(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】ラジアルゲートの設置方法及びラジアルゲートの支持構造
(51)【国際特許分類】
E02B 7/42 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
E02B7/42
(21)【出願番号】P 2020103777
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-04-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 九州電力株式会社は、「電力土木 2019年7月号」において、由井孝昌らが発明した「ラジアルゲートの設置方法及びラジアルゲートの支持構造」に関連して「通砂機能を有する大型洪水吐ゲート設備の設計と施工」の論文を掲載した。
(73)【特許権者】
【識別番号】395013212
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラ建設
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】由井 孝昌
(72)【発明者】
【氏名】松本 康一
(72)【発明者】
【氏名】中村 順治
(72)【発明者】
【氏名】上野 匠
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190185(JP,A)
【文献】特公昭27-005076(JP,B1)
【文献】実開昭62-133725(JP,U)
【文献】特開平10-280689(JP,A)
【文献】特開昭58-123913(JP,A)
【文献】特開2003-253657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20- 7/54
E02B 8/02- 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のピアに水平な回動軸を中心に回動可能に支持され、該一対のピアの間を流れる水の流量を調整可能なラジアルゲートを設置する方法であって、
上記一対のピアのコンクリート打設用配筋を行うときに、上記ラジアルゲートを、該ラジアルゲートの扉体が上記一対のピアの間の水流を通過させる開き状態に保たれた状態に支持する扉体仮設ステージを固定するための埋込金具を、上記一対のピアの対向する面における、対向する位置にそれぞれ並設する埋込金具設置工程と、
上記埋込金具が配置された状態でコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを含む
ことを特徴とするラジアルゲートの設置方法。
【請求項2】
請求項1に記載のラジアルゲートの設置方法において、
上記埋込金具設置工程において、
上記埋込金具を、上記ピアを構成する最も上記扉体に近い垂直に延びる鉄筋よりも手前側に垂直板が位置付けられ、該垂直板の手前側の上記ピアの上記扉体側の表面に枠状体が位置付けられるように、該枠状体と上記垂直板との間に複数の側板を有する上記扉体側が開放した容器状とし、
上記垂直板に、上記最も上記扉体に近い垂直に延びる鉄筋よりも奥側に延び、手前側に上記扉体仮設ステージを構成する扉体支持用梁
が固定されるブラケットを締結するナットが、設けられた複数のアンカボルトを挿通する
ことを特徴とするラジアルゲートの設置方法。
【請求項3】
請求項2に記載のラジアルゲートの設置方法において、
上記アンカボルトに、上記扉体仮設ステージを固定するためのブラケットを締結し、
対向する上記ブラケットに上記扉体支持用梁の両端をそれぞれ固定する
ことを特徴とするラジアルゲートの設置方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のラジアルゲートの設置方法において、
上記扉体仮設ステージよりも下方で放水しながら上記ラジアルゲートの設置を行う
ことを特徴とするラジアルゲートの設置方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のラジアルゲートの設置方法において、
上記扉体仮設ステージの上で順次上記ラジアルゲートを組み上げ、
上記ラジアルゲートを回動させる回動手段を設置した後、
上記回動手段によって上記ラジアルゲートを上方へ回動させた状態で、上記扉体仮設ステージを取り除く
ことを特徴とするラジアルゲートの設置方法。
【請求項6】
請求項5に記載のラジアルゲートの設置方法において、
上記扉体仮設ステージを取り除いた後、上記埋込金具の枠状体を塞いで密閉する
ことを特徴とするラジアルゲートの設置方法。
【請求項7】
垂直に立設された一対のピアに水平な回動軸を中心に回動可能に支持され、該一対のピアの間に流れる水量を調整可能なラジアルゲートを支持可能なラジアルゲートの仮受け台の支持構造であって、
上記ラジアルゲートを、該ラジアルゲートの扉体が上記一対のピアの間の水流を通過させる開き状態に保たれた状態に支持する扉体仮設ステージを固定するための埋込金具が、上記一対のピアの対向する面における対向する位置にそれぞれ並設された状態でコンクリートに埋設されている
ことを特徴とするラジアルゲートの支持構造。
【請求項8】
請求項7に記載のラジアルゲートの支持構造において、
上記埋込金具は、
上記ピアを構成する最も上記扉体に近い垂直に延びる鉄筋よりも手前側に埋設された垂直板と、
上記ピアの上記扉体側の表面に設けた枠状体と、
上記枠状体と上記垂直板との間を連結する複数の側板と
を有する上記扉体側が開放した容器状であり、
上記垂直板には、上記最も上記扉体に近い垂直に延びる鉄筋よりも奥側に延び、手前側に上記扉体仮設ステージを構成する扉体支持用梁を固定するブラケットを締結可能な複数のアンカボルトが挿通された状態でコンクリートに埋設されている
ことを特徴とするラジアルゲートの支持構造。
【請求項9】
請求項8に記載のラジアルゲートの支持構造において、
一対の対向する上記埋込金具には、上記扉体支持用梁が
、上記ブラケットがボルト締結された状態で掛け渡し可能に構成されている
ことを特徴とするラジアルゲートの支持構造。
【請求項10】
請求項8に記載のラジアルゲートの支持構造において、
上記扉体の設置後には、上記埋込金具の上記枠状体に蓋がされて水密状に塞ぐことができるように構成されている
ことを特徴とするラジアルゲートの支持構造。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか1つに記載のラジアルゲートの支持構造において、
上記埋込金具は、上記扉体仮設ステージが上記扉体を設計洪水水量の水面よりも所定高さ高い位置に保持できるように並設されている
ことを特徴とするラジアルゲートの支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダムのクレストゲートなどに用いられるラジアルゲートの設置方法及びラジアルゲートの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダムのラジアルゲートを交換する際に、既設のラジアルゲートである被交換ゲートが設置される設置位置近傍において、この被交換ゲートの撤去後に新たなラジアルゲートである新規ゲートを組み立てるゲート組立方法は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のようなラジアルゲートの設置方法では、放水時に水が流れる堤体本体に直接設置した補助レール上のゲート受架台にラジアルゲートを組み上げるので、設置工事の途中では、台風時などで至急放水が必要になっても、容易に放水を行うことができないという問題がある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ラジアルゲートの設置途中でも台風発生時などに放水可能な状態でラジアルゲートの設置工事を行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明では、ラジアルゲートを放水可能な開き状態に保持しながら設置工事を行えるようにした。
【0007】
具体的には、第1の発明では、一対のピアに水平な回動軸を中心に回動可能に支持され、該一対のピアの間を流れる水の流量を調整可能なラジアルゲートを設置する方法であって、
上記一対のピアのコンクリート打設用配筋を行うときに、上記ラジアルゲートを、該ラジアルゲートの扉体が上記一対のピアの間の水流を通過させる開き状態に保たれた状態に支持する扉体仮設ステージを固定するための埋込金具を、上記一対のピアの対向する面における、対向する位置にそれぞれ並設する埋込金具設置工程と、
上記埋込金具が配置された状態でコンクリートを打設するコンクリート打設工程とを含む。
【0008】
上記の構成によると、ピアを形成するときに、ラジアルゲートを適切な角度に開いた状態で支持しながら組み立てできるように、適切な位置に埋込金具を設けることができるので、ラジアルゲートを、この扉体仮設ステージ上で組み上げる途中でも、その下方で放水が可能である。
【0009】
第2の発明では、第1の発明において、
上記埋込金具設置工程において、
上記埋込金具を、上記ピアを構成する最も上記扉体に近い垂直に延びる鉄筋よりも手前側に垂直板が位置付けられ、該垂直板の手前側の上記ピアの上記扉体側の表面に枠状体が位置付けられるように、該枠状体と上記垂直板との間に複数の側板を有する上記扉体側が開放した容器状とし、
上記垂直板に、上記最も上記扉体に近い垂直に延びる鉄筋よりも奥側に延び、手前側に上記扉体仮設ステージを構成する扉体支持用梁を締結可能な複数のアンカボルトを挿通する構成とする。
【0010】
上記の構成によると、埋込金具をラジアルゲートの重量に耐え得る剛性の高いものにすることができる。また、コンクリートのかぶり厚さを保ちながら、ラジアルゲートの重量に耐え得るある程度大きな埋込金具を設置できる。
【0011】
第3の発明では、第2の発明において、
上記アンカボルトに、上記扉体仮設ステージを固定するためのブラケットを締結し、
対向する上記ブラケットに上記扉体支持用梁の両端をそれぞれ固定する構成とする。
【0012】
上記の構成によると、予めピアの所定位置に埋込金具を埋設しているので、そのアンカボルトにブラケットを締結しておけば、扉体支持用梁の固定を極めて容易に行うことができる。
【0013】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、
上記扉体仮設ステージよりも下方で放水しながら上記ラジアルゲートの設置を行う構成とする。
【0014】
上記の構成によると、扉体仮設ステージがラジアルゲートを開き状態に支持できるように設けられるので、ラジアルゲートの設置途中で、台風などが発生したときに、扉体仮設ステージ等を取り外さなくてもその下方で放水が可能である。
【0015】
第5の発明では、第1から第4のいずれか1つの発明において、
上記扉体仮設ステージの上で順次上記ラジアルゲートを組み上げ、
上記ラジアルゲートを回動させる回動手段を設置した後、
上記回動手段によって上記ラジアルゲートを上方へ回動させた状態で、上記扉体仮設ステージを取り除く構成とする。
【0016】
上記の構成によると、回動手段の動力でラジアルゲートを上方へ回動させることができるので、クレーンなどでラジアルゲートを吊り上げなくても、扉体仮設ステージの取り外しを行うことができる。
【0017】
第6の発明では、第5の発明において、
上記扉体仮設ステージを取り除いた後、上記埋込金具の枠状体を塞いで密閉する構成とする。
【0018】
上記の構成によると、埋込金具のアンカボルトなどは密閉されるので、見映えが悪くなったりさびてしまったりすることはない。
【0019】
第7の発明では、垂直に立設された一対のピアに水平な回動軸を中心に回動可能に支持され、該一対のピアの間に流れる水量を調整可能なラジアルゲートを支持可能なラジアルゲートの仮受け台の支持構造を対象とし、
上記支持構造は、
上記ラジアルゲートを、該ラジアルゲートの扉体が上記一対のピアの間の水流を通過させる開き状態に保たれた状態に支持する扉体仮設ステージを固定するための埋込金具が、上記一対のピアの対向する面における対向する位置にそれぞれ並設された状態でコンクリートに埋設されている。
【0020】
上記の構成によると、ピアを形成するときに、ラジアルゲートを適切な角度に開いた状態で支持しながら組み立てできるように、適切な位置に埋込金具を設けることができるので、ラジアルゲートを、この扉体仮設ステージ上で組み上げる途中でも、その下方で放水が可能である。
【0021】
第8の発明では、第7の発明において、
上記埋込金具は、
上記ピアを構成する最も上記扉体に近い垂直に延びる鉄筋よりも手前側に埋設された垂直板と、
上記ピアの上記扉体側の表面に設けた枠状体と、
上記枠状体と上記垂直板との間を連結する複数の側板と
を有する上記扉体側が開放した容器状であり、
上記垂直板には、上記最も上記扉体に近い垂直に延びる鉄筋よりも奥側に延び、手前側に上記扉体仮設ステージを構成する扉体支持用梁を固定するブラケットを締結可能な複数のアンカボルトが挿通された状態でコンクリートに埋設されている。
【0022】
上記の構成によると、埋込金具をラジアルゲートの重量に耐え得る剛性の高いものにすることができる。また、コンクリートのかぶり厚さを保ちながら、ラジアルゲートの重量に耐え得るある程度大きな埋込金具が得られる。
【0023】
第9の発明では、第8の発明において、
一対の対向する上記埋込金具には、上記扉体支持用梁がボルト締結された状態で掛け渡し可能に構成されている。
【0024】
上記の構成によると、予めピアの所定位置に埋込金具を埋設しているので、そのアンカボルトにブラケットを締結しておけば、扉体支持用梁の固定を極めて容易に行うことができる。
【0025】
第10の発明では、第8の発明において、
上記扉体の設置後には、上記埋込金具の上記枠状体に蓋がされて水密状に塞ぐことができるように構成されている。
【0026】
上記の構成によると、埋込金具のアンカボルトなどは密閉されるので、見映えが悪くなったりさびてしまったりすることはない。
【0027】
第11の発明では、第7から第10のいずれか1つの発明において、
上記埋込金具は、上記扉体仮設ステージが上記扉体を設計洪水水量の水面よりも所定高さ高い位置に保持できるように並設されている。
【0028】
上記の構成によると、台風などの水位が急激に上昇した場合でも、扉体仮設ステージ等を設けたままの状態で適宜放水できるので、安全性が格段に向上する。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、ラジアルゲートの設置途中でも台風発生時などに放水可能な状態でラジアルゲートの設置工事を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】ラジアルゲートが設置されたダムを下流側から見た斜視図である。
【
図2】ピアのアンカパッドにブラケット及び扉体支持用梁を固定した状態を示す
図1相当斜視図である。
【
図3】扉体仮設ステージ上で脚部を組み立てる状態を示す
図1相当斜視図である。
【
図4】扉体仮設ステージ上の脚部に油圧シリンダを取り付ける状態を示す
図1相当斜視図である。
【
図5】扉体仮設ステージ上の脚部に扉体取付部を取り付ける状態を示す
図1相当斜視図である。
【
図6】扉体仮設ステージ上の扉体取付部に扉体を取り付ける状態を示す
図1相当斜視図である。
【
図7】アンカパッドが設けられたピアを示す側面図である。
【
図8】扉体仮設ステージとラジアルゲートとの位置関係を示す概略側面図である。
【
図9】扉体仮設ステージが取り付けられたピアを示す断面図である。
【
図10】密閉蓋で塞がれたアンカパッド及びその周辺を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
図1は、本発明の実施形態に係るラジアルゲート10が設置されたダムを下流側から見た斜視図である。詳しくは図示しないが、ダムは、コンクリート等で構成されるダム堤体2を備え、このダム堤体2に垂直に少なくとも一対のピア(コンクリートピア)3が設けられている。すなわち、複数のゲートが設けられる場合には、ピア3は複数対設けられる。堤体本体4を超えて貯水池内の水が放水可能となっている。これら一対のピア3にラジアルゲート10の支持構造1が設けられている。なお、
図1から
図7において右側のピア3は省略している。
【0033】
具体的には、図示する一対のピア3に水平な回動軸10a(
図1、
図8等参照)を中心に回動可能にラジアルゲート10が支持されている。このラジアルゲート10を例えば一対の回動手段としての油圧シリンダ13を伸縮させて上下に回動させ、一対のピア3の間を流れる水の流量を調整可能に構成されている。
【0034】
ラジアルゲート10は、例えば、水平に間隔を空けて設けられた側面視三角形状の一対の脚部11と、これら一対の脚部11の上流側に固定され、外周面が断面円弧状の扉体12とを備えている。扉体12下側のペデスタル(ボス部)11aに一対の油圧シリンダ13のロッド先端13aが連結されている。例えば、この油圧シリンダ13を縮小させると、扉体12がその回動軸10aを中心に上方に回動され、堤体本体4上を貯水池内の水が放流可能となっている。逆に一対の油圧シリンダ13を伸張させると、扉体12の下端が堤体本体4上面に接触して貯水池内の水が放水できないようになっている。
【0035】
そして、本発明の実施形態では、
図7及び
図8に示すように、複数の埋込金具としてのアンカパッド20が、一対のピア3の対向する面における対向する位置にそれぞれ並設された状態でコンクリート3aに埋設されている。これらのアンカパッド20は、ラジアルゲート10の扉体12を、この扉体12が一対のピア3の間の水流を通過させる開き状態に保たれた状態に支持する扉体仮設ステージ40を固定するために設けられている。
【0036】
具体的には、
図9に断面を拡大して例示するように、これらアンカパッド20は、各ピア3のラジアルゲート10側のコンクリート3a表面に、表面側が開口するように埋め込まれている。つまり、アンカパッド20は、ピア3を構成する最も扉体12に近い垂直に延びる鉄筋3bよりも手前側に埋設された垂直板22と、ピア3の扉体12側の表面に設けた枠状体21と、枠状体21と垂直板22との間を連結する複数の(4枚の)側板23とを有する扉体12側が開放した容器状である。そして、垂直板22には、最も扉体12に近い垂直に延びる鉄筋3bよりも奥側に延び、手前側に扉体仮設ステージ40を構成する扉体支持用梁41を固定するブラケット30を締結するためのナット27が設けられた複数のアンカボルト26が挿通されている。例えば、側板23は、荷重が加わりやすい下側が上側よりも板圧が厚くなっており、枠状体21に連結される補強リブ24によって堅固に補強されている。また、4本のアンカボルト26の基端側が奥側に配置された比較的肉厚の厚い鋼板よりなる支圧板25に固定されている。ナット27にブラケット30を固定するためのブラケット固定用ボルト31が締結可能となっている。
【0037】
そして、一対の対向するアンカパッド20には、扉体支持用梁41がこのブラケット30を介してボルト締結された状態で掛け渡し可能に構成されている。
【0038】
図7及び
図8に示すように、アンカパッド20は、扉体仮設ステージ40が扉体12を設計洪水水量の水面よりも所定高さ(例えば、1.5m)高い位置に保持できるように並設されている。
【0039】
図10に示すように、扉体12の設置後、扉体仮設ステージ40が撤去された後には、アンカパッド20の枠状体21が密閉蓋28によって水密状に塞がれているので、アンカパッド20の存在は、アンカパッド20を塞いだ密閉蓋28と枠状体21でしか外観上確認できない。
【0040】
-ラジアルゲートの設置方法-
次に、本実施形態に係るラジアルゲート10の設置方法について説明する。
【0041】
まず、一対のピア3を設ける。これら一対のピア3は、既設のダム堤体2の一部に新たに設けてもよいし、ダムを新たに形成する場合には、堤体本体4等と共に併せて設けてもよい。
【0042】
アンカパッド設置工程として、
図9に示すように、ピア3をコンクリート打設して形成する際の配筋工程で、複数のアンカパッド20を設ける。扉体12側が開放した容器状の複数のアンカパッド20を一対のピア3の対向する面における、対向する位置の縦横に延びる鉄筋3b,3c周辺にそれぞれ並設する。
【0043】
そして、垂直板22に、最も扉体12に近い垂直に延びる鉄筋3bよりも奥側に延び、手前側に扉体仮設ステージ40を構成する扉体支持用梁41を締結するためのナット27が設けられた複数のアンカボルト26を挿通する。アンカボルト26の奥側には支圧板25を固定する。
【0044】
次いで、コンクリート打設工程において、アンカパッド20及びアンカボルト26が配置された状態でコンクリート3aを打設する。打設後のピア3には、
図7に示すように、アンカパッド20が並設される。こうすることで、アンカパッド20をラジアルゲート10の重量に耐え得る剛性の高いものにすることができる。また、コンクリート3aのかぶり厚さを保ちながら、ラジアルゲート10の重量に耐え得るある程度大きなアンカパッド20を設置できる。さらに、アンカパッド20は、支圧板25を含めてコンクリート3a内に埋設されるので、アンカパッド20に加わる圧縮荷重を広い範囲のコンクリート3aで支持することができる。
【0045】
次いで、
図9に二点鎖線で示すように、アンカパッド20のアンカボルト26に、扉体仮設ステージ40を固定するためのブラケット30を締結する。この際、例えば堤体本体4上に高所作業車を設置し、各アンカパッド20の凹部にブラケット30をそれぞれ嵌め込んでブラケット固定用ボルト31をナット27に締結する。
図8に示すように、ラジアルゲート10が開き状態に保たれるように、ラジアルゲート10の脚部11の形状に合わせてブラケット30が並設される。
【0046】
次いで、対向するブラケット30に扉体支持用梁41の両端をそれぞれ固定する。例えば、ダム堤体2に設けたクレーンで扉体支持用梁41を吊り上げ、その両端の係合部42を嵌め込む。このとき、予めピア3の所定位置にブラケット30は締結されているので、扉体支持用梁41の固定を極めて容易に行うことができる。
図2及び
図8に示すように、全てのブラケット30に対応する扉体支持用梁41の両端を係合させる。扉体支持用梁41の形状は、全て同じである必要はなく、設置場所によって異なっていてもよい。扉体支持用梁41で一対のブラケット30間を接続した後、作業のための足場(図示せず)を組み上げる。
【0047】
次いで、扉体仮設ステージ40の上で順次、ラジアルゲート10を組み上げる。例えば、
図3に示すように、まず回動軸10aに支持されるペデスタル11aを設置し、複数の扉体支持用梁41に跨がるように下段脚11bを設置した後、順次、下段横主桁11c等を組み上げていく。このとき、
図8に示すように、適宜、扉体支持用梁41にジャッキ43を設けて、ジャッキ43を介してラジアルゲート10の荷重を支持するようにしてもよい。ジャッキ43のない扉体支持用梁41は、足場の自重等を支持するのに用いるとよい。なお、扉体12は、
図8に示す扇形軌跡12aに沿って回動可能となる。
【0048】
次いで、
図4に示すように、ラジアルゲート10を回動させる回動手段としての一対の油圧シリンダ13を設置する。例えば、一対の油圧シリンダ13のチューブ中間部13bから延びるシリンダ支持軸13cを、それぞれ一対のピア3に揺動可能に支持する。
【0049】
次いで、
図5に示すように、円弧状外周面の裏側に配置される縦主桁11d、残りの横主桁等を組み付ける。必要に応じてラジアルゲート10に作業用足場44を設けてもよい。
【0050】
次いで、
図6に示すように、スキンプレートパネルを積層して外周面円弧状の扉体12を完成させる。これに前後してロッド先端13aを下段横主桁11c近傍に設けたボス部に回転可能に連結する。詳しくは図示しないが、この油圧シリンダ13を駆動するための油圧ユニットは、ダム堤体2の頂部に設けられ、この油圧ユニットの制御バルブを操作盤で操作することにより、一対の油圧シリンダ13の伸縮操作が可能になる。これにより、一対の油圧シリンダ13を伸縮させると、ラジアルゲート10が回動軸10aを中心に上下に回動される。このため、油圧シリンダ13を接続した後は、ラジアルゲート10の自重を油圧シリンダ13で支持してもよい。ラジアルゲート10の開度は、油圧ユニット内に設置したパイロットチェック弁にて油圧シリンダのヘッド側の油がタンクに戻らないようにすることで保持される。
【0051】
本発明の特徴として、
図8に示すように、この間の作業をしている間でも、扉体仮設ステージ40よりも下方で放水しながらラジアルゲート10の設置を行うことができる。
【0052】
次いで、この油圧シリンダ13によってラジアルゲート10を上方へ回動させた状態で、扉体仮設ステージ40を取り除く。このとき、油圧シリンダ13の動力でラジアルゲート10を上方へ回動させることができるので、クレーンなどでラジアルゲート10を吊り上げなくても、扉体仮設ステージ40の取り外しを行うことができる。
【0053】
扉体仮設ステージ40を取り除いた後、
図1に示すように、扉体12の下端を堤体本体4上面に接触させると、ラジアルゲート10を閉じた状態となる。
【0054】
次いで、
図10に拡大して示すように、アンカパッド20の枠状体21を矩形板状の密閉蓋28によって塞いで密閉する。例えば、密閉蓋28の表面を枠状体21に溶接した上で、表面高さをそろえる。そうすると、アンカパッド20のアンカボルト26などは密閉されるので、見映えが悪くなったりさびてしまったりすることはない。
【0055】
このように、本実施形態では、ピア3を形成するときに、ラジアルゲート10を適切な角度に開いた状態で支持しながら組み立てできるように、適切な位置にアンカパッド20を設けることができるので、ラジアルゲート10を、この扉体仮設ステージ40上で組み上げる途中でも、その下方で放水が可能である。
【0056】
つまり、扉体仮設ステージ40がラジアルゲート10を開き状態に支持できるように設けられるので、ラジアルゲート10の設置途中で、台風などが発生したときに、扉体仮設ステージ40等を取り外さなくてもその下方で簡易且つ迅速に放水できる。
【0057】
したがって、本実施形態に係るラジアルゲート10の設置方法によると、ラジアルゲート10の設置途中でも台風発生時などに放水可能な状態でラジアルゲート10の設置工事を行うことができる。
【0058】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0059】
すなわち、上記実施形態では、ラジアルゲート10をダムにおける一対のピア3間に設けたが、河川に設けた水門の一対のピア間に設ける場合にも適用できる。
【0060】
また、上記実施形態では、埋込金具がアンカパッド20の例を示したが、埋込金具の形状等はこれに限定されず、扉体仮設ステージ40を支持できるものであればよい。例えば、アンカボルト26を利用しない、扉体支持用梁41を支持可能な台座状のものをコンクリート3aに埋め込んでもよい。
【0061】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0062】
1 支持構造
2 ダム堤体
3 ピア
3a コンクリート
3b,3c 鉄筋
4 堤体本体
10 ラジアルゲート
10a 回動軸
11 脚部
11a ペデスタル
11b 下段脚
11c 下段横主桁
11d 縦主桁
12 扉体
12a 扇形軌跡
13 油圧シリンダ(回動手段)
13a ロッド先端
13b チューブ中間部
13c シリンダ支持軸
20 アンカパッド(埋込金具)
21 枠状体
22 垂直板
23 側板
24 補強リブ
25 支圧板
26 アンカボルト
27 ナット
28 密閉蓋(蓋)
30 ブラケット
31 ブラケット固定用ボルト
40 扉体仮設ステージ
41 扉体支持用梁
42 係合部
43 ジャッキ
44 作業用足場