(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】付属ゲートの強制開閉装置
(51)【国際特許分類】
E02B 7/20 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
E02B7/20 101
E02B7/20 108
(21)【出願番号】P 2020113087
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】395013212
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラ建設
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 廣治
(72)【発明者】
【氏名】敦賀 康裕
(72)【発明者】
【氏名】田村 洋満
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-168521(JP,U)
【文献】特公昭44-030951(JP,B1)
【文献】特開平09-310328(JP,A)
【文献】実開昭53-021438(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第112392010(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0292589(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20- 7/54
E02B 8/02- 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降されることで開口を開閉可能で、ゲート側閉用シーブが設けられたゲート本体と、
上記ゲート本体に設けられ、該ゲート本体に形成された付属ゲート用開口を開閉可能な付属ゲートと、
上記ゲート本体を昇降可能に吊り下げるゲート本体昇降用ワイヤを巻き取り及び繰り出し可能な一対のゲート本体昇降用ドラムと、
上記付属ゲートを閉じ操作する付属ゲート閉用ワイヤを巻き取り及び繰り出し可能な付属ゲート閉用ドラムと、
上記付属ゲートを開き操作する付属ゲート開用ワイヤを巻き取り及び繰り出し可能な付属ゲート開用ドラムと、
上記付属ゲートに連結され、上記ゲート本体に沿って昇降することで、該付属ゲートを開閉可能で、下側に開閉部側閉用シーブが設けられ、上側に開閉部側開用シーブが設けられた付属ゲート開閉部とを備え、
一方のゲート本体昇降用ドラムの一部には、上記付属ゲート閉用ワイヤの一端が上記ゲート本体昇降用ワイヤと同じ方向に回転するように連結され、他方のゲート本体昇降用ドラムの一部には、上記付属ゲート開用ワイヤの一端が上記ゲート本体昇降用ワイヤと同じ方向に回転するように連結され、
上記付属ゲート開閉部は、
上記ゲート本体に設けたゲート側閉用シーブと、該付属ゲート開閉部に設けた開閉部側閉用シーブとに掛けられた付属ゲート閉用ワイヤを上記付属ゲート閉用ドラムで巻き上げる
と共に、該付属ゲート閉用ドラムと反対側に巻かれた上記付属ゲート開用ドラムから付属ゲート開用ワイヤが繰り出されることで、下方に移動して上記付属ゲート用開口を閉じることができると共に、
上記付属ゲート開閉部に設けた開閉部側開用シーブに掛けられた上記付属ゲート開用ワイヤを上記付属ゲート開用ドラムで巻き上げる
と共に、該付属ゲート開用ドラムと反対側に巻かれた上記付属ゲート閉用ドラムから付属ゲート閉用ワイヤが繰り出されることで、上方に移動して上記付属ゲート用開口を開くことができるように構成されている
ことを特徴とする付属ゲートの強制開閉装置。
【請求項2】
請求項1に記載の付属ゲートの強制開閉装置において、
上記一対のゲート本体昇降用ドラムは、1つのゲート開閉用電動機で同時に駆動可能に構成され、該ゲート開閉用電動機を駆動することで、上記ゲート本体昇降用ワイヤだけでなく、上記付属ゲート閉用ワイヤ及び上記付属ゲート開用ワイヤを巻き取り及び繰り出し可能に構成されている
ことを特徴とする付属ゲートの強制開閉装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の付属ゲートの強制開閉装置において、
上記付属ゲート閉用ドラム及び上記付属ゲート開用ドラムは、1つの付属ゲート開閉用電動機で駆動可能に構成され、該付属ゲート開閉用電動機を駆動することで、上記付属ゲート開閉部を昇降させて上記付属ゲートを開閉可能に構成されている
ことを特徴とする付属ゲートの強制開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダムや河川の取水設備に設けられる付属ゲートの強制開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、貯水池等に設けたダムから放流される水によってもたらされる水質問題等を軽減するため、あるいは、洪水後の濁水放流によるダム湖の濁水長期化を軽減するために、ダムに選択取水設備を設けることが知られている。このような選択取水設備では、多段式ゲートが多く用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この種の多段式ゲートでは、ダム貯水池側の鉛直面又は傾斜面に沿って導水路が設けられる場合、導水路の前面に鉛直又は傾斜ガイドレールに沿って昇降させられるローラゲート形式の取水ゲートが設けられる。この取水ゲートには、複数のローラゲートが設けられ、これらは、それぞれに対応する開閉装置を操作することで、開閉操作できるようになっている。
【0004】
また、特許文献2のように、河川の表面温水を取水することを目的として設備される多段式ゲートの最下段扉に保安ゲートを設けることが知られている。この保安ゲートでは、水位差が設定値(例えば1m)を超えると、カウンタウェイトとの均衡が破れ、保安ゲートに作用する水圧がカウンタウェイトの締め切り力に打ち勝って保安ゲートが押し開けられるようにしている。そして、水位差が設定値以下に低減すれば、再びカウンタウェイトの降下重量が保安ゲートに働き、自動的に開口を閉塞するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭57-28905号公報
【文献】実開昭51-88925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダムの選択取水設備を一例に背景技術を記載したが、同様に強制開閉機能が要求される付属ゲートをゲート本体に内蔵するケースがある。そこで、取水ゲートをゲート本体、保安ゲートを付属ゲートと記述する。
【0007】
ところで、付属ゲートを水位差によって開閉させるだけでなく、強制的に開閉できるようにしたいというニーズがある。この場合、従来の付属ゲートの強制開閉装置では、付属ゲートの開閉用ワイヤと、付属ゲートが設けられたゲート本体の昇降用ワイヤとを同調させながら昇降させなければならず、構造が複雑になると共に、制御が面倒であるという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、付属ゲートの開閉動作及びゲート本体の開閉動作を簡単且つ確実に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明では、ゲート本体に付属ゲートを開閉させるための付属ゲート開閉部を設けた。
【0010】
具体的には、第1の発明では、昇降されることで開口を開閉可能で、ゲート側閉用シーブが設けられたゲート本体と、
上記ゲート本体に設けられ、該ゲート本体に形成された付属ゲート用開口を開閉可能な付属ゲートと、
上記ゲート本体を昇降可能に吊り下げるゲート本体昇降用ワイヤを巻き取り及び繰り出し可能な一対のゲート本体昇降用ドラムと、
上記付属ゲートを閉じ操作する付属ゲート閉用ワイヤを巻き取り及び繰り出し可能な付属ゲート閉用ドラムと、
上記付属ゲートを開き操作する付属ゲート開用ワイヤを巻き取り及び繰り出し可能な付属ゲート開用ドラムと、
上記付属ゲートに連結され、上記ゲート本体に沿って昇降することで、該付属ゲートを開閉可能で、下側に開閉部側閉用シーブが設けられ、上側に開閉部側開用シーブが設けられた付属ゲート開閉部とを備え、
一方のゲート本体昇降用ドラムの一部には、上記付属ゲート閉用ワイヤの一端が上記ゲート本体昇降用ワイヤと同じ方向に回転するように連結され、他方のゲート本体昇降用ドラムの一部には、上記付属ゲート開用ワイヤの一端が上記ゲート本体昇降用ワイヤと同じ方向に回転するように連結され、
上記付属ゲート開閉部は、
上記ゲート本体に設けたゲート側閉用シーブと、該付属ゲート開閉部に設けた開閉部側閉用シーブとに掛けられた付属ゲート閉用ワイヤを上記付属ゲート閉用ドラムで巻き上げることで、下方に移動して上記付属ゲート用開口を閉じることができると共に、
上記付属ゲート開閉部に設けた開閉部側開用シーブに掛けられた上記付属ゲート開用ワイヤを上記付属ゲート開用ドラムで巻き上げることで、上方に移動して上記付属ゲート用開口を開くことができるように構成されている。
【0011】
上記の構成によると、付属ゲートに直接ワイヤをつないで強制的に開閉操作するのではなく、付属ゲート開閉部を介して付属ゲートを強制的に開閉できる。このため、付属ゲートの開閉動作と、ゲート本体の昇降動作とを両立させやすい。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、
上記一対のゲート本体昇降用ドラムは、1つのゲート開閉用電動機で同時に駆動可能に構成され、該ゲート開閉用電動機を駆動することで、上記ゲート本体昇降用ワイヤだけでなく、上記付属ゲート閉用ワイヤ及び上記付属ゲート開用ワイヤを巻き取り及び繰り出し可能に構成されている。
【0013】
上記の構成によると、ゲート開閉用電動機を駆動すると、一対のゲート本体昇降用ドラムが回転し、ゲート本体昇降用ワイヤだけでなく、付属ゲート閉用ワイヤ及び付属ゲート開用ワイヤを巻き取り及び繰り出し可能であるので、ゲート本体全体を昇降させるときに、付属ゲート閉用ドラム及び付属ゲート開用ドラムを同調制御しなくても付属ゲート閉用ワイヤ及び付属ゲート開用ワイヤが弛まず、ゲート本体の昇降制御が極めて容易である。
【0014】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
上記付属ゲート閉用ドラム及び上記付属ゲート開用ドラムは、1つの付属ゲート開閉用電動機で駆動可能に構成され、該付属ゲート開閉用電動機を駆動することで、上記付属ゲート開閉部を昇降させて上記付属ゲートを開閉可能に構成されている。
【0015】
上記の構成によると、付属ゲート開閉用電動機を駆動すると、付属ゲート閉用ドラム及び付属ゲート開用ドラムが同じ方向に回転し、互いに反対方向に巻かれた付属ゲート閉用ワイヤ及び付属ゲート開用ワイヤの巻き取り及び繰り出しを同時に行って付属ゲート開閉部の昇降動作を行い、結果として付属ゲートの開閉動作を行うことができるので、構造が簡単になるだけでなく、制御が極めて容易となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、付属ゲートに連結され、ゲート本体に沿って昇降することで、付属ゲート用開口を開閉可能な付属ゲート開閉部に適切なワイヤリングを行うことにより、付属ゲートの開閉動作及びゲート本体の開閉動作を簡単且つ確実に行える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る保安ゲートの強制開閉装置におけるワイヤリングの概要を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る保安ゲートの強制開閉装置を含む選択取水設備を示す正面図であり、保安ゲートを設ける同一の低層用取水ゲート2基が並列に設置され、左側が開状態を示し、右側が閉状態を示す。
【
図4】本発明の実施形態に係る保安ゲートの強制開閉装置の巻き取り装置を拡大して示す平面図であり、本体ゲート昇降用及び保安ゲート強制開閉用を示す。
【
図5】本発明の実施形態に係る保安ゲートを含む低層用取水ゲートを
図2のV方向から見た拡大矢視図である。
【
図6A】本発明の実施形態に係る保安ゲート用カートをさらに拡大して示す矢視図である。
【
図6B】本発明の実施形態に係る保安ゲート用カートを拡大して示す側面図である。
【
図7A】保安ゲートが自然に閉じた状態の低層用取水ゲート及びその周辺を示す断面図である。
【
図7B】保安ゲートが水位差によって開く状態の低層用取水ゲート及びその周辺を示す断面図である。
【
図7C】保安ゲートが強制的に開く状態の低層用取水ゲート及びその周辺を示す断面図である。
【
図7D】保安ゲートが強制的に閉じ始める状態の低層用取水ゲート及びその周辺を示す断面図である。
【
図7E】保安ゲートが強制的に閉じた状態の低層用取水ゲート及びその周辺を示す断面図である。
【
図8】上側棒状部材の上端及び棒状部材挿通部並びにその周辺を拡大して示し、(a)が正面図で、(b)が側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、保安ゲートを低層用取水ゲートに設けた場合の図面に基づいて説明する。各図面は、本発明をダム湖地山部傾斜面に、選択取水部と低層取水部とを分離して並列に設置した選択取水設備の低層取水ゲートに内蔵する保安ゲートに適用する場合を示す。
【0019】
図2及び
図3に示すように、本発明の実施形態の保安ゲートの強制開閉装置1は、例えばダムの発電用の取水口2に設けられた選択取水設備50に設けられている。詳しくは図示しないが、この選択取水設備50は、ダム貯水池内の澄んだ水を取水できる選択取水部(図示省略)と、それよりも低い層から取水する低層取水部50aとを備え、これらを選択して開閉させることで、例えば、ダム貯水池内の澄んだ層の水を取水口2を使って下流へ放流することにより、下流河川の環境の改善を図れるようになっている。選択取水設備50は、取水口2へゴミが流れ込まないようにする取水スクリーン51を備えている。
【0020】
本実施形態の強制開閉装置1を備えた保安ゲート4は、この低層取水部50a側に設けられており、昇降されることでダムの取水口2を開閉可能な取水ゲート本体3を備えている。
図5にも示すように、この取水ゲート本体3は、概ね矩形板状であり、その下側には、取水ゲート本体3に形成された例えば上下一対の矩形状の保安ゲート用開口3a(
図7Aに示す)を開閉可能な2枚の矩形板状の保安ゲート4が設けられている。なお、保安ゲート4は1枚のみ設けられていてもよい。
図1にも示すように、取水ゲート本体3の上端には、昇降操作に必要な一対のゲート昇降用シーブ3bが設けられている。
図5に示すように、取水ゲート本体3の左右両側には、取水ゲート本体3が低層取水部50aにおいて上下に滑らかに昇降するための複数のゲート本体用ローラ3cが設けられている。複数のゲート本体用ローラ3cの個数と位置は特に限定されない。
【0021】
図2及び
図4にも示すように、低層取水部50aの上側には、取水ゲート本体3を昇降可能に吊り下げるゲート本体昇降用ワイヤ5を巻き取り及び繰り出し可能なゲート本体昇降用ドラム6が設けられている。
図1にも示すように、ゲート本体昇降用ドラム6は、例えば、左右一対設けられ、ゲート開閉用電動機7a、ゲート開閉用減速機7b等を含む低層取水ゲート開閉装置7によって左右同時に回転可能に構成されている。左右一対のゲート本体昇降用ワイヤ5は、それぞれ一端がゲート本体昇降用ドラム6の外側部分6aに巻き取られ、他端5aがゲート昇降用シーブ3bを介して低層取水ゲート開閉装置7に固定されている。これにより、ゲート開閉用電動機7aを駆動して左右一対のゲート本体昇降用ドラム6を正回転又は逆回転することにより、取水ゲート本体3全体を昇降可能となっている。
【0022】
また、低層取水部50aの上側には、後述する保安ゲート用カート20を昇降させるために保安ゲート開閉装置10が設けられている。保安ゲート開閉装置10は、保安ゲート開用ドラム12及び保安ゲート閉用ドラム9を備え、これらのドラム9,12が1つの保安ゲート開閉用電動機10aによって歯車減速機10bを介して同時に駆動されるようになっている。なお、強制開閉の機構上は、保安ゲート閉用ドラム9と保安ゲート開用ドラム12を一体化することも可能であるが、保安ゲート閉用ワイヤ8及び保安ゲート開用ワイヤ11の調整時に、各々のドラム9,12を単独で駆動することができるように分離している。
【0023】
図5及び
図6A~
図6Cにも示すように、取水ゲート本体3には、保安ゲート4と棒状部材30によって連結され、取水ゲート本体3に沿って昇降することで、保安ゲート4を開閉可能な保安ゲート用カート20が設けられている。具体的には、保安ゲート用カート20は、鋼材等よりなるフレームで構成されたカート本体20aを備え、取水ゲート本体3のダム貯水池側(取水口2と反対側)には、互いに平行に延びる一対のレール部材3dが設けられている。この一対のレール部材3dに沿って、保安ゲート用カート20の左右外側に設けた例えば二対のカート用ローラ21がガイドされるように構成されている。保安ゲート用カート20の形状やカート用ローラ21の個数については、図示された本実施形態のものに限定されない。
図6Aに示すように、保安ゲート用カート20は、例えば、下側に1つのカート側閉用シーブ20bが設けられ、上側に1つのカート側開用シーブ20cが設けられている。シーブの個数や位置は、ワイヤリングに合わせて変更してもよい。
【0024】
本実施形態における保安ゲート4は、本実施形態では上下に一対設けられているが、その数は限定されない。一対の保安ゲートのそれぞれが取水口2の上流側(ダム貯水池側)と下流側(取水口2側)との水位差が所定の値(例えば1m)よりも大きくなると自動で開くように構成されている。例えば、
図7Aに示すように、保安ゲート4は、その上下の中心よりやや下側に設けた回動軸4aを中心に保安ゲート用開口3aの周縁に回動可能に支持され、水位差が小さな場合には、下側に設けた、鋼板の積層体等よりなるカウンタウェイト4bによって閉方向に回転して、保安ゲート用開口3aの周縁に当り、全閉状態で保持している。
図7Bに示すように、水位差が所定の値よりも大きくなると、水圧荷重の中心が回動軸4aよりも上側となって水圧荷重が作用し、保安ゲート4を開く側に回転モーメントが働き、カウンタウェイト4bによる閉まり側の回転モーメントに打ち勝って、カウンタウェイト4b側(下側)が取水口2と反対側(上流側)へ回動し、保安ゲート4が開く。水位差が所定の値よりも小さくなると、
図7Aに示すように、保安ゲート4は元の位置に戻る。上下一対の保安ゲート4は、保安ゲート用カート20に対し、この保安ゲート4の水位差による開き動作を阻害しないように、棒状部材30で連結されている。
【0025】
具体的には、
図5、
図7A等に示すように、この棒状部材30は、下側棒状部材31と上側棒状部材32とを備え、下側棒状部材31の下端31aが下側の保安ゲート4の下端取付部4cに回転可能に連結され、下側棒状部材31の上端31bが上側の保安ゲート4の下端取付部4cに連結されている。上側棒状部材32は、下側棒状部材31よりも長く、その下端32aは、上側の保安ゲート4の下端取付部4cに回転可能に連結され、上側棒状部材32の上端32bは、保安ゲート用カート20の棒状部材挿通部20dに抜け止めされた状態で挿通されている。つまり、
図8(a)及び
図8(b)に拡大して示すように、上側棒状部材32の上端32b側は、他の部分よりも外径が小さくなっており、上端32bは、それよりも外径が大きなナットなどを設けることで抜け止め部を構成している。これにより、上端32bは、棒状部材挿通部20dよりも下方には移動しないものの、上端32bよりも下方の小径部分は、棒状部材挿通部20d内を上下に摺動可能となっている。また、棒状部材挿通部20dは、ロッド支持ピン20fを中心に一対のベアリング20eに回動可能に支持されているため、上側棒状部材32の上端32b側はカート本体20aに対して揺動可能となり、棒状部材挿通部20d内を摺動しやすいように構成されている。このように、棒状部材挿通部20dには、上側棒状部材32の上側の小径部分のみが摺動可能となっているので、棒状部材30は、保安ゲート4の水位差による開き動作を阻害しないように、保安ゲート4と連結されている。
【0026】
図1に示すように、取水ゲート本体3の上流側面には、例えば一対のゲート側閉用固定シーブ3eが回転可能に設けられている。また、上述したように、保安ゲート用カート20の左右中央の下向きに延びるブラケットには、カート側閉用シーブ20bが設けられている。これら一対のゲート側閉用固定シーブ3e及びカート側閉用シーブ20bには、保安ゲート4の閉じ操作をするための保安ゲート閉用ワイヤ8が掛けられている。そして、
図1の左側のゲート本体昇降用ドラム6の内側部分6bには、この保安ゲート閉用ワイヤ8の一端がゲート本体昇降用ワイヤ5と同じ方向に巻き取られるように連結されている。保安ゲート閉用ワイヤ8の他端は、ゲート側閉用固定シーブ3e及びカート側閉用シーブ20bを通った後、保安ゲート閉用シーブ9aを通って保安ゲート閉用ドラム9に固定されている。これにより、保安ゲート閉用ドラム9で保安ゲート閉用ワイヤ8を巻き取ると、
図7Dに示すように、下方に引っ張られて強制的に保安ゲート用カート20がゲート側閉用固定シーブ3eに近付き、結果として、棒状部材30を押し下げて上下一対の保安ゲート4を閉じるように構成されている。
【0027】
一方で、
図1の右側のゲート本体昇降用ドラム6の内側部分6bには、保安ゲート開用ワイヤ11の一端がゲート本体昇降用ワイヤ5と同じ方向に巻き取られるように連結されている。保安ゲート開用ワイヤ11の他端は、カート側開用シーブ20c及び保安ゲート開用シーブ12aを通って保安ゲート開用ドラム12に保安ゲート閉用ドラム9とは反対巻きとなるように連結されている。保安ゲート開用ドラム12を回転させて保安ゲート開用ワイヤ11を巻き上げることで、
図7Cに示すように、保安ゲート用カート20が上方に移動し、棒状部材30を引っ張り、上下一対の保安ゲート4を回動させて保安ゲート用開口3aを開くことができるように構成されている。
【0028】
-強制開閉装置の作動-
次に、本実施形態に係る保安ゲート4の強制開閉装置1の作動について、
図1、
図4、
図7A~
図7Eを用いて説明する。
図7A~
図7Eでは、見やすくするために取水ゲート本体3は鉛直に描いているが、実際には、
図2に示すように、傾斜して設けられている場合の他、鉛直に設けられる場合もある。
【0029】
まず、取水ゲート本体3全体を上昇させる場合には、
図1及び
図4に示したように、ゲート開閉用電動機7aを駆動してゲート本体昇降用ドラム6を回動させてゲート本体昇降用ワイヤ5を巻き上げる。すると、一対のゲート本体昇降用ドラム6の内側部分6bもそれぞれ同時に回転するので、保安ゲート閉用ドラム9及び保安ゲート開用ドラム12を回転させなくても、保安ゲート閉用ワイヤ8及び保安ゲート開用ワイヤ11も同時に巻き上げられる。このため、これらのワイヤ8,11が弛むことはない。したがって、左右一対のゲート本体昇降用ドラム6の同調制御をしなくてよいだけでなく、保安ゲート開閉装置10の同調制御も行う必要がないので、制御が極めて容易である。取水ゲート本体3全体を下降させる場合は、一対のゲート本体昇降用ドラム6を反対方向に回転させるだけでよい。このように、本実施形態では、ゲート本体昇降用ドラム6の数を減らして構造を簡易化できるだけでなく、一対のゲート本体昇降用ドラム6によって同時に異なる機能を有するワイヤ5,8,11の巻き取りと繰り出しとを行えるので、制御が極めて容易となる。
【0030】
図7Aに保安ゲート4が自然に閉じた状態の低層用取水ゲート及びその周辺を示す。保安ゲート4はカウンタウェイト4bの重みで、水位差が1mを超えない限り、通常は保安ゲート用開口3aを閉じている。
【0031】
図7Bに保安ゲート4が水位差によって開く状態の低層用取水ゲート及びその周辺を示す。水位差が1mを超えると、水圧がカウンタウェイト4bの押下力に打ち勝って上下の保安ゲート4を
図7Bで上周りに回動させ、保安ゲート用開口3aを開き、この保安ゲート用開口3aを通ってダム貯水池の水が取水口2側へ流れ込む。このとき、保安ゲート用カート20は移動せず待機位置にある。一対の保安ゲート4が上周りに回動して棒状部材30が上側に押し出されても、上側棒状部材32の上端側は、棒状部材挿通部20dに挿通された状態で上側に移動できるからである。このため、いずれのワイヤ5,8,11も弛んだり引っ張られたりしない。
【0032】
図7Cに保安ゲート4が強制的に開く状態の低層用取水ゲート及びその周辺を示す。この場合は、保安ゲート用カート20を上昇させて保安ゲート4を強制的に開く。具体的には、
図4に示す保安ゲート開閉装置10の保安ゲート開閉用電動機10aを駆動し、保安ゲート開用ドラム12を回転させて保安ゲート開用ワイヤ11を巻き上げる。このとき、反対向きに巻かれた保安ゲート閉用ドラム9から保安ゲート閉用ワイヤ8が同時に繰り出されるので、保安ゲート用カート20の上昇動作を阻害しない。保安ゲート用カート20が上昇することで、上側棒状部材32の上端32bが棒状部材挿通部20dに引っかかり、棒状部材30を引っ張る。これにより、上下の保安ゲート4が強制的に上周りに回動され、上下の保安ゲート用開口3aが開く。
【0033】
図7Dに保安ゲートが強制的に閉じ始める状態の低層用取水ゲート及びその周辺を示す。この場合は、保安ゲート用カート20を下降させて保安ゲート4を強制的に閉じる。具体的には、保安ゲート開閉装置10の保安ゲート開閉用電動機10aを駆動し、保安ゲート閉用ドラム9を回転させて保安ゲート閉用ワイヤ8を巻き上げる。このとき、同時に保安ゲート開用ドラム12から反対方向に巻かれた保安ゲート開用ワイヤ11が繰り出されるので、保安ゲート用カート20の下降動作を阻害しない。保安ゲート用カート20が下降することで、上側棒状部材32の小径部分が棒状部材挿通部20dを通過するが、
図7Dに示す段階よりも保安ゲート用カート20がさらに下降すると、棒状部材挿通部20dが上側棒状部材32の上下中間の大径部分に当接し、棒状部材30を押し下げ始める。これにより、上下の保安ゲート4が強制的に下向きに回動され、
図7Eに示すように、上下の保安ゲート用開口3aが閉じる。
【0034】
このように、本実施形態では、保安ゲート4に直接ワイヤをつないで強制的に開閉操作するのではなく、保安ゲート用カート20を介して保安ゲート4を強制的に開閉するようにしているので、多彩なワイヤリングが可能になる。このため、保安ゲート4の開閉動作と、取水ゲート本体3の昇降動作とを両立させやすい。保安ゲート用開口3aを閉じているときに水位差で開閉可能なように保安ゲート4に適度な遊びを与えたとしても、保安ゲート用カート20と、その保安ゲート閉用ワイヤ8及び保安ゲート開用ワイヤ11との間を弛ませる必要がない。
【0035】
本実施形態では、棒状部材30によって水位差による保安ゲート4の開閉動作を阻害しないようにしているので、各ワイヤ5,8,11に遊びを設けた場合でも各ワイヤ5,8,11が各シーブから外れるような不都合はなく、また、保安ゲート4の開閉動作が安定し、耐久性も上がる。
【0036】
本実施形態では、保安ゲート閉用ワイヤ8を巻き上げて強制的に保安ゲート用カート20を引き下げることで、水位差にかかわらず、保安ゲート4で保安ゲート用開口3aを確実に閉じることができ、また、水位差が所定値よりも大きくならなくても、保安ゲート開用ワイヤ11を巻き上げて保安ゲート用カート20を引き上げることで、強制的に確実に保安ゲート用開口3aを開くことができる。
【0037】
すなわち、本実施形態では、簡単な構成により、ワイヤ8,11を操作することで保安ゲート用カート20を昇降させ、結果として保安ゲート4を強制的に開閉することができる。
【0038】
したがって、本実施形態に係る保安ゲート4の強制開閉装置1によると、保安ゲート4に連結され、取水ゲート本体3に沿って昇降することで、保安ゲート4を開閉可能な保安ゲート用カート20を設けたことにより、保安ゲート4を確実に開閉できる。また、必要なときに保安ゲート4を強制的に開閉できる信頼性の高い選択取水設備50が得られる。
【0039】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0040】
すなわち、上記実施形態では、上側棒状部材32の上端32b側は、一対のベアリング20eに回動可能に支持された棒状部材挿通部20dに摺動可能に挿通するようにしたが、これに限定されない。要は、上側棒状部材32の上端32b側が所定範囲内で自由に上下摺動でき、その範囲を超えると、保安ゲート用カート20を昇降操作できるように構成すればよい。
【0041】
上記実施形態では、保安ゲート4を低層取水部50aに設けた場合について説明したが、多段式ゲートの最下段に設ける場合にも適用できる。また、保安ゲート4は、傾斜面に設けたが、鉛直面に設けてもよい。
【0042】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0043】
1 強制開閉装置
2 取水口
3 取水ゲート本体
3a 保安ゲート用開口(付属ゲート用開口)
3b ゲート昇降用シーブ
3c ゲート本体用ローラ
3d レール部材
3e ゲート側閉用固定シーブ(ゲート側閉用シーブ)
4 保安ゲート(付属ゲート)
4a 回動軸
4b カウンタウェイト
4c 下端取付部
5 ゲート本体昇降用ワイヤ
5a 他端
6 ゲート本体昇降用ドラム
6a 外側部分
6b 内側部分
7 低層取水ゲート開閉装置
7a ゲート開閉用電動機
7b ゲート開閉用減速機
8 保安ゲート閉用ワイヤ(付属ゲート閉用ワイヤ)
9 保安ゲート閉用ドラム(付属ゲート閉用ドラム)
10a 保安ゲート開閉用電動機(付属ゲート開閉用電動機)
10b 歯車減速機
11 保安ゲート開用ワイヤ(付属ゲート開用ワイヤ)
12 保安ゲート開用ドラム(付属ゲート開用ドラム)
12a 保安ゲート開用シーブ
20 保安ゲート用カート(付属ゲート開閉部)
20a カート本体
20b カート側閉用シーブ(開閉部側閉用シーブ)
20c カート側開用シーブ(開閉部側開用シーブ)
20d 棒状部材挿通部
20e ベアリング
20f ロッド支持ピン
21 カート用ローラ
30 棒状部材
31 下側棒状部材
31a 下端
31b 上端
32 上側棒状部材
32a 下端
32b 上端
50 選択取水設備
50a 低層取水部
51 取水スクリーン