(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】セメント混合材、混合セメントおよび炭酸ガス吸着材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/52 20060101AFI20240308BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20240308BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240308BHJP
B01D 53/80 20060101ALI20240308BHJP
B01D 53/18 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C04B7/52
B09B3/40
B01D53/62
B01D53/80
B01D53/18 110
(21)【出願番号】P 2020038199
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2022-09-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 真人
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-117636(JP,A)
【文献】特開2012-000547(JP,A)
【文献】特開2012-131697(JP,A)
【文献】特開2018-168043(JP,A)
【文献】特開2019-172523(JP,A)
【文献】特開2009-090198(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0130512(KR,A)
【文献】特開平07-068236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02, C04B40/00-40/06, C04B103/00-111/94
B09B 3/00,3/40
B01D 53/62
B01D 53/80
B01D 53/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント混合材の製造方法であって、
生コンクリートスラッジまたは廃コンクリート微粉を加熱温度
200~300℃で加熱時間4~24時間で加熱する加熱処理工程、
前記加熱処理工程後に、前記加熱処理された生コンクリートスラッジまたは廃コンクリート微粉を水と混合してスラリーとするスラリー化工程、
前記スラリーに対して炭酸ガスを通過させて炭酸化する炭酸化工程
を含むセメント混合材の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理の前に生コンクリートスラッジの最大粒径を5mm以下とする請求項1のセメント混合材の製造方法。
【請求項3】
前記スラリー化工程において、水に替えてアミン水溶液を使用する請求項1または2のセメント混合材の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のセメント混合材の製造方法における炭酸化工程の後に、セメント混合材を脱水処理し、脱水処理したセメント混合材をセメント製造装置のクーラーに投入してセメントクリンカーとセメント混合材を含むセメント原料とし、ミルにおいてセメント原料、石膏、および必要に応じて粉砕助剤を投入して粉砕・混合する混合セメントの製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のセメント混合材の製造方法における炭酸化工程の後に、セメント混合材をミルに投入し、ミルにおいてセメントクリンカー、石膏および必要に応じて粉砕助剤とともに粉砕・混合する混合セメントの製造方法。
【請求項6】
炭酸ガス吸着材の製造方法であって、
生コンクリートスラッジまたは廃コンクリート微粉を加熱温度
200~300℃で加熱時間4~24時間で加熱する加熱処理工程
前記加熱処理工程後に、前記加熱処理された生コンクリートスラッジまたは廃コンクリート微粉を水と混合してスラリーとするスラリー化工程
を有する炭酸ガス吸着材の製造方法。
【請求項7】
請求項6の炭酸ガス吸着材に対して炭酸ガスを通気して炭酸ガスを吸着する炭酸ガス吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生コンクリートスラッジ等を炭酸ガス吸着材として利用した後のセメント混合材、およびこれを混合した混合セメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、生コンクリート工場やコンクリート製造工場で発生するスラッジからなる微粉、あるいは、コンクリート構造物の解体に伴って発生するコンクリート廃棄物を粉砕して得られる微粉末を回収し、炭酸ガスの吸着材として活用した後にセメント混合材として再利用するための技術に関する。
【0003】
具体的には、コンクリートは、練り混ぜて建設現場において使用された後に、使い切らずに余ることが多い。この場合、余ったコンクリートは固めた後に処分するか、あるいは、余ったコンクリートに水を加えたうえで骨材を再利用目的で分離回収し、残りは生コンクリートスラッジとして回収される。
また、コンクリート構造物の解体に伴ってコンクリート廃棄物が大量に発生するが、この廃コンクリートを再利用するために、セメント廃棄物を粉砕して各種骨材を回収することが行われている。そして、各種骨材を回収した後に、廃コンクリート微粉が回収される。
【0004】
このようにして回収された生コンクリートスラッジや廃コンクリート微粉は、セメント水和物や未水和物を含有しており、廃棄するにしても環境面の配慮が必要である。このため、セメント原料の一部として再利用しようとする試みは従来から行われている。
特許文献1には、コンクリートスラッジや廃コンクリート微粉を、炭酸ガス中で処理して炭酸化し、微粉砕してセメント増量剤として再利用することが記載されている。しかし、この方法ではスラッジ等の炭酸化を炭酸ガス雰囲気中という乾式で行っているので、コンクリート微粉末の炭酸化を効率的に進めることができない。
【0005】
特許文献2には、コンクリートスラッジを400~500℃、600~800℃における質量減少率が所定範囲になるように加熱処理することが記載されている。この加熱処理により、Ca(OH)2やCaCO3を分解させ、セメント固形材に添加した際の強度発現性の向上を目指すものである。しかし、この方法では、コンクリートスラッジの加熱処理に大量のエネルギーを必要とするばかりでなく、製造されたセメント系固化材の凝固性や流動性等の特性が安定せず、セメント原料の一部代替物として使用しても、十分な強度のセメント固化材を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-238790号公報
【文献】特開2009-215151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、生コンクリートスラッジや廃コンクリート微粉の有効利用が進められているが、未だに廃棄処分されることが多く、さらなる有効利用が求められている。
本発明は、生コンクリートスラッジや廃コンクリート微粉を廃棄処分することなく、炭酸ガス吸着材として活用した後に、セメント原料の一部として再利用するセメント混合材を製造する方法、及び、このセメント混合材を混合したセメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題の解決手段として、以下の構成を含む発明を提供するものである。
[1]セメント混合材の製造方法であって、
生コンクリートスラッジまたは廃コンクリート微粉を加熱処理した後に、水と混合して スラリーとするスラリー化工程、
前記スラリーに対して炭酸ガスを通過させて炭酸化する炭酸化工程
を含むセメント混合材の製造方法。
[2]前記加熱処理を100℃~300℃の温度範囲で行う[1]のセメント混合材の製造方法。
[3]前記加熱処理の前に生コンクリートスラッジの最大粒径を5mm以下とする[1]または[2]のセメント混合材の製造方法。
[4]前記スラリー化工程において、水に替えてアミン水溶液を使用する[1]~[3]のいずれかのセメント混合材の製造方法。
[5][1]~[4]のセメント混合材の製造方法における炭酸化工程の後に、セメント混合材を脱水処理し、脱水処理したセメント混合材をセメント製造装置のクーラーに投入してセメントクリンカーとセメント混合材を含むセメント原料とし、ミルにおいてセメント原料、石膏、および必要に応じて粉砕助剤を投入して粉砕・混合する混合セメントの製造方法。
[6][1]~[4]のセメント混合混和材の製造方法における炭酸化工程の後に、セメント混合材をミルに投入し、ミルにおいてセメントクリンカー、石膏および必要に応じて粉砕助剤とともに粉砕・混合する混合セメントの製造方法。
[7]炭酸ガス吸着材の製造方法であって、
生コンクリートスラッジまたは廃コンクリート微粉を加熱処理した後に、水と混合してスラリーとするスラリー化工程
を有する炭酸ガス吸着材の製造方法。
[8]前記加熱処理を100℃~300℃の温度範囲で行う[7]の炭酸ガス吸着材の製造方法。
[9][7]または[8]の方法で製造された炭酸ガス吸着材
[10][9]の炭酸ガス吸着材に対して炭酸ガスを通気して炭酸ガスを吸着する炭酸ガス吸着方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法で製造したセメント混合材は、その製造過程で炭酸ガス吸着材として利用することができ、その後に、セメント原料の一部として用いて混合セメントを製造することができる。
したがって、本発明で製造されたセメント混合材は、その製造過程で得られる炭酸ガス吸着材が二酸化炭素を吸収固定することができ、セメント工場等から排出される二酸化炭素を削減することができる。また、このセメント混和材を混合した混合コンクリートの強度は、これを混合しないコンクリートと比較して同等の強度を有する。また、本発明の炭酸ガス吸着材は、炭酸化処理前の加熱処理によりセメント水和物の活性が向上しているので、炭酸化処理を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】セメント混合材およびこれを混合した混合セメントを製造するフロー図である。
【
図2】水溶液のpHと炭酸の乖離状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(使用原料)
以下では、本発明の炭酸ガス吸着材、セメント混合材および混合セメントの製造方法を、その工程をおって詳細に説明する。本発明の製造方法の概要は、
図1にフロー図で示したとおりである。
本発明におけるセメント混合材の原料としては、生コンクリートスラッジまたは廃コンクリート微粉を使用する。
【0012】
生コンクリートスラッジは、生コンクリート工場やコンクリート製品工場において、コンクリート製造工程で発生するスラッジを、適当な目開きのふるいを用いてふるい分けすることにより、セメント水和物やセメント未水和物を含む微粉として取り出して使用する。
生コンクリートスラッジとしては、例えば次の微粉体を使用することができる。
(1)建設現場において使用せずに残存したコンクリートに水を加えてスラリーとした後に、該スラリーに含まれている骨材(粗骨材と細骨材)等の粗粒分を分離してなるセメント等の微粉成分を含むもの、(2)アジテータトラック等を洗浄した後に発生するコンクリートを含む残渣から骨材等の粗粒分を分離してなるセメント等の微粉成分を含むもの、である。
【0013】
本発明で用いられる生コンクリートスラッジの脱水処理物は、水分が多く含まれている生コンクリートスラッジ(例えば、含水率が80質量%を超えるもの)を沈降処理、天日乾燥、またはフィルタープレス等で脱水処理してなるもの(脱水ケーキ)である。
脱水処理物の含水率は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下である。含水率が50質量%以下であれば、脱水処理物をセメント工場まで輸送するまでの間に、脱水処理物に含まれる未水和物が水和反応することを抑制することができる。
生コンクリートスラッジの脱水処理物は、時間が経過すると硬化し、内部への炭酸ガスの浸透性が低下することから、脱水処理によって得られた後、好ましくは7日以内、より好ましくは4日以内に使用することが好ましい。
【0014】
また、本発明のセメント混合材の原料としての廃コンクリート微粉は、コンクリート構造物を解体する際に発生するコンクリート廃棄物を破砕して破砕物から骨材を回収し、その後、セメント水和物やセメント未水和物を含む微粉として取り出して使用する。
以下では、生コンクリートスラッジを用いたセメント混合材および混合セメントの製造方法について説明するが、廃コンクリート微粉を使用して製造する場合にも全く同じ方法で製造することができることはいうまでもない。
【0015】
(炭酸ガス吸着能力)
生コンクリートスラッジの組成は、炭酸ガスの固定能力の観点から、次の条件を満たすものが好ましい。
すなわち、Ca(OH)2を2%以上、またはセメント未水和物を5%以上、CaCO3を20%以下含有するもので、酸化カルシウム(CaO)と二酸化ケイ素の質量比(CaO/SiO2)が1.5以上であるものが好ましい。
【0016】
その理由は、次の通りである。
Ca(OH)2(消石灰)は二酸化炭素と反応してCaCO3を形成するので、炭酸ガス吸着材としては、Ca(OH)2の含有量が多くCaCO3の含有量が少ないことが好ましい。
また、セメント未水和物が多いほど、炭酸ガス吸着量が多い。これは、未水和クリンカ鉱物からカルシウムが水に溶脱し炭酸化しやすいためである。このため、生コンクリートスラッジは、入手後に早めに処理することが好ましい。
また、酸化カルシウム(CaO)は、含有量が多いほど二酸化炭素と反応してCaCO3を形成するので、炭酸ガス固定能の観点からは、CaO/SiO2の比は大きい方がよく、1.5以上であることが好ましい。
なお、廃コンクリート微粉は、炭酸ガスを吸着している量が生コンクリートスラッジよりも多いため、炭酸ガス固定能力は生コンクリートスラッジよりも劣るため生コンクリートスラッジを用いることが好ましい。
【0017】
(粉砕工程)
生コンクリートスラッジが塊状である場合は粗砕し、必要に応じて粉砕する。粉砕機としては、特に限定されるものではなく、一般的なセメント工場で用いられているハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー、竪型ミル、ボールミル、ロッドミル、ディスクミル等を使用すればよい。粗砕は最大粒径が10mm以下になるまで行うのが好ましく、5mm以下になるまで行うのがより好ましい。
【0018】
(加熱工程)
粉砕した生コンクリートスラッジを100~300℃に加熱処理を行う。加熱は、電気炉や熱風炉等を用いてもよいが、セメント工場の排気ガスやクーラー排気の顕熱を用いたり、キルンの放射熱などを用いると、廃熱を有効利用できる。本発明の第1の特徴は、この温度範囲で生コンクリートスラッジの加熱処理を行うことにある。
本発明者らは、この温度範囲での加熱により、次の変化がセメント水和物中に発生しているのではないかと推測している。しかし、もちろん、本発明の技術内容は、この推定に拘束されるものではない。
【0019】
すなわち、セメントは水和反応により固化する過程でケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)等のセメント水和物を形成し、これが時間の経過とともに成長してセメントの硬化を促進し、セメント構造体の強度発現に寄与する。
本発明においては、100℃未満までの加熱で生コンクリートスラッジ中の水分が蒸発した後、その後の加熱により、前記ケイ酸カルシウム水和物等のセメント水和物中に化学的に結合した水分子の結合が緩くなる。加熱が更に進行すると、この化学的結合水がセメント水和物から脱離してしまう。そうすると、化学的結合水脱離後のセメント水和物表面は、多孔質化するなどして表面の炭酸ガスとの接触割合も増加するし、反応活性が高まる。その結果、本発明の加熱工程の後に行われる炭酸化工程において、炭酸ガスの吸着特性が向上するのではないかと考えられる。
そこで効率よく後述の炭酸化を行う観点から、加熱時間は、好ましくは30分から3日間、より好ましくは1時間から2日間、さらに好ましくは4時間から1日間である。
【0020】
(炭酸ガス吸着材)
本発明の炭酸ガス吸着材は、生コンクリートスラッジを加熱処理した後に水と混合してスラリー化することにより製造される。そして、その良好な炭酸ガス吸着特性は、上記した作用機序により形成されるのではないかと推測される。また、ケイ酸カルシウム水和物は一般的に非晶質であると考えられている。このため、本発明の炭酸ガス吸着材の物としての構造等を具体的に特定することは困難である。
したがって、本発明においては、炭酸ガス吸着剤をその製造方法で特定せざるを得ない。
【0021】
(粉砕工程)
加熱工程の後に、必須ではないが、得られた生コンクリートスラッジを粉砕する。これは、粉砕して表面積を増加させることで、この後の炭酸化工程における炭酸ガスの吸着特性をさらに向上するためである。好ましい粒度は、ブレーン比表面積で3000~10000cm2/gである。
【0022】
(炭酸化工程)
本発明における炭酸化処理は、加熱処理及び必要に応じて粉砕処理を経た生コンクリートスラッジに対し、水を混合してスラリーとし、このスラリーを炭酸ガスと接触させることで行う。すなわち、例えば、セメント工場の排ガスやその排ガスから回収した排ガス等の二酸化炭素を高濃度で含有するガスを、前記スラリー中に吹き込んで通すことで行う。工場の排ガスは有害物である硫黄分を含むが、酸化カルシウムを多く含む生コンクリートスラッジのスラリーと接触させることで、硫黄分が石膏として吸収され排ガスが浄化される。
【0023】
このように、液相において炭酸ガスの吸着を行うことが、本発明の第2の特徴である。排ガス中の二酸化炭素はスラリー中の水と接触することで溶解してイオン化し、カルシウムイオンと効率的に結合してCaCO3として沈殿する。このため、排ガスは、モノエタノールアミンを用いて回収した高濃度炭酸ガスであっても、効率的に炭酸ガスの吸着ができる。
また、コンクリートスラッジに含まれるCa(OH)2やセメント未水和物が炭酸化されてCaCO3となることで、炭酸化処理されたコンクリートスラッジを混合したセメントは、コンクリートスラッジに含まれるCa(OH)2やセメント未水和物量の変動による流動性や凝結の変動が小さくなり、セメントやコンクリートの品質管理が容易となる。
【0024】
炭酸化処理は、効率よく炭酸化を行う観点から、コンクリートスラッジのスラリーのスラッジ対水の質量比で好ましくは1:2~1:50、より好ましくは1:4~1:40、より好ましくは1:5~1:30とする。炭酸ガスの通気量は、効率よく炭酸化を行う観点から、コンクリートスラッジ1gあたりに好ましくは毎分5cc以上、より好ましくは毎分10cc以上、さらに好ましくは毎分20ccとする。
炭酸化処理は、コンクリートスラッジ中のCa(OH)2やセメント未水和物量を少なくし、より多くの二酸化炭素を吸着させる観点から、コンクリートスラッジのスラリーのpHが、好ましくは10になるまで、より好ましくは9になるまで、さらに好ましくは8になるまで行う。
【0025】
本発明においては、100~300℃に加熱処理を施した生コンクリートスラッジを用いるという第1の特徴、および、該生コンクリートスラッジのスラリーに対して炭酸ガス含有排ガスを通して炭酸化するという第2の特徴を組み合わせた点に特徴がある。この2つの特徴が組み合わされることにより、従来の技術に比較して効率よく炭酸化を行うことができる。
この点は、本発明の発明者らが研究開発の結果に見出した新たな知見であり、本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0026】
(アミン)
また、水に替えてアミン水溶液を使ってスラリー化することもできる。アミンは、二酸化炭素と反応して炭酸イオンの生成を促進する作用があることが知られており、アミンを使用することで、効率よく炭酸化を進めることができる。また、この後のミルにおける仕上げの粉砕工程で、アミンは粉砕助剤として機能する。
排ガスから高濃度炭酸ガスを回収するためにモノエタノールアミンを用いている場合、劣化したモノエタノールアミンは廃棄されるので、本発明においてこの廃モノエタノールアミンを用いた場合は、廃棄物の有効利用の観点から二重の意味で技術的な価値があるので特に好ましい。
アミンは、分子内にアミノ基とヒドロキシル基を有するものであり、粉砕助剤として使用されるものとして、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジグリコールアミン(DGA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)およびメチルジエタノールアミン(MDEA)が挙げられる。
【0027】
次に、以上の工程を経て製造された炭酸処理を経た生コンクリートスラリー(セメント混合材)を、一般のセメント製造工程に組み込んで混合セメントを製造する工程を説明する。
一般にセメントの製造においては、セメントクリンカー原料は、プレヒータを通すことで予備加熱され、ロータリーキルンの窯尻から投入されてロータリーキルン内を移動しながら焼成されてセメントクリンカーとなる。このセメントクリンカーは、ロータリーキルンの出口からクーラーに排出されて冷却される。冷却されたセメントクリンカーは、仕上げ工程において、石膏とともにミルに投入されて粉砕・混合される。粗紛は再び粉砕に戻され、微粉はセメントとして回収される。
【0028】
本発明においては、炭酸化処理を経た生コンクリートスラッジを用いて混合セメントを製造するにあたり、次の2つの方法を採用することができる。
セメントクリンカー、石膏とともにミルに投入し混合セメントを製造する方法(ミルに投入)と、セメント製造装置におけるクーラーに投入してセメントクリンカーと炭酸化生コンクリートスラッジとからなるセメント原料とし、その後にミルにおいて該セメント原料と石膏を粉砕、混合して混合セメントを製造する方法(クーラーに投入)である。
以下では、それぞれの製造方法について詳細に説明する。
【0029】
(ミルに投入)
炭酸化処理された生コンクリートスラッジのスラリー、セメントクリンカー、および石膏をミルに投入して粉砕、混合を行う。
ミルは仕上げ粉砕機とも呼ばれ、円筒状のドラムの中で鋼鉄のボールとセメントクリンカー、石膏がドラムの回転によって互いに衝突しながら粉砕される。
セメントクリンカーは、ロータリーキルンで焼成され、クーラーで冷却されたセメント原料である。セメントクリンカー原料としては特に限定されるものではなく、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料や、珪石、粘土等のSiO2原料や、Fe2O3原料等のセメントクリンカーの製造に一般的に用いられる原料を用いればよい。
また、石膏は、特に限定されるものではなく、例えば、天然二水石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏等が例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。炭酸化処理工程で硫黄分を含む工場の排ガスはを用いた場合は、処理物中に生成した石膏も有効活用される。
【0030】
炭酸化処理された生コンクリートスラッジは、セメント原料の一部と置換するものであり、セメント原料の質量に対して0.5~5%添加することが好ましい。また、石膏は、SO3換算で好ましくは1.5~5.0%添加することが、セメントの強度発現性および流動性を向上する上で好ましい。
【0031】
炭酸化処理された生コンクリートスラッジのスラリーは、水分過剰の場合には沈降分離などで簡易的に脱水するし、水分が不足する場合には適切な量をミルに散水する。また、例えば、前記した炭酸化工程でモノエタノールアミンを使用しなかった場合などで、粉砕助剤が不足する場合には、その不足分を添加する。
ミル中での粉砕・混合において発熱するので、石膏の変質等を防ぐためにミル内の温度制御をおこなうことが必要である。
ミルにおいて粉砕された微粉末はセメントとして回収される。
【0032】
(クーラーに投入)
炭酸化処理された生コンクリートスラッジは、フィルタープレスにより脱水処理した後に、セメント製造装置におけるクーラーに投入される。投入方法としては、クーラー内の所望の温度の位置に、クーラーの上部から落下させる方法が挙げられる。投入量は、セメントの質量に対して0.5~5%程度となるように設定する。
クーラーとしては、クーラー内の所定の位置に脱水処理物を投入することができるので、エアクエンチングクーラーが好適である。また、脱水処理する場合、脱水した処理水中に六価クロムが含まれている場合、還元処理を行うことが好ましい。還元処理を行った処理水は炭酸化工程の水として再利用できる。
【0033】
脱水処理したスラリーをクーラーに投入する場合、セメントクリンカー製造とは直接関係のない廃熱を利用することができ好都合である。また、クーラー内に粉塵が大量に発生することを防ぐ意味から、炭酸化処理された生コンクリートスラッジは含水率を好ましくは50質量%以下とし、塊状か粒状のまま投入することが好ましい。
また、セメント製造装置におけるクーラー内の温度は、通常は200~1200℃であり、その投入位置に応じて加熱温度を選択することができる。しかし、炭酸化処理により形成されたCaCO3が分解して生石灰(CaO)を生成したり、二酸化炭素を放出することがないよう、200~800℃の低温部分に投入する必要がある。
【0034】
クーラーから排出された炭酸化生コンクリートスラッジとセメントクリンカーを含むセメント原料は、ミルにおいて石膏とともに粉砕・混合されて混合セメントとなる。その際、必要に応じて散水や粉砕助剤を添加することができる。炭酸化処理された生コンクリートスラッジは、ミルに投入される前に乾燥しているので、粉砕は従来と同様の運転管理で行うことができる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0036】
(生コンクリートスラッジ)
生コンクリートスラッジをフィルタープレスで脱水処理した後、105℃の条件で24時間乾燥し、次いで粗砕することで最大粒径が20mmでありメジアン径(D50)が3mmである生コンクリートスラッジの脱水処理物(脱水ケーキ)を得た。
脱水処理物の化学組成をJIS R5204:2019(セメントの蛍光X線分析法)に準拠し、蛍光X線分析装置(リガク社製、商品名ZSX PrimusII)を用いて測定した。結果を表1に示す。
また、脱水ケーキの主な構成成分の含有率は表2のとおりであり、X線回析装置を用いて解析したC3S、C2S、C3A、C4AF等の未水和物の含有率は表3のとおりである。脱水処理物の鉱物組成は、X線回折装置(ブルカージャパン社製、商品名「D8 ADVANCE」)を使用し、ブルカージャパン社製の解析ソフトウェア「DIFFRAC plus TOPAS(Ver3.0)」を使用して、リードベルト法によって求めた。具体的には、C3S、C2S、C3A、C4AF、カルサイト、水酸化カルシウム、石炭、アルバイト、アノーサイトの各鉱物の理論プロファイルを、粉末X線回折の結果から得られた実測プロファイルにフィッティングすることで各晶質相の含有率を求めた。
【0037】
【0038】
[参考例1]
前記コンクリートスラッジを10mmアンダーに粗砕後、2秒間のディスクミル粉砕を行い、加熱処理として100℃で24時間加熱した。
加熱処理された生コンクリートスラッジ50gを、スラッジ対水の質量比で1:20となるように混合してスラリー化し、これに炭酸ガスを毎分2リットルで20分間吹き込んで通気して炭酸化処理をした。吹き込み終了後に吸引ろ過し、ミル環境を模擬して105℃で24時間乾燥させ、セメント混合材を製造した。
【0039】
[実施例2]
参考例1における加熱処理を200℃で24時間行ったほかは、参考例1と同じ条件でセメント混合材を製造した。
【0040】
[参考例2、実施例4]
参考例1における加熱処理と炭酸化処理の間に、再粉砕として、ディスクミルで1分間の再粉砕処理を実施してセメント混合材を得た(参考例2)。同様に、実施例2において再粉砕処理をおこなってセメント混合材を得た(実施例4)。
【0041】
[比較例1、2]
前記生コンクリートスラッジを10mmアンダーに粗砕の後、ディスクミルにて2秒間粉砕し、加熱処理することなく実施例1と同じ条件で炭酸化処理した(比較例1)。これとは別に、10mmアンダーに粗砕の後、ディスクミルで1分間粉砕し、同じく加熱処理することなく実施例1と同じ条件で炭酸化処理をした(比較例2)。
【0042】
(圧縮強度)
参考例1、2、実施例2、4、で製造されたセメント混合材を、セメントクリンカーに対して5%置換してセメント原料とし、これにセメント中の石膏の量がSO3換算で2.0質量%となる量の石膏を加えてモルタルを製造した。このモルタルに対して、JIS R5201:2015(セメントの物理試験方法)に準拠して、材齢3日、7日、28日における圧縮強度試験を行った。また、参考例3として、普通ポルトランドセメント市販品を用いて、参考例1と同様にモルタルを製造し、同様に、材齢3日、7日、28日における圧縮強度試験を行った。
【0043】
(炭酸ガス吸着能力)
また、
参考例1
、2、実施例
2、4および比較例1,2の炭酸化工程において、炭酸ガスの吹き込み中のpHを測定し、吹き込みを始めてからスラリーのpHが8になるまでの到達時間を計測した。
pH=8到達時間の技術的意味は次のとおりである。
図2に水溶液のpHと炭酸イオン乖離状態を示す。一般に生コンクリートスラッジのスラリー中では、Ca(OH)
2等が溶解してpHは13に近い強アルカリ性水溶液を含んでいる。この水溶液に対して炭酸ガスを吹き込むと、二酸化炭素分子はCO
3
2-イオンとして溶け込み、カルシウムと結合してCaCO
3として沈殿分離し、炭酸ガスの固定が行われる。その結果、カルシウムイオンが沈殿分離されて水溶液のpHが徐々に下がると、これに伴って二酸化炭素は、徐々にCO
3
2-イオンとしてではなくHCO
3-イオンとして存在するようになる。そして、更にカルシウムイオンが沈殿してpHが8になると、CO
3
2-イオンが存在できなくなり、生コンクリートスラッジの炭酸ガス吸着能力が失われることになる。
そうすると、単位時間当たりの炭酸ガスの吹き込み量を共通とすれば、炭酸ガスの吹き込みを始めてからのpH=8到達時間は、炭酸ガスの吹き込みが行われたスラリーの炭酸ガス吸着効率を示すことになり、pH=8到達時間が短ければ炭酸ガス吸着効率が高いことになる。したがって、短時間でより多くの大量の生コンクリートスラッジの炭酸化処理を行うことができる。
【0044】
以上の実験結果をまとめると次の表4のとおりとなる。
【表4】
【0045】
参考例1、2、実施例2、4の炭酸化処理した生コンクリートスラッジを添加したモルタルは、比較例1、2のモルタルと同等以上の圧縮強度であり、普通ポルトランドセメントのみからなるモルタルと比較しても同等程度の圧縮強さを有することがわかった。本発明のセメント混合材は、セメント原料と一部置換しても、圧縮強度の低下を殆どもたらさないものである。
【0046】
一方、本発明における製造方法で製造されたセメント混合材は、実施例と同様な炭酸化処理を受けた比較例1、2のものに比較して、優れた炭酸ガス吸着能力を有するセメント混合材であることが明らかとなった。このため、本発明の第1の特徴である100~300℃の加熱が、生コンクリートスラッジの炭酸ガス吸着能力の向上に重要な作用を及ぼしていることを確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法で製造したセメント混合材は、その製造過程で炭酸ガス吸着材として利用することができ、その後に、セメント原料の一部として用いて混合セメントを製造することができる。このセメント混和剤を混合した混合コンクリートの強度は、これを混合しないコンクリートと比較しても同等程度の強度を有する。