(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
F04D19/04 H
(21)【出願番号】P 2020037519
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2019047815
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】江野澤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】野中 学
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-008590(JP,U)
【文献】国際公開第2018/173704(WO,A1)
【文献】特開2004-117091(JP,A)
【文献】特開2001-132684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプにおいて、
気体の吸気口から排気口までの流路と、
前記流路において、当該真空ポンプの運転支障の原因が発生する所定の流路位置より上流側または下流側に配置された堆積物センサとを備え、
前記堆積物センサは、
前記堆積物センサの配置位置における堆積物の厚さを検出せずに、前記堆積物センサの配置位置における
前記堆積物の有無を検出し、
前記堆積物センサの配置位置は、前記堆積物センサの検出状態が堆積物なしから堆積物ありへ変化するときに、前記所定の流路位置での前記堆積物の厚さが、前記原因を抑制するメンテナンスのメンテナンス時期に対応する所定厚さとなる位置であること、
を特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
ロータと、ステータとをさらに備え、
前記堆積物センサは、前記ロータに対向する前記ステータにおける前記流路の壁面に配置されていることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
ネジ溝ポンプ部をさらに備え、
前記所定の流路位置は、前記ネジ溝ポンプ部の出口部分であり、
前記堆積物センサは、前記流路における、前記ネジ溝ポンプ部のネジ溝の底面に配置されていること、
を特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項4】
コントローラをさらに備え、
前記コントローラは、前記堆積物センサの検出状態に基づいて前記メンテナンス時期を検出すること、
を特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記流路において、当該真空ポンプの運転支障の原因が発生する所定の流路位置より上流側または下流側に配置された複数の堆積物センサを備え、
前記複数の堆積物センサは、それぞれ、当該堆積物センサの配置位置における堆積物の有無を検出し、
前記コントローラは、(a)前記複数の堆積物センサから、検出状態が堆積物なしから堆積物ありへ変化するときに前記所定の流路位置での前記堆積物の厚さが前記メンテナンス時期に対応する所定厚さとなる位置に配置されている1つの堆積物センサを選択し、(b)選択した前記堆積物センサの検出状態に基づいて前記メンテナンス時期を検出すること、
を特徴とする請求項4記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記コントローラは、前記複数の堆積物センサのうち、検出状態が堆積物なしから堆積物ありへ変化した堆積物センサを検出すると、検出した前記堆積物センサに対応する報知レベルで、前記メンテナンス時期を報知することを特徴とする請求項5記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造などに使用する反応装置は、真空ポンプを使用して、粉状の反応生成物、ガス状の反応生成物や反応原料などを排気している。反応装置から排気された反応生成物などは、真空ポンプ内の流路を通過する。その際、反応生成物などが、温度および圧力の条件に応じて、流路内の壁面に付着したり析出したりして堆積する。この堆積物が多くなると真空ポンプの運転に支障が生じるため、そのような堆積物を除去するメンテナンスが必要になる。
【0003】
ある真空ポンプでは、静電容量型膜厚センサでそのような堆積物の厚さが測定され、その膜厚センサのセンサ出力値に基づいて、真空ポンプの運転に支障が生じる前にメンテナンスが実行される(例えば特許文献1,2参照)。
【0004】
別の真空ポンプでは、電極対の静電容量の増加率が低下することで、電極対の間に堆積した堆積物の厚さが所定厚さに達したことが検出される(例えば特許文献3参照)。
【0005】
さらに別の真空ポンプでは、流路に連通路を設け、連通路に設けられた感圧部により検出される圧力の変動幅に基づいて堆積物が検出される(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-101655号公報
【文献】特開平6-109409号公報
【文献】特開2018-159632号公報
【文献】特開2011-247823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
真空ポンプ内の流路において、温度が低いほど、かつ圧力が高いほど、堆積物が析出しやすい。一般に、流路の下流ほど圧力が高い。温度については、堆積物の発生を抑制するために、ヒーターで流路の一部を高温にすることがある。
【0008】
他方、真空ポンプの稼働率を高めるためにはメンテナンスの回数は少ないほうが好ましい。したがって、真空ポンプの運転に支障が生じずに、かつ、できる限り遅くメンテナンス時期を検出することが好ましい。
【0009】
しかしながら、真空ポンプの運転支障の原因(堆積物による流路の閉塞や堆積物による回転部位への接触など)が発生する流路位置におけるその原因が発生する少し前の堆積物の厚さ(つまり、適切なメンテナンス時期)を検出することは困難である。
【0010】
つまり、流路の壁面に対して垂直方向の堆積物厚さを検出するためには、例えば、静電容量方式の場合には、流路の壁面において対向する2つの位置に電極を設置する必要があるが、一方の壁面が回転している場合には電極を設置することは困難である。また、上述のように流路の圧力に基づいて堆積物厚さ(例えば閉塞の少し前の堆積物厚さ)を正確に検出することも困難である。また、静電容量方式の厚さ計を流路内部に設ける場合、適切なメンテナンス時期に対応する比較的大きな厚さを感度良く測定するためには、1対の電極板の間隔を広くする必要がある。しかしながら、電極板の間隔を広くした場合、良好な感度のために電極板の面積を大きくすると、センサのサイズが大きくなるため、流路内にセンサを配置することが困難となってしまう。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、真空ポンプの運転支障の原因が発生する流路位置における、その原因が発生する少し前の堆積物の厚さを検出する真空ポンプを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る真空ポンプは、気体の吸気口から排気口までの流路と、その流路において、当該真空ポンプの運転支障の原因が発生する所定の流路位置より上流側または下流側に配置された堆積物センサとを備える。そして、堆積物センサは、堆積物センサの配置位置における堆積物の厚さを検出せずに、堆積物センサの配置位置における堆積物の有無を検出し、堆積物センサの配置位置は、堆積物センサの検出状態が堆積物なしから堆積物ありへ変化するときに、上述の所定の流路位置での堆積物の厚さが、その原因を抑制するメンテナンスのメンテナンス時期に対応する所定厚さとなる位置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、真空ポンプの運転支障の原因が発生する流路位置における、その原因が発生する少し前の堆積物の厚さを検出する真空ポンプが得られる。
【0014】
本発明の上記又は他の目的、特徴および優位性は、添付の図面とともに以下の詳細な説明から更に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る真空ポンプの内部構成を示す図である。
【
図2】
図2は、堆積物成分の析出について説明する相図である。
【
図3】
図3は、流路位置に沿った堆積物厚さの分布について説明する図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1における堆積物センサの配置位置の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、堆積物センサにおける堆積物の堆積レベルについて説明する図である。
【
図6】
図6は、実施の形態1に係る真空ポンプの電気的な構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、実施の形態2における堆積物センサの配置位置の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施の形態3における堆積物センサの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態4における堆積物センサの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態5における堆積物センサの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
実施の形態1.
【0018】
図1は、本発明の実施の形態1に係る真空ポンプの内部構成を示す図である。
図1に示す真空ポンプは、ターボ分子ポンプであって、真空ポンプ本体10において、ケーシング1、ステータ翼2、ロータ翼3、ロータ軸4、軸受部5、モータ部6、吸気口7、ネジ溝8、および排気口9を備える。ロータ翼3はロータ軸4に固定されており、ロータ翼3およびロータ軸4によってロータ11が構成されている。
【0019】
ケーシング1は、略円筒形状を有し、その内部空間に、ロータ11、軸受部5、モータ部6などを収容し、その内周面に複数段のステータ翼2を固定されている。ステータ翼2は、所定の仰角で配置されている。ケーシング1およびステータ翼2でステータが構成されている。
【0020】
ケーシング1内では、複数段のロータ翼部3aと複数段のステータ翼2とが、ロータ軸の高さ方向(ロータ軸方向高さ)において交互に配置されている。ロータ翼3は、複数段のロータ翼部3aと、ロータ内筒部3bとを備える。各ロータ翼部3aは、ロータ内筒部3bから延び、所定の仰角を有する。ロータ内筒部3bは、半径方向において、ロータ11の中心に近い方のロータ翼部3a(初段のロータ翼部3a)の端までの範囲である。つまり、ロータ内筒部3bは、ロータ翼3のうち、ロータ翼部3a以外の部分である。また、ロータ軸4とロータ円筒部3bによってロータ中心部12が構成される。したがって、ロータ中心部12は、半径方向において、ロータ11の中心から、ロータ11の中心に近い方のロータ翼部3a(初段のロータ翼部3a)の端までの範囲である。ネジ止めなどでロータ軸4とロータ翼3とが接続されている。
【0021】
軸受部5は、ロータ軸4の軸受であって、この実施の形態では、磁気浮上式の軸受であり、軸方向および半径方向のロータ軸4の偏位を検出するセンサ、軸方向および半径方向のロータ軸4の偏位を抑制する電磁石などを備える。なお、軸受部5の軸受方式は、磁気浮上式に限定されるものでない。モータ部6は、電磁力でロータ軸4を回転させる。
【0022】
吸気口7は、ケーシング1の上端開口部であって、フランジ形状を有し、図示せぬチャンバなどに接続される。吸気口7には、熱運動などで、そのチャンバなどから気体分子が飛来してくる。排気口9は、フランジ形状を有し、ロータ翼部3aおよびステータ翼2から送られてきた気体分子などを排出する。
【0023】
なお、
図1に示す真空ポンプは、上述のステータ翼2およびロータ翼部3aによるターボ分子ポンプ部の後段にネジ溝8によるネジ溝ポンプ部を備える複合翼式であるが、全翼式でもよい。
【0024】
図1に示す真空ポンプにおいて、排気すべき気体の流路は、吸気口7から排気口9までであって、吸気口7、ロータ11とステータ(ステータ翼2およびケーシング1)との間の空間、ネジ溝ポンプ部のネジ溝8とロータ11との間の空間、および排気口9を含む。
【0025】
さらに、
図1に示す真空ポンプは、その流路において、上述のような当該真空ポンプの運転支障の原因が発生する所定の流路位置より上流側または下流側に配置された堆積物センサを備える。
【0026】
その堆積物センサは、当該堆積物センサの配置位置における堆積物の有無を検出し、堆積物センサの配置位置は、その堆積物センサの検出状態が堆積物なしから堆積物ありへ変化するときに、上述の所定の流路位置での堆積物の厚さが、上述の原因を抑制するメンテナンスのメンテナンス時期に対応する所定厚さ(以下、メンテンナンス時期厚さという)となる位置とされる。
【0027】
また、その堆積物センサは、ロータ11に対向するステータにおける流路の壁面に配置されている。例えば、堆積物センサは、ネジ溝ポンプ部のネジ溝8の底面、ロータ翼部3aに対向するステータ壁面などに配置される。
【0028】
また、上述の所定の流路位置は、例えばネジ溝ポンプ部の出口部分である。なお、上述の所定の流路位置は、例えば堆積物抑制のためのヒーターが配置されている場合には、そのヒーターによる加熱部分以外の部分となることがある。
【0029】
図2は、堆積物成分(排気すべき気体に含まれ堆積物として析出する成分)の析出について説明する相図である。
図2(A)は、運転開始直後における各流路位置での堆積物成分の状態を示す相図であり、
図2(B)は、所定運転時間経過後における各流路位置での堆積物成分の状態を示す相図である。
【0030】
ある堆積物成分について、
図2(A)に示すように、当該真空ポンプの運転開始の時点では、ネジ溝ポンプ部の出口部分での堆積物成分の状態が昇華曲線付近にあり、堆積物が析出しやすくなっているが、ネジ溝ポンプ部の入口部分(ターボ分子ポンプの出口部分)およびターボ分子ポンプの入口部分では分圧が十分低く、堆積物成分の状態が昇華曲線から離れた気体領域にあり、堆積物が析出しにくくなっている。この時点において、堆積物センサの配置位置での堆積物成分の状態が気体領域にあり、堆積物が析出しにくくなっている。
【0031】
その後、当該真空ポンプの運転時間の経過とともに、ネジ溝ポンプ部の出口部分において堆積物が析出していき、堆積物によって流路が徐々に狭くなると、
図2(B)に示すように、その上流側(ネジ溝ポンプ部の入口部分(ターボ分子ポンプの出口部分)およびターボ分子ポンプの入口部分、並びに堆積物センサの配置位置)での分圧が徐々に上昇し、堆積物センサの配置位置での堆積物成分の状態が昇華曲線付近になる。このため、この時点において、堆積物センサの配置位置で堆積物が析出し、堆積物センサの検出状態が堆積物ありへ変化する。つまり、ネジ溝ポンプ部の出口部分の堆積物厚さがメンテナンス時期に対応する厚さとなったときに堆積物成分の状態が略昇華曲線上になる位置に、堆積物センサが配置される。
【0032】
図3は、流路位置に沿った堆積物厚さの分布について説明する図である。圧力が増加するほど堆積物厚さは増加するので、
図3に示すように、原因発生想定位置(上述の所定の流路位置)の堆積物厚さがメンテンナンス時期厚さ(つまり、運転支障の発生する厚さからマージンを減算した厚さ)に達するときに、堆積物センサの検出下限の堆積物厚さ(メンテンナンス時期厚さより低い所定の堆積物厚さ)となる位置に、堆積物センサは設置される。
【0033】
図4は、実施の形態1における堆積物センサの配置位置の一例を示す図である。
図4(A)は、実施の形態1におけるネジ溝ポンプ部の断面図であり、
図4(B)は、
図4(A)におけるネジ溝ポンプ部のA-A断面図である。
【0034】
この実施の形態1では、複数の堆積物センサ21-1~21-N(N>1)がその流路に配置されている。例えば
図4に示すように、ネジ溝8に沿って、等間隔で、堆積物センサ21-1~21-4が配置されており、別のネジ溝8に沿って、等間隔で、堆積物センサ21-5~21-8が配置されている。また、
図4(B)に示すように、各堆積物センサ21-iは、例えば、ネジ溝8の底面の中央部分に配置される。
【0035】
複数の堆積物センサ21-1~21-Nのうちの1つは、上述のような当該真空ポンプの運転支障の原因が発生する所定の流路位置より上流側または下流側に配置された堆積物センサとして使用される。複数の堆積物センサ21-1~21-Nは、それぞれ、当該堆積物センサの配置位置における堆積物の有無を検出する。
【0036】
ここで、各堆積物センサ21-iは、赤外線センサなどの光電センサであって、流路内に突出している堆積物センサ21-iの端部が堆積物で覆われると、堆積物センサ21-iのセンサ出力信号のレベルが変化する。
【0037】
なお、この光電センサは、発光部および受光部を備え、発光部から対象物に向かって出射した光が対象物で反射または透過し受光部へ入射するようになっている。一般的に、光電センサの場合、堆積物がある程度の厚さになり光電センサへの入射光を完全に遮ると、それ以上の厚さを検知することはできないため、光電センサを厚さ計として使用することは困難である。
【0038】
図5は、堆積物センサ21-iにおける堆積物の堆積レベルについて説明する図である。
図5に示すように、堆積物の厚さは、プロセス時間とともに、ロータ壁面3cに向かって、堆積レベルAから堆積レベルDへ増加していく。各堆積物センサ21-iは、堆積物の厚さを検出せずに、堆積物センサ21-i上の堆積物の有無だけを検出する。つまり、堆積物センサ21-iのセンサ出力信号のレベルは、堆積物の厚さが低い時点(例えば堆積レベルA)で、急峻に変化するようになっている。
【0039】
図6は、実施の形態1に係る真空ポンプの電気的な構成を示すブロック図である。実施の形態1に係る真空ポンプは、真空ポンプ本体10を電気的に制御する制御装置40をさらに備える。制御装置40は、当該真空ポンプに内蔵されていてもよいし、真空ポンプ本体10と制御装置40とはそれぞれ着脱可能な別体としてもよい。
【0040】
図6に示すように、制御装置40は、コントローラ41、通信装置42、および表示装置43を備える。コントローラ41は、プロセッサなどを備え、真空ポンプ本体10のモータ部6を制御したり、真空ポンプ本体10の堆積物センサ21-iのセンサ出力信号を取得し、堆積物センサ21-iの検出状態(つまり、センサ出力信号)に基づいてメンテナンス時期を検出する。通信装置42は、周辺インターフェイスなどであり、表示装置43は、各種インジケータなどである。コントローラ41は、通信装置42や表示装置43を使用して、メンテナンス時期を検出した場合、メンテナンス時期を検出したことをユーザーに報知する。
【0041】
なお、コントローラ41は、堆積物センサ21-iのセンサ出力信号で「堆積物あり」または「堆積物なし」という2値判定する。なお、コントローラ41は、堆積物センサ21-iのセンサ出力信号を閾値で2値判定してもよいし、堆積物センサ21-iはセンサ出力信号として2値信号を出力するようにしてもよい。
【0042】
また、この実施の形態1のように複数の堆積物センサ21-1~21-Nが配置されている場合、複数の堆積物センサ21-1~21-Nがコントローラ41に電気的に接続されており、コントローラ41は、(a)複数の堆積物センサ21-1~21-Nから、1つの特定センサ(検出状態が堆積物なしから堆積物ありへ変化するときに、上述の所定の流路位置での堆積物の厚さが、メンテナンス時期に対応する所定厚さとなる位置に配置されている堆積物センサ)を選択し、(b)選択した特定センサの検出状態に基づいてメンテナンス時期を検出する。つまり、特定センサが「堆積物あり」を検出したときに、コントローラ41は、メンテナンス時期を検出する。
【0043】
当該真空ポンプが使用されるプロセスによって流路を通過する気体が変わるため、
図3に示すような堆積物厚さの分布もプロセスによって変化することがある。そのため、複数の堆積物センサ21-1~21-Nから、原因発生想定位置の堆積物厚さがメンテンナンス時期厚さに達するときに堆積物センサの検出下限の堆積物厚さとなる位置にある堆積物センサ21-iが、メンテンナンス時期の検出のために選択され、使用される。
【0044】
そのような選択すべき堆積物センサ21-iは、例えば実験によって特定され、コントローラ41にセットされる。あるいは、例えば、メンテナンスにおいて、原因発生想定位置の堆積物厚さと堆積物センサ21-1~21-Nのそれぞれの配置位置での堆積物厚さとの相関を特定し、その相関に基づいて、そのような選択すべき堆積物センサ21-iが特定されコントローラ41にセットされるようにしてもよい。
【0045】
また、コントローラ41は、複数の堆積物センサ21-1~21-Nのうち、検出状態が堆積物なしから堆積物ありへ変化した堆積物センサ21-iを検出すると、検出した堆積物センサ21-iに対応する報知レベルで、メンテナンス時期を報知するようにしてもよい。例えば3つの堆積物センサ21-1~21-3について、コントローラ41は、上述の所定の流路位置に近い順に、堆積物なしから堆積物ありへの変化を堆積物センサ21-1~21-3で検出すると、報知レベル「注意」、報知レベル「警告」、報知レベル「警報」と順番にメンテナンス時期を報知する。
【0046】
次に、実施の形態1に係る真空ポンプの動作について説明する。
【0047】
当該真空ポンプの吸気口7にチャンバなどが接続されるとともに、制御装置40が電気的に真空ポンプ本体10(モータ部6など)に電気的に接続され、制御装置40(コントローラー41)がモータ部6を動作させることで、ロータ軸4が回転し、ロータ翼部3aも回転する。これにより、ロータ翼部3aおよびステータ翼2によって、吸気口7を介して飛来した気体分子が、流路を通過して排気口9から排出される。
【0048】
そして、排気すべき気体に起因して流路の各部に堆積物が析出し、プロセス時間とともに堆積物の厚さが徐々に増加していく。上述の所定の流路位置では堆積物厚さの増加速度が高く、堆積物センサ21-iの配置位置では堆積物厚さの増加速度が低い。
【0049】
そして、上述の所定の流路位置での堆積物厚さがメンテナンス時期厚さに到達すると、堆積物センサ21-iの配置位置での堆積物厚さが堆積物検出下限の厚さに到達し、堆積物センサ21-iの検出状態が、堆積物なしから堆積物ありに変化する。堆積物センサ21-iの検出状態が堆積物なしから堆積物ありに変化すると、コントローラ41は、この検出状態の変化を検出し、メンテナンス時期を報知する。
【0050】
以上のように、上記実施の形態1によれば、堆積物センサ21-iが、気体の吸気口7から排気口9までの流路において、当該真空ポンプの運転支障の原因が発生する所定の流路位置より上流側または下流側に配置されている。そして、堆積物センサ21-iは、当該堆積物センサの配置位置における堆積物の有無を検出し、堆積物センサ21-iの配置位置は、堆積物センサ21-iの検出状態が堆積物なしから堆積物ありへ変化するときに、上述の所定の流路位置での堆積物の厚さが、その原因を抑制するメンテナンスのメンテナンス時期に対応する所定厚さとなる位置となっている。
【0051】
これにより、真空ポンプの運転支障の原因が発生する流路位置とは別の位置に配置された堆積物センサ21-iによって、その位置における、その原因が発生する少し前の堆積物の厚さが検出される。
【0052】
実施の形態2.
【0053】
実施の形態2では、実施の形態1における堆積物センサ(光電センサ)の代わりに、静電容量型センサが堆積物センサとして使用される。
【0054】
図7は、実施の形態2における堆積物センサの配置位置の一例を示す図である。
図7(A)は、実施の形態2におけるネジ溝ポンプ部の断面図であり、
図7(B)は、
図7(A)におけるネジ溝ポンプ部のB-B断面図であり、
図7(C)は、実施の形態2における堆積物センサを示す斜視図である。
【0055】
実施の形態2では、
図7(A)に示すように、ネジ溝8の底面に、さらに、センサ溝31が、ネジ溝8に沿って形成されており、
図7(B)に示すように、センサ溝31の対向する側面に、1対の電極32a,32bが静電容量型の堆積物センサ32として配置されている。さらに、この実施の形態2では、複数の堆積物センサ32-1~32-N(N>1)が、1または複数のネジ溝8に形成されたセンサ溝31において、例えば等間隔で配置されている。
【0056】
なお、実施の形態2に係る真空ポンプのその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0057】
実施の形態3.
【0058】
図8は、実施の形態3における堆積物センサの一例を示す図である。
図8(A)は、実施の形態3におけるネジ溝ポンプ部に配置された堆積物センサの上面を示す図であり、
図8(B)は、
図8(A)におけるネジ溝ポンプ部のA-A断面図であって、実施の形態3における堆積物センサの断面を示す図である。実施の形態3では、
図8に示すような堆積物センサ21-iが使用される。
【0059】
実施の形態3に係る堆積物センサ21-iは、光電センサであって、流路内に露出している堆積物センサ21-iの端部が堆積物で覆われると、堆積物センサ21-iのセンサ出力信号のレベルが変化する。例えば
図8に示すように堆積物センサ21-iは、発光部としての光源61、受光部としての光センサ62、および、堆積物センサ21-iの端部を構成する窓63を備える。光源61は、例えばLED素子、レーザ発振子などであり、光センサ62は、例えばフォトトランジスタ、フォトダイオード、光電導セル(CdSセルなど)、光電池、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ、赤外線センサなどである。なお、光源61および光センサ62をポンプ外部に配置し、光源61および光センサ62の代わりに、光ファイバなどの2つの導光部材の一方の端部を配置し、2つの導光部材の他方の端部を光源61および光センサ62にそれぞれ面して配置し、その導光部材で、光源61および光センサ62とネジ溝8との間の導光を行うようにしてもよい。
【0060】
窓63上に堆積物がほとんどない状態では、光源61からの光は、窓63を介してロータ壁面3cへ進行し、ロータ壁面3cで反射し、窓63を介して光センサ62に入射する。一方、窓63上に堆積物がある程度の厚さになると、光源61からの光は堆積物で遮られてロータ壁面3cへ進行せず、光センサ62に入射する光の光量が減少する。したがって、流路内に露出している堆積物センサ21-iの端部が堆積物で覆われると、堆積物センサ21-i(光センサ62)のセンサ出力信号のレベルが変化する。これにより、複数の堆積物センサ21-1~21-Nは、それぞれ、当該堆積物センサの配置位置における堆積物の有無を検出する。
【0061】
なお、実施の形態3に係る真空ポンプのその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0062】
実施の形態4.
【0063】
図9は、実施の形態4における堆積物センサの一例を示す図である。
図9(A)は、実施の形態4における堆積物センサの上面を示す図であり、
図9(B)は、実施の形態4における堆積物センサの断面を示す図である。実施の形態4では、
図9に示すような堆積物センサ21-iが使用される。
【0064】
実施の形態4に係る堆積物センサ21-iは、実施の形態1または実施の形態3における堆積物センサ21-iと同様に、光電センサであって、流路内に露出している堆積物センサ21-iの端部が堆積物で覆われると、堆積物センサ21-iのセンサ出力信号のレベルが変化する。例えば
図9に示すように堆積物センサ21-iは、発光部71、受光部72、および、堆積物センサ21-iの端部を構成する窓73を備える。
図9に示すように、受光部72は、発光部71の周囲に配置され、両者は同心円状に配置されている。
【0065】
なお、実施の形態4に係る真空ポンプのその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0066】
実施の形態5.
【0067】
図10は、実施の形態5における堆積物センサの一例を示す図である。実施の形態5に係る堆積物センサ21-iは、光電センサであって、複数の堆積物センサ21-1~21-Nに共通の1または複数の光源81と、流路内に露出している光センサ82-iとを備える。光源81は、ネジ溝ポンプ部の上端および/または下端に配置され、ネジ溝ポンプ部におけるロータ壁面3cとステータ(ネジ溝8)との間の間隙8aを介してロータ壁面3cやネジ溝8に光を照射する。
【0068】
そして、複数の光センサ82-1~82-Nのうちの少なくとも1つは、上述のような当該真空ポンプの運転支障の原因が発生する所定の流路位置より上流側または下流側に配置される。複数の光センサ82-1~82-Nは、それぞれ、当該堆積物センサの配置位置における堆積物の有無を示すセンサ出力信号を生成する。光センサ82-iの端部が堆積物で覆われていない場合には、その光は、ロータ表面などで反射して光センサ82-iに入射する。一方、光センサ82-iの端部が堆積物で覆われると、その光は、光センサ82-iに入射しなくなる。したがって、光センサ82-iの端部が堆積物で覆われると、堆積物センサ21-i(光センサ82-i)のセンサ出力信号のレベルが変化する。
【0069】
なお、実施の形態5に係る真空ポンプのその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0070】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0071】
例えば、上記実施の形態1,2では、堆積物センサ21-i,32-iの配置位置は上述の所定の流路位置(ここでは、ネジ溝ポンプ部の出口部分)より上流側となっているが、下流側でもよい。また、上記実施の形態1,2において、上述の堆積物成分の状態(分圧と温度)が、上述の所定の流路位置での流路が狭くなることで、堆積物成分の相図における気体領域から固体領域に向けて移動し、上述の所定の流路位置での堆積物厚さがメンテナンス時期に対応する厚さとなったときに、略昇華曲線上になるような別の位置に、堆積物センサ21-i,32-iが配置されていてもよい。
【0072】
また、上記実施の形態1,2では、主に、ネジ溝ポンプ部のガス流路に堆積物センサ21-i,32-iを配置する例を示したが、堆積物センサ21-i,32-iの配置位置は、これに限られるものではなく、同等の効果があれば、当該真空ポンプ内の、ガス流路を構成する部材(例えば、ネジ溝付きスペーサの上端、ステータ翼2を支持するリング、ケーシング1、ベース、ステータコラム、排気口9など)の内壁面における任意の箇所でもよい。
【0073】
また、上記実施の形態1,2に係る真空ポンプは、排気機構としてネジ溝ポンプ部を備えているが、その代わりに、他の方式の排気機構(シーグバーン型、ゲーデ型など)を備えていてもよく、その場合でも、真空ポンプのガス流路(当該他の方式の排気機構におけるガス流路を含む)において、同等の効果が得られる任意の箇所に堆積物センサ21-i,32-iが配置される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、例えば、真空ポンプに適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 ケーシング(ステータの一例の一部)
2 ステータ翼(ステータの一例の一部)
7 吸気口
8 ネジ溝
9 排気口
11 ロータ
21-1~21-N,32,32-1~32-N 堆積物センサ
41 コントローラ