(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】ホイール式作業車両
(51)【国際特許分類】
E02F 9/02 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
E02F9/02 Z
(21)【出願番号】P 2020161739
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章平
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-244966(JP,A)
【文献】特開2007-253842(JP,A)
【文献】特開2009-220616(JP,A)
【文献】特開2006-69484(JP,A)
【文献】特開平6-312607(JP,A)
【文献】特開2006-264518(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/359957(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/59643(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
右前、左前、右後、左後の4箇所にタイヤを有する下部走行体と、
前記下部走行体に旋回可能に設けた上部旋回体と、
前記上部旋回体の前方に設けたフロント作業機とを備えるホイール式作業車両において、
前記下部走行体に対する前記上部旋回体の旋回角を検知する旋回角センサと、
圧縮空気を発生させるコンプレッサと、
前記4箇所のタイヤそれぞれの空気圧を調整するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記旋回角センサで検知された前記上部旋回体の旋回角に基づいて、前記4箇所のタイヤのうち、前記フロント作業機の延設方向に位置する作業側タイヤと、前記フロント作業機の延設方向と反対側に位置する非作業側タイヤとを特定し、
前記コンプレッサが発生させた圧縮空気を前記作業側タイヤに供給することによって、前記作業側タイヤの空気圧を、前記非作業側タイヤより高くすることを特徴とするホイール式作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載のホイール式作業車両において、
前記コントローラは、
前記フロント作業機が動作不能な待機状態において、前記4箇所のタイヤの空気圧を第1圧力に調整し、
前記フロント作業機が動作可能な作業状態において、前記作業側タイヤの空気圧を前記第1圧力より高い第2圧力に調整し、前記非作業側タイヤの空気圧を前記第1圧力より低い第3圧力に調整することを特徴とするホイール式作業車両。
【請求項3】
請求項2に記載のホイール式作業車両において、
前記4箇所のタイヤそれぞれについて、
前記第1圧力以上の空気を通過させる第1調圧バルブと、
前記第2圧力以上の空気を通過させる第2調圧バルブと、
前記第3圧力以上の空気を通過させる第3調圧バルブと、
前記コンプレッサが発生させた空気を前記タイヤに供給すると共に、前記タイヤの内部空間を前記第1調圧バルブ、前記第2調圧バルブ、及び前記第3調圧バルブのいずれかに連通させる空気圧調整バルブとを備え、
前記コントローラは、4つの前記空気圧調整バルブそれぞれを、前記第1調圧バルブ、前記第2調圧バルブ、及び前記第3調圧バルブのいずれかに連通させることによって、前記4箇所のタイヤそれぞれの空気圧を調整することを特徴とするホイール式作業車両。
【請求項4】
請求項1に記載のホイール式作業車両において、
前記下部走行体の右前、左前、右後、左後それぞれには、前記下部走行体の幅方向に並んだ一対のタイヤが配置され、
前記コントローラは、前記下部走行体の進行方向前側の左右それぞれに位置する前記一対のタイヤのうち、外側の前記タイヤの空気圧を内側の前記タイヤより高くすることを特徴とするホイール式作業車両。
【請求項5】
請求項4に記載のホイール式作業車両において、
前記コントローラは、前記下部走行体の進行方向後側の左右それぞれに位置する前記一対のタイヤのうち、内側の前記タイヤの空気圧を外側の前記タイヤより高くすることを特徴とするホイール式作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイール式作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホイール式の下部走行体と、下部走行体に旋回可能に設けた上部旋回体と、上部旋回体に回動可能に設けたフロント作業機とを備える、所謂「ホイール式作業車両」が知られている。
【0003】
そして、上記構成のホイール式作業車両において、整備された道路や悪路を走行する際に、タイヤの空気圧を調整することによって、走破性や乗り心地を良くする技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上記構成のホイール式作業車両は、フロント作業機で軽負荷の作業をする場合などに、アウトリガを張り出さずに、タイヤを接地した状態で作業を行う場合がある。しかしながら、特許文献1では、タイヤを接地した状態での作業効率を向上させることについて、何ら言及されていない。
【0006】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、タイヤを接地した状態での作業効率を向上させたホイール式作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、右前、左前、右後、左後の4箇所にタイヤを有する下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に設けた上部旋回体と、前記上部旋回体の前方に設けたフロント作業機とを備えるホイール式作業車両において、前記下部走行体に対する前記上部旋回体の旋回角を検知する旋回角センサと、圧縮空気を発生させるコンプレッサと、前記4箇所のタイヤそれぞれの空気圧を調整するコントローラとを備え、前記コントローラは、前記旋回角センサで検知された前記上部旋回体の旋回角に基づいて、前記4箇所のタイヤのうち、前記フロント作業機の延設方向に位置する作業側タイヤと、前記フロント作業機の延設方向と反対側に位置する非作業側タイヤとを特定し、前記コンプレッサが発生させた圧縮空気を前記作業側タイヤに供給することによって、前記作業側タイヤの空気圧を、前記非作業側タイヤより高くすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タイヤを接地した状態での作業効率を向上させることができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る油圧ショベルの側面図である。
【
図3】タイヤの空気圧を調整するための空気圧回路の回路図である。
【
図5】作業時空気圧調整処理のフローチャートである。
【
図6】走行時空気圧調整処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る作業車両の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係るホイール式作業車両の代表例である油圧ショベル1の側面図である。
図2は、下部走行体2の斜視図である。なお、本明細書中の前後左右は、特に断らない限り、油圧ショベル1に搭乗して操作するオペレータの視点を基準としている。また、ホイール式作業車両の具体例は油圧ショベル1に限定されず、ホイール式の下部走行体と、下部走行体に旋回可能に支持された上部旋回体とを備える他の装置(例えば、クレーン)などにも本発明を適用することができる。
【0011】
油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2に設けた上部旋回体3とを備える。下部走行体2は、右前、左前、右後、左後の4箇所にタイヤ8R、8L、9R、9Lを有する。タイヤ8R、8L、9R、9Lは、走行モータ(図示省略)の駆動力が伝達されて回転する。これにより、下部走行体2が走行する。
【0012】
より詳細には、下部走行体2の右前に位置するタイヤ8Rは、下部走行体2の幅方向(左右方向)に並んだ一対のタイヤ8Ri、8Roで構成される。同様に、下部走行体2の左前、右後、左後それぞれに位置するタイヤ8L、9R、9Lは、下部走行体2の幅方向(左右方向)に並んだ一対のタイヤ8Li、8Lo、9Ri、9Ro、9Li、9Loで構成される。
【0013】
すなわち、本実施形態に係る油圧ショベル1は、右前、左前、右後、左後それぞれに、下部走行体2の幅方向に並んだ一対のタイヤ8Ri、8Ro、8Li、8Lo、9Ri、9Ro、9Li、9Loが配置されたダブルタイヤ式のホイール式作業車両である。但し、本発明は、右前、左前、右後、左後の4箇所に1つずつのタイヤ8R、8L、9R、9Lを配置したシングルタイヤ式のホイール式作業車両にも適用できる。
【0014】
上部旋回体3は、旋回ベアリング(図示省略)を介して下部走行体2に旋回可能に支持されている。上部旋回体3は、旋回モータ(図示省略)の駆動力が伝達されて、下部走行体2に対して旋回する。以下、下部走行体2及び上部旋回体3の前方が一致するときを基準(旋回角θ=0°)とし、時計回りの角度を旋回角θと定義する。すなわち、上部旋回体3は、下部走行体2に対してθ=0°~360°の範囲で旋回する。
【0015】
上部旋回体3の旋回角θは、旋回角センサ3a(
図4参照)によって検知される。旋回角センサ3aは、上部旋回体3の旋回角θを検知し、検知結果を示す角度信号をコントローラ20(
図4参照)に出力する。
【0016】
上部旋回体3は、ベースとなる旋回フレーム5と、旋回フレーム5の前端中央に支持され且つ上部旋回体3の前方に向けて延設されたフロント作業機4と、旋回フレーム5の後部に配置されたカウンタウェイト6と、旋回フレーム5の前方左側に配置されたキャブ(運転席)7とを主に備える。
【0017】
フロント作業機4は、上部旋回体3の前方に設けられている。フロント作業機4は、上部旋回体3に起伏可能に支持されたブーム4aと、ブーム4aの先端に揺動可能に支持されたアーム4bと、アーム4bの先端に揺動可能に支持されたバケット4cと、ブーム4a、アーム4b、及びバケット4cを駆動させる油圧シリンダ4d、4e、4fとを含む。カウンタウェイト6は、フロント作業機4との重量バランスを取るためのもので、上部旋回体3の後端に取り付けられた重量物である。
【0018】
フロント作業機4は、上部旋回体3と共に旋回する。すなわち、フロント作業機4は、常に上部旋回体3の前方に向けて延設されている。換言すれば、フロント作業機4は、上部旋回体3の旋回角θに応じて、下部走行体2の前後左右のいずれかに向けて延設される。
【0019】
以下、旋回角θが0°≦θ<45°、315°≦θ≦360°の範囲のときの上部旋回体3及びフロント作業機4の向きを「前向き」と表記し、旋回角θが45°≦θ<135°の範囲のときの上部旋回体3及びフロント作業機4の向きを「右向き」と表記し、旋回角θが135°≦θ<225°の範囲のときの上部旋回体3及びフロント作業機4の向きを「後向き」と表記し、旋回角θが225°≦θ<315°の範囲のときの上部旋回体3及びフロント作業機4の向きを「左向き」と表記する。
【0020】
キャブ7には、油圧ショベル1を操作するオペレータが搭乗する内部空間が形成されている。キャブ7の内部には、オペレータが着席するシート(図示省略)と、シートに着席したオペレータが操作する操作装置(ステアリングホイール、ペダル、レバー、スイッチなど)が配置されている。そして、キャブ7に搭乗したオペレータが操作装置を操作することによって、下部走行体2が走行し、上部旋回体3が旋回し、フロント作業機4が動作する。
【0021】
より詳細には、操作装置は、タイヤ8R、8Lを操舵するステアリングホイール、下部走行体2を加速させるアクセルペダル、タイヤ8R、8L、9R、9Lを制動するブレーキペダル、フロント作業機4を動作させる作業レバー、後述するアクスルロック機構の状態を切り替えるアクスルロックスイッチ等の他、
図4に示すように、ゲートロックレバー7aと、ブレーキスイッチ7bと、FNRスイッチ7cとを備える。操作装置は、オペレータによる操作内容を示す操作信号を、コントローラ20に出力する。
【0022】
ゲートロックレバー7aは、キャブ7に搭乗するオペレータによって、アクチュエータ(走行モータ、旋回モータ、油圧シリンダ4d~4f)の動作を規制するロック状態と、操作装置の操作に応じてアクチュエータを動作させる解除状態とに切り替え可能に構成されている。より詳細には、ロック状態とは、油圧ポンプ(図示省略)からアクチュエータへの作動油の供給を遮断する状態である。解除状態とは、操作装置の操作に応じて、油圧ポンプからアクチュエータへ作動油を供給する状態である。
【0023】
また、油圧ショベル1は、作業ブレーキ、駐車ブレーキ、及びアクスルロック機構を備える。作業ブレーキは、タイヤ8R、8L、9R、9Lそれぞれを制動する。駐車ブレーキは、走行モータからタイヤ8R、8L、9R、9Lに至る駆動力の伝達機構(例えば、プロペラシャフト、アクスル)を制動する。アクスルロック機構は、タイヤ8R、8Lが接続されたアクスルの揺動を許容及び規制する。
【0024】
ブレーキスイッチ7bは、キャブ7に搭乗するオペレータによって、駐車ブレーキ位置、作業ブレーキ位置、アクスルロック位置、OFF位置に切り替え可能に構成されている。オペレータがブレーキスイッチ7bを操作すると、油圧ショベル1の状態が駐車ブレーキ位置、作業ブレーキ位置、アクスルロック位置、OFF位置の順に切り替えられる。
【0025】
駐車ブレーキ位置は、作業ブレーキが作動せず、駐車ブレーキが作動し、アクスルロック機構が揺動を規制する位置である。作業ブレーキ位置は、作業ブレーキが作動し、駐車ブレーキが作動せず、アクスルロック機構が揺動を規制する位置である。アクスルロック位置は、作業ブレーキ及び駐車ブレーキが作動せず、アクスルロック機構が揺動を規制する位置である。OFF位置は、作業ブレーキ及び駐車ブレーキが作動せず、アクスルロック機構が揺動を許容する位置である。
【0026】
但し、ブレーキスイッチ7bをアクスルロック位置にした状態で、ブレーキペダルを踏み込むと作業ブレーキが作動する。また、ブレーキスイッチ7bをOFF位置にした状態で、ブレーキペダルを踏み込むと作業ブレーキが作動し、アクスルロックスイッチを操作するとアクスルロック機構が揺動を規制する。
【0027】
FNRスイッチ7cは、キャブ7に搭乗するオペレータによって、前進位置または後退位置に切り替え可能の構成されている。前進位置とは、走行モータの駆動力を、油圧ショベル1が前進する向きにタイヤ8R、8L、9R、9Lに伝達する位置である。後退位置とは、走行モータの駆動力を、油圧ショベル1が後退する向きにタイヤ8R、8L、9R、9Lに伝達する位置である。
【0028】
図3は、タイヤ8R、8L、9R、9Lの空気圧を調整するための空気圧回路の回路図である。
図3に示すように、油圧ショベル1は、コンプレッサ11と、装置起動バルブ12と、空気圧調整バルブ13a、13b、13c、13dと、第1調圧バルブ14a、14b、14c、14dと、第2調圧バルブ15a、15b、15c、15dと、第3調圧バルブ16a、16b、16c、16dと、空気圧センサ17a、17b、17c、17dとを備える。
【0029】
コンプレッサ11は、圧縮空気を発生させる。コンプレッサ11が発生させる圧縮空気の圧力は、タイヤ8R、8L、9R、9Lに設定可能な最大圧力(すなわち、後述する高圧)より高いものとする。装置起動バルブ12は、コンプレッサ11から空気圧調整バルブ13a、13b、13c、13dに至る間の空気通路に配置されている。装置起動バルブ12は、コントローラ20の制御に従って、連通位置Aと遮断位置Bとに切り替え可能な電磁弁である。
【0030】
連通位置Aは、コンプレッサ11と空気圧調整バルブ13a、13b、13c、13dとを連通させることによって、コンプレッサ11が発生させた圧縮空気を空気圧調整バルブ13a、13b、13c、13dに供給する位置である。遮断位置Bは、コンプレッサ11と空気圧調整バルブ13a、13b、13c、13dとの間を遮断することによって、コンプレッサ11が発生させた圧縮空気を空気圧調整バルブ13a、13b、13c、13dに供給しない位置である。装置起動バルブ12の初期位置は遮断位置Bである。
【0031】
空気圧調整バルブ13a、13b、13c、13d、第1調圧バルブ14a、14b、14c、14d、第2調圧バルブ15a、15b、15c、15d、第3調圧バルブ16a、16b、16c、16d、及び空気圧センサ17a、17b、17c、17dは、4箇所のタイヤ8R、8L、9R、9Lそれぞれの空気圧を調整するために設けられている。なお、各タイヤ8R、8L、9R、9Lに対応する構成部品13~17の構成は共通なので、以下、タイヤ8Rに対応する空気圧調整バルブ13a、第1調圧バルブ14a、第2調圧バルブ15a、第3調圧バルブ16a、及び空気圧センサ17aについて、詳細に説明する。
【0032】
空気圧調整バルブ13aは、装置起動バルブ12からタイヤ8Rの内部空間に至る空気通路に配置されている。すなわち、空気圧調整バルブ13aは、装置起動バルブ12を通じてコンプレッサ11から供給された圧縮空気を、タイヤ8Rの内部空間に供給する。また、空気圧調整バルブ13aは、コントローラ20の制御に従って、基準圧位置X、高圧位置Y、低圧位置Zに切り替え可能な電磁弁である。
【0033】
基準圧位置Xは、タイヤ8Rの内部空間を第1調圧バルブ14aに連通させる位置である。高圧位置Yは、タイヤ8Rの内部空間を第2調圧バルブ15aに連通させる位置である。低圧位置Zは、タイヤ8Rの内部空間を第3調圧バルブ16aに連通させる位置である。
【0034】
第1調圧バルブ14aは、タイヤ8Rから第1調圧バルブ14aに至る空気通路の圧力が、基準圧以下の場合に閉塞され、基準圧より高い場合に開放される。これにより、タイヤ8Rの内部空間が基準圧より高い場合に、タイヤ8R内の空気を排出し、タイヤ8Rの内部空間を基準圧に保持する。基準圧は、第1圧力の一例である。
【0035】
第2調圧バルブ15aは、タイヤ8Rから第2調圧バルブ15aに至る空気通路の圧力が、高圧以下の場合に閉塞され、高圧より高い場合に開放される。これにより、タイヤ8Rの内部空間が高圧より高い場合に、タイヤ8R内の空気を排出し、タイヤ8Rの内部空間を高圧に保持する。高圧は、第1圧力より高い第2圧力の一例である。
【0036】
第3調圧バルブ16aは、タイヤ8Rから第3調圧バルブ16aに至る空気通路の圧力が、低圧以下の場合に閉塞され、低圧より高い場合に開放される。これにより、タイヤ8Rの内部空間が低圧より高い場合に、タイヤ8R内の空気を排出し、タイヤ8Rの内部空間を低圧に保持する。低圧は、第1圧力より低い第3圧力の一例である。
【0037】
空気圧センサ17aは、タイヤ8Rの内部空間の圧力を検知し、検知結果を示す圧力信号をコントローラ20に出力する。
【0038】
なお、右前のタイヤ8Ri、8Roの空気圧を同一に調整する場合(
図5に示す作業時空気圧調整処理)は、タイヤ8Ri、8Roに共通して、空気圧調整バルブ13a、第1調圧バルブ14a、第2調圧バルブ15a、第3調圧バルブ16a、及び空気圧センサ17aを設ければよい。
【0039】
一方、右前のタイヤ8Ri、8Roの空気圧を個別して調整する場合(
図6に示す走行時空気圧調整処理)は、タイヤ8Ri、8Roそれぞれに対して、空気圧調整バルブ13a、第1調圧バルブ14a、第2調圧バルブ15a、第3調圧バルブ16a、及び空気圧センサ17aを設ける必要がある。
【0040】
図4は、油圧ショベル1のハードウェア構成図である。油圧ショベル1は、コントローラ20を備える。一例として、コントローラ20は、油圧ショベル1の全体動作を制御するものでもよい。他の例として、コントローラ20は、後述する作業時空気圧調整処理及び走行時空気圧調整処理を実行するものであって、油圧ショベル1の全体動作を制御するコントローラとは独立して設けられてもよい。
【0041】
コントローラ20は、CPU(Central Processing Unit)21、ROM(Read Only Memory)22、及びRAM(Random Access Memory)23を備える。コントローラ20は、ROM22に格納されたプログラムコードをCPU21が読み出して実行することによって、後述する処理を実現する。RAM23は、CPU21がプログラムを実行する際のワークエリアとして用いられる。
【0042】
但し、コントローラ20の具体的な構成はこれに限定されず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0043】
コントローラ20は、ゲートロックレバー7a及びブレーキスイッチ7bから出力される操作信号、旋回角センサ3aから出力される角度信号、及び空気圧センサ17a、17b、17c、17dから出力される圧力信号に基づいて、装置起動バルブ12及び空気圧調整バルブ13a、13b、13c、13dを制御する。より詳細には、コントローラ20は、各バルブに印加する電圧を切り替える。これにより、タイヤ8R、8L、9R、9Lの空気圧が調整される。以下、タイヤ8Rの空気圧を調整する方法を説明するが、他のタイヤ8L、9R、9Lについても同様である。
【0044】
まず、コントローラ20は、タイヤ8Rの空気圧を基準圧に設定する場合に、装置起動バルブ12を連通位置Aに切り替えると共に、空気圧調整バルブ13aを基準圧位置Xに切り替える。タイヤ8Rの空気圧が基準圧より低い場合、装置起動バルブ12を通じてコンプレッサ11から供給される圧縮空気が、タイヤ8Rに流入する。一方、タイヤ8Rの空気圧が基準圧より高い場合、タイヤ8Rの内部空間の空気が第1調圧バルブ14aを通じて排出される。そして、コントローラ20は、空気圧センサ17aから出力される圧力信号に基づいて、タイヤ8Rが基準圧に達したタイミングで、装置起動バルブ12を遮断位置Bに切り替える。
【0045】
また、コントローラ20は、タイヤ8Rの空気圧を高圧に設定する場合に、装置起動バルブ12を連通位置Aに切り替えると共に、空気圧調整バルブ13aを高圧位置Yに切り替える。これにより、装置起動バルブ12を通じてコンプレッサ11から供給される圧縮空気が、タイヤ8Rに流入する。そして、コントローラ20は、空気圧センサ17aから出力される圧力信号に基づいて、タイヤ8Rが高圧に達したタイミングで、装置起動バルブ12を遮断位置Bに切り替える。
【0046】
さらに、コントローラ20は、タイヤ8Rの空気圧を低圧に設定する場合に、装置起動バルブ12を連通位置Aに切り替えると共に、空気圧調整バルブ13aを低圧位置Zに切り替える。これにより、タイヤ8Rの内部空間の空気が第3調圧バルブ16aを通じて排出される。そして、コントローラ20は、空気圧センサ17aから出力される圧力信号に基づいて、タイヤ8Rが低圧に達したタイミングで、装置起動バルブ12を遮断位置Bに切り替える。
【0047】
図5は、作業時空気圧調整処理のフローチャートである。作業時空気圧調整処理は、タイヤ8R、8L、9R、9Lを接地した状態でのフロント作業機4の作業時に、タイヤ8R、8L、9R、9Lの空気圧を適正値に調整する処理である。コントローラ20は、例えば、操作装置を通じてオペレータから指示を受け付けたタイミングで、作業時空気圧調整処理を実行する。
【0048】
まず、コントローラ20は、ゲートロックレバー7aから出力される操作信号に基づいて、ゲートロックレバー7aの状態を判定する(S11)。そして、コントローラ20は、ゲートロックレバー7aがロック状態だと判定した場合に(S11:Yes)、タイヤ8R、8L、9R、9Lの空気圧を基準圧に設定する(S12)。「ゲートロックレバー7aがロック状態のとき」とは、フロント作業機4が動作不能な待機状態であり、典型的には、油圧ショベル1が駐機されている状態である。
【0049】
より詳細には、コントローラ20は、ステップS12において、装置起動バルブ12を連通位置Aに切り替えると共に、空気圧調整バルブ13a、13b、13c、13dを基準圧位置Xに切り替える。そして、コントローラ20は、空気圧センサ17a、17b、17c、17dから出力される圧力信号に基づいて、タイヤ8R、8L、9R、9Lが基準圧に達したタイミングで、装置起動バルブ12を遮断位置Bに切り替える。
【0050】
一方、コントローラ20は、ゲートロックレバー7aが解除状態だと判定した場合に(S11:No)、旋回角センサ3aから出力される角度信号に基づいて、フロント作業機4の延設方向を判定することによって、作業側タイヤ及び非作業側タイヤを特定する(S13、S14、S15)。「ゲートロックレバー7aが解除状態のとき」とは、フロント作業機4が動作可能な作業状態である。また、4箇所のタイヤ8R、8L、9R、9Lのうち、フロント作業機4の延設方向に位置するタイヤを「作業側タイヤ」と定義し、フロント作業機4の延設方向と反対側に位置するタイヤを「非作業側タイヤ」と定義する。
【0051】
コントローラ20は、フロント作業機4が前向きだと判定した場合に(S13:Yes)、タイヤ8R、8Lを作業側タイヤとして特定し、タイヤ9R、9Lを非作業側タイヤとして特定する。そして、コントローラ20は、タイヤ8R、8Lの空気圧を高圧に設定し、タイヤ9R、9Lの空気圧を低圧に設定する(S16)。
【0052】
より詳細には、コントローラ20は、ステップS16において、装置起動バルブ12を連通位置Aに切り替えると共に、空気圧調整バルブ13a、13bを高圧位置Yに切り替え、空気圧調整バルブ13c、13dを低圧位置Zに切り替える。そして、コントローラ20は、空気圧センサ17a、17b、17c、17dから出力される圧力信号に基づいて、タイヤ8R、8Lの空気圧が高圧に達し且つタイヤ9R、9Lの空気圧が低圧に達したタイミングで、装置起動バルブ12を遮断位置Bに切り替える。
【0053】
コントローラ20は、フロント作業機4が後向きだと判定した場合に(S14:Yes)、タイヤ8R、8Lを非作業側タイヤとして特定し、タイヤ9R、9Lを作業側タイヤとして特定する。そして、コントローラ20は、タイヤ8R、8Lの空気圧を低圧に設定し、タイヤ9R、9Lの空気圧を高圧に設定する(S17)。
【0054】
より詳細には、コントローラ20は、ステップS17において、装置起動バルブ12を連通位置Aに切り替えると共に、空気圧調整バルブ13a、13bを低圧位置Zに切り替え、空気圧調整バルブ13c、13dを高圧位置Yに切り替える。そして、コントローラ20は、空気圧センサ17a、17b、17c、17dから出力される圧力信号に基づいて、タイヤ8R、8Lの空気圧が低圧に達し且つタイヤ9R、9Lの空気圧が高圧に達したタイミングで、装置起動バルブ12を遮断位置Bに切り替える。
【0055】
コントローラ20は、フロント作業機4が右向きだと判定した場合に(S15:Yes)、タイヤ8R、9Rを作業側タイヤとして特定し、タイヤ8L、9Lを非作業側タイヤとして特定する。そして、コントローラ20は、タイヤ8R、9Rの空気圧を高圧に設定し、タイヤ8L、9Lの空気圧を低圧に設定する(S18)。
【0056】
より詳細には、コントローラ20は、ステップS18において、装置起動バルブ12を連通位置Aに切り替えると共に、空気圧調整バルブ13a、13cを高圧位置Yに切り替え、空気圧調整バルブ13b、13dを低圧位置Zに切り替える。そして、コントローラ20は、空気圧センサ17a、17b、17c、17dから出力される圧力信号に基づいて、タイヤ8R、9Rの空気圧が高圧に達し且つタイヤ8L、9Lの空気圧が低圧に達したタイミングで、装置起動バルブ12を遮断位置Bに切り替える。
【0057】
コントローラ20は、フロント作業機4が左向きだと判定した場合に(S15:No)、タイヤ8R、9Rを非作業側タイヤとして特定し、タイヤ8L、9Lを作業側タイヤとして特定する。そして、コントローラ20は、タイヤ8R、9Rの空気圧を低圧に設定し、タイヤ8L、9Lの空気圧を高圧に設定する(S19)。
【0058】
より詳細には、コントローラ20は、ステップS19において、装置起動バルブ12を連通位置Aに切り替えると共に、空気圧調整バルブ13a、13cを低圧位置Zに切り替え、空気圧調整バルブ13b、13dを高圧位置Yに切り替える。そして、コントローラ20は、空気圧センサ17a、17b、17c、17dから出力される圧力信号に基づいて、タイヤ8R、9Rの空気圧が低圧に達し且つタイヤ8L、9Lの空気圧が高圧に達したタイミングで、装置起動バルブ12を遮断位置Bに切り替える。
【0059】
図6は、走行時空気圧調整処理のフローチャートである。走行時空気圧調整処理は、下部走行体2を走行させる際に、タイヤ8R、8L、9R、9Lの空気圧を適正値に調整する処理である。コントローラ20は、例えば、操作装置を通じてオペレータから指示を受け付けたタイミングで、作業時空気圧調整処理を実行する。
【0060】
まず、コントローラ20は、ブレーキスイッチ7bから出力される操作信号に基づいて、ブレーキスイッチ7bの位置を判定する(S21)。次に、コントローラ20は、ブレーキスイッチ7bが駐車ブレーキ位置、作業ブレーキ位置、アクスルロック位置だと判定した場合に(S21:No)、ステップS22以降の処理を実行せずに、走行時空気圧調整処理を終了する。一方、コントローラ20は、ブレーキスイッチ7bがOFF位置だと判定した場合に(S21:Yes)、FNRスイッチ7cから出力される操作信号に基づいて、油圧ショベル1の進行方向を判定する(S22)。
【0061】
次に、コントローラ20は、FNRスイッチ7cが前進位置だと判定した場合に(S22:Yes)、タイヤ8Ri、8Li、9Ro、9Loの空気圧を低圧に設定し、タイヤ8Ro、8Lo、9Ri、9Liの空気圧を高圧に設定する(S23)。
【0062】
より詳細には、コントローラ20は、ステップS23において、装置起動バルブ12を連通位置Aに切り替えると共に、タイヤ8Ri、8Li、9Ro、9Loに対応する空気圧調整バルブ13を低圧位置Zに切り替え、タイヤ8Ro、8Lo、9Ri、9Liに対応する空気圧調整バルブ13を高圧位置Yに切り替える。そして、コントローラ20は、各タイヤの空気圧センサ17から出力される圧力信号に基づいて、タイヤ8Ri、8Li、9Ro、9Loの空気圧が低圧に達し且つタイヤ8Ro、8Lo、9Ri、9Liの空気圧が高圧に達したタイミングで、装置起動バルブ12を遮断位置Bに切り替える。
【0063】
一方、コントローラ20は、FNRスイッチ7cが後退位置だと判定した場合に(S22:No)、タイヤ8Ri、8Li、9Ro、9Loの空気圧を高圧に設定し、タイヤ8Ro、8Lo、9Ri、9Liの空気圧を低圧に設定する(S24)。
【0064】
より詳細には、コントローラ20は、ステップS23において、装置起動バルブ12を連通位置Aに切り替えると共に、タイヤ8Ri、8Li、9Ro、9Loに対応する空気圧調整バルブ13を高圧位置Yに切り替え、タイヤ8Ro、8Lo、9Ri、9Liに対応する空気圧調整バルブ13を低圧位置Zに切り替える。そして、コントローラ20は、各タイヤの空気圧センサ17から出力される圧力信号に基づいて、タイヤ8Ri、8Li、9Ro、9Loの空気圧が高圧に達し且つタイヤ8Ro、8Lo、9Ri、9Liの空気圧が低圧に達したタイミングで、装置起動バルブ12を遮断位置Bに切り替える。
【0065】
上記の実施形態によれば、例えば以下の作用効果を奏する。
【0066】
上記の実施形態によれば、4箇所のタイヤ8R、8L、9R、9Lのうち、作業側タイヤの空気圧を非作業側タイヤより高くするので、タイヤ8R、8L、9R、9Lが接地した状態でのフロント作業機4の作業(例えば、バケット4cによる掘削、クレーンによる吊荷の吊下)時に、作業側タイヤが撓んで作業効率が低下するのを防止できる。
【0067】
また、上記の実施形態によれば、作業側タイヤの空気圧を基準圧より高い高圧に設定し、非作業側タイヤの空気圧を基準圧より低い低圧に設定するので、作業側タイヤの撓みを防止しつつ、非作業側タイヤがクッションの役割を担う。これにより、タイヤ8R、8L、9R、9Lが接地した状態でのフロント作業機4の作業効率がさらに向上する。但し、非作業側タイヤの空気圧は基準圧に調整してもよい。
【0068】
また、上記の実施形態によれば、4箇所のタイヤ8R、8L、9R、9Lがダブルタイヤである場合に、進行方向前側の外側のタイヤの空気圧を内側のタイヤより高くすることによって、油圧ショベル1を走行させる際の旋回性能が向上する。さらに、進行方向後側の内側のタイヤの空気圧を外側のタイヤより高くすることによって、旋回性能がさらに向上する。
【0069】
なお、上記の実施形態では、タイヤ8R、8L、9R、9Lの空気圧がコントローラ20によって自動的に調整される例を説明したが、タイヤ8R、8L、9R、9Lの空気圧をオペレータが手動で調整するためのスイッチを操作装置がさらに備えてもよい。オペレータは、このスイッチを操作することによって、コントローラ20が調整した空気圧を、作業の状況に応じて微調整してもよい。
【0070】
上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
3a 旋回角センサ
4 フロント作業機
4a ブーム
4b アーム
4c バケット
4d,4e,4f 油圧シリンダ
5 旋回フレーム
6 カウンタウェイト
7 キャブ
7a ゲートロックレバー
7b ブレーキスイッチ
7c FNRスイッチ
8L,8R,9L,9R タイヤ
11 コンプレッサ
12 装置起動バルブ
13a,13b,13c,13d 空気圧調整バルブ
14a,14b,14c,14d 第1調圧バルブ
15a,15b,15c,15d 第2調圧バルブ
16a,16b,16c,16d 第3調圧バルブ
17a,17b,17c,17d 空気圧センサ
20 コントローラ
21 CPU
22 ROM
23 RAM