(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】構造部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 26/033 20110101AFI20240308BHJP
B21D 53/88 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B21D26/033
B21D53/88 Z
(21)【出願番号】P 2020086796
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100183232
【氏名又は名称】山崎 敏行
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】森 辰宗
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-015355(JP,A)
【文献】特開2005-324209(JP,A)
【文献】特開2006-175931(JP,A)
【文献】国際公開第2014/068452(WO,A2)
【文献】特開平03-032990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 26/033
B21D 53/88
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部材内に発泡材を挿入すると共に、軸方向において上記発泡材を第1,第2保持部材で挟んで保持する第1工程と、
上記第1,第2保持部材の軸方向の移動を規制した状態で、上記発泡材を加熱して発泡させ、上記発泡材の発泡圧で上記筒部材の所定部分を拡大変形させる第2工程と
を備え
、
上記第1工程では、上記筒部材と上記発泡材との間に減衰材を配置し、
上記第2工程後、上記減衰材の損失係数は、上記発泡材の損失係数よりも大きくなる、構造部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の構造部材の製造方法において、
上記第1,第2保持部材の少なくとも一方は、機械式または油圧式の駆動装置で上記軸方向に移動可能である、構造部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の構造部材の製造方法において、
上記筒部材の上記所定部分は、上記第1工程前に変形加工が施された部分である、構造部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1から
3までのいずれか一項に記載の構造部材の製造方法において、
上記発泡材の加熱は、上記筒部材の上記所定部分を取り囲む加熱部材で行う、構造部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1から
4までのいずれか一項に記載の構造部材の製造方法において、
上記第1,第2保持部材の外周面に、上記筒部材の内周面と第1,第2保持部材の外周面との間をシールする第1,第2Oリングを取り付ける、構造部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造部材の製造方法としては、例えば特許文献1(特開平3-32990号公報)に開示されているように、センターピラー内の空間に発泡ウレタンを充填した後、塗装工程の熱で発泡ウレタンを発泡させるものがある。
【0003】
上記センターピラーは、センターピラー外の空間をセンターピラー内の空間に連通させるための貫通孔を有する。上記発泡ウレタンは、上記貫通孔を介してセンターピラー内の空間に充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記センターピラーの所定部分を拡大変形させて、拡大した所定部分内で発泡ウレタンを発泡させる場合、発泡ウレタンを発泡させる工程とは別にセンターピラーの所定分を変形させる工程が必要となるので、製造工程が複雑になるという問題がある。
【0006】
本発明は、構造部材の製造方法において、製造工程の複雑化を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、筒部材内に発泡材を挿入すると共に、軸方向において上記発泡材を第1,第2保持部材で挟んで保持する第1工程と、上記第1,第2保持部材の軸方向の移動を規制した状態で、上記発泡材を加熱して発泡させ、上記発泡材の発泡圧で上記筒部材の所定部分を拡大変形させる第2工程とを備え、
上記第1工程では、上記筒部材と上記発泡材との間に減衰材を配置し、
上記第2工程後、上記減衰材の損失係数は、上記発泡材の損失係数よりも大きくなる、構造部材の製造方法を提供する。
【0008】
ここで、上記軸方向とは、筒部材の軸方向を意味する。
【0009】
上記製造方法によれば、上記発泡材を加熱して発泡させ、発泡材の発泡圧で筒部材の所定部分を拡大変形させるので、上記発泡材の発泡と、筒部材の所定部分の拡大変形とを、第2工程で行うことができるので、製造工程が簡単になる。
【0010】
また、上記所定部分内で発泡材を発泡させるので、所定部分の剛性を向上させることができる。
【0011】
上記筒部材としては、例えば、発泡材の発泡圧で変形可能な強度を有する筒部材が使用される。別の言い方をすれば、上記発泡材としては、例えば、筒部材の所定部分を発泡圧で変形可能な発泡材が使用される。
【0012】
上記拡大変形は、所定部分の各部が径方向外側(上記軸方向に垂直な方向において筒部材外に向かう側)へ均一または略均一に膨出するような変形と、所定部分の各部が径方向外側に不均一に膨出するような変形とを含む。
【0013】
上記所定部分は、筒部材の任意の部分を指すが、例えば、変形を受け易い位置に設定されたり、他の部材に接合される位置に設定されたりする。
上記減衰材が筒部材と発泡材との間に位置することにより、筒部材の振動を減衰させることができる。
上記減衰材は、例えば、筒部材と発泡材との間の全周に渡って配置される1つの環状の部材、または、筒部材と発泡材との間において周方向に所定間隔を空けて配列される複数の部材で構成される。
【0014】
上記第1,第2保持部材の少なくとも一方は、機械式または油圧式の駆動装置で上記軸方向に移動可能となるようにしてもよい。
【0015】
上記第1,第2保持部材の少なくとも一方を駆動装置で駆動可能にすることにより、発泡材の保持を容易に解除することができる。
【0016】
また、上記駆動装置が機械式または油圧式であることにより、第1,第2保持部材の軸方向の移動の規制を強固にすることができる。
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
上記筒部材の上記所定部分は、上記第1工程前に変形加工が施された部分となるようにしてもよい。
【0021】
上記筒部材において変形加工(例えば、拡管加工、縮管加工など)を施した部分は剛性が低下して、その部分の振動が悪化する懸念があるが、その部分内に発泡材を配置することにより、そのような懸念を低減することができる。
【0022】
上記発泡材の加熱は、上記筒部材の上記所定部分を取り囲む加熱部材で行うようにしてもよい。
【0023】
上記加熱部材で発泡材を加熱することにより、発泡材の各部を均一または略均一に加熱して、発泡材の加熱ムラを低減することができる。
【0024】
上記第1,第2保持部材の外周面に、上記筒部材の内周面と第1,第2保持部材の外周面との間をシールする第1,第2Oリングを取り付けるようにしてもよい。
【0025】
上記発泡材として液状の発泡材を使用する場合、筒部材の内周面と第1,第2保持部材の外周面との間から発泡材が漏れ出ると、第1保持部材と第2保持部材との間の発泡材が不足して、筒部材の拡大変形が不十分になってしまう。この場合、第1,第2保持部材の外周面に第1,第2Oリングを取り付けることにより、筒部材の内周面と第1,第2保持部材の外周面との間から発泡材が漏れ出るのを防ぐことができる。その結果、上記筒部材を十分に拡大変形させることができる。
【0026】
【0027】
【発明の効果】
【0028】
本発明の構造部材の製造方法は、発泡材を加熱して発泡させ、発泡材の発泡圧で筒部材の所定部分を拡大変形させるので、製造工程の複雑化を抑制できる。
【0029】
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1実施形態の構造部材の模式断面図。
【
図3】
図1の構造部材の製造方法の工程の模式断面図。
【
図8】第1実施形態の製造方法の変形例の工程の模式断面図。
【
図9】本発明の第2実施形態の構造部材の模式断面図。
【
図11】
図9の構造部材の製造方法の工程の模式断面図。
【
図16】本発明の第3実施形態の構造部材の製造方法の工程の模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略することがある。
【0032】
〔第1実施形態〕
図1は、円筒部材2の軸方向を含む平面で切った構造部材1の模式断面図である。また、
図2は、
図1のII-II線矢視から見た模式断面図である。
【0033】
構造部材1は、
図1,
図2に示すように、円筒部材2と、この円筒部材2内に配置された発泡材3とを備えている。なお、円筒部材2は筒部材の一例である。
【0034】
円筒部材2は、純アルミニウムまたはアルミニウム合金のようなアルミニウム材からなる押し出し材である。より詳しく説明すると、円筒部材2は、第1非拡管部21、第2非拡管部22および非拡管部23を有する。この円筒部材2の中心軸L1に沿う方向(以下、「軸方向」という。)に沿って、第1非拡管部21、第2非拡管部22および拡管部23が、この順で並んでいる。第2非拡管部22は、第1非拡管部21から上記軸方向に所定間隔を空けて設けられている。第1,第3非拡管部21,23は、拡管成形されている一方、第2非拡管部22および拡管部23は、拡管成形されている。なお、第1非拡管部21は第1筒部の一例である。第2非拡管部22は第2筒部の一例である。拡管部23は第3筒部の一例である。また、拡管部23の筒部材の所定部分の一例である。
【0035】
拡管部23は、第1非拡管部21と第2非拡管部22との間に設けられている。拡管部23の一端部は第1非拡管部21の一端部に連なる。一方、拡管部23の他端部は第2非拡管部22の一端部に連なる。なお、第1,第2非拡管部22の他端部には開口が設けられている。
【0036】
また、拡管部23は、発泡材3の略全部を取り囲んでいる。拡管部23の外周は第1,第2非拡管部21,22の外周よりも長くなっている。すなわち、拡管部23の外径は第1,第2非拡管部21,22の外径よりも大きくなっている。より詳しく説明すると、拡管部23の外径は、軸方向の中央付近で最も大きく、その中央付近から第1,第2非拡管部21,22に近づくにつれて徐々に小さくなっている。なお、第1,第2非拡管部21,22は互いに同じまたは略同じ外径を有する。
【0037】
発泡材3は、後述する発泡材103を加熱することで得られ、体積が発泡材103のよりも大きくなっている。この発泡材3は、拡管部23の内周面の全周に渡って密着し、第1,第2非拡管部21,22の他端部の開口から視認可能である。発泡材3の第1端面3aは、第1非拡管部21の内周面で確定される空間に面する一方、発泡材3の第2端面3bは、第2非拡管部22の内周面で確定される空間に面する。発泡材3の軸方向の長さは、円筒部材2の軸方向の長さよりも短く、かつ、拡管部23の軸方向の長さよりも若干長くなっている。
【0038】
以下、
図3~
図7を用いて、構造部材1の製造方法について説明する。
【0039】
まず、
図3に示すように、プレス機の固定部(図示せず)に固定されて移動不可能な例えば円柱形状の第1保持部材4を準備する。
【0040】
第1保持部材4は、後述するプレス圧を受けるための端面4aを有する。この端面4aは、第1保持部材4の中心軸L2に垂直な平坦面となるように形成されている。また、第1保持部材4の外径は、円筒部材102(
図2示す)の内径よりも小さくなるように設定されている。
【0041】
次に、
図4に示すように、円筒部材2にするための円筒部材102を第1保持部材4側に移動させて、円筒部材102の一端部内に第1保持部材4の一部を挿入する。この挿入により、第1保持部材4の中心軸L2が円筒部材102の中心軸L3と一致する。また、円筒部材102に対する第1保持部材4の端面4aの位置は、拡管部23(
図1に示す)を成すべき場所に基づいて設定される。
【0042】
円筒部材102は、拡管部23が形成されていないので、各部の断面形状は同じまたは略同じになっている。すなわち、円筒部材102の一端部、中央部および他端部は、互いに略同じ外径を有すると共に、互いに同じまたは略同じ内径を有する。
【0043】
また、円筒部材102の一端部内に第1保持部材4の一部を挿入した後、位置固定装置(図示せず)で円筒部材102の位置を固定してもよい。この固定により、円筒部材102と第1保持部材4との位置関係の変化を防げる。
【0044】
次に、
図5に示すように、円筒部材102内に例えば固形の発泡材103を挿入する。このとき、第1保持部材4に発泡材103を突き当て、円筒部材102の所定部分内に発泡材103を配置する。なお、円筒部材102の所定部分は、後工程の加熱で拡管すべき部分である。
【0045】
発泡材103は、例えば、円柱形状に成形されて熱膨張性マイクロカプセルを含む発泡性プラスチックから成る。この熱膨張性マイクロカプセルは、例えば、液状の炭化水素と、この炭化水素を内包するガスバリア性樹脂製のカプセルとを有する。熱膨張性マイクロカプセルを加熱すると、カプセルが軟化すると共に、炭化水素が気化して膨張する。また、発泡性プラスチックにおける発泡性マイクロカプセルの含有率、発泡性マイクロカプセルの形状、発泡性マイクロカプセルの材料などは、円筒部材102の所定部分を拡管可能に設定される。
【0046】
また、発泡材103は、第1保持部材4側に第1端面103aを有する一方、第1保持部材4側とは反対側に第2端面103bを有する。第1,第2端面103a,103bは、発泡材103の中心軸L4に垂直な平坦面である。発泡材103が円筒部材102の内周面を摺動するように、発泡材103の外径が設定されている。別の言い方をすれば、発泡材103の外径は、発泡材103が円筒部材102の内周面の全周に対して隙間が生じないように設定される。
【0047】
また、円筒部材102内に発泡材103を挿入すると、第1保持部材4の中心軸が円筒部材102の中心軸L3と一致する。
【0048】
次に、
図6に示すように、例えばニクロム線から成る加熱コイル5を円筒部材102側に移動させて、円筒部材102の所定部分を加熱コイル5で取り囲む。このとき、加熱コイル5は円筒部材102に接触しない。より詳しく説明すると、加熱コイル5の内径は、拡管部23の最大外径よりも大きくなるように設定されている。なお、加熱コイル5は、電源(図示せず)に電気的に接続されている。また、加熱コイル5は、加熱部材の一例である。
【0049】
次に、
図7に示すように、プレス機の油圧シリンダ7で例えば円柱形状の第2保持部材6を駆動して、円筒部材102の他端部内に第2保持部材6の一部を挿入する。この挿入は、第2保持部材6の中心軸L5が円筒部材102の中心軸L3と一致するように行われる。このとき、第2保持部材6を発泡材103に突き当て、筒部材102の軸方向において発泡材103を第1,第2保持部材4,6で挟んで保持する。また、油圧シリンダ7で発泡材103に付与するプレス圧は、発泡材103の発泡圧で第2保持部材6が動かないように設定される。なお、油圧シリンダ7は油圧式の駆動装置の一例である。
【0050】
第2保持部材6は、第1保持部材4と同じ形状を呈する。この第2保持部材4は、発泡材103にプレス圧を付与するための端面4aを有する。この端面6aは、第2保持部材6の中心軸L5に垂直な平坦面となるように形成されている。また、第2保持部材6の外径は、円筒部材102の内径よりも小さくなるように設定されている。
【0051】
また、第1,第2保持部材4,6による発泡材103の保持は、発泡材103の第1,第2端面103a,132が第1,第2保持部材4,6の端面4a,6aに密着するように行われる。
【0052】
油圧シリンダ7は、シリンダ本体71およびピストンロッド72を有する。シリンダ本体71内には、シリンダ本体71が延在する方向に沿って往復運動可能なピストン(図示せず)が配置されている。ピストンロッド72の一端部は上記ピストンに連結している一方、ピストンロッド72の他端部は第2保持部材6に連結している。
【0053】
最後に、第1,第2保持部材4,6の軸方向の移動を規制した状態で、加熱コイル5に通電して、発泡材103を所定温度で所定時間加熱して発泡させる。これにより、発泡材103の発泡圧で筒部材103の所定部分が円筒部材102の径方向外側に膨張する。
【0054】
このように、発泡材103を加熱して発泡させ、発泡材103の発泡圧で円筒部材102の所定部分を拡大変形させるので、発泡材103の発泡と、円筒部材102の所定部分の拡大変形とを、一工程で行うことができる。したがって、構造部材1の製造工程の複雑化を抑制することができる。
【0055】
また、円筒部材102の所定部分内で発泡材103を発泡させるので、その所定部分の剛性を向上させることができる。
【0056】
第2保持部材6は油圧シリンダ7で駆動できるので、発泡材3から第2保持部材6を離間させて、発泡材3の保持を容易に解除することができる。
【0057】
また、第2保持部材6の軸方向の移動の規制は油圧シリンダ7で強固に行える。
【0058】
上記第1実施形態では、円筒部材2は、アルミニウム合金で形成されていたが、例えば、アルミニウム合金以外の金属(例えば鉄またはハイテンション鋼)で形成されてもよい。
【0059】
上記第1実施形態では、構造部材1は、円筒部材2を備えていたが、例えば、四角筒部材などのような角筒部材、または、断面の外形が直線と曲線とで構成される筒部材を備えるようにしてもよい。
【0060】
上記第1実施形態では、第1,第2非拡管部21,22の他端部は開口していたが、その開口は他の部材で閉鎖されてもよい。
【0061】
上記第1実施形態では、第1,第2保持部材4,6は、円柱形状あったが、円筒部材102内に挿入可能な形状であれば、他の形状(例えば四角柱形状)にしてもよい。
【0062】
上記第1実施形態では、加熱コイル5を移動させて、円筒部材102の周囲に加熱コイル5を配置していたが、第1保持部材4および円筒部材102を移動させて、円筒部材102の周囲に加熱コイル5を配置するようにしてもよい。このようにする場合、例えば、第1保持部材4は、プレス機の固定部に固定せずに、油圧シリンダで駆動されるようにしてもよい。
【0063】
上記第1実施形態では、発泡材103の一例として、発泡性プラスチックを用いていたが、例えば発泡ビーズなどを用いてもよい。
【0064】
上記第1実施形態では、発泡材103は、円柱形状に成形されていたが、他の形状に成形されてもよい。発泡材103を他の形状に成形する場合、発泡材103の形状は、円筒部材102の形状に対応させるのが好ましい。例えば、円筒部材102の内周面で確定される空間の断面形状を四角にするのであれば、発泡材103の断面形状も四角とする。
【0065】
上記第1実施形態では、固形の発泡材103を用いていたが、例えば硬質ポリウレタンフォームなどの液状の発泡材を用いてもよい。この液状の発泡材を用いる場合、
図7に示すように、第1,第2保持部材4,6の外周面に、円筒部材102の内周面と第1,第2保持部材4,6の外周面との間をシールする第1,第2Oリング8,9を取り付けてもよい。このようにした場合、第1保持部材4と第2保持部材6との間に充填した液状の発泡材の量が減少するのを抑制できる。その結果、円筒部材102を十分に拡大変形させることができる。
【0066】
第1,第2Oリング8,9は、耐熱ゴムで形成されてもよいし、金属で形成されてもよい。また、第1Oリング8の材質は、第2Oリング9と同じにしてもよいし、異なるようにしてもよい。
【0067】
上記第1実施形態では、油圧シリンダ7で第2保持部材6を駆動していたが、モータおよび歯車などで構成される機械式の駆動装置で第2保持部材6を駆動するようにしてもよい。
【0068】
上記第1実施形態では、第1,第2保持部材4,6の材料は、特に説明しなかったが、発泡材103の発泡圧で変形し難い耐熱材料でもよい。例えば、筒状部材102よりも高強度の金属を第1,第2保持部材4,6の材料としてもよい。
【0069】
上記第1実施形態では、円筒部材102は、加熱コイル5で輻射加熱するようにしていたが、例えば誘導加熱するようにしてもよい。
【0070】
上記第1実施形態では、拡管部23は、円筒部材102において変形加工が施されていない部分に設けたが、円筒部材102の一部を変形加工した後、その一部に設けてもてよい。
【0071】
上記第1実施形態では、構造部材1の製造方法は、
図3~
図7の順に行われていたが、この順に限定されず、工程の順番は適宜変更してもよい。例えば、円筒部材102内に発泡材103を挿入した後、円筒部材102の一端部内に第1保持部材4の一部を挿入するような変更をしてもよい。また、円筒部材102の他端部内に第2保持部材6の一部を挿入した後、加熱コイル5を円筒部材102側に移動させるような変更をしてもよい。
【0072】
上記第1実施形態において、油圧シリンダ7のプレス圧、加熱コイル5の加熱温度,加熱時間などは、例えば加工時間の削減を目的として適宜変更され得る。
【0073】
〔第2実施形態〕
図9は、円筒部材2の中心軸L1を含む平面で切った構造部材201の模式断面図である。また、
図10は、
図9のX-X線矢視から見た模式断面図である。なお、
図9,
図10では、
図1,
図2の構成部と同一または略同一のものについては、
図1,
図2の構成部と同じ参照番号を付している。また、
図1,
図2の構成部と同一または略同一の構成部については、説明を簡単にするか、省略することがある。
【0074】
構造部材201は、円筒部材2と発泡材3との間に減衰材210を備えている点が、上記第1実施形態と異なり、その他は上記第1実施形態と同様に形成されていている。より詳しく説明すると、上記第2実施形態の円筒部材2は、上記第1実施形態の円筒部材2と材質および形状が同一である。一方、発泡材3は、上記第1実施形態の発泡材3よりも体積が少し小さいだけで、上記第1実施形態の発泡材と同じ材質である。
【0075】
減衰材210は、円筒形状を成し、軸方向に延びている。減衰材210の軸方向の長さは、円筒部材2の軸方向よりも短い。減衰材210は、発泡材3の第1端面3aと面一になっている第1端面210aと、発泡材3の第2端面3bと面一になっている第2端面210bとを有する。減衰材210の大部分は、拡管部23の内周面の全部に全周に渡って密着している。また、減衰材210の残りの一部は、第1,第2非拡管部21,22のそれぞれの内周面の一部に全周に渡って密着している。また、減衰材210は、例えば、ポリウレタンまたはエポキシ系の樹脂で形成されている。
【0076】
また、減衰材210の損失係数は、円筒部材2の損失係数よりも大きくなるように設定されている。ここで、上記損失係数とは、制振特性の評価指標の一つであり、損失係数が大きいほど制振特性が高いことを示す。損失係数の大きさは、部材の材質および厚さなどに依存する。一般に、柔軟な材質ほど損失係数は大きく、厚い部材ほど損失係数は大きい。そうすると、構造部材1の曲げ剛性および制振特性の改善の観点から言えば、減衰材210は、円筒部材2よりも、柔軟な材質(ヤング率が低い)で厚いのが好ましい。
【0077】
以下、
図11~
図15を用いて、構造部材201の製造方法について説明する。
【0078】
まず、
図11,
図12に示すように、プレス機の固定部に第1保持部材4を固定した後、円筒部材102の一端部内に第1保持部材4の一部を挿入する。すなわち、
図3,
図4の工程と同様の工程を行う。
【0079】
次に、
図13に示すように、円筒部材102内に、発泡材103を減衰材310と一緒に挿入する。この挿入前、減衰材310の径方向内側に発泡材103を嵌め込んで、発泡材103の第1,第2端面103a,103bと減衰材310の第1,第2端面310a,310bとを面一にしている。また、発泡材103の第1端面103aと減衰材310の第1端面310aとが第1保持部材4の端面4aに接触することにより、発泡材103および減衰材310が位置決めされる。すなわち、円筒部材102の所定部分内への発泡材103および減衰材310の配置が完了する。なお、円筒部材102の所定部分は、後工程の加熱で拡管すべき部分である。
【0080】
次に、
図14に示すように、加熱コイル5を円筒部材102側に移動させて、円筒部材102の所定部分を加熱コイル5で取り囲む。すなわち、すなわち、
図6の工程と同様の工程を行う。
【0081】
次に、
図15に示すように、プレス機の油圧シリンダ7で第2保持部材6を駆動して、円筒部材102の他端部内に第2保持部材6の一部を挿入する。この挿入は、第2保持部材6の中心軸L5が円筒部材102の中心軸L3と一致するように行われる。このとき、第2保持部材6を発泡材103に突き当て、筒部材102の軸方向において発泡材103を第1,第2保持部材4,6で挟んで保持する。また、油圧シリンダ7で発泡材103に付与するプレス圧は、発泡材103の発泡圧で第2保持部材6で動かないように設定される。また、上記プレス圧の付与時、発泡材103の第2端面103bと減衰材310の第2端面310bとが第2保持部材6の端面6aに接触する。
【0082】
最後に、第1,第2保持部材4,6の軸方向の移動を規制した状態で、加熱コイル5に通電して、発泡材103を所定温度で所定時間加熱して発泡させる。これにより、発泡材103の発泡圧で筒部材103の所定部分が円筒部材102の径方向外側に膨張する。
【0083】
このように、発泡材103を加熱して発泡させ、発泡材103の発泡圧で円筒部材102の所定部分を拡大変形させるので、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0084】
また、円筒部材102の所定部分と103との間に減衰材310を配置するので、拡管後、減衰材210が、拡管部23の内周面の全部と、第1,第2非拡管部21,22のそれぞれの内周面の一部とに密着する。したがって、円筒部材2の振動を減衰させることができる。
【0085】
上記第2実施形態では、円筒部材2と発泡材3との間の全周に渡って配置される減衰材210を用いていたが、その間の大部分にだけ配置される減衰材を用いてもよい。例えば、円筒部材2と発泡材3との間において周方向に所定間隔を空けて配列される複数の減衰材を用いてもよい。
【0086】
上記第2実施形態では、減衰材310の外周面には、接着剤を塗布していなかったが、接着剤を塗布してもよい。
【0087】
上記第2実施形態では、円筒部材102内に、発泡材103を減衰材310と一緒に挿入していたが、円筒部材102内に減衰材310を挿入した後、減衰材310の径方向内側に発泡材103を嵌め込んでもよい。
【0088】
上記第2実施形態では、円筒部材102の所定部分(拡管変形させる部分)は、変形加工が施されていなかったが、例えば、円筒部材102の所定部分および他の部分を拡管した後、その所定部分内に発泡材および減衰材を配置してもよい。このようにした場合、上記所定部分の振動が悪化する懸念を低減することができる。
【0089】
〔第3実施形態〕
以下、
図16~
図20を用いて、構造部材201の製造方法について説明する。なお、
図16~
図20では、
図12~
図15の構成部と同一または略同一のものについては、
図12~
図15の構成部と同じ参照番号を付している。また、
図12~
図15の構成部と同一または略同一の構成部については、説明を簡単にするか、省略することがある。
【0090】
まず、
図16に示すように、例えば作業台(図示せず)上に、凹部411が上面に形成された下金型401を載せる。なお、下金型401は、第1保持部材の一例である。
【0091】
凹部411は、円柱形状の凸部411aと、この凸部411aの周囲に設けられた溝411bと、下規制面411cとを有する。
【0092】
凸部411aの形状は、円筒部材102の内周面で確定される空間の形状に対応している。別の言い方をすると、凸部411aは、円筒部材102内に嵌め込めるように形成されている。また、凸部411aの上面は、第1保持部材4の端面4aと同様に平坦面にしている。
【0093】
溝411bは、上から見た形状が円形状を呈し、円筒部材102の一端部を嵌め込むことができるように形成されている。
【0094】
下規制面411cは、所定軸を中心にして円弧を回転させて得られる面と同じ形状を呈する。この下規制面411cは、円筒部材102の所定部分が所定量を超えて膨出するのを規制する役割を果たす。
【0095】
次に、
図17に示すように、溝411bに、円筒部材102の一端部を嵌め込むと共に、円筒部材102内に凸部411aを嵌め込む。
【0096】
次に、
図18に示すように、円筒部材102内に、発泡材103を減衰材310と一緒に挿入する。このとき、発泡材103の第1端面103aと減衰材310の第1端面310aとが凸部411aの上面に接触することにより、発泡材103および減衰材310が位置決めされる。すなわち、円筒部材102の所定部分内への発泡材103および減衰材310の配置が完了する。なお、円筒部材102の所定部分は、後工程の加熱で拡管すべき部分である。
【0097】
次に、
図19に示すように、下金型401上に上金型402を載せる。この上金型402の下面には、下金型401と同様に凹部421が形成されている。なお、上金型402は、第2保持部材の一例である。
【0098】
凹部421は、凸部421a、溝421bおよび上規制面421cを有する。この凸部421a、溝421bおよび上規制面421cは、凸部411a、溝411bおよび下規制面411cと同様の役割を果たす。より詳しく説明すると、下金型401上に上金型402を載せるとき、溝421bに、円筒部材102の他端部を嵌め込むと共に、円筒部材102内に凸部421aを嵌め込む。このとき、発泡材103の第2端面103bと減衰材310の第2端面310bとが凸部421aの下面に接触する。これにより、筒部材102の軸方向において発泡材103を凸部411a,421aで挟んで保持する。その後、上金型402が開かないように、下金型401に上金型402を例えばボルトで固定する。
【0099】
最後に、
図20に示すように、下金型401および上金型402を加熱炉403内に入れて、発泡材103を所定温度で所定時間加熱して発泡させる。これにより、発泡材103の発泡圧で筒部材103の所定部分が円筒部材102の径方向外側に膨張する。このとき、上記所定部分が下規制面411cおよび上規制面421cに接触して、膨張が想定を超えて進まない。なお、加熱炉403は、加熱部材の一例である。
【0100】
このように、発泡材103を加熱して発泡させ、発泡材103の発泡圧で円筒部材102の所定部分を拡大変形させるので、上記第2実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0101】
本発明の具体的な実施の形態について説明したが、本発明は上記第1~第3実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、上記第1~第3実施形態で記載した内容の一部を削除または置換したものを、本発明の一実施形態としてもよい。また、上記第1~第3実施形態で記載した内容を適宜組み合わせたものを、本発明の一実施形態としてもよい。
【0102】
本発明の構造部材の製造方法で製造できる構造部材は、上記第1実施形態~第3実施形態で説明した形状に限られない。
【0103】
例えば、本発明の構造部材の製造方法は、
図21に示すステアリングサポート(車両用構造部材)501に用いてもよい。
【0104】
ステアリングサポート501は、一方向に延びた長尺中空部材502と、長尺中空部材502に例えば溶接で接合された種々のブラケット(支持部材)503~507とを備える。
【0105】
長尺中空部材502は、純アルミニウムまたはアルミニウム合金のようなアルミニウム材からなる押し出し材である。この長尺中空部材502では、ブラケット503~505が接合されている第1部分502aの外径が、ブラケット506~508が接合されている第2部分502bの外径よりも大きくなっている。すなわち、第1部分502aは拡管成形されている一方、第2部分502bは拡管成形されていない。
【0106】
ブラケット503~507は、それぞれ、ステアリングサポート501が延びる方向に直交する方向に延びている。ここで、ブラケット504は、ステアリングホイール601の回転軸となるステアリングコラム602を支持するためのステアリングブラケットである。
【0107】
このようなステアリングサポート501に本発明の構造部材の製造方法を用いる場合、例えば、長尺中空部材502におけるブラケット503,505~508との接合部分と、長尺中空部材502における上記接合部分に隣接する部分との内側に、上記第1~第3実施形態の発泡材103を入れて加熱する。これにより、上記第1~第3実施形態と同様の作用効果が、ステアリングサポート501で得られる。
【符号の説明】
【0108】
1 構造部材
2,102 円筒部材
3,103 発泡材
4 第1保持部材
5 加熱コイル
6 第2保持部材
7 油圧シリンダ
8 第1Oリング
9 第2Oリング
21 第1非拡管部
22 第2非拡管部
23 拡管部
210,310 減衰材
401 下金型
402 上金型
403 加熱炉
501 ステアリングサポート
502 長尺中空部材