(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】極低温装置および熱スイッチ
(51)【国際特許分類】
F25B 9/02 20060101AFI20240308BHJP
F25B 9/00 20060101ALI20240308BHJP
H10N 60/81 20230101ALI20240308BHJP
【FI】
F25B9/02 J
F25B9/00 A
H10N60/81
(21)【出願番号】P 2020037875
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】出村 健太
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-182821(JP,A)
【文献】特開昭57-169564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/02
F25B 9/00
H10N 60/81
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿入口と、前記挿入口の内周面に第1伝熱面を有する第1伝熱部品と、前記第1伝熱部品に挿入可能な形状をもち、
その外周面に第2伝熱面を有する第2伝熱部品と、を備え、前記第2伝熱部品が前記第1伝熱部品に挿入されるとき前記第1伝熱面と前記第2伝熱面が互いに摺動しながら接触する熱スイッチと、
前記挿入口を囲むように前記第1伝熱部品の外周部に配置され、前記第1伝熱面と前記第2伝熱面を弾性的に面接触させるように構成される押圧機構と、
前記第1伝熱部品または前記第2伝熱部品のいずれかと熱的に結合された冷却ステージを備える極低温冷凍機と、を備えることを特徴とする極低温装置。
【請求項2】
前記押圧機構は、前記第1伝熱面と一体化された板ばね層を含み、
前記板ばね層を形成する材料は、前記伝熱面を形成する材料に比べて硬い材料で形成されることを特徴とする請求項1に記載の極低温装置。
【請求項3】
前記第1伝熱部品は、スリットによって複数の短冊状の伝熱要素へと周方向に分割され、個々の伝熱要素が前記第1伝熱面を径方向内側に有するとともに前記板ばね層を径方向外側に有することを特徴とする請求
項2に記載の極低温装置。
【請求項4】
前記押圧機構は、
前記第1伝熱部品の外周に接触しながら保持されるC字状のリング部材と、
前記リング部材の両端を締結する締結部材と、を有し、
前記第1伝熱部品が初期形状にあるとき、前記リング部材の両端と前記締結部材の間には周方向に遊びがあることを特徴とする請求項
1に記載の極低温装置。
【請求項5】
前記第1伝熱部品は、それぞれが前記第1伝熱面を有する複数の挿入口を備え、
前記第2伝熱部品は、それぞれが前記第2伝熱面を有するとともに前記複数の挿入口のうち対応する挿入口に挿入可能である複数の突起を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の極低温装置。
【請求項6】
前記冷却ステージと前記熱スイッチを収容する真空容器をさらに備え、
前記熱スイッチは、前記第2伝熱部品が前記第1伝熱部品に挿入されるように前記真空容器の外から操作可能な操作部材を備え、前記第1伝熱部品または前記第2伝熱部品のうち一方が前記操作部材に設けられ、前記第1伝熱部品または前記第2伝熱部品のうち他方が前記真空容器に対して固定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の極低温装置。
【請求項7】
前記操作部材は、断熱材料で形成され、中空構造を有することを特徴とする請求項6に記載の極低温装置。
【請求項8】
前記真空容器は、前記操作部材が貫通する輻射シールドを備え、前記操作部材と前記輻射シールドとの隙間を覆うカバーが設けられていることを特徴とする請求項6または7に記載の極低温装置。
【請求項9】
極低温装置用の熱スイッチであって、
前記極低温装置の冷却側または被冷却側の一方に取付可能な第1伝熱部品と、
前記極低温装置の冷却側または被冷却側の他方に取付可能な第2伝熱部品と、を備え、
前記第1伝熱部品は、
挿入口と、前記挿入口の内周面に第1伝熱面を有し、前記第2伝熱部品は、前記第1伝熱部品に挿入可能な形状をもち、
その外周面に第2伝熱面を有し、
前記第2伝熱部品が前記第1伝熱部品に挿入されるとき前記第1伝熱面と前記第2伝熱面が互いに摺動しながら接触
し、
前記熱スイッチは、前記挿入口を囲むように前記第1伝熱部品の外周部に配置され、前記第1伝熱面と前記第2伝熱面を弾性的に面接触させるように構成される押圧機構をさらに備えることを特徴とする極低温装置用の熱スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温装置および熱スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、極低温冷凍機を利用して伝導冷却により超電導コイルを冷却する超電導磁石装置が知られている。この装置には、熱スイッチが設けられている。極低温冷凍機の定常運転状態においては、熱スイッチに接触圧を加えることにより熱スイッチが閉じられ、冷凍機から超電導コイルへの伝熱路が形成される。極低温冷凍機に異常が検知された場合には、熱スイッチが開放され、超電導コイルが冷凍機から断熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、上述の熱スイッチについて検討し、以下の課題を認識した。熱スイッチにおける接触圧は熱抵抗に影響する。実際のところ、望まれる良好な熱接触を得るには、かなり高い接触圧が求められ、これは、それほど簡単ではない。熱スイッチに接触圧を加える加圧装置は、強力な加圧を実現すべく、大掛かりになりがちである。そのように大きな荷重を受けることになる熱スイッチや極低温冷凍機など関係する構造物も、荷重に耐えるように頑丈に設計されなければならない。一方、接触圧の不足は熱抵抗の増加を招き、熱抵抗は温度差をもたらす。この場合、超電導コイルの冷却温度は、冷凍機が実現しうる到達温度ほどには十分に下がらないかもしれない。超電導コイルの冷却不良を避けるために、より大きな冷凍能力をもつ極低温冷凍機の採用や、追加の極低温冷凍機の増設を考慮しなければならないかもしれない。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、良好な熱接触を比較的容易に得られる熱スイッチおよびこれを備える極低温装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、極低温装置は、第1伝熱面を有する第1伝熱部品と、第1伝熱部品に挿入可能な形状をもち、第2伝熱面を有する第2伝熱部品と、を備え、第2伝熱部品が第1伝熱部品に挿入されるとき第1伝熱面と第2伝熱面が互いに摺動しながら接触する熱スイッチと、第1伝熱部品または第2伝熱部品のいずれかと熱的に結合された冷却ステージを備える極低温冷凍機と、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、極低温装置用の熱スイッチは、極低温装置の冷却側または被冷却側の一方に取付可能な第1伝熱部品と、極低温装置の冷却側または被冷却側の他方に取付可能な第2伝熱部品と、を備える。第1伝熱部品は、第1伝熱面を有し、第2伝熱部品は、第1伝熱部品に挿入可能な形状をもち、第2伝熱面を有し、第2伝熱部品が第1伝熱部品に挿入されるとき第1伝熱面と第2伝熱面が互いに摺動しながら接触する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な熱接触を比較的容易に得られる熱スイッチおよびこれを備える極低温装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る極低温装置用の熱スイッチを概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る極低温装置用の熱スイッチを概略的に示す図である。
【
図3】
図1に示される第1伝熱部品のA-A線断面を概略的に示す図である。
【
図4】実施の形態に係る熱スイッチに設けられる押圧機構の他の例を概略的に示す図である。
【
図5】実施の形態に係る熱スイッチの変形例を概略的に示す図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、実施の形態に係る熱スイッチの変形例を概略的に示す図である。
【
図7】実施の形態に係る極低温装置を概略的に示す図である。
【
図8】比較例に係る熱スイッチを示す概略図である。
【
図9】実施の形態に係る熱スイッチの変形例を概略的に示す図である。
【
図10】
図10(a)から
図10(d)は、実施の形態に係る熱スイッチの設置についての変形例を概略的に示す図である。
【
図11】実施の形態に係る極低温装置の変形例を概略的に示す図である。
【
図12】実施の形態に係る極低温装置の変形例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1および
図2は、実施の形態に係る極低温装置用の熱スイッチ10を概略的に示す図である。
図1には、オフ状態の熱スイッチ10が示され、
図2には、オン状態の熱スイッチ10が示されている。
【0013】
熱スイッチ10は、極低温装置の冷却側または被冷却側の一方に取付可能な第1伝熱部品12と、極低温装置の冷却側または被冷却側の他方に取付可能な第2伝熱部品14と、を備える。
【0014】
この実施形態では、第1伝熱部品12が被冷却側の第1伝熱部材16に取り付けられ、第2伝熱部品14が冷却側の第2伝熱部材18に取り付けられる。良好な熱接触を得るために、第1伝熱部品12および第2伝熱部品14はそれぞれ、第1伝熱部材16および第2伝熱部材18に確実に固定される。たとえば、第1伝熱部品12はかしめにより第1伝熱部材16により固定され、第2伝熱部品14はねじで第2伝熱部材18に固定される。ただし、伝熱部品の伝熱部材への固定は、こうした機械的接合に限られず、半田など冶金的接合またはそのほか適宜の接合技術を利用することができる。
【0015】
第2伝熱部品14は、第1伝熱部品12に挿入可能な形状をもつ。言い換えれば、第1伝熱部品12は、メス型の端子であり、第2伝熱部品14は、オス型の端子であり、両部品の相対移動により結合と分離を切替可能である。たとえば、第1伝熱部材16が固定され、それにより第1伝熱部品12は静止され、第2伝熱部材18が第2伝熱部品14とともに移動可能とされるというように、熱スイッチ10の二部品のうち一方が他方に対して移動される。ただし、二部品の両方が移動可能であってもよい。
【0016】
第1伝熱部品12は、第1伝熱面20を有し、第2伝熱部品14は、第2伝熱面22を有する。第1伝熱部品12は、挿入口24を備え、第1伝熱面20は、挿入口24の内周面にあたる。第2伝熱部品14は、挿入口24に挿入可能な突起として形成され、第2伝熱面22は、この突起の外周面にあたる。
【0017】
第1伝熱面20の径は、第2伝熱面22の径と等しくてもよい。第1伝熱面20と第2伝熱面22が互いに摺動しながら接触するように、第1伝熱面20と第2伝熱面22それぞれの径の寸法公差が定められていてもよい。あるいは、後述のように、第1伝熱面20と第2伝熱面22の少なくとも一方が径方向に弾性的に撓み可能である場合には、第1伝熱部品12および第2伝熱部品14の初期形状において(すなわち、第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されていないとき、)第1伝熱部品12の挿入口24の径が、第2伝熱部品14の径よりも若干小さくてもよい。第1伝熱面20と第2伝熱面22は、より強い接触面圧で摺動しうる。
【0018】
第1伝熱部品12と第2伝熱部品14は、両部品の中心軸にあたる共通の軸線上に配置され、この軸線に沿う直線的な相対移動によって、第2伝熱部品14は、第1伝熱部品12に挿入される。
図1において、第2伝熱部品14の挿入方向26を下向きの矢印により例示する。
【0019】
この実施形態では、第1伝熱面20と第2伝熱面22がともに、第1伝熱部品12への第2伝熱部品14の挿入方向26に平行である。一例として、第1伝熱部品12は、挿入口24として円筒状のピン穴を有するソケットであり、第2伝熱部品14は、円柱状または円筒状のピンである。
【0020】
ただし、第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されるとき第1伝熱面20と第2伝熱面22が互いに摺動しながら接触する限り、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14は、挿入方向26に垂直な断面を円形とするものには限定されず、たとえば正方形、矩形、またはその他の断面形状を有してもよい。
【0021】
第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されるとき、第1伝熱面20と第2伝熱面22が互いに摺動しながら接触する。こうして、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14は機械的かつ熱的に結合され、熱スイッチ10はオフからオンに切り替わる。
図2に示されるように、熱スイッチ10のオン状態では、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14はともに静止し、第1伝熱面20と第2伝熱面22は互いに接触した状態を保つ。
【0022】
第2伝熱部品14が第1伝熱部品12から引き抜かれるときには、逆の動きにより第1伝熱面20と第2伝熱面22が離れる。
図1に示されるように、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14は機械的かつ熱的に分離され、熱スイッチ10はオンからオフに切り替わる。
【0023】
挿入口24の入口にはテーパ面25が形成されていてもよい。テーパ面25は、第1伝熱部品12の外周面を、第1伝熱部品12の内周面である第1伝熱面20に接続し、径方向に外側から内側へと挿入口24の深部に向けて傾斜している。
【0024】
これにより、第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されるとき、まず第2伝熱部品14の先端外周がテーパ面25に突き当たる。テーパ面25は、第2伝熱部品14を挿入口24に案内するガイド面として働き、それにより、第2伝熱部品14は挿入口24に容易に受け入れられる。また、第2伝熱部品14と第1伝熱部品12との間にいくらかの軸ずれがあったとしても、第2伝熱部品14はテーパ面25にガイドされて挿入口24に挿入されることができる。
【0025】
なお、テーパ面25に代えて、またはテーパ面25とともに、第2伝熱部品14の先端にテーパ面が形成されてもよい。第2伝熱部品14のテーパ面は、テーパ面25と同様に傾斜し、第2伝熱部品14の外周面である第2伝熱面22を第2伝熱部品14の先端面に接続してもよい。
【0026】
この実施形態では、
図2に示されるように、熱スイッチ10のオン状態で、第2伝熱部品14の先端面と第1伝熱部品12の挿入口24の底面が接触しない。オン状態を維持するために第1伝熱部品12と第2伝熱部品14を挿入方向26に互いに押し付け続ける必要が無い。挿入方向26における熱スイッチ10およびその支持構造や加圧装置の剛性を低減することが可能となり、装置構造を簡素化しうる。あるいは、第2伝熱部品14の先端面と第1伝熱部品12の挿入口24の底面は接触してもよく、その場合、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14の接触面積を広げることができ、熱抵抗の低減には有利でありうる。
【0027】
第1伝熱部品12および第2伝熱部品14は、たとえば銅、アルミニウムなど、高い熱伝導率をもつ金属、またはその他の高熱伝導材料で形成される。同様に、第1伝熱部品12および第2伝熱部品14が固定される第1伝熱部材16および第2伝熱部材18や本書に言及されるそのほかの伝熱経路も、たとえば銅などの高熱伝導材料で形成される。
【0028】
第1伝熱面20および第2伝熱面22を形成する材料は、第1伝熱部品12および第2伝熱部品14それぞれの本体を形成する高熱伝導材料と同じであることは必須ではなく、異なってもよい。たとえば、第1伝熱面20および第2伝熱面22は、高熱伝導金属のメッキ層であってもよく、たとえば、銅の本体に形成された銀メッキ層であってもよい。
【0029】
銅などの熱伝導率の良い金属材料は、典型的には、比較的軟らかい。そのため、伝熱部品の全体がこうした材料のみで形成される場合には、部品は低剛性となりがちである。第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されるとき、互いに比較的容易に変形し、そのため、第1伝熱面20と第2伝熱面22の接触面圧は小さくなりがちである。第1伝熱面20と第2伝熱面22の間の熱抵抗を低減するには、高い接触面圧が望まれる。
【0030】
そこで、熱スイッチ10は、第1伝熱面20と第2伝熱面22を面接触させるように第1伝熱部品12と第2伝熱部品14のうち少なくとも一方に設けられた押圧機構30を備える。押圧機構30は、一例として、第1伝熱部品12に組み込まれている。
【0031】
この実施形態では、押圧機構30は、第1伝熱面20と第2伝熱面22を弾性的に面接触させるように構成される。押圧機構30は、第1伝熱面20と一体化された板ばね層として設けられている。板ばね層は、挿入口24を囲むように第1伝熱部品12の外周部に配置され、全体として筒状に形成されている。板ばね層は、たとえば真鍮、ステンレス鋼など、伝熱面を形成する材料に比べて硬い金属またはその他の材料で形成される。よって、板ばね層は、第1伝熱面20を含む伝熱部に比べて高い剛性をもつ。また、板ばね層を形成する材料は、典型的には、伝熱面を形成する材料に比べて低い熱伝導率を有する。
【0032】
図3は、
図1に示される第1伝熱部品12のA-A線断面を概略的に示す図である。押圧機構30は、第1伝熱部品12に形成された多数のスリット32を有してもよい。これらスリット32は挿入方向26(すなわち第1伝熱部品12の軸線)に平行である。第1伝熱部品12は、スリット32によって多数の短冊状の伝熱要素へと周方向に分割され、個々の伝熱要素が第1伝熱面20を径方向内側に有するとともに板ばね層を径方向外側に有する。第1伝熱部品12は、少なくとも3つの短冊状の伝熱要素に分割されてもよい。
図3では、一例として、4つに分割されている。
【0033】
ただし、スリット32は、第1伝熱部品12の挿入口24の入口から軸方向中間部へと延びているが、第1伝熱部材16に固定される第1伝熱部品12の基部にまでは延びていない。第1伝熱部材16への固定を容易にするために、短冊状の伝熱要素は第1伝熱部材16側では互いに周方向につながっている。
【0034】
このような押圧機構30によって、第1伝熱部品12は、挿入方向26に垂直な方向28に弾性的に撓み可能である。第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されるとき、第2伝熱部品14は、第1伝熱部品12を径方向外側に押し広げるように弾性変形させる。第2伝熱面22が第1伝熱面20に対し挿入方向26に摺動するとともに、第1伝熱面20が第2伝熱面22の形状に追従して、
図2に示されるように、第1伝熱面20と第2伝熱面22が弾性的に面接触する。
【0035】
このようにして、第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入され第1伝熱面20と第2伝熱面22が互いに摺動しながら接触するとき、押圧機構30によって生じる弾性力は、第1伝熱面20と第2伝熱面22を押し付け合う。それにより、第1伝熱部品12は、第2伝熱部品14を比較的強力に締め付けることができる。したがって、押圧機構30により、第1伝熱面20と第2伝熱面22の間の接触面圧を増加し、熱抵抗を低減することができる。
【0036】
なお、押圧機構30は、第2伝熱部品14に設けられてもよい。たとえば、第2伝熱部品14は、多数のスリットをもつ円筒状の形状を有してもよく、それにより、径方向に撓み可能な多数の短冊状の伝熱要素が形成されてもよい。押圧機構30は、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14の両方に設けられてもよい。
【0037】
図4は、実施の形態に係る熱スイッチ10に設けられる押圧機構30の他の例を概略的に示す図である。押圧機構30は、スリット32を有する第1伝熱部品12の外周に装着される拘束リングとして構成されてもよい。この拘束リングは、第1伝熱部品12の外周に接触しながら保持されるC字状のリング部材33と、リング部材33の両端を締結するボルトなどの締結部材34とを有する。第1伝熱部品12が初期形状にあるとき、リング部材33の両端と締結部材34の間には周方向に遊び35がある。
図3に示される押圧機構30とは異なり、第1伝熱部品12は、板ばね層を有しなくてもよい。
【0038】
第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されて第1伝熱面20が弾性的に径方向外側に押し広げられるとき、遊び35が縮小されてリング部材33の両端が締結部材34に押し付けられる。このようにして、押圧機構30は、第1伝熱部品12を外周から締め付けることができる。したがって、押圧機構30により、第1伝熱面20と第2伝熱面22の間の接触面圧を増加し、熱抵抗を低減することができる。
【0039】
図5は、実施の形態に係る熱スイッチ10の変形例を概略的に示す図である。第1伝熱部品12は、それぞれが第1伝熱面20を有する複数の挿入口24を備える。第2伝熱部品14は、それぞれが第2伝熱面22を有するとともに複数の挿入口24のうち対応する挿入口24に挿入可能である複数の突起36を備える。言い換えれば、一つの熱スイッチ10が、複数の第1伝熱面20と第2伝熱面22の組を有する。
【0040】
このようにすれば、多数の伝熱面を設置することにより、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14の接触面積を容易に増加することができる。それにより、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14の間に生じうる熱抵抗を低減することができる。
【0041】
挿入口24および突起36には、様々な配列の仕方がありうる。
図5に示されるように、左右に直線状に並べる配列であってもよいし、あるいは、行列状、円周状など様々な二次元的配列も可能である。また、設置される挿入口24および突起36がすべて同じ形状であることは必須ではなく、異なる形状を有してもよい。
【0042】
また、第1伝熱面20と第2伝熱面22がともに、第1伝熱部品12への第2伝熱部品14の挿入方向26に平行であることは必須ではない。
図6(a)および
図6(b)は、実施の形態に係る熱スイッチ10の変形例を概略的に示す図である。
図6(a)には、オフ状態の熱スイッチ10が示され、
図6(b)には、オン状態の熱スイッチ10が示されている。図示されるように、第1伝熱面20と第2伝熱面22は、挿入方向26に対していくらか傾斜していてもよい。一例として、第1伝熱部品12は、円錐面状の第1伝熱面20を有し、第2伝熱部品14は、これに対応する円錐台状の第2伝熱面22を有してもよい。このようにしても、熱スイッチ10は、第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されるとき第1伝熱面20と第2伝熱面22が互いに摺動しながら接触するように構成されることができる。
【0043】
図7は、実施の形態に係る極低温装置100を概略的に示す図である。極低温装置100は、超電導コイル102またはその他の被冷却物を冷却するように構成される。極低温装置100は、超電導コイル102を室温から極低温に冷却するとともに、超電導コイル102の使用中、超電導コイル102を極低温に維持する。極低温装置100は、様々な高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を超電導コイル102によって発生させることができる。極低温装置100は、たとえば、磁場印加チョクラルスキー法によるシリコン単結晶引き上げ装置用の高磁場源として利用されてもよい。あるいは、極低温装置100は、超電導サイクロトロンに搭載されてもよい。
【0044】
極低温装置100は、熱スイッチ10を備える。
図1から
図3を参照して述べたように、熱スイッチ10は、第1伝熱面20を有する第1伝熱部品12と、第1伝熱部品12に挿入可能な形状をもち、第2伝熱面22を有する第2伝熱部品14と、を備える。第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されるとき第1伝熱面20と第2伝熱面22が互いに摺動しながら接触する。第1伝熱部品12が被冷却側の第1伝熱部材16に取り付けられ、第2伝熱部品14が冷却側の第2伝熱部材18に取り付けられている。また、熱スイッチ10は、操作部材40を備える。
【0045】
また、極低温装置100は、極低温冷凍機110と、真空容器120と、輻射シールド130とを備える。この実施形態では、極低温装置100は、超電導コイル102を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸して冷却する浸漬冷却式ではなく、そうした液体冷媒を用いずに超電導コイル102を極低温冷凍機110で直接冷却する伝導冷却式として構成される。
【0046】
極低温冷凍機110は、物体を伝導冷却により冷却する冷却ステージ112、より具体的には、一段冷却ステージ112aと二段冷却ステージ112bを備える。極低温冷凍機110は、真空容器120に設置され、一段冷却ステージ112aと二段冷却ステージ112bは、真空容器120の中に配置される。
【0047】
極低温冷凍機110は、作動ガス(たとえばヘリウムガス)の圧縮機(図示せず)と、コールドヘッドとも呼ばれる膨張機とを備え、圧縮機と膨張機により極低温冷凍機110の冷凍サイクルが構成され、それにより一段冷却ステージ112aおよび二段冷却ステージ112bがそれぞれ所望の極低温に冷却される。一段冷却ステージ112aは、例えば30K~80Kに冷却され、二段冷却ステージ112bは、例えば3K~20Kに冷却される。一段冷却ステージ112aおよび二段冷却ステージ112bは、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0048】
極低温冷凍機110は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。極低温冷凍機110は、単段式のGM冷凍機またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0049】
第1伝熱部材16は、柔軟伝熱部材114を介して超電導コイル102に熱的に結合されている。柔軟伝熱部材114は、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成されてもよく、銅などの高熱伝導材料で形成されてもよい。よって、第1伝熱部品12は、第1伝熱部材16および柔軟伝熱部材114を介して超電導コイル102に熱的に結合されている。また、第1伝熱部材16が操作部材40に固定されているので、第1伝熱部材16上の第1伝熱部品12は、操作部材40の移動に伴って、第2伝熱部品14に対し移動可能である。
【0050】
第2伝熱部材18は、二段冷却ステージ112bに固定されている。よって、第2伝熱部品14は、第2伝熱部材18を介して二段冷却ステージ112bに熱的に結合されている。第2伝熱部材18上の第2伝熱部品14は静止している。
【0051】
真空容器120は、その内部に真空領域を定めるように構成され、例えばクライオスタットであってもよい。超電導コイル102、熱スイッチ10、極低温冷凍機110の冷却ステージ112、輻射シールド130は、真空領域に配置され、外部環境から真空断熱される。
【0052】
輻射シールド130は、一段冷却ステージ112aと熱的に結合され一段冷却ステージ112aの冷却温度に冷却される。輻射シールド130は、それよりも低温に冷却される超電導コイル102、極低温冷凍機110の二段冷却ステージ112b、およびその他の低温部を囲むように配置され、外部からの輻射熱からこれら低温部を熱的に保護することができる。輻射シールド130は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。輻射シールド130は、一段冷却ステージ112aに直接取り付けられ、一段冷却ステージ112aと熱的に結合される。あるいは、輻射シールド130は、可撓性または剛性をもつ伝熱部材を介して一段冷却ステージ112aに取り付けられてもよい。
【0053】
熱スイッチ10に設けられた操作部材40は、第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されるように真空容器120の外から操作可能である。この実施形態では、上述のように、第1伝熱部品12が操作部材に設けられ、第2伝熱部品14が真空容器120に対して固定されている。
【0054】
操作部材40は、たとえば繊維強化プラスチック(FRP)などの断熱材料で形成される。あるいは、操作部材40は、たとえばステンレス鋼など、極低温装置100において伝熱経路を形成する高熱伝導材料よりも熱伝導率が小さい材料で形成されてもよい。
【0055】
操作部材40は、第1伝熱部品12および第2伝熱部品14の軸線に沿って直線的に延在するロッドである。操作部材40は、中実のロッドであってもよい。あるいは、操作部材40は、図示されるように、中空構造を有してもよい。これにより、操作部材40が中実のロッドである場合に比べて、操作部材40の断面積が小さくなり、真空容器120の外部環境から操作部材40を通じた真空容器120内の低温部への侵入熱を低減することができる。操作部材40の中空部には、1つ又は複数のバッフル42または仕切板が操作部材40のたとえば軸方向中間部に設置されてもよい。バッフル42は、操作部材40の中空部を通じて侵入しうる輻射熱を遮蔽するのに役立つ。
【0056】
操作部材40は、真空容器120内において輻射シールド130を貫通している。輻射シールド130は、操作部材40を受け入れる開口部132を有する。開口部132は、例えば、輻射シールド130に形成される貫通孔である。
【0057】
真空容器120の壁から開口部132を通じて輻射シールド130内に侵入しうる輻射熱を遮蔽するために、操作部材40と輻射シールド130との隙間を覆う第1カバー44および第2カバー134が設けられてもよい。第1カバー44と第2カバー134は両方設けることは必須ではなく、いずれか一方のみが設けられてもよい。
【0058】
第1カバー44は、操作部材40と輻射シールド130との隙間を覆う、いわば庇の役割を果たす。第1カバー44は、輻射シールド130の開口部132に対して真空容器120の壁側で開口部132に近接する位置において操作部材40に設けられ、操作部材40から径方向外向きに鍔状に形成されている。第1カバー44と輻射シールド130の間隔は、熱スイッチ10のオンオフ切替のための操作部材40の動きを妨げないように定められる。
【0059】
第2カバー134は、操作部材40と輻射シールド130との隙間を塞ぐように輻射シールド130の開口部132に設けられ、輻射シールド130から操作部材40に向けて径方向内向きに延出している。操作部材40は断熱材料で形成されているから、第2カバー134が操作部材40に接触しても熱的な影響は小さい。
【0060】
操作部材40の一端には熱スイッチ10が設けられる一方、操作部材40の他端には支持構造50が設けられる。操作部材40は、支持構造50によって真空容器120の壁に支持されている。支持構造50は、ベローズ52と支持フランジ54を有する。ベローズ52は真空容器120の壁を支持フランジ54に接続する。ベローズ52内において、操作部材40は支持フランジ54に固定されている。操作部材40は、真空容器120の壁に形成された挿通孔を通じて支持フランジ54から真空容器120内に延出している。支持フランジ54は、操作部材40を真空容器120の外から操作するために設けられた操作部材40の一部分であるとみなされてもよい。
【0061】
支持構造50には、支持フランジ54を移動させるように構成される加圧装置56が設けられてもよい。加圧装置56を利用して真空容器120の外から操作部材40を操作することができる。加圧装置56は、例えば押しねじ式などの可動機構を有してもよく、この可動機構を手動により作動させて支持フランジ54を移動させてもよい。可動機構を作動させるために、加圧装置56は、油圧、空圧、電動モーター、電磁石など適宜の駆動源を有してもよい。
【0062】
支持フランジ54を真空容器120に接近させるときベローズ52が収縮し、操作部材40が真空容器120内に押し込まれる。第1伝熱部品12が第2伝熱部品14に接近し、第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入される。このとき、第1伝熱面20と第2伝熱面22が互いに摺動しながら接触し、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14は機械的かつ熱的に結合され、熱スイッチ10はオフからオンに切り替わる。
【0063】
このようにして、極低温冷凍機110の二段冷却ステージ112bは、第2伝熱部材18、熱スイッチ10、第1伝熱部材16、および柔軟伝熱部材114を介して、超電導コイル102へと熱的に結合される。超電導コイル102は、極低温冷凍機110の二段冷却ステージ112bによって、二段冷却ステージ112bの冷却温度に冷却される。図示されない電源から超電導コイル102に通電することにより、超電導コイル102は、強力な磁場を発生することができる。
【0064】
逆に、支持フランジ54を真空容器120から離すときベローズ52が伸展され、操作部材40が引き上げられる。第1伝熱部品12と第2伝熱部品14は機械的かつ熱的に分離され、熱スイッチ10はオンからオフに切り替わる。これにより、超電導コイル102は、極低温冷凍機110の二段冷却ステージ112bから熱的に切り離される。
【0065】
極低温装置100を長期的に運転するなかで、極低温冷凍機110のメンテナンスが定期的に必要とされうる。この場合、熱スイッチ10はオンからオフに切り替えられる。極低温冷凍機110は例えば室温などメンテナンス作業に都合のよい温度に昇温され、作業完了後に再冷却される。熱スイッチ10により超電導コイル102と極低温冷凍機110の熱接触は解除されているので、超電導コイル102は低温に保ちながら極低温冷凍機110のメンテナンスを行うことができる。
【0066】
図8は、比較例に係る熱スイッチ80を示す概略図である。この熱スイッチ80は、伝熱体81と伝熱板82で構成される。伝熱体81は伝熱板82に対して移動可能であり、伝熱体81と伝熱板82は互いに対向する表面を有する。伝熱体81が伝熱板82に接近し、それら二表面が瞬間的に接触し、熱スイッチ80はオンとなる。伝熱体81と伝熱板82が接触する界面は、伝熱体81の相対移動方向83に直交する。伝熱体81と伝熱板82の間に働く接触面圧は、伝熱体81を伝熱板82に押し付けることによって発生し、この力の方向は相対移動方向83に一致する。
【0067】
比較例に係る熱スイッチ80の構成では、伝熱体81と伝熱板82の間の接触面圧ひいては熱抵抗は、押し付け力に密接に相関する。所望の熱抵抗を精度よく実現するためには、熱スイッチ80をオンにするたびに押し付け力を正確に調整する必要がある。しかし、これは必ずしも容易でない。加えて、熱抵抗を十分に小さくするには、接触面圧すなわち伝熱体81と伝熱板82を押し付け合う力をかなり大きくすることが求められ、そのため、機構的に大掛かりになりがちである。言い換えれば、比較例に係る熱スイッチ80は、熱スイッチをオンにするとき熱抵抗の再現性に欠け、なおかつ、実現される熱抵抗の低減には限界がある。
【0068】
極低温冷凍機の冷却ステージそのものが伝熱体81であるケースもあり、その場合、極低温冷凍機は、熱抵抗を十分に小さくするための大きな荷重に耐えるように頑丈に設計されなければならない。さらに、二段式の極低温冷凍機では、一段冷却ステージと二段冷却ステージがそれぞれ対応する伝熱板に同時に接触することになる。一段部と二段部の接触面圧は、極低温冷凍機から伝熱板への押し付け力が構造力学的に分配され、一意に定まる。押し付け力がアンバランスに分配され、一段部と二段部のうちいずれかの熱抵抗が高くなることもありうる。しかし、これを解消すべく、一段部と二段部の接触面圧すなわち熱抵抗を独立に調整することは困難である。
【0069】
したがって、比較例に係る熱スイッチ80では、接触面圧が不足し、熱抵抗が高くなり、伝熱体81と伝熱板82の間に温度差が生じやすい。そうすると、伝熱板82に接続された超電導コイルなどの被冷却物の冷却温度は、極低温冷凍機が実現しうる到達温度ほどには十分に下がらないかもしれない。超電導コイルの冷却不良を避けるために、より大きな冷凍能力をもつ極低温冷凍機の採用や、追加の極低温冷凍機の増設を考慮しなければならないかもしれない。
【0070】
これに対して、実施の形態に係る熱スイッチ10によれば、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14の相対移動に伴って、第1伝熱面20と第2伝熱面22が互いに摺動しながら接触する。このとき、第1伝熱面20と第2伝熱面22には互いに押し付け合う力、すなわち接触面圧が働き、それにより、熱接触を得ることができる。
【0071】
ここで注目すべきは、接触面圧が相対移動の方向とは異なる方向、たとえば、おおむね直交する方向に生じることである。そのため、接触面圧および熱抵抗は、相対移動を生じさせる力の大きさから独立し、またはほとんど依存しない。第1伝熱部品12と第2伝熱部品14を挿脱することができる限り、移動方向の力は小さくて良い。そのため、操作部材40の剛性は小さくすることができ、また、操作部材40の支持構造50および加圧装置56は、簡素な構成を採用しうる。
【0072】
第1伝熱面20と第2伝熱面22の間に働く接触面圧すなわち熱抵抗は、主として、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14の形状、寸法、材料など、これら伝熱部品の設計により直ちに決定されうる。比較例のように、押し付け力など動的な因子は、熱抵抗の決定に全くまたは殆ど関与しない。したがって、熱スイッチ10を使用すれば、熱抵抗の管理がしやすく、再現性も高まる。また、例えば
図5を参照して述べたように、多数の熱スイッチ10を並べて設置し伝熱面の面積を増やし、熱抵抗を下げることも比較的容易である。良好な熱接触を比較的容易に得られる熱スイッチ10を提供することができる。
【0073】
とくに、第1伝熱面20と第2伝熱面22がともに、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14の相対移動の方向に平行である場合には、相対移動の方向に直交する方向に伝熱面どうしが押し付け合う。熱スイッチ10のオンオフ動作と熱抵抗の管理とを切り分けることができる。また、第2伝熱部品14が第1伝熱部品12に挿入されるとき第1伝熱面20と第2伝熱面22が摺動しながら接触することが容易である。
【0074】
さらに、比較例の熱スイッチ80ではしばしば、熱接触の改善のために、インジウムシートなど軟質の介在層が伝熱体81と伝熱板82の間に挟み込んで使用される。しかし、こうした介在層はふつう、室温下で軟らかくても、極低温下では硬さが増す。熱スイッチ80の使用時には、伝熱体81と伝熱板82の少なくとも一方が極低温に冷却されている。これに起因して、介在層は、熱スイッチ80のオンオフを繰り返すにつれて劣化しやすく、熱スイッチ80の熱抵抗の再現性を低下させる一因となる。また、インジウムは極低温装置に使用される材料の中で高価な部類に入る。
【0075】
実施の形態に係る熱スイッチ10においても、こうした介在層が第1伝熱面20と第2伝熱面22の間に使用されてもよい。しかしながら、実施の形態に係る熱スイッチ10によれば、こうした介在層を使用しなくても良好な熱接触を実現することができる。そのため、介在層に起因する上述の不都合も起こらない。
【0076】
熱スイッチ10は、操作部材40の冷却による熱収縮にも対処することができる。熱スイッチ10がオン状態にあるとき、極低温冷凍機110から超電導コイル102への伝熱経路が冷却される。これに伴い、操作部材40も、とくに低温側の端部で、冷却により熱収縮しうる。その結果、熱スイッチ10の第1伝熱部品12と第2伝熱部品14が互いに離れるようにいくらか移動されうる。しかし、本実施形態では、この方向に沿って第1伝熱面20と第2伝熱面22が移動方向に沿って延在し互いに接触しているので、熱スイッチ10がオン状態は維持されうる。
【0077】
図9は、実施の形態に係る熱スイッチ10の変形例を概略的に示す図である。上述の実施形態では操作部材40が軸方向に往復することによって熱スイッチ10のオンオフ切替が行われるが、以下に述べるように、熱スイッチ10は、操作部材40の回転によりオンオフを切り替えるように構成されてもよい。
【0078】
操作部材40は、
図9に矢印60で示すように、軸まわりに回動可能である。操作部材40の先端には、第1伝熱部品12(または第2伝熱部品14でもよい)を有する外筒61が装着されている。外筒61は、操作部材40に対して操作部材40の軸方向に移動可能であるが、操作部材40とは一緒に回転しないように、たとえば第1伝熱部材(
図9には図示せず)によって支持されている。
【0079】
外筒61はその外周面の一部分に周方向に延びるピン受け溝62を有する。ピン受け溝62には、操作部材40の先端部から径方向に突出したピン63が挿し通されている。
ピン受け溝62の一方の端部62aは、ピン受け溝62の残部62bに対して外筒61の先端に向かって傾斜している。
【0080】
操作部材40がX方向に回動するとき、ピン63がピン受け溝62に沿って端部62aから残部62bへと移動し(矢印64のX方向)、それにより、外筒61が第1伝熱部品12とともに第2伝熱部品14に向かって進む(矢印65のX方向)。こうして、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14が結合され、熱スイッチ10はオフからオンに切り替わる。逆に、操作部材40がY方向に回動するとき、ピン63がピン受け溝62に沿って端部62aに戻され(矢印64のY方向)、外筒61が第1伝熱部品12とともに操作部材40側に引き戻される(矢印65のX方向)。こうして、第1伝熱部品12と第2伝熱部品14が分離され、熱スイッチ10はオンからオフに切り替わる。
【0081】
上述の実施形態では、第1伝熱部品12が可動とされ、被冷却側に取り付けられ、第2伝熱部品14が固定とされ、冷却側に取り付けられているが、熱スイッチ10の設置の仕方はほかにもいろいろありうる。
図10(a)から
図10(c)を参照して、熱スイッチ10の設置についての変形例を述べる。
【0082】
図10(a)に示されるように、第1伝熱部品12が可動とされ、冷却側に取り付けられ、第2伝熱部品14が固定とされ、被冷却側に取り付けられてもよい。第1伝熱部品12は、操作部材40の先端に固定された第1伝熱部材16に設けられ、柔軟伝熱部材114を介して極低温冷凍機110の二段冷却ステージ112bに接続されている。第2伝熱部品14は、第2伝熱部材18を介して超電導コイル102などの被冷却物に固定される。
【0083】
図10(b)に示されるように、操作部材40が引き上げられるとき、熱スイッチ10がオフからオンに切り替えられ、操作部材40が押し込まれるとき、熱スイッチ10がオンからオフに切り替えられてもよい。第1伝熱部品12は、第1伝熱部材16を介して超電導コイル102などの被冷却物に固定される。操作部材40の先端が第2伝熱部材18に固定され、第2伝熱部品14は、第1伝熱部品12と対向するように第2伝熱部材18上に設置されている。操作部材40は、熱スイッチ10と同軸ではなく、平行に配置されている。第2伝熱部材18は、柔軟伝熱部材114を介して極低温冷凍機110の二段冷却ステージ112bに接続されている。
【0084】
図10(c)に示されるように、極低温冷凍機110が操作部材として使用されてもよい。極低温冷凍機110が真空容器120にベローズ52で連結されるとともに支持され、極低温冷凍機110の二段冷却ステージ112bに第1伝熱部品12が固定されてもよい。第2伝熱部品14は、第1伝熱部品12と対向するように第2伝熱部材18上に設置されている。第2伝熱部品14は、第2伝熱部材18を介して超電導コイル102などの被冷却物に固定される。極低温冷凍機110を軸方向に動かすことによって、熱スイッチ10のオンオフを切り替えることができる。
【0085】
図11は、実施の形態に係る極低温装置100の変形例を概略的に示す図である。極低温装置100は、1つ(または複数)の超電導コイル102を冷却するために、複数台の極低温冷凍機110と複数の熱スイッチ10を備えてもよい。複数台の極低温冷凍機110は、複数のグループに分けられてもよく、グループごとに1つの熱スイッチ10が設けられてもよい。
図11に示される例では、4台の極低温冷凍機110が2台ずつの2グループに分けられている。極低温冷凍機110のグループごとに熱スイッチ10のオンオフを切り替えることができる。そのため、一方のグループの極低温冷凍機110によって超電導コイル102を冷却しつつ、他方のグループの極低温冷凍機110は超電導コイル102から切り離してメンテナンスを施すことができる。このようにして、超電導コイル102を停止させることなく、極低温冷凍機110をメンテナンスすることができる。
【0086】
図12は、実施の形態に係る極低温装置100の変形例を概略的に示す図である。極低温装置100は、第1熱スイッチ10Aと第2熱スイッチ10Bを備えてもよい。第1熱スイッチ10Aは、上述の実施形態と同様に、極低温冷凍機110の二段冷却ステージ112bと超電導コイル102などの被冷却物との熱的なオンオフ切替のために設けられている。
【0087】
第2熱スイッチ10Bは、極低温冷凍機110の一段冷却ステージ112aと二段冷却ステージ112bとの間の結合と分離を切り替えるように設けられてもよい。第2熱スイッチ10Bの第1伝熱部品12は、操作部材40の先端に固定された第1伝熱部材16に設けられ、柔軟伝熱部材114を介して極低温冷凍機110の一段冷却ステージ112aに接続されてもよい。第2熱スイッチ10Bの第2伝熱部品14は、第1伝熱部品12と対向するように第2伝熱部材18を介して極低温冷凍機110の二段冷却ステージ112bに固定されてもよい。
【0088】
第2熱スイッチ10Bは、極低温装置100における初期冷却、すなわち室温から極低温への急速冷却に使用することができる。一般に、極低温冷凍機110は、一段の冷却能力が二段の冷却能力よりも大きい。そこで、初期冷却において二段部を室温から一段冷却温度まで冷却するとき第2熱スイッチ10Bがオンに切り替えられる。こうして、一段の冷却能力を利用して二段部を一段冷却温度まで急速に冷却することができる。その後、第2熱スイッチ10Bはオフに切り替えられ、極低温装置100は、通常の運用と同様に、二段部を二段冷却ステージ112bによって冷却する。
【0089】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0090】
上述の実施の形態では、熱スイッチ10が極低温冷凍機110の二段冷却ステージ112bとこれにより冷却されるべき物体との熱的なオンオフ切替のために設けられているが、本発明はこれに限られない。熱スイッチ10は、極低温冷凍機110の一段冷却ステージ112aと、これにより冷却されるべき物体(たとえば輻射シールド130)との熱的なオンオフ切替のために設けられてもよい。たとえば、第1伝熱部品12が操作部材40の先端に設けられ、柔軟伝熱部材114を介して輻射シールド130に接続されてもよい。第2伝熱部品14は、第1伝熱部品12と対向するように一段冷却ステージ112aに固定されてもよい。あるいは、熱スイッチ10は、二段式の極低温冷凍機だけでなく、単段式またはその他の多段式の極低温冷凍機にも適用可能である。
【0091】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0092】
10 熱スイッチ、 12 第1伝熱部品、 14 第2伝熱部品、 20 第1伝熱面、 22 第2伝熱面、 24 挿入口、 26 挿入方向、 30 押圧機構、 40 操作部材、 100 極低温装置、 110 極低温冷凍機、 112 冷却ステージ、 120 真空容器、 130 輻射シールド。