無機材料の薄膜上に前記ポリオレフィン系樹脂材料を積層し、前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させる方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、接着剤を使用しないでポリマー部材を無機基材に接合することが好ましい場合がある。したがって、本発明では、接着剤を使用しないでポリマー部材を無機基材に接合するために有益な方法、及びそのために用いられる熱変性ポリマー層-無機基材複合体等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様としては、下記の態様を挙げることができる。
【0008】
〈態様1〉
無機基材上に第1のポリマー層を形成し、そして前記第1のポリマー層を加熱して第1の熱変性ポリマー層にし、それによって前記無機基材上に前記第1の熱変性ポリマー層を密着させること、
を含む、熱変性ポリマー層-無機基材複合体の製造方法。
〈態様2〉
前記第1の熱変性ポリマー層を形成した後で、前記第1の熱変性ポリマー層上に第2のポリマー層を形成し、そして前記第2のポリマー層を加熱して第2の熱変性ポリマー層にし、それによって前記第1の熱変性ポリマー層上に前記第2の熱変性ポリマー層を密着させること、
をさらに含む、態様1に記載の方法。
〈態様3〉
前記第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度が、前記第1の熱変性ポリマー層の熱変性の程度よりも小さい、態様2に記載の方法。
〈態様4〉
前記第2の熱変性ポリマー層を形成した後で、前記第2の熱変性ポリマー層上に第3のポリマー層を形成し、そして前記第3のポリマー層を加熱して第3の熱変性ポリマー層にし、それによって前記第2の熱変性ポリマー層上に前記第3の熱変性ポリマー層を密着させること、
をさらに含む、態様2又は3に記載の方法。
〈態様5〉
前記第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度が、前記第1の熱変性ポリマー層の熱変性の程度よりも小さく、かつ
前記第3の熱変性ポリマー層の熱変性の程度が、前記第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度よりも小さい、
態様4に記載の方法。
〈態様6〉
前記無機基材が、金属及び半金属、金属及び半金属の酸化物、金属及び半金属の窒化物、金属及び半金属の炭化物、炭素材料、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される、態様1~5のいずれか一項に記載の方法。
〈態様7〉
前記第1のポリマー層、存在する場合の第2のポリマー層、及び存在する場合の第3のポリマー層の形成を、コーティング及び/又は熱圧着によって行う、態様1~6のいずれか一項に記載の方法。
〈態様8〉
態様1~7のいずれか一項に記載の方法によって前記熱変性ポリマー層-無機基材複合体を製造すること、及び
ポリマー部材が、前記第1の熱変性ポリマー層、存在する場合の前記第2の熱変性ポリマー層、及び存在する場合の前記第3の熱変性ポリマー層を介して無機基材に接合するようにして、前記ポリマー部材を前記第1の熱変性ポリマー層、存在する場合の前記第2の熱変性ポリマー層、及び存在する場合の前記第3の熱変性ポリマー層に接合させること、
を含む、ポリマー部材-無機基材複合体の製造方法。
〈態様9〉
前記ポリマー部材が膜状である、態様8に記載の方法。
〈態様10〉
前記ポリマー部材の接合を、コーティング又は熱圧着によって行う、態様8又は9に記載の方法。
〈態様11〉
前記第1の熱変性ポリマー層、存在する場合の前記第2の熱変性ポリマー層、存在する場合の前記第3の熱変性ポリマー層、及び前記ポリマー部材が、いずれもオレフィンポリマーで形成されている、態様8~10のいずれか一項に記載の方法。
〈態様12〉
前記オレフィンポリマーが、シクロオレフィンポリマーである、態様11に記載の方法。
〈態様13〉
1又は複数の熱変性ポリマー層が無機基材に密着している、熱変性ポリマー層-無機基材複合体。
〈態様14〉
前記1又は複数の熱変性ポリマー層が、前記無機基材に密着している第1の熱変性ポリマー層、及び前記第1の熱変性ポリマー層に密着している第2の熱変性ポリマー層を少なくとも有する、態様13に記載の複合体。
〈態様15〉
前記1又は複数の熱変性ポリマー層が、前記第2の熱変性ポリマー層に密着している第3の熱変性ポリマー層を更に有する、態様14に記載の複合体。
〈態様16〉
前記無機基材が、金属及び半金属、金属及び半金属の酸化物、金属及び半金属の窒化物、金属及び半金属の炭化物、炭素材料、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される、態様13~15のいずれか一項に記載の複合体。
〈態様17〉
ポリマー部材が、態様13~16のいずれか一項に記載の前記熱変性ポリマー層-無機基材複合体の前記1又は複数の熱変性ポリマー層を介して、前記無機基材に密着している、ポリマー部材-無機基材複合体。
〈態様18〉
前記ポリマー部材が膜状である、態様17に記載の複合体。
〈態様19〉
前記ポリマー部材、前記1又は複数の熱変性ポリマー層が、いずれもオレフィンポリマーで形成されている、態様17又は18に記載の複合体。
〈態様20〉
前記オレフィンポリマーが、シクロオレフィンポリマーである、態様19に記載の複合体。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の熱変性ポリマー層-無機基材複合体を有する本発明のポリマー部材-無機基材複合体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《熱変性ポリマー層-無機基材複合体の製造方法、及びポリマー部材-無機基材複合体の製造方法》
熱変性ポリマー層-無機基材複合体を製造する本発明の方法は、
無機基材上に第1のポリマー層を形成し、そして第1のポリマー層を加熱して第1の熱変性ポリマー層にし、それによって無機基材上に第1の熱変性ポリマー層を密着させること、
を含む。
【0011】
また、ポリマー部材-無機基材複合体を製造する本発明の方法は、
熱変性ポリマー層-無機基材複合体を製造する本発明の方法によって、熱変性ポリマー層-無機基材複合体を製造すること、及び
ポリマー部材が、第1の熱変性ポリマー層、存在する場合の第2の熱変性ポリマー層、及び存在する場合の第2の熱変性ポリマー層を介して無機基材に接合するようにして、ポリマー部材を第1の熱変性ポリマー層、存在する場合の第2の熱変性ポリマー層、又は存在する場合の第3の熱変性ポリマー層に接合させること、
を含む。
【0012】
理論に限定されるものではないが、熱変性ポリマー層-無機基材複合体を製造する本発明の方法によれば、無機基材上の第1のポリマー層を加熱して熱変性させて第1の熱変性ポリマー層とすることによって、無機基材の表面上の官能基、例えば水酸基と、第1の熱変性ポリマー層を構成するポリマーとの間で結合を形成し、それによって無機基材に対する第1の熱変性ポリマー層の密着性を改良することができると考えられる。
【0013】
また、理論に限定されるものではないが、ポリマー部材-無機基材複合体を製造する本発明の方法によれば、ポリマー部材を第1の熱変性ポリマー層に接合することによって、ポリマー部材が、直接に無機基材に接合されるのではなく、ポリマーである第1の熱変性ポリマー層を介して無機基材に接合され、それによって無機基材に対するポリマー部材の密着性を改良することができると考えられる。
【0014】
〈無機基材〉
本発明の方法において用いられる無機基材は、任意の無機基材であってよく、例えば金属及び半金属、金属及び半金属の酸化物、金属及び半金属の窒化物、金属及び半金属の炭化物、炭素材料、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択することができる。具体的には、金属としては、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、鉄、銅、金、銀、タングステン、ジルコニウム、イットリウム、インジウム、イリジウム等を挙げることができ、半金属としては、シリコン、ゲルマニウム等を挙げることができる。したがって、金属酸化物としては、これらの金属の酸化物等を挙げることができ、また半金属酸化物としては、これらの半金属の酸化物等を挙げることができる。シリコンの酸化物としては、石英ガラス、ソーダガラスなどのガラスを挙げることができる。窒化物としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等を挙げることができる。炭化物としては、炭化ケイ素を挙げることができる。また、炭素材料としては、ダイヤモンド等を挙げることができる。
【0015】
無機基材、特に金属又は半金属は、第1の熱変性ポリマー層との結合に利用できる官能基、例えば水酸基を増加させるために、オゾン処理、紫外線処理等の処理をその表面に行うことができる。
【0016】
無機基材上に安定に熱変性オレフィンポリマー層を形成する観点から、熱変性ポリマー層の熱変性温度よりも高い融点を有する無機材料を好ましく用いることができる。
【0017】
無機基材は任意の形態であってよく、例えば、フィルム状、シート状、プレート状(板状)、管状、棒状、円盤状等であってよい。また、無機基材は任意の大きさであってよい。
【0018】
〈熱変性ポリマー層〉
本発明の方法では、無機基材上に第1のポリマー層を形成し、そして第1のポリマー層を加熱して第1の熱変性ポリマー層にし、それによって無機基材上に第1の熱変性ポリマー層を密着させる。
【0019】
また、本発明の方法では、第1の熱変性ポリマー層を形成した後で、第1の熱変性ポリマー層上に第2のポリマー層を形成し、そして第2のポリマー層を加熱して第2の熱変性ポリマー層にし、それによって第1の熱変性ポリマー層上に第2の熱変性ポリマー層を密着させることができる。
【0020】
第2の熱変性ポリマー層を用いる場合、第1の熱変性ポリマー層が無機基材との良好な結合を提供し、かつ第2の熱変性ポリマー層が、第1の熱変性ポリマー層及びポリマー部材との良好な結合を提供するために、第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度が、第1の熱変性ポリマー層の熱変性の程度よりも小さくてもよい。
【0021】
また、本発明の方法では、第2の熱変性ポリマー層を形成した後で、第2の熱変性ポリマー層上に第3のポリマー層を形成し、そして第3のポリマー層を加熱して第3の熱変性ポリマー層にし、それによって第2の熱変性ポリマー層上に第3の熱変性ポリマー層を密着させることができる。
【0022】
第3の熱変性ポリマー層を用いる場合、第2の熱変性ポリマー層が第1の熱変性ポリマー層との良好な結合を提供し、かつ第3の熱変性ポリマー層が、第2の熱変性ポリマー層及びポリマー部材との良好な結合を提供するために、第3の熱変性ポリマー層の熱変性の程度が、第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度よりも小さくてもよい。
【0023】
また、本発明の方法では、同様にして、第4、第5等のさらなる熱変性ポリマー層を用いることができる。
【0024】
これらの熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、熱変性のための加熱の温度、時間、周囲雰囲気等によって調整することができる。
【0025】
具体的には例えば、第1の熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、無機基材上に第1の熱変性ポリマー層が密着する程度、すなわち熱変性前の第1のポリマー層の無機基材に対する密着性と比較して、第1の熱変性ポリマー層の無機基材に対する密着性が大きくなる程度であってよい。
【0026】
同様に、第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、第1の熱変性ポリマー層上に第2の熱変性ポリマー層が密着する程度、すなわち熱変性前の第2のポリマー層の第1の熱変性ポリマー層に対する密着性と比較して、第2の熱変性ポリマー層の第1の熱変性ポリマー層に対する密着性が大きくなる程度であってよい。
【0027】
また同様に、第3の熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、第2の熱変性ポリマー層上に第3の熱変性ポリマー層が密着する程度、すなわち熱変性前の第3のポリマー層の第2の熱変性ポリマー層に対する密着性と比較して、第3の熱変性ポリマー層の第2の熱変性ポリマー層に対する密着性が大きくなる程度であってよい。
【0028】
これらの熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、例えば、熱変性ポリマー層の熱変性のための加熱の温度、加熱を行う雰囲気中の酸素濃度等によって調節することができる。すなわち、熱変性の程度を大きくするためには、加熱の温度を高くすること、及び/又は加熱を行う雰囲気中の酸素濃度を高くすることができ、反対に、熱変性の程度を小さくするためには、加熱の温度を低くすること、及び/又は加熱を行う雰囲気中の酸素濃度を低くすることができる。
【0029】
熱変性ポリマー層の熱変性のための加熱の温度は、50℃以上、100℃以上、140℃以上、160℃以上、180℃以上、又は200℃以上であってよく、500℃以下、400℃以下、360℃以下、320℃以下、又は280℃以下であってよい。また、この加熱は、酸素含有雰囲気、特に空気中において行うことができる。
【0030】
これらの熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、例えば、熱変性ポリマー層を構成する熱変性ポリマーの酸素含有量、具体的には、熱変性ポリマー層に含まれる酸素原子と炭素原子の原子数の合計に対する、熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))を用いて評価することができる。この場合には、この割合が大きいほど、熱変性の程度が大きいものとして考えることができる。ここで、熱変性ポリマー層の酸素及び炭素原子の含有量を評価する手法としては、例えばX線光電子分光(XPS)を挙げることができ、そのためのXPS装置としては、K-Alpha(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いることができる。
【0031】
このような割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))が、0.3%以上、0.5%以上、1.0%以上、2.0%以上、又は5.0%以上であって、50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、又は8%以下のときに、特に熱変性ポリマー層の熱変性の程度を表す指標として用いることが適切である。
【0032】
上記の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))を用いて熱変性の程度を評価する場合、第1の熱変性ポリマー層のこの割合と第2の熱変性ポリマー層のこの割合との差等の、隣接する熱変性ポリマー層間のこの割合の差は、0.1%以上、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上、0.5%以上、0.8%以上、1.0%以上、2.0%以上、又は3.0%以上であってよく、また10.0%以下、7.0%以下、5.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.3%以下、又は0.1以下であってよい。
【0033】
すなわち、例えば、第2の熱変性ポリマー層に含まれる酸素原子と炭素原子の原子数の合計に対する、第2の熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(すなわち、第2の熱変性ポリマー層についての酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))は、第1の熱変性ポリマー層に含まれる酸素原子と炭素原子の原子数の合計に対する、第1の熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(すなわち、第1の熱変性ポリマー層についての酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))よりも、0.1%以上10.0%以下小さくてよい。
【0034】
また、これらの熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、例えば、熱変性ポリマー層を構成する熱変性ポリマーのIR吸収スペクトルによって評価することができ、そのためのIR吸収分析装置としては、Nicolet6700(Thermo Fisher SCIENTIFIC社)を用いることができる。具体的には、熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、C―H伸縮振動の吸収ピークの強度に対する、C=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの強度/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-))で評価することができる。この場合には、この割合が大きいほど、熱変性の程度が大きいものとして考えることができる。吸収ピークの強度は、吸収ピークの吸光度の値の最大値を読み取ることによって求めることができる。
【0035】
このような割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの強度/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-))が、0.01以上、0.02以上、0.05以上、0.1以上、0.15以上、又は0.20以上であって、20以下、10以下、又は5以下のときに、特に熱変性ポリマー層の熱変性の程度を表す指標として用いることが適切である。
【0036】
上記の割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの強度/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-))を用いて熱変性の程度を評価する場合、第1の熱変性ポリマー層のこの割合と第2の熱変性ポリマー層のこの割合との差等の、隣接する熱変性ポリマー層間のこの割合の差は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.8以上、1.0以上、2.0以上、又は3.0以上であってよく、また10.0以下、7.0以下、5.0以下、3.0以下、2.0以下、1.0以下、0.5以下、0.3以下、又は0.1以下であってよい。
【0037】
すなわち、例えば、第2の熱変性ポリマー層のC―H伸縮振動の吸収ピークの強度に対する、第2の熱変性ポリマー層のC=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合(すなわち、第2の熱変性ポリマー層についてのC=O伸縮振動の吸収ピークの強度/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-) )は、第1の熱変性ポリマー層のC―H伸縮振動の吸収ピークの強度に対する、第1の熱変性ポリマー層のC=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合(すなわち、第1の熱変性ポリマー層についてのC=O伸縮振動の吸収ピークの強度/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-) )よりも、0.1以上20.0以下小さくていよい。
【0038】
加熱の方法としては、特に限定されないが、オーブン、ホットプレート、赤外線、火炎、レーザー、又はフラッシュランプ等の加熱源を用いた方法を用いることができる。
【0039】
なお、第1のポリマー層等のポリマー層の形成は、コーティング及び/又は熱圧着によって行うことができる。
【0040】
このポリマー層の形成をコーティングによって行う場合には、これらのポリマー層を構成するポリマーを溶媒に溶解させて溶液とし、この溶液をコーティングし、そして乾燥してポリマー層を形成することができる。この場合のコーティング方法としては、スピンコート法、ロールコーター法、スプレーコーティング法、ダイコーター法、アプリケータ法、浸漬コーティング法、刷毛塗り、ヘラ塗り、ローラー塗り、カーテンフローコーター法等の溶液を用いる手法等を挙げることができる。
【0041】
第1のポリマー層等のポリマー層を、溶液を用いる手法で形成した場合、塗液の塗布後に加熱することによって溶剤を除去する工程を含むことができる。この場合、加熱条件は、塗膜から溶剤を除去するのに十分な温度及び加熱時間、雰囲気圧力条件を選択することができる。
【0042】
また、コーティング層の形成を熱圧着によって行う場合には、随意に圧力を加えてプレスしつつ、バルク固体、粉体、フィルム等を溶融又は溶着させる手法、例えば熱プレス法、溶着法、粉体塗装法等の手法によって行うことができる。
【0043】
なお、第1のポリマー層等のポリマー層の厚さは、得られる熱変性ポリマー層が、無機基材とポリマー部材との間の良好な接合を提供できる任意の厚さであってよく、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってよく、また100μm以下、30μm以下、又は10μm以下、さらには1000nm以下、500nm以下、又は100nm以下であってよい。
【0044】
上記のとおり、熱変性ポリマー層は、それを介して、ポリマー部材を、無機基材に接合するためのものである。したがって、この熱変性ポリマー層は、ポリマー部材を構成するポリマーと同種のポリマーで構成されていることが、熱変性ポリマー層とポリマー部材との接合を促進するために好ましい。
【0045】
したがって、例えば第1のポリマー層等のポリマー層、及びポリマー部材は、いずれもオレフィンポリマー、例えばシクロオレフィンポリマーで形成されていてよい。
【0046】
なお、オレフィンポリマーは、オレフィンを主成分として含有するモノマーを重合させることによって得られるポリマー、すなわちオレフィン由来のモノマー部分を50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上含有するモノマーを重合させることによって得られるポリマーを意味する。オレフィンポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、プロピレン-エチレン共重合体やプロピレン-ブテン共重合体などのα-オレフィンとエチレンもしくはプロピレンとの共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ヘキサジエン-スチレン共重合体、スチレン-ペンタジエン-スチレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(RPDM)、シクロオレフィン樹脂等が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのオレフィンポリマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
これらのオレフィンポリマーのなかでは、特にシクロオレフィンポリマーを挙げることができる。
【0048】
シクロオレフィンポリマーは、ポリマー主鎖にシクロオレフィン部分を有するポリマーである。このようなシクロオレフィンポリマーとしては、例えば、シクロオレフィンモノマーの開環重合体、シクロオレフィンモノマーの付加重合体、シクロオレフィンモノマーと鎖状オレフィンとの共重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0049】
シクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、当該環構造中に炭素-炭素二重結合を有する化合物である。シクロオレフィンモノマーとしては、例えば、2-ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フニルテトラシクロドデセンなどの四環体、トリシクロペンタジエンなどの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体などのノルボルネン環を含むモノマーであるノルボルネン系モノマー;シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5-シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。シクロオレフィンモノマーは、本発明の目的が阻害されない範囲で置換基を有していてもよい。
【0050】
シクロオレフィンポリマーは、例えば、日本ゼオン(株)製、商品名:ゼオネックス・シリーズ、ゼオノア・シリーズなど、住友ベークライト(株)製、商品名:スミライト・シリーズ、JSR(株)製、商品名:アートン・シリーズ、三井化学(株)製、商品名:アペル・シリーズ、Ticona社製、商品名:Topas、日立化成(株)製、商品名:オプトレッツ・シリーズなどとして商業的に容易に入手することができる。
【0051】
〈ポリマー部材〉
本発明の方法では、ポリマー部材は、任意の形状の部材であってよく、例えば膜状であってよい。この場合、ポリマー部材の接合を、コーティング又は熱圧着によって行うことができる。
【0052】
上記のとおり、第1のポリマー層等のポリマー層、及びポリマー部材は同種のポリマーであることが好ましく、例えば第1のポリマー層等のポリマー層、及びポリマー部材は、いずれもオレフィンポリマー、例えばシクロオレフィンポリマーで形成されていてよい。具体的なポリマー部材の材料及び形成方法に関しては、第1のポリマー層等のポリマー層に関する上記の記載を参照することができる。
【0053】
《熱変性ポリマー層-無機基材複合体、及びポリマー部材-無機基材複合体》
本発明の熱変性ポリマー層-無機基材複合体では、1又は複数の熱変性ポリマー層が無機基材に密着している。また、本発明のポリマー部材-無機基材複合体では、ポリマー部材が、本発明の熱変性ポリマー層-無機基材複合体の1又は複数の熱変性ポリマー層を介して、無機基材に密着している。
【0054】
具体的には、
図1(a)及び(b)に示すように、本発明のポリマー部材-無機基材複合体210、220では、ポリマー部材30が、本発明の熱変性ポリマー層-無機基材複合体110、120の1又は複数の熱変性ポリマー層20、21、22を介して、無機基材10に接合されている。
【0055】
このような本発明のポリマー部材-無機基材複合体によれば、無機基材に対するポリマー部材の密着性を改良することができる。
【0056】
本発明の熱変性ポリマー層-無機基材複合体、及び本発明のポリマー部材-無機基材複合体の各構成の詳細については、本発明の方法に関する記載を参照することができる。
【実施例】
【0057】
以下の実施例で熱変性ポリマー層及びポリマー部材膜の形成のために用いたポリマーは下記のとおりである:
COP1: シクロオレフィンポリマー(アートン(商標)(JSR株式会社))
COP2: シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社、Zeonex(商標)480R、ガラス転移点温度138℃)
【0058】
《実施例1~14及び比較例1~2》
以下のとおり、実施例1~14では、熱変性ポリマー層及びポリマー部材膜の両方の材料として、COP1を用いた。また、比較例1~2では、熱変性ポリマー層を用いずに、ポリマー部材膜の材料として、COP1を用いた。
【0059】
〈実施例1〉
(熱変性ポリマー層用溶液の調製)
7質量%のCOP1及び93質量%のクロロホルムを、室温において混合及び撹拌することによって、熱変性ポリマー層用溶液を得た。
【0060】
(第1の熱変性ポリマー層の形成)
無機基材としてのシリコン基板上に、熱変性ポリマー層用溶液をスピンコートした。スピンコートは、2000rpmの回転速度を20秒間にわたって保持して行った。
【0061】
その後、このように熱変性ポリマー層用溶液をコーティングしたシリコン基板を、120℃に加熱したホットプレート上に保持し、熱変性ポリマー層用溶液を乾燥させて、第1のポリマー層付きシリコン基板を得、そして、この基板を、280℃に加熱したホットプレート上に1分間にわたって保持することによって第1のポリマー層を熱変性させて、膜厚が23nmの第1の熱変性ポリマー層付きシリコン基板を得た。
【0062】
(第2の熱変性ポリマー層の形成)
上記のようにして得たシリコン基板の第1の熱変性ポリマー層上に、熱変性ポリマー層用溶液をスピンコートした。スピンコートは、2000rpmの回転速度を20秒間にわたって保持して行った。
【0063】
その後、このように熱変性ポリマー層用溶液をコーティングしたシリコン基板を、120℃に加熱したホットプレート上に保持し、熱変性ポリマー層用溶液を乾燥させて、第1の熱変性ポリマー層上に第2のポリマー層を形成した。そして、この基板を、200℃に加熱したホットプレート上に2分間にわたって保持することによって第2のポリマー層を熱変性させて、第1の熱変性ポリマー層上に膜厚が23nmの第2の熱変性ポリマー層を密着させた。このようにして得られた熱変性ポリマー層-無機基材複合体を、実施例1の熱変性ポリマー層-無機基材複合体とした。
【0064】
(ポリマー部材用溶液の調製)
7質量%のCOP1及び93質量%のクロロホルムを、室温において混合及び撹拌することによって、ポリマー部材用溶液を得た。
【0065】
(ポリマー部材の接合)
上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、ポリマー部材用溶液をスピンコートした。スピンコートは、2000rpmの回転速度を20秒間にわたって保持して行った。
【0066】
その後、このようにポリマー部材用溶液をコーティングしたシリコン基板を、140℃に加熱したホットプレート上に10分間にわたって保持し、ポリマー部材用溶液を乾燥させて、第2の熱変性ポリマー層上に膜厚が23nmのポリマー部材膜を接合した。このようにして得られたポリマー部材-無機基材複合体を、実施例1のポリマー部材-無機基材複合体とした。
【0067】
(クロスカット試験)
カッターナイフを用いて、シリコン基板上に形成した第1及び第2の熱変性ポリマー層、並びにポリマー部材膜の積層体に、1mm間隔でシリコン基板に到達する切れ目を入れた。6本の切れ目を入れた後で、さらにこの切れ目に直交するようにさらに6本の切れ目を入れ、碁盤の目状の切れ目を形成した。
【0068】
その後、スコッチ・メンディングテープ(3M社、810、幅24mm)を、ポリマー部材膜の表面に貼り付け、そしてテープの上から指でこすって密着させた後で、テープを引き剥がした。このようにしてテープの貼り付け及び剥離を行った領域を、実体顕微鏡で観察した。
【0069】
評価結果は下記のように分類した。
A:カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれが認められなかった。
B:ポリマー部材膜が部分的なはがれを生じたが、クロスカット部で影響を受けたのは、35%未満であった。
C:ポリマー部材膜が全面的に大はがれを生じ、クロスカット部で影響を受けたのは、35%以上であった。
【0070】
実施例1のポリマー部材-無機基材複合体では、カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥がれは認められなかった(評価A)。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表1に示している。
【0071】
〈実施例2~8〉
熱変性ポリマー層を形成するための溶液中のポリマーの濃度(実施例2及び3)、熱変性ポリマー層を形成するための溶液中のスピンコーティング条件(実施例4)、第1の熱変性ポリマーの熱変性の温度(実施例5~8)を表1及び2のように変更したことを除いて、実施例1と同様にして、実施例2~8のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表1及び2に示している。
【0072】
〈実施例3A〉
(第1及び第2の熱変性ポリマー層の形成)
第1の熱変性ポリマーの熱変性の温度を300℃にし、かつ第2の熱変性ポリマーの熱変性の温度を280℃としたことを除いて、実施例1と同様にして、シリコン基板上に第1の熱変性ポリマー層及び第2の熱変性ポリマーを形成した。
【0073】
(第3の熱変性ポリマー層の形成)
上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層の上に、熱変性ポリマー層用溶液をスピンコートした。スピンコートは、2000rpmの回転速度を20秒間にわたって保持して行った。
【0074】
その後、このように熱変性ポリマー層用溶液をコーティングしたシリコン基板を、120℃に加熱したホットプレート上に保持し、熱変性ポリマー層用溶液を乾燥させて、第2の熱変性ポリマー層上に第3のポリマー層を形成した。そして、この基板を、200℃に加熱したホットプレート上に2分間にわたって保持することによって第3のポリマー層を熱変性させて、第2の熱変性ポリマー層上に膜厚が23nmの第3の熱変性ポリマー層を密着させた。このようにして得られた熱変性ポリマー層-無機基材複合体を、実施例3Aの熱変性ポリマー層-無機基材複合体とした。
【0075】
(ポリマー部材の接合)
その後、実施例1と同様にしてポリマー部材の接合を行うことにより実施例3Aのポリマー部材-無機基材複合体を作成した。
【0076】
(クロスカット試験)
実施例3Aのポリマー部材-無機基材複合体を、実施例1と同様にして評価した。
【0077】
この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表1に示している。
【0078】
〈比較例1〉
無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成せずに、シリコン基材上に直接に、COP1をスピンコーティングしたことを除いて、実施例1と同様にして、比較例1のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表1及び2に示している。
【0079】
〈実施例9〉
ポリマー部材の接合の際に、シクロオレフィンポリマーをスピンコーティングする代わりに、COP1のフィルム(厚さ100μm)を、第2の熱変性ポリマー層上に配置し、50MPaの圧力及び140℃の温度で2時間にわたって保持して、このフィルムと第2の熱変性ポリマー層とを熱圧着したことを除いて、実施例1と同様にして、実施例9のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表3に示している。
【0080】
〈比較例2〉
無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成せずに、シリコン基材上に直接に、COP1のフィルム(厚さ100μm)を熱圧着したことを除いて、実施例9と同様にして、比較例2のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表3に示している。
【0081】
〈実施例10~14〉
無機基材としてのシリコン基材上に第1の熱変性ポリマー層を形成した後、第2の熱変性ポリマー層を形成せずに、第1の熱変性ポリマー層上に直接に、ポリマー部材用溶液をスピンコートしたことを除いて、それぞれ実施例5,6,1,7、8と同様にして、実施例10~14のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表4に示している。
【0082】
《実施例15~20及び比較例3》
以下のとおり、実施例15~20では、熱変性ポリマー層及びポリマー部材の膜の両方の材料として、COP2を用いた。また、比較例3では、熱変性ポリマー層を用いずに、ポリマー部材の膜の材料として、COP2を用いた。
【0083】
〈実施例15〉
熱変性ポリマー層用溶液及びポリマー部材用溶液の両方の調製において、10質量%のCOP2及び90質量%のトルエンを室温において混合及び撹拌することにより熱変性ポリマー層用溶液を得たことを除いて、実施例1と同様にして、実施例15のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表5に示している。
【0084】
〈実施例16〉
熱変性ポリマー層を形成するための溶液中のポリマーの濃度を10質量%から1質量%のように変更したことを除いて、実施例15と同様にして、実施例16のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表5に示している。
【0085】
〈比較例3〉
無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成せずに、シリコン基材上に直接に、COP2をスピンコーティングしたことを除いて、実施例15と同様にして、比較例3のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表5に示している。
【0086】
〈実施例17~20〉
第1の熱変性ポリマーの熱変性の温度を表6のように変更したことを除いて、実施例15と同様にして、実施例17~20のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表6に示している。
【0087】
《実施例21及び比較例4》
以下のとおり、実施例21では、熱変性ポリマー層及びポリマー部材膜の両方の材料として、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を用いた。また、比較例4では、熱変性ポリマー層を用いずに、ポリマー部材膜の材料として、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を用いた。
【0088】
〈実施例21〉
(第1の熱変性ポリマー層の形成)
無機基材としてのシリコン基板上にポリエチレンフィルム(PEフィルム)(厚さ30μm)を配置した状態で、120℃に基材を加熱し1分間保持することにより、ポリエチレンフィルム付きシリコン基板を得、そして、この基板を、280℃に加熱したホットプレート上に1分間にわたって保持することによってポリエチレンフィルムを熱変性させて、第1の熱変性ポリマー層付きシリコン基板を得た。
【0089】
(第2の熱変性ポリマー層の形成)
上記のようにして得たシリコン基板の第1の熱変性ポリマー層上に、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を配置した状態で、120℃に基材を加熱し1分間保持することにより、第1の熱変性ポリマー層上にポリエチレンフィルムを貼り付けた。そして、この基板を、200℃に加熱したホットプレート上に2分間にわたって保持することによってポリエチレンフィルムを熱変性させて、第1の熱変性ポリマー層上に第2の熱変性ポリマー層を密着させた。このようにして得られた熱変性ポリマー層-無機基材複合体を、実施例21の熱変性ポリマー層-無機基材複合体とした。
【0090】
(ポリマー部材の接合)
上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を配置した状態で、120℃に基材を加熱し1分間保持し、その後さらに140℃に基材を加熱し10分間保持することにより、第1の熱変性ポリマー層上に、ポリマー部材としてのポリエチレンフィルムを接合した。このようにして得られたポリマー部材-無機基材複合体を、実施例21のポリマー部材-無機基材複合体とし、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表7に示している。
【0091】
〈比較例4〉
無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成せずに、シリコン基材上に直接に、ポリマー部材としてのポリエチレンフィルムを接合したことを除いて、実施例21と同様にして、比較例4のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表7に示している。
【0092】
《実施例22~27》
以下のとおり、実施例22~27では、熱変性ポリマー層の材料とポリマー部材膜の材料とで異なるポリマーを用いた。
【0093】
〈実施例22及び23〉
(第1及び第2の熱変性ポリマー層の形成)
実施例1でのようにして、COP1を用いて、無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成した。
【0094】
(ポリマー部材の接合)
実施例22では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、実施例15でのようにして得たCOP2のポリマー部材用溶液をスピンコートし、乾燥して、実施例22のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表8に示している。
【0095】
実施例23では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、実施例21でのようにしてポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を接合して、実施例23のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表8に示している。
【0096】
〈実施例24及び25〉
(第1及び第2の熱変性ポリマー層の形成)
実施例15でのようにして、COP2を用いて、無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成した。
【0097】
(ポリマー部材の接合)
実施例24では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、実施例1でのようにして得たCOP1のポリマー部材用溶液をスピンコートし、乾燥して、実施例24のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表8に示している。
【0098】
実施例25では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、実施例21でのようにしてポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を接合して、実施例25のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表8に示している。
【0099】
〈実施例26及び27〉
(第1及び第2の熱変性ポリマー層の形成)
実施例21でのようにして、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を用いて、無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成した。
【0100】
(ポリマー部材の接合)
実施例26では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、実施例1でのようにして得たCOP1のポリマー部材用溶液をスピンコートし、乾燥して、実施例26のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表8に示している。
【0101】
実施例27では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、実施例15でのようにして得たCOP2のポリマー部材用溶液をスピンコートし、乾燥して、実施例26のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表8に示している。
【0102】
《実施例28~30及び比較例5~7》
〈実施例28~30〉
無機基材として、シリコン基材に代えて、それぞれSiN層を表面に形成したシリコン基材(実施例28)、銅板(実施例29)、及びアルミニウム板(実施例30)を用いたことを除いて、実施例15と同様にして、実施例28~30のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表9に示している。
【0103】
〈比較例5~7〉
熱変性ポリマー層を用いなかったことを除いてそれぞれ実施例28~30と同様にして、比較例5~7のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表に示している。
【0104】
《比較例8~13》
以下のとおり、比較例8~13では、無機基材としてのシリコン基材をシランカップリング剤で処理し、この処理した表面に、ポリマー部材を接合した。
【0105】
〈比較例8~9〉
無機基材としてのシリコン基材を、紫外線及びオゾン処理(UV/O3処理)した後で、シランカップリング剤としてのオクタデシルトリエトキシシラン(OTS)の150℃の飽和蒸気圧雰囲気下において3時間保持することにより、OTS処理シリコン基材を得た。
【0106】
比較例8では、このようにして得たOTS処理シリコン基材の表面に熱変性ポリマー層を形成せずに、実施例15と同様にして、スピンコーティングによってポリマー部材を接合して、比較例8のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表10に示している。
【0107】
比較例9では、このようにして得たOTS処理シリコン基材の表面に熱変性ポリマー層を形成せずに、実施例21と同様にして、熱圧着によってポリマー部材を接合して、比較例9のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表10に示している。
【0108】
〈比較例10~11〉
シランカップリング剤として、オクタデシルトリエトキシシラン(OTS)の代わりに、3-フェニルプロピルトリエトキシシラン(PTS)を用いたことを除いて、それぞれ比較例8及び9と同様にして、比較例10~11のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表10に示している。
【0109】
〈比較例12~13〉
シランカップリング剤として、オクタデシルトリエトキシシラン(OTS)の代わりに、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(ATS)を用いたことを除いて、それぞれ比較例8及び9と同様にして、比較例12~13のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、実施例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表10に示している。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
〈評価結果〉
上記の表1からは、熱変性ポリマー層を形成するためのポリマー溶液におけるポリマー濃度を1質量%~7質量%にし、また熱変性ポリマー層を形成する際のスピンコート回転数を2000rpm~4000rpmにした場合(実施例1~4)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(比較例1)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0121】
また、上記の表1からは、熱変性ポリマー層を2層とした場合(実施例1~4)だけでなく、熱変性ポリマー層を3層とした場合(実施例3A)にも、熱変性ポリマー層を用いない場合(比較例1)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0122】
上記の表2からは、熱変性ポリマー層を形成するための熱変性温度を200℃~360℃の温度にした場合(実施例1及び5~8)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(比較例1)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0123】
上記の表3からは、熱変性ポリマー層にポリマー部材フィルムを熱圧着して接合する場合(実施例9)に、熱変性ポリマー層を用いずにシリコン基材に直接にポリマー部材膜を熱圧着して接合する場合(比較例2)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0124】
上記の表4からは、熱変性ポリマー層を2層にせずに1層のみ用いた場合(実施例10~14)にも、熱変性ポリマー層を用いない場合(比較例1)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0125】
上記の表5からは、熱変性ポリマー層を形成するためのポリマー溶液におけるポリマー濃度を1質量%~10質量%にした場合(実施例15~16)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(比較例3)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0126】
上記の表6からは、熱変性ポリマー層を形成するための熱変性温度を200℃~360℃の温度にした場合(実施例10及び17~20)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(比較例3)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0127】
上記の表7からは、熱変性ポリマー層にポリマー部材フィルムを熱圧着して接合する場合(実施例21)に、熱変性ポリマー層を用いずにシリコン基材に直接にポリマー部材フィルムを熱圧着して接合する場合(比較例4)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0128】
上記の表8からは、熱変性ポリマー層を形成するためのポリマーとポリマー部材を形成するためのポリマーとが異なっている条件においても、熱変性ポリマー層を用いる場合(実施例22~27)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(比較例1、3及び4)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0129】
上記の表9からは、基材がシリコン基材ではなく、SiNを表面に形成したシリコン基材、銅板、及びアルミニウム板である条件においても、熱変性ポリマー層を用いる場合(実施例28~30)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(比較例5~7)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0130】
上記の表10からは、基材がシランカップリング剤で処理されたシリコン基材である条件においても、熱変性ポリマー層を用いる場合(実施例)と比較すると、ポリマー部材の剥離が抑制されていないことが理解される。
【0131】
《実施例31~36》
20質量%のCOP1及び80質量%のクロロホルムを、室温において混合及び撹拌することによって、熱変性ポリマー層用溶液を得たこと、並びに熱変性のためのホットプレートの温度を、400℃(実施例31)、320℃(実施例32)、280℃(実施例33)、240℃(実施例34)、200℃(実施例35)、及び160℃(実施例36)にしたことを除いて、実施例1と同様にして、無機基材としてのシリコン基板上に、熱変性ポリマー層付きシリコン基板を得た。
【0132】
(XPSによる元素分析)
実施例31~36の熱変性ポリマー層について、XPS装置(K-Alpha(サーモフィッシャーサイエンティフィック社))を用いて、熱変性ポリマー層に含まれる酸素原子と炭素原子の原子数の合計に対する熱変性ポリマー層含まれる酸素の原子数の割合(O原子数/(O原子数+C原子数)(%))を求めた。
【0133】
X線源は単色化したAlKα線を用いて、光電子取り出し角度0度として測定を行った。O1sピーク面積は、527~537eVの範囲でShirleyの方法に従ってベースラインを引くことにより求め、C1sピーク面積は、280~290eVの範囲でShirleyの方法に従ってベースラインを引くことにより求めた。フィルム表面の酸素濃度と酸素濃度は、上記O1sピーク面積及びC1sピーク面積をそれぞれの装置に固有の感度係数で補正して求めた。
【0134】
この熱変性ポリマー層の作成条件及び評価結果を、下記の表11に示している。この表11からは、熱変性のための温度が下がるに従って、すなわち熱変性の程度が下がるに従って、この割合(O原子数/(O原子数+C原子数)(%))が小さくなっており、したがって熱変性ポリマー層の熱変性の程度の指標として、この割合を利用可能であることが理解される。
【0135】
(赤外吸収スペクトル測定)
実施例31~36の熱変性ポリマー層について、IR吸収分析装置(Nicolet6700(Thermo Fisher SCIENTIFIC社))を用いて、4000~500cm-1の範囲の赤外透過吸収スペクトルを測定することにより、2947cm-1をピークとするC-H伸縮振動の吸収の吸収ピークの強度に対する、1732cm-1をピークとするC=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの強度/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-))を求めた。吸収ピークの強度は、吸収ピークの吸光度の値の最大値を読み取ることによって求めた。
【0136】
この熱変性ポリマー層の作成条件及び評価結果を、下記の表11に示している。この表11からは、熱変性のための温度が下がるに従って、すなわち熱変性の程度が下がるに従って、この割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの強度/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-))が小さくなっており、したがって熱変性ポリマー層の熱変性の程度の指標として、この割合を利用可能であることが理解される。
【0137】
【符号の説明】
【0138】
10 無機基材
20、21 第1の熱変性ポリマー層
22 第2の熱変性ポリマー層
30 ポリマー部材
110、120 本発明の熱変性ポリマー層-無機基材複合体
210、220 本発明のポリマー部材-無機基材複合体