(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】ポリアミック酸樹脂、ポリイミド樹脂およびこれらを含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240308BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20240308BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20240308BHJP
C08G 73/12 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C08G73/10
C08G59/40
C08F290/06
C08G73/12
(21)【出願番号】P 2020129085
(22)【出願日】2020-07-30
(62)【分割の表示】P 2020535005の分割
【原出願日】2020-03-07
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019047862
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菅原 堅太
(72)【発明者】
【氏名】田中 竜太朗
(72)【発明者】
【氏名】林本 成生
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170032(WO,A1)
【文献】特開2008-156603(JP,A)
【文献】特開2009-203414(JP,A)
【文献】特開2011-175163(JP,A)
【文献】特開2004-156012(JP,A)
【文献】特開平05-255564(JP,A)
【文献】特開2002-053818(JP,A)
【文献】特開2018-021184(JP,A)
【文献】特開2008-074927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
C08F 283/01
C08F 290/00-290/14
C08F 299/00-299/08
C08G 59/00-59/72
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中に少なくとも二個のアミノ基と少なくとも一個のフェノール性水酸基を有するアミノフェノール化合物(a)、
アミノ基を二つ有する炭素数6乃至36の脂肪族炭化水素である脂肪族ジアミノ化合物(b)、四塩基酸二無水物(c)及び芳香族ジアミノ化合物(d)の反応物であるポリアミック酸樹脂であって、両末端にアミノ基を有するポリアミック酸樹脂のイミド化物であるポリイミド樹脂と、無水マレイン酸との反応物である末端変性ポリイミド樹脂であって、
前記脂肪族ジアミノ化合物(b)としてダイマージアミンを含有する、末端変性ポリイミド樹脂。
【請求項2】
前記アミノフェノール化合物(a)が、下記式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1は独立して水素原子、メチル基又はエチル基を表し、Xは-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-SO
2-若しくは下記式(2)
【化2】
で表される二価の連結基、酸素原子又は直接結合を表す。)
で示される化合物である請求項1に記載の末端変性ポリイミド樹脂。
【請求項3】
前記四塩基酸二無水物(c)が、下記式(3)乃至(6)
【化3】
(式(6)中、Yは-C(CF
3)
2-、-SO
2-、-CO-、若しくは下記式(2)
【化4】
で表される二価の連結基、酸素原子又は直接結合を表す。)
からなる群より選択される化合物である
請求項1又は2のいずれか一項に記載の末端変性
ポリイミド樹脂。
【請求項4】
前記芳香族ジアミノ化合物(d)が、下記式(7)乃至(11)
【化5】
(式(9)中、R
2は独立してメチル基又はトリフルオロメチル基を表し、式(10)中、R
3は独立して水素原子、メチル基又はエチル基を表し、式(11)中、Zは-CH(CH
3)-、-SO
2-、-CH
2-、-O-C
6H
4-O-若しくは下記式(2)
【化6】
で表される二価の連結基、酸素原子又は直接結合を、R
4は独立して水素原子、メチル基、エチル基又はトリフルオロメチル基を表す。)
からなる群より選択される化合物である
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の末端変性ポリイミド樹脂。
【請求項5】
前記アミノフェノール化合物(a)のモル数MA、前記脂肪族ジアミノ化合物(b)のモル数MB、前記四塩基酸二無水物(c)のモル数MC及び前記芳香族ジアミノ化合物(d)のモル数MDが、1.0<(MA+MB+MD)/MC<1.5の関係を満たす
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の末端変性ポリイミド樹脂。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の末端変性ポリイミド樹脂と、マレイミド基と反応し得る化合物とを含有する樹脂組成物。
【請求項7】
前記マレイミド基と反応し得る化合物が、マレイミド樹脂である
請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記マレイミド基と反応し得る化合物が、エポキシ樹脂である
請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物。
【請求項10】
請求項9に記載の硬化物を有する基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規構造のポリアミック酸樹脂、該ポリアミック酸樹脂のイミド化物であるポリイミド樹脂、これらを含有する樹脂組成物及び該樹脂組成物の硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット等のモバイル型通信機器や通信基地局装置、コンピュータやカーナビゲーション等の電子機器に不可欠な部材として、プリント配線板が挙げられる。プリント配線板には金属箔との密着性、耐熱性及び柔軟性等の特性に優れた各種の樹脂材料が用いられている。
また、近年では高速で大容量の次世代高周波無線用のプリント配線板の開発が行われており、上記の諸特性に加え、樹脂材料には低伝送損失であること、即ち低誘電・低誘電正接であることが求められている。
【0003】
耐熱性、難燃性、柔軟性、電気特性及び耐薬品性等の特性に優れたポリイミド樹脂は、電気・電子部品、半導体、通信機器及びその回路部品、周辺機器等に広く使用されている。その一方で、石油や天然油等の炭化水素系化合物が高い絶縁性と低い誘電率を示すことが知られており、特許文献1にはこれら両者の特徴を生かしてポリイミド樹脂中に長鎖アルキルであるダイマージアミンの骨格を導入した例が記載されている。
しかしながら、特許文献1のポリイミド樹脂は低誘電正接の点で優れるものの、接着性と機械特性に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、プリント配線板に好適に用い得る新規構造のポリアミック酸樹脂、及び該ポリアミック酸樹脂を含有し、その硬化物は誘電正接が低くかつ接着性、耐熱性及び機械特性に優れる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定構造の新規のポリアミック酸樹脂のイミド化物であるポリイミド樹脂又は該ポリイミド樹脂を用いて得られる末端変性ポリイミド樹脂を含有する樹脂組成物が上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は、
(1)アミノフェノール化合物(a)、脂肪族ジアミノ化合物(b)、四塩基酸二無水物(c)及び芳香族ジアミノ化合物(d)の反応物であるポリアミック酸樹脂であって、両末端にアミノ基を有するポリアミック酸樹脂、
(2)アミノフェノール化合物(a)が、下記式(1)
【0007】
【0008】
(式(1)中、R1は独立して水素原子、メチル基又はエチル基を表し、Xは-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-若しくは下記式(2)
【0009】
【0010】
で表される二価の連結基、酸素原子又は直接結合を表す。)で示される化合物である前項(1)に記載のポリアミック酸樹脂、
(3)脂肪族ジアミノ化合物(b)が、アミノ基を二つ有する炭素数6乃至36の脂肪族炭化水素である前項(1)又は(2)に記載のポリアミック酸樹脂、
(4)四塩基酸二無水物(c)が、下記式(3)乃至(6)
【0011】
【0012】
(式(6)中、Yは-C(CF3)2-、-SO2-、-CO-、若しくは下記式(2)
【0013】
【0014】
で表される二価の連結基、酸素原子又は直接結合を表す。)
からなる群より選択される化合物である前項(1)乃至(3)のいずれか一項に記載のポリアミック酸樹脂、
(5)芳香族ジアミノ化合物(d)が、下記式(7)乃至(11)
【0015】
【0016】
(式(9)中、R2は独立してメチル基又はトリフルオロメチル基を表し、式(10)中、R3は独立して水素原子、メチル基又はエチル基を表し、式(11)中、Zは-CH(CH3)-、-SO2-、-CH2-、-O-C6H4-O-若しくは下記式(2)
【0017】
【0018】
で表される二価の連結基、酸素原子又は直接結合を、R4は独立して水素原子、メチル基、エチル基又はトリフルオロメチル基を表す。)
からなる群より選択される化合物である前項(1)乃至(4)のいずれか一項に記載のポリアミック酸樹脂、
(6)アミノフェノール化合物(a)のモル数MA、脂肪族ジアミノ化合物(b)のモル数MB、四塩基酸二無水物(c)のモル数MC及び芳香族ジアミノ化合物(d)のモル数MDが、1.0<(MA+MB+MD)/MC<1.5の関係を満たす前項(1)乃至(5)のいずれか一項に記載のポリアミック酸樹脂、
(7)前項(1)乃至(6)のいずれか一項に記載のポリアミック酸樹脂のイミド化物であるポリイミド樹脂、
(8)前項(7)に記載のポリイミド樹脂と、無水マレイン酸との反応物である末端変性ポリイミド樹脂、
(9)前項(7)に記載のポリイミド樹脂又は前項(8)に記載の末端変性ポリイミド樹脂と、アミノ基及び/又はマレイミド基と反応し得る化合物とを含有する樹脂組成物、
(10)アミノ基及び/又はマレイミド基と反応し得る化合物が、マレイミド樹脂である前項(9)に記載の樹脂組成物、
(11)アミノ基及び/又はマレイミド基と反応し得る化合物が、エポキシ樹脂である前項(9)に記載の樹脂組成物、
(12)前項(9)乃至(11)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物、及び
(13)前項(12)に記載の硬化物を有する基材、
に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の特定構造のポリイミド樹脂又は該ポリイミド樹脂を用いて得られる末端変性ポリイミド樹脂を用いることにより、耐熱性、機械特性、低誘電性及び接着性等の特性に優れたプリント配線板等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のポリアミック酸樹脂は、アミノフェノール化合物(a)(以下、単に「(a)成分」とも記載する)、脂肪族ジアミノ化合物(b)(以下、単に「(b)成分」とも記載する)、四塩基酸二無水物(c)(以下、単に「(c)成分」とも記載する)及び芳香族ジアミノ化合物(d)(以下、単に「(d)成分」とも記載する)の反応物であって、両末端にアミノ基を有するポリアミック酸樹脂であり、本発明のポリイミド樹脂は前記のポリアミック酸樹脂のイミド化物である。
【0021】
(a)乃至(d)成分の反応は、(a)、(b)及び(d)成分中のアミノ基と(c)成分中の酸無水物基との共重合反応であり、(a)成分のモル数MA、(b)成分のモル数MB、(c)成分のモル数MC及び(d)成分のモル数MDが、MA+MB+MD>MCの関係を満たす量の(a)乃至(d)成分を共重合反応に用いることにより、両末端がアミノ基の本発明のポリアミック酸樹脂及びポリイミド樹脂が得ることができる場合がある。この時、(MA+MB+MD)/MCの値が1.0を越えて2.0未満の範囲であることが好ましく、1.0を越えて1.5未満の範囲であることがより好ましい。前記の値が2.0以上の場合には、ポリアミック酸樹脂及びポリイミド樹脂の高分子量化が不充分となる可能性に加え、未反応原料の残存率が高くなり、樹脂組成物(後述する)の硬化後の耐熱性やフレキシブル性等の諸特性が低下する可能性がある。
【0022】
上記の共重合反応には、ポリイミド樹脂のフェノール性水酸基当量が1,500乃至25,000g/eq.の範囲となる量の(a)成分を用いることが好ましい。フェノール性水酸基当量が1,500g/eq.を下回る場合は、ポリイミド樹脂の極性が高くなるためポリイミド樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物の誘電正接が高くなる場合があり、25,000g/eq.を上回る場合は、ポリイミド樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物の接着強度及び機械特性が低下する場合がある。
尚、本明細書におけるフェノール性水酸基当量はJIS K-0070に準じた方法で測定した値を意味する。
【0023】
上記の共重合反応には、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の総質量から、(c)成分のモル数の2倍のモル数の水(脱水縮合反応によって生成した水)の質量を引いた質量(生成したポリイミド樹脂の質量)の10乃至50質量%の範囲となる量の(b)成分を用いることが好ましい。(b)成分の量が前記の範囲を下回ると、ポリイミド樹脂中の(b)成分に由来する脂肪族鎖が少な過ぎて誘電正接が高くなる場合があり、前記の範囲を上回ると、ポリイミド樹脂中の(b)成分に由来する脂肪族鎖が多過ぎて硬化物の耐熱性が低下する場合がある。
【0024】
本発明のポリイミド樹脂は、本発明のポリアミック酸樹脂のイミド化反応、即ち、脱水縮合による環化反応によって得られる。よって、意図した水酸基当量及び脂肪族鎖量を有する両末端がアミノ基のポリイミド樹脂を合成するために必要な(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の量(割合)は、共重合反応に用いる(a)乃至(d)成分それぞれの分子量と(a)成分中のフェノール性水酸基の数から容易に算出することができる。
【0025】
一例として、例えば本発明の実施例1でポリイミド樹脂の原料として使用しているBAPP(2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、分子量410.52g/mol)、PRIAMINE1075(分子量534.38g/mol)、ABPS(3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、分子量280.30g/mol)及びODPA(オキシジフタル酸無水物、分子量310.22g/mol)の組み合わせにおいて、ポリイミド樹脂の末端をアミンとするためにはODPA1モルに対するBAPP、PRIAMINE1075及びABPSの使用量の合計が1モルを超える量(以下「1モル+α」と表すことがある)とするのが好ましく、未反応のまま残存する原料成分を低減するためには、ODPA1モルに対するBAPP、PRIAMINE1075及びABPSの使用量の合計が2モル以下であることが好ましい。
【0026】
またこの時、ポリイミド樹脂のフェノール性水酸基当量を1,500乃至25,000g/eq.の範囲にする為には、例えばODPA1モルに対するBAPP、PRIAMINE1075及びABPSの使用量の合計が約1モル(1モル+α)の場合にはABPSの使用量を概ね0.02モル以上にすればよく、ODPA1モルに対するBAPP、PRIAMINE1075及びABPSの使用量の合計が1.5モルの場合にはABPSの使用量を概ね0.03モル以上にすればよく、ODPA1モルに対するBAPP、PRIAMINE1075及びABPSの使用量の合計が2モルの場合にはABPSの使用量を概ね0.04モル以上にすればよい。
【0027】
またこの時、生成したポリイミド樹脂の10乃至50質量%を(b)成分に由来する脂肪族鎖とする為には、例えばODPA1モルに対するBAPP、PRIAMINE1075及びABPSの使用量の合計が約1モル(1モル+α)の場合にはPRIAMINE1075の使用量を概ね0.13モル以上にすればよく、ODPA1モルに対するBAPP、PRIAMINE1075及びABPSの使用量の合計が1.5モルの場合にはABPSの使用量を概ね0.19モル以上にすればよく、ODPA1モルに対するBAPP、PRIAMINE1075及びABPSの使用量の合計が2モルの場合にはABPSの使用量を概ね0.25モル以上にすればよい。
【0028】
本発明のポリアミック酸樹脂(及びポリイミド樹脂)の合成に用いられる(a)成分は、一分子中に少なくとも二個のアミノ基と少なくとも一個のフェノール性水酸基を有する化合物であれば特に限定されない。(a)成分の具体例としては、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン及び9,9’-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
本発明のポリアミック酸樹脂(及びポリイミド樹脂)の合成に用いられる(a)成分は、下記式(1)で示される化合物であることが好ましい。
【0030】
【0031】
式(1)中、R1は独立して水素原子、メチル基又はエチル基を表し、Xは-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-若しくは下記式(2)で表される二価の連結基、酸素原子又は直接結合を表す。なお、直接結合とは、二つのフェニル部分が原子を介さずに直接結合している状態をいう。
【0032】
【0033】
本発明のポリアミック酸樹脂(及びポリイミド樹脂)の合成に用いられる(b)成分は、一分子中に少なくとも二個のアミノ基を有する化合物であれば特に限定されない。(b)成分の具体例としては、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ダイマージアミン及びジアミノポリシロキサン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
(b)成分の具体例の項に記載したダイマージアミンとは、オレイン酸等の不飽和脂肪酸の二量体であるダイマー酸の有する二つのカルボキシル基を一級アミノ基に置換したものである(特開平9-12712号公報等参照)。ダイマージアミンの市販品の具体例としては、PRIAMINE1074並びにPRIAMINE1075(いずれもクローダジャパン株式会社製)、及びバーサミン551(コグニスジャパン株式会社製)等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。以下、ダイマージアミンの非限定的な一般式を示す(各式において、m+n=6乃至17が好ましく、p+q=8乃至19が好ましく、破線部は炭素-炭素単結合又は炭素-炭素二重結合を意味する)。
【0035】
【0036】
本発明のポリアミック酸樹脂(及びポリイミド樹脂)の合成に用いられる(c)成分は、一分子中に二個の酸無水物基を有するものであれば特に限定されない。(c)成分の具体例としては、無水ピロメリット酸、エチレングリコール-ビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセリン-ビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチルシクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3a,4,5,9b-テトラヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物及びビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、5,5’-((プロパン-2,2-ジイルビス(4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)等が挙げられる。なかでも、溶剤溶解性、基材への密着性及び感光性の面から、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物又は3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
本発明のポリアミック酸樹脂(及びポリイミド樹脂)の合成に用いられる(c)成分は、下記式(3)乃至(6)からなる群より選択される化合物を含有することが好ましい。
【0038】
【0039】
式(6)中、Yは-C(CF3)2-、-SO2-、-CO-、若しくは上記式(2)で表される二価の連結基、酸素原子又は直接結合を表す。ここで、Yが直接結合を表すとは、Yを中心として、左右の両芳香族基が原子を介さずに直接結合している状態をいう。
【0040】
本発明のポリアミック酸樹脂(及びポリイミド樹脂)の合成に用いられる(d)成分は、前記の(a)成分以外の化合物であって、一分子中に二個のアミノ基を有する芳香族系の化合物であれば特に限定されない。(d)成分の具体例としては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-トリレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3'-ジエトキシ-4,4'-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ジアミノジフェニルチオエーテル、2,2'-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2'-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフォキサイド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフォンスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフォンスルホン、ベンチジン、3,3'-ジメチルベンチジン、3,3'-ジメトキシベンチジン、3,3'-ジアミノビフェニル、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、o-キシリレンジアミン、2,2'-ビス(3-アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2'-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)ベンゼン、1,3'-ビス(3-アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルフェニル)メタン、ビス(4-アミノ-3-エチルフェニル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジエチルフェニル)メタン、ビス(4-アミノ-3-プロピルフェニル)メタン及びビス(4-アミノ-3,5-ジプロピルフェニル)メタン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
本発明のポリアミック酸樹脂(及びポリイミド樹脂)の合成に用いられる(d)成分は、下記式(7)乃至(11)からなる群より選択される化合物を含有することが好ましい。
【0042】
【0043】
式(9)中、R2は独立してメチル基又はトリフルオロメチル基を表し、式(10)中、R3は独立して水素原子、メチル基又はエチル基を表し、式(11)中、Zは-CH(CH3)-、-SO2-、-CH2-、-O-C6H4-O-若しくは上記式(2)で表される二価の連結基、酸素原子又は直接結合を、R4は独立して水素原子、メチル基、エチル基又はトリフルオロメチル基を表す。なお、Zが直接結合を表すとは、Zを中心として、左右の両芳香族基が原子を介さずに直接結合している状態をいう。
【0044】
本発明のポリアミック酸樹脂及びポリイミド樹脂は公知の方法で合成することができる。
例えば、合成に用いる(a)乃至(d)成分を溶剤に溶解させた後、窒素等の不活性雰囲気下、10乃至80℃で加熱撹拌することによってジアミン類と四塩基酸二無水物類との共重合反応が起こり、本発明のポリアミック酸樹脂溶液が得られる。
また、前記で得られたポリアミック酸樹脂溶液に必要により脱水剤や触媒を加え、100乃至300℃で加熱撹拌することによってイミド化反応(脱水を伴う閉環反応)が起こり、本発明のポリイミド樹脂溶液が得られる。脱水剤としてはトルエン及びキシレン等が、触媒としてはピリジン及びトリエチルアミン等が挙げられる。尚、ポリアミック酸樹脂及びポリイミド樹脂を合成する際の反応時間は反応温度により大きく影響されるが、反応の進行に伴う粘度上昇が平衡に達し、最大の分子量が得られるまで反応を行うことが好ましく、通常数分間乃至20時間である。
【0045】
上記の例はポリアミック酸を経由してポリイミド樹脂を合成する方法であるが、合成に用いる(a)乃至(d)成分を溶媒に溶解させた後、必要により脱水剤や触媒を加え、100乃至300℃で加熱撹拌することによって共重合反応とイミド化反応を一括で行い、ポリイミド樹脂を得てもよい。
また、上記で得られたポリアミック酸樹脂溶液又はポリイミド樹脂溶液を、メタノール及びヘキサン等の貧溶媒中に投じて生成重合体を分離した後、再沈殿法によって精製を行って副生成物を除去することにより、高純度のポリアミック酸樹脂又はポリイミド樹脂を得ることもできる。
【0046】
ポリアミック酸樹脂又はポリイミド樹脂の合成時に用い得る溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン、γ-ブチロラクトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキセン-1-オン、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチルイソアミルエーテル、エチル-t-ブチルエーテル、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、アニソール、フェネトール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸2-エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ベンジル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ベンジル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソアミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、サリチル酸メチル、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
本発明の末端変性ポリイミド樹脂は、本発明のポリイミド樹脂の末端が無水マレイン酸で変性されたポリイミド樹脂である。末端の変性は、本発明のポリイミド樹脂が両末端に有するアミノ基と無水マレイン酸との共重合反応及びイミド化反応によってもたらされ、これによりポリイミド樹脂の両末端はマレイミド基になる。
末端変性ポリイミド樹脂溶液は、上記で得られたポリイミド樹脂溶液に必要量の無水マレイン酸を添加した後、150乃至250℃で加熱撹拌するだけで得られるが、上記イミド化反応の際に生成した水が反応系内に残存している場合には、これを除去しながら共重合反応を行うことが好ましい。
末端変性の際には、ポリイミド樹脂1モルに対して2モルを若干超える程度の無水マレイン酸を用いることが好ましい。ポリイミド樹脂1モルに対する無水マレイン酸の量が2モル以下又は過剰な場合には、末端変性ポリイミド樹脂が高分子量化して取扱いが困難になる可能性がある。
【0048】
本発明の樹脂組成物は、本発明のポリイミド樹脂又は本発明の末端変性ポリイミド樹脂と、アミノ基及び/又はマレイミド基と反応し得る化合物(以下、アミノ基及び/又はマレイミド基と反応し得る化合物を単に「反応性化合物」とも記載する)を含有する。
反応性化合物は、アミノ基及び/又はマレイミド基と反応し得る反応性基を一分子中に二つ以上有する化合物(樹脂)であれば特に限定されない。
反応性化合物の具体例としては、MIR-3000(日本化薬株式会社製)、BMI-70、BMI-80(いずれもケイ・アイ化成株式会社製)、BMI-1000、BMI-3000(いずれも大和化成工業株式会社製)、jER828(三菱ケミカル株式会社製)、NC-3000、XD-1000(いずれも日本化薬株式会社製)、イソフタル酸、テレフタル酸、カレンズMT PE1(昭和電工株式会社製)、ヘキサメチレンジアミン、KAYARAD R-115(日本化薬株式会社製)等が挙げられ、マレイミド樹脂又はエポキシ樹脂が好ましい。
【0049】
本発明のポリイミド樹脂を含有する樹脂組成物における反応性化合物の含有量は、ポリイミド樹脂の両末端アミノ基の活性水素1当量に対する反応性化合物の反応性基当量が0.1乃至500当量となる量が好ましい。尚、反応性化合物の反応性基がフェノール性水酸基との反応性を有する場合は、前記の活性水素1当量に対する反応性化合物の反応性基当量が0.1乃至500当量となる反応性化合物の含有量に、ポリイミド樹脂のフェノール水酸基1当量に対する反応性化合物の反応性基当量が0.1乃至500当量となる量の反応性化合物を追加することができる。
本発明の末端変性ポリイミド樹脂を含有する樹脂組成物における反応性化合物の含有量は、末端変性ポリイミド樹脂のマレイミド基1当量に対する反応性化合物の反応性基当量が0.1乃至500当量となる量が好ましい。尚、反応性化合物の反応性基がフェノール性水酸基との反応性を有する場合は、前記のマレイミド基1当量に対する反応性化合物の反応性基当量が0.1乃至500当量となる反応性化合物の含有量に、ポリイミド樹脂のフェノール性水酸基1当量に対する反応性化合物の反応性基当量が0.1乃至500当量となる量の反応性化合物を追加することができる。
【0050】
反応性化合物としてのマレイミド樹脂は、一分子中にマレイミド基を二つ以上有するものであれば特に限定されないが、樹脂組成物の硬化物が機械強度や難燃性等の特性に優れることから、ベンゼン環、ビフェニル環及びナフタレン環等の芳香族環を有するマレイミド樹脂が好ましく、その具体例としては、MIR-3000(日本化薬株式会社製)等が挙げられる。
マレイミド樹脂は、ポリイミド樹脂の末端アミノ基又は末端変性ポリイミド樹脂の末端マレイミド基と反応させることを目的に加えられ、これにより硬化物の架橋密度が増加し、極性溶剤への耐性が向上すると共に、基材への密着性や耐熱性が向上する。
マレイミド樹脂を含有する樹脂組成物の硬化温度は、150乃至250℃が好ましい。硬化時間は硬化温度に依存するが、概ね数分間乃至数時間程度である。
【0051】
ポリイミド樹脂とマレイミド樹脂を含有する本発明の樹脂組成物におけるマレイミド樹脂の含有量は、ポリイミド樹脂の両末端アミノ基の活性水素1当量に対するマレイミド樹脂のマレイミド基当量が0.1乃至500当量となる量が好ましい。
末端変性ポリイミド樹脂とマレイミド樹脂を含有する本発明の樹脂組成物におけるマレイミド樹脂の含有量は、末端変性ポリイミド樹脂のマレイミド基1当量に対するマレイミド樹脂のマレイミド基当量が0.1乃至500当量となる量が好ましい。
尚、ここでいう当量は、ポリイミド樹脂又は末端変性ポリイミド樹脂を合成する際の各原料の使用量から算出した値を意味する。
【0052】
マレイミド樹脂を含有する本発明の樹脂組成物には、マレイミド樹脂の硬化反応を促進する目的で、必要に応じて各種ラジカル開始剤を添加することが出来る。ラジカル開始剤としては、ジクミルパーオキサイド及びジブチルパーオキサイド等の過酸化物類、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物類等が挙げられる。
マレイミド樹脂を含有する本発明の樹脂組成物におけるラジカル開始剤の添加量は、マレイミド樹脂に対して0.1乃至10質量%である。
【0053】
反応性化合物としてのエポキシ樹脂は、一分子中にエポキシ基を二つ以上有するものであれば特に限定されないが、樹脂組成物の硬化物が機械強度や難燃性等の特性に優れることから、ベンゼン環、ビフェニル環及びナフタレン環等の芳香族環を有するエポキシ樹脂が好ましく、その具体例としては、jER828(三菱ケミカル株式会社製)、NC-3000、XD-1000(いずれも日本化薬株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ樹脂は、ポリイミド樹脂の末端アミノ基又は末端変性ポリイミド樹脂の末端マレイミド基と反応させることを目的に加えられ、これにより硬化物の架橋密度が増加し、極性溶剤への耐性が向上すると共に、基材への密着性や耐熱性が向上する。
エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化温度は、150乃至250℃が好ましい。硬化時間は硬化温度に依存するが、概ね数分間乃至数時間程度である。
【0054】
ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂を含有する本発明の樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の含有量は、ポリイミド樹脂の両末端アミノ基の活性水素1当量に対するエポキシ樹脂のエポキシ当量が0.1乃至500当量となる量が好ましい。尚、エポキシ樹脂の有するエポキシ基はフェノール性水酸基との反応性を有するため、ポリイミド樹脂のフェノール性水酸基1当量に対するエポキシ樹脂のエポキシ当量が0.1乃至500当量となる量のエポキシ樹脂を必要に応じて追加するのは好ましい態様である。
末端変性ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂を含有する本発明の樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の含有量は、末端変性ポリイミド樹脂の両末端マレイミド基1当量に対するエポキシ樹脂のエポキシ当量が0.1乃至500当量となる量が好ましい。尚、エポキシ樹脂の有するエポキシ基はフェノール性水酸基との反応性を有するため、末端変性ポリイミド樹脂のフェノール性水酸基1当量に対するエポキシ樹脂のエポキシ当量が0.1乃至500当量となる量のエポキシ樹脂を必要に応じて追加するのは好ましい態様である。
尚、ここでいう当量は、ポリイミド樹脂又は末端変性ポリイミド樹脂を合成する際の各原料の使用量から算出した値を意味する。
【0055】
エポキシ樹脂を含有する本発明の樹脂組成物には、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する目的で、必要に応じ各種熱硬化触媒を添加することが出来る。熱硬化触媒としては、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール及び2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾ-ル類、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール及び1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物等が挙げられる。
エポキシ樹脂を含有する本発明の樹脂組成物における熱硬化触媒の添加量は、エポキシ樹脂に対して0.1乃至10質量%である。
【0056】
本発明の樹脂組成物に有機溶剤を併用してワニス状の組成物(以下、単にワニスという)とすることができる。用い得る溶剤としては、例えばγ-ブチロラクトン類、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びN,N-ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶剤、テトラメチレンスルフォン等のスルフォン類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート及びプロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン及びキシレンなどの芳香族系溶剤が挙げられる。
有機溶剤は、ワニス中の有機溶剤を除く固形分濃度が通常10乃至80質量%、好ましくは20乃至70質量%となる範囲で使用する。
【0057】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて公知の添加剤を併用してもよい。併用し得る添加剤の具体例としては、エポキシ樹脂用硬化剤、ポリブタジエン又はその変性物、アクリロニトリル共重合体の変性物、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、フッ素樹脂、マレイミド系化合物、シアネートエステル系化合物、シリコーンゲル、シリコーンオイル、並びにシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、石英粉、アルミニウム粉末、グラファイト、タルク、クレー、酸化鉄、酸化チタン、窒化アルミニウム、アスベスト、マイカ、ガラス粉末等の無機充填材、シランカップリング剤のような充填材の表面処理剤、離型剤、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の着色剤が挙げられる。これら添加剤の配合量は、樹脂組成物100質量部に対して好ましくは1,000質量部以下、より好ましくは700質量部以下の範囲である。
【0058】
本発明の樹脂組成物の調製方法は特に限定されないが、各成分を均一に混合するだけでも、あるいはプレポリマー化してもよい。例えば本発明のポリイミド樹脂又は末端変性ポリイミド樹脂と、反応性化合物とを、触媒の存在下または不存在下、溶剤の存在下または不存在下において加熱することによりプレポリマー化することが出来る。各成分の混合またはプレポリマー化には溶剤の不存在下では例えば押出機、ニーダ、ロールなどを使用し、溶剤の存在下では攪拌装置つきの反応釜などを使用する。
【0059】
本発明の樹脂組成物を加熱溶融し、低粘度化してガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維などの強化繊維に含浸させることによりプリプレグを得ることができる。また、前記ワニスを、強化繊維に含浸させて加熱乾燥させることによりプリプレグを得ることもできる。
上記のプリプレグを所望の形に裁断、必要により銅箔などと積層後、積層物にプレス成形法やオートクレーブ成形法、シートワインディング成形法などで圧力をかけながら樹脂組成物を加熱硬化させることにより電気電子用積層板(プリント配線板)や炭素繊維強化材等の本発明の基材を得ることができる。
また、銅箔に樹脂組成物を塗工し溶媒を乾燥させた後、ポリイミドフィルムもしくはLCP(液晶ポリマー)を積層させ、熱プレス後、加熱硬化することにより本発明の基材を得ることもできる。場合によりポリイミドフィルムもしくはLCP側に樹脂組成物を塗工し、銅箔と積層することで本発明の基材を得ることもできる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例における「部」は質量部を、「%」は質量%を意味する。
【0061】
実施例1(本発明のポリイミド樹脂の合成)
温度計、還流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び撹拌装置を取り付けた300mlの反応器に、BAPP(2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、和歌山精化工業株式会社製、分子量410.52g/mol)16.40部、PRIAMINE1075(クローダジャパン株式会社製、分子量534.38g/mol)10.87部、ABPS(3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、日本化薬株式会社製、分子量280.30g/mol)0.32部及びNMP(N-メチルピロリドン)106.47部を入れて70℃に加熱した。次いで、ODPA(オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22g/mol)18.04部、ピリジン0.92部及びトルエン23.77部を加え、アミック酸の閉環に伴い生成した水をトルエンとの共沸で除去しながら180℃で4時間反応させた。水の生成が止まった後、残留するピリジンとトルエンを引き続き180℃で除去することによりポリイミド樹脂溶液(A-1)(不揮発分31.2%)を得た。実施例1で用いたジアミン成分((a)成分、(b)成分及び(d)成分)と酸無水物成分((c)成分)のモル比(ジアミン成分のモル数/酸無水物成分のモル数)は1.05であった。
【0062】
実施例2(本発明の末端変性ポリイミド樹脂の合成)
温度計、還流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び撹拌装置を取り付けた300mlの反応器に、BAPP(2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、和歌山精化工業株式会社製、分子量410.52g/mol)16.40部、PRIAMINE1075(クローダジャパン株式会社製、分子量534.38g/mol)10.87部、ABPS(3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、日本化薬株式会社製、分子量280.30g/mol)0.32部及びNMP(N-メチルピロリドン)106.47部を入れて70℃に加熱した。次いで、ODPA(オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22g/mol)18.04部、ピリジン0.92部及びトルエン23.77部を加え、アミック酸の閉環に伴い生成した水をトルエンとの共沸で除去しながら180℃で4時間反応させた。水の生成が止まった後、無水マレイン酸(分子量98.1g/mol)0.57部を加え、アミック酸の閉環に伴い生成した水をトルエンとの共沸で除去しながら180℃で2時間反応させてポリイミド樹脂の末端アミノ基をマレイミド基に変性した。水の生成が止まった後、残留するピリジンとトルエンを引き続き180℃で除去することによって末端変性ポリイミド樹脂溶液(A-2)(不揮発分31.0%)を得た。実施例2で用いたジアミン成分と酸無水物成分のモル比は1.05であった。
【0063】
比較例1(比較用のポリイミド樹脂の合成)
撹拌機、分水器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、9,9’-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン酸二無水物(商品名「BPF-PA」、JFEケミカル株式会社製)290.00部、シクロヘキサノン980.20部、及びメチルシクロヘキサン196.04部を仕込み、60℃まで加熱した。次いで、市販のダイマージアミン(商品名「PRIAMINE1075」、クローダジャパン(株)製)236.60部を滴下した後、140℃で12時間かけてイミド化反応させることにより、比較用のポリイミド溶液(R-1)(不揮発分31.6%)を得た。比較例1で用いたジアミン成分と酸無水物成分のモル比は0.97であった。
【0064】
実施例3乃至6、比較例2及び3
実施例1で得られたポリイミド樹脂溶液(A-1)、実施例2で得られた末端変性ポリイミド樹脂溶液(A-2)、比較例1で得られた比較用のポリイミド樹脂溶液(R-1)、マレイミド樹脂として日本化薬株式会社製 MIR-3000(ビフェニル骨格含有マレイミド樹脂)、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキサイド(DCP)、エポキシ樹脂として日本化薬株式会社製 NC-3000(ビフェニル骨格含有エポキシ樹脂、エポキシ当量277g/eq、軟化点60℃)、エポキシ樹脂硬化剤として日本化薬株式会社製 GPH-65(ビフェニル骨格含有フェノール硬化剤、水酸基当量198g/eq.)及び硬化促進剤として四国化成工業株式会社製 C11Z-Aを、表1に示す配合量(単位は「部」)で混合し、本発明の樹脂組成物及び比較用の樹脂組成物を得た。
【0065】
【0066】
(接着強度の評価)
実施例1乃至6及び比較例1乃至3で得られた(末端変性)ポリイミド樹脂溶液及び樹脂組成物を用いて、ポリイミド樹脂、末端変性ポリイミド樹脂及び樹脂組成物の銅箔に対する接着強度を評価した。
福田金属箔粉工業株式会社製の銅箔CF-T9FZ-HTEのシャイン面(以下、「Cu鏡面」と記載する)、CF-T9FZ-HTEのマット面(以下、「Cu粗面」と記載する)又は福田金属箔粉工業株式会社製の銅箔CF-T4X-SU-18(以下、「T4X」と記載する)の表面に、オートマチックアプリケータを用いて前記のポリイミド樹脂溶液、末端変性ポリイミド樹脂又は樹脂組成物をそれぞれ塗布し、130℃で10分間加熱乾燥した。乾燥後の塗膜の厚さは30μmであった。このようにして得られた銅箔上の塗膜にCu粗面を重ね合わせ、樹脂組成物は200℃で、それ以外は180℃で、60分間、3MPaの条件で真空プレスした。得られた試験片を10mm幅に切り出し、オートグラフAGS-X-500N(株式会社島津製作所製)を用いて、銅箔間の90°引きはがし強さ(引き剥がし速度は50mm/min)を測定し、銅箔の接着強度を評価した。
尚、試験後のサンプルを目視で確認したところ、Cu鏡面及びT4Xの表面に塗膜を形成したものは全てCu鏡面又はT4Xの表面と塗膜との界面で剥離が起こっており、またCu粗面に塗膜を形成したものは全てCu粗面と塗膜との界面で剥離が起こっていた。
結果を表2、表3及び表4に示した。
【0067】
(機械特性、熱特性及び誘電正接の評価)
上記の「接着強度の評価」と同じ方法で、Cu鏡面上に厚さ30μmの塗膜をそれぞれ形成した。また、オートマチックアプリケータの塗工厚を変更した以外は上記の「接着強度の評価」と同じ方法で、Cu鏡面上に厚さ100μmの塗膜をそれぞれ形成した。このようにして得られた銅箔上の塗膜を、マレイミド樹脂を含む樹脂組成物は200℃で、それ以外は180℃で60分間加熱した後、液比重45ボーメ度の塩化鉄(III)溶液で銅箔をエッチングし、イオン交換水で洗浄後、105℃で10分間乾燥することでフィルム状の硬化物をそれぞれ得た。フィルム状の硬化物について、オートグラフAGS-X-500N(株式会社島津製作所製)を用いて引張強度(破断点応力及び破断点伸度)と弾性率を測定し、動的粘弾性測定装置EXSTAR6000(セイコーエプソン株式会社製)を用いてガラス転移温度を測定し、またネットワークアナライザー8719ET(アジレントテクノロジー製)を用いて空洞共振法によって10GHzにおける誘電正接を測定した。
結果を表2、表3及び表4に示した。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
表2乃至4の結果より、本発明のポリイミド樹脂、末端変性ポリイミド樹脂及び樹脂組成物は、接着強度、機械特性、熱特性及び誘電率の全てにおいて優れているのに対して、それぞれに対応する比較例は、機械特性が大きく劣り、接着強度、熱特性及び誘電正接も実施例よりも劣っていることがわかる。
【0072】
実施例7(本発明のポリイミド樹脂の合成)
温度計、還流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び撹拌装置を取り付けた300mlの反応器に、BAPP(2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、和歌山精化工業株式会社製、分子量410.52g/mol)11.01部、PRIAMINE1075(クローダジャパン株式会社製、分子量534.38g/mol)20.49部、BAFA(2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、日本化薬株式会社製、分子量366.26g/mol)1.59部及びシクロヘキサノン119.35部を入れて70℃に加熱した。次いで、ODPA(オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22g/mol)20.53部、トリエチルアミン1.34部及びトルエン25.69部を加え、アミック酸の閉環に伴い生成した水をトルエンとの共沸で除去しながら140℃で4時間反応させた。水の生成が止まった後、残留するトリエチルアミンとトルエンを引き続き140℃で除去することによりポリイミド樹脂溶液(A-7)(不揮発分30.0%)を得た。実施例7で用いたジアミン成分と酸無水物成分のモル比は1.05であった。
【0073】
実施例8(本発明のポリイミド樹脂の合成)
温度計、還流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び撹拌装置を取り付けた300mlの反応器に、BAFL(9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、JFEケミカル株式会社製、分子量348.45g/mol)9.88部、PRIAMINE1075(クローダジャパン株式会社製、分子量534.38g/mol)20.42部、BAFA(2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、日本化薬株式会社製、分子量366.26g/mol)1.67部及びシクロヘキサノン119.30部を入れて70℃に加熱した。次いで、ODPA(オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22g/mol)21.63部、トリエチルアミン1.41部及びトルエン25.69部を加え、アミック酸の閉環に伴い生成した水をトルエンとの共沸で除去しながら140℃で4時間反応させた。水の生成が止まった後、残留するトリエチルアミンとトルエンを引き続き140℃で除去することによりポリイミド樹脂溶液(A-8)(不揮発分30.0%)を得た。実施例8で用いたジアミン成分と酸無水物成分のモル比は1.02であった。
【0074】
比較例4(比較用のポリイミド樹脂の合成)
温度計、還流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び撹拌装置を取り付けた300mlの反応器に、BAFL(9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、JFEケミカル株式会社製、分子量348.45g/mol)6.10部、PRIAMINE1075(クローダジャパン株式会社製、分子量534.38g/mol)11.38部、及びシクロヘキサノン119.30部を入れて70℃に加熱した。次いで、ODPA(オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22g/mol)12.41部、トリエチルアミン0.81部及びトルエン18.75部を加え、アミック酸の閉環に伴い生成した水をトルエンとの共沸で除去しながら140℃で4時間反応させた。水の生成が止まった後、残留するトリエチルアミンとトルエンを引き続き140℃で除去することによりポリイミド樹脂溶液(R-2)(不揮発分30.0%)を得た。比較例4で用いたジアミン成分と酸無水物成分のモル比は0.97であった。
【0075】
実施例9及び10、比較例5
実施例7及び8で得られたポリイミド樹脂溶液(A-7)及び(A-8)、比較例4で得られた比較用のポリイミド樹脂溶液(R-2)、マレイミド樹脂として日本化薬製 MIR-3000(ビフェニル骨格含有マレイミド樹脂)及びラジカル開始剤としてジクミルパーオキサイド(DCP)を、表5に示す配合量(単位は「部」)で混合し、本発明の樹脂組成物及び比較用の樹脂組成物を得た。
【0076】
【0077】
(接着強度、機械特性、熱特性及び誘電正接の評価)
実施例7乃至10、比較例4及び5で得られたポリイミド樹脂溶液及び樹脂組成物を用いて、上記した実施例1乃至6及び比較例1乃至3で得られたポリイミド樹脂溶液、末端変性ポリイミド樹脂溶液及び樹脂組成物の評価に準じた方法で、ポリイミド樹脂及び樹脂組成物の銅箔に対する接着強度、機械特性、熱特性及び誘電正接を評価した。
結果を表6及び7に示した。
【0078】
【0079】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の特定構造のポリイミド樹脂、該ポリイミド樹脂を用いて得られる末端変性ポリイミド樹脂、及びこれを用いる樹脂組成物を用いることにより、耐熱性、機械特性、低誘電性及び接着性等の特性に優れたプリント配線板等を提供することができる。