(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】薬剤施薬装置とその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 13/00 20060101AFI20240308BHJP
A61M 15/08 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A61M13/00
A61M15/08
(21)【出願番号】P 2020558137
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2019038943
(87)【国際公開番号】W WO2020105290
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2018216575
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019127425
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】393030626
【氏名又は名称】株式会社新日本科学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】治田 俊志
(72)【発明者】
【氏名】里吉 源二
(72)【発明者】
【氏名】三島 秀晶
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-526480(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0169278(US,A1)
【文献】特開平03-131271(JP,A)
【文献】特表2010-515541(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0367366(US,A1)
【文献】特開2016-140527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 13/00
A61M 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定分量の粉状薬剤を鼻腔等に施薬するための単回使用型の薬剤施薬装置において、
前記粉状薬剤が充填される充填スペース、および該粉状薬剤が噴出される噴出用開口部を有するノズル部材と、
前記噴出用開口部を閉口する閉口部材と、
前記充填スペースの
前記噴出用開口部とは反対側の開口部を封止するシール部材と、
底部が押圧されることによる収縮動作に伴い空気を送り出して前記粉状薬剤を前記噴出用開口部から噴出させる噴射用のポンプ部材と、
先端部が孔を穿ちやすい先細り形状であり、前記ポンプ部材の収縮動作に伴い移動し該移動の途中で前記シール部材に孔を穿つ穿孔部材と、
前記孔を通って前記充填スペース内に流れ込む空気の一部を径方向外側へ向かわせるように、前記穿孔部材の先端部の裏側に形成された
裏面部と、
を備える、薬剤施薬装置。
【請求項2】
前記穿孔部材の前記先端部以外の部分に、移動方向に沿って伸びる溝部が形成されている、請求項1に記載の薬剤施薬装置。
【請求項3】
複数の前記溝部が前記穿孔部材の軸部に形成されている、請求項2に記載の薬剤施薬装置。
【請求項4】
前記
裏面部が、径方向外側から内側へと向かうにつれて前記先端部に近づくように傾斜している、請求項3に記載の薬剤施薬装置。
【請求項5】
前記
裏面部が傘のように前記先端部に向かって傾斜している、請求項4に記載の薬剤施薬装置。
【請求項6】
前記穿孔部材の前記移動時の方向と垂直な方向への動きを規制するガイド部材をさらに備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の薬剤施薬装置。
【請求項7】
前記穿孔部材の基端部と、前記ポンプ部材の底部とが接している、請求項6に記載の薬剤施薬装置。
【請求項8】
前記ポンプ部材が、前記ノズル部材側から当該ポンプ部材の底部に近づくにつれて絞り込まれるテーパー形状である、請求項7に記載の薬剤施薬装置。
【請求項9】
前記ポンプ部材を収縮動作させる際に使用者が指を掛けることができる指掛け部が設けられている、請求項8に記載の薬剤施薬装置。
【請求項10】
前記閉口部材は、その一部が前記指掛け部に位置するように配置されており、当該薬剤施薬装置の使用時、前記閉口部材を取り外すことにより使用者が前記指掛け部に指を掛けることが可能な状態となる、請求項9に記載の薬剤施薬装置。
【請求項11】
前記ポンプ部材に、当該ポンプ部材への誤操作による誤作動を防止するポンプ誤作動防止カバーが併設されている、請求項9または10に記載の薬剤施薬装置。
【請求項12】
収縮動作後の前記ポンプ部材が元の状態に戻るのを防止する戻り動作防止部材をさらに備える、請求項8または11に記載の薬剤施薬装置。
【請求項13】
前記ポンプ部材は、収縮動作後、元の形状には復帰し難い構造である、請求項1から11のいずれか一項に記載の薬剤施薬装置。
【請求項14】
正圧が作用した状態で前記シール部材の封止が解除する構造である、請求項1に記載の薬剤施薬装置。
【請求項15】
前記シール部材による前記充填スペースの開口部の封止力は、前記ポンプ部材の収縮動作に伴う内圧上昇の途中で剥離する範囲内の力に設定されている、請求項1に記載の薬剤施薬装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤施薬装置とその製造方法に関し、さらに詳細には、所定分量の粉状薬剤を鼻腔等に施薬するための単回使用型の薬剤施薬装置の構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、鼻炎や鼻アレルギー等の疾患を持つ患者に粉状薬剤を鼻腔内に施薬する治療方法が知られている。この治療方法では、専用の施薬装置を用いてカプセル内に充填した粉状の薬剤を鼻腔内に施薬している。また、従来、この治療方法に用いられる施薬装置が案出されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の施薬装置では、円筒部材の空気流入側にはポンプ部が設けられ、この円筒部材の空気流出側にはカプセルが挿入される凹形状部が形成され、この凹形状部に先端部を嵌合することによってカプセル収容部を形成し、このカプセル収容部からポンプ部に向けて、弁機構を持つ空気導入通路が形成されている。また、上記ポンプ部の他側にはもうひとつの弁機構が設けられ、この弁機構と空気導入通路内の弁機構により、ポンプ部の押圧時にはカプセル収容部に空気導入通路を介して空気が供給され、ポンプ部の復帰時には外部から空気をポンプ部内に吸い込むようになっている。さらに、施薬装置は、円筒部材の先端部に嵌合するキャップを有し、このキャップの内側には軸方向に伸びる針を設け、円筒部材の凹形状部と開口部を有する先端部を嵌合させた状態でキャップをはめることにより、カプセルの軸方向両側に孔あけを行う構成となっている。
【0004】
このように構成される装置では、まずカプセルの孔あけには、粉状薬剤が充填されたカプセルを円筒部材の凹形状部に挿入した後に先端部を嵌合してカプセルをカプセル収納部に挿着し、固い樹脂でできた先端部にキャップをはめることにより、先端部にガイドされたキャップの内側に設けられた針により、カプセルの軸方向両側先端部に孔をあける。
【0005】
次に、薬剤を投与するには、円筒部材からキャップを外して先端部を使用者が片方の鼻孔に挿入し、ポンプ部を押圧することによりポンプ部からの空気が空気導入通路を介してカプセル内に流れ、カプセル内の薬剤を使用者の鼻腔内に送達して施薬する。また両鼻腔内への施薬は、先端部の挿入以下の動作を繰返して行うことにより両鼻腔内への施薬が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の経鼻投与用施薬装置では、(a)毎回の投与量の均一化向上、(b)保存容器の薬物保存性の向上、(c)投与操作の簡便化、且つ、(d)携帯性の向上といった観点から改良されたものは皆無に等しかった。
【0008】
すなわち、粉末薬剤の経鼻投与用施薬装置には、(i)複数回分の薬剤を投与器内の容器に集合して収納し、その容器から投与ごとに1回分の薬剤を分割して投与を行う多回投与器(例えば、WO2001/095962参照)、(ii)1回分の薬剤が収納されたカプセルやカートリッジなどの容器を投与ごとに投与器に装填して投与を行う単回投与器(特許文献1が相当)があり、(ii)の単回投与器の中には、単回使用ごとに投与器ごと廃棄しうる、いわゆる使い捨てのタイプがある。(i)の多回投与器は、1つの投与器の中に、複数回分の薬剤を収納しているため、携帯性や利便性という面で非常に有用である。一方で、投与ごとに、1回分の薬剤を分割する操作が必要であり、その操作を厳密に行わなければ、必要量の薬剤を正確に分割できず、結果として毎回安定して必要量の薬剤を投与できない可能性もあり、治療上、厳密な投与量のコントロールが必要な薬物には不向きである。また、複数回の薬剤が収納された容器は、使用期間中ずっと密封状態にすることは非常に困難であることから、吸湿しやすいあるいは酸化しやすい薬物は使用期間中に粉末薬剤が容器内で変性したり、分解したりしてしまう可能性がある。さらに、同じノズルを繰り返し使用するため、ノズル外部が鼻汁で汚れたり、ノズル内部に投与操作後の薬剤が付着残存したりするため、定期的にノズルを掃除することが必要となる。このように、多回投与器には、必要量の薬剤を毎回分割する操作が厳密であること、薬剤保管容器として密封性が低いこと、ノズル掃除が定期的に必要であることなど、投与量の確実性、薬剤の安定性確保、定期的なメンテナンスの必要性などの課題がある。
【0009】
一方、(ii)の単回投与器は、1回分の薬剤が収納されたカプセルやカートリッジなどの容器を投与ごとに投与器に装填して投与を行うため、必要量の薬剤を毎回確実に投与できるメリットがある。さらに、カプセルやカートリッジなどの容器は個別包装され、使用時まで密封保存できることから、吸湿や酸化しやすい薬物にも応用が比較的容易である。その一方で、特許文献1に開示されている装置のように、薬剤容器としてカプセルを採用し、投与ごとの事前準備として、カプセルを投与器に装填し、投与後に使用済みカプセルを投与器から取り出す操作が必要になる。また、投与ごとの事前準備として、針を使ってカプセルの上下に孔を開ける場合、針でカプセルに孔を開けた後、空気の通気口を確保するために針をカプセルから引き抜くことから、針の出し入れによって、カプセルの破片が薬剤に混入してしまう可能性や、針でカプセルに孔を開ける位置が毎回安定せず、結果としてノズルからの薬剤の噴射性が安定しない可能性がある。また、例えば特許文献1に開示されている装置では、同じノズルを繰り返し使用するため、ノズル外部が鼻汁で汚れたり、ノズル内部に投与後の薬剤が付着残存したりするため、定期的にノズルを掃除することが必要となる。このように、単回投与器には、1回分の薬剤が収納された容器を投与器に装填および取り外しする操作や薬剤容器への孔あけ作業が投与ごとに必要となること、定期的なメンテナンスの必要性などの課題がある。
【0010】
さらに、従来の装置は、投与時の動作によって薬剤の噴出の態様が変わってしまうといった問題を含みうるものでもあったが、これらの観点から改良されたものもなかった。
【0011】
そこで、本発明は、毎回の投与量の均一化向上、保存容器の薬物保存性の向上、投与操作の簡便化、且つ携帯性の向上が可能であり、かつ、他の問題の解決にも結びつく構造の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、所定分量の粉状薬剤を鼻腔内に施薬するための単回使用型の薬剤施薬装置において、
粉状薬剤が充填される充填スペース、および該粉状薬剤が噴出される噴出用開口部を有するノズル部材と、
噴出用開口部を閉口する閉口部材と、
充填スペースの開口部を封止するシール部材と、
収縮動作に伴い空気を送り出して粉状薬剤を噴出用開口部から噴出させる噴射用ポンプ部材と、
を備える、薬剤施薬装置である。
【0013】
上記のごとき薬剤施薬装置は、所定分量の粉状薬剤が充填される充填スペースを有するノズル部材を備えていることから、好適には一回投与分の薬剤を充填しておくことで、毎回の投与量の均一化向上を実現しやすい。また、一回投与分の薬剤を一度に使い切る形に特化することができ、そうした場合には小型化・軽量化を図ることで携帯性向上を実現しやすくもある。これは、別言すれば、ノズル部材に、粉状薬剤(一回分の投入量を含む)の容器としての機能を併せ有させたものということもでき、投与量均一化向上と携帯性向上を実現しやすい構造であるといえる。
【0014】
また、一回投与分の薬剤を一度に使い切る形とすることで、ノズルを使い回す形態のとき当該ノズルが鼻汁などで汚れた場合に掃除が必要になるといった問題や、ノズル内に残存した薬剤に分解や変性が生じてそれらが生体に投与されてしまうといった問題など、ノズルの使い回しによる衛生面等での問題を克服することができる。
【0015】
また、上記のごとき薬剤施薬装置は、好適には一回投与分の薬剤を充填しておくものとし、使用するまでノズル部材内において薬剤を密封しておくことで、薬剤容器内での保存安定性に関わる薬効面、毒性面で生じうる問題(湿度や酸素等で分解や変性を起しやすい薬剤には不適だという問題)を解消すること、ひいては保存容器としての薬物保存性を向上させることができる。
【0016】
上記のごとき薬剤施薬装置では、ノズル部材の開口部をシール部材で封止しておくことで当該ノズル部材内に密封空間を形成しておき、粉状薬剤を噴出させる動作に伴って穿孔部材がシール部材に孔を穿つ構成としておけば、吸湿や酸化が起こりやすい薬剤に適用して特に好適である。
【0017】
上記のごとき薬剤施薬装置においては、穿孔部材の先端部が、孔を穿ちやすくする先細り形状であることが好適である。
【0018】
上記のごとき薬剤施薬装置において、穿孔部材の先端部の裏側に、孔を通って充填スペース内に流れ込む空気の一部を径方向外側へ向かわせる笠部が形成されていてもよい。
【0019】
上記のごとき薬剤施薬装置において、笠部が、径方向外側から内側へと向かうにつれて先端部に近づくように傾斜していてもよい。
【0020】
上記のごとき薬剤施薬装置において、穿孔部材の先端部以外の部分に、移動方向に沿って伸びる溝部が形成されていてもよい。
【0021】
上記のごとき薬剤施薬装置は、噴射用ポンプ部材の収縮動作に伴い移動し、該移動の途中でシール部材に孔を穿つ穿孔部材と、該穿孔部材の移動時の方向と垂直な方向への動きを規制するガイド部材と、をさらに備えていてもよい。
【0022】
上記のごとき薬剤施薬装置において、穿孔部材の基端部と、ポンプ部材の底部とが接していてもよい。
【0023】
上記のごとき薬剤施薬装置において、ポンプ部材が、ノズル部材側から当該ポンプ部材の底部に近づくにつれて絞り込まれるテーパー形状であってもよい。
【0024】
上記のごとき薬剤施薬装置において、ポンプ部材を収縮動作させる際に使用者が指を掛けることができる指掛け部が設けられていてもよい。
【0025】
上記のごとき薬剤施薬装置において、ポンプ部材が断面長円または断面楕円形状であってもよい。
【0026】
上記のごとき薬剤施薬装置において、ポンプ部材に、当該ポンプ部材への誤操作による誤作動を防止するポンプ誤作動防止カバーが併設されていてもよい。
【0027】
上記のごとき薬剤施薬装置は、収縮動作後のポンプ部材が元の状態に戻るのを防止する戻り動作防止部材をさらに備えていてもよい。
【0028】
上記のごとき薬剤施薬装置において、ポンプ部材は、収縮動作後、元の形状には復帰し難い構造であってもよい。
【0029】
上記のごとき薬剤施薬装置は、正圧が作用した状態でシール部材の封止が解除する構造であってもよい。
【0030】
上記のごとき薬剤施薬装置において、シール部材による充填スペースの開口部の封止力は、ポンプ部材の収縮動作に伴う内圧上昇の途中で剥離する範囲内の力に設定されていてもよい。
【0031】
上記のごとき薬剤施薬装置におけるシール部材は、ノズル部材とポンプ部材との間の流路部の一部が熱圧着されてなるものであってもよい。
【0032】
上記のごとき薬剤施薬装置は、使用者による操作に応じて動作し、開口部の封止状態を解く封止解除部材をさらに備えていてもよい。
【0033】
上記のごとき薬剤施薬装置における封止解除部材は、ポンプ部材の収縮動作に伴い伸長し、該伸長動作の途中でシール部材に接触して開口部の封止状態を解く部材であってもよい。
【0034】
上記のごとき薬剤施薬装置における封止解除部材は、ポンプ部材側からノズル部材側へとシール部材を越えて押し進むことで封止状態を解除する部材で構成されていてもよい。
【0035】
上記のごとき薬剤施薬装置の封止解除部材の先端に整流のための溝が設けられていてもよい。
【0036】
上記のごとき薬剤施薬装置は、封止解除部材の伸長動作の方向と垂直な方向への動きを規制するガイド部材をさらに備えていてもよい。
【0037】
上記のごとき薬剤施薬装置のポンプ部材は、ノズル部材からの薬剤の噴出方向と垂直な方向に膨らんだ形状であってもよい。
【0038】
上記のごとき薬剤施薬装置における封止解除部材は、ポンプ部材に内蔵されていてもよい。
【0039】
上記のごとき薬剤施薬装置における封止解除部材は、一対の板状の被押圧部を含むものであってもよい。
【0040】
上記のごとき薬剤施薬装置における封止解除部材に、誤操作によるポンプ部材の収縮動作を抑止する誤操作抑止部材が備え付けられていてもよい。
【0041】
上記のごとき薬剤施薬装置において、封止解除部材は、変形後、元の形状には復帰し難い塑性材料で形成されていてもよい。
【0042】
上記のごとき薬剤施薬装置の封止解除部材は、その一部がポンプ部材に熱溶着されていてもよい。
【0043】
上記のごとき薬剤施薬装置の封止解除部材は、噴出用開口部とは逆側となる基端部においてポンプ部材に熱溶着されていてもよい。
【0044】
上記のごとき薬剤施薬装置の封止解除部材は、その先端部が先細り形状であってもよい。
【0045】
上記のごとき薬剤施薬装置の封止解除部材は、ポンプ部材の内部に設置され、シール部材を拡張させることで当該シール部材の封止状態を解除する部材で構成されていてもよい。
【0046】
本発明の一態様は、上記のごとき薬剤施薬装置の製造方法であって、封止解除部材をインジェクション成形で成形し、封止解除部材のアウター部をブロー成形、インジェクション成形あるいは真空成形で成形する、製造方法である。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、毎回の投与量の均一化向上、保存容器の薬物保存性の向上、投与操作の簡便化、且つ携帯性の向上が可能であり、かつ、他の問題の解決にも結びつく構造の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(鼻腔用粉状薬剤施薬装置)の外観を示す斜視図である。
【
図2】使用に際しタブが折り取られた状態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの外観を示す斜視図である。
【
図3A】粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの分解斜視図である。
【
図3B】粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの底面側からみた分解斜視図である。
【
図3C】
図3B中のノズル部材、タブ、シール部材、ホルダー(ガイド部材)およびピアサー(穿孔部材)について、縦断面(シール部材とピアサーを除く)を表す分解斜視図である。
【
図4】粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスのノズル部材、ポンプ部材が透明ないし半透明である場合のデバイス全体の構成を示す斜視図である。
【
図5】ホルダー(ガイド部材)およびピアサー(穿孔部材)の構成例を示す斜視図である。
【
図6】ホルダーの(A)平面図、(B)正面図、(C)側面図である。
【
図7】
図6(A)中のVII-VII線におけるホルダーの縦断面図である。
【
図8】
図6(A)中のVIII-VIII線におけるホルダーの縦断面図である。
【
図10】ピアサーの(A)平面図、(B)b-b線における縦断面図、(C)底面図である。
【
図11】ピアサーの基端部側からみた斜視図である。
【
図12】
図5中のXII-XII線におけるピアサーおよびホルダーの縦断面図である。
【
図13】
図5中のXIII-XIII線におけるピアサーおよびホルダーの縦断面図である。
【
図14】粉状薬剤Mを施薬する際の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの動作を時系列Tに沿って(A)~(D)の順に示す縦断面図である。
【
図15】粉状薬剤Mを施薬する際のピアサー等の動作を時系列Tに沿って(A)~(D)の順に示す縦断面の斜視図である。
【
図16】粉状薬剤Mを施薬する際のピアサーの先端部周辺における空気の流れを説明する部分縦断面図である。
【
図17】粉状薬剤Mを施薬する際にポンプ操作を開始してから終了するまでのピアサーの軸方向位置とポンプ押力との関係をグラフにして示す図である。
【
図18】本発明の第2の実施形態に係る粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(薬剤施薬装置)の斜視図である。
【
図19】粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの正面図である。
【
図20】粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの右側面図である。
【
図21】
図20のXXI-XXI線における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図である。
【
図22】
図19のXXII-XXII線における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図である。
【
図23】粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの斜め上方からの分解斜視図である。
【
図24】粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの斜め下方からの分解斜視図である。
【
図25】使用時の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの斜視図である。
【
図26】使用後の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの正面図である。
【
図27】使用後の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの右側面図である。
【
図28】
図27のXXVIII-XXVIII線における使用後の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図である。
【
図29】
図26のXXIX-XXIX線における使用後の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図である。
【
図30】ガイド部材をされに備えた、本発明の第3の実施形態に係る粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(薬剤施薬装置)の分解斜視図である。
【
図31】
図30に示した粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの縦断面図である。
【
図32】本発明の第4の実施形態に係る粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(薬剤施薬装置)のピアサーを示す(A)斜め上方からの斜視図、(B)斜め下方からの斜視図である。
【
図33】
図32に示したピアサーでシール部材に穿孔した直後のピアサー周辺における空気の流れを説明する縦断面図である。
【
図34】ピアサーの別態様を示す(A)斜め上方からの斜視図、(B)斜め下方からの斜視図である。
【
図35】
図34に示したピアサーでシール部材に穿孔した直後のピアサー周辺における空気の流れを説明する縦断面図である。
【
図36】本発明の第5の実施形態に係る粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(薬剤施薬装置)の斜視図である。
【
図37】粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの正面図である。
【
図38】粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの右側面図である。
【
図39】作動時ないしは作動後における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの斜視図である。
【
図40】作動時ないしは作動後における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの右側面図である。
【
図41】(A)
図37のXLI-XLI線における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図、(B)作動時ないしは作動後における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図である。
【
図42】(A)本発明の第6の実施形態に係る粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(薬剤施薬装置)の断面図、(B)作動時ないしは作動後における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図である。
【
図43】本発明の第6の実施形態におけるピーラー(封止解除部材)の(A)斜視図、(B)正面図、(C)側面図である。
【
図44】伸長したピーラーの(A)斜視図、(B)正面図、(C)側面図である。
【
図46】ピーラーに設けられた誤操作抑止部材の第1の具体例を示す、ピーラーの全体斜視図である。
【
図47】ピーラーに設けられた誤操作抑止部材の第2の具体例を示す、ピーラーの全体斜視図である。
【
図48】ピーラーに設けられた誤操作抑止部材の第3の具体例を示す、ピーラーの全体斜視図である。
【
図49】本発明の第7の実施形態に係る粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(薬剤施薬装置)の斜視図である。
【
図50】
図49のL-L線における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図である。
【
図51】
図49のLI-LI線における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図である。
【
図52】本発明の第8の実施形態に係る作動前の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(薬剤施薬装置)の斜視図である。
【
図53】
図52のLIII-LIII線における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図である。
【
図54】ピーラー(封止解除部材)の斜視図である。
【
図55】作動後の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(薬剤施薬装置)の斜視図である。
【
図56】
図55のLVI-LVI線における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの断面図である。
【
図57】作動後のピーラー(封止解除部材)の斜視図である。
【
図58】粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスをブロー成形する際の工程を順に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0050】
[第1の実施形態]
<粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの構成例>
鼻腔用粉状薬剤施薬装置(以下、「粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス」ともいう)10は、所定分量の粉状薬剤を患者の鼻腔内に施薬するための、1回使い切り型として好適な装置である。本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、ノズル部材20、タブ30、シール部材40、ポンプ部材50、ピアサー60、ガイド部材70などを備える(
図1~
図4等参照)。
【0051】
ノズル部材20は、患者の鼻腔内に粉状薬剤を施薬しやすくする先細形状で、必要に応じて先端付近に適度な丸みが付されている(
図15等参照)。ノズル部材20の内部には、粉状薬剤が充填される充填スペース22が形成されている(
図14等参照)。ノズル部材20の先端の中心には、粉状薬剤Mを噴出する噴出用開口部26が設けられている(
図2、
図14等参照)。ノズル部材20の基端側(ポンプ部材50側に取り付けられる側)には、粉状薬剤Mを充填スペース22へと充填可能な開口部24と、環状の笠部27とが形成されている(
図14、
図15参照)。環状の笠部27の内周面には、当該ノズル部材20をポンプ部材50に取り付けるためのねじ部28が形成されている(
図14(A)参照)。
【0052】
タブ30は、ノズル部材20の噴出用開口部26を閉口する部材(閉口部材)である。本実施形態のタブ30はノズル部材20の先端に折り取り可能な状態で取り付けられており、使用時、当該タブ30を使用者(以下、ユーザーともいう)が手で折り取ることで噴出用開口部26が開口するようになっている(
図1、
図2等参照)。
【0053】
シール部材40は、ノズル部材20の充填スペース22の開口部24を封止する部材である(
図3B、
図3C参照)。シール部材40としては、充填スペース22を密封して粉状薬剤Mを空気や湿気による劣化から防ぐ防湿フィルムなどであって、かつ、使用時にピアサー60で穿孔しやすい部材を用いることが好ましい。本実施形態では、ポンプ部材50の内圧が所定程度まで上昇したとしても破れたり剥がれたりせずに気密性を維持するシール部材40を採用している。
【0054】
ポンプ部材50は、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10の使用時、空気を送り出して粉状薬剤Mをノズル部材20の噴出用開口部26から噴出させる部材である。本実施形態では、ユーザーが指で底部52を押し込むことで蛇腹部51が収縮する構造の部材をポンプ部材50として採用している(
図4等参照)。
【0055】
ポンプ部材50の具体的な形状は特に限定されるものではないが、一例として、本実施形態では、ノズル部材20側から当該ポンプ部材50の底部52に近づくにつれて絞り込まれる縦断面がテーパー形状のポンプを採用している(
図14等参照)。小型のポンプから効率よく噴射用空気を作り出すためには、ポンプが収縮しやすい(潰れやすい)形状にして、ポンプ内容積に相当する空気をできるだけ噴射用空気として活用することが重要である。ポンプ部材50がこのようにテーパー形状であると、ポンプ部材50を収縮させたときの蛇腹部51の山と山との重なりが少しずつずれることから、ポンプによる反力(ポンプが元の形状に戻ろうとする力)が小さな状態で、ポンプが効率よく収縮しやすくなる。これにより、小型のポンプであっても、ユーザーが小さな力で噴射用空気を作り出すことが可能となる。また、底部52が狭小であると、使用時にユーザーが親指を宛がう位置が均一化されやすくなる結果、ポンプ部材50を収縮させる際、底部52が左右へとぶれる動きが抑えられ、収縮動作が安定する。したがって、ユーザーごとの収縮動作の違いが生じ難くなるという利点もある。
【0056】
ポンプ部材50の肩部には、患者等の使用者(患者に施薬する医師等らも使用者に含まれる)が指を、特に人差し指と中指を掛けやすい形状の指掛け部54が形成されている(
図14等参照)。ユーザーは、左右の指掛け部54のそれぞれに人差し指と中指を掛け、親指で底部52を押してポンプ部材50を収縮させるという動作が行いやすい。指掛け部54の表面には、指の滑りを抑える滑り止め55として機能する凹凸などが設けられていてもよい(
図2等参照)。
【0057】
ポンプ部材50の横断面形状もまた限定されるものではなく、例えば円形であってもよいが、本実施形態では横断面形状がおよそ長円または楕円形状といった一方向に潰れたような形状のポンプを採用している(
図2等参照)。
【0058】
ピアサー60は、ポンプ部材50の収縮動作に伴い移動し、該移動の途中でシール部材40に孔を穿つ部材である。本実施形態のピアサー60は、軸部61と、ノズル部材20側を向く先端部62と、ポンプ部材50の収縮動作時に押圧される基端部68と、を有している。先端部62は、シール部材40に穿孔を設けやすい形状、例えば縁部65から先端に向かって先細りとなる円錐状となっている(
図14等参照)。
【0059】
ピアサー60の先端部62の裏面には笠部64が形成されている。笠部64は、先端部62によってシール部材40に設けられた穿孔を通って充填スペース22内に流れ込む空気の一部を径方向外側へ向かわせるように形成されている。例えば本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10における笠部64は、径方向外側から内側へと向かうにつれて先端部に近づくように、傘のごとく傾斜している(
図11、
図16等参照)。このように形成されたピアサー60の笠部64は、充填スペース22内に流れ込む空気の一部を径方向外側へ向かわせながら下向きの気流を生じさせ、充填スペース22内における粉状薬剤Mの残存を減少させる。
【0060】
ピアサー60の軸部61には、当該ピアサー60の移動方向(長手方向)に沿って伸びる溝部66が形成されている。粉状薬剤Mを噴射する際、ポンプ部材50内の空気は、この溝部66を通って充填スペース22へと流れ込むことができる(
図16等参照)。本実施形態では、軸部61が断面十字形状であり四方に溝部66が形成されているピアサー60を採用している(
図10等参照)。
【0061】
ガイド部材(以下、「ホルダー」ともいう)70は、ピアサー60を保持し、かつ、ピアサー60の移動時における径方向への動きを規制しながら当該ピアサー60を案内する部材として機能する。本実施形態のホルダー70は、大径部71とスリーブ状の小径部72とを有し、かつ、大径部71に先端側開口部75、小径部72に基端側開口部76がそれぞれ設けられた段付き形状の筒状体によって形成されている(
図3A~
図6等参照)。また、大径部71には、内壁から外壁まで貫通する一対のスリット77が対向する位置に設けられている(
図6等参照)。
【0062】
ホルダー70の内壁には、ピアサー60を所定位置に固定するための固定手段の一例として、ピアサー固定用上段爪部73およびピアサー固定用下段爪部74とが設けられている(
図5~
図13等参照)。ピアサー固定用上段爪部73は、ホルダー70の内壁に対向するように配置された一対の突起によって形成されている。ピアサー固定用下段爪部74は、ホルダー70の内壁の、ピアサー固定用上段爪部73よりも基端側の位置に対向するように配置された一対の突起によって形成されている(
図7等参照)。対向する突起間の距離(間隔)は、ピアサー60の先端部62の最大径つまり縁部65の直径よりも僅かに小さい(
図12、
図13等参照)。また、本実施形態では、ピアサー固定用上段爪部73とピアサー固定用下段爪部74の各突起(リブ)を周方向において90度おきとなる位置に配置するなどし(
図9等参照)、周方向位置が互いにずれるようにするとともに、射出成型機による成型を可能としている。
【0063】
ピアサー固定用上段爪部73およびピアサー固定用下段爪部74は、ピアサー60の基端側から先端側に向かうにつれてホルダー70の内壁からの突出量が増す傾斜面を備えている(
図12、
図13等参照)。ピアサー60は、軸方向において、ピアサー固定用上段爪部73とピアサー固定用下段爪部74との間に縁部65が位置するように配置される。ピアサー60が先端側へ押圧された場合、ピアサー60の縁部65は、ピアサー固定用上段爪部73を乗り越えて先端側へと移動することができる(
図13等参照)。一方、ピアサー60が基端側へ引っ張られたとしても、ピアサー60の縁部65は、ピアサー固定用下段爪部74を乗り越えることができない(
図12等参照)。
【0064】
また、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においては、使用前の状態で、ピアサー60の基端部68とポンプ部材50の底部52とが乖離しており、これらの間に所定のクリアランスCが形成されている(
図14等参照)。このあと
図17等を用いて説明するとおり、クリアランスCの大きさを適宜変更することによって、粉状薬剤Mを施薬するときの空気圧を変えることができる。
【0065】
<粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの動作>
続いて、粉状薬剤Mを施薬する際の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10の動作について説明する(
図14~
図17等参照)。
【0066】
粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10を使用するに際し、ユーザーは、まずは当該粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10を箱状、ブリスター状ないしは袋状のパッケージ(図示省略)から取り出し、ノズル部材20からタブ30を折り取って噴出用開口部26を開口させる。
【0067】
そうしたら、ユーザーは、指掛け部54に人差し指と中指を掛け、底部52に親指を宛がい、これらの指でポンプ部材50を挟み持った状態で、ノズル部材20の噴出用開口部26を鼻孔に向ける。この状態でユーザーが親指で底部52を押し上げてポンプ部材50を押すと(
図14(A)等参照)、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は以下のごとく動作する。なお、ユーザーの動作に基づきポンプ部材50に作用する力(あるいはポンプ部材50自体に生じる応力)を本明細書や図面では「ポンプ押力」と呼ぶ(
図17参照)。
【0068】
ポンプ部材50がクリアランスCのぶん収縮し、底部52がピアサー60の基端部68に当接する(
図14(B)参照)。ポンプ部材50の操作開始後、底部52がピアサー60の基端部68に当接するまでは、ピアサー60はホルダー70に保持されたままであり、シール部材40を穿孔することはないので、ポンプ部材50内の空気がノズル部材20に流入することはない。このため、ポンプ部材50が収縮したぶん、当該ポンプ部材50の内圧が上昇する。
【0069】
底部52がピアサー60の基端部68に当接した後は、ユーザーのポンプ押力が当該底部52を介してピアサー60に直接的に伝えられる。ユーザーが底部52を押し続け、ポンプ押力が所定値を超えるとピアサー60を離脱させる力(「ピアサー離脱力」)が作用し、ピアサー60の縁部65がピアサー固定用上段爪部73を乗り越え、ホルダー70に対してピアサー60が移動可能となる(
図17中の(i)~(iii)参照)。
【0070】
ホルダー70から離脱した後のピアサー60は、さらに押圧され続けるとその先端部62をシール部材40に当接させ、穿刺し始める(
図14(B)、
図15(B)参照)。これに伴い、ポンプ部材50中の空気がノズル部材20に流入し始める。ピアサー60がシール部材40を穿刺しているとき(ただし、まだ先端部62がシール部材40を貫通していない状態のとき)、シール部材40から受ける抵抗に加え、ポンプ部材の50の内圧及び蛇腹部51の反力によってポンプ押力は徐々に増大する(
図17中の(iv)参照)。ピアサーの先端部62がシール部材40を貫通する直前、ポンプ押力がピークとなり(
図17中の(v)参照)、先端部62がシール部材40を貫通すると該ポンプ押力は急減する(
図17中の(vi)参照)。ピアサー60の先端部62がシール部材40を貫通することで、ノズル部材20内に空気が一気に流入し、粉状薬剤Mが噴出用開口部26から噴射される(
図15(C)参照)。
【0071】
噴射時における空気と粉状薬剤Mの動きについて説明する(
図16等参照)。ポンプ部材50内の空気は、ピアサー60の溝部66とホルダー70との間のスペースを流れ、シール部材40に形成された穿孔を通り抜け、ノズル部材20内の充填スペース22へと流れ込む。ノズル部材20内へと流れ込んだ空気の少なくとも一部は、ピアサー60の笠部64により、径方向外側へ向かいつつ下向きの気流を生じさせるように流れ、その後、噴出用開口部26に向かう(
図16参照)。ノズル部材20内の充填スペース22内を空気がこのように流れることで、シール部材40の縁付近に残存しやすい粉状薬剤Mをも噴出させるようにし、充填スペース22内における粉状薬剤Mの残存量を減少させることができる。
【0072】
また、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においては、ピークに達したポンプ押力の勢いで、ポンプ部材50およびピアサー60がそのまま最終位置(本実施形態では、底部52がホルダー70の基端側開口部76に当接して動きが止まる位置)まで押し込まれる(
図14(D)、
図15(D)、
図17参照)。一般的には、ユーザー、使用状況などの各種因子の違いに起因してポンプ押力の大きさ、変化の仕方に違いが生じうるが、上記のごとき動作を実現した本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10によれば、ピアサー60の先端部62がシール部材40を貫通する際の押力のばらつきが軽減することから、結果として、粉状薬剤Mの噴射態様のばらつきが抑えられる(
図17中の(vi)~(viii)参照)。
【0073】
上記のごとき動作を経て、ポンプ部材50およびピアサー60が最終位置(本実施形態の場合、底部52がホルダー70の基端側開口部76に当接して動きが止まる位置)に到達したところで動作は止まり、ポンプ操作が終了する(
図14(D)、
図17中の(ix)参照)。
【0074】
<粉状薬剤用鼻腔内送達デバイスの特徴>
ここまで説明した本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10の特徴を以下に記す。
【0075】
ノズルを使い回しする従来のデバイスには衛生面の課題(ノズルが鼻汁などで汚れた場合には掃除が必要)があったのに対し、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においてはノズル付きのデバイスを採用して使い切りとすることができるため、使い回しする場合の課題を回避することができる。
【0076】
また、ノズルを使い回しする従来のデバイスにはノズル内に残存した薬剤が分解や変性をし、その分解物や変性物が投与されてしまう課題(ノズルの掃除が必要)があったのに対し、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10はデバイス自体をカートリッジ化して使い切り型として好適な構成であることから、使い回しする場合のこのような課題を回避することができる。
【0077】
従来のデバイスにおいては、保存安定性の低い薬物については、薬剤容器内での保存安定性を確保することが課題(湿度や酸素等で分解や変性を起しやすい薬剤には不適)があったのに対し、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においては、ノズル部材20内の充填スペース22をタブ30およびシール部材40で封止することで密封容器として機能させ、このような課題が生じないようにしている。このような構造の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、酸素や湿度に弱い粉状薬剤Mにも応用しやすい。
【0078】
従来のデバイスにおいては、ポンプやデバイス内部へ薬剤が落ち込み、噴射量が低下したり、次回の薬剤投与の際に落ち込んだ薬剤が追加投与されたりして、投与量が安定しない課題があったのに対し、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においては、シール部材40を穿孔するのとほぼ同時に噴射が始まることから、このような課題をも回避することが可能である。
【0079】
従来のデバイスにおいては、薬剤容器の施栓に空気の通路孔を開ける場合、ニードル等でカプセルを穿刺した後、ニードル等をカプセルから引き抜くことで、空気の通路孔を設けるため、容器の破片が生じ易く、生体に対して薬剤とともに投与されてしまうことがあるという課題があったのに対し、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においては、ピアサー60の尖端でシール部材40を穿孔することで、その後にピアサー60の尖端をシール部材40から引き抜くことなく、空気の通路孔を設けることができることから、このような課題をも回避することが可能である。
【0080】
従来のデバイスにおいては、ポンプの押し方次第で噴射態様が変化してしまう課題があったのに対し、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においては、異なるユーザーが使用したとしても、ピアサー60の先端部62がシール部材40を貫通する直前までのポンプ操作によって噴射用空気の一部がポンプ内に一定の空気量及び空気圧で充填され、続くポンプ操作によってピアサー60の先端部62がシール部材40を貫通すると同時に、充填された一定の空気が薬剤容器(として機能するノズル部材20の充填スペース22)内に流入し、粉状薬剤Mを噴射することから、このような課題を回避することが可能である。これに加えて、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においては、ピアサー60の先端部62がシール部材40を貫通する際の押力をポンプ操作の最大押力に設定していることから、その最大押力から解放されるポンプ操作の勢いで、残りのポンプ操作を完了に導くことができる。このため、一定の空気が薬剤容器内に流入し、粉状薬剤Mを噴射することから、このような課題を回避することが可能である。
【0081】
従来のデバイスにおいては、カプセルやカートリッジの取り付け操作を含む投与前の準備が煩雑である場合があったのに対し、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、ノズル部材20、ポンプ部材50等が当初から一体化されている使い切り型のデバイスであり、組み立てたりシールを剥がしたりといった準備をせずとも使用することができる。
【0082】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では特に説明はしなかったが、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、収縮動作後のポンプ部材50が元の状態に戻るのを防止する戻り動作防止部材をさらに備えていてもよい。戻り動作防止部材を備えた粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においては、噴出した粉状薬剤Mが噴出用開口部26に引き込まれることが抑えられる。戻り動作防止部材の具体的な構成はとくに限定されない。例示すれば、ポンプ部材50の底部52の内側中央に形成された円柱形状ないしは円環形状の突起であって、ホルダー70の基端側開口部76の内側(または外側でもよい)に嵌まり込んで、収縮後のポンプ部材50をそのままの状態に維持して元の状態に戻るのを防止する部材を戻り動作防止部材(
図14(D)において符号80で示す)として用いることができる。
【0083】
上述したごとき粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は経鼻薬剤を投与するための装置として好適であるが、用途はとくにこれに限られることはない。例えば、経鼻投与は、これまでは鼻炎治療を主とした局所治療が主であったが、最近は、偏頭痛やがん性疼痛を緩和する薬物など、全身作用を期待する薬物を鼻粘膜から吸収させることを狙った経鼻薬剤についても数多く商品化されており、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10の用途にはこのようなものも含まれる。また、薬物を鼻腔内の嗅部から脳へ移行させる研究も行われており、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10の用途には鼻腔内の嗅部へと経鼻薬剤を送達すようなものも含まれる。さらに、医薬品開発においては、厳密な投与量のコントロールや厳密な保存管理を必要とする、バイオ医薬品の開発が活発化しており、これらの医薬品を経鼻応用するニーズも高まっており、このような用途も含まれる。
【0084】
経鼻薬剤を投与する以外の具体的な他例として以下のようなものが挙げられる。
・低分子化合物、ペプチド薬、ワクチン、核酸、タンパク、抗体などの生理活性物質を保管するために用いられる、カートリッジ。
・低分子化合物、ペプチド薬、ワクチン、核酸、タンパクなどの生理活性物質を投与するために用いられる、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(鼻腔用粉状薬剤施薬装置)。
・鼻炎や副鼻腔炎などに対する局所作用のために用いられる、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(鼻腔用粉状薬剤施薬装置)。
・全身作用を期待する薬物を鼻粘膜から吸収させるために用いられる、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(鼻腔用粉状薬剤施薬装置)。
・粘膜免疫作用のために用いられる、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(鼻腔用粉状薬剤施薬装置)。
・鼻腔内の嗅部を介した薬物の脳移行のために用いられる、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(鼻腔用粉状薬剤施薬装置)。
【0085】
上記のごとき粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、所定分量の粉状薬剤が充填される充填スペースを有するノズル部材20を備えていることから、好適には一回投与分の薬剤を充填しておくことで、毎回の投与量の均一化向上を実現しやすい。また、一回投与分の薬剤を一度に使い切る形に特化することができ、そうした場合には小型化・軽量化を図ることで携帯性向上を実現しやすくもある。これは、別言すれば、ノズル部材20に、粉状薬剤(一回分の投入量を含む)の容器としての機能を併せ有させたものということもでき、投与量均一化向上と携帯性向上を実現しやすい構造であるといえる。
【0086】
また、一回投与分の薬剤を一度に使い切る形とすることで、ノズルを使い回す形態のとき当該ノズルが鼻汁などで汚れた場合に掃除が必要になるといった問題や、ノズル内に残存した薬剤に分解や変性が生じてそれらが生体に投与されてしまうといった問題など、ノズルの使い回しによる衛生面等での問題を克服することができる。
【0087】
また、上記のごとき粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10では、ノズル部材20の開口部24をシール部材40で封止しておくことで当該ノズル部材20内に密封空間を形成しておき、粉状薬剤を噴出させる動作に伴ってピアサー60がシール部材40に孔を穿つ構成となっていることから、吸湿や酸化が起こりやすい薬剤に適用して特に好適である。
【0088】
また、上記のごとき粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、好適には一回投与分の薬剤を充填しておくものとし、使用するまでノズル部材内において薬剤を密封しておくことで、薬剤容器内での保存安定性に関わる薬効面、毒性面で生じうる問題(湿度や酸素等で分解や変性を起しやすい薬剤には不適だという問題)を解消すること、ひいては保存容器としての薬物保存性を向上させることができる。
【0089】
また、上記のごとき粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10では、穿孔の際のシール部材40の特性、圧縮空気が流れ込む態様などの各種特性に応じ、あるいはこれらを調整するべく、ポンプ部材50の底部52とピアサー60との位置関係および発生空気特性を適宜変更することが好適である。例えば、上記のごとき粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においては、ポンプ動作時の圧縮空気生成時の第一段階ではクリアランスC1の大きさによる影響が大きく、ポンプ動作時の圧縮空気生成時の第二段階ではクリアランスC2の大きさによる影響が大きい(
図14(A)等参照)。この点を考慮し、例えば、粉状薬剤Mの噴射時に発生させる空気特性として、圧縮空気を必要とする場合には、クリアランスC1および/またはクリアランスC2のストローク及び各ストロークに対応するポンプ内容量を調節することで、生成する圧縮空気の圧や量をコントロールできる。また、噴射時に発生させる空気特性として、圧縮空気を必要としない場合には、クリアランスC1および/またはクリアランスC2を設けないことで、ポンプ部材50の操作とほぼ同時に空気がノズル部材20内に流れ込む態様とすることができる(
図14参照)。
【0090】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る薬剤施薬装置(以下、「粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス」)10について以下に説明する(
図18~
図29参照)。
【0091】
粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、所定分量の粉状薬剤を患者の鼻腔内に施薬するための1回使い切り型の装置である。本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、ノズル部材20、タブ30、シール部材40、ポンプ部材50、ピアサー60を備える(
図23等参照)。
【0092】
ノズル部材20は、患者の鼻腔内に粉状薬剤を施薬しやすくするよう先端に丸みが付けられた筒状部21と、該筒状部21の基端側に形成されたフランジ部23とを有する(
図24等参照)。筒状部21の内部には、薬剤が充填される充填スペース22が形成されている(
図21、
図22等参照)。ノズル部材20の筒状部21の先端中心には、粉状薬剤Mを噴出する噴出用開口部26が設けられている(
図28、
図29参照)。筒状部21の基端側(ポンプ部材50側に取り付けられる側)の中央には、粉状薬剤Mを充填スペース22へ充填可能な開口部24が形成されている(
図24等参照)。
【0093】
フランジ部23は、患者等のユーザーが指(特に人差し指と中指)を掛けやすい形状に形成されており、上記実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10における指掛け部54のごとく機能する(
図26等参照)。ユーザーは、フランジ部23の両肩部分のそれぞれに人差し指と中指を掛け、親指で底部52を押してポンプ部材50を収縮させるという動作が行いやすい。
【0094】
シール部材40は、ノズル部材20の充填スペース22の開口部24を封止する部材である(
図22、
図24等参照)。シール部材40としては、充填スペース22を密封して粉状薬剤Mを空気や湿気による劣化から防ぐ防湿フィルムシートなどであって、かつ、使用時にピアサー60で穿孔しやすい部材を用いることが好ましい。本実施形態では、ポンプ部材50の内圧が所定程度まで上昇したとしても破れたり剥がれたりせずに気密性を維持するシール部材40を採用している。本実施形態のシール部材40は、フランジ部23の底面やポンプ部材50の上面の形状および大きさに合わせて形成され、これらフランジ部23とポンプ部材50との間に介在するように貼付される(
図19、
図20等参照)。
【0095】
ポンプ部材50は、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10の使用時、空気を送り込んで粉状薬剤Mをノズル部材20の噴出用開口部26から噴出させる部材である。本実施形態では、ユーザーが指で底部52を押し込むことで潰れる形状のポンプ部材50を採用している(
図25等参照)。ポンプ部材50の具体的な形状や構造は特に限定されるものではないが、ユーザー毎の指の大きさ、押す力、押す方向などの違いにかかわらずあまり偏らずに同様かつ綺麗に潰れるものであることが好適である。また、ポンプ部材50内の空気をできるだけ残さず送り込むことができれば、粉状薬剤Mをより効率よく噴出させやすい。
【0096】
一例として、本実施形態のポンプ部材50は、筒状の大径部56、該大径部56から絞り込むように連続する第1テーパー部57、該第1テーパー部57に続く筒状の小径部58、そして該小径部58と略円板状の底部52との間に形成される第2テーパー部59を有する形状である(
図21等参照)。このポンプ部材50では、底部52を押圧されると、第1テーパー部57と第2テーパー部が基端側へと折り返されるように変形し、底部52が小径部58の内側にめり込み、小径部58の一部が大径部56の内側にめり込む(
図25~
図29参照)。このように底部52が小径部58の内側にめり込み、小径部58の一部が大径部56の内側にめり込んだ後のポンプ部材50は、塑性材料であることもあり、元の状態(収縮動作前の状態)には復帰し難い。
【0097】
また、本実施形態のポンプ部材50は、ポンプ誤作動防止カバー53をさらに備えている。ポンプ誤作動防止カバー53は、使用されるまでにポンプ部材50が潰れたり粉状薬剤Mが噴出したりするのを防止するべく設けられているもので、底部52、小径部58等の周囲のうち三方を覆う壁状部材で構成されている(
図24等参照)。ポンプ部材50の正面側(あるいは背面側)にはポンプ誤作動防止カバー53が設けられておらず、ユーザーが指(主として親指)で底部52を押し込む動作ができるようになっている(
図19、
図27等参照)。
【0098】
ピアサー60は、ポンプ部材50の収縮動作に伴い移動し、該移動の途中でシール部材40に穿孔して封止状態を解除する部材である(
図29等参照)。本実施形態のピアサー60は、軸部61と、ノズル部材20側を向く先端部62と、ポンプ部材50の底部52を向く基端部68と、を有している。先端部62は、シール部材40に穿孔を設けやすい形状、例えば先端に向かって先細りとなる円錐状となっている(
図21等参照)。
【0099】
上記のごときポンプ部材50は、例えば、ピアサー60の部分をインジェクション成形で成形し、そのアウター部(本実施形態のポンプ部材であれば、ピアサー60を以外の部分である、底部52、第2テーパー部59、小径部58、第1テーパー部57、大径部56、ポンプ誤作動防止カバー53)をブロー成形、インジェクション成形あるいは真空成形で一体的に成形することにより製造することができる。なお、本実施形態におけるごとくポンプ誤作動防止カバー53を先端側から基端側に向かうにつれ薄くなるよう形成したり(
図21等参照)、大径部56から底部52に至るまでを徐々に絞り込まれる形に形成したりする等により、成形型から抜きやすい形状とすることができる。
【0100】
タブ30は、ノズル部材20の噴出用開口部26を閉口する部材(閉口部材)である。本実施形態のタブ30は、噴出用開口部26の他、フランジ部23と2箇所、計3箇所においてノズル部材20に溶着された略U形状の部材である(
図21等参照)。使用時、当該タブ30をユーザーが手で捻るようにして取る外すことで噴出用開口部26が開口するようになっている(
図26等参照)。
【0101】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る薬剤施薬装置(「粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス」)10について以下に説明する(
図30~
図31参照)。
【0102】
本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、上記第2の実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10にガイド部材70を追加した構造となっている。
【0103】
ガイド部材70は、ピアサー60でシール部材40の開口部24付近を確実に穿刺・穿孔するための部材である。本実施形態のガイド部材70は、環状の大径部71と、環状の小径部72とを放射状に延びる複数(例えば4本)のスポーク部78で接続した形状である(
図30参照)。大径部71は、ポンプ部材50の大径部56の内径に合わせて形成されている。小径部72は、ピアサー60が移動する際の横方向(径方向)への動きを規制する。小径部72に、ピアサー60の少なくとも一部と重なる位置まで基端向きに延びるスリーブ79が形成されていてもよい(
図31参照)。また、大径部71の周囲に小突起71aが設けられ、ポンプ部材50の大径部56の内周側に小突起71aが嵌まり込む凹部56aが設けられていてもよい(
図30参照)。
【0104】
[第4の実施形態]
上記のごとき第3の実施形態における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10において、ピアサー60に溝部66が形成されていてもよい。以下、このようなピアサー60について、第4の実施形態として説明する(
図32~
図35参照)。
【0105】
ピアサー60の軸部61に、当該ピアサー60の移動方向(長手方向)に沿って伸びる溝部66が形成されていてもよい(
図32参照)。粉状薬剤Mを噴射する際、ポンプ部材50内の空気は、この溝部66を通って充填スペース22へと流れ込むことができる(
図33参照)。本実施形態では、軸部61が断面十字形状であり四方に溝部66が形成されているピアサー60を採用している(
図32、
図33参照)。
【0106】
上記の別の態様として、先端部62、笠部64、縁部65、溝部66を備えるピアサー60を採用してもよい(
図34、
図35参照)。なお、このピアサー60についての説明は上記第1の実施形態におけるものと重複する部分があるのでここでの説明は省略する。
【0107】
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態に係る薬剤施薬装置(「粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス」)10について以下に説明する(
図36~
図41参照)。
【0108】
まず、本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10の特徴を下記[1]から[6]まで簡単に述べ、その後、構造等について説明する。
【0109】
[1.毎回の投与量の均一化向上]
・1回分の薬剤が事前充填された容器兼噴射器
≪圧縮された空気が一気にノズル内に流入することで高速の気流が発生し、ノズル内製剤の噴射効率が向上。≫
≪ピーラー先端構造による整流効果で、ノズル内の製剤の噴射効率が向上。≫
・噴射特性が操作方法に依存しにくい
≪ポンプを押すことによって、ポンプ内の空気圧が一定以上に達した際に、弱シール部を剥離する、もしくはピーラー先端が弱シール部を剥離する、ことによって、一定の特性を有する空気がノズル内に流入する。≫
≪ピーラー作動開始において、結合部の破綻もしくは連結部の解除が必要な機構を追加することで、結合部の破綻もしくは連結部の解除を行う力を作用した勢いで、ポンプを最後まで押し切る手順をさらに高めることにより、一定の特性を有する空気がノズル内に流入する確度を高める。≫
【0110】
[2.薬物の保存安定性の向上]
・投与直前まで密封容器である
【0111】
[3.投与操作の簡便化]
・簡便操作
≪薬剤が入った容器を噴射器に装填する必要なし。≫
≪ポンプを押すのは1回のみ。≫
【0112】
[4.携帯性の向上]
・小型化
【0113】
[5.部品点数減による生産性向上(コスト減にも繋がる)]
・ブロー成型と熱圧着の応用により最小1部品(ピーラー部品無しの場合。)
【0114】
[6.誤操作防止機能]
・ピーラー作動開始において、結合部の破綻もしくは連結部の解除が必要な機構を追加することで、結合部の破綻もしくは連結部の解除をするのに必要な力がかからない場合において、誤ってポンプを押してしまうことを防止する。
【0115】
以下、図面を参照しつつ粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10の構造等を説明する。本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、ノズル部材20、タブ30、シール部材40、ポンプ部材50などを備える(
図36等参照)。
【0116】
ノズル部材20は、患者の鼻腔等に粉状薬剤を施薬しやすくするよう先端に丸みが付けられた筒状の部材である。該ノズル部材20の筒状部21の内部には、薬剤が充填される充填スペース22が形成されている(
図21、
図22等参照)。ノズル部材20の先端には噴出用開口部26が設けられている。
【0117】
タブ30は、ノズル部材20の噴出用開口部26を閉口する部材(閉口部材)であり、ノズル部材20を覆うように折り取り可能な状態で取り付けられている(
図37等参照)。使用時、当該タブ30をユーザーが手で折り取ることで噴出用開口部26が開口するようになっている(
図42等参照)。
【0118】
シール部材40は、ノズル部材20の充填スペース22の開口部24を封止する部材であり、例えば、ノズル部材20とポンプ部材50との間の流路部(
図41等において符号42で示す)の部分に形成される。本実施形態では、ポンプ部材50を押すことによって該ポンプ部材50内の空圧が上昇し、所定値以上の正圧となったときまたはそうなるまでに剥離して封止状態が解除する程度の弱シール性を備えるシール部材40を採用している。該シール部材40は、例えば高周波溶着、熱圧着、超音波溶着などの手段を利用して形成される。
【0119】
ポンプ部材50は、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10の使用時、空気を送り出して粉状薬剤Mをノズル部材20の噴出用開口部26から噴出させる部材である。本実施形態のポンプ部材50は、ノズル部材20からの粉状薬剤Mの噴出方向と垂直な方向に膨らんだ形状(例えば、
図38中の正面方向(向かって左側)と背面方向(向かって右側))であり、かつ、当該膨らんだ面が平坦な扁平状であり、正面と背面とで対となる押圧部50A,50Bを備え、これら対向する押圧部50A,50Bをユーザーが指で押し込むことで収縮動作して潰れる構造となっている(
図41等参照)。
【0120】
[第6の実施形態]
上記第5の実施形態のごとき粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、使用者による操作に応じて動作し、開口部24の封止状態を解く封止解除部材90をさらに備えていてもよい。以下、上記第5の実施形態における粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10との差異点を中心に、第6の実施形態として説明する(
図42等参照)。
【0121】
粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10が備える封止解除部材(以下、「ピーラー」ともいう)90はポンプ部材50に内蔵されていて、当該ポンプ部材50の収縮動作に伴い伸長し、該伸長動作の途中でシール部材40に接触して開口部24の封止状態を解く部材である。ピーラー90の先端部91は、シール部材40を拡張ないしは剥離させてその封止状態を解くに適した先細り形状となっている(
図42等参照)。
【0122】
本実施形態のピーラー90は、上記のごとき先端部91の他、基端部92、変形部93、被押圧部94を有する(
図42等参照)。基端部92は、噴出用開口部26とは逆側(基端側)の部分であり、当該基端部92の一部がポンプ部材50に熱溶着されている。変形部93は菱形状に配置された4片の部材からなるパンタグラフ状の部分で、ポンプ部材50の収縮動作に伴い潰れ、噴出用開口部26のほうへΔD(=D2-D1)伸長する(
図43、
図44参照)。被押圧部94は、ポンプ部材50の押圧部50A,50Bの内側に配置されている例えば板状の部材で、当該押圧部50A,50Bをユーザーが指で押し込んだときの力を変形部93に伝達する(
図45等参照)。
【0123】
ピーラー90の先端部91に、整流のための溝95が設けられていてもよい(
図43~
図45参照)。溝95が整流することで、粉状薬剤Mをより均一に拡散してむらなく吐出することが可能となる。
【0124】
なお、本実施形態のピーラー90は、変形後、元の形状には復帰し難い塑性材料、例えば樹脂材料で形成されている。したがって、変形後のピーラー90が復元動作することはないし、いったん収縮したポンプ部材50がこれに伴って膨らむようなこともない。
【0125】
粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、ピーラー90の伸長動作の方向と垂直な方向(横方向)への動きを規制するガイド部材をさらに備えていてもよい。例えば本実施形態の粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10においては、ノズル部材20のうち開口部24付近の筒状部分(
図42において符号25で示す)がガイド部材として機能する(
図42参照)。また、ポンプ部材50の押圧部50A,50Bの内側面に接する被押圧部94もピーラー90の横方向への動きを規制する機能を有しうる。
【0126】
粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10に、誤操作抑止、あるいはポンプ部材50を勢いよく最後まで押し切るための機能が追加されていてもよい。このような機能を実現する部材(誤操作抑止部材)の具体例は以下のとおりである(
図46~
図48参照)。
【0127】
誤操作抑止部材96の第1の具体例は、先端部91と基端部92とを結合する部材である(
図46参照)。誤操作抑止部材96の途中には、被押圧部94が押圧された際(図中の矢印参照)、変形部93を介して引っ張り力として作用する力がある程度となると破断する強度の括(くび)れ部96aが形成されている(図中の破線の部分参照)。引っ張り力が作用した状態で誤操作抑止部材96(の括れ部96a)が破断するとピーラー90が勢いよく上昇し、かつ、その際のポンプ部材50への押圧力の勢いで当該ポンプ部材50が最後まで押し切られるようになる。また、ポンプ部材50への押圧力(ひいては誤操作抑止部材96に作用する引っ張り力)がある程度となるまではピーラー90の動きが抑えられるため、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10における誤操作、誤作動が抑止される。
【0128】
誤操作抑止部材96の第2の具体例は、先端部91と基端部92とを連結させる部材である(
図47参照)。誤操作抑止部材96の途中には、互いに繋がっていない状態で成形され、その後に噛み合わせられ互いに係止して連結状態となる係止部96bが形成されている(図中の破線の部分参照)。ポンプ部材50が押圧され、誤操作抑止部材96に作用する引っ張り力がある程度となると係止部96bが外れる。その後の動き、作用などは上記第1の具体例と同様である。
【0129】
誤操作抑止部材96の第3の具体例は、変形部93の右側上部片93aと右側下部片93bとを結合する細片96cおよび/または変形部93の左側上部片93cと右側下部片93dとを結合する細片96dからなる部材である(
図48参照)。ポンプ部材50が押圧され、細片96cおよび/または細片96dに作用する引っ張り力がある程度となると誤操作抑止部材96が破断する。その後の動き、作用などは上記第1の具体例と同様である。
【0130】
[第7の実施形態]
上記第5の実施形態のごとき粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10において、ノズル部材20はその先端寄りの部分が丸みを帯びつつ膨らんだ形状となっている(
図49~
図51参照)。
【0131】
[第8の実施形態]
上記第7の実施形態のごとき粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10は、使用者による操作に応じて開く動作をし、開口部24の封止状態を解くピーラー(封止解除部材)190をさらに備えていてもよい。以下、第8の実施形態として説明する(
図52~
図57参照)。
【0132】
本実施形態のピーラー190は、一対の板状の可動部材192が基材191上の支軸193を介していわば洗濯バサミ様に回動可能に取り付けられて構成される部材で、ポンプ部材50に内蔵されている(
図53、
図54参照)。ユーザーがポンプ部材50を押すと、可動部材192の被押圧部(力点)192aに力が作用し、支軸193を中心として回動動作し、上端部(作用点)192bが開いてシール部材40を剥離させる(
図55~
図57等参照)。
【0133】
[第9の実施形態]
以下、粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10の製造方法の一例を、本発明の第9の実施形態として説明する(
図58参照)。
【0134】
<ブロー成形工程>
筒状のパリソン(アウター部)12の内部にピーラー90を導入する(
図58(A)参照)。その後、ブロー金型(図示省略)を用いてブロー成形する(
図58(A)、(B)参照)。シール部材40として第5の実施形態で説明したような弱シール性のものが採用されている場合、当該シール部材40をこの工程にて併せて成形することができる。
【0135】
<薬剤充填工程>
ノズル部材20内の充填スペース22に粉状薬剤Mを充填する(
図58(D)参照)。
【0136】
<熱圧着・最終成形工程>
ノズル部材20の噴出用開口部26付近を熱圧着して密封し、さらに、最終成形する(
図58(E)参照)。
【0137】
なお、製造手法としてここでは上記のごときブロー成形について説明したがこれは好適な一例にすぎない。この他、パリソン12をブロー成形、インジェクション成形あるいは真空成形などによって成形することもできる。
【0138】
なお、ここまでの第1~第9の実施形態では「粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス10」について説明したがこれは本発明に係る単回使用型の薬剤施薬装置の好適な一具体例にすぎない。薬剤施薬装置は、鼻腔の他にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、鼻腔用等の各種薬剤施薬装置に適用して好適である。
【符号の説明】
【0140】
10…粉状薬剤用鼻腔内送達デバイス(薬剤施薬装置)、12…パリソン(アウター部)、20…ノズル部材、21…筒状部、22…充填スペース、23…フランジ部、24…充填スペースの開口部、25…開口部付近の筒状部分(ガイド部材)、26…噴出用開口部、27…笠部、28…ねじ部、30…タブ(閉口部材)、40…シール部材、42…流路部、50…ポンプ部材(噴射用のポンプ部材)、50A…押圧部、50B…押圧部、51…蛇腹部、52…底部、53…ポンプ誤作動防止カバー、54…指掛け部、55…滑り止め、56…大径部、56a…凹部、57…第1テーパー部、58…小径部、59…第2テーパー部、60…ピアサー(穿孔部材)、61…軸部、62…先端部、64…笠部、65…縁部、66…溝部、68…基端部、70…ホルダー(ガイド部材)、71…大径部、71a…小突起、72…小径部、73…ピアサー固定用上段爪部、74…ピアサー固定用下段爪部、75…先端側開口部、76…基端側開口部、77…スリット、78…スポーク部、79…スリーブ、80…戻り動作防止部材、90…ピーラー(封止解除部材)、91…先端部、92…基端部、93…変形部、94…被押圧部、95…溝、96…誤操作抑止部材、96a…括れ部、96b…係止部、96c…細片、96d…細片、190…ピーラー(封止解除部材)、191…基材、192…可動部材、192a…被押圧部、192b…上端部、193…支軸、C1…クリアランス、C2…クリアランス、M…粉状薬剤(薬剤)