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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20240308BHJP
   F01L 1/356 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F01L1/356 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020114252
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012430
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 友紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀悟
(72)【発明者】
【氏名】中井 敬野
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】鴨山 剛之
(72)【発明者】
【氏名】弘田 徹
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-013975(JP,A)
【文献】特開平06-343285(JP,A)
【文献】特開2009-177988(JP,A)
【文献】特開2003-189672(JP,A)
【文献】特開2013-118782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 ー 45/00
F01L 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
前記回転軸芯と同軸芯で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
噛み合い位置の変位により前記駆動側回転体と前記従動側回転体との相対回転位相を設定するギヤ機構と、
回転軸を回転させることにより前記ギヤ機構の前記噛み合い位置を変位させることが可能なモータと、
前記モータの駆動を制御する制御部と、備え、
前記制御部は、前記内燃機関が停止して前記モータへの通電を停止した後、前記モータの各相に対して順番に所定時間1相通電を行う制御を間欠的に実行する弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記1相通電と次回の前記1相通電との間隔を時間に基づいて制御する請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記1相通電と次回の前記1相通電との間隔を前記モータの回転角度に基づいて制御する請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記回転角度に基づいて、前記1相通電の対象となる前記モータの相を決定する請求項3に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの駆動力により駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を設定する弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、回転軸芯と同軸芯で内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を設定する三相モータと、を備えた弁開閉時期制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような電動式の弁開閉時期制御装置は、油圧式の弁開閉時期制御装置に比べて位相制御の応答性が早く、エンジン始動時におけるクランキングに適した相対回転位相に設定する上で、有効である。
【0003】
特許文献1に記載の弁開閉時期制御装置は、内燃機関の停止後において、モータトルクを磁気保持トルク(コギングトルク)及びカムトルクとバランスさせるバランス手段と、磁気保持トルク及びカムトルクとバランスさせた状態でモータトルクを消失させる消失手段とを備えている。具体的には、カムトルクの方向を三相モータへの通電量と相対回転位相の変化量から推定し、このカムトルクに対抗する方向にモータトルクが加えられるように三相モータへの3相通電を実行した後、この3相通電量を徐々に減少させてモータトルクを消失させると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-013975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、三相モータへの通電を停止したときにおいては、三相モータの回転軸には回転をし続けようとする慣性力が働いており、この慣性力がコギングトルク及びカムトルクを下回るまで回転軸は回転し続ける。つまり、特許文献1に記載の弁開閉時期制御装置においては、カムトルク及びコギングトルクとバランスさせた状態でモータトルクを消失させたとしても、三相モータの回転軸が回転し続けてしまう。その結果、動摩擦が支配的となり、コギングトルクがカムトルク等の発生トルクを上回る静止摩擦状態となるまで、該回転軸の回転により相対回転位相が変位し続け、エンジンを次回始動するときに最適な目標位相とするのに時間を要することとなる。
【0006】
そこで、エンジン停止時において相対回転位相の変位を抑制することにより、エンジン始動時に目標位相へと迅速に変位させることが可能な弁開閉時期制御装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯と同軸芯で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、噛み合い位置の変位により前記駆動側回転体と前記従動側回転体との相対回転位相を設定するギヤ機構と、回転軸を回転させることにより前記ギヤ機構の前記噛み合い位置を変位させることが可能なモータと、前記モータの駆動を制御する制御部と、備え、前記制御部は、前記内燃機関が停止して前記モータへの通電を停止した後、前記モータの各相に対して順番に所定時間1相通電を行う制御を間欠的に実行する点にある。
【0008】
内燃機関が停止したとき、次回始動時の最適な目標位相に相対回転位相を設定したとしても、カムシャフトが回転し続けようとする慣性力やモータが回転し続けようとする慣性力がコギングトルクを上回り、カムシャフトは停止せず、カムトルクにより相対回転位相が変位してしまう。その結果、次回に内燃機関を始動する際に最適な目標位相とするまでに時間を要してしまう。
【0009】
そこで、本構成では、内燃機関が停止した後、モータに対して所定時間1相通電を行う制御を間欠的に実行する。1相通電を行ったときには通電された相の位置でモータの回転軸が停止し、カムトルクに対抗してギヤ機構の噛み合い位置を固定することにより相対回転位相の変位を停止させることができるが、1相通電を解除したときには回転軸やカムシャフトが慣性力により回転を再開し、カムトルクを受けて相対回転位相が変位する。モータの回転軸が回転している間は動摩擦が支配的となり相対回転位相が変位するが、モータのコギングトルクがカムトルク等の発生トルクを上回ったときに静止摩擦状態となり、相対回転位相の変位が停止する。
【0010】
つまり、本構成のように、1相通電により相対回転位相の変位を停止させ、この1相通電を間欠的に実行することにより、動摩擦状態から静止摩擦状態となるまでの間における相対回転位相の変位を抑制することができる。その結果、内燃機関の次回始動時に、相対回転位相を目標位相に迅速に変位させることが可能となり、イグニションスイッチがオンとなって内燃機関がクランキングを開始するまでに、相対回転位相をクランキングに適した目標位相に確実に変位させることができる。
【0011】
このように、エンジン停止時において相対回転位相の変位を抑制することにより、エンジン始動時に目標位相へと迅速に変位させることが可能な弁開閉時期制御装置を提供できた。
【0012】
他の特徴構成は、前記制御部は、前記1相通電と次回の前記1相通電との間隔を時間に基づいて制御する点にある。
【0013】
本構成のように、1相通電を行う間隔を時間に基づいて制御すれば、制御形態が簡便である。
【0014】
他の特徴構成は、前記制御部は、前記1相通電と次回の前記1相通電との間隔を前記モータの回転角度に基づいて制御する点にある。
【0015】
本構成のように、1相通電を行う間隔をモータの回転角度に基づいて制御すれば、1相通電を行うタイミングで回転軸を停止させることが可能となるため、相対回転位相の変位を確実に停止させることができる。また、カムトルクとコギングトルクとが釣り合うタイミングで回転軸の回転を停止させれば、カムトルクを効果的に消失させ、動摩擦状態から静止摩擦状態へ移行させる時間を短縮することができる。その結果、相対回転位相の変位を効果的に抑制することができる。
【0016】
他の特徴構成は、前記制御部は、前記回転角度に基づいて、前記1相通電の対象となる前記モータの相を決定する点にある。
【0017】
本構成のように、回転角度に基づいて1相通電の対象となるモータの相を決定すれば、回転軸が停止するまでに移動する時間を短縮すること可能となり、相対回転位相の変位をより抑制することができる。
【0019】
本構成のように、1相通電を各相の順番に実行すれば、回転軸の回転角度を検出せずとも、回転軸の停止状態を効果的に作り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】弁開閉時期制御装置の断面図及びブロック図である。
図2】エンジン停止時の制御形態を示す概念図である。
図3】弁開閉時期制御装置の制御フローを示す図である。
図4】コギングトルクとカムトルクとの関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る弁開閉時期制御装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、弁開閉時期制御装置の一例として、エンジンEの吸気側に設けられた弁開閉時期制御装置100として説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0022】
図1に示すように、内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト1と回転軸芯Xを中心に同期回転する駆動側回転体Aと、駆動側回転体Aの径方向内側に配置され、回転軸芯Xを中心にして弁開閉用の吸気カムシャフト2(カムシャフトの一例)と一体回転する従動側回転体Bと、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定する三相モータ(モータの一例)で構成される位相制御モータMと、電動VVTの制御ユニット10と、を備えて弁開閉時期制御装置100が構成されている。以下、電動式の弁開閉時期制御装置100として「電動VVT」と称する場合がある。
【0023】
エンジンEは、シリンダブロックに形成された複数のシリンダ3にピストン4を収容し、そのピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト1に連結した4サイクル型に構成されている。このエンジンEのクランクシャフト1の出力スプロケット1Sと、駆動側回転体Aの駆動スプロケット11Sとに亘ってタイミングチェーン6(タイミングベルト等でも良い)が巻回されている。これにより、エンジンEのクランクシャフト1の回転が駆動側回転体Aに伝達される。エンジンEの駆動は、制御装置としての上位ECU50により制御される。上位ECU50は、各種処理を実行するCPUやメモリを中核としたソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアとの協働により構成されている。
【0024】
これによりエンジンEの駆動時には弁開閉時期制御装置100の全体が回転軸芯Xを中心に回転する。また、位相制御モータMの駆動力により後述する位相調節機構Cを作動させ駆動側回転体Aに対して従動側回転体Bを回転方向と同方向又は逆方向に相対変位可能となる。この変位により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、吸気カムシャフト2のカム部2Aによる吸気バルブ2Bの開閉時期(開閉タイミング)の制御が実現する。
【0025】
尚、従動側回転体Bが駆動側回転体Aの回転方向と同方向に変位する作動を進角作動と称し、この進角作動により吸気圧縮比が増大する。また、従動側回転体Bが駆動側回転体Aと逆方向に変位する作動を遅角作動と称し、この遅角作動により吸気圧縮比が低減する。
【0026】
〔弁開閉時期制御装置〕
駆動側回転体Aは、回転軸芯Xを中心とする筒状の本体部Aaと、本体部Aaと同期回転するオルダム継手Cxおよび入力ギヤ30とを備えている。本体部Aaは、外周に駆動スプロケット11Sが形成されたアウタケース11と、フロントプレート12と、を複数の締結ボルト13で締結して構成されている。アウタケース11は、底部に開口を有する有底筒状型である。駆動側回転体Aの一部を構成するオルダム継手Cxおよび入力ギヤ30は、後述する位相調節機構Cとしても機能する。オルダム継手Cxを介して入力ギヤ30は本体部Aaに連結されている。
【0027】
アウタケース11の内部空間に中間部材20(従動側回転体Bの一例)と、ハイポサイクロイド型のギヤ機構を有した位相調節機構Cとが収容されている。また、位相調節機構Cは、位相変化を駆動側回転体Aおよび従動側回転体Bに反映するオルダム継手Cxを備えており、このオルダム継手Cxは回転軸芯X方向において中間部材20とフロントプレート12との間に配置されている。フロントプレート12のうちオルダム継手Cxと対向する面には、回転軸芯X方向に僅かな隙間となる潤滑凹部12aが形成されている。
【0028】
従動側回転体Bを構成する中間部材20は、回転軸芯Xに直交する姿勢で吸気カムシャフト2に連結される支持壁部21と、回転軸芯Xを中心とする筒状で吸気カムシャフト2から離間する方向に突出する筒状壁部22とが一体形成されている。
【0029】
この中間部材20は、筒状壁部22の外面がアウタケース11の内面に接触する状態で相対回転自在に挿入されており、支持壁部21の中央の貫通孔に挿通する連結ボルト23により吸気カムシャフト2の端部に固定されている。中間部材20の支持壁部21のうち、吸気カムシャフト2に当接する面の一部には偏芯部材26の内部にオイルを案内する開口部21aが形成されている。
【0030】
位相制御モータMは、その出力軸Ma(回転軸の一例)の軸芯を回転軸芯Xと同軸芯上に配置するように支持フレーム7によりエンジンEに支持されている。位相制御モータMの出力軸Maには回転軸芯Xに対して直交する姿勢の一対の係合ピン8が形成されている。本実施形態における位相制御モータMは、三相モータで構成されており、内周部分に出力軸Maが固定され外周部分に永久磁石が埋設されたロータ(不図示)と、当該ロータに回転力を与えるための磁束を発生するステータ(不図示)とを備えている。このステータは、U相,V相,W相の3相のステータコイル(不図示)を備え、後述する制御ユニット10のインバータ10bにより直流電圧を交流電圧に変換して各ステータコイルに交流電圧を印加する。各ステータコイルは、Δ結線又はY結線で電気的に接続されている。また、位相制御モータMには、回転角度センサS3が設けられている。この回転角度センサS3は、出力軸Maの回転方向に複数設けられており、出力軸Maの回転位相及び回転速度を検知する。
【0031】
位相調節機構Cは、位相制御モータMの駆動力により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を変更するように複数の部材で構成されている。この位相調節機構Cは、中間部材20と、中間部材20の筒状壁部22の内周面に形成される出力ギヤ25(ギヤ機構の一例)と、偏芯部材26と、板ばね27と、第1軸受28と、第2軸受29と、固定リング31と、オルダム継手Cxと、入力ギヤ30(ギヤ機構の一例)と、を備えている。
【0032】
中間部材20の筒状壁部22の内周のうち、回転軸芯Xに沿う方向で内側(支持壁部21に隣接する位置)に回転軸芯Xを中心とする支持面22Sが形成され、支持面22Sより回転軸芯Xに沿う方向で外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に回転軸芯Xを中心とする出力ギヤ25が一体的に形成されている。
【0033】
偏芯部材26は筒状であり、この偏芯部材26は、回転軸芯Xに沿う方向での内側(吸気カムシャフト2に近い側)に従動側回転体B(中間部材20)の径方向内側を支持する第一部分26Aと、回転軸芯Xに沿う方向での外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に駆動側回転体A(入力ギヤ30)の径方向内側を支持する第二部分26Bと、を有している。第二部分26Bには、回転軸芯Xに平行となる姿勢で且つ回転軸芯Xに対して所定の偏芯量Dyで偏芯する偏芯軸芯Yを中心とする外周面である偏芯支持面26Eが形成されている。この偏芯支持面26Eの外周に形成した凹部26Fに板ばね27が嵌め込まれている。また、第一部分26Aには、この板ばね27の径方向の外面よりも更に径方向外側に突出させた突出部26Sが形成されている。この突出部26Sの外周面には回転軸芯Xを中心とする円周支持面26Saが形成されている。
【0034】
偏芯部材26の内周には、位相制御モータMの一対の係合ピン8の各々が係合可能な一対の係合溝26Tが回転軸芯Xと平行姿勢で形成されている。更に、偏芯部材26の回転軸芯Xに沿う方向で内側(支持壁部21の側)の端部には径方向外側に突出した環状の突起26aが形成されている。この突起26aは、回転軸芯Xに沿う方向で従動側回転体Bの支持壁部21と第1軸受28との間に挟まれており、偏芯部材26の抜け止め機能を有している。
【0035】
この位相調節機構Cでは、入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されている。そして、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛合することで、ギヤ機構を構成している。板ばね27は、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部を出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛み合わせるように、入力ギヤ30に付勢力を作用させる。この板ばね27の付勢力により、入力ギヤ30と出力ギヤ25との噛み合い部におけるバックラッシュを無くすことができる。
【0036】
固定リング31はC字状の環状部材であり、偏芯部材26の偏芯支持面26Eよりも回転軸芯X方向の外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に嵌合状態で固定されることにより第2軸受29の抜け止めが行われる。
【0037】
オルダム継手Cxは、板状の継手部材で構成されており、一対の外部係合アーム(不図示)をアウタケース11に係合させ、一対の内部係合アーム(不図示)を入力ギヤ30に係合させている。オルダム継手Cxはアウタケース11に対して外部係合アームが突出する第1方向(回転軸芯Xと直交する方向)に変位可能となり、このオルダム継手Cxに対して内部係合アームの形成方向に沿う第2方向(回転軸芯X及び第1方向と直交する方向)に入力ギヤ30が変位自在となっている。
【0038】
オイルポンプPから供給される潤滑油は、吸気カムシャフト2の潤滑油路15から、中間部材20の支持壁部21の開口部21aを介して偏芯部材26の内部空間に供給される。このように供給された潤滑油は、遠心力により偏芯部材26の突起26aと従動側回転体Bの支持壁部21との隙間から第1軸受28に供給され第1軸受28を円滑に作動させる。これと同時に、偏芯部材26の内部空間の潤滑油は遠心力によりオルダム継手Cxに供給されると共に、第2軸受29に供給され、出力ギヤ25の内歯部25Aと入力ギヤ30の外歯部30Aとの間に供給される。そして、このオルダム継手Cxに供給された潤滑油は、オルダム継手Cxとアウタケース11との間の隙間から外部に排出される。
【0039】
上記構成により、吸気カムシャフト2の端部に中間部材20の支持壁部21が連結ボルト23により連結されており、吸気カムシャフト2と中間部材20とが一体回転する。偏芯部材26は第1軸受28により中間部材20に対して回転軸芯Xを中心に相対回転自在に支持されている。この偏芯部材26の偏芯支持面26Eに対し第2軸受29を介して入力ギヤ30が支持され、板ばね27の付勢力により入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛み合っている。また、オルダム継手Cxの外方側にフロントプレート12が配置されるため、オルダム継手Cxはフロントプレート12の内面に接触する状態で回転軸芯Xに対して直交する方向に移動可能となる。さらに、位相制御モータMの出力軸Maに形成された一対の係合ピン8が、偏芯部材26の係合溝26Tに係合している。
【0040】
位相制御モータMは、制御ユニット10によって制御される。エンジンEにはクランクシャフト1と吸気カムシャフト2の回転速度(単位時間あたりの回転数)と、各々の回転位相とを検知可能なクランクセンサS1及びカムセンサS2を備えており、これらのセンサの検知信号を上位ECU50に入力するように構成されている。上位ECU50から相対回転位相を維持する位相指令を受けた制御ユニット10は、エンジンEの駆動時において位相制御モータMを吸気カムシャフト2の回転速度と等しい速度で駆動することで相対回転位相を維持する。これに対して、上位ECU50から相対回転位相を変位させる位相指令を受けた制御ユニット10は、位相制御モータMの回転速度を吸気カムシャフト2の回転速度より低減することにより進角作動が行われ、これとは逆に回転速度が増大することにより遅角作動が行われる。
【0041】
位相制御モータMがアウタケース11と等速(吸気カムシャフト2と等速)で回転する場合には、出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aの噛み合い位置が変化しないため、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相は維持される。
【0042】
これに対して、ギヤ機構の減速比に比例させた形態でアウタケース11の回転速度より高速又は低速で位相制御モータMの出力軸Maを駆動回転することにより、位相調節機構Cにおける偏芯軸芯Yが回転軸芯X周りに公転する。この公転により出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aに対する噛み合い位置が出力ギヤ25の内周に沿って変位し、入力ギヤ30と出力ギヤ25との間には回転力が作用する。つまり、出力ギヤ25には回転軸芯Xを中心とする回転力が作用し、入力ギヤ30には偏芯軸芯Yを中心に自転させようとする回転力が作用する。
【0043】
前述したように入力ギヤ30は、オルダム継手Cxの内部係合アームに係合するためアウタケース11に対して自転することはなく、駆動側回転体Aの本体部Aaの回転力が出力ギヤ25に作用する。この回転力の作用により出力ギヤ25と共に中間部材20が、アウタケース11に対し回転軸芯Xを中心に回転する。その結果、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相が設定され、吸気カムシャフト2による開閉時期の設定が実現される。
【0044】
また、入力ギヤ30の偏芯軸芯Yが回転軸芯X周りに公転する際には、入力ギヤ30の変位に伴い、オルダム継手Cxは、アウタケース11に対して外部係合アームが突出する方向(第1方向)に変位し、入力ギヤ30は、内部係合アームが突出する方向(第2方向)へ変位する。
【0045】
前述したように入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されているため、位相制御モータMの出力軸Maをギヤ機構の減速比分だけ回転させることにより、入力ギヤ30の偏芯軸芯Yが回転軸芯Xを中心に1回転だけ公転した場合には、1歯分だけ出力ギヤ25が回転することになり大きい減速を実現している。
【0046】
〔電動VVTの制御ユニット〕
制御ユニット10は、位相制御モータMの駆動を制御する制御部10aと、制御部10aから位相指令を受けて位相制御モータMの各相に交流電圧を印加するインバータ10bとを有している。この制御ユニット10は、エンジンEの駆動を制御する上位ECU50とケーブル等の有線を介して電気的に接続されている。このため、制御ユニット10と上位ECU50とは、様々な情報を互いに送受信可能に構成されている。尚、制御ユニット10と上位ECU50とを、無線通信可能に構成しても良い。制御ユニット10の各機能部は、各種処理を実行するCPUやメモリを中核としたソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアとの協働により構成されている。
【0047】
上位ECU50では、クランクシャフト1の回転位置を検知したクランクセンサS1や吸気カムシャフト2の回転位相を検知したカムセンサS2から得られた現在の相対回転位相(実位相)と、エンジンEの運転状態に応じて設定される最適な相対回転位相である目標位相と、を制御ユニット10に送信する。制御部10aは、エンジンEの駆動を制御する上位ECU50からの位相指令を受信して、現在の相対回転位相が目標位相となるように位相制御モータMの駆動(出力軸Maの回転速度)を制御し、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相を設定する。
【0048】
制御部10aは、インバータ10bの各スイッチング素子(不図示)に駆動信号を送信し、位相制御モータMのU相,V相,W相の3相のステータコイルへの通電量を制御する。この通電量の制御にあたって、エンジンEが駆動している間は、上位ECU50から受信した実位相と目標位相とに基づいて実行する。一方、エンジンEが停止したときには、制御部10aは、次回始動時の最適な目標位相(例えば最遅角位相)となるようにインバータ10bへの通電量を制御し、目標位相となった時点で位相制御モータMへの通電を停止する。このとき、吸気カムシャフト2が回転し続けようとする慣性力や位相制御モータMが回転し続けようとする慣性力がコギングトルクを上回り、吸気カムシャフト2は停止せず、カムトルクにより相対回転位相が変位してしまう(図2の「相対回転位相」の破線参照)。その結果、次回にエンジンEを始動する際に最適な目標位相とするまでに時間を要してしまう。
【0049】
そこで、本実施形態における制御部10aは、エンジンEが停止した後、位相制御モータMに対して所定時間(例えば50ms)1相通電を行う制御を間欠的に実行する。図2には、制御部10aによる位相制御モータMの通電制御の一例が示されている。同図に示すように、エンジンEが停止した後、制御部10aは、次回始動時の最適な目標位相(例えば最遅角位相)となるようにインバータ10bへの通電量を制御し、目標位相となった時点で位相制御モータMへの通電を停止する。そして、制御部10aは、位相制御モータMのU相,V相,W相の3相のうちの1相に通電するように、インバータ10bの各スイッチング素子に駆動信号を送信する。この1相通電を行ったときには、通電された相の位置で位相制御モータMの出力軸Maが停止し、カムトルクに対抗してギヤ機構(入力ギヤ30及び出力ギヤ25)の噛み合い位置を固定することにより、相対回転位相の変位を停止させることができる。
【0050】
次いで、制御部10aは、位相制御モータMへの通電を停止する。その結果、位相制御モータMの出力軸Maや吸気カムシャフト2が慣性力により回転を再開し、カムトルクを受けてギヤ機構(入力ギヤ30及び出力ギヤ25)の噛み合い位置が変化して、相対回転位相が変位する(例えば、進角側に変位する)。次いで、制御部10aは、再び、位相制御モータMのU相,V相,W相の3相のうちの1相に通電するように、インバータ10bの各スイッチング素子に駆動信号を送信する。制御部10aは、この位相制御モータMへの1相通電と通電停止とを複数回(本実施形態では6回)繰り返し実行し、位相制御モータMへの通電を完全に停止する。本実施形態における制御部10aは、1相通電と次回の1相通電との間隔を時間(例えば60ms等)に基づいて制御する。
【0051】
位相制御モータMへの通電を停止し、位相制御モータMの出力軸Maが回転している間は動摩擦が支配的となり相対回転位相が変位するが、位相制御モータMのコギングトルクがカムトルク等の発生トルクを上回ったときに静止摩擦状態となり、相対回転位相の変位が停止する。
【0052】
つまり、本実施形態では、図2の「相対回転位相」の実線に示すように、位相制御モータMへの1相通電により相対回転位相の変位を停止させ、この1相通電を間欠的に実行することにより、1相通電を実行しない図2の「相対回転位相」の破線で示す従来例に比べて、動摩擦状態から静止摩擦状態となるまでの間における相対回転位相の変位を抑制することができる。その結果、エンジンEの次回始動時に、相対回転位相を目標位相に迅速に変位させることが可能となり、イグニションスイッチがオンとなってエンジンEがクランキングを開始するまでに、相対回転位相をクランキングに適した目標位相に確実に変位させることができる。
【0053】
図3には、本実施形態に係る弁開閉時期制御装置100に制御フローが示されている。エンジンEが駆動しているとき、弁開閉時期制御装置100の制御部10aは、上位ECU50からの位相指令に基づいて、相対回転位相を制御する(♯31)。そして、イグニションスイッチをオフにしてエンジンEを停止した場合(♯32YES)、上位ECU50からの位相指令に基づいて、制御部10aは、次回始動時の最適な目標位相(例えば最遅角位相)となるようにインバータ10bへの通電量を制御し、目標位相となった時点で位相制御モータMへの通電を停止する(♯33)。
【0054】
次いで、制御部10aは、エンジンEが停止した後、位相制御モータMに対して所定時間(例えば50ms)1相通電を行う制御を間欠的に実行するブレーキ作動を行う(♯34)。この1相通電と次回の1相通電との間隔を時間(例えば60ms等)に基づいて制御する。そして、制御部10aによる1相通電の間欠制御を開始してから所定時間(例えば、600ms)経過したとき(♯35YES)、位相制御モータMへの通電を完全に停止する(♯36)。そして、イグニションスイッチがオンとなってエンジンEが始動するとき(♯37)、制御部10aは、上位ECU50からの位相指令に基づいて、制御部10aが位相制御モータMを制御して、クランキングに適した目標位相(例えば、最遅角位相)となるように、相対回転位相の変位を実行し、クランキングを開始する(♯38、♯39)。上述したように、制御部10aにより動摩擦状態から静止摩擦状態となるまでの間における相対回転位相の変位を抑制することができるため、エンジンEの次回始動時に、相対回転位相をクランキングに適した目標位相に確実に変位させることが可能となる。
【0055】
[その他の実施形態]
(1)制御部10aは、位相制御モータMへの1相通電と次回の1相通電との間隔を、回転角度センサS3により検知した位相制御モータMの回転角度に基づいて制御しても良い。このように、1相通電を行う間隔を位相制御モータMの回転角度に基づいて制御すれば、1相通電を行うタイミングで位相制御モータMの出力軸Maを停止させることが可能となるため、相対回転位相の変位を確実に停止させることができる。また、図4に示す静止摩擦状態でコギングトルクとカムトルクとがクロスするタイミング(カムトルクとコギングトルクとが釣り合うタイミング)で出力軸Maの回転を停止させれば、カムトルクを効果的に消失させ、動摩擦状態から静止摩擦状態へ移行させる時間を短縮することができる。その結果、カムトルクに起因する相対回転位相の変位を効果的に抑制することができる。
【0056】
(2)制御部10aは、回転角度センサS3により検知した位相制御モータMの回転角度に基づいて、1相通電の対象となる位相制御モータMの相を決定しても良い。このように、位相制御モータMの回転角度に基づいて1相通電の対象となる位相制御モータMの相を決定すれば、位相制御モータMの出力軸Maが停止するまでに移動する時間を短縮すること可能となり、相対回転位相の変位をより抑制することができる。
【0057】
(3)制御部10aは、位相制御モータMの各相に対して順番に1相通電を実行しても良い。このように、1相通電を各相の順番に実行すれば、位相制御モータMの出力軸Maの回転角度を検出せずとも、出力軸Maの停止状態を効果的に作り出すことができる。
【0058】
(4)位相制御モータMの回転角度は、クランクセンサS1やカムセンサS2の検出値から推定しても良い。
(5)電動VVTとしての弁開閉時期制御装置100は、上述した実施形態に限定されず、電動アクチュエータで相対回転位相を変位させるものであれば、どのような構成であっても良い。
(6)位相制御モータMは、ブラシレスDCモータ、交流誘導モータ、交流同期モータ等、複数相で構成されるものであれば、特に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、モータの駆動力により駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を設定する弁開閉時期制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 :クランクシャフト
2 :吸気カムシャフト(カムシャフト)
10 :制御ユニット
10a :制御部
100 :弁開閉時期制御装置
25 :出力ギヤ(ギヤ機構)
30 :入力ギヤ(ギヤ機構)
A :駆動側回転体
B :従動側回転体
E :エンジン(内燃機関)
M :位相制御モータ(モータ)
Ma :出力軸(回転軸)
X :回転軸芯
図1
図2
図3
図4