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特許7450468木造建物用制震ダンパー装置、およびその木造建物用制震ダンパー装置を用いた木造建物
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  • 特許-木造建物用制震ダンパー装置、およびその木造建物用制震ダンパー装置を用いた木造建物 図1
  • 特許-木造建物用制震ダンパー装置、およびその木造建物用制震ダンパー装置を用いた木造建物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】木造建物用制震ダンパー装置、およびその木造建物用制震ダンパー装置を用いた木造建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240308BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
E04H9/02 311
F16F15/02 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020107395
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003189
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】315007581
【氏名又は名称】BXカネシン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121496
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 重雄
(72)【発明者】
【氏名】槙田 剛
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-224575(JP,A)
【文献】特開2015-152166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
E04B 1/38 - 1/61
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建物の縦材または横架材のいずれか一方に基端部側が第1固定部を介し固定される第1長尺部材と、
前記第1固定部が固定された前記縦材または横架材の他方に基端部側が第2固定部を介し固定される一方、先端部側が前記第1長尺部材の先端部よりも基端部側に接合され、前記第1長尺部材と重なる重なり箇所が設けられた第2長尺部材とを備え、
前記第2長尺部材は、背板部と当該背板部両側にそれぞれ側板部とを有する断面がコ字形状であり、
前記第2長尺部材における前記第1長尺部材との重なり箇所には、当該第2長尺部材の前記背板部両側の側板部の一部を欠落させて当該第2長尺部材における他の箇所よりも弱体化させることにより伸縮し易く構成した伸縮部を設けたことを特徴とする木造建物用制震ダンパー装置。
【請求項2】
請求項に記載の木造建物用制震ダンパー装置において、
前記第2長尺部材は、前記第1長尺部材の外側に設けられ、
さらに、
管状の部材であって前記第1長尺部材の背板との間で前記伸縮部を挟むように前記第1長尺部材および前記第2長尺部材の外側に第3長尺部材を設けたことを特徴とする木造建物用制震ダンパー装置。
【請求項3】
請求項記載の木造建物用制震ダンパー装置において、
前記第3長尺部材は、その長手方向の少なくとも一端において前記第1長尺部材に接合されていることを特徴とする木造建物用制震ダンパー装置。
【請求項4】
請求項1~請求項のいずれか一の請求項に記載の木造建物用制震ダンパー装置を用いた木造建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建物の縦材と横架材で囲まれた開口部に設ける木造建物用制震ダンパー装置、およびその木造建物用制震ダンパー装置を用いた木造建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の木造建物用制震ダンパー装置として、例えば、離間した一対の縦材および横架材とに囲まれた開口部における横架材に可動板と固定板との間に高減衰ゴムを設けた制震ダンパー機構部を固定する一方、縦材にアーム取付金物を固定し、制震ダンパー機構部の可動板とアーム取付金物とを長尺のアームで連結した構造がある(例えば、特許文献1参照)。この装置では、地震等によって開口部が変形した際、制震ダンパー機構部の可動板が固定板に対し回動し、その回動エネルギーを高減衰ゴムで吸収するように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-31691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1に記載の従来の木造建物制震ダンパー装置は、アームやアーム取付金物以外に高減衰ゴムを設けた制震ダンパー機構部が必要であるため、構造が複雑となり、またコストが増大するという問題点があった。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題に着目してなされたもので、高減衰ゴム等を設けた制震ダンパー機構部を不要とした単純な構造で、製造コストを低減することができる木造建物用制震ダンパー装置、およびその木造建物用制震ダンパー装置を用いた木造建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る木造建物用制震ダンパー装置は、木造建物の縦材または横架材のいずれか一方に基端部側が第1固定部を介し固定される第1長尺部材と、前記第1固定部が固定された前記縦材または横架材の他方に基端部側が第2固定部を介し固定される一方、先端部側が前記第1長尺部材の先端部よりも基端部側に接合され、前記第1長尺部材と重なる重なり箇所が設けられた第2長尺部材とを備え、前記第2長尺部材は、背板部と当該背板部両側にそれぞれ側板部とを有する断面がコ字形状であり、前記第2長尺部材における前記第1長尺部材との重なり箇所には、当該第2長尺部材の前記背板部両側の側板部の一部を欠落させて当該第2長尺部材における他の箇所よりも弱体化させることにより伸縮し易く構成した伸縮部を設けたことを特徴とする。
また、本発明に係る木造建物用制震ダンパー装置では、前記第2長尺部材は、前記第1長尺部材の外側に設けられ、さらに、管状の部材であって前記第1長尺部材の背板との間で前記伸縮部を挟むように前記第1長尺部材および前記第2長尺部材の外側に第3長尺部材を設けたことも特徴とする。
また、本発明に係る木造建物用制震ダンパー装置では、前記第3長尺部材は、その長手方向の少なくとも一端において前記第1長尺部材に接合されていることも特徴とする。
また、本発明に係る住宅構造は、上述のいずれか一の木造建物用制震ダンパー装置を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る木造建物用制震ダンパー装置は、第1長尺部材と、第2長尺部材とを備え、第2長尺部材における第1長尺部材との重なり箇所には、当該第2長尺部材における他の箇所よりも弱体化させることにより当該第2長尺部材における他の箇所および第1長尺部材よりも伸縮し易い伸縮部を設けている。
これにより、本発明に係る木造建物用制震ダンパー装置を使用した木造建物で揺れ等が発生した場合、弱体化させた第2長尺部材の伸縮部が伸縮してその揺れ等を吸収するため、高減衰ゴム等を設けた制震ダンパー機構部が不要となり、構造が単純となるので、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置の使用例を示す正面図である。
図2】(a)~(c)それぞれ本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置の平面図、正面図、底面図である。
図3】(a)~(d)それぞれ本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置を構成する第1長尺部材の平面図、正面図、底面図、右側面図である。
図4】(a)~(d)それぞれ本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置を構成する第2長尺部材の平面図、正面図、底面図、右側面図である。
図5】(a)~(d)それぞれ本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置を構成する第3長尺部材の平面図、正面図、底面図、右側面図である。
図6】(a),(b)それぞれ本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置を構成する第1長尺部材の基端部に取付ける第1固定部の平面図、側面図である。
図7】(a),(b)それぞれ本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置を構成する第2長尺部材の基端部に取付ける第2固定部の平面図、側面図である。
図8】(a)~(c)それぞれ本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置を構成する第1長尺部材の斜視図、第1長尺部材に第2長尺部材を取付けた状態を示す斜視図、さらに第3長尺部材を取付けた状態を示す斜視図である。
図9】(a)~(c)それぞれ本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置を構成する第1長尺部材に第2長尺部材を取付けた状態を示す平面図、正面図、底面図である。
図10】(a),(b)それぞれ図9(b)におけるC-C線拡大端面図、D-D線拡大端面図である。
図11】(a)~(c)それぞれ本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置を構成する第1長尺部材に第2長尺部材を取付け、さらに第3長尺部材を取付けた状態を示す平面図、正面図、底面図である。
図12】(a),(b)それぞれ図11(b)におけるE-E線拡大端面図、F-F線拡大端面図である。
図13】(a),(b)それぞれ図2(a)におけるA部分の溶接状態を示す拡大端面図、図2(c)におけるB部分の溶接状態を示す拡大端面図である。
図14図1に示す本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置の使用例において、矢印方向のせん断力が作用した際の木造建物用制震ダンパー装置の状態を示す説明図である。
図15図1に示す本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置の使用例において、矢印方向のせん断力が作用した際の木造建物用制震ダンパー装置の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、下記に説明する実施形態は、形状や寸法も含めあくまで本発明の一例であり、本発明は、下記に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0010】
<実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1の使用例や構成等>
本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1は、例えば、図1に示すように、一端は柱2に固定する一方、他端は横架材である土台3や梁4等に固定して使用するもので、図1では、2本の柱2と土台3および梁4とで囲まれた壁となる空間に2つの木造建物用制震ダンパー装置1を取り付けている。
【0011】
木造建物用制震ダンパー装置1は、図2(a)~(c)等に示すように、第1長尺部材11と、第2長尺部材12と、第3長尺部材13と、第1固定部14と、第2固定部15等を備えて構成されている。
【0012】
(第1長尺部材11)
第1長尺部材11は、木造建物の縦材である柱2または横架材である土台3および梁4のいずれか一方に正面視、斜めにカットされた基端部11c側に溶接等で接合した第1固定部14を介し固定される部材で、図1に示す使用例では、柱2に固定している。
【0013】
第1長尺部材11は、図3(a)~(d)に示すように背板部11aと背板部11aの両側の一対の側板部11b,11bとから断面コ字形状に形成された長尺部材で、長手方向の一方である基端部11cは、例えば、正面視28.7度の斜めにカットして図1図2に示すように第1固定部14が溶接等で接合されている。尚、基端部11cの反対側となる先端部11dは、木材に固定されず、第1固定部14等の固定部材を接合する必要がないため、図3(a)~(c)等に示すように斜めにカットせず直角のままとしている。
【0014】
第1長尺部材11を構成する鋼板の厚さは、図3(c)に示すように、例えば、3.2mmで、背板部11aの長手方向の長さは830mm、幅つまり短手方向の長さは30mmとしている。また側板部11bの高さは、図3(b)に示すように40mmとする。
【0015】
(第2長尺部材12)
第2長尺部材12は、図1等に示すように第1長尺部材11の基端部11c側の第1固定部14が固定される木材とは他方の木材に対し、正面視、斜めにカットされた基端部12c側に溶接等で接合した第2固定部15を介し固定される部材で、図1に示す使用例では、横架材である土台3または梁4に固定している。
【0016】
第2長尺部材12は、図4(a)~(d)に示すように背板部12aと背板部12aの両側の一対の側板部12b,12bとから断面コ字形状に形成された長尺部材で、長手方向の一方である基端部12cは、例えば、正面時、61.3度の斜めにカットして図1図2に示すように第2固定部15が溶接等で接合されている。尚、基端部12cの反対側となる先端部12dも、木材に固定されず、第2固定部15等の固定部材を接合する必要がないため、図4(a)~(c)等に示すように第1長尺部材11の先端部11dと同様に斜めにカットせず直角のままとしている。
【0017】
尚、第2長尺部材12は、第1長尺部材11と同様に厚さ3.2mmの鋼板を使用しており、第1長尺部材11の外側に被せるように設けるため背板部12aの幅つまり短手方向の長さは38mmとし、第2長尺部材12の長手方向の長さは1146.58(35+400+687.69+23.89)mmとしている。また側板部11bの高さは、43.6mmとする。
【0018】
第2長尺部材12は、後述する図8(b),(c)等に示すように第1長尺部材11の上に被せ、かつ、基端部12cとは反対側の先端部12dで第1長尺部材11および第3長尺部材と溶接して接合するため、先端部12dから基端部12cに向かって第1長尺部材11と重なる重なり箇所が設けられており、その重なり箇所には、第1長尺部材11および当該第2長尺部材12における他の箇所よりも弱体化させることにより伸縮し易く構成した伸縮部12a3を設けている。
【0019】
伸縮部12a3は、図4(a)~(c)等に示すように、第2長尺部材12の背板部12a両側の側板部12b,12bを欠落させると共に、側板部12b,12bを欠落させた部分の背板部12aの両側も削って細くすることにより、側板部12b,12bが存在する第2長尺部材12における他の箇所および第1長尺部材11よりも弱体化させて伸縮し易く構成している。
【0020】
具体的には、伸縮部12a3は、第2長尺部材12の先端部12dから35mm離れた地点から側板部12b,12bを400mm程欠落させ、400mmの長さで設けていると共に、側板部12b,12bを欠落させた部分の背板部12aの両側も削って図4(c)に示すように約22mの幅にして構成されている。つまり、伸縮部12a3は背板部12aの一部であると共に背板部12aの幅よりも狭くして形成されており、伸縮部12a3の両側はその長手方向で10mm程の長さに亘って背板部12aの幅まで広がるように傾斜して設けられている。
【0021】
よって、背板部12aは、伸縮部12a3よりも基端部12c側で、711.58(687.69+23.89)mm程の長さを有する長尺背板部12a1と、伸縮部12a3よりも先端部12d側で、35mm程の長さを有する短尺背板部12a2とで構成されることになる。
【0022】
同様に、背板部12a両側の一対の側板部12b,12bも、それぞれ、伸縮部12a3よりも基端部12c側で、711.58(687.69+23.89)mm程の長さを有する長尺側板部12b1と、伸縮部12a3よりも先端部12d側で、35mm程の長さを有する短尺側板部12b2とで構成されることになる。
【0023】
(第3長尺部材13)
第3長尺部材13は、図1図2等に示すように断面が正方形状の角管状の部材であって、伸縮部12a3を覆う長さを有し、第1長尺部材11の背板11aとの間で伸縮部12a3を挟むように第1長尺部材11および第2長尺部材12の外側に設けるもので、図5(a)~(d)に示すように背板部13aおよび底板部13cと、背板部13aおよび底板部13cの両側を連結する一対の側板部13b,13bとから構成されている。
【0024】
第3長尺部材13も、第1長尺部材11および第2長尺部材12と同様に、例えば厚さ3.2mmの厚さの角管を使用する。第3長尺部材13の長手方向の長さは700mm、短辺方向の長さは50mmである。
【0025】
(第1固定部14)
第1固定部14は、上述したように第1長尺部材11の基端部11cに溶接等で接合されて、本実施形態の場合、柱2にビスや釘等の固定具等で固定される部材で、図6に示すように、例えば、厚さ6mmで、短辺が80mm、長辺が100mmの鋼板で構成されており、直径6mmの固定具挿通孔14aが10箇所設けられている。尚、図6(a)において波線(点線)で示す部分は第1長尺部材11の基端部11c側が溶接等で接合される箇所を示している。
【0026】
(第2固定部15)
第2固定部15は、上述したように第2長尺部材12の基端部12cに溶接等で接合されて、本実施形態の場合、土台3または梁4にビスや釘等の固定具等で固定される部材で、第1固定部14と同様に、厚さ6mmで、短辺が80mm、長辺が100mmの鋼板で構成されており、第2固定部15の場合、直径6mmの固定具挿通孔15aが11箇所設けられている。尚、図7(a)において波線(点線)で示す部分は第2長尺部材12の基端部12c側が溶接等で接合される箇所を示している。
【0027】
第1固定部14と第2固定部15は、それぞれ、図2(a),(b)等に示すように28.7度にカットされた第1長尺部材11の基端部11cと、61.3度にカットされた第2長尺部材12の基端部12cとに接合されるため、正面視、90度の角度をなすことになる。
【0028】
(第1長尺部材11,第2長尺部材12および第3長尺部材13の接合)
次に、第1長尺部材11,第2長尺部材12および第3長尺部材13の接合について説明する。尚、第1長尺部材11,第2長尺部材12および第3長尺部材13の接合に第1固定部14と第2固定部15とは直接関係がないので、第1固定部14および第2固定部15の図示を省略して説明する。
【0029】
上述のように構成された第1長尺部材11,第2長尺部材12および第3長尺部材13は、まず、図8(a),(b)に示すように第2長尺部材12の伸縮部12a3が第1長尺部材11の背板部11aに重なるように第2長尺部材12を第1長尺部材11に被せ、その後、図8(c)に示すように第2長尺部材12の伸縮部12a3が隠れるように第3長尺部材13を被せる。
【0030】
図9(a)~(c)は、それぞれ、第1長尺部材11に第2長尺部材12を被せた状態を示す平面図、正面図、底面図、図10(a),(b)は、それぞれ、図9(b)におけるC-C線拡大端面図、D-D線拡大端面図である。
【0031】
図9(a)~(c)から明らかなように、第2長尺部材12は少なくとも伸縮部12a3の全てが第1長尺部材11の背板部11aに重なるように第1長尺部材11の上に被せている。また、図10(a)からも明らかなように伸縮部12a3は、その短手方向の長さである幅が第1長尺部材11の背板部11aの短手方向の長さである幅よりも短く形成されている。
【0032】
また伸縮部12a3以外の例えば図9(b)におけるD-D線部分では、図10(b)に示すように第1長尺部材11の背板部11aおよび側板部11b,11bの外側を第2長尺部材12の長尺背板部12a1および長尺側板部12b1,12b1が囲うように設けられる。尚、第2長尺部材12の短尺背板部12a2および短尺側板部12b2,12b2も同様に第1長尺部材11の背板部11aおよび側板部11b,11bの外側を囲うように設けられる。
【0033】
図11(a)~(c)は、それぞれ、本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1を構成する第1長尺部材11に第2長尺部材12を被せ、さらに第3長尺部材13を被せた状態を示す平面図、正面図、底面図であり、図12(a),(b)は、それぞれ、図11(b)におけるE-E線拡大端面図、F-F線拡大端面図である。
【0034】
図11および図12に示すように第1長尺部材11の上から第2長尺部材12を被せるように取付け、さらにその第2長尺部材12の上から第3長尺部材13を被せるように取付け、その後、図2(a),(c)に示すように第3長尺部材13の長手方向の両端部であるA、Bの2箇所で溶接して接合する。
【0035】
図12(a),(b)から明らかなように第1長尺部材11、第2長尺部材12および第3長尺部材13は、上下方向の重なり具合は、ほとんど第1長尺部材11、第2長尺部材12および第3長尺部材13間に隙間が生じないように設けており、図11(b)におけるE-E線部分では第2長尺部材12の伸縮部12a3は第1長尺部材11の背板部11aと第3長尺部材13の背板部13aに挟まれていると共に、第1長尺部材11の側板部11b,11b下端部は第3長尺部材13の底板部13c上面(内側面)に接触ないしは近接している。また、図11(b)におけるF-F線部分では第2長尺部材12の長尺背板部12a1は第1長尺部材11の背板部11aと第3長尺部材13の背板部13aに挟まれていると共に、第1長尺部材11の側板部11b,11b下端部および第2長尺部材12の長尺側板部12b1,12b1下端部は第3長尺部材13の底板部13c上面(内側面)に接触ないしは近接している。
【0036】
これに対し、第1長尺部材11、第2長尺部材12および第3長尺部材13の横方向の重なり具合は、図11(b)におけるE-E線部分では、第2長尺部材12は側板部12b,12bがないため大きな隙間が空くが、図11(b)におけるF-F線部分の第2長尺部材12の長尺側板部12b1,12b1がある箇所でも、第1長尺部材11の側板部11b,11bと第3長尺部材13の側板部13b,13bとの間に第2長尺部材12は側板部12b,12bの厚さ以上の隙間が空くようにしている。
【0037】
図13(a),(b)は、それぞれ図2(a)におけるA部分の溶接状態を示す拡大端面図、図2(c)におけるB部分の溶接状態を示す拡大端面図である。
【0038】
図2(a)におけるA部分において第1長尺部材11~第3長尺部材13の背板部11a~13a側では、図13(a)に示すように、第1長尺部材11の背板部11a上面に対し第2長尺部材12の背板部12a先端部および第3長尺部材13の背板部13a先端部が隠れるように隅肉溶接等によって接合する。図13(a)における16aが、その溶接部である。
【0039】
また、図2(a)におけるA部分において第1長尺部材11~第3長尺部材13の背板部11a~13a側とは反対側となる第1長尺部材11の側板部11b,11b下端部と、第2長尺部材12の側板部12b,12b下端部と、第3長尺部材13の底板部13cとも、それぞれ、図13(a)に示すように隅肉溶接等により溶接して接合する。図13(a)における16b,16bが、その溶接部である。
【0040】
つまり、図2(a)におけるA部分では、第1長尺部材11~第3長尺部材13の上下で第1長尺部材11~第3長尺部材13の3部材を共に接合する。尚、本発明では、図13(a)に示す溶接部16b,16bは、省略することができる。
【0041】
一方、図2(c)におけるB部分では、図13(b)に示すように第1長尺部材11の側板部11b,11b下端部と第3長尺部材13の底板部13cとの間でのみ、例えば、点付溶接等によりスポット的に溶接を行う。図13(b)における16c,16cが、その溶接部である。尚、本発明では、図2(c)におけるB部分における第1長尺部材11と第3長尺部材13との間の溶接は、省略することができる。
【0042】
つまり、図2(c)におけるB部分では、第1長尺部材11と第3長尺部材13との間でのみ溶接し、伸縮部12a3を有する第2長尺部材12は、第1長尺部材11および第3長尺部材13に溶接しないので、その長手方向に伸縮可能となる。
【0043】
これにより、図2(a)におけるA部分では、第1長尺部材11~第3長尺部材13の全てが接合される一方、図2(c)におけるB部分では、第1長尺部材11と第3長尺部材のみが接合され、第2長尺部材12は接合されないため、図1等に示すように第1長尺部材11の基端部11c側の第1固定部14と第2長尺部材12の基端部12c側の第2固定部15とをそれぞれ柱2や土台3または梁4等の木材に固定すると、第1長尺部材11および第2長尺部材12の双方でブレース材(芯材)を構成することになるので、後述するように第1固定部14と第2固定部15との間の間隔が広がったり狭まると、主に第2長尺部材12の伸縮部12a3が伸縮することになる。
【0044】
また、第3長尺部材13は、その長手方向の両端部においていずれも第1長尺部材11と接合されるので、柱2や土台3、梁4等を通じて小さな振動等が木造建物用制震ダンパー装置1に伝達した場合でも、第3長尺部材13が単独で揺れて他の第1長尺部材11や第2長尺部材12に当たって衝突音を発生することを防止することができる。
【0045】
<本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1の機能>
次に、以上のように構成された本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1の機能について説明する。
【0046】
例えば、図1に示すように2本の柱2と土台3および梁4とで囲まれた壁となる空間に2組の木造建物用制震ダンパー装置1をそれぞれ取り付け、地震の横揺れ等によって図14における矢印α方向にせん断力が作用した場合、上側の木造建物用制震ダンパー装置1では、第1固定部14と第2固定部15との間の間隔が狭まって、圧縮力が作用することになるので、第2長尺部材12の伸縮部12a3は収縮してこの壁に作用する外力を吸収する。
【0047】
これに対し、下側の木造建物用制震ダンパー装置1には、図14における矢印α方向にせん断力が作用した場合、第1固定部14と第2固定部15との間の間隔が広がって、引張力が作用することになるので、第2長尺部材12の伸縮部12a3は伸長してこの壁に作用する外力を吸収して壁の破壊等を防止する。
【0048】
一方、地震の横揺れ等によって図15に示すように矢印β方向にせん断力が作用した場合、上側の木造建物用制震ダンパー装置1では、第1固定部14と第2固定部15との間の間隔が広がって、引張力が作用することになるので、第2長尺部材12の伸縮部12a3は伸長してこの壁に作用する外力を吸収する一方、下側の木造建物用制震ダンパー装置1では、第1固定部14と第2固定部15との間の間隔が狭まって、圧縮力が作用することになるので、第2長尺部材12の伸縮部12a3は収縮してこの壁に作用する外力を吸収して壁の破壊等を防止する。
【0049】
<本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1のまとめ>
以上説明したように、本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1は、木造建物の縦材または横架材のいずれか一方に基端部11cが固定される第1長尺部材11と、第1長尺部材11の基端部11cが固定された縦材または横架材の他方に基端部12cが固定される一方、先端部が第1長尺部材11に固定され、当該先端部から基端部12cに向かって第1長尺部材11と重なる重なり箇所が設けられた第2長尺部材12とを備え、第2長尺部材12における第1長尺部材11との重なり箇所には、当該第2長尺部材12における他の箇所よりも弱体化させて伸縮し易く構成した伸縮部12a3を設けている。
【0050】
そのため、本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1では、第1長尺部材11の基端部11cと第2長尺部材12の基端部12cとをそれぞれ第1固定部14と第2固定部15とを介して縦材と横架材とに固定して揺れ等が発生した場合、主に第2長尺部材12の伸縮部12a3が伸縮してその揺れ等を吸収する。その結果、高減衰ゴム等を設けた制震ダンパー機構部が不要となり、構造が単純になるので、製造コストを低減することができる。
【0051】
また、本発明に係る木造建物用制震ダンパー装置1では、第2長尺部材12は、背板部12aと当該背板部12a両側にそれぞれ側板部12b,12bとを有する断面がコ字形状であり、伸縮部12a3は、第2長尺部材12の背板部12a両側それぞれの側板部12b,12bの一部を欠落させて弱体化することにより設けている。
【0052】
そのため、第2長尺部材12に伸縮部12a3を容易に設けることができるので、この点でも製造コストを低減することができる。
【0053】
また、本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1では、第2長尺部材12は第1長尺部材11の外側に設け、さらに、断面が正方形状である管状部材の角管であって少なくとも第2長尺部材12の伸縮部12a3を覆う長さを有し、第1長尺部材11の背板部11aとの間で第2長尺部材12の伸縮部12a3を挟むように長尺部材11および第2長尺部材12の外側に第3長尺部材13を設けている。
【0054】
そのため、本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1では、第2長尺部材12の伸縮部12a3は第1長尺部材11の背板部11aと第3長尺部材13の背板部13aとの間で挟まれているので、伸縮部12a3の面外方向に折れ曲がりや撓みを防止することができる。
【0055】
その結果、本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1は、第2長尺部材12の伸縮部12a3に大きな圧縮力が作用した場合でも、その圧縮力を確実に吸収することができる。
【0056】
また、本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1では、第3長尺部材13は、その長手方向の両端部を、それぞれ、図13(a),(b)に示すように第1長尺部材11に接合している。
【0057】
そのため、本発明に係る実施形態の木造建物用制震ダンパー装置1では、柱2や土台3、梁4等を通じて小さな振動等が木造建物用制震ダンパー装置1に伝達した場合でも、第3長尺部材13が揺れて他の第1長尺部材11や第2長尺部材12に当たる等して発生する騒音を防止することができる。
【0058】
尚、上記実施形態の説明では、第1長尺部材11の背板部11aと重なっている第2長尺部材12の背板部12aにおける伸縮部12a3両側の側板部12b,12bを欠落させると共に、側板部12b,12bを欠落させた部分の背板部12aの両側も削って細くすることにより第2長尺部材12に伸縮部12a3を設けたが、本発明ではこれに限らず、第2長尺部材12における第1長尺部材11との重なり箇所に第2長尺部材12における他の箇所よりも弱体化させて伸縮し易く伸縮部を設けることができれば十分であるため、例えば、背板部12aにおける伸縮部12a3両側の側板部12b,12bを全て欠落させずに伸縮部12a3両側に側板部12b,12bを残していても良いし、また第1長尺部材11と重なる第2長尺部材12の背板部12aや側板部12b,12bに孔を開ける等して他の箇所よりも弱体化させて伸縮し易い伸縮部12a3を設ける等しても勿論良い。また、伸縮部12a3の長さや形状により、塑性及び破断のタイミング調整が可能となり、幅・断面厚さにより、塑性荷重が調整可能となる。
【0059】
また、上記実施形態の説明では、第1固定部14と第2固定部15とをそれぞれ第1長尺部材11と第2長尺部材12とは別部材で構成し、それぞれの基端部11c,12c側に接合して説明したが、本発明ではこれに限らず、第1長尺部材11および第2長尺部材12それぞれの基端部11c,12c側を切断や曲げる等の加工を施して第1固定部14および第2固定部15を設けるようにしても勿論良い。
【0060】
また、上記実施形態の説明では、第1長尺部材11の基端部11c側は第1固定部14を介して柱2に固定する一方、第2長尺部材12の基端部12c側は第2固定部15を介して土台3または梁4に固定して説明したが、本発明ではこれに限らず、第1長尺部材11の基端部11c側は第1固定部14を介して土台3または梁4に固定する一方、第2長尺部材12の基端部12c側は第2固定部15を介して柱2に固定するようにしても勿論良い。
【0061】
また、上記実施形態の説明では、図2(a)におけるA部分では、図13(a)に示すように第1長尺部材11~第3長尺部材13の全てを溶接する一方、図2(c)におけるB部分では、図13(b)に示すように第1長尺部材11と第3長尺部材13のみ溶接して説明したが、本発明では、図2(c)におけるB部分の第1長尺部材11と第3長尺部材13との溶接は省略しても良い。尚、本発明では、図13(a)に示す溶接部16b,16bも、省略することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 木造建物用制震ダンパー装置
11 第1長尺部材
11a 背板部
11b 側板部
11c 基端部
11d 先端部
12 第2長尺部材
12a 背板部
12a1 長尺背板部
12a2 短尺背板部
12b 側板部
12b1 長尺側板部
12b2 短尺側板部
12c 基端部
12d 先端部
12a3 伸縮部
13 第3長尺部材
13a 背板部
13b 側板部
13c 底板部
14 第1固定部
14a 固定具挿通孔
15 第2固定部
15a 固定具挿通孔
16a~16c 溶接部
2 柱(縦材)
3 土台(横架材)
4 梁(横架材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15