(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 35/60 20240101AFI20240308BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20240308BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240308BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B01J35/60 F
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2019181628
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 知弘
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-000862(JP,A)
【文献】特開2003-251201(JP,A)
【文献】特開2018-171615(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136560(WO,A1)
【文献】特開2017-217646(JP,A)
【文献】国際公開第2010/044453(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気経路に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
基材と、前記基材に配置され、触媒金属と前記触媒金属を担持する担持材料とを含む触媒層と、を備え、
前記触媒層は、以下の条件:
(1)水銀ポロシメータで測定される細孔分布曲線において、細孔直径1μm以上10μm以下の範囲に細孔容量の最も大きなピークを有する;
(2)前記触媒層の表面の電子顕微鏡観察画像(観察倍率1000倍)において、前記電子顕微鏡観察画像に含まれる複数の空隙の面積をそれぞれ算出したときに、前記複数の空隙の面積の標準偏差が、30μm
2以下である;をいずれも満たす、排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記担持材料がアルミナを含み、
質量基準で、前記担持材料の全体の半分以上を前記アルミナが占めている、
請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記細孔容量の最も大きなピークの細孔容量が、0.03ml/g以上である、
請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記触媒層は、水銀ポロシメータで測定される細孔分布曲線において、細孔直径1μm以上3μm以下の範囲に前記細孔容量の最も大きなピークを有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記電子顕微鏡観察画像において、前記触媒層の面積全体を100面積%としたときに、空隙の占める面積の割合が5%以上である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記空隙の占める面積の割合が20%以下である、
請求項5に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
自動二輪車の前記内燃機関に用いられる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。詳しくは、内燃機関の排気経路に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車や自動四輪車などの車両の内燃機関から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)などの有害成分が含まれる。これら有害成分を排ガス中から効率よく反応・除去するために、従来から排ガス浄化用触媒が利用されている。排ガス浄化用触媒に関連する従来技術文献として、例えば特許文献1~4が挙げられる。
【0003】
ところで、車両に設置される排ガス浄化触媒には、高負荷、高回転の高流量(高SV:Space Velocity)条件での反応が要求される。そのため、触媒層内に排ガスの流路を適切に確保して、触媒層への排ガス拡散性を高めることが重要である。これに関連して、例えば特許文献1の実施例などには、粒度の異なる2種類以上の無機多孔質粒子を混在させることにより、平均空隙半径が12~16μm、かつ半径25μm以上の空隙を断面積1×104μmあたり2個以上有する触媒層を備える排ガス浄化用触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-171716号公報
【文献】特開2014-024058号公報
【文献】特開2009-165929号公報
【文献】特開2005-021818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記技術では形成される空隙のサイズが大きすぎるために触媒層内で空隙が偏在しやすかった。その結果、空隙から遠い部分には排ガスが行き渡りにくく、触媒層のなかに有効利用されていない部分があることが判明した。とりわけ自動二輪車では、自動四輪車などに比べて相対的に高SV条件になりやすく、未浄化の排ガスが吹き抜けることによるエミッションの低下が課題となっている。したがって、排ガス浄化用触媒には、触媒層への排ガス拡散性をより一層向上させる技術が望まれている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、触媒層全体への排ガス拡散性が向上した排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、内燃機関の排気経路に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒が提供される。かかる排ガス浄化用触媒は、基材と、上記基材に配置され、触媒金属と上記触媒金属を担持する担持材料とを含む触媒層と、を備える。上記触媒層は、以下の条件:(1)水銀ポロシメータで測定される細孔分布曲線において、細孔直径1μm以上10μm以下の範囲に細孔容量の最も大きなピークを有する;(2)上記触媒層の表面の電子顕微鏡観察画像(観察倍率1000倍)において、上記電子顕微鏡観察画像に含まれる複数の空隙の面積をそれぞれ算出したときに、前記複数の空隙の面積の標準偏差が、30μm2以下である;をいずれも満たす。
【0008】
上記排ガス浄化用触媒の触媒層では、細孔直径1~10μmの空隙、すなわち、ミクロンサイズであり、例えば特許文献1に比べて比較的サイズが小さい空隙の細孔容量が最も多くなっている。これにより、当該空隙が触媒層全体に配置され、空隙の偏在が相対的に緩和されている。当該空隙は、排ガスの好適な通り道となりうる。したがって、触媒層内の空隙を相対的に有効に利用して、触媒層全体に排ガスを行き渡らせることができる。その結果、排ガス拡散性を高めて、排ガスと触媒金属との接触性を高めることができる。したがって、未浄化の排ガスの吹き抜けを抑制することができる。
【0009】
好ましい一態様では、上記担持材料がアルミナを含み、質量基準で、上記担持材料の全体の半分以上を上記アルミナが占めている。これにより、触媒層の耐久性(特に耐熱性)を一層向上することができ、例えば高SV条件においても細孔直径1~10μmの空隙を安定して維持することができる。したがって、例えば高SV条件において、エミッションを低減することができる。
【0010】
好ましい一態様では、上記細孔容量の最も大きなピークの細孔容量が、0.03ml/g以上である。これにより、触媒層における排ガスの拡散性をより良く向上することができる。
【0011】
好ましい一態様では、上記触媒層は、水銀ポロシメータで測定される細孔分布曲線において、細孔直径1μm以上3μm以下の範囲に上記細孔容量の最も大きなピークを有する。これにより、排ガス拡散性の向上と圧損の低減とを、高いレベルで兼ね備えることができる。
【0012】
好ましい一態様では、上記電子顕微鏡観察画像において、上記触媒層の面積全体を100面積%としたときに、空隙の占める面積の割合が5%以上である。これにより、触媒層における排ガスの拡散性をより良く向上することができる。
【0013】
好ましい一態様では、上記空隙の占める面積の割合が20%以下である。これにより、触媒層の機械的強度を向上することができ、空隙を構成する骨格部分が基材から剥離したり崩落したりすることを抑制することができる。したがって、例えば高SV条件においても、空隙を安定して維持することができる。
【0014】
好ましい一態様では、自動二輪車の上記内燃機関に用いられる。自動二輪車では、自動四輪車などに比べて、相対的に高SV条件になりやすく、エミッションの低下が課題となっている。したがって、ここに開示される技術の適用がより効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る触媒層を模式的に示す部分断面図である。
【
図3】触媒B~Dの細孔分布曲線を表すチャートである。
【
図4】(A)~(D)は、触媒A~DのSEM観察画像である。
【
図5】従来例に係る触媒層を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0017】
図1は、排ガス浄化用触媒10を模式的に示す斜視図である。排ガス浄化用触媒10は、内燃機関(エンジン)の排気経路に配置されている。内燃機関は、例えば自動二輪車のガソリンエンジンを主体として構成されている。ただし、内燃機関は、例えば自動四輪車のガソリンエンジンやディーゼルエンジンを主体として構成されていてもよい。内燃機関は、酸素と燃料ガスとを含む混合気を燃焼させ、燃焼エネルギーを力学的エネルギーへと変換する。燃焼された混合気は、排ガスとなって排気経路に排出される。排ガス浄化用触媒10は、内燃機関から排出される排ガスに含まれる有害成分、例えばHC、NOx、COなどを浄化する。
【0018】
なお、
図1の矢印は、排ガスの流れを示している。すなわち、
図1では、左側が相対的に内燃機関に近い排気経路の上流側(フロント側)であり、右側が相対的に内燃機関から遠い排気経路の下流側(リア側)である。また、
図1において、符号Xは、排ガス浄化用触媒10の筒軸方向、言い換えれば排ガスの流れ方向を表している。排ガス浄化用触媒10は、筒軸方向Xが排ガスの流れ方向に沿うように排気経路に設置されている。以下では、筒軸方向Xのうち、一の方向X1を上流側(排ガス流入側、フロント側)といい、他の方向X2を下流側(排ガス流出側、リア側)ということがある。ただし、これは説明の便宜上の方向に過ぎず、排ガス浄化用触媒10の設置形態を何ら限定するものではない。
【0019】
排ガス浄化用触媒10は、ストレートフロー構造の基材11と、触媒層20(
図2参照)と、を備えている。排ガス浄化用触媒10の一の方向X1の端部は排ガスの流入口10aであり、他の方向X2の端部は排ガスの流出口10bである。本実施形態の排ガス浄化用触媒10の外形は、円筒形状である。ただし、排ガス浄化用触媒10の外形は特に限定されず、例えば、楕円筒形状、多角筒形状、パイプ状、フォーム状、ペレット形状、繊維状などであってもよい。
【0020】
基材11は、排ガス浄化用触媒10の骨組みを構成している。基材11としては特に限定されず、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。本実施形態の基材11は、ステンレス鋼(SUS)で構成されるメタル担体である。このようなメタル担体は、例えば、波形に成形した金属箔を平板状の金属箔と重ねてロール状に捲回し、金属製の外筒に装入することにより作製される。メタル担体は、金属箔に孔が形成された、所謂、孔あきメタル担体であってもよい。また、基材11は、SUS製以外、例えば、Fe-Cr-Al系合金、Ni-Cr-Al系合金などの金属担体であってもよいし、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素などのセラミックスで構成されるセラミックス担体であってもよい。
【0021】
本実施形態の基材11は、ハニカム構造を有している。基材11は、筒軸方向Xに規則的に配列された複数のセル(空洞)12と、複数のセル12を仕切る隔壁(リブ)14と、を備えている。特に限定されるものではないが、基材11の容積(セル12の容積を含んだ見掛けの体積)は、概ね0.01L以上、例えば0.05以上であって、概ね5L以下、例えば1L以下、0.5L以下、0.1L以下であってもよい。特に限定されるものではないが、基材11の筒軸方向Xに沿う長さ(全長)は、概ね10mm以上、例えば20mm以上、50mm以上であって、概ね500mm以下、例えば200mm以下、100mm以下であってもよい。
【0022】
セル12は、排ガスの流路となる。セル12は、筒軸方向Xに延びている。セル12は、基材11を筒軸方向Xに貫通する貫通孔である。セル12の形状、大きさ、数などは、例えば、排ガス浄化用触媒10に供給される排ガスの流量や成分などを考慮して設計すればよい。セル12の筒軸方向Xに直交する断面の形状は特に制限されない。セル12の断面形状は、例えば、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの矩形や、その他の多角形(例えば、三角形、六角形、八角形)、波形、円形など種々の幾何学形状であってよい。
【0023】
隔壁14は、セル12に面し、隣り合うセル12の間を区切っている。特に限定されるものではないが、隔壁14の厚み(表面に直交する方向の寸法。以下同じ。)は、機械的強度を向上したり圧損を低減したりする観点などから、概ね10μm以上、例えば20μm以上であって、概ね500μm以下、例えば200μm以下、100μm以下であってもよい。
【0024】
図2は、排ガス浄化用触媒10を筒軸方向Xに沿って切断した断面の一部を模式的に示す部分断面図である。本実施形態において、触媒層20は、基材11の表面、具体的には隔壁14の上に設けられている。本実施形態において、触媒層20は、単層構造である。触媒層20は、排ガスを浄化する場である。触媒層20は、連通した多数の空隙を有する多孔質体である。排ガス浄化用触媒10に流入した排ガスは、排ガス浄化用触媒10の流路内(セル12)を流動している間に触媒層20と接触する。これによって、排ガス中の有害成分が浄化される。例えば、排ガスに含まれるHCやCOは、触媒層20の触媒機能によって酸化され、水や二酸化炭素などに変換(浄化)される。また、例えばNOxは、触媒層20の触媒機能によって還元され、窒素に変換(浄化)される。
【0025】
触媒層20は、触媒層20の骨格部分を構成している担持材料21と、有害成分を浄化するための図示しない触媒金属(反応触媒)と、を備えている。触媒金属は、担持材料21の表面に担持されている。触媒金属としては、上記したような有害成分の浄化にあたって酸化触媒及び/又は還元触媒として機能し得る種々の金属種を使用可能である。触媒金属の典型例としては、白金族、すなわち、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)が挙げられる。また、白金族にかえて、あるいは白金族に加えて、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属など、他の金属種を使用してもよい。例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの金属種を使用してもよい。また、これらの金属のうち2種以上が合金化したものを用いてもよい。なかでも、酸化活性が高い酸化触媒、例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方、および還元活性が高い還元触媒、例えばRhが好適であり、これらを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0026】
触媒金属は、排ガスとの接触面積を高める観点から、十分に小さい粒径の微粒子として使用されることが好ましい。触媒金属の平均粒子径(透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)観察で求められる粒径の個数基準の平均値。)は、概ね1~15nm、例えば10nm以下、さらには5nm以下であるとよい。触媒金属の担持量は、酸化物に換算して、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の容積)1Lあたり、概ね20g以下、典型的には0.1~10g、例えば0.5~5gであるとよい。
【0027】
担持材料21は、触媒金属を担持している。担持材料21は、典型的には粒子状である。担持材料21は、比表面積が大きい無機多孔質体であるとよい。担持材料21としては、例えば、耐熱性に優れた金属酸化物やその固溶体が好ましく用いられる。担持材料21の典型例としては、酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)、酸化チタン(TiO2、チタニア)、酸化ジルコニウム(ZrO2、ジルコニア)、酸化ケイ素(SiO2、シリカ)や、酸化イットリウム(Y2O3、イットリア)、酸化ランタン(La2O3)、酸化セリウム(CeO2、セリア)、酸化ネオジウム(Nd2O3)などの希土類金属酸化物、酸化マグネシウム(MgO、マグネシア)などのアルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物、および、これらの固溶体、例えば、セリアとジルコニアとを含むCeO2-ZrO2系複合酸化物、酸化ランタンとアルミナとを含むLa2O3-Al2O3系複合酸化物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本実施形態において、担持材料21は、第1担持材料21aと、第2担持材料21bと、を含んでいる。第1担持材料21aと第2担持材料21bとの表面には、それぞれ触媒金属が担持されている。第1担持材料21aと第2担持材料21bとは、組成および性状のうちの少なくとも一方が異なっている。いくつかの実施形態において、第1担持材料21aと第2担持材料21bとは、主体(質量比で最も多くの割合を占める成分、好ましくは50質量%以上を占める成分。)となる成分(例えば金属酸化物)が異なっている。これにより、排ガス浄化用触媒10の使用に伴う経年的な劣化を好適に抑制することができる。いくつかの実施形態において、一方の担持材料は他方の担持材料に比べて耐熱性が高い。いくつかの実施形態において、一方の担持材料は酸素吸蔵能(OSC:Oxygen Storage capacity)」を有するOSC材であり、他方の担持材料は酸素吸蔵能を有しない非OSC材である。
【0029】
本実施形態において、第1担持材料21aは、アルミナを含んだ金属酸化物(Al含有酸化物)である。第1担持材料21aは、後述する第2担持材料21bよりも耐久性(特に耐熱性)が高い。第1担持材料21aは、後述する第2担持材料21bよりも嵩密度(JIS K1469(2003年)に規定された方法で測定された値。以下同じ。)が大きくてもよい。第1担持材料21aは、アルミナを主体として構成されていてもよい。アルミナは、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、α-アルミナなどであってもよい。Al含有酸化物は、例えば、アルミナおよび、アルミナとアルミナ以外の金属酸化物(例えば希土類金属酸化物)との複合酸化物のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。第1担持材料21aは、非OSC材である。第1担持材料21aは、セリアを含まない金属酸化物(非Ce酸化物)であってもよい。
【0030】
本実施形態において、第2担持材料21bは、セリアを含んだ金属酸化物(Ce含有酸化物)である。第2担持材料21bは、第1担持材料21aよりも酸素吸蔵能が高い。第2担持材料21bは、セリアを主体として構成されていてもよい。Ce含有酸化物は、セリアおよび、セリアとセリア以外の金属酸化物との複合酸化物のうちの少なくとも1種を含んでいる。複合酸化物は、例えば、CeO2-ZrO2系複合酸化物であってもよい。CeO2-ZrO2系複合酸化物は、CeリッチであってもよくZrリッチであってもよい。CeO2-ZrO2系複合酸化物は、CeO2以外の金属酸化物、例えば希土類金属酸化物をさらに含んでいてもよい。第2担持材料21bは、OSC材である。第2担持材料21bは、アルミナを含まない金属酸化物(非Al酸化物)であってもよい。
【0031】
いくつかの実施形態において、第1担持材料21aと第2担持材料21bとは、平均粒子径(電子顕微鏡観察で求められる粒径の個数基準の平均値。)が略同等である。例えば、第2担持材料21bの平均粒子径Dbに対する第1担持材料21aの平均粒子径Daの比(Da/Db)が、概ね2倍未満、好ましくは1.5以下、例えば1.2以下でありうる。上記比の範囲とすることで、触媒層20が緻密になり過ぎることを抑制して、触媒層20にサイズ揃った空隙を好適に確保することができる。また、比(Da/Db)は、1以上でありうる。すなわち、Da≧Dbでありうる。
図2では、Da>Dbである。
【0032】
第1担持材料21aと第2担持材料21bとの配合比は特に限定されない。触媒層20では、第1担持材料21aが主体をなしていてもよく、第2担持材料21bが主体をなしていてもよい。いくつかの実施形態では、担持材料21の体積全体を100体積%としたときに、第1担持材料21a(例えばアルミナ)の占める体積割合が、概ね50体積%以上、好ましくは60体積%以上、例えば70体積%以上であるとよい。これにより、第1担持材料21a(例えばアルミナ)を骨格として触媒層20内にミクロンサイズの空隙をより多く形成し、排ガス拡散性を一層向上することができる。また、触媒層20の耐久性(特に耐熱性)を一層向上することができ、例えば高SV条件においても、安定して空隙を維持することができる。第1担持材料21a(例えばアルミナ)の占める体積割合は、概ね99体積%以下、例えば95体積%以下、90体積%以下、85体積%以下であってもよい。なお、各担持材料21の体積は、質量と嵩密度とから算出することができる。
【0033】
また、各担持材料21の体積は、後述する走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)観察画像の画像解析によって実測することもできる。例えば、第1担持材料21aがアルミナであり、第2担持材料21bが、Ce含有酸化物である場合、黒白のSEM観察画像では、アルミナがグレー色、Ce含有酸化物が白色で表示される。そのため、空隙部分を分離して触媒層20部分を区分けした後、2値化処理の差異に閾値を変化させることで、アルミナの部分を区別することができる。そして、触媒層20部分に占めるアルミナの面積を、アルミナの体積割合として算出することができる。
【0034】
本実施形態の触媒層20には、主に上記した担持材料21同士の間隙(粒子間空隙)によって、多数の空隙が形成されている。触媒層20は、水銀ポロシメータで測定される細孔分布曲線において、細孔直径1~10μmの範囲に最も細孔容量の大きなピーク(第1ピーク)を有する。触媒層20内にミクロンサイズの空隙を多く確保することで、例えば高SV条件においても、排ガス拡散性を向上することができる。さらに圧損を低減することができる。加えて、空隙のサイズを、例えば特許文献1に記載されるような技術に比べて、比較的小さめにすることで、触媒層全体にバランスよく空隙を配置しやすくなる。細孔直径1~10μmの空隙は、アルミナを骨格として(言い換えれば、アルミナ粒子間の間隙によって)形成されているとよい。また、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮する観点から、第1ピークは、好ましくは1~5μm、より好ましくは1~3μmの範囲に存在していてもよい。
【0035】
いくつかの実施形態において、第1ピークの細孔容量V1は、触媒層20の単位質量(1g)あたり、概ね0.02ml/g以上、典型的には0.03ml/g以上、例えば0.05ml/g以上、さらには0.08ml/g以上であって、概ね0.3ml/g以下、典型的には0.2ml/g以下、例えば0.15ml/g以下であってもよい。第1ピークの細孔容量V1を所定値以上とすることで、触媒層20における排ガスの拡散性や対流性を向上することができる。また、第1ピークの細孔容量V1を所定値以下とすることで、触媒層20の強度が増して、例えば空隙を構成する骨格部分が基材から剥離したり崩落したりすることを抑制することができる。
【0036】
いくつかの実施形態において、触媒層20には、主に上記した担持材料21内の間隙(粒子内空隙)によって、多数の空隙が形成されている。触媒層20は、水銀ポロシメータで測定される細孔分布曲線において、細孔直径1μm未満の範囲(例えば0.01~1μm、0.01~0.05μmの範囲)に、細孔容量が2番目に大きなピーク(第2ピーク)を有していてもよい。細孔直径1~10μmの空隙は、粒子内空隙を通じて連通しうる。したがって、触媒層20内での排ガスの拡散性を向上することができる。特に限定されるものではないが、第2ピークの細孔容量V2に対する第1ピークの細孔容量V1の比(V1/V2)は、概ね1.2~5、例えば1.5~3であってもよい。
【0037】
なお、触媒層20の細孔分布曲線は、以下のようにして測定することができる。まず、触媒層20を切り出して試料片を用意し、市販される水銀ポロシメータを用いて試料片の細孔分布曲線を測定する。水銀ポロシメータでは、水銀にかけられる圧力と空隙に浸入した水銀の量との関係に基づいて、細孔の大きさ(細孔直径)と容量(細孔容量)を測定することができる。水銀圧入法では、閉孔以外の全ての細孔を測定することができる。これにより、細孔直径(μm)を横軸に表し、細孔容量(ml/g)を縦軸に表した細孔分布曲線を得ることができる。
【0038】
いくつかの実施形態において、細孔分布曲線に基づく細孔直径1~10μmの範囲内の(ミクロンサイズの)積算細孔容量は、触媒層20の単位質量(1g)あたり、概ね0.1ml/g以上、典型的には0.2ml/g以上、例えば0.4ml/g以上、さらには0.5ml/g以上であって、概ね1.2ml/g以下、典型的には1.0ml/g以下、例えば0.8ml/g以下であってもよい。積算細孔容量を所定値以上とすることで、触媒層20における排ガスの拡散性や対流性を向上することができる。また、積算細孔容量を所定値以下とすることで、触媒層20の強度が増して、空隙を構成する骨格部分が基材から剥離したり崩落したりすることを抑制することができる。
【0039】
本実施形態の触媒層20は、触媒層20の表面の電子顕微鏡観察画像(観察倍率1000倍)において、触媒層20の各空隙の面積を算出したときの標準偏差が、30μm2以下である。標準偏差は、空隙のサイズのバラつきを表す1つの指標である。標準偏差は、数値が小さいほど空隙の面積のバラつきが無いことを表している。標準偏差を所定値以下とすることで、触媒層20の全体にバランスよくミクロンサイズの空孔を配置することができ、触媒層20の全体を有効利用することができる。これにより、例えば高SV条件においても排ガスの吹き抜けを抑制することができる。排ガスの吹き抜けをより良く抑制する観点からは、空隙の標準偏差が、好ましくは29μm2以下、より好ましくは28μm2以下、例えば10~28μm2であるとよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、触媒層20の表面の電子顕微鏡観察画像における触媒層20の空隙率(すなわち、触媒層20の面積全体に占める空隙の面積割合)が、概ね3面積%以上、好ましくは5面積%以上、さらには10面積%以上、11面積%以上、例えば15面積%以上であって、概ね35面積%以下、典型的には30面積%以下、好ましくは25面積%以下、例えば20面積%以下、17面積%以下である。空隙率を所定値以上とすることで、触媒層20における排ガスの拡散性や対流性を向上することができる。また、空隙率を所定値以下とすることで、触媒層20の強度が増して、例えば空隙を構成する骨格部分が基材から剥離したり崩落したりすることを抑制することができる。
【0041】
触媒層20は、用途などによっては、触媒金属と担持材料21の他に適宜に任意成分を含んでもよい。例えば、触媒層20に触媒金属として酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)を含む場合には、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)などのアルカリ土類元素を含んでもよい。アルカリ土類元素は、典型的には酸化物の形態で触媒層20に存在する。また、触媒層20は、例えば、触媒金属が担持されていないOSC材、触媒金属が担持されていない非OSC材、NOx吸蔵能を有するNOx吸着材、安定化剤などを含んでもよい。安定化剤としては、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)などのCe以外の希土類元素が挙げられる。希土類元素は、典型的には酸化物の形態で触媒層20に存在する。
【0042】
特に限定されるものではないが、触媒層20における担持材料21の成形量(コート量)は、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の容積)1Lあたり、概ね20~300g、好ましくは30~200g、例えば50~150gであってもよい。上記範囲を満たすことにより、排ガス浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。なお、本明細書において「成形量」とは、単位体積あたりに含まれる固形分の質量をいう。
【0043】
触媒層20の厚みや長さは、例えば、基材11のセル12の大きさや排ガス浄化用触媒10に供給される排ガスの流量などを考慮して設計すればよい。いくつかの態様において、触媒層20の厚みは、概ね1~500μm、例えば5~200μm、10~100μmである。また、触媒層20は、基材11の筒軸方向Xの全長にわたって設けられていてもよいし、筒軸方向Xにおいて、連続的にあるいは断続的に、基材11の全長の概ね20%以上、例えば50%以上、80%以上に当たる部分に設けられていてもよい。これにより、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0044】
排ガス浄化用触媒10は、組成や性状の異なる複数の(2層以上の)触媒層を備えていてもよい。この場合、そのうちの少なくとも1層が上記した触媒層20の構成を満たせばよい。排ガス浄化用触媒10は、触媒層20以外の触媒層や、触媒層ではない層、例えば触媒金属を含まない層などを備えていてもよい。また、触媒層20は、1層あるいは2層以上であってもよい。また、排ガス浄化用触媒10は、例えば筒軸方向Xに触媒層20とは異なる他の触媒層を備えていてもよい。いくつかの態様において、排ガス浄化用触媒10は、基材11の部分ごと、例えば筒軸方向Xの上流側X1と下流側X2とに異なる組成の触媒層が設けられていてもよい。その場合、触媒層20はいずれの部分にあってもよい。触媒層20は、例えば、排ガスの流入口10aから筒軸方向Xに沿って設けられていてもよいし、排ガスの流出口10bから筒軸方向Xに沿って設けられていてもよい。
【0045】
なお、触媒層20は、後述するように担持材料21の粒度を揃えること以外、従来使用されている方法、例えば含浸法やウォッシュコート法などにより、形成することができる。特に限定されるものではないが、一例では、まず基材11と、触媒層20を形成するための触媒層形成用スラリーと、を用意する。触媒層形成用スラリーは触媒金属源(例えば、触媒金属をイオンとして含む溶液)と、上記した2種類の担持材料21(第1担持材料21aと第2担持材料21b)と、を必須の原料成分として含み、その他の任意成分、例えば、バインダ、各種添加剤などを、分散媒に添加し、分散させて調製するとよい。
【0046】
触媒層形成用スラリーでは、担持材料21の粒度が揃っている(言い換えれば、担持材料21の粒度分布がシャープである)ことが重要である。例えば、担持材料21全体の最頻度粒径(レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置で測定した粒子径分布から算出される値。以下同じ。)が概ね20μm以下、典型的には1~10μm、例えば2~8μmの範囲であり、かつ最頻度粒径+2μmの範囲の累積頻度が、概ね1/3以上、例えば40%以上であるとよい。したがって、いくつかの態様において、例えば原料としての複数の担持材料21の粒子径中央値(レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置で測定した粒子径分布から算出されるメジアン径。以下同じ。)が異なる場合には、担持材料21を分散媒に添加する前に、複数の担持材料21の少なくとも1つについて、粒度調整を行ってもよい。この場合、分散媒に添加する前に、複数の担持材料21の粒子径中央値を略同等(概ね±5μm以内、例えば±2μm以内)とするとよい。あるいは、別のいくつかの態様において、複数の担持材料21を分散媒に添加し混合した後に、上記した最頻度粒径および累積頻度の範囲となるように粒度調整を行ってもよい。なお、担持材料21の粒度調整は、従来公知の方法、例えば攪拌機、粉砕機、ビーズミル、ボールミルなどを用いた粉砕や、篩分けなどによって適宜行うことができる。
【0047】
次に、調製した触媒層形成用スラリーを基材11の端部からセル12に流入させ、筒軸方向Xに沿って所定の長さまで供給する。スラリーを供給した基材11は、所定の温度で乾燥、焼成する。これにより、原料成分が焼結されて、隔壁14上に触媒層20が形成される。本実施形態では、担持材料21の粒度を揃えておくことにより、担持材料21が基材11上で最密充填されにくくなっている。そのため、触媒層20内に細孔直径1~10μmの(ミクロンサイズの)空隙を均質に形成することができる。
【0048】
以上のように、本実施形態の触媒層20では、細孔直径1~10μmの空隙、すなわち、ミクロンサイズの空隙の細孔容量が多くなっている。また、当該空隙が触媒層20の全体にバランスよく配置され、大きな空隙の片寄りが少なくなっている。したがって、触媒層20の空隙を有効に利用して、触媒層20全体に排ガスを行き渡らせることができる。その結果、排ガスと触媒金属との接触性を高めることができる。また、好適には、排ガスが触媒層20をゆっくり(時間をかけて)通過するようになり、排ガスと触媒金属との接触時間を延ばすことができる。そのため、未浄化の排ガスの吹き抜けを抑制することができ、有害成分の浄化性能、例えばHC浄化性能やNOx浄化性能を好適に向上することができる。
【0049】
これに対し、
図5は、従来例に係る排ガス浄化用触媒の断面の一部を模式的に示す部分断面図である。
図5において、触媒層200は、隔壁14の上に設けられている。触媒層200は、平均粒子径の異なる2種類の担持材料21、すなわち、第1担持材料210aと第2担持材料210bとを有している。第1担持材料210aは、平均粒子径が相対的に大きく、具体的には、平均粒子径が第2担持材料210bの2倍以上である。このため、例えば
図5のP1のように、第1担持材料210aの粒子間空隙によって、大きな空隙を形成しやすい。一方で、例えば
図5のP2のように、第1担持材料210aの粒子間に第2担持材料210bが詰まってしまったりすると、空隙が閉じて有効に活用されにくくなる。したがって、従来の触媒層200では、本実施形態に係る触媒層20に比べて、触媒層200に全体に排ガスが行き渡りにくく、未浄化の排ガスが吹き抜けやすいと考えられる。
【0050】
排ガス浄化用触媒10は、各種の内燃機関から排出される排ガスの浄化に用いることができる。例えば、自動二輪車や原動機付き自転車、自動四輪車などの車両をはじめとして、船舶、タンカー、水上バイク、パーソナルウォータークラフト、船外機などのマリン用製品、草刈機、チェーンソー、トリマーなどのガーデニング用製品、ゴルフカート、四輪バギーなどのレジャー用製品、コージェネレーションシステムなどの発電設備、ゴミ焼却炉などの内燃機関に好適に適用することができる。なかでも、高SV条件になりやすい自動二輪車のエンジンに対して好適に使用することができる。
【0051】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0052】
まず、担持材料として、表1に示す3種類の金属酸化物を用意した。
【表1】
【0053】
(触媒A)本例では、まず、イオン交換水(100ml)に、担持材料としてのアルミナI(50g)およびCe含有酸化物(50g)と、触媒金属源としての硝酸パラジウム溶液(10.7g)および硝酸ロジウム溶液(2.7g)と、を投入して、混合した。次に、この混合液を撹拌機(ブランド名:HEIDON、型式:BL1200、新東科学株式会社製、回転数:300rpm)で、1時間撹拌した。これにより、担持材料(すなわち、アルミナIおよびCe含有酸化物)の粒度調整を行い、最頻度粒径が6μm、かつ、最頻度粒径+2μmの範囲の累積頻度が40%以上となるように、担持材料の粒度を揃えた。これにより、スラリー1を調製した。
【0054】
次に、メタルハニカム基材(SUS製、円筒形状、全長:60mm、容量:75ml)を用意した。次に、上記調製したスラリー1を、メタルハニカム基材の端部からセル内に導入して、隔壁の表面に、基材の全長と同じ60mm幅でコートした。このとき、コート量は、7.55g(うち、Pd量は0.04g、Rh量は0.01g)とした。そして、スラリー1をコートした基材を、250℃で1時間乾燥させた後、500℃で1時間焼成することによって、基材上に触媒層を形成した。これによって、触媒Aを得た。
【0055】
(触媒B)本例では、アルミナIにかえてアルミナIIを用い、アルミナIIの使用量を66gとし、かつ、Ce含有酸化物の使用量を34gに変更したこと以外、触媒Aと同様の手順により触媒Bを得た。
【0056】
(触媒C)本例では、アルミナIIの使用量を75gに変更し、かつ、Ce含有酸化物の使用量を25gに変更したこと以外、触媒Bと同様の手順により触媒Cを得た。
【0057】
(触媒D)本例では、アルミナIにかえてアルミナIIを用い、かつ、担持材料の粒度調整を行わずに、アルミナIIおよびCe含有酸化物を異なる粒度のまま混合したこと以外、触媒Aと同様の手順により触媒Dを得た。
【0058】
(触媒E)本例では、アルミナIIの使用量を34gに変更し、かつ、Ce含有酸化物の使用量を66gに変更したこと以外、触媒Dと同様の手順により触媒Eを得た。
【0059】
(触媒F)本例では、アルミナIIの使用量を25gに変更し、かつ、Ce含有酸化物の使用量を75gに変更したこと以外、触媒Dと同様の手順により触媒Fを得た。
【0060】
〔水銀ポロシメータによる細孔分布曲線の測定〕
上記作製した触媒B~Dについて、触媒層の形成されている隔壁部分を切り出した。次に、市販の水銀ポロシメータを用いて、水銀圧入法により、0.01~200MPaの圧力範囲で測定を行うことによって、100~0.01μmの範囲の細孔直径を評価した。次に、細孔直径(μm)を横軸に、細孔容量(ml/g)を縦軸に表した細孔分布曲線を作成した。
図3には、触媒B~Dの細孔分布曲線のチャートを示している。そして、細孔分布曲線のなかで最も細孔容量の大きなピークを「第1ピーク」とし、その細孔直径(Mean Diameter)およびその細孔容量(Pore Volume)を読み取った。結果を表2に示す。また、細孔直径1~10μmの範囲内の積算面積から、触媒層の単位質量(1g)に含まれる、ミクロンサイズの細孔の積算細孔容量を求めた。結果を表2に示す。
【0061】
〔水銀ポロシメータによる評価結果〕
表2および
図3に示すように、触媒B~Dは、いずれも、細孔直径1~10μm(具体的には1~3μm)の範囲に第1ピークがあった。また、触媒B,Cを比較すると、第1担持材料(アルミナ)の体積比が大きい触媒Cのほうが、第1ピークの細孔容量が大きかった。
【0062】
〔走査電子顕微鏡(SEM)による空隙の観察〕
まず、上記作製した触媒A~Fについて、触媒層の形成されている隔壁部分を切り出した。次に、触媒層の表面をSEMで観察し、SEM観察画像(観察倍率:1000倍)を得た。次に、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア Mac-View(株式会社マウンテック製)を用い、処理範囲を触媒層に設定して、下記の手順1~4でSEM観察画像を解析し、触媒層の単位面積(4500μm
2)あたりの全空隙面積を算出した。また、触媒層の空隙率(すなわち、触媒層の面積全体に占める空隙の面積の割合)を算出した。一例として、
図4(A)~(D)に、触媒A~Dにおける空隙の分布を示す。また、上記SEM観察画像に含まれる複数の空隙について、それぞれ個別に面積を算出し、それら複数の空隙の面積の標準偏差を算出した。結果を表2に示す。
(手順1)自動2値化処理(判別分析法)によって、2値画像を得た。
(手順2)2値画像の黒色の個所を空隙とみなし、分離した。
(手順3)各空隙の面積を算出した。
(手順4)触媒層の面積全体を100%としたときの空隙の総面積を算出した。
【0063】
〔SEMによる評価結果〕
図4に示すように、触媒Dでは、触媒A~Cに比べて、相対的に粗大な空隙が散見された。実際、表2に示すように、触媒Dの全空隙面積(および空隙面積の割合)が最も大きかった。また、表2に示すように、全空隙面積(および空隙面積の割合)が大きく、個別の空隙の面積のバラつきが大きくなる傾向にあった。触媒D~Fでは、個別の空隙の標準偏差が35μm
2以上と大きくなっていた。一方、触媒A~Cでは、個別の空隙の面積の差が小さく、標準偏差が30μm
2以下に抑えられていた。すなわち、各空隙のサイズが揃っていた。
【0064】
〔触媒性能の測定〕
まず、上記作製した触媒A~Fを、実機車両のエンジン(排気量:110cm3)の排気管に設置し、コールドスタート時とホットスタート時のそれぞれについて、WMTC(Worldwide-harmonized Motorcycle Test Cycle)モードを走行したときのエミッションを測定した。なお、エミッション算出時の重み係数は、コールド評価とホット評価とを重みづけ50%ずつとした。非メタン系炭化水素(NMHC:non-methane hydrocarbons)とNOxのモードエミッションを表2に示す。
【0065】
〔触媒性能の評価結果〕
表2に示すように、空隙が観察、解析できなかった触媒Aは、NMHCおよびNOxのモードエミッションが最も高かった。すなわち、浄化性能が最も悪かった。この理由としては、触媒層の排ガス拡散性が低く、排ガスと触媒金属との接触が不十分だったことが考えられる。触媒D~Fでは、触媒B、Cに比べて空隙の面積が大きいものの、NMHCおよびNOxのモードエミッションがいずれも触媒B、Cよりも高かった。すなわち、触媒B、Cに比べて浄化性能が悪かった。この理由としては、大きな空隙が触媒層内で偏在し、触媒層全体にバランスよく配置されていなかったことが考えられる。その結果、大きな空隙から遠い部分の触媒層に排ガスが行き渡らず、触媒層のなかに有効利用されない部分が生じ、排ガスと触媒金属との接触が不十分だったことが考えられる。
【0066】
これら比較例に対して、触媒B、Cでは、NMHCおよびNOxのモードエミッションがいずれも低かった。すなわち、浄化性能が相対的に優れていた。この理由としては、以下の条件:(1)細孔分布曲線において、細孔直径1~10μm(ミクロンサイズ、例えば、1~3μm)の範囲に第1ピークを有する;(2)複数の空隙の面積の標準偏差が、30μm2以下(例えば、28μm2以下)である;をいずれも満たすことで、触媒層全体に排ガスが拡散し易くなり、触媒層全体を有効利用することができた結果、排ガスと触媒金属との接触性が向上したことが考えられる。
【0067】
【0068】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を、他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 排ガス浄化用触媒
11 基材
12 セル
14 隔壁
20 触媒層
21 担持材料
21a 第1担持材料
21b 第2担持材料