(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】インクレチン類似体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/575 20060101AFI20240308BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20240308BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240308BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240308BHJP
C12N 15/16 20060101ALN20240308BHJP
【FI】
C07K14/575 ZNA
A61K38/22
A61P3/10
A61P3/06
C12N15/16
(21)【出願番号】P 2022537359
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 US2020064512
(87)【国際公開番号】W WO2021126695
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-24
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】エイブラハム,ミラタ メアリー
(72)【発明者】
【氏名】アルシナ-フェルナンデス,ホルヘ
(72)【発明者】
【氏名】コスクン,タメル
(72)【発明者】
【氏名】チュイ,ホンチャン
(72)【発明者】
【氏名】ウォリス,ジェイムズ リンカーン
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/125929(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/125938(WO,A1)
【文献】特表2017-507124(JP,A)
【文献】特表2017-504598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
YX
2QGTX
6TSDX
10SIX
13LDX
16X
17AQX
20X
21FIX
24X
25LLEGGPSSGEPPPX
39
[式中、
X
2は、Aibであり、
X
6は、αMeF(2F)であり、
X
10は、Yもしくは4Palであ
り、
X
13は、LもしくはαMeLであ
り、
X
16は、Ornであり、
X
17は、コンジュゲートに利用可能な官能基を有するアミノ酸であり、前記官能基は、C
16-C
22脂肪酸部分にコンジュゲートされ、
X
20は、4Pal、Iva、もしくはαMeLであ
り、
X
21は、AもしくはAibであ
り、
X
24は、Eもしくはeであ
り、
X
25は、YもしくはαMeYであ
り、
X
39は、EもしくはSで
ある](配列番号5)
を含み、ならびに
カルボキシ末端(C末端)アミノ酸が、適宜アミド化されていてもよい、化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
X
17位にコンジュゲートに利用可能な官能基を有する前記アミノ酸が、C、D、E、KおよびQからなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
X
17位にコンジュゲートに利用可能な官能基を有する前記アミノ酸が、Kである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
X
17位にコンジュゲートに利用可能な官能基を有する前記アミノ酸および前記C
16-C
22脂肪酸部分が、前記アミノ酸と前記脂肪酸部分との間のリンカーによってコンジュゲートされる、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記リンカーが、1~4個のアミノ酸を含む、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記アミノ酸が、EまたはγEである、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記リンカーが、以下の構造:
H-{NH-CH
2-CH
2-[O-CH
2-CH
2]
m-O-(CH
2)
p-CO}
n-OH
[式中、mは、1~12の整数であり、nは、1~12の整数であり、pは、1または2である]
をさらに含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記リンカーが、1~4個の(2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-アセチル)部分をさらに含む、請求項4~7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
X
17が、以下の構造:
(2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-アセチル)
a-(γE)
b-CO-(CH
2)
c-CO
2H
[式中、aは、0、1、または2であり、bは、1または2であり、cは、16~20の整数である]
を有するK側鎖のイプシロン-アミノ基へのコンジュゲートにより化学的に修飾されたKである、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
aが、1である、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
aが、2である、請求項9に記載の化合物。
【請求項12】
bが、1である、請求項9~11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
bが、2である、請求項9~11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
cが、20である、請求項9~13のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項15】
X
10が、Yである、請求項1~14のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項16】
X
10が、4Palである、請求項1~14のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項17】
X
13が、Lである、請求項1~16のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項18】
X
13が、αMeLである、請求項1~16のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項19】
X
20が、4Palである、請求項1~18のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項20】
X
20が、Ivaである、請求項1~18のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項21】
X
20が、αMeLである、請求項1~18のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項22】
X
21が、Aである、請求項1~21のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項23】
X
21が、Aibである、請求項1~21のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項24】
X
24が、Eである、請求項1~23のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項25】
X
24が、eである、請求項1~23のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項26】
X
25が、Yである、請求項1~25のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項27】
X
25が、αMeYである、請求項1~25のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項28】
X
39が、Eである、請求項1~27のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項29】
X
39が、Sである、請求項1~27のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項30】
配列番号6~11からなる群から選択される式を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項31】
請求項1~30のいずれか一項に記載の化合物を含む、2型糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎および肥満からなる群から選択される疾患の治療剤。
【請求項32】
請求項1~30のいずれか一項に記載の化合物を含む、2型糖尿病の治療剤。
【請求項33】
請求項1~30のいずれか一項に記載の化合物、および
薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤
を含む、医薬組成物。
【請求項34】
2型糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、および肥満からなる群から選択される疾患の治療における使用のための、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記疾患が、2型糖尿病または肥満である、請求項34に記載の医薬組成物。
【請求項36】
2型糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、および肥満からなる群から選択される疾患の治療のための医薬の製造における、請求項1~30のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項37】
前記疾患が、2型糖尿病または肥満である、請求項36に記載の化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グルコース依存性インスリン分泌性ポリペプチド(GIP)、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、およびグルカゴン(GCG)受容体の各々での活性を有するインクレチン類似体に関する。本明細書に記載されるインクレチン類似体は、これらの受容体の各々で均衡のとれた活性を提供し、長期間の作用を有する、構造的特徴を有する。このようなインクレチン類似体は、2型糖尿病(T2DM)、脂質異常症、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、および/または肥満を含む状態、疾患、および障害、ならびに代謝性疾患や神経変性疾患とは考えられていない心血管疾患の治療に有用である可能性がある。
【背景技術】
【0002】
過去数十年間、糖尿病の有病率は上昇し続けている。T2DMは、すべての糖尿病の約90%を占める、糖尿病の最も一般的な形態である。T2DMは、インスリン耐性に起因する高い血糖値を特徴とする。T2DMの現在の標準治療としては、食事制限および運動、ならびに経口薬での治療およびGLP-1受容体アゴニストなどのインクレチンベースの療法を含む注射可能な血糖降下薬での治療が挙げられる。
【0003】
GLP-1は、36アミノ酸ペプチドであり、その主要な生物活性フラグメントは、グルコース依存性インスリン分泌を刺激し、糖尿病患者における高血糖を予防する、30アミノ酸、C末端アミド化ペプチド(GLP-17-36、配列番号2)として生成される。現在、デュラグルチド、エクセナチド、およびリラグルチドを含む、様々なGLP-1類似体がT2DMを治療するために利用可能である。しかしながら、現在市販されている多くのGLP-1アナログは、嘔気および嘔吐などの胃腸の副作用によって用量が制限されている。経口薬およびインクレチンベースの療法での治療が不十分な場合は、インスリンでの治療が検討される。利用可能な治療選択肢にもかかわらず、承認された療法を受けている有意な数の個体が、血糖制御目標に達していない(例えば、Casagrande et al.(2013)Diabetes Care 36:2271-2279を参照されたい)。
【0004】
制御されていない糖尿病は、そのような個体の罹患率および死亡率に影響を与える1つ以上の状態を引き起こし得る。T2DMの主な危険因子のうちの1つは肥満であり、T2DMを有する個体の多く(約90%)は、過体重または肥満である。体脂肪蓄積の低下は、高血糖および心血管事象を含む肥満関連併存症の改善をもたらすであろうことが実証されている。したがって、より良好な疾患管理のために、グルコース制御および体重減少において有効な療法が必要とされる。
【0005】
その観点から、研究されている新しい療法は、GLP-1受容体での活性だけでなく、GIPおよび/またはGCG受容体などの1つ以上の他の受容体での活性も有する化合物を含む。実際、特定の化合物は、トリプル受容体アゴニスト活性(すなわち、GIP、GLP-1、およびGCG受容体の各々での活性)を有するとすでに記載されている。例えば、国際特許出願公開第2015/067716号は、トリプル受容体アゴニスト活性を有するGCG類似体について記載する。同様に、国際特許出願公開第2016/198624号は、トリプル受容体アゴニスト活性を有するエキセンジン-4類似体について記載する。同様に、国際特許出願公開第2014/049610号および同第2017/116204号は各々、トリプル受容体アゴニスト活性を有する様々な類似体について記載する。さらに、国際特許出願公開第2017/153575号は、GIP受容体アゴニスト活性を有するとも述べられているGCGおよびGLP-1コアゴニストについて記載する。
【0006】
T2DMの治療のために典型的には使用されるものの、GIP、GLP-1、および/またはGCG受容体のうちの1つ以上での活性を有するインクレチンおよびその類似体は、例えば、アルツハイマー病、骨関連障害、脂質異常症、メタボリックシンドローム、NAFLDおよびNASH、肥満、ならびにパーキンソン病を含む、多くの他の状態、疾患、または障害における治療価値の可能性を有すると記載されている。例えば、Jall et al.(2017)Mol.Metab.6:440-446;Carbone et al.(2016)J.Gastroenterol.Hepatol.31:23-31、Finan et al.(2016)Trends Mol.Med.22:359-376、Choi et al.(2017)Potent body weight loss and efficacy in a NASH animal model by a novel long-acting GLP-1/Glucagon/GIP triple-agonist(HM15211),ADA Poster 1139-P、Ding(2008)J.Bone Miner.Res.23:536-543、Tai et al.(2018)Brain Res.1678:64-74、Muller et al.(2017)Physiol.Rev.97:721-766、Finan et al.(2013)Sci.Transl.Med.5:209、Holscher(2014)Biochem.Soc.Trans.42:593-600を参照されたい。
【0007】
それにもかかわらず、減量の利点および/または好ましい副作用プロファイルを備えた、効果的なグルコース制御を提供することができる、そのような状態、疾患および障害、特にT2DMのための治療の必要性が残っている。また、1日1回、週3回、週2回、または週1回などの低頻度での投与を可能にする、十分に長期間の作用を伴う使用に利用可能な治療剤の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本明細書に記載されるインクレチン類似体は、上記の必要性を満たすことを目指す。したがって、本開示は、GIP、GLP-1、およびGCG受容体の各々で活性を有するインクレチン類似体について記載する。有利なことに、本明細書に記載されるインクレチン類似体は、過度の活性に関連する望ましくない副作用を回避しながらその受容体のアゴニズムの利点を提供するために、各受容体で十分な活性を提供する用量の投与を可能にすることにより、これらの受容体において均衡のとれた活性を有する。また、本明細書に記載されるインクレチン類似体は、1日1回、週3回、週2回、または週1回などの低頻度で投与することを可能にするGIP、GLP-1、およびGCG受容体の各々で長期間の作用を有する。このように、インクレチン類似体は、グルコース制御の強化、体重低下および/または体組成改善などの代謝的な利点、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)低下などの脂質的な利点、ならびに/あるいは骨質量もしくは骨形成の増加または骨吸収の減少などの他の利点をもたらす。本開示はまた、T2DM、脂質異常症、メタボリックシンドローム、NAFLD、NASHおよび/または肥満を含む状態、疾患および障害の効果的な治療について記載している。
【0009】
したがって、本開示は、最初に、以下:
YX2QGTX6TSDX10SIX13LDX16X17AQX20X21FIX24X25LLEGGPSSGEPPPX39
[式中、X2は、Aibであり、X6は、αMeF(2F)であり、X10は、Yまたは4Palであり、X13は、LまたはαMeLであり、X16は、Oであり、X17は、コンジュゲートに利用できる官能基を有するアミノ酸であり、この官能基は、C16-C22脂肪酸部分にコンジュゲートし、X20は、4Pal、IvaまたはαMeLであり、X21は、AまたはAibであり、X24は、Eまたはeであり、X25は、YまたはαMeYであり、X39は、EまたはSである](配列番号5)の塩基アミノ酸配列を含むインクレチン類似体であって、カルボキシ末端(C末端)アミノ酸が、適宜アミド化されていてもよい、インクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩について記載する。
【0010】
いくつかの例では、位置X17でのコンジュゲートに利用可能な官能基を有するアミノ酸は、C、D、E、KまたはQである。特定の例では、位置X17でのコンジュゲートに利用可能な官能基を有するアミノ酸は、Kである。
【0011】
特定の例では、X2は、Aibであり、X6は、αMeF(2F)であり、X10は、Yであり、X13は、Lであり、X16は、Oであり、X17は、Kであり、X20は、4Palであり、X21は、Aであり、X24は、Eであり、X25は、Yであり、X39は、Eであり、その結果、インクレチン類似体は、以下:
Y-Aib-QGT-αMeF(2F)-TSDYSILLDOKAQ-4Pal-AFIEYLLEGGPSSGEPPPE(配列番号6)の塩基アミノ酸配列を含む。
【0012】
特定の例では、X2は、Aibであり、X6は、αMeF(2F)であり、X10は、Yであり、X13は、αMeLであり、X16は、Oであり、X17は、Kであり、X20は、Ivaであり、X21は、Aであり、X24は、Eであり、X25は、αMeYであり、X39は、Sであり、その結果、インクレチン類似体は、以下:
Y-Aib-QGT-αMeF(2F)-TSDYSI-αMeL-LDOKAQ-Iva-AFIE-αMeY-LLEGGPSSGEPPPS(配列番号7)の塩基アミノ酸配列を含む。
【0013】
特定の例では、X2は、Aibであり、X6は、αMeF(2F)であり、X10は、4Palであり、X13は、αMeLであり、X16は、Oであり、X17は、Kであり、X20は、αMeLであり、X21は、Aibであり、X24は、eであり、X25は、αMeYであり、X39は、Sであり、その結果、インクレチン類似体は、以下:
Y-Aib-QGT-αMeF(2F)-TSD-4Pal-SI-αMeL-LDOKAQ-αMeL-Aib-FIe-αMeY-LLEGGPSSGEPPPS(配列番号8)の塩基アミノ酸配列を含む。
【0014】
いくつかの例では、C16-C22脂肪酸部分は、リンカーを介したコンジュゲートに利用可能な官能基を有するアミノ酸にコンジュゲートされる。特定の例では、C16-C22脂肪酸部分は、-CO-(CH2)a-CO2Hの構造を有し、式中、aは、16~22の整数である。特定の例では、脂肪酸部分は、C18二価酸またはC20である。同様に、いくつかの例では、リンカーは、[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ)]-アセチル(AEEA)、アミノヘキサン酸(Ahx)、E、γ-グルタミン酸(γE)、またはそれらの組み合わせの1つ以上の単位である。
【0015】
特定の例では、リンカーおよび脂肪酸部分を含む本明細書に記載のインクレチン類似体は、以下のいずれかであり得る:
【化1】
(配列番号9)、
【化2】
(配列番号10)、または
【化3】
(配列番号11)。
【0016】
第二に、本明細書に記載の少なくとも1つのインクレチン類似体またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩または塩酸塩)および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が記載される。いくつかの例では、医薬組成物は、担体、希釈剤および/または賦形剤をさらに含むことができる。
【0017】
第三に、T2DM、脂質異常症、メタボリックシンドローム、NAFLD、NASH、および肥満などの疾患を治療するための方法が記載される。そのような方法は、それを必要とする個体に、有効量の本明細書に記載されるインクレチン類似体を投与するステップを少なくとも含むことができる。いくつかの例では、疾患は、T2DM、NAFLD、NASHまたは肥満である。他の例では、疾患は、代謝性疾患または神経変性疾患とはみなされない心血管疾患である。
【0018】
いくつかの例では、本明細書に記載の少なくとも1つのインクレチン類似体を、個体に皮下(SQ)投与することができる。同様に、いくつかの例では、少なくとも1つのインクレチン類似体は、毎日、隔日、週3回、週2回、週1回(すなわち、毎週)、隔週(すなわち、1週間おきに)、または毎月投与することができる。特定の例では、少なくとも1つのインクレチン誘導体は、隔日SQで、週3回SQで、週2回SQで、週1回SQで、隔週SQで、または毎月SQで投与することができる。特定の例では、少なくとも1つのインクレチン誘導体は、週に1回(QW)、SQで投与される。
【0019】
本方法はまた、個体の体重または体の組成、および/または血糖および/または血中インスリンおよび/またはヘモグロビンA1c(HbA1c)および/または血中脂質を測定または取得し、次に、そのように得られた値を1つ以上のベースライン値または以前に得られた値と比較して治療の有効性を評価するなどのステップを含み得る。
【0020】
いくつかの例では、個体は肥満または太りすぎである。他の例では、個体は糖尿病(PwD)、特にT2DMの人である。特定の例では、個体はT2DMで肥満であるか、T2DMで太りすぎである。
【0021】
本方法はまた、食事制限および運動と組み合わせることができ、および/またはさらなる治療薬と組み合わせることができる。
【0022】
第四に、インクレチン類似体は、T2DM、脂質異常症、メタボリックシンドローム、NAFLD、NASH、および肥満などの疾患の治療に使用するためなど、治療に使用するために記載される。いくつかの例では、疾患は、T2DM、NAFLD、NASHまたは肥満である。他の例では、疾患は、代謝性疾患または神経変性疾患とはみなされない心血管疾患である。
【0023】
第五に、T2DM、脂質異常症、メタボリックシンドローム、NAFLD、NASHおよび肥満を治療するための医薬の製造における、本明細書に記載のインクレチン類似体の使用が記載される。いくつかの例では、疾患は、T2DM、NAFLD、NASHまたは肥満である。他の例では、疾患は、代謝性疾患または神経変性疾患とはみなされない心血管疾患である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
別段に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料を、インクレチン類似体、医薬組成物、および方法の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料は、本明細書に記載されている。
【0025】
また、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」による要素への言及は、文脈が1つおよび1つのみの要素があることを明確に要求しない限り、複数の要素が存在する可能性を排除しない。よって、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」は、通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0026】
定義
本明細書で使用されるとき、「約」とは、例えば、記載された濃度、長さ、分子量、pH、配列同一性、時間枠、温度、または体積などの値(複数可)の統計的に有意な範囲内を意味する。そのような値または範囲は、所与の値または範囲の典型的には20%以内、より典型的には10%以内、さらにより典型的には5%以内の規模以内であり得る。「約」によって包含される許容される変動は、研究での特定の系に依存し、当業者によって容易に理解され得る。
【0027】
本明細書で使用されるとき、GIP、GLP-1、またはGCG受容体のうちの1つ以上に関して、「活性」、「活性化する」、「活性化すること」などは、以下に記載されるインビトロアッセイなどの当該技術分野で知られているアッセイを使用して測定されるように、受容体に結合する、および受容体での応答を誘導する、本明細書に記載されるインクレチン類似体などの化合物の能力を意味する。
【0028】
本明細書で使用されるとき、「アミノ酸」は、化学的観点から、1つ以上のアミン基および1つ以上のカルボン酸基を含むことによって特徴付けられ、他の官能基を含み得る分子を意味する。当該技術分野で知られているように、標準アミノ酸として指定され、あらゆる生物によって産生されるほとんどのペプチド/ポリペプチド/タンパク質の構成要素として使用される20個のアミノ酸のセットが存在する。
【0029】
本明細書で使用されるとき、「コンジュゲートに利用可能な官能基を有するアミノ酸」とは、例えば、リンカーによって脂肪酸部分にコンジュゲートされ得る官能基を有する任意の標準的な、または標準的でないアミノ酸を意味する。そのような官能基の例としては、アルキニル基、アルケニル基、アミノ基、アジド基、ブロモ基、カルボキシル基、クロロ基、ヨード基、およびチオール基が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、そのような官能基を含む標準的なアミノ酸の例としては、C(チオール)、D(カルボキシル)、E(カルボキシル)、K(アミノ)およびQ(アミド)が挙げられる。
【0030】
本明細書で使用されるとき、「類似体」は、標的受容体を活性化し、天然の受容体アゴニストによって誘発される少なくとも1つのインビボまたはインビトロ効果を誘発する、合成のペプチドまたはポリペプチドなどの化合物を意味する。
【0031】
本明細書で使用されるとき、「代謝性疾患とはみなされない心血管疾患」などは、例えば、アテローム性動脈硬化症または心不全などの疾患を意味する。
【0032】
本明細書で使用されるとき、「C16-C22脂肪酸」とは、16~22個の炭素原子を有するカルボン酸を意味する。本明細書での使用に好適なC16-C22脂肪酸は、飽和一酸または飽和二酸であり得る(「二酸」は、各末端にカルボキシル基を有する)。
【0033】
本明細書で使用されるとき、「有効量」は、それを必要とする個体への単回または複数回投与により、診断または治療中のそのような個体において所望の効果(すなわち、例えば、血糖の低下、HbA1cの低下、および/または体重もしくは体脂肪の低下、および/または体の組成の変化など、個体の状態に臨床的に測定可能な差異を生じさせ得る)を提供する、本明細書の1つ以上のインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩の量、濃度または用量を意味する。有効量は、既知の技法の使用によって、および同様の状況下で得られた結果を観察することによって、当業者であれば容易に決定することができる。個体についての有効量を決定する際には、哺乳動物の種、そのサイズ、年齢、および健康状態全般、関与する特定の疾患または障害、疾患または障害の程度、関与、または重症度、個体の応答、投与される特定のインクレチン類似体、投与の様式、投与される調製物の生物学的利用能特性、選択される用量レジメン、併用薬の使用、ならびに他の関連する状況を含むが、これらに限定されない、多数の因子が考慮される。
【0034】
本明細書で使用されるとき、「長期間の作用」とは、インクレチン類似体の結合親和性および活性が、天然ヒトGIP、GLP-1、およびGCGよりも長い期間継続し、少なくとも1日1回、またはさらに週3回、週2回、もしくは週1回の低頻度で投与することを可能にすることを意味する。インクレチン類似体の時間作用プロファイルは、以下の例で利用されるものなどの既知の薬物動態試験方法を使用して測定され得る。
【0035】
本明細書で使用されるとき、「グルコース依存性インスリン分泌性ポリペプチド」または「GIP」は、グルコースの存在下で膵臓ベータ細胞からのインスリン分泌を刺激することによってグルコース恒常性において生理的役割を果たす、インクレチンである、42アミノ酸ペプチド(配列番号1)を意味する。
【0036】
本明細書で使用されるとき、「グルカゴン様ペプチド-1」または「GLP-1」は、グルコース依存性インスリン分泌を刺激し、糖尿病患者における高血糖を予防することが示されている、インクレチンである、36アミノ酸ペプチド(配列番号2)を意味する。
【0037】
本明細書で使用されるとき、「グルカゴン」または「GCG」は、肝細胞上のGCG受容体に結合し、これを活性化することによって血糖の維持を助け、肝臓に、グリコーゲン分解と呼ばれるプロセスを通して、グリコーゲンの形態で保存されるグルコースを放出させる、29アミノ酸ペプチド(配列番号3)を意味する。
【0038】
本明細書で使用されるとき、「オキシントモジュリン」または「OXM」は、GCGの29アミノ酸配列だけでなく、GCGおよびGLP-1の両方の受容体を活性化するオクタペプチドカルボキシ末端伸長も含み、GLP-1受容体よりもGCG受容体の効力がわずかに高い、37アミノ酸ペプチドを意味する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「50%効果濃度」または「EC50」は、用量反応曲線(例えば、cAMP)などのアッセイエンドポイントの50%の活性化/刺激をもたらす化合物の濃度を意味する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「インクレチン類似体」とは、GIP、GLP-1、およびGCGの各々、特にヒトGIP(配列番号1)、ヒトGLP-1(配列番号2)、およびヒトGCG(配列番号3)との構造的類似性を有するが、複数の相違を有する化合物を意味する。本明細書に記載されるインクレチン類似体は、GIP、GLP-1、およびGCG受容体の親和性およびその各々での活性(すなわち、トリプルアゴニスト活性)を有する化合物をもたらすアミノ酸配列を含む。
【0041】
本明細書で使用する場合、「それを必要とする個体」は、例えば、本明細書に列挙されるものを含む、治療または療法を必要とする状態、疾患、障害、または症状を有する、ヒトなどの哺乳動物を意味する。特に、治療される好ましい個体はヒトである。
【0042】
本明細書で使用されるとき、「長時間作用型」は、本明細書に記載のインクレチン類似体の結合親和性および活性が、天然のヒトGIP(配列番号1)、ヒトGLP-1(配列番号2)、および/またはヒトGCG(配列番号3)などの参照ペプチドよりも長い期間継続し、少なくとも1日1回、週3回、週2回、週1回、またはさらに月に1回ほどの低頻度で投与可能であることを意味する。本明細書に記載のインクレチン類似体の作用時間プロファイルは、以下の実施例で記載されるものなどの既知の薬物動態試験方法を使用して測定され得る。
【0043】
本明細書で使用する場合、「非標準アミノ酸」は、細胞内で自然に発生し得るが、ペプチド合成には関与しないアミノ酸を意味する。非標準アミノ酸は、ペプチドの構成要素であってもよく、ペプチド内の標準アミノ酸の修飾によって(すなわち、翻訳後修飾を介して)生成される。非標準アミノ酸には、上記の標準L-アミノ酸とは反対の絶対キラリティーを有するD-アミノ酸を含み得る。
【0044】
本明細書で使用されるとき、「飽和」とは、脂肪酸部分が炭素-炭素二重結合または三重結合を含有しないことを意味する。
【0045】
本明細書で使用されるとき、「治療する」、「治療」、「治療すること」などは、既存の状態、疾患、障害、または症状の進行または重症度の抑制、遅延、停止、または逆転を意味する。
【0046】
本明細書で使用されるとき、インクレチン類似体を参照して、「トリプル受容体アゴニスト活性」とは、GIP、GLP-1、およびGCG受容体の各々での活性を有するインクレチン類似体、特に、その受容体の過剰な活性に関連する望ましくない副作用を回避しながら、その受容体のアゴニズムの利点を提供するために各受容体で均衡のとれた十分な活性を有する類似体を意味する。また、トリプル受容体アゴニスト活性を有するインクレチン類似体は、GIP、GLP-1、およびGCG受容体の各々で長期間の作用を有し、これは1日1回、週3回、週2回、または週1回の低頻度で投与することを有利に可能にする。
【0047】
特定の略語は次のように定義される。「4Pal」は、3-(4-ピリジル)-L-アラニンを指す。「ACR」は、尿中アルブミン/尿中クレアチニン比を指す。「Aib」は、α-アミノイソ酪酸を指す。「αMeL」は、α-メチルロイシンを指す。「αMeK」は、α-メチルリジンを指す。「αMeF」は、α-メチルフェニルアラニンを指す。「αMeF(2F)」は、α-メチル2-フルオロファイニルアラニンを指す。「αMeY」は、α-メチルチロシンを指す。「amu」は、原子質量単位を指す。「AUC」は、曲線下面積を指す。「Boc」は、tert-ブトキシカルボニルを指す。「cAMP」は、環状アデノシン一リン酸を指す。「DMSO」は、ジメチルスルホキシドを指す。「EIA/RIA」は、酵素免疫測定法/ラジオイムノアッセイを指す。「Fmoc」は、フルオレニルメチルオキシカルボニルを指す。「hr」は、時間を指す。「HTRF」は、ホモジニアス時間分解蛍光法を指す。「IV」は、静脈内を指す。「Iva」は、イソバリンを指す。「kDa」は、キロダルトンを指す。「LC-MS」は、液体クロマトグラフィー-質量分析を指す。「min」は、分を指す。「MS」は、質量分析を指す。「Orn」または「O」は、オルニチンを指す。「OtBu」は、O-tert-ブチルを指す。「Pbf」は、NG-2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニルを指す。「RP-HPLC」は、逆相高速液体クロマトグラフィーを指す。「sec」は、秒を指す。「SEM」は、平均の標準誤差を指す。「SPA」は、シンチレーション近接アッセイを指す。「SQ」は、皮下を指す。「TFA」は、トリフルオロ酢酸を指す。「tBu」は、tert-ブチルを指す。「Trt」は、トリチルを指す。
【0048】
インクレチン類似体
本明細書に記載されるインクレチン類似体の構造的特徴は、各受容体での活性の好ましい効果を得るために、GIP、GLP-1、およびGCG受容体の各々での十分な活性(すなわち、トリプル受容体アゴニスト活性)を有するが、他の2つの受容体での活性を圧倒するか、またはすべての3つの受容体で活性をもたらすために十分な用量で投与される場合に望ましくない副作用をもたらすかのいずれかのために、任意の1つの受容体ではそれほどの活性を有さない化合物をもたらす。特定の実施形態におけるそのような構造的特徴の非限定的な例は、配列番号5を参照して、最適なGCG、GIPおよびGLP-1活性に寄与する6位のαMeF(2F)、均衡のとれた活動に寄与する10位のYまたは4Pal、最適なGCGおよびGIP活性に寄与する13位のLまたはαMeL、均衡のとれた活性に寄与する16位のO、均衡のとれた活性に寄与する17位でのアシル化、最適なGCG活性に寄与する20位の4Pal、Iva、またはαMeL、最適なGCG活性に寄与する21位のAまたはAib、均衡のとれた活性に寄与する25位のYまたはαMeYを含む。そのような構造的特徴の他の例には、すべての3つ受容体での最適な結合および効力に寄与する28~39位の本明細書に記載されるアミノ酸が含まれる。
【0049】
本明細書に記載されるインクレチン類似体の構造的特徴はまた、水溶液中の類似体の可溶性の改善、化学的および物理的製剤安定性の改善、薬物動態プロファイルの拡張、ならびに免疫原性の可能性の最小化を含む、治療処置としてのそれらの開発可能性に関連する多くの他の有益な属性を有する類似体をもたらす。そのような属性をもたらす特定の構造的特徴の非限定的な例には、最適な薬物動態(PK)プロファイルおよび開発性に寄与するC20脂肪酸による17位でのアシル化、最適な溶解性および化学的安定性に寄与する10位または20位の4Pal、最適な溶解性およびPKに寄与する16位のO、最適な溶解性および安定性に寄与する24位のEまたはe、最適な化学的安定性に寄与する25位のYまたはαMeY、最適な溶解性に寄与する39位のEまたはS、最適なPK、免疫原性、開発性および安定性に寄与する、6、13、16および28~39位の本明細書に記載のアミノ酸を含む。
【0050】
前述の構造的特徴リストは、包括的なものではなく、例示的なものであり、本明細書に記載される例示的な類似体の有益な特性の組み合わせは、単独での任意の修飾の結果ではなく、代わりに本明細書に記載される構造的特徴の新規組み合わせを通して達成されることが留意されるべきである。加えて、前述の修飾リストの上記効果は、これらの修飾の多くが、以下に記載されるように、本明細書に記載される化合物の特性にとって重要な他の効果も有するので、排他的ではない。
【0051】
本明細書に記載のインクレチン類似体のアミノ酸配列は、典型的には1文字コード(例えば、L=ロイシン、K=リジン)を用いて本明細書で示される天然に存在する(標準)アミノ酸、ならびに非標準および/または標準アミノ酸のα-メチル置換残基(例えば、αMeL、αMeK、αMeF、αMeF(2F)、およびαMeY、ならびに4Pal、Aib、Iva、O、およびD-グルタミン酸(e)などの特定の他の非標準アミノ酸)を組み込む。明確には、これらの他のアミノ酸の構造を以下に示す。
【化4】
【0052】
上記のように、本明細書に記載されるインクレチン類似体は、天然のヒトペプチドのいずれかと、構造的類似性を有するが、多くの構造的相違性を有する。例えば、天然ヒトGIP(配列番号1)と比較される場合、インクレチン類似体は、2~3、6~7、13~14、16~18、20~21、23~25、および28~42位のうちの1つ以上での修飾を含む。いくつかの例では、インクレチン類似体は、2~3、6~7、13~14、16~18、20~21、23~25、および28~42位の各々での天然ヒトGIP(配列番号1)のアミノ酸への修飾を含む。特定の例では、インクレチン類似体は、以下のアミノ酸修飾:2位のAib、3位のQ、6位のαMeF(2F)、7位のT、10位のYまたは4Pal、13位のLまたはαMeL、14位のL、任意選択でリンカーの使用を通して、C16-C22脂肪酸を有するK側鎖のイプシロン-アミノ基へのコンジュゲートを通して修飾される、17位の修飾K残基、18位のA、20位の4Pal、IvaまたはαMeL、21位のAまたはAib、23位のI、24位のEまたはe、25位のYまたはαMeY、28位のE、29位のG、ならびに以下のアミノ酸配列:GPSSGAPPPE(配列番号12)またはGPSSGAPPPS(配列番号13)(およびこれらの尾部のいずれかが切断された類似体)での30~42位のアミノ酸の置換を含む。さらに他の例では、インクレチン類似体は、アミド化されている。本明細書に記載される修飾に加えて、インクレチン類似体は、付加、欠失、挿入および/または置換などの1つ以上の追加のアミノ酸修飾を含み得るが、依然としてGIP、GLP-1、およびGCG受容体の各々に結合し、これを活性化することができる。
【0053】
上記のように、本明細書に記載されるインクレチン類似体は、コンジュゲートに利用可能な官能基を有する標準または非標準のアミノ酸に、例えば、リンカーによって、コンジュゲートされた脂肪酸部分を含む。そのようなコンジュゲートは、アシル化と称されることもある。特定の例では、コンジュゲートに利用可能な官能基を有するアミノ酸は、C、D、E、KまたはQであり得る。特定の例では、コンジュゲートに利用可能な官能基を有するアミノ酸は、コンジュゲートがK側鎖のイプシロン-アミノ基に対するものである、Kである。
【0054】
本明細書に記載されるインクレチン類似体のアシル化は、この構造を含めるための最適な場所であると決定された、配列番号5における17位にある。脂肪酸、および特定の例では、リンカーは、アルブミン結合剤として作用し、長期作用型化合物を生成する可能性を提供する。
【0055】
本明細書に記載されるインクレチン類似体は、直接結合またはリンカーのいずれかによってアミノ酸の官能基に化学的にコンジュゲートされたC16-C22脂肪酸部分を利用する。脂肪酸部分の長さおよび組成は、インクレチン類似体の半減期、インビボ動物モデルにおけるインクレチン類似体の効力、ならびにインクレチン類似体の可溶性および安定性に影響を与える。C16-C22飽和脂肪一酸または二酸へのコンジュゲートは、望ましい半減期、インビボ動物モデルにおける望ましい効力、ならびに望ましい可溶性および安定性の特性を示す、インクレチン類似体をもたらす。
【0056】
本明細書での使用のための飽和C16-C22脂肪酸の例としては、それらの分岐および置換誘導体を含む、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)(C16一酸)、ヘキサデカン二酸(C16二酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)(C17一酸)、ヘプタデカン二酸(C17二酸)、ステアリン酸(C18一酸)、オクタデカン二酸(C18二酸)、ノナデシル酸(ノナデカン酸)(C19一酸)、ノナデカン二酸(C19二酸)、アラカジン酸(エイコサン酸)(C20一酸)、エイコサン二酸(C20二酸)、ヘンエイコシル酸(ヘンエイコサン酸)(C21一酸)、ヘンエイコサン酸(C21二酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)(C22一酸)、ドコサン二酸(C22二酸)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
特定の例では、C16-C22脂肪酸は、飽和C20一酸、飽和C20二酸、ならびにそれらの分岐および置換誘導体であり得る。より具体的な例では、C16-C22脂肪酸は、エイコサン二酸であり得る。
【0058】
いくつかの例では、リンカーは、1~4つのアミノ酸、アミノポリエチレングリコールカルボキシレート、またはそれらの混合物を有することができる。特定の例では、アミノポリエチレングリコールカルボキシレートは、以下の構造:
H-{NH-CH2-CH2-[O-CH2-CH2]m-O-(CH2)p-CO}n-OH、
[式中、mは、1~12の任意の整数であり、nは、1~12の任意の整数であり、pは、1または2である。]
を有する。
【0059】
特定の例では、リンカーは、任意選択で1~4つのアミノ酸と組み合わされた、1つ以上のAEEA部分を有することができる。
【0060】
リンカーが少なくとも1つのアミノ酸を含む例では、アミノ酸は、1~4つのEまたはγEアミノ酸残基であり得る。いくつかの例では、リンカーは、そのD形態を含む、1つまたは2つのEまたはγEアミノ酸残基を含むことができる。例えば、リンカーは、1つまたは2ついずれかのγEアミノ酸残基を含むことができる。あるいは、リンカーは、最大36個のAEEA部分との組み合わせで使用される1~4つのアミノ酸残基(例えば、EまたはγEアミノ酸など)を含むことができる。具体的には、リンカーは、1~4つのEまたはγEアミノ酸と1~4つのAEEA部分との組み合わせであり得る。他の例では、リンカーは、1つまたは2つのγEアミノ酸と1つまたは2つのAEEA部分との組み合わせであり得る。
【0061】
特定の一例では、本明細書に記載のインクレチン類似体は、以下の構造:
((2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-アセチル)
a-(γE)
b-CO-(CH
2)
c-CO
2H
[式中、aは、0、1、または2であり、bは、1または2であり、cは、16または18である。]
を有するリンカー-脂肪酸部分を有する。特定の一例では、aは、1であり、bは、1であり、cは、
18であり、以下の構造:
【化5】
を有する。
【0062】
以下の実施例1~3の化学構造に示されるように、上記のリンカー-脂肪酸部分は、K側鎖のイプシロン(ε)-アミノ基に連結することができる。
【0063】
GIP、GLP-1、およびGCG受容体の各々に対する本明細書に記載されるインクレチン類似体の親和性は、例えば、以下の実施例に記載されるものなどの、受容体結合レベルを測定するための当該技術分野で公知の技法を使用して測定され得、一般的には阻害定数(Ki)値として表される。受容体の各々でのインクレチン類似体の活性はまた、例えば、以下に記載されるインビトロ活性アッセイを含む、当該技術分野で知られる技法を使用して測定され得、一般的には、有効濃度50(EC50)値として表され、これは、用量応答曲線において最大半量シミュレーションを引き起こす化合物の濃度である。
【0064】
本明細書に記載されるインクレチン類似体は、非経口経路(例えば、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、または経皮)によって投与することができる、医薬組成物として製剤することができる。そのような医薬組成物およびそれを調製するための技法は、当該技術分野において周知である。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Troy,Ed.,21stEdition,Lippincott,Williams&Wilkins,2006)を参照されたい。特定の例では、インクレチン類似体は、皮下投与される。
【0065】
本明細書に記載されるインクレチン類似体は、いくつかの無機および有機酸/塩基のいずれかと反応して、薬学的に許容される酸/塩基付加塩を形成し得る。薬学的に許容される塩およびそれらを調製するための一般的な技法は、当該技術分野で周知である(例えば、Stahl et al.,Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection and Use,2ndRevised Edition(Wiley-VCH,2011)を参照されたい)。本明細書での使用のための薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、トリフルオロ酢酸塩、塩酸塩、および/または酢酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
本開示はまた、本明細書に記載されるインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩を合成する新規中間体および方法を提供し、したがって包含する。本明細書に記載される中間体およびインクレチン類似体は、当該技術分野で知られる様々な技法によって調製することができる。例えば、化学合成を使用する方法は、以下の実施例に例示される。記載される経路の各々についての具体的な合成ステップは、本明細書に記載されるインクレチン類似体を調製するために異なる方法で組み合わされ得る。試薬および出発材料は、当業者にとって容易に入手可能である。
【0067】
本明細書に記載される特定のインクレチン類似体は、一般に、広い投与量範囲にかけて有効である。例えば、週1回投与の投与量は、約0.01~約30mg/個体/週の範囲内、約0.1~約10mg/個体/週の範囲内、またはさらに約0.1~約3mg/個体/週の範囲内に含まれ得る。よって、本明細書に記載されるインクレチン類似体は、1日1回、週3回、週2回、または週1回投与され、特に週1回投与され得る。
【0068】
本明細書に記載されるインクレチン類似体は、様々な症状、障害、疾患、または徴候を治療するために使用され得る。特に、個体におけるT2DMを治療するための方法が提供され、そのような方法は、そのような治療を必要とする個体に、有効量の、本明細書に記載されるインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを少なくとも含む。
【0069】
加えて、個体における脂質異常症を治療するための方法が提供され、そのような方法は、そのような治療を必要とする個体に、有効量の、本明細書に記載されるインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを少なくとも含む。
【0070】
加えて、個体におけるメタボリックシンドロームを治療するための方法が提供され、そのような方法は、そのような治療を必要とする個体に、有効量の、本明細書に記載されるインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを少なくとも含む。
【0071】
加えて、個体におけるNAFLDを治療するための方法が提供され、そのような方法は、そのような治療を必要とする対象に、有効量の、本明細書に記載されるインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを少なくとも含む。
【0072】
加えて、個体におけるNASHを治療するための方法が提供され、そのような方法は、そのような治療を必要とする個体に、有効量の、本明細書に記載されるインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを少なくとも含む。
【0073】
加えて、個体における肥満を治療するための方法が提供され、そのような方法は、そのような治療を必要とする個体に、有効量の、本明細書に記載されるインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを少なくとも含む。
【0074】
加えて、個体における非治療的減量を誘発するための方法が提供され、そのような方法は、そのような治療を必要とする個体に、有効量の、本明細書に記載されるインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを少なくとも含む。
【0075】
加えて、個体における代謝性疾患とはみなされない心血管疾患を治療するための方法が提供され、そのような方法は、そのような治療を必要とする個体に、有効量の、本明細書に記載されるインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを少なくとも含む。
【0076】
加えて、個体における神経変性疾患を治療するための方法が提供され、そのような方法は、そのような治療を必要とする個体に、有効量の、本明細書に記載されるインクレチン類似体、またはその薬学的に許容される塩を投与するステップを少なくとも含む。
【0077】
これらの方法において、本明細書に記載のインクレチン類似体の有効性は、例えば、血中グルコースの有意な減少を観察すること、インスリンの有意な増加を観察すること、HbA1cの有意な減少を観察すること、血中脂質の有意な減少を観察すること、体重または体脂肪の有意な減少を観察すること、および/または体の組成の変化を観察することによって評価することができる。
【0078】
あるいは、本発明のインクレチン類似体またはその薬学的に許容される塩は、それを必要とする個人における骨強度を改善するために使用され得る。いくつかの例では、それを必要とする個体は、骨化機能低下症もしくは類骨組織形成機能低下症を有するか、または骨折、関節筋力回復術、人工装具インプラント、歯科インプラント、および/もしくは脊椎固定から治癒している。インクレチン類似体はまた、アルツハイマー病またはパーキンソン病などの他の障害を治療するために使用され得る。
【実施例】
【0079】
以下の非限定的な実施例は、限定ではなく例示の目的で提供される。
【0080】
ペプチド合成
実施例1:インクレチン類似体1の合成
実施例1は、以下の記載によって表される化合物である。
YAibQGT-αMeF(2F)-TSDYSILLDOK(2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-アセチル-γE-CO-(CH2)18-CO2H)AQ-4Pal-AFIEYLLEGGPSSGEPPPE-NH2(配列番号9)。
【0081】
以下は、残基Aib2、αMeF(2F)6、O16、K17、4Pal20、およびE39を除いて、標準的な1文字アミノ酸コードを使用する、実施例1の構造の描写であり、これらのアミノ酸残基の構造は、拡大されている。
【化6】
【0082】
実施例1のペプチド主鎖は、Fmoc/t-Bu化学を用いて、ペプチド合成装置Symphony X(Gyros Protein Technologies、Tucson,AZ)にて、合成される。
【0083】
樹脂は、0.3~0.4meq/gの置換での1%のDVB架橋ポリスチレン(Fmoc-Rink-MBHA low-loading樹脂、100~200メッシュ、EMD Millipore)である。標準的な側鎖保護基が、以下の例外を除いて、使用される。Fmoc-Lys(Mtt)-OHは、17位のKに使用され、Boc-Tyr(tBu)-OH)は1位のYに使用される。各カップリングステップ(2×7分間)に先立ち、DMF中の20%ピペリジンを使用して、Fmoc基を除去する。すべての標準的なアミノ酸カップリングは、Fmocアミノ酸(0.3M)、ジイソプロピルカルボジイミド(0.9M)、およびOxyma(0.9M)の等モル比を使用して、理論上ペプチド負荷に対して9倍のモル過剰で、第1級アミンに1時間、第2級アミンに3時間実施される。例外は、3時間カップリングされるCα-メチル化アミノ酸へのカップリングである。ペプチド骨格の合成が完了した後、樹脂をDCMで6回完全に洗浄して、残留DMFを除去する。17位のKのMtt保護基は、DCMで、30%ヘキサフルオロイソプロパノール(Oakwood Chemicals)処理を2回施して(40分処理×2回)、ペプチド樹脂から選択的に除去される。
【0084】
脂肪酸-リンカー部分のその後の付着は、2-[2-(2-Fmoc-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-酢酸(Fmoc-AEEA-OH、ChemPep,Inc.)、Fmoc-グルタミン酸α-t-ブチルエステル(Fmoc-E-OtBu、Ark Pharm,Inc.)、およびモノ-OtBu-エイコサン二酸(WuXi AppTec、Shanghai,China)のカップリングにより達成される。3倍過剰の試薬(AA:PyAOP:DIPEA=1:1:1mol/mol)が、1時間の各カップリングに使用される。
【0085】
合成が完了したら、ペプチド樹脂をDCMで洗浄し、完全に空気乾燥させる。乾燥樹脂を10mLの分割用カクテル(TFA:トリイソプロピルシラン:水、92.5:2.5:5容量)で40℃で30分間処理する。樹脂を濾別し、各々2mLのニートTFAで2回洗浄し、合わせた濾液を5倍過剰量の冷ジエチルエーテル(-20℃)で処理して、粗ペプチドを沈殿させる。その後、ペプチド/エーテル懸濁液を3500rpmで2分間遠心分離して固体ペレットを形成し、上清を静かに移し、固体ペレットを冷エーテルでさらに2回粉砕し、真空中で乾燥させる。粗ペプチドを20%アセトニトリル/20%酢酸/60%水で可溶化し、100%アセトニトリルおよび0.1%TFA/水バッファーシステム(60分で30~50%アセトニトリル)の直線勾配を有するLuna5μmフェニル-ヘキシル調製用カラム(21×250mm、Phenomenex)でのRP-HPLCによって精製する。ペプチドの純度は分析用RP-HPLCを使用して評価され、プーリング基準は95%を超える。実施例1の主なプール純度は、98.0%超であることが分かる。最終主要生成物プールのその後凍結乾燥は、凍結乾燥ペプチドTFA塩をもたらす。分子量はLC-MSによって判定される(実測:M+3=1633.7、算出:M+3=1633.8)。
【0086】
実施例2:インクレチン類似体2の合成
実施例2は、以下の記載によって表される化合物である。
YAibQGT-αMeF(2F)-TSDYSI-αMeL-LDOK(2-[2-(2-アミノん-エトキシ)-エトキシ]-アセチル-γE-CO-(CH2)18-CO2H)AQ-Iva-AFIE-αMeY-LLEGGPSSGEPPPS-NH2(配列番号10)。
【0087】
以下は、残基Aib2、αMeF(2F)6、αMeL13、O16、K17、Iva20、αMeY25、およびS39を除いて、標準的な2文字アミノ酸コードを使用する、実施例2の構造の描写であり、これらのアミノ酸残基の構造は、拡大されている。
【化7】
【0088】
実施例1について上述されるものと同様のプロセスを使用して、ペプチド主鎖を合成し、脂肪酸-リンカー部分にコンジュゲートし、純度を調べ、実施例2の分子量を確認する。
【0089】
実施例3:インクレチン類似体3の合成
実施例3は、以下の記載によって表される化合物である。
YAibQGT-αMeF(2F)-TSD-4Pal-SI-αMeL-LDOK(2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-アセチル-γE-CO-(CH2)18-CO2H)AQ-αMeL-Aib-FIe-αMeY-LLEGGPSSGEPPPS-NH2(配列番号11)。
【0090】
以下は、残基Aib2、αMeF(2F)6、4Pal10、αMeL13、O16、K17、αMeL20、Aib21、e24、αMeY25、およびS39を除いて、標準的な3文字アミノ酸コードを使用する、実施例3の構造の描写であり、これらのアミノ酸残基の構造は、拡大されている。
【化8】
【0091】
実施例1について上述されるものと同様のプロセスを使用して、ペプチド主鎖を合成し、脂肪酸-リンカー部分にコンジュゲートし、純度を調べ、実施例3の分子量を確認する。
【0092】
インビトロ機能
実施例4:結合親和性
放射性リガンド競合結合アッセイを使用して、実施例化合物および比較対象の平衡解離定数を決定する。このようなアッセイは、SPA方法と、ヒトGIP受容体(hGIPR;配列番号14)、ヒトGLP-1受容体(hGLP-1R;配列番号15)またはヒトGCG受容体(hGCGR;ID番号:16)を過剰に発現しているトランスフェクトしたHEK293細胞から調製したメンブレンとを用いる。
【0093】
アッセイは、非特異的遮断剤としてのバシトラシンの存在下で行われ、試験類似体のアシル化部分が標準的なアッセイバッファーで使用されるタンパク質成分(例えば、アルブミン)に結合することを防止する。
【0094】
競合曲線は、特異的阻害パーセント(y軸)対化合物の対数濃度(x軸)としてプロットされ、可変勾配(ABaseまたはGenedata)での4パラメーター非線形回帰フィットを使用して分析される。K
i値は、式K
i=IC
50/(1+(D/K
d))に従って計算され、式中、IC
50は、結合の50%阻害をもたらす化合物の濃度であり、Dは、アッセイに使用される放射性リガンドの濃度であり、K
dは、飽和結合分析から決定される、受容体および放射性リガンドの平衡解離定数である(以下の表1に示される)。
【表1】
【0095】
実施例化合物および比較対象のK
i値を表2に示す。
【表2】
【0096】
表2に見られるように、実施例化合物は、hGIPR、hGLP-1RおよびhGCGRの各々において結合親和性を有する。
【0097】
実施例5:機能的なhGIPR、hGLP-1RおよびhGCGRアッセイ
方法:機能的活性は、hGIPR、hGLP-1R、またはhGCGRを発現するHEK-293クローン細胞株におけるcAMP形成を用いて決定される。hGIPR、hGLP-1R、またはhGCGR受容体発現細胞を、1XのGlutaMAX(登録商標)(Gibcoカタログ番号35050)、0.1%のウシカゼイン(Sigma C4765-10ML)、250μMのIBMX(3-イソブチル-1-メチルキサンチン、Acrosカタログ番号228420010)および20mMのHEPES(Gibcoカタログ番号15630)を補充したDMEM(Gibcoカタログ番号31053)中の対照ポリペプチドまたは実施例1~3の1つ(DMSO中20点の濃度応答曲線、2.75倍Labcyte Echo直接希釈、384ウェルプレートCorningカタログ番号3570)で、20μLのアッセイ容量で(最終DMSO濃度は0.5%であった)処理する。実験は、1.0%の脂肪酸フリー、グロブリンフリーのヒト血清アルブミン(Sigmaカタログ番号A3782)を添加した同一のアッセイ条件下でも実施される。
【0098】
37℃で30分インキュベーションした後、得られる細胞内cAMPの増加を、CisBio cAMP Dynamic 2 HTRFアッセイキット(62AM4PEJ)を使用して定量的に決定する。簡潔には、細胞溶解バッファー(10μL)中のcAMP-d2コンジュゲート、続いてこれもまた細胞溶解バッファー(10μL)中の抗体、抗cAMP-Eu3+-クリプテートを添加することによって、細胞内のcAMPレベルを検出する。得られる競合アッセイを、室温で少なくとも60分間インキュベートし、次いで、320nmでの励起ならびに665nmおよび620nmでの発光でPerkinElmer Envision(登録商標)機器を使用して検出する。Envision単位(665nm/620nmでの発光*10,000)は存在するcAMPの量に反比例し、cAMP標準曲線を使用して、これを1ウェル当たりのnM cAMPに変換する。各ウェルにおける生成cAMP量(nM)を、ヒトGIP(1-42)NH2、hGLP-1(7-36)NH2、またはhGCGについて観察される最大応答の割合に変換する。4パラメーターロジスティック方程式にフィットさせた、最大反応割合(%)対添加ペプチド濃度を使用する非線形回帰分析によって、相対EC50値および最大割合(%)(Emax)を導出する。
【0099】
結果:hGIP(1-42)NH
2、hGLP-1(7-36)NH
2、hGCG、および実施例化合物についての機能的データは、以下の表3(0.1%のウシカゼイン)および表4(0.1%のウシカゼイン、1.0%のヒト血清アルブミン)にて提供される。
【表3】
【表4】
【0100】
表3に示されるように、実施例化合物は、0.1%のカゼインの存在下で、hGLP-1R、hGCGR、およびhGIPRからのcAMPを刺激する。
【0101】
表4に示されるように、実施例化合物は、0.1%のウシカゼインおよび1%のヒト血清アルブミンの存在下で、hGLP-1R、hGCGRおよびhGIPRからのcAMPを刺激する。
【0102】
インビトロ機能
実施例6:雄の食餌誘発肥満(DIO)マウスにおける薬物動態
方法:雄のDIOマウスに、0.02%のPS80を含む40mMのTris-HCL、pH8バッファー中の実施例化合物200nmol/kg(0.98mg/kg)を10mL/kgの容量で単回SQ投与する。薬物動態学的な特性評価のために、投与後1、3、6、12、24、48、および72時間に採血する。実施例化合物の血漿濃度は、Q Squared Solutions BioSciences LLC(Ithaca,NY)で認定された液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)法によって決定される。実施例化合物および内部標準は、タンパク質沈殿とそれに続く固相抽出を使用して、100%のマウス血漿から抽出される。ペプチドとアシル鎖を含む実施例化合物の無傷の質量は、Q-Exactive(登録商標)Orbitrap(登録商標)質量分析計によって検出される。
【0103】
結果:実施例化合物についてのデータを以下の表5に提供する。
【表5】
【0104】
表5に示されるように、実施例化合物は、DIOマウスにおける拡張された薬物動態プロファイルを示す。
【0105】
実施例7:雄Wistarラットにおけるインスリン分泌に対するインビボ効果:
方法:雄Wistarラットにおける静脈内ブドウ糖負荷試験(ivGTT)を使用して、実施例化合物のインスリン分泌能を推定する。GLP-1Rアゴニストであるセマグルチドを陽性対照として使用する。頸静脈および頸動脈(Envigo、Indianapolis,IN、280~320グラム)にカニューレを外科的にインプラントしたラットを、フィルタートップを有するポリカーボネートケージに、1ケージ当たり1匹収容する。ラットは、21℃で12時間の明暗サイクルで維持し、2014 Teklad Global diet(Envigo)および脱イオン水を自由に摂取する。ラットは、体重によって無作為化し、グルコース投与の16時間前に実施例化合物を1.5mL/kgでSQ投与し、次いで絶食させる。実施例化合物の211nM/mLのストック濃度を、0.02%のPS80を含む40mMのTris-HClバッファー、pH8.0で、所望の投与濃度に希釈する。試験された用量は、ビヒクル、0.1、0.3、1、3、10および30nM/kgである。セマグルチドは、実施例化合物(10nM/kg用量)の各実行に関連して陽性対照として使用される。
【0106】
0時点の血液試料をEDTAチューブに収集し、その後グルコースを投与する(0.5mg/kg、5mL/kg)。血液試料を、グルコースの静脈内投与後2、4、6、10、20および30分の時点のグルコースおよびインスリンのレベルを見るために収集する。血漿インスリンは、電気化学発光アッセイ(Meso Scale、Rockville,MD)を使用して決定する。インスリンAUCを調べ、n=各群6動物でビヒクル対照と比較する。
【0107】
統計分析は、一元配置分散分析でのJMP、続いてビヒクル対照とのダネットの比較を使用して行う。
【0108】
結果:実施例化合物についてのデータを以下の表6に提供する。
【表6】
【0109】
表6に示されるように、実施例化合物は、インスリン分泌の用量依存性増加を示す。
【0110】
実施例8:DIO C57/B16マウスにおける体重減少、代謝、体組成に関するインビボ研究
方法:体重減少、代謝および体の組成などのパラメーターに対する実施例化合物の効果を調査するために、実施例化合物をC57Bl6 DIOマウスに投与する。これらの動物は、糖尿病ではないが、20週間にわたって高脂肪の食餌が与えられた後、メタボリックシンドロームのすべての特性であるインスリン抵抗性および脂質異常症を示す。
【0111】
本実施例では、20週齢のDIO雄C57/Bl6マウスが、カロリーが豊富な食餌で維持され、以下の研究に使用される。12時間の明/暗サイクル(21:00点灯)ならびに食餌(TD95217)および水に自由アクセスできる温度制御した(23~26℃)施設に、動物を個々に収容する。1週間のビヒクルの馴化投与を伴って、施設へ3週間順応させた後、動物の各実験群が同様の体重を有するように、マウスをそれらの体重に応じて無作為化する。体重は、40g~51gの範囲である。
【0112】
すべての群は、6匹のマウスを含有する。実施例化合物およびセマグルチドを、ビヒクル(pH8.0の40mMのTris-HClおよび0.02%のPS-80)中に溶解し、SQ注射(10mL/kg)によって、14日間、毎日(1日目~14日目)、暗サイクルの開始の30分~90分前に、自由に給餌されたDIOマウスに投与する。最終投与の1日後(15日目)を含む、研究期間を通して、体重および摂食量を毎日測定する。
【0113】
体重の絶対変化は、分子の最初の注射の前の同じ動物の体重を差し引くことによって計算される。0日目および15日目に、Echo Medical System(Houston,TX)装置を使用して、核磁気共鳴(NMR)によって総脂肪質量を測定する。15日目に、Accu-Chek(登録商標)Aviva(登録商標)血糖計(Roche、Indianapolis,IN)またはHitachi臨床血液分析装置(Roche、Indianapolis,IN)を使用して、代謝パラメーターを測定する。血漿インスリンは、電気化学発光アッセイ(Meso Scale Discovery、Rockville,MD)を使用して決定する。
【0114】
データは、以下の表7および8において、1群当たり6匹の動物の平均±SEMとして示される。統計分析は、反復測定ANOVA、続いて多重比較のためのダネットの方法を使用して実施する。有意差はp<0.05を伴う*で特定される。
【0115】
結果:実施例化合物についてのデータを以下の表7および8に提供する。
【表7】
【0116】
表7に示されるように、実施例化合物は、体重および脂肪質量を用量依存的に減少させる。
【表8】
【0117】
表8に示されるように、実施例化合物はまた、血糖、インスリン(インスリン感受性の増加の兆候として)、コレステロール、およびトリグリセリドを減少させる。
【0118】
配列表
以下の核酸配列および/またはアミノ酸配列が上記開示において言及され、参照のために以下に提供される。
【0119】
配列番号1-ヒトGIP
YAEGTFISDYSIAMDKIHQQDFVNWLLAQKGKKNDWKHNITQ
【0120】
配列番号2-ヒトGLP-17-36アミド
HAEGTFTSDVSSYLEGQAAKEFIAWLVKGR-NH2
【0121】
配列番号3-ヒトグルカゴン
HSQGTFTSDYSKYLDSRRAQDFVQWLMNT
【0122】
配列番号4-ヒトOXM
HSQGTFTSDYSKYLDSRRAQDFVQWLMNTKRNRNNIA
【0123】
配列番号5-インクレチン類似体
YX2QGTX6TSDX10SIX13LDX16X17AQX20X21FIX24X25LLEGGPSSGEPPPX39
[式中、
X2は、Aibであり、
X6は、αMeF(2F)であり、
X10は、Yまたは4Palであり得、
X13は、LまたはαMeLであり得、
X16は、Ornであり、
X17は、コンジュゲートに利用可能な官能基を有する任意のアミノ酸であり、
X20は、4Pal、Iva、またはαMeLであり得、
X21は、AまたはAibであり得、
X24は、Eまたはeであり得、
X25は、YまたはαMeYであり得、
X39は、EまたはSであり得る。]
【0124】
配列番号6-インクレチン類似体
Y-Aib-QGT-αMeF(2F)-TSDYSILLDOKAQ-4Pal-AFIEYLLEGGPSSGEPPPE
【0125】
配列番号7-インクレチン類似体
Y-Aib-QGT-αMeF(2F)-TSDYSI-αMeL-LDOKAQ-Iva-AFIE-αMeY-LLEGGPSSGEPPPS
【0126】
配列番号8-インクレチン類似体
Y-Aib-QGT-αMeF(2F)-TSD-4Pal-SI-αMeL-LDOKAQ-αMeL-Aib-FIe-αMeY-LLEGGPSSGEPPPS
【0127】
配列番号9-インクレチン類似体
Y-Aib-QGT-αMeF(2F)-TSDYSILLDOK(2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-アセチル-γE-CO-(CH2)18-CO2H)AQ-4Pal-AFIEYLLEGGPSSGEPPPE-NH2
【0128】
配列番号10-インクレチン類似体
Y-Aib-QGT-αMeF(2F)-TSDYSI-αMeL-LDOK(2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-アセチル-γE-CO-(CH2)18-CO2H)AQ-Iva-AFIE-αMeY-LLEGGPSSGEPPPS-NH2
【0129】
配列番号11-インクレチン類似体
Y-Aib-QGT-αMeF(2F)-TSD-4Pal-SI-αMeL-LDOK(2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-アセチル-γE-CO-(CH2)18-CO2H)AQ-αMeL-Aib-FIe-αMeY-LLEGGPSSGEPPPS-NH2
【0130】
配列番号12-人工配列
GPSSGEPPPE
【0131】
配列番号13-人工配列
GPSSGEPPPS
【0132】
配列番号14-ヒトGIP受容体
MTTSPILQLLLRLSLCGLLLQRAETGSKGQTAGELYQRWERYRRECQETLAAAEPPSGLACNGSFDMYVCWDYAAPNATARASCPWYLPWHHHVAAGFVLRQCGSDGQWGLWRDHTQCENPEKNEAFLDQRLILERLQVMYTVGYSLSLATLLLALLILSLFRRLHCTRNYIHINLFTSFMLRAAAILSRDRLLPRPGPYLGDQALALWNQALAACRTAQIVTQYCVGANYTWLLVEGVYLHSLLVLVGGSEEGHFRYYLLLGWGAPALFVIPWVIVRYLYENTQCWERNEVKAIWWIIRTPILMTILINFLIFIRILGILLSKLRTRQMRCRDYRLRLARSTLTLVPLLGVHEVVFAPVTEEQARGALRFAKLGFEIFLSSFQGFLVSVLYCFINKEVQSEIRRGWHHCRLRRSLGEEQRQLPERAFRALPSGSGPGEVPTSRGLSSGTLPGPGNEASRELESYC
【0133】
配列番号15-ヒトGLP-1受容体
MAGAPGPLRLALLLLGMVGRAGPRPQGATVSLWETVQKWREYRRQCQRSLTEDPPPATDLFCNRTFDEYACWPDGEPGSFVNVSCPWYLPWASSVPQGHVYRFCTAEGLWLQKDNSSLPWRDLSECEESKRGERSSPEEQLLFLYIIYTVGYALSFSALVIASAILLGFRHLHCTRNYIHLNLFASFILRALSVFIKDAALKWMYSTAAQQHQWDGLLSYQDSLSCRLVFLLMQYCVAANYYWLLVEGVYLYTLLAFSVLSEQWIFRLYVSIGWGVPLLFVVPWGIVKYLYEDEGCWTRNSNMNYWLIIRLPILFAIGVNFLIFVRVICIVVSKLKANLMCKTDIKCRLAKSTLTLIPLLGTHEVIFAFVMDEHARGTLRFIKLFTELSFTSFQGLMVAILYCFVNNEVQLEFRKSWERWRLEHLHIQRDSSMKPLKCPTSSLSSGATAGSSMYTATCQASCS
【0134】
配列番号16-ヒトGCG受容体
MPPCQPQRPLLLLLLLLACQPQVPSAQVMDFLFEKWKLYGDQCHHNLSLLPPPTLVCNRTFDKYSCWPDTPANTTANISCPWYLPWHHKVQHRFVFKRCGPDGQWVRGPRGQPWRDASQCQMDGEEIEVQKEVAKMYSSFQVMYTVGYSLSLGALLLALAILGGLSKLHCTRNAIHANLFASFVLKASSVLVIDGLLRTRYSQKIGDDLSVSTWLSDGAVAGCRVAAVFMQYGIVANYCWLLVEGLYLHNLLGLATLPERSFFSLYLGIGWGAPMLFVVPWAVVKCLFENVQCWTSNDNMGFWWILRFPVFLAILINFFIFVRIVQLLVAKLRARQMHHTDYKFRLAKSTLTLIPLLGVHEVVFAFVTDEHAQGTLRSAKLFFDLFLSSFQGLLVAVLYCFLNKEVQSELRRRWHRWRLGKVLWEERNTSNHRASSSPGHGPPSKELQFGRGGGSQDSSAETPLAGGLPRLAESPF
【配列表】