(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20240308BHJP
F01L 1/356 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F01L1/356 D
(21)【出願番号】P 2020114251
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 友紀
(72)【発明者】
【氏名】中井 敬野
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】鴨山 剛之
(72)【発明者】
【氏名】弘田 徹
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-098369(JP,A)
【文献】特開2013-160068(JP,A)
【文献】特開2006-125334(JP,A)
【文献】特開2017-192214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34
F02D 13/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
前記回転軸芯と同軸芯で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体との相対回転位相を設定する電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータの駆動を制御する制御部と、
前記相対回転位相を記憶する記憶部と、備え、
前記記憶部は、前記内燃機関が停止したとき、次回に前記内燃機関が始動する次回始動時の前記相対回転位相となる目標位相を記憶し、
前記制御部は、前記次回始動時において前記内燃機関の制御装置が
前記制御部に前記相対回転位相を変位させるように命令を出すまでに、
前記電動アクチュエータを駆動させて前記従動側回転体を前記駆動側回転体に対して相対変位させて、前記記憶部に記憶された前記目標位相に基づいて前記相対回転位相を前記目標位相に到達させる変位を開始させる弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記内燃機関が停止したときに前記内燃機関の前記制御装置から出力される記憶命令に基づいて前記目標位相を記憶する請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータの駆動力により駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を設定する弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、回転軸芯と同軸芯で内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を設定する電動アクチュエータと、を備えた弁開閉時期制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような電動式の弁開閉時期制御装置は、油圧式の弁開閉時期制御装置に比べて位相制御の応答性が早く、エンジン始動時におけるクランキングに適した相対回転位相に設定する上で、有効である。
【0003】
特許文献1に記載の弁開閉時期制御装置は、内燃機関が停止したとき、停止判定手段が停止状態にあると判定し、電動アクチュエータの入力トルクを制御することにより、最遅角位相又は最進角位相に相対回転位相を設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内燃機関が停止したときには、カムトルクにより相対回転位相が変位する。このため、次回に内燃機関が始動する次回始動時には、始動に適した目標位相となるように、内燃機関の制御装置からの位相命令に基づいて電動アクチュエータを制御して相対回転位相に変位させることとなる。
【0006】
この内燃機関の制御装置は、アイドリングストップでは起動したままであるが、イグニションスイッチがオフとなった場合には起動が停止される。このため、次回始動時に内燃機関の制御装置からの位相命令を受信するまで、電動アクチュエータは相対回転位相を変位させることをしない。つまり、従来の弁開閉時期制御装置では、次回始動時にイグニションスイッチがオンとなり暫くしてから内燃機関の制御装置の起動が完了し、弁開閉時期制御装置が内燃機関の制御装置から位相命令を受信した後、電動アクチュエータが相対回転位相の変位を開始することとなる。その結果、イグニションスイッチがオンとなって内燃機関がクランキングを開始するまでに、クランキングに適した目標位相に変位させることができないおそれがあった。
【0007】
そこで、内燃機関がクランキングを開始するまでに、相対回転位相をクランキングに適した目標位相に確実に変位させることが可能な弁開閉時期制御装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯と同軸芯で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との相対回転位相を設定する電動アクチュエータと、前記電動アクチュエータの駆動を制御する制御部と、前記相対回転位相を記憶する記憶部と、備え、前記記憶部は、前記内燃機関が停止したとき、次回に前記内燃機関が始動する次回始動時の前記相対回転位相となる目標位相を記憶し、前記制御部は、前記次回始動時において前記内燃機関の制御装置が前記制御部に前記相対回転位相を変位させるように命令を出すまでに、前記電動アクチュエータを駆動させて前記従動側回転体を前記駆動側回転体に対して相対変位させて、前記記憶部に記憶された前記目標位相に基づいて前記相対回転位相を前記目標位相に到達させる変位を開始させる点にある。
【0009】
本構成に係る弁開閉時期制御装置は、電動アクチュエータの駆動を制御する制御部と、相対回転位相を記憶する記憶部と、を備えている。この弁開閉時期制御装置の制御部は、内燃機関の制御装置と異なり、制御対象が少ないため、イグニションスイッチがオンとなってからの起動に要する時間が短い。
【0010】
そこで、本構成における記憶部は、内燃機関が停止したときに次回始動時の目標位相を記憶し、制御部は、次回始動時において内燃機関の制御装置が起動を完了するまでに、記憶部に記憶された目標位相に基づいて電動アクチュエータを制御し、相対回転位相を目標位相に到達させる変位を開始させる。つまり、速やかに起動する弁開閉時期制御装置の制御部が、内燃機関の制御装置から出力される位相命令を待つことなく、記憶部に記憶された目標位相を用いて電動アクチュエータを制御し、相対回転位相の変位を開始させる。その結果、イグニションスイッチがオンとなって内燃機関がクランキングを開始するまでに、相対回転位相をクランキングに適した目標位相に変位させることができる。
【0011】
このように、内燃機関がクランキングを開始するまでに、相対回転位相をクランキングに適した目標位相に確実に変位させることが可能な弁開閉時期制御装置を提供できた。
【0012】
他の特徴構成は、前記記憶部は、前記内燃機関が停止したときに前記内燃機関の前記制御装置から出力される記憶命令に基づいて前記目標位相を記憶する点にある。
【0013】
本構成では、内燃機関が停止したときに記憶部が記憶する次回始動時の目標位相は、内燃機関の制御装置からの出力される記憶命令に基づいている。つまり、記憶部は、目標位相を常時記憶する必要がなく、内燃機関の制御装置から記憶命令が出力されたときのみ目標位相を記憶するので、記憶容量を増加させることなく、相対回転位相をクランキングに適した目標位相に確実に変位させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】弁開閉時期制御装置の断面図及びブロック図である。
【
図2】エンジン始動時のタイムチャートを示す図である。
【
図3】弁開閉時期制御装置の制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る弁開閉時期制御装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、弁開閉時期制御装置の一例として、エンジンEの吸気側に設けられた弁開閉時期制御装置100として説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0016】
図1に示すように、内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト1と回転軸芯Xを中心に同期回転する駆動側回転体Aと、駆動側回転体Aの径方向内側に配置され、回転軸芯Xを中心にして弁開閉用の吸気カムシャフト2(カムシャフトの一例)と一体回転する従動側回転体Bと、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定する電動モータで構成される位相制御モータM(電動アクチュエータの一例)と、電動VVTの制御ユニット10と、を備えて弁開閉時期制御装置100が構成されている。以下、電動式の弁開閉時期制御装置100として「電動VVT」と称する場合がある。
【0017】
エンジンEは、シリンダブロックに形成された複数のシリンダ3にピストン4を収容し、そのピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト1に連結した4サイクル型に構成されている。このエンジンEのクランクシャフト1の出力スプロケット1Sと、駆動側回転体Aの駆動スプロケット11Sとに亘ってタイミングチェーン6(タイミングベルト等でも良い)が巻回されている。これにより、エンジンEのクランクシャフト1の回転が駆動側回転体Aに伝達される。エンジンEの駆動は、制御装置としての上位ECU50(エンジンコントロールユニット、内燃機関の制御装置の一例)により制御される。上位ECU50は、各種処理を実行するCPUやメモリを中核としたソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアとの協働により構成されている。
【0018】
これによりエンジンEの駆動時には弁開閉時期制御装置100の全体が回転軸芯Xを中心に回転する。また、位相制御モータMの駆動力により後述する位相調節機構Cを作動させ駆動側回転体Aに対して従動側回転体Bを回転方向と同方向又は逆方向に相対変位可能となる。この変位により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、吸気カムシャフト2のカム部2Aによる吸気バルブ2Bの開閉時期(開閉タイミング)の制御が実現する。
【0019】
尚、従動側回転体Bが駆動側回転体Aの回転方向と同方向に変位する作動を進角作動と称し、この進角作動により吸気圧縮比が増大する。また、従動側回転体Bが駆動側回転体Aと逆方向に変位する作動を遅角作動と称し、この遅角作動により吸気圧縮比が低減する。
【0020】
〔弁開閉時期制御装置〕
駆動側回転体Aは、回転軸芯Xを中心とする筒状の本体部Aaと、本体部Aaと同期回転するオルダム継手Cxおよび入力ギヤ30とを備えている。本体部Aaは、外周に駆動スプロケット11Sが形成されたアウタケース11と、フロントプレート12と、を複数の締結ボルト13で締結して構成されている。アウタケース11は、底部に開口を有する有底筒状型である。駆動側回転体Aの一部を構成するオルダム継手Cxおよび入力ギヤ30は、後述する位相調節機構Cとしても機能する。オルダム継手Cxを介して入力ギヤ30は本体部Aaに連結されている。
【0021】
アウタケース11の内部空間に中間部材20(従動側回転体Bの一例)と、ハイポサイクロイド型のギヤ減速機構を有した位相調節機構Cとが収容されている。また、位相調節機構Cは、位相変化を駆動側回転体Aおよび従動側回転体Bに反映するオルダム継手Cxを備えており、このオルダム継手Cxは回転軸芯X方向において中間部材20とフロントプレート12との間に配置されている。フロントプレート12のうちオルダム継手Cxと対向する面には、回転軸芯X方向に僅かな隙間となる潤滑凹部12aが形成されている。
【0022】
従動側回転体Bを構成する中間部材20は、回転軸芯Xに直交する姿勢で吸気カムシャフト2に連結される支持壁部21と、回転軸芯Xを中心とする筒状で吸気カムシャフト2から離間する方向に突出する筒状壁部22とが一体形成されている。
【0023】
この中間部材20は、筒状壁部22の外面がアウタケース11の内面に接触する状態で相対回転自在に挿入されており、支持壁部21の中央の貫通孔に挿通する連結ボルト23により吸気カムシャフト2の端部に固定されている。中間部材20の支持壁部21のうち、吸気カムシャフト2に当接する面の一部には偏芯部材26の内部にオイルを案内する開口部21aが形成されている。
【0024】
位相制御モータMは、その出力軸Maを回転軸芯Xと同軸芯上に配置するように支持フレーム7によりエンジンEに支持されている。位相制御モータMの出力軸Maには回転軸芯Xに対して直交する姿勢の一対の係合ピン8が形成されている。
【0025】
位相調節機構Cは、位相制御モータMの駆動力により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を変更するように複数の部材で構成されている。この位相調節機構Cは、中間部材20と、中間部材20の筒状壁部22の内周面に形成される出力ギヤ25と、偏芯部材26と、板ばね27と、第1軸受28と、第2軸受29と、固定リング31と、オルダム継手Cxと、入力ギヤ30と、を備えている。
【0026】
中間部材20の筒状壁部22の内周のうち、回転軸芯Xに沿う方向で内側(支持壁部21に隣接する位置)に回転軸芯Xを中心とする支持面22Sが形成され、支持面22Sより回転軸芯Xに沿う方向で外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に回転軸芯Xを中心とする出力ギヤ25が一体的に形成されている。
【0027】
偏芯部材26は筒状であり、この偏芯部材26は、回転軸芯Xに沿う方向での内側(吸気カムシャフト2に近い側)に従動側回転体B(中間部材20)の径方向内側を支持する第一部分26Aと、回転軸芯Xに沿う方向での外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に駆動側回転体A(入力ギヤ30)の径方向内側を支持する第二部分26Bと、を有している。第二部分26Bには、回転軸芯Xに平行となる姿勢で且つ回転軸芯Xに対して所定の偏芯量Dyで偏芯する偏芯軸芯Yを中心とする外周面である偏芯支持面26Eが形成されている。この偏芯支持面26Eの外周に形成した凹部26Fに板ばね27が嵌め込まれている。また、第一部分26Aには、この板ばね27の径方向の外面よりも更に径方向外側に突出させた突出部26Sが形成されている。この突出部26Sの外周面には回転軸芯Xを中心とする円周支持面26Saが形成されている。
【0028】
偏芯部材26の内周には、位相制御モータMの一対の係合ピン8の各々が係合可能な一対の係合溝26Tが回転軸芯Xと平行姿勢で形成されている。更に、偏芯部材26の回転軸芯Xに沿う方向で内側(支持壁部21の側)の端部には径方向外側に突出した環状の突起26aが形成されている。この突起26aは、回転軸芯Xに沿う方向で従動側回転体Bの支持壁部21と第1軸受28との間に挟まれており、偏芯部材26の抜け止め機能を有している。
【0029】
この位相調節機構Cでは、入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されている。そして、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛合する。板ばね27は、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部を出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛み合わせるように、入力ギヤ30に付勢力を作用させる。この板ばね27の付勢力により、入力ギヤ30と出力ギヤ25との噛み合い部におけるバックラッシュを無くすことができる。
【0030】
固定リング31はC字状の環状部材であり、偏芯部材26の偏芯支持面26Eよりも回転軸芯X方向の外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に嵌合状態で固定されることにより第2軸受29の抜け止めが行われる。
【0031】
オルダム継手Cxは、板状の継手部材で構成されており、一対の外部係合アーム(不図示)をアウタケース11に係合させ、一対の内部係合アーム(不図示)を入力ギヤ30に係合させている。オルダム継手Cxはアウタケース11に対して外部係合アームが突出する第1方向に変位可能となり、このオルダム継手Cxに対して内部係合アームの形成方向に沿う第2方向に入力ギヤ30が変位自在となっている。
【0032】
オイルポンプPから供給される潤滑油は、吸気カムシャフト2の潤滑油路15から、中間部材20の支持壁部21の開口部21aを介して偏芯部材26の内部空間に供給される。このように供給された潤滑油は、遠心力により偏芯部材26の突起26aと従動側回転体Bの支持壁部21との隙間から第1軸受28に供給され第1軸受28を円滑に作動させる。これと同時に、偏芯部材26の内部空間の潤滑油は遠心力によりオルダム継手Cxに供給されると共に、第2軸受29に供給され、出力ギヤ25の内歯部25Aと入力ギヤ30の外歯部30Aとの間に供給される。そして、このオルダム継手Cxに供給された潤滑油は、オルダム継手Cxとアウタケース11との間の隙間から外部に排出される。
【0033】
上記構成により、吸気カムシャフト2の端部に中間部材20の支持壁部21が連結ボルト23により連結されており、吸気カムシャフト2と中間部材20とが一体回転する。偏芯部材26は第1軸受28により中間部材20に対して回転軸芯Xを中心に相対回転自在に支持されている。この偏芯部材26の偏芯支持面26Eに対し第2軸受29を介して入力ギヤ30が支持され、板ばね27の付勢力により入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛み合っている。また、オルダム継手Cxの外方側にフロントプレート12が配置されるため、オルダム継手Cxはフロントプレート12の内面に接触する状態で回転軸芯Xに対して直交する方向に移動可能となる。さらに、位相制御モータMの出力軸Maに形成された一対の係合ピン8が、偏芯部材26の係合溝26Tに係合している。
【0034】
位相制御モータMは、制御ユニット10によって制御される。エンジンEにはクランクシャフト1と吸気カムシャフト2の回転速度(単位時間あたりの回転数)と、各々の回転位相とを検知可能なセンサ(不図示)を備えており、これらのセンサの検知信号を上位ECU50に入力するように構成されている。上位ECU50から相対回転位相を維持する位相指令を受けた制御ユニット10は、エンジンEの駆動時において位相制御モータMを吸気カムシャフト2の回転速度と等しい速度で駆動することで相対回転位相を維持する。これに対して、上位ECU50から相対回転位相を変位させる位相指令を受けた制御ユニット10は、位相制御モータMの回転速度を吸気カムシャフト2の回転速度より低減することにより進角作動が行われ、これとは逆に回転速度が増大することにより遅角作動が行われる。
【0035】
位相制御モータMがアウタケース11と等速(吸気カムシャフト2と等速)で回転する場合には、出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aの噛み合い位置が変化しないため、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相は維持される。
【0036】
これに対してアウタケース11の回転速度より高速又は低速で位相制御モータMの出力軸Maを駆動回転することにより、位相調節機構Cにおける偏芯軸芯Yが回転軸芯X周りに公転する。この公転により出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aに対する噛み合い位置が出力ギヤ25の内周に沿って変位し、入力ギヤ30と出力ギヤ25との間には回転力が作用する。つまり、出力ギヤ25には回転軸芯Xを中心とする回転力が作用し、入力ギヤ30には偏芯軸芯Yを中心に自転させようとする回転力が作用する。
【0037】
前述したように入力ギヤ30は、オルダム継手Cxの内部係合アームに係合するためアウタケース11に対して自転することはなく、駆動側回転体Aの本体部Aaの回転力が出力ギヤ25に作用する。この回転力の作用により出力ギヤ25と共に中間部材20が、アウタケース11に対し回転軸芯Xを中心に回転する。その結果、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相が設定され、吸気カムシャフト2による開閉時期の設定が実現される。
【0038】
また、入力ギヤ30の偏芯軸芯Yが回転軸芯X周りに公転する際には、入力ギヤ30の変位に伴い、オルダム継手Cxは、アウタケース11に対して外部係合アームが突出する方向(第1方向)に変位し、入力ギヤ30は、内部係合アームが突出する方向(第2方向)へ変位する。
【0039】
前述したように入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されているため、入力ギヤ30の偏芯軸芯Yが回転軸芯Xを中心に1回転だけ公転した場合には、1歯分だけ出力ギヤ25が回転することになり大きい減速を実現している。
【0040】
〔電動VVTの制御ユニット〕
制御ユニット10は、位相制御モータMの駆動を制御する制御部10aと、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相(以下、単に「相対回転位相」と称する場合がある)を記憶する記憶部10bとを有している。この制御ユニット10は、エンジンEの駆動を制御する上位ECU50とケーブル等の有線を介して電気的に接続されている。このため、制御ユニット10と上位ECU50とは、様々な情報を互いに送受信可能に構成されている。尚、制御ユニット10と上位ECU50とを、無線通信可能に構成しても良い。制御部10aは、各種処理を実行するCPUやメモリを中核としたソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアとの協働により構成されている。記憶部10bは、ハードディスクや不揮発メモリ等から構成されている。
【0041】
上位ECU50では、吸気カムシャフト2の回転位相等を検知したセンサ情報から得られた現在の相対回転位相(実位相)と、エンジンEの運転状態に応じて設定される最適な相対回転位相である目標位相と、を制御ユニット10に送信する。制御部10aは、エンジンEの駆動を制御する上位ECU50からの位相指令を受信して、現在の相対回転位相が目標位相となるように位相制御モータMの駆動(出力軸Maの回転速度)を制御し、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相を設定する。
【0042】
本実施形態の記憶部10bは、上位ECU50から位相指令を受けた目標位相を常時記憶することなく、上位ECU50からの記憶命令に基づいて、上位ECU50から出力された目標位相を記憶するように構成されている。記憶部10bは、エンジンEが停止したとき、次回にエンジンEが始動する次回始動時の相対回転位相となる目標位相を記憶し、制御部10aは、次回始動時において上位ECU50が起動を完了するまでに、記憶部10bに記憶された目標位相に基づいて位相制御モータMを制御して、相対回転位相を目標位相に到達させる変位を開始させる。
【0043】
以下、本実施形態における制御ユニット10について、
図2~
図3を用いて詳述する。
【0044】
図2には、エンジンEが停止してから次回にエンジンEを始動するときにおける相対回転位相のタイムチャートが示されている。
図2の「実位相」において示す破線は、従来の弁開閉時期制御装置の制御形態であり、
図2の「実位相」において示す実線は、本実施形態における弁開閉時期制御装置100の制御形態である。
【0045】
図2の実位相に示すように、エンジンEを停止したときの相対回転位相は、カムトルクにより変位する(例えば進角側に変位する)ため、エンジン始動時の目標位相(例えば最遅角位相)と異なる。このため、エンジンEの始動を開始したとき、相対回転位相(実位相)をクランキングに適した目標位相に変位させる必要がある。
図2の実位相における破線に示すように、従来の弁開閉時期制御装置では、エンジンEを停止してから次回にエンジンEを始動するとき、イグニションスイッチをオンにすると上位ECU50が起動し、上位ECU50の起動が完了した後に、上位ECU50からの位相指令に基づいて、位相制御モータMを制御して、相対回転位相の変位を開始する。この場合、セルモータが始動してクランキングを開始するまでに、目標位相に到達できないことがあった。
【0046】
そこで、本実施形態では、
図2の実位相における実線に示すように、記憶部10bは、エンジンEが停止したとき(
図3の#32、以下同様)、上位ECU50から出力される次回始動時の相対回転位相となる目標位相の記憶命令に基づいて、次回にエンジンEが始動する次回始動時の相対回転位相となる目標位相を記憶する(#33,#34)。そして、次回にエンジンEが始動するとき、制御ユニット10が起動を完了するタイミングで、制御部10aが記憶部10bを参照し、記憶部10bに記憶された目標位相に基づいて位相制御モータMを制御して、相対回転位相の変位を開始する(#37,#39)。この制御ユニット10の起動が完了するタイミングは、上位ECU50の起動が完了するタイミングよりも早い(上位ECUの起動処理時間よりも電動VVTの制御ユニット10の起動処理時間の方が短い)。このため、本実施形態に係る弁開閉時期制御装置100は、従来の弁開閉時期制御装置に比較して、目標位相に早く到達することが可能となる。その結果、セルモータが始動してクランキングを開始するまでに、相対回転位相(実位相)を目標位相に確実に到達させることができる。
【0047】
図3には、本実施形態に係る弁開閉時期制御装置100に制御フローが示されている。
図2のタイムチャートは、
図3の制御フロー順(♯)と対応させている。エンジンEが駆動しているとき、弁開閉時期制御装置100の制御部10aは、上位ECU50からの位相指令に基づいて、相対回転位相を制御する(♯31)。そして、イグニションスイッチをオフにしてエンジンEを停止した場合(♯32YES)、制御部10aは、上位ECU50から出力される次回始動時の相対回転位相となる目標位相の位相指令に基づいて相対回転位相を目標位相に変位させると共に、上位ECU50から出力される目標位相の記憶指令に基づいて、記憶部10bに目標位相を記憶させる(♯33,♯34)。そして、電動VVTの制御ユニット10の電源がオフとなり、エンジンE停止時の処理が完了する(♯35)。
【0048】
次いで、イグニションスイッチがオンとなってエンジンEが始動するとき(#36)、電動VVTの制御ユニット10の電源がオンとなり(#37)、制御部10aは、上位ECU50からの位相指令があるか否かを判定する(♯38)。エンジンEが停止してから次回にエンジンEが始動する次回始動時のように、上位ECU50からの位相指令がない場合(♯38NO)、制御部10aが記憶部10bを参照し、記憶部10bに記憶された目標位相に基づいて位相制御モータMを制御して、相対回転位相を目標位相に到達させる変位を開始して(♯39)、完了させる。その結果、
図2の実位相における破線に示す従来例に比べて、
図2の実位相における実線に示す本実施形態は、セルモータが始動してクランキングを開始するまでに、目標位相に確実に到達させることができる。換言すれば、相対回転位相が目標位相に到達してから、セルモータが始動してクランキングが開始する。クランキングが終了した後のように、上位ECU50が起動を完了している場合には(♯38YES)、制御部10aが上位ECU50からの位相指令に基づいて、位相制御モータMを制御して、相対回転位相の変位を実行する。
【0049】
[その他の実施形態]
(1)記憶部10bは、制御ユニット10に備える実施形態を示したが、クラウドサーバ等で構成して、制御ユニット10と無線通信可能に構成しても良い。
(2)記憶部10bは、上位ECU50から位相指令を受けた目標位相を常時記憶することなく、上位ECU50からの記憶命令に基づいて目標位相を記憶する例を示した。これに代えて、記憶部10bは、上位ECU50から位相指令を常時記憶して、常時上書き、又は、所定の記憶容量を超えたら古い情報に上書きするように構成しても良い。この場合、記憶部10bの記憶作動は、上位ECU50からの位相指令を省略することができる。
(3)電動VVTとしての弁開閉時期制御装置100は、上述した実施形態に限定されず、電動アクチュエータで相対回転位相を変位させるものであれば、どのような構成であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、電動アクチュエータの駆動力により駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を設定する弁開閉時期制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 :クランクシャフト
2 :吸気カムシャフト(カムシャフト)
10 :制御ユニット
10a :制御部
10b :記憶部
50 :上位ECU(内燃機関の制御装置)
100 :弁開閉時期制御装置
A :駆動側回転体
B :従動側回転体
E :エンジン(内燃機関)
M :位相制御モータ(電動アクチュエータ)
X :回転軸芯