(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】ターゲットスペーサ、及び画像解析方法
(51)【国際特許分類】
E04C 5/18 20060101AFI20240308BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240308BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20240308BHJP
E04G 23/00 20060101ALI20240308BHJP
E01D 1/00 20060101ALN20240308BHJP
E21D 11/10 20060101ALN20240308BHJP
【FI】
E04C5/18 104
G06T7/00 610Z
E04G21/12 105D
E04G23/00
E01D1/00 C
E21D11/10 Z
(21)【出願番号】P 2020154320
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 純之
(72)【発明者】
【氏名】野間 康隆
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3003675(JP,U)
【文献】特開2000-121358(JP,A)
【文献】特開2013-231900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/18
G06T 7/00
E04G 21/12
E04G 23/00ー23/08
E01D 1/00
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋のかぶりを確保するスペーサにおいて、
特徴図形が付された特徴端面を、備え、
前記特徴端面がコンクリート表面に現れるように、鉄筋に取り付けられ、
前記特徴端面を含むコンクリート表面の画像を取得すると、前記特徴図形が画像解析におけるターゲットになり得る、
ことを特徴とするターゲットスペーサ。
【請求項2】
前記特徴図形に、硬化したコンクリートとは識別可能な色が付された、
ことを特徴とする請求項1記載のターゲットスペーサ。
【請求項3】
断面形状が前記特徴図形である、又は断面形状が前記特徴図形を構成する一部である、柱状の特徴柱状体を含んで形成され、
前記特徴柱状体の軸長が、取り付けられる鉄筋のかぶりと同一又は略同一である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のターゲットスペーサ。
【請求項4】
前記特徴図形が付された板状又はシート状の特徴部材と、
鉄筋に取り付けられる本体部材と、を備え、
前記本体部材の型枠側端部に前記特徴部材が貼付されることによって、前記特徴端面が形成される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のターゲットスペーサ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のターゲットスペーサを鉄筋に取り付けて構築されたコンクリート構造物の画像解析を行う方法であって、
コンクリートが硬化した後の前記コンクリート構造物を撮影して、前記特徴図形が含まれたコンクリート表面の画像を得る画像取得工程を備え、
前記特徴図形をターゲットとして利用したうえで、前記コンクリート構造物の画像解析を行う、
ことを特徴とする画像解析方法。
【請求項6】
前記コンクリート画像に含まれる複数の前記特徴図形の配置に基づいて、前記コンクリート構造物の位置を推定する位置推定工程を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項5記載の画像解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、画像解析に用いられるターゲットに関するものであり、より具体的には、コンクリートを打ち込む際に型枠内で鉄筋のかぶりを確保するスペーサを利用したターゲットと、これを用いて画像解析を行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは鋼材とともに最も重要な建設材料のひとつであり、ダム、トンネル、橋梁といった土木構造物や、集合住宅、オフィスビルなどの建築構造物をはじめ、様々な構造物に用いられている。そして土木構造物や建築構造物をコンクリート造とする場合、内部に鉄筋を含む鉄筋コンクリート構造物(以下、「RC(Reinforced Concrete)構造物」という。)とされることが多い。
【0003】
RC構造物は、あらかじめ工場等で製作されて所定の場所まで運搬されることもあるが、一般的な土木構造物や建築構造物の場合、所定の場所(現場)で直接構築される。いずれにしろ、セメントと水、骨材等を練り混ぜた状態のコンクリート(フレッシュコンクリート)を、鉄筋が組み立てられた型枠の中に打ち込み、コンクリートの硬化を待って型枠を取り外すことでRC構造物は構築される。なお型枠内で鉄筋を組み立てる際、所定のかぶり(コンクリート表面から鉄筋表面までの「純かぶり」や、コンクリート表面から鉄筋中心までの「設計かぶり」)が確保されるように、鉄筋にはスペーサが設置されるのが一般的である。
【0004】
上記のとおり、コンクリートは時間の経過とともに硬化していく材料であり、時間の経過に応じてコンクリートの水和反応により内部温度が上昇するとともに、その強度も上がり、弾性係数も向上していく材料である。そしてフレッシュコンクリートから「硬化した状態のコンクリート」になる過程で、あるいは硬化後にRC構造物として供用されている間に、ひび割れが発生することがある。コンクリートのひび割れには、RC構造物の用途に影響を与えない無害なものもあるが、一方でその用途に重大な影響を及ぼす有害なひび割れもある。
【0005】
RC構造部に影響を与えるような有害なひび割れは、時間の経過に伴って伸長しその幅も大きくなっていく傾向にある。そのため、コンクリートのひび割れを継続的に監視することは極めて有益である。ひび割れの長さや幅を定期的に計測し、相当の変化があれば適時に補強や補修を行うことでRC構造物の長寿命化を図ることができるわけである。
【0006】
コンクリートのひび割れを計測するにあたっては、従来、点検者がひび割れゲージ等を用いて計測する手法が主流であったが、近年では画像解析による手法が多用されている。ひび割れを撮影した多時期の画像を比較することによって、ひび割れ長さやひび割れ幅の変化、あるいは新たなひび割れ幅の発生を把握するわけである。この画像解析によれば、点検者による従来技術に比べ、計測作業の労力が低減できるうえ、定量的かつ客観的な評価を行うことができる。
【0007】
画像解析によって対象物の経時的な変化を把握する手法は、コンクリートのひび割れに限らず様々なケースで採用されている。例えば特許文献1では、画像解析によってコンクリート構造物の変位やひずみの変化を把握する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示される技術のように、画像解析では他の部分とは明確に識別できる特徴的な点や領域(以下、「ターゲット」という。)が利用される。例えば、多時期の画像を比較する場合それぞれ画像の位置合わせを行うことになるが、このとき画像に収められたターゲットをいわば基準点として利用することができる。また単画像では、画像内に含まれる対象物(例えば、ひび割れ)の寸法を把握することができないが、あらかじめ寸法が既知とされたターゲットが同じ画像内に含まれていればその対象物の寸法を把握することもできる。さらに、あらかじめターゲットの形状が既知であれば、画像内に収められたターゲットの形状(あるいは2以上のターゲットの大きさの関係)に基づいてその画像を正対補正することもできる。
【0010】
上記したとおりターゲットは、他の部分とは明確に識別できる特徴的な点や領域である。そのため、RC構造物にターゲットを設置する場合は、市松模様や水玉模様などが付されたマークを貼付したり、あるいはスプレー等でコンクリートとは異なる色でマーキングしたりするなど、これまではコンクリート表面に何らかのターゲットを事後的に取り付ける手法が主流であった。しかしながら、コンクリート表面にターゲットを取り付ける従来手法には、いくつかの問題がある。例えば、橋梁のコンクリート床版の下面側(背面側)のひび割れを計測する場合、そのコンクリート床版の下面側にターゲットを設置することになるが、桁下高が著しく大きな橋梁であれば相当な規模の足場が必要となるし、跨道橋や跨線橋であれば道路や線路の供用停止を伴うためそもそも現実的ではない。また、長期間にわたってひび割れを計測する場合は、コンクリート表面に貼付したマークが剥がれ落ちるおそれもあり、スプレー等によるマーキングは変色したり消失したりするおそれがある。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、高所での貼付作業等を必要とすることなく、しかも長期にわたって剥離や消失が生じるおそれがないターゲットと、これを用いて画像解析を行う方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、スペーサにターゲットを兼用させ、すなわちコンクリート構築時からターゲットを設置する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0013】
本願発明のターゲットスペーサは、鉄筋のかぶりを確保するスペーサであって、特徴図形が付された特徴端面を備えたものである。なお本願発明のターゲットスペーサは、特徴端面がコンクリート表面に現れるように鉄筋に取り付けられる。そして特徴端面を含むコンクリート表面の画像を取得すると、その特徴図形は画像解析におけるターゲットとして利用することができる。
【0014】
本願発明のターゲットスペーサは、硬化したコンクリートとは識別可能な色が特徴図形に付されたものとすることもできる。
【0015】
本願発明のターゲットスペーサは、特徴柱状体を含んで形成されたものとすることもできる。この特徴柱状体は、断面形状が特徴図形(あるいは断面形状が特徴図形を構成する一部)の柱状であり、その軸長は取り付けられる鉄筋のかぶりと略同一(同一含む)である。
【0016】
本願発明のターゲットスペーサは、特徴部材と本体部材を備えたものとすることもできる。この特徴部材は特徴図形が付された板状(あるいはシート状)の部材であり、一方の本体部材は鉄筋に取り付けられる部材である。そして、本体部材の型枠側端部に特徴部材が貼付されることによって特徴端面が形成される。
【0017】
本願発明の画像解析方法は、本願発明のターゲットスペーサを鉄筋に取り付けて構築されたコンクリート構造物の画像解析を行う方法であって、画像取得工程を備えた方法である。この画像取得工程では、コンクリートが硬化した後のコンクリート構造物を撮影して、特徴図形が含まれたコンクリート表面の画像を得る。そして、特徴図形をターゲットとして利用したうえで、コンクリート構造物の画像解析を行う。
【0018】
本願発明の画像解析方法は、位置推定工程をさらに備えた方法とすることもできる。この位置推定工程では、コンクリート画像に含まれる複数の特徴図形の配置に基づいて、コンクリート構造物の位置を推定する。
【発明の効果】
【0019】
本願発明のターゲットスペーサ、及び画像解析方法には、次のような効果がある。
(1)基準点として利用することによって多時期の画像を比較する際の位置合わせを行うことができ、またスケールとして利用することによって画像内の対象物(例えば、ひび割れ)の寸法を把握することもでき、さらに画像内に収められターゲットの形状などに基づいて画像を正対補正することもできる。
(2)高所での貼付作業等を必要としないため、例えば、著しく桁下高が大きな橋梁や跨道橋、跨線橋のコンクリート床版の下面であっても、容易にひび割れを計測することができる。
(3)貼付したマークのように剥離したり、スプレー等のマーキングのように変色したり焼失するおそれがなく、長期にわたって画像解析に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)は橋梁のコンクリート床版を構築するために橋脚上に組み立てられた鉄筋と型枠を模式的に示す断面図、(b)は鉄筋に取り付けられた本願発明のターゲットスペーサを模式的に示す部分断面図。
【
図2】コンクリート表面に現れた9個の特徴図形を模式的に示す正面図。
【
図3】(a)は本願発明のターゲットスペーサの一例を示す斜視図、(b)市松模様が付された特徴端面の正面図、(c)小型の正方形が付された特徴端面の正面図、(d)小型の円形が付された特徴端面の正面図、(e)水玉模様が付された特徴端面の正面図。
【
図4】鉄筋に取り付けるための係止手段が設けられたターゲットスペーサを示す側面図。
【
図5】(a)は特徴柱状体によって市松模が形成されたターゲットスペーサを示す斜視図、(b)は特徴柱状体によって小型の正方形が形成されたターゲットスペーサを示す斜視図。
【
図6】軸長のうち特徴端面側の一部のみ特徴柱状体によって形成されたターゲットスペーサを示す斜視図。
【
図7】特徴部材と本体部材によって形成されたターゲットスペーサを示す斜視図。
【
図8】本願発明の画像解析方法の主な工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明のターゲットスペーサ、及び画像解析方法の実施の例を図に基づいて説明する。
【0022】
1.全体概要
本願発明のターゲットスペーサは、画像解析に有用なターゲット(特徴点や特徴領域)としての機能と、鉄筋のかぶり(純かぶりや設計かぶり)を確保するためのスぺ―サーとしての機能を兼ね備えたものである。そのため、鉄筋に取り付けた際に型枠(コンクリートパネル)側に位置する端面に、特徴的な図形が付されたことをひとつの特徴としている。この特徴的な図形は、コンクリート表面の画像解析を行う際にターゲットとなり得るものであり、便宜上ここでは「特徴図形」ということとし、また特徴図形が付された端面のことを「特徴端面」ということとする。なお、本願発明のターゲットスペーサは、直接的には鉄筋の純かぶりを確保するものであるが、当然ながら鉄筋の純かぶりを確保することによって設計かぶりも確保することができる。
【0023】
図1(a)は、橋梁のコンクリート床版を構築するために橋脚上に組み立てられた鉄筋RBとコンクリートパネルFRを模式的に示す断面図であり、
図1(b)は、
図1(a)の部分断面図であって鉄筋RBに取り付けられた本願発明のターゲットスペーサ100を模式的に示す断面図である。この図に示すようにターゲットスペーサ100は、計画された鉄筋かぶりを確保すべく鉄筋RBとコンクリートパネルFRとの間に設置され、しかも特徴図形が付された特徴端面110がコンクリートパネルFRの背面と接触するように配置される。なお本願発明のターゲットスペーサ100は、
図1に示すような橋梁床版の下面側や、ボックスカルバートの天井面など、点検者等が容易に近づけない場所、つまり事後的にマーク等を設置するのが容易でない場所に設置するとより効果的であるが、もちろんコンクリート壁やコンクリート柱など様々な場所に設置することもできる。
【0024】
また、将来は画像解析に有用なターゲットとしての機能を果たすため、所定の範囲内に複数のターゲットスペーサ100が取り付けられる。さらに複数のターゲットスペーサ100は、整列配置とするのではなく、無作為(ランダム)な配置にするとよい。これにより、複数のターゲットスペーサ100の配置そのものが特徴となり、例えばトンネル覆工コンクリートやコンクリートダムのように長尺や広大なコンクリート表面の中から、ターゲットスペーサ100の配置を利用してその位置を特定することができる。
【0025】
上記したとおりターゲットスペーサ100は、特徴端面110がコンクリートパネルFRの背面と接触するように配置されることから、コンクリート硬化後にコンクリートパネルFRを取り外すとコンクリート表面には特徴端面110(すなわち特徴図形)が現れる。
図2は、コンクリート表面CWに現れた9個の特徴図形を模式的に示す正面図である。なおこの図に示すケースでは、全て同じ特徴図形(この図では、いわゆる「市松模様」)を有するターゲットスペーサ100が設置されているが、これに限らず異なる種類の特徴図形(例えば、市松模様と水玉模様)を組み合わせて複数種類のターゲットスペーサ100を設置することもできる。
【0026】
ターゲットスペーサ100は、ターゲットとして利用するほか、画像解析に有用なスケールとしても利用することができる。この場合、特徴図形の一部の寸法や、特定のターゲットスペーサ100間の距離などをあらかじめ把握しておくとよい。例えば
図2に示すケースでは、外形の正方形の一辺や、着色(図では便宜上黒色)された正方形の一辺、左下に配置された2つの特徴図形の中心間距離などを既知の寸法とすることができる。
【0027】
2.ターゲットスペーサ
次に、本願発明のターゲットスペーサ100について詳しく説明する。なお、本願発明の画像解析方法は、ターゲットスペーサ100の特徴図形を含む画像を利用して解析する方法である。したがって、まずは本願発明のターゲットスペーサ100について説明し、その後に本願発明の画像解析方法について説明することとする。
【0028】
図3は、本願発明のターゲットスペーサ100の一例を示す図であり、(a)はその斜視図、(b)~(e)は特徴端面110を正面視した正面図である。この図に示すようにターゲットスペーサ100は、概ね柱状(この図では四角柱)とされ、少なくともその一面には特徴図形が付された特徴端面110が形成される。なお、この図(a)では一面(図では右側面)にのみ特徴端面110が形成されているが、これに対向する面(この図の場合は左側面)にも特徴端面110を形成することができる。相対向する2面ともに特徴端面110を形成することによって、
図1に示す鉄筋RB側とコンクリートパネルFR側のいずれ側かを判断することなく、つまり誤った配置を避けながらターゲットスペーサ100を設置できて好適となる。
【0029】
ターゲットスペーサ100は、鉄筋RBのかぶりを確保するスぺ―サーとして機能することから、特徴端面110(
図3(a)では右側面)からこれに対向する面(
図3(a)では左側面)までの長さ(以下、「軸長」という。)は計画された鉄筋かぶり(特に純かぶり)と略一致(一致を含む)している。これにより、特徴端面110がコンクリートパネルFRの背面と接触するように、かつその対向面が鉄筋RBに当接するようにターゲットスペーサ100を設置すると、計画された鉄筋かぶりが確保されるわけである。なおターゲットスペーサ100は、合成樹脂製やコンクリート製、モルタル製、木製、鋼製とするなど、従来用いられている様々な材料を利用することができる。
【0030】
図3(a)のターゲットスペーサ100は、
図3(b)示すように特徴端面110の特徴図形が市松模様とされている。もちろん、画像解析に有用なターゲット(特徴点や特徴領域)として利用することができれば、市松模様に限らず種々の図形や模様、マークなどを特徴図形とすることができる。例えば、
図3(c)では小型の正方形を特徴図形とする特徴端面110を示しており、
図3(d)では小型の円形を特徴図形とする特徴端面110、
図3(e)では水玉模様(4つの小円形)を特徴図形とする特徴端面110をそれぞれ示している。
【0031】
また特徴図形には、特徴的な色を付すことができる。
図3では、便宜上グレーで示しているが、例えば赤色や黄色、緑色などコンクリート(特に硬化したときのコンクリート)表面の色とは明らかに異なる(つまり識別可能な)色を付すとよい。
【0032】
図4に示すように、従来のスペーサと同様、ターゲットスペーサ100には鉄筋RBに取り付けるための治具(以下、「係止手段120」という。)を設けることもできる。この場合、特徴端面110に対向する面、すなわち鉄筋RBに当接する面に係止手段120は設けられる。これにより、容易にターゲットスペーサ100を鉄筋RBに取り付けることができて好適となる。なお、ターゲットスペーサ100は概ね柱状とされると説明したが、
図1に示す四角柱や円柱など同一断面が連続する柱形状に限らず、
図4に示すようにターゲットスペーサ100の外形を円錐台や角錐台とすることもできる。もちろんこの場合も、その軸長は計画された鉄筋かぶりと略一致した寸法とされる。
【0033】
ターゲットスペーサ100は、柱状の部品(以下、「特徴柱状体130」という。)を含んで形成することもできる。この特徴柱状体130は、外形が概ね柱状であり、特徴図形そのものを断面形状としたものとすることもできるし、特徴図形を構成する一部を断面形状としたものとすることもできる。なお特徴柱状体130は、合成樹脂製やコンクリート製、モルタル製、木製、鋼製とするなど、従来用いられている様々な材料を利用することができる。また特徴柱状体130の表面と内部に、コンクリート表面CWと識別可能な色を付すとよい。
【0034】
図5は特徴柱状体130を含んで形成されたターゲットスペーサ100を示す斜視図であり、(a)は特徴図形が市松模様のターゲットスペーサ100を示し、(b)は特徴図形が小型の正方形であるターゲットスペーサ100を示している。
図5(a)に示すターゲットスペーサ100は、いずれも外形が四角柱である4つの特徴柱状体130を組み合わせることによって形成されており、着色された2つの特徴柱状体130の端面(図では右側面)と無色(あるいは白色)の2つの特徴柱状体130の端面(図では右側面)によって、特徴図形である市松模様が形成されている。
【0035】
一方、
図5(b)に示すターゲットスペーサ100は、着色された四角柱の特徴柱状体130が内部に配置された構成であり、この特徴柱状体130の端面(図では右側面)によって特徴図形である小型の正方形が形成されている。同様に、
図3(d)や
図3(e)に示すターゲットスペーサ100も、着色された円柱の特徴柱状体130を内部に配置することによって形成することができる。
【0036】
このように特徴柱状体130を利用して形成されたターゲットスペーサ100は、将来的にコンクリート表面CWが摩耗することがあっても、特徴図形が薄くなったり消失したりすることがなく、すなわち長期にわたって画像解析用のターゲットやスケールとして利用できる。なお、
図5に示すように特徴柱状体130の軸長を計画された鉄筋かぶりと略一致した寸法とすることもできるし、
図6に示すように軸長のうち特徴端面110側の一部のみ特徴柱状体130によって形成することとし、他の部分は一部材による構成とすることもできる。
【0037】
ターゲットスペーサ100は、
図7に示すように特徴図形(この図では小型の正方形)が付された板状(あるいはシート状)の部品(以下、「特徴部材140」という。)を含んで形成することもできる。この場合、特徴部材140だけでは、計画された鉄筋かぶりを確保できないため、計画された鉄筋かぶりと略一致した軸長を有する本体部材150が用いられる。すなわち、概ね柱状の本体部材150の一面(図では右側面)に特徴部材140を貼付することによって特徴端面110を形成するわけである。そしてこのターゲットスペーサ100は、特徴部材140によって形成された特徴端面110がコンクリートパネルFR側に、本体部材150のうち特徴端面110に対向する端面(図では左側面)が鉄筋RBに当接するように設置される。なお、特徴部材140を貼付するにあたっては、接着剤やピン、釘など本体部材150の材質に応じて適宜選択するとよい。
【0038】
3.画像解析方法
続いて、本願発明の画像解析方法について
図8を参照しながら説明する。なお、本願発明の画像解析方法は、ここまで説明したターゲットスペーサ100の特徴図形を含む画像を利用して解析する方法であり、したがってターゲットスペーサ100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の画像解析方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.ターゲットスペーサ」で説明したものと同様である。
【0039】
図8は、本願発明画像解析方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すように、まずは本願発明のターゲットスペーサ100を取り付けながら鉄筋RBと型枠(コンクリートパネルFR)を組立てる(Step10)。このとき、特徴端面110がコンクリートパネルFRの背面と接触するように、かつ特徴端面110に対向する端面が鉄筋RBに当接するように、ターゲットスペーサ100を設置する。また、所定の範囲内に一定数が配置されるように複数のターゲットスペーサ100を設置するとよい。
【0040】
鉄筋RBとコンクリートパネルFRを組立てると、アジテータ車などよって搬送されたフレッシュコンクリートをコンクリートパネルFR内に打込む(Step20)。そして、適切な養生を経た後、コンクリートパネルFRを取り外し(Step30)、
図2に示すような特徴図形を含むコンクリート表面CWを形成する。
【0041】
コンクリート表面CWを形成すると、特徴図形を含むコンクリート表面CWの画像を取得する(Step40)。なお、この画像内に含める特徴図形の数は1つとすることもできるが、2以上の特徴図形を含むように画像を取得するとよい。画像を取得すると、その画像を用いてひび割れの検出など画像解析を行う(Step50)。このとき、特徴図形がターゲット(特徴点や特徴領域)として利用され、例えば一部重複した異なる範囲の画像どうしの位置合わせや、2時期の同一範囲の画像どうしの位置合わせを行う際の基準点として利用される。また、画像内の特徴図形をスケールとして利用することによって、例えばひび割れ幅や長さを推定することもできる。さらに、画像内に収められたターゲットの形状(あるいは2以上のターゲットの大きさの関係)に基づいてその画像を正対補正することもできる。
【0042】
トンネル覆工コンクリートやコンクリートダムのように長尺、広大な表面を有するコンクリート構造物に、複数の特徴図形が無作為に設置されたケースでは、画像内のターゲットスペーサ100の配置を利用することによって、コンクリート構造物におけるその画像の位置を推定することもできる(Step60)。具体的には、あらかじめ記憶された全て(あるいは一部)のターゲットスペーサ100の位置(構造物内における相対的な位置)と、取得した画像内のターゲットスペーサ100の配置を照合(走査)していくことで、すなわち複数のターゲットスペーサ100の配置を手掛かり(特徴)として用いることによって、同様の配置を特定し、コンクリート構造物における位置を推定するわけである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願発明のターゲットスペーサ、及び画像解析方法は、ダム、トンネル、橋梁といった土木構造物や、集合住宅、オフィスビルといった建築構造物をはじめ様々なRC構造物の画像解析を行う際に利用することができる。本願発明によれば、RC構造物のひび割れ等を適切に把握することができ、これによって適時に補強や補修を行うことが可能となる。すなわち本願発明が、社会インフラストラクチャーを支えるRC構造物の長寿命化に資することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0044】
100 本願発明のターゲットスペーサ
110 特徴端面
120 係止手段
130 特徴柱状体
140 特徴部材
150 本体部材
CW コンクリート表面
FR コンクリートパネル
RB 鉄筋