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特許7450544粒子ビーム誘導システムおよび方法ならびに関連する放射線治療システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】粒子ビーム誘導システムおよび方法ならびに関連する放射線治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020544761
(86)(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2019056024
(87)【国際公開番号】W WO2019175105
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】1830083-0
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】519087240
【氏名又は名称】コングスベルグ ビーム テクノロジー アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】クレーヴェン,ペール ホーヴァル
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-012374(JP,A)
【文献】特表2017-501799(JP,A)
【文献】特開2015-066449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射軌道(T1)に沿って入射する粒子ビーム(6a、6b、6c)を受信して、粒子ビーム制御システム(7)の制御下で、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の出射エネルギーレベルおよび出射軌道(T3)を制御する粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)であって、
- 前記粒子ビーム(6a、6b、6c)のエネルギーレベルを調整するための減衰器(22)と、
- 前記減衰器(22)の下流に位置する第一のビームガイド(26)であって、前記入射軌道(T1)からの前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を中間軌道(T2)へ偏向させるための磁界を発生させるための二つの磁石を各々が含む第一および第二の誘導双極子(26a、26b)を備え、前記第一のビームガイド(26)の前記第一の誘導双極子(26a)は前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を第一の面において偏向するように配置されており、前記第一のビームガイド(26)の前記第二の誘導双極子(26b)は前記第一の面と直交する第二の面において前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を偏向するように配置されている、前記第一のビームガイド(26)と、
- 前記第一のビームガイド(26)の下流に位置する第二のビームガイド(28)であって、前記中間軌道(T2)からの前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を出射軌道(T3)へ偏向させるための磁界を発生させるための二つの磁石を各々が含む第一および第二の誘導双極子(28a、28b)を備え、前記第二のビームガイド(28)の前記第一の誘導双極子(28a)は前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を第三の面において偏向するように配置されており、前記第二のビームガイド(28)の前記第二の誘導双極子(28b)は前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を前記第三の面と直交する第四の面において偏向するように配置されている、前記第二のビームガイド(28)と、
- 前記第二のビームガイド(28)の下流に位置し所期の前記出射軌道(T3)を制御するように配置されたビーム軌道監視制御ユニット(30)であって、当該ビーム軌道監視制御ユニット(30)は粒子ビーム減衰材料の第一および第二のビーム軌道制御ディスク(30a、30b)を備え、前記第一および第二のビーム軌道制御ディスクは前記入射軌道(T1)に直交する個別の平行する面において個別に動かすことができ、かつ前記第一および第二のビーム軌道制御ディスクは開口(31a、31b)を有し、前記開口(31a、31b)の整列によって所期の前記出射軌道(T3)を規定する、前記ビーム軌道監視制御ユニット(30)と、を備え、
前記第一および/又は前記第二のビーム軌道制御ディスク(30a、30b)は、前記第一および/又は前記第二のビーム軌道制御ディスク(30a、30b)上のどこに整列不備の粒子ビームが当たったかを検出するセンサを含み、
前記粒子ビーム制御システム(7)は、前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)が前記第一および/又は前記第二のビーム軌道制御ディスク(30a、30b)によって検出された前記粒子ビームの整列不備に関する情報を受信すると、前記減衰器および/又は前記第一および前記第二のビームガイド(26、28)を、所期の前記出射軌道(T3)と前記整列不備の粒子ビームの検出された出射軌道との間のずれを減らすように調整するように、前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)を制御するように構成された
粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)。
【請求項2】
前記第一および第二のビームガイド(26、28)の間の間隔は、30から150cmの範囲内にある、請求項1に記載の粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)。
【請求項3】
前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)が、
- 前記減衰器(22)の下流であって前記第一のビームガイド(26)の上流に位置し、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の焦点を合わせるための集束四極子を形成する一組の磁石(24a、24b)を含む集束ユニット(24)を備えている、請求項1又は2に記載の粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)。
【請求項4】
前記減衰器(22)が、
- 前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の経路にある減衰材料の量を増やす、または減らすために互いに近づける、または離すように動かすことが出来る一対の摺動ウエッジ(22a、22b)を備える、請求項1~3のいずれか一つに記載の粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)。
【請求項5】
前記第一および第二のビームガイド(26、28)の磁石は超電導磁石である、請求項1~4のいずれか一つに記載の粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)。
【請求項6】
- 請求項1~5のいずれか一つによる複数の粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)と、前記粒子ビーム制御システム(7)を含み、前記各粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)は、前記入射軌道(T1)に沿って入射する前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を受信し、前記粒子ビーム制御システム(7)の制御下で、放射線治療患者(4)の体内に位置する三次元放射線ターゲット(3)に向けた照射粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび前記出射軌道(T3)を制御する放射線治療システムであって
- 前記三次元放射線ターゲット(3)の動きの方向および速度を含む、前記三次元放射線ターゲット(3)の空間における位置および方向を監視するとともに、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の放射経路に位置する前記三次元放射線ターゲット(3)を囲む身体組織(5)の組織特性を監視するように配置された画像化システム(2)を含み
- 前記粒子ビーム制御システム(7)、放射線治療セッション中に、
- 前記画像化システム(2)から前記三次元放射線ターゲット(3)の位置および方向に関する情報および前記組織特性に関する情報を受信し、
- 前記組織特性に関する受信情報に基づいて、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)に曝せてはならない前記身体組織(5)を識別して、
- 前記三次元放射線ターゲット(3)および/または前記三次元放射線ターゲット(3)を取り囲む前記身体組織(5)の動きに応答し、前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)を、
(i)前記粒子ビーム(6a、6b、6c)のブラッグピークが、前記三次元放射線ターゲット(3)内の所定のビーム交差領域(8)で交差するようにさせ、かつ
(ii)前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の放射経路が、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)に曝されてはならないと識別された前記身体組織を通って走行しないように、制御する、放射線治療システム。
【請求項7】
前記粒子ビーム制御システム(7)は、前記出射エネルギーレベルおよび前記出射軌道(T3)の位置を更新し、そして前記複数の粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)に制御信号を送って、0.1から0.05秒の範囲内の間隔で、更新された前記出射エネルギーレベルおよび更新された前記出射軌道の位置を有効化するように配置されている、請求項6に記載の放射線治療システム。
【請求項8】
前記画像化システムは、X線コンピュータ断層撮像画像化システム、磁気共鳴画像化システム、超音響画像化システム、陽子コンピュータ断層画像化システムおよび陽電子放出断層撮像画像化システムのうちのいずれか一つを含むことを特徴とする、請求項6又は7に記載の放射線治療システム。
【請求項9】
前記粒子ビーム制御システム(7)は、放射線治療セッション中に、前記ビーム交差領域(8)を前記三次元放射線ターゲット(3)内の所定の位置に固定するように配置されることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれか一つに記載の放射線治療システム。
【請求項10】
前記粒子ビーム制御システム(7)は、放射線治療セッション中に、所定の経路に沿って前記三次元放射線ターゲット(3)を横切って前記ビーム交差領域(8)を掃引するように配置されることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれか一つに記載の放射線治療システム。
【請求項11】
前記粒子ビーム制御システム(7)は、放射線治療セッション中に、前記ビーム交差領域(8)を前記三次元放射線ターゲット(3)内の所定の位置に段階的に再配置するように配置されることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれか一つに記載の放射線治療システム。
【請求項12】
前記粒子ビームは陽子ビームであることを特徴とする、請求項6乃至11のいずれか一つに記載の放射線治療システム。
【請求項13】
粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)が、粒子ビーム(6a、6b、6c)の出射エネルギーレベルおよび出射軌道(T3)を粒子ビーム制御システム(7)の制御下で制御する方法であって、当該方法は、
- 前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)、入射軌道(T1)に沿って入射する粒子ビーム(6a、6b、6c)を受信する工程と、
- 前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)に含まれる減衰器(22)、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)のエネルギーレベルを調整する工程と、
- 前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)に含まれ、前記減衰器(22)の下流に位置する、第一のビームガイド(26)であって、前記第一のビームガイド(26)は、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を入射軌道(T1)から中間軌道(T2)へ偏向させるための磁界を発生させるための二つの磁石を各々が含む第一および第二の誘導双極子(26a、26b)を備え、前記第一のビームガイド(26)の前記第一の誘導双極子(26a)は前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を第一の面において偏向するように配置されており、前記第一のビームガイド(26)の前記第二の誘導双極子(26b)は前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を前記第一の面と直交する第二の面において偏向するように配置されている前記第一のビームガイド(26)、前記入射軌道(T1)からの前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を前記中間軌道(T2)に偏向する工程と、
- 前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)に含まれ、前記第一のビームガイド(26)の下流に位置する、第二のビームガイド(28)であって、前記第二のビームガイド(28)は、前記中間軌道(T2)から前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を前記出射軌道(T3)へ偏向させるための磁界を発生させるための二つの磁石を各々が含む第一および第二の誘導双極子(28a、28b)を備え、前記第二のビームガイド(28)の前記第一の誘導双極子(28a)は前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を第三の面において偏向するように配置されており、前記第二のビームガイド(28)の前記第二の誘導双極子(28b)は前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を前記第三の面と直交する第四の面において偏向するように配置されている前記第二のビームガイド(28)、前記中間軌道(T2)から前記粒子ビーム(6a、6b、6c)を前記出射軌道(T3)に偏向する工程と、
- 前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)に含まれ、前記第二のビームガイド(28)の下流に位置する、ビーム軌道監視制御ユニット(30)であって、当該ビーム軌道監視制御ユニット(30)は粒子ビーム減衰材料の第一および第二のビーム軌道制御ディスク(30a、30b)を備え、前記第一および第二のビーム軌道制御ディスク(30a、30b)は前記入射軌道(T1)に直交する個別の平行する面において個別に動かすことが出来、かつ前記第一および第二のビーム軌道制御ディスクは開口(31a、31b)を有し、前記開口(31a、31b)の整列によって所期の前記出射軌道(T3)を規定し、前記第一および/又は前記第二のビーム軌道制御ディスク(30a、30b)は、前記第一および/又は前記第二のビーム軌道制御ディスク(30a、30b)上のどこに整列不備の粒子ビームが当たったかを検出するセンサを含む、前記ビーム軌道監視制御ユニット(30)、所期の前記出射軌道(T3)を制御する工程と
- 前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)が、前記第一および/又は前記第二のビーム軌道制御ディスク(30a、30b)によって検出された前記粒子ビームの整列不備に関する情報を受信する工程と、
- 前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)、前記減衰器(22)および/又は前記第一および第二のビームガイド(26、28)を、所期の前記出射軌道(T3)と前記整列不備の粒子ビームの検出された出射軌道との間のずれを減らすように調節する工程とを含み、
前記粒子ビーム制御システム(7)は、前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)が前記第一および/又は前記第二のビーム軌道制御ディスク(30a、30b)によって検出された前記粒子ビームの整列不備に関する情報を受信すると、前記減衰器および/又は前記第一および前記第二のビームガイド(26、28)を、所期の前記出射軌道(T3)と前記整列不備の粒子ビームの前記検出された出射軌道との間のずれを減らすように調整するように、前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)を制御する、方法。
【請求項14】
- 前記減衰器(22)の下流であって前記第一のビームガイド(26)の上流に位置する、前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)の集束ユニット(24)であって、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の焦点を合わせるための集束四極子を形成する一組の磁石(24a、24b)を含む前記集束ユニット(24)、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の焦点を合わせる工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記減衰器(22)前記粒子ビーム(6a、6b、6c)のエネルギーレベルを調整する工程は、
- 前記粒子ビーム誘導システム(1a、1b、1c)が、前記減衰器(22)における一対の摺動ウエッジ(22a、22b)を、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の経路にある減衰材料の量を増やす、または減らすように互いに近づける、または離すように動かす工程を含む、請求項13および14のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射軌道に沿って入射する粒子ビームを受信して当該粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を制御する粒子ビーム誘導(即ち、ガイド)システムに関する。本発明はまた、粒子ビーム誘導システムにおける、粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を制御する方法に関する。
【0002】
本発明はまた放射線療法に関し、より具体的には、周辺の組織に与える損傷を最小限に抑えつつ癌腫瘍中の細胞のDNAを破壊することを目標として、照射の効果をいかに増大するかに関する。特に本発明は、複数の粒子ビーム誘導システムを含む放射線療法システムに関し、各粒子ビーム誘導システムは、入射軌道に沿って入射する粒子ビームを受信して、放射線療法患者の身体内部に位置する三次元の照射ターゲットに向けた当該粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を制御するように配置されている。
【背景技術】
【0003】
放射線療法を用いた癌治療では、放射線エネルギーが患者の身体の悪性細胞に堆積されるように、電離放射線を患者に照射する。十分な量のエネルギーが堆積されると、DNAの破壊およびそれに続く照射細胞の死が生じる。
【0004】
陽子や他の荷電粒子は、放射線療法に適した深さ対線量曲線を示す。このような放射線は、いわゆるブラッグピーク、すなわち荷電粒子の軌道のごく最後の領域における堆積エネルギーの急激な増加、を生成し、ここで、荷電粒子はその全エネルギーを失い、堆積線量はゼロに低下する。
【0005】
特許文献1は、強度変調陽子治療用のシステムを開示しており、そこでは複数の陽子ビームが複数の方向および角度から患者に投入される。当該システムは、陽子ビームのエネルギー分布を制御、構成、または選択することができ、またこれらビームの位置および/または調整を動的に変更することもできる。
【0006】
特許文献1はまた、対象となるボリュームをサブボリュームに分割するステップと、とりわけ患者の動きに基づいて当該サブボリュームに線量制約を適用するステップと、陽子治療システムの1つまたはそれより多い実現可能な構成を見つけるステップと、陽子治療の1つまたはそれより多い側面を改善または最適化する陽子ビーム構成を選択するステップと、を含む陽子治療計画を作成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許公開第2016/0144201号
【文献】米国特許第5,207,223号
【文献】国際公開第02/19908号
【文献】PCT/US2008/055069号
【文献】米国特許第9,199,093号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に係る陽子治療システムおよび他の従来技術の放射線治療システムに付随する問題は、治療中の患者の動きが、システムが照射ターゲット内の意図された位置に放射線量を正確に投入することを困難にすることである。実際、たとえ患者が拘束されていても、呼吸や、例えば心臓の脈動のような不随意な筋肉活動から生じる動きのような、患者の身体内の臓器の動きが、従来技術の放射線療法システムが放射線量を正確に投入することを困難にすることになる。
【0009】
したがって、従来技術のシステムを使用して治療計画を作成する時、線量制約は、治療中における患者および/または臓器の動きに付随する不確実性を考慮に入れる必要がある。実際には、この不確実性は、システムのオペレータが、健康な組織の損傷を避けるために、より低い全体投与量を投入するようにシステムを設定するという結果になり得る。これは、逆に、不確実性が存在しなかった場合よりも効率の悪い治療法に終わってしまう可能性がある。
【0010】
粒子ビーム放射線治療システムにおいて、粒子は光の速度に近い速度で走行し、その軌道は通常は磁石によって制御され曲げられる。粒子ビームの方向を早くかつ自在に変更することは、必要とされる磁力のために、困難なことである。
【0011】
本発明の目的は、この問題を軽減し、粒子ビームのエネルギーおよび軌道を効率的に制御することができる粒子ビーム誘導システムおよび放射線治療システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様によれば、本発明は粒子ビーム誘導システムを提供し、当該システムは、
- 粒子ビームのエネルギーレベルを調整するための減衰器(attenuator)と、
- 減衰器の下流に位置する第一のビームガイド(beam guide)であって、入射軌道からの粒子ビームを中間軌道へ偏向させるための磁界を発生させるための二つの磁石を各々が含む第一および第二の誘導双極子(guiding dipoles)を備え、第一のビームガイドの第一の双極子は粒子ビームを第一の面において偏向するように配置されており、第一のビームガイドの第二の双極子は粒子ビームを第一の面と直交する第二の面において偏向するように配置されている第一のビームガイドと、
- 第一のビームガイドの下流に位置する第二のビームガイドであって、中間軌道からの粒子ビームを出射軌道へ偏向させるための磁界を発生させるための二つの磁石を各々が含む第一および第二の誘導双極子を備え、第二のビームガイドの第一の双極子は粒子ビームを第三の面において偏向するように配置されており、第二のビームガイドの第二の双極子は粒子ビームを第三の面と直交する第四の面において偏向するように配置されている第二のビームガイドと、
- 第二のビームガイドの下流に位置し、所期の出射軌道を制御するように配置されたビーム軌道監視制御ユニットであって、当該ビーム軌道監視制御ユニットは粒子ビーム減衰材料の第一および第二のビーム軌道制御ディスクを備え、各ディスクは入射軌道に直交する個別の平行する面において個別に動かすことが出来、かつ各ディスクは開口を有し、その開口の整合が所期の出射軌道を規定する、ビーム軌道監視制御ユニットとを含む。
【0013】
前記第三の面は前記第一の面と同一であってよく、したがって前記第四の面は前記第二の面と同一であってよい。
【0014】
第一および第二のビームガイドの間隔は30から150cmの範囲内にあってよい。
【0015】
粒子ビーム誘導システムは、減衰器の下流であって第一のビームガイドの上流に位置し、粒子ビームの焦点を合わせるための集束四極子(focusing quadrupoles)を形成する一組の磁石を含む集束ユニット(focusing unit)を備えてもよい。
【0016】
別の態様によれば、本発明は、粒子ビーム誘導システムにおいて粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を制御する方法を提供する。当該方法は、
- 粒子ビーム誘導システムにおいて、入射軌道に沿って入射する粒子ビームを受信し
- 粒子ビーム誘導システの減衰器において、粒子ビームのエネルギーレベルを調整し、
- 減衰器の下流に位置する、粒子ビーム誘導システムの第一のビームガイドであって、入射軌道から粒子ビームを中間軌道へ偏向させるための磁界を発生させるための二つの磁石を各々が含む第一および第二の誘導双極子を備え、第一のビームガイドの第一の双極子は粒子ビームを第一の面において偏向するように配置されており、第一のビームガイドの第二の双極子は粒子ビームを第一の面と直交する第二の面において偏向するように配置されている第一のビームガイドを用いて、入射軌道からの粒子ビームを中間軌道に偏向し、
- 第一のビームガイドの下流に位置する、粒子ビーム誘導システムの第二のビームガイドであって、中間軌道から粒子ビームを出射軌道へ偏向させるための磁界を発生させるための二つの磁石を各々が含む第一および第二の誘導双極子を備え、第二のビームガイドの第一の双極子は粒子ビームを第三の面において偏向するように配置されており、第二のビームガイドの第二の双極子は粒子ビームを第三の面と直交する第四の面において偏向するように配置されている第二のビームガイドを用いて、中間軌道からの粒子ビームを出射軌道に偏向し、
- 第二のビームガイドの下流に位置する、粒子ビーム誘導システムのビーム軌道監視制御ユニットであって、当該ビーム軌道監視制御ユニットは粒子ビーム減衰材料の第一および第二のビーム軌道制御ディスクを備え、各ディスクは入射軌道に直交する個別の平行する面において個別に動かすことが出来、かつ各ディスクは開口を有し、その開口の整合が意図する出射軌道を規定する、ビーム軌道監視制御ユニットを用いて、意図する出射軌道を制御する、工程を含む。
【0017】
本方法は、減衰器の下流であって第一のビームガイドの上流に位置する、粒子ビーム誘導システムの集束ユニットであって、粒子ビームの焦点を合わせるための集束四極子を形成する一組の磁石を含む集束ユニットを用いて粒子ビームの焦点を合わせる工程を含んでもよい。
【0018】
減衰器において粒子ビームのエネルギーレベルを調整する工程は、減衰器において一対の摺動ウエッジ(sliding wedges)を、粒子ビームの経路にある減衰材料の量を増やしたり減らしたりするために互いに近づけたり離したりするように動かす工程を含んでよい。
【0019】
動作において、第一および第二のビーム軌道制御ディスクは、粒子ビーム誘導システムの所望の出射軌道を開口が規定するように位置取りされる。もしも第一および第二のビームガイドが所望のまたは設定された出射軌道を実現するのに成功した場合は、粒子ビームは制御ディスクの整列された開口を通過することになる。しかしながら、粒子ビームに完全に整合していない漂遊粒子は制御ディスクに捕捉されることになる。また、もしもビームガイドが粒子ビームとの位置合わせに失敗した場合は、粒子ビームは第一または第二の制御ディスクに打ち当たることになる。
【0020】
第一および/または第二のビーム軌道制御ディスクは、好ましくは制御ディスク上のどこに粒子が当たったかを検出することができるセンサーを備えて良く、かくして整合不備に関する情報を粒子ビーム誘導システムにフィードバックするのを可能にし、それがリアルタイムでまたは概ねリアルタイムで、減衰器および/またはビームガイドを調節して、所望の出射軌道と検知された出射軌道との間のずれを減らすことを可能にしている。
【0021】
充分な精度を保つために、平行な第一および第二のビーム軌道制御ディスク間の距離は40から150mmの範囲内にあってよく、ディスクに設けられた開口は円形であって3から10mmの範囲内の直径を有していてよい。
【0022】
減衰器は、粒子ビームの経路にある減衰材料の量を増やしたり減らしたりするために互いに近づけたり離したりするように動かすことのできる一対の摺動ウエッジを含んでよい。しかしながら、原則として、技術範囲内で公知のいかなるタイプの粒子ビーム減衰器でも使用することができる。
【0023】
第一および第二のビームガイドの磁石は超電導磁石であってよい。
【0024】
粒子ビーム誘導システムは、有利には収納体を備えてよく、粒子ビーム誘導システムの構成要素をその中に収納する。収納体は、例えば極低温の冷却を確実に行うため、例えば真空収納および/または温度制御のような雰囲気制御を有利に提供しうる。収納体はまた、例えば一つの粒子ビーム誘導システムからの磁界が他の粒子ビーム誘導システムの動作に干渉するのを防止するように、磁気シールドを提供してもよい。
【0025】
粒子ビーム誘導システムの収納体は、一般的にチューブ状の形状で、放射線ターゲットから離れて第一の、粒子ビーム入口端を、放射線ターゲットに面して第二の、粒子ビーム出口端を有しているものでありうる。
【0026】
さらに他の態様によれば、本発明は、放射線治療システムであって、
- 複数の粒子ビーム誘導システム源であって、各粒子ビーム誘導システムは、入射軌道に沿って入射する粒子ビームを受信し、かつ放射線治療患者の体内に位置する3次元放射線ターゲットに向けた照射粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を制御するように配置された、粒子ビーム誘導システムと、
- 放射線ターゲットの移動の方向および速度を含む、3次元放射線ターゲットの空間内の位置および方向を監視すると共に、粒子ビームの放射経路に位置する放射線ターゲットを囲む身体組織の組織特性を監視するように配置された画像化システムと、
- 粒子ビーム制御システムであって、放射線治療セッション中に、
- 画像化システムから放射線ターゲットの位置および方向に関する情報と前記組織特性に関する情報を受信し、
- 前記組織特性に関する受信情報に基づいて、粒子ビームに曝されてならない身体組織を識別して、
- 放射線ターゲットの動きに応答し、粒子ビーム誘導システムを、
(i)粒子ビームのブラッグピークが、放射線ターゲット内の所定のビーム交差領域で交差するようにさせ、かつ
(ii)粒子ビームの放射経路が、粒子ビームに曝されてはならないと識別された前記身体組織を通って走行しないように、制御する、
粒子ビーム制御システムと、を含む放射線治療システムを提供する。
【0027】
したがって、本発明のこの態様は、複数の粒子ビーム誘導システムを同時にかつ協調的に動作させるように粒子ビーム制御システムを使用することに基づいている。粒子ビーム制御システムは、複数の粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を制御するように配置され、したがってそれらが交差して、それらのブラッグピークが、照射ターゲット内、例えば癌腫瘍内、の所定のビーム交差領域内に存在するようになり、同時に、粒子ビームに曝されないように特定されている身体組織を通って粒子ビームが走行するのを防止する。
【0028】
治療セッションに先立って、照射ターゲットの各部分または領域に投入されるべき必要な照射線量、並びに異なる方向から照射ターゲットに投入されるべき放射線量を記載した治療計画が確立される。治療計画は通常、放射線ターゲットおよび周辺組織、例えば臓器、骨および他の組織構造、の詳細な視覚化に基づいて作成される。治療計画は通常、粒子ビームに曝されるべきではない身体組織および/または患者の身体内の領域をも特定する。
【0029】
治療セッション中に、複数の粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道が、放射線ターゲットの動きおよび/または周辺組織の動きに応じて調整され、各時点で、例えば治療計画に従って、粒子ビームに曝されてはならない患者の体内の敏感な領域または構造(例えば 中枢神経系および/または末梢神経系の構造、眼、照射されないよう特定された臓器など)および/または粒子ビームに望ましくない影響を与える可能性がある患者の体内の領域または構造(例えば骨)を回避しつつ、対象とするビーム交差領域内にブラッグピークを示すような各粒子ビームの放射経路または軌道を見出す。ある粒子ビーム源に対して適切な粒子ビーム軌道を見出すことができない場合は、その粒子ビーム源を一時的に停止させることがありうる。
【0030】
粒子ビーム源の再配置および再調整を促すような放射線ターゲットの動きおよび/または周辺組織の動きは、典型的には、患者が動くことによるものまたは患者の内臓の動きによるものでもありうる。
【0031】
放射線ターゲットが大きい場合、治療計画では、ビーム交差領域が放射線ターゲットを横切って掃引されることを要求される場合がある。その結果、粒子ビーム(複数)の出射エネルギーレベルおよび出射軌道は、そのような掃引動作を実行するように調整されることができる。
【0032】
粒子ビーム制御システムは、出射エネルギーレベルおよび出射軌道に対する設定点の値を更新して、前記複数の粒子ビーム誘導システムに制御信号を送り、所定の間隔、例えば0.1から0.05秒の範囲内の間隔で、設定点の値を実行するように配置されることもできる。
【0033】
画像化システムは、意図されたターゲットおよび粒子ビームの放射経路内に位置する意図されたターゲットの周辺組織をリアルタイム、または概ねリアルタイム、で表示するための基盤を提供できるような、X線コンピュータ断層撮像(X線CT)画像化システム、磁気共鳴画像(MRI)システム、陽子コンピュータ断層撮像(PCT)画像化システム、陽電子放出断層撮像(PET)システム、超音波画像化システム、もしくは任意の他のタイプの画像化システム、またはそれらの組み合わせを備えても良い。
【0034】
ターゲットおよび周辺組織のリアルタイム、または概ねリアルタイム、での表示は、リアルタイムで当該表示を調整し更新するように、ターゲットおよび周辺組織の静的表示に基づき、また、動作の追跡を伴う運動パターンの知識に基づいて、行い得る。動作のリアルタイム追跡は、例えば、特許文献2及び特許文献3に開示されているように、超音波または他の既に知られた手段を用いて達成することができる。
【0035】
画像化システムによって提供される前記表示に基づいて、粒子ビーム誘導システムの出射エネルギーレベルおよび出射軌道は、放射線ターゲットおよび周辺組織の動きを動的に補償するように調整されることができ、この調整によって、粒子ビームのブラッグピークが、放射線ターゲットの内側の所定のビーム交差領域において交差を維持され、同時に、粒子ビームに曝されないように指定された身体組織を通るような走行をしない粒子ビームの放射経路を確立する。このようにして、より効率的な線量投入を達成することができ、したがって腫瘍内部の放射線治療の効果を改善し、同時に周囲の健康な組織に投入される放射線量を減らすことができる。
【0036】
粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を調整する粒子ビーム誘導システムの能力により、本発明によるシステムは、放射線ターゲットおよび周辺組織の動きを補償すると同時に、腫瘍を横切ってビーム交差領域を掃引することによって、大きな腫瘍を治療するために使用することができる。上記の性能を持つので、本発明によるシステムは、治療セッション中に複数の腫瘍を治療するためにも使用することができる。
【0037】
本発明によるシステムは、電子的に、およびリアルタイムで、完全な治療セッションを文書化する、例えば1つまたは複数のターゲットの各部分における累積放射線量および治療セッション中に使用されるシステム設定を文書化する、ために使用することができる。
【0038】
本発明による放射線治療システムは、粒子ビームを生成してそれらを粒子ビーム誘導システムに供給するための1つまたはそれより多い粒子発生器(particle generators)または加速器(accelerators)を備えることができ、各加速器は1つまたはそれより多い粒子ビームまたはビームレット(beamlets)を発生するように構成できる。
【0039】
粒子ビームは、陽子ビームであっても良い。
【0040】
以下では、「粒子ビーム」という用語は、特に記載されない限りまたは文脈から黙示的に理解されない限り、一つのかつ同じ粒子源から出て同一のビーム経路を有する一つまたは複数の粒子ビームまたはビームレットを意味する。例えば、粒子ビームは、業界内で「ペンシルビーム」と呼ばれるタイプのものであってもよい。代替的に、粒子ビームの輪郭をリアルタイムで調整するための既存の新しい技術を適用することができる。この新しい技術は、画像誘導放射線療法(image-guided radiation therapy:IGRT)または四次元放射線療法と呼ばれている。
【0041】
粒子ビームが陽子ビームである場合、粒子ビームの軌道は通常永久磁石または電磁石によって操作され、そのようなアクチュエータシステムでは電力供給および冷却に対して通常大きな要求がある。例えば冷却は、エネルギー転送のために、または超伝導のための条件を提供するために、必要とされうる。
【0042】
粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を個々に制御することによって、粒子ビーム制御システムは、ブラッグピークがビーム交差領域に集束することを確実にする。
【0043】
粒子ビーム制御システムは、個々の粒子ビームの開始および停止、更に各粒子ビームがビーム交差領域を照射する時間の長さを制御するように構成されていてよい。
【0044】
粒子ビーム制御システムは、ビーム交差領域によって占められる空間内のボリュームが比較的大きくなるように粒子ビームを制御することができ、その場合、ビーム交差領域は、少なくとも放射線ターゲットが小さい場合には、放射線ターゲット全体を包含することができる。代替的に、粒子ビーム制御システムは、ビーム交差領域によって占められるボリュームが小さくなるように粒子ビームを集束させるように配置されてもよく、その場合、投与される放射線はこの小さなボリュームに集中される。
【0045】
放射線ターゲットがビーム交差領域によって占められるボリュームよりも大きい場合には、ビーム交差領域を放射線ターゲットにわたって掃引または走査させて、所望の照射線量を放射線ターゲットの異なる部分に投入するようにしてもよい。このような掃引または走査は段階的または連続的であってもよい。
【0046】
ビーム交差領域を動的に制御するためには、各粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を好ましくは動的に制御しなければならない。
【0047】
粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を調整する目的は、各粒子ビームのブラッグピークの発生の正確な位置決めを確実にすることであり、これにより、それが所定のビーム交差領域において正確に生じる、すなわち、粒子ビームのブラッグピークがビーム交差領域内で交差させられることになる。ビーム交差領域の範囲は一般に交差する粒子ビームの断面積とそれらのブラッグピークの軸方向範囲によって決定される。ブラッグピークが、堆積エネルギーが最大堆積エネルギーの80%よりも大きい領域として定義される場合、粒子ビームの個々の断面積と粒子ビーム間の角度に応じて、ビーム交差領域のボリュームは通常、50から1000mmの範囲内に設定することができる。
【0048】
ビーム交差領域における個々の粒子ビームの位置は、通常、+/-0.5mmの精度内に設定されるべきであり、充分な動的特性を提供するために、粒子ビームの出射軌道の調整は、好ましくは、20mm/sの速度で動き40mm/sの加速度で加速するビーム交差領域に粒子ビームが追従することができるのに充分早くなければならない。
【0049】
画像化システムは、速度データ、すなわちターゲットの位置および姿勢の変化に関するデータ、と共に、ターゲットの空間内の位置および方向、すなわち姿勢、を連続的に監視するように配置される。画像化システムはまた、ターゲットを囲む組織、特に粒子ビームの経路内にある組織に関する情報を監視するように配置される。
【0050】
このデータに基づいて、画像化システムは腫瘍と周囲の組織を動的にマッピングし、患者の身体の関連部分を表す数学的モデルを構築することができる。様々な種類の組織(骨、肉、臓器、腫瘍など)がマッピングされることになり、様々な種類の組織が粒子ビームとどのように相互作用するかについての情報を用いて、粒子ビーム制御システムは、各粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を連続的に調整することができるようになり、そのためビーム交差領域は意図した位置に固定される。所望の出射エネルギーレベルおよび所望の出射軌道の設定は、同じ数学的モデルを用いて有利にマッピングすることができるので、実際のリアルタイム照射ならびに身体の様々な部分での累積効果が、例えば各立方mmで(または選択によっては、より大きなもしくはより小さな単位で)記録される。
【0051】
画像化システムによって監視された情報は、ビーム制御システムに転送される。ビーム制御システムは、その情報を処理し、ビーム交差領域にビームを集束させ維持するために、ビーム源の位置、ビーム源の調整およびビーム変調の最適な組み合わせを動的に自動的に計算し実行する。
【0052】
ビーム交差領域が動いている時、例えばビーム交差領域がターゲット上を掃引することを意図している時、および/または、例えば呼吸運動のためにターゲットが動いている場合にビーム交差領域がターゲットに追従する時に、骨は粒子ビームに対して異なる通常は望ましくない影響を与えるので、ビームの軌道が肋骨などの骨を避けるために、個々の粒子ビームの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を動的に調整することが時には必要である。
【0053】
粒子ビームの出射エネルギーレベルを調整することは、例えば、参照により本明細書に組み入れられる特許文献4に記載されているように、ブラッグピークの遠位部がビーム交差領域で生じるように制御することができるように、レンジ・シフタを適用することを含んでもよい。
【0054】
荷電粒子のビームのエネルギー損失は、ミリメートル当たりで測定されるが、ターゲット内のビーム交差領域に到達する前に通過する組織のカテゴリに応じて、実質的に変化する。空気、肉体、様々な臓器、または骨組織を通過するか否か、およびこれらの各々の経路距離が、ビーム源からどの距離でブラッグピークが発生するかに大きな影響を与える。
【0055】
粒子ビーム中の粒子の関係するタイプおよび他の関係するビーム特性を考慮に入れて、ターゲットおよび周囲組織の数学的モデルは、組織のカテゴリ当たりのmm当たりのエネルギー損失を示すデータとともに作成することができる。これに関しては、例えば、参照により本明細書に組み入れられる特許文献5に記載されているように、3D線量追跡を適用することができる。
【0056】
以下では、添付の図面を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】3つの異なる粒子ビームのブラッグピークを図示する。
図2】本発明による放射線治療システムの一実施例を示す。
図3】本発明による放射線治療システムの一実施例を示す。
図4】本発明による粒子ビーム誘導システムを概略的に示す。
図5】本発明による粒子ビーム誘導システムを概略的に示す。
図6】粒子ビームの屈折を図示する。
図7a】粒子ビーム誘導サブシステムにおける印加磁界の関数としての屈折角度を示す。
図7b】粒子ビーム誘導サブシステムにおける印加磁界の関数としての屈折角度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
荷電粒子が物質中を移動すると、当該物質の原子をイオン化し、経路に沿って線量を堆積する。荷電粒子の速度が減少するにつれて、堆積エネルギーは増加する。陽子、α線、およびその他のイオン線の場合、粒子が静止する直前に堆積エネルギーがピークになり、その結果、物質を通って走行した距離の関数として、このような電離放射線のエネルギー損失をプロットすると、結果として得られる曲線は、堆積エネルギーがゼロになる直前に、いわゆるブラッグピークと呼ばれる、顕著なピークを示す。
【0059】
これは、3つの異なる粒子ビームからのブラッグピークを開示する図1に示されている。
【0060】
図2および図3は、本発明による放射線治療システムの一実施例を開示している。放射線治療システムは、放射線治療患者4の体内に位置している三次元放射線ターゲット3に粒子ビーム6a-6cを放射するように配置された複数の粒子ビーム誘導システム1a-1cを備える。
【0061】
放射線治療システムはまた、粒子ビーム誘導システムから出射する粒子ビーム6a-6cのエネルギーレベルおよび軌道を個々に制御し調整するように配置された粒子ビーム制御システム7を備えており、それによって粒子線6a-6cのブラッグピークが、放射線治療セッション中に放射線ターゲット3の内側の所定のビーム交差領域8において交差するようにされている。
【0062】
出射軌道制御は、デカルト座標x、y、yによって例えば表される各粒子ビーム源の位置を定義する3つの変数、および直交ピッチ軸およびヨー軸の周りで測定される回転角度によって例えば表されるような、ビーム源から発する粒子ビームのピッチおよびヨーを定義する2つの変数、を制御することを含む。
【0063】
粒子ビーム6a-6cのエネルギーレベルの調整は、各粒子ビーム6a-6cのcの経路に1つまたは複数の減衰素子(attenuator elements)(図4参照)を動的に挿入および除去することを含んでもよい。
【0064】
放射線治療システムは更に、3次元放射線ターゲット3の空間内の位置および方向を監視し、また粒子ビーム6a-6cの放射線経路内に位置する放射線ターゲット3を囲む身体組織5の組織特性を監視するように配置された画像化システム2を備える。監視されたデータに基づいて、画像化システムは、ターゲット3および周囲組織5を動的にマッピングし、患者の身体の関連部分、すなわち、ターゲット3と、ターゲット3および粒子ビーム源1a-1cの間にある周囲組織5とを表す数学的モデルを構築するように配置される。このマッピングでは、様々な種類の周囲組織(骨、肉、臓器など)がマッピングされ、様々な種類の組織が粒子ビームとどのように相互作用するかに関する既知の情報、特に、様々な種類の組織がどの程度粒子ビームを減衰させるかに関する情報、が数学的モデルの作成に用いられる。
【0065】
動作中、画像化システム2は、ターゲット3および周囲組織5の空間における位置および方向を監視し、ターゲット3および周囲組織5のマップ、並びに患者4の身体の関連部分を表す数学的モデルを継続的に更新する。更新されたマップおよび/または更新された数学的モデルは、粒子ビーム制御システム7に転送される。
【0066】
粒子ビーム制御システム7は、画像化システム2から受信した情報を処理し、この情報に基づいて、制御信号を作成する。この制御信号は粒子ビーム誘導システム1a -1cへ送られて粒子ビーム6a-6cの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を調整し、ターゲット3の位置および/または姿勢の変化を考慮に入れて、粒子ビーム6a-6cのブラッグピークが意図したビーム交差領域8内に維持されるようにする。
【0067】
このことは、図3に示されており、患者または患者の内臓が動くことに例えば起因する、ターゲット3の空間における位置および/または方向の変化が、粒子ビーム制御システム7に、粒子ビーム6a-6cの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を調整するように促す。
【0068】
画像化システム2から受信した情報から、粒子ビーム制御システム7は、治療計画に従って粒子ビーム6a-6cに曝されてはならない身体組織も識別する。粒子ビーム6a-6cの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を調整する時、粒子ビーム制御システム7は、かかる身体組織が粒子ビーム6a-6cに確実に曝されないようにする。
【0069】
粒子ビーム6a-6cの出射エネルギーレベルおよび出射軌道の調整は、必ずしも放射線ターゲットの移動によって引き起こされるのではなく、粒子ビーム6a-6cに曝されてはならない身体組織を粒子ビーム6a-6cの放射経路内に入れてしまうような動きによって引き起こされることでもよい。例えば、空間内の本質的に同じ場所に放射線ターゲットを留めつつ患者の身体が回転するような場合、照射されてはならない身体組織が回転によって粒子ビーム6a-6cの放射経路内に入ってしまうような時は、それにもかかわらず、1つまたは複数の粒子ビーム6a-6cの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を調整することが必要となってくる。
【0070】
粒子ビーム制御システム7が粒子ビーム6a-6cに対する「安全な」放射経路、すなわち身体組織が粒子ビームに曝されないように回避する放射経路、を見つけることができない場合、粒子ビーム制御システム7は、そのような放射経路が見つかるまで、例えば、放射線ターゲットおよび周囲の組織が移動してそのような放射線経路が再び利用可能になるまで、粒子ビームを停止しなければならない。
【0071】
意図されるビーム交差領域8は、図2および図3に開示されているように、ターゲット3内の所与の位置に固定されてもよい。代替的に、ビーム交差領域8は、連続的にまたは段階的にターゲット3上を掃引するように配置されてもよく、その場合、粒子ビーム6a-6cの出射エネルギーレベルおよび出射軌道を調整する時は、ビーム制御システム7はビーム交差領域の新たな位置も考慮に入れなければならず、それに加えて、ターゲットの空間における位置および/または方向の変化並びに粒子ビーム6a-6cの経路にある組織の組成の変化を補償することも考慮に入れなければならない。
【0072】
図4および5は、放射線治療システムの粒子ビーム6a、6b、6cを再配置し再調整するための粒子ビーム誘導システム1a、1b、1cの実施例を示し、そこでは粒子ビーム誘導システム1a-1cは、入射軌道T1に沿って入射する粒子ビーム6a-6cを受信して粒子ビーム6a-6cの出射エネルギーレベルおよび出射軌道T3を制御するように配置されている。
【0073】
粒子ビーム誘導システム1a-1cは、放射線ターゲット3から離れた側のシステム1a-1cの端部に、減衰器22を備える。減衰器は、ブラッグピークが、放射線ターゲット3内の所定のポイントで生じるように粒子ビームエネルギーレベルを調整するように配置される。開示されている実施例では、減衰器22は、一対の摺動ウエッジ22a、22bを備えており、当該摺動ウエッジは、粒子ビーム6の経路にある減衰材料の量を増やしたり減らしたりするために互いに近づけたり離したりするように動かすことが出来る。
【0074】
粒子ビーム誘導システム1a-1cは、また、減衰器22の下流、すなわち減衰器22の放射線ターゲット側、に配置された集束ユニット24を備えている。集束ユニット24は、減衰器22を通過した後の粒子ビーム6a-6cの焦点を合わせるための、集束四極子を形成する一組の磁石24a、24bを備える。
【0075】
粒子ビーム誘導システム1a-1cはさらに、減衰器22の下流に位置する第一のビームガイド26を含む。第一のビームガイド26は第一および第二の誘導双極子26a、26bを含み、各誘導双極子26a、26bは、粒子ビーム6a-6cを入射軌道T1から中間軌道T2へ変更させるための磁界を生じるための二つの超電導磁石を含み、そこでは、第一の双極子26aは粒子ビーム6a-6cを第一の面、例えば水平面、において偏向させるように配置され、第二の双極子26bは粒子ビーム6a-6cを第一の面に直交する第二の面、たとえば垂直面、において偏向するように配置されている。
【0076】
粒子ビーム誘導システム1a-1cは、さらに、第一のビームガイド26の下流に置かれる第二のビームガイド28を備えている。第二のビームガイド28は、第一および第二の誘導双極子28a、28bを含み、その各々は二つの超電導磁石を含む。誘導双極子28a、28bは粒子ビーム6a-6cを中間軌道T2から出射軌道T3へ偏向させるように配置されている。第一のビームガイド26におけると同様に、一つの双極子28aは粒子ビーム6a-6cを第一の面において偏向するように配置され、他の双極子28bは、第一の面に直交する第二の面において粒子ビーム6a-6cを偏向するように配置されている。
【0077】
第一のビームガイド26は、入射するビームが第二のビームガイド28にオブセンターで、すなわち入射軌道T1に平行ではない軌道に沿って、入るように、入射するビーム6a-6cを偏向することが出来る。このことは、粒子ビーム6a-6cが、入射軌道T1に直交しておりかつ入射軌道T1と同軸の中心を有する平面状円形区域29内のどこかから第二のビーム源28を出射するのを可能にすることになる(図5参照)。最大の可能な偏向値、すなわち円形区域29の半径を定義すること、は第一のビームガイドの磁石の強さおよび大きさによって、並びに粒子ビームがどれだけのエネルギーを有するかによって決められることになる。
【0078】
第二のビームガイド28は、粒子ビーム6a-6cが第二のビームガイド28を出射する位置合わせを制御する。換言すれば、第二のビームガイド28は出射軌道T3のピッチおよびヨーを制御する。
【0079】
従って、第一のビームガイド26は出射軌道T3の出発位置(円29の内部)を制御し、第二のビームガイド28は出射軌道T3のピッチおよびヨーを制御して、放射線ターゲットおよび周辺組織の位置へ向かう出射軌道T3を粒子ビーム誘導システム1a-1cが選択することを可能にする。
【0080】
図6は、荷電粒子、たとえば陽子、が磁界を通過する時にいかに新しい方向を得るかの一般原理を示し、図7aおよび7bは、磁界の長さ、l、の異なる値に対して、特にl=200mm(曲線Da、Db)、l=300mm(曲線Ea、Eb)、l=400mm(曲線Fa、Fb)およびl=500mm(曲線Ga、Gb)に対して印加磁界の強さの関数としての、第一のビームガイド26において得られる屈折の角度を示す。図7aは、150MeVのエネルギーを有する粒子ビームについて得られた屈折の角度を示し、図7bは、250MeVのエネルギーを有する粒子ビームに対して得られた屈折の角度を示す。
【0081】
第二のビームガイド28の下流に、粒子ビーム誘導システム1a-1cは、ビーム軌道監視制御ユニット30を備える。このユニット30は、二つの平行なビーム軌道制御ディスク30a、30bを備え、これらディスクは入射軌道に対して直交する個別の面において個別に動かすことが出来る。制御ディスク30a、30bの間の距離は、40から150mmの範囲内にある。各制御ディスク30a、30bは、粒子ビームが通過するための円形の開口31a、31bを有し、開口31a、31bは、それぞれ、粒子ビーム6a-6cの直径よりわずかに大きい直径を有する。開口31a、31の直径は、例えば3から10mmの範囲内にあってよい。
【0082】
動作において、第一および第二のビーム軌道制御ディスク30a、30bは、粒子ビーム誘導システムの所望の出射軌道を開口31a、31bが規定するように位置付けられる。もし、第一および第二のビームガイド26、28が粒子ビーム制御システム7によって設定された出射軌道を実現するのに成功した場合は、粒子ビームは整列された開口31a、31bを通過することになる。しかしながら、もし、ビームガイド26、28が粒子ビームとの位置合わせに失敗した場合は粒子ビームは第一または第二の制御ディスクに打ち当たることになる。
【0083】
従って、開口31a、31bは、所望の出射軌道を有する粒子ビームが開口31a、31bを通過することを可能にするような位置に常に保たれ、粒子ビームが特定のターゲット領域以外のいかなる位置にも打ち当たらないことを確実にするための安全対策として機能する。ビーム軌道制御ディスク30a、30bの各々は、いかなる漂遊陽子をも吸収する表面を有し、加えて漂遊陽子の量を記録するためのセンサを備え、かくして整列不備に関する情報を粒子ビーム誘導システムにフィードバックするのを可能にし、それがリアルタイムでまたは概ねリアルタイムで、減衰器および/またはビームガイドを調節して、所望の出射軌道と検知された出射軌道との間のずれを減らすことを可能にしている。
【0084】
この機能は、コンピュータによる学習を通して経時的に改善されうる。この機能は、主たる粒子ビームと干渉することなしに得られる。
【0085】
粒子ビーム誘導システム1a-1cは収納体(図示せず)を備え、粒子ビーム誘導システムの構成要素をその中に収納する。収納体は、極低温の冷却を確実に行うため、例えば真空収納および/または温度制御のような雰囲気制御を提供する。収納体はまた、磁気シールドを提供して、一つの粒子ビーム誘導システムからの磁界が他の粒子ビーム誘導システムの動作に干渉するのを防止している。
【0086】
ここまでの記載では、本発明による装置の様々な態様を例示的な実施例を参照しつつ説明してきた。説明の目的のために、装置およびその機能の完全な理解を提供するべく、特定の数字、システムおよび構成が述べられた。しかしながら、この記載は限定的な意味で解釈されることを意図してはいない。開示された主題が関係する当業者には明らかであるような、例示的な実施例の様々な修正形態および変形形態並びに装置の他の実施例は、次に続く請求範囲によって定義される本発明の範囲内にあるものと見なされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b